説明

ECG調律助言方法

【課題】 どの種類の治療が患者に最も適しているか自動的に判断する方法を提供する。
【解決手段】 この方法は、患者からの1つ以上の時間ドメイン測定値を、この時間ドメイン測定値の周波数内容を表す周波数ドメイン・データに変換するステップと、周波数ドメイン・データを処理して複数のスペクトル帯域を形成し、スペクトル帯域の内容で、周波数帯域内における測定値の周波数内容を表すステップと、スペクトル帯域の内容の加重和を形成し、その際スペクトル帯域の少なくとも一部に異なる重み係数を適用するステップと、加重和に基づいて治療の種類を判断するステップとから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、どの種類の治療が患者に最も適しているか自動的に判断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、効果的に拍動するために、系統立てた電気インパルス・シーケンスを拠り所としている。この正常な連続動作からの逸脱は、いずれも「不整脈」として知られている。被害者から取得した心電図検査(ECG)信号を分析して、心室細動(VF)や機能障害になり得る心室頻脈(VT)が存在するときを判定する装置がある。これらの装置は、自動化した外部除細動装置(AED)、ECG調律分類装置、または心室不整脈検出器を備える。AEDは、患者をAED治療について評価するものであり、患者をAEDに取り付け、AEDを起動するプロセスを通じて、プロバイダに逐語的に「報告する」。この装置は、2つの別個の心臓波形VTおよびVRを認識することができる。
【0003】
VTは、心室異所性焦点から発する頻脈調律不整であり、通例毎分120回よりも多い心拍数、および広いQRS複合体を特徴とする。VTは、単形性(通例等しいQRS複合体を有する単一の焦点から発する規則的な調律)または多形性(不安定で、QRS複合体が変化する、不規則な調律の場合もある)となり得る。不安定なVTの調律の一例を図1に示す。脈拍数およびVTが維持されている時間長に応じて、VT状態にある心臓は脈拍を生成する場合も、しない場合もある(即ち、循環系を通じた血液の脈動)。心臓活動は、未だある組織の感覚を有する(「ループ」は全て基本的に同じサイズおよび形状であることに留意すること)。このVT調律に脈拍が伴わない場合、VTは不安定であり、命を脅かす状態であると見なされる。不安定なVTは、電気的衝撃または除細動によって処置することができる。
【0004】
上室性頻脈(SVT)は、心臓の下側の室(心室)の上で始まる急速な拍動である。SVTは、異常に速い心臓の調律であり、心臓の上側の室(心房)の1つ、房室結節と呼ばれる心臓の電導系の一成分、または双方において始まる。SVTが命を脅かすのは希ではあるが、高鳴る心臓の感覚、胸部における震えまたは衝撃あるいは余分な心拍(動悸)、あるいは眩暈を含む兆候は、不快である可能性がある。
【0005】
VFは通常差し迫った命の危険がある。VFは、無脈拍不整脈で、不規則で無秩序な電気的活動、および心室加圧を伴い、心臓は直ちにそのポンプとして機能する能力を失う。VFは、突然の心臓死(SCD)の主要な原因である。VFの調律の一例を図2に示す。この波形は、それに脈拍が伴っていない。この調律に対する編成がない(ループの不規則なサイズおよび形状に留意すること)。心臓のポンプ部分は、すごいごたごたのように震えており、この活動がいかなる血液でも移動させる可能性は非常に低い。この調律に対する補正処置は、電荷を用いて心臓を除細動することである。
【0006】
正常な心臓の鼓動波は、洞房結節(SAノード)において始まり、左心室の遠い下側の角に向かって進む。
【0007】
心臓に対する大きな電気的衝撃が、VFや不安定なVT調律を補正することができる。この大きな電気的衝撃は、心臓内の全ての心臓細胞を同時に減極させることができる。続いて、心臓細胞の全ては短い休止期間に入る。望みは、洞房結節(SAノード)がこの衝撃から他の細胞のいずれよりも前に回復し、その結果生ずる調律が、正常な洞調律でないにしても、脈を生成する調律であることである。
【0008】
AEDでは、2つの波形VTおよびVFを認識するアルゴリズムが設計され、除細動および心肺蘇生(CPR)を用いて、患者の救命事象中の特定の時点にECG分析を行う。最初のECG分析は、通常、除細動電極を患者に取り付けた後数秒後に開始する。続くECG分析は、最初の分析の結果に基づいて開始してもしなくてもよい。通例では、最初の分析で衝撃を与え得る調律を検出した場合、救命隊員に、除細動衝撃を送るように助言する。衝撃の施術に続いて、第2の分析が自動的に開始され、除細動処置は成功だったか否か(即ち、衝撃を与え得るECG調律が正常のまたは他の衝撃を与え得ない調律に変換された)判定を行う。この第2の分析で、衝撃を与え得る不整脈の連続的な存在を検出した場合、AEDはユーザに第2の除細動処置を施術するように助言する。次いで、第3のECG分析を開始して、2回目の衝撃は有効であったか否か判定を行うことができる。衝撃を与え得る調律が存続している場合、救命隊員に、第3の除細動処置を施術するように助言する。
【0009】
3回目の除細動衝撃に続いて、または前述の分析のいずれかにおいて衝撃を与え得ない調律を検出した場合、アメリカ心臓境界およびヨーロッパ蘇生評議会が推奨する処置プロトコルでは、患者の脈拍をチェックするか、または患者の循環の症候を評価しなければならない。脈拍または循環の症候がない場合、1分以上の期間犠牲者の上でCPRを行うように救命隊員を訓練する。CPRは、救命呼吸および胸部加圧を含む。このCPRの期間に続いて、AEDは3回までの追加のECG分析を順次再開し、前述のようにしかるべき除細動処置を間に入れる。3回の連続するECG分析/除細動衝撃、およびそれに続く1〜3分のCPRは、AEDの電力がオンであり、患者がAED装置に接続されている限り、繰り返し続ける。通例、AEDは、音声の催促を与えて、いつ分析が開始しようとしているか、分析結果はどうであったか、そしてCPRの送出をいつ開始および停止するか救命隊員に知らせる。
【0010】
多くのAEDに伴う欠点の1つに、現行の自動ECG調律分析方法が、CPR胸部加圧による余分なノイズによって機能できなくなることがある。このため、従来の慣例では、ECG調律分析を行っている間は、胸部加圧を中断している。胸部加圧を長時間中断すると、蘇生に失敗する率が高くなるという結果が示されている。前胸部加圧の不連続は、自発循環の回復率および24時間生存率を著しく低下させる可能性があることが、多くの研究によって報告されている。これらの研究には、サトその他による「心肺蘇生中に前胸部加圧を中断することの悪影響」(Critical Care Medicine Volume 25(5)、1997年5月、pp733〜736)、ユーその他による「自動除細動中の前胸部圧縮中断による悪い結果」(Circulation, 2002) 、およびエフテストルその他による「病院外で心拍停止した患者におけるスペクトル特徴化および心室除細動の非パラメータ分類による除細動の成果予測」(Circulation, 2002) が含まれる。このように、胸部加圧中に異常な心臓調律を認識するのは有用である。
【0011】
ある状況下では除細動の前に胸部加圧を行うことは有効であり得ることが、最近の臨床的証拠によって示された。即ち、医療緊急システムの応答時間に4分よりも長い遅れが生じ、患者が4分よりも長い間心拍停止状態となるような場合、除細動の前に患者を胸部加圧で処置することが臨床的に有効である。医療緊急システムの応答時間により、4分の遅れよりも早く患者を処置できるようになる場合、患者を最初に除細動で処置した方が良い可能性がある。ECG波形から、患者が4分よりも長く心拍停止状態にあるか否か、そして衝撃を与える最も最適な時点はいつかについての時間独立尺度の双方を判定する方法が開発されている。ブラウンおよびヅウオネジック(Dzwonezyk)による「成果を予測するECGパラメータを用いた心拍停止状態にある被験者の非侵襲的監視よび処置」(米国特許第5,683,424号)は、患者が4分よりも長く心拍停止状態にあったか否か、ECG波形から判定する方法について記載している。「心拍停止の間に除細動衝撃の即時成功を予測する方法およびシステム」(ウェイルその他による米国特許第6,17
1,257号)、およびメネガッツイその他(Menegazzi et al.)による「心室細動スケーリング指数は、除細動およびその他の治療のタイミングを誘導することができる」は、衝撃を与える最も最適な時点はいつかに関する、時間に独立した尺度について記載している。これらのアルゴリズムは、ECGのスペクトル分析を用いて、何らかのやり方で除細動衝撃の成功を予測する。スペクトル分析を用いた胸部加圧人為的拒絶、除細動成功予測、および治療判断の方法は、現在では、検出すべきECG周波数スペクトルにおいて1組のパラメータを指定するのが通例である。例えば、米国特許第5,683,424号は、ECGの計算した周波数スペクトルからの中心または中央周波数またはピーク電力周波数を閾値と比較して、除細動衝撃が必要か否か判断を行う。これらのパラメータは、一意に周波数や時間ドメイン特性を指定するものではない。例えば、心室細動の殆ど全ての患者に対するECGスペクトルの中央周波数は、初期状態では低下し、数分後再度上昇するので、患者がどれくらいの間心拍停止状態にあったのか予測するために、中央周波数を用いるのは難しい。つまり、患者は、心拍停止の期間が非常に異なるにも拘わらず同じ中央周波数を有する可能性がある。ECGの周波数スペクトルの振幅を用いることは限定される可能性がある。何故なら、振幅は、心臓電気出力、および患者上のECGリード電極の位置の双方に依存するからである。
【0012】
従来の自動化ECG調律分析方法の一部は、ECG信号のスペクトル分析を用い、正常な心臓の調律および異常な調律のECG間にある電力スペクトルの相違は、異常な調律の間では、ECGは集中するかあるいは4および7Hzの間の狭い周波数帯域において主に正弦波状であるのに対して、正常な調律では、ECGは広帯域信号であり、主要な高調波は少なくとも25Hzまであるという想定によって、VFおよびその他の不整脈心臓調律を検出する。例えば、クレイトンおよびその他による「表面からの心室細動の認識技術の比較」(ECG. Medical & Biological Engineering & Computing 1993; 31;111-117)およびバーローその他による「命を脅かす心室不整脈および模倣偽信号に対する周波数ドメインにおけるアルゴリズム的連続意志決定:診断システム」(Journal of Biomedical Engineering, 1989, Volume 11)は、ECGの周波数ドメインを分析して、ECGが主に狭い周波数帯域において正弦波状か否かチェックする。これら従来の方法に伴う問題の1つは、CPRが方法の背後にある想定を変化させるので、VFおよびその他の危険な調律は、通例では胸部加圧の間には検出できないことである。
【0013】
ECG信号からCPR胸部加圧による偽信号を除去するために、適応フィルタが多くの研究に用いられている。これらの研究は、アアセら(Aase et al.)による「最適マルチチャネル・フィルタリングを用いた人のECGからのCPR偽信号の除去」(IEEE Transactions on Biomedical Engineering, Vol. 47, No. 11, November 2000) 、フソイその他(Husoy et al.)による「効率的なマッチング追跡状アルゴリズムを用いた人のECGからの心肺蘇生偽信号の除去」(IEEE Transactions on BiomedicalEngineering, Vol. 49, No. 11, November 2002) 、およびハルペリンら(Halper
in et al.)による特許文献1を含む。適応フィルタは、加圧深度および胸郭インピーダンスを基準信号として用いて、ECG信号における偽信号を推定する。適応フィルタのパラメータを更新するには、信号の相互相関行列あるいは自己または相互スペクトルの逆を計算する。偽信号は、これらの適応フィルタを適用すれば、低減することができることもある。しかしながら、推定したECG信号には、偽信号の大部分が残っていることが常である。更に、適応フィルタ・アルゴリズムは時として計算の複雑性が高い場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,390,996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これらの適応フィルタリング方法は、加圧深度を基準信号として用いて、ECG信号から胸部加圧偽信号を除去する。これは、胸部加圧偽信号は、基準信号(加圧深度)と相関があり、所望のECG信号とは独立しているという想定に基づいている。これは、無限に長いECG信号では成り立つが、長さが限られたECG信号を適用する場合、推定した係数がずれている可能性がある。また、基準信号(加圧深度等)が与えるのは、ECG信号に現れるCPR偽信号に関する情報の一部に過ぎない可能性もある。即ち、適応フィルタのノイズ低減能力は、そのノイズの知識によって制限される。フィッツジボンらは、「心肺蘇生中における心電図内のノイズ源の判定」(Critical Care Medicine 2002 Vol. 30, No. 4)において、胸部インピーダンスの通気または胸部加圧による変動は、胸部加圧中のECG記録における偽信号とは殆ど相関がないと報告した。更に、フィッツジボンその他(2002年)は、胸部加圧中における信号内のノイズ源は、電極の動きであり、電極の電気的特性と関連があり、このためノイズと加圧深度との間の関係が更に複雑になることを示唆した。このように、従来の細動検出のための助言的アルゴリズムでは、満足いく結果が得られる程十分に偽信号を減衰させることはできない。
【0016】
医療検査を評価する1つの方法は、感度としても知られている、病気を正しく検出する検査の能力、および特定性としても知られている、検査の正常なものを病気として分類することを避ける能力を判定することである。医療検査は、100%の感度および100%の特定性を有するのが理想的である。医療検査が不完全な場合、感度および特定性は、受信動作特性(ROC:receiver-operator characteristics )曲線と呼ばれるグラフ上にプロットされる。医療検査における変数は、ROC曲線上に得られる医療検査の点が、100%感度および100%特定性の点に最も近づくように選択することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一般的に、本発明は、患者に対してどの種類の処置が最も適切かを自動的に判断する方法を特徴とし、この方法は、患者からの1つ以上の時間ドメイン測定値を、時間ドメイン測定値の周波数内容を表す周波数ドメイン・データに変換するステップと、周波数ドメイン・データを処理して、複数のスペクトル帯域を形成するステップであって、スペクトル帯域の内容が、周波数帯域内における測定値の周波数内容を表す、ステップと、スペクトル帯域の内容の加重和を形成するステップであって、異なる重み係数をスペクトル帯域の少なくとも一部に適用する、ステップと、加重和に基づいて、処置の種類を判断するステップとから成る。
