説明

CMP研磨液及び研磨方法

【課題】バリア膜の研磨速度が高速であり、層間絶縁膜を高速に研磨でき、かつ、CMP研磨液中の砥粒の分散安定性が良好あるCMP研磨液と研磨方法を提供する。
【解決手段】ダマシン法においてバリア膜を研磨するためのCMP研磨液であって、媒体と、前記媒体に分散している砥粒としてシリカ粒子とを含み、(A1)前記シリカ粒子のシラノール基密度が5.0個/nm以下であり、(B1)前記シリカ粒子を走査型電子顕微鏡により観察した画像から任意の20個を選択したときの二軸平均一次粒子径が25〜55nmであり、(C1)前記シリカ粒子の会合度が1.1以上であるCMP研磨液、およびこれを用いた研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の配線形成工程等における研磨に使用されるCMP研磨液及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(以下、LSIという)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、CMPという)法もその一つであり、LSI製造工程、特に、多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線形成において頻繁に利用される技術である。この技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
また、最近は、LSIを高性能化するために、配線材料となる導電性物質として銅及び銅合金の利用が試みられている。しかし、銅又は銅合金は従来のアルミニウム合金配線の形成で頻繁に用いられたドライエッチング法による微細加工が困難である。
【0004】
そこで、あらかじめ溝を形成してある絶縁膜上に銅又は銅合金の薄膜を堆積して埋め込み、溝部以外の前記薄膜をCMPにより除去して埋め込み配線を形成する、いわゆるダマシン法が主に採用されている。この技術は、例えば、特許文献2に開示されている。
【0005】
銅又は銅合金等の配線用金属として使用される導電性物質を研磨する、金属のCMPの一般的な方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨布(パッド)を貼り付け、研磨布表面をCMP研磨液で浸しながら、基板に形成された金属膜を研磨布表面に押し付けて、研磨布の裏面から所定の圧力(以下、研磨圧力という)を金属膜に加えた状態で研磨定盤を回し、CMP研磨液と金属膜の凸部との相対的機械的摩擦によって凸部の金属膜を除去するものである。
【0006】
金属のCMPに用いられるCMP研磨液は、一般には酸化剤及び砥粒からなっており、必要に応じて、さらに酸化金属溶解剤、保護膜形成剤が添加される。まず酸化剤によって導電性物質表面を酸化し、生成した導電性物質酸化膜を砥粒によって削り取るのが基本的なメカニズムと考えられている。
【0007】
凹部の表面の導電性物質酸化膜は、研磨布にあまり触れず、砥粒による削り取りの効果が及ばないので、CMPの進行とともに凸部の導電性物質が除去されて基板表面は平坦化される。この詳細については、例えば、非特許文献1に開示されている。
【0008】
CMPによる研磨速度を高める方法として酸化金属溶解剤を添加することが有効とされている。砥粒によって削り取られた導電性物質酸化物の粒をCMP研磨液に溶解(以下、エッチングという)させてしまうと砥粒による削り取りの効果が増すためであると解釈される。
【0009】
酸化金属溶解剤の添加によりCMPによる研磨速度は向上するが、一方、凹部の導電性物質酸化物もエッチングされて導電性物質表面が露出すると、酸化剤によって導電性物質表面がさらに酸化される。これが繰り返されると凹部の導電性物質のエッチングが進行してしまう。このため研磨後に埋め込まれた導電性物質の表面中央部分が皿のように窪む現象(以下、ディッシングという)が発生し、平坦化効果が損なわれる。
【0010】
これを防ぐためにさらに保護膜形成剤が添加されることが知られている。保護膜形成剤は導電性物質表面の酸化膜上に保護膜を形成し、酸化膜のCMP研磨液中への溶解を防止するものである。この保護膜は、砥粒により容易に削り取ることが可能で、CMPによる研磨速度を低下させないことが望まれる。
【0011】
導電性物質のディッシングや研磨中の腐食を抑制し、信頼性の高いLSI配線を形成するために、アミノ酢酸又はアミド硫酸から選択される酸化金属溶解剤及び保護膜形成剤としてBTA(ベンゾトリアゾール)を含有するCMP研磨液を用いる方法が提唱されている。この技術は、例えば、特許文献3に記載されている。
【0012】
一方、図1(a)に示すように、銅又は銅合金などの配線用金属からなる導電性物質3の下層には、層間絶縁膜1中への銅拡散防止や密着性向上のためのバリア導体膜(以下、バリア膜という)2が形成される。したがって、導電性物質を埋め込む配線部以外では、露出したバリア膜2をCMPにより取り除く必要がある。しかし、これらのバリア膜2に用いられる導体は、導電性物質に比べ硬度が高いために、導電性物質用の研磨材料を組み合わせても充分な研磨速度が得られず、かつ平坦性が悪くなる場合が多い。
【0013】
そこで、図1(a)に示される状態から図1(b)に示される状態まで導電性物質3を研磨する「第1の研磨工程」と、図1(b)に示される状態から図1(c)に示される状態までバリア膜2を研磨する「第2の研磨工程」とに分ける、2段研磨方法が検討されている。また、前記第2の研磨工程では、研磨終了後の表面の平坦性を向上させるために、層間絶縁膜1の凸部の一部を研磨するのが一般的であり、これを「オーバー研磨」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4944836号明細書
【特許文献2】日本国特許第1969537号公報
【特許文献3】日本国特許第3397501号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・エレクトロケミカルソサエティ誌(Journal of Electrochemical Society)、1991年、第138巻、11号、p.3460−3464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記第2の研磨工程において、層間絶縁膜のオーバー研磨を行う場合は、研磨工程時間の短縮によるスループットの向上のため、バリア膜2だけでなく、層間絶縁膜1の研磨速度も高速であることが好ましい。層間絶縁膜1の研磨速度を向上させるためには、例えば、CMP研磨液中の砥粒の含有量を多くする、CMP研磨液中の砥粒の粒径を大きくする手段が考えられる。
【0017】
しかしながら、前記のいずれの手段も、砥粒の分散安定性が悪くなる傾向があり、砥粒の沈降が発生しやすくなる。このため、CMP研磨液を一定期間保管した後に使用する場合、層間絶縁膜の研磨速度が低下しやすくなり、平坦性が得られなくなるといった問題がある。
【0018】
したがって、従来のバリア膜用CMP研磨液と同等のバリア膜研磨速度を有し、かつ層間絶縁膜の研磨速度も充分速く、さらに砥粒分散安定性の優れるものが求められている。
【0019】
また、前記のいずれの手段も、砥粒による機械的な作用が強くなるため、図5に示すように、バリア膜2近傍の層間絶縁膜1がえぐれるように過剰に研磨される現象(以下「シーム」という)、が発生する傾向がある。シームが発生すると、配線抵抗が上昇してしまう等の問題がある。この問題は、LSIの配線構造がより多層化する「スケーリング」が進むことでより重大な問題となる。なぜならば、スケーリングが進むことで配線断面積が縮小し、配線間絶縁膜の膜厚が薄くなるため、微少なシームであっても影響を受けるからである。
【0020】
このため、従来のバリア膜用CMP研磨液と同等のバリア膜研磨速度を有し、かつ層間絶縁膜の研磨速度も充分速く、さらに研磨後にシームの発生しないものが求められている。
【0021】
本発明は、前記問題点に鑑み、バリア膜の研磨速度が高速であり、層間絶縁膜を高速に研磨でき、かつ、CMP研磨液中の砥粒の分散安定性が良好あるCMP研磨液を提供することを目的とするものである。
【0022】
また、本発明は、前記問題点に鑑み、バリア膜の研磨速度が高速であり、層間絶縁膜を高速に研磨でき、かつ、シーム等の平坦性の問題を抑制できるCMP研磨液を提供することを目的とするものである。
【0023】
また、本発明は、微細化、薄膜化、寸法精度、電気特性に優れ、信頼性が高く、低コストの半導体基板等の製造における研磨方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、前記課題を解決するために種々の検討を行った結果、砥粒としてシリカ粒子を使用したものであり、前記シリカ粒子が持つ(A)シラノール基密度と(B)一次粒子径と(C)会合度とが、前記いずれの課題に対しても、重要な因子であることを見いだした。
【0025】
(1)本発明の第一実施形態は、媒体と、前記媒体に分散している砥粒としてシリカ粒子とを含む、CMP研磨液であって、
(A1)前記シリカ粒子のシラノール基密度が5.0個/nm以下であり、(B1)前記シリカ粒子を走査型電子顕微鏡により観察した画像から任意の20個を選択したときの二軸平均一次粒子径が25〜55nmであり、(C1)会合度が1.1以上であるCMP研磨液に関する。
【0026】
ここで、前記会合度は、シリカ粒子が液体に分散した状態における動的光散乱方式による粒度分布計により測定された前記シリカ粒子の二次粒子の平均粒径と、前記二軸平均一次粒子径との比(二次粒子の平均粒径/二軸平均一次粒子径)として定義される。
【0027】
このような研磨液とすることによって、バリア膜の研磨速度に優れるだけでなく、砥粒の分散安定性に優れ、層間絶縁膜を高速に研磨できるCMP研磨液が提供される。
【0028】
また、砥粒の添加量が従来のものと比較して相対的に少ない場合であっても、層間絶縁膜に対する高い研磨速度を得ることができる。このことは、従来のCMP研磨液と同等の研磨速度を得るために必要な砥粒の添加量が少なくすむということを意味する。これにより、CMP研磨液を従来のCMP研磨液と比較して、高濃度で濃縮することができるため、保存・運搬に対する利便性が高いほか、顧客のプロセスにあわせたより自由度の高い使用方法が提供できる。
【0029】
(2)また、本発明の第二実施形態は、媒体と、前記媒体に分散している砥粒としてシリカ粒子とを含む、CMP研磨液であって、(A2)前記シリカ粒子のシラノール基密度が5.0個/nm以下であり、かつ、表面処理されたものではなく、(B2)前記シリカ粒子を走査型電子顕微鏡により観察した画像から任意の20個を選択したときの二軸平均一次粒子径が60nm以下であり、(C2)前記シリカ粒子の会合度が1.20以下または、1.40〜1.80であるCMP研磨液に関する。
【0030】
このような研磨液とすることによって、バリア膜の研磨速度に優れるだけでなく、層間絶縁膜を高速に研磨でき、さらにシームの発生を抑制することのできるCMP研磨液が提供される。
【0031】
(3)本発明のCMP研磨液は、さらに金属防食剤を含むことが好ましい。これにより、導電性物質のエッチングを抑制し、さらに、研磨後の表面に荒れが生じるのを防ぎやすくなる。
【0032】
(4)前記金属防食剤は、トリアゾール骨格を有する化合物であることが好ましい。これにより、より効果的に導電性物質のエッチングを抑制し、さらに、研磨後の表面に荒れが生じるのを防ぎやすくなる。
【0033】
