説明

H形鋼の圧延設備および圧延方法

【課題】ウェブ両端部に板厚増厚部を有するH形鋼を圧延にて製造するH形鋼の圧延設備および圧延方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るH形鋼の圧延設備1は、粗造形圧延機2と、少なくとも一つ以上の中間ユニバーサル圧延機3を有する中間圧延機群と、仕上ユニバーサル圧延機5とを備え、粗造形圧延機2の上下ロール21a、21bのウェブ圧延部分には凸状の段差部を有さず、少なくとも中間ユニバーサル圧延機3の上下水平ロール31a、31bの幅中央部分にH形鋼最終製品のウェブに付与する板厚差の1/2以上の高さの凸状段差部を有することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブに板厚増厚部を有するH形鋼を圧延により製造する製造設備および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建造物の高層化が進み、地震等の災害時における建造物の倒壊、崩壊を防ぐために構造部材には耐震性を確保しつつ、優れた塑性変形能力が求められている。塑性変形能力を向上させた構造部材は、素材に添加する元素を調整することにより、低YR鋼が開発され、適用実績も拡大している。しかしながら、低YR化することにより、添加する炭素量が上昇し、溶接施工性が劣ることが問題となっている。
【0003】
ここで、H形鋼はH形の断面を持つ構造部材であり、ビル等の建造物の梁材や土木構造用として多用されている。一般に多用されるH形鋼は低強度で薄肉なものが多く、施工性・溶接性はよいものの、建造物の大型化が進みさらに耐震性や耐久性を求められる昨今、高剛性でかつ軽量で施工性にも優れるH形鋼の需要が高まっている。したがって、断面形状を工夫することにより、耐震性や耐久性に優れると同時に溶接性や施工性も劣らない、H形鋼の開発が求められている。
【0004】
このような要求を満たす鋼材として異形断面を有するH形鋼が知られている。特許文献1には、ウェブ部のフランジに接続される部分を、ウェブ部中間部分に比して増厚し、従来のH形鋼より剛性を向上させたH形鋼が開示されている。
また、異形断面を有するH形鋼の製造方法として、特許文献2には、2本のT形鋼のウェブ端部と1本の帯状鋼帯を突き合わせ溶接にて接合し、フィレット部分を含むウェブに板厚増厚部を有するH形鋼の製造方法が開示されている。また、本文献には2本の帯状鋼板をそれぞれフランジとし、帯状鋼板の両端部の近傍に板厚増厚部を有する異形帯状鋼板をウェブとし、それぞれを突き合わせ溶接にて接合し、ウェブに板厚増厚部を有する異形断面H形鋼の製造方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56-160804
【特許文献2】特開平5-195598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、断面形状に関する規定や一般的なH形鋼との断面性能の比較は記載されているものの、具体的な製造方法や製造設備に関する記述はされていない。
また、特許文献2では異形断面H形鋼の製造方法が開示されているが、その方法は、まず、T形鋼2本を製造し、帯状鋼帯1本を製造し、その後、上記3本を所定の位置に設置後、溶接にて接合するというものである。このような製造方法では、両フランジとウェブの接続部分を溶接にて接合するため、長手方向に2回溶接を施す必要がある。また、溶接工程の時間を短縮しようとすると、高密度溶接熱源や高周波抵抗溶接装置等を導入する必要があり、多くのコストを必要とする。同様にして、帯状鋼帯2本と両端部を増厚した帯状鋼帯を用いる場合も多大な時間と費用を要する。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、ウェブ両端部に板厚増厚部を有するH形鋼を圧延にて製造するH形鋼の圧延設備および圧延方法を提供することを目的としている。
