説明

AlGaNバルク結晶の製造方法およびAlGaN基板の製造方法

【課題】大きな厚みを有し、かつ高品質のAlGaNバルク結晶を製造するAlGaNバルク結晶の製造方法を提供する。高品質なAlGaN基板を製造するAlGaN基板の製造方法を提供する。
【解決手段】AlGaNバルク結晶の製造方法は、以下の工程を備えている。まず、AlaGa(1-a)N(0<a≦1)よりなる下地基板が準備される。そして、下地基板上に、主表面を有し、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなるバルク結晶が成長される。下地基板のAlの組成比aは、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きい。AlGaN基板の製造方法は、バルク結晶から1枚以上のAlbGa(1-b)Nよりなる基板を切り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlGaNバルク結晶の製造方法およびAlGaN基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlxGa(1-x)N(0<x<1)(AlGaNとも言う)結晶は、発光素子、電子素子、および半導体センサなどの半導体デバイスを形成するための材料として非常に有用である。
【0003】
このようなAlGaN結晶の成長方法として、たとえば、下地基板を用いない自然核生成により成長する方法と、下地基板を用いて成長する方法とが挙げられる。自然核生成による成長では、大きなAlGaN結晶を安定して成長することが困難であった。
【0004】
下地基板を用いてAlGaN結晶を成長させる方法は、たとえば特開2004−331453号公報(特許文献1)などに開示されている。特許文献1には、下地基板として、シリコン(Si)、サファイア(Al23)、SiC(炭化珪素)、ZnB2(ホウ化ジルコニウム)またはIII−V族化合物が用いられていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−331453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように下地基板を用いてAlGaN結晶を成長させる場合に、以下の問題があることを本発明者は見出した。
【0007】
すなわち、低温でAlGaN結晶を成長させると、結晶欠陥である転位等が高密度にAlGaN結晶中に存在したり、成長表面に大きな凹凸が形成されてAlGaN結晶が不均一になるなど、AlGaN結晶の品質が低下するという問題があることを本発明者は見出した。
【0008】
AlGaN結晶の品質を向上するために高温(たとえば1200℃以上)でAlGaN結晶を成長すると、下地基板の裏面側から気化分解するため、大きな厚みのAlGaN結晶を成長することができないという問題を本発明者は見出した。AlGaN結晶の厚みが小さい場合には、このAlGaN結晶からAlGaN基板を切り出すことができない、または少ない枚数のAlGaN基板しか切り出せないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その一の目的は、大きな厚みを有し、かつ高品質のAlGaNバルク結晶を製造するAlGaNバルク結晶の製造方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、高品質なAlGaN基板を製造するAlGaN基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のAlGaNバルク結晶の製造方法は、以下の工程を備えている。まず、AlaGa(1-a)N(0<a≦1)よりなる下地基板が準備される。そして、下地基板上に、主表面を有し、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなるバルク結晶が成長される。下地基板のAlの組成比aは、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きい。
【0012】
本発明者は鋭意研究の結果、結晶中のAlの組成比が高いほど、結晶の分解温度が高くなることを見出した。このため、本発明では、下地基板のAlaGa(1-a)N(0<a≦1)のAlの組成比aは、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなるバルク結晶のAlの組成比bよりも大きい。これにより、凹凸の形成が抑制されたバルク結晶を成長させるために要する温度でバルク結晶を成長させても、下地基板の気化分解を抑制することができる。このため、高温で長時間、バルク結晶を成長することができる。したがって、成長表面に形成される凹凸を抑制し、かつ大きな厚みのバルク結晶を成長することができる。
【0013】