(5)前記金属防食剤は、ベンゾトリアゾール及び1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジンから選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの金属防食剤を、シラノール基密度が5.0個/nm以下であるシリカ粒子と併用することによって、より効果的にシームを抑制することができる。
【0034】
(6)前記シリカ粒子は、CMP研磨液中でのゼータ電位が5mV以上であることが好ましい。これにより、よりシリカ粒子の分散性に優れ、層間絶縁膜の研磨速度に優れたCMP研磨液が提供される。
【0035】
(7)前記シリカ粒子は、前記シラノール基密度、二軸平均一次粒子径、会合度及びゼータ電位の値を変えることが容易である点、及びシリカ粒子の入手が容易である点で、コロイダルシリカであることが好ましい。
【0036】
(8)前記シリカ粒子は、含有量がCMP研磨液100質量部に対して3.0〜8.0質量部であることが好ましい。これにより、層間絶縁膜に対する良好な研磨速度が得られるCMP研磨液が提供される。さらに、粒子の凝集・沈降がより抑制しやすくなり、結果として良好な分散安定性・保存安定性を有するCMP研磨液が提供される。
【0037】
(9)本発明のCMP研磨液は、pHが中性領域又は酸性領域であることが好ましい。これにより、導電性物質及びバリア膜の研磨速度がより優れるCMP研磨液が提供される。
【0038】
(10)本発明のCMP研磨液は、さらに酸化金属溶解剤を含有することが好ましい。これにより、バリア膜等の金属に対する良好な研磨速度を有するCMP研磨液が提供される。また、前記第2の研磨工程では、導電性物質も研磨されるが、酸化金属溶解剤を含むことにより、導電性物質に対する研磨速度も良好なCMP研磨液が提供される。
【0039】
(11)本発明のCMP研磨液は、さらに酸化剤を含むことが好ましい。これにより、導電性物質やバリア膜に対して、より優れた研磨速度を示すCMP研磨液が提供される。
【0040】
(12)また、本発明のCMP研磨液は、3倍以上に濃縮されているCMP研磨液用濃縮液の形態で保存することが好ましい。これにより、保管、輸送等に係るコストを低減できる上、使用時に濃度を調整しながら研磨することが可能となる。
【0041】
(13)この場合、前記砥粒を5質量部以上含むことが好ましい。
【0042】
(14)また、本発明によれば、表面に凹部及び凸部を有する層間絶縁膜、該層間絶縁膜を表面に沿って被覆するバリア膜、前記凹部を充填してバリア膜を被覆する導電性物質を有する基板の、導電性物質を研磨して前記凸部上の前記バリア膜を露出させる第1の研磨工程と、
少なくとも前記凸部上の前記バリア膜を研磨して凸部の層間絶縁膜を露出させる第2の研磨工程とを含み、
少なくとも前記第2の研磨工程で前記(1)〜(11)の本発明のCMP研磨液のいずれかを供給しながら、研磨する研磨方法が提供される。このような研磨方法によれば、バリア膜及び層間絶縁膜を高速に研磨することができる。
【0043】
(15)さらに、前記(12)又は(13)のCMP研磨液用濃縮液を、希釈液若しくは添加液又はその両方と混合してCMP研磨液を調製して、前記(14)と同様に研磨しても良い。
【0044】
(16)前記研磨方法において、層間絶縁膜は、シリコン系被膜又は有機ポリマー膜であるのが好ましい。
【0045】
(17)また、導電性物質は、銅を主成分とするのが好ましい。
【0046】
(18)さらに、バリア導体膜は、前記層間絶縁膜へ前記導電性物質が拡散するのを防ぐバリア導体膜であって、タンタル、窒化タンタル、タンタル合金、その他のタンタル化合物、チタン、窒化チタン、チタン合金、その他のチタン化合物、ルテニウム、その他のルテニウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0047】
(19)前記第2の研磨工程において、さらに凸部の層間絶縁膜の一部を研磨するのが好ましい。
【0048】
また、本発明によれば、前記の研磨方法を用いて作製された半導体基板又は電子機器が提供される。これにより製造された半導体基板及び他の電子機器は、微細化、薄膜化、寸法精度、電気特性に優れ、信頼性の高いものとなる。
【0049】
本発明の開示は、2009年8月19日に出願された特願2009−190422号に記載の主題と関連しており、それらの開示内容は引用によりここに援用される。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、バリア膜の研磨速度が高速であり、かつ砥粒の分散安定性が良好であり、層間絶縁膜が高速に研磨できるCMP研磨液が得られ、研磨工程時間の短縮によるスループットの向上が可能となる。また、このCMP研磨液を用いて化学機械研磨を行う本発明の研磨方法は、生産性が高く、微細化、薄膜化、寸法精度、電気特性に優れ、信頼性の高い半導体基板及び他の電子機器の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、一般的なダマシンプロセスの経過の断面模式図であり、図1(a)は研磨前、図1(b)はバリア膜が露出するまで導電性物質を研磨した状態、図1(c)は層間絶縁膜の凸部が露出するまで研磨した状態である。
【図2】図2は、二軸平均一次粒子径を算出される粒子形状の一例である。
【図3】図3の(a)〜(d)は、半導体基板における配線膜の形成工程の一例の断面模式図である。
【図4】図4は第2の研磨工程でオーバー研磨した一例の断面模式図である。
【図5】図5は研磨後に発生したシームを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
(第一実施形態)
以下、本発明のCMP研磨液について順に説明する。本発明のCMP研磨液の第一実施形態は、媒体と、前記媒体に分散している砥粒としてシリカ粒子とを含む、CMP研磨液であって、前記シリカ粒子のシラノール基密度が5.0個/nm以下であり、前記シリカ粒子を走査型電子顕微鏡により観察した画像から任意の20個を選択したときの二軸平均一次粒子径が25〜55nmであり、前記シリカ粒子の会合度が1.1以上であるCMP研磨液である。
【0053】
第一実施形態に係るCMP研磨液は、従来のCMP研磨液と比較して、シリカ粒子の分散安定性が良好であり、さらに層間絶縁膜に対する良好な研磨速度を得ることができる。このような効果を有する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推定している。すなわち、シラノール基(−Si−OH)密度が小さい粒子は、シリカ粒子に存在する未反応の−Si−OH基が少なく、シリカ粒子中のSi−O−Si構造が充分かつ緻密に発達していると考えられる。このため、研磨粒子としての「硬さ」が相対的に高くなり、層間絶縁膜の研磨速度が速くなると推定している。但し、シリカ粒子のサイズが適切な範囲でないと、前記研磨速度と前記安定性とが両立できないため、二軸平均一次粒子径及び会合度と、前記シラノール基密度とのバランスを取ることが重要になると考えられる。
【0054】
(I.シリカ粒子)
(I−i.シラノール基密度)
第一実施形態に係るCMP研磨液に使用するシリカ粒子は、シラノール基密度が5.0個/nm以下である。これにより、層間絶縁膜に対して良好な研磨速度が得られ、かつ、分散安定性に優れたCMP研磨液を得ることができる。層間絶縁膜に対する研磨速度により優れる点で、前記シラノール基密度としては、4.5個/nm以下であることが好ましく、4.0個/nm以下であることがより好ましく、3.5個/nm以下であることがさらに好ましく、3.0個/nm以下であることが特に好ましく、2.0個/nm以下であることが極めて好ましい。
【0055】
本発明においてシラノール基密度(ρ[個/nm])は次のような滴定により測定及び算出することができる。
【0056】
[1]まず、質量を測定済みの容器(X[g])に、シリカ粒子を15g量りとり、適量(100ml以下)の水に分散させる。シリカ粒子が水等の媒体に分散された分散液の状態の場合は、シリカ粒子が15gとなるように、容器に分散液を量りとる。
【0057】
[2]次に、0.1mol/L塩酸でpH3.0〜3.5に調整し、このときの質量(Y[g])を測定し、液体の総質量(Y−X[g])を求める。
【0058】
[3][2]で得られた質量の1/10にあたる量((Y−X)/10[g])の液体を、別の容器に量りとる。この段階で液体に含まれるシリカ粒子(A[g])は1.5gである。
【0059】
[4]そこに、塩化ナトリウムを30g添加し、さらに超純水を添加して全量を150gにする。これを、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液でpH4.0に調整し、滴定用サンプルとする。
【0060】
[5]この滴定用サンプルに0.1mol/L水酸化ナトリウムをpHが9.0になるまで滴下し、pHが4.0から9.0になるまでに要した水酸化ナトリウム量(B[mol])を求める。
【0061】
[6]下記式(1)よりシリカ粒子の持つシラノール基密度を算出する。
【0062】
ρ=B・N/A・SBET ……(1)
(ここで、式(1)中のN[個/mol]はアボガドロ数、SBET[m/g]はシリカ粒子のBET比表面積をそれぞれ示す。)
後述するコロイダルシリカのように、水等の媒体に分散された状態で入手できるシリカ粒子の場合は、シリカ粒子量が15gになる量を量りとり、以後は同じ手順でシラノール基密度を測定してもよい。また、CMP研磨液に含まれるシリカ粒子については、CMP研磨液からシリカ粒子を単離・洗浄し、以後は同様の手順でシラノール基密度を測定してもよい。
【0063】
前記シリカ粒子のBET比表面積SBETは、BET比表面積法に従って求める。具体的な測定方法としては、例えば、シリカ粒子(コロイダルシリカでもよい)を乾燥機に入れ、150℃で乾燥させた後、測定セルに入れて120℃で60分間真空脱気した試料について、BET比表面積測定装置を用い、窒素ガスを吸着させる1点法もしくは多点法により求めることができる。より具体的には、まず前記のように150℃で乾燥した砥粒を、乳鉢(磁性、100ml)で細かく砕いて測定用試料として測定セルに入れ、これをユアサアイオニクス(株)製BET比表面積測定装置(製品名NOVE−1200)を用いてBET比表面積Vを測定する。
【0064】
前記のシラノール基密度の算出方法の詳細については、例えば、Analytical Chemistry、1956年、第28巻、12号、p.1981−1983及びJapanese Journal of Applied Physics、2003年、第42巻、p.4992−4997に開示されている。
【0065】
(I−ii.二軸平均一次粒子径)
第一実施形態に係るCMP研磨液に使用するシリカ粒子としては、層間絶縁膜に対する良好な研磨速度を得ることができる点にのみ着目すれば、二軸平均一次粒子径が10〜100nmの範囲のものが好ましく、下限は20nm以上であることがより好ましく、上限は80nm以下であることがより好ましい。また、CMP研磨液中での分散安定性が比較的良く、CMPにより発生する研磨傷の発生数の比較的少ない点で、二軸平均一次粒子径が20〜60nmであることが好ましく、下限は25nm以上であることがより好ましく、上限は55nm以下であることがより好ましい。従って、第一実施形態に係るCMP研磨液では、層間絶縁膜に対する研磨速度と、シリカ粒子の分散安定性を高いレベルで両立するためには、二軸平均一次粒子径が25〜55nmとする。同様の理由で、35〜55nmであることがより好ましい。
【0066】
