説明

B含有ステンレス鋼の連続鋳造方法

【課題】0.1質量%以上のBを含有するステンレス鋼を連続鋳造により製造する場合に、主に縦割れを防止する。
【解決手段】B含有量が0.1質量%以上のステンレス鋼の連続鋳造方法である。タンディッシュ内の溶鋼過熱度を−15℃〜+30℃、鋳型内溶鋼中における浸漬ノズルの吐出孔の吐出角度を、上向きに−15°〜+25°とする。鋳型内溶鋼の表面に添加するモールドフラックスは、金属または合金からなる発熱剤を含有し、かつ該モールドフラックスの塩基度を1.1〜1.8とする。鋳片表面に向けて噴射する二次冷却水の比水量を0.1リットル/kg〜1.0リットル/kgとして鋳造する。
【効果】0.1質量%以上のBを含有するステンレス鋼の連続鋳造において、縦割れ等の鋳片表面欠陥の少ないB含有ステンレス鋼の連続鋳造鋳片を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片表面欠陥の少ない、0.1質量%以上のBを含有するステンレス鋼、特にフェライト系、オーステナイト系のステンレス鋼を連続鋳造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼にBを添加すると、液相線と固相線との温度差(固液共存温度範囲)が大きくなる。そのため、連続鋳造時、鋳型内の凝固殻は強度が低く、破断しやすくなっている。
【0003】
また、溶鋼中のBは、鋳型内において、モールドフラックス中SiO2と酸化還元反応を起こしてB2O3を生成するため、モールドフラックスの組成が大きく変化する。
これらのことに起因して、B含有ステンレス鋼の連続鋳造では、ブレークアウトの操業事故や、縦割れ、凹み疵(ディプレッション)、かぶれ疵(溶鋼のしみだし)等の鋳片表面欠陥が発生しやすくなる。
【0004】
そこで、B含有ステンレス鋼鋳片の表面欠陥のうちの縦割れを防止する方法として、種々の技術が提案されている。
特許文献1では、鋳造速度を基に、モールドフラックスの融点、オシレーション条件を適正化することにより、鋳型内の潤滑性を維持し、その均一化を図っている。また、二次冷却水量を適正化することにより、冷却中の鋳片に発生する熱応力の緩和を図っている。
【特許文献1】特開平8−309483号公報
【0005】
また、特許文献2では、モールドフラックス中のSiO2を低減することにより、鋳型内溶鋼中のBの酸化に起因するフラックスの組成変化、および物性変化の抑制を図っている。
【特許文献2】特開2002−205153号公報
【0006】
一方、鋳造時における溶鋼温度は、鋳片の品質に影響を及ぼす。
そこで、特許文献3では、連続鋳造中のタンディッシュ内における溶鋼温度を、液相線からの過熱度にして+30℃以下として鋳造することにより、鋳片内部の凝固組織における等軸晶を増加させて、凝固組織中のB型硼化物を均一に分散させ、結果として、その鋳片の熱間加工性を向上させている。
【特許文献3】特開2001−58243号公報
【0007】
また、特許文献4では、B含有SUS304ステンレス鋼を連続鋳造するに際し、タンディッシュ内の溶鋼過熱度を+20℃、二次冷却水量を200リットル/min(二次冷却の比水量に換算すると、0.15〜0.85リットル/kg程度)の条件で連続鋳造した実施例が記載されている。
【特許文献4】特開平9−29391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された発明によっても縦割れを抑制しきれない場合がある。したがって、縦割れの抑制には、これらの発明に考慮されていない鋳造条件も適正に制御する必要がある。
【0009】
また、特許文献3では溶鋼過熱度を規定して熱間加工性の向上を図るとの記載はあるものの、鋳片表面の縦割れ発生に及ぼす影響については、これまで明かではなかった。この鋳片表面の縦割れ発生に及ぼす影響について記載されていないことは、特許文献4も同様である。
【0010】
また、特許文献4の実施例では、モールドパウダーとして粘度が2poiseのものを使用しているが、本願発明が対象とするような凝固殻の脆弱な鋼の鋳造では、この程度の粘度では、鋳片表面品質の劣化やブレークアウトが発生する場合がある。
【0011】
本発明が解決しようとする問題点は、Bを含有するステンレス鋼を連続鋳造により製造する場合、鋳片表面の縦割れ防止について開示された従来技術では、縦割れを抑制しきれない場合があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、B含有ステンレス鋼を様々な条件で連続鋳造する中で、鋳片の表面縦割れの発生と溶鋼過熱度との関係について検討した。その結果、鋳造中におけるタンディッシュ内の溶鋼過熱度が高い場合、縦割れが顕著に発生することを見出した。
【0013】
すなわち、発明者が、溶鋼過熱度を変化させて、鋳片表面縦割れの発生程度について調査したところ、タンディッシュ内の溶鋼過熱度を30℃以下とした場合に、鋳片表面の縦割れを抑制できることを見出した。
【0014】
しかしながら、溶鋼過熱度が10℃以下になると、縦割れが発生しやすくなることがわかった。このままでは、一定時間以上を要する鋳造操業において、溶鋼過熱度を10〜30℃に維持しなければならなくなる。溶製工程における精錬条件や出鋼温度、取鍋の使用履歴や使用前の予熱時間等の条件が個々に変化する操業において、溶鋼温度を常に、この狭い範囲内に制御することは困難である。
【0015】
そこで、発明者は、様々な条件を変化させて鋳造を繰り返し、溶鋼過熱度が10℃以下の場合に発生する縦割れに対する諸条件の影響について検討したところ、鋳型内溶鋼の表面温度を上昇させることにより、その抑制が可能なことを見出した。
そして、その結果、溶鋼過熱度が液相線付近、あるいはそれ以下の温度まで下がっても鋳造が可能で、縦割れを抑制できることがわかった。
【0016】