また、バルク結晶のAlの組成比bは、下地基板のAlの組成比aよりも小さい。Alの組成比が小さいほど、格子定数は大きい。下地基板とバルク結晶とが積層された状態では、格子定数の相対的に大きいバルク結晶に合わせるように、格子定数の相対的に小さい下地基板に引張応力が加えられる。このため、バルク結晶に引張応力が加えられることを抑制することができるので、クラック、欠陥、転位などが生じることを抑制することができる。したがって、バルク結晶の結晶性を向上することができる。
【0014】
以上より、下地基板のAlの組成比aをバルク結晶のAlの組成比bよりも大きくすることにより、大きな厚みを有し、かつ高品質のAlGaNバルク結晶を製造することができる。
【0015】
上記AlGaN結晶の製造方法において好ましくは、成長させる工程では、1mm以上の厚みを有するバルク結晶を成長させる。
【0016】
このように、本発明のAlGaNバルク結晶の製造方法によれば、下地基板の分解を抑制することができるので、1mm以上の大きな厚みを有するAlGaNバルク結晶を製造することができる。
【0017】
上記AlGaNバルク結晶の製造方法において好ましくは、上記成長させる工程は、下地基板上に3族元素が拡散された第1の層を成長する工程と、第1の層上に、AlbGa(1-b)Nよるなる第2の層を成長する工程とを含んでいる。
【0018】
高温でバルク結晶を成長させると、下地基板を構成する3族元素が拡散するので、バルク結晶において下地基板側に位置する第1の層は、この3族元素を含む。このため、このような第1の層を形成するということは、高温でバルク結晶を成長させていることであるので、第2の層の成長表面に生じる凹凸をより効果的に抑制することができる。したがって、バルク結晶の品質をより向上することができる。
【0019】
上記AlGaNバルク結晶の製造方法において好ましくは、上記成長させる工程では、下地基板側から主表面に向けてAlの濃度が低くなるバルク結晶を成長している。
【0020】
これにより、成長表面に向けて加えられる引張応力をより抑制することができるので、成長表面に向けてより高品質なAlGaN結晶を製造することができる。
【0021】
上記AlGaNバルク結晶の製造方法において好ましくは、成長させる工程では、1650℃以上でバルク結晶を成長させる。
【0022】
本発明では、1650℃以上の高温で成長させても下地基板の分解を抑制することができる。これにより、1650℃以上の高温でバルク結晶を成長させると、成長表面に形成される凹凸をより抑制することができる。
【0023】
上記AlGaNバルク結晶の製造方法において好ましくは、成長させる工程では、主表面がc面、a面またはm面のいずれかになるようにバルク結晶を成長させる。これにより、このバルク結晶を用いて高性能な半導体素子を製造することができる。
【0024】
上記AlGaNバルク結晶の製造方法において好ましくは、成長させる工程後に、少なくとも下地基板を除去する工程をさらに備えている。これにより、下地基板が除去されたバルク結晶を製造することができる。
【0025】
本発明のAlGaN基板の製造方法は、上記いずれかに記載のAlGaNバルク結晶の製造方法によりAlGaNバルク結晶を製造する工程と、バルク結晶から1枚以上のAlbGa(1-b)N基板を切り出す工程とを備えている。
【0026】
本発明のAlGaN基板の製造方法によれば、本発明のAlGaNバルク結晶の製造方法で製造される高品質で厚みの大きなAlGaN結晶を用いている。このため、高品質なAlGaN基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のAlGaNバルク結晶の製造方法によれば、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きいAlの組成比aを有する下地基板を用いているので、大きな厚みを有し、かつ高品質のAlGaNバルク結晶を製造することができる。
【0028】
また、本発明のAlGaN基板の製造方法によれば、上記AlGaNバルク結晶を用いているので、高品質なAlGaN基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1におけるAlGaNバルク結晶を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるAlGaNバルク結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1における下地基板を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるAlGaNバルク結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における別のAlGaNバルク結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における下地基板を除去した状態を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるAlGaN基板を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2におけるAlGaN基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態2におけるAlGaNバルク結晶からAlGaN基板を切り出した状態を概略的に示す断面図である。
