説明

AlN単結晶の成長方法およびAlN単結晶

【課題】高純度のAlN単結晶を成長させることができるとともにAlN単結晶の成長ごとの成長速度のばらつきを低減することができるAlN単結晶の成長方法およびその方法により得られたAlN単結晶を提供する。
【解決手段】成長室3の内部に設置したAlN多結晶原料11を加熱して昇華させ、成長室3の内部の種結晶12の表面上にAlN単結晶を成長させるAlN単結晶の成長方法において、成長室3の内部のAlN多結晶原料11の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも成長室の外部の窒素分圧を高くし、成長室3の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部4を成長室3に設けるとともに、遷移金属および炭素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを生成するガス生成室を成長室3とは別に設けてガス生成室を成長室3に連結させ、ガス生成室からのガスを成長室3に導入しながらAlN単結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAlN単結晶の成長方法およびAlN単結晶に関し、特に、高純度のAlN単結晶を成長させることができるとともにAlN単結晶の成長ごとの成長速度のばらつきを低減することができるAlN単結晶の成長方法およびその方法により得られたAlN単結晶に関する。
【0002】
また、本発明はAlN単結晶の成長方法およびAlN単結晶に関し、特に、AlN単結晶中に遷移金属および/または炭素を混入する場合においてAlN単結晶の成長ごとにAlN単結晶中に混入される遷移金属量および/または炭素量のばらつきを低減することができるAlN単結晶の成長方法およびその方法により得られたAlN単結晶に関する。
【背景技術】
【0003】
III族窒化物結晶の中でもAlN(窒化アルミニウム)単結晶は、6.2eVの広いエネルギバンドギャップ、高い熱伝導率および高い電気抵抗を有しているため、種々の光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス用の基板材料として注目されている。
【0004】
一般に、AlN単結晶は昇華法によって成長させられる。昇華法は、たとえば以下のようにして行なわれる。まず、反応管内部に設置された坩堝内部の成長室の内部にAlN多結晶原料と種結晶とを互いに向かい合うようにして設置し、AlN多結晶原料が昇華する温度までAlN多結晶原料を加熱する。この加熱により、AlN多結晶原料が昇華して昇華ガスが生成される。昇華ガスは低温に設定されている種結晶の表面と接触し、種結晶の表面上にAlN単結晶が晶出することによってAlN単結晶が成長する。このAlN単結晶の成長の際には、反応管の内部に適当な圧力および流量の窒素ガスが目的に応じて導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5858086号明細書
【特許文献2】特開平10−53495号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Bickermann, B.M.Epelbaum, A.Winnacker, “Characterization of bulk AlN with low oxygen content”, Journal of Crystal Growth, 269, 2004,p.432-442
【非特許文献2】Lianghong Liu,James H.Edgar, “Transport effects in the sublimation growth of aluminum nitride”,Journal of Crystal Growth, 220, 2000, p.243-253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、昇華法に用いられるAlN多結晶原料は、一般に数百ppm以上の酸素不純物を含んでいる。この酸素不純物は、安定なAl23の形態で存在している。Al23はAlNよりも昇華しやすいため、AlN多結晶原料の表面に現れたAl23は速やかに昇華し、成長室の内部の気相雰囲気に酸素ガスが混入する。このように、成長室の内部の気相雰囲気に酸素ガスが混合した場入には、成長したAlN単結晶中に酸素が不純物として取り込まれる。AlN単結晶中に取り込まれた酸素はAlN単結晶の熱伝導率を低下させるため好ましくない(たとえば、非特許文献1参照)。
【0008】
