説明

AFF‐4を指標とした抗白髪剤のスクリーニング方法

本発明の目的は抗白髪剤の提供にある。本発明は抗白髪剤のスクリーニング方法であって、候補薬剤をin vitroで細胞に適用し、当該細胞のAFF−4の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする方法、並びにかかる方法により選定されたレイシ(Ganoderma lucidum (Fr.) Karst.)、ニンジン(Panax schinseng Nees)、コメヌカ(Oryza Sativa (Rice) Bran)及びヒキオコシ(Rabdosia japonicus)からなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを、AFF-4の発現亢進に有効量で含有する抗白髪剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AFF‐4を指標とした抗白髪剤のスクリーニング方法、並びにそのような方法によりスクリーニングされた抗白髪剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の色を決定するメラニン色素は、毛母細胞上部に存在するメラノサイト(メラニン合成細胞)内のメラノソームでチロシンから生合成され、毛髪に供給される。白髪は、老化やストレス等により、例えば、メラノサイトやメラノソームの減少、あるいはこれら細胞や器官の異常によるチロシナーゼの量や活性の低下、メラノソームの輸送阻害等が関与すると考えられているが、未だその全容は明らかになっていない。
【0003】
白髪防止や白髪抑制のような抗白髪作用を有するものとして、これまで多くの物質が提案され、例えば、サンショウ抽出物にこのような抗白髪作用があることが報告されている(特開平11−5720号公報参照)が、同等又はより優れた抗白髪作用を有する有効成分の豊富化も望まれる。
【0004】
転写因子の1つであるFoxn1が活性化すると色素細胞での色素形成が促進されることは知られている(Weiner et al. (2007) Cell 130:932-942, Dedicated epithelial recipient cells determine pigmentation patterns.参照)。Foxn1は表皮細胞に存在する転写因子で、bFGFの発現を制御している。bFGFは色素細胞の増殖、移動、メラニン産成を促進することはすでに知られていることから、Foxn1の転写活性を促進またはFoxn1の発現を亢進させることにより、色素産成を亢進させることが可能となることが類推される。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、毛包細胞における色素形成のメカニズムを解明し、従来にない全く新規、且つ効果的な抗白髪剤及びそれを含有する抗白髪剤の提供を課題とする。
【0006】
本発明者は、表皮細胞に存在する分子AFF‐4がFoxn1に結合し、その転写活性を促進することを発見し、AFF‐4がヒトの場合表皮には存在せず、毛包の上皮系細胞にのみ発現していることを発見した。さらに、ヒトの白髪ではAFF-4、Foxn1、bFGFのいずれの分子も発現が明らかに低下していることを発見した。これらの結果より、AFF-4を通じて毛包に存在する色素細胞のみに薬剤を働きかけ得る可能性を初めて示した。
その具現化手段を見出すために、ヒト毛包の上皮系細胞を用いてAFF-4の発現をさせ得る薬剤を探索した。その結果、レイシ(Ganoderma lucidum (fr.) Karst)エキス、ニンジン(Panax schinseng Nees)エキス、コメヌカ(Oryza sative Bran)エキス、ヒキオコシ(Rabdosia japonicus)エキス及びサンショウ(Zantholylum piperitum)エキスがAFF-4の発現を亢進させることを見出した。さらに、レイシエキスとサンショウエキスについてはヒト毛包上皮系細胞におけるbFGF発現亢進効果も確認した。よってヒト毛包上皮系細胞におけるAFF-4→Foxn1→bFGFのシグナル伝達仮説が検証された。レイシエキスとサンショウエキスのbFGF発現亢進効果をヒト表皮細胞でも検証したところ、いずれの薬剤ともに同細胞におけるbFGF発現亢進効果が見られなかったことから、ヒト毛包上皮系細胞におけるAFF-4発現亢進とbFGF発現亢進は、同細胞特異的な現象であることが示唆された。
以上より、前述の薬剤により毛包の上皮系細胞を介して、隣接する毛包色素細胞を特異的に活性化することが可能となった。
【0007】
従って、第一の観点において、本発明は抗白髪剤のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法は、候補薬剤を細胞に適用し、当該細胞のAFF-4の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする。好ましくは、前記細胞は毛包の上皮系細胞である。
【0008】
好適な態様において、前記細胞のAFF-4の発現の亢進は、細胞から抽出されたAFF‐4をコードするmRNAの量を、例えばPCR法、特に好ましくはリアルタイムPCR法により測定され、判定される。
【0009】
第二の観点において、本発明は上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはレイシ(Ganoderma lucidum (Fr.) Karst.)、ニンジン(Panax schinseng Nees)、コメヌカ(Oryza Sativa (Rice) Bran)及びヒキオコシ(Rabdosia japonicus)からなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを、細胞、好ましくは毛包上皮系細胞のAFF-4の発現亢進に有効量で含有する抗白髪剤を提供する。
【0010】
