DNA及び酵素が施与された炭素同素体
【課題】水溶液中での分散性と酵素活性の向上を同時に図ることができる、酵素が施与された炭素同素体を提供する。
【解決手段】DNA及び酵素が施与された炭素同素体、及び前記炭素同素体の製造方法。並びに、前記炭素同素体を用いて酵素反応を行う方法。
【解決手段】DNA及び酵素が施与された炭素同素体、及び前記炭素同素体の製造方法。並びに、前記炭素同素体を用いて酵素反応を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA及び酵素が施与された炭素同素体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサー、診断機器、ドラッグデリバリー、微生物、動物細胞培養などのバイオテクノロジーの分野において、タンパク質、核酸などの機能性生体分子を、その特性を損なうことなく、効率的に担体などの固相に固定する技術は、当該分野において常に必要とされている。
【0003】
炭素同素体であるカーボンナノチューブ(CNT)又はフラーレン化合物は、新しい機能材料として、様々な分野で近年注目されている。これまでに、バイオセンサーへの応用を目的に、CNTに酵素を施与したCNT-酵素複合体に関する基礎研究の成果が報告されている(非特許文献1〜7)。さらに、ポリメラーゼ酵素や制限酵素、各種酵素(ペルオキシターゼ、プロテアーゼ等)をCNTに施与した場合の、それぞれの酵素活性への影響も検討されている。低濃度のCNTの添加は、PCR反応の反応効率を上昇させたとする報告(非特許文献8)がある一方で、CNTによって制限酵素やポリメラーゼの酵素反応が阻害されるとする報告もされている(非特許文献9)。また、CNT上に施与されたプロテアーゼは、遊離プロテアーゼの約53%の活性であったと報告されている(非特許文献10)。このため、一般的には、CNTは酵素活性の阻害作用があるものと考えられているが、酵素が施与されたCNTにおいて、酵素活性の阻害要因は何であるかは明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Sotiropoulou et al. Anal Bioanal. Chem. 375: 103-105 (2003)
【非特許文献2】J. Z. Xu et al. Electroanalysis 15: 219- 224 (2003)
【非特許文献3】V. G. Gavalas et al.Anal Biochem. 329: 247-252 (2004)
【非特許文献4】P. W. Barone et al. Nat Mater 4: 86-92 (2005)
【非特許文献5】K. A. Joshi et al. Electroanalysis 17: 54-58 (2005)
【非特許文献6】N. S. Lawrence et al. Electroanalysis 17: 65-72 (2005)
【非特許文献7】A. Merkoci et al. Trends Analyt Chem 24: 826-838 (2005)
【非特許文献8】D.Cui et al. Nanotechnology 15: 154-157(2004)
【非特許文献9】C.Yi et al. Nanotechnology 18: 025102 (2007)
【非特許文献10】P. Asuri et al. Langmuir, 23, 12318-12321 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、酵素活性を低下することなく、CNT等の炭素同素体上に、該酵素を施与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、最初に炭素同素体にDNAを施与し、該DNAが施与された炭素同素体に酵素を施与したところ、酵素活性の顕著な向上を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、DNA及び酵素が施与された炭素同素体及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、水溶液中に安定に分散し、かつ酵素単体と比べて顕著に高い酵素活性を示す。従って、バイオリアクター分野、バイオセンサー分野、分析分野、医薬分野、農薬分野などへの応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTの相対プロテアーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図2】DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTの相対プロテアーゼ活性における、CNTの長さ等の影響を示すグラフである。
【図3】各種合成オリゴDNA及びプロテアーゼが施与されたCNTの相対プロテアーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図4】合成ヌクレオチド及びプロテアーゼが施与されたCNTにおける、ヌクレオチドの長さが相対プロテアーゼ活性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】DNA及びプロテアーゼが施与されたフラーレンと、DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTのプロテアーゼ活性を示すグラフである。
【図6】DNA及びプロテアーゼが施与された各種フラーレンの相対プロテアーゼ活性を示すグラフである。
【図7】DNA及びカタラーゼが施与されたCNTの、相対カタラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図8】DNA及びアミラーゼが施与されたCNTの、相対アミラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図9】DNA及びリパーゼが施与されたCNTの、相対リパーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図10】DNA及びエステラーゼが施与されたCNTの、相対エステラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図11】DNA及びエラスターゼが施与されたCNTの、相対エラスターゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図12】DNA及びグルコースオキシターゼが施与されたCNTの、相対グルコースオキシターゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、炭素同素体には、CNT類及びフラーレン類が含まれる。該CNT類には単層カーボンナノチューブ(SWNT)、二層カーボンナノチューブ(DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWNT)などの各種CNTが含まれる。該フラーレン類には、フラーレン(C60)のみならず、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン等の修飾フラーレンも含まれる。
【0011】