【0018】
第2の態様において、本発明は、患者の生理的状態を自動的に判定する方法を特徴とし、この方法は、患者からの1つ以上の時間ドメイン測定値を、時間ドメイン測定値の周波数内容を表す周波数ドメイン・データに変換するステップと、周波数ドメイン・データを処理して、複数のスペクトル帯域を形成するステップであって、スペクトル帯域の内容が、周波数帯域内における測定値の周波数内容を表す、ステップと、スペクトル帯域の内容の加重和を形成するステップであって、異なる重み係数をスペクトル帯域の少なくとも一部に適用する、ステップと、加重和に基づいて、生理的状態を判定するステップとから成る。
【0019】
好適な実施態様では、以下の特徴の1つ以上を組み込むこともできる。重み係数は、実際の時間ドメイン測定値、および患者の母集団に対する実際の治療の成果を比較する回帰分析を用いて選択するとよい。重み係数は、加重和と治療の成果との間の相関を高めるように選択するとよい。重み係数は、少なくとも2つの異なる治療段階では異なるとよい。治療は心臓蘇生とすることができ、測定値はECG信号から成ることができ、このような実施態様では、治療段階は、少なくとも患者の脇への到着、衝撃前、および衝撃後を含む
ことができる。治療段階は、少なくとも部分的に、治療の段階を示す、救命隊員が入力したデータに基づくとよい。治療段階は、少なくとも部分的に、少なくともどの薬剤を患者に処置したかを示す、救命隊員が入力したデータに基づくとよい。救命隊員が入力するデータは、更に、患者に挿管したか否か、および自動外部胸部加圧を用いたか否かを示すことができる。判断するステップは、加重和を閾値と比較することを含むことができる。閾値は、少なくとも2つの治療段階毎に異なるようにするとよい。治療は、心臓蘇生とすることができ、測定値はECG信号から成ることができ、加重和が閾値を超過した場合、適切と判断される治療の種類は、除細動衝撃の処置とすることができる。治療段階が患者の脇への到着であるときに用いられる閾値は、それより後の治療段階に用いられる閾値よりも低くするとよい。
【0020】
第3の態様において、本発明は、心拍停止の犠牲者に対して最も適切な処置の種類を自動的に判断する方法を特徴とし、この方法は、1つ以上の時間ドメイン心電図(ECG)信号を、複数の離散周波数帯域から成る周波数ドメイン表現に変換するステップと、離散周波数帯域を組み合わせて複数の分析帯域とし、分析帯域の方が離散周波数帯域よりも少ない、ステップと、分析帯域の内容を判定するステップと、分析帯域の内容に基づいて、処置の種類を判断するステップとから成る。
【0021】
好適な実施態様では、以下の特徴の1つ以上を組み込むことができる。変換するステップは、フーリエ変換によって行うとよい。変換するステップは、ウェーブレット変換によって行ってもよい。変換するステップは、ラドン変換によって行ってもよい。分析帯域の内容を判定するステップは、複数の値を判定することから成るようにするとよい。内容および複数の値は、2カ所よりも多い時点において計算するとよく、一連の複数の時間値が軌跡を規定することができる。軌跡をは、推定および予測方法を用いて分析するとよい。分析方法は、再帰フィルタの使用を伴うとよい。再帰フィルタは、カルマン・フィルタとするとよい。分析方法は、粒子フィルタの使用を伴ってもよい。軌跡の分析は、除細動の成功を予測するために用いることができる。軌跡の分析は、除細動すること、または胸部加圧、エピネフリンのような薬剤、グルコースのような恒常的栄養素、またはペーシングのようなその他の電気的治療のような代替治療を処置することのどちらが適切か判断するために用いることができる。数学的変換を軌跡に対して行うとよい。変換は、軌跡のパラメータ空間内の平面への投影であるとすることができる。軌跡の二次元投影の特徴を評価するために、求積アルゴリズムを用いるとよい。前述の内容は、分析帯域からの1つの分析帯域の内容を記述する少なくとも2つのパラメータを含むことができる。分析帯域の内容を判定するステップは、分析帯域内におけるエネルギを定量化するステップを含むことができる。分析帯域内におけるエネルギを定量化するステップは、帯域内における最も高いピークのエネルギを特徴化する少なくとも1つの数値を判定することを含むことができる。分析帯域内におけるエネルギを定量化するステップは、帯域に対する全体的または平均エネルギを判定することを含むことができる。本発明は、更に、分析帯域の内容の経時的な変動を分析するステップを含む。帯域は、幅が約0.5Hzとするとよい。帯域は幅が等しくなく、分析の重要度が高い周波数帯域には追加の分解能を与えるようにするとよい。3Hz未満の周波数を、6から12Hzの周波数範囲における幅よりも大きな幅を有する帯域に細分割するとよい。各帯域は、多数のスペクトル測定値の集合から成るようにするとよい。帯域内のスペクトル測定値の分布の特性は、平均スペクトル・エネルギ、スペクトル・エネルギ分散、中央スペクトル・エネルギ、最大スペクトル・エネルギ、または最少スペクトル・エネルギから成る記述子の内少なくとも1つを含むことができる。
【0022】
第4の態様において、本発明は、心拍停止の犠牲者に対して最も適切な処置の種類を自動的に判断する方法を特徴とし、この方法は、1つ以上の時間ドメインECG信号を、複数のピークを全体的に含む周波数ドメインに変換するステップと、周波数ドメイン表現を処理して、少なくとも複数のピークを特徴化するステップであって、ピークの特徴化によ
って、ピークを特徴付ける複数のパラメータを判定するステップと、ピークの少なくとも一部を特徴付けるパラメータに基づいて、処置の種類を判断するステップとから成る。
【0023】
好適な実施態様では、以下の特徴の1つ以上を組み込むことができる。本発明は、更に、複数のピークの内少なくとも一部を特徴付ける複数のパラメータの少なくとも一部の経時的変動を分析するステップを含む。内容および複数の値は2カ所よりも多い地点において計算するとよく、一連の複数の時間値が軌跡を規定することができる。推定および予測方法を用いて軌跡を分析するとよい。分析方法は、再帰フィルタの使用を伴うとよい。再帰フィルタは、カルマン・フィルタとするとよい。分析方法は、粒子フィルタの使用を伴ってもよい。軌跡の分析を、除細動の成功を予測するために用いることができる。軌跡の分析は、除細動すること、または胸部加圧、エピネフリンのような薬剤、グルコースのような恒常的栄養素、またはペーシングのようなその他の電気的治療のような代替治療を処置することのどちらが適切か判断するために用いることができる。数学的変換を軌跡に対して行うとよい。変換は、軌跡のパラメータ空間内の平面への投影とすることができる。軌跡の二次元投影の特徴を評価するために、求積アルゴリズムを用いることができる。経時的に変動を分析するステップは、ピークの周波数の変動を判定することを含むことができる。ピークを特徴付ける複数のパラメータを判定するステップは、ピークの形状を推定するステップを含むことができる。ピークの形状を推定するステップは、非線形曲線はめ込みルーチンを用いることを含むとよい。複数のピークは、最大振幅周波数ピークと、この最大振幅周波数ピークの振幅の端数を有するピークとを含むことができる。パラメータは、ピークの周波数、ピークの振幅、およびピークの幅を含むことができる。パラメータは、ピークの深さを含むこともできる。パラメータは、ピークの分散を含むこともできる。パラメータは、ピークの第1モーメントを含むこともできる。本発明は、更に、周波数ドメインから基準周波数を決定するステップと、基準周波数を用いて、周波数ドメインのエネルギの分散を判定するステップとを含む。また、本発明は、更に、周波数表現のエネルギの分散が閾値未満である場合、犠牲者が洞性不整脈状態にあると判断するステップを含むこともできる。基準周波数は、平均周波数、中央周波数、中心周波数、およびピーク周波数の内の1つである。処置の種類を判断するステップは、犠牲者が洞性不整脈状態にあると判断され、最大振幅周波数ピークの周波数が第1閾値未満であり、ピークの数が第2閾値未満であるという条件を満たす場合、処置の種類は、犠牲者の心臓の除細動を行うことであると判断することを含むことができる。処置の種類を判断するステップは、犠牲者が洞性不整脈状態にあると判断され、最大振幅周波数ピークの周波数が第1閾値よりも高く、ピークの数が第2閾値未満であるという条件を満たす場合、処置の種類は犠牲者への胸部加圧であると判断することを含むことができる。処置の種類を判断するステップは、犠牲者が洞性不整脈状態にあると判断され、ピークの数が閾値よりも大きいという条件を満たす場合、処置の種類は、犠牲者を監視することまたは薬物治療であると判断することを含むことができる。パラメータを決定するステップは、多数のディジタル時間サンプルにわたって周波数スペクトルの範囲においてピークの1つ以上のパラメータの変化を測定することを含むとよい。1つの時間サンプルから後続の時間サンプルまでに各ピークの振幅および周波数が閾値よりも大きく変化しない場合、各ピークは、多数のディジタル時間サンプルにわたって同一性を保持していると見なすことができる。処置の種類を判断するステップは、変化の発振循環速度を循環速度帯域と比較し、循環速度が帯域内である場合、処置の種類は犠牲者の心臓に除細動をかけることであると判断することを含むことができる。処置の種類を判断するステップは、更に、発振が最大またはその付近であるとき、犠牲者の心臓への除細動衝撃は適当であると判断することを含むことができる。2つ以上のピークに対して、変化は相対的な減少とすることができ、処置の種類を判断するステップは、相対的減少を閾値と比較することを含むことができ、相対的減少が閾値よりも大きいときに、処置の種類は胸部加圧、次いで除細動であるとすることができる。1つ以上のパラメータは、ピークの振幅を含むことができ、閾値は約15パーセントとするとよく、多数のディジタル時間サンプルは、少なくとも10秒の間隔をカバーすることができる
。2つ以上のピークに対して、変化は相対的増加とすることができ、パラメータは、ピークの周波数、ピークの振幅、またはピークの幅を含むことができ、処置の種類を判断するステップは、相対的増加を閾値と比較することを含むことができ、相対的増加が閾値よりも多い場合、処置の種類は除細動とすることができる。2つ以上のピークに対して、変化は減少とすることができ、パラメータは、ピークの周波数の分散を含むことができ、処置の種類を判断するステップは、減少を閾値と比較することを含むことができ、減少が閾値よりも少ない場合、処置の種類は除細動であるとすることができる。周波数スペクトルの範囲は、6から12ヘルツとするとよい。本発明は、更に、処置の種類を、薬剤注入装置、形態胸部加圧装置、および通気装置の1つに伝達するステップを含むことができる。また、本発明は、更に、処置の種類の指示を表示するステップを含むことができる。処置の種類の指示を表示するステップは、種類の精度の推定値を表示することを含むとよい。
【0024】
第5の態様において、本発明は、心拍停止の犠牲者に対して最も適切な処置の種類を自動的に判断する方法を特徴とし、この方法は、1つ以上の時間ドメインECG信号を、周波数ドメイン表現に変換するステップと、周波数ドメイン表現を処理して、約6から約12Hzまでの帯域における周波数ドメイン表現の内容を特徴付けるステップと、帯域における内容に基づいて、処置の種類を判断するステップとから成る。
【0025】
好適な実施態様では、以下の特徴の1つ以上を組み込むことができる。本発明は、更に、心室細動(VF)または心室頻脈(VT)助言的アルゴリズムに基づいて、犠牲者がVTまたはVTのどちらの状態にあるか判断するステップを含むことができ、処置の種類を判断するステップは、いつ衝撃を送るか判断するステップを含むことができる。帯域における内容は、帯域におけるほぼ全エネルギを表す定量的尺度から成るとすることができる。
【0026】
第6の態様において、本発明は、心拍停止の犠牲者に対して最も適切な処置の種類を自動的に判断する方法を特徴とし、この方法は、少なくとも1つの生理的信号を測定するステップと、少なくとも1つの生理的信号に関する少なくとも2つのパラメータを決定し、少なくとも2つのパラメータでパラメータ集合を形成するステップと、測定および計算を2カ所よりも多い時点において繰り返して一連のパラメータ集合を作成し、この一連のパラメータ集合で軌跡を規定するステップと、再帰フィルタの使用を含む推定および予測方法を用いて、軌跡を分析するステップとから成る。
【0027】
好適な実施態様では、以下の特徴の1つ以上を組み込むことができる。再帰フィルタは、カルマン・フィルタとするとよい。分析方法は、粒子フィルタの使用を伴ってもよい。軌跡の分析を用いて除細動の成功を予測することができる。除細動すること、あるいは胸部加圧、エピネフリンのような薬剤、グルコースのような恒常的栄養素、またはペーシングのようなその他の電気的治療のような代替治療を処置することのどちらが適切か判断するために、軌跡の分析を用いることもできる。軌跡に対して数学的変換を行うとよい。変換は、軌跡のパラメータ空間内にある平面上への投影とするとよい。軌跡の二次元投影の特徴を評価するために、画像求積アルゴリズムを用いることができる。パラメータ集合の予測される次の状態を、適切な処置を判断するために用いることができる。本発明は、方法は、救急隊員が犠牲者に行う適切な治療を判断するように構成されている装置によって実行することができる。複数の代替処置に関連する除細動成功の確率を、装置のディスプレイ上に示すことができる。複数の処置による成功の確率を、数値の範囲としてディスプレイに示すこともできる。前述の装置は、医療活動従事者がECG波形の更に正確な分析のために、加圧を行うのを停止すべきことを指示する可聴または視覚警報の形態で、救命隊員に通知するAEDとするとよい。前述の装置は、医療活動従事者が処置中の治療を変更すべきことを示す可聴または視覚警報の形態で、救命隊員に通知するAEDであってもよい。
【0028】
第7の態様において、本発明は、心拍停止の犠牲者に対して最も適切な処置の種類を自動的に判断することができるAEDを特徴とし、このAEDは、電気的治療を患者に施術するように構成されている電気治療パッドと、電気治療パッドよりも直径が小さく、電気治療パッド内に一体化されているECG電極とを備えており、小さい方のECG電極は、治療電極からのECG信号が生成する監視ベクトルに対してほぼ直交する少なくとも1つの追加の電気ベクトルを与えるように構成されている。