【図10】実施例において、第1の層の有無を確認する方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶を概略的に示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶10について説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶10は、AlbGa(1-b)N(0<b<1)である。このAlGaNバルク結晶10は主表面10aを有している。この主表面10aは、たとえば{1000}面(c面)、{11−20}面(a面)または{1−100}面(m面)のいずれかであることが好ましい。なお、{}は、集合面を示し、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0033】
AlGaNバルク結晶10は、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下、より一層好ましくは5×105cm-2以下の転位密度を有している。この場合、このAlGaNバルク結晶より形成されたAlGaN基板20を用いてデバイスを作製したときに、デバイスの特性を向上することができる。なお、転位密度は、たとえば溶融KOH(水酸化カリウム)中のエッチングによりできるピットの個数を数えて、単位面積で割るという方法によって測定することができる。
【0034】
AlGaNバルク結晶10は、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、より一層好ましくは4mm以上の厚みH10を有している。この厚みH10以上であれば、AlGaNバルク結晶10からAlGaN基板をより多く製造することができるので、製造するAlGaN基板の1枚当たりに要するコストを低減することができる。またAlGaNバルク結晶10の厚膜化により転位などの欠陥をより低減して、高品質なAlGaNバルク結晶10を得ることができる。
【0035】
図2は、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶の製造方法を示すフローチャートである。図2を参照して、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶の製造方法について説明する。
【0036】
図3は、本実施の形態における下地基板を概略的に示す断面図である。図2および図3に示すように、まず、AlaGa(1-a)N(0<a≦1)よりなる下地基板11を準備する(ステップS1)。ステップS1で準備した下地基板11のAlの組成比aは、後述するステップS2で成長させるAlGaNバルク結晶12のAlの組成比bよりも大きい。なお、下地基板11およびAlGaNバルク結晶12のAlの組成比a、bとは、Alのモル比である。
【0037】
下地基板11中のAlの組成比aが高いほど、下地基板11を構成する結晶の分解温度が高くなる。このため、後述するステップS2で、高温でAlGaNバルク結晶を成長させても、下地基板11の分解を抑制することができるので、厚みの大きなAlGaNバルク結晶を成長することができる。この下地基板11のAlの組成比aは、気化分解がされにくい観点から、大きいことが好ましく、たとえば組成比aは0.8以上であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0038】
また、このステップS1では、たとえば2インチ以上の大きさの主表面11aを有する下地基板11を準備することが好ましい。これにより、大口径のAlGaNバルク結晶を成長させることができる。
【0039】
図4は、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図4に示すように、下地基板11上に、主表面12aを有し、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなるAlGaNバルク結晶12を成長させる(ステップS2)。このステップS2で成長させるAlGaNバルク結晶12のAlの組成比bは、ステップS1で準備した下地基板11のAlの組成比aよりも小さい。つまり、下地基板11のAlの組成比aと、AlGaNバルク結晶12のAlの組成比bとは、a>bの関係が成立している。下地基板11のAlの組成比aと、AlGaNバルク結晶12のAlの組成比bとは、a>b>0.5aの関係が成立することが好ましく、0.7a≧b≧0.125aの関係が成立することがより好ましい。この場合、下地基板11の分解をより抑制でき、かつ高品質のAlGaNバルク結晶12を成長することができる。