AlN単結晶中に取り込まれる酸素濃度は、雰囲気ガス中の酸素濃度よりも少ない。したがって、AlN多結晶原料から酸素が供給され続けると、成長室の内部の雰囲気ガスの酸素濃度は増大し続ける。すなわち、AlN多結晶原料に含まれている酸素不純物の濃度がたとえ数百ppmであったとしても、AlN単結晶の成長が進行するにつれて、成長室の内部の雰囲気ガスの酸素濃度は桁違いに大きくなってしまう。
【0009】
この成長室の内部の雰囲気ガスの酸素濃度の増大に伴ってAlN単結晶中に取り込まれる酸素の量も増大する。しかしながら、AlN単結晶中に取り込まれる酸素の量が、ある臨界値を超えた場合には、AlN単結晶中に酸素が固溶するのではなく、酸素を含む別の結晶構造を持つ固相が晶出する。このようにAlN単結晶以外の結晶の出現はAlN結晶の多結晶化の核となるので、AlN単結晶を成長させる上では避ける必要がある。
【0010】
たとえば、特許文献1には、AlN単結晶の原料ガスの排出口を種結晶の近傍に配置し、結晶成長界面近傍のガスを排出することによって、成長速度を高め、AlN単結晶の純度を向上させる方法が開示されている(特許文献1のFig.4等参照)。この方法は、原料側から拡散(および対流)によって結晶成長界面近傍に運ばれてきた原料ガスの一部を結晶成長界面で固化させ、残りの一部を外部に排出する方法であり、酸素などの不純物がAlN単結晶中に取り込まれるのを効果的に防止することができる。
【0011】
しかしながら、この方法においては、AlN単結晶の成長速度が原料ガスの排出効率によってばらついてしまうという問題があった。原料ガスの排出効率は排出口の大きさなどで制御することになるが、その制御性は必ずしも高くないため、AlN単結晶の成長ごとにAlN単結晶の成長速度が大きくばらついてしまうという問題があった。このようにAlN単結晶の成長ごとの成長速度が大きくばらついてしまう場合には、AlN単結晶の成長を停止するタイミングを把握することができないため、AlN単結晶の製造プロセスに大きな支障をきたす。
【0012】
また、特許文献2には、遷移金属の酸化物を混入させたAlN多結晶原料を用いて昇華法によりAlN単結晶を成長させ、AlN単結晶中に遷移金属を混入させる方法が開示されている(特許文献2の実施例1参照)。AlN単結晶中に混入した遷移金属はAlN単結晶中の酸素を捕獲し、AlN単結晶中に均一に分布する酸素の量を減らして、酸素の混入によるAlN単結晶の特性の劣化を低減する効果を有する。また、AlN単結晶中に炭素を混入させた場合でもAlN単結晶中に遷移金属を混入させた場合と同様の効果が得られると考えられる。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示された方法を用いてAlN単結晶中に遷移金属および/または炭素を混入させた場合には、AlN単結晶の成長ごとのAlN単結晶中に混入される遷移金属量および/または炭素量のばらつきが大きくなり、遷移金属および/または炭素を所望する量に制御してAlN単結晶中に混入することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、成長室の内部にAlN多結晶原料を設置する工程と、AlN多結晶原料を加熱して昇華させる工程と、成長室の内部の種結晶の表面上にAlN単結晶を成長させる工程と、を含み、成長室の内部のAlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも成長室の外部の窒素分圧を高くし、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部を成長室に設けるとともに、遷移金属および炭素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを生成するガス生成室を成長室とは別に設けてガス生成室を成長室に連結させ、ガス生成室からのガスを成長室に導入しながらAlN単結晶を成長させるAlN単結晶の成長方法であることを特徴とする。
【0015】
ここで、本発明のAlN単結晶の成長方法においては、ガス生成室との連結のために成長室に設けられた開口部が、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部と比べて種結晶から遠い位置にあることが好ましい。
【0016】
また、本発明のAlN単結晶の成長方法においては、ガス生成室の内部に、遷移金属、遷移金属の酸化物および炭素からなる群から選択された少なくとも1種を設置することができる。
【0017】
