C/C複合材成形体及びその製造方法
【課題】高強度でかつ耐熱性の高いC/C複合材からなるC/C複合材成形体を提供する。
【解決手段】炭素繊維1と炭素質マトリックス2とを含むC/C複合材成形体100であって、このC/C複合材成形体は、表面が3次元曲面100aあるいは複数の面100a,100Tの組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体3であり、炭素繊維1は、その長手方向が表面に沿って配向していることを特徴とするC/C複合材成形体。
【解決手段】炭素繊維1と炭素質マトリックス2とを含むC/C複合材成形体100であって、このC/C複合材成形体は、表面が3次元曲面100aあるいは複数の面100a,100Tの組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体3であり、炭素繊維1は、その長手方向が表面に沿って配向していることを特徴とするC/C複合材成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/C複合材成形体及びその製造方法にかかり、特に炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は高い耐熱性と、強度とを備えているため、炭素マトリックスと複合化したC/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材料)として、耐熱性、化学的安定性、強度を必要とする様々な分野で利用されている。C/C複合材は、炭素繊維の複合化の方法により様々な種類があり、これを用いてさまざまな炭素繊維成形体を形成することができる。
【0003】
C/C複合材は、ピッチや熱硬化性樹脂等の炭化物からなるマトリックスと炭素繊維とからなる。炭素繊維クロスを使用するクロス積層方式、炭素繊維フィラメントを使用するフィラメントワインディング方式、炭素繊維フェルトを使用する方式、炭素繊維の抄造体を使用する抄造方式等、炭素繊維の固定方法により種々のC/C複合材がある。
【0004】
クロス積層方式は、炭素繊維からなる織布を積層し、ピッチや熱硬化性樹脂等のマトリックス前駆体を織布に浸み込ませて、硬化、焼成することによりC/C複合材を得る方式である(特許文献1参照)。平面の織布を積層し一軸プレスすることにより、平板のC/C複合材を得ることができる。また、小さく切断した織布片を立体型状の型に貼り付け、張り子状の複雑形状のC/C複合材も得ることができる。そしてさらに、平面の織布をロール状に圧力をかけながら巻いて積層することにより筒形状のC/C複合材を得ることもできる(クロスワインディング方式)。
【0005】
フィラメントワインディング方式は、型に炭素繊維の束(ストランド)を、張力をかけながら巻き付けた後、ピッチや熱硬化性樹脂等のマトリックス前駆体を浸み込ませ、硬化、焼成することによりC/C複合材を得る方式である(特許文献2参照)。
【0006】
炭素繊維フェルトを使用する方式は、炭素繊維の長繊維をフェルト状に積層し、樹脂やピッチなどのマトリックス前駆体を浸み込ませ、硬化、焼成することによりC/C複合材を得る方式である(特許文献3参照)。この方法によっても、クロス積層方式と同様に、平面のC/C複合材、筒形状のC/C複合材、複雑な形状のC/C複合材を得ることができる。特に平面のフェルトをロール状に圧力をかけながら巻いて積層することにより筒形状のC/C複合材を得ることもできる(シートワインディング方式:たとえば図15参照)。
【0007】
さらに、抄造方式のC/C複合材の製造方法が提案されている(特許文献4及び5参照)。抄造方式のC/C複合材は、炭素繊維を液体中に懸濁させてスラリーを形成し、このスラリー中に孔を有する吸引金型を浸漬し、スラリー中の液体を吸引金型の背面に通過させ、この吸引金型の表面側に炭素繊維を堆積させて成形物を成形し、乾燥及び焼成を行うことで得られるものである。この抄造タイプのC/C複合材は、吸引金型の形状により比較的自由な形状の成形物を得ることができるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−60373 号公報
【特許文献2】特開平10−152391号公報
【特許文献3】特開2000−143360号公報
【特許文献4】特開2002−68851号公報
【特許文献5】特開2002−97082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
C/C複合材の製造に際しては、単純な平板のC/C複合材を製造する場合には、板材の端部が解放されているため、プレス及び焼成の過程で収縮が生じても、全体のサイズが小さくなるのみで、反りや変形の少ないC/C複合材を得ることができる。
円筒など環状形状の平板のC/C複合材を製造する場合には、フィラメントワインディング方式またはクロスワインディング方式が用いられる。これらの方法は高密度にするために張力をかけながら、クロスまたはフィラメントを中芯に巻きつけることによって予備成形体を形成する。このような方法で製造されるため、薄肉のC/C複合材は容易に製造することができるが、厚肉のC/C複合材を製造する際には、クロスあるいはフィラメントに張力がかかり、予備成形体の周方向には応力が解放される端部がないため、予備成形体の外層側と内層側の張力の差によって、内層側が座屈し易くなる。さらに、焼成によって、収縮の発生、及びバインダ成分の炭化による接着力の低下が起こり、予備成形体の内層側はより座屈し易くなる。その結果、中芯を抜いたときに、座屈により予備成形体の内層側では変形し、ひいては強度の低下が起こる。そのために肉厚のC/C複合材をフィラメントワインディング法または、クロスワインディング法によって得ることは困難である。
また、炭素繊維フェルトを使用する方式の場合には、薄いフェルトを幾重にも重ねて成形することとなるが、フェルト間の接着力は小さいため剥離が起こりやすい。特にC/C複合材の肉厚材を製造する場合に硬化、焼成する過程で圧縮応力かかるため、中芯を抜いたとき予備成形体の内層側で座屈しやすい。すなわち、フィラメントワインディング法およびクロスワインディング法と同様に座屈により予備成形体の内層側では変形あるいは強度の低下が起こるといった問題がある。そのため肉厚のC/C複合材を、炭素繊維のフェルトを積層して得ることは困難である。
【0010】
また、従来のC/C複合材の製造方法に際し、予備成形体を硬化、焼成する段階で反りや変形が発生した場合、製品形状の寸法公差が小さい場合または、製品の形状が板材などの単純形状ではない場合は、切削や接合などの加工を施すことが必要となる。
【0011】
しかしながら、フィラメントワインディング方式、クロスワインディング方式及び、シートワインディング方式などでは、フィラメント、クロス、炭素繊維フェルト等を何層にも積層して予備成形体を作成するため、上記のような加工を施すと、強度を保持する長繊維を切断してしまい、部分的に強度が弱くなり、強度が弱い層間で剥離が起こりやすくなる。
【0012】
また、クロスやフェルトを用い3次元の構造体を得るには、平面から形成できない3次元曲面の形状は、平面シートに切れ目を入れる、あるいは、小さなシートに分割して貼り合わせて形成する必要がある(ハンドレイアップ)。このため貼り合わせたシートの端部では互いに充分な結合を得ることができないうえ、シートの層間強度も小さいために充分な強度を得ることができず、切れ目の接合部においては周囲に比べ、面方向も厚さ方向も強度が小さくなるという問題がある。
また、フィラメントワインディング等の方法では、筒状、ボウル状などの限られた形状のみにしか対応出来ず、複雑な形状には対応することが困難である。
【0013】
しかしながら、抄造方式では、金型を適宜選択することにより、様々な3次元の構造体を得ることができるが、従来の抄造方式では、抄造時に通水抵抗が序々に高くなるため厚肉で高密度の抄造体を得ることが困難である。このため高密度の薄いシート状の抄造体を幾層にも重ねて積層する必要がある。
一方、従来の抄造方法では、低密度で厚肉の抄造体を形成することは可能であるが、化学気相含浸(CVI:Chemical Vapor Integration)処理により熱分解炭素を抄造体に含浸させるなど、高密度化のための処理工程が必要となる。熱分解炭素を化学気相含浸した抄造体は、繊維間の気孔が少なくなり、硬度が高くなり、加工しにくいという問題がある。また処理工程を導入しても十分に高密度化することが困難である。
【0014】
以上のように従来の方法では、所望の強度を持ち耐熱性の高いC/C複合材成形体を得るのは困難である。特に、シリコン単結晶引き上げ装置(例えばるつぼの保温筒)や、3次元曲面、あるいは曲面と平面の複合構造体を形成するのは極めて困難である。また成形体を得ることができたとしても、構造的に弱いところができ、その箇所から破損に到る確率が高い。このため、高強度、高密度、耐熱性の高いC/C複合材成形体が求められている。
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、高強度、高密度、かつ、耐熱性の高いC/C複合材成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は下記C/C複合材成形体及びその製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
[1]
炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体であって、
前記C/C複合材成形体は、表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
前記炭素繊維は、その長手方向が前記表面に沿って配向していることを特徴とするC/C複合材成形体。
[2]
[1]に記載のC/C複合材成形体であって、
前記表面は、
(A)3次元曲面と平面または曲面との組み合わせ、(B)曲面と平面の組み合わせ、(C)曲面と曲面の組み合わせ、(D)複数の平面の組み合わせ、のいずれかであるC/C複合材成形体。
[3]
[1]または[2]に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維は、直線状繊維からなることを特徴とするC/C複合材成形体。
[4]
[1]乃至[3]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向した薄片体を形成し、
前記殻状構造体は、該薄片体の積層体により構成されるC/C複合材成形体。
[5]
[1]乃至[4]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の平均繊維長は1mm未満であるC/C複合材成形体。
[6]
[1]乃至[5]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
前記殻状構造体の表面に対して垂直な方向への炭素繊維の配向成分が連続的に存在するC/C複合材成形体。
[7]
[1]乃至[6]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3以上であるC/C複合材成形体。
[8]
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程(A)と、
前記フロックを形成した液体を、3次元曲面あるいは連続した複数の面の組み合わせのいずれかの連続面からなる多孔状型面を有する金型で濾過することにより、該多孔状型面の表面に前記フロックを積層し、該フロックの積層体を形成する工程(B)と、
前記フロックの積層体を加圧し、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程(C)と、
前記薄片体前駆体の積層体を焼成し、前記バインダを炭化して炭素質マトリックスを生成することにより、薄片体の積層体を形成する焼成工程(D)と、を具備し、
表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
その長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向している炭素繊維と、前記炭素繊維を囲む炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体の製造方法。
[9]
[8]に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(B)における濾過が吸引濾過であるC/C複合材成形体の製造方法。
[10]
[8]または[9]に記載のC/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(A)が、直線状繊維からなる炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分である第1バインダと、前記炭素繊維と前記第1バインダとを結合させる成分である第2バインダとを、液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
[11]
[8]乃至[10]のいずれかに記載のC/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(D)が、前記フロックの積層体をフィルムで被覆した状態でオートクレーブにより加熱圧縮を行い、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、C/C複合材成形体の層間剥離が起こりにくく、高強度でかつ耐熱性の高いC/C複合材成形体を得ることができる。またC/C複合材からなる3次元の構造体であるC/C複合材成形体を容易に形成することができる。
また、3次元曲面や面の接合部を、切断あるいは接着を要することなく、連続的な組織として形成することができるため成形体全体を構造的に均一な組織にすることができる。
このように、表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、前記炭素繊維は、その長手方向が前記表面に沿って配向しており、3次元曲面や急峻に曲率が変化する複雑な変曲面においても他の部分に比べ弱い強度的な欠陥が無いため、全体として高強度の3次元のC/C複合材成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1の成形体を示す図,(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図、(e)は(d)のさらなる要部拡大図
【図2】実施の形態1の成形体の製造方法の工程フロー図
【図3】(A1)から(D)は本発明の実施の形態1の成形体の製造方法を示す概要図
【図4】実施の形態2の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図
【図5】(A)から(D)は実施の形態2の成形体の製造方法を示す概要図
【図6】実施の形態3の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図7】(a)及び(b)は実施の形態3の成形体の製造方法を示す概要図
【図8】実施の形態4の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図9】実施例及び比較例のC/C複合材成形体の物性測定サンプルの取り出し方向、曲げ試験方向を示す模式図
【図10】(A)は実施例の成形体の断面図の写真、(B)は比較例の成形体断面の写真
【図11】(A)は実施例の成形体表面の拡大写真、(B)は実施例の成形体表面に見られる薄片体の写真、(C)は実施例の成形体表面から剥離される薄片体の写真
【図12】(A)は比較例のシートワインディング方式でフェルトをマンドレルに巻き積層した断面の走査型電子顕微鏡写真、(B)は(A)の模式図
【図13】本発明の成形体断面の走査型電子顕微鏡写真、(A)は倍率100、(B)は倍率200、(C)は倍率500での写真
【図14】(A)は本発明の成形体の断面の偏光顕微鏡写真、(B)は比較例の成形体の断面の偏光顕微鏡写真
【図15】比較例の成形体を示す図、(A)は斜視図、(B)は断面模式図
【図16】本発明の実施例および比較例の剥離試験における衝撃の与え方を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明のC/C複合材成形体(以後「本発明の成形体」とも称する。)は、炭素繊維と炭素質マトリックスとを含む炭素繊維強化炭素複合材で構成された3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせのいずれかの連続面で構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体である成形体である。
好ましくは、この殻状構造体の表面に対して垂直な方向への炭素繊維の配向成分が連続的に存在する。また、好ましくは、この炭素繊維は直線状繊維からなる。さらに、好ましくは、この殻状構造体は、薄片体の積層体で構成される。また、好ましくは、炭素繊維は、炭素質マトリックス内で繊維の長手方向が成形体の面方向に配向した薄片体を構成する。この薄片体の積層体によって成形体としてのC/C複合材成形体を構成する。
ここで3次元曲面とは、平面を変形させることによって成立させることのできない面をいうものとする。つまりここで3次元曲面とは、平面に展開できない面をいい、球面、放物面、又は双曲面などの幾何学的な面をはじめ、凸面、凹面、または鞍型に湾曲した面も含む。複数の面とは前記の3次元曲面をはじめ、平面に展開できる波板状の面、筒状、円錐状の曲面、平面などどのような面を何個組み合わせてもよいものとする。
【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1のC/C複合材成形体について、図1に基づいて説明する。
図1(a)及び(b)は、本実施の形態1のC/C複合材成形体100の斜視図及び断面図である。そして図1(c)乃至(e)は、図1(a)の断面図、要部拡大図、更なる要部拡大図である。このC/C複合材成形体は、円筒状部100aとこの下端に周面に沿って連続的に形成された鍔部100Tとで構成されたものである。図1(d)及び(e)に示すように、このC/C複合材成形体100において、炭素繊維1はその多数が、炭素質マトリックス2内で繊維の長手方向が成形体100の面方向に配向することによって薄片体(シート状小片)3を形成している。本発明の成形体100はこの薄片体3の積層体により構成されている。すなわちこのC/C複合材成形体は、複数の面の組み合わせからなる連続面で構成されており、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体である。そして炭素繊維は、直線状繊維からなる。また、炭素繊維は、その長手方向が表面に沿って配向している。組成が均一である連続体とは、C/C複合材の任意の部位で炭素繊維とマトリックスの組成が同一であることをいい、炭素繊維のクロスシート、フィラメント同志の接着界面にできたマトリックスからなるマトリックス層、接着剤が充填されずにできた空隙層を含むC/C複合材成形体は組成が均一な連続体ではない。また本発明のC/C複合材成形体に別のC/C複合材を接着したC/C複合材成形体は、本発明のC/C複合材成形体に含まれる。