なお、本発明が対象とするウェブ両端部に板厚増厚部を有するH形鋼は、主に中高層以上の建築物に用いる梁材を対象としており、例えばウェブ高さ400〜1000mm程度のものを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るH形鋼の圧延設備は、粗造形圧延機と、少なくとも一つ以上の中間ユニバーサル圧延機を有する中間圧延機群と、仕上ユニバーサル圧延機とを備え、粗造形圧延機の上下ロールのウェブ圧延部分には凸状の段差部を有さず、少なくとも中間ユニバーサル圧延機の上下水平ロールの幅中央部分にH形鋼最終製品のウェブに付与する板厚差の1/2以上の高さの凸状段差部を有することを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロールの幅中央部分に、H形鋼最終製品のウェブに付与する板厚差の1/2の高さの凸状段差部を有することを特徴とするものである。
【0010】
(3)本発明に係るH形鋼の圧延方法は、ウェブ圧延部が平坦な略H形形状に粗造形する粗圧延工程と、ロール幅中央部分に凸状段差部を有する上下水平ロールを用いた中間ユニバーサル圧延機によってウェブ中央部を両端部より薄く圧延することによりウェブに板厚差を付与する中間圧延工程と、仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロールを用いて前記中間圧延工程でウェブに付与した板厚差を目標とするH形鋼製品の板厚差となるように圧延する仕上圧延工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記仕上圧延工程において、ロール外周形状が平坦な仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロールを用い、ウェブの板厚増厚部のみがロールと接触するように圧延することを特徴とするものである。
【0012】
(5)また、上記(3)に記載のものにおいて、仕上圧延工程において、幅中央部分に目標とするH形鋼製品のウェブに付与する板厚差の1/2の高さの凸状段差部を有する上下水平ロールを用い、ウェブの板厚増厚部および板厚薄部がともに水平ロールと接触するように圧延することを特徴とするものである。
【0013】
(6)また、上記(3)〜(5)のいずれかに記載のものにおいて、中間圧延工程において、中間ユニバーサル圧延機による繰り返し往復圧延にてウェブに板厚差を付与する際に初期複数パスの上下水平ロールによるウェブ圧下率をフランジ圧下率より高くし、被圧延材のウェブ面に最終製品板厚差以上の板厚差を付与し、最終パスを含む後期ではフランジ圧下率をウェブ圧下率以上とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造設備と製造方法によれば、ウェブ両端部に板厚増厚部を有するH形鋼を圧延により製造することが可能となり、生産能率向上に極めて有効である。
また、粗造形圧延機は一般的なH形鋼の製造設備と同様のロールを用いるようにしているので、粗造形圧延機におけるロール形状を変更する必要がなく、コストを大幅に増大せずに板厚増厚部を有するH形鋼の圧延ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る圧延設備の説明図である。
【図2】図1に示した圧延設備の各圧延機に用いるロール形状の説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態の中間ユニバーサル圧延機の水平ロールの形状を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態の圧延方法の説明図であり、中間ユニバーサル圧延機における圧延状態を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態の圧延方法の説明図であり、仕上げユニバーサル圧延機における圧延状態を示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る圧延設備の説明図である。
【図7】図6に示した圧延設備の各圧延機に用いるロール形状の説明図である。
