説明

EGR率測定装置

【課題】EGR率の測定精度を向上させるとともに、装置の小型化や省力化を図る。
【解決手段】水分影響補正機能を有し、水分を含んだガスのCO濃度を測定可能な一対の非分散型赤外線ガス分析計11、12と、内燃機関EGの吸気管INTに接続されて、水分を除去することなく、吸気の一部を一方の非分散型赤外線ガス分析計11に導く吸気導入ラインL1と、内燃機関EGの排気管EXTに接続されて、水分を除去することなく、排気の一部を他方の非分散型赤外線ガス分析計12に導く排気導入ラインL2と、前記導入ラインL1、L2の全部及び非分散型赤外線ガス分析計11、12の温度を結露が生じない温度に保つ温度調整機構とを具備し、前記吸気導入ラインL1及び排気導入ラインL2の流路長を含む構成を等しく設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気再循環システム(EGRシステム)を有した内燃機関におけるEGR率、すなわち、排気管からのガス再循環量と再循環量も含めた吸気量との比率を測定するEGR率測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EGR装置は、図4に示すように、内燃機関EGの排気管EXTと吸気管INTとを繋ぐ還流路Rを設けて、排気を吸気に還流することにより燃焼温度を下げ、NOを低減するものである。そして、特許文献1に示すように、その還流量をEGRバルブVによって制御し、内燃機関EGの燃焼最適化を図るためのパラメータとしてEGR率と呼ばれるものが知られている。
【0003】
このEGR率とは、排気管EXTからのガス再循環量と再循環量も含めた吸気量との比率であり、吸気側CO濃度及び排気側CO濃度を測定し、その測定値から次式(1)によって算出することができる。
EGR=([CO2]int-[CO2]amb)/([CO2]ext-[CO2]amb)・・・(1)
EGR:EGR率
[CO2]int:吸気側のCO濃度
[CO2]ext:排気側のCO濃度
[CO2]amb:吸入新気(大気)中のCO濃度
ここで、[CO2]ambを無視すれば、簡易には次式(2)でもEGR率を算出できる。
EGR=[CO2]int/[CO2]ext・・・(2)
【0004】
このとき、CO濃度の水分による干渉影響を排除するため、サンプリングラインからCO分析計に至るまでの途中に除湿器を設け、サンプルガスを除湿するようにしている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−69690
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エンジンエミッション計測ハンドブック(山海堂)132頁〜133頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、除湿のためのクーラやそのための配管が必要となるため、装置が大型化するだけでなく、サンプルポイントから分析計までの配管長が長くなって測定の応答性が悪くなる。そのため、吸気側のCO測定値と排気側のCO測定値との間でトランジェント誤差がでやすくなり、測定精度に悪影響を及ぼす。また、除湿の際に排出される水分中にガス中のCOが溶け込んで測定誤差を引きおこすこともある。
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、その主たる目的はEGR率の測定精度を向上させるとともに、装置の小型化や省力化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係るEGR率測定装置は、内燃機関の燃焼室に導入される吸気中のCO濃度及び燃焼室から排出される排気中のCO濃度に基づいて当該内燃機関のEGR率を測定するものであって、
水分影響補正機能を有し、水分を含んだガスのCO濃度を測定可能な一対の非分散型赤外線ガス分析計と、内燃機関の吸気管に接続されて、水分を除去することなく、吸気の一部を一方の非分散型赤外線ガス分析計に導く吸気導入ラインと、内燃機関の排気管に接続されて、水分を除去することなく、排気の一部を他方の非分散型赤外線ガス分析計に導く排気導入ラインと、前記導入ラインの全部及び非分散型赤外線ガス分析計の温度を結露が生じず、かつ非分散型赤外線ガス分析計の温度の方が導入ラインの温度のよりも高くなるように保つ温度調整機構とを具備していることを特徴とする。
