IGF−1の結晶化
【課題】IGF−1の結晶とその生産方法、さらにIGF−1間接アゴニストを同定する方法を提供する。
【解決手段】IGF−1を含む水溶液を、沈殿剤を含むリザーバ液と混合し、生成した混合物を結晶化、場合によっては再結晶化を行い分離する、IGF−1の結晶化方法。さらに、結合タンパク質IGFBP−1又はIGFBP−3のIGF−1に対する結合の阻害レベルのスタンダードとして、界面活性剤を使用し、また構造に基づく薬剤設計のため、間接アゴニストの候補が結合するIGF−1の結合ポケットの座標を使用して、IGF−1間接アゴニストを同定する方法。
【解決手段】IGF−1を含む水溶液を、沈殿剤を含むリザーバ液と混合し、生成した混合物を結晶化、場合によっては再結晶化を行い分離する、IGF−1の結晶化方法。さらに、結合タンパク質IGFBP−1又はIGFBP−3のIGF−1に対する結合の阻害レベルのスタンダードとして、界面活性剤を使用し、また構造に基づく薬剤設計のため、間接アゴニストの候補が結合するIGF−1の結合ポケットの座標を使用して、IGF−1間接アゴニストを同定する方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明はヒトインスリン様成長因子−1(IGF−1)の結晶化形態、より特別にはヒトIGF−1の結晶、その結晶化の方法、及びX線回折によって得られたその構造に対するものである。さらに、本発明は、IGF−1結合タンパク質(IGFBP)との相互作用に重要であることが知られている残基と接触する単一の界面活性分子が、IGF−1と特異的に結合し、IGFBP−1及びIGFBP−3の結合をブロックすることを示唆する生物物理学的及び生化学的データに基づく新規なIGF−1アゴニスト分子を同定する方法に関する。
【0002】
(関連した開示内容の説明)
IGFs(IGF−1、IGF−2、及びIGF変異体)の作用及び活性に関して数多くの文献が存在する。ヒトIGF−1は8.4のpIを持ち、70アミノ酸残基、7649ダルトンの血清タンパク質であり(Rinderknecht及びHumbel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 73: 2365 (1976); Rinderknecht及びHumbel, J. Biol. Chem., 253: 2769 (1978))、成長ホルモン(GH)の作用を調節するインスリン様及び分裂促進的生物学的活性を持つソマトメジンのファミリーに属する(Van Wyk等, Recent Prog. Horm. Res., 30: 259 (1974); Binoux, Ann. Endocrinol., 41: 157 (1980); Clemmons及びVan Wyk, Handbook Exp.Pharmacol., 57: 161 (1981) ; Baxter, Adv. Clin. Chem., 25: 49 (1986);米国特許4,988,675; WO91/03253; WO93/23071)。IGFsはインスリンに対して約49%の高い配列同一性を共有する。しかし、C−ペプチド(残りのA及びB鎖の共有結合的に結合した二量体を産生するために切り取られる)として知られている33アミノ酸セグメントを含む前駆体タンパク質として合成されるインスリンとは異なり、IGFsは単一のポリペプチドである(図1を参照のこと)。
発生途中の胎児において、IGF−1が欠如すると出生後に継続する重篤な成長遅延が生じる(Baker等, Cell, 75: 73-82 (1993); Powell-Braxton等, Genes & Development, 7: 2609-2617 (1993); Liu等, Cell, 75: 59-72 (1993); Liu等, Molecular Endocrinol., 12: 1452-1462 (1998))。ほとんどの血清IGF−1(75%以上)は、成長ホルモンに応答して肝臓で産生されるが、この肝臓由来のIGF−1はマウスの出生後の体の成長には不要であることが示されている(Sjogren等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96: 7088-7092 (1999))。むしろ、それは、局所的に産生される非肝臓性IGF−1であり、傍分泌/自己分泌様式で作用し、IGF−1の出生後の成長促進効果の大部分の原因となっているようである(Schlechter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83: 7932-7934 (1986); Isaksson等, Science, 216: 1237-1239 (1982))。その成長促進効果と整合して、IGF−1は強力な分裂促進剤であり、細胞周期進行、アポトーシス、及び細胞分化などの様々な細胞機能を調節する(LeRoith, Endocrinology, 141: 1287-1288 (2000))。
【0003】