本発明において、DNAは炭素同素体の分散性を向上すると共に、炭素同素体と酵素とを繋ぐ作用を奏していると考えられる。A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)を含む天然物由来のDNAだけでなく、合成オリゴDNAでも同様の効果が奏されることから、広く、塩基配列、立体構造に拠らず種々の天然由来DNAを使用することができる。該天然物由来のDNAの好ましいものとして、10〜700塩基長、より好ましくは100〜500塩基長、例えばサケ精子DNA(フナコシ社)が挙げられる。
【0012】
上記の合成オリゴDNAの例としては、ポリ(dA)n、ポリ(dG)n、及びポリ(dC)nが挙げられる。ここで、nは8〜30の間の整数である。好ましくは、ポリ(dG)n及びポリ(dC)nである。
【0013】
上記のポリ(dG)nのnの範囲は、好ましくは8〜25の整数であり、より好ましくはnは5〜15である。
【0014】
上記のポリ(dC)nのnの範囲は、好ましくは10〜30の整数であり、より好ましくはnは10〜20である。
【0015】
酵素は、特に限定されず種々のものを使用することができ、例えば、加水分解酵素、酸化還元酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼ、転移酵素などが挙げられる。
【0016】
前記加水分解酵素は、好ましくはタンパク質分解酵素、アミラーゼ、リパーゼ、又はエステラーゼである。
【0017】
前記タンパク質分解酵素はセリンプロテアーゼであることが好ましい。より好ましくは、ズブチリシン、トリプシン又はエラスターゼである。
【0018】
前記酸化還元酵素は、好ましくはカタラーゼ、グルコースオキシゲナーゼ、又はコレステロールオキシターゼである。
【0019】
斯かるDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、酵素単体よりも高い単位質量当たりの酵素活性を有する。酵素活性の測定方法は、複合体を形成する酵素の性質に依存するが、例えば、酵素がプロテアーゼである場合該活性は、アンソン法(Anson ML (1938), J Gen Physiol 22, 79-89)により測定することができる。
【0020】
本発明のDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、
(1)炭素同素体にDNAを施与するステップと、
(2)ステップ(1)で得られた該炭素同素体に、酵素を施与するステップ
とを含む、製造方法により得られる。
【0021】
上記ステップ(1)において、DNAの施与はDNA溶液中に炭素同素体を分散させることによって行うことができる。或いは、予め炭素同素体の分散液を調製しておき、DNA溶液と混合してもよい。該炭素同素体の分散液は、分散媒、例えば蒸留水、と炭素同素体を軽く混合した後、分散手段により、十分に分散させることが好ましく、例えば、6〜10時間程度超音波処理を行う。上記炭素同素体の分散液中の炭素同素体濃度は、0.1〜100mg/mlの範囲であり得るが、好ましくは0.5〜10mg/ml、より好ましくは0.8〜1.2mg/mlである。
【0022】
得られた炭素同素体分散液に、天然物由来のDNAと炭素同素体の重量混合比が、2:1〜7:1の範囲、好ましくは3:1〜6:1となる量のDNAを添加する。或いは、DNAを0.1〜100mg/mlの範囲、好ましくは1.0〜50mg/ml、より好ましくは8.0〜12mg/mlの濃度で含む水溶液を混合してもよい。合成オリゴヌクレオチドを施与する場合、得られた炭素同素体分散液に、40〜200mMの、好ましくは80mM〜170mMの合成オリゴヌクレオチド水溶液を混合してもよい。
【0023】
DNAの施与は、数10分〜数時間、20〜40℃の範囲であるが、好ましくは25〜30℃で、振盪処理することによって行うことができる。
【0024】
上記(2)のステップにおける酵素の添加量は0.1〜0.9gの範囲であるが、0.25〜0.9gが好ましい。
【0025】
上記ステップ(2)において、酵素の施与はステップ(1)で得られた分散液に酵素の水溶液を添加して、数10分〜数時間、4〜40℃の範囲であるが、好ましくは50〜80分間、25〜30℃で、振盪処理することによって行うことができる。その後、炭素同素体を蒸留水で洗浄して、未吸着の酵素を除去する。洗浄回数は、3〜10回の範囲であるが、3〜5回が好ましい。その後、蒸留水を添加して酵素濃度0.1〜0.3mg/mlの分散液を調製する。
【0026】
本発明のさらなる詳細を、以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例】
【0027】
[材料]
実施例において、使用したものは以下のとおりである。
CNT:
#1:L−SWNT(直径2nm未満、長さ5〜15μm、純度90%)
#2:S−SWNT(直径2nm未満、長さ1〜5μm、純度60%)
#3:L−MWNT(直径60〜100nm、長さ5〜15μm、純度95〜98%)
#4:S−MWNT(直径60〜100nm、長さ1〜2μm、純度95〜98%)
(いずれもShenzen Nanotechnology Port(NTP)社製)
#5:HiPco SWNT(直径約2nm、長さ約1μm)(UNIDYM, INC.)
フラーレン:
#6:フラーレン(C60)
#7:水素化フラーレン(C60Hn;n=約10)
#8:酸化フラーレン(C60O:約40%、C60O2:約30%)
#9:水酸化フラーレン(C60(OH)n;n=約10)
いずれもフロンティアカーボン株式会社製
DNA:サケ精子DNA(フナコシ社製)
合成オリゴヌクレオチド:オペロン社に合成委託、製造
酵素:
A:ズブチリシンカールスベルグ(Sigma Alrich社、米国)
B:トリプシン(Becton Dickinson社製)
C:カタラーゼ(ウシ肝臓由来:和光純薬工業株式会社)
D:α-アミラーゼ(Bacillus subtilis由来:和光純薬工業株式会社)
E:リパーゼ(ブタ膵臓由来:和光純薬工業株式会社)
F:エステラーゼ(Saccharomyces cerevisiae由来:Fluka(シグマ・アルドリッチ)社)
G:エラスターゼ(ブタ膵臓由来:和光純薬工業株式会社)
H:グルコースオキシターゼ(インビトロジェン社製)
振とう機:TAITEC BioShaker M・BR-022UP
【0028】
[酵素活性の算出方法]
酵素のNative activity(以下、基準酵素活性)は、何の処理も施していない酵素の単位質量(mg)あたりの酵素活性である。DNA/炭素同素体/酵素複合体、又は炭素同素体/酵素複合体の酵素活性は、後述する方法で、DNA/炭素同素体又は炭素同素体に施与された酵素量単位質量あたりの酵素活性を、上記基準酵素活性で除して、相対酵素活性を算出した。
【0029】
[実施例1〜13]
表1に示す組み合わせで、以下の方法により、酵素が施与された炭素同素体を調製した。
【0030】
[DNAが施与された炭素同素体の調製]
最初に、炭素同素体を1mg/mlの濃度で蒸留水に添加後、8時間超音波処理を行い、以後の炭素同素体分散液とした。次に、10mg/mlに調製したDNA水溶液を15μl、1mg/mlの炭素同素体分散液を50μl、蒸留水235μlを混合し、振とう処理を1200rpm、30℃で1時間行った。
【0031】
