説明

H形鋼矢板及びその製造方法

【課題】フランジ先端に突起を有し、このフランジ先端で嵌合させるH形鋼矢板について、嵌合部が離脱する危険性を小さくしたH形鋼矢板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】H形鋼素材1のフランジ部1fの外面からフランジの厚さ方向に突出する第1の突起3およびフランジ部1fの先端からフランジ幅方向に突出する第2の突起5を粗ユニバーサル圧延機およびエッジャー圧延機によりH形鋼素材1のフランジ先端部の先端に形成し、次いでH形鋼素材1を仕上ユニバーサル圧延機により仕上圧延した後、H形鋼素材1のフランジ部の先端をガイドするガイドロールにより第2の突起5が突出する方向をフランジ幅方向からフランジ部1fの内面からフランジ部の厚さ方向に突出する方向に変更してH形鋼矢板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形鋼矢板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼矢板を製造する方法として、スラブやビームブランク等のH形鋼素材を粗造形圧延機、粗ユニバーサル圧延機、エッジャー圧延機、仕上ユニバーサル圧延機により熱間圧延して製造する方法が知られている。このような方法でH形鋼矢板を製造するに際して、特許文献1の第2図に示されるような玉爪(以下、突起という)をH形鋼素材のフランジ先端部に形成すると、図9に示すように、例えばH形鋼矢板10とZ形鋼矢板11のフランジ同士をコネクター12で接続した際にH形鋼矢板10のフランジ先端部がコネクター12から抜け出ることをH形鋼矢板10のフランジ先端部に設けた突起3によって抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−204415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図9に示されるH形鋼矢板10は、フランジ先端部にフランジ外面から突出する突起3を設けているが、コネクター12の開口幅に余裕を持たせると、嵌合部が離脱するという問題があった。したがって、嵌合余裕を極めて小さくした自由度のないコネクター12を使用せざるを得なかった。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、H形鋼矢板のフランジ先端をコネクターや他の鋼矢板の継手と嵌合した場合に、フランジ先端が嵌合したコネクターあるいは継手から離脱することを抑制したH形鋼矢板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、H形鋼素材をH形断面に粗造形する粗造形圧延機と、該粗造形圧延機によりH形断面に粗造形されたH形鋼素材のウェブ部とフランジ部を粗圧延する粗ユニバーサル圧延機と、該粗ユニバーサル圧延機により粗圧延されたH形鋼素材のウェブ部とフランジ部を仕上圧延する仕上ユニバーサル圧延機と、該仕上ユニバーサル圧延機と前記粗ユニバーサル圧延機との間に配置されたエッジャー圧延機とを備えた熱間圧延設備によりH形鋼矢板を製造する方法であって、前記フランジ部の外面からフランジの厚さ方向に突出する第1の突起および前記フランジ部の先端からフランジ幅方向に突出する第2の突起を前記粗ユニバーサル圧延機および前記エッジャー圧延機により前記H形鋼素材のフランジ部の先端に形成し、次いで前記H形鋼素材を前記仕上ユニバーサル圧延機により仕上圧延した後、前記H形鋼素材のフランジ部の先端をガイドするガイドロールにより前記第2の突起の突出方向を前記フランジ幅方向から前記フランジ部の内面からフランジ部の厚さ方向に突出する方向に変更して前記H形鋼矢板を製造することを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、ウェブ部とフランジ部とでH形断面を形成してなり、前記フランジ部の先端に突起を有するH形鋼矢板であって、前記突起として、前記フランジ部の外面から突出する第1の突起と前記フランジ部の内面から突出する第2の突起とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のH形鋼矢板によれば、H形鋼矢板のフランジ部の先端に、フランジ内面から突出する第1の突起とフランジ外面から突出する第2の突起を有するので、フランジ部の先端にコネクターあるいは他の鋼矢板の継手を嵌合した場合に、フランジ内面から突出する突起とフランジ外面から突出する突起とで、嵌合が離脱することを抑制できる。
また、本発明のH形鋼矢板の製造方法によれば、フランジ部の先端に、フランジ内面から突出する第1の突起とフランジ外面から突出する第2の突起を、熱間圧延により製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を実施するときに用いられる熱間圧延設備の一例を示す図である。
【図2】粗ユニバーサル圧延機の水平ロールと竪ロール及びこれらのロールで圧延されたH形鋼素材の断面形状を示す図である。
【図3】エッジャー圧延機のエッジャーロール及びエッジャーロールで圧延されたH形鋼素材の断面形状を示す図である。
