説明

ASK1阻害剤を有効成分とする心不全治療薬およびそのスクリーニング方法

本発明は、心室リモデリングにおける心機能低下や心不全の開始を抑制できる心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬、および、そのスクリーニング方法を提供する。本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞におけるASK1タンパク質の機能発現を阻害する化合物を有効成分とする医薬であり、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質の機能発現の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。図1に示すように、ASK1タンパク質を排除すれば、例えば、心筋梗塞や圧負荷等の後の心室リモデリングにおいて、心室拡張を減衰できるから、心不全の予防治療が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ASK1阻害剤を有効成分とする心不全治療薬およびそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
心不全とは、心筋の収縮機能障害のために全身性の多彩な自・他覚所見を呈する症候群であって、生命の危険を伴うものである。心不全の患者は、それらの症状のため運動耐容能が低下し、心不全増悪による入院を反復し、最終的には死に至り、その予後は極めて不良である。現在、薬物治療として利尿薬、ジギタリス製剤、βブロッカー、アンギオテンシン転換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体阻害薬等が、心不全発症予防や治療に用いられている。その効果は大規模臨床試験で実証はされているが、その効果は軽微なものであり、重症の慢性心不全においては心移植に頼らざるをえない状態であるため、新しい心不全の治療方法の開発が待たれている。
心不全の原因は未だ十分には解明されていないが、臨床経過としては、例えば、心筋梗塞、高血圧症、心臓弁膜症等の心臓疾患の後に、心室リモデリング(再構築)が生じ、続いて、心不全が起こることが知られている。前記心室リモデリングとは、心筋の障害や、負荷の変化に応答する左室のジオメトリー、質量、容積、機能の変化のことである。前記リモデリングのプロセスは、順応性であるが、心筋梗塞、高血圧症、心臓弁膜症等のように、前記障害や負荷が継続的で病的な場合、前記プロセスは順応不良となる。そうすると、肥大した心筋細胞に十分な量の血液が供給されずに虚血に陥り、これが原因で心筋収縮不全などの心筋障害が生じ、心拍出量の低下、臓器循環障害、静脈鬱血、体液貯留などを伴う心不全症候群を来すと考えられる。そして、リモデリング中の左室の拡張の程度は、病気の状態や死亡率についての強力な指標となっている(Patten,R.D.,Udelson,J.E.&Konstam,M.A.「心不全における心室リモデリングとその予防(Ventricular remodeling and its prevention in the treatment of heart failure)」(1998)Curr.Opin.Cardiol.13,162−7.参照)。
心筋梗塞後の左室リモデリングを引き起こす基礎となるメカニズムは、ヒト患者においても実験モデルにおいても、筋細胞のアポトーシスの関与が示唆されている(Olivetti,G.,Quaini,F.,Sala,R.,Lagrasta,C.,Corradi,D.,Bonacina,E.,Gambert,S.R.,Cigola,E.&Anversa,P.「ヒト急性心筋梗塞は、心臓の生存部におけるプログラム筋細胞死と関連する(Acute Myocardial Infarction in Humans is Associated with Activation of Programmed Myocyte Cell Death in the Surviving Portion of the Heart)」(1996)J.Mol.Cell.Cardiol.28,2005−2016.、およびCheng,W.,Kajstura,J.,Nitahara,J.A.,Li,B.,Reiss,K.,Liu,Y.,Clark,W.A.,Krajewski,S.,Reed,J.C.,Olivetti,G.,et al.「ラットにおけるプログラム筋細胞死は、梗塞後の生存心筋細胞に影響を与える(Programmed Myocyte Cell Death Affects the Viable Myocardium after Infarction in Rats)」(1996)Exp.Cell Res.226,316−327.参照)。また、圧負荷に応答する心肥大の後に生じる心不全においても、心筋細胞のアポトーシスは、代償性肥大と心不全との間の移行における重大なポイントである考えられている(Hirota,H.,Chen,J.,Betz,U.A.,Rajewsky,K.,Gu,Y.,Ross,J.,Jr.,Muller,W.&Chien,K.R.「gp130心筋細胞生存経路の欠損は、生化学的ストレス下における心不全の発症の決定的事象である(Loss of a gp130 cardiac muscle cell survival pathway is a critical event in the onset of heart failure during biomechanicalstress)」(1999)Cell 97,189−98.参照)。
他方、ASK1(アポトーシスシグナル制御キナーゼ1;apoptosis signal−regulating kinase 1)タンパク質は、反応性の酵素種に感受性を示すマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)であって、c−JunのN末端キナーゼ(JNK)や、p38 MAPキナーゼを活性化するものとして同定されたタンパク質である(特開平10−000093号公報およびIchijo,H.,Nishida,E.,Irie,K.,Dijike,P.T.,Saitoh,M.,Moriguchi,T.,Takagi,M.,Matsumoto,K.,Miyazono,K.&Gotoh,Y.「SAPK/JNKおよびp38シグナル経路を活性化する哺乳類MAPKKKであるASK1によるアポトーシスの誘導(Induction of apoptosis by ASK1,a mammalian MAPKKK that activates SAPK/JNK and p38 signaling pathways)」(1997)Science 275,90−94.参照)。野生型または恒常的に活性型であるASK1タンパク質の過剰発現が、様々な細胞でアポトーシスを誘導することや(Saitoh,M.,Nishitoh,H.,Fujii,M.,Takeda,K.,Tobiume,K.,Sawada,Y.,Kawabata,M.,Miyazono,K.&Ichijo,H.「哺乳類チオレドキシンは、アポトーシスシグナル制御キナーゼ1(ASK1)を直接阻害する(Mammalian thioredoxin is a direct inhibitor of apoptosis signal−regulating kinase(ASK)1)」(1998)EmboJ.17,2596−606.参照)、酸化ストレスや腫瘍壊死因子が誘導するアポトーシスが、ASK−/−細胞で抑制されることが報告されている(Tobiume,K.,Matsuzawa,A.,Takahashi,T.,Nishitoh,H.,Morita,K.−i.,Takeda,K.,Minowa,O.,Miyazono,K.,Noda,T.&Ichijo,H.「ASK1は、JNK/p38 MAPキナーゼの持続活性化とアポトーシスに必要である(ASK1 is required for sustained activations of JNK/p38 MAP kinases and apoptosis)」(2001)EMBO Reports 2,222−228.参照)。しかしながら、心不全とASK1との関係については、なんら報告されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、前記リモデリングにおける心機能低下や心不全の開始を抑制できる心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬、そのスクリーニング方法、心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法ならびに心不全の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