なお、実施例3及び4においては、15μlの1mg/ml HiPco社製のSWNT(直径約2nm、長さ約1nm)、75μlの200mMポリA、ポリG、ポリC、ポリTオリゴヌクレオチド、及び10μlの蒸留水を混合後、1200rpm、30℃で1時間振とう処理を行った。
【0032】
[DNA及び酵素が施与された炭素同素体の調製]
上記で調製したDNAが施与された炭素同素体の分散液に、20mg/mlの酵素溶液を45μl加え、1200rpm、30℃で1時間振とう処理を行った。処理後、該溶液を15000rpm、4℃で30分遠心処理し、遠心上清を取り除いた。沈殿物を滅菌蒸留水に再分散して、さらにマイクロピペットを用いたピペッティング操作で沈殿を懸濁後、上清を取り除いた。この操作を5回繰り返した。
【0033】
毎回の遠心後に回収した遠心上清中の酵素量を、ビシンコニン酸(BCA)アッセイにより測定し、上清中に含まれる遊離酵素量の総和を算出した。初めに炭素同素体/DNA混合溶液中に加えた酵素量から、全上清中の酵素量の合計(遊離酵素量の総和)を引いて、炭素同素体に施与された推定酵素量を算出した。濃度測定に用いたBCAアッセイは、PIERCE社のBCAProteinAssayKit、及びMicroBCAProteinAssayKitを用いて行った。
【0034】
実施例及び比較例における、炭素同素体、DNA、酵素の組み合わせを、表1に示す。
【表1】
【0035】
[比較例1−1及び1−2]
比較例1−1及び1−2では、CNTを用いず、10mg/mlに調製したDNA水溶液を15μlと、20mg/mlの酵素溶液を45μlとを混合し、1200rpm、30℃で1時間振とうして、混合液を調製した。
【0036】
[比較例2−1、2−2及び3]
比較例2−1、2−2及び3では、DNAの施与を行わずに、炭素同素体の分散液にプロテアーゼのみを実施例1と同様にして施与した。
【0037】
以上のようにして得られた試料について、下記評価を行った。
【0038】
[実施例1−1、1−2、比較例1−1、1−2、2−1及び2−2:プロテアーゼ活性の比較]
下表2に示す各試料のプロテアーゼ活性を、アンソン法(Anson ML (1938), J Gen Physiol 22, 79-89)で測定した。基質にハマステインカゼイン(メルク社製)を用い、ズブチリシンは50℃、トリプシンは37℃で、pH10.5で反応させた。結果を図1に示す。いずれのプロテアーゼも、実施例1では基準プロテアーゼ活性の6〜11倍の相対プロテアーゼ活性を示したが、DNAを用いていない比較例2では、基準プロテアーゼ活性の20%程度の相対プロテアーゼ活性を示した。以上の結果から、CNTとDNAの2つの要素が、プロテアーゼ活性を相乗的に高めると考えられた。
【表2】
【0039】
[実施例2−1〜2−4:単層CNT及び多層CNTの比較]
下表3に示す各試料のプロテアーゼ活性を、実施例1と同様に測定した。結果を図2に示す。試験したすべての形状のCNTで、基準プロテアーゼ活性の2〜6倍の相対プロテアーゼ活性が確認できた。
【表3】
【0040】
[実施例3−1〜3−4:合成オリゴヌクレオチド種の比較]
下表4に示す各試料のプロテアーゼ活性を、実施例1と同様に測定した。結果を図3に示す。ポリG及びポリdCでは12〜20倍の相対プロテアーゼ活性が観測された。
【表4】
【0041】
[実施例4:合成オリゴヌクレオチドの塩基長がプロテアーゼ活性に及ぼす影響]
プロテアーゼ活性は実施例1と同様に測定した。結果を図4に示す。ポリdGでは8〜25塩基長の間で全体的に相対プロテアーゼ活性が7〜25倍の範囲であり、10塩基長の場合、相対プロテアーゼ活性が最も高かった。ポリdCでは、10〜30塩基長の間で相対プロテアーゼ活性が9〜46倍の範囲であり、15塩基長の場合に相対プロテアーゼ活性が最も高くなった。
【0042】
[実施例5:DNAおよびプロテアーゼが施与されたHiPco SWNTの相対プロテアーゼ活性]
プロテアーゼ活性は実施例1と同様に測定した。結果を図5に示す。DNAおよびプロテアーゼが施与されたHiPco SWNTも、高い相対プロテアーゼ活性(約6倍)を示した。
【0043】
[実施例6及び比較例3:DNAおよびプロテアーゼが施与されたフラーレンの相対プロテアーゼ活性]
プロテアーゼ活性は実施例1と同様に測定した。結果を図5に示す。DNA及びプロテアーゼが施与されたフラーレンは、DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTと同様に、高い相対プロテアーゼ活性(約4.5倍)を示した。DNAを用いていない比較例3では、ほとんどプロテアーゼ活性を示さなかった。以上の結果から、フラーレンとDNAの2つの要素も、プロテアーゼ活性を相乗的に高めると考えられた。
【0044】
[実施例7−1〜7−4、比較例1−1及び比較例3:DNAおよびプロテアーゼが施与された修飾フラーレンの相対プロテアーゼ活性の比較]
下表5に示す各試料のプロテアーゼ活性を、実施例1と同様に測定した。結果を図6に示す。いずれのDNA及びプロテアーゼが施与された修飾フラーレンも、DNA及びプロテアーゼが施与されたフラーレンと同様の相対プロテアーゼ活性を示した。
【表5】
【0045】
[実施例8:DNAおよびカタラーゼが施与されたCNTの相対カタラーゼ活性]
カタラーゼ活性は、Catalase Assay Kit(Cayman Chemical Company社)を用い、添付の使用説明書に従って測定した。結果を図7に示す。DNA及びカタラーゼが施与されたCNTは、基準カタラーゼ活性の約2.5倍の相対カタラーゼ活性を示した。
【0046】
[実施例9:DNAおよびアミラーゼが施与されたCNTの相対アミラーゼ活性]
アミラーゼ活性は、0.2mg/mlのアミラーゼ溶液、又は酵素濃度 0.12mg/mlのDNA及びアミラーゼが施与された炭素同素体の分散液0.2mlを、反応緩衝液(50mM CH3COONa−CH3COOH (pH4.8))0.1ml、5mMの合成基質(4−Nitrophenyl−α−D−maltopentaoside(シグマ・アルドリッチ社))0.1ml、脱イオン水0.1mlを混合した溶液に加え、20℃で1時間処理した後、1Mの炭酸ナトリウム水溶液0.5mlを加え、400nmで吸光度を測定した。基準アミラーゼ活性は、上記のDNA及びアミラーゼが施与された炭素同素体の分散液に代えて、0.2mg/mlのアミラーゼ溶液を用いて測定した。
【0047】
結果を図8に示す。DNA及びアミラーゼが施与されたCNTは、基準アミラーゼ活性の約6倍の相対アミラーゼ活性を示した。
【0048】
[実施例10:DNAおよびリパーゼが施与されたCNTの相対リパーゼ活性]
リパーゼ活性は、酵素濃度 0.3mg/mlのDNA及びリパーゼが施与された炭素同素体の分散液0.2mlを、反応緩衝液(50mM Glycine−NaCl−NaOH(pH9.0))0.1ml、5mMの合成基質(4−Nitrophenyl stearate(シグマ・アルドリッチ社))0.1ml、脱イオン水0.1mlを混合した溶液に加え、37℃で1時間処理した後、1M炭酸ナトリウム水溶液0.5mlを加え、400nmで吸光度を測定した。基準リパーゼ活性は、上記のDNA及びリパーゼが施与された炭素同素体の分散液に代えて、0.3mg/mlのリパーゼ溶液を用いて測定した。
【0049】
結果を図9に示す。DNA及びリパーゼが施与されたCNTは、基準リパーゼ活性の約4.5倍の相対リパーゼ活性を示した。
【0050】
[実施例11:DNAおよびエステラーゼが施与されたCNTの相対エステラーゼ活性]
