説明

Eu含有無機化合物、これを含む発光性組成物と発光体、固体レーザ装置、発光装置

【課題】多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物において、Euドープ量と発光特性との関係を明らかにして、Euドープ量を好適化する。
【解決手段】本発明のEu含有無機化合物は、母体ガーネット型化合物に対してEuがドープされて固溶化された多結晶構造のEu含有無機化合物において、ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量が0.5モル%超50.0モル%以下であることを特徴とするものである。ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量は、5.0〜30.0モル%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母体ガーネット型化合物に対してEuがドープされて固溶化されたEu含有無機化合物及びこれを含む発光性組成物と発光体、並びにこの発光体を用いた固体レーザ装置と発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、発光中心イオンとしてEuのみをドープした固体レーザ結晶からなる固体レーザ媒質と、この固体レーザ媒質を励起する励起光源とを備えた固体レーザ装置が開示されている。かかる構成の固体レーザ装置では、可視域の波長579〜599nmのレーザ光を発振させることができる。また、特許文献1には、波長変換素子を備えることで、例えば589nmの発振光を波長変換して295nmの紫外レーザ光を得る構成が開示されている。
【0003】
特許文献1及び2には、Euドープ量について具体的に記載がなく、Euドープ量と発光特性との関係、及びEuドープ量の好適化等については記載がない。
【0004】
また、「結晶」といった場合には特に明記されていない限り単結晶を意味すると判断するのが妥当な解釈であり、特許文献1及び2には、多結晶について記載がない以上、単結晶固体レーザ媒質のみが記載されていると解釈される。
【0005】
Euをドープする母体化合物としては、熱的安定性に優れる等の理由から、YAl12(YAG)等のガーネット化合物が候補材料として挙げられる。
【0006】
表1に、EuドープYAG(Eu:YAG)の単結晶と多結晶セラミックスに関する基礎研究の公知文献リスト(非特許文献3〜17)を挙げる。この表には、文献に記載されているEuドープ量(特に明記していない限り、単位はモル%)を合わせて示してある。表中、非特許文献5のみが多結晶セラミックス(透明セラミックス)に関する研究であり、その他の非特許文献はすべて単結晶に関する研究である。
上記リストに示されるように、Eu:YAGに関する基礎研究は数が少なく、その多くも単結晶に関するものである。
【0007】
非特許文献3を除き、10モル%超の単結晶Eu:YAGは報告されていない。非特許文献3では、フラックス法により約0.5〜約65モル%の単結晶Eu:YAGが作製されている。非特許文献3では、それらの発光特性の評価が行われており、図3に、Euドープ量と591nmの蛍光強度との関係を示すグラフが記載されている。励起光については、「長波長紫外線」と記載されているだけで具体的な波長は不明であるが、「UV−A」と称される315〜400nmの紫外光と推測される。
【0008】
非特許文献3図3のEuドープ量は、単位がモル%ではないので、本発明と比較しやすくするため、図15(b)に、非特許文献3のデータの単位をモル%に換算して、本発明の後記実施例1のデータと共にプロットしてある。この図から、非特許文献3のデータでは、0.5〜65モル%の広範囲に渡って発光が見られ、ドープ量は10モル%が最適となっている。
【0009】
非特許文献3には上記のように高濃度Euドープが報告されているが、その後の研究において10モル%超の単結晶Eu:YAGは報告されていないように、高濃度ドープの単結晶Eu:YAGを製造することは難しい。これは、YAGにEuをドープする場合、AサイトのY3+イオンの一部をEu3+に固溶置換することになるが、Y3+のイオン半径に対してEu3+のイオン半径が大きいためである。
【0010】
ガーネット型化合物に含まれる希土類のイオン半径と格子定数との関係を、図20に示す。図20は、本発明者が、米国International Centre for Diffraction Data(ICDD)の公開データ及び非特許文献1に記載のデータを中心に整理したものである。
【0011】
図20には、希土類アルミニウムガーネット型化合物(REAl12)においては、希土類のイオン半径が0.106nm以下の化合物しか存在せず、それよりイオン半径の大きいEu,Sm,Nd,Pr,Ce,Laを含む化合物は報告されていないことが示されている。この図から、イオン半径の大きいEuをYAG中に固溶させることが、困難であることが示されている。
【0012】
図21に、非特許文献2等に記載されている、YAGにドープする希土類イオンのイオン半径と偏析係数との関係を示す図を挙げておく。この図にEuのイオン半径を当てはめれば、YAGにEuをドープする際の偏析係数は非常に小さく、0.5程度である。
【0013】
上記理由から高濃度ドープの単結晶Eu:YAGは製造が難しく、高濃度ドープの単結晶Eu:YAGを製造できるとしても、所望の組成を安定的に得ることは難しく、製造コストも高くなる。
【0014】
高濃度ドープ容易性及び製造コストを考慮すれば、多結晶構造が好ましい。先に述べたように、表1に挙げたリストでは非特許文献5のみが多結晶Eu:YAGに関する研究であり、Euドープ量0.5モル%のみが記載されている。
【特許文献1】特開2002−344049号公報
【特許文献2】特開2002−353542号公報
【非特許文献1】C. D. Brandle, et al., J. Cryst. Growth 20 (1973) 1-5
【非特許文献2】池末明生ら、レーザー研究、第27巻、第9号 (1999) 593-598
【表1】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記したように、多結晶Eu:YAGに関する研究自体がほとんどなされておらず、多結晶Eu:YAGでは、非特許文献5において、Euドープ量0.5モル%のみが報告されているにすぎない。この文献には、単純な発光データなどが記載されているだけで、Euドープ量と発光特性との関係、Euドープ量の好適化等については研究がなされていない。また、Eu:YAGの基礎研究である非特許文献3〜17には、単結晶構造と多結晶構造のいずれについても、固体レーザ媒質等への応用については一切記載がなされていない。
以上の事情は、Eu:YAGに限らず、母体ガーネット型化合物に対してEuをドープする系全般に言えることである。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物において、Euドープ量と発光特性との関係を明らかにして、Euドープ量を好適化することを目的とするものである。本発明はまた、Euドープ量の好適化により、発光特性に優れた多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物を提供すること、及びこれを用いた発光体と固体レーザ装置と発光装置を提供することを目的とするものである。
【0017】
本発明はまた、Euドープの系に限らず、任意の発光性希土類元素を含む、単結晶構造又は多結晶構造の発光性無機化合物の新規な材料設計思想を提供し、この材料設計思想に基づいて設計された発光性無機化合物とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のEu含有無機化合物は、母体ガーネット型化合物に対してEuがドープされて固溶化された多結晶構造のEu含有無機化合物において、ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量が0.5モル%超50.0モル%以下であることを特徴とするものである。ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量は、5.0〜30.0モル%であることが好ましい。
【0019】
本明細書では、単に「Euドープ量」と記載している箇所もあるが、すべてガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量を意味しているものとする。
【0020】
本発明のEu含有無機化合物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xEuB(III)C(III)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,Sc,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Cサイトの元素であり、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0021】
本発明のEu含有無機化合物が上記一般式で表されるガーネット型化合物である場合、前記母体ガーネット型化合物としては、YAl12が挙げられる。
【0022】
本発明の第1の発光性無機化合物は、
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
前記発光性希土類元素のドープ量が、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲内に設定されていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の第2の発光性無機化合物は、