【0029】
好適な実施態様では、以下の特徴の1つ以上を組み込むことができる。少なくとも1つの追加の電気ベクトルと監視ベクトルとのベクトル和は、AEDがどの種類の処置が適切であるか判断する際に用いることができる経時的な軌跡を与えることができる。
【0030】
これらおよびその他の実施態様は、以下の利点の1つ以上を有することができる。前述の方法は、胸部加圧の間におけるECG処理/助言のために周波数ドメイン分析方法を用いる。この方法によって、胸部加圧を中断することなくECG分析を行うことができ、したがって胸部圧縮中の中断時間を大幅に短縮し、蘇生の成功率を高めることになる。
【0031】
実施態様の中には、数学的に追跡可能な形態で、異なる心臓状態毎にECG波形スペクトルの一層完全な特定を可能にするものもあり、プロセッサへの処理負担を低減しつつ、検出アルゴリズムのレシーバ−オペレータ特性(ROC)を改善することができる。
【0032】
本発明のその他の特徴および利点は、説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】心室頻脈(VT)調律の大きさ対時間のグラフ。
【図2】心室細動(VF)調律の大きさ対時間のグラフ。
【図3】自動電子除細動器(AED)および多リード心電図(ECG)装置を含む一実施態様の図。
【図4】図3に示したAEDを示すブロック図。
【図5】エネルギが小周波数範囲内に集中する場合の周波数スペクトル・グラフの一例。
【図6】比較的大きな周波数範囲にエネルギが分散する場合の周波数スペクトル・グラフの一例。
【図7】時間の関数としてのECGスペクトルの一例。スペクトルの大きさ(即ち、エネルギ)をグレースケールによって符号化する。色が濃い程、大きな大きさに対応する。
【図8】時間の関数としての図7における信号のEFVスコア。
【図9】胸部加圧中においてVFを検出するプロセスのフロー・チャート。
【図10】この場合4秒分離した2時点におけるECGスペクトルのグラフ。
【図11】この場合4秒分離した2時点におけるECGスペクトルのグラフ。
【図12】測定予測変数(x軸)を治療成功の近似確率(y軸)に関連付けるロジスティック曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明には異なる可能な実施態様が多数あり、余りに多過ぎてここには恐らく記述しきれない。現在好適な可能な実施態様のいくつかについて以下に説明する。しかしながら、これらは発明の実施態様の説明であって、発明の説明ではないことは、いくら強く強調してもしすぎることはないであろう。本発明は、この章に記載する詳細な実施態様に限定されるのではなく、特許請求の範囲においてより広い用語で記述されている。
【0035】
図1を参照すると、救命隊員がAED10を用いて、心臓蘇生中の犠牲者を自動的に監視している。AED10は、スピーカ16、表示画面18、アナログ/ディジタル変換器20、プロセッサ22、および除細動パルス発生器24を含む。アナログ/ディジタル変換器20は、犠牲者に取り付けられている1組のECGリードに接続されている。ECGリードは、犠牲者の心臓の電気的調律を監視する。変換器20は、ECGリードからの信号をプロセッサ22に送る。プロセッサ22は、胸部加圧技法を用いて犠牲者を蘇生している間、ECG信号を用いて犠牲者の心臓を監視して危険な調律を発見する。AED10が危険な心臓調律を検出すると、AED10は警報信号を発生する。警報信号は、救命隊員に注意を喚起させうる。AED10は、救命隊員がAED10にコマンドを発したときに、犠牲者に除細動衝撃を発生することができる。除細動衝撃は、犠牲者の心臓の危険な調律を修復することを意図している。
【0036】
AED10は、調律助言方法を、a)ECG信号の周波数ドメインの特徴を定量化し、b)正常なECG調律およびVFのような異常なECG調律を差別化し、c)異常なECG調律の開始を検出し、d)心臓の生理的状態について判断を行うために用いる。この周波数ドメイン測定は、ECG信号に胸部加圧偽信号があっても、またなくても、信頼性がある。AED10は、心臓の現在の生理的状態を特定した後、救命隊員が行う適切な治療処置について判断を下し、スピーカ16および表示画面18を用いて、救命隊員にその処置を伝達する。
【0037】
この調律助言的方法は、ECG調律分類器や、心室不整脈検出器に組み込むこともできる。
【0038】
AED10は、胸部加圧、通気、あるいは代謝または恒常的栄養素を含有した静脈溶液の送出のような、追加の治療処置を行う機能性を組み込むことができる。調律助言方法の分析結果に基づいて、AED10は、自動的に適切な治療を患者に施すことができる。また、AED10は、「助言」モードに構成することもでき、その場合、AED10は、AED10が最良の治療を判断した後に、介護人を促し、治療が患者に施される前に、介護人/装置操作者による承認が、ボタンの押圧または音声検出承認という形態で必要となる。
【0039】
次いで、AED10は、ECG信号を分析して、除細動の成功を予測し、更に除細動を行うか、または胸部加圧、エピネフリンのような薬剤、グルコースのような恒常的栄養素、またはペーシングのようなその他の電気的治療のような代替治療を施すことが相応しいか否か判断を行う。
【0040】
いくつかの例では、1台以上の治療施術装置30がしかるべき治療を患者に自動的に施す。治療施術装置30は、物理的に除細動AED10から分離しており、治療施術装置30の制御は、通信リンク32によって行うことができる。通信リンク32は、装置10、30を接続するケーブルの形態を取ることができるが、好ましくは、リンク32は、Bluetoothのようなワイヤレス・プロトコル、または電気電子技術者学会(IEEE)802.11のようなワイヤレス・ネットワーク・プロトコルを経由する。Bluetoothは、遠隔通信業界仕様であり、短距離ワイヤレス接続を用いて移動計算装置をどのように相互接続することができるかについて記述している。治療施術装置30は、携帯用胸部加圧装置であり、カリフォルニア州、サニーヴェイルのリヴィヴァント社(Revivant)が供給するAutopulseTMとして市販されている。他の例では、治療施術装置30は、ペンシルベニア州、プリマス・ミーティングのインフュージョン・ダイナミクス社(Infusion Dynamics)が供給する、Power InfuserTMとして市販されている、薬剤注入装置、またはイリノイ州、ラウンド・レー
クのバックスター・ヘルスケア社(Baxter Healthcare Corp.,)が供給するColleague CXTMである。治療施術装置30は、ニューヨーク州、パール・リヴァーのバーサムド社(Versamed)が供給するiVnetTMとして市販されているベンチレータとすることができる。また、治療施術装置30は、除細動、胸部加圧、通気、および薬剤注入のような多数の治療を含むことができる。
【0041】
他の例では、蘇生事象および種々の治療の施術全体に対する制御および調整は、装置34またはAED10外部の処理エレメントによって行うことができる。例えば、装置34は、AED10からECGデータをダウンロードして処理し、ECG信号を分析し、分析に基づいて判定を行い、AED10を含む、他の治療装置30を制御することができる。
【0042】
他の例では、AED10は、ECG信号の分析を含む、ECGの処理全てを行い、適切な治療の最終決定のみを制御装置34に送信することができ、送信時に、制御装置34は、他のリンクされている装置30に対して制御作用を行う。制御装置は、カリフォルニア州、サニーベールのリヴィヴァント社が供給するオートパルス(商標)(Autopulse)として市販されている。
【0043】
胸部加圧偽信号は、周波数ドメインにおいてECG信号成分から分離することができる。これによって、AED10は、CPR胸部加圧の間処理を中断することなく、ECG信号を処理することができる。CPR胸部加圧中におけるアメリカ心臓協会によって推奨されている加圧率(2000年)は、毎分100回即ち1.7Hzであり、ECG信号の周波数ドメインの特徴を定量化するために用いられる周波数範囲は、ハイ・パス周波数フィルタを用いるときのそれ(好ましくは3Hz以上に限定されない)よりも高く設定することができる。
【0044】
調律助言方法は、定量化法で、周波数ドメインにおけるECG信号のエネルギ分布を定量化する。定量化の結果は、正常および危険なECG調律を、胸部加圧偽信号があってもなくても、差別化するために用いることができる。1つの方法では、AED10は、ECG信号の周波数ドメインを、分析周波数帯に分割する。次いで、AED10は、異なる周波数帯を分析してエネルギおよび経時的変動を求め、犠牲者に適した処置を決定する。好適な実施形態では、帯域の幅は0.5Hzであるが、これらを等しくない幅に分割し、分析において重要度が高い周波数帯の分解能を高めるようにしてもよい。例えば、3Hz未満の周波数は、3つの等しく離間された帯域に再分割し、一方3から5Hzの範囲は、0.5Hzの帯域を有し、6から12Hzの範囲は、0.25Hzの帯域を有することもできる。各帯域は、多数のスペクトル測定値の集合体で構成することができる。帯域毎に、当該帯域内のスペクトル測定値の分布特性は、例えば、平均スペクトル・エネルギ、スペクトル・エネルギ分散、中央スペクトル・エネルギ、最大スペクトル・エネルギ、最少スペクトル・エネルギというような記述子を含むことができる。
【0045】
分析周波数帯域の一例では、AED10は、周波数スペクトルにおけるピークに基づいて周波数帯域を発生する。したがって、1つの周波数帯域は、周波数スペクトルにおける所与のピークの周波数の広がりに対応する。周波数スペクトルにおいてピークを特定する共通のアルゴリズムがあり、これは周波数スペクトルの異なる点における傾きおよびエネルギを計算することを含む。これらのピークの各々について、AED10は、非線形パラメータ推定アルゴリズムまたは曲線はめ込みアルゴリズムを用いて、ピークの形状を推定する。このスペクトル形状から、AED10は、ピークに関するパラメータを計算する。
【0046】
定量化法は、種々のスペクトル・パターンおよび形状を差別化する。AED10は、定量化の結果に基づいて、心臓の生理的状態および適した治療に関する判断を下す。調律助言方法の定量化法は、下位方法からの測定の組み合わせである。これらの下位方法の一部
は種々のスペクトル形状を差別化し、限定ではないが、(1)目標周波数範囲におけるピーク数、(2)種々のスペクトル・ピークの相対的強度/ピーク値、(3)種々のスペクトル・ピークの相対的帯域幅、および(4)選択した周波数範囲におけるエネルギ分布の分散を含む。1つ以上の下位方法が経時的なスペクトル情報の変化を測定することもできる。
【0047】
これらの測定を多次元空間において組み合わせると、判断の感度および特定性双方を高めることができる。1つ以上の情報処理技法を用いて、これらの測定の計算に続いて、組み合わせを定量化し、この組み合わせに基づいて判断を下すことができる。情報処理技法は、限定ではなく、単純な組み合わせ規則または数学、ニューラル・ネットワーク、ファジイまたは標準的ロジックを組み込んだエキスパート・システム、またはその他の人工知能技法を含むことができる。また、追加の測定によって、2003年11月6日に出願された、米国特許出願第10/704,366号「胸部加圧中における胸部加圧強化方法および装置」によって教示される技法にしたがって、胸部加圧中における胸部加圧の速度または加速度の測定を含ませることもできる。
【0048】
情報処理技法は、単純な組み合わせ規則または数学、ニューラル・ネットワーク、ファジイまたは標準的なロジックを組み込んだエキスパート・システム、あるいはその他の人工知能技法を含む。これらの技法は、胸部の生理的状態に関する測定と適した治療とに基づいて判断を下す。異なる測定値は、心臓の生理的状態および適した治療に関する不確実度が変化する、個々の指示である。ある例では、情報処理技法は、当業者には公知のソフトウェア技法、および成果データを含むECG調律のデータベースを用いて自動的に訓練される。これらの例には、ニューラル・ネットワークが含まれる。他の例では、情報処理技法は、ECGパターンおよび成果の観察に基づいて手作業で生成する。これらの例には、単純な組み合わせ規則または数学、およびファジイまたは標準的なロジックを利用したエキスパート・システムが含まれる。標準的なロジックを利用するエキスパート・システムの例では、プログラマが手作業で、不確実性なく論理的規則を生成し、規則は、「測定Aが除細動を推奨する場合」および「測定Bが除細動を推奨する場合」のような事前条件を指定し、これらの事前条件を満たす場合、AED10は、自動的に患者に除細動を実施する。ファジイ論理を利用するエキスパート・システムの例では、規則は更に「曖昧」であり、組み合わせる状態は、人の言語に基づいてある程度の不確実性を組み込む。例えば、ファジイ論理規則は、「測定Aが除細動の強い必要性を検出する」、および「測定Aが除細動の弱い必要性を検出する」というような入力を組み込むことができる。ファジイ論理フレームワークは、異なる測定を組み合わせて、「除細動に対する強い必要性」または「除細動に対する弱い必要性」というような結果を出力する。
【0049】
生理的状態に関する判断を下す方法は、1群の可能な状態から選択する。各状態は、提案した測定の所定の値範囲に対応する。可能な状態は、限定ではなく、正常な静脈調律、VF、衝撃を与え得る(不安定な)VT、安定なVT、上室性調律、および無脈拍電気的活動を含むことができる。
【0050】
定量化法に可能なひとつの下位方法は、選択した周波数範囲に分布するエネルギの分散、即ち、分散下位方法である。エネルギ分布パターンの例を2つ、図5,6に示す。図5,6の周波数スペクトル・グラフは、信号の経時的な高速フーリエ変換(FFT)を用いて計算した。図5を参照すると、周波数スペクトル50のエネルギY(f)は、狭い周波数帯域に集中し、VFのような不整脈状態に見られるパターンを表す。図6を参照すると、周波数スペクトル52のエネルギY(f)は、広い周波数範囲に分布し、安全な心臓調律、即ち、正常な洞調律を表す。分散下位方法は、2つの周波数スペクトル50、52の特徴を定量化し、したがって、分散下位方法は、不整脈状態と正常な洞調律との間で差別化することができる。
【0051】
分散下位方法の一例では、スペクトルの基準周波数(Fref)からエネルギの分散を計算する。基準周波数に可能な候補は、限定ではなく、スペクトルの平均周波数、中央周波数、中心周波数、またはピーク周波数を含む。
【0052】
この例では、分散下位方法は、スペクトルの基準周波数から各周波数成分の加重距離を計算し、こうしてエネルギ分布パターンを定量化する。この測定の一例、エネルギ−周波数分散(EFV)は、以下の数式によって計算することができる。
【0053】
【数1】