【図4】仕上ユニバーサル圧延機の水平ロールと竪ロール及びこれらのロールで圧延されたH形鋼素材の断面形状を示す図である。
【図5】仕上ユニバーサル圧延機により仕上圧延されたH形鋼素材のフランジ部をガイドするガイド装置の構成を示す図である。
【図6】仕上ユニバーサル圧延機により仕上圧延されたH形鋼素材のフランジ先端部がガイドロールによりガイドされる前とガイドされた後のH形鋼素材の断面形状を示す図である。
【図7】本発明のH形鋼矢板とZ形鋼矢板のフランジ同士がコネクターにより接続された状態を示す図である。
【図8】本発明のH形鋼矢板のフランジ部と直線形鋼矢板とが接続された状態を示す図である。
【図9】H形鋼矢板とZ形鋼矢板のフランジ同士がコネクターにより接続された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜図6は本発明に係るH形鋼矢板とその製造方法を説明するための図であり、本発明を実施するときに用いられる熱間圧延設備は、図1に示すように、粗造形圧延機2、粗ユニバーサル圧延機4、仕上ユニバーサル圧延機6、エッジャー圧延機7及びガイド装置8を備えている。
粗造形圧延機2はスラブやビームブランク等のH形鋼素材を孔型を有する上下一対の水平ロールによりH形断面に粗造形するものである。
【0010】
粗ユニバーサル圧延機4は粗造形圧延機2によりH形断面に粗造形されたH形鋼素材1のウェブ部1wとフランジ部1fを粗圧延するものであって、図2に示すように、上下一対の水平ロール41,42、およびこれら水平ロール41,42の両側に左右一対の竪ロール43,44を有している。粗ユニバーサル圧延機4の竪ロール43,44は、それぞれロール軸方向の両側に小径部43a,44aを有し、ロール軸方向の中央部に大径部43b,44bを有している。そして、この小径部43a,44aと大径部43b,44bとの段差部43c,44cが、H形断面に粗造形されたH形鋼素材1のフランジ部1fの先端よりフランジ幅方向内側に位置するように、小径部43a,44aおよび大径部43b,44bが設けられている。
【0011】
このような小径部43a,44aおよび大径部43b,44bが設けられた竪ロール43,44を有する粗ユニバーサル圧延機4でH形断面のH形鋼素材を圧延すると、図2に圧延後のH形鋼素材1の断面形状を示すように、フランジ部1fの先端に、フランジ厚が他の部分より厚く、この肉厚の厚い部分がフランジ外面からフランジの厚さ方向に突出した部分が形成され、この部分が第1の突起3となる。
【0012】
また、エッジャー圧延機7は、粗ユニバーサル圧延機4を通過したH形鋼素材1のフランジ部1fをフランジ幅方向に圧延するものであって、粗ユニバーサル圧延機4と仕上ユニバーサル圧延機6との間に配置されているとともに、図3に示すように上下一対のエッジャーロール71,72を有している。このエッジャーロール71,72は、それぞれ、凸部71a,72aを有し、この凸部71a,72aの側面にH形鋼素材1のフランジ部1fの内面を沿わせ、凸部71a,72aの頂面にH形鋼素材1のウェブ部1wを沿わせるようにして、エッジャーロール71,72にH形鋼素材1を案内できるようになっている。また、エッジャーロール71,72の凸部71a,72bの両側には、H形鋼素材1のフランジ部先端を圧下する圧下面71b,72bを有している。さらに、この圧下面71b,72bと凸部71a,72bとの接続部には、溝部71c,72cが形成されている。この溝部71c,72cの幅Wは、粗ユニバーサル圧延機4にて圧延した後のフランジ部1fの先端のフランジ厚より小さく設定してある。したがって、エッジャーロール71,72の圧下面71b,72bにより粗ユニバーサル圧延機4で圧延されたH形鋼素材1のフランジ部1fの先端を圧下すると、図3に圧延後のH形鋼素材1の断面形状を示すように、溝部71c,72cへのメタルフローが生じて、H形鋼素材1のフランジ部1fの先端には、フランジの先端からフランジ部1fの幅方向(以下、フランジ幅方向という)に突出する第2の突起5が形成される。
【0013】
次に、粗ユニバーサル圧延機4およびエッジャー圧延機7により、フランジ部1fの先端に、フランジ部1fの外面からフランジ厚さ方向に突出する第1の突起3およびフランジ部1fの先端面からフランジ幅方向に突出する第2の突起5を形成したH形鋼素材1を、仕上ユニバーサル圧延機6により圧延する。
仕上ユニバーサル圧延機6は粗ユニバーサル圧延機4およびエッジャー圧延機7により粗圧延されたH形鋼素材1のウェブ部1wとフランジ部1fを仕上圧延するものであって、図4に示すように、上下一対の水平ロール61,62と、これら水平ロール61,62の両側に配置された左右一対の竪ロール63,64とを有している。仕上ユニバーサル圧延機6では、竪ロール63,64のロール周面と水平ロール61,62の側面とでフランジ部1fを圧下し、フランジ部1fの外面を平滑化する。ここで、粗ユニバーサル圧延機4により形成した第1の突起3を潰すことがないように、竪ロール63,64の第1の突起3と対向する部分には、小径部63a,64aが設けてある。
【0014】
