説明

CMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに基体の研磨方法

【課題】絶縁膜に対する研磨速度を向上させることが可能なCMP研磨液を提供する。
【解決手段】本発明のCMP研磨液は、水及び砥粒を含み、砥粒が、第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた第2の粒子と、を有する複合粒子を含有し、第1の粒子がシリカを含有し、第2の粒子が水酸化セリウムを含有し、CMP研磨液のpHが9.5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法に関する。特に、本発明は、半導体素子の製造技術である、基体の被研磨面の平坦化工程に用いられるCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等の平坦化工程において使用されるCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の製造工程では、高密度化・微細化のための加工技術の重要性がますます高まっている。加工技術の一つであるCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング:化学機械研磨)技術は、半導体素子の製造工程において、シャロートレンチ・アイソレーション(STI)の形成、プリメタル絶縁膜や層間絶縁膜の平坦化、プラグの形成、埋め込み金属配線の形成等に必須の技術となっている。
【0003】
CMP研磨液として最も多用されているのは、砥粒として、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等のシリカ(酸化珪素)粒子を含むシリカ系CMP研磨液である。シリカ系CMP研磨液は汎用性が高いことが特徴であり、砥粒含有量、pH、添加剤等を適切に選択することで、絶縁膜や導電膜を問わず幅広い種類の膜を研磨することができる。
【0004】
一方で、主に酸化珪素膜等の絶縁膜を対象とした、砥粒としてセリウム化合物粒子を含むCMP研磨液の需要も拡大している。例えば、酸化セリウム(セリア)粒子を砥粒として含む酸化セリウム系CMP研磨液は、シリカ系CMP研磨液よりも低い砥粒含有量でも高速に酸化珪素膜を研磨できる(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【0005】
また、4価金属元素の水酸化物粒子を砥粒として用いたCMP研磨液が検討されており、この技術は下記特許文献3に開示されている。この技術は、4価金属元素の水酸化物粒子が有する化学的作用を活かしつつ機械的作用を極力小さくすることによって、砥粒により生じる研磨傷の低減と、研磨速度の向上とを両立させたものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−106994号公報
【特許文献2】特開平08−022970号公報
【特許文献3】国際公開第02/067309号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CMP研磨液に対しては、従来のCMP研磨液よりも絶縁膜に対する研磨速度を更に向上させることが求められているのが現状である。研磨速度を向上させるためには、一般に種々の添加剤がCMP研磨液に加えられているが、このようなアプローチには限界がある。
【0008】
本発明は、このような技術的課題を解決しようとするものであり、絶縁膜に対する研磨速度を向上させることが可能なCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の発明者らは、砥粒そのものが有する研磨能力を更に向上させることを検討し、特定成分を含有する複合粒子を砥粒として用いることを着想し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明のCMP研磨液は、水及び砥粒を含むCMP研磨液であって、砥粒が、第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた第2の粒子と、を有する複合粒子を含有し、第1の粒子がシリカを含有し、第2の粒子が水酸化セリウムを含有し、前記CMP研磨液のpHが9.5以下である。
【0011】
本発明のCMP研磨液によれば、従来のCMP研磨液に比して、絶縁膜(例えば酸化珪素膜)に対する研磨速度を向上させることができる。特に、本発明のCMP研磨液によれば、砥粒としてシリカ粒子及び酸化セリウム粒子をそれぞれ単独で使用した従来のCMP研磨液、又は、両者を単に混ぜ合わせて使用したCMP研磨液と比較して、絶縁膜に対する研磨速度を顕著に向上させることができる。さらに、本発明のCMP研磨液によれば、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、これらの絶縁膜を高速に研磨することができる。本発明のCMP研磨液によれば、絶縁膜に対する研磨速度を向上させつつ、絶縁膜を低研磨傷で研磨することもできる。
【0012】
また、本発明は、酸化珪素を含む被研磨面を研磨する研磨方法への前記CMP研磨液の使用に関する。すなわち、本発明のCMP研磨液は、酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために用いられることが好ましい。
【0013】
本発明の基体の研磨方法は、前記CMP研磨液を用いて基体の被研磨面を研磨する工程を備える。
【0014】
このような構成の研磨方法によれば、前記と同様の構成を有するCMP研磨液を用いることにより、従来の研磨液を用いた場合よりも、絶縁膜に対する研磨速度を向上させることができる。
【0015】
本発明のCMP研磨液の製造方法は、水及び砥粒を含むCMP研磨液の製造方法であって、シリカを含有する第1の粒子と、水酸化セリウムの前駆体を含有する第1の成分と、前記前駆体と反応して、水酸化セリウムを含有する第2の粒子を析出させることが可能な第2の成分と、を含む水溶液中で、前記前駆体と前記第2の成分とを反応させて前記第2の粒子を析出させ、前記第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた前記第2の粒子と、を有する複合粒子を得る工程を備え、砥粒が複合粒子を含有し、CMP研磨液のpHが9.5以下である。本発明のCMP研磨液の製造方法によれば、絶縁膜に対して良好な研磨速度を示すCMP研磨液を得ることができる。
【0016】
本発明のCMP研磨液の製造方法においては、前記第1の粒子及び前記第1の成分を含む液と、前記第2の成分を含む液とを混合して前記複合粒子を得ることが好ましい。これにより、絶縁膜に対して更に良好な研磨速度を示すCMP研磨液を得ることができる。
【0017】
本発明のCMP研磨液の製造方法においては、前記前駆体が4価のセリウム塩であり、前記第2の成分が塩基性化合物であることが好ましい。これにより、絶縁膜に対して更に良好な研磨速度を示すCMP研磨液を簡便に得ることができる。
【0018】
本発明のCMP研磨液の製造方法は、前記複合粒子を水に分散させる工程を更に備えていることが好ましい。これにより、絶縁膜に対して更に良好な研磨速度を示すCMP研磨液を得ることができる。
【0019】
本発明のCMP研磨液の製造方法は、前記複合粒子を洗浄する工程を更に備えていることが好ましい。これにより、絶縁膜に対する研磨速度のばらつきを抑制することができる。
【0020】
本発明の複合粒子の製造方法は、シリカを含有する第1の粒子と、水酸化セリウムの前駆体を含有する第1の成分と、前記前駆体と反応して、水酸化セリウムを含有する第2の粒子を析出させることが可能な第2の成分と、を含む水溶液中で、前記前駆体と前記第2の成分とを反応させて前記第2の粒子を析出させ、前記第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた前記第2の粒子と、を有する複合粒子を得る工程を備える。本発明の複合粒子の製造方法によれば、絶縁膜に対して良好な研磨速度を示すCMP研磨液の砥粒として好適な複合粒子を得ることができる。
【0021】
本発明の複合粒子の製造方法においては、前記第1の粒子及び前記第1の成分を含む液と、前記第2の成分を含む液とを混合して前記複合粒子を得ることが好ましい。これにより、絶縁膜に対して良好な研磨速度を示すCMP研磨液の砥粒として更に好適な複合粒子を得ることができる。
【0022】
