説明

C型肝炎ウイルスの増殖を抑制する医薬組成物

【課題】HCV感染量を低減させる抗HCV療法に用いる医薬組成物の提供。
【解決手段】有効成分として、式(I)


(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していても良い飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基、又は、それを有する炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状炭化水素基を表す。)で表される化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩を含有する。上記式(I)で表される化合物のうち、好ましい化合物は、Rが置換基を有していても良いモルホリノ基であり、Rが置換基を有していても良いフェニル基、ベンジル基又はナフタレン−1−イル基である化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染症の予防や治療に有用な化合物、及びそれらを含む医薬組成物に関し、詳しくは、C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus,HCV)感染による肝疾患の予防や治療に用いるための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
HCVの感染者は世界で1〜2億人、日本国内では200万人以上と推測されている。
これらの患者の約50%が慢性肝炎に移行し、そのうち約20%が感染後30年以上たって肝硬変、肝癌となる。肝癌の約90%の原因がC型肝炎といわれている。日本国内では、毎年2万人以上の患者がHCV感染に伴う肝癌により死亡している。
【0003】
HCVは、1989年に輸血後の非A非B型肝炎の主要な原因ウイルスとして発見された。HCVはエンベロープを有するRNAウイルスであり、そのゲノムは1本鎖(+)RNAからなり、フラビウイルス科のヘパシウイルス(Hepacivirus)属に分類される。
【0004】
HCVは、いまだ明らかでない原因により宿主の免疫機構を回避するため、免疫機構の発達した大人に感染した場合でも持続感染が成立することが多く、慢性肝炎、肝硬変、肝癌へと進行し、手術により摘出しても、非癌部で引き続き起こる炎症のため肝癌が再発する患者が多いことも知られている。
【0005】
よって、C型肝炎の有効な治療法の確立が望まれており、その中でも、抗炎症剤により炎症を抑える対症療法とは別に、患部である肝臓においてHCVを減らすあるいは根絶させる薬剤の開発が強く望まれている。
HCVが感染後に消失すると、HCV感染によって起こる疾患の予防または治療に効果があることが認められており、HCV量を低減させるための抗HCV薬剤治療が行われている(非特許文献1)。
【0006】
現在、抗HCV薬剤療法に用いられる代表的な医薬品は各種のインターフェロン(IFN)製剤である。IFNはウイルスが感染した細胞の膜に結合し、細胞内を抗ウイルス状態にすることによりさまざまな種類のウイルスの増殖を抑制することが知られていた(非特許文献2)。HCVレプリコン試験系を用いて、IFNがHCVに対してもこの作用様式により増殖を抑えることが示され、HCVウイルスのNS5Aタンパク質がIFN−αの効果に関係することが明らかとなっている(非特許文献3、4)。
【0007】
ヒトの産生するIFNにはさまざまな種類が存在するが、一般的にIFN−α、IFN−β、IFN−γのいずれも抗HCV作用を示すことが認められている(非特許文献5)。臨床で用いられるIFN製剤の有効成分には、ヒトリンパ芽球由来のIFN−α、リコンビナントIFN−α−2a、リコンビナントIFN−α−2b、ヒト線維芽細胞由来のIFN−βなどさまざまな種類がある。また、これらの天然型のIFNの代わりに修飾を施したIFNを用いた製剤、すなわちアミノ酸配列を一部改変したコンセンサスIFNや、ポリエチレングリコールを結合させたPEG化IFNもある。
【0008】
しかしながら、IFNは、抗HCV療法に用いられる用量において高率に副作用を生じさせる。生じる副作用には、発熱、全身倦怠感、食欲不振、白血球減少、血小板減少、脱毛、精神症状などがある。また、IFNに対する抗体が産生される場合がある。さらに、IFN製剤単独による治療では、HCV感染を消失できない患者やHCV量が低減しない患者が数多く存在する。
【0009】
一方、抗ウイルス剤であるリバビリンをIFN製剤と併用し、HCV量を低減させる効果を高める治療法も行われるようになった。リバビリン単独、及びIFNとの併用による抗HCV効果はHCVレプリコン試験系において確認されている(非特許文献6)。
【0010】
しかしながら、この2剤を併用することによっても依然として十分な臨床効果は認められていない。例えば、Herrine S.K.は、この2剤の併用療法を一般的な抗HCV療法として挙げ、慢性感染患者に対してPEG化インターフェロンの皮下注射を週一回行いリバビリンの経口服用を毎日行う治療を施した際の治療成績を要約し、その持続的なウイルス学的反応が見られた患者の割合はおおよそ55%と述べている(非特許文献7)。すなわち、この報告は、おおよそ患者の45%では十分な臨床効果が認められないことを示している。
【0011】
また、リバビリンを用いた治療では副作用として重篤な貧血が生じる場合があり、その場合には薬剤の用量を少なくするか中止せざるを得ない。また、リバビリンはIFNと同様に妊娠の可能性がある女性への使用に慎重になる必要があるが、これに加えて、リバビリンは精子形成に悪影響を及ぼすため男性の場合も使用中は避妊を推奨されるという問題点がある。以上のことから、リバビリンに代わる薬剤が求められている。
【0012】
抗HCV活性を示す化合物及び医薬組成物としては、例えば特許文献1には、フザリウム・エスピー(Fusariumsp.)F1476株から単離される化合物が、HCVの複製阻害活性を有することが記載されている。また、特許文献2には、ベンゾフラン誘導体とインターフェロンを併用し、HCV感染症を予防又は治療する医薬が開示されている。
【0013】