ガイド装置8は仕上ユニバーサル圧延機6により仕上圧延されたH形鋼素材1のフランジ部1fをガイドするものであって、H形鋼素材1のフランジ内面とフランジ外面を支持する複数(例えば8つ)のサポートロール81(図5参照)を有している。また、ガイド装置8は4つのガイドロール82を有し、これらのガイドロール82はH形鋼素材1のフランジ先端と接触する位置に配置され、フランジ部1fの先端をフランジ幅方向に圧下可能とされている。
【0015】
エッジャー圧延機7によりH形鋼素材1のフランジ先端部に形成された第2の突起5は、図6(a)に示すように、仕上ユニバーサル圧延機6により仕上圧延されたH形鋼素材1のフランジ部1fがガイド装置8によりガイドされる前ではフランジ幅方向に突出しているが、フランジ部1fの先端がガイドロール82に接触すると、図6(b)に示すように、ガイドロール82から第2の突起5に作用する押圧力により第2の突起5の突出方向がフランジ幅方向からフランジ部1fの厚さ方向に変化し、フランジ部1fの内面から突出する突起となる。このようにして得られたH形鋼素材1が本発明のH形鋼矢板100となる。
【0016】
したがって、H形鋼素材1のフランジ部1fの外面からフランジの厚さ方向に突出する第1の突起3およびH形鋼素材1のフランジ部1fの先端面からフランジ幅方向に突出する第2の突起5を粗ユニバーサル圧延機4およびエッジャー圧延機7によりH形鋼素材1のフランジ部1fの先端に形成し、次いでH形鋼素材1を仕上ユニバーサル圧延機6により仕上圧延した後、H形鋼素材1のフランジ部1fの先端をガイドするガイドロール82により第2の突起5が突出する方向をフランジ幅方向からフランジ部1fの内面からフランジ部1fの厚さ方向に突出する方向に変更することで、第2の突起5はH形鋼素材1のフランジ内面からフランジ部の厚さ方向に突出する突起となり、第1の突起3はH形鋼素材1のフランジ外面からフランジの厚さ方向に突出する突起となるので、フランジ内面から突出する突起とフランジ外面から突出する突起とをフランジ先端部に有するH形鋼矢板を熱間圧延により製造することができる。
【0017】
図7は、本発明のH形鋼矢板100をコネクター12を介してZ形鋼矢板11と接続した例を示す図である。H形鋼矢板100のフランジ部先端には、フランジ外面側からフランジの厚さ方向に突出する第1の突起3に加えて、フランジ内面側からフランジの厚さ方向に突出する第2の突起5が形成されているので、コネクター12との嵌合が離脱する危険性は、図9に示した従来のH形鋼矢板10に比較して格段に低くなる。また、離脱の危険性が低いので、嵌合余裕をある程度持ったコネクター12を使用することができ、コネクター選択の自由度も大きくなる。
図8は、本発明のH形鋼矢板100を一般的な直線形鋼矢板14と接続した例であり、この場合においても嵌合が離脱する危険性を低くできる。
【符号の説明】
【0018】
1…H形鋼素材
1w…ウェブ部
1f…フランジ部
2…粗造形圧延機
3…第1の突起
4…粗ユニバーサル圧延機
5…第2の突起
6…仕上ユニバーサル圧延機
7…エッジャー圧延機
8…ガイド装置
10…H形鋼矢板
11…Z形鋼矢板
12…コネクター
41,42,61,62…水平ロール
43,44,63,64…竪ロール
71,72…エッジャーロール
81…サポートロール
82…ガイドロール
100…H形鋼矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形鋼素材をH形断面に粗造形する粗造形圧延機と、該粗造形圧延機によりH形断面に粗造形されたH形鋼素材のウェブ部とフランジ部を粗圧延する粗ユニバーサル圧延機と、該粗ユニバーサル圧延機により粗圧延されたH形鋼素材のウェブ部とフランジ部を仕上圧延する仕上ユニバーサル圧延機と、該仕上ユニバーサル圧延機と前記粗ユニバーサル圧延機との間に配置されたエッジャー圧延機とを備えた熱間圧延設備によりH形鋼矢板を製造する方法であって、
前記フランジ部の外面からフランジの厚さ方向に突出する第1の突起および前記フランジ部の先端からフランジ幅方向に突出する第2の突起を前記粗ユニバーサル圧延機および前記エッジャー圧延機により前記H形鋼素材のフランジ部の先端に形成し、次いで前記H形鋼素材を前記仕上ユニバーサル圧延機により仕上圧延した後、前記H形鋼素材のフランジ部の先端をガイドするガイドロールにより前記第2の突起の突出方向を前記フランジ幅方向から前記フランジ部の内面からフランジ部の厚さ方向に突出する方向に変更して前記H形鋼矢板を製造することを特徴とするH形鋼矢板の製造方法。
【請求項2】
ウェブ部とフランジ部とでH形断面を形成してなり、前記フランジ部の先端に突起を有するH形鋼矢板であって、
前記突起として、前記フランジ部の外面から突出する第1の突起と前記フランジ部の内面から突出する第2の突起とを有することを特徴とするH形鋼矢板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111589(P2013−111589A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257846(P2011−257846)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】