本発明において二軸平均一次粒子径(R[nm])は、任意の粒子20個を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果から、次のようにして算出する。すなわち、通常水に分散している固形分濃度5〜40wt%のコロイダルシリカを例にすると、適量のコロイダルシリカの液を取り、その液が入っている容器にパターン配線付きウエハを2cm角に切ったチップを約30秒浸した後、純水のはいった容器に移して約30秒間すすぎをし、そのチップを窒素ブロー乾燥する。その後、SEM観察用の試料台に乗せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察、画像を撮影する。得られた画像から任意の20個を選択する。
【0067】
例えば、選択したシリカ粒子が図2に示すような形状であった場合、シリカ粒子4に外接し、その長径が最も長くなるように配置した長方形(外接長方形5)を導く。そして、その外接長方形5の長径をX、短径をYとして、(X+Y)/2として1粒子の二軸平均一次粒子径を算出する。この作業を任意の20個のシリカ粒子に対して実施し、得られた値の平均値を、本発明における二軸平均一次粒子径という。
【0068】
(I−iii.会合度)
本発明の研磨液に使用されるシリカ粒子は、好ましい層間絶縁膜の研磨速度が得られる点で、粒子の会合度が1.1以上であり、同様の理由で、前記会合度は1.2以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.4以上であることが更に好ましい。
【0069】
なお、本発明において、会合度とは、上述したように、砥粒が液体に分散した状態における動的光散乱方式による粒度分布計により測定された二次粒子の「平均粒径」を求め、この平均粒径を前記二軸平均一次粒子径で除した値(平均粒径/二軸平均一次粒子径)を意味する。
【0070】
ここで、前記平均粒径は、例えば、下記の方法により測定することができる。すなわち、適量のCMP研磨液を量りとり、動的光散乱方式粒度分布計が必要とする散乱光強度の範囲に入るように必要に応じて水で希釈して測定サンプルを調整する。次にこの測定サンプルを、動的光散乱方式粒度分布計に投入し、D50として得られる値を平均粒径とする。このような機能を有する動的光散乱方式の粒度分布計としては、例えばCOULTER Electronics社製の光回折散乱式粒度分布計(商品名COULTER N5型)が挙げられる。なお、後述するようにCMP研磨液を分液保存又は濃縮保存する場合は、シリカ粒子を含むスラリから前記手法によってサンプルを調整して、二次粒子の平均粒径を測定することができる。
【0071】
(I−iv.ゼータ電位)
本発明のCMP研磨液に使用するシリカ粒子としては、砥粒の分散性に優れ、層間絶縁膜に対して良好な研磨速度が得られる点で、CMP研磨液中でのゼータ電位が+5mV以上であることが好ましく、+10mV以上であることがより好ましい。上限は特に制限はないが、約80mV以下であれば通常の研磨には充分である。なお、前記ゼータ電位を5mV以上とする手法としては、CMP研磨液のpHを調整する、CMP研磨液にカップリング剤や水溶性ポリマーを配合する等の手法が挙げられる。前記水溶性ポリマーとしては、水溶性陽イオン性ポリマーが好適に使用できる。
【0072】
本発明においてゼータ電位(ζ[mV])は、ゼータ電位測定装置において測定サンプルの散乱強度が1.0×10〜5.0×10cps(ここでcpsとはcounts per second、すなわちカウント毎秒を意味し、粒子の計数の単位である。以下同じ。)となるようにCMP研磨液を純水で希釈し、ゼータ電位測定用セルに入れ、測定する。散乱強度を前記範囲にするには例えばシリカ粒子が1.7〜1.8質量部となるようにCMP研磨液を希釈することが挙げられる。
【0073】
前記シラノール基密度、二軸平均一次粒子径、会合度及びゼータ電位の異なる種々のシリカ粒子はいくつかのシリカ粒子メーカーから容易に入手可能であり、これらの値もメーカーでの知見により制御が可能である。
【0074】
また、シリカ粒子の種類としては、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等公知のものを使用することができるが、前記のシラノール基密度、二軸平均一次粒子径、会合度及びゼータ電位を有するシリカ粒子の入手が容易な点で、コロイダルシリカであることが好ましい。なお、本発明のCMP研磨液において、前記の特性を満たす限りは、2種類以上の砥粒を組み合わせて使用することができる。
【0075】
(I−v.含有量)
前記シリカ粒子の含有量は、CMP研磨液100質量部に対して、3.0〜8.0質量部とすることが好ましい。前記の特性を有するコロイダルシリカの含有量が3.0質量部以上の場合、層間絶縁膜に対する良好な研磨速度が得られる傾向があり、8.0質量部以下の場合、粒子の凝集・沈降がより抑制しやすくなり、結果として良好な分散安定性・保存安定性が得られる傾向がある。なお、ここでの含有量とは、CMP研磨工程に使用しうる状態に調合した状態(POU。Point of Useの意)での配合量であり、後述する分液保存時又は濃縮保存時の配合量ではない。
【0076】
(II.pH)
本発明のCMP研磨液は、層間絶縁膜を高速に研磨できることを特長とするが、前記のように、バリア膜の研磨において、層間絶縁膜をオーバー研磨する場合のCMP研磨液として好適に使用するためには、被研磨面に含まれる導電性物質及びバリア膜の研磨速度も良好な値に保つことが好ましい。このような点で、本発明のCMP研磨液のpHは中性領域又は酸性領域であることが好ましい。ここで中性領域とは6.5以上7.5以下と定義され、酸性領域とはpH6.5未満として定義される。
【0077】
後述する酸化金属溶解剤として有機酸化合物、無機酸化合物を使用する場合には、導電性物質に対する腐食を抑制しやすく、導電性物質が過剰に研磨されることに起因するディッシングを抑制しやすくなる点で、pHは1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましく、2.0以上が特に好ましい。pHを前記範囲とすることにより、酸性が強すぎる場合と比較して、取り扱いが容易になる。また、導電性物質及びバリア膜の導体に対しても良好な研磨速度を得ることができる点で、pHは5.0以下がより好ましく、4.5以下が更に好ましく、4.0以下が特に好ましく、3.5以下が非常に好ましく、3.0以下が極めて好ましい。
【0078】
また、後述する酸化金属溶解剤としてアミノ酸を含有する場合には、pHは中性領域であることが好ましい。
【0079】
(III.媒体)
CMP研磨液の媒体としては、シリカ粒子が分散できる液体であれば特に制限されないが、pH調整の取り扱い性、安全性、被研磨面との反応性などの点から水を主成分とするものが好ましく、より具体的には、脱イオン水、イオン交換水、超純水等が好ましい。
【0080】
CMP研磨液は、必要に応じて有機溶媒を添加しても良い。これらの有機溶媒は、水に溶解しにくい成分の溶解補助剤として使用したり、研磨する面に対するCMP研磨液の濡れ性を向上させる目的で使用したりすることができる。本発明のCMP研磨液における有機溶媒としては特に制限はないが、水と混合できるものが好ましく、1種類単独で又は2種類以上混合して用いることができる。
【0081】
溶解補助剤として使用する場合の有機溶媒としては、アルコールや、酢酸等の極性溶媒を挙げることができる。また、被研磨面に対する濡れ性を向上させ、層間絶縁膜とバリア膜との研磨速度を近づける目的では、例えば、グリコール類、グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類、アルコール類、炭酸エステル類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、フェノール類、ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン、酢酸エチル、乳酸エチル、スルホラン等が挙げられる。中でも、グリコールモノエーテル類、アルコール類、炭酸エステル類から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0082】
有機溶媒を配合する場合、有機溶媒の含有量は、CMP研磨液100質量部に対して、0.1〜95質量部とすることが好ましい。前記含有量は、CMP研磨液の基板に対する濡れ性を向上させる点で0.2質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、上限としては、製造プロセス上困難が生じるのを防ぐ点で50質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0083】
なお、水の含有量は残部でよく、含有されていれば特に制限はない。また、後述する濃縮保存されたCMP研磨液を、使用に適する濃度まで希釈する希釈液としても用いられる。
【0084】
(IV.その他の成分)
本発明においては、導電性物質やバリア膜に対する研磨速度を得ることを主な目的として、さらに酸化金属溶解剤、金属酸化剤(以下、単に「酸化剤」ともいう。)を含有することができる。CMP研磨液のpHが低い場合には、導電性物質のエッチングが生じるおそれがあるため、これを抑制する目的で金属防食剤を含有することができる。以下これらの成分について説明する。
【0085】
(IV−i.酸化金属溶解剤)
本発明のCMP研磨液は、導電性物質及びバリア膜等の金属に対する良好な研磨速度が得られる点で、酸化金属溶解剤を含有することが好ましい。ここで酸化金属溶解剤とは、少なくとも酸化した導電性物質を水に溶解させるのに寄与する物質として定義され、キレート剤、エッチング剤として知られる物質を含む。
【0086】
このような酸化金属溶解剤は、pHの調整及び導電性物質の溶解に寄与する目的で使用されるものであり、その機能を有していれば特に制限はない。このような酸化金属溶解剤としては、具体的には例えば、有機酸、有機酸エステル、有機酸の塩等の有機酸化合物;無機酸、無機酸の塩等の無機酸化合物;アミノ酸などが挙げられる。前記の塩としては、特に制限はないがアンモニウム塩であることが好ましい。これらの酸化金属溶解剤は1種類単独で又は2種類以上混合して用いることができ、前記有機酸、前記無機酸及び前記アミノ酸を併用することもできる。
【0087】
前記の酸化金属溶解剤としては、実用的なCMP速度を維持しつつ、エッチング速度を効果的に抑制できるという点では、有機酸化合物を含むことが好ましく、有機酸を含むことがより好ましい。前記有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、乳酸、マンデル酸、ビニル酢酸、3−ヒドロキシ絡酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、フタル酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、グルタル酸、オキサロ酢酸、クエン酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メリト酸、イソクエン酸、アコニット酸、オキサロコハク酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、オクタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、安息香酸、ケイヒ酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、グリコール酸、サリチル酸、クレオソート酸、バニリン酸、シリング酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、ゲンチジン酸、プロカテク酸、オルセリン酸、没食子酸、タルトロン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、シトラマル酸、キナ酸、シキミ酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸,メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、カフェー酸、フェルラ酸、イソフェルラ酸、シナピン酸、等の有機酸、及び、無水マレイン酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、等の有機酸の酸無水物などが挙げられ、中でも、ギ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸、アジピン酸から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