エステラーゼ活性は、酵素濃度0.25mg/mlのDNA及びエステラーゼが施与された炭素同素体の分散液0.2mlを反応緩衝液(50mM MOPS−MOPS・Na(pH7.0))0.1ml、5mMの合成基質(4−Nitrophenyl butylate(シグマ・アルドリッチ社製))0.1ml、脱イオン水0.1mlを混合した溶液に加え、30℃で1時間処理した後、1Mの炭酸ナトリウム水溶液0.5mlを加え、400nmで吸光度を測定した。基準エステラーゼ活性は、上記のDNA及びエステラーゼが施与された炭素同素体の分散液に代えて、0.65mg/mlのエステラーゼ溶液を用いて測定した。
【0051】
結果を図10に示す。DNA及びエステラーゼが施与されたCNTは、基準エステラーゼ活性の約10倍の相対エラスターゼ活性を示した。
【0052】
[実施例12:DNAおよびエラスターゼが施与されたCNTの相対エラスターゼ活性]
エラスターゼ活性は、エラスチン‐コンゴーレッドを基質として、消化によって可溶化される色調を485nmで測定する、和光純薬工業株式会社コードNo.058−05361の活性測定法に準じて行った(Hall, D.A. : Biochem.J.,101, 29(1966)、Sachar, L. A., Winter, K. K., Sicher, N. and Frankel, S. : Proc.Soc. Exp. Biol. Med.,90,323(1955)、Huebner, P. F.: Amal. Biochem., 74,419 (1976)、Shotton, D. M.: Meth. Enzymol.,19,113 (1970)等を参照)。
【0053】
結果を図11に示す。DNA及びエラスターゼが施与されたCNTは、基準エラスターゼ活性の15倍の相対エラスターゼ活性を示した。
【0054】
[実施例13:DNA及びグルコースオキシターゼが施与されたCNTの相対グルコースオキシターゼ活性]
グルコースオキシダーゼ活性測定は、invitrogen社製Amplex Red Glucose/Glucose Oxidase Assay Kitを用いて行った。検出波長は590nmで行った。結果を図12に示す。DNA及びグルコースオキシターゼが施与されたCNTは、基準グルコースオキシターゼ活性の3.2倍の相対グルコースオキシターゼ活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、酵素分野、バイオリアクター分野、バイオセンサー分野、分析分野、医薬分野、農薬分野などへの応用に好適である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA及び酵素が施与された炭素同素体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサー、診断機器、ドラッグデリバリー、微生物、動物細胞培養などのバイオテクノロジーの分野において、タンパク質、核酸などの機能性生体分子を、その特性を損なうことなく、効率的に担体などの固相に固定する技術は、当該分野において常に必要とされている。
【0003】
炭素同素体であるカーボンナノチューブ(CNT)又はフラーレン化合物は、新しい機能材料として、様々な分野で近年注目されている。これまでに、バイオセンサーへの応用を目的に、CNTに酵素を施与したCNT-酵素複合体に関する基礎研究の成果が報告されている(非特許文献1〜7)。さらに、ポリメラーゼ酵素や制限酵素、各種酵素(ペルオキシターゼ、プロテアーゼ等)をCNTに施与した場合の、それぞれの酵素活性への影響も検討されている。低濃度のCNTの添加は、PCR反応の反応効率を上昇させたとする報告(非特許文献8)がある一方で、CNTによって制限酵素やポリメラーゼの酵素反応が阻害されるとする報告もされている(非特許文献9)。また、CNT上に施与されたプロテアーゼは、遊離プロテアーゼの約53%の活性であったと報告されている(非特許文献10)。このため、一般的には、CNTは酵素活性の阻害作用があるものと考えられているが、酵素が施与されたCNTにおいて、酵素活性の阻害要因は何であるかは明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Sotiropoulou et al. Anal Bioanal. Chem. 375: 103-105 (2003)
【非特許文献2】J. Z. Xu et al. Electroanalysis 15: 219- 224 (2003)
【非特許文献3】V. G. Gavalas et al.Anal Biochem. 329: 247-252 (2004)
【非特許文献4】P. W. Barone et al. Nat Mater 4: 86-92 (2005)
【非特許文献5】K. A. Joshi et al. Electroanalysis 17: 54-58 (2005)
【非特許文献6】N. S. Lawrence et al. Electroanalysis 17: 65-72 (2005)
【非特許文献7】A. Merkoci et al. Trends Analyt Chem 24: 826-838 (2005)
【非特許文献8】D.Cui et al. Nanotechnology 15: 154-157(2004)
【非特許文献9】C.Yi et al. Nanotechnology 18: 025102 (2007)
【非特許文献10】P. Asuri et al. Langmuir, 23, 12318-12321 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、酵素活性を低下することなく、CNT等の炭素同素体上に、該酵素を施与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、最初に炭素同素体にDNAを施与し、該DNAが施与された炭素同素体に酵素を施与したところ、酵素活性の顕著な向上を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、DNA及び酵素が施与された炭素同素体及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、水溶液中に安定に分散し、かつ酵素単体と比べて顕著に高い酵素活性を示す。従って、バイオリアクター分野、バイオセンサー分野、分析分野、医薬分野、農薬分野などへの応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTの相対プロテアーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図2】DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTの相対プロテアーゼ活性における、CNTの長さ等の影響を示すグラフである。
【図3】各種合成オリゴDNA及びプロテアーゼが施与されたCNTの相対プロテアーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図4】合成ヌクレオチド及びプロテアーゼが施与されたCNTにおける、ヌクレオチドの長さが相対プロテアーゼ活性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】DNA及びプロテアーゼが施与されたフラーレンと、DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTのプロテアーゼ活性を示すグラフである。