さらに、本発明は、上記のいずれかのAlN単結晶の成長方法によって成長させたAlN単結晶である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高純度のAlN単結晶を成長させることができるとともにAlN単結晶の成長ごとの成長速度のばらつきを低減することができるAlN単結晶の成長方法およびその方法により得られたAlN単結晶を提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、AlN単結晶中に遷移金属および/または炭素を混入する場合においてAlN単結晶の成長ごとのAlN単結晶中に混入される遷移金属量および/または炭素量のばらつきを低減することができるAlN単結晶の成長方法およびその方法により得られたAlN単結晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のAlN単結晶の成長方法に用いられる装置の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図2】本発明のAlN単結晶の成長方法に用いられる装置の他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図3】従来のAlN単結晶の成長方法に用いられる装置の模式的な断面図である。
【図4】本発明のAlN単結晶の成長方法に用いられる装置のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0022】
本発明のAlN単結晶の成長方法は、成長室の内部にAlN多結晶原料を設置する工程と、AlN多結晶原料を加熱して昇華させる工程と、成長室の内部の種結晶の表面上にAlN単結晶を成長させる工程と、を含み、成長室の内部のAlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも成長室の外部の窒素分圧を高くし、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部を成長室に設けてAlN単結晶を成長させ、開口部は、種結晶よりもAlN多結晶原料に近く、かつ、種結晶を直接見ない位置に設けられていることを特徴としている。
【0023】
従来の特許文献1に開示されている方法のように、AlN単結晶の成長界面近傍から酸素を含むガスを排気する方が高純度のAlN単結晶を得ることができると推測されるが、この排気の影響によってAlN単結晶の成長速度が大きくばらついてしまう。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、本発明のように、開口部を、種結晶よりもAlN多結晶原料に近く、かつ、種結晶を直接見ない位置に設けた場合でも、従来の特許文献1に開示されている方法と同様の高純度のAlN単結晶を得ることができることを見出した。すなわち、上述したように、AlN単結晶の成長が進行するにつれて、AlN単結晶の成長界面近傍の酸素濃度は大きくなる。そのため、AlN単結晶の成長界面近傍にある酸素はAlN多結晶原料側に拡散してくる。したがって、本発明の位置に開口部を設けた場合でも酸素を含むガスの排気が可能になると考えられる。したがって、本発明においては、不純物である酸素を含むガスの排気によって高純度のAlN単結晶を成長させることができるとともに、この排気の影響を受けずにAlN単結晶を成長できるためAlN単結晶の成長ごとの成長速度のばらつきを低減することができるのである。
【0024】
ここで、本発明においては、成長室の内部のAlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも成長室の外部の窒素分圧を高くしてAlN単結晶の成長が行なわれる。
【0025】
なお、本発明において、「成長室の内部のAlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧」は、非特許文献2を参照して以下の式(1)により求めることができる。
【0026】
Al(PN21/2=exp(A−B/T)………(1)
式(1)において、PAlは成長室の内部のアルミニウムガスの分圧を示し、PN2は成長室の内部の窒素ガスの分圧を示している。また、式(1)において、A=27.055であり、B=75788であって、Tは成長室の内部のAlN多結晶原料の温度(K)である。ここで、AlNの化学量論組成はAl:N=2:1であるため、PAl=2PN2として、式(1)からPN2を算出することによって、本発明における「成長室の内部のAlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧」を求めることができる。
【0027】
また、本発明において、開口部は、種結晶よりもAlN多結晶原料に近く、かつ、種結晶を直接見ない位置に設けられている。ここで、本発明において、「種結晶を直接見ない位置」とは、成長室の内部に設置されている種結晶およびAlN多結晶原料をそれぞれ仮定した場合に、成長室の外部から開口部を通して成長室の内部を覗いたとき、たとえば開口部の物理的な位置および/またはAlN多結晶原料の存在などによって、開口部から種結晶を直接見ることができない位置のことをいう。
