説明

ACE阻害効果を有するペプチド

アンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造のための、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKならびにこれらの塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害剤の製造のための特定のペプチドに関する。本発明は、さらに、ACE阻害に適した食品製品、および、このような食品製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症または高血圧は、心臓血管疾患(CVD)の主要な危険因子の1つであると考えられている。血圧を制御する機序の1つは、レニン-アンジオテンシン系である。これは、アンジオテンシンIIの形成を誘導する反応のカスケードであって、強い血管収縮作用と、それによる血圧上昇作用を有する。このカスケードにおけるキーとなる1つの酵素:アンジオテンシンI転換酵素(ACE)の阻害により、アンジオテンシンIIの形成を低下させ、その結果、血圧低下作用をもたらすことができる。長期にわたるヒト関与の研究によると、少量のACE阻害剤を定期的に摂取した場合、CVDが25%まで低減することが明らかになった(Gersteinら、(2000)、The Lancet 355、253〜259)。
【0003】
食品製品中のACE阻害剤は良く知られている。このような食品製品は、例えば、乳または乳製品の発酵によって調製されている。プラセボコントロール試験において、高血圧のヒトに対する、サワーミルク中のVPPおよびIPPの血圧低下効果が示された(Hata Y.ら、(1996)、American Journal of Clinical Nutrition 64、767-771)。
【0004】
「軽い高血圧症の人に適している」ことを謳っている市販の発酵乳製品はカルピスサワーミルクである。これは、カルピス食品工業(日本)によって製造されている、ラクトバチルス・ヘルヴェティクス(Lactobacillus helveticus)、およびサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cervisiae)による発酵製品である。別の市販発酵乳製品はValio社(フィンランド)製造のEvolusである。これは、「血圧低下を促進するヨーロッパで初の機能性食品」であることを謳っている。両方の発酵乳製品は、ラクトバチルス・ヘルヴェティクス(Lb. helveticus)株を用いて発酵させている。これらの製品は、カゼインのタンパク質分解によって得られる、in vitroでのACE阻害に関与する生理活性ペプチド(VPPおよびIPP)を含有している。
【0005】
先行技術において特定された他の可能性としては、乳タンパク質の酵素を用いた加水分解によるACE阻害食品製品の調製である。WO 01/85984には、酵素トリプシンを用いたホエイタンパク質単離物の加水分解による、ACE抑制組成物の調製が記載されている。
【0006】
WO 02/19837には、ホエイタンパク質単離物基質に由来する、ACE阻害特性を有するホエイタンパク質加水分解物の製造方法が記載されている。加水分解に用いた酵素は、ニュートラーゼである。ACE阻害ペプチドは、WO 02/19837の表1において、示されているが、IPAVFK、IPAVFおよびIIAEKは記載されていない。
【0007】
Pellegrini A.らは、Biochimica et Biophysica Acta-General Subjects (2001)、1562(2)、pp. 131-140において、ペプチド断片IPAVFKが殺菌特性を有していると開示している。ACE阻害については、報告していない。
【0008】
Ngagaoka S.らは、Biochemical and Biophysical Communication (2001) 281, 11-17において、IIAEKを、低コレステロール効果を有するペプチドとして開示している。ACE阻害については、報告していない。
【特許文献1】WO 01/85984
【特許文献2】WO 02/19837
【特許文献3】WO 00/42066
【非特許文献1】Gersteinら、(2000)、The Lancet 355、253〜259
【非特許文献2】Hata Y.ら、(1996)、American Journal of Clinical Nutrition 64、767-771
【非特許文献3】Pellegrini A.ら、Biochimica et Biophysica Acta-General Subjects (2001)、1562(2)、pp. 131-140
【非特許文献4】Ngagaoka S.ら、Biochemical and Biophysical Communication (2001) 281, 11-17
【非特許文献5】Abubakarら、(1998) Journal of Dairy Science 81, 3131-3138