本発明の複合粒子の製造方法においては、前記前駆体が4価のセリウム塩であり、前記第2の成分が塩基性化合物であることが好ましい。これにより、絶縁膜に対して良好な研磨速度を示すCMP研磨液の砥粒として更に好適な複合粒子を簡便に得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、絶縁膜に対する研磨速度を向上させることが可能なCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することができる。本発明によれば、特に、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、絶縁膜を高速に研磨できるCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、絶縁膜に対する研磨速度を向上させつつ、絶縁膜を低研磨傷で研磨することが可能なCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、粒子の平均粒径の算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係るCMP研磨液、該CMP研磨液の製造方法、複合粒子の製造方法、及び、前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法について詳細に説明する。
【0026】
<CMP研磨液>
本実施形態のCMP研磨液は、研磨時に被研磨面に触れる組成物である。具体的には、本実施形態のCMP研磨液は、水と、複合粒子を含有する砥粒とを少なくとも含む。以下、各必須成分及び任意に添加できる成分について説明する。
【0027】
(砥粒)
本実施形態のCMP研磨液は、砥粒として、シリカ及び水酸化セリウムを含有する複合粒子を含む。このような複合粒子は、ヒュームドシリカやコロイダルシリカ等のシリカ粒子、酸化セリウム粒子、水酸化セリウム等の4価金属元素の水酸化物粒子などを単独で使用するCMP研磨液、又は、単純に複数種の粒子を混合して使用するCMP研磨液と比較して、絶縁膜に対して高い研磨速度を示す。
【0028】
ここで、複合粒子とは、シリカ粒子と水酸化セリウム粒子とが、単純な分散処理ではそれぞれの粒子に分離されない程度に複合化(例えば付着や融合)されたものとして定義される。例えば、複合粒子は、複合化していないシリカ粒子と水酸化セリウム粒子とを個々に含む混合粒子を水等の媒体中に添加して得られる液においてシリカ粒子と水酸化セリウム粒子とが凝集した粒子とは明確に区別される。
【0029】
複合粒子は、第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた第2の粒子と、を有する。第1の粒子は、シリカを含有する粒子(以下、単に「シリカ粒子」という)であり、第2の粒子は、水酸化セリウムを含有する粒子(以下、単に「水酸化セリウム粒子」という)である。コアは、単一のシリカ粒子から構成されていてもよく、シリカ粒子の凝集体や、シリカ粒子が会合してなる粒子であってもよい。また、水酸化セリウム粒子における前記「水酸化セリウム」は、四価の水酸化セリウム(Ce(OH))であってもよく、四価の水酸化セリウムの一部のOH基がOH基以外の基によって置換された化合物(例えば、Ce(OH)4-n:式中nは1〜3の整数であり、XはOH基以外の基を示す)であってもよい。
【0030】
複合粒子において、水酸化セリウム粒子は、コアの表面の少なくとも一部に設けられていればよい。すなわち、コアが完全に被覆されるようにコアの周囲に複数の水酸化セリウム粒子が設けられていてもよく、コアの一部が露出するようにコア上に水酸化セリウム粒子が設けられていてもよい。複合粒子としては、コア(核)と、該コア上に設けられた水酸化セリウム粒子から構成されるシェル(殻)とを有するコアシェル構造を有する粒子であってもよい。水酸化セリウム粒子は、シリカ粒子の表面に強固に付着していてもよく、シリカ粒子の表面に融合していてもよい。なお、コアシェル構造を有する粒子の場合、シェルを構成する水酸化セリウムは、厳密には粒子形状を有さないが、このような粒子も、「第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた第2の粒子と、を有する複合粒子」に含まれるものとする。
【0031】
複合粒子に用いるシリカ粒子としては、特に制限はなく、具体的には、コロイダルシリカやヒュームドシリカ等のシリカ粒子などが挙げられ、コロイダルシリカ粒子が好ましい。シリカ粒子としては、表面修飾をしていないシリカ粒子、表面水酸基をカチオン基、アニオン基、ノニオン基等で修飾したシリカ粒子、表面水酸基をアルコキシ基等で置換したシリカ粒子などを使用することができる。
【0032】
CMP研磨液中の複合粒子の平均粒径の下限は、研磨速度が低くなりすぎることを避ける点で、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、15nm以上が更に好ましく、20nm以上が特に好ましく、30nm以上が極めて好ましく、40nm以上が非常に好ましい。また、複合粒子の平均粒径の上限は、絶縁膜に傷がつきにくくなる点で、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、250nm以下が更に好ましく、200nm以下が特に好ましく、150nm以下が極めて好ましい。
【0033】
なお、砥粒に含まれる複合粒子において、水酸化セリウム粒子の平均粒径は、例えば、シリカ粒子の平均粒径よりも小さいことが好ましい。すなわち、「(シリカ粒子の平均粒径)−(水酸化セリウム粒子の平均粒径)>0」であることが好ましい。シリカ粒子の平均粒径は、特に制限はないが、例えば10〜350nmである。水酸化セリウム粒子の平均粒径は、特に制限はないが、例えば0.1〜100nmであることが好ましい。水酸化セリウム粒子の平均粒径の上限は、更に良好な研磨速度が得られる観点から、80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましく、20nm以下であることが特に好ましく、10nm以下であることが極めて好ましく、10nm未満であることが非常に好ましい。水酸化セリウム粒子の平均粒径の下限は、製造容易性の観点から、0.5nm以上がより好ましく、1nm以上が更に好ましい。
【0034】
ここで、複合粒子の平均粒径、水酸化セリウム粒子の平均粒径及びシリカ粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡で観測して得られたSEM画像、又は、透過型電子顕微鏡で観測して得られたTEM画像から測定することができる。例えば、複数の粒子が観察されるSEM画像において粒子を無作為に複数個(例えば20個)選び出す。選び出した粒子について、SEM画像に表示される縮尺を基準に粒径を測定する。粒径は、粒子の最長径と該最長径に対して垂直方向の径との積の平方根(二軸平均粒子径)として求めることができる。得られた複数の測定値の平均値を粒子の平均粒径とする。
【0035】
より具体的には、測定対象の粒子を含む液を適量取り容器に入れ、パターン配線付きウエハを2cm角に切ったチップを容器内に約30秒間浸す。次に、純水が入れられた容器にチップを移して約30秒間すすぎ、そのチップを窒素ブロー乾燥する。その後、SEM観察用の試料台にチップを載せ、加速電圧10kVを掛け、適切な倍率(例えば20万倍)にて粒子を観察すると共に画像を撮影する。得られた画像から任意に複数個(例えば20個)の粒子を選択する。
【0036】
次に、各粒子の粒径を算出する。例えば、選択した粒子がSEM画像において図1に示すような形状であった場合、粒子1に外接し、その長径が最も長くなるように配置した外接長方形2を導く。そして、その外接長方形2の長径をL、短径をBとしたときの値「√(L×B)」として、1粒子の二軸平均粒子径を算出する。この作業を任意の20個の粒子に対して実施し、二軸平均粒子径の平均値を粒子の平均粒径とする。
【0037】
なお、複合粒子において、シリカ粒子の表面が水酸化セリウム粒子で被覆され、シリカ粒子の形状が見えない場合がある。この場合、シリカ粒子の平均粒径は、(1)複合粒子の作製段階において原料のシリカ粒子を走査型電子顕微鏡で観測して得られたSEM画像から上記の手順で平均粒径を求める方法、(2)複合粒子を走査型電子顕微鏡で観測して得られたSEM画像から、複合粒子の平均粒径(R)と、水酸化セリウム粒子の平均粒径(R)とをそれぞれ上記の手順で測定し、シリカ粒子の表面が一層の水酸化セリウム粒子に被覆されているとの仮定に基づき計算式「R−2R」によってシリカ粒子の平均粒径を求める方法のいずれかで決定することができる。
【0038】
また、前記複合粒子がコアシェル構造を有する場合は、例えば、TEM画像から一つの粒子に対して無作為に選択した4箇所のシェルの厚みを測定し、この平均値をR2とすることができる。
【0039】
なお、本実施形態のCMP研磨液は、前記複合粒子の特性を損なわない範囲で、前記複合粒子とは異なる他の種類の粒子(例えばシリカ粒子、水酸化セリウム粒子、アルミナ粒子等)を砥粒として含んでいてもよい。この場合、砥粒は、更に優れた研磨速度が得られる観点で、全砥粒において前記複合粒子の含有量が多いことが好ましい。例えば、前記複合粒子の含有量は、砥粒全体を基準として10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、40質量%以上が特に好ましく、50質量%以上が極めて好ましい。