【0028】
また、開口部は、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とするため、たとえば成長室の壁面の一部を貫通する孔を形成することなどによって設けることができる。
【0029】
また、本発明において、開口部からは、AlN多結晶原料のうち、成長したAlN単結晶の10%以上100%以下の質量が排気されることが好ましい。排気されるAlN多結晶原料の質量が成長したAlN単結晶の質量の10%未満である場合には開口部を設けた効果を十分に得ることができない傾向にあり、100%よりも多い場合には、排気量が多くなりすぎて、排気の開口部を本発明で規定する位置に配しても、種結晶上へのAlN単結晶の成長速度が低下する傾向にある。
【0030】
また、本発明のAlN単結晶の成長方法は、成長室の内部にAlN多結晶原料を設置する工程と、AlN多結晶原料を加熱して昇華させる工程と、成長室の内部の種結晶の表面上にAlN単結晶を成長させる工程と、を含み、成長室の内部のAlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも成長室の外部の窒素分圧を高くし、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部を成長室に設けるとともに、遷移金属および炭素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを生成するガス生成室を成長室とは別に設けてガス生成室を成長室に連結させ、ガス生成室からのガスを成長室に導入しながらAlN単結晶を成長させることを特徴としている。
【0031】
上述したように、従来の特許文献2に開示されている方法を用いてAlN単結晶中に遷移金属および/または炭素を混入させる場合には、AlN単結晶の成長ごとのAlN単結晶中に混入される遷移金属量および/または炭素量のばらつきが大きくなり、遷移金属および/または炭素を所望する量に制御してAlN単結晶中に混入することが困難である。しかしながら、本発明においては、遷移金属および炭素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを生成するガス生成室を成長室とは別に設け、このガス生成室を成長室に連結させ、ガス生成室からのガスを成長室に導入する。これに加えて、成長室の内部のガスの一部を成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部から成長室の外部に排気しながらAlN単結晶を成長させることによって、成長室の内部の遷移金属量および/または炭素量の制御性が格段に向上する。
【0032】
その理由としては、成長室の内部の各ガスの濃度はAlN多結晶原料の表面とガス生成室の内部の局所平衡と、ガス生成室−成長室間、成長室の内部−成長室の外部のガス輸送によって一意に決定されるためと考えられる。ここで、成長室とガス生成室との連結は、たとえば、成長室の一部およびガス生成室の一部にそれぞれ連結のための開口部を設け、これらの開口部を中空の部材などからなる連結部により繋げる方法などにより行なうことができる。また、ガス輸送効率は、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とするために成長室に設けられた開口部の大きさおよび/または形状、ならびにガス生成室と成長室との連結のためにガス生成室および成長室にそれぞれ設けられた開口部のそれぞれの大きさおよび/または形状を適宜設定することにより制御することができる。したがって、成長室の内部における遷移金属および/または炭素を含むガスの濃度は適宜設定することが可能である。なお、本発明に用いられる遷移金属としては、たとえば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCuからなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0033】
また、本発明においては、ガス生成室との連結のために成長室に設けられた開口部が、成長室の内部と外部のガスの交換を可能とするために成長室に設けられた開口部と比べて種結晶から遠い位置にあることが好ましい。この場合には、成長室の内部における遷移金属および/または炭素を含むガスの濃度が高くなりすぎるのを抑制できる傾向にある。
【0034】
また、本発明においては、ガス生成室と成長室とを連結するためにガス生成室および成長室のそれぞれに設けられた開口部を繋ぐ連結部の温度をAlN多結晶原料の温度よりも高くしてAlN単結晶を成長させることが好ましい。
