説明

Cu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法

【課題】偏析相が少ないCu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のCu−Ga合金材は、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなるCu−Ga合金材であって、47重量%未満の銅と不可避的空隙とを含む領域の体積のCu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法に関する。特に、本発明は、太陽電池に使用可能なCu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットとして、30質量%〜60質量%のGaを含み、残部がCuからなる組成の成分と、30質量%を越えた量のGaを含み、残部がCuからなる高Ga含有Cu−Ga二元系合金粒を15質量%以下のGaを含む低Ga含有Cu−Ga二元系合金からなる粒界相で包囲した二相共存組織とを備えるCu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のCu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットは、上記構成を備えるので、太陽電池において、Cu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層を形成する場合に用いられるCu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットを歩留り良く製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−138232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のCu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットは、原料粉末を焼結することにより製造される。したがって、製造されるスパッタリングターゲットの組織の緻密化が困難であり、スパッタリング時に異常放電等の不具合が発生する場合がある。また、この緻密化には高い圧力を原料粉末に加えることを要するので、スパッタリングターゲットの大型化が困難である。更に、32重量%以上のGaを含むCu−Ga二元系合金を溶解鋳造すると、80重量%以上のGaを含む偏析相が生じ、この偏析相を含むスパッタリングターゲットを用いると、スパッタリング時の熱により偏析相が溶解するという問題が発生する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、偏析相が少ないCu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなるCu−Ga合金材であって、47重量%未満の銅を含む領域の体積のCu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であるCu−Ga合金材が提供される。
【0008】
(2)また、上記Cu−Ga合金材において、ガリウムの平均組成が、32重量%以上45重量%以下であり、35重量%未満の銅を含む領域の体積のCu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であってもよい。
【0009】
(3)また、本発明は、上記目的を達成するため、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)、不可避的不純物、及び不可避的な空隙とからなるCu−Ga合金材であって、20重量%以上のガリウムを含むCu−Ga合金相と不可避的な空隙とを含む領域の体積の、Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であるCu−Ga合金材が提供される。
【0010】
(4)また、本発明は、上記目的を達成するため、平均組成が32重量%以上45重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)、不可避的不純物、及び不可避的な空隙とからなるCu−Ga合金材であって、65重量%以上のガリウムを含むCu−Ga合金相と不可避的な空隙とを含む領域の体積の、Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であり、Cu−Ga合金相が、γ1相、γ2相、及びγ3相のうちの少なくとも一つの相を含むCu−Ga合金材が提供される。
【0011】
(5)また、本発明は、上記目的を達成するため、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のCu−Ga合金材から製造されるスパッタリングターゲットが提供される。
【0012】