【0040】
このステップS2では、成長表面(主表面12a)に形成される凹凸を抑制したAlGaNバルク結晶12を成長させるために要する高温でAlGaNバルク結晶12を成長させる。このような高温でAlGaNバルク結晶12を成長させても、本実施の形態では下地基板11のAlの組成比aが大きいため、下地基板11の分解を抑制することができる。したがって、成長表面に形成される凹凸を抑制し、かつ大きな厚みのAlGaNバルク結晶12を成長することができる。
【0041】
このような高温として、好ましくは1650℃以上、より好ましくは1650℃以上1800℃以下で、AlGaNバルク結晶12を成長させる。1650℃以上の場合、AlGaNバルク結晶12の成長表面である主表面12aを非常に平坦にすることができる。1800℃以下の場合、下地基板11の分解を効果的に抑制することができるので、厚みH12を大きくできる。なお、上記成長させる温度は、たとえば下地基板11の温度を意味する。
【0042】
また、大きな厚みとして、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、より一層好ましくは4mm以上の厚みH12を有するAlGaNバルク結晶12を成長する。厚みH12の上限は特にないが、容易に製造できる観点から、たとえば50mm以下である。
【0043】
また、このステップS2では、AlGaNバルク結晶12のAlの組成比bは、下地基板11のAlの組成比aよりも小さい。Alの組成比a、bが小さいほど、格子定数は大きい。下地基板11とAlGaNバルク結晶12とが積層された状態では、格子定数の相対的に小さい下地基板11には、格子定数の相対的に大きいAlGaNバルク結晶12に合わせるように引張応力が加えられる。このため、AlGaNバルク結晶12には、引張応力が加えられることを抑制することができるので、クラック、欠陥、転位などがAlGaNバルク結晶12に生じることを抑制することができる。したがって、AlGaNバルク結晶12の結晶性を向上することができる。
【0044】
このようなAlGaNバルク結晶12の結晶性の指標の1つである転位密度として、好ましくは1×108cm-2以下、より好ましくは1×107cm-2以下、更に好ましくは1×106cm-2以下、最も好ましくは5×105cm-2以下である。本実施の形態では、AlGaNバルク結晶12のAlの組成比bが下地基板11のAlの組成比aよりも小さいため、上記の転位密度を有するAlGaNバルク結晶12を成長することができる。
【0045】
成長表面に向けて加えられる引張応力をより抑制することにより転位密度をさらに低減するために、下地基板11側(裏面12b)から成長表面(主表面12a)に向けてAlの濃度が低くなるAlGaNバルク結晶12を成長することができる。つまり、AlGaNバルク結晶12のAl組成比bは一定である場合に限定されず、成長表面に向けて単調減少している。なお、単調減少とは、下地基板11側の裏面12bから成長表面である主表面12aに向けて(成長方向に向けて)、組成比bが常に、同じまたは減少しており、かつ裏面12bよりも主表面12aの方が組成比bが低いことを意味する。つまり、単調減少とは、成長方向に向けて組成比bが増加している部分が含まれていない。
【0046】
また成長させるステップS2では、好ましくは30μm/hr以上、より好ましくは100μm/hr以上180μm/hr以下の成長速度でAlGaNバルク結晶12を成長させる。上記のように高温でAlGaNバルク結晶12を成長することができるので、このように成長速度を向上することができる。このため、製造効率を向上してAlGaNバルク結晶12を製造することができる。
【0047】
成長させるステップS2では、主表面12aがc面、a面またはm面のいずれかになるようにAlGaNバルク結晶12を成長させることが好ましい。この場合、このAlGaNバルク結晶12を用いて高性能な半導体素子を製造することができる。
【0048】
AlGaNバルク結晶12の成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相堆積)法などの気相成長法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などを採用することができる。このステップS2では、非常に高温で成長させることができる観点から、昇華法が好適に用いられる。
【0049】
図5は、本実施の形態における別のAlGaNバルク結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。図5に示すように、成長させるステップS2では、下地基板11上に3族元素が拡散された第1の層13を成長させる工程と、第1の層13上に、AlbGa(1-b)Nよるなる第2の層14を成長させる工程とを含んでいてもよい。詳細には、AlGaNバルク結晶12において、第1の層13はAlを多く含んでおり、第2の層14はGaを多く含んでいる。第1の層13において、下地基板11側はAlを相対的に多く含んでおり、第2の層14との界面側はGaを相対的に多く含んでいる。このような第1および第2の層13、14の界面は、たとえばSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)により測定することができる。