【0035】
なお、本発明においては、成長室の内部に予め種結晶を設置せずにAlN単結晶の成長を開始してもよく、この場合にはAlN単結晶の成長開始の初期段階に成長室の低温部に形成された結晶核を種結晶とみなす。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
図1の模式的断面図に示す装置を用いてAlN単結晶の成長を行なった。この装置は、反応管1と、反応管1の内部に設置されたグラファイト製の坩堝2と、坩堝2の内部に設置された成長室3と、坩堝2の外周に設置されている断熱材6と、反応管1の外周を取り巻く高周波加熱コイル7と、を含んでいる。また、反応管1の上部にはガス排気口9が設けられており、反応管1の下部にはガス導入口8が設けられている。また、反応管1の上部および下部にはそれぞれ放射温度計10が設置されている。さらに、成長室3の下面の一部に開口部4が設けられ、坩堝2の側面の一部に排気孔5が設けられており、開口部4から排気されたガスは成長室3と坩堝2との間に設けられている空間を通過した後、排気孔5を通過し、坩堝2と断熱材6との間に設けられている空間を通して反応管1の内部に放出される。ここで、開口部4は、直径4mmの円形状に形成され、その長さ(成長室3の下壁の厚さ)は3mmであった。
【0037】
この装置の成長室3の上面に種結晶12として直径30mm、厚さ0.25mmおよび面方位(0001)のAlN単結晶を設置し、成長室3の下面上に酸素濃度が500ppmで質量が100gのAlN多結晶原料11を設置した。このとき、開口部4は、種結晶12から見てAlN多結晶原料11の背部に設けられていることになる。したがって、開口部4は、種結晶12よりもAlN多結晶原料11に近い位置に設置されており、開口部4から成長室3の内部を覗いたときAlN多結晶原料11により種結晶12を直接見ることができなかった。
【0038】
ガス導入口8から反応管1の内部に100sccmの窒素ガスを導入しながらガス排気口9から排気し、反応管1の内部の圧力を700torrに保持した。そして、高周波加熱コイル7によって、坩堝2の上面が2100℃、坩堝2の下面が2000℃になるまで加熱してAlN多結晶原料11を昇華させ、その温度で1時間保持した後、坩堝2の上面が2000℃、坩堝2の下面が2100℃になるように坩堝2の位置および加熱パワーを調整して、種結晶12の表面上にAlN単結晶の成長を開始した。ここで、坩堝2の上面および下面の温度はそれぞれ放射温度計10によって測定された。
【0039】
そして、AlN単結晶の成長開始から100時間経過した後、室温まで冷却してAlN単結晶を成長室3から取り出した。ここで、PAl(PN21/2=exp(A−B/T)の式から、成長室3の内部のAlN多結晶原料11の温度が2100℃のときのAlNの化学量論組成の窒素分圧を算出するとPN2=0.024atmになり、成長室3の外部の圧力は700torr(=0.92atm)になるため、成長室3の内部のAlN多結晶原料11の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも成長室3の外部の窒素分圧を高くした状態でAlN単結晶の成長が行なわれたことが確認された。
【0040】
実施例1においては、AlN多結晶原料11の減少量は72gであって、種結晶の表面上に成長したAlN単結晶の質量は54gであった。このことから、成長室3の内部から排気されたガスの質量は18gであることがわかった。また、実施例1で成長させたAlN単結晶を切り出し、AlN単結晶の中央部の酸素濃度を二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定したところ150ppmであった。
【0041】
(比較例1)
図3の模式的断面図に示す装置を用いたこと以外は実施例1と同一の条件でAlN単結晶を成長させた。ここで、図3に示す装置の開口部4は、種結晶12の両隣にそれぞれ設置された。したがって、比較例1において、開口部4はAlN多結晶原料11よりも種結晶12に近い位置に設置されたことになる。また、開口部4は、それぞれ直径2mmの円形状に形成され、それぞれの開口部4の長さ(成長室3の上壁の厚さ)は3mmであった。
【0042】
比較例1においては、AlN多結晶原料11の減少量は70gであって、種結晶の表面上に成長したAlN単結晶の質量は49gであった。このことから、成長室3の内部から排気されたガスの質量は21gであることがわかった。また、比較例1で成長させたAlN単結晶を切り出し、AlN単結晶の中央部の酸素濃度を実施例1と同一の方法で測定したところ140ppmであった。したがって、比較例1と実施例1とでは、AlN単結晶に取り込まれた酸素の量はほとんど変わらないことが確認された。
