説明

DACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置

【課題】スループットの維持を図りつつDACアンプが異常(故障)として検出される前にショットの変化を確実に検出していくことで、DACアンプの異常(故障)を事前に予測可能とするDACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】DACアンプ34,35から出力されるアナログ電圧信号を受信し、加算するステップと、加算の結果生成される加算信号をデジタル加算信号に変換するステップと、デジタル加算信号を基にエラーを検出するステップと、を備え、エラー検出ステップでは、電子ビーム照射の整定待ち時間を整定時間よりも短く設定することで荷電粒子ビームのショット時におけるDACアンプ34,35の電圧値が予め設定される閾値外となることをエラーと定義する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、マスク(レチクル)と称される原画パターンを使用したパターンの転写が行われる。この際、高精度なレチクルを製造するために、優れた解像度を備える電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
レチクルに電子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画装置の一方式として、例えば以下のような可変成形方式を挙げることができる。すなわち、ここでは図示しないが、この可変成形方式は、第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形された電子ビームによって可動ステージに載置された試料上に図形パターンが描画される。
【0004】
このように例えば、可動ステージ上の試料に図形パターンを描画する際には、電子ビームを移動させる制御、或いは、電子ビームの形状やサイズの制御の必要が生じる。上述した荷電粒子ビーム描画装置では、荷電粒子ビームを偏向させて移動させる。このようなビームの偏向には偏向アンプが用いられており、そのために荷電粒子ビーム描画装置には、単数または複数の偏向アンプが利用される。このビーム偏向制御は、偏向アンプと偏向器によって行われ、それぞれの偏向制御は独立して行われることが一般的である。
【0005】
さらに、電子ビームを偏向させるためには、偏向アンプの出力が十分に安定した状態にあることが必要である。すなわち、偏向アンプが立ち上がったばかりの時は一般的にその出力が安定せず、このような状態で電子ビームの照射を行うと、ショットの位置やサイズに狂いが生ずることもあり、適切な制御を行うことができない。そのため、電子ビームの照射は、偏向アンプが立ち上がって後、その出力が安定することを待って行われる。
【0006】
但し、一般的に、偏向アンプが劣化してくると、正常な状態に比べて当該偏向アンプの出力が安定するまでに時間がかかる。従って、電子ビームの照射は偏向アンプの出力が安定した後に行われるが、照射を待っている時間内に偏向アンプの出力が十分に安定しないことも考えられる。このような場合に照射を行うと、上述したような弊害を招来することにもなりかねない。
【0007】
そのため、適宜偏向アンプの性能の評価を行う必要がある。以下の特許文献1における発明では、偏向アンプの出力性能の変化を検出する機能が開示されている。
【0008】
すなわち、この発明は、第1のDACアンプに第1の評価信号を入力して、この第1のDACアンプの出力側に接続された第1の測定抵抗素子及びこの第1の測定抵抗素子と並列に接続された第1の遅延補償素子を介して第1のDACアンプから第1の出力電圧を出力する。一方、第2のDACアンプには、第1の評価信号の逆相となる第2の評価信号を入力して、この第2のDACアンプの出力側に接続された第2の測定抵抗素子及びこの第2の測定抵抗素子と並列に接続された第2の遅延補償素子を介して第2のDACアンプから第2の出力電圧を出力する。これら第1の出力電圧と、第2の出力電圧を加算した値から、第1のDACアンプ及び第2のDACアンプのセトリング時間を測定することにより、DACセトリング特性、すなわち異常の有無を評価する。
【0009】
このDACセトリング特性評価方法であれば、プローブ等を含む、測定装置側のインダクタンスを排除しつつ、高精度な評価を行うことが可能となる、とされる。
【0010】
また、DACアンプのセトリング性能の劣化を迅速に判定する方法が以下の特許文献2に記載されている。これは、特に描画工程に対して要求されるスループットが非常に厳しくなってきていることに対応するもので、例えば、セトリング時間を設定して、設定されたセトリング時間で駆動させる偏向アンプの出力により制御される偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて、荷電粒子ビームに第1と第2の成形アパーチャを通過させることによって成形された異なる2種のパターンを複数回交互にショットする工程と、ショットされたビーム電流を測定する工程と、測定されたビーム電流について、積分電流を演算する工程と、演算された積分電流と基準積分電流との差分を演算し、出力する工程とを備えている。
【0011】
この方法であれば、積分電流と基準積分電流との差分をもってセトリング性能の評価を行うことが可能となるため、実際に基板に描画する必要はなく、スループットを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−201150号公報
【特許文献2】特開2009−272366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、第1、或いは、第2のDACアンプに評価信号を入力することによって、当該第1、或いは、第2のDACアンプのセトリング時間が、予め設定される閾値を超えることをもって異常の有無を評価する。従って、閾値を超えない限り異常とは評価されず正常と扱われる。換言すれば、閾値を超えて異常と判断される場合には既に第1、或いは、第2のDACアンプは故障している、ということになる。つまり、事前に故障であるか否かは判断することができない。