【非特許文献6】Y. Poilotら、Journal of Membrane Science, 158 (1999) 105-114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ACE阻害に適した食品製品を供給することである。更なる目的は、抗-高血圧効果を有する食品製品を提供することである。他の目的は、良好な味を有するような食品製品、特に苦味が減少した食品製品を供給することである。更なる目的は、許容可能な価格で製造することができる食品製品を供給することである。加えて更なる目的は、高濃度のACE阻害剤を有する食品製品を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つまたは複数のこれらの目的は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造のための、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKならびにこれらの塩の使用によって、本発明によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
共通の一文字コードは、アミノ酸を記載するのに一般的に使用されるものである。IIAEKは、ベータ-ラクトグロブリンの71-75部位であり、IPAVFは、ベータ-ラクトグロブリンの78-82部位であり、IPAVFKは、ベータ-ラクトグロブリンの78-83部位である。
【0012】
本発明により、我々は、ペンタペプチドIIAEKがヒトの腸管において適していること、ペプチドIPAVFおよびIPAVFKがヒトの腸管での消化の間にACE阻害ペプチドIPAの形成をもたらすことを見出した。それゆえ、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKおよびこれらの塩は、アンジオテンシン変換酵素の阻害剤として非常に適している。好ましくは、アンジオテンシン変換酵素は、機能性食品である。Abubakarらは、(1998) Journal of Dairy Science 81, 3131-3138において、高血圧自然発症ラットでのIPAの抗高血圧活性を開示している。この論文において、IPAのACE阻害効果が示されていた。本発明による食品製品は、抗高血圧効果を有する食品として適している。
【0013】
本発明は、25mg/g以上のIIAEKおよび/または5mg/g以上のペンタペプチドIPAVFおよび/または3mg/g以上のヘキサペプチドIPAVFKを含む、アンジオテンシン変換酵素を阻害するのに適した食品製品を供給する。好ましくは、食品製品は、50mg/g以上の量のIIAEKおよび/または10mg/g以上の量のペンタペプチドIPAVFおよび/または6mg/g以上の量のヘキサペプチドIPAVFKを含む。好ましくは、食品製品は、タンパク質加水分解製品、より好ましくは、ベータ-ラクトグロブリン加水分解製品である。
【0014】
発酵または加水分解条件の最適化を通して、生物学的に活性な分子IIAEK、IPAVFおよび/またはIPAVFKの産生を最大にすることができる。前記産生を最大にしようとする当業者ならば、加水分解時間、加水分解温度、酵素のタイプおよび濃度などの製造パラメーターの調整方法がわかるであろう。
【0015】
好ましくは、IIAEK、IPAVFおよび/またはIPAVFKのモル収率は高い。IIAEKのモル収率は、産生したIIAEKのモル量を、加水分解前の出発原料に存在するベータ-ラクトグロブリンの全体量中のIIAEK断片のモル量で割ったものと定義する。同様の計算により、IPAVFまたはIPAVFKのモル収率が得られる。IIAEK配列およびIPAVFK配列は、ベータ-ラクトグロブリン中に存在することを留意すべきである。
【0016】
IIAEKの好ましいモル収率は90-100%であり、IPAVFについては30-100%であり、より好ましくは50-100%、そして最も好ましくは80-100%である;IPAVFKについては15-100%であり、より好ましくは30-100%、そして最も好ましくは50-100%である。
【0017】
加水分解物の最適化の方法については、活性ペプチドの前駆体が何であるかを知る必要がある。しかしながら、複雑な加水分解物または発酵物中において、生物学的に活性なペプチドを検出して同定することは、困難だがやりがいのある仕事である。一般的に、ほんの数個の生物学的に活性なペプチドのみが、相対的に低いレベルで、何千ものペプチドを含む複雑なサンプル中に存在している。高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による分取と生物学的評価を繰り返し行うという一般的な同定方法は、通常は、時間がかかり、活性を失ってしまう可能性がある。本実験においては、連続的なフロー生化学アッセイを、オンラインで、HPCL分取と組み合わせる。HPLCカラムの溶出液を、連続的なフローACEバイオアッセイと化学分析手法(質量分析)とに分ける。粗精製の加水分解物をHPLCで分離し、その後、生物学的に活性な化合物を、オンライン生化学アッセイによって検出する。それゆえ、ペプチドが生化学アッセイにおいてポジティブシグナルを示すときに、構造上の情報が直接利用できる。