【0040】
砥粒の含有量(複合粒子とは異なる他の種類の粒子を含む場合、複合砥粒及び他の種類の砥粒の合計の含有量をいう)の下限は、更に好適な研磨速度を得ることができる点で、CMP研磨液の全質量を基準として0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、CMP研磨液の保存安定性を高くできる点で、CMP研磨液の全質量を基準として20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0041】
(添加剤)
本実施形態のCMP研磨液は、添加剤を更に含んでいてもよい。ここで、「添加剤」とは、複合粒子の分散性、研磨特性、保存安定性等を調整するために、水や砥粒以外にCMP研磨液に含まれる物質を指す。
【0042】
前記添加剤としては、水溶性高分子、カルボン酸、アミノ酸、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0043】
前記のうち水溶性高分子は、複合粒子の分散性を向上させ、研磨速度を更に向上させると共に、平坦性や面内均一性を向上させる効果を有する。ここで、「水溶性」とは、水:100gに対して、0.1g以上溶解すれば水溶性であるとする。
【0044】
水溶性高分子の具体例としては、特に制限はなく、例えば、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン、キトサン、キトサン誘導体、デキストラン、プルラン等の多糖類;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリアミド酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩、ポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクロレイン等のビニル系ポリマ;アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等のアクリル系モノマを単量体成分として含む組成物を重合させて得られるアクリル系ポリマ;ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。前記水溶性高分子が分子中に酸性置換基又は塩基性置換基を含む場合、それぞれの置換基の一部が塩を構成していてもよく、例えば、酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0045】
また、ポリビニルアルコールに官能基を導入した、ポリビニルアルコール誘導体も利用することができる。ポリビニルアルコール誘導体としては、例えば、反応型ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名:ゴーセファイマーZ等、ゴーセファイマーは登録商標)、カチオン化ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名:ゴーセファイマーK等)、アニオン化ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名:ゴーセランL、ゴーセナールT等、ゴーセラン及びゴーセナールは登録商標)、親水基変性ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名:エコマティ(登録商標)等)等が挙げられる。また、複数の水溶性高分子を併用して用いてもよい。
【0046】
カルボン酸は、pHを安定化させる効果がある。カルボン酸としては、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸等が挙げられる。
【0047】
アミノ酸は、複合粒子の分散性を向上させ、絶縁膜(例えば酸化珪素膜)の研磨速度を更に向上させる効果を有する。アミノ酸としては、具体的には、例えば、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、チロシン、トリプトファン、セリン、トレオニン、グリシン、アラニン、β−アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン等が挙げられる。
【0048】
両性界面活性剤は、複合粒子の分散性を向上させ、絶縁膜(例えば酸化珪素膜)の研磨速度を更に向上させる効果を有する。両性界面活性剤としては、具体的には、例えば、ベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。中でも、分散性安定性が向上する観点から、ベタイン、β−アラニンベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインが更に好ましい。
【0049】
陰イオン性界面活性剤は、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する効果を有する。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、特殊ポリカルボン酸型高分子分散剤等が挙げられる。
【0050】
非イオン性界面活性剤は、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する効果を有する。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0051】
陽イオン性界面活性剤は、研磨特性の平坦性や面内均一性を調整する効果を有する。陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0052】
CMP研磨液が前記添加剤を含む場合、これら添加剤の含有量(添加量)の下限は、砥粒の分散性、研磨特性、保存安定性を更に向上させることができることから、CMP研磨液の全質量を基準として0.01質量%以上が好ましい。添加剤の含有量の上限は、砥粒の沈降を防ぐ観点から、CMP研磨液の全質量を基準として20質量%以下が好ましい。
【0053】
(水)
本実施形態のCMP研磨液は、水を含有する。水としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水が好ましい。水の含有量は、他の含有成分の含有量を除いたCMP研磨液の残部でよく、特に限定されない。
【0054】
(pH)
本実施形態のCMP研磨液のpHは、CMP研磨液の保存安定性や研磨速度に優れる点で、9.5以下である。CMP研磨液のpHが9.5以下であることにより、砥粒の凝集を抑制できる。本実施形態のCMP研磨液のpHは、砥粒の粒径の安定性、及び、絶縁膜に対する効率的な研磨速度が得られる観点で、9.0以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、8.0以下が更に好ましく、7.5以下が特に好ましく、7.0以下が極めて好ましい。また、本実施形態のCMP研磨液のpHは、絶縁膜に対する効率的な研磨速度が得られる点で、3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、4.0以上が更に好ましく、4.5以上が特に好ましく、5.0以上が極めて好ましい。
【0055】
CMP研磨液のpHは、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸等の酸成分、又は、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、TMAH、イミダゾール等のアルカリ成分の添加によって調整可能である。また、pHを安定化させるため、CMP研磨液に緩衝液を添加してもよい。このような緩衝液としては、例えば、酢酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液等が挙げられる。
【0056】
CMP研磨液のpHは、pHメーター(例えば、電気化学計器株式会社製、型番:PHL−40)で測定することができる。pHの測定値としては、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、ホウ酸塩pH緩衝液 pH:9.18(25℃))を用いて、3点校正した後、電極をCMP研磨液(25℃)に入れて、2分以上経過して安定した後の値を採用することができる。
【0057】
<複合粒子の製造方法、CMP研磨液の製造方法>