前記の酸化金属溶解剤としては、導電性物質に対する高い研磨速度が得られやすい点では、無機酸を含むことができる。このような無機酸としては、具体的には例えば、塩酸、硝酸等の一価の無機酸、硫酸、クロム酸、炭酸、モリブデン酸、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、セレン酸、テルル酸、亜テルル酸、タングステン酸、ホスホン酸等の二価の酸、リン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、バナジン酸等の三価の酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の四価以上の酸などが挙げられる。無機酸を使用する場合は、硝酸であることが好ましい。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
前記酸化金属溶解剤としては、pHの調整が容易であり、導電性物質に対する高い研磨速度が得られやすい点では、アミノ酸を含むことができる。このようなアミノ酸としては、わずかでも水に溶解するものであれば特に制限はなく、具体的には例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シシチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0090】
酸化金属溶解剤を配合する場合、その含有量は、CMP研磨液100質量部に対して、0.001〜20質量部とすることが好ましい。前記含有量は、導電性物質及びバリア膜等の金属に対して良好な研磨速度が得られやすい点で0.002質量部以上がより好ましく、0.005質量部以上がさらに好ましい。また、上限としては、エッチングを抑制し被研磨面に荒れが生じるのを防ぎやすい点で、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
【0091】
(IV−ii.金属防食剤)
本発明のCMP研磨液は、導電性物質に対する保護膜を形成して導電性物質のエッチングを抑制し、さらに、研磨後の表面に荒れが生じるのを防ぐ機能を有する金属防食剤を含有することが好ましい。ここで、金属防食剤とは、単独で使用したときに前記導電性物質に保護膜を形成しうる物質として定義される。前記保護膜は、金属防食剤の水溶液に導電性物質膜を有する試料を浸漬し、試料の表面の組成分析を行うことで保護膜が形成されているか判別することができるが、本発明のCMP研磨液中において、必ずしも前記金属防食剤からなる保護膜が形成されている必要はない。
【0092】
このような金属防食剤としては、具体的には例えば、分子内にトリアゾール骨格を有するトリアゾール化合物、分子内にピラゾール骨格を有するピラゾール化合物、分子内にピラミジン骨格を有するピラミジン化合物、分子内にイミダゾール骨格を有するイミダソール化合物、分子内にグアニジン骨格を有するグアニジン化合物、分子内にチアゾール骨格を有するチアゾール化合物、分子内にテトラゾール骨格を有するテトラゾール化合物等が挙げられる。これらは1種類単独で又は2種類以上混合して用いることができる。
【0093】
中でもトリアゾール化合物が好ましく、具体的には例えば、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体;ベンゾトリアゾール;1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ジヒドロキシプロピルベンゾトリアゾール、2,3−ジカルボキシプロピルベンゾトリアゾール、4−ヒドロキシベンゾトリアゾール、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾール、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールメチルエステル、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールブチルエステル、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールオクチルエステル、5−ヘキシルベンゾトリアゾール、[1,2,3−ベンゾトリアゾリル−1−メチル][1,2,4−トリアゾリル−1−メチル][2−エチルヘキシル]アミン、トリルトリアゾール、ナフトトリアゾール、ビス[(1−ベンゾトリアゾリル)メチル]ホスホン酸、3−アミノベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体;1−アセチル−1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジン、1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジン、及び、3H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−オール等のピリジン骨格を有するトリアゾール誘導体などが挙げられる。
【0094】
金属防食剤の含有量としては、導電性物質のエッチングを抑制し、さらに、研磨後の表面に荒れが生じるのを防ぎやすくなる点で、CMP研磨液100質量部に対して、0.001質量部以上がより好ましく、0.01質量部以上がさらに好ましい。また、上限としては、導電性物質膜及びバリア膜の研磨速度を実用的な研磨速度に保つことができる点で10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、2質量部以下が特に好ましい。
【0095】
(IV−iii.金属酸化剤)
本発明のCMP研磨液は、前記導電性物質を酸化する能力を有する金属酸化剤を含有することが好ましい。このような金属酸化剤としては、具体的には例えば、過酸化水素、硝酸、過ヨウ素酸カリウム、次亜塩素酸、オゾン水等が挙げられ、中でも過酸化水素がより好ましい。これらは1種類単独で又は2種類以上混合して用いることができる。過酸化水素は、通常過酸化水素水として入手できるため、本発明のCMP研磨液を、後述するように濃縮保存して使用する場合に、希釈液として使用することができる。
【0096】
基板が集積回路用素子を含むシリコン基板である場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン化物等による汚染は望ましくないため、不揮発成分を含まない酸化剤が望ましい。但し、オゾン水は組成の時間変化が激しいため、過酸化水素が最も適している。なお、適用対象の基体が半導体素子を含まないガラス基板などである場合は不揮発成分を含む酸化剤であっても差し支えない。
【0097】
前記金属酸化剤の含有量は、CMP研磨液100質量部に対して、0.01〜50質量部とすることが好ましい。前記含有量は、金属の酸化が不充分となりCMP速度が低下することを防ぐ観点から、0.02質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がさらに好ましい。また、上限としては、被研磨面に荒れが生じるのを防ぐことができる点で、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。なお、酸化剤として過酸化水素を使用する場合、過酸化水素が最終的に前記範囲になるように換算して、過酸化水素水を配合する。
【0098】
また、CMP研磨液のpHを酸性領域とする場合には、前記酸化剤の含有量は、バリア膜に対する良好な研磨速度が得られる点で、CMP研磨液100質量部に対して0.01〜3質量部の範囲とすることがより好ましい。CMP研磨液のpHが1〜4である場合には、前記酸化剤の含有量が0.15質量部付近でバリア膜に対する研磨速度が極大となる傾向があり、この観点で、前記酸化剤の含有量は、CMP研磨液100質量部に対して2.5質量部以下であることがさらに好ましく、2質量部以下であることが更に好ましく、1.5質量部以下であることが特に好ましく、1.0質量部以下であることが極めて好ましい。
【0099】
(IV−iv.水溶性ポリマー)
本発明のCMP研磨液は、水溶性ポリマーを含有することができる。CMP研磨液は、水溶性ポリマーを含有させることで、被研磨面の平坦化能に優れ、また、微細配線部が密集している部位においても、エロージョンの発生を抑制することができる。
【0100】
水溶性ポリマーの重量平均分子量は、高い研磨速度を発現させることができる点で、500以上が好ましく、1500以上がより好ましく、5000以上が更に好ましい。また、上限としては特に制限はないが、CMP研磨液中への溶解度の観点から、500万以下が好ましい。水溶性ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、例えば、以下の条件で、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0101】
(条件)
試料:10μL
標準ポリスチレン:東ソー株式会社製標準ポリスチレン(分子量;190000、17900、9100、2980、578、474、370、266)
検出器:株式会社日立製作所社製、RI−モニター、商品名「L−3000」
インテグレーター:株式会社日立製作所社製、GPCインテグレーター、商品名「D−2200」
ポンプ:株式会社日立製作所社製、商品名「L−6000」
デガス装置:昭和電工株式会社製、商品名「Shodex DEGAS」
カラム:日立化成工業株式会社製、商品名「GL−R440」、「GL−R430」、「GL−R420」をこの順番で連結して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
測定温度:23℃
流速:1.75mL/分
測定時間:45分
水溶性ポリマーとしては、特に制限はないが、平坦化特性に優れる点で、アクリル酸ポリマー(モノマー成分としてC=C−COOH骨格を含む原料モノマーを重合又は共重合させて得られるポリマー)であることが好ましい。
【0102】
前記アクリル酸系ポリマーを得るための前記原料モノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、チグリン酸、2−トリフルオロメチルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルコン酸等のカルボン酸類;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸類;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のエステル類、及びこれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルキルアミン塩等の塩が挙げられる。