前記目的を解決するために、本発明者は、臨床的に心不全と最も関連性の高い病因である心筋梗塞後の左室リモデリングと圧負荷後の左室リモデリングを、ASK1ノックアウトマウスを利用して再現し、左室リモデリングの分子メカニズムを解明するという着想を得て鋭意研究を重ねた。その結果、ASK1タンパク質を心筋細胞から除去しても、基底レベルでは心臓に形態学的および組織学的欠陥が生じないこと、ASK1タンパク質除去により、心筋梗塞および圧負荷後の左室リモデリングにおける進行性の収縮機能低下をともなう左室拡張を抑制できること、ASK1タンパク質除去により、心筋梗塞および圧負荷後の左室リモデリングにおけるアポトーシスの頻度の進行的な増加を抑制できること、ASK1タンパク質の活性化が、心筋細胞においてアポトーシスを誘導すること、および、心筋梗塞や圧負荷後に、心臓でASK1タンパク質が活性化すること等を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞におけるASK1タンパク質の機能発現を阻害する化合物を有効成分とする医薬であり、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質の機能発現の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法であり、本発明の心不全の診断方法は、心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性または自己リン酸化能を測定することを含む診断方法である。
【発明の効果】
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の医薬によれば、ASK1タンパク質の機能発現を阻害できるから、例えば、心疾患の左室リモデリングにおける進行性の心臓収縮機能低下を抑制できる。したがって、例えば、心筋梗塞、高血圧症、心臓弁膜症、先天性心疾患、心筋炎、家族性肥大型心筋症、拡張型心筋症等の心室リモデリングを生じるおそれのある疾患に対して、心不全予防の医薬として使用でき、また、例えば、心不全に対して、心不全治療の医薬として使用できる。
また、本発明のスクリーニング方法によれば、例えば、心不全の予防や治療に効果的な医薬の創薬が可能となる。また、本発明の予防および治療の少なくとも一方の方法によれば、例えば、効果的な心不全の予防や治療が可能となる。また、本発明の診断方法によれば、例えば、効果的な診断と治療方法の選択が可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、本発明の実施例における経胸壁Mモード超音波心エコー検査図の一例であり、図1Bは、本発明の実施例のおける心エコー検査のパラメーター変化を示すグラフの一例である。
図2は、本発明の実施例における心臓試料切片の写真の一例である。
図3Aは、本発明の実施例におけるアポトーシス細胞数を示すグラフの一例であり、図3Bは、本発明の実施例における三重染色顕微鏡観察の一例である。
図4Aは、本発明の実施例における細胞生存率を表すグラフの一例であり、図4Bは、本発明の実施例におけるHoechst染色顕微鏡観察の一例であり、図4Cは、本発明の実施例における細胞生存率を表すグラフのその他の例であり、図4Dは、本発明の実施例におけるHoechst染色顕微鏡観察のその他の例である。
図5Aは、本発明の実施例におけるASK1タンパク質の活性化の測定結果の一例を示す図であり、図5Bは、本発明の実施例におけるJNKタンパク質およびp38タンパク質のリン酸化を測定した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明において、ASK1タンパク質は、例えば、哺乳類のASK1タンパク質であり、好ましくは、ヒトのASK1タンパク質であり、より好ましくは、GenBankデータベース登録番号D84476のアミノ酸配列もしくは前記アミノ酸配列と実質同一のアミノ酸配列であって、さらに好ましくは、本発明の医薬を適用する患者のASK1タンパク質のアミノ酸配列と同一もしくは実質同一のアミノ酸配列からなるASK1タンパク質である。前記実質同一のアミノ酸配列としては、例えば、配列の相同性が約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは95%以上のアミノ配列であって、ASK1タンパク質の活性を有するタンパク質をコードする配列があげられる。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬としては、心筋細胞におけるASK1タンパク質の機能発現を阻害する化合物を有効成分とする医薬であれば特に制限されないが、例えば、下記(1)〜(8)の形態があげられる。
(1)本発明の一形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、ASK1タンパク質が誘導する心筋細胞のアポトーシスを抑制する化合物を有効成分とする医薬である。
(2)本発明のその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害する化合物を有効成分とする医薬である。
(3)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞におけるASK1タンパク質の自己リン酸化を阻害する化合物を有効成分とする医薬である。
(4)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞におけるASK1 mRNAの翻訳を阻害する化合物を有効成分とする医薬である。
(5)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞におけるASK1遺伝子の転写を阻害する化合物を有効成分とする医薬である。
(6)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞において、ASK1タンパク質を活性化する因子を阻害する化合物を有効成分とする医薬である。
(7)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞において、ASK1タンパク質が活性化する因子を阻害する化合物を有効成分とする医薬である。
(8)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、心筋細胞において、心室リモデリングにおける進行性の心機能低下を抑制できる化合物を有効成分とする医薬である。
前記ASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害する化合物、または前記ASK1タンパク質の自己リン酸化を阻害する化合物としては、例えば、ASK1タンパク質に特異的な抗ASK1抗体があげられる。前記抗ASK1抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体であってもよく、公知の抗体を利用してもよいし、新たに作製しても良い。ポリクローナルまたはモノクローナル抗体の作製方法は、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。また、前記抗ASK1抗体は、抗体断片であってもよい。前記抗体断片としては、例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、およびFvフラグメント等があげられ、これらのフラグメントは、従来公知の種々の修飾がなされてもよい。さらにまた、前記抗ASK1抗体は、キメラ抗体であってもよい。