第三の観点において、本発明は上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはレイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスにより細胞、好ましくは毛包上皮系細胞におけるAFF-4の発現を亢進させる方法を提供する。
【0011】
第四の観点において、本発明は上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはレイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを細胞、好ましくは毛包上皮系細胞におけるAFF-4の発現を亢進するのに有効量で頭皮に塗布することによりAFF-4の発現を亢進させることを特徴とする白髪予防又は白髪抑制方法を提供する。
【0012】
第五の観点において、本発明は白髪予防又は白髪抑制のための医薬組成物又は美容組成物の調製における、細胞におけるAFF-4の発現を亢進するのに有効量の、レイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスの使用を提供する。
【0013】
第六の観点において、本発明は細胞、例えば毛包上皮系細胞におけるAFF-4の発現を亢進するための、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはレイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを含んでなる組成物を提供する。この組成物は医薬組成物又は美容組成物であってよい。
【0014】
第七の観点において、本発明は細胞、例えば毛包上皮系細胞におけるAFF-4の発現を亢進するのに有効量の、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはレイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを含んでなる、白髪予防又は白髪抑制のための組成物を提供する。この組成物は医薬組成物又は美容組成物であってよい。
【0015】
本発明により、新規の抗白髪剤のスクリーニングが可能となり、従来技術に比べ、顕著に有利な抗白髪剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】AFF-4のFoxn1転写活性促進効果を示す。
【図2】Foxn1に対するAFF-4の結合を示す。
【図3】Foxn1, AFF-1, AFF-2, AFF-4のヒト成長期毛包における発現を示す。
【図4】免疫染色、in situハイブリダイゼーションによる成長期ヒト毛包でのFoxn1とAFF-4の発現を示す。
【図5】成長期ヒト毛包でのFoxn1、AFF-1、AFF-2及びAFF-4の発現程度の比較を示す。
【図6】ヒト黒髪・白髪間でのFoxn1、AFF-4、bFGFの発現レベルの比較を示す。
【図7】経時的に調べた、ヒトORSのAFF-4発現に対するレイシエキスの影響を示す。
【図8】経時的に調べた、ヒトORSのAFF-4発現に対するサンショウエキスの影響を示す。
【図9】ヒトORSのAFF-4発現に対するニンジンエキスの影響を示す。
【図10】ヒトORSのAFF-4発現に対するコメヌカエキスの影響を示す。
【図11】ヒトORSのAFF-4発現に対するヒキオコシエキスの影響を示す。
【図12】ヒトORSのbFGF発現に対するレイシエキスの影響を示す。
【図13】ヒトORSのbFGF発現に対するサンショウエキスの影響を示す。
【図14】ヒト表皮細胞(HaCaT)のbFGF発現に対するレイシエキスおよびサンショウエキスの影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述のとおり、本発明は、ある程度、出願人による毛包色素細胞における遺伝子発現の研究に基づく。したがって、本発明は、毛髪において色素を維持するまたは産生するのに利用できる本明細書に記載の生薬を含む組成物を特徴とする。本発明に属するその他の組成物には、AFF-4遺伝子の発現を検出するのに利用できる核酸プライマーやプローブ、リポーター構築体(例えば、蛍光タンパク質や酵素の如き容易に検出可能なタンパク質をコードする配列に作用可能式に連結されたAFF-4調節配列)、細胞、細胞アレー、又は上皮系毛包細胞やAFF-4リポーター構築体を含むように操作された細胞を含む組織外植体、さらには1又は複数種のこれら組成物を含むキットが含まれる。
【0018】
本明細書に記載の又は本スクリーニング方法により発見された抗白髪剤は、内因性AFF-4遺伝子に作用して転写率を高める及び/又は得られるmRNAの量を高めることにより、AFF-4の発現を「亢進」させる薬剤であってよい。しかしながら、本発明は、任意の特定のメカニズムによりAFF-4の発現に影響を及ぼす薬剤に限定されるものではない。例えば、本スクリーニング方法はAFF-4タンパク質の量及び/又はこのタンパク質の活性を高める抗白髪剤を同定するように設計することができる。RNAやタンパク質を分析するための当業界に公知のあらゆる方法が、その発現がない委員性遺伝子であろうと遺伝子構築体であろうと、本発明において利用することができる。
【0019】
AFF-4発現の分析はインビトロ又は細胞系スクリーニングアッセイで実施できる。例えば、毛包上皮系細胞をアレーにし、そしてソノアレー内の集団を1又は複数種の抗白髪剤の候補と接触させることができる。より詳しくは、抗白髪剤を同定するための本方法は、細胞(例えば毛包上皮系細胞)を試験薬剤又は候補薬剤と接触させ;その細胞におけるAFF-4の発現を測定又は何らかの方法で分析し;そしてその試験薬剤又は候補薬剤がコントロールに比べて(例えば、試験薬剤に暴露されていない細胞と比べて)AFF-4の発現を高めるか否かを決定する;ステップを含むことができる。この細胞は組織培養液において維持されているものでも、生体内の細胞であってもよい。他方、又は以上に加え、試験薬剤又は候補薬剤の毛髪における色素を維持又は増やす活性を評価することもできる。