【0054】
しかしながら、分散下位方法は、この数式に限定される訳ではない。周波数スペクトルの基準周波数からの周波数成分の加重または非加重距離を定量化する測定は、この測定に用いることができる。
【0055】
図5を参照すると、スペクトル50のエネルギは、狭い周波数範囲に集中し、したがってスペクトルは比較的小さいEFV値を有する。図6を参照すると、スペクトル52のエネルギは、比較的広い周波数範囲に分布し、スペクトルは比較的大きなEFV値を有する。したがって、EFV値を用いれば、正常な洞調律と不整脈洞調律(例えば、VF)との間で区別することができる。
【0056】
図7を参照すると、ECG信号の一部のスペクトル100は、時間の関数となっている。信号の部分102は、胸部加圧中のVF調律を示す。信号の部分104は、胸部加圧がない場合のVF調律を示す。VFは、電気的衝撃によって治まり、その後に正常な洞調律(NSR)が来る。このNSR期間の間、部分108には胸部加圧が行われず、一方部分110では胸部加圧が行われる。強い低周波(3Hz未満)成分を特徴とする胸部加圧偽信号は、この時間−周波数グラフ100の最初の15秒間(部分102)および最後の10秒間(部分110)において観察することができる。VFに関連する時間期間102および104(即ち、電気的衝撃106の前)の間、胸部加圧偽信号の有無に係わらず、4Hzより高いエネルギ分布Y(f)が狭い周波数範囲に集中していることが明らかである。NSRの時間期間108および110(即ち、電気的衝撃106の後)の間では、約4Hzより高いエネルギ分布Y(f)は、胸部加圧偽信号の有無に係わらず、エネルギが広い周波数範囲に分布するパターンを有する。
【0057】
図8を参照すると、信号100(図7に示す)から、EFVスコア152を計算する。閾値154を用いると、不整脈調律を正常な上室性調律から区別することができる。つまり、信号100の最初の50秒(VF調律を有する部分102および104)の間、EFVスコア152は閾値154未満となる。
【0058】
図9を参照すると、分散下位方法200を、AED10のソフトウェアおよび/またはハードウェアで実施している。AED10のフロント・エンドのアナログ/ディジタル変換器10によって得られるECGデータは、セグメント毎に処理される。判断を下す前に処理されるセグメントの数は、予め決められている(例えば、9セグメント)。
【0059】
セグメントの長さは、好ましくは、2秒であり、所望の周波数および時間ドメイン分解
能のために、各セグメントは、それ自体の前後の両セグメントと1秒重複することが好ましい。
【0060】
処理が開始するときにセグメント・カウンタを0にセットし(202)、信号の最初のセグメントを取り込む(204)。所望のカットオフ周波数(好ましくは0.5Hzであるが、これに限定される訳ではない)を有するハイ・パス・フィルタを適用し(206)、ベースライン・ドリフトを除去する。濾過後の信号の周波数ドメイン表現を、高速フーリエ変換(FFT)によって求める(208)。好ましい方法を用いて、スペクトル形状を定量化する(210)。一例では、この周波数ドメイン表現に基づいてEFVスコアを計算し、胸部加圧偽信号が多い低周波部分を除外するように、EFV計算の周波数範囲を選択する。
【0061】
スペクトル形状の定量化の後、セグメント・カウンタを1だけ増加させる(212)。所定数のセグメントを全て処理した場合(214)、定量化の結果を処理し(216)、最終スコア(EFVスコアの平均値を含むが、これに限定される訳ではない)を得る。それ以外の場合、ECG信号の次のセグメントを処理する。実施態様によっては、最終スコアをセグメントからのスコアの平均とする場合もある。
【0062】
心臓の生理的状態の推定を、最終EFVスコアに基づいて行うことができる。最終スコアが所定の閾値未満である場合(218)、不整脈調律が推定される(220)。分散下位方法を用いて、AED10は閾値を最終EFVスコアと比較して、犠牲者が不整脈状態にあるか否か判定を行う。それ以外の場合、処理した信号は正常であると推定される。一例では、予め6に設定した閾値を用いる。他の例では、他の予め設定した閾値を用いることができる。
【0063】
不整脈洞調律は、分散下位方法を用いて検出することができる。これらの不整脈洞調律は、異なる種類の調律である可能性があり、適した治療も異なる。分散下位方法のみを用いて、衝撃を与え得る調律と衝撃を与え得ない調律である不整脈調律の間で区別することは困難な場合がある。例えば、衝撃を与え得るVT(脈拍数が毎分120から150回「BPM」)は、分散下位方法による測定のみでは、衝撃を与え得ないVT(120<BPM)から区別することができない場合がある。したがって、定量化法は、検出した洞調律に対して適した治療を決定する際に、少なくとも1つの他のスペクトル測定によって、分散下位方法を強化することが好ましい。また、定量化法は、スペクトル・パラメータの経時的変化に基づいて判断を下すこともできる。多数の測定は、行列を形成するものとして考えられるが、実際の実施態様では行列を用いる必要はない。
【0064】
実施態様の中には、AED10が周波数スペクトルにおける最大振幅スペクトル・ピーク(LASP)の周波数を、分散下位方法からの測定と組み合わせて、1×2行列を作成する場合もある。実施態様によっては、AED10が信号処理およびスペクトル分析における当業者には周知の従来の方法を用いて、ECG信号の周波数表現におけるスペクトル・ピークの数を追加的に計算し、この測定値をベクトルに含ませることもできる。2Hzより低いLASP(FLASP)の周波数および3未満のピーク数(NOP)は、衝撃を与え得るVTまたはVFであることを示し、一方2Hzよりも高いFLASPおよび3未満のNOPは、衝撃を与え得ないVTを示す。衝撃を与え得ない上室性調律は、3よりも大きいNOPを有することができる。
【0065】
他の実施態様では、AED10は、先に説明した情報処理技法を用いて、分散下位方法ならびにFLASPおよびNOP測定からの情報を組み合わせて、心臓の生理的状態および適した治療を推定することができる。閾値未満のEFVとFLASP<2HzおよびNOP<3との組み合わせは、衝撃を与え得るVTまたはVFを示す可能性があり、これに
適した治療は除細動とすることができる。閾値未満のEFVとFLASP>2HzおよびNOP>3との組み合わせは、衝撃を与え得ないVTを示す可能性があり、これに適した治療は、通常のCPRとすることができる。閾値未満のEFVとNOP>3との組み合わせは、上室性調律を示す可能性があり、これに適した治療は、単に患者を監視すること、または薬物治療とすることができる。
【0066】
記述行列(descriptor matrix) は、[n×m]次元行列の形態をなすことができ、nはピーク数、mはスペクトル形状を記述するために用いられるパラメータ数である。m=6とした一実施態様では、6つのパラメータは以下の通りである。1)特定のピークの周波数(FP)、2)そのピークの振幅(AP)、3)ピークの幅(PW)、4)ピークの深さ(DP)、5)そのピークの分散(VP)、および6)そのピークの最初のモーメント(FM)。ピーク番号(PN)は、個々のピーク毎の識別子となる数値である。例えば、最初にAED10は5つのピークを検出し、各PNに順次周波数で、1、2、3、4、および5Hzと付番する。しかしながら、4秒後に、AED10は新たな周波数の4.5Hzにおいてピークを検出し、このピークに6のPNを割り当てる。
【0067】
記述行列は、スペクトル形状行列(SSM)と命名することもでき、2つのヘッダ値、NOPおよびブール値、ガウス・ピーク(GP)を含むことができる。ガウス・ピークは、単一のピーク(NOP=1)およびGP=真を有するスペクトル形状について、スペクトル形状は、FP、AP、およびVPのみのパラメータ部分集合によって記述できることを示す。SSMは、次の形態をなすことが好ましい。
【0068】
【数2】