このように、円筒状部100aの下端に鍔部100Tを有することで、円筒面を構成する曲面と、リング状の平面とが隣接して連続的に一体形成されている。ここで円筒面を構成する曲面と、リング状の平面との境界領域100Rにおいても、図1(b)に示すように、薄片体3が外表面である第2の面100o及び内表面である第1の面100iに沿って配向しており、組成が均一な連続体を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域100Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。このC/C複合材成形体は、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体で構成される。
本発明の成形体は、図3(B)に示すように、多孔状型面21を側面及び底面に有する金型20を用いてフロックをろ過することにより得られる。フロックは、多孔状型面21の面方向に連続した層として積層する。このようにして金型20の外壁に沿った第1の面100iと、この第1の面100iに対向する第2の面100oとで薄片体3が構成され、鍔部100Tを持つ円筒状部100aからなる薄片体積層体を形成し所望の形状を得ることができる。
【0020】
本発明の成形体では、炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填され構成されている。さらにこの薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、本発明の3次元曲面、あるいは複数の面を組み合わせたC/C複合材成形体であっても、薄片体の端部がC/C複合材成形体の内部の多くの箇所に分散される。これにより、構造的に弱く剥離あるいはクラックの原因となる欠陥(薄片体の境界)が細かく分散される。
ところで、大きな欠陥が一箇所に存在する場合には、その大きな欠陥がノッチとなって、強度の低下が起きやすくなる。これに対し、本発明のように欠陥部分が細かく分散されることによって欠陥部分にかかる応力を分散することができる。そのため、見かけ上均質な欠陥の無いC/C複合材成形体を得ることができる。このような構造を有しているので、高温下でも、耐熱性が高く、高強度のC/C複合材の成形体を得ることができる。
【0021】
ここで互いに直交する平面間の境界領域100Rにおいても、薄片体3が第1の面100i及び第2の面100oに沿って配向しており、均一な連続面を構成している。また、この境界領域100Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一かつ高密度になっている。そのため極めて強度の高い成形体となる。このように、薄片体3を構成する内側面である第1の面100i及び外側面である第2の面100oは、ほぼ平行となっており、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体を構成している。
【0022】
薄片体の平均長径は、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがさらに望ましい。薄片体の平均長径が1.0mm未満であると、対応するフロック片の大きさが小さくなるため、抄造時の、通水抵抗が大きくなり易く、厚肉のC/C複合材成形体を得にくくなる。一方薄片体の平均長径が10mmを超えると、後述する製造工程において、薄片体の素となるフロックを積層する際に、繊維とバインダの凝集し易さが異なることからフロックの中心部と周辺部とで偏析が起こり易くなるため、薄片体内部のバインダ成分も偏析し易くなる。また、薄片体の平均長径が10mmを超えると、後の成形・硬化でバインダが溶けても十分に流動できず偏析が解消されにくくなる。この結果、バインダの希薄な部分ができ、成形体の強度が低下するおそれがある。
薄片体の平均厚さは、0.05〜1.0mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがさらに好ましい。薄片体の平均厚さが0.05mm未満であると、対応するフロックの大きさが大きくなり、通水抵抗が大きくなり易く厚肉のC/C複合材成形体が得られにくくなる。薄片体の平均厚さが1.0mmを越えると、薄片体端部に空洞が出来、空洞周辺に応力集中が生じ易くなり、成形体の強度が低下するおそれがある。
【0023】
このようにして、C/C複合材成形体100自体の面方向に炭素繊維1の長手方向が配向し、かつ薄片体3の境界が分散される。したがって、均一で応力集中の起こりにくい歪の小さい成形体を得ることができ、高温下でも同様に均一で応力集中が起こりにくいため、耐熱性が高く、高強度の3次元のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0024】
本発明において配向とは、繊維の方向が特定の方向に偏っている状態をいい、すべての繊維が同一方向に揃っている状態を示すものではない。
本発明のC/C複合材成形体は、後述するように、炭素繊維とバインダとを液体中で凝集させてフロックを形成し、このフロックを積層(抄造)して形成される。フロックとは、ランダムに配向した炭素繊維とバインダとが均一に分散した凝集体である。本発明において炭素繊維1は直線状繊維からなる。炭素繊維1が直線状繊維であることにより、後述するフロックの積層工程(抄造時)においてフロックを金型を用いて濾過する際に、既に金型の表面に形成されている下層のフロックに直線状炭素繊維が突き刺さり、厚み方向に接合されるので、成形体の面方向に対して垂直な方向(厚さ方向)の接合強度が得やすくなる。本発明において「直線状繊維」とは、実質的に屈曲部を有しない繊維をいい、針状の繊維であることが好ましい。繊維長の長い炭素繊維や軟らかい炭素繊維等、直線状繊維となりにくい炭素繊維を使用した場合には、既に形成されている薄片体に炭素繊維が突き刺さりにくく、殆どの繊維の長手方向が成形体の面方向に沿うように配向してしまうため、厚さ方向の接合に関与する炭素繊維が少なくなるため、厚さ方向の接合強度が得にくい。
【0025】
本発明の成形体は、薄片体の積層方向(成形体の厚さ方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分を含むことが望ましい。また、炭素繊維1の厚さ方向の配向成分が成形体の厚さ方向に連続的に存在することが望ましい。上記のように、直線状繊維を含むフロックは、既に形成されているフロックに直線状の炭素繊維が突き刺さるように積層していくので、フロックの境界であっても厚さ方向の配向成分が連続的に形成される。これにより成形体の厚さ方向に垂直な方向に界面を有しない剥離しにくいC/C複合材成形体を得ることができる。
【0026】
炭素繊維は平均繊維長が1.0mm未満であることが望ましい。平均繊維長が1.0mm以上であると、抄造時に繊維どうしが絡まり合い、互いに反発するため嵩密度の高い抄造体を得にくい。フロックの積層体の嵩密度が低い場合には、オートクレーブなどで圧縮成型を行うと圧縮前後の嵩密度の差が大きいほど圧縮率が高くなり、圧縮の過程で皺が発生し、特にコーナー部に皺が寄りやすくなり欠陥が多くなる。このような欠陥が多くなると、コーナー部に強度の低い部分が発生する。平均繊維長が1.0mm未満であれば、抄造体の空隙に充填されやすく炭素繊維が直線状になるため、抄造時に、より嵩密度の高い抄造体を得ることができるので、オートクレーブで圧縮成形する際に圧縮率を低くすることができる。これにより、コーナー部などに発生する皺を抑えることができ、欠陥の少ないC/C複合材の成形体を得ることができる。
【0027】
さらに、平均繊維長が1.0mm以上であると炭素繊維が屈曲し易くなり、抄造時に炭素繊維の長手方向がC/C複合材成形体の面方向に特に配向しやすくなる。このため、厚さ方向での繊維どうしの絡まりが少なく剥離し易くなる。また、長い繊維を使用し抄造した場合には、0.1〜0.2g/cm3の炭素繊維密度の低く厚い抄造体が得られる。しかしながら、密度を高めるためにオートクレーブなどで圧縮成形する場合、非常に厚い抄造体が必要である上に、圧縮率が高いため曲率の高い部位での形状制御が困難である。
【0028】
これに対し、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば直線状繊維となりやすく、抄造する際に既に形成されている下層のフロックに突き刺さりやすく、成形体の厚さ方向の接合強度が得やすくなる。
【0029】
炭素繊維の平均繊維長は、0.05mm以上が望ましく、さらに望ましい範囲は0.05以上0.5mm未満である。炭素繊維の平均繊維長が0.5mm未満であれば、炭素繊維強化炭素複合材成形体の厚み方向の強度をより強くすることができる上に、短い繊維は高い密度で充填されやすいので抄造時、特にフロックの積層時の密度を高めることができ、成形時の圧縮率を高めることができる。炭素繊維の平均繊維長が0.05mm未満であると、繊維とバインダとの充分な接着力が得られず、繊維が引き抜かれ易くなり、高強度の成形体を得ることができないおそれがある。
【0030】
なお、単に短繊維例えば(1〜10mm)を使用し、目の細かな型を用いて抄造した場合には、繊維の絡まりが少なくなるため高密度の抄造体を得ることができるが、薄い抄造体が形成された段階で炭素繊維を分散させる液体(水)の通過抵抗が大きくなるため抄造が困難になり、厚く高密度の抄造体を得ることが困難である。これに対し、本発明は、フロックを形成することで、目詰まりをなくし、効率よく薄片体を積層することで高密度で厚い抄造体を形成し、これを圧縮することで、3次元曲面、複数の面の組み合わせなどいかなる面に対しても厚く均一な連続体からなるC/C複合材成形体を得ることができる。
【0031】
炭素繊維の平均繊維径は、1〜20μmが好ましい。また、炭素繊維のアスペクト比は10〜1000が好ましい。平均繊維径及びアスペクト比がそれぞれ上記範囲であれば繊維長に対して充分に繊維径を細くすることができ、繊維がマトリックスから引き抜かれにくくなるため、高強度を得ることができる。
【0032】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のどちらも好適に使用することができる。PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維に比べて弾性率が低いため、例えば単結晶引き上げ装置用のるつぼ、保温筒、ルツボ受け皿、ヒーター等の柔軟性が必要な用途に好適に使用することができる。ピッチ系炭素繊維は弾性率がPAN系炭素繊維に比べ高いため、液晶支持プレート、搬送アームなど、撓みを抑えたい機械部品等の構造部材に好適に使用することができる。
【0033】
本発明の成形体は、嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3であることが好ましい。嵩密度が1.2g/cm3以上であれば、C/C複合材の空隙が少なくなるためマトリックスによる炭素繊維の接合が密になり、炭素繊維が脱離しにくくなる。このため、緻密でより高い強度のC/C複合材の成形体を得ることができる。嵩密度が1.8g/cm3を超えると、脱脂、あるいは焼成時に発生するガスにより、気泡ができやすくなり、均一な層を得ることができない。
本発明の成形体は、厚さが20mm以上の湾曲したC/C複合材であっても高強度のC/C複合材を容易に形成することができる。一旦、炭素繊維とバインダとを含むフロックを形成して抄造法により金型に堆積して、フロックの積層体である予備成形体を成形するので、肉厚の予備成形体が得られやすく20mm以上の肉厚のC/C複合材成形体を容易に得ることができる。
【0034】
以下、本発明のC/C複合材成形体の製造方法について説明する。図2は本発明の成形体の製造工程フロー、図3はその成形体の製造方法を示す概要図である。
1.工程(A):フロック形成工程SA
まず、図2(A)及び図3(A1)〜(A2)に示すように、炭素繊維1と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させた後に凝集剤を加え、炭素繊維1とバインダとを凝集させてフロック5を形成する。炭素繊維1は、はじめ図3(A1)に示すように液体中に分散してスラリーを形成するが、時間の経過と共に図3(A2)に示すように凝集してフロック5を形成する。
【0035】
2.工程(B):フロックの積層体(第1成形体)を形成する工程SB
次に、図2(B)及び図3(B)に示すように、フロック5が形成された液体を、多孔状型面21を有する金型20で濾過する。多孔状型面21は側面に多数の開口21Aを有する。これにより、多孔状型面21の表面にフロック5を積層し、フロックの積層体50を形成する。
本発明における製造方法では、従来のように炭素繊維が懸濁したスラリーを直接濾過(抄造)するのではなく、一旦炭素繊維をバインダと共に凝集させてフロックを形成し、フロックを濾過(抄造)することを特徴とする。これにより、多孔状型面21へのフロック5の積層が進行しても、フロック5の間を液体が透過することができるので、液体の透過を遮りにくく、厚いフロックの積層体50を容易に得ることができる。また、図3(C)に拡大図を示すように、水の通過抵抗が小さくするために多孔状型面21の開口21Aより炭素繊維1の平均繊維長を小さくした場合であっても、フロック5を開口21Aより大きく形成することができる。したがって、濾過の際に炭素繊維1が開口21Aを通過することなく、フロックの積層体50を形成することができる。
【0036】
3.工程(C):薄片体前駆体の積層体(第2成形体)を成形する工程SC
次に、工程(C)として、図2(C)及び図3(C)に示すように、フロックの積層体50を加圧する。これにより、炭素繊維1の長手方向は、多孔状型面21の面方向に配向するようになる。そしてフロック5は薄片化して、図3(D)に示すように薄片体前駆体6となる。このようにして、薄片体前駆体の積層体60を形成する。
【0037】
4.工程(D):焼成工程SD
そして、工程(D)として、図2(D)及び図3(D)に示すように、薄片体前駆体の積層体60を焼成する。これにより、バインダ4を炭化して、図1(e)に示すように炭素質マトリックス2を生成し、薄片体前駆体の積層体60は薄片体3となる。このようにして、薄片体3の積層体、すなわち、本発明の成形体100を得る。
【0038】
次に、各工程について下記に詳しく説明する。
【0039】
[炭素繊維調整]
炭素繊維は、前処理として、本発明の成形体に適するように調整をすることが好ましい。一般に広く流通する釣り竿や航空部品などに用いられる炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」とも称する)用の炭素繊維の表面にはサイジング剤などの被膜が形成されているため抄造時に水に分散しにくくなる。このため炭素繊維はサイジング剤などの被膜のないものを選択するか、不活性ガス雰囲気あるいは還元性雰囲気下で熱処理しサイジング剤などを除去する。なお、CFRPの製造の過程で発生する端材を用いても良い。このような被膜は500℃以上に熱処理することで除去することができる。次に炭素繊維の平均繊維長を1.0mm未満となるよう調整することが好ましい。平均繊維長が1.0mm未満であれば前述したように、フロックの積層体(抄造体)段階での嵩密度を高め、成型時の皺の発生を抑え、強度の弱い部分の発生をおさえることが出来、また成形体の厚さ方向の接合強度が得られるようになり、剥離しにくい高強度の成形体を得ることができる。平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維は、市販の炭素繊維や、CFRPの製造の過程で発生するクロス、ストランド等の端材を粉砕することにより得ることができる。炭素繊維のクロス、ストランド等の端材を粉砕することにより、本発明で利用しやすいクロス、ストランド等の痕跡を残さない平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維の原材料を得ることができる。なお、粉砕は、水中に分散しミキサを使用して均一に粉砕することができる。ここでサイジング剤を除去する雰囲気の形成には、有機物から発生する炭化水素ガスや水素などの還元性ガス、窒素ガス、Arガスなどの不活性ガスも適用可能である。
【0040】
[フロック形成工程(A)]
フロックを調製するにあたり、液体としては水を使用することが望ましい。大量の液体を使用するために有機溶媒などに比べ水は安全に使用できる上に、排液の処理が容易であるからである。
炭素質マトリックスの前駆体成分からなるバインダ(以下、「第1バインダ」とも称する。)としては炭素繊維を懸濁する上記液体に不溶で、炭化する物であればどのような物でも利用することができる。第1バインダは、粉状であることが好ましく、粒子径は3〜100μmであることが好ましい。粉状であれば、炭素繊維間の空隙に均一に分散し、偏析を起こりにくくすることができる。このため、後に第1バインダが溶融し炭素繊維表面に付着した場合にも、大きな空洞ができることなく、高強度のC/C複合材を得ることができる。第1バインダとしては、例えば、ピッチ、ならびにフェノール樹脂、フラン樹脂、又はイミド樹脂などの熱硬化性樹脂から選ばれる1種以上を好適に利用することができる。フェノール樹脂としては、例えば、エアウォーター社製ベルパール(登録商標)S890を好適に利用することが出来る。ベルパールは、粉末状のフェノール樹脂であり、表面に疎水性被膜が形成されているため、水中でも溶解することなく粒状を保っているので、炭素繊維と共に凝集することができる。
第1バインダの添加量は炭素繊維100重量部に対し50〜200重量部が好ましい。50重量部未満であると、炭素繊維を十分に縮合できず、200重量部を超えると、脱脂、あるいは焼成時に発生するガスにより気泡ができ易く、いずれも強度低下の原因となる。
【0041】
本発明で用いる凝集剤は、電荷の変化を利用して炭素繊維とバインダとを凝集できるものであればどのような物でもよく、好ましくは、ζ電位を±10mV以下にできる物が望ましい。例えば無機凝集剤材、有機高分子凝集剤等が利用でき、具体的には有機高分子凝集剤のパーコール292(登録商標:アライドコロイド社製)等が好適に利用できる。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができるため、好ましい。フロックが形成されると、炭素繊維で黒く着色したスラリーの状態から、透明な液体中に黒いフロックが浮遊する混合液の状態に変化する。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができる点で好ましく使用することができる。
【0042】
凝集剤の添加量としては、炭素繊維100重量部に対しに対して0.05〜5.0重量部が好ましい。凝集剤の添加量を上記範囲とすることにより崩れにくい良好なフロックを形成することができる。