【図6】DNA及びプロテアーゼが施与された各種フラーレンの相対プロテアーゼ活性を示すグラフである。
【図7】DNA及びカタラーゼが施与されたCNTの、相対カタラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図8】DNA及びアミラーゼが施与されたCNTの、相対アミラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図9】DNA及びリパーゼが施与されたCNTの、相対リパーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図10】DNA及びエステラーゼが施与されたCNTの、相対エステラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図11】DNA及びエラスターゼが施与されたCNTの、相対エラスターゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図12】DNA及びグルコースオキシターゼが施与されたCNTの、相対グルコースオキシターゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、炭素同素体には、CNT類及びフラーレン類が含まれる。該CNT類には単層カーボンナノチューブ(SWNT)、二層カーボンナノチューブ(DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWNT)などの各種CNTが含まれる。該フラーレン類には、フラーレン(C60)のみならず、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン等の修飾フラーレンも含まれる。
【0011】
本発明において、DNAは炭素同素体の分散性を向上すると共に、炭素同素体と酵素とを繋ぐ作用を奏していると考えられる。A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)を含む天然物由来のDNAだけでなく、合成オリゴDNAでも同様の効果が奏されることから、広く、塩基配列、立体構造に拠らず種々の天然由来DNAを使用することができる。該天然物由来のDNAの好ましいものとして、10〜700塩基長、より好ましくは100〜500塩基長、例えばサケ精子DNA(フナコシ社)が挙げられる。
【0012】
上記の合成オリゴDNAの例としては、ポリ(dA)n、ポリ(dG)n、及びポリ(dC)nが挙げられる。ここで、nは8〜30の間の整数である。好ましくは、ポリ(dG)n及びポリ(dC)nである。
【0013】
上記のポリ(dG)nのnの範囲は、好ましくは8〜25の整数であり、より好ましくはnは5〜15である。
【0014】
上記のポリ(dC)nのnの範囲は、好ましくは10〜30の整数であり、より好ましくはnは10〜20である。
【0015】
酵素は、特に限定されず種々のものを使用することができ、例えば、加水分解酵素、酸化還元酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼ、転移酵素などが挙げられる。
【0016】
前記加水分解酵素は、好ましくはタンパク質分解酵素、アミラーゼ、リパーゼ、又はエステラーゼである。
【0017】
前記タンパク質分解酵素はセリンプロテアーゼであることが好ましい。より好ましくは、ズブチリシン、トリプシン又はエラスターゼである。
【0018】
前記酸化還元酵素は、好ましくはカタラーゼ、グルコースオキシゲナーゼ、又はコレステロールオキシターゼである。
【0019】
斯かるDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、酵素単体よりも高い単位質量当たりの酵素活性を有する。酵素活性の測定方法は、複合体を形成する酵素の性質に依存するが、例えば、酵素がプロテアーゼである場合該活性は、アンソン法(Anson ML (1938), J Gen Physiol 22, 79-89)により測定することができる。
【0020】
本発明のDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、
(1)炭素同素体にDNAを施与するステップと、
(2)ステップ(1)で得られた該炭素同素体に、酵素を施与するステップ
とを含む、製造方法により得られる。
【0021】
上記ステップ(1)において、DNAの施与はDNA溶液中に炭素同素体を分散させることによって行うことができる。或いは、予め炭素同素体の分散液を調製しておき、DNA溶液と混合してもよい。該炭素同素体の分散液は、分散媒、例えば蒸留水、と炭素同素体を軽く混合した後、分散手段により、十分に分散させることが好ましく、例えば、6〜10時間程度超音波処理を行う。上記炭素同素体の分散液中の炭素同素体濃度は、0.1〜100mg/mlの範囲であり得るが、好ましくは0.5〜10mg/ml、より好ましくは0.8〜1.2mg/mlである。
【0022】
得られた炭素同素体分散液に、天然物由来のDNAと炭素同素体の重量混合比が、2:1〜7:1の範囲、好ましくは3:1〜6:1となる量のDNAを添加する。或いは、DNAを0.1〜100mg/mlの範囲、好ましくは1.0〜50mg/ml、より好ましくは8.0〜12mg/mlの濃度で含む水溶液を混合してもよい。合成オリゴヌクレオチドを施与する場合、得られた炭素同素体分散液に、40〜200mMの、好ましくは80mM〜170mMの合成オリゴヌクレオチド水溶液を混合してもよい。
【0023】
DNAの施与は、数10分〜数時間、20〜40℃の範囲であるが、好ましくは25〜30℃で、振盪処理することによって行うことができる。
【0024】
上記(2)のステップにおける酵素の添加量は0.1〜0.9gの範囲であるが、0.25〜0.9gが好ましい。
【0025】
上記ステップ(2)において、酵素の施与はステップ(1)で得られた分散液に酵素の水溶液を添加して、数10分〜数時間、4〜40℃の範囲であるが、好ましくは50〜80分間、25〜30℃で、振盪処理することによって行うことができる。その後、炭素同素体を蒸留水で洗浄して、未吸着の酵素を除去する。洗浄回数は、3〜10回の範囲であるが、3〜5回が好ましい。その後、蒸留水を添加して酵素濃度0.1〜0.3mg/mlの分散液を調製する。
【0026】
本発明のさらなる詳細を、以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例】
【0027】
[材料]
実施例において、使用したものは以下のとおりである。
CNT:
#1:L−SWNT(直径2nm未満、長さ5〜15μm、純度90%)
#2:S−SWNT(直径2nm未満、長さ1〜5μm、純度60%)
#3:L−MWNT(直径60〜100nm、長さ5〜15μm、純度95〜98%)
#4:S−MWNT(直径60〜100nm、長さ1〜2μm、純度95〜98%)
(いずれもShenzen Nanotechnology Port(NTP)社製)
#5:HiPco SWNT(直径約2nm、長さ約1μm)(UNIDYM, INC.)