本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法は、上記の知見に基づいてなされたものであり、
0.1質量%以上のBを含有するステンレス鋼を連続鋳造により製造する場合に、主に縦割れを防止することにより鋳片の表面品質を向上するために、
成分Bの含有量が0.1質量%以上であるステンレス鋼の連続鋳造方法であって、
溶鋼過熱度が−15℃〜+30℃の溶鋼を、浸漬ノズルを介して、上向きに−15°〜+25°の吐出角度で、タンディッシュから鋳型内に注入しつつ、
鋳型内溶鋼の表面に、金属または合金からなる発熱剤を含有し、かつ塩基度(CaOのSiO2に対する質量濃度比)を1.1〜1.8としたモールドフラックスを添加し、
鋳型から引き抜かれる鋳片に対しては、表面に向けて0.1リットル/kg〜1.0リットル/kgの比水量(単位溶鋼質量(kg)当たりに供給する二次冷却水の体積(リットル))で、二次冷却水を噴射することを最も主要な特徴としている。
【0017】
本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法において、溶鋼温度として、タンディッシュ内の溶鋼過熱度を30℃以下とするのは、30℃より高い場合は縦割れが発生しやすくなるからである。鋳造が可能であれば、溶鋼温度はいくら低くても構わないが、溶鋼過熱度が−15℃よりも低くなると、浸漬ノズルが詰まり易くなる。したがって、本発明では、タンディッシュ内の溶鋼過熱度を−15℃〜+30℃とした。
【0018】
また、本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法において、浸漬ノズルの吐出孔の吐出角度が、−15°よりも下向きの場合は、鋳型内溶鋼の表面温度が低下して、溶鋼表面が凝固(皮張り)しやすくなる。また、+25°より上向きの場合は、特に溶鋼流の到達しにくい短辺面付近の溶鋼表面温度が低下し、皮張りしやすくなる。したがって、本発明では、浸漬ノズルの吐出孔の吐出角度を、上向に−15°〜+25°とした。
【0019】
さらに、本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法に使用するモールドフラックスに含有させる発熱剤としては、たとえばCa、Mg、Al、Siなどの金属、あるいはこれらの2種類以上からなる合金を1種類または2種類以上含むものを使用する。
【0020】
発明者の調査結果によれば、前記発熱剤は、合計で2〜20質量%の範囲でモールドフラックスに配合すれば良い。2質量%未満では発熱の効果が小さく鋳型内溶鋼の表面温度が低下するからである。一方、20質量%を超えた場合には、発熱反応が激しく、操業上好ましくないからである。発熱合金の配合量が多い場合は、助燃剤として、酸化鉄を発熱合金に対して0.5〜1.5の比率で配合すると、その発熱反応が効率良く進む。
【0021】
また、本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法に使用するモールドフラックスの塩基度は、1.1未満であると凝固点が1000℃より低くなって鋳型内の凝固が不均一になりやすい。一方、1.8を超えると凝固点が1200℃以上になりやすく、潤滑不良になる。したがって、本発明では、1.1〜1.8の塩基度のモールドフラックスを使用する。
【0022】
また、本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法において、二次冷却水の比水量が0.1リットル/kg未満の場合には連続鋳造機への熱負荷が大きくなる。一方、1.0リットル/kgより大きな場合には、二次冷却の際に縦割れが開口したり、より深くなったりする。したがって、本発明では、二次冷却水の比水量を0.1〜1.0リットル/kgとした。
【0023】
本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法では、SiO2、CaO、F、B2O3を主成分として、その他にNa2O、Al2O3、MgO等を添加したモールドフラックスを使用する。
【0024】
このうち、SiO2の含有量は15質量%〜40質量%とするのが望ましい。15質量%未満では凝固点が高くなって潤滑性が悪化し、また、40質量%を超えると、フィルムの結晶化が十分に進まないからである。
【0025】
また、B2O3の含有量は2質量%〜10質量%とするのが望ましい。2質量%未満ではB2O3濃度を一定にする効果が小さく、また、10質量%を超えると、フィルムの結晶化が十分に進まないからである。
【0026】
また、CaOの含有量は30質量%〜50質量%、Fの含有量は5質量%〜25質量%とするのが望ましい。これらCaOとFの含有量が前記範囲の下限よりも少ないと、凝固殻の緩冷却に必要な結晶の析出量が得られない。一方、上限より大きいと、融点及び粘度が必要以上に低くなって、モールドフラックスの流入量が増大し、冷却に悪影響を及ぼして冷却過多になるからである。
【0027】
また、Na2Oは粘度、融点の調整のために添加し、Al2O3、MgOは原料から混入するもので、これらは、合計の濃度で2〜20質量%とするのが望ましい。2質量%未満にしようとすると、原料費が高くなる一方、20質量%を超えると、フィルムの結晶化が十分に進まないからである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、鋳造条件を適正に制御することで、0.1質量%以上のBを含有するステンレス鋼の連続鋳造において、縦割れ等の鋳片表面欠陥の少ないB含有ステンレス鋼の連続鋳造鋳片を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
下記表1に示す化学成分のB含有ステンレス鋼の溶鋼40トンから、湾曲型連続鋳造機を用いて、幅が1000mmで厚みが150mmのスラブ(鋳片)を、0.5m/分の鋳造速度(一定)で連続的に鋳造した。
【0030】
【表1】