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが、前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する範囲内における前記発光性希土類元素の最大ドープ量をNeモル%としたとき、前記発光性希土類元素のドープ量が、0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲内に設定されていることを特徴とするものである。
【0024】
本発明の第1、第2の発光性無機化合物は、単結晶構造でも多結晶構造でもよい。
【0025】
本発明の発光体は、上記の本発明のEu含有無機化合物、若しくは上記の本発明の発光性無機化合物を含み、所定の形状に成形された成形体からなることを特徴とするものである。
【0026】
上記の本発明のEu含有無機化合物又は上記の本発明の発光性無機化合物が、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質である場合、本発明の発光体を固体レーザ媒質として利用でき、下記本発明の固体レーザ装置を提供することができる。
【0027】
本発明の固体レーザ装置は、励起光により励起されてレーザ光を発振する上記の本発明の発光体からなる固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に前記励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【0028】
本発明の発光装置は、上記の本発明の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物において、Euドープ量と発光特性との関係、及び好適なEuドープ量を明らかにした。本発明では、従来報告されていないEuドープ量0.5モル%超50.0モル%以下の多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物を実現し、特に5.0〜30.0モル%の範囲内において高い発光強度が得られることを明らかにした。本発明では、Euドープ量の好適化により、発光特性に優れた多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物を実現した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明について詳述する。
【0031】
「Eu含有無機化合物」
本発明者は、多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物において、ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量と発光特性との関係について研究を行った結果、0.5モル%超50.0モル%以下のEuドープ量を実現し、特に5.0〜30.0モル%の範囲内において高い発光強度が得られることを見出した(実施例1の図15(a)を参照)。
【0032】
すなわち、本発明のEu含有無機化合物は、母体ガーネット型化合物に対してEuがドープされて固溶化された多結晶構造のEu含有無機化合物において、ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量が0.5モル%超50.0モル%以下であることを特徴とするものである。ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量は、5.0〜30.0モル%であることが好ましい。
【0033】
本発明のEu含有無機化合物においては、発光中心イオンとしてEu以外の元素を共ドープしなくても、良好な発光特性が得られる。したがって、発光中心イオンとして、実質的にEuのみを含むことができる。
本発明のEu含有無機化合物は、不可避不純物を含んでいてもよい。「発光中心イオンとして実質的にEuのみを含む」とは、不可避不純物を除けば、発光中心イオンとしてEuのみを含むことを意味する。ただし、必要に応じて、発光中心イオンとして、Eu以外の元素を共ドープすることは差し支えない。
【0034】
本発明のEu含有無機化合物では、Euドープ量0.5モル%超50.0モル%以下の全範囲において単相構造を得ることができる(実施例1の図8を参照)。ただし、特性上支障のない範囲内で異相を含むものであってもよい。
【0035】
本発明のEu含有無機化合物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xEuB(III)C(III)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,Sc,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Cサイトの元素であり、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0036】
上記式中、xはEuモル数を示す数値であり、この値はEuドープ量に応じて決まる。すなわち、Euドープ量0.5モル%超50.0モル%以下は、0.005<x≦0.5に相当する。Euドープ量5.0〜30.0モル%は、0.05≦x≦0.3に相当する。
【0037】
本発明のEu含有無機化合物が上記一般式で表されるガーネット型化合物である場合、母体ガーネット型化合物としては、YAl12(YAG)等が挙げられる。
【0038】
本発明では、多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物において、Euドープ量と発光特性との関係、及び好適なEuドープ量を明らかにした。本発明では、従来報告されていないEuドープ量0.5モル%超50.0モル%以下の多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物を実現し、特に5.0〜30.0モル%の範囲内において高い発光強度が得られることを明らかにした。本発明では、Euドープ量の好適化により、発光特性に優れた多結晶構造のガーネット型Eu含有無機化合物を実現した。
【0039】
本発明のEu含有無機化合物は、多結晶構造であるので、単結晶構造のものに比較して、高濃度ドープが容易で製造コストも安価である。
【0040】
本発明のEu含有無機化合物は、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質であり、固体レーザ媒質等の種々の用途に使用できる。
【0041】
本発明のEu含有無機化合物は、既存の光源(GaN系半導体レーザ又はZnO系半導体レーザ等)で励起可能であり、Euの高濃度ドープが可能であり、高濃度ドープしても発光強度の減衰が小さく(濃度消光が小さく)、蛍光寿命も充分であり、固体レーザ媒質等として有用である(実施例1を参照)。
【0042】
「発光性無機化合物」
本発明者はまた、ガーネット型Eu含有無機化合物では、
(R1)励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すること、
(R2)Euドープ量を変えて、波長470nm以下の複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/PwがEuドープ量に無関係に略一定となるEuドープ量の範囲が存在すること、
(R3)発光強度の高いEuドープ量の範囲は、Euドープ量が、光吸収強度比Pf/PwがEuドープ量に無関係に略一定となるEuドープ量の範囲と一致していることを見出した(実施例1の図16を参照)。
【0043】
本発明者はまた、Euドープガーネット化合物では、
(R4)Euドープ量を変えて、波長470nm以下の複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが、Euドープ量に対して略比例するEuドープ量の範囲が存在すること、
(R5)発光強度の高いEuドープ量の範囲は、光吸収強度比Pf/PwがEuドープ量に対して略比例する範囲内におけるEu最大ドープ量をNeモル%としたとき、Euドープ量が、0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲と一致していることを見出した(実施例1の図16を参照)。
【0044】
本発明者は、上記知見(R1)〜(R5)は、ガーネット型Eu含有無機化合物に限らず、発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む任意の発光性無機化合物の材料設計に応用できると考え、以下の発光性無機化合物及びその製造方法を発明した。
【0045】
本発明の第1の発光性無機化合物は、
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
前記発光性希土類元素のドープ量が、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲内に設定されていることを特徴とするものである。
【0046】
本明細書において、「光吸収強度比Pf/Pwが発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在する」とは、下記(要件1)及び(要件2)を充足することにより定義するものとする。
(要件1)上記ドープ量の範囲では、いずれのドープ量においても光吸収強度比Pf/Pwが、このドープ量の範囲の光吸収強度比Pf/Pwの最大値に対して90〜100%の範囲に収まっていること。
(要件2)上記要件1を充足するドープ量の範囲が10モル%以上の範囲に渡っていること。
【0047】