【0014】
また、特許文献2に記載の方法では、以下の点で不都合が生ずる場合が考えられる。すなわち、基準積分電流との差分を評価するために積分電流を演算するということは、1回のビーム電流だけ測定しても電流値が小さすぎて判定することは困難であるため、複数回ショットしたビーム電流を積分した積分電流を用いることで値を大きくする必要がある、ということである。従って、多数のショットが傾向的に劣化していくような場合には有効な方法であるが、1回、1回のショットで発生する異常を検出することは適さない方法であるといえる。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、スループットの維持を図りつつDACアンプが異常(故障)として検出される前にショットの変化を確実に検出していくことで、DACアンプの異常(故障)を事前に予測可能とするDACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施の形態に係る特徴は、DACアンプの評価方法において、DACアンプから出力されるアナログ電圧信号を受信し、加算するステップと、加算の結果生成される加算信号をデジタル加算信号に変換するステップと、デジタル加算信号を基にエラーを検出するステップと、を備え、エラー検出ステップでは、電子ビーム照射の整定待ち時間を整定時間よりも短く設定することで荷電粒子ビームのショット時におけるDACアンプの電
圧値が予め設定される閾値外となることをエラーと定義する。
【0017】
また、DACアンプの評価方法において、エラー検出ステップにおけるエラーを定義するに当たって、荷電粒子ビームの移動量に合わせて設定される整定時間に対して、対応する全ての電子ビーム照射の整定待ち時間がそれぞれの整定時間よりも短く設定することが望ましい。
【0018】
また、DACアンプの評価方法において、エラー検出ステップにおけるエラーを定義するに当たって、電子ビーム照射の整定待ち時間を整定時間に拘わらず一定に設定することが望ましい。
【0019】
また、DACアンプの評価方法において、エラー検出ステップにおけるエラーを定義するに当たって、荷電粒子ビームの移動量が変化してもエラーとして検出される数が略同数となるように設定することが望ましい。
【0020】
さらに、本発明の実施の形態に係る特徴は、荷電粒子ビーム描画装置において、荷電粒子ビームの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプと、DACアンプから出力されるアナログ電圧信号を基にDACアンプの評価を行うDACアンプテスト部と、を備え、DACアンプテスト部は、DACアンプから出力されるアナログ電圧信号を加算する加算回路と、加算回路によって生成される加算信号をデジタル加算信号に変換するディジタイザ回路と、デジタル加算信号を基に電子ビーム照射の整定待ち時間を整定時間よりも短く設定することで荷電粒子ビームのショット時におけるDACアンプの電圧値が予め設定される閾値外となることをエラーと定義しDACアンプの評価を行うエラー検出回路とを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スループットの維持を図りつつDACアンプが異常(故障)として検出される前にショットの変化を確実に検出していくことで、DACアンプの異常(故障)を事前に予測可能とするDACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるDACアンプテスト部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるDACアンプの評価の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるDACアンプの評価方法を説明する際に使用する波形図である。
【図5】本発明の実施の形態において、整定時間と設定される整定待ち時間との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態において、整定時間と設定される整定待ち時間との別の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態における経過時間と検出されるエラー数との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施の形態におけるDACアンプの評価方法を説明する際に使用する波形図及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の実施の形態においては、荷電粒子ビームの一例として電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0025】
荷電粒子ビーム描画装置1は、試料に所定のパターンを描画する装置であり、特に可変成形型の描画装置の一例である。図1に示すように、荷電粒子ビーム描画装置1は、大きく描画部2と制御部3を備えている。描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備えている。電子鏡筒4内には、電子銃41と、この電子銃41から照射される電子ビームの光路に沿って、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、位置偏向器50とが順に配置されている。
【0026】
描画室6の中には、XYステージ61が配置される。XYステージ61上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料が配置されることになるが、ここでは図示を省略している。XYステージ61上には、試料が配置される位置とは異なる位置にファラデーカップ62が配置される。
【0027】