また、本発明者らは、生体内に存在するタンパク質である骨形成因子7(bone morphogenetic protein 7;BMP−7)を有効成分とする、HCV感染による肝疾患を予防又は治療するための医薬組成物を報告した(特許文献3)。これらは一定の効果を奏するものであるが、より効果的にHCVレプリコン増殖抑制効果を示し、且つ安全性の高い化合物及び医薬組成物の開発が望まれている。
【0014】
一方、下記一般式(I)で表される化合物は、オキサジアゾリル環形成の前駆体としての合成例は報告されているが、当該化合物の抗HCV活性についてこれまでに報告はなされていない(特許文献4〜6)。
【0015】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−77004号公報
【特許文献2】特開2010−241750号公報
【特許文献3】特開2008−169116号公報
【特許文献4】特表2002−505329号公報
【特許文献5】特表2002−526495号公報
【特許文献6】特開2004−99618号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Liang and Heller, Gastroenterology 2004, 127: S62-71
【非特許文献2】Friedman, Bacteriol Rev 1977, 41: 453-567
【非特許文献3】Blight et al., Science 2000, 290: 1972-1974
【非特許文献4】Frese et al., J Gen Virol 2001, 82: 723-733
【非特許文献5】Okuse et al., Antiviral Res 2005, 65: 23-34
【非特許文献6】Tanabe et al., J Infect Dis 2004, 189: 1129-1139
【非特許文献7】Herrine, Ann Internal Med 2002, 136: 747-757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、C型肝炎ウイルス(HCV)感染による肝疾患の予防または治療方法として、HCV感染量を低減させる抗HCV療法に用いる医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、式(I)で表される化合物が高い抗HCVレプリコン活性、更にはHCVの増殖抑制効果を有し、且つ、細胞毒性が低いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は
(1)式(I)
【化2】

【0021】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していても良い飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基、又は、それを有する炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状炭化水素基を表す。)
で表される化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩を含有する、HCV感染による肝疾患を予防または治療するための医薬組成物、
【0022】
(2)Rが置換基を有していても良いモルホリノ基である上記(1)に記載の医薬組成物、
(3)Rが置換基を有していても良いフェニル基、ベンジル基又はナフタレン−1−イル基である上記(1)又は(2)に記載の医薬組成物、
(4)化合物が、下記の化合物群:
[(Z)−(1−アミノ−2−ナフタレン−1−イルエチリデン)アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(3−メチルフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−メチルフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−メトキシフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(3,4−ジメトキシフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ(フェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−クロロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(2,6−ジクロロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ニトロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ヨードフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−(1−アミノ−2−(4−ニトロフェニル)エチリデン)アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ブロモフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
から選ばれる化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬組成物、及び、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩と、インターフェロン及びリバビリンから選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする医薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い抗HCVレプリコン活性、更にはHCVの増殖抑制効果を有し、且つ細胞毒性の軽微な新規医薬組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】化合物A−Dそれぞれの用量反応曲線である。
【図2】化合物A−Dそれぞれの、HCV−JFH1株増殖阻害活性を示すグラフである。
【図3】化合物A1−A4それぞれの用量反応曲線である。
【図4】化合物A1−A4それぞれの、HCV−JFH1株増殖阻害活性を示すグラフである。