【0031】
その際、溶鋼温度、浸漬ノズル、モールドフラックスの種類、二次冷却比水量を、下記表2に示したように変更した。溶鋼温度は、鋳造開始時のタンディッシュ内溶鋼過熱度を15〜51℃の範囲で変化させた。また、浸漬ノズルは、吐出角度を二条件に変化させた。また、モールドフラックスは、組成および物性、発熱性の有無により、5条件に変化させた。なお、モールドフラックスに含有させた発熱剤は、CaSi合金5質量%+酸化鉄8質量%である。
【0032】
【表2】

【0033】
得られた全4分子の鋳片表面を観察し、その品質を評価した。その結果を、下記表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3の結果より明らかなように、本発明例である条件1および条件2は、40トンの溶鋼を完鋳でき、また縦割れ等の欠陥は殆ど無く、良好な鋳片表面品質が得られた。
【0036】
一方、比較例である条件3では、鋳造開始時は溶鋼温度が本発明の範囲よりも高かったため、鋳造初期から中盤にかけて、長さ300〜1000mm程度の縦割れが連続して発生した。その深さは10mm程度に及んだために手入れが困難であり、結果的に、第1分子および第2分子はスクラップの扱いとなった。
【0037】
また、条件4では、鋳造の終盤において溶鋼過熱度が−15℃よりも低くなり、浸漬ノズルが詰まったために鋳造を中断した。そのため、第3分子までしか鋳造できず、タンディッシュ内に残鋼が生じた。また、溶鋼温度が低いため、鋳造の中盤以降において、長さ10〜150mm程度の縦割れが連続して発生した。但し、その深さは1〜3mm程度であり、手入れは可能であった。
【0038】
また、条件5では、吐出角度が本発明の範囲を外れ、下向きに吐出しすぎたので、鋳型内の溶鋼表面の温度が低く、特に鋳造の終盤では皮張りが生じた。その結果、第2分子以降に10〜150mm程度の縦割れが連続して発生した。特に、第4分子ではその深さが10mm程度に達したため、手入れが困難になり、スクラップになった。
【0039】
また、条件6では、使用したモールドフラックスの塩基度が本発明の範囲よりも小さかったので、不均一凝固による鋳片表面の凹みが著しく、長さ300〜1000mm程度の縦割れが連続して発生した。そのため、第1分子および第2分子はスクラップとなった。
【0040】
また、条件7では、使用したモールドフラックスに発熱剤を含有しなかったので、また条件8では、二次冷却の比水量が本発明の範囲より多かったので、長さ10〜150mm程度の縦割れが連続して発生した。特に、鋳造終盤の第4分子では、その深さが10mm程度に達したため、スクラップとなった。
【0041】
このように、本発明のB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法では、鋳造条件を適正に制御することにより、0.1質量%以上のBを含有するステンレス鋼を連続鋳造するに際し、縦割れ等の鋳片表面欠陥を抑制することができる。
【0042】
本発明は、上記の実施例に示したオーステナイト系ステンレス鋼に限られるものではなく、フェライト系ステンレス鋼の連続鋳造方法でも良いことはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分Bの含有量が0.1質量%以上であるステンレス鋼の連続鋳造方法であって、
溶鋼過熱度が−15℃〜+30℃の溶鋼を、浸漬ノズルを介して、上向きに−15°〜+25°の吐出角度で、タンディッシュから鋳型内に注入しつつ、
鋳型内溶鋼の表面に、金属または合金からなる発熱剤を含有し、かつ塩基度(CaOのSiO2に対する質量濃度比)を1.1〜1.8としたモールドフラックスを添加し、
鋳型から引き抜かれる鋳片に対しては、表面に向けて0.1リットル/kg〜1.0リットル/kgの比水量(単位溶鋼質量(kg)当たりに供給する二次冷却水の体積(リットル))で、二次冷却水を噴射することを特徴とするB含有ステンレス鋼の連続鋳造方法。

【公開番号】特開2007−90367(P2007−90367A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280355(P2005−280355)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】