【図8】本発明の他の実施の形態の仕上ユニバーサル圧延機の水平ロールの形状を示す図である。
【図9】本発明の他の実施の形態の圧延方法の説明図であり、仕上げユニバーサル圧延機における圧延状態を示す図である。
【図10】本発明の実施例1,2において製造目的としているH形鋼の断面を示す図である。
【図11】本発明の実施例1,2において粗圧延工程まで圧延した、被圧延材の断面形状を示す図である。
【図12】本発明の実施例1において中間圧延工程まで圧延した被圧延材の断面形状を示す図である。
【図13】本発明の実施例2において中間圧延工程まで圧延した、被圧延材の断面形状を示す図である。
【図14】ビームブランクの説明図である。
【図15】本発明の実施例3,4において製造目的としているH形鋼の断面を示す図である。
【図16】本発明の実施例3,4において粗圧延工程まで圧延した、被圧延材の断面形状を示す図である。
【図17】本発明の実施例3において中間圧延工程まで圧延した被圧延材の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る板厚増厚部を有するH形鋼の圧延設備1は、図1に示すように、粗造形圧延機2と、中間ユニバーサル圧延機3と、エッジャー圧延機4と、仕上ユニバーサル圧延機5が上流側から順に配置されている。各圧延機のロール形状が図2に示されており、図2を見れば分かるように、中間ユニバーサル圧延機3以外のロール形状は一般のH形鋼圧延用と同じものであり、中間ユニバーサル圧延機3のロール形状のみが一般のものと異なっている。
つまり、粗造形圧延機2のウェブ圧延部21a、21b、エッジャー圧延機4の上下水平ロール41a、41b、仕上ユニバーサル圧延機5の上下水平ロール51a、51bは、後述する中間ユニバーサル圧延機3の上下水平ロール31a、31bに形成されている凸部を有さないウェブ圧延部分が平坦な形状になっている。
他方、中間ユニバーサル圧延機3のロール形状は、図2の(b)に示すように、上下水平ロール31a、31bのウェブ圧延部の幅中央に凸部(凸状の段差部)を有している。
【0017】
中間ユニバーサル圧延機3のロール断面形状の詳細を図3に基づいて詳細に説明する。上水平ロール31aおよび下水平ロール31bは、ロール幅中央部のウェブ圧延大径部32a、32b、ウェブ圧延大径部32a、32bの両側にあってウェブ圧延大径部32a、32bよりもロール径が小さいウェブ板厚増厚圧延部33a、33b、およびウェブ圧延大径部32a、32bとウェブ板厚増厚圧延部33a、33bをつなぐ傾斜部34a、34bを有している。このように、上水平ロール31aおよび下水平ロール31bは、ウェブ圧延大径部32a、32b、ウェブ板厚増厚圧延部33a、33bおよび傾斜部34a、34bを有することで、ウェブ圧延大径部32a、32bの部分が突出して凸部(凸状の段差部)を有する形状になっている。
なお、ウェブ圧延大径部32a、32bとウェブ板厚増厚圧延部33a、33bは平行である。
また、傾斜部34a、34bとウェブ圧延大径部32a、32b及びウェブ板厚増厚圧延部33a、33bのつなぎ目は滑らかなR部付の形状が好ましい。
【0018】
上下水平ロール31a、31bの凸部の高さhは、ウェブ圧延大径部32a、32bとウェブ板厚増厚圧延部33a、33bのロール半径差であり、目標とする製品断面形状に応じてその半径差の異なるロールを用いる。ウェブ圧延大径部32a、32bの幅wは、中間圧延工程時に薄ウェブ部を圧延する幅とする。上下水平ロール31a,31bの幅Bは、中間圧延工程仕上り時に目標とする板厚増厚部付H形鋼の内法の長さとする。ここで、ウェブ圧延大径部32a、32bの幅wは、目標とする製品断面形状のウェブ板厚薄部の幅に合わせればよいが、本発明者らの検討によれば、上下水平ロール31a,31bの幅Bに対する比(w/B)が0.3〜0.8程度の範囲において良好な圧延を行うことができることを確認している。
本実施の形態では、上下水平ロール中央部の凸部の高さhは、目的とする製品断面のウェブの板厚薄部と板厚増厚部の板厚差の1/2以上とする。凸部の高さhをこのように設定するのは、本実施の形態では、中間ユニバーサル圧延機3のみで板厚増圧部を形成するためである。