さらに、前記ASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害する化合物、または前記ASK1タンパク質の自己リン酸化を阻害する化合物としては、例えば、ASK1タンパク質のドミナントネガティブ変異体があげられる。前記ASK1ドミナントネガティブ変異体は、ASK1タンパク質のキナーゼ活性、自己リン酸化活性、および複合体化の少なくとも一つを阻害できるものであれば、特に制限されず、例えば、ASK1(K709M)、ASK1(K709R)、ASK1NT、ASK−ΔN(K709M)、ASK−ΔN(K709R)等があげられる。前記K709MおよびK709Rは、ASK1タンパク質の709番目のリジン(K)が、それぞれメチオニン(M)およびアルギニン(R)に置換したことを表し、前記ASK1NTは、ASK1タンパク質のN末端領域である1〜648アミノ酸残基部分からなるタンパク質であり、前記ASK−ΔNは、ASK1タンパク質のC末端領域である649〜1375アミノ酸残基からなるタンパク質を表す。
さらにまた、前記ASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害する化合物、または前記ASK1タンパク質の自己リン酸化を阻害する化合物としては、例えば、チオレドキシン等があげられる。
前記ASK1 mRNAの翻訳を阻害する化合物としては、例えば、アンチセンスポリヌクレオチドがあげられる。前記アンチセンスポリヌクレオチドとしては、ASK1 mRNAと相補的に対合し、ASK1タンパク質の発現を抑制できるものであれば、特に制限されず、例えば、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA/RNAキメラ、およびその誘導体等があげられる。前記アンチセンスポリヌクレオチドの配列は、ASK1 mRNAの相補配列と同一または実質的に同一であることが好ましい。本発明において、ASK1 mRNA配列は、例えば、哺乳類のASK1 mRNA配列であり、好ましくはヒトのASK1 mRNA配列であり、より好ましくはGenBankデータベース登録番号D84476の配列であり、さらに好ましくは本発明の医薬を適用する患者のASK1 mRNA配列と同一または実質同一の配列である。前記実質同一の配列としては、例えば、配列の相同性が約50%以上の配列であり、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは95%以上の配列であって、ASK1タンパク質のアミノ酸配列と同一もしくは実質同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列があげられる。
さらに前記ASK1 mRNAの翻訳を阻害する化合物としては、例えば、RNA干渉のためのRNAがあげられる。前記RNA干渉のためのRNAとしては、例えば、前記ASK1 mRNA配列と同一配列の一本鎖、二重鎖、または三重鎖RNAがあげられ、好ましくは、前記ASK1 mRNA配列と同一配列の二重鎖RNAであって、さらに好ましくは、19〜25ヌクレオチドのRNA断片からなる前記ASK1 mRNA配列と同一配列の二重鎖RNAである。
前記ASK1タンパク質の活性化因子としては、例えば、Daxx、TRAF2、カルモジュリン依存性リン酸化酵素II(Ca2+/calmodulin−dependent protein kinase II;CaM Kinase II)等があげられ、前記ASK1タンパク質により活性化される因子としては、例えば、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、JNK、p38 MAPK等があげられる。これらの中でも、本発明の医薬の一形態において、有効成分が阻害する前記ASK1タンパク質により活性化される因子としては、MKK4、MKK7、JNKが好ましい。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬に有効成分として含まれる化合物には、例えば、低分子無機化合物、低分子有機化合物、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、脂質、糖、これらの誘導体、およびその塩等が含まれる。前記有効成分の化合物が、例えば、DNA、RNA、ペプチドおよびタンパク質等である場合、これらをコードするヌクレオチド配列を利用できる。したがって、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のさらなる一形態としては、下記(9)の形態があげられる。
(9)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、有効成分である化合物をコードするヌクレオチド配列を含むベクターであって、前記ヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列の発現に必要な調節配列に作動的に連結されているベクターを含む医薬である。
前記ベクターとしては、前記ヌクレオチド配列を、患者の体内、好ましくは心筋細胞内に挿入することが可能なベクターであれば、特に制限されず、例えば、一本鎖、二重鎖、環状またはスーパーコイルのDNA分子やRNA分子等を使用できる。具体的には、前記ベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクター等のウイルスベクターや、pCAGGS(Gene108,193−200(1991))、pBK−CMV、pcDNA3、pZeoSV(インビトロゲン社製)等の非ウイルスベクターがあげられる。前記調節配列とは、患者の細胞内、好ましくは心筋細胞内において、作動的に連結された前記ヌクレオチド配列の発現に必要な塩基配列をであって、例えば、真核細胞に適した調節配列としては、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、エンハンサー等があげられる。前記作動的に連結とは、各構成要素が機能を果たすことができるように並置していることを表す。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬は、例えば、哺乳類に使用でき、好ましくは、ヒトに使用できる。また、本発明の医薬は、心不全、心筋梗塞、高血圧症、心臓弁膜症、、心臓弁膜症、先天性心疾患、心筋炎、家族性肥大型心筋症、拡張型心筋症等の疾患に適用できる。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬の投与経路としては、例えば、経口投与や非経口投与があげられ、前記非経口投与としては、例えば、口腔内投与、気道内投与、直腸内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与等があげられる。また、投与形態としては、投与経路に応じて、例えば、経口投与剤、経鼻剤、経皮剤、直腸投与剤(座剤)、舌下剤、経膣剤、注射剤(経静剤、経動剤、皮下、皮内)、点滴剤等があげられる。また、前記経口投与剤としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、溶液、懸濁液、乳液、シロップ剤等があげられ、前記経皮剤としては、例えば、ローション等の液剤や、クリームや軟膏等の半固形剤の形態があげられる。本発明の医薬の投与経路および投与形態は、これらに限られることなく、予防および治療の少なくとも一方に際して最も効果的なものを使用することが望ましい。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬が、前記ベクターを含む形態、いわゆる遺伝子治療剤の剤形を取る場合、前記ベクターに応じて、患者の体内、好ましくは心筋細胞内に導入することが好ましい。