また、多孔状型面の開口径の大きさは、特には限定されないが0.5〜10mmであることが好ましく、1〜3mmがさらに好ましい。多孔状型面の開口径が0.5mm未満であると、炭素繊維が目詰まりし易く水の通過抵抗が大きくなるおそれがある。多孔状型面の開口径が10mmを超えると、開口部に開口面積に負圧を乗じた吸引力が発生するため、本来通過しない大きさのフロックまでも吸引され通過してしまうことがある。フロックの大きさは、濾過に用いる多孔状型面の開口径と同等以上にする必要がある。フロックの大きさには分布があるので、直径の大きなフロックが型面に捕捉されると、多孔状型面へのフロックの堆積が開始する。多孔状型面の開口径よりもフロックの平均直径が大きく下回ると、フロックの大部分が型面を通過してしまいフロックが型面へ堆積することができない。混合液中におけるフロックの平均直径は0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。フロックの大きさは凝集剤の量、凝集時間、撹拌の強さにより調節することができる。
【0043】
フロックを形成する液体中にはさらに、第2バインダを添加することが好ましい。前記第1バインダ成分は、抄造段階では粉末状であるため、フロックの積層体(抄造体)の形状を保持することができない。第2バインダは、後に得られるフロックの積層体(抄造体)の形状を、後の焼成工程前まで保持するために添加する成分である。第2バインダとしてはフロックの積層体の形状を保持できればどのような物であっても構わない。フロックの積層体を形成する段階で炭素繊維と第1バインダとを、また炭素繊維同士を、物理的に結合させる作用を有する物であればどのような物でも良く、例えば粘性液体、有機繊維などが挙げられる。粘性液体としては、でんぷん、またはラテックスなどが好適に利用できる。ラテックスは、水に混合すると白濁し懸濁液となる。細かく分散したラテックスの液滴は、炭素繊維と第1バインダとを粘着作用により結合させる作用がある。有機繊維としてはパルプなども好適に利用できる。パルプは水との親和性がよく、炭素繊維と絡み合って、炭素繊維と第1バインダとを結合させる作用を有する。第2バインダとして粘性液体を用いた場合は、例えば図3(C)に拡大図を示すように、炭素繊維1と第1バインダ4の間に第2バインダ7aが、炭素繊維1間に第2バインダ7bが介在することで、フロックの積層体50の形状が保持されている。
【0044】
なお、フロックの形成にあたり、上記炭素繊維、第1バインダ、凝集剤及び第2バインダの添加順序は特に制限はなく、これらを同時に液体中に添加しても順次添加してもよいが、均一かつ安定にフロックを形成する観点から下記順序で調製することが好ましい。
a)水に炭素繊維を投入し撹拌しながら分散させる。撹拌が強すぎると気泡ができるので好ましくない。撹拌手段はプロペラシャフト型あるいはパドル型等を用いることができる。炭素繊維の攪拌時間は3分前後が好ましい。
b)次に第1バインダを加え、第1バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
c)次に第2バインダを加え、第2バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
d)最後に凝集剤を加える。撹拌が少ないと凝集剤が混ざらず、撹拌しすぎると形成されたフロックが壊れてしまう。フロックの出来具合を確認しながら撹拌時間を調整する。攪拌時間は20〜30秒が好ましい。
【0045】
[フロックの積層体(第1成形体)形成工程(B)]
こうして形成されたフロック5を含む液体中に金型20を浸漬する。
金型20は、図3(B)に示すように、円筒形状の多孔状型面21と、減圧室22とを備えている。多孔状型面21には、開口21Aが設けられており、多孔状型面21にのみフロックが積層される。減圧室22は配管23により吸引ポンプ(図示せず)と連結されている。従って、吸引ポンプを作動させると、減圧室22内の空気が排出され減圧状態となる。すると、金型20側にフロック5が吸引される。フロック5の大きさは、開口21Aよりも大きいため、フロック5は開口21Aを通過せず多孔状型面21の表面に多孔状型面の面方向に連続した層として積層する。その際、フロック5は、既に形成された積層体に突き刺さるように積層する。積層したフロック5は、吸引力の影響で球形からやや扁平形状となり、フロック内の炭素繊維1の長手方向は多孔状型面21の面方向に配向するようになる。一方、液体は開口21Aを通過し、配管を介して外部に排出される。こうして、フロックの積層体(第1成形体)50を形成することができる。
【0046】
多孔状型面21は、液体を透過できる複数の開口を有する物であればどのような物でもよく、網、パンチングメタル、織布、又は不織布等が挙げられる。
なお、金型の形状については、後述するが、平面、複数の平面の組み合わせ、3次元曲面、曲面の組み合わせ、鍔部を有する円筒体、円錐体、有底体、角柱など適宜選択可能である。
【0047】
また、吸引濾過の際、減圧はどのような物で行っても良い。空気の他液体も一緒に吸引されるので自吸式の渦巻きポンプ、又はアスピレータなどが好適に利用できる。
【0048】
なお、濾過の方法としては、上記に示した吸引濾過の他に、加圧濾過、又は遠心濾過等の方法を採用してもよい。加圧濾過は、例えば、多孔状型面の外表面側を加圧ガスで加圧し、多孔状型面の外表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。遠心濾過は、例えば、内面に多孔状型面を設置した回転体の型の内部にフロックを含む混合液を供給し、回転体を回転させ、多孔状型面の内表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。
【0049】
[乾燥工程]
次に、前記工程で得られたフロックの積層体に残存する水分を除去するために金型ごと乾燥することが好ましい。乾燥は水分を除去するために40℃以上で行うことが好ましい。また、第1バインダの溶融硬化を防止するため、第1バインダの溶融温度以下で行うことが好ましい。例えば、第1バインダとしてベルパール(登録商標)を用いた場合は、70℃前後で疎水性被膜が溶解することに鑑み、60℃以下で通風しながら乾燥させることにより、容易に水分を除去することができる。
【0050】
[加圧工程](薄片体前駆体の積層体(第2成形体)成形)
図3(C)に示すように、フロックの積層体50を密閉フィルム24で覆い、オートクレーブ26を用いて熱と圧力を加え成形し、第2成形体を得る。まず密閉フィルム24内の空気を吸引し真空引きした後、圧力をかける。成形圧は1MPa以上が好ましい。1MPa以上であれば、高い密度の成形体を得ることができる。特に、成形圧に上限はないが、熱を加えて第1バインダを軟化させているので、10MPaの圧力をかければ十分な成形体の密度を得ることができる。このとき、フロックの積層体50の金型20面側(内側または外側)を、支持材25で支持しながら成形することが好ましい。加熱によりフロックの積層体が軟化し、変形するおそれがあるため支持材25で支持することにより、変形を防ぐことができる。ここで用いる支持材25はフロックの積層体(第1成形体)の形成工程(B)で使用した金型20とは異なり、多孔状型面を有さない、表面が平滑なものである。成形体が平面に近い形状である場合は、成形方法としては、1軸成形による加圧方法が利用できる。ただし、この方法は、キャビティーの両側に上型、下型を構成することができる限られた構造でのみしか利用することができない。
【0051】
[硬化工程]
第1バインダが熱硬化性樹脂であるので、上記加圧成形工程において十分に圧力を上げた後、加熱し、フロック内に含まれる熱硬化性樹脂を溶融硬化させることが好ましい。これにより、薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60が変形しないように形状を固定化させることができる。硬化温度は熱硬化性樹脂の硬化温度以上まで上げる必要がある。例えば一般に150℃以上で行うことが出来る。温度が高ければ高いほど硬化が進行する。前記の成形工程をオートクレーブで行う場合等、成形工程で充分に加熱できれば、硬化工程は成形工程と同時に行うこともできる。特に硬化温度に上限はないが、200℃の温度をかければ十分に硬化をさせることができる。
【0052】
[脱脂工程]
焼成工程の前に、薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60内部の有機成分を揮発させるために脱脂を行うことが好ましい。この脱脂工程を経て、第1バインダは炭化し、第2バインダはその大部分が分解し揮散する。このため、脱脂工程以降で結合作用を有するのは、第1バインダ成分を由来とする炭化物である。脱脂の温度はどの程度であっても構わない。脱脂工程の後にピッチ含浸及び、樹脂含浸を行う場合には、気孔を形成しておく必要があるので、500℃以上で脱脂することが好ましい。500℃以上であれば、樹脂の炭化が充分に進行し、後の含浸工程で樹脂あるいはピッチの含浸される充分な大きさの気孔を形成することができる。脱脂温度の上限は、後の焼成温度以下であれば特に制限はないが、1000℃の高温下に置くことで大部分の脱脂を完了させることができる。脱脂は、炭素繊維やバインダが酸化するのを防ぐため、還元性雰囲気で行うことが好ましい。有機物から発生する炭化水素ガスや水素などを用いた還元性雰囲気のほか、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気も適用可能である。
【0053】
[含浸工程]
脱脂後の薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60の気孔内部に、樹脂、ピッチなどを含浸することにより高密度化することが好ましい。脱脂後の薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60をオートクレーブに入れ、真空引きした後に、オートクレーブ26中に液状の樹脂やピッチを導入し、浸漬した後圧力を加える。液状の樹脂は、水や有機溶媒で溶液にしたものや、熱を加え、溶融した物でも良いが、溶液にしたものの場合には、使用を繰り返しても重合が進みにくいので、安定して使用することができる。ピッチの場合には、オートクレーブを軟化点以上に加熱して、ピッチを液状にして使用する。
含浸が終了した後、上記脱脂工程と同様に脱脂を行うことにより、より高密度の成形体を得ることができる。
【0054】
[焼成工程(D)]
薄片体前駆体の積層体(第2成形体)にさらに熱を加え焼成することにより、第1バインダは十分に炭化し、炭素質マトリックスを生成する。これにより薄片体前駆体は薄片体となり、薄片体の積層体により構成される本発明のC/C複合材成形体100を得ることができる。
焼成工程においては、温度の上昇と共に支持材は熱膨張し、薄片体前駆体の積層体60は熱収縮する。焼成工程で発生する熱膨張差による応力を回避するため薄片体前駆体の積層体60から支持材25を外し、焼成炉内で、非酸化性雰囲気で加熱することが好ましい。焼成工程の望ましい温度は、1500〜2800℃である。焼成温度が1500℃以上であれば、C/C複合材中の水素などの官能基を充分に除去できる。水素などの官能基が残留すると、C/C複合材成形体を使用する際に炭化水素ガス等が発生する。焼成温度が1500℃以上で焼成されていない成形体を半導体製造装置などで使用すると、この炭化水素ガスが半導体に混入し、純度を低下させるおそれがある。焼成温度が2800℃以下であれば、C/C複合材の結晶化の進行を押さえることができ、強度を維持することができる。さらに望ましい範囲は焼成温度が1800〜2500℃である。加熱速度は500℃/H程度で行ことが好ましい。
【0055】
なお、密度を高めるため、焼成工程の前に含浸工程及び脱脂工程を複数回繰り返しても良い。
【0056】
本発明によれば、多孔状型面21の形状を、所望とする成形体の形状に沿った形状とすることで、上記形状だけでなく、様々な立体形状の成形体を一体成形により製造することができる。
【0057】
そして、本発明のC/C複合材成形体は、乾燥工程、加圧工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、図1(a)及び(b)に示したように、鍔部を持つ円筒状体からなるC/C複合材成形体100を得ることができる。このC/C複合材成形体100は、鍔部と円筒状部との境界部すなわち接合部においても薄片体は第1及び第2の面100i,100oに沿って配向し、薄片体の境界が分散され、面と面の接合部であっても、組成が連続して均一な成形体となる。従って、肉厚かつ高密度で、高強度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0058】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の成形体について、図4に基づいて説明する。図4(a)は実施の形態2の成形体の斜視図、図4(b)は、その断面図、図4(c)は、その要部拡大図、図4(d)は、そのさらなる要部拡大図を示す図である。
実施の形態2のC/C複合材成形体200は、底面を有することを特徴とするもので、底面を有する点以外は、実施の形態1の成形体100と同様である。実施の形態2のC/C複合材成形体200は、底面と円筒から構成されている。
【0059】
実施の形態2のC/C複合材成形体200を製造するには、フロックの積層体50を形成する際に、図5(B)に示すように、多孔状型面31を側面及び底面に有する金型30を用いてフロック5を濾過する。フロック5は、多孔状型面31の面方向に連続した層として積層する。また、図5(C)に示すように、加圧工程における支持材35を有底とする。それ以外は、実施の形態1の製造方法と同様であり、表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブ36に入れ、150℃の熱を加えながら加圧した。これにより、図4(a)および(b)に示すようなC/C複合材成形体200が得られる。、得られたC/C複合材成形体200は、底面と側面の境界領域においても薄片体が成形体200の面200Sに沿ってランダムに配向する。そして面に沿って均一な連続体を形成する。炭素繊維及びマトリックスは、たとえば図4(b)の拡大図において、底面と側面をつなぐ境界領域で薄片体は、緩やかに角度を変えながらランダムに積層され、連続体を形成している。
【0060】
このように炭素繊維の一部が、薄片体の積層方向に隣接する薄片体をつなぐ成分を含むとともに、薄片体は、薄片体の積層方向に隣接する薄片体の端部が該積層方向にずれるように配置されるため、薄片体の境界が分散され、均一な成形体となる。
このように底面と側面の間の境界領域200Rにおいても、薄片体3が表面200Sに沿って配向しておりで均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域200Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。本実施の形態においても実施の形態1と同様に高強度、高密度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0061】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3の成形体について、図6及び図7に基づいて説明する。図6(a)は実施の形態3のC/C複合材成形体の斜視図、図6(b)はその断面図、図7(a)及び(b)は実施の形態3のC/C複合材成形体の製造工程を示す概略図である。なお図6及び7では、上下両面の状態が見えるようにするために上下反転した図を用いている。
実施の形態3のC/C複合材成形体400は、円筒状部400aの下側の端部に円錐台状筒部400bを有する点以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。このように、円錐台状筒部400bを有することで、円筒面を構成する曲面と、円錐台状筒部を構成する曲面とが隣接して連続的に一体形成されている。ここで円筒面を構成する曲面と、円錐台状筒部との境界領域400Rにおいても、薄片体3が表面400Sに沿って配向しており、組成が均一な連続体を構成する。そして高強度で均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域400Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。
【0062】
このC/C複合材成形体400の製造に際しては、円柱状と円錐状の外表面をもつ金型40を用いている以外は前記実施の形態3と同様である。
図6(b)に示すように、多孔状型面41を側面に有する金型40を用いてフロックをろ過する。フロックは、多孔状型面41の面方向に連続した層として積層する。このようにして、円筒状部400aと円錐台状筒部400bからなる薄片体積層体400Sを形成し所望の形状を得ることができる。この薄片体積層体400Sは金型40の外壁に沿った第1の面400iと、この第1の面400iに対向する第2の面400oとで構成される。
【0063】
そして、前記実施の形態1,2と同様に乾燥工程、加圧工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、図6(a)及び(b)に示したような、円錐台状の鍔部を持つ円筒状体からなるC/C複合材成形体400を得ることができる。このC/C複合材成形体400は、鍔部と円筒状部との境界部すなわち接合部においても薄片体は第1及び第2の面400i,400oに沿って配向し、薄片体の境界が分散され、組成が連続して均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは 、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。本実施の形態においても実施の形態1と同様に高強度、高密度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0064】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4の成形体について、図8に基づいて説明する。図8(a)は実施の形態4の成形体の斜視図、図8(b)はその断面図を示す。
実施の形態4のC/C複合材成形体500は、底部500bを有する四角筒状部500aで構成されている。C/C複合材成形体の形状以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。本実施の形態では、四角筒面を構成する4つの平面と、底面とが互いに垂直となるように位置して連続的に一体形成されている。ここで互いに直交する平面間の境界領域500Rにおいても、薄片体3が表面500Sに沿って配向しており、均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域500Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。本実施の形態においても実施の形態1と同様に高強度、高密度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0065】
<実施例>
図1に示すような円筒状部と円筒状部の下端部分に連続的に周面に沿って形成された鍔部とで構成されたC/C複合材成形体を以下の工程で作成した。
(1)炭素繊維の調整工程
平均繊維長150μm、平均繊維直径は7μmCFRP用のPAN系炭素繊維を準備した。ここでは、水への分散性を改善するために繊維表面に塗布されているサイジング剤を還元性雰囲気下550℃で焼成し除去した後、水に分散させ、平均繊維長150μmになるまでミキサで粉砕した後、脱水し乾燥させた。そして、炭化水素ガスを多量に発生する有機物粉末とともに密閉容器の中で加熱し、密閉容器内を有機物から発生する炭化水素ガスでパージして還元性雰囲気を形成した。