(6)また、本発明は、上記目的を達成するため、複数のCu−Ga合金相を含むCu−Ga合金材の製造方法であって、少なくとも一つのCu−Ga合金相を含むCu−Ga合金粉末を加圧及び加熱し、焼結することによりCu−Ga合金材を製造する焼結工程
を備えるCu−Ga合金材の製造方法が提供される。
【0013】
(7)また、上記Cu−Ga合金材の製造方法において、Cu−Ga合金粉末が、150μm以下の粒径を有することが好ましい。
【0014】
(8)また、上記Cu−Ga合金材の製造方法において、1μm以上100μm以下の粒径を有するCu−Ga合金粉末の体積が、Cu−Ga合金材全体の体積の90%以上であることが好ましい。
【0015】
(9)また、上記(6)〜(8)のいずれか1つに記載のCu−Ga合金材の製造方法において、Cu−Ga合金材が、32重量%以上53重量%以下の平均組成のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなり、焼結工程が、平均組成が53重量%以上のガリウムを含む相からなる粉末と、第1の融点を有する第1のCu−Ga合金相、及び第2の融点より高い第2の融点を有する第2のCu−Ga合金相とを少なくとも含む粉末とを254℃以上840℃以下の温度に加熱し、第1のCu−Ga合金相と、第2のCu−Ga合金相の一部とを溶解させ、50MPa以上の圧力で焼結することもできる。
【0016】
(10)また、本発明は、上記目的を達成するため、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなるCu−Ga合金材の製造方法であって、第1の融点を有する第1のCu−Ga合金相と、第2の融点より高い第2の融点を有する第2のCu−Ga合金相とを少なくとも含む粉末を254℃以上840℃以下の温度に加熱し、第1のCu−Ga合金相と、第2のCu−Ga合金相の一部とを溶解させ、50MPa以上の圧力で焼結する焼結工程を備えるCu−Ga合金材の製造方法が提供される。
【0017】
(11)また、上記Cu−Ga合金材の製造方法において、焼結工程が、平均組成が53重量%以上のガリウムを含む相からなる粉末を更に含むことが好ましい。
【0018】
(12)また、上記Cu−Ga合金材の製造方法において、焼結工程後、Cu−Ga合金材に200℃以上254℃未満の温度で、1時間以上の熱処理を施す熱処理工程を更に備えることもできる。
【0019】
(13)また、本発明は、上記目的を達成するため、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)を含むCu−Ga合金材の製造方法であって、Cu−Ga合金及び不可避的不純物をAr雰囲気中で溶解凝固させることによりインゴットを形成するインゴット形成工程と、インゴットを粉末にする粉末形成工程と、粉末から、150μm以下の粒径を有する粉末を選別する選別工程と、選別された粉末を加熱、加圧し、焼結することによりCu−Ga合金材を製造する焼結工程と、焼結工程の後、Cu−Ga合金材に熱処理を施す熱処理工程とを備えるCu−Ga合金材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るCu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法によれば、偏析相が少ないCu−Ga合金材、スパッタリングターゲット、及びCu−Ga合金材の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態の要約)
複数の相を含むCu−Ga合金材において、32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)を含み、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物からなり、ガリウムを80重量%以上含む偏析相を含み、偏析相及び不可避的空隙の体積の合計が、Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であるCu−Ga合金材が提供される。例えば、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなるCu−Ga合金材において、47重量%未満の銅と不可避的空隙とを含む領域の体積の前記Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であるCu−Ga合金材が提供される。
【0022】
[実施の形態]
(Cu−Ga合金材の概要)
本実施の形態に係るCu−Ga合金材は、例えば、Copper Indium Gallium DiSelenide(CIGS)太陽電池用のスパッタリングターゲットとして用いられる。一例として、本実施の形態に係るCu−Ga合金は、化合物半導体からなる薄膜の太陽電池の光吸収層等に用いられる。すなわち、ソーダライムガラス等からなるガラス基板と、ガラス基板上に設けられる電極層と、電極層上に設けられる光吸収層と、光吸収層上に設けられるバッファ層と、バッファ層上に設けられる透明電極層とを備える太陽電池において、本実施の形態に係るCu−Ga合金は、光吸収層を構成する材料として用いることができる。なお、電極層は、例えば、プラス電極になるモリブデン(Mo)から形成でき、光吸収層は、例えば、Cu−In−Ga−Se四元系合金層から形成できる。また、バッファ層は、ZnS、CdS等から形成でき、透明電極層はマイナス電極として機能する。