なお、垂直ロール35については、一般的なH形鋼圧延用のロールを用いる。
【0019】
仕上ユニバーサル圧延機5に用いる水平ロールについては、分割されていなものでもよいし(図5(a)参照)、二つ以上に分割された圧延幅調整機能を有するロール(図5(b)参照)であってもよく、圧延時に板厚増厚部と接触し、圧延することが可能であればよい。
なお、図5に示した仕上ユニバーサル圧延機5の水平ロールは、凸部の全くない平坦なものであるが、仮に凸部が設けられていたとしても、凸部の高さhが製品断面のウェブの板厚薄部と板厚増厚部の板厚差の1/2未満であれば、実質的には平坦なロールと同じであるので、本実施の形態1において仕上ユニバーサル圧延機5の水平ロールに、製品断面のウェブの板厚薄部と板厚増厚部の板厚差の1/2未満の高さの凸部を設ける場合を排除するものではない。
【0020】
次に、上記実施の形態1に示した圧延設備1を用いてH形鋼を圧延する圧延方法について説明する。
圧延素材は、例えば図14に示すようなビームブランクや、断面が長方形形状のスラブを用いる。この圧延素材を、図2(a)に示すロール形状の粗造形圧延機2を用いて、一般的なH形形状鋼片に造形圧延する(粗圧延工程)。
次に、図2(b)及び図3に示す水平ロールを用いた中間ユニバーサル圧延機3およびエッジャー圧延機4によって、繰り返し往復圧延にてウェブに板厚差を付与する(図4参照)と共にフランジ先端を圧延する(中間圧延工程)。
【0021】
中間圧延工程における繰り返し往復圧延の際、本工程を初期、中期、後期とした場合、初期のウェブ圧下率がフランジ圧下率以上となるようなパススケジュールとする。これは、圧延材のウェブ厚が厚い初期の状態で、ウェブに板厚差を顕著に付与するためであり、ウェブ圧下率がフランジ圧下率より3%以上高くなることが好ましい。
中期では、初期に比して、フランジ圧下率に対する相対的なウェブ圧下率を低くし、フランジ圧下率と同等もしくはそれ以上とし、後期ではフランジ圧下率がウェブ圧下率より高くなるようにする。これは、圧延初期にてウェブに付与した板厚差を保つと同時にウェブ板厚薄部の波打ちを防ぐためである。
【0022】
ウェブ面は凸部付きの上下水平ロールにて圧延するため、板厚薄部と板厚増厚部の1パス当たりの圧下量は等しくなるが、圧延前の板厚が薄い板厚薄部の方が板厚増厚部に比して圧延方向に延ばされることになる。しかしながら、板厚増厚部が圧延方向に延びない限り、板厚薄部のみが延びることができず、板厚薄部が波を打つ形状となる。これを回避するために、圧延中期ではウェブ圧下率をフランジ圧下率と同等程度、後期ではフランジ圧下率をウェブ圧下率以上とすることで、フランジの延伸によりウェブの板厚増厚部の圧延方向への延びを助長し、ウェブ板厚薄部と板厚増厚部、フランジの圧延方向への延びを同等となるように圧延する。
【0023】
また、フランジを強圧下し過ぎるとウェブに板厚増厚部がフランジの圧延方向への延伸に引かれ、圧延初期に付与した板厚差が小さくなるため、中期以降で徐々にウェブ圧下率に対するフランジ圧下率を高くしていき、後期ではフランジ圧下率が、ウェブ圧下率より1%以上高くすることが好ましい。
【0024】
ここで述べたウェブ圧下率とは、{(n(n:1以上の整数)パス目圧延後のウェブ板厚薄部の板厚)―(n+1パス目圧延後のウェブ板厚薄部の板厚)}/(nパス目圧延後のウェブ板厚薄部の板厚)である。また、フランジ圧下率とは、{(n(n:1以上の整数)パス目圧延後のフランジの板厚)―(n+1パス目圧延後のフランジの板厚)}/(nパス目圧延後のフランジの板厚)のことである。
【0025】
最後に、仕上ユニバーサル圧延機5によって、目標とする寸法に仕上圧延を行う(仕上圧延工程)。
仕上圧延工程においては、水平ロールにはウェブ両端の板厚増厚部のみが接触するようにして、板厚増厚部を圧延する(図5参照)。図5(a)は、水平ロールが分割されていない場合であり、図5(b)は水平ロールが分割された圧延幅調整機能を有するロールを用いた場合を示している。