ブランキング偏向器43は、例えば、2極、或いは、4極等の複数の電極によって構成される。また、成形偏向器47、位置偏向器50は、例えば、4極、或いは、8極等の複数の電極によって構成される。図1では、成形偏向器47、位置偏向器50、それぞれの偏向器ごとに1つのDACアンプしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプが接続される。なお、DACアンプにいう「DAC」は、「Digital to Analog Converter」の頭文字である。
【0028】
制御部3は、制御計算機31と、偏向制御回路32と、ブランキングアンプ33と、偏向アンプ(DACアンプ)34,35と、検出器36と、メモリ37と、磁気ディスク装置等の記憶装置38と、及び荷電粒子ビーム描画装置1と外部とを接続するための外部インターフェイス(I/F)回路39とを備えている。制御計算機31、偏向制御回路32、検出器36、メモリ37、記憶装置38、及び外部I/F回路39は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御回路32、ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0029】
ブランキングアンプ33は、ブランキング偏向器43に接続される。また、DACアンプ34は、成形偏向器47に接続される。DACアンプ35は、位置偏向器50に接続される。ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35に対しては、偏向制御回路32から、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。デジタル信号が入力されたブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、それぞれのデジタル信号をアナログ電圧信号に変換し、増幅させて偏向電圧として接続された各偏向器に出力する。このようにして、各偏向器には、それぞれ接続されるDACアンプから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。
【0030】
なお、荷電粒子ビーム描画装置1には、上述したように電子ビームを取り囲むように成形偏向器47、位置偏向器50が4極、或いは、8極設けられており、電子ビームを挟んで各々一対(4極の場合は2対、8極の場合は4対)配置されている。そして成形偏向器47、位置偏向器50ごとにそれぞれDACアンプが接続されている。但し、図1には成形偏向器47、位置偏向器50に接続されているDACアンプそれぞれ1つずつのみを示
し、その他のDACアンプを示していない。
【0031】
検出器36は、ファラデーカップ62と制御計算機31とに接続し、ファラデーカップ62の動きを検出している。
【0032】
制御計算機31内には、データ処理部31aと、設定部31bと、演算部31cと、判定部31dの各部が設けられている。データ処理部31aと、設定部31bと、演算部31cと、判定部31dは、プログラムといったソフトウェアで構成されても良く、ハードウェアで構成されても良い。また、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせで構成されても良い。データ処理部31aと、設定部31bと、演算部31cと、判定部31dとが、上述したようにソフトウェアを含んで構成される場合、制御計算機31に入力される入力データ、或いは、演算された結果は、都度メモリ37に記憶される。
【0033】
なお、図1に示す本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1には、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示している。従って、その他の構成、例えば、各レンズを制御する制御回路等が付加されていても良い。また、ここでは電子ビームの位置偏向に1段の偏向器を用いるが、これに限られるものではなく、例えば、主副2段の多段偏向器によって位置偏向を行うようにされていても良い。
【0034】
荷電粒子ビーム描画装置1は、以下のように動作して対象へ描画を行う。電子銃41(放出部)から放出された電子ビームBは、ブランキング偏向器43内を通過する際、ブランキング偏向器43によってONの状態にされている場合に電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過するように制御される。一方、OFFの状態では、電子ビームB全体がブランキングアパーチャ44で遮蔽されるように偏向される(図1において破線で示している)。ブランキングアンプ33からの偏向電圧がOFFからONとなり、その後再度OFFになるまでにブランキングアパーチャ44を通過した電子ビームBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0035】
かかる電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する偏向電圧がブランキングアンプ33から出力される。そしてブランキング偏向器43は、ブランキングアンプ33から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビームBの向きを制御して、電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する。
【0036】
以上のようにブランキング偏向器43とブランキングアパーチャ44とを通過することによって生成された各ショットの電子ビームBは、照明レンズ42により矩形、例えば、長方形の孔を持つ第1の成形アパーチャ45全体を照明する。ここで電子ビームBをまず矩形、例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ45を通過した第1のアパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ46により第2の成形アパーチャ48上に投影される。第1の成形アパーチャ45を通過した電子ビームBの向きを制御するための偏向電圧がDACアンプ34から印加された成形偏向器47によって、かかる第2の成形アパーチャ48上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。