【0103】
前記の中でも、メタクリル酸ポリマー(モノマー成分としてメタクリル酸を含む原料モノマーを重合又は共重合させて得られるポリマー)を含有することが好ましい。前記メタクリル酸系ポリマーは、メタクリル酸のホモポリマー及び、メタクリル酸と該メタクリル酸と共重合可能なモノマーとのコポリマーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0104】
メタクリル酸系ポリマーがメタクリル酸と該メタクリル酸と共重合可能なモノマーとのコポリマーである場合、モノマー全量に対するメタクリル酸の割合は、好ましくは40モル%以上100モル%未満、より好ましくは70モル%以上100モル%未満である。前記メタクリル酸の割合が高くなることで、エロージョン及びシームを抑制し、被研磨面の平坦性をより高めることができる。前記メタクリル酸の割合が40モル%未満では、エロージョン及びシームを効果的に抑制できず、被研磨面の平坦性が低くなる傾向にある。
【0105】
メタクリル酸系ポリマーの配合量は、CMP研磨液に含まれる砥粒の安定性が極端に低下するのを抑制しつつ、平坦性を向上できる点で、CMP研磨液の全成分の総量100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下が更に好ましく、0.05質量部以下が特に好ましい。下限としては、平坦性を効果的に向上できる点で、CMP研磨液の全成分の総量100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.01質量部以上が更に好ましい。
【0106】
(第二実施形態)
本発明のCMP研磨液の第二実施形態は、媒体と、前記媒体に分散している砥粒としてシリカ粒子とを含むCMP研磨液であって、前記シリカ粒子のシラノール基密度が5.0個/nm以下であり、かつ、表面処理されたものではなく、前記シリカ粒子の二軸平均一次粒子径が60nm以下であり、前記会合度が1.20以下または、1.40〜1.80の間であるCMP研磨液に関する。
【0107】
第二実施形態に係るCMP研磨液は、従来のCMP研磨液と比較して、バリア層や層間絶縁膜に対する良好な研磨速度を得つつ、配線金属部近傍の層間絶縁膜の厚みが薄くなる現象である、前記「シーム」の発生を効果的に抑制することができる。このような効果を有する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推定している。
【0108】
まず、シームが発生する機構は、導電性物質とCMP研磨液に含まれる成分との反応により形成される反応層が、静電的相互作用により砥粒を引き寄せ、その結果、導電性物質3の配線金属部と、層間絶縁膜1との界面において、CMP研磨液に含まれる砥粒が高濃度に存在するためであると推定される。この結果、砥粒が過剰に存在する界面部分が過剰に研磨され、シームが発生すると考えられる。前記反応層を構成する化合物としては、例えば導電性物質、酸化金属溶解剤、金属防食剤、水溶性ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
前記のように、シリカ粒子はその末端(表面)には通常シラノール基(−Si−OH基)が存在している。このシラノール基における水素原子は、酸性領域及び中性領域においてほとんど解離しないため、通常のシリカ粒子のゼータ電位は、酸性領域及び中性領域において、若干正であるか、又はゼロに近い値を示す。しかしながら、前記シラノール基数を5.0個/nm以下と小さい範囲にすることにより、酸性領域において大きい正の値(例えば5mV以上)のゼータ電位をもたせることができる。
【0110】
ところで、層間絶縁膜中への導電性物質が拡散するのを防止するため、及び層間絶縁膜と導電性物質との密着性向上のために、バリア層が形成されるのが一般的である。前記バリア層は、CMP研磨液中で正に帯電しているため、同じく正に帯電しているシリカ粒子との静電的反発により、配線金属部近傍の層間絶縁膜の界面において砥粒濃度は低下することになる。さらに、シリカ粒子が正でかつ大きいゼータ電位をもつことから、砥粒同士が互いに反発し合い、CMP研磨液中に充分分散しており、特定箇所にシリカ粒子が集まることを抑制できる。これらの相乗効果によりシームが抑制されるものと推定される。シラノール基密度の下限としては特に制限はないが、入手容易性の観点で1.5個/nm以上であることが好ましい。
【0111】
シームをより効果的に抑制できる点で、前記砥粒のゼータ電位は、5mV以上であることが好ましく、7mV以上であることが好ましく、10mV以上であることが更に好ましい。
【0112】
また、シーム抑制効果は、前記のように、層間絶縁膜やバリア層と、砥粒との静電的相互作用によると考えられるため、たとえシラノール基密度が前記の範囲であったとしても、砥粒表面を表面処理してしまうと、前記の作用効果は失われてしまう。従って、第二実施形態のCMP研磨液においては、前記砥粒は、表面処理されていないものを使用する。また、表面処理することにより、層間絶縁膜の研磨速度や砥粒分散安定性が充分でない傾向があると考えられる。
【0113】
ここで、表面処理とは、例えばコロイダルシリカ表面をアミノ基含有シランカップリング剤により改質して、正電荷をもつコロイダルシリカを得る処理のことである。しかしながら、表面処理したコロイダルシリカでは、充分な層間絶縁膜の研磨速度が得られにくい。
【0114】
一方で、層間絶縁膜の研磨機構は、第一の実施形態において説明したのと同様であると考えられる。すなわち、層間絶縁膜とシリカ粒子との物理的な接触である、機械的な研磨作用により層間絶縁膜が研磨されている。シラノール密度の低いシリカ粒子は、粒子に存在している未反応の−Si−OH基が少なく、シリカ粒子中のSi−O−Si構造が充分かつ緻密に発達していると考えられる。このため、研磨粒子としての「硬さ」が相対的に高くなり、よって層間絶縁膜の研磨速度が速くなると推定している。一方、表面処理したシリカ粒子には、シラノール基が例えばアミノ基含有シランカップリング剤により改質され、正電荷を持つ嵩高いシリカ粒子となっている。得られたコロイダルシリカは、粒子としての密度が低く相対的に粒子の「硬さ」が低くなり、よって充分な層間絶縁膜の研磨速度が得られないと考えられる。
【0115】
第二実施形態に係るCMP研磨液では、層間絶縁膜に対する研磨速度と、シーム抑制効果とを高いレベルで両立するために、前記二軸平均一次粒子径が60nm以下とする。同じ理由で、前記二軸平均一次粒子径が50nm以下であることがより好ましい。これは、粒子の二軸平均一次粒子径が大きいと、単位体積当りの粒子数が少なくなり、相関絶縁膜に対し物理的な接触が減ることにより充分な二酸化ケイ素研磨量が得られないと推測できる。
【0116】
また、第二実施形態に係るCMP研磨液では、前記会合度が1.20以下または、1.40〜1.80の間である砥粒を使用する。会合度が1.20以下であるとは、砥粒がほぼ単一の粒子として存在している、言い換えれば、粒子の状態が真球に近いことを示す。一方、会合度が1.40〜1.80であるとは、二個の砥粒が結合(凝集ではない)した形状であり、「落花生の殻」のような形状ことを示す。これらの砥粒は、層間絶縁膜に対して充分な物理的な接触を得やすい形状であり、層間絶縁膜に対する良好な研磨速度が得られると推測される。
【0117】
第二実施形態に係るCMP研磨液の、その他の構成及び好ましい態様については、前記第一実施形態のCMP研磨液とほぼ同様である。但し、前記金属防食剤としては、前記砥粒との相乗効果によりシームをより効果的に抑制できると言う点で、トリアゾール骨格を有する化合物を使用することが好ましく、中でも、ベンゾトリアゾール及び1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジンから選択される少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0118】
種々ある金属防食剤の中でも、ベンゾトリアゾール及び1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジンが特にシーム抑制に優れる理由は明らかではないが、前記防食剤作用による導電性物質に対する保護膜が強固に形成されるため、導電性物質と層間絶縁膜界面への砥粒の機械的接触が抑制されると推測できる。
【0119】
本発明のCMP研磨液は、これまで説明してきたように層間絶縁膜に対する研磨速度が高く、かつ、砥粒以外の前記酸化金属溶解剤などの成分の添加量等を変えることにより、種々のタイプのCMP研磨液とすることができるため、CMP研磨液材料としてのマージンが広いという大きな特長がある。すなわち、従来、ある一つの特性を改善するためにCMP研磨液の一つの成分の種類や配合量を変えると、各種成分同士の微妙なバランスが崩れて、別の特性が劣化してしまう傾向があった。例えば、研磨後の表面の平坦性を向上させるために成分の種類を変えると、最も重要なファクターである研磨速度が低下する、といったことが起こりうる。
【0120】
しかし、本発明のCMP研磨液は、前記のシリカ粒子による研磨性能(特に研磨速度)の向上効果が高いため、他の成分を使用して、種々の特性(例えば、研磨速度以外の特性)を調整しやすい。例えば、前記「IV.その他の成分」として説明した成分の種類・添加量等を変えることにより、種々のタイプのCMP研磨液とすることができる。これは、公知の知見を用いて導電性物質やバリア金属の研磨速度を上下させても、層間絶縁膜に対する研磨速度はあまり影響を受けないことを意味する。従って、従来公知の知見を用いてその他の成分を変更することによって、バリア金属の研磨速度が層間絶縁膜の研磨速度より高い、いわゆる選択性の高いCMP研磨液や、逆に、バリア金属と層間絶縁膜の研磨速度が同程度の、いわゆる非選択のCMP研磨液とすることが容易になる。
【0121】
さらに、本発明のCMP研磨液によれば、相対的に少ない砥粒の添加量でも比較的高い層間絶縁膜の研磨速度を得ることができるため、コスト面でも有利である。もちろん凝集・沈降等の影響を受けない程度に砥粒を多く添加することは可能である。しかしながら本発明のCMP研磨液において砥粒は少ない添加量でよいため、例えば、CMP研磨液を運搬・保存する際には、高濃度に濃縮することが可能である。すなわち、少なくともシリカ粒子を含む「スラリ」と、シリカ粒子以外の成分を含む1つ又は複数の「添加液」や「希釈液」とに分けて調製して保存し、CMP研磨工程に際して、それらを混合することにより調合して使用しうる。
【0122】
(分液保存)
前記で説明してきたような酸化金属溶解剤などの成分を含むことによって、研磨速度を好ましい値に調整することができるが、予め混合しておくことによって、シリカ粒子の分散安定性が低下することがある。これを避けるために、本発明のCMP研磨液は、少なくとも前記のシリカ粒子を含むスラリと、シリカ粒子以外の成分(例えば、シリカ粒子の分散安定性を低下させうる成分)を含む添加液とに分けて調製して保存することができる。
【0123】
例えば、前記のシリカ粒子、酸化金属溶解剤、金属酸化剤、金属防食剤及び水を含有するCMP研磨液の場合、シリカ粒子の分散安定性に影響を与える可能性がある金属酸化剤をシリカ粒子と分けて保存することができる。すなわち、金属酸化剤を含む水溶液と、シリカ粒子、酸化金属溶解剤、金属防食剤及び水を含有するスラリとに分けることができる。