なお、仕上ユニバーサル圧延機5の水平ロールとして、平坦なロールを用いる本圧延方法では、仕上圧延時に中間素材のウェブ高さを縮幅する場合は、ウェブの板厚薄部が座屈する可能性がある。そのため、本圧延方法は仕上圧延時に中間素材を3mm以上拡幅して製品に仕上る場合に適用するのが好ましい。
【0026】
本実施の形態においては、粗造形圧延機1及び仕上ユニバーサル圧延機5のロールとして、ウェブ厚が一定の一般的なH形鋼の製造設備と共用可能であることから、本圧延設備1は板厚増厚部を有するH形鋼を少ないロール購入投資にて製造することができる。
特に、粗造形圧延機1のロールはロール寸法が大きく、1本当たりの費用が他の圧延機のロールに比して非常に高いことから、本実施の形態のように、粗造形圧延機1のロールを一般的なH形鋼圧延用のものを使用することで、コストを大幅に増大せずに板厚増厚部を有するH形鋼の圧延ができる。
【0027】
また、本発明が対象とするウェブ両端部に板厚増厚部を有するH形鋼には、ウェブ中央の板厚薄部の厚さとウェブ両端の板厚増厚部の厚さの比に関して、H形鋼の用途によって好適な範囲があると考えられるが、本実施の形態のように板厚増厚部を圧延によって形成することで、上記の比率を例えば0.4以上(1.0未満)などに容易に設定して製造することができる。
【0028】
なお、本実施の形態では、中間ユニバーサル圧延機3のみでウェブに差厚を付与するようにしているので、付与する差厚の量に限界があるが、本発明者らの検討によれば、製品のウェブ厚で20mm程度の差厚までは付与できることが分かっている。
【0029】
[実施の形態2]
本実施の形態に係る圧延設備6が図6に示されているが、図6においては、実施の形態1の圧延設備1と同一部分には同一の符合が付してある。
本実施の形態に係る板厚増厚部を有するH形鋼の圧延設備6は、図6に示すように、粗造形圧延機2と、中間ユニバーサル圧延機3と、エッジャー圧延機4と、仕上ユニバーサル圧延機7が上流側から順に配置されている。各圧延機のロール形状が図7に示されており、図7を見れば分かるように、中間ユニバーサル圧延機3、仕上ユニバーサル圧延機7以外のロール形状は一般のH形鋼圧延用と同じものであり、中間ユニバーサル圧延機3及び仕上ユニバーサル圧延機7のロール形状のみが一般のものと異なっている。
つまり、実施の形態1では、中間ユニバーサル圧延機3の上下水平ロール31a,31bのみに凸部を形成したものであったが、本実施の形態2は、図7に示すように、中間ユニバーサル圧延機3の上下水平ロール31a,31bに加えて仕上ユニバーサル圧延機7の上下水平ロール71a、71bのウェブ圧延部にも凸部を有している。
【0030】
中間圧延機群は、中間ユニバーサル圧延機3とエッジャー圧延機4にて構成されており、中間ユニバーサル圧延機3に用いる水平ロールの形状は、実施の形態1と同様に図3に示すものと同じである。
仕上ユニバーサル圧延機のロール形状の詳細は、図8に示すように、上水平ロール71aおよび下水平ロール71bは、ロール幅中央部のウェブ圧延大径部72a、72b、ウェブ圧延大径部72a、72bの両側にあってウェブ圧延大径部72a、72bよりもロール径が小さいウェブ板厚増厚部圧延部73a、73b、およびウェブ圧延大径部72a、72bとウェブ板厚増厚部圧延部73a、73bをつなぐ傾斜部74a、74bを有している。このように、上水平ロール71aおよび下水平ロール71bは、ウェブ圧延大径部72a、72b、ウェブ板厚増厚部圧延部73a、73bおよび傾斜部74a、74bを有することで、幅中央部に凸部(凸状の段差部)を有する形状になっている。
なお、ウェブ圧延大径部72a、72bとウェブ板厚増厚部圧延部73a、73bは平行である。
また、傾斜部74a、74bとウェブ圧延大径部72a、72b及びウェブ板厚増厚部圧延部73a、73bのつなぎ目は滑らかなR部付の形状が好ましい。
【0031】
上下水平ロール71a、71bの凸部の高さhfは、ウェブ圧延大径部72a、72bとウェブ板厚増厚部圧延部73a、73bのロール半径差であり、目標とする製品断面のウェブ板厚薄部と板厚増厚部の板厚差の1/2とする。