【図5】化合物A5−A17それぞれを5μmol/L用いた際の、ルシフェラーゼ活性及び細胞毒性試験の結果を表すグラフである。
【図6】化合物A5−A8それぞれの用量反応曲線である。
【図7】化合物A9−A12それぞれの用量反応曲線である。
【図8】化合物A13−A15それぞれの用量反応曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において、「C型肝炎ウイルス(HCV)」とは、C型肝炎を発症させる能力を持つウイルスの全てを意味する。HCVのサブタイプとしては、例えば遺伝子型(genotype)の違いに基づくもの及びセログループ(serogroup)の違いに基づくものが挙げられる。遺伝子型としては、例えば1a、1b、2a、2b、3a、3b、4、5及び6が挙げられるが、本発明において、遺伝子型としては1a及び1bが好ましく、特に、IFN療法において難治性といわれる1b型が、本発明の効果が顕著に見られる点で好ましい。
セログループは抗原抗体反応に基づく血清学的グルーピングであり、その具体例としては、セログループ1、セログループ2、及び前記の2グループのいずれにも該当しないセログループが挙げられる。また、遺伝子型1a及び1bはセログループ1に、遺伝子型2a及び2bはセログループ2に、それぞれ対応する。
【0026】
本発明において、「HCV感染による肝疾患」とは、前記HCVの生体(ヒト及びチンパンジーなどのサルを含む)への感染によって引き起こされる症状の全てを意味し、具体例としては、C型肝炎、肝硬変、肝繊維化、肝癌などが挙げられる。C型肝炎は、慢性肝炎、急性肝炎、劇症肝炎等に分類することができ、また、これらの各々の肝炎におけるウイルス血症も含まれる。生体がHCVに感染しているか否かは、例えば、血清中のHCV抗体量の測定、血清中のHCVのコア抗原の検出及び血清中のHCVのRNAの検出、ならびにこれらの組み合わせにより判断することができる。
【0027】
本明細書において「治療」とは、本発明の薬物を被験者に投与することによって、HCVを消滅あるいは減少させること、さらなるHCVの広がりを抑制すること、HCVの感染による症状を軽減することを意味し、具体例としては、HCVの排除、肝炎の沈静化、並びに肝炎から肝硬変、肝繊維化及び肝癌への進展の阻止並びに軽減が挙げられる。また「予防」とは、HCVが感染する前に、被験者に投与され、HCVの感染を防いだり、増殖を抑制させることを意味する。
【0028】
(式(I)で表される化合物)
本発明の化合物は以下の式(I)で表される化合物である。
【0029】
【化3】

【0030】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していても良い飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基、又は、置換基を有していても良い飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基を有する炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状炭化水素基を表す。
ここで、員数とは、環を構成する炭素及び他の原子の数を意味する。また、置換基を有ししている場合、上記員数、炭素数には、その置換基の原子の数は含まれない。
【0031】
本発明の式(I)で表される化合物において、「飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基」とは、炭素数が3〜10のシクロアルキル基、炭素数が3〜10のシクロアルケニル基、炭素数が6〜10のアリール基、員数が5〜11の複素環基等を包含する。
【0032】
「炭素数が3〜10のシクロアルキル基」としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基が挙げられる。
【0033】
「炭素数が3〜10のシクロアルケニル基」としては、シクロプロペニル基、シクロブタ−1−エン−1−イル基、シクロペンタ−1−エン−1−イル基、シクロヘキサ−1−エン−1−イル基、シクロオクタ−1−エン−1−イル基等が挙げられる。
【0034】
「炭素数が6〜10のアリール基」は、単環又は多環のアリール基を意味する。多環アリール基の場合は、完全不飽和に加え、部分飽和の基も包含する。例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。
【0035】
「員数が5〜11の複素環基」は、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を1〜4個有する5〜7員の芳香族複素環、飽和複素環、不飽和複素環又はこれらの複素環とベンゼン環が縮合した縮合複素環を意味し、例えば、フラン−2−イル基、フラン−3−イル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、ピロ−ル−1−イル基、ピロ−ル−2−イル基、ピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基、ピリジン−4−イル基、ピラジン−2−イル基、ピラジン−3−イル基、ピリミジン−2−イル基、ピリミジン−4−イル基、ピリダジン−3−イル基、ピリダジン−4−イル基、1,3−ベンゾジオキソール−4−イル基、1,3−ベンゾジオキソール−5−イル基、1,4−ベンゾジオキサン−5−イル基、1,4−ベンゾジオキサン−6−イル基、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾジオキセピン−6−イル基、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾジオキセピン−7−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−4−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−7−イル基、ベンゾフラン−2−イル基、ベンゾフラン−3−イル基、ベンゾチオフェン−2−イル基、ベンゾチオフェン−3−イル基、キノキサリン−2−イル基、キノキサリン−5−イル基、インドール−1−イル基、インドール−2−イル基、イソインドール−1−イル基、イソインドール−2−イル基、イソベンゾフラン−1−イル基、イソベンゾフラン−4−イル基、クロメン−2−イル基、クロメン−3−イル基、イミダゾール−1−イル基、イミダゾール−2−イル基、イミダゾール−4−イル基、ピラゾール−1−イル基、ピラゾール−3−イル基、チアゾール−2−イル基、チアゾール−4−イル基、オキサゾール−2−イル基、オキサゾール−4−イル基、イソオキサゾール−3−イル基、イソオキサゾール−4−イル基、ピロリジン−2−イル基、ピロリジン−3−イル基、ベンゾイミダゾール−1−イル基、ベンゾイミダゾール−2−イル基、ベンゾチアゾール−2−イル基、ベンゾチアゾール−4−イル基、ベンゾオキサゾール−2−イル基、ベンゾオキサゾール−4−イル基、キノリン−2−イル基、キノリン−3−イル基、イソキノリン−1−イル基、イソキノリン−3−イル基、1,3,4−チアジアゾール−2−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−4−イル基、テトラゾール−1−イル基、テトラゾール−2−イル基、インドリン−4−イル基、インドリン−5−イル基、モルホリン−1−イル基、モルホリン−4−イル基、チオモルホリン−1−イル基、チオモルホリン−4−イル基、ピペラジン−2−イル基、ピペリジン−2−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−5−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−6−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−5−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−6−イル基等が挙げられる。
【0036】
「飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基を有する炭素数1〜6の直鎖又は分岐した炭化水素基」とは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐した炭化水素基の一部に1又は2以上の飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基を有する基を意味する。
ここで、炭素数1〜6の直鎖又は分岐した炭化水素基とは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基を意味する。
【0037】
「炭素数1〜6のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。
【0038】
「炭素数2〜6のアルケニル基」としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基等が挙げられる。
【0039】
「炭素数2〜6のアルキニル基」としては、エチニル基、1−プロペニル基、1−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−ヘキシニル基等が挙げられる。
「飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基」は、上記と同様であるである。
【0040】
本発明の式(I)で表される化合物において、「置換基を有していても良い」の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、アルキルスルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロアルキル基等が挙げられる。また、置換基としては、環状構造、たとえば、アルキレン環やベンゼン環等を形成する場合も包含される。
【0041】
アルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0042】
アルコキシ基は、炭素数1〜10の直鎖状または分岐状のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0043】
アルケニル基は、炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、1−ノネニル基、1−デセニル基等が挙げられる。
【0044】
アルキニル基は、置換されていてもよい炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキニル基である。例えば、エチニル基、1−プロペニル基、1−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、1−ヘプチニル基、1−オクチニル基、1−ノニル基等が挙げられる。
【0045】
シクロアルキル基は、炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられる。
【0046】
アリール基は、炭素数6〜10のアリール基であり、例えば、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、アズレニル基等が挙げられる。
【0047】
複素環基は、員数5〜11の複素環基であり、例えば、フラン−2−イル基、フラン−3−イル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、ピロ−ル−1−イル基、ピロ−ル−2−イル基、ピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基、ピリジン−4−イル基、ピラジン−2−イル基、ピラジン−3−イル基、ピリミジン−2−イル基、ピリミジン−4−イル基、ピリダジン−3−イル基、ピリダジン−4−イル基、1,3−ベンゾジオキソール−4−イル基、1,3−ベンゾジオキソール−5−イル基、1,4−ベンゾジオキサン−5−イル基、1,4−ベンゾジオキサン−6−イル基、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾジオキセピン−6−イル基、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾジオキセピン−7−