本実施形態のCMP研磨液の製造方法は、シリカ及び水酸化セリウムを含有する複合粒子を作製する複合粒子作製工程を備えている。また、本実施形態のCMP研磨液の製造方法は、複合粒子作製工程の後、洗浄工程と分散工程と砥粒含有量調整工程とを任意に備えている。なお、洗浄工程及び分散工程の順序は特に限定されるものではなく、洗浄工程及び分散工程のそれぞれは複数回繰り返されてもよい。
【0058】
複合粒子作製工程において、複合粒子は、以下の複合粒子の製造方法により製造することができる。複合粒子作製工程では、シリカ粒子と、水酸化セリウムの前駆体を含有する第1の成分(反応成分)と、前記前駆体と反応して、水酸化セリウム粒子を析出させることが可能な第2の成分と、を含む水溶液中で、前記前駆体と第2の成分とを反応させて水酸化セリウム粒子を析出させ、複合粒子を得る。
【0059】
複合粒子作製工程では、例えば、シリカ粒子及び第1の成分を含む前駆体液(第1の液)と、第2の成分を含む反応液(第2の液)とを混合し、第1の成分の前記前駆体と第2の成分とを反応させて複合粒子を得ることができる。複合粒子作製工程では、シリカ粒子及び第1の成分を含む前駆体液に第2の成分を添加することや、第2の成分を含む反応液にシリカ粒子及び第1の成分を添加することで、複合粒子を作製してもよい。
【0060】
水酸化セリウムの前駆体としては、例えば4価のセリウム塩が挙げられ、第2の成分としては、例えば塩基性化合物が挙げられる。また、水酸化セリウムの前駆体が4価のセリウム塩であり、且つ、前記反応液が第2の成分として塩基性化合物を含有するアルカリ液であることが好ましい。
【0061】
4価のセリウム塩としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、Ce(NO、Ce(SO、Ce(NH(NO、Ce(NH(SO等が挙げられる。
【0062】
アルカリ液としては、従来公知のものを特に制限なく使用できる。アルカリ液中の塩基性化合物としては、例えばイミダゾール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、グアニジン、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン又はキトサン等の有機塩基、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウム等の無機塩基などが挙げられる。これらのうちアンモニア、イミダゾールが好ましい。
【0063】
シリカ粒子としては、前述のシリカ粒子を用いることが可能であり、中でも、コロイダルシリカ粒子を用いることが好ましい。
【0064】
前駆体液におけるシリカ粒子の含有量は、製造効率の観点から、前駆体液の全質量を基準として0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。シリカ粒子の含有量は、粒子の凝集を防ぐと共に研磨速度を更に高める観点から、前駆体液の全質量を基準として20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0065】
前駆体液において、水酸化セリウムの前駆体を含む第1の成分の濃度は、製造効率の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。第1の成分の濃度は、粒子の凝集を防ぐと共に研磨速度を更に高める観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0066】
反応液(例えばアルカリ液)における第2の成分(例えば塩基性化合物)の濃度は、製造時間の短縮の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。第2の成分の濃度は、研磨速度を更に高める観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0067】
前駆体液と反応液との混合速度の制御により、研磨速度を更に高めることができる。混合速度は、2Lの溶液を撹拌する混合スケールの場合、例えば0.5mL/min以上が好ましく、50mL/min以下が好ましい。
【0068】
撹拌羽の回転速度(撹拌速度)は、全長4cmの撹拌羽を用いて2Lの溶液を撹拌する混合スケールの場合、例えば、30〜800min−1であることが好ましい。回転速度の上限は、液面が上昇しすぎることを抑制する点で、700min−1以下がより好ましく、600min−1以下が更に好ましい。
【0069】
前駆体液と反応液とを混合して得られる水溶液の液温は、反応系に温度計を設置して読み取れる反応系内の温度が0〜70℃であることが好ましい。前記水溶液の液温は、粒子の凝集を防ぐと共に研磨速度を更に高める観点から、40℃以下がより好ましく、35℃以下が更に好ましい。前記水溶液の液温は、液の凍結を防ぐ観点から、0℃以上が好ましい。
【0070】
なお、複合粒子は、第1の成分を含む前駆体液と、シリカ粒子及び第2の成分を含む反応液とを混合し、前記前駆体と第2の成分とを反応させて得ることもできる。
【0071】
本実施形態のCMP研磨液の製造方法は、複合粒子作製工程の後に、前記方法で合成した複合粒子を洗浄して複合粒子から金属不純物を除去する洗浄工程を更に備えていることが好ましい。複合粒子の洗浄は、遠心分離等で固液分離を数回繰り返す方法等が使用できる。また、遠心分離、透析、限外濾過、イオン交換樹脂等によるイオンの除去などの工程で洗浄することもできる。
【0072】
本実施形態のCMP研磨液の製造方法は、前記で得られたシリカと水酸化セリウムとを含む複合粒子同士が凝集している場合、適切な方法で複合粒子を水中に分散させる分散工程を更に備えていることが好ましい。複合粒子を主な分散媒である水中に分散させる方法としては、通常の撹拌機による分散処理の他に、ホモジナイザ、超音波分散機、湿式ボールミル等による機械的な分散などを用いることができる。分散方法、粒径制御方法については、例えば、「分散技術大全集」〔株式会社情報機構、2005年7月〕第3章「各種分散機の最新開発動向と選定基準」に記述されている方法を用いることができる。また、分散方法としては、複合粒子を含む分散液を加熱して維持する方法も採用できる。具体的には例えば、粒子の含有量が50質量%以下(好ましくは、1〜20質量%)程度である分散液を調製し、恒温槽等を用いて分散液を30〜80℃に維持し、1〜10時間分散液を保持することによっても複合粒子を分散させることができる。
【0073】
本実施形態のCMP研磨液の製造方法は、洗浄工程や分散工程の後に、研磨液用貯蔵液を得る砥粒含有量調整工程を備えていてもよい。ここで、「研磨液用貯蔵液」とは、使用時に水等の液状媒体で希釈(例えば2倍以上)され、砥粒の含有量を調整して使用されるものである。これにより、被研磨膜の種類によって砥粒の含有量を容易に調節できるほか、保管・輸送が更に容易になる。
【0074】
研磨液用貯蔵液における砥粒の含有量は、CMP研磨液として使用される砥粒の含有量よりも高い含有量に調整されており、砥粒含有量調整工程において研磨液用貯蔵液が水で希釈されて、所望の砥粒の含有量に調整される。研磨液用貯蔵液は、洗浄工程や分散工程において調製されてもよく、洗浄工程や分散工程の後に別途調製されてもよい。なお、本実施形態のCMP研磨液の製造方法では、砥粒含有量調整工程を行うことなく、複合粒子作製工程、洗浄工程又は分散工程において得られたスラリをそのまま研磨に用いてもよい。
【0075】
前記研磨液用貯蔵液の希釈倍率は、倍率が高いほど貯蔵・運搬・保管等に係るコストの抑制効果が高いため、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、5倍以上が更に好ましく、10倍以上が特に好ましい。また、希釈倍率の上限は、特に制限はないが、倍率が高いほど研磨液用貯蔵液に含まれる成分の量が多く(含有量が高く)なり、保管中の安定性が低下する傾向があるため、500倍以下が好ましく、200倍以下がより好ましく、100倍以下が更に好ましく、50倍以下が特に好ましい。
【0076】
本実施形態のCMP研磨液は、前記の各工程において前記含有成分を混合することにより得ることができる。前記含有成分である添加剤は、例えば分散工程や砥粒含有量調整工程において砥粒と混合される。CMP研磨液を構成する含有成分の割合は、上述した各含有成分の好適な含有量になるように調整することが好ましい。CMP研磨液を構成する含有成分の割合を前記の範囲に調整することで、絶縁膜の研磨速度を更に向上させることができる。
【0077】
本実施形態のCMP研磨液の製造方法では、CMP研磨液を得るに際して、前記酸成分や前記アルカリ成分を用いてCMP研磨液のpHを調整してもよい。なお、CMP研磨液が所望のpHを有している場合には、前記酸成分や前記アルカリ成分を用いてCMP研磨液のpHを調整することを要しない。また、CMP研磨液を得るに際しては、前記緩衝液をCMP研磨液に添加してもよい。
【0078】
<基体の研磨方法>
以上説明したCMP研磨液を用いることで、被研磨膜(例えば絶縁膜)を有する基板の該被研磨膜を良好な研磨速度で研磨することが可能となる。