【0124】
(濃縮保存)
本発明のCMP研磨液に使用されるシリカ粒子は、一次粒子径、会合度及びシラノール基密度がこれまで説明した範囲にあり、相対的に少ない砥粒の含有量でも比較的高い層間絶縁膜の研磨速度を得ることができるため、媒体に高濃度に含有・分散させたることができる。従来のシリカ粒子は、公知の方法で分散性を高めた場合であっても媒体100質量部に対して、せいぜい10質量部程度の含有量が限界であり、これ以上添加すると凝集・沈降が起こる。しかしながら、本発明のCMP研磨液に使用されるシリカ粒子は、10質量部以上媒体に分散させることができ、12質量部程度までは容易に媒体に含有・分散させることが可能である。また、最大で18質量部程度まで含有・分散させることが可能である。このことは、本発明のCMP研磨液が高い濃縮状態のCMP研磨液用濃縮液で保存・運搬できることを意味しており、プロセス上極めて有利である。例えば、シリカ粒子を5質量部含有するCMP研磨液として使用する場合、保存・運搬時は3倍濃縮が可能であることを意味する。このように、使用時よりも3倍以上に濃縮されているCMP研磨液用濃縮液として保存・運搬できる。前記の分液保存において、スラリも同様に濃縮して「濃縮スラリ」として保存・運搬できることはいうまでもない。
【0125】
より具体的には、例えば、CMP研磨液濃縮液100質量部に対して、少なくとも前記のシリカ粒子を10質量部以上含むCMP研磨液用濃縮液と、それ以外の成分を含む添加液と、希釈液とに分けて調製し、これらを研磨工程の直前に混合、又は、研磨時に所望の濃度になるように流量を調節しながら供給することで、CMP研磨液を得ることができる。希釈液としては、例えば、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒等が挙げられる。また、希釈液にも、シリカ粒子以外の成分を含むことが可能であり、例えば、CMP研磨液用濃縮液と、金属酸化剤を含む希釈液としての過酸化水素水と、それ以外の成分を含む添加液とに分けることも可能である。前記添加液と希釈液とに分けなくとも分散安定性に支障がない場合は、いずれか一方であってもよい。
【0126】
(V.用途・使用方法)
以上のような本発明のCMP研磨液を、半導体基板や電子機器製造のための研磨工程に適用することができる。より具体的には、半導体基板における配線の形成に適用できる。
【0127】
例えば導電性物質と、バリア膜、層間絶縁膜とのCMPに使用することができる。
【0128】
本発明のCMP研磨液を使用した具体的な研磨方法の一つとしては、
表面に凹部及び凸部を有する層間絶縁膜、該層間絶縁膜を表面に沿って被覆するバリア膜、前記凹部を充填してバリア膜を被覆する導電性物質を有する基板の、導電性物質を研磨して前記凸部上の前記バリア膜を露出させる第1の研磨工程と、
前記CMP研磨液を供給しながら、少なくとも前記凸部上の前記バリア膜を研磨して凸部の層間絶縁膜を露出させる第2の研磨工程と
を含む研磨方法、
を挙げることができる。なお、第2の研磨工程においてはさらに層間絶縁膜の凸部の一部を研磨して平坦化させる、いわゆるオーバー研磨を行うこともできる。
【0129】
また、本発明のCMP研磨液を濃縮状態で調製して、前記CMP研磨液用濃縮液として保存する場合の研磨方法としては、
表面に凹部及び凸部を有する層間絶縁膜、該層間絶縁膜を表面に沿って被覆するバリア膜、前記凹部を充填してバリア膜を被覆する導電性物質を有する基板の、導電性物質を研磨して前記凸部上の前記バリア膜を露出させる第1の研磨工程と、
前記CMP研磨液用濃縮液を、希釈液若しくは添加液又はその両方と混合して、CMP研磨液を調製する混合工程と、
該CMP研磨液を供給しながら、少なくとも前記凸部上の前記バリア膜を研磨して凸部の層間絶縁膜を露出させる第2の研磨工程と、
を含むことを特徴とする研磨方法、
を挙げることができる。この際、前記混合工程は、前記第2の研磨工程が行われる時に、CMP研磨液用濃縮液、希釈液、添加液等を別々の配管で供給し、前記第2の研磨工程の系の中で混合する方法をとることができる。また、前記混合工程として、前記第2の研磨工程の前に、CMP研磨液用濃縮液、希釈液、添加液等を混合して、CMP研磨液を調製しておく方法を採ることもできる。
【0130】
前記導電性物質としては、例えば、銅、銅合金、銅の酸化物、銅合金の酸化物等の銅系金属、タングステン、窒化タングステン、タングステン合金等のタングステン系金属、銀、金などが主成分の物質などが挙げられ、銅系金属が主成分である金属であることが好ましく、銅が主成分である金属であることがより好ましい。前記導電性物質は、公知のスパッタ法、メッキ法等により成膜することができる。
【0131】
層間絶縁膜としては、例えば、シリコン系被膜、有機ポリマー膜等が挙げられる。
【0132】
シリコン系被膜としては、例えば、二酸化ケイ素、フルオロシリケートグラス、トリメチルシランやジメトキシジメチルシランを出発原料として得られるオルガノシリケートグラス、シリコンオキシナイトライド、水素化シルセスキオキサン等のシリカ系被膜、シリコンカーバイド、シリコンナイトライドなどを挙げることができる。
【0133】
また、有機ポリマー膜としては、例えば、トリメチルシランを出発原料とするオルガノシリケートグラス、全芳香環系Low−k膜(全芳香族系低誘電率層間絶縁膜)等のLow−k膜(低誘電率膜)などが挙げられ、特に、オルガノシリケートグラスが好ましい。これらの膜は、CVD法、スピンコート法、ディップコート法又はスプレー法によって成膜される。さらに、表面は、凹部及び凸部を有するように加工して形成される。
【0134】
バリア膜は、層間絶縁膜中に導電性物質が拡散するのを防止するため及び層間絶縁膜と導電性物質との密着性を向上させるために形成される。このようなバリア膜としては、例えば、チタン、窒化チタン、チタン合金等のチタン系金属;タンタル、窒化タンタル、タンタル合金等のタンタル系金属;ルテニウム、ルテニウム合金等のルテニウム系金属などが挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。また、バリア膜は、二層以上の積層膜とすることもできる。
【0135】
研磨する装置としては、例えば、研磨布により研磨する場合、研磨される基板を保持できるホルダと、回転数が変更可能なモータ等と接続し、研磨布を貼り付けた定盤とを有する一般的な研磨装置が使用できる。研磨布としては、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂などが使用でき、特に制限はない。
【0136】
研磨条件には制限はないが、定盤の回転速度は基板が飛び出さないように200min−1以下の低回転が好ましい。研磨圧力としては、1〜100kPaであることが好ましく、同一基板内でCMP速度のばらつきが少ないこと(CMP速度の面内均一性)及び研磨前に存在していた凹凸が解消し平坦になること(パターンの平坦性)を満足するためには、5〜50kPaであることがより好ましい。
【0137】
研磨している間、研磨布にはCMP研磨液をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常にCMP研磨液で覆われていることが好ましい。研磨終了後の基板は、流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。本発明による研磨工程を実施し、さらに、基板洗浄工程を加えるのが好ましい。
【0138】
以下、本発明の研磨方法の実施態様を、図3に示すような半導体基板における配線層の形成工程の具体例を示しながら、より詳細に説明する。なお、本発明の研磨方法がこれに限られないことは言うまでもない。
【0139】
まず、図3(a)に示すように、シリコン基板6上に二酸化ケイ素等の層間絶縁膜1を積層する。次いで、レジスト層形成、エッチング等の公知の手段を用いて、層間絶縁膜表面を加工し、所定パターンの凹部7(基板露出部)を形成する。これにより、図3(b)に示すような凸部と凹部とを有する表面が形成される。次に図3(c)に示すように、前記表面の凸凹に沿って、層間絶縁膜を被覆するタンタル等のバリア膜2を、蒸着又はCVD等により成膜する。
【0140】
さらに、図3(d)に示すように、前記凹部を充填するように、銅等の配線用金属からなる導電性物質3を、蒸着、めっき、CVD等の手法により形成して、本発明の研磨方法に供される基板10を形成する。層間絶縁膜1、バリア膜2及び導電性物質3の形成厚さは、それぞれ10〜2000nm、1〜100nm、10〜2500nm程度が好ましい。
【0141】
次に、前記方法により作製された基板10を、本発明のCMP研磨液を用いて研磨する方法を、図1を参照しながら説明する。まず、図1(a)の基板10の表面の導電性物質3を、例えば、導電性物質/バリア膜の研磨速度比が充分大きい、第1のCMP研磨液を用いて、CMPにより研磨する(第1の研磨工程)。これにより、図1(b)にしめすように基板上の凸部のバリア膜2を露出させ、凹部に前記導電性物質3が残された所望の導体パターンが露出した基板20を得る。研磨条件によっては、わずかに導電性物質が残り、凸部のバリア膜の一部が露出しない場合もある(この状態は図示していない)が、本発明のCMP研磨液は、導電性物質を研磨することもできるので、大半の導電性物質が除去されていれば差し支えない。
【0142】
得られた導体パターンを、本発明のCMP研磨液を使用して研磨する、第2の研磨工程を行う。第2の研磨工程では、導電性物質、バリア膜及び層間絶縁膜を研磨できる第2のCMP研磨液を使用して、例えば、少なくとも、前記露出しているバリア膜及び凹部の導電性物質を研磨する。これにより、図1の(c)のように、凸部を被覆するバリア膜を除去し、その下の層間絶縁膜1が全て露出させて、研磨を終了し、研磨終了後の基板30を得る。研磨終了後の基板30は、凹部に金属配線となる前記導電性物質3が埋め込まれ、導電性物質3と層間絶縁膜1との境界にバリア膜2の断面が露出した形状となる。
【0143】
ここで、本発明のCMP研磨液は、前記第1のCMP研磨液及び第2のCMP研磨液のどちらにも使用することができるが、層間絶縁膜に対する良好な研磨速度を有するという特長を活かすためには、少なくとも前記第2のCMP研磨液として使用されることが好ましい。
【0144】
なお、研磨終了後の基板30においてより優れた平坦性を確保するために、さらに図4に示すように、オーバー研磨(例えば、第2の研磨工程で所望のパターンを得られるまでの時間が100秒の場合、この100秒の研磨に加えて50秒追加して研磨することをオーバー研磨50%という)して凸部の層間絶縁膜の一部を含む深さまで研磨しても良い。
【0145】
図4において、オーバー研磨された部分8を点線で示す。
【0146】
このようにして形成された金属配線の上に、さらに、層間絶縁膜及び第2層目の金属配線を形成し、同様な工程を所定数繰り返すことにより、所望の配線層数を有する半導体基板を製造することができる(図示せず)。
【0147】
本発明のCMP研磨液は、前記のような半導体基板に形成されたケイ素化合物膜の研磨だけでなく、所定の配線を有する配線板に形成された酸化ケイ素膜、ガラス、窒化ケイ素等の無機絶縁膜、フォトマスク・レンズ・プリズム等の光学ガラス、ITO等の無機導電膜、ガラス及び結晶質材料で構成される光集積回路・光スイッチング素子・光導波路、光ファイバの端面、シンチレータ等の光学用単結晶、固体レーザ単結晶、青色レーザ用LEDサファイア基板、SiC、GaP、GaAs等の半導体単結晶、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ヘッド等の基板を研磨するためにも使用することができる。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実施例により制限するものではない。