本発明の第2の発光性無機化合物は、
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが、前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する範囲内における前記発光性希土類元素の最大ドープ量をNeモル%としたとき、前記発光性希土類元素のドープ量が、0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲内に設定されていることを特徴とするものである。
【0048】
以下、本明細書における上記Neモル%の求め方について、具体的に説明する。
発光性希土類元素のドープ量が0.1モル%以上の領域において、発光性希土類元素のドープ量を横軸に、光吸収強度比Pf/Pwを縦軸にプロットした際の、横軸のドープ量の各濃度点を低濃度側から順にn1、n2、n3、・・・(Δn=n(m+1)−n(m)=1.0モル%、mは正の整数)とする。
はじめに、n1、n2、n3の3点について最小二乗法により直線近似を行い、これについて下記式で表されるポアソンのR値を求める。次に、n1、n2、n3、n4の4点について同様の作業を行う。測定点数を増加させながら順次同様の計算を続け、ポアソンのR値が0.95を下回った時点の濃度値よりも1モル%低い濃度値を最大ドープ量Neとして求める。
ポアソンのR値 R=(NΣx−ΣxΣy)/(NΣ(x)−(Σx))1/2(NΣ(y−(Σy1/2
【0049】
本発明の第1の発光性無機化合物の製造方法は、
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物の製造方法において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
前記発光性希土類元素のドープ量を、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲内で決定することを特徴とするものである。
【0050】
本発明の第2の発光性無機化合物の製造方法は、
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物の製造方法において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが、前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する範囲内における前記発光性希土類元素の最大ドープ量をNeモル%としたとき、前記発光性希土類元素のドープ量を、0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲内で決定することを特徴とするものである。
【0051】
本発明の第1、第2の発光性無機化合物及びその製造方法では、発光性希土類元素の種類は任意であり、Eu、Tb等が挙げられる。また、本発明の第1、第2の発光性無機化合物の結晶構造は、単結晶構造でも多結晶構造でもよい。
【0052】
本発明の第1、第2の発光性無機化合物及びその製造方法は、任意の発光性希土類元素を含む発光性無機化合物の新規な材料設計思想を提供するものである。この材料設計思想に基づいて発光性希土類元素のドープ量を決定することで、発光特性に優れた発光性無機化合物を提供することができる。
【0053】
「本発明の発光性組成物」
本発明の発光性組成物は、上記の本発明のEu含有無機化合物、若しくは本発明の発光性無機化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光性組成物は必要に応じて、本発明の化合物以外の任意成分(例えば、樹脂等)を含むことができる。
【0054】
「発光体」
本発明の発光体は、上記の本発明のEu含有無機化合物、若しくは本発明の発光性無機化合物を含み、所定の形状に成形された成形体からなることを特徴とするものである。
本発明の発光体は、固体レーザ媒質等として利用できる。
【0055】
本発明の発光体の態様としては、本発明の化合物の構成成分を含む1種若しくは2種以上の粉末(焼結用粉末)が所定の形状に成形された粉末成形体を焼結させてなる多結晶焼結体が挙げられる。本発明では、プロセス等を工夫することで、固体レーザ媒質等として利用可能な透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)を製造することができる。
【0056】
多結晶焼結体は、必要に応じて、切削等による所望の形状(角柱状等)への加工、端面研磨(レーザグレードの光学研磨等)等を経て、固体レーザ媒質等に使用される。
【0057】
多結晶焼結体は例えば、通常の固相反応セラミックス法により本発明の化合物の構成成分を含む焼結用粉末を調製し、焼結用粉末の圧縮成型等により粉末成形体を得、この粉末成形体を焼結することで、製造できる(詳細なプロセス例は実施例1、2を参照)。必要に応じてSiO等の焼結助剤を用い、真空焼結を行うことで、透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)を製造することができる。透明性を考慮すれば、焼結助剤の使用は少ない方が好ましい。
【0058】
焼結用粉末は、通常の固相反応セラミックス法とは異なる方法でも調製することができる。例えば、水熱合成法やアルコキシドエマルジョン法等の他の方法により本発明の化合物の構成成分を含む焼結用粉末を調製することができる。
【0059】
通常の固相反応セラミックス法により得られる焼結用粉末は、粒子のサイズ及び形状は不均一(ランダム)である。かかる焼結用粉末を焼結させて得られる多結晶焼結体の走査型電子顕微鏡(SEM)断面写真の一例を図1(a)に示す。図には、結晶粒のサイズ及び形状が不均一(ランダム)な様子が示されている。
【0060】
これに対して、水熱合成法やアルコキシドエマルジョン法等では、略同一サイズかつ略同一形状の多数の粒子からなる焼結用粉末を調製することができる。かかる焼結用粉末を用いて焼結を行うことで、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなる多結晶焼結体を製造することができる。結晶粒のサイズと形状の均一性が高いので、均質で透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)が得られる。
【0061】
アルコキシドエマルジョン法では、例えば、略同一サイズの多数の略球状の粒子からなる焼結用粉末(粒径は、例えば0.2〜0.8μm程度)を調製することができる(実施例3を参照)。
【0062】
水熱合成法では、略同一サイズかつ略同一形状の多数の粒子からなり、粒子形状が、該粒子単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状である焼結用粉末(粒径は、例えば数〜20μm程度)を調製することができる(実施例4を参照)。かかる焼結用粉末を用いて焼結を行うと、個々の粒子が結晶粒となり、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が、該結晶粒単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状である多結晶焼結体を製造することができる。この方法では、粒界の割合が少なく、均質で空間充填率が高く、透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)が得られる。
【0063】
本明細書において、多数の結晶粒が「略同一サイズ」であるとは、多数の結晶粒の粒径が平均粒径±5%の範囲に収まることを意味するものとする。ここで、「平均粒径」は、結晶粒1個1個の直径(円/球換算)の相加平均である。
【0064】
単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体としては、立方体、図2(a)に示す切頂八面体(truncated octahedron、切頭八面体と称されることもある)、及び図2(b)に示す菱形十二面体(rhombic dodecahedron、斜方十二面体と称されることもある)が挙げられる。図3に、切頂八面体状の粒子が空間を充填していく様子を示す。この図には、該粒子単独で空間を略隙間なく充填可能であることが示されている。
【0065】
ガーネット型化合物を水熱合成する場合、得られる粒子の形状は反応時間等の反応条件によって異なる。反応時間以外の条件を同一条件とした場合、図4に示すように、得られる粒子の形状は、立方体状、切頂八面体状、菱形十二面体状と経時的に順次変化する。
【0066】
ガーネット型化合物を水熱合成する場合、切頂八面体状又は菱形十二面体状の粒子が得られやすい。したがって、水熱合成法により焼結用粉末を調製し、該焼結用粉末を用いて焼結を行うことで、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が切頂八面体状又は菱形十二面体状である多結晶焼結体を比較的容易に得ることができる。
【0067】
図1(b)に、結晶粒の形状が切頂八面体状であり、結晶粒のサイズと形状が揃った多結晶焼結体の断面イメージを記載しておく。ここでは図1(a)のランダム構造と比較しやすくするため、模式的に示してある。実際には、図3に示すように切頂八面体状の結晶粒が3次元的に組まれた構造であるので、1つの断面に正八角形状がきれいに並ぶことはない。縮尺も図1(a)とは異ならせてある。また、ここでは粒界を大きく図示してあるが、粒界の大きさは図1(a)と同様である。
【0068】