前記ベクターが、ウイルスベクターである場合、前記ベクターの投与方法としては、例えば、in vivo法やex vivo法等があげられる。前記in vivo法では、医薬は、目的の疾患、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与される。例えば、静脈、動脈、冠状動脈、皮下、皮内、心筋内等に投与してもよく、病変と認められる部位そのものに直接局所投与しても良い。他方、前記ベクターが、非ウイルスベクターである場合、前記ベクターの投与方法としては、例えば、内包型リポソームまたは静電気型リポソームによる導入法、HVJ−リポソーム法、改良型HVJ−リポソーム法、レセプター介在性導入法、パーティクル銃で金属粒子の担体とともに導入する方法、naked−DNAの直接導入法、正電荷ポリマーによる導入法等があげられる。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法としては、ASK1タンパク質の機能発現の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法であれば特に制限されないが、例えば、下記(1)〜(8)の形態があげられる。
(1)本発明の一形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質が誘導するアポトーシスの抑制を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(2)本発明のその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質のキナーゼ活性の活性阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(3)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質の自己リン酸化の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(4)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1 mRNAの翻訳の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(5)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1遺伝子の転写の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(6)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質の活性化因子の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(7)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、ASK1タンパク質に活性化される因子の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
(8)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法は、心室リモデリングの進行性の心機能低下の抑制を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法である。
前述のスクリーニング方法は、インシリコ、インビトロおよびインビボにおいて従来公知の方法を用いて行うことができる。また、前述の医薬成分を選択する工程で選択された医薬成分は、そのまま、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬の有効成分として利用してもよいし、前記医薬成分が、例えば、ポリヌクレオチドやポリペプチド等の場合は、前述のように、前記ポリヌクレオチドやポリペプチドをコードする遺伝子を含む遺伝子治療剤という形態で利用してもよい。前記薬剤候補化合物としては、例えば、低分子無機化合物、低分子有機化合物、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、脂質、糖、これらの誘導体、およびその塩等が含まれる。
前記アポトーシスの抑制を指標としたスクリーニング方法としては、具体的には、例えば、恒常的に活性のあるASK1タンパク質(例えば、ASK−ΔN;N末端領域のアミノ酸1〜648を欠損したASK1タンパク質など)を発現する細胞、または前記恒常活性体ASK−ΔNを心臓に発現するトランスゲニックマウスに、薬剤候補化合物を投与し、アポトーシスを抑制できる薬剤を選択するスクリーニング方法等があげられる。
前記キナーゼ活性の活性阻害を指標としたスクリーニング方法としては、具体的には、例えば、薬剤候補化合物存在下にある細胞にASK1活性化物質を投与した後、前記細胞から抗ASK1抗体を用いて免疫沈降しASK1タンパク質を回収して、そのキナーゼ活性を測定することで、ASK1タンパク質のキナーゼ活性を抑制できる薬剤を選択するスクリーニング方法等があげられる。
前記自己リン酸化の阻害を指標としたスクリーニング方法としては、具体的には、例えば、薬剤候補化合物存在下にある細胞にASK1活性化物質を投与した後、前記細胞を試料として抗リン酸化ASK1抗体を用いてウエスタンブロットを行うか、または、前記細胞から抗ASK1抗体を用いて免疫沈降したASK1タンパク質に対して抗リン酸化ASK1抗体を用いてウエスタンブロットを行い、ASK1タンパク質の自己リン酸化を抑制できる薬剤を選択するスクリーニング方法等があげあれる。
前記ASK1 mRNAの翻訳阻害を指標としたスクリーニング方法としては、具体的には、例えば、薬剤候補化合物存在下にある細胞または動物心臓からタンパク質を抽出し、ASK1タンパク質の発現を評価することで、ASK1 mRNAの翻訳を阻害する薬剤を選択するスクリーニング方法等があげられる。
前記ASK1遺伝子の転写阻害を指標としたスクリーニング方法としては、具体的には、例えば、薬剤候補化合物存在下にある細胞または動物心臓からmRNAを単離し、ASK1 mRNAの発現を評価することで、ASK1遺伝子の転写を阻害する薬剤を選択するスクリーニング方法等があげられる。
前記ASK1タンパク質によって活性化される因子の阻害を指標としたスクリーニング方法としては、具体的には、例えば、恒常活性体ASK−ΔNを発現する細胞または前記恒常活性体ASK−ΔNを心臓に発現するトランスゲニックマウスに、薬剤候補化合物を投与し、例えば、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、JNK、P38 MAPK等の活性、好ましくは、MKK4、MKK7、JNKの活性を評価することで、ASK1タンパク質によって活性化される因子を阻害する薬剤を選択するスクリーニング方法等があげられる。前記活性の評価の方法は、特に制限されず、例えば、前記因子のリン酸化を、抗体などを用いて検出することで行うことができる。
これらのスクリーニング方法は、本発明のスクリーニング方法の一例であって、本発明のスクリーニング方法は、これらに限定されない。また、前述のスクリーニング方法において、実験動物、細胞、タンパク質、核酸等の取扱いは、特に制限なく、従来公知の方法にて行うことができる。
本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、心筋細胞におけるASK1タンパク質の機能発現を阻害することを含む方法であれば、特に制限されないが、例えば、下記(1)〜(6)の形態があげられる。
(1)本発明の一形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、ASK1タンパク質が誘導するアポトーシスを抑制することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法である。