【0050】
高温でAlGaNバルク結晶12を成長させると、下地基板11を構成する3族元素(Al元素、または、Al元素およびGa元素)が拡散するので、AlGaNバルク結晶12において下地基板11側に位置する第1の層13は、この3族元素を含む。このため、このような第1の層13を形成するということは、AlGaNバルク結晶12を高温で成長させていることである。このため、第2の層14の成長表面に生じる凹凸をより効果的に抑制することができる。このような高温の成長温度とは、たとえば1650℃以上である。したがって、AlGaNバルク結晶12の主表面12a側の品質をより向上することができる。
【0051】
なお、図5では、AlGaNバルク結晶12が2層の場合を例に挙げて説明したが、AlGaNバルク結晶12は3層以上含んでいてもよい。
【0052】
図6は、本実施の形態における下地基板を除去した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図6に示すように、少なくとも下地基板11を除去する(ステップS3)。なお、このステップS3は除去されてもよい。
【0053】
切り出す方法は特に限定されないが、たとえば切断やへき開などにより、下地基板11とAlGaNバルク結晶12とが積層された状態から、AlGaNバルク結晶12のみ(本実施の形態ではAlGaNバルク結晶10)になるように切り出す。下地基板11とAlGaNバルク結晶12とが積層された状態から、下地基板11のみを除去してもよく、AlGaNバルク結晶12において下地基板11との界面側の面(裏面12b)を含む一部をさらに除去してもよい。裏面12bを含む一部をさらに除去する場合には、AlGaNバルク結晶12は単結晶からなるので、容易に分割することができる。
【0054】
なお、切断とは、電着ダイヤモンドホイールの外周刃を持つスライサーなどで機械的に少なくとも下地基板11を除去することをいう。へき開とは、結晶格子面に沿って少なくとも下地基板11を除去することをいう。
【0055】
また、下地基板11を除去するステップS3では、主表面10aがc面、a面またはm面のいずれかになるようにAlGaNバルク結晶10を切り出すことが好ましい。主表面10aがc面、a面またはm面のいずれかになるようにAlGaNバルク結晶12を成長させた場合には、AlGaNバルク結晶12の主表面12aと平行に切り出すことで、AlGaNバルク結晶12と同じ面方位の主表面10aを有するAlGaNバルク結晶10を製造することができる。
【0056】
上記ステップS1〜S3を実施することによって、図1に示すAlGaNバルク結晶10を製造することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶10、12の製造方法によれば、下地基板11のAlの組成比aは、AlGaNバルク結晶12のAlの組成比bよりも大きい。
【0058】
本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶10、12の製造方法によれば、Alの組成比が大きいほど分解が抑制されるので、成長表面(主表面12a)に形成される凹凸が抑制された状態でAlGaNバルク結晶12を成長させるために要する温度でAlGaNバルク結晶12を成長させても、下地基板11の分解を抑制することができる。したがって、成長表面に形成される凹凸を抑制し、かつ大きな厚みH10、H12のAlGaNバルク結晶10、12を製造することができる。
【0059】
また、Alの組成比が小さいほど格子定数は大きいので、下地基板11とAlGaNバルク結晶12とが積層された状態では、格子定数の相対的に大きいAlGaNバルク結晶12には、引張応力が加えられることが抑制される。したがって、クラック、欠陥などがAlGaNバルク結晶12に導入されることを抑制しやすいので、高品質なAlGaNバルク結晶10、12を製造することができる。
【0060】
さらに、従来のように低温でAlGaNバルク結晶を成長させると、原料に含まれる、または原料より生成されるAl23、Ga23(酸化ガリウム)などがAlGaNバルク結晶12に取り込まれる。この場合、AlGaNバルク結晶10、12にピットなどが形成され、多結晶になることが多い。しかし、本実施の形態では、高温で下地基板11の分解を抑制することができるので、Al23、Ga23などが分解されるので、AlGaNバルク結晶12にそのまま取り込まれることを抑制することができる。したがって、多結晶の発生を抑制することができるので、高品質なAlGaNバルク結晶10、12を製造することができる。