本発明の発光体の態様としては、多結晶焼結体の他に、粉末状の本発明の化合物(多結晶焼結体の粉砕物等)が(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂バインダやガラス等の固体媒質中に分散された成形体が挙げられる。
【0069】
「固体レーザ装置」
本発明の固体レーザ装置は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の発光体からなる固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【0070】
図5に基づいて、本発明に係る実施形態の固体レーザ装置の構造について説明する。端面励起型を例として説明する。
【0071】
本実施形態の固体レーザ装置10は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の発光体からなる固体レーザ媒質14と、固体レーザ媒質14に励起光を照射する励起光源である半導体レーザダイオード11とを備えたレーザダイオード励起固体レーザ装置である。
【0072】
半導体レーザダイオード11と固体レーザ媒質14との間に集光レンズ12が配置され、固体レーザ媒質14の後段に、出力光を選択的に透過する出力ミラー17が配置されている。固体レーザ媒質14は、一対の共振器ミラー13、16の間に配置されている。さらに、一対の共振器ミラー13、16の間には、非線形光学結晶体等の波長変換素子15が配置されている。
【0073】
本実施形態において、固体レーザ媒質14は、本発明で規定するEuドープ量(0.5モル%超50.0モル%以下、好ましくは5.0〜30.0モル%)の透明性に優れたEu:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜5いずれか)により構成され、必要に応じて、切削等による所望の形状への加工及び端面研磨(レーザグレードの光学研磨)が施されたものである。
【0074】
固体レーザ媒質14の形状は特に制限なく、円柱ロッド状、角柱ロッド状、ディスク状、及び角板状等が挙げられる。
【0075】
Eu:YAGは、300〜500nmの光によって励起されて可視域(400〜700nm)の蛍光を示すので、所望の発光波長に応じて、励起光源を選定すればよい。
【0076】
Eu:YAGの励起ピーク波長は例えば394nmである(実施例1の図11及び図14を参照)。励起光源である半導体レーザダイオード11としては、350〜480nmの範囲に発振ピーク波長を有する半導体レーザダイオードが好ましく用いられる。
【0077】
350〜480nmの範囲に発振ピーク波長を有する半導体レーザダイオードとしては、具体的には、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系半導体レーザダイオードが挙げられる。GaN系半導体レーザダイオードの活性層は、AlN/AlGaN,AlGaN/GaN,InGaN/InGaN,InAlGaN/InAlGaN等の多重量子井戸層や、AlGaN,GaN,InGaN等の量子ドット層が好ましく用いられる。
【0078】
350〜480nmの範囲に発振ピーク波長を有する半導体レーザダイオードとしては、ZnO系やZnSe系等のII-VI族化合物系半導体レーザダイオードも挙げられる。
【0079】
固体レーザ媒質14は、例えば、394nm光により励起されて、可視域の589nm光を発振する。
【0080】
波長変換素子15としては、BBO結晶やBIBO結晶等のSHG結晶が用いられる。固体レーザ媒質14から発振された589nm光は、波長変換素子15により、紫外域の240〜350nm光(例えば295nm光)に波長変換されて短波長化される。波長変換素子15は、一対の共振器ミラー13、16により構成される共振器構造の中に配置しても外に配置しても構わない。
【0081】
本実施形態の固体レーザ装置10は、以上のように構成されている。
【0082】
本実施形態の固体レーザ装置10では、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の化合物を含む発光体からなる固体レーザ媒質14を用いているので、発光特性に優れ、高輝度レーザ光を出力可能なものとなる。
【0083】
従来の固体レーザ装置では、例えば、発振ピーク波長808nmのGaAs系半導体レーザにより、Nd:YAG又はNd:YVOからなる固体レーザ媒質を励起して、1064nm光を発振させ、これを第1の波長変換素子により532nm光に波長変換し、さらに、この532nm光を第2の波長変換素子により355nm光又は266nm光に波長変換し、2段階の波長変換を経て紫外光を得ている。
【0084】
本実施形態の固体レーザ装置10では紫外光を得るために必要な波長変換は1回でよいので、従来の固体レーザ装置に比して、装置構成がシンプルで、光の利用効率の高い紫外光出力固体レーザ装置が得られる。
【0085】
本実施形態の固体レーザ装置10では、波長変換素子15を設けずに、固体レーザ媒質14から発振された可視域の589nm光を出力させる構成とすることもできる。
【0086】
Eu:YAGは複数の発振ピーク波長を有するので、固体レーザ媒質14から発振させるレーザ光の波長、及び固体レーザ装置10から出力する出力光の波長は、上記以外にも適宜変更可能である。
【0087】
(設計変更例)
本発明の固体レーザ装置は上記実施形態に限らず、装置構成は適宜設計変更可能である。
【0088】
例えば、図6(a)に示す如く、固体レーザ媒質14の1つの面に、複数のレーザダイオード11がアレイ状に並べて配置された面発光レーザアレイを取り付け、該面の対向面に反射ミラー18を配置し、固体レーザ媒質14の両端部に対向させて反射ミラー13と出力ミラー17とを略対称な関係で配置することで、ジグザグパススラブ固体レーザ装置を構成することができる。かかる構成では、反射ミラー13と固体レーザ媒質14の励起光入射面と反射ミラー18と出力ミラー17との間で共振器構造が構成されている。
【0089】
励起光源は、複数のレーザダイオード11がアレイ状に並べて配置された面発光レーザアレイの代わりに、複数のファイバレーザの先端部をアレイ状に並べて配置したものでもよい。
【0090】
図6(b)に示す如く、固体レーザ媒質14を、透明性に優れたEu:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜5のいずれか)を切削及び研磨等して得られる多面プリズムにより構成し、固体レーザ媒質14の1つの面に対向させて出力ミラー17を配置し、その他の面に対向させて複数の半導体レーザダイオード11を配置することで、レーザダイオード励起多面プリズム型固体レーザ装置を構成することができる。この例では、固体レーザ媒質14の励起光入射面14a〜14cに、励起波長の光を透過し出力波長の光を反射するコートがなされている。かかる構成では、固体レーザ媒質14自身が共振器構造を構成している。励起光源としては、複数の半導体レーザダイオード11の代わりに、複数のファイバレーザを用いてもよい。
【0091】
図6(a)、(b)に示す固体レーザ装置では、1個の固体レーザ媒質14を複数のレーザダイオード11により励起することができるので、高出力化が可能である。これらの例では、波長変換素子を配置していないが、上記実施形態と同様に、必要に応じて波長変換素子を配置することもできる。
【0092】
「発光装置」
本発明の発光装置は、上記の本発明の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【0093】
図7(a)に基づいて、本発明に係る実施形態の発光装置の構造について説明する。図7(a)は、回路基板22の厚み方向の断面図である。
【0094】
本実施形態の発光装置20は、円板状の回路基板22の表面中央に、励起光源である発光素子23が実装され、回路基板22上に発光素子23を囲むようにドーム状の発光体25が成形されたものである。
【0095】
発光体25を励起する励起光を出射する発光素子23は、半導体発光ダイオード等からなり、回路基板22にボンディングワイヤ24を介して導通されている。
【0096】
本実施形態では、発光体25は、本発明で規定するEuドープ量(0.5モル%超50.0モル%以下、好ましくは5.0〜30.0モル%)の透明性に優れたEu:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜5のいずれか)の粉砕物が、(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂バインダに分散された成形体である。
【0097】
発光体25は、本発明のEu:YAGの多結晶焼結体を乳鉢で粉砕して粉砕物を得、この粉砕物と(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂とを樹脂溶融状態で混練して混合物を得(例えば、Eu:YAG/PMMA樹脂=3/4(質量比))、発光素子23を実装した回路基板22を金型内に載置して射出成形を実施して、成形することができる。
【0098】
Eu:YAGは、350〜480nmの光によって励起されて可視域(400〜700nm)の発光を示すので、所望の発光波長に応じて、励起光源を選定すればよい。
【0099】
励起光源である発光素子23としては、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系半導体発光ダイオード(発振ピーク波長:360〜500nm)、ZnSSe系半導体発光ダイオード(発振ピーク波長:450〜520nm)、ZnO系半導体発光ダイオード(発振ピーク波長:360〜450nm)等が好ましく用いられる。
【0100】
本実施形態では、発光素子23からの出射光とは異なる色調の光が発光体25から発光され、発光素子23からの出射光と発光体25からの発光とが混ざり合った色の光が発光装置20から出射される。