フラーレン:
#6:フラーレン(C60)
#7:水素化フラーレン(C60Hn;n=約10)
#8:酸化フラーレン(C60O:約40%、C60O2:約30%)
#9:水酸化フラーレン(C60(OH)n;n=約10)
いずれもフロンティアカーボン株式会社製
DNA:サケ精子DNA(フナコシ社製)
合成オリゴヌクレオチド:オペロン社に合成委託、製造
酵素:
A:ズブチリシンカールスベルグ(Sigma Alrich社、米国)
B:トリプシン(Becton Dickinson社製)
C:カタラーゼ(ウシ肝臓由来:和光純薬工業株式会社)
D:α-アミラーゼ(Bacillus subtilis由来:和光純薬工業株式会社)
E:リパーゼ(ブタ膵臓由来:和光純薬工業株式会社)
F:エステラーゼ(Saccharomyces cerevisiae由来:Fluka(シグマ・アルドリッチ)社)
G:エラスターゼ(ブタ膵臓由来:和光純薬工業株式会社)
H:グルコースオキシターゼ(インビトロジェン社製)
振とう機:TAITEC BioShaker M・BR-022UP
【0028】
[酵素活性の算出方法]
酵素のNative activity(以下、基準酵素活性)は、何の処理も施していない酵素の単位質量(mg)あたりの酵素活性である。DNA/炭素同素体/酵素複合体、又は炭素同素体/酵素複合体の酵素活性は、後述する方法で、DNA/炭素同素体又は炭素同素体に施与された酵素量単位質量あたりの酵素活性を、上記基準酵素活性で除して、相対酵素活性を算出した。
【0029】
[実施例1〜13]
表1に示す組み合わせで、以下の方法により、酵素が施与された炭素同素体を調製した。
【0030】
[DNAが施与された炭素同素体の調製]
最初に、炭素同素体を1mg/mlの濃度で蒸留水に添加後、8時間超音波処理を行い、以後の炭素同素体分散液とした。次に、10mg/mlに調製したDNA水溶液を15μl、1mg/mlの炭素同素体分散液を50μl、蒸留水235μlを混合し、振とう処理を1200rpm、30℃で1時間行った。
【0031】
なお、実施例3及び4においては、15μlの1mg/ml HiPco社製のSWNT(直径約2nm、長さ約1nm)、75μlの200mMポリA、ポリG、ポリC、ポリTオリゴヌクレオチド、及び10μlの蒸留水を混合後、1200rpm、30℃で1時間振とう処理を行った。
【0032】
[DNA及び酵素が施与された炭素同素体の調製]
上記で調製したDNAが施与された炭素同素体の分散液に、20mg/mlの酵素溶液を45μl加え、1200rpm、30℃で1時間振とう処理を行った。処理後、該溶液を15000rpm、4℃で30分遠心処理し、遠心上清を取り除いた。沈殿物を滅菌蒸留水に再分散して、さらにマイクロピペットを用いたピペッティング操作で沈殿を懸濁後、上清を取り除いた。この操作を5回繰り返した。
【0033】
毎回の遠心後に回収した遠心上清中の酵素量を、ビシンコニン酸(BCA)アッセイにより測定し、上清中に含まれる遊離酵素量の総和を算出した。初めに炭素同素体/DNA混合溶液中に加えた酵素量から、全上清中の酵素量の合計(遊離酵素量の総和)を引いて、炭素同素体に施与された推定酵素量を算出した。濃度測定に用いたBCAアッセイは、PIERCE社のBCAProteinAssayKit、及びMicroBCAProteinAssayKitを用いて行った。
【0034】
実施例及び比較例における、炭素同素体、DNA、酵素の組み合わせを、表1に示す。
【表1】
【0035】
[比較例1−1及び1−2]
比較例1−1及び1−2では、CNTを用いず、10mg/mlに調製したDNA水溶液を15μlと、20mg/mlの酵素溶液を45μlとを混合し、1200rpm、30℃で1時間振とうして、混合液を調製した。
【0036】
[比較例2−1、2−2及び3]
比較例2−1、2−2及び3では、DNAの施与を行わずに、炭素同素体の分散液にプロテアーゼのみを実施例1と同様にして施与した。
【0037】
以上のようにして得られた試料について、下記評価を行った。
【0038】
[実施例1−1、1−2、比較例1−1、1−2、2−1及び2−2:プロテアーゼ活性の比較]
下表2に示す各試料のプロテアーゼ活性を、アンソン法(Anson ML (1938), J Gen Physiol 22, 79-89)で測定した。基質にハマステインカゼイン(メルク社製)を用い、ズブチリシンは50℃、トリプシンは37℃で、pH10.5で反応させた。結果を図1に示す。いずれのプロテアーゼも、実施例1では基準プロテアーゼ活性の6〜11倍の相対プロテアーゼ活性を示したが、DNAを用いていない比較例2では、基準プロテアーゼ活性の20%程度の相対プロテアーゼ活性を示した。以上の結果から、CNTとDNAの2つの要素が、プロテアーゼ活性を相乗的に高めると考えられた。
【表2】
【0039】
[実施例2−1〜2−4:単層CNT及び多層CNTの比較]
下表3に示す各試料のプロテアーゼ活性を、実施例1と同様に測定した。結果を図2に示す。試験したすべての形状のCNTで、基準プロテアーゼ活性の2〜6倍の相対プロテアーゼ活性が確認できた。
【表3】
【0040】
[実施例3−1〜3−4:合成オリゴヌクレオチド種の比較]
下表4に示す各試料のプロテアーゼ活性を、実施例1と同様に測定した。結果を図3に示す。ポリG及びポリdCでは12〜20倍の相対プロテアーゼ活性が観測された。
【表4】
【0041】
[実施例4:合成オリゴヌクレオチドの塩基長がプロテアーゼ活性に及ぼす影響]
プロテアーゼ活性は実施例1と同様に測定した。結果を図4に示す。ポリdGでは8〜25塩基長の間で全体的に相対プロテアーゼ活性が7〜25倍の範囲であり、10塩基長の場合、相対プロテアーゼ活性が最も高かった。ポリdCでは、10〜30塩基長の間で相対プロテアーゼ活性が9〜46倍の範囲であり、15塩基長の場合に相対プロテアーゼ活性が最も高くなった。
【0042】
[実施例5:DNAおよびプロテアーゼが施与されたHiPco SWNTの相対プロテアーゼ活性]
プロテアーゼ活性は実施例1と同様に測定した。結果を図5に示す。DNAおよびプロテアーゼが施与されたHiPco SWNTも、高い相対プロテアーゼ活性(約6倍)を示した。