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−4−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−6−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−7−イル基、ベンゾフラン−2−イル基、ベンゾフラン−3−イル基、ベンゾチオフェン−2−イル基、ベンゾチオフェン−3−イル基、キノキサリン−2−イル基、キノキサリン−5−イル基、インドール−1−イル基、インドール−2−イル基、イソインドール−1−イル基、イソインドール−2−イル基、イソベンゾフラン−1−イル基、イソベンゾフラン−4−イル基、クロメン−2−イル基、クロメン−3−イル基、イミダゾール−1−イル基、イミダゾール−2−イル基、イミダゾール−4−イル基、ピラゾール−1−イル基、ピラゾール−3−イル基、チアゾール−2−イル基、チアゾール−4−イル基、オキサゾール−2−イル基、オキサゾール−4−イル基、イソオキサゾール−3−イル基、イソオキサゾール−4−イル基、ピロリジン−2−イル基、ピロリジン−3−イル基、ベンゾイミダゾール−1−イル基、ベンゾイミダゾール−2−イル基、ベンゾチアゾール−2−イル基、ベンゾチアゾール−4−イル基、ベンゾオキサゾール−2−イル基、ベンゾオキサゾール−4−イル基、キノリン−2−イル基、キノリン−3−イル基、イソキノリン−1−イル基、イソキノリン−3−イル基、1,3,4−チアジアゾール−2−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−4−イル基、テトラゾール−1−イル基、テトラゾール−2−イル基、インドリン−4−イル基、インドリン−5−イル基、モルホリン−1−イル基、モルホリン−4−イル基、ピペラジン−2−イル基、ピペリジン−2−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−5−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−6−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−5−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−6−イル基等が挙げられる。
【0048】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0049】
アルキルスルホニル基としては、上述したアルキル基がスルホニル基に結合した基を表し、アルコキシカルボニル基は、上述したアルコキシ基がカルボニル基に結合した基を表す。
【0050】
ハロアルキル基としては、上述したアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置き換わった置換基が挙げられる。
【0051】
上述した置換基は、さらに同一又は異なる置換基を有していても良い。
【0052】
本発明の式(I)で表される化合物において、Rとして好ましくは置換基を有していても良い複素環式基であり、より好ましくは無置換のモルホリノ基である。
また、Rとして好ましくは、置換基を有していても良いアリール基又はアリールアルキル基であり、より好ましくは置換基を有していても良いフェニル基、ベンジル基又はナフチルメチル基であり、特に好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基を有していても良いフェニル基、ベンジル基又はナフチルメチル基ある。
【0053】
式(I)で表される化合物として特に好ましくは、下記の化合物群:
[(Z)−(1−アミノ−2−ナフタレン−1−イルエチリデン)アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(3−メチルフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−メチルフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−メトキシフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(3,4−ジメトキシフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ(フェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−クロロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(2,6−ジクロロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ニトロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ヨードフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−(1−アミノ−2−(4−ニトロフェニル)エチリデン)アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ブロモフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
が挙げられる。
【0054】
式(I)で表される化合物が、酸性又は塩基性の部分を含む場合、当該化合物の製薬上許容し得る塩も本発明の医薬組成物の有効成分として含有し得る。
【0055】