【0066】
(2)フロック形成工程
(a)前記炭素繊維調整工程で得られた炭素繊維を水に投入し撹拌しながら分散させた。撹拌は約3分間行った。
(b)次に炭素繊維100質量部に対し第1バインダとしてフェノール樹脂(エアウォーター社製「ベルパール」(登録商標)S890(200質量部)を加え、同様に1分間撹拌した。
(c)次に第2バインダとしてラテックス(5質量部)を加え、同様に1分間撹拌した。
(d)さらに、凝集剤としてカチオン系凝集剤(アライドコロイド社製「パーコール(登録商標)292」)(0.3質量部)を加え、20秒間撹拌し、フロックを形成した。
【0067】
(3)フロック積層体形成工程(抄造工程)
フロックを形成した水を、外表面に開口1.0mmの金網を備えた円筒形の型で内側から吸引し、金網の表面にフロックを積層し、円筒形の積層体を形成した。開口1.0mmの金網であるが、炭素繊維はフロックを形成しているため、網を通過する炭素繊維はほとんど無かった。そのまましばらく放置し、重力で水分が除去されてから、60℃の乾燥機で乾燥させ、第1成形体を得た。
【0068】
(4)成形工程(薄片体前駆体の積層体(第2成形体)の形成)
前記工程で得られた第2成形体の内側に、金網のない円筒形の金型を挿入し、更に表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブに入れ150℃の熱を加えながら加圧した。加圧圧力は2MPaとした。
【0069】
(5)硬化工程
前記工程に引き続き、積層体をオートクレーブで最大圧力のまま2時間放置した。この工程により、第1バインダ(フェノール樹脂)を硬化した。
【0070】
(6)第1の脱脂工程
前記硬化工程で得られた第2成形体の金型を外し、還元性雰囲気炉で加熱した。加熱は70℃/hの昇温速度で、最高温度550℃となった時点で1時間保持した後、室温まで放冷した。なおこの脱脂工程は、有機物から発生する炭化水素ガスや水素などを用いた還元性雰囲気のほか、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気も適用可能である。
【0071】
(7)(含浸工程)
第1の脱脂工程までに、所望の嵩密度が得られていない場合には、更に含浸を行う。
本実施例では、脱脂後の第2成形体を200℃に加熱したオートクレーブ中にいれ、真空引きした後に軟化点約80℃のピッチを流入し、4MPaで加圧し、積層体中にピッチを含浸した。
【0072】
(8)(第2の脱脂工程)
含浸工程を経た積層体は再度脱脂を行う。条件は(6)の第1の脱脂工程と同様の条件で行った。
【0073】
(9)焼成工程
第2の脱脂を行った積層体は、最後に焼成を行った。還元性雰囲気下で、150℃/hの昇温速度で加熱し、最高温度2000℃となった時点で15分保持した後、室温まで放冷した。この焼成工程により、第1バインダからマトリックスを生成した。マトリックスの存在により、炭素繊維の接着力が強まり、強度を発現することが出来る。このようにして、内直径1000mm、高さ1000mm、厚さ25mmの、円筒形の下端から鍔部の下部までの距離が30mm、鍔部の幅が20mm、鍔部の高さが円筒表面から5mmで、鍔部が連続的に円筒表面に形成された円筒形の成形体を得た。なおこの還元性雰囲気は、有機物から得られる炭化水素ガスでパージすることによって得られる。また水素などの環元性ガスを用いたり、Arや窒素などの不活性ガスを用いることも可能である。
【0074】
<比較例>
実施例1と同様の形状のフェルトを積層したC/C複合材成形体を以下に示すように製造した。まず、平均繊維長150μm、平均繊維直径7μmのPAN系炭素繊維を30mmに切断し、シート状のフェルトを形成した。次にフェノール樹脂のメタノール溶液中に浸漬し、ロールプレスにより3mm厚の炭素繊維シートプレプリグを形成した。このようにして形成された炭素繊維シートプレプリグをマンドレルに周回し、フェルト状のシートの積層された成形体を形成した。
次に、得られた成形体を150℃で保持することによりフェノール樹脂を硬化させ、形状を固定化した。
次に、実施例と同様に脱脂、含浸、脱脂、焼成を行い、内直径600mm、高さ600mm、厚さ25mm円筒形の成形体を得た。円筒型の下端から鍔部の下端までの距離が30mm、鍔部の幅が20mm、鍔部の高さが円筒表面から20mmとなるよう同様に別途制作したリング状の鍔を外側に嵌め合わせ接着した。接着剤にはコプナ樹脂を用い、鍔と円筒型の成形体には接着層が形成された。
【0075】
<物性評価>
・剥離試験1
本実施例1で得られた成形体及び比較例で得られた成形体について、C/C複合材成形体の端部から、所定の深さ毎に層状をなすようにナイフで切り込みを入れ、剥離状態を比較した。
本実施例で得られた成形体は、成形体の面方向に配向した薄片体が形成されており、端部からナイフで成形体の面に平行方向に切れ込みを入れ引き剥がしたが薄片体は容易に剥離しなかった。
本比較例で得られた成形体は、年輪状の層構造が形成されていた年輪状の層構造のみられる端部よりナイフを成形体の面に平行方向に切れ込みを入れ引き剥がしたが、年輪状の層が容易に剥離した。
【0076】
・嵩密度及び曲げ強度
図9(a)は、物性測定サンプルの取りだし方を示し、図9(b)は3点曲げ試験の試験方向を示す模式図である。本実施例及び比較例で得られた成形体から、図9(a)に示すように、円筒形の高さ方向に長い10×10×60mmの直方体の物性測定サンプルをそれぞれ2本得た。この物性測定サンプルの嵩密度及び曲げ強度を測定した。曲げ強度は、島津製作所社製オートグラフ(AG−IS型:0〜5kN)を用い、スパンは50mmとして3点曲げ試験を行って測定した。嵩密度は、体積と質量をそれぞれ求めた。3点曲げ試験は、図9(b)に示すように成形体の面方向に対して垂直方向(薄片体の積層方向)V及び平行方向Pの2方向から行った。嵩密度及び曲げ強度の結果を表1に示す。
【0077】
剥離試験2
本実施例1及び比較例で得られた成形体の鍔部に成形体の軸方向から木槌で衝撃を与え、破壊のされ方を観察した。図16は衝撃試験2における衝撃の与え方を示す図であり、(a)は実施例、(b)は比較例を示し、(b)では円筒形の成形体にリング状の鍔が嵌め合わされている。Aは、本小槌で衝撃を与える部位及び方向を示す。
この衝撃試験2を実施した結果、本実施例の成形体は、衝撃を与えたエッジ部がつぶれるのみであったのに対し、比較例では、円筒型の成形体とリング状の鍔との接着部が剥がれ、リング状の鍔の一部が脱落した。
【0078】
【表1】
【0079】
・表面及び断面の観察
上記実施例及び比較例で得られた各成形体の表面及び断面を、各種写真により観察した。
・偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真用の試料の作成方法
炭素繊維成形体の試料をエポキシ樹脂に包埋し、機械研磨法により断面を作製した後、フラットミリング処理(45°、3分)を行った。Pt-Pdスパッタを施した断面をFE−SEM、及び偏光顕微鏡にて観察した。ここでエポキシ樹脂は、柔らかい試料、変形し易い試料、細かな試料などから平坦な面を切り出すための試料の固定用として用いたものである。例えば、粉末の端面や、繊維の断面など通常は断面加工が難しいが、このようにエポキシ樹脂などの固定剤で固定することで観察可能となる。
(分析装置及び測定条件)
[フラットミリング]
装置 :hitachi E−3200
出力 :5kV、0.5mA
[FE−SEM]
装置 :Jeol、JSM−7001F
加速電圧:5kV
観察像:二次電子像
[偏光顕微鏡]
装置 :ニコン製
【0080】
図10(A)は実施例の成形体の断面の偏光顕微鏡写真、図10(B)は比較例の成形体の断面の偏光顕微鏡写真である。実施例の成形体は、成形体の面方向に配向した薄片体が形成され、薄片体の境界が分散された均一な成形体となっていることが分かる。比較例の成形体は、年輪状の層構造が形成されていることが分かる。
【0081】
図11(A)は、本発明の実施例1の円筒形成形体の内表面の偏光顕微鏡写真である。図11(B)は、図11(A)の写真の中で観察される薄片体を示す。図11(B)における実線領域が各々の薄片体3を示す。図11(C)は、図11(A)の表面から剥離された薄片体の写真を示す。内表面は支持材25を用いて成形しているので大きな凹凸のない平坦な面が得られているが、表面にはフロックから形成された面方向に平行に配向した薄片体が露出しているのを確認することができる。この薄片体は、構成する炭素繊維が面方向に平行に配向しているので、端部の露出した部位から少しずつ引きはがすことができるが、薄片体が一枚ずつ剥がれるのみで炭素繊維成形体全体に至る剥離は起こらない。このような剥離は、炭素繊維成形体を層方向に破壊した破断面でも同様に確認することができる。
【0082】
図12(A)は、比較例の成形体の断面を拡大したSEM写真を示し、図12(B)はその模式図を示す。シート界面部の繊維が界面に沿って強く平行に配向していることが確認できる。
【0083】
図13は、実施例の成形体の断面のSEM写真である。写真上下方向が成形体の厚さ方向であり、横方向が面方向である。図13(A)は倍率100、(B)は倍率200、(C)は倍率500での実施例の成形体の断面のSEM写真である。図13(A)は、断面のSEM写真の中で観察される薄片体を示す。図13(A)における実線領域が各々の薄片体3を示す。図13(B)は、図13(A)の薄片体部分をさらに拡大したSEM写真である。図13(C)は図13(B)の薄片体部分をさらに拡大したSEM写真である。図13(B)に示すように薄片体は、炭素繊維成形体の面方向に平行に配向しながら積層していることが確認できる。
【0084】
図14(A)は本発明の成形体の断面の偏光顕微鏡写真である。写真上下方向が成形体の厚さ方向(薄片体の積層方向)であり、横方向が面方向である。図14(A)は倍率100である。(B)は倍率200での比較例の成形体の断面のSEM写真である。図14(B)で確認されるように薄片体は、炭素繊維成形体の面方向に平行に炭素繊維が強く配向した領域が存在し、この領域では厚み方向の繊維のつながりがほとんど形成されていないことが確認される。このため、比較例では、図14(B)で写真上下の張力に対して前記の繊維が強く配向した領域が欠陥となっていることがわかる。写真上下方向が成形体の厚さ方向(シートの積層方向)であり、横方向が面方向である。偏光顕微鏡は結晶の配向方向によって異なる色で観察されるので繊維、マトリックスを容易に区別することが出来、観察面との関係により繊維は線状、楕円状、円形状となって観察される。また、図中の濃い灰色で濃淡のない部位は、封止樹脂として用いたエポキシ樹脂Eであり、それ以外の領域は、図14(A)では炭素繊維成形体(マトリックス及び炭素繊維を含む薄片体)であり、図14(B)では炭素繊維成形体Cである。
図14(A)の実線で囲んだ領域内に、偏光顕微鏡写真の上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が確認できた。一方、図14(B)では薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分は観察されなかった。
【0085】
図14(A)のような偏光顕微鏡写真において、薄片体同士をつなぐ炭素繊維が観察されるためには、観察面に炭素繊維が存在し、かつ炭素繊維の長手方向が観察面に含まれなければならない。図14(A)において、写真の上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が確認できたため、他にも多くの観察出来ない上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が存在しているといえる。
【0086】
表1の測定結果に示すように、本実施例で得られた成形体の3点曲げ強度は成形体の面方向と垂直な方向(薄片体の積層方向)75.7MPa、平行な方向69.0MPaで、成形体の面方向に垂直であっても平行であってもほぼ同等の3点曲げ強度が得られた。その理由は本実施例の成形体の薄片体が積層されて構成されており、さらに、厚さ方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分の存在により、均質な成形体が得られているからである。
上記比較例で得られた成形体の3点曲げ強度は成形体の面方向と垂直な方向は19.6MPaであり、平行な方向47.2MPaに比べてかなり低くなっている。本比較例で得られた成形体において、成形体の面方向に平行な方向に比べ、垂直な方向の強度が大きく低下しているのは、成形体の面方向に垂直な方向での3点曲げ試験では、積層されたシートが剥離するように破壊されたためであると考えられる。
上記比較例では、シートが積層されて構成されており、厚さ方向に配向してシート間をつなぐ炭素繊維成分が存在しないので、シート間の接合力が弱く、成形体の面方向に垂直な方向での3点曲げ試験では、著しい強度の低下が見られた。また成形体の面方向に平行な方向での3点曲げ試験でも、シートの剥離が見られ、実施例に比べ低い強度しか得られなかった。
本実施例で得られた成形体は、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、炭素繊維は、その長手方向が表面に沿って配向している。すなわちため、面との接合部を始め成形体全体において炭素繊維が、組成が均一で表面に沿って配向した連続体を構成していることが確認された。このため、面と面との接合部などに強度的な欠陥が形成されておらず、成形体の面方向と垂直な方向および平行な方向の強度が高くなっていると考えられる。
【0087】
なお、本発明において成形体の面方向とは成形体を構成する主要な面をいい、外表面とは、成形体の外表面をいうが、端面を含まないこととする。焼成後、表面を研磨加工したり、孔をあけたり、機械的加工を施したりすることで新たに形成される面も含まないこととする。抄造法による成型時の外表面に沿って、前記炭素繊維の長手方向が、連続的に配向した構成をとることで、極めて機械的強度が高く、耐熱性に優れたC/C複合材成形体を得ることができる。
また、本発明は、円筒、円錐、凹面、凸面など、平面以外のいかなる形状にも適用することができる。特に貼り合わせの必要な形状に有用であることから、円筒、円錐型など、複雑な面の組み合わせによる立体構造に用いる場合に特に、優れた効果が発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のC/C複合材成形体は、高強度、高密度、かつ耐熱性が高い成形体であるため、シリコン単結晶引き上げ装置、化合物半導体結晶引き上げ装置、太陽電池用シリコン製造装置(シリコン薄膜形成装置、シリコンインゴットの製造装置など)、原子力、核融合、冶金分野等で用いられる装置部品など、高温下で用いられる部材、あるいは宇宙部品、航空部品など、温度変化に対しても高強度を維持する必要のある分野などで多く用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
100、200、400、500 成形体
1 炭素繊維
2 炭素質マトリックス
3 薄片体
4 バインダ、第1バインダ
5 フロック
50 フロックの積層体(第1成形体)
6 薄片体前駆体
60 薄片体前駆体の積層体(第2成形体)
7、7a、7b 第2バインダ
20、30 金型
21、31 多孔状型面
21A 開口
22 減圧室
23 配管
24、34 密閉フィルム
25、35 支持材
26、36 オートクレーブ
100i、400i、500i 第1の面
100o、400o、500o 第2の面
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/C複合材成形体及びその製造方法にかかり、特に炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は高い耐熱性と、強度とを備えているため、炭素マトリックスと複合化したC/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材料)として、耐熱性、化学的安定性、強度を必要とする様々な分野で利用されている。C/C複合材は、炭素繊維の複合化の方法により様々な種類があり、これを用いてさまざまな炭素繊維成形体を形成することができる。
【0003】
C/C複合材は、ピッチや熱硬化性樹脂等の炭化物からなるマトリックスと炭素繊維とからなる。炭素繊維クロスを使用するクロス積層方式、炭素繊維フィラメントを使用するフィラメントワインディング方式、炭素繊維フェルトを使用する方式、炭素繊維の抄造体を使用する抄造方式等、炭素繊維の固定方法により種々のC/C複合材がある。
【0004】
クロス積層方式は、炭素繊維からなる織布を積層し、ピッチや熱硬化性樹脂等のマトリックス前駆体を織布に浸み込ませて、硬化、焼成することによりC/C複合材を得る方式である(特許文献1参照)。平面の織布を積層し一軸プレスすることにより、平板のC/C複合材を得ることができる。また、小さく切断した織布片を立体型状の型に貼り付け、張り子状の複雑形状のC/C複合材も得ることができる。そしてさらに、平面の織布をロール状に圧力をかけながら巻いて積層することにより筒形状のC/C複合材を得ることもできる(クロスワインディング方式)。
【0005】
フィラメントワインディング方式は、型に炭素繊維の束(ストランド)を、張力をかけながら巻き付けた後、ピッチや熱硬化性樹脂等のマトリックス前駆体を浸み込ませ、硬化、焼成することによりC/C複合材を得る方式である(特許文献2参照)。
【0006】
炭素繊維フェルトを使用する方式は、炭素繊維の長繊維をフェルト状に積層し、樹脂やピッチなどのマトリックス前駆体を浸み込ませ、硬化、焼成することによりC/C複合材を得る方式である(特許文献3参照)。この方法によっても、クロス積層方式と同様に、平面のC/C複合材、筒形状のC/C複合材、複雑な形状のC/C複合材を得ることができる。特に平面のフェルトをロール状に圧力をかけながら巻いて積層することにより筒形状のC/C複合材を得ることもできる(シートワインディング方式:たとえば図15参照)。
【0007】
さらに、抄造方式のC/C複合材の製造方法が提案されている(特許文献4及び5参照)。抄造方式のC/C複合材は、炭素繊維を液体中に懸濁させてスラリーを形成し、このスラリー中に孔を有する吸引金型を浸漬し、スラリー中の液体を吸引金型の背面に通過させ、この吸引金型の表面側に炭素繊維を堆積させて成形物を成形し、乾燥及び焼成を行うことで得られるものである。この抄造タイプのC/C複合材は、吸引金型の形状により比較的自由な形状の成形物を得ることができるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−60373 号公報
【特許文献2】特開平10−152391号公報
【特許文献3】特開2000−143360号公報
【特許文献4】特開2002−68851号公報
【特許文献5】特開2002−97082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