【0043】
(実施例2)
AlN単結晶の成長ごとの成長速度のばらつきを調べるために、図1に示す装置を用いて実施例1と同一の条件でAlN単結晶を5回成長させ、それぞれのAlN単結晶の成長速度を調べた。その結果を表1に示す。なお、図1に示す反応管1の内部に設置されている坩堝2および成長室3などの部材はAlN単結晶の成長ごとに交換した。
【0044】
表1に示すように、実施例2におけるAlN単結晶の成長速度の平均は0.516(g/h)であって、分散は0.003344であった。
【0045】
(実施例3)
図2の模式的断面図に示す装置を用い、250gの質量のAlN多結晶原料11を用いたこと以外は実施例2と同一にしてAlN単結晶を5回成長させ、それぞれのAlN単結晶の成長速度を調べた。その結果を表1に示す。
【0046】
図2に示す装置において、成長室3は、AlN多結晶原料収容部3aとAlN単結晶成長部3bとから構成されており、AlN多結晶原料収容部3aはAlN単結晶成長部3bよりも容積が大きく設定された。また、開口部4は、AlN多結晶原料収容部3aの両側面に設けられた。したがって、開口部4は、種結晶12よりもAlN多結晶原料11に近い位置にあり、開口部4を通して成長室3の外部から成長室3の内部を覗いた場合でも開口部4の物理的な位置によって種結晶12を直接見ることはできなかった。また、開口部4は、それぞれ直径2mmの円形状に形成されており、それぞれの開口部4の長さ(成長室3の側壁の厚さ)は2mmであった。
【0047】
表1に示すように、実施例3におけるAlN単結晶の成長速度の平均は0.564(g/h)であって、分散は0.001264であった。
【0048】
(比較例2)
図3に示す装置を用いたこと以外は実施例2と同一にしてAlN単結晶を5回成長させ、それぞれのAlN単結晶の成長速度を調べた。その結果を表1に示す。
【0049】
表1に示すように、比較例2におけるAlN単結晶の成長速度の平均は0.456(g/h)であって、分散は0.010384であった。したがって、比較例2においては、実施例2および実施例3よりも分散が大きくなるため、AlN単結晶の成長ごとの成長速度のばらつきが大きくなることが確認された。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例4)
図1に示す装置の開口部4の直径を変えることによって、ガスの排気量を様々に調節してAlN単結晶を成長させた。そして、AlN単結晶の成長ごとに、AlN単結晶の成長速度および酸素濃度を調査した。その結果を表2に示す。ここで、開口部4の直径はAlN単結晶の成長ごとに変化させた。また、AlN単結晶の成長条件はすべての成長において実施例1と同一の条件とし、AlN単結晶中の酸素濃度は実施例1と同一の方法で調査した。また、表2において、排気量(%)の値は、以下の式(2)により算出された。
排気量(%)=100×(AlN多結晶原料の質量の減少量−成長したAlN単結晶の質量)/(成長したAlN単結晶の質量)………(2)
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、AlN多結晶原料のうち、成長したAlN単結晶の質量の10%未満が排気された場合にはAlN単結晶中の酸素濃度が高くなる傾向が認められ、成長したAlN単結晶の質量の100%よりも多く排気された場合にはAlN単結晶中の酸素濃度は多少減少するが、AlN単結晶の成長速度が大きく低下する傾向にあった。また、AlN多結晶原料のうち、成長したAlN単結晶の質量の10%以上100%以下を排気した場合には、酸素濃度が低く高純度のAlN単結晶を大きな成長速度で成長できることがわかった。
【0054】
(実施例5)
図4の模式的断面図に示す装置を用いてAlN単結晶を5回成長させた。図4に示す装置は、成長室3の下方に成長室3とは別に設けられ、成長室3に連結されているガス生成室13を備えていることに特徴がある。
【0055】
ここで、図4に示す装置においては、成長室3の下面にガス生成室13と連結するための開口部15aが設けられ、ガス生成室13の上面に成長室3と連結するための開口部15bが設けられている。そして、これらの開口部15aと開口部15bとは成長室3の下面およびガス生成室13の上面を構成している板状部材の中空部の壁面からなる連結部14により連結されている。また、ガス生成室13の内部には炭素16が設置されており、高周波加熱コイル7を用いてガス生成室13を加熱することにより、ガス生成室13から成長室3の内部に炭素を含むガスを導入しながら種結晶12の表面上にAlN単結晶を成長させた。ここで、AlN単結晶は、成長室3に設けられた開口部15aとガス生成室13に設けられた開口部15bとを連結する連結部14の温度をAlN多結晶原料11の温度よりも高くした状態で成長させた。