製薬上許容し得る塩の調製において使用するのに適した酸としては、酢酸、2,2−ジクロロ酢酸、アシル化したアミノ酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、L−アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4−アセトアミド安息香酸、ホウ酸、(+)−ショウノウ酸、カンファースルホン酸、(+)−(1S)−カンファー−10−スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、ドデシル硫酸、エタン−1,2−ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸、D−グルコン酸、D−グルクロン酸、L−グルタミン酸、α−オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、(+)−L−乳酸、(±)−DL−乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、(−)−L−リンゴ酸、マロン酸、(±)−DL−マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、過塩素酸、リン酸、L−ピログルタミン酸、サッカリン酸、サリチル酸、4−アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)−L−酒石酸、チオシアン酸、p−トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸、吉草酸等が挙げられる。
【0056】
製薬上許容し得る塩の調製において使用するのに適した塩基としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化亜鉛、又は水酸化ナトリウムのような無機塩基;並びにL−アルギニン、ベネタミン、ベンザチン、コリン、デアノール、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、2−(ジエチルアミノ)−エタノール、エタノールアミン、エチルアミン、エチレンジアミン、イソプロピルアミン、N−メチル−グルカミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、L−リジン、モルフォリン、4−(2−ヒドロキシエチル)−モルフォリン、メチルアミン、ピペリジン、ピペラジン、プロピルアミン、ピロリジン、1−(2−ヒドロキシエチル)−ピロリジン、ピリジン、キヌクリジン、キノリン、イソキノリン、第二級アミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチル−D−グルカミン、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、及びトロメタミンを含む、第一級、第二級、第三級、及び第四級の、脂肪族及び芳香族アミンのような有機塩基が挙げられる。
【0057】
また、本発明の医薬組成物の有効成分としては、式(I)で表される化合物の溶媒和物や結晶多形も含まれる。
ここで溶媒和物とは、非共有結合分子間力によって結合した化学量論的又は非化学量論的な量の溶媒をさらに含む、本発明の化合物又はその塩を指す。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。
【0058】
(式(I)で表される化合物の製造法)
本発明で用いられる式(I)で表される化合物は、市販されているものを購入して入手できるほか、前記特許文献4〜6等に記載の公知の方法に基づいて合成することができ、例えば、以下に示した製造工程を用いることができる。
【0059】
【化4】

【0060】
上記反応式において、R、Rは式(I)における定義と同じである。
式(a)で示したカルボン酸を、酸ハロゲン化合物等を用いてアミド(b)へと変換する。次いで、五酸化二リン等を用いて脱水反応を行い、ニトリル(c)を得る。次に、塩基の存在下、塩酸ヒドロキシルアミンとの反応によって、ヒドロキシアミド(d)を得る。
最後に、式(e)で表されるカルボン酸、又は当該カルボン酸のハロゲン化物との縮合反応によって、式(I)で表される化合物を得ることができる。
本発明の一般式(I)で表される化合物は、上記の方法によって得られるが、さらに必要に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて精製することができる。また必要に応じて、常法によって前記した所望の塩又は溶媒和物にすることもできる。
【0061】
(インターフェロン等との併用)
本発明において、式(I)で表される化合物及び他の抗HCV剤であるインターフェロン、リバビリン等を、HCV感染症の治療または予防において同時に、別々に、又は順次に投与するために組み合わせることができる。本発明の医薬組成物は、式(I)で表される化合物とインターフェロン等を同一医薬組成物中に含有してもよい(すなわち、配合剤であってもよい)し、また式(I)で表される化合物とインターフェロン等を別々の医薬組成物に含有するものであってもよい。なお、配合剤中の式(I)で表される化合物とインターフェロン等との配合割合は、予め一定の割合とすることも、症状の軽重や医師の判断などにより、投与時に任意の割合に変更することもできる。また、本発明の医薬組成物は、式(I)で表される化合物を含有する医薬組成物とインターフェロン等を含有する医薬組成物とをキットとしたものであってもよい。
【0062】
ここで、式(I)で表される化合物とインターフェロン等が別々の医薬組成物に含有される場合には、それぞれの製剤の剤型は同じであってもよいし、別々であってもよい。例えば、いずれか一方又は両方が、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤であってもよい。
【0063】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば、薬学的に許容しうる担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0064】
経口投与用には、式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体と混合することにより、錠剤、丸薬、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することができる。担体としては、当該技術分野において公知のものを広く使用することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等を用いることができる。さらに錠剤は、必要に応じ、通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0065】
