説明

Al基合金スパッタリングターゲット

【課題】スパッタリングの初期段階で発生する問題(スプラッシュの個数の増加や、成膜された薄膜の電気抵抗の上昇)を解消でき、プリスパッタ時間を短縮可能なAl基合金スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、スパッタ面の算術平均粗さRaが1.50μm以下、および最大高さRzが10μm以下であり、且つ、粗さ曲線における中心線から山頂または谷底までの高さが(0.25×Rz)を超えるピーク高さをそれぞれ、PまたはQとし、基準長さ100mmに亘って、PおよびQを順次カウントしたとき、Pと、その直後に現れるQと、その直後に現れるPとの間の平均間隔Lが0.4mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al基合金スパッタリングターゲットに関し、詳細には、スパッタリングターゲットを用いて薄膜を成膜する際、スパッタリングの初期段階で発生する問題(例えばスプラッシュの個数の増加や、成膜された薄膜の電気抵抗の上昇など)を解消でき、プリスパッタリング時間を短縮することが可能なAl基合金スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Alは、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD:Electro Luminescence Display)、フィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)、メムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)、タッチパネル、電子ペーパーなどの分野で汎用されており、配線膜、電極膜、反射電極膜などの材料に利用されている。
【0003】
例えば、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)、導電性酸化膜から構成される画素電極、および走査線や信号線を含む配線を有するTFT基板を備えている。走査線や信号線を構成する配線材料には、一般に、純AlやAl−Nd合金のAl基合金膜が用いられている。
【0004】
ところで、Al基合金膜の形成には、一般にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が採用されている。スパッタリング法とは、基板と、薄膜材料と同一の材料から構成されるスパッタリングターゲット(ターゲット材)との間でプラズマ放電を形成し、プラズマ放電によってイオン化させた気体をターゲット材に衝突させることによってターゲット材の原子をたたき出し、基板上に堆積させて薄膜を作製する方法である。スパッタリング法は、真空蒸着法とは異なり、ターゲット材と同じ組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。特に、スパッタリング法で成膜されたAl合金膜は、平衡状態では固溶しないNdなどの合金元素を固溶させることができ、薄膜として優れた性能を発揮することから、工業的に有効な薄膜作製方法であり、その原料となるスパッタリングターゲット材の開発が進められている。
【0005】
上記スパッタリング法に用いられるAl基合金スパッタリングターゲットは、例えばスプレイフォーミング法や溶解鋳造法などによって製造される。スパッタリングの初期には、プリスパッタと呼ばれる作業が一般に行なわれる。このプリスパッタは、スパッタリングターゲットの使用初期にスパッタリングターゲット表面の汚れ等に起因してスパッタリングが安定せず、結果として形成される薄膜の特性も安定しないため、汚れ等を除去するなどの目的で行なわれる。例えば、Al基合金スパッタリングターゲットを用いて薄膜を成膜する際、スパッタリングの初期段階では、スプラッシュ(微細な溶融粒子)が多く発生したり、成膜された配線薄膜の電気抵抗が上昇するなどの不具合が見られ、現場では、これらが安定するまでプリスパッタを行なっている。しかし、プリスパッタ時間の増加は、生産性の低下をもたらす。
【0006】
スプラッシュの低減方法として、例えば特許文献1には、硬さをビッカース硬さ(Hv)で25以下に制御したAl基合金スパッタリングターゲットが開示されている。
【0007】
また、Al基合金スパッタリングターゲットを対象とするものではないが、スプラッシュ現象に基づく塊状の異物の発生を低減する方法として、特許文献2には、スパッタ面の最大高さRyが10μm以下のMo−W合金スパッタリングターゲットが開示されている。また、スプラッシュ現象の原因となる異常放電は隣り合う凸部間で発生しやすいことから、スパッタ面に存在する深さ5μm以上の凹部の幅を、粗さ曲線の局部山頂の間隔として好ましくは70μm以上に制御することも開示されている。
【0008】
また、Al基合金スパッタリングターゲットを対象とするものではないが、特許文献3には、スパッタリングの最中に発生するパーティクル(微細な粉塵)を低減させるため、スパッタされる面を所定の曲率を有する凹面とすると共に、当該スパッタ面に対して鏡面加工を施してその算術平均粗さRaが0.01μm以下に制御されたTiスパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3410278号公報