【0149】
(実験1)
本発明の第一の実施形態に係るCMP研磨液を用いて、各種の膜を研磨した際の研磨速度及び砥粒の分散安定性を調べた。
【0150】
(I−1.CMP研磨液用濃縮液の調製)
容器に、酸化金属溶解剤としてリンゴ酸を1.5質量部、金属防食剤としてベンゾトリアゾールを0.6質量部入れ、そこに超純水X質量部を注ぎ、攪拌・混合して、両成分を溶解させた。次に、表1〜3に示すコロイダルシリカA〜Rを、シリカ粒子として12.0質量部に相当する量添加し、「CMP研磨液用濃縮液」を得た。なお、前記コロイダルシリカは、それぞれ固形分(シリカ粒子含有量)が相違するため、前記超純水X質量部は、CMP研磨液用濃縮液が100質量部になるよう計算して求めた。
【0151】
(I−2.CMP研磨液の調製)
前記CMP研磨液用濃縮液100質量部に、超純水200質量部添加して3倍に希釈し、「スラリ」を得た。次に、30質量%の過酸化水素水を2.66質量部(過酸化水素として0.8質量部に相当する量)添加し、攪拌・混合して実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−10のCMP研磨液を調製した。
【0152】
コロイダルシリカの二軸平均一次粒子径(R)、BET比表面積(SBET)、シラノール基密度(ρ)、二次粒子の平均粒径、会合度及びゼータ電位(ζ)の各値は、表1〜表3に示されるとおりである。
【0153】
(I−3.測定方法)
なお、表1〜表3中、コロイダルシリカの特性は、下記のようにして調べた。
【0154】
(1)二軸平均一次粒子径(R[nm])
適量のコロイダルシリカの液を取り、その液が入っている容器にパターン配線付きウエハを2cm角に切ったチップを約30秒浸した後、純水のはいった容器に移して約30秒間すすぎをし、そのチップを窒素ブロー乾燥する。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)観察用の試料台に乗せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察した画像を得た。得られた画像から、任意の粒子20個を選択した。図2に示すように、選択した粒子4に外接し、その長径が最も長くなるように配置した長方形(外接長方形)5を導き、その外接長方形5の長径をX、短径をYとして、(X+Y)/2として1粒子の二軸平均一次粒子径を算出した。この作業を任意の20粒子に対して実施し、得られた値の平均値を求め、二軸平均一次粒子径とした。
【0155】
(2)BET比表面積SBET[m/g]
コロイダルシリカを乾燥機に入れて150℃で乾燥させた後、乳鉢で細かく砕いて測定セルに入れ、120℃で60分間真空脱気した後にBET比表面積測定装置(NOVA−1200、ユアサアイオニクス製)を用い、窒素ガスを吸着させる多点法により求めた。
【0156】
(3)シラノール基密度(ρ[個/nm])
コロイダルシリカの液を、液中に含まれるシリカ量が15gとなるように量りとり、塩酸でpH3.0〜3.5に調整した。調整後の液の1/10に相当する質量分を別の容器に量りとり(この段階でシリカ量A[g]は1.5gである)、そこに塩化ナトリウムを30g添加し、さらに超純水を添加して全量を150gにした。これを、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液でpH4.0に調整し、滴定用サンプルとした。
【0157】
この滴定用サンプルに、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液をpHが9.0になるまで滴下し、pHが4.0から9.0になるまでに要した水酸化ナトリウム量(B[mol])を求めた。
【0158】
これら2つの値と前記(2)で別途測定したBET比表面積(SBET[m/g])、アボガドロ数(N[個/mol])の値を下記式(1)に代入して、シラノール基密度を算出した。なお、Aは前記の通り1.5[g]である。
【0159】
ρ=B・N/A・SBET ……(1)
(ここで、式(1)中のN[個/mol]はアボガドロ数、SBET[m/g]はシリカ粒子のBET比表面積をそれぞれ示す。)
(4)二次粒子の平均粒径及び会合度
前記CMP研磨液用濃縮液を0.5g量りとり、99.5gの水で希釈(200倍希釈)して測定サンプルを調製した。次にこの測定サンプルを、COULTER Electronics社製の光回折散乱式粒度分布計(商品名COULTER N5型)を用いて測定し、D50の値をCMP研磨液中の二次粒子の平均粒径(以下、平均粒径という。)とした。この平均粒径を前記二軸平均一次粒子径で除した値を会合度とした。
【0160】
(5)ゼータ電位
測定装置として、BECKMAN COULTER製、Delsa Nano Cを使用し、前記装置における測定サンプルの散乱強度が1.0×10〜5.0×10cpsとなるように前記(I−2.CMP研磨液の調製)で得られたCMP研磨液を希釈して測定サンプルを調製した。具体的にはCMP研磨液に含まれるコロイダルシリカが、CMP研磨液100質量部中に1.71質量部となるようにCMP研磨液を純水で希釈したものを測定サンプルとし、ゼータ電位測定用セルに入れ、測定した。
【0161】
(II−1.研磨速度)
前記(I−1)で得られたCMP研磨液を用いて、下記3種類のブランケット基板(ブランケット基板a〜c)を、下記研磨条件で、研磨及び洗浄した。
【0162】
(ブランケット基板)
・ブランケット基板(a):
厚さ1000nmの二酸化ケイ素をCVD法で形成したシリコン基板。
【0163】
・ブランケット基板(b):
厚さ200nmの窒化タンタル膜をスパッタ法で形成したシリコン基板。
【0164】
・ブランケット基板(c):
厚さ1600nmの銅膜をスパッタ法で形成したシリコン基板。
【0165】
(研磨条件)
・研磨・洗浄装置:CMP用研磨機Reflexion LK(AMAT社製)
・研磨布:発泡ポリウレタン樹脂(品名:IC1010、Rohm and Haas製)
・定盤回転数:93回/min
・ヘッド回転数:87回/min
・研磨圧力:10kPa
・CMP研磨液の供給量:300ml/min
・研磨時間:ブランケット基板(a)90sec、ブランケット基板(b)30sec、ブランケット基板(c)120sec
研磨・洗浄後の3種類のブランケット基板それぞれについて、下記のようにして研磨速度を求め、各種の膜に対する研磨速度とした。研磨速度の測定結果を表1〜表3に示す。
【0166】
ブランケット基板(a)については研磨前後での膜厚を膜厚測定装置RE−3000(大日本スクリーン製造株式会社製)を用いて測定し、その膜厚差から求めた。
【0167】
ブランケット基板(b)及びブランケット基板(c)については、研磨前後での膜厚を金属膜厚測定装置(日立国際電気株式会社製 型番VR−120/08S)を用いて測定し、その膜厚差から求めた。
【0168】
(II−2.分散安定性評価)
前記(I−1)で調製したCMP研磨液用濃縮液を、それぞれ60℃の恒温槽で2週間保管した後、砥粒の沈降の有無を目視で確認した。また、60℃の恒温槽で2週間保管した後における二次粒子の平均粒径を前記と同様に測定し、保管後の平均粒径を、保管前の平均粒径で除して、粒径成長率(%)を求めた。
【0169】
これらの結果を表1〜表3に示す。
【表1】

【0170】
【表2】

【0171】
【表3】

【0172】
(III)評価結果
実施例1−1〜1−8のコロイダルシリカを用いたCMP研磨液は、バリア膜として使用される窒化タンタル膜に対する研磨速度が84〜105nm/minと良好で、層間絶縁膜として使用される二酸化ケイ素膜に対する研磨速度が94〜123nm/minと良好であり、かつ、液中に含まれる砥粒(シリカ粒子)含有量が多い時であっても、分散安定性に優れていることが明らかである。
【0173】
これに対し、比較例1−1〜1−10では、規定した粒子の性質、すなわちシラノール基密度が5.0個/nm以下、二軸平均一次粒子径が25〜55nm、会合度が1.1以上、のうちのいずれかを満たさないシリカ粒子である。これらの分散安定性は良好であるものと良好でないものがあり、さらに層間絶縁膜の研磨速度が31〜68nm/minと、実施例1−1〜1−8のCMP研磨液と比較して劣る値であった。
【0174】
(実験2)
本発明の第二の実施形態に係るCMP研磨液を用いて、配線パターンを有する半導体基板を研磨した際の各層の研磨速度及びシームの量を調べた。
【0175】
(IV−1.CMP研磨液の調製)
容器に、酸化金属溶解剤としてリンゴ酸を0.4質量部、表4〜表6に示す金属防食剤を0.1質量部入れ、そこに超純水X質量部を注ぎ、さらに前記金属防食剤の溶解補助剤として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを1.4質量部加え、さらにPMAAの36.5%水溶液を、PMAAとして0.02質量部含まれるよう添加し、攪拌混合して全ての成分を溶解させた。
【0176】
ここで、表中の「BTA」はベンゾトリアゾール、「HBTA」は1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、「ABTA」は1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジンを示す。また、前記PMAAは、メタクリル酸とアクリル酸の共重合体(共重合比99/1、重量平均分子量7500)である。
【0177】
次に表4〜表6に示すコロイダルシリカを、シリカ粒子として3.0質量部に相当する量を添加し、スラリ100質量部を得た。なお、前記コロイダルシリカは、それぞれ固形分(シリカ粒子含有量)が相違するため、前記超純水X質量部は、スラリが100質量部になるよう計算して求めた。
【0178】
次に、30質量%の過酸化水素水を0.33質量部(過酸化水素として0.1質量部に相当する量)添加し、攪拌・混合して実施例2−1〜2−13、比較例2−1〜2−9のCMP研磨液を調製した。
【0179】
表4〜表6中のコロイダルシリカの二軸平均一次粒子径(R)、シラノール基密度(ρ)、平均粒径、会合度及びゼータ電位(ζ)の各値を、実験1と同様にして調べた。
【0180】
(V−1.研磨量)
直径12インチ(30.5cm)(φ)サイズのパターン付基板(ADVANTECH製 SEMATECH 754)を用意した(成膜厚さ:Cu 1000nm、Ta 25nm、TEOS 500nm)。この基板は、シリコン基板と、シリコン基板上に形成され、隆起部と溝部との段差が500nmであるパターンを有する二酸化ケイ素からなる層間絶縁膜と、絶縁膜上にスパッタ法により順に形成された25nmの窒化タンタルからなるバリア膜と、バリア膜上に形成された1.2μmの銅膜とを有する。
【0181】
この基板を、公知の銅研磨用研磨剤を用いて、バリア層が露出するまで銅を研磨した。次に、前記パターン付き基板を、幅100μmの銅配線部、幅100μmの層間絶縁膜部をもつパターン領域を中心に、2cm角に切り、評価用基板を得た。前記CMP研磨液を、研磨装置の定盤に貼り付けたパッドに滴下しながら、下記研磨条件で前記評価用基板を研磨した。研磨は、銅配線部のディッシングが20nm以下となる時間を終点とした。研磨後におけるバリア層及び層間絶縁膜の研磨量、並びにシーム量を評価した。