【0018】
本発明による食品製品は、ヒトの消費に適する製品として定義され、この食品製品中には、本発明によるベータ-ラクトグロブリン加水分解製品を、顕著なACE阻害効果が得られるような有効な量で成分として使用する。
【0019】
本発明による食品製品は、好ましくは、以下の工程:
(a)ベータ-ラクトグロブリンを含むホエイタンパク質基質を酵素加水分解し、加水分解したホエイ生成物を得る工程;
(b)前記加水分解したホエイ生成物から、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKが豊富なフラクションを分離する工程;
(c)工程(b)のフラクションを乾燥させ、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKが豊富な固形物を得る工程;および
(d)工程(c)で調製した固形物を、食品製品の製造における成分として使用する工程;
を含む方法によって製造される。
【0020】
工程(a)の酵素による加水分解は、ホエイタンパク質基質をベータ-ラクトグロブリンの加水分解へと導き、1つまたは複数のIPAVFK、IPAVFおよび/またはIIAEKの遊離をもたらす任意の酵素による処理とすることができる。
【0021】
ホエイタンパク質基質は、相当量のベータ-ラクトグロブリンを含む任意の物質とすることができる。適した基質の例は、牛乳、ホエイ、ホエイ粉末、ホエイ粉末濃縮物、ホエイ粉末単離物、またはベータ-ラクトグロブリンなどである。好ましくは、ホエイタンパク質(WPI)などのベータ-ラクトグロブリンを高含量で含む基質である。
【0022】
酵素は、ベータ-ラクトグロブリンを加水分解し、1つまたは複数のIPAVFK、IPAVFおよびIIAEKの遊離をもたらすことができる任意の酵素とすることができる。好ましい酵素の例は、トリプシンである。より好ましくは、酵素は、トリプシンとキモトリプシンの混合物である。
【0023】
分離工程(b)(または濃縮工程(c))は、例えば、ろ過、遠心分離またはクロマトグラフィおよびこれらの組み合わせによって、当業者が知られている任意の方法で行われることができる。好ましくは、分離工程(b)は、超遠心分離(UF)および/またはナノろ過(NF)方法を用いて行われる。ろ過工程に用いられる膜のポアサイズだけでなく、膜の電荷は、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKの分離を調整するのに使用されることができる。電荷を有するUF/NF膜を用いたホエイタンパク質加水分解物のろ過は、Y. Poilotら、Journal of Membrane Science, 158 (1999) 105-114に開示されている。例えば、電気透析は、WO 00/42066に開示されている。
【0024】
乾燥工程(c)は、工程(b)からのフラクションを乾燥し、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKが豊富な固形物を得ることを含む。この工程は、例えばスプレードライ方または凍結乾燥法による一般的な方法で行うことができる。
【0025】
工程(b)で得られたペプチドが豊富なフラクションは、これ以後は、ACE-フラクションとし、工程(c)で得られた固形物は、これ以後は、ACE-固形物とする。ACE-フラクションおよび/またはACE-固形物は、有利なことには、食品製品の成分として使用することができる。
【0026】
本発明による食品製品またはそれから得られる食品製品は、低温殺菌または滅菌することができる。
【0027】
本発明による食品製品は、いかなる食品のタイプであってもよい。これらの食品は、適当な量で、本食品製品に加えて、一般的な食品成分、例えば、香味料、糖、フルーツ、ミネラル、ビタミン、安定剤、増粘剤等を含んでいてもよい。
【0028】
好ましくは、本食品製品は、50から200mmol/kgのK+、および/または15から60mmol/kgのCa2+、および/または6から25mmol/kgのMg2+、より好ましくは、100から150mmol/kgのK+、および/または30から50mmol/kgのCa2+、および/または10から25mmol/kgのMg2+、最も好ましくは、110から135mmol/kgのK+、および/または35から45mmol/kgのCa2+、および/または13から20mmol/kgのMg2+を含む。
【0029】
好ましくは、本食品製品は、フルーツジュース製品、乳製品または凍結菓子製品またはスプレッド/マーガリンである。これらの好ましい食品製品の種類は、下記の一部の詳細、および実施例に記載されている。
【0030】
(フルーツジュース製品)
本発明によるフルーツジュース製品の例としては、オレンジおよびグレープフルーツのような柑橘類、トロピカルフルーツ、バナナ、モモ、ピール、イチゴを原料とするジュースであり、ジュースには、ACE-固形物および/またはACE-フラクションが加えられる。
【0031】
(乳製品)