【0069】
細動は混乱した調律であるので、FP周波数は、短時間フーリエ変換の時間枠よりも高い速度で変化する可能性がある。例えば、周波数スペクトルを発生するためにフーリエ変換を計算する時間枠を4秒に設定した場合、隣接する時間枠(および対応する周波数スペクトル)のFPは1つの周波数から次の周波数にジャンプするように見える。しかしながら、AED10が標準的な短時間フーリエ変換を信号に適用しつつ、同時にフーリエ変換を着信データに対して実行する速度を高めると、時間枠が減少し、このためフーリエ変換のスペクトル分解能に損失が生ずる。したがって、一例では、AED10はECGデータに対して同時に多数のフーリエ変換を実行し、後続の各変換を、直前の変換の開始後400ミリ秒において、4秒の時間枠で開始することにより、AEDは4秒の時間枠において10回の同時データ変換を実行する。このため、変換毎のデータは、隣接する変換のデータといくらか重複する。このようにして、AED10はスペクトルおよび時間分解能双方を維持する。
【0070】
AED10は、ECDスペクトルの包括的な面を記述する、追加のヘッダ値を計算することもできる。これら追加のヘッダ値は、例えば、米国特許第5,957,856号に記載されているような振幅スペクトル面積(AMSA:amplitude spectrum area )、または前述のような分散測定を含むことができる。これらの値は、NOPおよびGPと共にベ
クトルを形成すると考えることができ、このベクトルに対して、行列演算および変換を、個々のピークのパラメータによって形成される行列とは独立して、またはこれと組み合わせて実行することができる。
【0071】
AED10は、次に、SSMの当業者には周知の行列演算および変換を実行することができる。また、AED10は、規則的な時間間隔でSSMも計算して、[n×m×p]次元マトリクスを発生することができる。ここで、pは対象の時間間隔におけるサンプル数である。各SSMは、[n、m、p]空間において軌跡を形成する[n、m]空間内の1点と考えることができる。次に、AED10はこの軌跡を分析して、除細動の成功を予測し、更に除細動するか、あるいは胸部加圧、エピネフリンのような薬剤、グルコースのような恒常的栄養素、またはペーシングのようなその他の電気的治療のような代替治療を施すことが相応しいか否か判断を行う。
【0072】
AED10は、周波数スペクトルにおいて1つ以上のピークを特定することができる。これら特定したピークの各々について、AED10は、ピークに対応する周波数帯域を特定する。AED10は、ピークの周波数帯域毎に非線形パラメータ推定、または曲線はめ込みルーチンによって繰り返しピーク・モデル・パラメータ、例えば、FP、AP、およびPWを決定することができる。例えば、AED10は、マルカト−ルヴァンベール・アルゴリズムを用いて、非線形パラメータ推定、またはChi−平方(Chi-square)χ2における誤差を最小にすることができる。ここで、χ2は、以下のように表される。
【0073】
【数3】