C/C複合材の製造に際しては、単純な平板のC/C複合材を製造する場合には、板材の端部が解放されているため、プレス及び焼成の過程で収縮が生じても、全体のサイズが小さくなるのみで、反りや変形の少ないC/C複合材を得ることができる。
円筒など環状形状の平板のC/C複合材を製造する場合には、フィラメントワインディング方式またはクロスワインディング方式が用いられる。これらの方法は高密度にするために張力をかけながら、クロスまたはフィラメントを中芯に巻きつけることによって予備成形体を形成する。このような方法で製造されるため、薄肉のC/C複合材は容易に製造することができるが、厚肉のC/C複合材を製造する際には、クロスあるいはフィラメントに張力がかかり、予備成形体の周方向には応力が解放される端部がないため、予備成形体の外層側と内層側の張力の差によって、内層側が座屈し易くなる。さらに、焼成によって、収縮の発生、及びバインダ成分の炭化による接着力の低下が起こり、予備成形体の内層側はより座屈し易くなる。その結果、中芯を抜いたときに、座屈により予備成形体の内層側では変形し、ひいては強度の低下が起こる。そのために肉厚のC/C複合材をフィラメントワインディング法または、クロスワインディング法によって得ることは困難である。
また、炭素繊維フェルトを使用する方式の場合には、薄いフェルトを幾重にも重ねて成形することとなるが、フェルト間の接着力は小さいため剥離が起こりやすい。特にC/C複合材の肉厚材を製造する場合に硬化、焼成する過程で圧縮応力かかるため、中芯を抜いたとき予備成形体の内層側で座屈しやすい。すなわち、フィラメントワインディング法およびクロスワインディング法と同様に座屈により予備成形体の内層側では変形あるいは強度の低下が起こるといった問題がある。そのため肉厚のC/C複合材を、炭素繊維のフェルトを積層して得ることは困難である。
【0010】
また、従来のC/C複合材の製造方法に際し、予備成形体を硬化、焼成する段階で反りや変形が発生した場合、製品形状の寸法公差が小さい場合または、製品の形状が板材などの単純形状ではない場合は、切削や接合などの加工を施すことが必要となる。
【0011】
しかしながら、フィラメントワインディング方式、クロスワインディング方式及び、シートワインディング方式などでは、フィラメント、クロス、炭素繊維フェルト等を何層にも積層して予備成形体を作成するため、上記のような加工を施すと、強度を保持する長繊維を切断してしまい、部分的に強度が弱くなり、強度が弱い層間で剥離が起こりやすくなる。
【0012】
また、クロスやフェルトを用い3次元の構造体を得るには、平面から形成できない3次元曲面の形状は、平面シートに切れ目を入れる、あるいは、小さなシートに分割して貼り合わせて形成する必要がある(ハンドレイアップ)。このため貼り合わせたシートの端部では互いに充分な結合を得ることができないうえ、シートの層間強度も小さいために充分な強度を得ることができず、切れ目の接合部においては周囲に比べ、面方向も厚さ方向も強度が小さくなるという問題がある。
また、フィラメントワインディング等の方法では、筒状、ボウル状などの限られた形状のみにしか対応出来ず、複雑な形状には対応することが困難である。
【0013】
しかしながら、抄造方式では、金型を適宜選択することにより、様々な3次元の構造体を得ることができるが、従来の抄造方式では、抄造時に通水抵抗が序々に高くなるため厚肉で高密度の抄造体を得ることが困難である。このため高密度の薄いシート状の抄造体を幾層にも重ねて積層する必要がある。
一方、従来の抄造方法では、低密度で厚肉の抄造体を形成することは可能であるが、化学気相含浸(CVI:Chemical Vapor Integration)処理により熱分解炭素を抄造体に含浸させるなど、高密度化のための処理工程が必要となる。熱分解炭素を化学気相含浸した抄造体は、繊維間の気孔が少なくなり、硬度が高くなり、加工しにくいという問題がある。また処理工程を導入しても十分に高密度化することが困難である。
【0014】
以上のように従来の方法では、所望の強度を持ち耐熱性の高いC/C複合材成形体を得るのは困難である。特に、シリコン単結晶引き上げ装置(例えばるつぼの保温筒)や、3次元曲面、あるいは曲面と平面の複合構造体を形成するのは極めて困難である。また成形体を得ることができたとしても、構造的に弱いところができ、その箇所から破損に到る確率が高い。このため、高強度、高密度、耐熱性の高いC/C複合材成形体が求められている。
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、高強度、高密度、かつ、耐熱性の高いC/C複合材成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は下記C/C複合材成形体及びその製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
[1]
炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体であって、
前記C/C複合材成形体は、表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
前記炭素繊維は、その長手方向が前記表面に沿って配向していることを特徴とするC/C複合材成形体。
[2]
[1]に記載のC/C複合材成形体であって、
前記表面は、
(A)3次元曲面と平面または曲面との組み合わせ、(B)曲面と平面の組み合わせ、(C)曲面と曲面の組み合わせ、(D)複数の平面の組み合わせ、のいずれかであるC/C複合材成形体。
[3]
[1]または[2]に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維は、直線状繊維からなることを特徴とするC/C複合材成形体。
[4]
[1]乃至[3]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向した薄片体を形成し、
前記殻状構造体は、該薄片体の積層体により構成されるC/C複合材成形体。
[5]
[1]乃至[4]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の平均繊維長は1mm未満であるC/C複合材成形体。
[6]
[1]乃至[5]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
前記殻状構造体の表面に対して垂直な方向への炭素繊維の配向成分が連続的に存在するC/C複合材成形体。
[7]
[1]乃至[6]のいずれかに記載のC/C複合材成形体であって、
嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3以上であるC/C複合材成形体。
[8]
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程(A)と、
前記フロックを形成した液体を、3次元曲面あるいは連続した複数の面の組み合わせのいずれかの連続面からなる多孔状型面を有する金型で濾過することにより、該多孔状型面の表面に前記フロックを積層し、該フロックの積層体を形成する工程(B)と、
前記フロックの積層体を加圧し、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程(C)と、
前記薄片体前駆体の積層体を焼成し、前記バインダを炭化して炭素質マトリックスを生成することにより、薄片体の積層体を形成する焼成工程(D)と、を具備し、
表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
その長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向している炭素繊維と、前記炭素繊維を囲む炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体の製造方法。
[9]
[8]に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(B)における濾過が吸引濾過であるC/C複合材成形体の製造方法。
[10]
[8]または[9]に記載のC/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(A)が、直線状繊維からなる炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分である第1バインダと、前記炭素繊維と前記第1バインダとを結合させる成分である第2バインダとを、液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
[11]
[8]乃至[10]のいずれかに記載のC/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(D)が、前記フロックの積層体をフィルムで被覆した状態でオートクレーブにより加熱圧縮を行い、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、C/C複合材成形体の層間剥離が起こりにくく、高強度でかつ耐熱性の高いC/C複合材成形体を得ることができる。またC/C複合材からなる3次元の構造体であるC/C複合材成形体を容易に形成することができる。
また、3次元曲面や面の接合部を、切断あるいは接着を要することなく、連続的な組織として形成することができるため成形体全体を構造的に均一な組織にすることができる。
このように、表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、前記炭素繊維は、その長手方向が前記表面に沿って配向しており、3次元曲面や急峻に曲率が変化する複雑な変曲面においても他の部分に比べ弱い強度的な欠陥が無いため、全体として高強度の3次元のC/C複合材成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1の成形体を示す図,(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図、(e)は(d)のさらなる要部拡大図
【図2】実施の形態1の成形体の製造方法の工程フロー図
【図3】(A1)から(D)は本発明の実施の形態1の成形体の製造方法を示す概要図
【図4】実施の形態2の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図
【図5】(A)から(D)は実施の形態2の成形体の製造方法を示す概要図
【図6】実施の形態3の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図7】(a)及び(b)は実施の形態3の成形体の製造方法を示す概要図
【図8】実施の形態4の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図9】実施例及び比較例のC/C複合材成形体の物性測定サンプルの取り出し方向、曲げ試験方向を示す模式図
【図10】(A)は実施例の成形体の断面図の写真、(B)は比較例の成形体断面の写真
【図11】(A)は実施例の成形体表面の拡大写真、(B)は実施例の成形体表面に見られる薄片体の写真、(C)は実施例の成形体表面から剥離される薄片体の写真
【図12】(A)は比較例のシートワインディング方式でフェルトをマンドレルに巻き積層した断面の走査型電子顕微鏡写真、(B)は(A)の模式図
【図13】本発明の成形体断面の走査型電子顕微鏡写真、(A)は倍率100、(B)は倍率200、(C)は倍率500での写真
【図14】(A)は本発明の成形体の断面の偏光顕微鏡写真、(B)は比較例の成形体の断面の偏光顕微鏡写真
【図15】比較例の成形体を示す図、(A)は斜視図、(B)は断面模式図
【図16】本発明の実施例および比較例の剥離試験における衝撃の与え方を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明のC/C複合材成形体(以後「本発明の成形体」とも称する。)は、炭素繊維と炭素質マトリックスとを含む炭素繊維強化炭素複合材で構成された3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせのいずれかの連続面で構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体である成形体である。
好ましくは、この殻状構造体の表面に対して垂直な方向への炭素繊維の配向成分が連続的に存在する。また、好ましくは、この炭素繊維は直線状繊維からなる。さらに、好ましくは、この殻状構造体は、薄片体の積層体で構成される。また、好ましくは、炭素繊維は、炭素質マトリックス内で繊維の長手方向が成形体の面方向に配向した薄片体を構成する。この薄片体の積層体によって成形体としてのC/C複合材成形体を構成する。
ここで3次元曲面とは、平面を変形させることによって成立させることのできない面をいうものとする。つまりここで3次元曲面とは、平面に展開できない面をいい、球面、放物面、又は双曲面などの幾何学的な面をはじめ、凸面、凹面、または鞍型に湾曲した面も含む。複数の面とは前記の3次元曲面をはじめ、平面に展開できる波板状の面、筒状、円錐状の曲面、平面などどのような面を何個組み合わせてもよいものとする。
【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1のC/C複合材成形体について、図1に基づいて説明する。
図1(a)及び(b)は、本実施の形態1のC/C複合材成形体100の斜視図及び断面図である。そして図1(c)乃至(e)は、図1(a)の断面図、要部拡大図、更なる要部拡大図である。このC/C複合材成形体は、円筒状部100aとこの下端に周面に沿って連続的に形成された鍔部100Tとで構成されたものである。図1(d)及び(e)に示すように、このC/C複合材成形体100において、炭素繊維1はその多数が、炭素質マトリックス2内で繊維の長手方向が成形体100の面方向に配向することによって薄片体(シート状小片)3を形成している。本発明の成形体100はこの薄片体3の積層体により構成されている。すなわちこのC/C複合材成形体は、複数の面の組み合わせからなる連続面で構成されており、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体である。そして炭素繊維は、直線状繊維からなる。また、炭素繊維は、その長手方向が表面に沿って配向している。組成が均一である連続体とは、C/C複合材の任意の部位で炭素繊維とマトリックスの組成が同一であることをいい、炭素繊維のクロスシート、フィラメント同志の接着界面にできたマトリックスからなるマトリックス層、接着剤が充填されずにできた空隙層を含むC/C複合材成形体は組成が均一な連続体ではない。また本発明のC/C複合材成形体に別のC/C複合材を接着したC/C複合材成形体は、本発明のC/C複合材成形体に含まれる。
このように、円筒状部100aの下端に鍔部100Tを有することで、円筒面を構成する曲面と、リング状の平面とが隣接して連続的に一体形成されている。ここで円筒面を構成する曲面と、リング状の平面との境界領域100Rにおいても、図1(b)に示すように、薄片体3が外表面である第2の面100o及び内表面である第1の面100iに沿って配向しており、組成が均一な連続体を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域100Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。このC/C複合材成形体は、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体で構成される。
本発明の成形体は、図3(B)に示すように、多孔状型面21を側面及び底面に有する金型20を用いてフロックをろ過することにより得られる。フロックは、多孔状型面21の面方向に連続した層として積層する。このようにして金型20の外壁に沿った第1の面100iと、この第1の面100iに対向する第2の面100oとで薄片体3が構成され、鍔部100Tを持つ円筒状部100aからなる薄片体積層体を形成し所望の形状を得ることができる。
【0020】
本発明の成形体では、炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填され構成されている。さらにこの薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、本発明の3次元曲面、あるいは複数の面を組み合わせたC/C複合材成形体であっても、薄片体の端部がC/C複合材成形体の内部の多くの箇所に分散される。これにより、構造的に弱く剥離あるいはクラックの原因となる欠陥(薄片体の境界)が細かく分散される。
ところで、大きな欠陥が一箇所に存在する場合には、その大きな欠陥がノッチとなって、強度の低下が起きやすくなる。これに対し、本発明のように欠陥部分が細かく分散されることによって欠陥部分にかかる応力を分散することができる。そのため、見かけ上均質な欠陥の無いC/C複合材成形体を得ることができる。このような構造を有しているので、高温下でも、耐熱性が高く、高強度のC/C複合材の成形体を得ることができる。
【0021】
ここで互いに直交する平面間の境界領域100Rにおいても、薄片体3が第1の面100i及び第2の面100oに沿って配向しており、均一な連続面を構成している。また、この境界領域100Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一かつ高密度になっている。そのため極めて強度の高い成形体となる。このように、薄片体3を構成する内側面である第1の面100i及び外側面である第2の面100oは、ほぼ平行となっており、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体を構成している。
【0022】
薄片体の平均長径は、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがさらに望ましい。薄片体の平均長径が1.0mm未満であると、対応するフロック片の大きさが小さくなるため、抄造時の、通水抵抗が大きくなり易く、厚肉のC/C複合材成形体を得にくくなる。一方薄片体の平均長径が10mmを超えると、後述する製造工程において、薄片体の素となるフロックを積層する際に、繊維とバインダの凝集し易さが異なることからフロックの中心部と周辺部とで偏析が起こり易くなるため、薄片体内部のバインダ成分も偏析し易くなる。また、薄片体の平均長径が10mmを超えると、後の成形・硬化でバインダが溶けても十分に流動できず偏析が解消されにくくなる。この結果、バインダの希薄な部分ができ、成形体の強度が低下するおそれがある。
薄片体の平均厚さは、0.05〜1.0mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがさらに好ましい。薄片体の平均厚さが0.05mm未満であると、対応するフロックの大きさが大きくなり、通水抵抗が大きくなり易く厚肉のC/C複合材成形体が得られにくくなる。薄片体の平均厚さが1.0mmを越えると、薄片体端部に空洞が出来、空洞周辺に応力集中が生じ易くなり、成形体の強度が低下するおそれがある。
【0023】