【特許文献2】特開2001−316808号公報
【特許文献3】特開平10−158828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、スパッタリングの初期段階で発生する問題(スプラッシュの個数の増加や、成膜された配線薄膜の電気抵抗の上昇)を解消でき、プリスパッタ時間を短縮することができる新規なAl基合金スパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできた本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、スパッタ面の表面粗さをJIS B0601(2001)に規定の方法で測定したとき、算術平均粗さRaが1.50μm以下、および最大高さRzが10μm以下であり、且つ、粗さ曲線における中心線から山頂または谷底までの高さが(0.25×Rz)を超えるピーク高さをそれぞれ、PまたはQとし、基準長さ100mmに亘って、PおよびQを順次カウントしたとき、Pと、その直後に現れるQと、その直後に現れるPとの間の間隔Lの平均値が0.4mm以上であるところに要旨を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、スパッタ面の表面粗さだけでなく、L値で表わされるピーク間隔の平均値(周期)が長くなるように制御されているため、スパッタリングターゲットの使用初期段階で発生するスプラッシュや、当該スパッタリングターゲットで成膜された薄膜の電気抵抗を、速やかに所定レベルまで低減することができる。よって、本発明のスパッタリングターゲットを用いれば、上記のスプラッシュや薄膜電気抵抗が安定化するまで実施されるプリスパッタ時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明で規定するL値(ピーク間隔)を説明するための模式図である。
【図2】図2(a)は、実施例1における試料No.7(比較例)のスパッタ面の表面粗さ曲線を、図2(b)は、実施例1における試料No.2(本発明例)のスパッタ面の表面粗さ曲線を、それぞれ、示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、スパッタリングターゲットの使用初期段階で発生するスプラッシュ(初期スプラッシュ)や、当該スパッタリングターゲットで成膜された薄膜の電気抵抗の上昇といった問題を解消でき、プリスパッタ時間を短縮することが可能なAl基合金スパッタリングターゲットを提供するため、検討を重ねてきた。その結果、スパッタリング面の表面粗さ(本発明では、RaおよびRz)を適切に制御するだけでなく、L値で表わされるピーク間隔の平均値が長くなるように制御されたAl基合金スパッタリングターゲットを用いれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、スパッタ面の表面粗さをJIS B0601(2001)に規定の方法で測定したとき、算術平均粗さRaが1.50μm以下、および最大高さRzが10μm以下であり、且つ、粗さ曲線における中心線から山頂または谷底までの高さが(0.5×Rz)を超えるピーク高さをそれぞれ、PまたはQとし、基準長さ100mmに亘って、PおよびQを順次カウントしたとき、Pと、その直後に現れるQと、その直後に現れるPとの間の間隔Lの平均値が0.4mm以上であるところに特徴がある。
【0016】
まず、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、算術平均粗さRaが1.50μm以下、および最大高さRzが10μm以下に制御されている。Raを1.50μm以下、Rzを10μm以下に制御することにより、初期スプラッシュの個数および成膜された薄膜の電気抵抗が共に一定レベルまで低減化(安定化)するまでのプリスパッタ時間を短縮することができる(後記する実施例を参照)。好ましいRaおよびRzの上限は、Ra:1.0μm、Rz:8.0μmであり、より好ましいRaおよびRzの上限は、Ra:0.8μm、Rz:6.0μmである。なお、RaおよびRzの下限は、上記観点からは特に限定されず、小さいほど良いが、機械加工や研磨加工での精度などを考慮すると、おおむね、Ra:0.1μm、Rz:1.0μmであることが好ましい。
【0017】
更に本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、L値で表わされるピーク間隔の平均値が0.4mm以上に制御されているところに特徴がある。後記する実施例に示すように、RaおよびRzを制御しただけでは所望の特性は得られず、これらの3つの要件をすべて兼ね備えたときにのみ、初期スプラッシュおよび薄膜電気抵抗の低減の両方を速やかに実現することができ、プリスパッタ時間を短縮することができる。
【0018】