【0037】
第2の成形アパーチャ48を通過した電子ビームBの照射位置を制御するための偏向電圧がDACアンプ35から位置偏向器50に対して出力される。第2の成形アパーチャ48を通過し第2のアパーチャ像とされた電子ビームBは、対物レンズ49により焦点を合わせられ、連続的に移動するXYステージ61に配置された試料の所望する位置に照射される。
【0038】
DACアンプ34から成形偏向器47に印加される偏向電圧、DACアンプ35から位置偏向器50に印加される偏向電圧は、別途DACアンプテスト部7にも出力される。DACアンプテスト部7は、DACアンプ34,35の性能の評価を行う。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態におけるDACアンプテスト部7の内部構成を示すブロック図である。DACアンプテスト部7は、加算回路71と、ディジタイザ回路72と、コントローラ73と、エラー検出回路74とから構成される。なお、DACアンプテスト部7を構成する各部の働きについては、後述するDACアンプの評価の流れにおいて適宜説明する。
【0040】
図3は、本発明の実施の形態におけるDACアンプの評価の流れを示すフローチャートである。DACアンプ34,35の性能の評価は、例えば、荷電粒子ビーム描画装置1が起動し最初のマスクへの描画処理の前に行われる荷電粒子ビーム描画装置1の各部の検査工程において行われる。
【0041】
まず、検査回路がONされる(ST1)。ここで「検査回路」とは、荷電粒子ビーム描画装置1に組み込まれている複数のDACアンプ(本発明の実施の形態においては、DACアンプ34,35)の検査処理全般を意味している。本発明の実施の形態においては、検査(テスト)を行う際にテスト用のマスクへ実際に描画を行うことが行われるが、その際にDACアンプ34,35から成形偏向器47、あるいは、位置偏向器50へアナログ電圧信号が出力される。検査工程では、このアナログ電圧信号を描画部2だけではなく、DACアンプテスト部7へも出力し、エラー検出回路74にてエラーの発生を確実に捉えてエラーの有無を判断することでDACアンプ34,35の異常(故障)予測を行うものである。
【0042】
次にテスト用描画データがセットされる(ST2)。テストはマスクがセットされず空の状態で行われる。このテスト用描画データは、例えば、メモリ37、或いは、記憶装置38に格納されていても良い。マスクへの描画処理を行う際は、例えば、各DACアンプに対して「DACアンプの出力値」、「電子ビームの照射時間」、「DACアンプの整定時間」、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」といったデータが入力される。
【0043】
ここで、電子ビームBは上述したようにDACアンプ34,35から出力されるアナログ電圧信号によって偏向電圧が成形偏向器47、位置偏向器50に印加されることで移動する。但し、電子ビームBを安定的に移動させるための偏向電圧の印加は瞬時に行うことができず、ある程度の時間を必要とする。また、偏向電圧は安定的に印加されなければ、電子ビームBは所望の移動を行うことができず、マスク上においてパターンエラーとなってしまう。「DACアンプの整定時間」とは、このDACアンプが立ち上がりから偏向電圧を印加することができる程度に安定的になるまでの時間をいう。
【0044】
また、上述したように、マスクへの電子ビームBの照射は、DACアンプが安定している間に行われる。従って、DACアンプの整定時間が経過すると同時に電子ビームを照射することも考えられるが、通常は安全をみて整定時間経過と同時に電子ビームを照射することはせず、整定時間経過後、さらにある程度の時間が経過した後に電子ビームを照射することとしている。このように整定時間開始から実際に電子ビームを照射するまでの時間が「電子ビーム照射のための整定待ち時間」である。本発明の実施の形態においては、この「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の設定に特徴がある。
【0045】
図4は、本発明の第1の実施の形態におけるDACアンプの評価方法を説明する際に使用する波形図である。図4に示す波形図では、横軸に時間が示される。波形は、一番上に
成形偏向器47に偏向電圧を印加するDACアンプ34、及び、位置偏向器50に偏向電圧を印加するDACアンプ35から出力されるアナログ電圧信号の波形が示されている。なお、図3においては、DACアンプ34を「SHP」と、DACアンプ35を「SUB」と省略して表わしている。一方、それぞれのアンプの対極にあるアンプから出力されるアナログ電圧信号の波形が「対極アンプ」と記載される部分に示されている。
【0046】
対極アンプの波形の下には、ブランキング信号のON、OFFが示されている。上述したように、ブランキングアンプ33からブランキング偏向器43へ出力された偏向電圧によって、電子鏡筒4内を通過する電子ビームBの向きが制御される。ブランキング信号がONとなるときに電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態になる。このとき、マスクに電子ビームBが照射される。一方、ブランキング信号がOFFとなるときには電子ビームBはブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態となる。
【0047】
また、このブランキング信号のON、OFFを示す矩形波の中央に「SHP/SUB」の波形が示す偏向電圧と「対極アンプ」の波形が示す偏向電圧とを加算した電圧値を示すグラフが示されている。
【0048】