このようにして、C/C複合材成形体100自体の面方向に炭素繊維1の長手方向が配向し、かつ薄片体3の境界が分散される。したがって、均一で応力集中の起こりにくい歪の小さい成形体を得ることができ、高温下でも同様に均一で応力集中が起こりにくいため、耐熱性が高く、高強度の3次元のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0024】
本発明において配向とは、繊維の方向が特定の方向に偏っている状態をいい、すべての繊維が同一方向に揃っている状態を示すものではない。
本発明のC/C複合材成形体は、後述するように、炭素繊維とバインダとを液体中で凝集させてフロックを形成し、このフロックを積層(抄造)して形成される。フロックとは、ランダムに配向した炭素繊維とバインダとが均一に分散した凝集体である。本発明において炭素繊維1は直線状繊維からなる。炭素繊維1が直線状繊維であることにより、後述するフロックの積層工程(抄造時)においてフロックを金型を用いて濾過する際に、既に金型の表面に形成されている下層のフロックに直線状炭素繊維が突き刺さり、厚み方向に接合されるので、成形体の面方向に対して垂直な方向(厚さ方向)の接合強度が得やすくなる。本発明において「直線状繊維」とは、実質的に屈曲部を有しない繊維をいい、針状の繊維であることが好ましい。繊維長の長い炭素繊維や軟らかい炭素繊維等、直線状繊維となりにくい炭素繊維を使用した場合には、既に形成されている薄片体に炭素繊維が突き刺さりにくく、殆どの繊維の長手方向が成形体の面方向に沿うように配向してしまうため、厚さ方向の接合に関与する炭素繊維が少なくなるため、厚さ方向の接合強度が得にくい。
【0025】
本発明の成形体は、薄片体の積層方向(成形体の厚さ方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分を含むことが望ましい。また、炭素繊維1の厚さ方向の配向成分が成形体の厚さ方向に連続的に存在することが望ましい。上記のように、直線状繊維を含むフロックは、既に形成されているフロックに直線状の炭素繊維が突き刺さるように積層していくので、フロックの境界であっても厚さ方向の配向成分が連続的に形成される。これにより成形体の厚さ方向に垂直な方向に界面を有しない剥離しにくいC/C複合材成形体を得ることができる。
【0026】
炭素繊維は平均繊維長が1.0mm未満であることが望ましい。平均繊維長が1.0mm以上であると、抄造時に繊維どうしが絡まり合い、互いに反発するため嵩密度の高い抄造体を得にくい。フロックの積層体の嵩密度が低い場合には、オートクレーブなどで圧縮成型を行うと圧縮前後の嵩密度の差が大きいほど圧縮率が高くなり、圧縮の過程で皺が発生し、特にコーナー部に皺が寄りやすくなり欠陥が多くなる。このような欠陥が多くなると、コーナー部に強度の低い部分が発生する。平均繊維長が1.0mm未満であれば、抄造体の空隙に充填されやすく炭素繊維が直線状になるため、抄造時に、より嵩密度の高い抄造体を得ることができるので、オートクレーブで圧縮成形する際に圧縮率を低くすることができる。これにより、コーナー部などに発生する皺を抑えることができ、欠陥の少ないC/C複合材の成形体を得ることができる。
【0027】
さらに、平均繊維長が1.0mm以上であると炭素繊維が屈曲し易くなり、抄造時に炭素繊維の長手方向がC/C複合材成形体の面方向に特に配向しやすくなる。このため、厚さ方向での繊維どうしの絡まりが少なく剥離し易くなる。また、長い繊維を使用し抄造した場合には、0.1〜0.2g/cm3の炭素繊維密度の低く厚い抄造体が得られる。しかしながら、密度を高めるためにオートクレーブなどで圧縮成形する場合、非常に厚い抄造体が必要である上に、圧縮率が高いため曲率の高い部位での形状制御が困難である。
【0028】
これに対し、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば直線状繊維となりやすく、抄造する際に既に形成されている下層のフロックに突き刺さりやすく、成形体の厚さ方向の接合強度が得やすくなる。
【0029】
炭素繊維の平均繊維長は、0.05mm以上が望ましく、さらに望ましい範囲は0.05以上0.5mm未満である。炭素繊維の平均繊維長が0.5mm未満であれば、炭素繊維強化炭素複合材成形体の厚み方向の強度をより強くすることができる上に、短い繊維は高い密度で充填されやすいので抄造時、特にフロックの積層時の密度を高めることができ、成形時の圧縮率を高めることができる。炭素繊維の平均繊維長が0.05mm未満であると、繊維とバインダとの充分な接着力が得られず、繊維が引き抜かれ易くなり、高強度の成形体を得ることができないおそれがある。
【0030】
なお、単に短繊維例えば(1〜10mm)を使用し、目の細かな型を用いて抄造した場合には、繊維の絡まりが少なくなるため高密度の抄造体を得ることができるが、薄い抄造体が形成された段階で炭素繊維を分散させる液体(水)の通過抵抗が大きくなるため抄造が困難になり、厚く高密度の抄造体を得ることが困難である。これに対し、本発明は、フロックを形成することで、目詰まりをなくし、効率よく薄片体を積層することで高密度で厚い抄造体を形成し、これを圧縮することで、3次元曲面、複数の面の組み合わせなどいかなる面に対しても厚く均一な連続体からなるC/C複合材成形体を得ることができる。
【0031】
炭素繊維の平均繊維径は、1〜20μmが好ましい。また、炭素繊維のアスペクト比は10〜1000が好ましい。平均繊維径及びアスペクト比がそれぞれ上記範囲であれば繊維長に対して充分に繊維径を細くすることができ、繊維がマトリックスから引き抜かれにくくなるため、高強度を得ることができる。
【0032】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のどちらも好適に使用することができる。PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維に比べて弾性率が低いため、例えば単結晶引き上げ装置用のるつぼ、保温筒、ルツボ受け皿、ヒーター等の柔軟性が必要な用途に好適に使用することができる。ピッチ系炭素繊維は弾性率がPAN系炭素繊維に比べ高いため、液晶支持プレート、搬送アームなど、撓みを抑えたい機械部品等の構造部材に好適に使用することができる。
【0033】
本発明の成形体は、嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3であることが好ましい。嵩密度が1.2g/cm3以上であれば、C/C複合材の空隙が少なくなるためマトリックスによる炭素繊維の接合が密になり、炭素繊維が脱離しにくくなる。このため、緻密でより高い強度のC/C複合材の成形体を得ることができる。嵩密度が1.8g/cm3を超えると、脱脂、あるいは焼成時に発生するガスにより、気泡ができやすくなり、均一な層を得ることができない。
本発明の成形体は、厚さが20mm以上の湾曲したC/C複合材であっても高強度のC/C複合材を容易に形成することができる。一旦、炭素繊維とバインダとを含むフロックを形成して抄造法により金型に堆積して、フロックの積層体である予備成形体を成形するので、肉厚の予備成形体が得られやすく20mm以上の肉厚のC/C複合材成形体を容易に得ることができる。
【0034】
以下、本発明のC/C複合材成形体の製造方法について説明する。図2は本発明の成形体の製造工程フロー、図3はその成形体の製造方法を示す概要図である。
1.工程(A):フロック形成工程SA
まず、図2(A)及び図3(A1)〜(A2)に示すように、炭素繊維1と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させた後に凝集剤を加え、炭素繊維1とバインダとを凝集させてフロック5を形成する。炭素繊維1は、はじめ図3(A1)に示すように液体中に分散してスラリーを形成するが、時間の経過と共に図3(A2)に示すように凝集してフロック5を形成する。
【0035】
2.工程(B):フロックの積層体(第1成形体)を形成する工程SB
次に、図2(B)及び図3(B)に示すように、フロック5が形成された液体を、多孔状型面21を有する金型20で濾過する。多孔状型面21は側面に多数の開口21Aを有する。これにより、多孔状型面21の表面にフロック5を積層し、フロックの積層体50を形成する。
本発明における製造方法では、従来のように炭素繊維が懸濁したスラリーを直接濾過(抄造)するのではなく、一旦炭素繊維をバインダと共に凝集させてフロックを形成し、フロックを濾過(抄造)することを特徴とする。これにより、多孔状型面21へのフロック5の積層が進行しても、フロック5の間を液体が透過することができるので、液体の透過を遮りにくく、厚いフロックの積層体50を容易に得ることができる。また、図3(C)に拡大図を示すように、水の通過抵抗が小さくするために多孔状型面21の開口21Aより炭素繊維1の平均繊維長を小さくした場合であっても、フロック5を開口21Aより大きく形成することができる。したがって、濾過の際に炭素繊維1が開口21Aを通過することなく、フロックの積層体50を形成することができる。
【0036】
3.工程(C):薄片体前駆体の積層体(第2成形体)を成形する工程SC
次に、工程(C)として、図2(C)及び図3(C)に示すように、フロックの積層体50を加圧する。これにより、炭素繊維1の長手方向は、多孔状型面21の面方向に配向するようになる。そしてフロック5は薄片化して、図3(D)に示すように薄片体前駆体6となる。このようにして、薄片体前駆体の積層体60を形成する。
【0037】
4.工程(D):焼成工程SD
そして、工程(D)として、図2(D)及び図3(D)に示すように、薄片体前駆体の積層体60を焼成する。これにより、バインダ4を炭化して、図1(e)に示すように炭素質マトリックス2を生成し、薄片体前駆体の積層体60は薄片体3となる。このようにして、薄片体3の積層体、すなわち、本発明の成形体100を得る。
【0038】
次に、各工程について下記に詳しく説明する。
【0039】
[炭素繊維調整]
炭素繊維は、前処理として、本発明の成形体に適するように調整をすることが好ましい。一般に広く流通する釣り竿や航空部品などに用いられる炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」とも称する)用の炭素繊維の表面にはサイジング剤などの被膜が形成されているため抄造時に水に分散しにくくなる。このため炭素繊維はサイジング剤などの被膜のないものを選択するか、不活性ガス雰囲気あるいは還元性雰囲気下で熱処理しサイジング剤などを除去する。なお、CFRPの製造の過程で発生する端材を用いても良い。このような被膜は500℃以上に熱処理することで除去することができる。次に炭素繊維の平均繊維長を1.0mm未満となるよう調整することが好ましい。平均繊維長が1.0mm未満であれば前述したように、フロックの積層体(抄造体)段階での嵩密度を高め、成型時の皺の発生を抑え、強度の弱い部分の発生をおさえることが出来、また成形体の厚さ方向の接合強度が得られるようになり、剥離しにくい高強度の成形体を得ることができる。平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維は、市販の炭素繊維や、CFRPの製造の過程で発生するクロス、ストランド等の端材を粉砕することにより得ることができる。炭素繊維のクロス、ストランド等の端材を粉砕することにより、本発明で利用しやすいクロス、ストランド等の痕跡を残さない平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維の原材料を得ることができる。なお、粉砕は、水中に分散しミキサを使用して均一に粉砕することができる。ここでサイジング剤を除去する雰囲気の形成には、有機物から発生する炭化水素ガスや水素などの還元性ガス、窒素ガス、Arガスなどの不活性ガスも適用可能である。
【0040】
[フロック形成工程(A)]
フロックを調製するにあたり、液体としては水を使用することが望ましい。大量の液体を使用するために有機溶媒などに比べ水は安全に使用できる上に、排液の処理が容易であるからである。
炭素質マトリックスの前駆体成分からなるバインダ(以下、「第1バインダ」とも称する。)としては炭素繊維を懸濁する上記液体に不溶で、炭化する物であればどのような物でも利用することができる。第1バインダは、粉状であることが好ましく、粒子径は3〜100μmであることが好ましい。粉状であれば、炭素繊維間の空隙に均一に分散し、偏析を起こりにくくすることができる。このため、後に第1バインダが溶融し炭素繊維表面に付着した場合にも、大きな空洞ができることなく、高強度のC/C複合材を得ることができる。第1バインダとしては、例えば、ピッチ、ならびにフェノール樹脂、フラン樹脂、又はイミド樹脂などの熱硬化性樹脂から選ばれる1種以上を好適に利用することができる。フェノール樹脂としては、例えば、エアウォーター社製ベルパール(登録商標)S890を好適に利用することが出来る。ベルパールは、粉末状のフェノール樹脂であり、表面に疎水性被膜が形成されているため、水中でも溶解することなく粒状を保っているので、炭素繊維と共に凝集することができる。
第1バインダの添加量は炭素繊維100重量部に対し50〜200重量部が好ましい。50重量部未満であると、炭素繊維を十分に縮合できず、200重量部を超えると、脱脂、あるいは焼成時に発生するガスにより気泡ができ易く、いずれも強度低下の原因となる。
【0041】
本発明で用いる凝集剤は、電荷の変化を利用して炭素繊維とバインダとを凝集できるものであればどのような物でもよく、好ましくは、ζ電位を±10mV以下にできる物が望ましい。例えば無機凝集剤材、有機高分子凝集剤等が利用でき、具体的には有機高分子凝集剤のパーコール292(登録商標:アライドコロイド社製)等が好適に利用できる。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができるため、好ましい。フロックが形成されると、炭素繊維で黒く着色したスラリーの状態から、透明な液体中に黒いフロックが浮遊する混合液の状態に変化する。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができる点で好ましく使用することができる。
【0042】
凝集剤の添加量としては、炭素繊維100重量部に対しに対して0.05〜5.0重量部が好ましい。凝集剤の添加量を上記範囲とすることにより崩れにくい良好なフロックを形成することができる。
また、多孔状型面の開口径の大きさは、特には限定されないが0.5〜10mmであることが好ましく、1〜3mmがさらに好ましい。多孔状型面の開口径が0.5mm未満であると、炭素繊維が目詰まりし易く水の通過抵抗が大きくなるおそれがある。多孔状型面の開口径が10mmを超えると、開口部に開口面積に負圧を乗じた吸引力が発生するため、本来通過しない大きさのフロックまでも吸引され通過してしまうことがある。フロックの大きさは、濾過に用いる多孔状型面の開口径と同等以上にする必要がある。フロックの大きさには分布があるので、直径の大きなフロックが型面に捕捉されると、多孔状型面へのフロックの堆積が開始する。多孔状型面の開口径よりもフロックの平均直径が大きく下回ると、フロックの大部分が型面を通過してしまいフロックが型面へ堆積することができない。混合液中におけるフロックの平均直径は0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。フロックの大きさは凝集剤の量、凝集時間、撹拌の強さにより調節することができる。
【0043】
フロックを形成する液体中にはさらに、第2バインダを添加することが好ましい。前記第1バインダ成分は、抄造段階では粉末状であるため、フロックの積層体(抄造体)の形状を保持することができない。第2バインダは、後に得られるフロックの積層体(抄造体)の形状を、後の焼成工程前まで保持するために添加する成分である。第2バインダとしてはフロックの積層体の形状を保持できればどのような物であっても構わない。フロックの積層体を形成する段階で炭素繊維と第1バインダとを、また炭素繊維同士を、物理的に結合させる作用を有する物であればどのような物でも良く、例えば粘性液体、有機繊維などが挙げられる。粘性液体としては、でんぷん、またはラテックスなどが好適に利用できる。ラテックスは、水に混合すると白濁し懸濁液となる。細かく分散したラテックスの液滴は、炭素繊維と第1バインダとを粘着作用により結合させる作用がある。有機繊維としてはパルプなども好適に利用できる。パルプは水との親和性がよく、炭素繊維と絡み合って、炭素繊維と第1バインダとを結合させる作用を有する。第2バインダとして粘性液体を用いた場合は、例えば図3(C)に拡大図を示すように、炭素繊維1と第1バインダ4の間に第2バインダ7aが、炭素繊維1間に第2バインダ7bが介在することで、フロックの積層体50の形状が保持されている。
【0044】
なお、フロックの形成にあたり、上記炭素繊維、第1バインダ、凝集剤及び第2バインダの添加順序は特に制限はなく、これらを同時に液体中に添加しても順次添加してもよいが、均一かつ安定にフロックを形成する観点から下記順序で調製することが好ましい。
a)水に炭素繊維を投入し撹拌しながら分散させる。撹拌が強すぎると気泡ができるので好ましくない。撹拌手段はプロペラシャフト型あるいはパドル型等を用いることができる。炭素繊維の攪拌時間は3分前後が好ましい。
b)次に第1バインダを加え、第1バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
c)次に第2バインダを加え、第2バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
d)最後に凝集剤を加える。撹拌が少ないと凝集剤が混ざらず、撹拌しすぎると形成されたフロックが壊れてしまう。フロックの出来具合を確認しながら撹拌時間を調整する。攪拌時間は20〜30秒が好ましい。
【0045】
[フロックの積層体(第1成形体)形成工程(B)]
こうして形成されたフロック5を含む液体中に金型20を浸漬する。
金型20は、図3(B)に示すように、円筒形状の多孔状型面21と、減圧室22とを備えている。多孔状型面21には、開口21Aが設けられており、多孔状型面21にのみフロックが積層される。減圧室22は配管23により吸引ポンプ(図示せず)と連結されている。従って、吸引ポンプを作動させると、減圧室22内の空気が排出され減圧状態となる。すると、金型20側にフロック5が吸引される。フロック5の大きさは、開口21Aよりも大きいため、フロック5は開口21Aを通過せず多孔状型面21の表面に多孔状型面の面方向に連続した層として積層する。その際、フロック5は、既に形成された積層体に突き刺さるように積層する。積層したフロック5は、吸引力の影響で球形からやや扁平形状となり、フロック内の炭素繊維1の長手方向は多孔状型面21の面方向に配向するようになる。一方、液体は開口21Aを通過し、配管を介して外部に排出される。こうして、フロックの積層体(第1成形体)50を形成することができる。
【0046】
多孔状型面21は、液体を透過できる複数の開口を有する物であればどのような物でもよく、網、パンチングメタル、織布、又は不織布等が挙げられる。
なお、金型の形状については、後述するが、平面、複数の平面の組み合わせ、3次元曲面、曲面の組み合わせ、鍔部を有する円筒体、円錐体、有底体、角柱など適宜選択可能である。
【0047】