本発明を最も特徴付けるL値について、図1を参照しながら説明する。図1は、スパッタリングターゲットのスパッタ面について、JIS B0601(2001)に規定の方法で測定したときの粗さ曲線の概略を示す図である。L値は、任意に基準長さ100mmの粗さ曲線をとり、以下のようにして算出したときの値である。粗さ曲線の中心線を挟んで山方向の頂点を山頂(山のピーク)、谷方向の底点を谷底(谷のピーク)と呼び、本発明では、中心線+(0.25×Rz)の位置を超える山頂をP、中心線−(0.25×Rz)を超える谷底をQとする。
【0019】
まず、図1(a)を参照する。上記図の粗さ曲線において、基準長さは100mmであり、Hは、中心線±(0.25×Rz)の位置を示している。(中心線+H)を上回る山頂(山のピーク)をP、(中心線−H)を下回る谷底(谷のピーク)をQとしたとき、図1(a)では、最左側から順に、P1、Q1、P2、Q2、P3、・・・となる。本発明において、ピーク間隔L値は、P1→Q1→P2の間の距離であり、詳細には、P1、Q1、P2の各点から中心線に向って垂線を引いたときの交点(p1、q1、p2)をとったとき、p1−q1−p2の間の距離である。基準長さ100mmに亘って、上記のようにしてピーク間隔L値を求め、その平均値を算出する。同様の操作を、粗さ曲線の任意の3箇所について行い、その平均値を算出し、L値の平均値を得る。
【0020】
上記の図1(a)は、(中心線±H)の位置を超えるPおよびQが、交互に順番に連続して形成された例であるが、粗さ曲線は、例えば図1(b)に示すように、PとQの間に、Hの位置を超えない山頂や谷底が存在する場合がある。この場合のL値の算出方法は以下のとおりである。以下では、Hの位置を超えない山頂をP’、Hの位置を超えない谷底をQ’で表わす。
【0021】
図1(b)を参照すると、最左側から順に、Hの位置を超える山頂P1と、Hの位置を超える山頂P2と、Hの位置を超えない山頂P’1と、Hの地位を越えない谷底Q’1と、Hの位置を超える山頂P3と、Hの地位を越える谷底Q1と、Hの位置を超える山頂P4が、連続して形成されている。この場合、ピーク間隔L値は、P1→Q1→P4の間の距離となる。
【0022】
図1(b)では、P1の次にP2が現れるが、Hを超える山頂が2回連続して表れた場合のP2は無視される。本発明では、山頂→谷底→山頂の順序が重視される。また、本発明では、Hを超えない山頂(P’)や、Hを超えない谷底(Q’)が表れても、無視される。本発明者らの基礎実験によれば、上記のようにして定義されたピーク間隔が、初期スプラッシュの速やかな低減化および薄膜電気抵抗の速やかな低減化と、密接な相関関係を有することが判明したからである。
【0023】
このようにして算出されるL値の平均値は、大きい程良く、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上である。ただし、L値の平均値を大きくするためには、機械加工や表面研磨加工に費やされる加工時間が長くなりすぎるため、好ましい上限を2.0mmであり、より好ましくは1.0mmとする。
【0024】
本発明において、L値の平均値を上記のように制御することによってスプラッシュの低減や成膜された薄膜電気抵抗の低下が速やかに実現できる理由は詳細には不明であるが、ピーク間隔が広くなって周期が長くなることにより、スパッタリングターゲットの表面積が少なくなるため、表面に存在するAl酸化層が少なくなり、その結果、成膜された薄膜中の酸素量も少なくなることが主な要因と推察される。薄膜中の酸素量は、プリスパッタの回数や時間に大きな影響を及ぼすと考えられるが、本発明によれば、この酸素量の低減により、スプラッシュや成膜後の薄膜電気抵抗が速やかに低下したものと思われる。
【0025】
以上、本発明を特徴付ける表面粗さとピーク間隔の平均値について説明した。
【0026】
更に本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、ビッカース硬度(Hv)が26以上であることが好ましい。例えば前述した特許文献3では、Hvを25以下とすることによってスプラッシュの発生を低減しているのに対し、本発明では、逆にHvを26以上(おおむね、26〜50Hv程度)に制御することによって、前述した表面粗さやL値の平均値を容易に制御でき、スプラッシュなどの発生を低減できる。その理由は詳細には不明であるが、特許文献2では、加工性に乏しいMo合金を対象としているのに対し、本発明では以下に詳述するように純Al、または合金元素の添加量が約2.0原子%程度と非常に少ない加工性に富むAl合金を実質的に対象としており、このようなマトリックスの合金の組成の違いが、硬度の差になって表れたのではないかと推察される。
【0027】
本発明に用いられるAl基合金は、純Alのほか、配線薄膜用Al基合金スパッタリングターゲットとして汎用されているNdなどの元素を含むAl−Nd合金;バリアメタル層を介さずに画素電極を構成する導電性酸化膜と直接接触することが可能なダイレクトコンタクト技術を提供するためのAl−Ni合金や、NdやYなどの希土類元素を更に含有するAl−Ni−希土類元素合金などが挙げられる。NdやNi、Yなどの合金元素の量(合計量)は、おおむね2.0原子%以下であることが好ましい。純AlおよびAl合金には、不可避不純物として、例えば、製造過程などで不可避的に混入する元素、例えば、Fe、Si、Cu、C、O、Nなどが含まれる。