(2)本発明のその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、心筋細胞においてASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法である。
(3)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、心筋細胞においてASK1タンパク質の自己リン酸化を阻害することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法である。
(4)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、心筋細胞におけるASK1遺伝子の転写翻訳活性を阻害することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法である。
(5)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、ASK1活性化因子およびASK1タンパク質に活性化される因子の少なくとも一方を阻害することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法である。
(6)本発明のさらにその他の形態として、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法は、本発明の心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬を、薬学上許容される有効量投与することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法である。
これらの予防および治療の少なくとも一方の方法に用いる医薬の投与方法や投与形態は、前述のとおり、予防および治療の少なくとも一方に際して最も効果的なものを選択することができる。
また、本発明の心不全の診断方法は、心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性または自己リン酸化能を測定することを含む診断方法である。前記キナーゼ活性や自己リン酸化能を測定することにより、例えば、心不全や心不全のおそれのある心疾患の重症度、質的状態が診断でき、それにより、最適な心不全の予防・治療方法が選択できる。前記心不全のおそれのある心疾患としては、例えば、心筋梗塞、高血圧症、心臓弁膜症、心臓弁膜症、先天性心疾患、心筋炎、家族性肥大型心筋症、拡張型心筋症等があげられる。
以下に具体例を用いて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施に際し、以下の手法を用いた。
【実施例】
(ASK1ノックアウトマウスと実験モデル)
ASK1ノックアウトマウスは、既に報告のあるC57B16/J系統のF6世代のものを使用し(Tobiume,K.etal.(2001)EMBO Reports 2,222−228.)、その対照野生型マウス(WTマウス)として、年齢が同等であるC57B16/Jマウスを使用した(Japan SLC,Inc.社製)。心筋梗塞モデルおよび胸部横行大動脈縮索(TAC;thoracic transverse aortic constriction)モデルのための外科処置は、10週齢のマウスを使用しておこなった。前記心筋梗塞は、文献に記載のとおりに、左冠動脈の結紮処置により引き起こし(Otsu,K.et al.(2003)Biochem.Biophys.Res.Commun.302,56−60.)、また、前記TAC処置は、文献に記載のとおりに行った(Date,M.O.et al.(2002)J.Am.Coll.Cardiol.39,907−12.)。
(心エコー検査)
心エコー検査は、マウスを2.5%のアバーチン(avertin、8μl/g)で麻酔し、ultra−sonography(15−MHzの線形変換器を備えたSONOS−5500、Philips Mcdical Systems社製)を用いて実行した。心臓は、胸骨傍短軸方向投影診断図(two−dimensional parasternal short−axis view)で画像化し、心室中央(midventricle)のMモード心エコー図は、乳頭筋のレベルで記録した。心拍、前部および後部壁厚、左室拡張末期径(LVIDd)ならびに左室収縮末期径(LVIDs)を前記Mモード画像から得た。
(心カテーテル法による心臓機能のインビボ評価)
心カテーテル法のために、10週齢のマウスを、ケタミン(ketamine 50−100mg/kg)とキシラジン(xylazine 3−6mg/kg)との混合物を腹腔内注射して、麻酔した。次に、前記マウスの右頚動脈を分離し、文献に記載のとおり、増幅器(TCP−500,Millar Inc.)に接続された1.4 French Millarカテーテルとともにカニューレを挿入した(Nakayama,H.et al.(2002)FASEB J.,02−0474fje.)。前記カテーテルを前記頚動脈に挿入した後、前記カテーテルを大動脈から左室内に進めた。左室圧は、デジタル化し、コンピューターシステムにより処理した。
(組織学的解析)
心臓試料は、心拡張時で停止させ、すぐに3.7%ホルマリンバッファーで固定し、パラフィンに埋め込み、厚み3μmの切片標本とした。ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin and eosin;HE)染色またはマッソントリクローム染色(Masson−trichrome staining)を連続切片に対して行った。
(インビトロキナーゼアッセイ)
インビトロにおけるASK1タンパク質のキナーゼ活性は、以前に記載されたとおり、免疫複合体キナーゼアッセイにより測定した(Ichijo,H.et al.(1997)Science 275,90−4.)。内因性のASK1の免疫沈降は、報告のとおり、500μgの心筋エキストラクトに対して行った(Saitoh,M.et al.(1998)Embo J.17,2596−606.)。
(アポトーシスの評価)
アポトーシスの評価は、ターミナルデオキシリボヌクレオチジルトランスフェラーゼビオチン−dUTPニックエンド標識(TUNEL)アッセイにて行った。前記アッセイは、インサイチュ(in−situ)アポトーシス検出キット(Takara社製)を使用して、製造業者の取扱説明書に従い、パラフィンに埋め込まれた心臓切片に対して行った。TUNEL陽性核の数は、×40対物レンズで切片全体を調べて数えた。いくつかの試料については、ヨウ化プロピジウム(propidium iodide、Vector Laboratories Inc社製)、TUNEL、および、抗a−サルコメア(横紋筋線維)アクチン抗体を用いた三重染色を行った。
(新生児ラットの心室筋細胞の初代培養とサバイバルアッセイ)
1〜2日齢のウィスターネズミから得たラットの心室筋細胞を、文献のとおりに、調製し、培養した(Hirotani,S.et al.(2002)Circulation 105,509−15.)。恒常活性体のASK1(AdASK−ΔN)またはβガラクトシダーゼ(AdLacZ)を発現するアデノウイルスベクターは、以前に記載のとおりである(Saitoh,M.et al.(1998)Embo J.17,2596−606.)。心筋細胞に、前記組換えアデノウイルスベクターを、細胞あたり100プラーク形成単位の感染多重度で、1時間感染させた。その後、前記細胞を、さらに24時間または48時間培養した。0日目の値を1とした相対細胞数は、3−[4,5−dimethylthiazol−2−yl]−2,5−diphenyltetrazolium bromide(MTT)アッセイに基づいたCell Counting Kit−8(Dojindo社製)を用いて、3回測定した。Hoechst 33258による細胞染色は、細胞を160μMの溶液でインキュベートして行った。