【0079】
本実施形態の基体の研磨方法は、前記CMP研磨液を用いて基体の被研磨面を研磨する研磨工程を少なくとも備え、研磨工程の前に、本実施形態のCMP研磨液の製造方法によりCMP研磨液を調製する研磨液調製工程を備えていてもよい。研磨工程では、例えば、被研磨膜を有する基体の該被研磨膜を研磨定盤の研磨布に対向させると共に被研磨膜を研磨布に押圧した状態で、前記CMP研磨液を被研磨膜と研磨布との間に供給しながら、基体の裏面(被研磨面と反対の面)に所定の圧力を加えた状態で、基体と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜の少なくとも一部を研磨する。
【0080】
研磨される基体としては、例えば、半導体素子の製造に係る基板(例えば、シャロートレンチ分離パターン、ゲートパターン、配線パターン等が形成された半導体基板)上に被研磨膜が形成された基板が挙げられる。被研磨膜としては、これらのパターンの上に形成された、酸化珪素膜等の絶縁膜や、ポリシリコン膜などが挙げられる。なお、被研磨膜は、単一の膜であってもよく、複数の膜であってもよい。複数の膜が被研磨面に露出している場合、それらを被研磨膜と見なすことができる。
【0081】
このような基板上に形成された被研磨膜(例えば、酸化珪素膜等の絶縁膜や、ポリシリコン膜)を前記CMP研磨液で研磨することによって、被研磨膜の表面の凹凸を解消し、被研磨面を全面にわたって平滑な面とすることができる。本実施形態のCMP研磨液は、酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用されることが好ましい。
【0082】
少なくとも表面に酸化珪素を含む絶縁膜(例えば酸化珪素膜)と、該絶縁膜の下層に配置された研磨停止層とを備える基体を研磨対象とする場合、研磨停止層は、絶縁膜(例えば酸化珪素膜)よりも研磨速度が低い層であり、具体的にはポリシリコン膜、窒化珪素膜等であることが好ましい。研磨停止層が露出した時に研磨を停止させることにより、絶縁膜(例えば酸化珪素膜)が過剰に研磨されることを防止できるため、絶縁膜の研磨後の平坦性を向上させることができる。
【0083】
本実施形態のCMP研磨液により研磨される被研磨膜の作製方法としては、低圧CVD法、準常圧CVD法、プラズマCVD法等に代表されるCVD法や、回転する基板に液体原料を塗布する回転塗布法などが挙げられる。
【0084】
酸化珪素膜は、低圧CVD法を用いて、例えば、モノシラン(SiH)と酸素(O)を熱反応させることにより得られる。また、酸化珪素膜は、準常圧CVD法を用いて、例えば、テトラエトキシシラン(Si(OC)とオゾン(O)を熱反応させることにより得られる。CVD法のその他の例として、テトラエトキシシランと酸素をプラズマ反応させることによっても同様に酸化珪素膜が得られる。
【0085】
酸化珪素膜は、回転塗布法を用いて、例えば、無機ポリシラザン、無機シロキサン等を含む液体原料を基板上に塗布し、炉体等で熱硬化反応させることにより得られる。
【0086】
ポリシリコン膜の製膜方法としては、例えば、モノシランを熱反応させる低圧CVD法、モノシランをプラズマ反応させるプラズマCVD法等が挙げられる。
【0087】
以上のような方法で得られた酸化珪素膜、ポリシリコン膜等の膜質を安定化させるために、必要に応じて200〜1000℃の温度で熱処理をしてもよい。また、以上のような方法で得られた酸化珪素膜には、埋込み性を高めるために微量のホウ素(B)、リン(P)、炭素(C)等が含まれていてもよい。
【0088】
本実施形態の研磨方法において、研磨装置としては、例えば、回転数を変更可能なモータ等が取り付けてあり、且つ研磨布(パッド)を貼り付け可能な定盤と、基体を保持するホルダーとを有する一般的な研磨装置が使用できる。
【0089】
研磨布としては、一般的な不織布、発泡体、非発泡体等が使用でき、研磨布の材質としては、例えば、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、アクリル−エステル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン、セルロース、セルロースエステル、ナイロン(商標名)、アラミド等のポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリシロキサン共重合体、オキシラン化合物、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、多孔質フッ素樹脂などの樹脂が使用できる。研磨布の材質としては、研磨速度や平坦性の観点から、発泡ポリウレタン、非発泡ポリウレタンが好ましい。研磨布には、CMP研磨液がたまるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0090】
研磨条件には特に制限はないが、基体が飛び出さないように、定盤の回転速度を200min−1以下の低回転にすることが好ましい。研磨布に押し当てた基体へ加える圧力(研磨圧力)は、4〜100kPaであることが好ましく、基体の被研磨面内の均一性及びパターンの平坦性に優れる見地から、6〜60kPaであることがより好ましい。
【0091】
研磨している間、研磨布の表面には、CMP研磨液をポンプ等で連続的に供給してもよい。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常にCMP研磨液で覆われていることが好ましい。
【0092】
研磨終了後の基体(例えば半導体基板)は、流水中で良く洗浄して基体に付着した粒子を除去することが好ましい。洗浄には、純水以外に希フッ酸やアンモニア水を併用してもよく、洗浄効率を高めるためにブラシを併用してもよい。また、洗浄後は、基体に付着した水滴をスピンドライヤ等を用いて払い落としてから基体を乾燥させることが好ましい。
【0093】
本実施形態の複合粒子、CMP研磨液及び研磨方法は、シャロートレンチ分離の形成に好適に使用できる。シャロートレンチ分離を形成するためには、研磨停止層に対する絶縁膜(酸化珪素を含む膜、例えば酸化珪素膜)の研磨速度の選択比(絶縁膜の研磨速度/研磨停止層の研磨速度)が100以上であることが好ましい。選択比が100未満であると、研磨停止層の研磨速度に対する絶縁膜(酸化珪素を含む膜、例えば酸化珪素膜)の研磨速度の大きさが小さく、シャロートレンチ分離を形成する際、所定の位置で研磨を停止し難くなる傾向がある。選択比が100以上であれば、研磨の停止が容易になり、シャロートレンチ分離の形成に更に好適である。また、シャロートレンチ分離の形成に使用するためには、研磨時に傷の発生が少ないことが好ましい。
【0094】
本実施形態の複合粒子、CMP研磨液及び研磨方法は、プリメタル絶縁膜の研磨にも使用できる。プリメタル絶縁膜の構成材料としては、酸化珪素の他、例えば、リン−シリケートガラスやボロン−リン−シリケートガラスが使用され、更に、シリコンオキシフロリド、フッ化アモルファスカーボン等も使用できる。
【0095】
本実施形態の複合粒子、CMP研磨液及び研磨方法は、酸化珪素膜のような絶縁膜以外の膜にも適用できる。このような膜としては、例えば、Hf系、Ti系、Ta系酸化物等の高誘電率膜;シリコン、アモルファスシリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、有機半導体等の半導体膜;GeSbTe等の相変化膜;ITO等の無機導電膜;ポリイミド系、ポリベンゾオキサゾール系、アクリル系、エポキシ系、フェノール系等のポリマ樹脂膜などが挙げられる。
【0096】
本実施形態の複合粒子、CMP研磨液及び研磨方法は、膜状の研磨対象だけでなく、ガラス、シリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、サファイヤ又はプラスチック等から構成される各種基板にも適用できる。
【0097】
本実施形態の複合粒子、CMP研磨液及び研磨方法は、半導体素子の製造だけでなく、TFT、有機EL等の画像表示装置;フォトマスク、レンズ、プリズム、光ファイバー、単結晶シンチレータ等の光学部品;光スイッチング素子、光導波路等の光学素子;固体レーザ、青色レーザLED等の発光素子;磁気ディスク、磁気ヘッド等の磁気記憶装置の製造に用いることができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
なお、実施例で用いたコロイダルシリカの1次粒径、2次粒径及び会合度を表1に示す(いずれもメーカ公称値)。
【0100】
【表1】

【0101】
<実験1:複合粒子の影響>
シリカ及び水酸化セリウムを含む複合粒子(以下「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」という)を含むCMP研磨液、シリカ粒子及び水酸化セリウム粒子のいずれか一方を単独で含むCMP研磨液、並びに、シリカ粒子及び水酸化セリウム粒子を単に混ぜ合わせたCMP研磨液の、製造方法及び諸特性について実施例1及び比較例1〜3に示す。
【0102】
{実施例1}
[合成例1:シリカ/水酸化セリウム複合粒子の合成]
100gのCe(NH(NOを5000gの純水に溶解した。次いで、この溶液にシリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)190gを混合及び撹拌して、前駆体液を得た。前駆体液において、Ce(NH(NOは水に溶解しており、シリカ粒子は水に分散していた。前駆体液に含まれるシリカ粒子は、前駆体液の全質量を基準として0.7質量%であった。次に、前駆体液の温度を20℃に調整すると共に、攪拌子を用いて250min−1で前駆体液を撹拌しながら、130gのアンモニア水(10質量%水溶液)を10mL/minの混合速度で前駆体液に滴下したところ、黄白色の粒子が生成した。
【0103】
得られた液を遠心分離(3000min−1、5分間)し、デカンテーションで上澄み液を除去し、固体を取り出した。ここに固体の含有量が10質量%前後になるように適量の純水を加えた(添加する純水の量は、原料が全て反応したと仮定して計算することができる)後に、60℃の恒温槽に4時間入れて前記固体の分散処理を行うことにより、粒子Aの分散液1を得た。この分散液1を限外濾過法で濾過して粒子Aを洗浄し、粒子Aの分散液2を得た。
【0104】
得られた粒子Aを一部抽出してTEMにて観察したところ、粒径(二軸平均粒子径をいう。本実施例について以下同じ。)がおよそ2〜6nm程度の微粒子(平均粒径が2〜6nmの範囲にあると見なされる。以下同じ。)が、粒径がおよそ35〜60nm程度の粒子(平均粒径が35〜60nmの範囲にあると見なされる。以下同じ。)の周囲に多数付着している「複合粒子」と、単独に(複合粒子のように複合化していないことを意味する。以下同じ)存在する粒径がおよそ2〜6nmの「単独粒子」とが観察された。また、「複合粒子」において、粒径がおよそ35〜60nm程度の粒子の表面は、微粒子が付着している部分と、微粒子が付着していない部分とを有していた。
【0105】
TEM画像で見られる粒径から、前記粒径がおよそ2〜6nm程度の微粒子は水酸化セリウム粒子であり、粒径がおよそ35〜60nm程度の粒子はシリカ粒子であると考えられる。従って、前記「複合粒子」は、シリカ粒子の周囲に水酸化セリウム粒子が付着した「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」であり、前記単独粒子は、「水酸化セリウムの単独粒子」であり、前記粒子Aは、「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」と「水酸化セリウムの単独粒子」の混合粒子であると考えられる。
【0106】
[研磨液用貯蔵液及びCMP研磨液の調製]
前記粒子Aの分散液2を適量量り取り、加熱して水を除去した。残った固体の質量を測定することにより、粒子Aの分散液2中の粒子Aの含有量を特定した。
【0107】
次に、前記粒子Aの分散液2に純水を加えて粒子Aの含有量を2.0質量%に調整することで、研磨液用貯蔵液(シリカ粒子として1.0質量%相当、水酸化セリウム粒子として1.0質量%相当)を調製した。前記研磨液用貯蔵液を純水で2倍に希釈して粒子Aの含有量を1.0質量%に調整することでCMP研磨液を調製した。
【0108】
得られたCMP研磨液において、「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」の平均粒径を測定したところ66nmであった。CMP研磨液のpHを測定したところ、3.4であった。CMP研磨液のpH及び複合粒子の平均粒径は下記の方法に従って測定した。
【0109】
(pH測定)
測定温度:25±5℃
pH:電気化学計器株式会社製、型番:PHL−40で測定した。
【0110】
(平均粒径測定)
CMP研磨液を適量取り容器に入れ、パターン配線付きウエハを2cm角に切ったチップを容器内に約30秒間浸した。次に、純水が入れられた容器にチップを移して約30秒間すすぎ、そのチップを窒素ブロー乾燥した。その後、SEM観察用の試料台にチップを載せ、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク製、商品名S−4800)を用いて、加速電圧10kVを掛け、20万倍にて粒子を観察すると共に、複数枚の画像を撮影した。得られた画像から測定対象の粒子を任意に20個選択した。選び出した粒子のそれぞれについて、SEM画像に表示される縮尺を基準に二軸平均粒子径を求めた。得られた二軸平均粒子径の平均値を粒子の平均粒径とした。
【0111】
[基板の研磨]
前記CMP研磨液を用いて、酸化珪素層を有する基板を下記の研磨条件で研磨した。
(CMP研磨条件)
研磨装置:APPLIED MATERIALS社製、商品名:Mirra
CMP研磨液流量:200mL/分
被研磨基板:厚さ1000nmの酸化珪素層(SiO層)を主面全体に形成したシリコン基板
研磨布:独立気泡を持つ発泡ポリウレタン樹脂(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製、型番:IC1000)
研磨圧力:15.7kPa(2psi)
基板と研磨定盤との相対速度:80m/分
研磨時間:1分/枚
洗浄:CMP処理後、超音波水による洗浄を行った後、スピンドライヤで乾燥させた。
【0112】
[研磨品評価:研磨速度]
前記研磨条件で研磨及び洗浄した基板について、酸化珪素層に対する研磨速度(SiORR)を求めた。具体的には、研磨前後での前記酸化珪素層の膜厚差を、光干渉式膜厚測定装置を用いて測定し、次式より求めた。
(SiORR)=(研磨前後での酸化珪素層の膜厚差(Å))/(研磨時間(min))
このようにしてCMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、535Å/minであった。
【0113】
{比較例1}
[合成例2:水酸化セリウム粒子の合成]
シリカ粒子1を添加しなかったこと以外は合成例1と同様の操作を行った。すなわち、100gのCe(NH(NOを5000gの純水に溶解して前駆体液を得た。次に、前駆体液の温度を20℃に調整すると共に、攪拌子を用いて250min−1で前駆体液を撹拌しながら、130gのアンモニア水(10質量%水溶液)を10mL/minの混合速度で前駆体液に滴下したところ、黄白色の粒子が生成した。
【0114】
得られた液を遠心分離(3000min−1、5分間)し、デカンテーションで上澄み液を除去し、固体を取り出した。ここに固体の含有量が10質量%前後になるように適量の純水を加えた後に、60℃の恒温槽に4時間入れて前記固体の分散処理を行うことにより、粒子Bの分散液1を得た。この分散液1を限外濾過法で濾過して粒子Bを洗浄し、粒子Bの分散液2を得た。
【0115】
得られた粒子Bを一部抽出してTEMにて観察したところ、単独に存在する粒径がおよそ4〜12nm程度の「単独粒子」が観察された。前記単独粒子は「水酸化セリウムの単独粒子」であった。
【0116】
[研磨液用貯蔵液及びCMP研磨液の調製]
前記粒子Bの分散液2を適量量り取り、加熱して水を除去した。残った固体の質量を測定することにより、粒子Bの分散液2中の粒子Bの含有量を特定した。
【0117】
前記粒子Bの分散液2に純水を加えて、粒子B(水酸化セリウム粒子)の含有量が1.0質量%である研磨液用貯蔵液を調製した。前記研磨液用貯蔵液を純水で2倍に希釈して、水酸化セリウム粒子0.5質量%と水99.5質量%とを含むCMP研磨液を調製した。
【0118】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液のpH及び水酸化セリウム粒子の平均粒径を測定したところ、pHは3.0であり、平均粒径は8nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、88Å/minであった。
【0119】
{比較例2}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)2.5質量%(シリカ粒子として0.5質量%相当)と、水97.5質量%とを混合し、1%硝酸水溶液でpHを3.4に調整することにより、シリカ粒子を0.5質量%含有するCMP研磨液を調製した。
【0120】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、シリカ粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は56nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、65Å/minであった。
【0121】