【0074】
この式では、N個の記録したエネルギ値があり、M(i)は、記録したエネルギ値であり、S(i;p)は、p個の変動するパラメータ値に依存して点iにおいてサンプリングした、合成モデル曲線エネルギ値である。括弧で囲った項は、正規化した残差R(i)に対応し、測定した各周波数値M(i)におけるはめ込み曲線とデータとの間の差の加重測定が得られる。
【0075】
AED10は、高さ正規化ローレンツ関数L(E)、またはガウス関数G(E)のいずれかを用いて、スペクトル・ピークの各々に対するエネルギ関数をモデル化する。ここで、Eは周波数である。L(E)の場合、
【0076】
【数4】

【0077】
G(E)の場合、
【0078】
【数5】

【0079】
関数L(E)、G(E)双方は、半最大ピーク振幅における1/2のピーク幅に対応するピーク・パラメータβ、およびピーク位置即ちFPであるEによって相補的に特徴付けられる。AED10は、ガウシアンG(E)およびローレンツイアンL(E)を組み合わせることによって、ピークのスキューをモデル化することができ、βを項β+α(E−E)で置換する。また、AED10は、変動するピークの高さに対処するために、係数hを加入することもできる。その結果関数f(E)が得られる。AED10は、以下のようにf(E)を計算する。
【0080】
【数6】

【0081】
この積型ピーク形状モデルの利点の中には、パラメータに対するf(E)の偏導関数の分析的提示が可能であることが含まれる。これは、ヤコビ行列、βの分析値、および繰り返し推定プロセスの収束早期化を確保するためにマルカト−ルヴァンベールアルゴリズムにおいて必要となる。各ピークの深さは、基準線曲線をマルカト−ルヴァンベール・アルゴリズムに組み込むことによって、または単に推定したピーク周囲の領域に対してスペクトルの2つの最小点を判定することによってのいずれかで推定する。このように、当業者に周知の技法を用いて、AED10は、ピークのスペクトル形状パラメータ、FP、AP、PW、DP、VP、およびFMを関数f(E)から計算することができる。
【0082】
AED10がAPおよびFP値が好ましくは10%よりも多く変動しない直後の時間間隔においてピークを発見した場合、その2番目のピークは、同じピーク番号PNを有すると見なされ、周波数および振幅がシフトした同じピークであることが示される。このようにして、AED10は、個々のピーク毎、および記述行列全体に対して、パラメータの軌跡を生成することができる。AED10は、この動作中いつでも新たなピークを追加することができ、その場合、AED10は新たなピークに新たなPN値を与える。AED10があるピークが消滅したと判定した場合、PN番号はAED10のメモリに維持される。新たなピークの候補の処理において、下位方法は、消滅したピーク全てを見直して、新たなピークが実際に消滅したピークなのか否か最初に判定を行い、その場合候補には新たなPNを与えず、代わりに消滅したピークのPN番号を与える。
【0083】
危険な調律において心臓の衝撃成功の前に、周波数スペクトルの6から12Hz範囲におけるピークの1つ以上のパラメータAP、DP、VP、FP、PWは、0.1から1Hzの範囲のサイクル・レートで発振する可能性がある。例えば、この下位方法は、6から12Hzの領域におけるAPが最大であるとき、100ミリ秒フーリエ変換中に、除細動衝撃の送出タイミングが来ることを推奨することができる。特定のAP最大サイクルが分かっている場合、AED10は、7Kzの中心周波数を有するバンド・パス・フィルタをかけた後に、AED10が波形のピークを検出するまで、除細動衝撃の送出を待つ。この下位方法は、衝撃を、正常な洞QRSに最も関係が深いECG波形のエレメントと同期させる。
【0084】
6から12Hz領域におけるピークのパラメータFP、AP、およびPWにも発振が生ずる可能性があり、図10,11に示すように、心臓状態の変化を示す。図10,11は、4秒の間隔だけ分離した2時点において測定したスペクトルを示す。ある時間期間細動している心臓に対し、ECGには、周波数スペクトルの6から12Hz領域におけるピー
クのパラメータFP、AP、およびPWの値において漸進的な劣化が生ずる。前述のように、ある時間期間細動状態にある心臓に適した治療は、胸部加圧を行い、次いで除細動することである。この劣化は、少なくとも8から10秒の間隔で測定される。これは、情報処理技法のための追加の下位方法である。例えば、AED10が10秒の間隔において少なくとも15%減少する周波数スペクトルの6かr12Hz領域における少なくとも2つのピークのAPを検出した場合、下位方法は胸部加圧、次いで除細動を推奨する。
【0085】
心臓の循環および代謝基板が改善して、心臓が除細動衝撃から回復できる可能性が一層高まるところまで来ると、周波数スペクトルの6から12Hz領域におけるピークのパラメータFP、AP、およびPWの変化は、ECGにおける変化に先駆体(precursor) を与える。これは、心室細動ECFの振幅増大(開業医は「粗雑化」と呼ぶことが多い)というように、ECG信号の時間ドメインにおいて見ることができる。例えば、図7Bに示すように、AED10が周波数スペクトルの6から12Hz領域におけるピークのパラメータFP、AP、DP、VPまたはPWにおいて増加を検出した場合、下位方法は、胸部加圧またはその他の現行の治療を中止することを推奨し、次いで除細動を行う。
【0086】
周波数スペクトルの6から12Hz領域におけるピークに対するピーク周波数FPは、心臓の状態が改善しつつあり、したがって心臓が除細動の衝撃を処理できるようになると、経時的な変動が少なくなることが可能である。これは、心筋層活性化における低レベルのより正常な活動の存在によると考えられ、洞調律基本周波数の高調波において見られる。このピーク周波数の変動は、6から12Hzの領域における周波数の平均変化の、3から6Hzの周波数範囲におけるFPのそれ、または6から12Hzの範囲におけるFPの絶対変化として測定したものに対する比として測定することができる。この下位方法は、ピーク周波数の変動を検出すると、除細動を情報処理技法に推奨する。
【0087】
また、下位方法がSMMの[n×m×p]軌跡を、[n×m]空間内の平面に投影し、次いでこの平面において軌跡の投影がなる形状を分析し、衝撃または最適な処置までの適切な時間を判定することができる。この投影は、異なる重みの(n+m)個までの変数を含むことができるが、投影は、主に[n×m]空間のVP軸に沿っていることが好ましい。平面投影では、画像測定アルゴリズムを用いて、軌道の二次元投影の特徴を評価する。以下に、当業者には公知の手段によって測定を行う好適な求積クラスの一部を示す。即ち、面積、重心、循環、クラスタリング、簡潔性、最大軸、最小軸、および周囲である。例えば、最小軸は次のように決定することができる。物体の最小軸は、重心を通過する最大慣性(分散)の軸として、正式に定義される。最小軸を計算する1つの方法は、物体の座標点から成る散乱行列(scatter matrix)の固有値および固有ベクトルを計算することである。最小の固有値に対応する固有ベクトルが最小軸となる。他の方法は、楕円を物体の周囲にはめ込みることである。
【0088】
特定の時間期間、例えば、10秒間投影を計算し、時間における軌跡の表現である一連の二次元物体、いわゆる、投影「スナップショット」を得ることができる。次いで、生理的状態の改善を示す変化について、求積クラスにおける値の時系列で傾向を分析することが可能となる。例えば、VF中におけるVP発振の振幅増大は生理的状態の改善を示す。この場合、AED10は、次いで、フィードバックを介護人に与え、「いい仕事を続けて下さい。患者の状態は改善しつつあります。」というような、可聴激励を受けつつ、介護人は救命処置を実行し続ける。経時的に追跡するに値する他のこのような求積クラスは、最大軸角度、周囲、および簡潔性である。
【0089】
カルマン・フィルタのような方法も、軌跡の推定および予測に用いることができる。カルマン・フィルタは、フィードバック制御の形態を用いることによって、プロセスを推定する。フィルタは、ある時点におけるプロセス状態を推定し、次いで(ノイズのある)測
定値という形態でフィードバックを得る。したがって、カルマン・フィルタの式は、2つのグループ、即ち、時間更新式および測定更新式に分けられる。時間更新式は、現状態および誤差共分散推定値を前方(時間的に)に投影し、次の時間ステップに対する先験的推定値を得る役割を果たす。測定更新式は、フィードバック、即ち、新たな測定値を先験的推定値に組み込んで、先験的推定値の改善を得る役割を果たす。また、時間更新式は、予測式と考えることもでき、一方測定更新式は、補正式と考えることができる。実際、最終推定アルゴリズムは、数値問題を解くための予測−補正アルゴリズムのそれに類似している。
【0090】
離散カルマン・フィルタ時間更新式は、次の通りである。
【0091】
【数7】