ここでDACアンプから出力される波形を見ると、大まかに山谷で示される区間と直線で示される区間とに分かれる。このうち、山谷で示されている区間(符号Aで示す区間)が上述した「DACアンプの整定時間」である。一方、直線で示される区間(符号Bで示す区間)が、「電子ビームの照射可能な時間」である。換言すればこの区間は、電子ビームの照射可能な程度に各DACアンプが安定した状態にあることを示している。
【0049】
図4の波形図におけるブランキング信号のON、OFFを示す矩形波として、まず、破線で示されている波形が示されている。この破線で示される矩形波が、DACアンプが正常に機能している場合の電子ビームの照射のON、OFFを示している。
【0050】
「SHP/SUB」の波形と「対極アンプ」の波形とは逆相の関係にあることから、それぞれが印加する偏向電圧を加算すると概ね0Vとなる。一方、整定時間の間は両者の偏向電圧を加算しても電圧値は0Vとはならない。図4では、加算値を示すグラフでは略三角形でその値の変化が示されている。以下、説明の便宜上、このような値の変化を示す略三角形を「加算値(三角形)」と表わす。
【0051】
ところで、上述したように、マスクへの描画処理に当たってパターンエラーが生ずることを避けるために電子ビームの照射可能な時間いっぱいに電子ビームを照射することはせず、電子ビームの照射可能な時間内において「電子ビームの照射時間」が設定される。図4の波形図で示せば、符号Cで示される「電子ビームの照射時間」は、ブランキング信号のON及びOFFを表わす符号Bで示される「電子ビームの照射可能な時間」内に含まれている。そして、「DACアンプの整定時間」からこの「電子ビームの照射時間」が開始されるまでの時間が、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」となる(符号Dで示す区間)。すなわち、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」は「DACアンプの整定時間」よりも長く設定される。
【0052】
図5は、本発明の実施の形態において、整定時間(DACアンプの整定時間)と設定される整定待ち時間(電子ビーム照射のための整定待ち時間)との関係を示すグラフである。このグラフでは、横軸に「(電子ビームBが移動する距離)移動量」が、縦軸に「時間」が示される。厳密に言えば当てはまらない場合もあるが、「DACアンプの整定時間」は、通常電子ビームBが移動する距離(移動量)Xに応じて概ね比例して長くなる(図5の実線参照)。従って、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」も「DACアンプの整定時間」に合わせて電子ビームBが移動する距離(移動量)Xに応じて概ね比例して長く
なる(図5の点線参照)。また、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」は「DACアンプの整定時間」よりも長く設定されることから、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を示す点線は「DACアンプの整定時間」を示す実線よりも上に示される。
【0053】
上述したように、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」が「DACアンプの整定時間」よりも長く設定されていることは、DACアンプが十分安定した後に電子ビームが照射されるということを示している。この状態がDACアンプが正常な状態である。一方、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を短くしていってついには「DACアンプの整定時間」よりも短く設定される状態では、電子ビームはブランキング信号がONになると照射されるので、この照射がDACアンプの整定時間内に行われることになる。すると、DACアンプは立ち上がり後十分に安定的となるまでの間、すなわち、不安定な状態下にて電子ビームが照射されることになる。
【0054】
このことをあるDACアンプとこのアンプの対極にあるアンプからそれぞれ印加される偏向電圧の出力値の面から説明すると、DACアンプが十分安定した状態で電子ビームが照射されるという場合は、両DACアンプは互いに逆相となる信号が出力されるので、両DACアンプからそれぞれ印加される偏向電圧の出力値を加算すると0Vとなる。一方、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」が「DACアンプの整定時間」よりも短く設定される状態では、両DACアンプからそれぞれ印加される偏向電圧の出力値を加算しても0Vとはならない。
【0055】
本発明の実施の形態では、電子ビームが照射される際の対極にあるDACアンプの偏向電圧の出力値の加算値について、これまでのように0Vになるか否かではなく、あえて0Vとはならない状態に着目してDACアンプの故障予測を行うものである。具体的には、電子ビームが照射される際の対極にあるDACアンプの偏向電圧の出力値の加算値が0Vにならない領域で予め設定した閾値を超える状態を「エラー」と定義し、エラー検出回路74にて検出する。
【0056】
実際にどのように「電子ビーム照射のための整定待ち時間」が「DACアンプの整定時間」よりも短く設定される状態とするかについては、例えば、その一例が図5に示されている。図5の一点鎖線で示される線が「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を示す線である。すなわち、図5に示す設定例では、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を移動量Xに拘わらず一定に設定している。そのため、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を示す一点鎖線は、移動量Xの増加に合わせて右上がりに伸びていく「DACアンプの整定時間」と図5に示す場合にはおよそ30μmの付近でのみ交わるように示されている。また図6には、別の設定例が示されている。
【0057】