(MAPKリン酸化の検定)
JNKやp38の活性化は、心筋エキストラクトを、抗リン酸化JNK坑体または抗リン酸化p38抗体を用いたウエスタンブロットにより評価した。
実験の結果は、平均±標準誤差(SEM)として示した。対のデータは、Student’s t testで評価した。一元配置の分散分析(ANOVA)とボンフェローニの多重比較(the Bonferroni’s post hoc test)または反復測定分散分析(repeated measures ANOVA)を、多重比較(multiple comparisons)に使用した。P<0.05の値は、統計学的に有意であるとみなした。
(ASK1ノックアウトマウスにおける心臓の特徴付け)
ASK1のノックアウトマウスの心臓と、対照野生型(WT)マウスの心臓とを比較した。ASK1ノックアウトマウスは、期待されるメンデル遺伝の頻度で産まれ、外見上は、対照WTマウスと見分けがつかなかった。また、体、左室、右室および心房の重さについて、前記ASK1ノックアウトマウスと前記対照WTマウスとを比較した。その結果を、下記表1に示す。下記表1のとおり、両者の間に有意な差は認められなかった。前記ASK1ノックアウトマウスの心臓は、形態学的傷害の徴候をなんら示さず、前記心臓の組織学的検査においても、筋原線維の混乱や壊死、または心室線維症は認められなかった。さらに、前記ASK1ノックアウトマウスの筋細胞の切断面領域は、前記対照WTマウスのそれと差異はなかった(ASKノックアウトでは、338±12μmであって、対照WTでは、328±12μmであった)。
次に、ASK1のノックアウトが、心臓機能に影響するかどうかを判断するために、ASK1ノックアウトマウスの心臓の性能を、10週齢のマウスにおける心エコー検査と心臓カテーテル法によって評価した。心エコー検査による、左室拡張末期径、左室収縮末期径、左室内径短縮率、拡張期心室中隔壁厚、拡張期左室後壁厚、および、心拍数の評価の結果を下記表1に示す。また、その時の経胸壁M−モード超音波心エコー検査図の一例を図1Aの上段に示す。同図において、ASK1ノックアウトマウスは右欄であり、対照WTマウスは左欄である。下記表1および図1Aに示すように、前記評価項目において、ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスとでは、有意な差は認められなかった。心臓カテーテル法により得られた、左室収縮圧、左室拡張末期圧、左室圧の最大一次導関数、左室圧の最小一次導関数、および心拍に関する血行動態データを下記表1に示す。下記表1に示すように、前記血行動態データにおいても、ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスとでは、有意な差は認められなかった。以上の知見から、ASK1ノックアウトマウスが、正常な心臓の全体構造および機能を有していることが示唆される。

(心筋梗塞およびTAC後の心臓機能と心室の解剖学的構造)
ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスの左冠動脈を結紮処置し、心筋梗塞を引き起こさせた。心筋梗塞において、リモデリングは、まず、筋細胞の側面と側面のズレ(side−side slippage)に伴って生じ、その結果、梗塞が拡大し、そして、容積負荷と神経液性シグナルに応答して、梗塞領域から離れた非梗塞領域の心筋が肥大する。初期には、このことは、壁のストレスを減少するのに役立つが、最終的には、左室が拡張し、左室壁が薄くなり、収縮作用が低下する。前記外科的処置後の早期手術死亡率(24時間以内)は、ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスでともにゼロであり、7日以内の死亡率も両者の間に有意な差は認められなかった(ASK1ノックアウトマウスが20%であり、対照WTマウスが18%であった)。死亡したマウスの全ての例において、心臓の周囲または胸腔を満たす過度の出血があり、左室の破裂が死亡原因であることが認められた。なお、前記外科的処置の1週間後から四週間後までの期間は、マウスは死亡しなかった。心筋梗塞後の左室リモデリングにおける、ASK1ノックアウトのインビボにおける生理学的影響を評価した。前記評価のために、心エコー検査法を、前記外科的処置前、前記処置の2週間後、および前記処置の4週間後に、連続的に行った。その結果を下記表2に示し、そのときの経胸壁M−モード超音波心エコー検査図の一例を図1A中段に示す。同図において、ASK1ノックアウトマウス(ASK−/−)は右欄であり、対照WTマウスは左欄である。また、前記処置4週間後の左室拡張末期径(LVIDd)、左室収縮末期径(LVIDs)および左室内径短縮率(FS)を比較した一例を図1B上段に示す。同図および下記表2に示すとおり、処置後の左室拡張末期径および収縮末期径は、ともに増加したが、その増加の程度は、ASK1ノックアウトマウス(ASK−/−)よりも対照WTマウスが有意に大きかった。また、左室内径短縮率は、ともに減少したが、その減少の程度は、ASK1ノックアウトマウスよりも対照WTマウスが有意に大きかった。偽処置の(左冠動脈を結紮していない)ASK1ノックアウトおよび対照WTマウスでは、左室拡張末期径、収縮末期径、および、左室内径短縮率のいずれについても、著しい変化は認められなかった。左冠動脈結紮の4週間後の対照WTマウスの肺重量および肺と体の重量比(肺/体比)は、対照WTマウスがASK1ノックアウトマウスよりも有意に大きかった(肺重量は、ASK1ノックアウトが、153.3±3.3mgであり、対照WTが、204.5±15.3mgであった。また、肺/体比は、ASK1ノックアウトが、5.63±0.24x10−3であり、対照WTが、7.65±0.53x10−3であった)。

次に、ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスの胸部横行大動脈を緊縛(TAC)処置し、圧負荷を生じさせた。圧負荷に応答して、心臓は、順応性の生理的応答を活性化し、心臓肥大という形をとり、壁のストレスを減少させる。TAC処置したマウスにおいても、1週間後の時点では、心不全の兆候を示すことなく、機能亢進肥大を示すことが知られている。しかしながら、長期に渡るまたは過度の機械的ストレスへの暴露は、心室や心房の拡張および心機能異常という結果を招く。TAC処置による圧負荷後の左室リモデリングにおける、ASK1ノックアウトのインビボにおける生理学的影響を評価した。前記評価のために、心エコー検査法を、前記外科的処置前、前記処置の2週間後、および前記処置の4週間後に、連続的に行った。その結果を下記表3に示し、そのときの経胸壁M−モード超音波心エコー検査図の一例を図1A下段に示す。同図において、ASK1ノックアウトマウスは右欄であり、対照WTマウスは左欄である。また、前記処置4週間後の左室拡張末期径(LVIDd)、左室収縮末期径(LVIDs)および左室内径短縮率(FS)を比較した一例を図1B下段に示す。同図および下記表3に示すとおり、TAC処置1週間後、心臓重量および心臓と体の重量比(心/体重量比)は、ASK1ノックアウトおよび対照WTマウスで、ともに同程度増加した。その時点での筋細胞の切断面領域についても、差異は認められなかった(ASK1ノックアウトが、443±18μmであり、対照WTが、445±15μmであった)。また、前記処置4週間後では、対照WTマウスの左室拡張末期径が、ASK1ノックアウトマウスや偽処置(TAC処置をしていない)マウスに比べて著しく増加した。左室内径短縮率も、ASK1ノックアウトマウスや偽処置マウスに比べて対照WTマウスにおいて著しく減少した。TAC処置4週間後の肺重量および肺/体重量比は、対照WTマウスで著しく増加したが、ASK1ノックアウトマウスでは、増加しなかった。

(組織学的検査)