IGFsは、細胞周期進行、増殖、分化を含む様々な細胞機能及び病気の進行、及びインスリン耐性糖尿病におけるインスリン様効果に関与している。従って、IGFは様々な病気及び疾病における治療手段として示唆されてきた(総説として、Lowe, Scientific American (March/April 1996), p. 62を参照のこと)。この活性範囲に基づき、IGF−1は創傷治癒、腎臓障害の治療、糖尿病の治療、AIDS関連消耗などの全身同化状態の転換、うっ血性心不全などの心臓状態の治療、及び神経性障害の治療などの広範に異なる使用に関して哺乳動物において試験されてきた(Guler等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 4889-4893 (1988); Schalch等, J. Clin. Metab., 77:1563-1568 (1993); Froesch等, Horm. Res., 42: 66-71 (1994); Vlachopapadopoulou等, J. Clin. Endo. Metab., 12: 3715-3723 (1995); Saad等, Diabetologia, 37: Abstract 40 (1994); Schoenle等, Diabetologia, 34: 675-679 (1991); Morrow 等, Diabetes, 42 (補遺): 269 (1993) (要旨); Kuzuya等, Diabetes, 42: 696-705 (1993); Schalch等,"Short-term metabolic effects of recombinant human insulin-like growth factor I (rhIGF-1) in type II diabetes mellitus", in: Spencer EM, ed., Modern Concepts of Insulin-like Growth Factors (New York: Elsevier: 1991) pp. 705-715; Zenobi等, J. Clin. Invest., 90: 2234-2241 (1993); Elahi等, "Hemodynamic and metabolic responses to human insulin-like growth factor-l (IGF-I) in men,"in: Modern Concepts of Insulin-Like Growth Factors, Spencer, EM, ed. (Elsevier: New York, 1991), pp. 219-224; Quinn等, New Engl. J. Med., 323: 1425-1426 (1990); Schalch等, "Short-term metabolic effects of recombinant human insulin-like growth factor 1 (rhIGF-1) in type II diabetes mellitus,"in: Modern Concepts of Insulin-Like Growth Factors, Spencer, EM, ed., (Elsevier: New York, 1991), pp. 705-714; Schoenle等, Diabetologia, 34: 675-679 (1991); Usala等, N. Eng. J. Med., 327: 853-857 (1992); Lieberman等, J. Clin. Endo. Metab., 75: 30-36 (1992); Zenobi等, J. Clin. Invest., 90: 2234-2241 (1992); Zenobi等, J. Clin. Invest., 89: 1908-1913 (1992); Kerr等, J. Clin. Invest., 91: 141-147 (1993); Jabri等, Diabetes, 43: 369-374 (1994); Duerr等, J. Clin. Invest., 95: 619-627 (1995); Bondy, Ann Intern. Med., 120: 593-601 (1994); Hammerman及びMiller, Am. J. Physiol., 265: F1-F14 (1993 Hammerman及びMiller, J. Am. Soc. Nephrol., 5: 1-11 (1994);及び Barinaga等, Science, 264: 772-774 (1994))。
【0004】
また、哺乳動物、特にヒトの患者を治療するための、IGF−1又はIGF−1の活性濃度を増大させる化合物の様々な使用の開示に関して、特許文献も多く存在し、例えば、米国特許番号5,714,460; 5,273,961; 5,466,670; 5,126,324; 5,187,151; 5,202,119; 5,374,620; 5,106,832; 4,988,675; 5,106,832; 5,068,224; 5,093,317; 5,569,648;及び4, 876,242; WO 92/11865; WO 96/01124; WO 91/03253; WO 93/25219; WO 93/08826; 及びWO 94/16722である。