【0023】
以下、本実施の形態に係る複数のCu−Ga合金材について詳述する。
【0024】
(ε相を含まないCu−Ga合金材)
まず、本実施の形態に係るε相を含まないCu−Ga合金材は、以下の構成を備える。すなわち、当該Cu−Ga合金材は、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなり、47重量%未満の銅を含む領域の体積のCu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下である。つまり、当該Cu−Ga合金材は、偏析相の領域を除いた部分の体積がCu−Ga合金材全体の体積の98%以上になる。ここで、47重量%未満の銅を含む領域には、不可避的な空隙も含むものとする。
【0025】
また、当該Cu−Ga合金材は、ガリウムの平均組成が、32重量%以上45重量%以下であり、35重量%以下の銅と不可避的な空隙とを含む領域の体積のCu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下とすることができる。すなわち、このCu−Ga合金材は、γ2相とγ3相とからなるCu−Ga合金材である。
【0026】
更に、当該Cu−Ga合金材は、平均組成が32重量%以上45重量%以下のガリウムと、残部が銅、不可避的不純物、及び不可避的な空隙とからなり、65重量%より多いガリウムを含むCu−Ga合金相と不可避的な空隙とを含む領域の体積の、Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であり、Cu−Ga合金相が、γ1相、γ2相、及びγ3相のうちの少なくとも一つの相を含むCu−Ga合金材である。
【0027】
ε相を含まないCu−Ga合金材の製造方法は、例えば、以下のとおりである。まず、γ1相、γ2相、及びγ3相からなる群から選択される少なくとも1つの相を含む粉末を準備する。ここで、準備した粉末には不可避的な空隙が含まれる。そして、当該粉末を予め定められた温度に加熱すると共に、予め定められた圧力に加圧することにより焼結させる。焼結時に粉末の一部が液体になり、当該液体が粉末の隙間に侵入することで、存在していた空隙が減少する。これにより、空隙が実質的に存在せず、ε相を含まないCu−Ga合金材が製造される。
【0028】
例えば、γ1相の単体からなるCu−Ga合金材は、32重量%のガリウムを含むCu−Ga合金粉末(すなわち、Cu−Ga合金のγ1相を含む粉末)を準備し、準備した粉末を焼結して製造できる。また、γ1相とγ2相とを含むCu−Ga合金材は、γ1相を含むCu−Ga合金粉末とγ2相を含むCu−Ga合金粉末との混合粉末を準備し、準備した混合粉末を焼結して製造できる。また、γ2相の単体からなるCu−Ga合金材は、γ2相を含むCu−Ga合金粉末を準備し、準備したCu−Ga合金粉末を焼結して製造できる。
【0029】
更に、γ2相とγ3相とを含むCu−Ga合金材は、γ2相を含むCu−Ga合金粉末とγ3相を含むCu−Ga合金粉末との混合粉末を準備し、準備した混合粉末を焼結して製造できる。いずれのCu−Ga合金材においても、焼結後に得られるCu−Ga合金材には、空隙が実質的に存在しない(すなわち、製造されたCu−Ga合金材全体の体積に占める空隙の割合が、2%以下になる)。
【0030】
(ε相を含む、若しくは実質的に含まないCu−Ga合金材)
本実施の形態に係るε相を含む、若しくは実質的に含まないCu−Ga合金材は、以下の構成を備える。すなわち、平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)、不可避的不純物、及び不可避的な空隙とからなり、20重量%以上のガリウムを含むCu−Ga合金相と不可避的な空隙とを含む領域の体積の、Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下である。そして、Cu−Ga合金相は、γ1相、γ2相、及び/又はγ3相からなる領域を含む。
【0031】
ε相を含む、若しくは実質的に含まないCu−Ga合金材の製造方法は、例えば、以下のとおりである。まず、γ2相、γ3相、ε相、及び偏析相を含むCu−Ga合金粉末のうち、少なくともγ3相とε相とを含むCu−Ga合金粉末を準備する。ここで、準備した粉末には不可避的な空隙が含まれる。そして、当該粉末を予め定められた温度に加熱すると共に、予め定められた圧力で加圧することにより焼結させる。焼結時に粉末の一部が液体になり、当該液体が粉末の隙間に侵入することで、存在していた空隙が減少する。これにより、空隙が実質的に存在せず、ε相を含むか、若しくは実質的に含まないCu−Ga合金材が製造される。
【0032】