本発明による乳製品の例としては、乳、ディリースプレッド、クリームチーズ、乳タイプ飲料、およびヨーグルトであり、乳製品には、ACE-固形物および/またはACE-フラクションが加えられる。本食品製品は、乳タイプ飲料などとしても使用することができる。その代わりに、香味料または他の添加物を加えることができる。乳製品は、また、ACE-固形物および/またはACE-フラクションを水または乳製品に加えることによっても調製することができる。
【0032】
ヨーグルトタイプの製品の組成物の例は、約50から80重量%の水、0.1から15重量%のACE-固形物、0から15重量%のホエー粉末、0から15重量%の糖(例えば、ショ糖)、0.01から1重量%のヨーグルト培養物、0から20重量%のフルーツ、0.05から5重量%のビタミンおよびミネラル、0から2重量%の香味料、0から5重量%の安定剤(増粘剤またはゲル化剤)である。
【0033】
ヨーグルトタイプの製品の典型的な一人分の分量は、50から250g、一般に80から200gであり得る。
【0034】
(凍結菓子製品)
本発明の目的において、凍結菓子製品という用語には、アイスクリーム、フローズンヨーグルト、シャーベット、ソルベ、アイスミルクおよびフローズンカスタード、ウォーターアイス、グラニタ、ならびに凍結フルーツピューレなどの乳含有の凍結糖菓が含まれる。
【0035】
好ましくは、凍結糖菓中の固形物(例えば、糖、脂肪、香味料など)の濃度は、3重量%以上、さらに好ましくは10から70重量%、例えば40から70重量%である。
【0036】
一般には、アイスクリームは、脂肪0から20重量%、ACE-固形物0.1から20重量%、甘味料、無脂肪乳成分0から10重量%、および任意の成分、例えば、乳化剤、安定剤、保存剤、香味成分、ビタミン、ミネラル等を含み、バランスは水である。典型的には、アイスクリームは、例えば、20から400%、より詳しくは40から200%の超過量まで炭酸ガスを満たし、-2から-200℃、さらに詳しくは-10から-30℃の温度に凍結させる。アイスクリームは、通常、約0.1重量%のレベルでカルシウムを含む。
【0037】
(他の食品製品)
本発明による他の食品製品は、通常の一般知識に基づいて、当業者により、好適な量の成分として、加水分解ベータ-ラクトグロブリンの固形物などの加水分解ベータ-ラクトグロブリンまたは加水分解ベータ-ラクトグロブリンに由来する製品を使用して製造することができる。そのような食品の例としては、ベーカリー製品、乳製品、スナックなどが挙げられる。
【0038】
有利には、本食品製品は、油および水を含有するエマルジョン、例えばスプレッドである。本出願においては、油および水のエマルジョンは、油と水を含むエマルジョンとして定義され、水中油型(O/W)エマルジョン、および油中水型(W/O)エマルジョン、ならびに高次複合エマルジョン、例えば、水中油中水型(W/O/W/O/W)エマルジョンを含む。本出願においては、油には脂肪が含まれるものと定義する。好ましくは、本食品製品は、スプレッド、凍結糖菓、またはソースである。本発明によるスプレッドは、30から90重量%の植物油を含むのが好ましい。有利には、スプレッドは、4.2から6.0のpHを有する。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
(材料および方法)
(高分解能スクリーニング-質量分析(HRS-MS)
Biozate(商標)、Davisco Foods International(Le Sueur, MN, USA)から得られる加水分解ホエイタンパク質単離物について、Kiadis(Leiden, the Netherlands)によって開発された高分解能スクリーニング(HRS)装置において、ACE阻害活性を分析した。システムは、HPCL、生物活性検出のための連続フローACEバイオアッセイおよび化学的同定のための質量分析からなる。グラジエントHPLCシステムは、4つのAgilent 1100 series LCポンプ(Waldbronn, Germany)からなる。2つのポンプは、溶液をクロマトグラフィー分離に運ぶのに用いられた。残る2つのLCポンプは、メイクアップ溶液をLCカラム溶出液に加えること、および、カラムクロマトグラフィー稼働中の有機変性の割合の変化およびHPLC流速の変化を補うのに用いられた。カラムにグラジエントをかけるために用いる水性溶液および有機変性溶液は、それぞれ、0%および95%のメタノールからなる。同じように、カラムクロマトグラフィーによる分離後のメイクアップフェーズとして機能する水性溶液および有機変性溶液は、0%および35%のメタノールからなる。全ての溶液は、0.05%のTFAを含む。特に記載する以外は、LC分離は、室温で、5μm、100Å粒子(Alltech, Amsterdam, the Netherlands)を充填したAlltech Ultima, 2.1×250mm、C18カラムを用いて行った。分析カラムにおいては、流速は200μl/minであった。ポストカラムメイクアップ後の総流速は、1ml/minに一定に保ち、10%アセトニトリルを含ませた。サンプルの生物活性プロファイリングは、2-95%のMeOH/0.05%のTFAでグランジエントをかけて行った。分析のために、400μlの0.5%のBiozate溶液(w/v)を用いた。