【0061】
よって、下地基板11のAlの組成比aをAlGaNバルク結晶12のAlの組成比bよりも大きくすることにより、大きな厚みH10、H12を有し、かつ高品質のAlGaNバルク結晶10、12を再現性よく安定して製造することができる。
【0062】
(実施の形態2)
図7は、本実施の形態におけるAlGaN基板を概略的に示す断面図である。図7を参照して、本実施の形態におけるAlGaN基板について説明する。
【0063】
図7に示すように、本実施の形態におけるAlGaN基板20は、実施の形態1におけるAlGaNバルク結晶10、12を用いて形成されている。つまり、AlGaN基板20は、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなっている。
【0064】
AlGaN基板20は主表面20aを有し、主表面20aはc面、a面またはm面のいずれかであることが好ましい。
【0065】
図8は、本実施の形態におけるAlGaN基板の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図8を参照して、本実施の形態におけるAlGaN基板の製造方法について説明する。
【0066】
図8に示すように、まず、実施の形態1のAlGaNバルク結晶の製造方法により、AlGaNバルク結晶10、12を製造する(ステップS1〜S3)。このステップS1〜S3は、実施の形態1とほぼ同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0067】
図9は、本実施の形態におけるAlGaNバルク結晶からAlGaN基板を切り出した状態を概略的に示す断面図である。図8および図9に示すように、次に、AlGaNバルク結晶10、12から1枚以上のAlGaN基板20を切り出す(ステップS4)。このステップS4で切り出したAlGaN基板20は、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなっている。
【0068】
このステップS4では、1枚以上のAlGaN基板20を切り出せばよいが、複数枚のAlGaN基板20を切り出すことが好ましい。実施の形態1では、厚みH10、H12の大きなAlGaNバルク結晶10、12を製造しているので、複数枚のAlGaN基板20を切り出すことは容易である。
【0069】
切り出す方法は特に限定されないが、切断やへき開などにより、AlGaNバルク結晶10、12からAlGaN基板20へ分割することができる。
【0070】
上記ステップS1〜S4を実施することによって、図7に示すAlGaN基板20を製造することができる。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態におけるAlGaN基板20の製造方法によれば、実施の形態1のバルク結晶10、12から1枚以上のAlGaN基板20を切り出している(ステップS4)。
【0072】
本実施の形態におけるAlGaN基板20の製造方法によれば、AlGaNバルク結晶10、12が高品質であるため、高品質なAlGaN基板20を製造することができる。
【0073】
またAlGaNバルク結晶10、12の厚みH10、H12が大きいので、実施の形態1のバルク結晶10、12から複数枚のAlGaN基板20を切り出すことが好ましい。この場合、AlGaN基板20の1枚当たりの製造コストを低減することができる。
【0074】
以上より本実施の形態により製造されたAlGaN基板20は、たとえば発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)などの電子素子、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device;表面弾性波素子)、振動子、共振子、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部品、圧電アクチュエータ等のデバイス用の基板などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0075】
本実施例では、下地基板のAlの組成比aが、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きいことによる効果について調べた。
【0076】
(実施例1〜4)
実施例1〜4のAlGaNバルク結晶は、上述した実施の形態1におけるAlGaNバルク結晶の製造方法に従って製造した。
【0077】
具体的には、まず、AlaGa(1-a)N(0<a≦1)よりなる下地基板を準備した(ステップS1)。Alの組成比aは下記の表1の通りとした。下地基板の主表面はc面であった。
【0078】
次に、下地基板上に、主表面を有し、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなるバルク結晶を成長させた(ステップS2)。実施例1〜4では、下記の表1に記載のように、バルク結晶のAlの組成比bは、下地基板のAlの組成比aよりも小さくした。なお、バルク結晶の主表面の組成比b、成長方法および成長温度は下記の表1の通りとした。バルク結晶の主表面はc面であった。