【0101】
本実施形態の発光装置20は、本発明の化合物を含む発光体25を用いているので、発光特性に優れ、高輝度光を出力可能なものとなる。発光装置20は、白色発光ダイオード等として好ましく利用することができる。
【0102】
本発明の発光装置は上記実施形態に限らず、装置構成は適宜設計変更可能である。例えば、図7(b)に示す如く、発光体25を円板状に成形して、この発光体25の表面に実装ブロック26を突設して、この上に励起光源である発光素子23を実装する構成とすることができる。図7(b)は、発光素子23側から見た平面図である。かかる構成とすれば、回路基板22を用いずに発光装置を構成できるため、発光体25の両側(発光素子23側及びその反対側)、すなわち全方位から光を得ることができる。
【0103】
本発明の化合物、組成物、及び発光体は、固体レーザ装置や発光装置に限らず、種々の用途に利用することができる。
【実施例】
【0104】
本発明に係る実施例について説明する。
【0105】
(実施例1)
以下のようにして、YAG(YAl12)を母体化合物としてEuをドープしたEu:YAGの多結晶焼結体を調製した。Euドープ量を変えて下記計12種の試料を調製した(「%」はEuドープ量モル%を示す。)。
試料1:0.0%Eu:YAG、
試料2:1.0%Eu:YAG、
試料3:2.0%Eu:YAG、
試料4:3.0%Eu:YAG、
試料5:4.0%Eu:YAG、
試料6:5.0%Eu:YAG、
試料7:7.0%Eu:YAG、
試料8:10.0%Eu:YAG、
試料9:15.0%Eu:YAG、
試料10:20.0%Eu:YAG、
試料11:30.0%Eu:YAG、
試料12:50.0%Eu:YAG。
【0106】
はじめに、所望の組成となるよう、Y粉末(純度99.9%)、α−Al粉末(純度99.99%)、及びEu粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。例えば、1.0%Eu:YAG(試料2、Y/Euモル比=2.97/0.03)では、原料粉末組成を、Y粉末33.533g、α−Al粉末25.490g、及びEu粉末0.528gとした。
【0107】
上記の原料粉末とエチルアルコール100mlと10mmφアルミナボール150個とをポットミルに入れ、12時間湿式混合を行った。
【0108】
アルミナボールを取り除き、得られた混合粉末スラリー中のエチルアルコールをロータリーエバポレーターを用いて除去した後、100℃で12時間乾燥し、得られた乾燥粉末を乳鉢で軽くほぐした。得られた乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
【0109】
得られた圧縮成型体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0110】
常温まで冷却した仮焼結体を乳鉢で粉砕した。以上のようにして、通常の固相反応セラミックス法により、Eu:YAGの構成成分を含む焼結用乾燥粉末を得た。この焼結用乾燥粉末は、粒子のサイズ及び形状が不均一(ランダム)である。
【0111】
得られた焼結用乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1700℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施し、所望のEuドープ量のEu:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0112】
<粉末X線回折(XRD)測定>
試料1〜12を各々乳鉢で粉砕し、リガク社製X線回折装置にて粉末X線回折(XRD)測定を実施した。測定条件は、CuKα、40kV、40mA、スキャンスピード:0.5deg/min、受光スリット:0.15mmとした。主な試料のXRD測定結果を図8に示す。いずれも回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶) の回折ピークと完全に一致し、単相構造であることが確認された。このことは、Euをドープした試料2〜12では、投入したすべてのEuが母体化合物のYAG中に入って、AサイトのYがEuに良好に固溶置換されたことを示している。
【0113】
主な試料における高角度領域のXRD挙動を、図9に拡大して示す。Euドープ量の増加に伴って、回折ピークが低角度側にシフトし、格子が膨張していく様子が示されている。
【0114】
<格子定数>
本発明者は、上記XRD測定の結果から格子定数を求めた。すなわち、2θ=100〜150°におけるYAG立方晶の回折ピーク値を、接線法を用いて得、Nelson−Riley関数を用いて、正確な格子定数を算出した。算出された格子定数を図10に示す。
【0115】
Nelson−Riley関数は、式1/2(cosθ)(1/sinθ+1/θ)で与えられ、得られた値をx軸とし、Braggの回折条件から得られた格子定数aをy軸にプロットし、最小二乗法の直線のy切片の値を真の格子定数とするものである。
【0116】
図10には、Euドープ量0〜50モル%の全範囲において、Euドープ量の増加に伴って、格子定数が線形に増加していることが示されている。このことは、Euドープ量0〜50モル%の全範囲において、Vegard則に従って固溶置換が行われており、投入したすべてのEuが母体化合物のYAG中に入って、AサイトのYがEuに良好に固溶置換されたことを示している。
【0117】
Aサイト中のEu濃度x(モル%)と格子定数yとの相関関係式は下記のように求められた。
y=1.2006+0.0001345x
【0118】
本発明者は、希土類アルミニウムガーネット型化合物(REAl12)における希土類のイオン半径xと格子定数yの相関は、図20に示す如く、
格子定数y=0.9422+2.548x(xとyの単位はいずれも「nm」)であることを求めている。
上記式に、Eu3+(Aサイト)のイオン半径=0.1066nmを代入して、仮想的なガーネット型化合物EuAl12の格子定数を見積もると、1.21382nmとなる。この値は、図10において、Euドープ量を100モル%とした場合(YのEuによる完全置換)に求められる格子定数=1.21405nmに極めて近い値である。このことから、図10の評価が妥当であると言える。
【0119】
本明細書で言う「イオン半径」は、いわゆるShannonのイオン半径を意味している(R. D. Shannon, Acta Crystallogr., A32 (1976) 751.を参照)。
【0120】
<1.0%Eu:YAGの発光特性>
比較的低ドープ量の代表として、1.0%Eu:YAG(試料2)について、日立分光蛍光光度計F−4500を用いて、発光スペクトル(蛍光スペクトル)測定を行った。
【0121】
励起光の波長λexは、励起スペクトルを取ったときに最大発光強度を示す394nmとした。発光スペクトルを図11(a)に示す(図中、「×」で示してあるのは、励起光の高次光の漏れである。)。可視光域である400〜700nmの波長域に多数の発光ピークが見られ、589nmに最強発光ピークが見られた。
【0122】
次に、同試料について、励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長(589nm)の発光強度(蛍光強度)を示す励起スペクトル測定を行った。励起スペクトルを図11(b)に示す(図中、「×」で示してあるのは、励起光の高次光の漏れである。)。
【0123】
図11(b)に示す励起スペクトルでは、波長470nm以下に多数の励起ピークが見られ、波長470nm以下の複数の励起ピーク波長のうち、吸収が最も大きく1番目に高い蛍光強度を示す励起ピーク波長が394nmであり、吸収が次に大きく2番目に高い蛍光強度を示す励起ピーク波長が紫外域の240nmであった。このことは、394nm光と240nm光の励起によって、589nmの発光が得られることを示している。
【0124】
394nmは、GaN系やZnO系等の半導体レーザの発振波長域内にあるので、Eu:YAGの励起光源として既存の光源を使用できることが示された。
【0125】
参考のために、市販の1.0%Eu:YAG単結晶について、可視域での透過吸収スペクトルを、日立分光光度計U−13310を用いて測定した。結果を図12に示す。透過吸収スペクトルには、394nmに強い吸収が見られ、上記励起スペクトルと一致する結果が得られた。
【0126】
次に、1.0%Eu:YAG(試料2)の蛍光寿命を、浜松ホトニクス社製ピコ秒蛍光寿命測定装置C4780を用いて測定した。励起光源として窒素レーザ励起色素レーザ(20Hz)を用い、394nmの波長にセレクトして励起した。
【0127】
測定結果を図13に示す。レーザ発振に必要な反転分布を考慮すれば、固体レーザ媒質として用いるにはある程度長い寿命が必要と考えられる。図に示すように、1.0%Eu:YAGの蛍光寿命は3.4ミリ秒であり、固体レーザ媒質として充分に長い蛍光寿命を有することが示された。
【0128】
<10.0%Eu:YAGの発光特性>
比較的高ドープ量の代表として、10.0%Eu:YAG(試料8)について、試料2と同様に、蛍光スペクトルと励起スペクトルを測定した。結果を図14(a)、(b)に示す。
【0129】
図11(a)と図14(a)に示す発光スペクトルの比較から、励起波長を394nmとしたときの589nmの発光強度は、10.0%Eu:YAG(試料8)では、1.0%Eu:YAG(試料2)の3倍以上増強されることが明らかとなった。
【0130】