ウェブ圧延大径部72a、72bの幅wfは、目標とする製品断面のウェブの板厚薄部の幅とする。上下水平ロール71a、71bの幅Bfは、目標とする製品断面の内法と等しくする。
仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロール71a、71bは、分割できないものでもよいし(図9(a)参照)、あるいは左右に分割可能な圧延幅調整機能を有するロールでもよく(図9(b)参照)、圧延時に素材の板厚増厚部および板厚薄部ともにロールに接触しながら圧延することが可能であればよい。この場合、水平ロールの凸部の幅wfは、本設備では、仕上圧延時にウェブの板厚薄部を水平ロールの凸部にて拘束しながら圧延可能なため、中間ユニバーサル圧延機3から送られてきた素材のウェブ高さを縮幅する際に、板厚薄部が座屈することなく製品断面に仕上ることができる。
【0032】
なお、図9(b)に示す分割された上下水平ロール71a、71bの場合、左右の分割ロールの隙間が大きく開いて、板厚薄部と接触する長さが短い場合には板厚薄部が座屈する可能性があるので、上下水平ロール71a、71bにおける板厚薄部と接触する長さは、板厚薄部の1/2以上にするのが好ましい。
【0033】
次に、実施の形態2に示した圧延設備1を用いてH形鋼を圧延する圧延方法について説明する。
圧延素材は、例えば図14に示すようなビームブランクや、断面が長方形形状のスラブを用いる。この圧延素材を、図7(a)に示すロール形状の粗造形圧延機2を用いて、一般的なH形形状鋼片に造形圧延する(粗圧延工程)。
次に、図7(b)及び図3に示す水平ロールを用いた中間ユニバーサル圧延機3およびエッジャー圧延機4によって、繰り返し往復圧延にてウェブに板厚差を付与すると共にフランジ先端を圧延する。各パスにおけるウェブ、フランジの圧下率については、形態1に記したものと同様とする。(中間圧延工程)。
最後に、仕上ユニバーサル圧延機7によって、目標とする寸法に仕上圧延を行う(仕上圧延工程)。
仕上圧延工程においては、図9に示すように、素材のウェブ両端の板厚増厚部および中央部分の板厚薄部がともに段付水平ロールと接触するようにして、板厚増厚部を平坦化すると同時に、板厚薄部が座屈しないようにロールで拘束しながら圧延する。このため、仕上圧延において中間素材のウェブ高さを拡幅する場合及び縮幅する場合のいずれの場合であってもウェブが座屈することなく仕上げることができる。
本発明の圧延設備1、6および圧延方法にて行った実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0034】
実施例1は、図2に示したロール形状を備えた実施の形態1の圧延設備1における圧延実施例である。目標とするH形鋼の寸法は図10に示す、ウェブ高さ700mm、ウェブ板厚薄部14mm、板厚増厚部28mm、フランジ幅250mm、フランジ厚25mmである。
ウェブ高さ560mm、フランジ幅400mm、ウェブ厚120mmのビームブランクを素材として、粗圧延を行い、図11に示すようなウェブ高さ910mm、ウェブ厚82mm、フランジ幅275mm、フランジ厚102mmの断面に圧延した。粗圧延工程では、11パスを要し、往復圧延にて圧延した。
【0035】
次に、中間圧延工程における圧延は、図3に示す上下水平ロール31a、31bおよび垂直ロール35を用いて、粗圧延工程と同様に往復圧延にて成形した。このときの水平ロールの凸部高さhは8mm、幅wは350mmであり、パス数は21パスを要し、繰り返し往復圧延にて圧延した。その結果、図12に示すウェブ高さ698mm、フランジ幅252mm、板厚薄部が14.1mm、幅350mm、板厚増厚部29mmの断面形状に仕上た。
最後に、仕上圧延工程では、仕上ユニバーサル圧延機5の水平ロールに図5(b)に示す圧延幅可変機能を有する分割ロールを用いて圧延し、板厚薄部はロールと接触せず、板厚増厚部のみを圧下すると同時にフランジを垂直にした結果、図10に示す断面のH形鋼に仕上ることができた。
【実施例2】
【0036】
実施例2は、図7に示したロール形状を備えた実施の形態2の圧延設備6における圧延実施例である。