【0028】
次に、本発明のスパッタリングターゲットを製造する方法を説明する。
【0029】
本発明で規定する表面粗さおよびL値の平均値は、常法によって所定の形状に加工した後、スパッタ面の仕上げ加工である機械加工の条件、更には必要に応じて、当該機械加工と共に行なわれる表面研磨加工の条件を適切に制御することによって実現することができる。機械加工は、代表的にはフライス盤を用いたフライス加工が行なわれるが、回転数を約2500〜4500rpm(より好ましくは3000〜4000rpm)、切り込み量を0.02〜0.2mm程度(より好ましくは0.05〜0.15mm)、送り速度を約400〜1800mm/min(より好ましくは約600〜1000mm/min)に制御することが好ましい。
【0030】
また、表面研磨加工は、上記の機械加工の後に必要に応じて行なわれるが、所望の表面性状が容易に得られるように、適切な粒度の砥石などを用いて研磨することが好ましい。具体的には、砥石の粒度番号(砥粒)が概ね200〜1200の砥粒を塗布した不織布などを用いて所望の性状になるまで研削することが好ましい。より好ましい砥粒の下限は、概ね400である。本発明では、おおよそ800前後の砥粒を用いて研磨することが最も好ましい。なお、砥石の粒度(砥粒)は、砥粒番号が大きくなるほど、砥粒は細かくなる。
【0031】
本発明では、上記のように機械加工、あるいは表面研磨加工を適切に制御することによって表面性状を制御したところに特徴があり、それ以外の製造工程は特に限定されず、Al基合金スパッタリングターゲットの製造に通常用いられる工程を採用することができる。具体的には、公知のスプレイフォーミング法や溶解鋳造法などを採用することができる。本発明に用いられるスプレイフォーミング法は特に限定されないが、例えば特開2009−35766号公報、特開2008−240141号公報、特開2008−127623号公報、特開2007−247006号公報、特開2005−82855号公報などの記載を参照することができる。製造コスト低減のため、溶解鋳造法を採用することが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0033】
実施例1
表1に示す組成のAl基合金(残部:Alおよび不可避不純物)を用意し、以下の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0034】
このうちAl−Nd合金は、不活性ガス雰囲気中のチャンバー内でAl合金溶湯流に高圧の不活性ガスを吹き付けて噴霧化し、半溶融状態・半凝固状態・固相状態に急冷させた粒子を堆積させ、所定形状の素形材(プリフォーム)を得るスプレイフォーミング法を用いて鋳塊を製造し、熱処理、熱間加工(圧延)を行った。また、純Alは、厚み100mmの鋳塊をDC鋳造法によって造塊した後、400℃で4時間均熱処理し、次いで室温にて圧下量75%で冷間加工した後、200℃で熱処理し、室温にて圧下量40%で冷間圧延した。
【0035】
次に、このようにして得られたAl−Nd合金および純Alの圧延板を切断し、表1に示す加工条件で、圧延板の表面を機械加工、または機械加工および表面研磨加工を行ってスパッタリングターゲットの各試料を得た。
【0036】
このようにして得られた試料を用い、表面粗さによる算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Rz)の測定を行った。上記算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Rz)の測定は、ミツトヨ製表面粗さ測定器 SJ−301を使用して測定した。評価長さは100mmとした。更に、前述した方法に基づき、L値の平均値を算出した。
【0037】
また、上記スパッタリングターゲットの各試料を用いて薄膜を成膜し、薄膜が所定の条件を満たすまでのプリスパッタ時間を評価した。
【0038】
具体的には、DCマグネトロンスパッタリング法により、プリスパッタとスパッタリングでの成膜を行った。プリスパッタ時は、ターゲットと基板の間にシャッター挿入して基板に成膜されないようにし、スパッタリング時は、シャッターを開けて基板上に成膜を行なった。プリスパッタ条件およびスパッタリング条件の詳細は、以下の通りであり、スパッタリングパワーが異なること以外は同じである。
【0039】
スパッタリング装置(共通)
:株式会社島津製作所製「スパッタリングシステムHSR−542S」
プリスパッタ条件
背圧:0.43×10-3Pa以下
Arガス圧:0.67Pa
スパッタリングパワー:800W
スパッタリング条件
背圧:0.43×10-3Pa以下
Arガス圧:0.67Pa
スパッタリングパワー:300W
極間距離:100mm
基板温度:室温
基板:ガラス基板(サイズ:直径6インチ)
【0040】