また、図11(b)と図14(b)に示す励起スペクトルの比較から、励起ピーク波長394nmにおける589nmの発光強度と、励起ピーク波長240nmにおける589nmの発光強度との比が、Euドープ量によって異なることが明らかとなった。具体的には、Euドープ量が高い側では、394nmの吸収比率が高くなることが明らかとなった。
【0131】
<ドープ量と発光特性との関係>
他の試料についても、試料2及び試料8と同様に、発光スペクトル測定を行った。Euドープ量と、励起波長を394nmとしたときの589nmの発光強度との関係を図15(a)に示す。
【0132】
Eu:YAGでは、Euドープ量0モル%超50モル%以下の範囲の全範囲において発光性を示し、特に、5.0〜30.0モル%の範囲内において高い発光強度が得られることが明らかとなった。多結晶Eu:YAGでは、過去に0.5%Eu:YAGが報告されているので、過去に報告されていない0.5モル%超50モル%以下の多結晶Eu:YAGが新規である。
【0133】
多くの発光性希土類では高濃度ドーピングによる発光の減衰(濃度消光と称される)が、低ドープ濃度側で起こるが、Eu:YAGでは、高濃度まで濃度消光が起こっていない。Euを高濃度ドープしても濃度消光を起こしにくいEu:YAGは、固体レーザ媒質として用いる場合、励起光の吸収量を増加させることが可能であるなど、有用である。
【0134】
参考のために、図15(b)に、「背景技術」の項に挙げた非特許文献3図3に記載のデータ(単結晶Eu:YAG)の単位をモル%に換算して、本実施例の図15(a)の結果(多結晶Eu:YAG)と合わせてプロットした図を示す。発光強度は、非特許文献3のピークトップと本実施例のピークトップとを共に100としたときの相対値で示した。
【0135】
Euドープ量と、励起波長を394nmとしたときの589nmの発光強度との関係は、本実施例の多結晶Eu:YAGと非特許文献3の単結晶Eu:YAGとで、ほぼ同様であった。この結果から、本実施例では、単結晶Eu:YAGと同様の特性を有する多結晶Eu:YAGが実現されることが示された。
【0136】
<ドープ量と励起特性との関係>
他の試料についても、試料2及び試料8と同様に、励起スペクトル測定を行った。Euドープ量と、波長470nm以下の複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長(本実施例では394nmと240nm)の光吸収強度比Pf/Pw(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)との関係を図16に示す。
【0137】
Euドープ量が5.0モル%以下では、光吸収強度比Pf/Pwは、Euドープ量の増加に対して略比例して増加し、Euドープ量5.0〜20.0モル%では、光吸収強度比Pf/Pwは、Euドープ量に無関係に略一定となった。かかる濃度依存性は本発明者が見出した新規な知見である。発明者らは、Eu濃度と電荷移動状態(CTS)との間に密接な関係があって、このような濃度依存性を示すと考えているが、詳細は今のところ不明である。
【0138】
この例では、図15に示した発光強度の高いEuドープ量の範囲は、光吸収強度比Pf/PwがEuドープ量に無関係に略一定となるEuドープ量の範囲に相当していた。
【0139】
また、図15に示した発光強度の高いEuドープ量の範囲は、光吸収強度比Pf/PwがEuドープ量に対して略比例する範囲内におけるEu最大ドープ量をNeモル%としたとき、Euドープ量が0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲に相当していた。この例では、Ne=9(モル%)であった。
【0140】
本発明者は、発光強度と光吸収強度比Pf/Pwとは関係があり、光吸収強度比Pf/PwがEuドープ量に無関係に略一定となるEuドープ量の範囲内、若しくはEuドープ量が0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲内でEuドープ量を決定することで、高い発光強度が得られるのではないかと考えている。そして、かかる材料設計は、Eu:YAGに限らず、適用可能であると考えている。
【0141】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
試料1〜12の多結晶焼結体のSEM断面観察を行ったところ、いずれも高密度焼結体が得られており、結晶粒のサイズ及び形状は不均一(ランダム)であった(図1(a)を参照)。
【0142】
(実施例2)
以下のようにして、15%Eu:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス、Y/Euモル比=2.55/0.45)を調製した。この例では、焼結助剤の役目を担うSiOを添加した。Alサイトの0.1モル%をSiに置換するように原料粉末を配合した。
【0143】
はじめに、所望の組成となるよう、Y粉末(純度99.9%)、α−Al粉末(純度99.99%)、Eu粉末(純度99.99%)、及びSiO粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。
【0144】
実施例1と同様にして、上記の原料粉末の湿式混合、混合粉末スラリーの乾燥、乾燥粉末の圧縮成型、及び1450℃仮焼成を実施し、仮焼結体を乳鉢で粉砕した。
【0145】
次に、得られた粉砕物とエタノールとを粘度の高いスラリー状に混合し、ボールミル粉砕を24時間行った後、これを乾燥した。以上のようにして、通常の固相反応セラミックス法により、Eu:YAGの構成成分を含む焼結用乾燥粉末を得た。この焼結用乾燥粉末は、粒子のサイズ及び形状が不均一(ランダム)である。得られた焼結用乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
【0146】
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0147】
次に、粉砕することなく、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で15時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のEuドープ量のEu:YAG(Si添加)の多結晶焼結体を得た。
【0148】
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
【0149】
実施例1と同様に、得られた多結晶焼結体を粉砕してXRD測定を実施したところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。
【0150】
(実施例3)
以下のようにして、10%Eu:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
【0151】
はじめに、アルコキシドエマルジョン法により焼結用粉末を調製した。原料の金属アルコキシドとして、Y(iso−OPr)粉末[純度99.9%]3.59g、Al(sec−OBu)ゲル状物質[純度99.99%]6.16g、及びEu(iso−OPr)粉末[純度99.9%]0.49gを各々秤量した。これら金属アルコキシドを1−オクタノール52.9mL中に投入し、パイレックス(登録商標)製のフラスコ内でN気流下、120℃で12時間撹拌して溶解した。
【0152】
室温まで冷却した後、アセトニトリル36.36mL、及び分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース0.02gを加えて5分間撹拌し、アルコキシドエマルジョンを得た。40℃まで昇温後、得られたアルコキシドエマルジョンに1−オクタノール/アセトニトリル/水混合液(配合比2.46mL/1.64mL/0.90mL)を加え、40℃で1時間撹拌してアルコキシドの加水分解を行い、多数の粒子を得た。
【0153】
次に、遠心分離器にて、5000rpm・10分間の条件で遠心分離処理を実施して、粉末を分離回収した。さらに、回収した粉末をエタノール中へ分散させ、5000rpm・10分間の遠心分離処理を実施する操作を2回繰り返して、粉末を洗浄した。さらに乾燥機にて、粉末を80℃で24時間乾燥し、焼結用粉末を得た。
【0154】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、得られた焼結用粉末は、略同一サイズ(粒径約0.5μm)の多数の略球状微粒子からなり、粒子サイズと粒子形状の揃った粉末であった。
【0155】
得られた焼結用粉末を成型圧10MPaで一軸圧縮成型し(仮成型)、さらに140MPaでCIP処理を行うことで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)の圧縮成型体(粉末成形体)を得た。
【0156】
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1400℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0157】
次に、粉砕することなく、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で10時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のEuドープ量のEu:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0158】
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
【0159】
実施例1と同様に、得られた多結晶焼結体を粉砕してXRD測定を実施したところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。