図6は、本発明の実施の形態において、整定時間(DACアンプの整定時間)と設定される整定待ち時間(電子ビーム照射のための整定待ち時間)との別の関係を示すグラフである。この場合、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」が移動量Xの全ての場合において「DACアンプの整定時間」よりも短く設定される。従って図6の一点鎖線に示されるように、この場合の「電子ビーム照射のための整定待ち時間」は、「DACアンプの整定時間」を示す実線の下に示されることになる。図6に示す場合には、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を表わす一点鎖線と「DACアンプの整定時間」を示す実線とは交わることはない。
【0058】
なお、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」をどのように設定するかは任意である。従って、図5、或いは、図6に示す「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を表わす一点鎖線と「DACアンプの整定時間」を表わす実線との交点や互いの間の間隔については、設定される「電子ビーム照射のための整定待ち時間」によって異なる。
【0059】
実際に「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を設定する場合には、「DACアンプの整定時間」との関係を考慮する必要がある。例えば、図5に示すような両者の関係がある場合、領域Xで示される部分、すなわち、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」が「DACアンプの整定時間」よりも十分に長い時間となる領域においては、恐らくほとんどエラーとして検出されることはない。これは、いわば正常な状態に該当するからである。従って、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を例えば、100nsec辺りに設定してしまうと、上述したようなエラー検出を基にDACアンプの性能を評価するという観点からは不適切な設定となってしまう。
【0060】
一方、領域Yで示される部分、すなわち、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」が「DACアンプの整定時間」よりも明確に短い時間となる領域においては、反対にほとんどの電子ビームの照射がエラーとして検出されてしまうことになる。これはDACアンプが十分に安定しない状態で電子ビームを照射するからである。従って、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を例えば、200nsec辺りに設定してしまうと、上述したようなエラー検出を基にDACアンプの性能を評価するという観点からは不適切な設定となってしまう。
【0061】
従って、「DACアンプの整定時間」との関係で領域Xや領域Yが大きく現われてしまうような状態に「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を設定することは不適切である。そこで、例えば、図5の領域Z示すように、「DACアンプの整定時間」の略中央付近において交わるように「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の一定時間として設定することで、エラーが全く現われない、或いは、エラーしか現われないといった検出状態を回避することができる。このような場合、領域Zで示される部分においては、例えば、同じ移動量Xであっても、エラー検出回路74にてエラーとして検出される場合と検出されない場合とが考えられ、DACアンプの評価を行う点で適していると考えられる。
【0062】
「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を「DACアンプの整定時間」よりも短く設定することを図4に示す波形図にて示すと、次のようになる。すなわち、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を示す符号Dで示される区間(時間)を「DACアンプの整定時間」を示す符号Aで示される区間(時間)よりも短く設定する。その状態を示したのが、実線で示す矩形図である。実線で示す矩形図は、破線で示す矩形図から矢印Eに示す方向に移動しているように示されている。矢印Dの長さから矢印Eの長さを引いた矢印Fの長さが「DACアンプの整定時間」よりも短く設定された「電子ビーム照射のための整定待ち時間」となる。
【0063】
以上、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の設定について説明した。図3に示すフローチャートに戻ると、テスト用描画データがセットされた(ST2)後、当該テスト用描画データを用いてテスト用マスクに対して描画が開始される(ST3)。テスト用マスクへの電子ビームBの照射(ショット)の数は任意に設定することができるが、例えば、各移動量Xごとに1万回といったショット数を設定することができる。
【0064】
テスト用マスクに対して描画が行われるに並行して、DACアンプ34,35から出力されるアナログ電圧信号がDACアンプテスト部7に入力される。なお、DACアンプ34,35とDACアンプテスト部7との間に、DACアンプ34,35において生ずる雑音及び干渉を最小限にリファインする、例えば、モニター回路を挿入しても良い。このモニター回路を設けることで、DACアンプテスト部7に入力されるアナログ電圧信号がクリアになりより精度良くエラーを検出することが可能となる。
【0065】
DACアンプ34,35それぞれからDACアンプテスト部7に入力されるアナログ電