【0040】
三方向流路スプリッターを用いて、50μl/minのグラジエント溶出液を、連続フロー生化学アッセイへと導いた。200μl/minを直接Micromass QTOF-ミクロマススペクトロメーター(Almere, The Netherlands)に向かわせ、750μl/minを廃棄した。
【0041】
連続フロー生化学アッセイにおいて、ACE阻害を、バイオアッセイフォーマットに基づいて基質の変化を介してモニターした。アッセイの最初の工程において、分析カラムから溶離する化合物を、標的タンパク質ACEと混合した。混合物を、60秒間反応させた。第二の工程において、内部消光基質、すなわち、abz-FRK(dnp)P-OHを混合物に加え、120秒間ACEと反応させた。励起波長および蛍光波長をそれぞれ320nmおよび420nmとして、蛍光シグナルを連続してモニターした。ACE阻害活性を示す化合物は、一時的に酵素による基質変換速度を減少させ、生化学的リードアウトにおけるネガティブピークとして検出される。基質および酵素溶液、すなわち、abz-FRK(dnp)P-OH(10μM)およびACE(0.0375U/ml)を、pH 7.5で、200mM Tris、300mM NaCl、0.5% Tweenに溶かし、50μl Pharmacia superloop(Uppsala, Sweden)へと移した。両方のsuperloopをSpark Mistral oven(Emmen, The Netherland)に入れ、4℃に温度を調節した。superloopをAgilent 1100 series LCポンプへと接続し、25μl/minの流速で生物試薬を置きかえる。アフィニティ反応を、編み型オープンチューブのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、0.5mm i.d.反応コイルいおいて行った。コイルをShimadzu CTO-10AC vpオーブン(De Bosch, The Netherlands)に置き、温度を50℃に設定した。Agilent 1100 series fluorescence detector(Waldbronn, Germany)を用いて蛍光を検出した。
【0042】
カラム溶出液の一部を、直接、ESI positive ion full scan modeで稼動したQTOF-micoro MC検出器に向かわせた。用いた脱溶媒およびイオン源温度は、300および80℃であった。キャピラリー、サンプルコーンおよび引出電圧は、3000、50および2.5Vに設定した。コーンおよび脱溶媒ガス流速は、50および450l/hrと等しくした。これらの条件下で、大部分のペプチドが、かなりの断片化を生じ、これにより構造解析が容易になった。カフェインをロックマストとして用い、10μl/minの流速で連続して加えた。質量分析は、毎日、希釈したリン酸溶液でキャリブレーションした。
【0043】
Biozateサンプル中のIIAEK、IPAVFおよびIPAVFKの定量は、複数反応モニターモードの陽イオン検出エレクトロスプレーを用いたMicromass Quattro II MS装置によって測定した。用いたHPLCは、前記したものと類似していた。MSセッティング(ESI+)は、以下のように行った:コーン電圧37V、キャピラリー電圧4kV、乾燥ガス窒素300l/h。イオン源および噴霧温度は、それぞれ100℃および250℃。IIAEKについての親イオン573.4および合計の娘イオン227.2および347.2を使用し、IPAVFについての親イオン546.3および合計の娘イオン282.2および433.1を使用し、ならびにIPAVFKについての親イオン674.4および合計の娘イオン282.2および501.2を使用して、合成ペプチドを、キャリブレーションラインを作成するために用いた。
【0044】
(In vitroでの胃腸消化)
Biozate(商標)を胃および小腸の一般的な条件に曝すことによって、ヒトの胃腸管におけるペプチドの安定性を調べた。胃の条件は、5.0gのBiozate(商標)、2.1gのNacl、0.1gのNaH2PO4、0.45gのリパーゼおよび2.9gのペプシンを900mlのミリQ水に溶かすことによって模倣した。溶液をHClでpH 3.5に調整し、peddleで攪拌し(50rpm)、60分間37℃に保った。次に、腸の条件は、9.0gのパンクレアチンを模倣した胃の溶液に加え、NAHCO3でpHを6.8に調整することによって模倣した。模倣した腸の溶液を37℃で、連続攪拌しながら(50rpm)、120分間インキュベートした。in vitroでの胃腸消化の間の異なる時点で、サンプルを回収した。回収後、サンプルを直接95℃で30分間加熱し、その後、-20℃で保存した。
【0045】
(IIAEK、IPAVFおよびIPAVFKのACE活性測定)