抗白髪剤はAFF-4をコード核酸であってもよい。
【0020】
AFF-4及びFoxn1
AFF類はAF4/FMR2ファミリーに属する核タンパク質であり、それらは核内転写の活性化因子であると考えられてはいるが、その詳細は完全には解明されていない(Berton, et al., (1996) Nutr. Cancer 26:353-363)。ヒトではhAFF-1(GenBank NM_005935)、hAFF-2(GenBank NM_002025)、hAFF-3(GenBank NM_002285)及びhAFF-4(GenBank NM_014423)と称されている4種のAFFが知られ、またそれらの遺伝子も報告されておる。AFF-3は中枢神経系において発現されるものと信じられている。
Foxn1は転写因子として働く核タンパク質と考えられている。これは以前はWhnと呼ばれており、そいてヌードマウスの原因遺伝子として発見されたものである。Foxn1は毛幹の形成に重要な役割を果たすことで知られ、また毛髪の形成にも関与するものといわれている(Brissette et al., (1996) Genes Dev. 10:2212-2221)。本願では、Foxn1は毛髪の形成のみならず、AFF-4により媒介される毛髪色素形成にも関与することが解明された。
【0021】
抗白髪剤のスクリーニング方法
本発明は抗白髪剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、候補薬剤をAFF-4の発現及び/又は活性を亢進する能力について評価し、当該能力を有する候補薬剤を抗白髪剤として選定することを特徴とする。
【0022】
詳しくは、このスクリーニング方法は、候補薬剤を細胞に適用し、当該細胞のAFF-4の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする。好ましくは、当該細胞は毛包の上皮系細胞である。細胞はヒト由来でも、非ヒト由来、例えばラット、マウス、ウサギなどの様々な哺乳動物に由来するものであってもよい。
本明細書に記載のスクリーニング方法で試験すべき候補物には有機資源の粗又は精製エキス、例えば動物又は植物エキス、ならびに部分的又は完全に精製された又は合成エキス、例えば低分子、ポリペプチド、資質及び/又は核酸、さらにはこれらのライブラリーが含まれる。
【0023】
皮膚中の上記生理活性物質の発現は、例えば皮膚細胞からRNAを抽出し、当該生理活性物質をコードするmRNAの量を測定することにより決定することもできる。mRNAの抽出、その量の測定も当業界において周知であり、例えばRNAの定量は定量ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により行われる。また、ヒトAFF-4をコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列情報に基づき、当業者であればそれぞれの遺伝子の増幅に適当であるプライマーを適宜選定することができるであろう。本明細書実施例において、ヒトAFF-4それぞれのリアルタイムPCR増幅のために適当なプライマーを使用しているが、増幅プライマーはそれらに限定されるものではない。
【0024】
他に、上記生理活性物質の発現は、細胞中の当該生理活性物質の量を直接測定することにより決定することができる。例えば、この測定は生理活性物質に特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素などを利用する免疫染色法、ウェスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法など、様々な方法により実施できる。
【0025】
本発明は更に、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的には、レイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを含有する抗白髪剤を提供する。
【0026】
本発明で用いる生薬のエキスとは、上記生薬を粉砕した後、常温又は加温下に溶剤により抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、又はその乾燥末を意味するものである。
【0027】
上記抽出法により得られた生薬エキスは、本発明の抗白髪剤の有効成分として抽出液のまま用いることもできるが、前述のとおりであるから、当該エキスを希釈、濃縮もしくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、液々分配等の技術により、上記エキスから不活性な夾雑物を除去して用いることもでき、本発明においてはこのようなものを用いることが好ましい。
【0028】
前記した各生薬のエキスは、前述のとおりのものであるから、その取得は常法により可能であり、それは前述した手法あるいは器具を使用し、例えば、抽出溶媒と共に浸漬または加熱還流した後、濾過し濃縮して得ることができる。その際の抽出溶媒としては、通常生薬の抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができる。
【0029】
かかる溶媒には、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒類等があり、それらは単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記溶媒で抽出して得た抽出液は、そのまま、又は濃縮したエキスを吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものもしくはポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD−2)のカラムにて吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したものが使用できる。また分配法、例えば水/酢酸エチルで抽出したエキス等も用いられる。