{比較例3}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)2.5質量%(シリカ粒子として0.5質量%相当)と、合成例2で調製した水酸化セリウム粒子0.5質量%と、水97質量%とを混合することにより、シリカ粒子と水酸化セリウム粒子とを0.5質量%ずつ含有するCMP研磨液を調製した。
【0122】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液のpHを測定したところ、pHは3.5であった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、54Å/minであった。
【0123】
前記実施例1及び比較例1〜3について表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2から明らかなように、酸化珪素層に対する研磨速度は「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」を含むCMP研磨液を用いることで顕著に向上した。すなわち、実施例1と比較例1〜3との対比から、「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」を含むCMP研磨液は、シリカ粒子又は水酸化セリウム粒子を単独に含むCMP研磨液、及び、シリカ粒子及び水酸化セリウム粒子を単に混ぜ合わせたCMP研磨液と比較して研磨速度に優れていた。
【0126】
<実験2:pHの影響>
「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」を含むCMP研磨液において、pHの影響を調べた。
【0127】
{実施例2}
前記実施例1で得られた研磨液用貯蔵液(粒子Aの含有量:2.0質量%)を水で希釈すると共に10質量%イミダゾール水溶液でpHを5.8に調整することにより、砥粒として複合粒子及び単独粒子の混合粒子を合計0.2質量%含むCMP研磨液(研磨液用貯蔵液を10倍に希釈したものに相当)を調製した。
【0128】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は67nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、2721Å/minであった。
【0129】
{実施例3}
前記実施例1で得られた研磨液用貯蔵液(粒子Aの含有量:2.0質量%)を水で希釈すると共に10質量%イミダゾール水溶液でpHを8.3に調整することにより、砥粒として複合粒子及び単独粒子の混合粒子を合計0.2質量%含むCMP研磨液(研磨液用貯蔵液を10倍に希釈したものに相当)を調製した。
【0130】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、69nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、1258Å/minであった。
【0131】
{比較例4}
前記実施例1で得られた研磨液用貯蔵液(粒子Aの含有量:2.0質量%)を水で希釈すると共に0.1質量%の水酸化カリウム水溶液でpHを9.8に調整することにより、砥粒として複合粒子及び単独粒子の混合粒子を合計0.2質量%含むCMP研磨液(研磨液用貯蔵液を10倍に希釈したものに相当)を調製した。
【0132】
このCMP研磨液について、pH調整中、pHが9.5付近で粒子の凝集が見られたため、複合粒子の平均粒径は測定しなかった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、255Å/minであった。
【0133】
前記実施例2〜3及び比較例4について表3に示す。
【0134】
【表3】

【0135】
表3から明らかなように、酸化珪素層に対する研磨速度は「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」を含むCMP研磨液のpHを調整することで顕著に向上した。
【0136】
<実験3:シリカ種の違いによる影響>
異なるシリカ粒子を用いて「シリカ/水酸化セリウム複合粒子」を合成し、pHを6付近に調整したCMP研磨液の特性について調べた。
【0137】
{実施例4}
[合成例3:シリカ/水酸化セリウム複合粒子の合成]
100gのCe(NH(NOを5000gの純水に溶解した。次いで、この溶液にシリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)380gを混合及び撹拌して前駆体液を得た。前駆体液に含まれるシリカ粒子は、前駆体液の全質量を基準として1.4質量%であった。次に、前駆体液の温度を20℃に調整すると共に、攪拌子を用いて250min−1で前駆体液を撹拌しながら、520gのイミダゾール水溶液(10質量%水溶液)を10mL/minの混合速度で前駆体液に滴下したところ、黄白色の粒子が沈殿した。
【0138】
得られた液を遠心分離(3000min−1、5分間)し、デカンテーションで上澄み液を除去し、固体を取り出した。ここに固体の含有量が10質量%前後になるように適量の純水を加えた後に、60℃の恒温槽に4時間入れて前記固体の分散処理を行うことにより、粒子Cの分散液1を得た。この分散液1を限外濾過法で濾過して粒子Cを洗浄し、粒子Cの分散液2を得た。
【0139】
得られた粒子CをTEMにて観察したところ、粒径がおよそ2〜6nm程度の微粒子が、粒径がおよそ35〜60nm程度の粒子の周囲に多数付着している「複合粒子」と、単独に存在する粒径がおよそ2〜6nm程度の「単独粒子」とが観察された。また、「複合粒子」において、粒径がおよそ35〜60nm程度の粒子の表面は、微粒子が付着している部分と、微粒子が付着していない部分とを有していた。
【0140】
[研磨液用貯蔵液及びCMP研磨液の調製]
前記粒子Cの分散液2を適量量り取り、加熱して水を除去した。残った固体の質量を測定することにより、粒子Cの分散液2中の粒子Cの含有量を特定した。
【0141】
次に、前記粒子Cの分散液2に純水を加えて粒子Cの含有量を2.0質量%に調整することで、研磨液用貯蔵液(シリカ粒子として1.33質量%相当、水酸化セリウム粒子として0.67質量%相当)を得た。次いで、研磨液用貯蔵液を水で希釈すると共に10質量%イミダゾール水溶液でpHを6.1に調整することにより、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液(研磨液用貯蔵液を10倍に希釈したものに相当)を調製した。
【0142】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は67nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、3311Å/minであった。
【0143】
{実施例5}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子2のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)を用い、pHを6.0に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0144】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は66nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、3866Å/minであった。
【0145】
{実施例6}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子3のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)を用い、pHを6.3に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0146】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は64nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、3680Å/minであった。
【0147】
{実施例7}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子4のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)を用い、pHを6.2に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0148】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は72nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、2388Å/minであった。