例えば、γ2相とγ3相とからなるCu−Ga合金材は、以下のようにして製造することができる。まず、γ2相を含むCu−Ga合金粉末と、γ3相を含むCu−Ga合金粉末と、ε相を含むCu−Ga合金粉末とを準備し混合する。なお、偏析相を含むCu−Ga合金粉末が混入している場合がある。なお、これらの粉末は、各相を含むCu−Ga合金からなるインゴットを粉砕することにより得ることができる。そして、混合した粉末(ただし、不可避的な空隙を含む)を予め定められた温度に加熱すると共に、予め定められた圧力を加えて焼結することにより、γ2相とγ3相とからなるCu−Ga合金材を製造できる。これにより、仮に、Cu−Ga合金粉末の原料であるインゴット中に局所的に偏析相やε相が混入していたとしても、製造されるCu−Ga合金材からε相を実質的に消滅させることができる。
【0033】
また、γ3相を含むCu−Ga合金材は、γ3相を含むCu−Ga合金粉末とε相を含むCu−Ga合金粉末との混合粉末を準備し、準備した混合粉末を焼結して製造できる。これにより、ε相が低減した、若しくは実質的に消滅したγ3相を含むCu−Ga合金材が製造される。
【0034】
また、γ3相とε相と偏析相とを含むCu−Ga合金材は、γ3相を含むCu−Ga合金粉末と、ε相を含むCu−Ga合金粉末とを準備し、準備した混合粉末を焼結して製造できる。なお、混合粉末には、偏析相を含むCu−Ga合金粉末が含まれている場合がある。これにより、γ3相とε相と偏析相とを含み、ε相の割合が混合粉末より低減したCu−Ga合金材が製造される。
【0035】
(Cu−Ga合金材の製造方法の概要)
上述したCu−Ga合金材はそれぞれ、少なくとも1つのCu−Ga合金相を含むCu−Ga合金からなる粉末を加熱すると共に圧力を加えて焼結することにより製造される。具体的には、以下のようにして製造することができる。
【0036】
まず、原料粉末として、粒径が150μm以下(一例として、1μm以上100μm以下)のCu−Ga合金からなる粒子を含む粉末を準備する(なお、当該粒子には不可避的不純物と不可避的な空隙とが含まれる)。具体的に、この粉末は以下のようにして製造する。初めに、所定の相を含むCu−Ga合金からなるインゴットを不活性雰囲気中(例えば、Ar雰囲気中)で溶解した後、再び凝固させる。続いて、凝固したインゴットを粉砕する。次に、粒径が150μm以下のCu−Ga合金粉末を選別する。このような工程を経ることにより、Cu−Ga合金粉末を得ることができる。
【0037】
そして、例えば、粒径が100μm以下のγ相(第2の融点を有する第2のCu−Ga合金相に該当)を含むCu−Ga合金粒子と、粒径が40μm以下であり、γ相より低い融点を有するε相(第1の融点を有する第1のCu−Ga合金相に該当)を含むCu−Ga合金粒子とを混合することにより混合粉末を準備する(混合工程)。なお、1μm以上100μm以下の粒径を有するCu−Ga合金粉末の体積が、製造すべきCu−Ga合金材全体の体積の90%以上であることが好ましい。
【0038】
次に、混合粉末を254℃以上840℃以下の範囲内の所定の温度に保持する。これにより、ε相を含む粒子及びγ相を含む粒子と、γ1相を含む粒子の一部、γ2相を含む粒子の一部、γ3相を含む粒子の一部とを溶解させて液状のバインダーが生成される(溶解工程)。なお、本実施の形態においては、150μm以下の粒径の原料粉末を用いているので、低融点の粒子が高融点の粒子に比べ、より融解し易い。このため、低融点の粒子が融解して生じた融液は、高融点の粒子の隙間に侵入する。そして、当該隙間に侵入した低融点の粒子の融液が固化した場合、偏析相及びε相が残存しにくいという効果がある。
【0039】
次に、各粒子と、各粒子の全部又は一部が溶解したバインダーとを含む混合物に50MPa以上の圧力を加え、この混合物を焼結する(焼結工程)。更に、焼結後に得られた合金材に、200℃以上254℃以下、1時間以上の熱処理を施す(熱処理工程)。これにより、本実施の形態に係るCu−Ga合金材が製造される。
【0040】
溶解工程において254℃以上の温度下に混合粉末を保持することにより、γ相の内部を均質化できる。なお、γ相は凝固の過程でミクロ的に偏析しており、結晶粒の外周ほどGa濃度が高い。また、融点が254℃であるε相を溶解させ、γ相を含む粒子のバインダー(すなわち、接着材)として機能させることにより、焼結工程において50MPa以上300MPa以下の圧力を加えるだけで、得られる合金材の組織を緻密にすることができる。ここで、γ相及びε相単独では硬いので、γ相を含む粉末及びε相を含む粉末を単に粉体焼結させて緻密な組織の合金材を製造するためには、600MPa以上の圧力を要する。したがって、本実施の形態に係るCu−Ga合金材の製造方法によれば、例えば、Cu−Ga合金材からなるスパッタリングターゲットを大型化するにあたり、加圧可能な設備の自由度が得られる。
【0041】
また、熱処理工程を実施することで、80重量%以上のガリウムを含む偏析相の析出を抑制できる。更に、γ相を含む粒子の粒径を微細にすることで、偏析相の析出をより抑制することができる。