圧信号は、加算回路71において加算される。加算回路71による加算結果は、ディジタイザ回路72に入力され、コントローラ73と協力してアナログ電圧信号である加算結果(加算信号)をディジタル化(以下、このような信号を「ディジタル加算信号」と表わす)する。ディジタル加算信号は、エラー検出回路74に入力され、エラー検出回路74において入力された当該ディジタル加算信号が予め設定される閾値を超えたエラーとして検出されるか否か判断される(ST5)。
【0066】
ここでのエラーは上述したように「電子ビームが照射される際の対極にあるDACアンプの偏向電圧の出力値の加算値が0Vにならない領域で予め設定した閾値を超える状態」を意味する。エラーが検出されない場合には(ST5のNO)、検査工程は終了し(検査回路OFF(ST6))、製造工程としてのマスクへの描画処理へと移行する。
【0067】
一方、エラーが検出された場合には(ST5のYES)、当該検出を1回としてエラーの数を記録する(ST7)。このエラーの記録は、メモリ37、或いは記憶装置38のいずれに記憶されても良い。さらにエラー検出回路74は、エラーを記録した場合には、さらにエラーの検出数が増加の傾向にあるか否かを判断する(ST8)。この判断に当たっては、例えば、前回検査工程にて検出されたエラーの数と比較しても良く、或いは、前回までの検査工程で検出されたエラーの平均値と比較しても良く、今回検出されたエラーの数がこれまでの検査工程で検出されたエラーに対してどのような意味を持つのか判断する。
【0068】
図7は、本発明の実施の形態における経過時間と検出されるエラー数との関係を示すグラフである。このグラフでは、横軸に「経過時間」が、縦軸に「検出数」が示される。グラフの設定次第ではあるが、例えば、横軸は月単位、年単位であり、縦軸は100個、1000個の単位で示されるものと考えられる。また、ここでの「検出数」は、全ての移動量をまとめた場合に検出されるエラーの数であっても、或いは、移動量ごとに把握されるエラーの数であっても良い。
【0069】
なお、図7に示すグラフは、例えば、エラー検出回路74が作成しても、或いは、エラー検出回路74から制御計算機31へと作成指示が出され、制御計算機31内の、例えば、データ処理部31a、演算部31c等で作成されても良い。
【0070】
また、検出数がある数に達した場合、その領域を例えば、「ワーニング領域」として設定し、さらにはこの「ワーニング領域」を超えて検出数が増加した場合には、例えば「エラー領域」として設定しておくことも可能である。図7のグラフにおいては、当該領域に含まれる検出数を白丸で示している。
【0071】
図3に示すフローチャートでは、エラーの検出数が増加の傾向にあるか否かが判断された結果、増加傾向になければ(ST8のNO)、そのまま検査工程は終了となるが(ST6)、エラーの検出数が増加傾向にあると判断されると(ST8のYES)、まず当該検出数がエラーレベルに到達しているか否かが判断される(ST9)。この状態が、検出数が既にパターンエラーが発生してしまう蓋然性が高い警告レベルに達した場合に該当し、例えば、図7に示すエラー領域に検出数が含まれる状態である。エラー検出回路74によってこのように判断された場合には(ST9のYES)、荷電粒子ビーム描画装置1を停止し、高い検出数を示すDACアンプを交換するよう促す(ST10)。
【0072】
次に、検出数がエラーレベルではない場合(ST9のNO)、検出数がワーニングレベルにあるか否かが判断される(ST11)。このワーニングレベルとは、検出数が例えば、図7のグラフにいうワーニング領域に含まれる場合である。もし検出数がワーニングレベルに達している場合には(ST11のYES)、荷電粒子ビーム描画装置1のユーザに
通報する(ST12)。通報を受けたユーザは、例えば、該当するDACアンプの交換をスケジューリングするといった対応を取る。但し、この状態では上述したエラーレベルにまでは達していないので、荷電粒子ビーム描画装置1を停止させるまでには至らない。このような状態で直接ユーザに危険性を通報することで実際にDACアンプの故障によって荷電粒子ビーム描画装置1が停止してしまうことを回避することが可能となる。
【0073】
このようにエラー検出数増加の動きに気をつけることで実際にDACアンプが故障して荷電粒子ビーム描画装置1が使用不可能な状態となる前に故障を予測することが可能となる。特に、エラーレベルとワーニングレベルとの2段階の危険性のレベルを設けることで、DACアンプの故障によって突然荷電粒子ビーム描画装置1が使用不可となることを避けることができる。
【0074】
なお、本発明の実施の形態においては、危険性のレベルをワーニングレベル及びエラーレベルと2段階設けているが、この危険性のレベルをどのように設定するかは任意に設定することができる。また、本発明の実施の形態においては、エラーレベルに該当するか否かを判断した後にワーニングレベルに該当するか否かを判断する順番で処理しているが、これらレベルの判断の順番を入れ替えて、まず検出数がワーニングレベル以上、かつエラーレベル以下であるか否かを判断した後、検出数がエラーレベル以上であるか否かを判断するように処理しても良い。
【0075】
以上説明した通り、意図的に「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の設定を短くしエラーが検出されやすいようにして検査を行い、スループットの維持を図りつつDACアンプが異常(故障)として検出される前にショットの変化を確実に検出していくことで、DACアンプの異常(故障)を事前に予測可能とするDACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することができる。
【0076】
(第2の実施の形態)
次に本発明における第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態において、上述の第1の実施の形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、同一の構成要素の説明は重複するので省略する。
【0077】