【0149】
{実施例8}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子5のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)を用い、pHを6.1に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0150】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は109nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、3796Å/minであった。
【0151】
{実施例9}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子6のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)を用い、pHを6.0に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0152】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は66nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、4896Å/minであった。
【0153】
{実施例10}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子7のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)を用い、pHを5.7に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0154】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は76nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、3034Å/minであった。
【0155】
{実施例11}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液の代わりにシリカ粒子8のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:12質量%)を633g用い、純水を4750g使用し、pHを5.8に調整した以外は実施例4と同様にして、複合粒子及び単独粒子の混合粒子を砥粒として0.2質量%含むCMP研磨液を調製した。
【0156】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、複合粒子の平均粒径を測定したところ、平均粒径は21nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、2027Å/minであった。
【0157】
{比較例5}
シリカ粒子1のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子含有量:20質量%)0.665質量%(シリカ粒子として0.133質量%相当)と、水99.335質量%とを混合し、シリカ粒子を0.133質量%含有するCMP研磨液を調製した。
【0158】
このCMP研磨液について、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液のpH及びシリカ粒子の平均粒径を測定したところ、pHは7.2であり、平均粒径は57nmであった。また、実施例1と同様の操作により、CMP研磨液の酸化珪素層に対する研磨速度を求めたところ、1Å/minであった。
【0159】
実施例4〜11と比較例5について表4に示す。
【0160】
【表4】

【0161】
表4から明らかなように、いずれのシリカ粒子を用いた場合であっても、シリカ/水酸化セリウム複合粒子を含むCMP研磨液における酸化珪素層に対する研磨速度は、シリカ粒子を単独に含むCMP研磨液の研磨速度と比較して顕著に向上した。
【0162】
以上より、シリカ/水酸化セリウム複合粒子を含み且つpHが所定値以下であるCMP研磨液は、酸化珪素層に対する研磨速度が著しく速いことから、優れたCMP研磨液であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明によれば、絶縁膜に対する研磨速度を向上させることが可能なCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することができる。本発明によれば、特に、シャロートレンチ分離絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、絶縁膜を高速に研磨できるCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、絶縁膜に対する研磨速度を向上させつつ、絶縁膜を低研磨傷で研磨することが可能なCMP研磨液及びその製造方法、複合粒子の製造方法、並びに前記CMP研磨液を用いた基体の研磨方法を提供することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び砥粒を含むCMP研磨液であって、
前記砥粒が、第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた第2の粒子と、を有する複合粒子を含有し、
前記第1の粒子がシリカを含有し、
前記第2の粒子が水酸化セリウムを含有し、
前記CMP研磨液のpHが9.5以下である、CMP研磨液。
【請求項2】
酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために用いられる、請求項1に記載のCMP研磨液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のCMP研磨液を用いて基体の被研磨面を研磨する工程を備える、基体の研磨方法。
【請求項4】
水及び砥粒を含むCMP研磨液の製造方法であって、
シリカを含有する第1の粒子と、水酸化セリウムの前駆体を含有する第1の成分と、前記前駆体と反応して、水酸化セリウムを含有する第2の粒子を析出させることが可能な第2の成分と、を含む水溶液中で、前記前駆体と前記第2の成分とを反応させて前記第2の粒子を析出させ、前記第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた前記第2の粒子と、を有する複合粒子を得る工程を備え、
前記砥粒が前記複合粒子を含有し、
前記CMP研磨液のpHが9.5以下である、CMP研磨液の製造方法。
【請求項5】
前記第1の粒子及び前記第1の成分を含む液と、前記第2の成分を含む液とを混合して前記複合粒子を得る、請求項4に記載のCMP研磨液の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体が4価のセリウム塩であり、前記第2の成分が塩基性化合物である、請求項4又は5に記載のCMP研磨液の製造方法。
【請求項7】
前記複合粒子を水に分散させる工程を更に備える、請求項4〜6のいずれか一項に記載のCMP研磨液の製造方法。
【請求項8】
前記複合粒子を洗浄する工程を更に備える、請求項4〜7のいずれか一項に記載のCMP研磨液の製造方法。
【請求項9】
シリカを含有する第1の粒子と、水酸化セリウムの前駆体を含有する第1の成分と、前記前駆体と反応して、水酸化セリウムを含有する第2の粒子を析出させることが可能な第2の成分と、を含む水溶液中で、前記前駆体と前記第2の成分とを反応させて前記第2の粒子を析出させ、前記第1の粒子を含むコアと、該コア上に設けられた前記第2の粒子と、を有する複合粒子を得る工程を備える、複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記第1の粒子及び前記第1の成分を含む液と、前記第2の成分を含む液とを混合して前記複合粒子を得る、請求項9に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
前記前駆体が4価のセリウム塩であり、前記第2の成分が塩基性化合物である、請求項9又は10に記載の複合粒子の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−238831(P2012−238831A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10018(P2012−10018)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】