【0031】
本発明の抗白髪剤は、例えば水溶液、油液、その他の溶液、乳液、クリーム、ゲル、懸濁液、マイクロカプセル、粉末、顆粒、カプセル、固形剤などの形態で適用される。従来から公知の方法でこれらの形態に調製したうえで、ローション製剤、乳液製剤、クリーム製剤、軟膏製剤、硬膏製剤、ハップ製剤、エアゾール製剤、水−油2層系、水−油−粉末3層系、注射製剤などとして、身体に塗布、貼付、噴霧、注射、挿入することができる。当該抗白髪剤は上記エキスを、特に限定することなく、抗白髪剤全量に基づき乾燥質量として0.000001〜5質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.00001〜3質量%、特には0.00001〜1質量%とするのがよい。
【0032】
これらの剤型の中でも、ローション製剤、乳液剤、クリーム製剤、軟膏製剤、硬膏製剤、ハップ製剤、エアゾール製剤などの皮膚外用剤が、本発明の目的に適する剤型である。なお、ここで記す皮膚外用剤には、処方医薬、オーバーザカウンター医薬、化粧料が含まれる。
【0033】
本発明の抗白髪剤においては、所望する剤型に応じて従来公知の賦形剤や香料などをはじめ、油脂類、界面活性剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子、増粘剤、顔料などの粉末成分、紫外線防御剤、保湿剤、酸化防止剤、pH調整剤、洗浄剤、乾燥剤、乳化剤などが適宜配合される。さらにこの他の薬効成分を本発明の抗白髪剤に配合することは、その配合により所期の効果を損なわない範囲内で可能である。
【0034】
本発明は更に、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはレイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを細胞、好ましくは毛包上皮系細胞におけるAFF-4の発現を亢進させる方法を提供する。ある態様では、本発明はレイシエキス、ニンジンエキス、コメヌカエキス、ヒキオコシエキス及びサンショウエキスからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを細胞、例えば毛包上皮系細胞におけるAFF-4の発現を亢進するのに有効量で頭皮に塗布することにより、AFF-4の発現を亢進させる白髪予防方法を提供する。対象となる皮膚細胞は、好ましくは頭皮における毛包上皮系細胞など、発毛部位に位置する細胞である。
【0035】
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1
方法:
CMVプロモーターの下流に、c-Mycダグを5‘上流域に配置したAFF-4 cDNAを連結したAFF-4発現ベクター、CMVプロモーターの下流にFlagダグを5‘上流域に配置したFoxn1 cDNAを連結したFoxn1発現ベクター 、SV40最小プロモーター領域の5’上流域にFoxn1結合領域を、同プロモーターの3’下流域にルシフェラーゼ遺伝子を持つルシフェラーゼベクターの計3種を作成した。
【0037】
生後1〜2日目に常法に従って採取したマウス表皮細胞を培養した。本細胞にFoxn1発現ベクターとルシフェラーゼベクターの両方を導入したマウス表皮細胞(細胞1)を作成した。また、本細胞に前述のAFF-4発現ベクターとルシフェラーゼベクターの両方を導入したマウス表皮細胞(細胞2)を作成した。さらに、マウス表皮細胞にFoxn1発現ベクター、 AFF-4発現ベクターおよびルシフェラーゼベクターの3種のベクターを導入したマウス表皮細胞(細胞3)を作成した。細胞1は対照実験として、ルシフェラーゼ発現量を指標に評価できるFoxn1の転写活性に与えるFoxn1の影響を評価できる。細胞2ではFoxn1転写活性に与えるAFF-4の両方の影響を評価することができる。さらに、細胞3ではFoxn1転写活性に与えるFoxn1とAFF4共存の影響を評価できる。なお、ルシフェラーゼ発現量はルミノメーターで測定した。
【0038】
結果:
結果を図1に示す。Foxn1のみの場合(細胞1)のルシフェラーゼ発現量を「1」とした(図1では点線で示した)。Foxn1存在下に更にAFF-4を発現させると(細胞3)、ルシフェラーゼ発現量は約5倍に上昇した。しかし、AFF-4のみを発現させた場合(細胞2)、ルシフェラーゼ発現量は1/5以下に低下した。よって、AFF-4はFoxn1の転写活性を促進する機能を有することが確認された。
【0039】
実施例2
方法:
生後1〜2日目に採取したマウス表皮細胞を培養し、実施例1で作成したCMVプロモーター下流にFlagタグを5‘上流域に配置したFoxn1のcDNAを連結したFoxn1発現ベクターを導入したマウス表皮細胞(Ad-Foxn1細胞)と、Foxn1を含まずFlagタグだけを持つアデノウイルスベクターを感染させたマウス表皮細胞(Ad)を調製した。両細胞をそれぞれ培養し、常法に従い細胞破砕液を得た。同細胞破砕液を抗Flag抗体を用いて免疫沈降処理し、得られた免疫沈降処理液をSDSポロアクリルアミドゲルでタンパク電気泳動(SDS-PAGE)した。電気泳動後PVDF膜にトランスファーし、抗AFF-4抗体でウェスタンブロットを行った。
【0040】
結果:
その結果を図2に示す。免疫沈降で得られた細胞破砕液中のFlagタグタンパクを持つFoxn1をSDS-PAGEし、抗AFF-4抗体でウェスタンブロットを行った。その結果、Ad-Foxn1細胞からのみシグナルが得られた。これはAFF-4がFoxn1と結合した状態で免疫沈降されたことを意味する。この結果より、AFF-4は細胞内でFoxn1と結合することが示された。
【0041】
実施例3
方法:
ヒト頭髪を抜去し、図3(A)のような成長期毛包を得た。抜去によって得た成長期毛包は毛乳頭部分を殆ど含まない毛包上皮系から構成される部分であった。本抜去毛包30本を核酸調製溶液Trizol (Invitrogen)に入れ、氷冷条件化のボモジナイザーで破砕し、常法によりtotal RNAを調製した。調製したtotal RNAを鋳型にSuperScript (Invitrogen)で逆転写反応を行い、cDNAを調製し、ついで常法に従ってPCRを行った。PCRはrTaqポリメラーゼ(タカラ)プライマーと下記表1に示したプライマーを用いて行ない、PCRに用いたプライマーの塩基配列を表1に示した。 PCRは94℃-30秒、60℃-30秒、72℃-1分を1サイクルとし、計30サイクル行った。 陽性対照としてGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を用いた。
【表1】

【0042】
結果:
図3(B)にRT-PCR産物の電気の結果を示した。結果より、ヒト成長期毛包にはFoxn1、AFF-1、AFF-2およびAFF-4が発現していることが確認された。
【0043】
実施例4
方法:
インフォームドコンセント実施のもと、外科手術から得られた不要頭皮から毛実体顕微鏡下で脂肪組織を分離して、そこから毛包を摘出した。 摘出した毛包を速やかにOCTコンパウンド(Tissue-Tek)を用いて毛包を包埋・凍結固定した。固定後、10μm厚に薄切し染色用試料とした。Foxn1の染色には1次抗体としてウサギIgG抗ヒトFoxn1ポリクロナール抗体H-270(サンタクルーズ社)を50倍希釈で用いた。二次抗体は発色は抗ウサギIgG-FITCを用いた。なお、核染色はpropidium iodideで染色した。対照実験として、正常ウサギIgG、および1次抗体を用いない染色も行った。
【0044】
in situハイブリダイゼーションは次の方法で行った。ヒトFoxn1およびAFF-4のin situハイブリダイゼーション用プローブは以下の方法で作成した。表1に示したFoxn1およびAFF-4のプライマーにT7プロモーター配列が5’上流域に付加されたプライマー、および付加されないプライマーを用いて、5’端にのみT7プロモーター配列が来るように組み合わせてPCRを行いin situハイブリダイゼーション用プローブ作成の鋳型とするDNA鎖を作成した。
さらに、本鋳型DNA鎖、T7 RNAポリメラーゼおよびジゴキシゲニンラベルキット(ロッシュ社)を用いて、ジゴキシゲニンでラベルされた1本鎖RNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖を調製した。Foxn1 (GenBank: NM_003593) 5'-CCTGGGTTCAGAGGTCAAAG-3’(センス鎖;配列番号1)、5'-GGGAAGGCTCCCAGTTTTAC-3’(アンチセンス鎖;配列番号2)。AFF-4 (GenBank: NM_014423) 5'-AGACAGTGATGGGGAACAGG-3'(センス鎖;配列番号7)、5'-TGCCTCACTGTCACTGGAAC-3'(アンチセンス鎖;配列番号8)。T7プロモーター配列TAATACGACTCACTATAGGGAG(配列番号13)。本実験では10%ホルマリンで固定した頭皮試料をパラフィンで包埋したブロックを被検試料として使用した。本ハイブリダイゼーションの条件はin situハイブリダイゼーション装置の標準条件に従った(ベンタナ社)。シグナルの検出はBlueMap NBT/BCIP基質キット(ベンタナ社)を用い、37℃-3時間の発色条件で行った。
【0045】
結果:
抜去毛包を抗Foxn1抗体で染色した像を図4(A)、(B)に示した。図4(A)は毛包中部から上部を、図4(B)は毛包下部の染色像を示している。図4(A)、(B)より、ヒト成長期毛包ではFoxn1は毛乳頭上部のマトリックス部、毛幹、毛球部付近の内毛根鞘に発現していると思われた。図4(C)は1次抗体の代わりに正常rabbit IgGを用いた場合の染色像を、図4(D)は1次抗体非存在下での染色像を示した。図4(C)および(D)の結果より、図4(A)および(B)で染色された部分はFoxn1特異的な染色であると思われた。図4(E)はFoxn1のアンチセンスプローブでのin situハイブリダイゼーションを行った発色像を示した。結果は4(B)と同様であり、Foxn1が前述の部位で発現することがin situハイブリダイゼーションによっても確認された。図4(F)および(G)にAFF-4のアンチセンスプローブでのn situハイブリダイゼーションを行った発色像を示した。図4(F)では毛包部の、図4(G)では皮膚での染色像を示したが、図4(F)に見られるように毛包の内毛根鞘と毛幹が染色されたのに対し、図4(G)にあるように表皮には染色性は認められなかった。図4(F)および(G)より、AFF-4は毛包にのみ発現する分子であると考えられた。
【0046】
実施例5
方法:
抜去黒髪毛包(30本)から実施例3の条件でtotal RNAを調製し、ついで定量PCRを行った。定量PCRは、調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)で二重鎖DNAの副溝に結合する蛍光色素CyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行った。詳しくは、LightCycler-FastStart DNAマスタ−SYBR Green Iキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用い、添付のマニュアルに従って全量20μlの反応液(MgCl2 2mM、下記のフォワード及びリバースプライマー各0.25μM)を調製し、LightCyclerでPCR反応(酵素活性化95℃/10分、熱変性95℃/15秒、アニーリング58℃/5秒、伸長反応72℃/10秒、熱変性〜伸長反応サイクルを40回)を行い、各サイクルの伸長反応終了時の蛍光強度をモニタリングした。この蛍光強度はその時点におけるPCR産物量を反映している。遺伝子の発現量は、PCR産物の指数関数的増幅期において初期鋳型量AのPCR産物YがPCRのサイクル数Xに対してY=A×2Xを満たしながら増幅されるものとして仮定して、一定量のPCR産物が得られるまでのサイクル数から相対値を算出し、G3PDH(グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドログナーゼ)の発現量で補正した。PCRはrTaqポリメラーゼ(タカラ)プライマーを用いて行った。PCRに用いたプラーマーの塩基配列を表1に示した。PCRの陽性対照としてGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を用いた。PCRは94℃-30秒、60℃-30秒、72℃-1分を1サイクルとし、計30サイクル行った。Foxn1、AFF-1、AFF-2およびAFF-4の遺伝子発現量の比較は、それぞれGAPDH発現量を基準とした相対比較で行った。