上記第1の実施の形態においては「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の設定を短くしエラーが検出されやすいようにして検査を行い、スループットの維持を図りつつDACアンプが異常として検出される前にショットの変化を確実に検出していく検査方法を説明した。当該検査方法は、さらに荷電粒子ビーム描画装置1に備えられる各機器の故障箇所の推定に利用することが可能である。
【0078】
図8は、本発明の第2の実施の形態におけるDACアンプの評価方法を説明する際に使用する波形図及びグラフである。図8に示す波形のうち、DACアンプ34,35からのアナログ電圧信号の出力波形を示す「SHP/SUB」の波形において、円にて囲む領域に示される波形は第1の実施の形態における図4に示す波形図には現われていない成分である。この成分は、具体的には、DACアンプ等を接続するコネクタ等の反射成分であると考えられる。
【0079】
第1の実施の形態で説明したように、「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の設定を短くしエラーが検出されやすいようにして検査を行っていくと、図8の右側に示すグラフのように、縦軸に「(エラーの)検出数」を、横軸に「電子ビーム照射のための整定待ち時間」を取り、整定待ち時間は右側に行くに従って短く設定されるとする。電子ビーム照射のための整定待ち時間が短く設定されるに従って、図8に示す波形図に符号Fの矢印で示されるようにショット時間は少しずつ左側に移動する。すると、図8のグラフに示す
反射成分に当たる部分ではエラーの検出数が増加する。そして、一旦検出数が安定するものの、さらに「DACアンプの整定時間」に掛かるため再度検出数が増加する。
【0080】
このようなグラフが得られた場合、DACアンプ等を接続するコネクタ等の反射成分が発生しているとの推測が成り立ち、このことから、異常(故障)箇所の推定が可能となる。
【0081】
また、この他に例えば、特に図面を使用して説明することはしないが、電子ビームBの振り幅(移動量)を複数設定し、それぞれの移動量において検出されるエラーの数が同様となるように電子ビーム照射のための整定待ち時間を設定する。このような設定下において、移動量が大きくなるほどエラーの検出数が増加する場合には、DACアンプのオープンループゲインが悪化しているとの推測が成り立ちうる。
【0082】
以上説明したように、意図的に「電子ビーム照射のための整定待ち時間」の設定を短くしエラーが検出されやすいようにして検査を行い、スループットの維持を図りつつDACアンプが異常(故障)として検出される前にショットの変化を確実に検出していくことで、DACアンプの異常(故障)を事前に予測可能とするだけではなく、その異常(故障)箇所までも事前に予測可能とすることができるDACアンプの評価方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することができる。
【0083】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
4 電子鏡筒
7 DACアンプテスト部
32 偏向制御部
33 ブランキングアンプ
34 DACアンプ
35 DACアンプ
71 加算回路
72 ディジタイザ回路
73 コントローラ
74 エラー検出回路
A DACアンプの整定時間
B 電子ビームの照射可能な時間
C 電子ビームの照射時間
D 電子ビーム照射のための整定待ち時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DACアンプから出力されるアナログ電圧信号を受信し、加算するステップと、
加算の結果生成される加算信号をデジタル加算信号に変換するステップと、
前記デジタル加算信号を基にエラーを検出するステップと、を備え、
前記エラー検出ステップでは、電子ビーム照射の整定待ち時間を整定時間よりも短く設定することで荷電粒子ビームのショット時における前記DACアンプの電圧値が予め設定される閾値外となることをエラーと定義することを特徴とするDACアンプの評価方法。
【請求項2】
前記エラー検出ステップにおけるエラーを定義するに当たって、前記荷電粒子ビームの移動量に合わせて設定される前記整定時間に対して、対応する全ての前記電子ビーム照射の整定待ち時間がそれぞれの前記整定時間よりも短く設定することを特徴とする請求項1に記載のDACアンプの評価方法。
【請求項3】
前記エラー検出ステップにおけるエラーを定義するに当たって、前記電子ビーム照射の整定待ち時間を前記整定時間に拘わらず一定に設定することを特徴とする請求項1に記載のDACアンプの評価方法。
【請求項4】
前記エラー検出ステップにおけるエラーを定義するに当たって、前記荷電粒子ビームの移動量が変化しても前記エラーとして検出される数が略同数となるように設定することを特徴とする請求項1に記載のDACアンプの評価方法。
【請求項5】
荷電粒子ビームの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプと、
前記DACアンプから出力されるアナログ電圧信号を基に前記DACアンプの評価を行うDACアンプテスト部と、を備え、
前記DACアンプテスト部は、
前記DACアンプから出力される前記アナログ電圧信号を加算する加算回路と、
前記加算回路によって生成される加算信号をデジタル加算信号に変換するディジタイザ回路と、
前記デジタル加算信号を基に電子ビーム照射の整定待ち時間を整定時間よりも短く設定することで荷電粒子ビームのショット時における前記DACアンプの電圧値が予め設定される閾値外となることをエラーと定義し前記DACアンプの評価を行うエラー検出回路と、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−238761(P2012−238761A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107394(P2011−107394)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】