非経口投与用には、式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうるベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0066】
注射剤用の水溶性ベヒクルとしては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい
【0067】
油性ベヒクルとしてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0068】
また、式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の分散を制御するなどの目的で、担体、例えば、コラーゲン、ハイドロキシアパタイト、ヒアルロン酸、フィブリン、多糖、リポゾームと配合してもよい。調製された製剤は、経口剤または非経口投与剤として使用できる。
【0069】
(投与形態)
本発明の医薬組成物の適当な投与経路には、限定されないが、経口、直腸内、経粘膜、または腸内投与、または筋肉内、皮下、骨髄内、鞘内、直接心室内、静脈内、硝子体内、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射が含まれる。投与経路は、患者の年齢や病状、併用する他の薬剤等を考慮して適宜選択することができる。
【0070】
本発明の医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.01mgから1mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり1回投与あたり0.02〜100mgの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状、併用する他の薬剤など等を考慮して適宜選択することができる。また、本発明の医薬組成物をインターフェロン製剤またはリバビリン製剤と併用する場合には、これらの薬剤を同時に投与してもよく、別々に投与してもよい。
【0071】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
[レプリコンアッセイを用いた化合物のスクリーニング]
Lipinski則に則り、薬らしく、構造の多様性を重視した化合物として4046種の小分子化合物(市販品)を用い、HCVレプリコン試験系においてハイスループットスクリーニングを行った。
【0073】
レプリコン試験系に用いた細胞としては、Tanabe et al.,J Infect Dis 2004,189:1129−1139に記載されるHuh7/Feo細胞を用いた。この細胞は、感染性HCVクローンHCV−N、遺伝子型1bから作成されたレプリコンプラスミドpHCV1bneo−delSのNeo遺伝子の代わりに、ホタルルシフェラーゼをネオマイシンホスホトランスフェラーゼにインフレームで融合したキメラ遺伝子コーディング(Feo)を導入したHCVレプリコンプラスミドを、ヒト肝臓癌細胞株Huh7にトランスフェクションし、定常的な発現を示す細胞を選択することにより樹立した細胞株である。
【0074】
Huh7/Feo細胞を96ウェル組織培養プレートの各ウェルに4000個ずつ播種し、5%Co下で37℃にて24時間培養した。培地には、ダルベッコ改変最少必須培地(Sigma−Aldrich社製)にウシ胎児血清10%、ペニシリン100IU/mL、ストレプトマイシン100μg/mL、G418(和光純薬工業株式会社製)250μg/mLを加えたものを用いた。
【0075】
各化合物をDMSOで溶解し培地にて希釈して培地に加え、5μmol/L濃度とした。各化合物添加48時間後に細胞を回収し、ルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼアッセイはLuciferase Assay System(Promega社)及びルミノメーター(ARVO MX,PerkinElmer社)を用いて定量した。培地全量に対してDMSO0.05質量%添加時の培養物の活性を100%とし、それぞれ割合で評価した。数値が小さいほど、HCVレプリコンの増殖を阻害する活性が高いことを意味する。
【0076】
ルシフェラーゼ活性が50%未満であった117の化合物について、再度同様の培養を行い、MTS試験にて細胞毒性を評価した。MTS試験は、各化合物添加48時間後の各培養細胞にMTS((3−(4,5−dimetylthiazol−2yl)−5−(3−carboxymethoxyphenyl)−2−(4−sulfophenyl)−2H−tetrazolium)を加え、さらに2時間培養した細胞を回収し、吸光度を測定した。培地全量に対してDMSO0.05質量%添加時の培養物の吸光度を100%とし、それぞれ割合で評価した。数値が大きいほど、細胞生存率が高い(細胞毒性が低い)ことを意味する。
【0077】
ルシフェラーゼ活性が50%未満、且つ細胞生存率が70%より大きいと評価された43の化合物について、0.1、0.3、1、3、10、30μmol/Lの各濃度で上記と同様の試験を行い、それぞれの化合物について50%効果濃度(EC50、50% effective concentration)及び50%細胞毒性濃度(CC50、50% cytotoxic concentration)を評価した。また、CC50/EC50を各化合物の有効係数とした。ここで、CC50/EC50が大きいほど、細胞毒性が低く、且つHCVレプリコンの増殖を阻害する活性が高いことを意味する。
【0078】
EC50が5μmol/Lであり、且つCC50/EC50が5より大きいと評価された化合物は19種であり、代表的な化合物は以下の化学式A−Dで表される。
【0079】
【化5】

【0080】
上記A−Dの各化合物について、それぞれの用量反応曲線を図1に、各化合物のEC50、CC50、CC50/EC50を表1に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
[フルゲノムHCVでの増殖抑制効果:HCV−JFH1株]
化学式A−Dの化合物について、それぞれHCV−JFH1株(遺伝子型2a)細胞培養系において、ウイルス増殖抑制効果を評価した。