【0043】
[実施例6及び比較例3:DNAおよびプロテアーゼが施与されたフラーレンの相対プロテアーゼ活性]
プロテアーゼ活性は実施例1と同様に測定した。結果を図5に示す。DNA及びプロテアーゼが施与されたフラーレンは、DNA及びプロテアーゼが施与されたCNTと同様に、高い相対プロテアーゼ活性(約4.5倍)を示した。DNAを用いていない比較例3では、ほとんどプロテアーゼ活性を示さなかった。以上の結果から、フラーレンとDNAの2つの要素も、プロテアーゼ活性を相乗的に高めると考えられた。
【0044】
[実施例7−1〜7−4、比較例1−1及び比較例3:DNAおよびプロテアーゼが施与された修飾フラーレンの相対プロテアーゼ活性の比較]
下表5に示す各試料のプロテアーゼ活性を、実施例1と同様に測定した。結果を図6に示す。いずれのDNA及びプロテアーゼが施与された修飾フラーレンも、DNA及びプロテアーゼが施与されたフラーレンと同様の相対プロテアーゼ活性を示した。
【表5】
【0045】
[実施例8:DNAおよびカタラーゼが施与されたCNTの相対カタラーゼ活性]
カタラーゼ活性は、Catalase Assay Kit(Cayman Chemical Company社)を用い、添付の使用説明書に従って測定した。結果を図7に示す。DNA及びカタラーゼが施与されたCNTは、基準カタラーゼ活性の約2.5倍の相対カタラーゼ活性を示した。
【0046】
[実施例9:DNAおよびアミラーゼが施与されたCNTの相対アミラーゼ活性]
アミラーゼ活性は、0.2mg/mlのアミラーゼ溶液、又は酵素濃度 0.12mg/mlのDNA及びアミラーゼが施与された炭素同素体の分散液0.2mlを、反応緩衝液(50mM CH3COONa−CH3COOH (pH4.8))0.1ml、5mMの合成基質(4−Nitrophenyl−α−D−maltopentaoside(シグマ・アルドリッチ社))0.1ml、脱イオン水0.1mlを混合した溶液に加え、20℃で1時間処理した後、1Mの炭酸ナトリウム水溶液0.5mlを加え、400nmで吸光度を測定した。基準アミラーゼ活性は、上記のDNA及びアミラーゼが施与された炭素同素体の分散液に代えて、0.2mg/mlのアミラーゼ溶液を用いて測定した。
【0047】
結果を図8に示す。DNA及びアミラーゼが施与されたCNTは、基準アミラーゼ活性の約6倍の相対アミラーゼ活性を示した。
【0048】
[実施例10:DNAおよびリパーゼが施与されたCNTの相対リパーゼ活性]
リパーゼ活性は、酵素濃度 0.3mg/mlのDNA及びリパーゼが施与された炭素同素体の分散液0.2mlを、反応緩衝液(50mM Glycine−NaCl−NaOH(pH9.0))0.1ml、5mMの合成基質(4−Nitrophenyl stearate(シグマ・アルドリッチ社))0.1ml、脱イオン水0.1mlを混合した溶液に加え、37℃で1時間処理した後、1M炭酸ナトリウム水溶液0.5mlを加え、400nmで吸光度を測定した。基準リパーゼ活性は、上記のDNA及びリパーゼが施与された炭素同素体の分散液に代えて、0.3mg/mlのリパーゼ溶液を用いて測定した。
【0049】
結果を図9に示す。DNA及びリパーゼが施与されたCNTは、基準リパーゼ活性の約4.5倍の相対リパーゼ活性を示した。
【0050】
[実施例11:DNAおよびエステラーゼが施与されたCNTの相対エステラーゼ活性]
エステラーゼ活性は、酵素濃度0.25mg/mlのDNA及びエステラーゼが施与された炭素同素体の分散液0.2mlを反応緩衝液(50mM MOPS−MOPS・Na(pH7.0))0.1ml、5mMの合成基質(4−Nitrophenyl butylate(シグマ・アルドリッチ社製))0.1ml、脱イオン水0.1mlを混合した溶液に加え、30℃で1時間処理した後、1Mの炭酸ナトリウム水溶液0.5mlを加え、400nmで吸光度を測定した。基準エステラーゼ活性は、上記のDNA及びエステラーゼが施与された炭素同素体の分散液に代えて、0.65mg/mlのエステラーゼ溶液を用いて測定した。
【0051】
結果を図10に示す。DNA及びエステラーゼが施与されたCNTは、基準エステラーゼ活性の約10倍の相対エラスターゼ活性を示した。
【0052】
[実施例12:DNAおよびエラスターゼが施与されたCNTの相対エラスターゼ活性]
エラスターゼ活性は、エラスチン‐コンゴーレッドを基質として、消化によって可溶化される色調を485nmで測定する、和光純薬工業株式会社コードNo.058−05361の活性測定法に準じて行った(Hall, D.A. : Biochem.J.,101, 29(1966)、Sachar, L. A., Winter, K. K., Sicher, N. and Frankel, S. : Proc.Soc. Exp. Biol. Med.,90,323(1955)、Huebner, P. F.: Amal. Biochem., 74,419 (1976)、Shotton, D. M.: Meth. Enzymol.,19,113 (1970)等を参照)。
【0053】
結果を図11に示す。DNA及びエラスターゼが施与されたCNTは、基準エラスターゼ活性の15倍の相対エラスターゼ活性を示した。
【0054】
[実施例13:DNA及びグルコースオキシターゼが施与されたCNTの相対グルコースオキシターゼ活性]
グルコースオキシダーゼ活性測定は、invitrogen社製Amplex Red Glucose/Glucose Oxidase Assay Kitを用いて行った。検出波長は590nmで行った。結果を図12に示す。DNA及びグルコースオキシターゼが施与されたCNTは、基準グルコースオキシターゼ活性の3.2倍の相対グルコースオキシターゼ活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のDNA及び酵素が施与された炭素同素体は、酵素分野、バイオリアクター分野、バイオセンサー分野、分析分野、医薬分野、農薬分野などへの応用に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA及び酵素が施与されたことを特徴とする、炭素同素体。