【0056】
また、図4に示す装置において、ガス生成室13との連結のために成長室3に設けられた開口部15aは、成長室3の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部4と比べて種結晶12から遠い位置にあった。
【0057】
また、ここでも、開口部4は、種結晶12よりもAlN多結晶原料11に近い位置にあり、開口部4を通して成長室3の外部から成長室3の内部を覗いた場合でも開口部4の物理的な位置によって種結晶12を直接見ることはできなかった。また、開口部4は、それぞれ直径2mmの円形状に形成されており、それぞれの開口部4の長さ(成長室3の側壁の厚さ)は2mmであった。
【0058】
なお、上記以外は、実施例1と同一の方法および同一の条件でAlN単結晶を成長させた。
【0059】
そして、成長させたそれぞれのAlN単結晶中の炭素濃度を不活性ガス融解−赤外検出法により測定したところ、炭素濃度はすべて250±50ppmの範囲内にあり、AlN単結晶の成長ごとのAlN単結晶中の炭素濃度のばらつきが少なく、AlN単結晶中の炭素量が良好に制御できていることが確認された。
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のAlN単結晶の成長方法により得られたAlN単結晶は、たとえば発光素子(発光ダイオード、レーザダイオードなど)、電子素子(整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トタンジスタ、HEMT(高電子移動度トランジスタ)など)、半導体センサ(温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器など)、SAW(表面弾性波)デバイス、加速度センサ、MEMS(マイクロマシン)部品、圧電振動子、共振器または圧電アクチュエータなどの基板として用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 反応管、2 坩堝、3 成長室、3a AlN多結晶原料収容部、3b AlN単結晶成長部、4 開口部、5 排気孔、6 断熱材、7 高周波加熱コイル、8 ガス導入口、9 ガス排気口、10 放射温度計、11 AlN多結晶原料、12 種結晶、13 ガス生成室、14 連結部、15a,15b 開口部、16 炭素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長室の内部にAlN多結晶原料を設置する工程と、前記AlN多結晶原料を加熱して昇華させる工程と、前記成長室の内部の種結晶の表面上にAlN単結晶を成長させる工程と、を含み、
前記成長室の内部の前記AlN多結晶原料の温度におけるAlNの化学量論組成の窒素分圧よりも前記成長室の外部の窒素分圧を高くし、前記成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする開口部を前記成長室に設けるとともに、遷移金属および炭素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを生成するガス生成室を前記成長室とは別に設けて前記ガス生成室を前記成長室に連結させ、
前記ガス生成室からのガスを前記成長室に導入しながらAlN単結晶を成長させることを特徴とする、AlN単結晶の成長方法。
【請求項2】
前記ガス生成室との連結のために前記成長室に設けられた開口部が、前記成長室の内部と外部のガスの交換を可能とする前記開口部と比べて前記種結晶から遠い位置にあることを特徴とする、請求項1に記載のAlN単結晶の成長方法。
【請求項3】
前記ガス生成室の内部には、遷移金属、遷移金属の酸化物および炭素からなる群から選択された少なくとも1種が設置されることを特徴とする、請求項1または2に記載のAlN単結晶の成長方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のAlN単結晶の成長方法によって成長させた、AlN単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−265175(P2010−265175A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172162(P2010−172162)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2005−347648(P2005−347648)の分割
【原出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】