また、吸引濾過の際、減圧はどのような物で行っても良い。空気の他液体も一緒に吸引されるので自吸式の渦巻きポンプ、又はアスピレータなどが好適に利用できる。
【0048】
なお、濾過の方法としては、上記に示した吸引濾過の他に、加圧濾過、又は遠心濾過等の方法を採用してもよい。加圧濾過は、例えば、多孔状型面の外表面側を加圧ガスで加圧し、多孔状型面の外表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。遠心濾過は、例えば、内面に多孔状型面を設置した回転体の型の内部にフロックを含む混合液を供給し、回転体を回転させ、多孔状型面の内表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。
【0049】
[乾燥工程]
次に、前記工程で得られたフロックの積層体に残存する水分を除去するために金型ごと乾燥することが好ましい。乾燥は水分を除去するために40℃以上で行うことが好ましい。また、第1バインダの溶融硬化を防止するため、第1バインダの溶融温度以下で行うことが好ましい。例えば、第1バインダとしてベルパール(登録商標)を用いた場合は、70℃前後で疎水性被膜が溶解することに鑑み、60℃以下で通風しながら乾燥させることにより、容易に水分を除去することができる。
【0050】
[加圧工程](薄片体前駆体の積層体(第2成形体)成形)
図3(C)に示すように、フロックの積層体50を密閉フィルム24で覆い、オートクレーブ26を用いて熱と圧力を加え成形し、第2成形体を得る。まず密閉フィルム24内の空気を吸引し真空引きした後、圧力をかける。成形圧は1MPa以上が好ましい。1MPa以上であれば、高い密度の成形体を得ることができる。特に、成形圧に上限はないが、熱を加えて第1バインダを軟化させているので、10MPaの圧力をかければ十分な成形体の密度を得ることができる。このとき、フロックの積層体50の金型20面側(内側または外側)を、支持材25で支持しながら成形することが好ましい。加熱によりフロックの積層体が軟化し、変形するおそれがあるため支持材25で支持することにより、変形を防ぐことができる。ここで用いる支持材25はフロックの積層体(第1成形体)の形成工程(B)で使用した金型20とは異なり、多孔状型面を有さない、表面が平滑なものである。成形体が平面に近い形状である場合は、成形方法としては、1軸成形による加圧方法が利用できる。ただし、この方法は、キャビティーの両側に上型、下型を構成することができる限られた構造でのみしか利用することができない。
【0051】
[硬化工程]
第1バインダが熱硬化性樹脂であるので、上記加圧成形工程において十分に圧力を上げた後、加熱し、フロック内に含まれる熱硬化性樹脂を溶融硬化させることが好ましい。これにより、薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60が変形しないように形状を固定化させることができる。硬化温度は熱硬化性樹脂の硬化温度以上まで上げる必要がある。例えば一般に150℃以上で行うことが出来る。温度が高ければ高いほど硬化が進行する。前記の成形工程をオートクレーブで行う場合等、成形工程で充分に加熱できれば、硬化工程は成形工程と同時に行うこともできる。特に硬化温度に上限はないが、200℃の温度をかければ十分に硬化をさせることができる。
【0052】
[脱脂工程]
焼成工程の前に、薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60内部の有機成分を揮発させるために脱脂を行うことが好ましい。この脱脂工程を経て、第1バインダは炭化し、第2バインダはその大部分が分解し揮散する。このため、脱脂工程以降で結合作用を有するのは、第1バインダ成分を由来とする炭化物である。脱脂の温度はどの程度であっても構わない。脱脂工程の後にピッチ含浸及び、樹脂含浸を行う場合には、気孔を形成しておく必要があるので、500℃以上で脱脂することが好ましい。500℃以上であれば、樹脂の炭化が充分に進行し、後の含浸工程で樹脂あるいはピッチの含浸される充分な大きさの気孔を形成することができる。脱脂温度の上限は、後の焼成温度以下であれば特に制限はないが、1000℃の高温下に置くことで大部分の脱脂を完了させることができる。脱脂は、炭素繊維やバインダが酸化するのを防ぐため、還元性雰囲気で行うことが好ましい。有機物から発生する炭化水素ガスや水素などを用いた還元性雰囲気のほか、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気も適用可能である。
【0053】
[含浸工程]
脱脂後の薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60の気孔内部に、樹脂、ピッチなどを含浸することにより高密度化することが好ましい。脱脂後の薄片体前駆体の積層体(第2成形体)60をオートクレーブに入れ、真空引きした後に、オートクレーブ26中に液状の樹脂やピッチを導入し、浸漬した後圧力を加える。液状の樹脂は、水や有機溶媒で溶液にしたものや、熱を加え、溶融した物でも良いが、溶液にしたものの場合には、使用を繰り返しても重合が進みにくいので、安定して使用することができる。ピッチの場合には、オートクレーブを軟化点以上に加熱して、ピッチを液状にして使用する。
含浸が終了した後、上記脱脂工程と同様に脱脂を行うことにより、より高密度の成形体を得ることができる。
【0054】
[焼成工程(D)]
薄片体前駆体の積層体(第2成形体)にさらに熱を加え焼成することにより、第1バインダは十分に炭化し、炭素質マトリックスを生成する。これにより薄片体前駆体は薄片体となり、薄片体の積層体により構成される本発明のC/C複合材成形体100を得ることができる。
焼成工程においては、温度の上昇と共に支持材は熱膨張し、薄片体前駆体の積層体60は熱収縮する。焼成工程で発生する熱膨張差による応力を回避するため薄片体前駆体の積層体60から支持材25を外し、焼成炉内で、非酸化性雰囲気で加熱することが好ましい。焼成工程の望ましい温度は、1500〜2800℃である。焼成温度が1500℃以上であれば、C/C複合材中の水素などの官能基を充分に除去できる。水素などの官能基が残留すると、C/C複合材成形体を使用する際に炭化水素ガス等が発生する。焼成温度が1500℃以上で焼成されていない成形体を半導体製造装置などで使用すると、この炭化水素ガスが半導体に混入し、純度を低下させるおそれがある。焼成温度が2800℃以下であれば、C/C複合材の結晶化の進行を押さえることができ、強度を維持することができる。さらに望ましい範囲は焼成温度が1800〜2500℃である。加熱速度は500℃/H程度で行ことが好ましい。
【0055】
なお、密度を高めるため、焼成工程の前に含浸工程及び脱脂工程を複数回繰り返しても良い。
【0056】
本発明によれば、多孔状型面21の形状を、所望とする成形体の形状に沿った形状とすることで、上記形状だけでなく、様々な立体形状の成形体を一体成形により製造することができる。
【0057】
そして、本発明のC/C複合材成形体は、乾燥工程、加圧工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、図1(a)及び(b)に示したように、鍔部を持つ円筒状体からなるC/C複合材成形体100を得ることができる。このC/C複合材成形体100は、鍔部と円筒状部との境界部すなわち接合部においても薄片体は第1及び第2の面100i,100oに沿って配向し、薄片体の境界が分散され、面と面の接合部であっても、組成が連続して均一な成形体となる。従って、肉厚かつ高密度で、高強度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0058】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の成形体について、図4に基づいて説明する。図4(a)は実施の形態2の成形体の斜視図、図4(b)は、その断面図、図4(c)は、その要部拡大図、図4(d)は、そのさらなる要部拡大図を示す図である。
実施の形態2のC/C複合材成形体200は、底面を有することを特徴とするもので、底面を有する点以外は、実施の形態1の成形体100と同様である。実施の形態2のC/C複合材成形体200は、底面と円筒から構成されている。
【0059】
実施の形態2のC/C複合材成形体200を製造するには、フロックの積層体50を形成する際に、図5(B)に示すように、多孔状型面31を側面及び底面に有する金型30を用いてフロック5を濾過する。フロック5は、多孔状型面31の面方向に連続した層として積層する。また、図5(C)に示すように、加圧工程における支持材35を有底とする。それ以外は、実施の形態1の製造方法と同様であり、表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブ36に入れ、150℃の熱を加えながら加圧した。これにより、図4(a)および(b)に示すようなC/C複合材成形体200が得られる。、得られたC/C複合材成形体200は、底面と側面の境界領域においても薄片体が成形体200の面200Sに沿ってランダムに配向する。そして面に沿って均一な連続体を形成する。炭素繊維及びマトリックスは、たとえば図4(b)の拡大図において、底面と側面をつなぐ境界領域で薄片体は、緩やかに角度を変えながらランダムに積層され、連続体を形成している。
【0060】
このように炭素繊維の一部が、薄片体の積層方向に隣接する薄片体をつなぐ成分を含むとともに、薄片体は、薄片体の積層方向に隣接する薄片体の端部が該積層方向にずれるように配置されるため、薄片体の境界が分散され、均一な成形体となる。
このように底面と側面の間の境界領域200Rにおいても、薄片体3が表面200Sに沿って配向しておりで均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域200Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。本実施の形態においても実施の形態1と同様に高強度、高密度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0061】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3の成形体について、図6及び図7に基づいて説明する。図6(a)は実施の形態3のC/C複合材成形体の斜視図、図6(b)はその断面図、図7(a)及び(b)は実施の形態3のC/C複合材成形体の製造工程を示す概略図である。なお図6及び7では、上下両面の状態が見えるようにするために上下反転した図を用いている。
実施の形態3のC/C複合材成形体400は、円筒状部400aの下側の端部に円錐台状筒部400bを有する点以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。このように、円錐台状筒部400bを有することで、円筒面を構成する曲面と、円錐台状筒部を構成する曲面とが隣接して連続的に一体形成されている。ここで円筒面を構成する曲面と、円錐台状筒部との境界領域400Rにおいても、薄片体3が表面400Sに沿って配向しており、組成が均一な連続体を構成する。そして高強度で均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域400Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。
【0062】
このC/C複合材成形体400の製造に際しては、円柱状と円錐状の外表面をもつ金型40を用いている以外は前記実施の形態3と同様である。
図6(b)に示すように、多孔状型面41を側面に有する金型40を用いてフロックをろ過する。フロックは、多孔状型面41の面方向に連続した層として積層する。このようにして、円筒状部400aと円錐台状筒部400bからなる薄片体積層体400Sを形成し所望の形状を得ることができる。この薄片体積層体400Sは金型40の外壁に沿った第1の面400iと、この第1の面400iに対向する第2の面400oとで構成される。
【0063】
そして、前記実施の形態1,2と同様に乾燥工程、加圧工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、図6(a)及び(b)に示したような、円錐台状の鍔部を持つ円筒状体からなるC/C複合材成形体400を得ることができる。このC/C複合材成形体400は、鍔部と円筒状部との境界部すなわち接合部においても薄片体は第1及び第2の面400i,400oに沿って配向し、薄片体の境界が分散され、組成が連続して均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは 、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。本実施の形態においても実施の形態1と同様に高強度、高密度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0064】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4の成形体について、図8に基づいて説明する。図8(a)は実施の形態4の成形体の斜視図、図8(b)はその断面図を示す。
実施の形態4のC/C複合材成形体500は、底部500bを有する四角筒状部500aで構成されている。C/C複合材成形体の形状以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。本実施の形態では、四角筒面を構成する4つの平面と、底面とが互いに垂直となるように位置して連続的に一体形成されている。ここで互いに直交する平面間の境界領域500Rにおいても、薄片体3が表面500Sに沿って配向しており、均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域500Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。薄片体の境界が分散され均一な状態とは、貼り合わせによる接着層あるいは、しわを形成しないように滑らかに面をつなぐための切れ目のない状態をいう。本実施の形態においても実施の形態1と同様に高強度、高密度のC/C複合材成形体を得ることができる。
【0065】
<実施例>
図1に示すような円筒状部と円筒状部の下端部分に連続的に周面に沿って形成された鍔部とで構成されたC/C複合材成形体を以下の工程で作成した。
(1)炭素繊維の調整工程
平均繊維長150μm、平均繊維直径は7μmCFRP用のPAN系炭素繊維を準備した。ここでは、水への分散性を改善するために繊維表面に塗布されているサイジング剤を還元性雰囲気下550℃で焼成し除去した後、水に分散させ、平均繊維長150μmになるまでミキサで粉砕した後、脱水し乾燥させた。そして、炭化水素ガスを多量に発生する有機物粉末とともに密閉容器の中で加熱し、密閉容器内を有機物から発生する炭化水素ガスでパージして還元性雰囲気を形成した。
【0066】
(2)フロック形成工程
(a)前記炭素繊維調整工程で得られた炭素繊維を水に投入し撹拌しながら分散させた。撹拌は約3分間行った。
(b)次に炭素繊維100質量部に対し第1バインダとしてフェノール樹脂(エアウォーター社製「ベルパール」(登録商標)S890(200質量部)を加え、同様に1分間撹拌した。
(c)次に第2バインダとしてラテックス(5質量部)を加え、同様に1分間撹拌した。
(d)さらに、凝集剤としてカチオン系凝集剤(アライドコロイド社製「パーコール(登録商標)292」)(0.3質量部)を加え、20秒間撹拌し、フロックを形成した。
【0067】
(3)フロック積層体形成工程(抄造工程)
フロックを形成した水を、外表面に開口1.0mmの金網を備えた円筒形の型で内側から吸引し、金網の表面にフロックを積層し、円筒形の積層体を形成した。開口1.0mmの金網であるが、炭素繊維はフロックを形成しているため、網を通過する炭素繊維はほとんど無かった。そのまましばらく放置し、重力で水分が除去されてから、60℃の乾燥機で乾燥させ、第1成形体を得た。
【0068】
(4)成形工程(薄片体前駆体の積層体(第2成形体)の形成)
前記工程で得られた第2成形体の内側に、金網のない円筒形の金型を挿入し、更に表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブに入れ150℃の熱を加えながら加圧した。加圧圧力は2MPaとした。
【0069】
(5)硬化工程
前記工程に引き続き、積層体をオートクレーブで最大圧力のまま2時間放置した。この工程により、第1バインダ(フェノール樹脂)を硬化した。
【0070】
(6)第1の脱脂工程
前記硬化工程で得られた第2成形体の金型を外し、還元性雰囲気炉で加熱した。加熱は70℃/hの昇温速度で、最高温度550℃となった時点で1時間保持した後、室温まで放冷した。なおこの脱脂工程は、有機物から発生する炭化水素ガスや水素などを用いた還元性雰囲気のほか、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気も適用可能である。
【0071】
(7)(含浸工程)
第1の脱脂工程までに、所望の嵩密度が得られていない場合には、更に含浸を行う。
本実施例では、脱脂後の第2成形体を200℃に加熱したオートクレーブ中にいれ、真空引きした後に軟化点約80℃のピッチを流入し、4MPaで加圧し、積層体中にピッチを含浸した。
【0072】
(8)(第2の脱脂工程)
含浸工程を経た積層体は再度脱脂を行う。条件は(6)の第1の脱脂工程と同様の条件で行った。
【0073】
(9)焼成工程
第2の脱脂を行った積層体は、最後に焼成を行った。還元性雰囲気下で、150℃/hの昇温速度で加熱し、最高温度2000℃となった時点で15分保持した後、室温まで放冷した。この焼成工程により、第1バインダからマトリックスを生成した。マトリックスの存在により、炭素繊維の接着力が強まり、強度を発現することが出来る。このようにして、内直径1000mm、高さ1000mm、厚さ25mmの、円筒形の下端から鍔部の下部までの距離が30mm、鍔部の幅が20mm、鍔部の高さが円筒表面から5mmで、鍔部が連続的に円筒表面に形成された円筒形の成形体を得た。なおこの還元性雰囲気は、有機物から得られる炭化水素ガスでパージすることによって得られる。また水素などの環元性ガスを用いたり、Arや窒素などの不活性ガスを用いることも可能である。
【0074】
<比較例>
実施例1と同様の形状のフェルトを積層したC/C複合材成形体を以下に示すように製造した。まず、平均繊維長150μm、平均繊維直径7μmのPAN系炭素繊維を30mmに切断し、シート状のフェルトを形成した。次にフェノール樹脂のメタノール溶液中に浸漬し、ロールプレスにより3mm厚の炭素繊維シートプレプリグを形成した。このようにして形成された炭素繊維シートプレプリグをマンドレルに周回し、フェルト状のシートの積層された成形体を形成した。
次に、得られた成形体を150℃で保持することによりフェノール樹脂を硬化させ、形状を固定化した。
次に、実施例と同様に脱脂、含浸、脱脂、焼成を行い、内直径600mm、高さ600mm、厚さ25mm円筒形の成形体を得た。円筒型の下端から鍔部の下端までの距離が30mm、鍔部の幅が20mm、鍔部の高さが円筒表面から20mmとなるよう同様に別途制作したリング状の鍔を外側に嵌め合わせ接着した。接着剤にはコプナ樹脂を用い、鍔と円筒型の成形体には接着層が形成された。