前記冠動脈結紮処置の4週間後のASK1ノックアウトマウスおよび対照WTマウスの心臓について組織学的検査を行った。その結果の一例を図2の中、上段に示す。同図において、右欄がASK1ノックアウトマウスの心臓であり、左欄が対照WTマウスの心臓である。また、各欄において、左側が、ヘマトキシリン−エオジン(HE)染色した切片であり、右側が、マッソントリクローム染色した切片であり、バーは、5mmを示す。同図が示すように、前記処置の4週間後の対照WTマウスの心臓は、ASK1ノックアウトマウスのそれと比較して明らかに大きかった。また、同図からは、対照WTマウスでは、虚血性障害から遠隔の領域の一部が線維性の組織に取って代わられたが、ASK1ノックアウトマウスでは、前記遠隔領域は無傷であることが読み取れた。対照WTマウスの心臓の左室の残存部分において、筋肉間および血管周囲に線維形成が認められたが、ASK1ノックアウトマウスの前記遠隔領域においても、わずかであるが、我々は、血管周囲の線維形成を観察した。
次に、前記TAC処理の4週間後のASK1ノックアウトマウスおよび対照WTマウスの心臓について組織学的検査を行った。その結果の一例を図2の下段に示す。同図において、右欄がASK1ノックアウトマウスの心臓であり、左欄が対照WTマウスの心臓である。また、各欄において、左側が、ヘマトキシリン−エオジン(HE)染色した切片であり、右側が、マッソントリクローム染色した切片である。同図が示すように、前記処置の4週間後の対照WTマウスの心臓の拡張は明らかだったが、ASK1ノックアウトマウスにおいては、心室や心房の拡張が起こらなかった。また、前記両マウスにおいては、血管周囲の線維形成と同様に、筋肉間の線維形成が、分散して観察され、その線維形成の程度は、前記両マウスの心臓で同様であった。
(機械的ストレス)
心筋リモデリングの主要な刺激は、機械的な過負荷であるため、冠動脈結紮またはTAC処置後における対照WTおよびASK1ノックアウトマウスの心臓にかかる機械的ストレスの程度を評価した。
心筋梗塞モデルでは、残存する心筋に課せられる機械的負荷は、二重積(double product)として推定される。LV収縮圧も心拍も、冠動脈結紮後1週間では、ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスとで有意な差は認められなかった(収縮期圧は、ASK1ノックアウトが、110.2±6.0mmHgであって、対照WTが、108.2±2.8mmHgであった。心拍は、ASK1ノックアウトが、582±10/minであって、対照WTが、559±24/minであった)。さらに、梗塞のサイズは、冠動脈結紮直後に調べた両方のマウスにおいて同様であり、ASK1ノックアウトマウスの平均は、51.3±5.7%であり、対照WTの平均が、49.1±4.9%であった。したがって、ASK1除去による表現型は、側副血行の発達と関係する可能性が低いことが示唆された。
TAC処置により産生される機械的ストレスは、TACから7日後、狭窄を横切る圧力の傾斜をインビボで測定することで推定できる。その測定の結果、TAC処置は2つの頚動脈間の圧力傾斜を著しく増加させたが、ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスとで有意な差は認められなかった(ASK1ノックアウトが、55.5±5.7mmHgであり、対照WTが、57.3±4.6mmHgであった)。
(左室リモデリングにおけるアポトーシス)
左室リモデリング中に心筋細胞で増加するアポトーシスに対するASK1除去の効果を評価した。冠動脈結紮またはTAC処置後にアポトーシスが誘導された心筋細胞の数えるために、TUNELアッセイを利用した。ASK1ノックアウトマウスと対照WTマウスとで比較した結果の一例を図3に示す。図3Aのグラフは、冠動脈結紮処置から1週または4週後の境界領域および遠隔領域(左2パネル)、ならびにTAC処理から1週または4週後の心筋(右パネル)におけるTUNEL陽性細胞の相対数の一例を示す。同図に示すように、冠動脈結紮処置では、1週間および4週間後で、梗塞の境界領域においても、虚血障害の領域から遠隔の心筋においても、TUNEL陽性細胞の数、すなわち、アポトーシス細胞の数は、ASK1ノックアウトマウスにおいてよりも、対照WTマウスにおいて著しく増加した。また、TAC処置後のTUNEL陽性細胞は、左室壁に偏在しており、その数は、ASK1ノックアウトマウスよりも、対照WTマウスにおいて著しく増加した。
前記TUNEL陽性細胞が心筋細胞であることは、三重染色により確認した。その結果の一例を図3Bに示す。同図に示すとおり、TUNEL染色は緑色に見え、抗a−サルコメア抗体およびヨウ化プロピジウム染色は赤色に見える。したがって両図を重ねた場合に黄色に見えれば心筋細胞であると確認できる。
(ASK1タンパク質の活性化によるアポトーシスの誘導)
ASK1タンパク質が、心筋細胞においてアポトーシスを誘導できることを確認するために、新生児の心筋細胞を分離し、恒常的に活性な変異型のASK1タンパク質(AdASK(ΔN))またはβガラクトシダーゼ(AdLacZ)を発現するアデノウイルスを、細胞あたりのプラーク形成単位が100の感染多重度で感染させた。その結果を図4に示す。図4Aは、前記ウイルスを感染させた0日目の生存数に対するパーセントで表した細胞生存率のグラフである。図4Aに示すとおり、活性変異型のASK1タンパク質の過剰発現は、生存細胞数の減少を引き起こした。一方、βガラクトシダーゼを発現させても、生存細胞数の減少は見られなかった。図4Bは、前記ウイルス感染48時間後の細胞をHoechst染色した顕微鏡写真である。図4Bに示すとおり、活性変異型のASK1タンパク質の過剰発現させてHoechst33258染色すると、様々な程度の凝縮核クロマチンや、断片化した核が観察された。一方、βガラクトシダーゼを発現させても、そのようなことは観察されなかった。また、前記感染多重度を10にして前記変異型ASK1タンパク質を発現させると、心筋細胞は肥大した。
(Hが誘導するアポトーシスにおけるASK1の必要性)
次に、Hが誘導するアポトーシスにおけるASK1の必要性を、ASK1ノックアウトマウス(ASK−/−)および対照WTマウスの新生児の心筋細胞を用いて確かめた。前記心筋細胞を、様々な濃度のHとともに24時間培養し、MMTアッセイにより生存細胞数を測定し、前記心筋細胞の生存率(%)を求めた。その結果を図4Cに示す。図4Cに示すとおり、Hに対する耐性は、ASK−/−の心筋細胞のほうが、WTの心筋細胞よりも優れていた。また、前記心筋細胞を10μMのHで24時間処理した後、Hoechst染色して顕微鏡観察した写真を図4Dに示す。図4Dに示すとおり、観察された核の形態から、Hによりアポトーシスが誘導されたことが確認された。
(冠動脈結紮処置およびTAC処置後におけるASK1タンパク質の活性化)
リモデリング中におけるASK1タンパク質の活性を確認した。冠動脈結紮処置後またはTAC処置後の心臓について、ASK1タンパク質の活性を測定した。その結果を図5Aに示す。図5Aは、His−MKK6を基質に使用した免疫複合体アッセイの測定結果であって、上段のパネルが、冠動脈結紮処置の2日および1週間後のASK1タンパク質の活性化を示し、下段のパネルが、TAC処置の2日および1週間後のASK1タンパク質の活性化を示す。前記上段パネルでは、心筋ホモジネートは、処置および未処置のASK1ノックアウトマウス、ならびに、未処置、偽処置および処置の2日および1週間後のWTマウスより抽出した心筋ホモジネートを使用した。前記下段パネルでは、心筋ホモジネートは、処置の2日および1週間後のASK1ノックアウトマウス、ならびに、偽処置および処置の2日および1週間後のWTマウスより抽出した心筋ホモジネートを使用した。図5Aに示すとおり、WTマウスの心臓において、冠動脈結紮処置後およびTAC処置後にASK1タンパク質が著しく活性化されることが確認された。しかしながら、ASK1ノックアウトマウスでは、有意なASK1の活性化が認められなかった。