【0042】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係るCu−Ga合金材は、80重量%以上のガリウムを含む偏析相の含有量が少ないので、粉体焼結により製造したCu−Ga合金材からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを実施したときにボイド及び酸化物に起因して発生していた異常放電等の問題を解消することができる。これにより、本実施の形態に係るCu−Ga合金材からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを実施すると、高い品質のCu−Ga合金膜を形成できる。したがって、本実施の形態に係るCu−Ga合金材を用いて太陽電池を製造することにより、変換効率が高い太陽電池を提供できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例に係るCu−Ga合金材について説明する。
【0044】
実施例1に係るCu−Ga合金材は、以下のようにして製造した。まず、32重量%のGaを含み、残部が銅及び不可避的不純物からなるCu−Ga合金インゴットを準備した。そして、高周波溶解炉を用い、Ar雰囲気中で当該Cu−Ga合金インゴットを溶解させた後、再び凝固させた。次に、凝固したCu−Ga合金インゴットを粉砕し、100μm以下の粒径を有する粒子を原料粉末としてのCu−Ga合金粉末として選別した。そして、選別して得られたCu−Ga合金粉末を、表1の「実施例1」に示す条件で、プレス機により焼結することにより、実施例1に係るCu−Ga合金材を製造した。
【0045】
また、実施例2に係るCu−Ga合金材は、以下のようにして製造した。まず、53重量%のGaを含み、残部が銅及び不可避的不純物からなるCu−Ga合金インゴットを準備した。そして、高周波溶解炉を用い、Ar雰囲気中で当該Cu−Ga合金インゴットを溶解させた後、再び凝固させた。次に、凝固したCu−Ga合金インゴットを粉砕し、100μm以下の粒径を有する粒子を原料粉末としてのCu−Ga合金粉末として選別した。そして、選別して得られたCu−Ga合金粉末を、表1の「実施例2」に示す条件で、プレス機により焼結することにより、実施例2に係るCu−Ga合金材を製造した。
【0046】
更に、実施例2に係るCu−Ga合金材に、240℃、1時間の熱処理を施すことにより、実施例3に係るCu−Ga合金材を製造した。
【0047】
【表1】

【0048】
以上のようにして製造した実施例1〜3のそれぞれに係るCu−Ga合金材の中央部を切断し、偏析相の面積と空隙の面積とが断面積に占める割合である面積率を算出した。なお、面積率は、切断面の結晶組織を画像解析ソフト(株式会社日本ローパー社製、Image Pro Plus J)において、輝度を基準に偏析相及び空隙と母相とを分離することにより、偏析相及び空隙の面積率を算出した。その結果、実施例1においては0.6%、実施例2においては1.9%の面積率が得られた。また、実施例3においては、1.1%の面積率が得られた。すなわち、実施例1〜3の全てにおいて、緻密な組織を有するCu−Ga合金材が得られた。
【0049】
(比較例)
比較例として、表1に示す組成、結晶粒径、焼結条件、熱処理条件を用いて比較例1〜4に係るCu−Ga合金材を製造した。そして、製造した比較例1〜4それぞれのCu−Ga合金材について、80重量%以上のガリウムを含む偏析相と空隙とが断面に占める割合である面積率を実施例と同様に算出した。
【0050】
その結果、比較例1〜4のCu−Ga合金材はいずれも、偏析相と空隙とが断面に占める割合が5%以上と多いことが示された。
【0051】
まず、比較例1においては、Ga濃度が本発明の実施の形態での規定から外れている。すなわち、比較例1においては、Ga濃度が当該規定より高いことに起因し、偏析相が生じやすく、面積率が13.2%以上になった。
【0052】
また、比較例2においては、結晶粒径が本発明の実施の形態での規定から外れている。すなわち、比較例2においては、結晶粒が粗大であることに起因し、製造されるCu−Ga合金材中に偏析相と空隙とが残留しやすく、面積率が8.2%以上になった。
【0053】
また、比較例3においては、焼結時の圧力が本発明の実施の形態での規定から外れている。すなわち、比較例3においては、焼結時の圧力が低いことに起因し、製造されるCu−Ga合金材中に空隙が残存しやすく、面積率が7.3%以上になった。
【0054】
更に、比較例4においては、焼結の温度が本発明の実施の形態での規定から外れている。すなわち、比較例4においては、焼結時の温度が低いことに起因し、製造されるCu−Ga合金中に空隙が残存しやすく、面積率が5.1%以上になった。
【0055】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなるCu−Ga合金材であって、
47重量%未満の銅を含む領域の体積の前記Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であるCu−Ga合金材。
【請求項2】
前記ガリウムの平均組成が、32重量%以上45重量%以下であり、