目標とするH形鋼の寸法は、実施例1と同様にウェブ高さ700mm、ウェブ板厚薄部14mm、板厚増厚部28mm、フランジ幅250mm、フランジ厚25mmである(図10参照)。
実施例1と同様に、ウェブ高さ560mm、フランジ幅400mm、ウェブ厚120mmのビームブランクを用いて、ウェブ高さ910mm、ウェブ厚82mm、フランジ幅275mm、フランジ厚102mmの断面(図11参照)に11パスの往復圧延にて仕上げた。
【0037】
次に、中間圧延工程においては、中間ユニバーサル圧延機、エッジャー圧延機4にて、図13に示す、ウェブ高さ698mm、フランジ幅252mm、ウェブ板厚薄部14.3mm、幅350mm、板厚増厚部29.2mmの断面形状となるように圧延した。パス数は21パスを要し、粗圧延工程と同様に往復圧延にて成形した。本工程の中間ユニバーサル圧延機3の水平ロールは、凸部高さhは8mm、幅wは350mmとした。
【0038】
最後に、仕上圧延工程においては、図9(b)に示す形状の圧延幅可変機能付き上下水平ロール71a、71bおよび竪ロールにて圧延した。素材ウェブの板厚増厚部に加え、板厚薄部も水平ロールに接触するように圧延し、1パスのみで目標とする断面に圧延した。
本工程に用いた上下水平ロール71a、71bの段差の高さhfは7mmとし、凸部の幅はロールが分割されていて、素材と接触しない部分も含め、350mmとした。その結果、目標とする断面のウェブに板厚増厚部を有するH形鋼に仕上ることができた。
【実施例3】
【0039】
実施例3は、実施例同様に図2に示したロール形状を備えた実施の形態1の圧延設備1における圧延実施例である。目標とするH形鋼の寸法は図15に示す、ウェブ高さ600mm、ウェブ板厚薄部12mm、板厚増厚部20mm、フランジ幅300mm、フランジ厚22mmである。
ウェブ高さ560mm、フランジ幅400mm、ウェブ厚120mmのビームブランクを素材として、粗圧延を行い、図16に示すようなウェブ高さ760mm、ウェブ厚67mm、フランジ幅370mm、フランジ厚96mmの断面に圧延した。粗圧延工程では、13パスを要し、往復圧延にて圧延した。
【0040】
次に、中間圧延工程における圧延は、図3に示す上下水平ロール31a、31bおよび垂直ロール35を用いて、粗圧延工程と同様に往復圧延にて成形した。このときの水平ロールの凸部高さhは4.5mm、幅wは300mmであり、パス数は11パスを要し、繰り返し往復圧延にて圧延した。その結果、図17に示すウェブ高さ598mm、フランジ幅302mm、板厚薄部が14.1mm、ウェブ板厚薄部幅300mm、板厚増厚部22mmの断面形状に仕上た。このときの、各パスのウェブ薄部およびフランジの圧下率は下記の表1に示す通りである。
【0041】
【表1】

【0042】
最後に、仕上圧延工程では、仕上ユニバーサル圧延機5の水平ロールに図5(b)に示す圧延幅可変機能を有する分割ロールを用いて圧延し、板厚薄部はロールと接触せず、板厚増厚部のみを圧下すると同時にフランジを垂直にした結果、図15に示す断面のH形鋼に仕上ることができた。
【0043】
[比較例1]
比較例1は実施例3にて製造したH形鋼と同断面を下記の表2に示すパススケジュールにて圧延した例である。
【0044】
【表2】

【0045】
圧延を実施した設備、目標とする最終製造断面、中間圧延工程終了断面、粗圧延工程終了断面は実施例3と同様である。中間圧延工程におけるウェブおよびフランジの圧下率を表2に示す通り全てのパスにて、ウェブ圧下率がフランジ圧下率以上としたところ、9パス目にてウェブの板厚薄部が波を打ってしまい、目標とする中間圧延工程終了断面に圧延することができず、最終製品断面にも圧延できなかった。
【0046】
[比較例2]
比較例2は実施例3、比較例1にて製造したH形鋼と同断面を下記の表3に示すパススケジュールにて圧延した例である。
【0047】
【表3】

【0048】