詳細には、上記スパッタリングターゲットの各試料を用い、上記条件でプリスパッタを5分行なった後、上記条件でスパッタリングを行なって薄膜を成膜する(膜厚300nm)操作を1セットとして繰り返して行い、(1)スプラッシュ個数が基準値以下となるまでのプリスパッタ時間、および(2)成膜した薄膜の電気抵抗(配線抵抗)が、定常値に対して+15%以下になるまでのプリスパッタ時間をそれぞれ、以下のようにして測定した。
【0041】
(1)スプラッシュ個数が基準値以下となるまでのプリスパッタ時間の評価方法
上記スパッタリング条件で成膜された薄膜に対し、発生したスプラッシュ(初期スプラッシュ)の個数を以下の条件で測定した。
【0042】
パーティクルカウンター(株式会社トプコン製:ウェーハ表面検査装置WM−3)を用い、上記薄膜の表面に認められたパーティクルの位置座標、サイズ(平均粒径)、および個数を計測した。ここでは、サイズが3μm以上のものをパーティクルとみなした。その後、この薄膜表面を光学顕微鏡観察(倍率:1000倍)し、形状が半球形のものをスプラッシュとみなし、単位面積当たりのスプラッシュの個数を計測した。本実施例では、このようにして得られた初期スプラッシュの発生数が8個/cm2以下となるまでプリスパッタおよびスパッタリングを繰り返して行った。本実施例では、初期スプラッシュの発生数が8個/cm2以下となるまでのプリスパッタ時間が60分以下となる試料を合格とした。
【0043】
(2)薄膜の電気抵抗が、定常値に対して+15%以下になるまでのプリスパッタ時間の測定方法
上記スパッタリング条件で成膜された薄膜に対し、実工程で受ける熱履歴を想定して320℃で30分間保持する熱処理を行った後、線幅100μmのストライプパターン形状に加工し、ウェットエッチングにより線幅100μm、線長10mmの配線抗測定用パターン状に加工した。ウェットエッチングにはH3PO4:HNO3:H2O=75:5:20の混合液を用いた。このパターン状に加工した薄膜について、4探針法により比抵抗値を室温にて測定した。
【0044】
このようにして得られる比抵抗値が、定常値(Al−2.0原子%Nd合金では4.6μΩ・cm、純Alでは3.2μΩ・cm)に対して+15%以下になるまでプリスパッタおよびスパッタリングを繰り返して行った。本実施例では、比抵抗値が定常値+15%以下になるまでのプリスパッタ時間が60分以下となる試料を合格とした。
【0045】
これらの測定結果を表1に示す。
【0046】
また、参考のため、図2(a)に、試料No.7(比較例)のスパッタリング面の表面粗さ曲線を、図2(b)に、試料No.2(本発明例)のスパッタリング面の表面粗さ曲線を、それぞれ示す。
【0047】
【表1】

【0048】
まず、本発明の推奨条件で加工を行った試料No.1〜6は、表面性状(Ra、Rz、ピーク間隔Lの平均値)が適切に制御されているため、純AlスパッタリングターゲットおよびAl−Nd合金スパッタリングターゲットのいずれを用いた場合でも、スプラッシュ個数が低減するまでのプリスパッタ時間、および電気抵抗が安定化するまでのプリスパッタ時間の両方を短縮することができた。
【0049】
これに対し、表1のNo.7は、Al−Nd合金スパッタリングターゲットを用いてフライス加工のみを行った例であり、フライス加工時の回転数が高すぎるため、Ra、Rz、ピーク間隔Lの平均値がすべて、本発明の範囲を外れており、スプラッシュ個数が低減するまでのプリスパッタ時間、および電気抵抗が安定化するまでのプリスパッタ時間の両方が長くなった。
【0050】
表1のNo.8およびNo.9は、純Alスパッタリングターゲットを用いてフライス加工(No.8)、フライス加工と表面研磨加工の両方(No.9)を行った例である。このうちNo.8は、フライス加工時の回転数が高すぎるため、RaおよびRzは良好であるが、ピーク間隔Lの平均値が短くなり、薄膜の電気抵抗が安定化するまでのプリスパッタ時間が長くなった。No.9は、フライス加工条件は適切であるが表面研磨加工時の砥粒が粗すぎるため、ピーク間隔Lの平均値は良好であるが、RaおよびRzは大きくなり、スプラッシュ個数が低減するまでのプリスパッタ時間が長くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ面の表面粗さをJIS B0601(2001)に規定の方法で測定したとき算術平均粗さRaが1.50μm以下、および最大高さRzが10μm以下であり、且つ、
粗さ曲線における中心線から山頂または谷底までの高さが(0.25×Rz)を超えるピーク高さをそれぞれ、PまたはQとし、基準長さ100mmに亘って、PおよびQを順次カウントしたとき、Pと、その直後に現れるQと、その直後に現れるPとの間の間隔Lの平均値が0.4mm以上であることを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−127189(P2011−127189A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287650(P2009−287650)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】