【0079】
以上のステップS1、S2により、実施例1〜4のAlbGa(1-b)Nバルク結晶を製造した。
【0080】
(比較例1、2)
比較例1、2は、基本的には実施例2と同様にバルク結晶を製造したが、バルク結晶のAlの組成比b(b=0.5)は、下地基板のAlの組成比a(a=0)よりも大きくした点において異なっていた。このため、比較例1、2では、実施例2よりも成長温度を低くして、AlbGa(1-b)Nバルク結晶を製造した。
【0081】
(実施例5〜8、比較例3、4)
実施例5〜8、比較例3、4のAlbGa(1-b)Nバルク結晶の製造方法は、基本的には実施例1〜4、比較例1、2のAlbGa(1-b)Nバルク結晶とそれぞれ同様の構成を備えていたが、主表面がm面の下地基板を用いて、主表面がm面になるようにバルク結晶を製造した点においてそれぞれ異なっていた。
【0082】
(実施例9〜12、比較例5、6)
実施例9〜12、比較例5、6のAlbGa(1-b)Nバルク結晶の製造方法は、基本的には実施例1〜4、比較例1、2のAlbGa(1-b)Nバルク結晶とそれぞれ同様の構成を備えていたが、主表面がa面の下地基板を用いて、主表面がa面になるようにバルク結晶を製造した点においてぞれぞれ異なっていた。
【0083】
(測定方法)
実施例1〜12および比較例1〜6のAlGaNバルク結晶について、厚み、成長速度、第1の層の有無および転位密度について調べた。その結果を下記の表1〜3に示す。
【0084】
厚みは、下地基板との界面(裏面)から成長表面(主表面)における凹部(すなわち、厚みの最も小さい部分)を測定した。
【0085】
成長速度は、各々の厚みのAlGaNバルク結晶を成長させるために要した時間から算出した。
【0086】
第1の層の有無は、以下のように確認した。まず、AlGaNバルク結晶の成長方向(図10における矢印12c)に沿って各々切断した。この断面の濃度をSIMSにより測定して、3族元素が拡散された第1の層の有無を観察した。なお、図10は、第1の層の有無を確認する方法を説明するための断面図である。
【0087】
転位密度の測定は、以下のように測定した。まず、KOH:NaOH(水酸化ナトリウム)を1:1の割合で白金坩堝中で250℃で溶融させた融液中に、各々のAlGaNバルク結晶を30分間浸漬してエッチングを行った。その後、各々のAlGaNバルク結晶を洗浄して、顕微鏡にて表面に発生したエッチピットの単位面積当たりの個数をカウントした。このように測定した転位密度について、1×104cm-2以上5×105cm-2以下の場合をA、5×105cm-2超えて1×107cm-2以下の場合をB、1×107cm-2超えて1×108cm-2以下の場合をC、1×108cm-2超えた場合をD、測定できなかった場合をEとした。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
(評価結果)
表1〜3に示すように、下地基板のAlの組成比aがAlGaNバルク結晶のAlの組成比bよりも大きかった実施例1〜12のAlGaNバルク結晶は、1mm以上の大きな厚みを有し、1×108cm-2以下の低い転位密度を有していた。このことから、実施例1〜12では、厚みが大きく、かつ高品質なAlGaNバルク結晶を成長できたことがわかった。また、高い温度でバルク結晶を成長させたため、30μm/hr以上の大きな成長速度で実施例1〜12のバルク結晶を成長することができた。また、実施例1〜3、5〜7、9〜11では、3族元素であるAl元素およびGa元素の少なくとも一方が拡散した第1の層が形成されていた。
【0092】
特に、下地基板がAlNで、昇華法によりAl0.7Ga0.3Nバルク結晶を成長させた実施例1、5、9は、1800℃の高温で成長させることができた。このため、実施例1のAlGaNバルク結晶は、1×104cm-2以上5×105cm-2以下の低い転位密度を有していた。さらに、高温でバルク結晶を成長させたにも関わらず、4mmの厚みを大きな有したバルク結晶を成長することができた。
【0093】
一方、GaNよりなる下地基板(Alの組成比aが0)上にAl0.5Ga0.5Nバルク結晶(Alの組成比bが0.5)を成長させた比較例1〜6は、下地基板のAlの組成比aがバルク結晶のAlの組成比bよりも小さかった。このため、下地基板の分解を抑制するために1000℃の低い温度でバルク結晶を成長させた比較例1、3、5では、表面の凹凸が大きく、実質的な厚みである主表面における凹部の厚みは0.2mmと小さかった。また成長させたバルク結晶の格子定数が下地基板の格子定数よりも小さかったので、バルク結晶に引張応力が加えられたため、1×108cm-2超える高い転位密度となった。また低温で成長させたため、成長速度は低かった。
【0094】