フルゲノムHCV試験系に用いた細胞としては、Wakita et al., Nature Medicine 11:791−796に記載されるHCV−JFH1培養系を用いた。この細胞は、遺伝子型2a型HCVが細胞内で増殖し感染粒子を分泌する系である。
【0083】
リン酸緩衝バッファー(PBS)に10個/mLのHuh7細胞を浮遊させた液0.5mLにHCV−JFH1合成RNAを10μg添加し、エレクトロポレーション装置(Easy Jet System,EquiBio社)にて、1050μF,270Vのパルスを加えた。5分間室温放置後10cmレートにて48時間培養を行った。培地には、ダルベッコ改変最少必須培地(Sigma−Aldrich社製)にウシ胎児血清10%、ペニシリン100IU/mL、ストレプトマイシン100μg/mLを加えたものを用いた。
【0084】
各化合物をDMSOで溶解し培地にて希釈して培地に加え、0、3、10μmol/L濃度とした。各化合物添加72時間後に細胞及び培養上清を回収し、リアルタイムRT−PCR法を用いてHCV−RNAを定量した。ここで、濃度が「0μmol/L」のときは、各化合物に代えて、培地全量に対してDMSOを0.1質量%添加した。GAPDHあたりのHCVmRNA量を縦軸にとったグラフを図2に示した。数値が小さいほど、HCVの増殖を阻害する活性が高いことを意味する。
【0085】
[化学式A類似化合物の活性評価;レプリコンアッセイ1]
化合物Aの類似化合物として、以下の化学式に示すA1−A4の化合物について、上記と同様の方法により、HCVレプリコンの増殖抑制活性を評価した。
【0086】
【化6】

【0087】
A1−A4の各化合物について、それぞれの用量反応曲線を図3に、各化合物のEC50、CC50、CC50/EC50を表2に示した。いずれの化合物においても、優れたHCVレプリコンの増殖抑制効果を表し、細胞毒性も小さかった。
【0088】
【表2】

【0089】
[化学式A類似化合物の活性評価;HCV−JFH1株]
上記と同様の方法により、化合物A1−A4のHCV−JFH1株(遺伝子型2a)細胞培養系におけるウイルス増殖抑制効果を評価した。結果を図4に示した。いずれの化合物においても、濃度依存的なウイルス増殖抑制効果を示した。
【0090】
[化学式A類似化合物の活性評価;レプリコンアッセイ2]
さらに類似化合物として以下の化学式に示すA5−A17の化合物群について、HCVレプリコンの増殖活性を評価した。
【0091】
【化7】

【0092】
それぞれの化合物について、濃度5μmol/L用いた際のルシフェラーゼ活性及び細胞毒性試験の結果を図5に示す。また、それぞれの用量反応曲線を図6−8に、各化合物のEC50、CC50、CC50/EC50を表3に示した。いずれの化合物においても、優れたHCVレプリコンの増殖抑制効果を表し、細胞毒性も小さかった。
【0093】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していても良い飽和若しくは不飽和の員数が3〜11の環式基、又は、それを有する炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状炭化水素基を表す。)
で表される化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩を含有する、HCV感染による肝疾患を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項2】
が置換基を有していても良いモルホリノ基である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
が置換基を有していても良いフェニル基、ベンジル基又はナフタレン−1−イル基である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
化合物が、下記の化合物群:
[(Z)−(1−アミノ−2−ナフタレン−1−イルエチリデン)アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(3−メチルフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−メチルフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−メトキシフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(3,4−ジメトキシフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ(フェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−クロロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(2,6−ジクロロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ニトロフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ヨードフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−(1−アミノ−2−(4−ニトロフェニル)エチリデン)アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
[(Z)−[アミノ−(4−ブロモフェニル)メチリデン]アミノ]モルフォリン−4−カルボキシレート;
から選ばれる化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩である請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はそれらの製薬上許容されうる塩と、インターフェロン及びリバビリンから選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53122(P2013−53122A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194082(P2011−194082)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】