【0075】
<物性評価>
・剥離試験1
本実施例1で得られた成形体及び比較例で得られた成形体について、C/C複合材成形体の端部から、所定の深さ毎に層状をなすようにナイフで切り込みを入れ、剥離状態を比較した。
本実施例で得られた成形体は、成形体の面方向に配向した薄片体が形成されており、端部からナイフで成形体の面に平行方向に切れ込みを入れ引き剥がしたが薄片体は容易に剥離しなかった。
本比較例で得られた成形体は、年輪状の層構造が形成されていた年輪状の層構造のみられる端部よりナイフを成形体の面に平行方向に切れ込みを入れ引き剥がしたが、年輪状の層が容易に剥離した。
【0076】
・嵩密度及び曲げ強度
図9(a)は、物性測定サンプルの取りだし方を示し、図9(b)は3点曲げ試験の試験方向を示す模式図である。本実施例及び比較例で得られた成形体から、図9(a)に示すように、円筒形の高さ方向に長い10×10×60mmの直方体の物性測定サンプルをそれぞれ2本得た。この物性測定サンプルの嵩密度及び曲げ強度を測定した。曲げ強度は、島津製作所社製オートグラフ(AG−IS型:0〜5kN)を用い、スパンは50mmとして3点曲げ試験を行って測定した。嵩密度は、体積と質量をそれぞれ求めた。3点曲げ試験は、図9(b)に示すように成形体の面方向に対して垂直方向(薄片体の積層方向)V及び平行方向Pの2方向から行った。嵩密度及び曲げ強度の結果を表1に示す。
【0077】
剥離試験2
本実施例1及び比較例で得られた成形体の鍔部に成形体の軸方向から木槌で衝撃を与え、破壊のされ方を観察した。図16は衝撃試験2における衝撃の与え方を示す図であり、(a)は実施例、(b)は比較例を示し、(b)では円筒形の成形体にリング状の鍔が嵌め合わされている。Aは、本小槌で衝撃を与える部位及び方向を示す。
この衝撃試験2を実施した結果、本実施例の成形体は、衝撃を与えたエッジ部がつぶれるのみであったのに対し、比較例では、円筒型の成形体とリング状の鍔との接着部が剥がれ、リング状の鍔の一部が脱落した。
【0078】
【表1】
【0079】
・表面及び断面の観察
上記実施例及び比較例で得られた各成形体の表面及び断面を、各種写真により観察した。
・偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真用の試料の作成方法
炭素繊維成形体の試料をエポキシ樹脂に包埋し、機械研磨法により断面を作製した後、フラットミリング処理(45°、3分)を行った。Pt-Pdスパッタを施した断面をFE−SEM、及び偏光顕微鏡にて観察した。ここでエポキシ樹脂は、柔らかい試料、変形し易い試料、細かな試料などから平坦な面を切り出すための試料の固定用として用いたものである。例えば、粉末の端面や、繊維の断面など通常は断面加工が難しいが、このようにエポキシ樹脂などの固定剤で固定することで観察可能となる。
(分析装置及び測定条件)
[フラットミリング]
装置 :hitachi E−3200
出力 :5kV、0.5mA
[FE−SEM]
装置 :Jeol、JSM−7001F
加速電圧:5kV
観察像:二次電子像
[偏光顕微鏡]
装置 :ニコン製
【0080】
図10(A)は実施例の成形体の断面の偏光顕微鏡写真、図10(B)は比較例の成形体の断面の偏光顕微鏡写真である。実施例の成形体は、成形体の面方向に配向した薄片体が形成され、薄片体の境界が分散された均一な成形体となっていることが分かる。比較例の成形体は、年輪状の層構造が形成されていることが分かる。
【0081】
図11(A)は、本発明の実施例1の円筒形成形体の内表面の偏光顕微鏡写真である。図11(B)は、図11(A)の写真の中で観察される薄片体を示す。図11(B)における実線領域が各々の薄片体3を示す。図11(C)は、図11(A)の表面から剥離された薄片体の写真を示す。内表面は支持材25を用いて成形しているので大きな凹凸のない平坦な面が得られているが、表面にはフロックから形成された面方向に平行に配向した薄片体が露出しているのを確認することができる。この薄片体は、構成する炭素繊維が面方向に平行に配向しているので、端部の露出した部位から少しずつ引きはがすことができるが、薄片体が一枚ずつ剥がれるのみで炭素繊維成形体全体に至る剥離は起こらない。このような剥離は、炭素繊維成形体を層方向に破壊した破断面でも同様に確認することができる。
【0082】
図12(A)は、比較例の成形体の断面を拡大したSEM写真を示し、図12(B)はその模式図を示す。シート界面部の繊維が界面に沿って強く平行に配向していることが確認できる。
【0083】
図13は、実施例の成形体の断面のSEM写真である。写真上下方向が成形体の厚さ方向であり、横方向が面方向である。図13(A)は倍率100、(B)は倍率200、(C)は倍率500での実施例の成形体の断面のSEM写真である。図13(A)は、断面のSEM写真の中で観察される薄片体を示す。図13(A)における実線領域が各々の薄片体3を示す。図13(B)は、図13(A)の薄片体部分をさらに拡大したSEM写真である。図13(C)は図13(B)の薄片体部分をさらに拡大したSEM写真である。図13(B)に示すように薄片体は、炭素繊維成形体の面方向に平行に配向しながら積層していることが確認できる。
【0084】
図14(A)は本発明の成形体の断面の偏光顕微鏡写真である。写真上下方向が成形体の厚さ方向(薄片体の積層方向)であり、横方向が面方向である。図14(A)は倍率100である。(B)は倍率200での比較例の成形体の断面のSEM写真である。図14(B)で確認されるように薄片体は、炭素繊維成形体の面方向に平行に炭素繊維が強く配向した領域が存在し、この領域では厚み方向の繊維のつながりがほとんど形成されていないことが確認される。このため、比較例では、図14(B)で写真上下の張力に対して前記の繊維が強く配向した領域が欠陥となっていることがわかる。写真上下方向が成形体の厚さ方向(シートの積層方向)であり、横方向が面方向である。偏光顕微鏡は結晶の配向方向によって異なる色で観察されるので繊維、マトリックスを容易に区別することが出来、観察面との関係により繊維は線状、楕円状、円形状となって観察される。また、図中の濃い灰色で濃淡のない部位は、封止樹脂として用いたエポキシ樹脂Eであり、それ以外の領域は、図14(A)では炭素繊維成形体(マトリックス及び炭素繊維を含む薄片体)であり、図14(B)では炭素繊維成形体Cである。
図14(A)の実線で囲んだ領域内に、偏光顕微鏡写真の上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が確認できた。一方、図14(B)では薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分は観察されなかった。
【0085】
図14(A)のような偏光顕微鏡写真において、薄片体同士をつなぐ炭素繊維が観察されるためには、観察面に炭素繊維が存在し、かつ炭素繊維の長手方向が観察面に含まれなければならない。図14(A)において、写真の上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が確認できたため、他にも多くの観察出来ない上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が存在しているといえる。
【0086】
表1の測定結果に示すように、本実施例で得られた成形体の3点曲げ強度は成形体の面方向と垂直な方向(薄片体の積層方向)75.7MPa、平行な方向69.0MPaで、成形体の面方向に垂直であっても平行であってもほぼ同等の3点曲げ強度が得られた。その理由は本実施例の成形体の薄片体が積層されて構成されており、さらに、厚さ方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分の存在により、均質な成形体が得られているからである。
上記比較例で得られた成形体の3点曲げ強度は成形体の面方向と垂直な方向は19.6MPaであり、平行な方向47.2MPaに比べてかなり低くなっている。本比較例で得られた成形体において、成形体の面方向に平行な方向に比べ、垂直な方向の強度が大きく低下しているのは、成形体の面方向に垂直な方向での3点曲げ試験では、積層されたシートが剥離するように破壊されたためであると考えられる。
上記比較例では、シートが積層されて構成されており、厚さ方向に配向してシート間をつなぐ炭素繊維成分が存在しないので、シート間の接合力が弱く、成形体の面方向に垂直な方向での3点曲げ試験では、著しい強度の低下が見られた。また成形体の面方向に平行な方向での3点曲げ試験でも、シートの剥離が見られ、実施例に比べ低い強度しか得られなかった。
本実施例で得られた成形体は、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、炭素繊維は、その長手方向が表面に沿って配向している。すなわちため、面との接合部を始め成形体全体において炭素繊維が、組成が均一で表面に沿って配向した連続体を構成していることが確認された。このため、面と面との接合部などに強度的な欠陥が形成されておらず、成形体の面方向と垂直な方向および平行な方向の強度が高くなっていると考えられる。
【0087】
なお、本発明において成形体の面方向とは成形体を構成する主要な面をいい、外表面とは、成形体の外表面をいうが、端面を含まないこととする。焼成後、表面を研磨加工したり、孔をあけたり、機械的加工を施したりすることで新たに形成される面も含まないこととする。抄造法による成型時の外表面に沿って、前記炭素繊維の長手方向が、連続的に配向した構成をとることで、極めて機械的強度が高く、耐熱性に優れたC/C複合材成形体を得ることができる。
また、本発明は、円筒、円錐、凹面、凸面など、平面以外のいかなる形状にも適用することができる。特に貼り合わせの必要な形状に有用であることから、円筒、円錐型など、複雑な面の組み合わせによる立体構造に用いる場合に特に、優れた効果が発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のC/C複合材成形体は、高強度、高密度、かつ耐熱性が高い成形体であるため、シリコン単結晶引き上げ装置、化合物半導体結晶引き上げ装置、太陽電池用シリコン製造装置(シリコン薄膜形成装置、シリコンインゴットの製造装置など)、原子力、核融合、冶金分野等で用いられる装置部品など、高温下で用いられる部材、あるいは宇宙部品、航空部品など、温度変化に対しても高強度を維持する必要のある分野などで多く用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
100、200、400、500 成形体
1 炭素繊維
2 炭素質マトリックス
3 薄片体
4 バインダ、第1バインダ
5 フロック
50 フロックの積層体(第1成形体)
6 薄片体前駆体
60 薄片体前駆体の積層体(第2成形体)
7、7a、7b 第2バインダ
20、30 金型
21、31 多孔状型面
21A 開口
22 減圧室
23 配管
24、34 密閉フィルム
25、35 支持材
26、36 オートクレーブ
100i、400i、500i 第1の面
100o、400o、500o 第2の面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体であって、
前記C/C複合材成形体は、表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
前記炭素繊維は、その長手方向が前記表面に沿って配向していることを特徴とするC/C複合材成形体。
【請求項2】
請求項1に記載のC/C複合材成形体であって、
前記表面は、
(A)3次元曲面と平面または曲面との組み合わせ、(B)曲面と平面の組み合わせ、(C)曲面と曲面の組み合わせ、(D)複数の平面の組み合わせ、のいずれかであるC/C複合材成形体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維は、直線状繊維からなることを特徴とするC/C複合材成形体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向した薄片体を形成し、
前記殻状構造体は、該薄片体の積層体により構成されるC/C複合材成形体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の平均繊維長は1mm未満であるC/C複合材成形体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
前記殻状構造体の表面に対して垂直な方向への炭素繊維の配向成分が連続的に存在するC/C複合材成形体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3以上であるC/C複合材成形体。
【請求項8】
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程(A)と、
前記フロックを形成した液体を、3次元曲面あるいは連続した複数の面の組み合わせのいずれかの連続面からなる多孔状型面を有する金型で濾過することにより、該多孔状型面の表面に前記フロックを積層し、該フロックの積層体を形成する工程(B)と、
前記フロックの積層体を加圧し、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程(C)と、
前記薄片体前駆体の積層体を焼成し、前記バインダを炭化して炭素質マトリックスを生成することにより、薄片体の積層体を形成する焼成工程(D)と、を具備し、
表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
その長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向している炭素繊維と、前記炭素繊維を囲む炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(B)における濾過が吸引濾過であるC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(A)が、直線状繊維からなる炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分である第1バインダと、前記炭素繊維と前記第1バインダとを結合させる成分である第2バインダとを、液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(D)が、前記フロックの積層体をフィルムで被覆した状態でオートクレーブにより加熱圧縮を行い、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項1】
炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体であって、
前記C/C複合材成形体は、表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
前記炭素繊維は、その長手方向が前記表面に沿って配向していることを特徴とするC/C複合材成形体。
【請求項2】
請求項1に記載のC/C複合材成形体であって、
前記表面は、
(A)3次元曲面と平面または曲面との組み合わせ、(B)曲面と平面の組み合わせ、(C)曲面と曲面の組み合わせ、(D)複数の平面の組み合わせ、のいずれかであるC/C複合材成形体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維は、直線状繊維からなることを特徴とするC/C複合材成形体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向した薄片体を形成し、
前記殻状構造体は、該薄片体の積層体により構成されるC/C複合材成形体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
前記炭素繊維の平均繊維長は1mm未満であるC/C複合材成形体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
前記殻状構造体の表面に対して垂直な方向への炭素繊維の配向成分が連続的に存在するC/C複合材成形体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のC/C複合材成形体であって、
嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3以上であるC/C複合材成形体。
【請求項8】
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程(A)と、
前記フロックを形成した液体を、3次元曲面あるいは連続した複数の面の組み合わせのいずれかの連続面からなる多孔状型面を有する金型で濾過することにより、該多孔状型面の表面に前記フロックを積層し、該フロックの積層体を形成する工程(B)と、
前記フロックの積層体を加圧し、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程(C)と、
前記薄片体前駆体の積層体を焼成し、前記バインダを炭化して炭素質マトリックスを生成することにより、薄片体の積層体を形成する焼成工程(D)と、を具備し、
表面が3次元曲面あるいは複数の面の組み合わせで構成され、全体の組成が均一である連続体からなる殻状構造体であり、
その長手方向が前記殻状構造体の表面に沿って配向している炭素繊維と、前記炭素繊維を囲む炭素質マトリックスとを含むC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(B)における濾過が吸引濾過であるC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(A)が、直線状繊維からなる炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分である第1バインダと、前記炭素繊維と前記第1バインダとを結合させる成分である第2バインダとを、液体中に懸濁させると共に凝集剤を加え、前記炭素繊維と前記バインダとを凝集させてフロックを形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載C/C複合材成形体の製造方法であって、
前記工程(D)が、前記フロックの積層体をフィルムで被覆した状態でオートクレーブにより加熱圧縮を行い、前記炭素繊維の長手方向を前記多孔状型面の面方向に配向させて、該フロックを薄片化することにより、薄片体前駆体の積層体を形成する工程であるC/C複合材成形体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−36017(P2012−36017A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174967(P2010−174967)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
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