IIAEK、IPAVF(K)のACE阻害活性は、Araujoら(2000)の方法に幾らかの改良点を加えて求めた。蛍光基質abz-FRK(dnp)P-OHは、100mM NaClを含む0.1M TrisバッファーpH 7.0中でモニターした。反応につき、150μlの3.75μM 基質、20μlの0.00625U/ml ACEおよび40μlのペプチドサンプルを、optiplate-96マイクロプレート(Packerd Bioscience)のウェルに加えた。2つのディスペンサーを有するFluostar (BMG)フルオロメーターを用いて、λex:320nmおよびλex:420nmでの蛍光を測定することによって、ACE活性を連続的に求めた。スタンダードとして、ACE活性の30%阻害をもたらすカプトプリル(1nM終濃度)を用いた。
【0046】
(結果および考察)
(加水分解サンプルのHRS-MS分析)
結果として、Bizate(商標)に見出された重要なACE阻害ペプチドは、それぞれ、濃度18.2、4.1および2.31mg/mlのIIAEK(ベータ-ラクトグロブリンの71-75部位)、IPAVFおよびIPAVFK(ベータ-ラクトグロブリンの78-83部位)であった。IIAEK、IPAVFおよびIPAVFKのIC50は、それぞれ、20、300および120μMであると求まった。
【0047】
牛乳タンパク質および牛乳タンパク質加水分解物は、多量のACE阻害ペプチドの前駆体として知られている。消化後、このタンパク質およびペプチドは、ヒトの胃腸管中の様々な消化酵素工程に曝され、その結果、in vivoでACE阻害ペプチドが遊離する。同定した生物活性ペプチドの分解、および、ヒトの消化後の新規な活性ペプチドの形成を評価するために、Biozate(商標)を、ヒトの身体で一般的に見られる条件を模倣した人工的な胃腸管によって処理した。特定の時間で、サンプルをGITモデルシステムから取り出した。また、オンラインHPLC-バイオアッセイ-MSまたはHRS-MSシステムを用いて分析した(表1)。IIAEKが、GIT消化に対して強い耐性を示し、それゆえ、血圧低下ペプチドとして非常に高い潜在性を有していることから、特に重要であることが示された。IPAVFおよびIPAVFKは、活性ペプチドIPAの前駆体として重要である。IPAのIC50は、50μMであった。IPAが、高血圧自然発症ラットにおいて抗高血圧活性を有していることは、論文によって知られている(Abubakarら、(1998)。
【0048】
【表1】

[参考文献]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造のための、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKならびにこれらの塩の使用。
【請求項2】
前記アンジオテンシン変換酵素阻害剤が機能性食品製品である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ペプチドがIPAVFKであり、抗殺菌製品の製造のために使用される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記ペプチドがIIAEKであり、高コレステロール血症製品の製造のために使用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
25mg/g以上の量のIIAEKおよび/または5mg/g以上の量のペンタペプチドIPAVFおよび/または3mg/g以上の量のヘキサペプチドIPAVFKを含む、アンジオテンシン変換酵素阻害に適した食品製品。
【請求項6】
IIAEKの量が50mg/g以上であり、および/または、ペンタペプチドIPAVFの量が10mg/g以上であり、および/または、ヘキサペプチドIPAVFKの量が6mg/g以上である、請求項5に記載の食品製品。
【請求項7】
以下の工程:
(a)ベータ-ラクトグロブリンを含むホエイタンパク質基質を酵素加水分解し、加水分解したホエイ生成物を得る工程;
(b)前記加水分解したホエイ生成物から、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKが豊富なフラクションを分離する工程;
(c)工程(b)のフラクションを乾燥させ、ペンタペプチドIIAEK、ペンタペプチドIPAVFおよび/またはヘキサペプチドIPAVFKが豊富な固形物を得る工程;および
(d)工程(c)で調製した固形物を、食品製品の製造における成分として使用する工程;
を含む、請求項5または6に記載の食品製品の製造方法。
【請求項8】
前記酵素加水分解が、酵素としてトリプシンを使用して行われる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
トリプシンおよびキモトリプシンの混合物を酵素として使用する、請求項8に記載の製造方法。

【公表番号】特表2006−525260(P2006−525260A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505270(P2006−505270)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004386
【国際公開番号】WO2004/098310
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】