【0047】
結果:
その結果を図5に示す。GAPDHに対するFoxn1の発現量を1.0とした場合の、AFF-1、AFF-2およびAFF-4の相対発現量を示した。黒毛成長期毛包ではFoxn1、AFF-1およびAFF-4が発現しており、特にAFF-4の発現量は多かった。一方、AFF-2の発現はかなり低かった。
【0048】
実施例6
方法:
同一のパネルから黒髪と白髪をそれぞれ30本ずつ採取し抜去毛を得た。黒髪、白髪それぞれから実施例3と同様の条件でtotal RNAを調製し、ついで定量PCRを行った。定量PCRは、実施例3と同様に、調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)で二重鎖DNAの副溝に結合する蛍光色素CyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行った。使用したDNAプライマーは表1に示したFoxn1、AFF-4およびbFGFのプライマーを用いた。それぞれの遺伝子の黒髪、白髪間での発現量比較は、それぞれの髪のGAPDHの発現量と各分子の発現量を比較し、それを黒髪、白髪間で相対比較した。本比較をパネルごとに行い、最終的に全パネル6名の平均で示した。
【0049】
結果:
図6(A)にFoxn1発現量の黒髪・白髪間での発現量の比較を、黒髪での発現量を100とした場合の相対比較で示した。同様に図6(B)ではAFF-4発現の黒髪・白髪間比較、図6(C)ではbFGF4発現の黒髪・白髪間比較を示した。結果より、Foxn1、AFF-4、bFGFのいずれも白髪では黒髪より低下していた。よって、これら3つの分子は白髪に関連性があるものと思われた。
【0050】
実施例7
方法:
実験に用いたヒト毛包上皮系細胞(hORS)の採取と培養は以下のように行った。インフォームドコンセトを得て外科手術の副産物として得られたヒト頭皮から、実体顕微鏡下で脂肪組織を分離して、そこから毛包を摘出した。注射針の先を使って毛包下部の毛球部を切断除去した後、この毛包上部を1000 U/ml dispase(三光純薬)・0.2 %コラゲナーゼを含むダルベッコの改変MEM(DMEM;Gibco社)で30分間,37℃で処理した。その後、注射針の先を用いてdermal sheathを除去して、新しい培養皿に毛包を移し、0.05%トリプシン・0.02%EDTAを含むリン酸緩衝液(PBS)で5分間,37℃で処理した。次にコラーゲン(Type I)コーティングした培養皿に毛包を静置し、培養を行った。この際の培地は、全ての添加物を含む無血清培地〔Keratinocyte SFM培地(K-SFM);Invitrogen社〕を用いた。抗生物質のみを添加したK-SFMはK-SFMBとした。培養開始4〜5日後に、毛包の培養皿への接着及び細胞の増殖が確認できた時点で培地を交換し、以降2日おきに培地交換を行った。このようにして増殖させた細胞を、0.05wt%トリプシン-0.02 %EDTAで37℃で5分間処理、等量の0.1 %トリプシンインヒビターで反応を停止させ、遠心処理(800g-5分間)により細胞を回収した。次に、細胞を上記のK-SFMに分散させて、5000 cells/cm2の密度でコラーゲンコーティング(Type I)した培養皿に播種し、細胞がsubconfluentになるまで2日おきに培地交換を行い培養しヒト外毛根鞘細胞を得た。本細胞の基礎的な培養条件はItamiらの報告に従った [Itami et al. (1991) Ann. N.Y. Acad. Sci. 642:385-395; Itami et al. (1995) Br. J. Dermatol.132:527-532]。
得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで培養した。この培養は4時間まで行い、1、2、3、4時間で培養を終了し、MagNA Pure LC (ロシュ・ダイアグノスティックス社)でmRNAを調製した。調製したmRNAを鋳型にSuperScript (Invitrogen)で逆転写反応を行い、cDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)で二重鎖DNAの副溝に結合する蛍光色素CyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したAFF-4プライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。
【0051】
結果:
その結果を図7に示す。hORSのAFF-4発現に及ぼすレイシエキス(エキス乾燥残分として0.5 ppm)の影響を検討した結果、レイシエキスは添加後1時間から2時間の間で発現が有意に亢進し、以降4時間までは発現が亢進し続けた。以上より、レイシエキスはhORSにおいてAFF-4発現亢進効果が確認された。
【0052】
実施例8
方法:
実施例7で述べた方法と同様の方法でhORSを採取、培養した。得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで1〜4時間培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したAFF-4プライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。陰性対照実験として、エキスを含まないK-SFMB培地で培養したもの、陽性対照実験として全ての因子類を含んだK-SFMで培養したものを用いた。実験はそれぞれ4回行なった。
【0053】
結果:
その結果を図8に示す。hORSのAFF-4発現に及ぼすサンショウエキス (エキス乾燥残分として1.0ppm)の影響を検討した結果、サンショウエキスは添加後4時間でAFF-4の発現が有意に亢進していた。以上より、サンショウエキスはhORSにおいてAFF-4発現亢進効果が確認された。
【0054】
実施例9
方法:
実施例7で述べた方法と同様の方法でhORSを採取、培養した。得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで2時間培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したAFF-4プライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。陰性対照実験として、エキスを含まないK-SFMB培地で培養したもの、陽性対照実験(PC)として全ての因子類を含んだK-SFMで培養したものを用いた。実験はそれぞれ4回行なった。
【0055】
結果:
その結果を図9に示す。hORSのAFF-4発現に及ぼすニンジンエキス (エキス乾燥残分として0.1 ppmおよび1.0ppm)の影響を検討した結果、ニンジンシエキスは添加後2時間で0.1 ppmおよび1.0ppmともに発現が有意に亢進していた。以上より、ニンジンエキスはhORSにおいてAFF-4発現亢進効果が確認された。
【0056】
実施例10
方法:
実施例7で述べた方法と同様の方法でhORSを採取、培養した。得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで2時間培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したAFF-4プライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。陰性対照実験として、エキスを含まないK-SFMB培地で培養したもの、陽性対照実験として全ての因子類を含んだK-SFMで培養したものを用いた。実験はそれぞれ4回行なった。
【0057】
結果:
その結果を図10に示す。hORSのAFF-4発現に及ぼすコメヌカエキス (エキス乾燥残分として0.1 ppmおよび1.0ppm)の影響を検討した結果、コメヌカエキスは添加後2時間で0.1 ppmおよび1.0ppmともに発現が有意に亢進していた。以上より、コメヌカエキスはhORSにおいてAFF-4発現亢進効果が確認された。
【0058】
実施例11
方法:
実施例7で述べた方法と同様の方法でhORSを採取、培養した。得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで2時間培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したAFF-4プライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。陰性対照実験として、エキスを含まないK-SFMB培地で培養したもの、陽性対照実験として全ての因子類を含んだK-SFMで培養したものを用いた。実験はそれぞれ4回行なった。
【0059】
結果:
その結果を図11に示す。hORSのAFF-4発現に及ぼすヒキオコシエキス (エキス乾燥残分として0.1 ppmおよび1.0ppm)の影響を検討した結果、ヒキオコシエキスは添加後2時間で1.0ppmで発現が有意に亢進していた。以上より、ヒキオコシエキスはhORSにおいてAFF-4発現亢進効果が確認された。
【0060】
実施例12
方法:
実施例7で述べた方法と同様の方法でhORSを採取、培養した。得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで4時間まで培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したbFGFプライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。陰性対照実験として、エキスを含まないK-SFMB培地で培養したもの、陽性対照実験として全ての因子類を含んだK-SFMで培養したものを用いた。実験はそれぞれ4回行なった。
【0061】
結果:
その結果を図12に示す。hORSのbFGF発現に及ぼすレイシエキス (エキス乾燥残分として1.0ppm)の影響を検討した結果、レイシエキスは添加後3時間以上でbFGFの発現が有意に亢進していた。以上より、レイシエキスはhORSにおいてbFGF発現亢進効果が確認された。
【0062】
実施例13
方法:
実施例7で述べた方法と同様の方法でhORSを採取、培養した。得られたhORSをタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり2万個播種し、K-SFMで3日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで4時間まで培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したbFGFプライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。陰性対照実験として、エキスを含まないK-SFMB培地で培養したもの、陽性対照実験として全ての因子類を含んだK-SFMで培養したものを用いた。実験はそれぞれ4回行なった。
【0063】
結果:
その結果を図13に示す。hORSのbFGF発現に及ぼすサンショウエキス (エキス乾燥残分として1.0ppm)の影響を検討した結果、サンショウエキスは添加後4時間でbFGFの発現が有意に亢進していた。以上より、サンショウエキスはhORSにおいてbFGF発現亢進効果が確認された。
【0064】
実施例14
方法:
ヒト由来表皮系細胞(HaCaT)をタイプIコラーゲンコートの24穴マルチプレートに1ウエルあたり3万個播種し、K-SFMで4日間培養後、薬剤を含むK-SFMGで3時間まで培養した。培養後、実施例7と同様の方法でmRNAおよびcDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でCyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較で行ったPCRにはrTaqポリメラーゼ(タカラ)と表1に示したbFGFプライマーを用いて行なった。発現量はGAPDH (glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素) を基準とした相対値で計算した。
【0065】
結果:
HaCaTのbFGF発現に及ぼすレイシエキス(図14(A))およびサンショウエキス(図14(B)) (エキス乾燥残分として1.0ppm)の影響を検討した結果、いずれのエキスともにエキス添加後3時間でもbFGFの発現が有意な変化が認められなかった。以上より、レイシエキスはヒト表皮細胞においてbFGF発現には影響を与えないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗白髪剤のスクリーニング方法であって、候補薬剤をin vitroで細胞に適用し、当該細胞のAFF-4の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記細胞が毛包の上皮系細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞から抽出されたAFF-4をコードするmRNAの量をPCR法により測定する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
レイシ(Ganoderma lucidum (Fr.) Karst)、ニンジン(Panax schinseng Nees)、コメヌカ(Oryza Sativa (Rice) Bran)及びヒキオコシ(Rabdosia japonicus)からなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを、AFF-4の発現亢進に有効量で含有する抗白髪剤。
【請求項5】
レイシ、ニンジン、コメヌカ及びヒキオコシからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスによりAFF-4の発現を亢進させる方法。
【請求項6】
レイシ、ニンジン、コメヌカ及びヒキオコシからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスをAFF-4の発現を亢進するのに有効量で頭皮に塗布することによりAFF-4の発現を亢進させることを特徴とする白髪予防又は白髪抑制方法。
【請求項7】
白髪予防又は白髪抑制のための医薬組成物又は美容組成物の調製における、細胞におけるAFF-4の発現を亢進するのに有効量の、レイシ、ニンジン、コメヌカ及びヒキオコシからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスの使用。
【請求項8】
抗白髪剤を同定するための方法であって、細胞を試験薬剤と接触させ;
その細胞におけるAFF-4の発現を測定し;そして
その試験薬剤が当該試験薬剤の不在下でのAFF-4の発現と比べ、AFF-4の発現を高めるなら、抗白髪剤の候補として選定する;
ステップを含む方法。
【請求項9】
前記細胞が毛包の上皮系細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞におけるAFF-4の測定ガ、AFF-4mRNAの量のPCR法による測定を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
AFF-4の発現を亢進するための、レイシ、ニンジン、コメヌカ及びヒキオコシからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを含んでなる組成物。
【請求項12】
AFF-4の発現を亢進するのに有効量の、レイシ、ニンジン、コメヌカ及びヒキオコシからなる群から選ばれる少なくとも一種の生薬のエキスを含んでなる、白髪予防又は白髪抑制のための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図4(C)】
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【図4(D)】
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【図4(E)】
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【図4(F)】
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【図4(G)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−531185(P2012−531185A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554008(P2011−554008)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/JP2010/061305
【国際公開番号】WO2010/150922
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】