【0160】
SEM観察を行ったところ、得られた多結晶焼結体は、略同一サイズ(結晶粒径約4 μm)の多数の略球状結晶粒の集合体からなり、結晶粒のサイズと結晶粒の形状の揃った多結晶焼結体であった。
【0161】
(実施例3の変更)
アルコキシドエマルジョン法により得られ焼結に用いた上記粉末を、600℃で12時間熱処理するなどして脱炭して、実質上Y,Al,Eu,及びOのみからなるアモルファス粉末を得、これを焼結用粉末として用いても構わない。また、上記アモルファス粉末をさらに、1200℃で2時間熱処理するなどして多結晶化して、実質上Y,Al,Eu,及びOのみからなる多結晶粉末を得、これを焼結用粉末として用いても構わない。本発明者は、かかる焼結用粉末を用いても、実施例3と同様に、透明性に優れたEu:YAGの多結晶焼結体が得られることを確認している。
【0162】
(実施例4)
以下のようにして、20%Eu:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
【0163】
はじめに、水熱合成法により焼結用粉末を調製した。
酸化イットリウム(Y)粉末(純度99.99%)3.613gを精秤し、これをビーカーに入れた。このビーカー内に過剰の濃硝酸水溶液をゆっくり加え、加熱しながら攪拌して酸化イットリウムを完全に溶解させ、その後蒸発乾固させた。常温まで冷却後、少量の硝酸水溶液(例えば、35%濃硝酸2〜3滴)と硝酸ユーロピウム6水和物(Eu(NO・6HO)3.569gとを加えて攪拌して、YイオンとEuイオンとを含む30〜50mLの水溶液を調製した(Y+Eu水溶液)。
【0164】
別途、無水塩化アルミニウム(AlCl)粉末(純度99.99%)13.334を精秤し、これを水を入れた別のビーカー内にゆっくり加え、攪拌して無水塩化アルミニウムを完全に溶解させ、Alイオンを含む30〜50mLの水溶液を調製した(Al水溶液)。
【0165】
別途、別のビーカーに、水酸化カリウム(KOH)の高濃度水溶液(99.99%)を用意しておいた。
【0166】
以上3つのビーカーを用意した後、Y+Eu水溶液とAl水溶液とを混合した。この混合液に対して、攪拌下、pHメータを見ながらKOH高濃度水溶液を徐々に加えた。pH変化に伴って液がゲル化するが撹拌は続け、pH=12.0になった時点で、KOH高濃度水溶液の添加を停止した。以上のようにして、水熱合成反応原料液(pH=12.0、200mL)を調製した。
【0167】
上記原料液をハステロイ社製のオートクレーブ内に仕込み、内面に白金ライニング処理が施された反応槽内で撹拌しながら、360℃で2時間水熱反応させた。
【0168】
反応終了後、内溶液をビーカーに移し、熱水を添加して上澄み液のみを廃棄するデカンテーションプロセスを10回以上繰り返し、最後に反応沈殿物を濾過し、焼成用粉末を得た。この粉末は水分を含んでいるが、特に乾燥せずに次工程に供した。
【0169】
水熱合成反応後に得られた反応沈殿物の一部は多結晶焼結体の製造に供さずに、乾燥させて評価に供した。反応沈殿物を乾燥させて得られた粉末のXRD測定を行ったところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。また、SEM観察を行ったところ、同粉末は、略同一サイズ(粒径約8μm)の多数の菱形十二面体状微粒子からなり、粒子サイズと粒子形状の揃った粉末であった。
【0170】
非乾燥の上記焼成用粉末約5gに、分散媒質としてエタノール10mLを添加混合し、得られた混合液を底面が極めて平滑な容器内に注入し、ゆっくりと微粒子を沈降させた。分散媒質としては、ポリビニルブチラール等を使用することもできる。
【0171】
その後、上澄み液を静かに抜き取り、自然乾燥させて、パンケーキ状の粉末成形体を得た。この工程では、上澄み液を静かに抜き取った後、防振台の上に載置し、減圧下で乾燥させて、パンケーキ状の粉末成形体を得ることもできる。
【0172】
次に、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で5時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のEuドープ量のEu:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0173】
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
【0174】
SEM観察を行ったところ、得られた多結晶焼結体は、略同一サイズ(結晶粒径約8.5μm)の多数の菱形十二面体状結晶粒の集合体からなり、結晶粒のサイズと結晶粒の形状の揃った空間充填率の高い多結晶焼結体であった。
【0175】
本実施例では、菱形十二面体状微粒子からなる焼成用粉末が調製されたが、水熱反応の反応条件(温度や時間等)を変えることで、切頂八面体状微粒子からなる焼成用粉末を調製することができる(図4を参照)。
【0176】
(実施例5)
以下のようにして、10%Eu:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
はじめに、所望の組成となるよう、Y粉末(純度99.9%)、α−Al粉末(純度99.99%)、及びEu粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。この原料粉末とエチルアルコール100mlと10mmφアルミナボール150個とをポットミルに入れ、12時間湿式混合を行った。
【0177】
アルミナボールを取り除き、得られた混合粉末スラリー中のエチルアルコールをロータリーエバポレーターを用いて除去した後、100℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉末を乳鉢で軽くほぐした後、100mesh及び200meshの篩に順次通し、通過した粉末を成型に供した。得られた成型用粉末を、成型圧10MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。さらに、得られた成型体を真空包装して、これに対して140MPaの等方圧力でCIP処理を施した。
【0178】
得られた圧縮成型体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1200℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0179】
得られた仮焼成体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1700℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施し、10%Eu:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0180】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
得られた多結晶焼結体の表面を研磨し、SEM断面観察を行った。SEM断面写真を図17に示す。高密度焼結体が得られており、結晶粒のサイズ及び形状は不均一(ランダム)であった。
【0181】
<粉末X線回折(XRD)測定>
実施例1と同様にXRD測定を実施した。XRD測定結果を図18に示す。回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶) の回折ピークと完全に一致し、単相構造であることが確認された。実施例1と同様に、XRD測定の結果から格子定数を求めたところ、格子定数a=1.201955nmであった。
【0182】
実施例1において求められたAサイト中のEu濃度x(モル%)と格子定数yとの相関関係式(y=1.2006+0.0001345x、図10を参照)に、この格子定数を入れてEu濃度を求めると10.07%であり、設計通りであった。このことは、間接的ながらも、Eu濃度が投入組成値そのままに、焼結体組成に反映されていることを物語っている。
【0183】
<発光特性>
実施例1と同様に、発光スペクトル(蛍光スペクトル)測定を行った。励起光の波長λexは、励起スペクトルを取ったときに最大発光強度を示す395nmとした。発光スペクトルを図19に示す。可視光域である400〜700nmの波長域に多数の発光ピークが見られ、589nmに最強発光ピークが見られた。実施例1の1%Eu:YAGよりも非常に強い発光が見られた。
得られた多結晶焼結体に対して、水銀ランプを用いて紫外線を照射したところ、肉眼でも、赤く強く発光する様子が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明のEu含有無機化合物及び発光性無機化合物は、固体レーザ媒質や白色発光ダイオード用蛍光体等の用途に好ましく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】(a)、(b)は多結晶焼結体の断面例((b)はイメージ図)
【図2】(a)は切頂八面体状の粒子を示す図、(b)は菱形十二面体状の粒子を示す図
【図3】(a)〜(d)は切頂八面体状の粒子が空間を充填していく様子を示す図
【図4】ガーネット型化合物を水熱合成する場合の、反応時間の経過に伴う粒子形状の変化を示す図
【図5】本発明に係る実施形態の固体レーザ装置の構造を示す図
【図6】(a)、(b)は固体レーザ装置の設計変更例を示す図
【図7】(a)、(b)は本発明に係る実施形態の発光装置の構造を示す図
【図8】実施例1の粉末X線回折測定結果を示す図
【図9】実施例1の粉末X線回折測定結果を示す図
【図10】実施例1のEuドープ量と格子定数との関係を示す図