【0009】
また、トランジェント測定時であっても応答速度補正などすることなく、ダイレクトに正確な測定値を出力できるようにするには、前記吸気導入ライン及び排気導入ラインの流路長を含む構成を等しく設定したものが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
かかる構成の本発明によれば、サンプルポイントから分析計までの全てを保温して結露を防止しているので、結露によるCO濃度の測定誤差が生じ得ない。また、吸気管あるいは排気管のサンプルポイントからCO濃度計測器である赤外線ガス分析計に至るまでの吸気導入ライン及び排気導入ライン上に除湿器やドレンなどの水分除去機構が一切無いため、その流路長を可及的に短くでき、応答性を向上できる。
その結果、同時期の排気及び吸気のCO濃度をトランジェント誤差なく取得でき、EGR率の測定精度を向上させることが可能になる。また、流路長を短くできることは、コンパクト化や軽量化に寄与するうえ、サンプル流量を小さくできることからポンプ容量を小さくできるなど、コストダウンも促進できる。
さらに、単純に温度を上げただけでは、分析計において種々の成分の顕出等による汚れが生じ得るが、本発明では、分析計の温度のみを他の部分よりも高く設定しているので、その問題を回避して測定精度を担保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態におけるEGR率測定装置の全体模式図。
【図2】同実施形態における装置筐体の外観図。
【図3】同実施形態における筐体内の流体回路図。
【図4】EGR率測定方法を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係るEGR率測定装置100は、図1に示すように、内燃機関EGの燃焼室Fに導入される吸気中のCO濃度及び該燃焼室Fから排出される排気中のCO濃度に基づいて、当該内燃機関EGのEGR率を測定するものである。
【0014】
具体的にこのものは、前記吸気中のCO濃度を測定する第1分析計11及び排気中のCO濃度を測定する第2分析計12と、内燃機関EGの吸気管INTに接続されてその吸気の一部を前記第1分析計11に導く吸気導入ラインL1と、内燃機関EGの排気管EXTに接続されてその排気の一部を前記第2分析計12に導く排気導入ラインL2と、各導入ラインL1、L2及び各分析計11、12の温度を一定以上に保つ温度調整機構81a〜81c、82a〜82cとを具備したものである。
各部を説明する。
【0015】
第1分析計11及び第2分析計12は、図1、図2、図3に示すように、直方体状をなす中空の筐体9に収容されている。そして、特開2003−172700に示すように、例えば、CO、CO、HOそれぞれの特性吸収帯域での光吸収度を測定し、その結果に水分干渉並びに水分共存影響補正を施してCO及びCO濃度を算出する非分散型赤外線ガス分析計である。かかる分析計11、12は、水分を含んだガス(WETガス)でも精度よくCO濃度やCO濃度を算出することができる特徴を有する。
【0016】
前記吸気導入ラインL1は、前記吸気管INTにおける循環路Rとの合流点よりも下流に設定したサンプルポイントS1から第1分析計11までの間を接続する配管P1と、その配管P1上に設けた種々の流体機器とからなるものである。
【0017】
前記配管P1は、前記サンプルポイントS1と筐体9に設けた吸気導入ポート91との間を接続する外部配管P1aと、該吸気導入ポート91と第1分析計11との間を接続する内部配管P1bとから構成されている。
【0018】
流体機器は、前記内部配管P1b上に設けられて筐体9内に収容されており、ここでは、図3に示すように、上流から順に、開閉弁21、ガス内のオイルを除去するオイル除去フィルタ31、レギュレータ41、吸入ポンプ51、フィルタ61及び流量計71を設けている。なお、前記レギュレータ41はポンプ51の負荷を安定させて一定流量が保持されるようにするためのものである。
【0019】
排気導入ラインL2は、前記吸気導入ラインL1と同様の構成を有したものであり、排気管EXTにおける循環路Rとの合流点よりも上流に設定したサンプルポイントS2から第2分析計12までの間を接続する配管P2と、その配管P2上に設けた種々の流体機器とからなるものである。
【0020】