また、比較例1、3、5よりも高温でAlGaNバルク結晶を成長させた比較例2、4、6は、実施例1〜12より低い温度であったにも関わらず、下地基板が消失してしまった。このため、AlGaNバルク結晶を成長させることができなかった。
【0095】
以上より、本実施例によれば、下地基板のAlの組成比aを、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きくすることにより、大きな厚みを有し、かつ高品質のAlGaNバルク結晶を製造することができることが確認できた。また、主表面がc面、a面またはm面のいずれかになるようにAlGaNバルク結晶を製造することができることが確認できた。
【0096】
次に、実施例1〜12において、成長後のAlGaNバルク結晶を、ワイヤーソーによりスライス加工し、それぞれ下地基板を除去し、AlGaNバルク結晶を得た。
【0097】
また、実施例1〜12において、成長させたAlGaNバルク結晶から、ワイヤーソーによりスライス加工し、それぞれ4枚のAlGaN基板を切り出した。
【0098】
一方、比較例1、3、5は、厚みが小さかったので、複数のAlGaN基板を切り出すことはできなかった。また、比較例2、4、6は、AlGaNバルク結晶を製造できなかったので、下地基板を除去することもできず、AlGaN基板を製造することもできなかった。
【0099】
以上より、本実施例によれば、下地基板のAlの組成比aを、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きくすることにより、大きな厚みを有し、かつ高品質であって、かつ下地基板を除去したAlGaNバルク結晶を製造できることが確認できた。また、下地基板のAlの組成比aを、バルク結晶のAlの組成比bよりも大きくすることにより、大きな厚みを有するAlGaNバルク結晶を製造できたので、このAlGaNバルク結晶から複数枚のAlGaN基板を切り出すことができることが確認できた。
【0100】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
10,12 AlGaNバルク結晶、10a,11a,12a,20a 主表面、11 下地基板、12b 裏面、12c 矢印、13 第1の層、14 第2の層、20 AlGaN基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlaGa(1-a)N(0<a≦1)よりなる下地基板を準備する工程と、
前記下地基板上に、主表面を有し、AlbGa(1-b)N(0<b<1)よりなるバルク結晶を成長させる工程とを備え、
前記下地基板のAlの組成比aは、前記バルク結晶のAlの組成比bよりも大きい、AlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項2】
前記成長させる工程では、1mm以上の厚みを有する前記バルク結晶を成長させる、請求項1に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項3】
前記成長させる工程は、
前記下地基板上に3族元素が拡散された第1の層を成長させる工程と、
前記第1の層上に、前記AlbGa(1-b)Nよるなる第2の層を成長させる工程とを含む、請求項1または2に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項4】
前記成長させる工程では、前記下地基板側から前記主表面に向けてAlの濃度が低くなる前記バルク結晶を成長する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項5】
前記成長させる工程では、1650℃以上で前記バルク結晶を成長させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項6】
前記成長させる工程では、前記主表面がc面、a面またはm面のいずれかになるように前記バルク結晶を成長させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項7】
前記成長させる工程後に、少なくとも前記下地基板を除去する工程をさらに備えた、請求項1〜6のいずれか1項に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のAlGaNバルク結晶の製造方法によりAlGaNバルク結晶を製造する工程と、
前記バルク結晶から1枚以上の前記AlbGa(1-b)Nよりなる基板を切り出す工程とを備えた、AlGaN基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−42981(P2010−42981A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164877(P2009−164877)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】