【図11】(a)、(b)は1.0%Eu:YAG(試料2)の発光スペクトルと励起スペクトル
【図12】1.0%Eu:YAG単結晶の透過吸収スペクトル
【図13】1.0%Eu:YAG(試料2)の蛍光寿命の測定結果を示す図
【図14】(a)、(b)は10.0%Eu:YAG(試料8)の発光スペクトルと励起スペクトル
【図15】(a)、(b)は、実施例1(多結晶)及び非特許文献3(単結晶)のEuドープ量と励起波長を394nmとしたときの589nmの発光強度との関係を示す図
【図16】実施例1のEuドープ量と2つの励起ピーク波長(394nmと240nm)の光吸収強度比Pf/Pwとの関係を示す図
【図17】実施例5の10.0%Eu:YAG焼結体のSEM断面写真
【図18】実施例5の10.0%Eu:YAG焼結体の粉末X線回折測定結果を示す図
【図19】実施例5の10.0%Eu:YAG焼結体の発光スペクトル
【図20】ガーネット型化合物に含まれる希土類のイオン半径と格子定数との関係を示す図
【図21】YAGにドープする希土類イオンのイオン半径と偏析係数との関係を示す図
【符号の説明】
【0186】
10 固体レーザ装置
11 半導体レーザダイオード(励起光源)
14 固体レーザ媒質
15 波長変換素子
20 発光装置
23 発光素子(励起光源)
25 発光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体ガーネット型化合物に対してEuがドープされて固溶化された多結晶構造のEu含有無機化合物において、
ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量が0.5モル%超50.0モル%以下であることを特徴とするEu含有無機化合物。
【請求項2】
ガーネット構造の8配位サイト中に占めるEuのドープ量が5.0〜30.0モル%であることを特徴とする請求項1に記載のEu含有無機化合物。
【請求項3】
発光中心イオンとして、実質的にEuのみを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のEu含有無機化合物。
【請求項4】
下記一般式で表されるガーネット型化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のEu含有無機化合物。
一般式:(A(III)1−xEuB(III)C(III)12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、Y,Sc,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Al,Sc,Ga,Cr,In,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Cサイトの元素であり、Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【請求項5】
前記母体ガーネット型化合物が、YAl12であることを特徴とする請求項4に記載のEu含有無機化合物。
【請求項6】
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
前記発光性希土類元素のドープ量が、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲内に設定されていることを特徴とする発光性無機化合物。
【請求項7】
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが、前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する範囲内における前記発光性希土類元素の最大ドープ量をNeモル%としたとき、前記発光性希土類元素のドープ量が、0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲内に設定されていることを特徴とする発光性無機化合物。
【請求項8】
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物の製造方法において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
前記発光性希土類元素のドープ量を、光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に無関係に略一定となる前記発光性希土類元素のドープ量の範囲内で決定することを特徴とする発光性無機化合物の製造方法。
【請求項9】
励起光の照射により励起されて波長400〜700nmの可視域に少なくとも1つの発光ピーク波長を有する発光中心イオンを含むと共に、該発光中心イオンとして実質的に1種の発光性希土類元素のみを含む発光性無機化合物の製造方法において、
前記発光性無機化合物は、
励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長の発光強度を示す励起スペクトルが、波長470nm以下に複数の励起ピーク波長を有すると共に、
前記発光性希土類元素のドープ量を変えて、波長470nm以下の前記複数の励起ピーク波長のうち、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長の光吸収強度比Pf/Pwを求めたとき(ここで、1番目と2番目に高い発光強度を示す2つの励起ピーク波長を比較して、より長波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPf、より短波長側の励起ピーク波長の光吸収強度がPwである。)、光吸収強度比Pf/Pwが、前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する前記発光性希土類元素のドープ量の範囲が存在するという性質を有するものであり、
光吸収強度比Pf/Pwが前記発光性希土類元素のドープ量に対して略比例する範囲内における前記発光性希土類元素の最大ドープ量をNeモル%としたとき、前記発光性希土類元素のドープ量を、0.5Ne〜2.0Neモル%の範囲内で決定することを特徴とする発光性無機化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載のEu含有無機化合物、若しくは請求項6又は7に記載の発光性無機化合物を含むことを特徴とする発光性組成物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のEu含有無機化合物、若しくは請求項6又は7に記載の発光性無機化合物を含み、所定の形状に成形された成形体からなることを特徴とする発光体。
【請求項12】
前記成形体は、前記Eu含有無機化合物又は前記発光性無機化合物の構成成分を含む1種若しくは2種以上の粉末が所定の形状に成形された粉末成形体を焼結させてなる多結晶焼結体であることを特徴とする請求項11に記載の発光体。
【請求項13】
前記成形体は、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が、該結晶粒単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状であることを特徴とする請求項12に記載の発光体。
【請求項14】
前記結晶粒の形状が、立方体状、切頂八面体状、及び菱形十二面体状のうちいずれかであることを特徴とする請求項13に記載の発光体。
【請求項15】
前記粉末が、水熱合成法又はアルコキシドエマルジョン法により合成された粉末であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の発光体。
【請求項16】
前記成形体は、粉末状の前記Eu含有無機化合物又は前記発光性無機化合物が、樹脂バインダを介して結合された成形体であることを特徴とする請求項11に記載の発光体。
【請求項17】
前記Eu含有無機化合物又は前記発光性無機化合物が、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質であることを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の発光体。
【請求項18】
請求項17に記載の発光体からなる固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に前記励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項19】
前記励起光源が、350〜480nmの範囲内に発振ピーク波長を有する半導体レーザであることを特徴とする請求項18に記載の固体レーザ装置。
【請求項20】
前記励起光源が、GaN系半導体レーザ又はZnO系半導体レーザであることを特徴とする請求項19に記載の固体レーザ装置。
【請求項21】
前記固体レーザ媒質から発振されたレーザ光の波長を変換する波長変換素子をさらに備えたことを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項22】
請求項11〜16のいずれかに記載の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とする発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2007−254723(P2007−254723A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39098(P2007−39098)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】