また、リモデリング中、ASK1タンパク質の下流に存在するJNKやp38の活性を評価するため、各々のリン酸化状態をウエスタンブロット法を用いて測定した。その結果を図5Bに示す。図5Bは、冠動脈結紮処置後(左側)またはTAC処置後(右側)の、ASK1ノックアウトマウスおよびWTマウスの心臓細胞のJNKおよびp38に対するのウエスタンブロットの結果の一例を示す図である。同図に示すとおり、WTマウスの心臓において、冠動脈結紮処置後およびTAC処置後に、JNKやp38の活性化が認められた。一方、ASK1ノックアウトマウスの心臓では、p38の活性化は、WTマウスと同程度に観察されたが、JNK活性化は、有意に抑制されていた。従って、リモデリングにおいては、JNKが、ASK1の下流因子として重要な働きを果たしていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
慢性心不全は、先進国では主要な死亡原因の一つである。また、急性冠動脈疾患が、CCU(冠動脈疾患集中治療)や冠動脈形成術の発展によって克服されてきていることが、心筋梗塞後の心不全発症を増加させている。さらに、心不全患者は、高血圧症群にも多い。本発明は、例えば、このように非常に大きな需要が見込まれる心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬の分野や心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法の分野で有用である。

【図2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬であって、心筋細胞におけるASK1タンパク質の機能発現を阻害する化合物を有効成分とする医薬。
【請求項2】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬であって、ASK1タンパク質が誘導する心筋細胞のアポトーシスを抑制する化合物を有効成分とする医薬。
【請求項3】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬であって、Daxx、TRAF2、カルモジュリン依存性リン酸化酵素II、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、JNKおよびp38 MAPKからなる群から選択される少なくとも1つを阻害する化合物を有効成分とする医薬。
【請求項4】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬であって、心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害する化合物、心筋細胞におけるASK1 mRNAの翻訳を阻害する化合物、および心筋細胞におけるASK1遺伝子の転写を阻害する化合物からなる群から選択される少なくとも一種類以上の化合物を有効成分とする医薬。
【請求項5】
前記心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性を阻害する化合物が、ASK1タンパク質のドミナントネガティブ変異体、抗ASK1抗体、チオレドキシンからなる群から選択されるの少なくとも一種類である請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
前記心筋細胞におけるASK1 mRNAの翻訳を阻害する化合物が、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、およびRNA干渉のためのRNAから選択される少なくとも一種類である請求項4に記載の医薬。
【請求項7】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1タンパク質の機能発現の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項8】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1タンパク質が誘導するアポトーシスの抑制を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項9】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1タンパク質のキナーゼ活性に対する活性阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項10】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1タンパク質の自己リン酸化の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項11】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1遺伝子の転写翻訳の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項12】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1タンパク質を活性化する因子の活性阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項13】
前記ASK1タンパク質を活性化する因子が、Daxx、TRAF2およびカルモジュリン依存性リン酸化酵素IIからなる群から選択される少なくとも1つである請求項12に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬のスクリーニング方法であって、ASK1タンパク質により活性化される因子の阻害を指標として、薬剤候補化合物から、心不全の予防および治療の少なくとも一方のための医薬成分を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項15】
前記ASK1タンパク質により活性化される因子が、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、JNKおよびp38 MAPKからなる群から選択される少なくとも1つである請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法であって、心筋細胞におけるASK1タンパク質の機能発現を阻害することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法。
【請求項17】
心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法であって、ASK1タンパク質が誘導する心筋細胞のアポトーシスを抑制することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法。
【請求項18】
心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法であって、心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性、心筋細胞におけるASK1タンパク質の自己リン酸化、および心筋細胞におけるASK1遺伝子の転写翻訳の少なくとも一つを阻害することを含む予防および治療の少なくとも一方の方法。
【請求項19】
心不全の予防および治療の少なくとも一方の方法であって、請求項1から6のいずれかに記載の予防および治療の少なくとも一方のための医薬を、薬学上許容される有効量投与すること含む予防および治療の少なくとも一方の方法。
【請求項20】
心不全の診断方法であって、心筋細胞におけるASK1タンパク質のキナーゼ活性または自己リン酸化能を測定する工程を含む診断方法。

【国際公開番号】WO2005/009470
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512123(P2005−512123)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011124
【国際出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】