【請求項2】
前記炭素同素体がカーボンナノチューブ(CNT)類又はフラーレン類である、請求項1に記載の炭素同素体。
【請求項3】
前記CNT類が、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、二層カーボンナノチューブ(DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWNT)からなる群より選択される、請求項2に記載の炭素同素体。
【請求項4】
前記フラーレン類が、フラーレン、水素化フラーレン、酸化フラーレン、及び水酸化フラーレンからなる群より選択される、請求項2に記載の炭素同素体。
【請求項5】
前記DNAが天然物由来のDNA又は合成オリゴDNAである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素同素体。
【請求項6】
前記合成オリゴDNAが、ポリ(dA)n、ポリ(dG)n、及びポリ(dC)n(nは8〜30の間の整数)からなる群より選択される、請求項5に記載の炭素同素体。
【請求項7】
前記ポリ(dG)nのnが8〜25の整数である、請求項6に記載の炭素同素体。
【請求項8】
前記ポリ(dC)nのnが10〜30の整数である、請求項6に記載の炭素同素体。
【請求項9】
前記酵素が加水分解酵素、酸化還元酵素、除去付加酵素、異性化酵素、連結酵素、及び転移酵素からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素同素体。
【請求項10】
前記加水分解酵素が、タンパク質分解酵素、アミラーゼ、リパーゼ、又はエステラーゼである、請求項9に記載の炭素同素体。
【請求項11】
前記タンパク質分解酵素がセリンプロテアーゼである、請求項10に記載の炭素同素体。
【請求項12】
前記セリンプロテアーゼが、ズブチリシン、トリプシン又はエラスターゼである、請求項11に記載の炭素同素体。
【請求項13】
前記酸化還元酵素がカタラーゼ、グルコースオキシゲナーゼ、又はコレステロールオキシターゼである、請求項9に記載の炭素同素体。
【請求項14】
(1)炭素同素体にDNAを施与するステップと、
(2)ステップ(1)で得られた炭素同素体に、酵素を施与するステップ
とを含む、DNA及び酵素が施与された炭素同素体の製造方法。
【請求項15】
前記ステップ(1)の施与が、DNA溶液中に炭素同素体を分散させることによって行われる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
(1)DNA及び酵素が施与された炭素同素体を用意するステップと、
(2)ステップ(1)で用意した炭素同素体に、基質を接触させるステップと、
とを含む、酵素反応を行う方法。
【請求項1】
DNA及び酵素が施与されたことを特徴とする、炭素同素体。
【請求項2】
前記炭素同素体がカーボンナノチューブ(CNT)類又はフラーレン類である、請求項1に記載の炭素同素体。
【請求項3】
前記CNT類が、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、二層カーボンナノチューブ(DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWNT)からなる群より選択される、請求項2に記載の炭素同素体。
【請求項4】
前記フラーレン類が、フラーレン、水素化フラーレン、酸化フラーレン、及び水酸化フラーレンからなる群より選択される、請求項2に記載の炭素同素体。
【請求項5】
前記DNAが天然物由来のDNA又は合成オリゴDNAである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素同素体。
【請求項6】
前記合成オリゴDNAが、ポリ(dA)n、ポリ(dG)n、及びポリ(dC)n(nは8〜30の間の整数)からなる群より選択される、請求項5に記載の炭素同素体。
【請求項7】
前記ポリ(dG)nのnが8〜25の整数である、請求項6に記載の炭素同素体。
【請求項8】
前記ポリ(dC)nのnが10〜30の整数である、請求項6に記載の炭素同素体。
【請求項9】
前記酵素が加水分解酵素、酸化還元酵素、除去付加酵素、異性化酵素、連結酵素、及び転移酵素からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素同素体。
【請求項10】
前記加水分解酵素が、タンパク質分解酵素、アミラーゼ、リパーゼ、又はエステラーゼである、請求項9に記載の炭素同素体。
【請求項11】
前記タンパク質分解酵素がセリンプロテアーゼである、請求項10に記載の炭素同素体。
【請求項12】
前記セリンプロテアーゼが、ズブチリシン、トリプシン又はエラスターゼである、請求項11に記載の炭素同素体。
【請求項13】
前記酸化還元酵素がカタラーゼ、グルコースオキシゲナーゼ、又はコレステロールオキシターゼである、請求項9に記載の炭素同素体。
【請求項14】
(1)炭素同素体にDNAを施与するステップと、
(2)ステップ(1)で得られた炭素同素体に、酵素を施与するステップ
とを含む、DNA及び酵素が施与された炭素同素体の製造方法。
【請求項15】
前記ステップ(1)の施与が、DNA溶液中に炭素同素体を分散させることによって行われる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
(1)DNA及び酵素が施与された炭素同素体を用意するステップと、
(2)ステップ(1)で用意した炭素同素体に、基質を接触させるステップと、
とを含む、酵素反応を行う方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−44878(P2012−44878A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187257(P2010−187257)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】
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