【0092】
離散カルマン・フィルタ測定更新式は、次の通りである。
【0093】
【数8】

【0094】
測定更新中における最初のタスクは、カルマン利得Kを計算することである。次のステップは、実際に得られるプロセスを測定し、次いで測定値zを組み込むことによって、先験的状態推定値を生成することである。最終ステップは、先験的誤差共分散推定値Pを得ることである。各時間および測定更新対の後、直前の先験的推定値を用いて新たな先験的推定値を投影即ち予測することによって、プロセスを繰り返す。この再帰的性質は、カルマン・フィルタの非常に引き立つ特徴の1つである。これは、推定値毎に直接データの全てに動作するように設計されているウィーナー・フィルタ(Wiener filter) の実施態様(例えば)よりも、実際の実施態様の実現可能性を遥かに高める。代わりに、カルマン・フィルタは、過去の測定値の全てについて再帰的に現推定値の状態を整える。以下の式は、予測式と呼ばれている。
【0095】
【数9】

【0096】
カルマン・フィルタの主要な欠点の1つは、ガウス分布を呈する線形系でないとモデル化できないことであるが、生理的設定では線形系に遭遇するのは多くない。非ガウス、非線形フィルタリングの問題を解明する最良の既知のアルゴリズムは、拡張カルマン・フィルタ(EKF)である。このフィルタは、テイラー級数展開を用いて、測定値および評価モデルを線形化するという原理に基づいている。EKFアルゴリズムにおける級数近似は
、しかしながら、非線形関数や対象の確率分布の表現が貧弱となる可能性がある。その結果、このフィルタは発散する可能性がある。任意の非線形関数を近似するよりも、ガウス分布を近似する方が容易であるという仮説に基づいて、他の研究者は無香料カルマン・フィルタ(UKF:unscented Kalman filter )と呼ばれるフィルタを開発した。UKFは、EKFよりも正確な結果をもたらし、特にこれが生成する状態の共分散の推定値は遥かに優れている(EKFはその品質を過小評価されていると思われることが多い)ことが示されている。UKFは、しかしながら、ECGスペクトル分布の場合に多くあるように、一般の非ガウス分布には適用できないという制限がある。粒子フィルタ(particle filter) としても知られている順次モンテ・カルロ法は、この制限を克服し、状態の後見的分布の完全な表現を可能とするので、平均、モード、とがり、および分散というようなあらゆる統計的推定値でも容易に計算することができる。粒子フィルタは、したがって、あらゆる非線形性および分散を扱うことができる。粒子フィルタは、重要度サンプリング(i mportance sampling) を拠り所とし、その結果、後見分散を適度に近似することができる提
案分布の設計を必要とする。一般に、このような提案を設計するのは難しい。最も一般的な対応策は、状態進展(事前遷移)の確率論的モデルからサンプリングすることでおある。しかしながら、この対応策は、新たな測定値が以前(prior) の末尾に現れた場合、または尤度が以前と比較して余りに高い場合、失する可能性がある。
【0097】
好適な実施態様では、推定/予測軌跡追跡技法は、マーウィ、デューセット、フライタッツ、およびヴァンによって開発された無香料粒子フィルタ(UPF)として知られている、UPFの疑似コードは以下の通りである。
【0098】
無光量粒子フィルタ
初期化:t=0
i=1,...Nに対して、以前p(x)から状態(粒子)x(i)を引き出し、設定する。
【0099】
【数10】

【0100】
t=1、2、...、に対して、
a)重要度サンプリング・ステップ:
i=1,...Nに対して、UKFによって粒子を更新する。
【0101】
シグマ点を計算する。
【0102】
【数11】

【0103】
今後の粒子(時間更新)を予測する。
【0104】
【数12】

【0105】
新たな観察(測定値更新)を組み込む。
【0106】
【数13】

【0107】
i=1,...Nに対して、正規化定数まで重要度重みを評価する。
【0108】
【数14】

【0109】
i=1,...Nに対して、重要度重みを正規化する。
【0110】
b)選択ステップ
粒子を乗算/抑制する。
【0111】
【数15】

【0112】
高/低重要度重み
【0113】
【数16】

【0114】
をそれぞれ用いて、N個のランダム粒子を求める。
【0115】
c)出力:アルゴリズムの出力は、1組のサンプルであり、以下のように後見分散を近似するために用いることができる。
【0116】
【数17】

【0117】
その結果、ある対象の関数g、例えば、限界条件平均または限界条件共分散、あるいはその他のモーメントについて、次の推定値が得られる。
【0118】
【数18】

【0119】
一実施態様では、予測行列を用いて、最適治療介入を予期することもできる。パラメータまたは軌道の特性がある状態に達するまで待つよりはむしろ、アルゴリズムは、前述の追跡および予測アルゴリズムを用いて、その出力を患者の予測した今後の状態に基づいている。
【0120】
フーリエ法以外の変換法、例えば、ラプラス、ヒルベルト、ラドン、およびハンケル変換や、ゲイバー短時間フーリエ変換やウェーブレット変換のような時間周波数変換も用いることができる。
【0121】
ECGデータを除く他のデータも、記述行列の一部として含ませ、分析アルゴリズム、例えば、脈拍酸素計測法、カプノグラフィ、呼吸、インピーダンス・カルジオグラフ、および血圧測定に組み込むことができる。少なくともデータの一部には、いずれのフーリエ変換やその他の変換法も実行せずに、時間ドメインに残しておくとよい。脈拍酸素計測法、インピーダンス・カルジオグラフ、血圧測定を用いると、ECGを増強し脈拍があるか否か判定できるようになる。カプノグラフィを用いると、心肺蘇生の全体的な有効性を判断することができる。
【0122】
通例、除細動治療を患者に施術するには、大きな(5インチまでの直径)自己接着電極パッドが用いられる。また、パッドは、同じ導電面を通じて、ECG監視にも用いられる。一実施態様では、追加の小さな(0.5インチまでの直径)ECG電極を大きなパッドに一体化し、大きな除細動/監視電極が生成する監視ベクトルにほぼ直交する、少なくとも1つの電気的ベクトルの同時監視を行う。次いで、元のSSMと構造は全く同じであるが、直交リードに基づく第2行列を形成する。すると、AED10は、2つの行列に関する相互相関のような技法を実行して、状態変化を検証することが可能になる。
【0123】
一実施形態では、2つの小さなECG電極と大きなパッドを、少なくとも2つの互いに直交するECGリードが形成されるように構成する。これらのリードのベクトル和は、経時的軌跡を生成する。前述の同じ軌跡分析方法を用いて、この軌跡も同様に分析することができる。
【0124】
前述のように、AED10は、これらの下位方法を組み合わせて、救命隊員が患者に施術するのに適切な治療を決定する。組み合わせに不確実性が含まれる場合、除細動成功の確率が、装置のディスプレイ上に、0から100までの間の数値として示され、準医療活動従事者のような、訓練された医療要員に、患者に衝撃を与えるか否か彼自身判断を下せるようにしている。分散下位方法を用いる実施態様では、スペクトル分散を用いるVF検出アルゴリズムが、準医療活動従事者はECG波形の一層高精度な分析のために加圧を行うのを停止すべきことを、聴覚または視覚警報指示の形態で、通知することができるように、AED10を構成するとよい。更に自動化を進めた実施態様では、AED10が、除細動の成功確率が低いと判断した場合、AED10は、救命隊員にCPRを実行するように促すことができる。CPRの最中に、AED10はECGを継続的に分析し、心筋層が除細動を受容するとAED10が判断したときに、救命隊員にCPRを行うのを中止するように促すことができる。除細動の後、AED10は、救命隊員に、連続的な胸部加圧を施術するように促すことができ、そしてAED10は加圧の間再び基礎となるECG波形を監視して、除細動治療を施術するしかるべき時点を探る。スペクトル分析の結果、AED10は、除細動もCPRも適切でないが、エピネフリンやグルコースのような薬剤および代謝治療が適していると判断する場合もある。この際、AED10は、救命隊員に適切な治療を施術するように促す。
【0125】
犠牲者のために適切な処置を決定する別の実施形態では、ECG信号の周波数ドメインを複数のスペクトル帯域に分割する。例えば、3から20Hzの周波数範囲を0.1Hz帯域に分割する。各帯域のエネルギを計算し、個々の重みを、帯域の各々に対するエネルギ値に割り当てる。一実施形態では、帯域毎の加重エネルギ値の少なくとも一部の和を計算する。
【0126】
加重和と除細動成功確率との間(または、加重和と生理的状態の存在との間)の相関付けを改良する重みを決定するために、回帰分析を用いることができる。単純な線形回帰のモデルは、次の通りである。
【0127】
【数19】

【0128】
ここで、Yは従属変数、Xは独立変数、aおよびbは回帰パラメータ(最良のはめ込みの線の切片および傾き)である。多重線形回帰のモデルは、次の通りである。
【0129】
【数20】

【0130】
各エネルギXの係数bを計算するには、除細動成功確率Yの最良の推定値を与える一般線形モデルのような、統計的方法を用いる。変数Yは、除細動以外のあらゆる治療的介入、例えば、胸部加圧、通気、あるいはエピネフリンまたはアスパルテートのような代謝処置の成功確率も表すことができる。また、変数Yは、患者が特定の生理的状態にある
確率を表すこともできる。一般線形モデル(GLM)は、いずれの一変量または多変量一般線形モデルでも推定し検査することができ、多重回帰のためのもの、分散または共分散の分析、そして判別分析や主要成分のような他の手順を含む。一般線形モデルによって、ランダム化ブロック設計、不完全ブロック設計、断片的要因分析、ラテン方格法、分割グラフ設計、クロスオーバー設計、ネスティングを探求することができる。モデルは、次の通りである。
【0131】
Y=XB+e
ここで、Yは従属変数のベクトルまたは行列、Xは独立変数のベクトルまたは行列、Bは回帰係数のベクトルまたは行列、eはランダム誤差のベクトルまたは行列である。
【0132】
多変量モデルでは、Yは連続測定の行列となる。X行列は、モデルの種類に応じて、連続的または類別ダミー変数のいずれかとすることができる。判別分析では、Xは分散の分析におけるように、ダミー変数の行列である。主要成分分析では、Xは定数となる(例えば、1の単一列)。標準相関では、Xは通常連続右手変数の行列となる(そして、Yは左手変数の行列となる)。
【0133】
多変量モデルの中には、ANOVAを用いると一層容易になるものもある。これは、多数の従属変数と、0、1つ以上の類別独立変数(即ち、前者には定数のみが存在する)を有するモデルを扱うことができる。ANOVAは、自動的に設計要因に相互作用項を生成する。
【0134】
モデルのパラメータを推定した後、以下の形態のいずれかの一般線形仮説によって試験することができる。
【0135】
ABC’=D
ここで、Aは独立変数(Bの行)全体の係数に対する線形重みの行列であり、Cは従属変数(Bの列)全体の係数に対する線形重みの行列であり、Bは回帰係数または効果の行列であり、Dは零仮説行列(通常は零行列)である。
【0136】
係数bは、ECGまたは統計的に変化する母集団のサンプルから収集した他の測定生理的データを用いて計算され、精度の高いモデル生成のためにロバストなデータベースが得られる。好ましくは、蘇生事象を多数の治療状態、例えば、患者の脇への到達、衝撃前、衝撃後、欠陥収縮後等に分解し、各治療状態毎に別個の係数を1組ずつ発生する。治療の状態、例えば、蘇生は、除細動器によって判定され記憶される。例えば、ユニットのスイッチを最初に入れるとき、または最初の衝撃の前では、蘇生は、「患者の脇に到着した」(APS)状態と見なされる。CPRが除細動器によって検出されると、「最初のCPR、衝撃状態無し」にシフトする。除細動後、状態機械は「最初の衝撃」状態にシフトする。以後の衝撃は、状態機械を、除細動毎の状態、例えば、「2回目の衝撃」等に移行させる。係数bは、状態毎に計算され、除細動器上に格納され、治療成果(または源生理的状態)の最も精度の高い予測子Yを計算する。治療成果Yを評価して、0から1までまたは0から100までの値を与え、メモリ上で操作者にそれが確率であることが理解できるようにするとよい。Yの値を評価しなくてもよい。
【0137】
回帰は、ロジスティック関数を用いても行うことができる。
【0138】
【数21】