35重量%未満の銅を含む領域の体積の前記Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下である請求項1に記載のCu−Ga合金材。
【請求項3】
平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)、不可避的不純物、及び不可避的な空隙とからなるCu−Ga合金材であって、
20重量%以上のガリウムを含むCu−Ga合金相と前記不可避的な空隙とを含む領域の体積の、前記Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であるCu−Ga合金材。
【請求項4】
平均組成が32重量%以上45重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)、不可避的不純物、及び不可避的な空隙とからなるCu−Ga合金材であって、
65重量%以上のガリウムを含むCu−Ga合金相と前記不可避的な空隙とを含む領域の体積の、前記Cu−Ga合金材全体の体積に占める割合が2%以下であり、
前記Cu−Ga合金相が、γ1相、γ2相、及びγ3相のうちの少なくとも一つの相を含むCu−Ga合金材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のCu−Ga合金材から製造されるスパッタリングターゲット。
【請求項6】
複数のCu−Ga合金相を含むCu−Ga合金材の製造方法であって、
少なくとも一つのCu−Ga合金相を含むCu−Ga合金粉末を加圧及び加熱し、焼結することによりCu−Ga合金材を製造する焼結工程
を備えるCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項7】
前記Cu−Ga合金粉末が、150μm以下の粒径を有する請求項6に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項8】
1μm以上100μm以下の粒径を有する前記Cu−Ga合金粉末の体積が、前記Cu−Ga合金材全体の体積の90%以上である請求項7に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項9】
前記Cu−Ga合金材が、32重量%以上53重量%以下の平均組成のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなり、
前記焼結工程が、平均組成が53重量%以上のガリウムを含む相からなる粉末と、第1の融点を有する第1のCu−Ga合金相、及び前記第1の融点より高い第2の融点を有する第2のCu−Ga合金相とを少なくとも含む粉末とを254℃以上840℃以下の温度に加熱し、前記第1のCu−Ga合金相と、前記第2のCu−Ga合金相の一部とを溶解させ、50MPa以上の圧力で焼結する請求項6〜8のいずれか1項に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項10】
平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)と、残部が銅(Cu)及び不可避的不純物とからなるCu−Ga合金材の製造方法であって、
第1の融点を有する第1のCu−Ga合金相と、前記第2の融点より高い第2の融点を有する第2のCu−Ga合金相とを少なくとも含む粉末を254℃以上840℃以下の温度に加熱し、前記第1のCu−Ga合金相と、前記第2のCu−Ga合金相の一部とを溶解させ、50MPa以上の圧力で焼結する焼結工程
を備えるCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項11】
前記焼結工程が、平均組成が53重量%以上のガリウムを含む相からなる粉末を更に含む請求項10に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項12】
前記焼結工程後、前記Cu−Ga合金材に200℃以上254℃未満の温度で、1時間以上の熱処理を施す熱処理工程を更に備える請求項11に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項13】
平均組成が32重量%以上53重量%以下のガリウム(Ga)を含むCu−Ga合金材の製造方法であって、
Cu−Ga合金及び不可避的不純物をAr雰囲気中で溶解凝固させることによりインゴットを形成するインゴット形成工程と、
前記インゴットを粉末にする粉末形成工程と、
前記粉末から、150μm以下の粒径を有する粉末を選別する選別工程と、
選別された前記粉末を加熱、加圧し、焼結することによりCu−Ga合金材を製造する焼結工程と、
前記焼結工程の後、前記Cu−Ga合金材に熱処理を施す熱処理工程と
を備えるCu−Ga合金材の製造方法。

【公開番号】特開2011−241452(P2011−241452A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115198(P2010−115198)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】