圧延を実施した設備、目標とする最終製造断面、中間圧延工程終了断面は前記と同様であるが、粗圧延終了時の断面形状は、ウェブ高さ760mm、ウェブ厚52mm、フランジ幅370mm、フランジ厚96mmの断面とした。中間圧延工程におけるウェブおよびフランジの圧下率を表3に示す通り、初期のウェブ圧下率をフランジ圧下率以下とし、最終の11パス目まで圧延したところ、ウェブ板厚薄部と板厚増厚部の板厚差7.0mmとなり目標断面のウェブ厚差8.0mmを付与することができなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 圧延設備
2 粗造形圧延機
21a、21b 粗造形圧延機のウェブ圧延部
3 中間ユニバーサル圧延機
31a、31b 中間ユニバーサル圧延機の上下水平ロール
32a、32b ウェブ圧延大径部
33a、33b ウェブ板厚増厚部圧延部
34a、34b 傾斜部
35 垂直ロール
4 エッジャー圧延機
41a、41b エッジャー圧延機の上下水平ロール
5 仕上ユニバーサル圧延機
51a、51b 仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロール
6 圧延設備
7 仕上ユニバーサル圧延機
71a 上水平ロール
71b 下水平ロール
72a、72b ウェブ圧延大径部
73a、73b ウェブ板厚増厚部圧延部
74a、74b 傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗造形圧延機と、少なくとも一つ以上の中間ユニバーサル圧延機を有する中間圧延機群と、仕上ユニバーサル圧延機とを備え、粗造形圧延機の上下ロールのウェブ圧延部分には凸状の段差部を有さず、少なくとも中間ユニバーサル圧延機の上下水平ロールの幅中央部分にH形鋼最終製品のウェブに付与する板厚差の1/2以上の高さの凸状段差部を有することを特徴とするH形鋼の圧延設備。
【請求項2】
前記仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロールの幅中央部分に、H形鋼最終製品のウェブに付与する板厚差の1/2の高さの凸状段差部を有することを特徴とする請求項1に記載のH形鋼の圧延設備。
【請求項3】
ウェブ圧延部が平坦な略H形形状に粗造形する粗圧延工程と、ロール幅中央部分に凸状段差部を有する上下水平ロールを用いた中間ユニバーサル圧延機によってウェブ中央部を両端部より薄く圧延することによりウェブに板厚差を付与する中間圧延工程と、仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロールを用いて前記中間圧延工程でウェブに付与した板厚差を目標とするH形鋼製品の板厚差となるように圧延する仕上圧延工程とを備えたことを特徴とするH形鋼の圧延方法。
【請求項4】
前記仕上圧延工程において、ロール外周形状が平坦な仕上ユニバーサル圧延機の上下水平ロールを用い、ウェブの板厚増厚部のみがロールと接触するように圧延することを特徴とする請求項3に記載のH形鋼の圧延方法。
【請求項5】
仕上圧延工程において、幅中央部分に目標とするH形鋼製品のウェブに付与する板厚差の1/2の高さの凸状段差部を有する上下水平ロールを用い、ウェブの板厚増厚部および板厚薄部がともに水平ロールと接触するように圧延することを特徴とする請求項3に記載のH形鋼の圧延方法。
【請求項6】
中間圧延工程において、中間ユニバーサル圧延機による繰り返し往復圧延にてウェブに板厚差を付与する際に初期複数パスの上下水平ロールによるウェブ圧下率をフランジ圧下率より高くし、被圧延材のウェブ面に最終製品板厚差以上の板厚差を付与し、最終パスを含む後期ではフランジ圧下率をウェブ圧下率以上とすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のH形鋼の圧延方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−30288(P2012−30288A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153355(P2011−153355)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】