配管P2は、吸気導入ラインL1と同様、前記サンプルポイントS2と筐体9に設けた排気導入ポート92との間を接続する外部配管P2aと、前記排気導入ポート92と第2分析計12との間を接続する内部配管P2bとから構成されている。
【0021】
流体機器も、吸気導入ラインL1と同様、前記内部配管上に設けられて筐体9内に収容されている。具体的には、上流から順に、上流から順に、開閉弁22、オイル除去フィルタ32、レギュレータ42、吸入ポンプ52、フィルタ62及び流量計72である。
【0022】
しかして、この実施形態では、吸気導入ラインL1及び排気導入ラインL2における内外の配管長や配管径を互いに等しく設定し、また、各流体機器も均等にして各分析計11、12に導入される吸気及び排気の流量が互いに略等しくなるように構成している。
【0023】
さらに、前記配管P1、P2の全長及び流体機器21〜71、22〜72を、すべてヒータなどを有した温度調節機構81b、81c、82b、82cによって、水分の結露が生じない約90℃の温度に保つとともに、分析計11、12も同様に、温度調節機構81a、82aによって結露が生じない温度に保っている。なお、その温度は、前記配管等の温度と異なってそれよりも若干高い約120℃である。
【0024】
このように構成したEGR測定装置によれば、吸気管INTあるいは排気管EXTのサンプルポイントS1、S2からCO分析計11、12に至るまでの吸気導入ラインL1及び排気導入ラインL2上に、除湿器やドレンなどの水分除去機構が一切無いため、その流路長を可及的に短くでき、応答性を良好にして特にトランジェントでのEGR測定精度を向上させることが可能になる。また、このことは、コンパクト化や軽量化、コストダウンにも寄与し得る。
さらに吸気導入ライン及び排気導入ラインにおける配管長や配管径を略等しく設定しているので、トランジェント測定時であっても応答速度補正などすることなく、ダイレクトに正確な測定値を出力できる。
【0025】
また、前記導入ラインL1、L2の途中で不測の結露が生じると、そこでCO濃度が変動して正確な測定が難しくなるところ、この構成では、該導入ラインL1、L2の全行程に亘って結露が生じないように温調されているので、その不具合も生じ得ない。
【0026】
また、分析計11、12での温度を他よりも若干高く設定しているので、分析計11、12の汚れ防止等も確実に図ることができる。
【0027】
なお本発明は前記実施形態に限られるものではなく、その他、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0028】
EG・・・内燃機関
F・・・燃焼室
INT・・・吸気管
EXT・・・排気管
100・・・EGR率測定装置
11、12・・・非分散型赤外線ガス分析計
L1・・・吸気導入ライン
L2・・・排気導入ライン
81a〜81c、82a〜82c・・・温度調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室に導入される吸気中のCO濃度及び燃焼室から排出される排気中のCO濃度に基づいて当該内燃機関のEGR率を測定するものであって、
水分影響補正機能を有し、水分を含んだガスのCO濃度を測定可能な一対の非分散型赤外線ガス分析計と、
内燃機関の吸気管に接続されて、水分を除去することなく、吸気の一部を一方の非分散型赤外線ガス分析計に導く吸気導入ラインと、
内燃機関の排気管に接続されて、水分を除去することなく、排気の一部を他方の非分散型赤外線ガス分析計に導く排気導入ラインと、
前記導入ラインの全部及び非分散型赤外線ガス分析計の温度を結露が生じず、かつ非分散型赤外線ガス分析計の温度の方が導入ラインの温度のよりも高くなるように保つ温度調整機構とを具備していることを特徴とするEGR率測定装置。
【請求項2】
前記吸気導入ライン及び排気導入ラインの流路長を含む構成を等しく設定したことを特徴とする請求項1記載のEGR率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132936(P2011−132936A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295710(P2009−295710)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】