【0139】
ロジスティック・モデルは、成果が二項式で図12の横軸上にプロットされている少なくとも1つの予測因子に依存する場合、治療成功の確率を推定し、例えば、図12における予測因子のある値がときとして除細動の成功と関連付けられ、他のときには除細動の不成功と関連付けられるようにすると有用である。ロジスティック曲線は、非線形変換であり、測定した予測因子を、成功確率を近似した値に変換する。これは、図12に示すように、偽否定および偽肯定を極力抑えるための、理にかなった、数学的に扱いやすい手法である。偽陰性および偽陽性双方を最適化する閾値を選択し、予測に対して最良の感度および特定性が得られるようにするのが通例である。
【0140】
感度=真の肯定(TP)/(TP+FN)
特定性=TN/(TN+FP)
肯定予測値(PPV)=TP/(TP+FP)
否定予測値(NPV)=TN/(TN+FN)
しかしながら、治療段階によっては、偽陰性が増大することになっても、偽陽性の減少のために最適化することが望ましい場合もある。例えば、医療要員が最初に患者の脇に到着したとき、いくつかの研究において、多くの患者にとって、ある時間期間、通例2から3分程度を費やして、胸部加圧や人工呼吸のような心肺蘇生を、除細動の前に行うことが有効であることが示されている。これは「CPR−最初」といつ言葉で表されており、10年以上の間心拍停止の蘇生がどのように教えられて来たかということに反している。この方法に伴う1つの困難は、心拍停止の開始が近い程、通例では約4分以下では、心拍停止の犠牲者にとって、最初に除細動を行うことがこの種の患者にとってより効き目がある治療であることが診療データによって示唆されていることである。この場合、「真の否定」は、予測因子(または測定したパラメータ)が閾値未満であり、成果が除細動不成功であった場合である。心室細動を変換するために除細動が必要であるが、有効なCPRを施術せずに不必要に衝撃を与えることは有害であり、生存の機会を減らすことになるので、偽否定グループの患者数をできるだけ少なくすることが重要である。何故なら、これらの患者は、CPR−最初(CPR-first) に実施するよりも、最初に衝撃を与えた方がよかった患者であるからである。13から15の範囲の閾値を選択すると、否定予測値(NPV)がほぼ100%となる。したがって、救命隊員は、除細動よりもCPRの方が効果がある可能性が非常に高かった患者にはCPR−最初のみを行う。
【0141】
一方、後の治療段階(蘇生における後の方)では、除細動衝撃不成功の後では、連続的なCPRは患者の生存に対して非常に重要となる。したがって、救命隊員に、不成功に終わる潜在的な可能性がある除細動を行うのを中止させることは望ましくない。この蘇生状態では、偽陽性を最小限に減らすことは最も重要となる。閾値を約20に高めることにより、肯定的予測値(PPV)はほぼ100%となる。
【0142】
特定の閾値を設定することができる他の治療段階は、不全収縮、心室細動、心室頻脈、または無脈拍電気的活動のような、患者のECG調律状態に基づくことができる。
【0143】
また、例えば、患者の胸骨に取り付けた加速度計に基づくセンサを監視することによって、または、ゾール・メディカル社(MA州、チェルムスフォード)が製造するAED Pro除細動器がおこなうように、患者の経胸腔インピーダンスを測定することによって、救命隊員が胸部加圧または通気をおこなっているか否か検出する手段を装置に設けるこ
とによって、治療段階を判断することもできる。
【0144】
また、治療段階は、救命隊員が装置に入力するデータから判断することができる。また、装置は、救命隊員に処置データをリアルタイムに装置に入力させる手段を有することもできる。かかるデータは、以下の処置が患者に対しておこなわれたか否かを含む(しかし、これらには限定されない)。即ち、エピネフリンまたはその他の血管昇圧剤、レヴォシメンダン(levosimendan)、アスパルテート、グルコース、挿管法、外部胸部加圧装置、グルコースである。処置データの入力は、ゾール・メディカル社(MA州、チェルムスフォード)のMシリーズまたはEシリーズ除細動器上におけるように、施錠手段(keying means)によってもよい。ペーシングおよび除細動のような処置モードは、回転機会動作ダイアルまたはノブがあって、ペーシング、監視、または除細動のように、ユニットを相互除外動作モードに設定すれば、区別することができる。他のモードには、流体注入または通気を含むこともできる。
【0145】
状態遷移行列は、マルコフ・モデルおよび調節した閾値、ならびにマルコフ・モデル推定に基づいて適用した異なる重み係数を用いて作成することができる。即ち、一連の医療介入および処置に対する患者の反応を、隠れマルコフ・モデル(HMM)としてモデル化し、1組の状態Q、出力アルファベットO、遷移確率A、出力確率B、および初期状態確率Πを有する有限状態機会の変種として定義する。現状態は観察可能でない。代わりに、各状態が、ある確率(B)を有する出力を生成する。通常、状態Qおよび出力Oがわかるので、HMMはトリプルλ=(A、B、Π)と言われる。出力アルファベットの各値Oには、一意に閾値および係数集合を与えることができる。
【0146】
【数22】

【0147】
非公式には、Aは、現在の状態をqとしたときに、次の状態がqとなる確率である。
【0148】
【数23】

【0149】
非公式には、Bは、現在の状態をqとしたときに出力がok となる確率である。
【0150】
【数24】

【0151】
順方向−逆方向およびバウム−ウェルチ(Baum-Welch)アルゴリズムをデータベース上で実行して、HMMを構築する。グローバルHMMを、ペーシング、除細動のような各モード毎に、特定のHMMと共に全ての医療モードについて作成する。
【0152】
順方向−逆方向アルゴリズムは、以下のように概説することができる。
【0153】
α値を次のように規定する。
【0154】
【数25】

【0155】
尚、
【0156】
【数26】

【0157】
であることに注意のこと。
【0158】
アルファ値によって、問題1を解くことが可能となる。何故なら、細分化(marginalizing) によって、次の式が求められるからである。
【0159】
【数27】

【0160】
以下のようにβ値を定義する。
【0161】
【数28】

【0162】
1.順(α)値を計算する。
【0163】
【数29】

【0164】
2.逆(β)値を計算する。
【0165】
【数30】

【0166】
バウム−ウェルチ・アルゴリズムは、次のように概説することができる。
【0167】
時点tにおいて状態q_iにあり、t+1において観察シーケンスおよびモデルが与えられると、q_jに移行する軌跡の確率。
【0168】
【数31】

【0169】
これらの確率は、順逆変数を用いて計算することができる。
【0170】
【数32】

【0171】
tにおいて観察シーケンスおよびモデルが与えられたときに、q_iにある確率。
【0172】
【数33】

【0173】
細分化によって求めるものは、
【0174】
【数34】

【0175】
尚、
【0176】
【数35】

【0177】
そして、
【0178】
【数36】

【0179】
であることに注意のこと。
【0180】
アルゴリズムは次の通りである。
【0181】
1.初期パラメータλを任意に選択する。
【0182】
2.パラメータを再度推定する。
【0183】
【数37】

【0184】
ここで、o_t=kであれば、1_{o_t=k}=1、それ以外の場合0である。
【0185】
3.
【0186】
【数38】

【0187】
とする。
【0188】
4.
【0189】
【数39】

【0190】
5.
【0191】
【数40】

【0192】
バウム−ウェルチ・アルゴリズムによって計算した状態遷移確率に基づいて、ビタビ・アルゴリズムを用いて、ユーザが入力する今後の一連の医療介入の最良の推定を得ることができる。
【0193】
ビタビ・アルゴリズムは、次のように概説することができる。
【0194】
1.初期化:
【0195】
【数41】

【0196】
2.再帰
【0197】
【数42】

【0198】
3.終了
【0199】
【数43】

【0200】
4.再生
【0201】
【数44】

【0202】
得られる軌跡、
【0203】
【数45】

【0204】
は、次に可能性のある介入を、以前のシーケンスに基づいて予測する。 以上に記載したもの以外にも、本発明のその他の多くの実施態様は、特許請求の範囲に規定した本発明に該当することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心拍停止の患者にとって、いかなる処置が適切であるかを自動的に判定することができるAEDにおいて、
患者に電気的治療を与えるための電気治療パッドを備え、
前記電気治療パッドには前記電気治療パッドよりも小さな直径を有するECG電極が埋め込まれており、
小さな直径を有する前記ECG電極は前記治療電極からのECG信号によって生成される監視ベクトルに概ね直交するような少なくとも1つのさらなる電気ベクトルを与える、AED。
【請求項2】
前記少なくとも1つのさらなる電気ベクトルと、前記監視ベクトルとのベクトル和は、AEDがいかなる処置が適切であるかを判定する際に用いることができる経時的な軌跡を与える、請求項1に記載のAED。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−189139(P2011−189139A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93356(P2011−93356)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【分割の表示】特願2005−139203(P2005−139203)の分割
【原出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(504242032)ゾール メディカル コーポレイション (42)
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
【Fターム(参考)】