【0182】
なお、研磨条件は下記の通りである。
【0183】
研磨装置:IMPTEC 10DVT(日本エンギス(株)製ラッピングマシーン)
研磨パッド:スウェード状発泡ポリウレタン樹脂製研磨布
研磨圧力:30kPa
定盤回転速度:90rpm
研磨液流量:15ml/min
(研磨量の測定方法)
前記条件で研磨したパターン付き基板において、層間絶縁膜の隆起部における、バリア層及び層間絶縁膜の研磨量を、卓上型光干渉式膜厚測定システム ナノスペックM5000(ナノメトリックス製)で測定した。
【0184】
結果を表4〜表6に示す。
【0185】
(V−2.シーム量)
前記研磨終了後の基板において、配線幅100μmの銅配線部、配線幅100μmの層間絶縁膜部パターンを、接触式段差計(ケーエルエー・テンコール製P−16)で走査し、銅配線近傍の層間絶縁膜部が過剰に研磨された段差量を測定した。なお、前記「ディッシング」も同様にして層間絶縁膜部の膜厚と配線部の膜厚の差を測定した。
【0186】
結果を表4〜表6に示す。
【表4】

【0187】
【表5】

【0188】
【表6】

【0189】
研磨したパターン付基板において、バリア層の厚みは25nmであるので、表4〜6において、窒化タンタルの研磨量が25nmであるものは、層間絶縁膜の隆起部におけるバリア層が全て除去されたことを意味する。そして、二酸化ケイ素の研磨量は、研磨されたバリア膜の下部に位置する二酸化ケイ素の研磨量を示し、値が大きいほど、層間絶縁膜に対する研磨速度が良好であることを示す。
【0190】
表4〜表6から明らかなように、二軸平均一次粒子径、シラノール基密度、会合度及び表面処理の有無の条件を満たす実施例2−1〜2−13のCMP研磨液は、良好な窒化タンタル研磨速度及び二酸化ケイ素研磨速度を有しつつ、シームを低減できることがわかる。
【0191】
比較例2−1〜2−9のCMP研磨液は、いずれもバリア層は研磨できたが、二酸化珪素の研磨量、シーム量の少なくとも一方で、実施例2−1〜2−13より劣る結果となった。より具体的には、比較例2−1は、二軸平均一次粒子径が60nmより大であるため充分な二酸化ケイ素研磨量および少ないシーム量を達成することができなかった。
【0192】
比較例2−2は、シラノール基密度が5より大であるため、シリカ粒子としての「硬さ」が相対的に弱くなり、シリカ粒子と層間絶縁膜との機械的研磨が弱くなり充分な二酸化ケイ素研磨量が得られなかった。
【0193】
比較例2−3〜2−7は会合度が1.20以下または、1.40〜1.80の間ではないため、充分な二酸化ケイ素研磨量が得られなかった。
【0194】
比較例2−7は、会合度が1.20以下または、1.40〜1.80の間ではないため充分な二酸化ケイ素研磨量が得られず、シーム量が大きくなった。
【0195】
比較例2−8、2−9は砥粒の表面処理を行っている砥粒であるため、充分な二酸化ケイ素研磨量および少ないシーム量を達成することができなかった。
【0196】
(実験3)
実験2における、本発明の第二の実施形態に係るCMP研磨液の評価結果が、12インチウエハでの評価結果と相関していることを確認した。具体的には、実験2における実施例2−2、2−5及び2−8のCMP研磨液を用いて、下記基板の研磨特性を評価した。
【0197】
(ブランケット基板)
実験1で用いたブランケット基板(a)(b)及び(c)を用いた。
【0198】
(パターン付き基板)
直径12インチ(30.5cm)(φ)サイズのパターン付基板(ADVANTECH製 SEMATECH 754)を第1の研磨工程に従いバリア層を露出させた基板
(ブランケット基板の研磨条件)
・研磨・洗浄装置:CMP用研磨機Reflexion LK(AMAT社製)
・研磨布:発泡ポリウレタン樹脂(品名:IC1010、Rohm and Haas製)
・研磨圧力:10kPa
・定盤回転数:93回/min
・ヘッド回転数:87回/min
・CMP研磨液の供給量:300ml/min
・研磨時間:ブランケット基板(a)90sec、ブランケット基板(b)30sec、ブランケット基板(c)120sec
(パターン付き基板の研磨条件)
・研磨、洗浄装置:CMP用研磨機(アプライドマテリアルズ製、Reflexion LK)
・研磨パッド:独立気泡を持つ発泡ポリウレタン樹脂(IC−1010、Rohm and Haas製)
・研磨圧力:10kPa
・定盤回転数:93回/min
・ヘッド回転数:87回/min
・研磨液の供給量:300ml/min
・研磨時間:ディッシングが20nm以下となる時間を目安とし、表7に示す時間研磨した。
【0199】
(ブランケット基板の研磨速度)
ブランケット基板の研磨速度については、実験1と同様にして求めた。
【0200】
(パターン付き基板の研磨特性)
研磨終了後のパターン付き基板のディッシング量及びシーム量について、下記の方法により評価した。
【0201】
(ディッシング評価方法)
研磨後のパターン付き基板において、配線幅100μmの銅配線部、配線幅100μmの層間絶縁膜部パターンを、接触式段差計(ケーエルエー・テンコール製P−16)で走査して、層間絶縁膜部の膜厚と配線部の膜厚の差を測定し、ディッシング量とした。
【0202】
(シーム評価方法)
研磨後のパターン付き基板において、配線幅100μmの銅配線部、配線幅100μmの層間絶縁膜部パターンを、接触式段差計(ケーエルエー・テンコール製P−16)で走査し、銅配線近傍の層間絶縁膜部が過剰に研磨された段差量を測定した。
【0203】
結果を表7に示す。
【表7】

【0204】
表7から明らかなように、実験2の評価で、優れた層間絶縁膜研磨速度及びバリア層研磨速度を有し、さらにシーム量の少ないCMP研磨液は、12インチのウエハで評価を行った際も、層間絶縁膜研磨速度及びバリア層研磨速度に優れ、シーム量も少ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明によれば、バリア膜の研磨速度が高速であり、かつ砥粒の分散安定性が良好であり、層間絶縁膜が高速に研磨できるCMP研磨液が得られ、研磨工程時間の短縮によるスループットの向上が可能となる。また、このCMP研磨液を用いて化学機械研磨を行う本発明の研磨方法は、生産性が高く、微細化、薄膜化、寸法精度、電気特性に優れ、信頼性の高い半導体基板及び他の電子機器の製造に好適である。
【符号の説明】
【0206】
1 層間絶縁膜
2 バリア膜
3 導電性物質
4 粒子
5 外接長方形
6 シリコン基板
7 凹部
8 オーバー研磨された部分
10 基板
20 導体パターンが露出した基板
30 研磨終了後の基板
X 外接長方形の長径
Y 外接長方形の短径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダマシン法においてバリア膜を研磨するためのCMP研磨液であって、
媒体と、前記媒体に分散している砥粒としてシリカ粒子とを含み、
(A1)前記シリカ粒子のシラノール基密度が5.0個/nm以下であり、
(B1)前記シリカ粒子を走査型電子顕微鏡により観察した画像から任意の20個を選択したときの二軸平均一次粒子径が25〜55nmであり、
(C1)前記シリカ粒子の会合度が1.1以上であるCMP研磨液。
【請求項2】
さらに金属防食剤を含む請求項1記載のCMP研磨液。
【請求項3】
前記金属防食剤がトリアゾール骨格を有する化合物である請求項2記載のCMP研磨液。
【請求項4】
前記金属防食剤が、ベンゾトリアゾール及び1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジンから選択される少なくとも一種である、請求項2記載のCMP研磨液。
【請求項5】
前記シリカ粒子は、CMP研磨液中でのゼータ電位が5mV以上である請求項1〜4のいずれか記載のCMP研磨液。
【請求項6】
前記シリカ粒子は、コロイダルシリカである請求項1〜5のいずれか記載のCMP研磨液。
【請求項7】
前記シリカ粒子は、含有量がCMP研磨液100質量部に対して3.0〜8.0質量部である請求項1〜6のいずれか記載のCMP研磨液。
【請求項8】
pHが中性領域又は酸性領域である請求項1〜7のいずれか記載のCMP研磨液。
【請求項9】
さらに、酸化金属溶解剤を含む請求項1〜8のいずれか記載のCMP研磨液。
【請求項10】
さらに、酸化剤を含む請求項1〜9のいずれか記載のCMP研磨液。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のCMP研磨液が、3倍以上に濃縮されているCMP研磨液用濃縮液。
【請求項12】
前記砥粒を5質量部以上含む請求項11記載のCMP研磨液用濃縮液。
【請求項13】
凹部及び凸部を表面に有する層間絶縁膜、
前記表面に沿って層間絶縁膜を被覆するバリア膜、
前記凹部を充填してバリア膜を被覆する導電性物質
を有する基板の、導電性物質を研磨して前記凸部上の前記バリア膜を露出させる第1の研磨工程と、
少なくとも前記凸部上の前記バリア膜を研磨して凸部の層間絶縁膜を露出させる第2の研磨工程と、
を含み、
少なくとも前記第2の研磨工程で請求項1〜10のいずれか記載のCMP研磨液を供給しながら研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項14】
請求項11又は12記載のCMP研磨液用濃縮液を、希釈液若しくは添加液又はその両方と混合して、CMP研磨液を調製する混合工程と、
凹部及び凸部を表面に有する層間絶縁膜、
前記表面に沿って層間絶縁膜を被覆するバリア膜、
前記凹部を充填してバリア膜を被覆する導電性物質
を有する基板の、導電性物質を研磨して前記凸部上の前記バリア膜を露出させる第1の研磨工程と、
少なくとも前記凸部上の前記バリア膜を研磨して凸部の層間絶縁膜を露出させる第2の研磨工程と、
を含み、
少なくとも前記第2の研磨工程で前記CMP研磨液を供給しながら研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項15】
層間絶縁膜が、シリコン系被膜又は有機ポリマー膜である請求項13又は14記載の研磨方法。
【請求項16】
導電性物質が、銅を主成分とする請求項13〜15のいずれか記載の研磨方法。
【請求項17】
バリア導体膜が、前記層間絶縁膜へ前記導電性物質が拡散するのを防ぐバリア導体膜であって、タンタル、窒化タンタル、タンタル合金、その他のタンタル化合物、チタン、窒化チタン、チタン合金、その他のチタン化合物、ルテニウム、その他のルテニウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含む請求項13〜16のいずれか記載の研磨方法。
【請求項18】
前記第2の研磨工程において、さらに凸部の層間絶縁膜の一部を研磨する請求項13〜17のいずれか記載の研磨方法。
【請求項19】
請求項13〜18のいずれか記載の研磨方法を用いて製造された半導体基板。
【請求項20】
請求項13〜18のいずれか記載の研磨方法を用いて製造された電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55342(P2013−55342A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−235874(P2012−235874)
【出願日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【分割の表示】特願2011−527667(P2011−527667)の分割
【原出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】