また、IGF−1系は、IGF−1、IGF−2及びインスリンに対する膜結合レセプターからも構成されている。タイプ1のIGFレセプター(IGF−1R)は構造上インスリンレセプターと極めて関連があり、そのシグナル経路のいくつかを共有する(Jones 及びClemmons, Endocr. Rev., 16: 3-34 (1995))。IGF−2レセプターは、細胞内シグナルを伝達しないと思われるクリアランスレセプターである(Jones及びClemmons, 上掲)。IGF−1及びIGF−2は、インスリンレセプターに対してよりもIGF−1Rに対してさらに高い親和性で結合するため、IGF−1及びIGF−2の多くの効果は、おそらくIGF−1Rにより仲介されているらしい(Humbel, Eur. J Biochem. 190: 445-462 (1990); Ballard等, "Does IGF-I ever act through the insulin receptor?", in Baxter等 (編), The Insulin-Like Growth Factors and Their Regulatory Proteins, (Amsterdam: Elsevier, 1994), pp. 131-138)。
IGF−1Rはジスルフィド結合したα及びβサブユニットのα2β2ヘテロ四量体である。αβ二量体は、共有結合によるヘテロ四量体を形成するために細胞表面上でそれら自身ジスルフィド結合されている。インスリン/インスリンレセプター複合体の場合と同様に、IGF−1はIGF−1Rと1:2のストイキオメトリーで(De Meyts, Diabetologia, 37 :S135-S148 (1994))、高親和性部位(Kd約0.4nM)及び低親和性部位(Kd約6nM)に結合する(Tollefsen及びThompson, J. Biol. Chem., 263: 16267-16273 (1988))。IGF−1Rの最初の3つのドメインのX線結晶構造が決定されいる(Garrett等, Nature, 394, 395-399 (1998))。それには、3つの別個のドメインが含まれている(L1,Cys−リッチ、L2)。IGF−1との結合に影響を与える変異は、レセプターのくぼんだ表面にマップされる。
【0005】
IGF−1Rは正常な細胞増殖と発育における重要な因子である(Isaksson等, Endocrine Reviews, 8: 426-438 (1987); Daughaday及びRotwein, Endocrine Rev., 10: 68-91 (1989))。しかしながら、増えてきた証拠により、IGF−1Rシグナルは癌細胞の成長、細胞のトランスフォーメーション、及び腫瘍形成においても重要な役割果たしていることが示唆される(Baserga, Cancer Res., 55:249-252 (1995))。重要な例には、IGF−1Rに対するアンチセンスRNA処理によるマウス悪性腫瘍細胞の転移性表現系の消失(Long等, Cancer Res., 55:1006-1009 (1995))、及びIGF−1R抗体の添加によるヒトメラノーマ細胞運動 (Stracke等, J Biol. Chem., 264:21554-21559 (1989))及びヒト乳癌細胞成長(Rohlik等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 149:276-281 (1987))のインビトロにおける阻害が含まれる。
IGF−1がインビトロにおける乳癌細胞増殖を促進するとの観察に基づき、IGFsは強い乳癌細胞分裂促進因子である(Cullen等, Cancer Res., 50:48-53 (1990))。乳癌はIGF−2及びIGF−1Rを発現し、自己分泌ループに基づく増殖パラダイムに対する全ての必要なエフェクターを提供する(Quinn等, J Biol. Chem., 271: 11477-11483 (1996); Steller等, Cancer Res., 56: 1761-1765 (1996))。乳癌は8人に1人の女性を冒している一般的な悪性腫瘍で、北米の女性において癌による死因の第一位となっており(LeRoith等, Ann. Int. Med., 122: 54-59 (1995))、介入の新規な合理的治療法が必要となっている。IGF−1はアポトーシスを抑制することができるため、IGF−1Rsを欠損する又は妥協したIGF−1Rシグナル経路を持つ細胞は、アポトーシスを介して選択的に死滅する腫瘍細胞を生み出すことができるかもしれない(Long等, Cancer Res., 55: 1006-1009 (1995))。さらに、糖尿病などの他の疾病状態との関連で、IGFシグナルの変動は、腎症(Horney等, Am. J Physiol. 274: F1045-F1053 (1998))及び網膜症(Smith等, Science, 276: 1706-1709 (1997))の合併症を悪化させる原因となり得ることが最近明らかになっている。
インビボにおけるIGF−1は、ほとんどがIGFBPsとして知られている少なくとも6つの血清タンパク質のファミリーとの複合体中に見出され(Jones及びClemmons, 上掲 ; Bach及びRechler, Diabetes Reviews, 3: 38-61 (1995))、IGFsのIGF−1Rへのアクセスを調節する。また、それらは、循環血中及び組織IGF−1RレベルでのIGF−1及びIGF−2の濃度も調節する(Clemmons等, Anal. NY Acad. Sci. USA, 692: 10-21 (1993))。IGFBPsは様々な親和性及び特異性でIGF−1及びIGF−2と結合する(Jones及びClemmons, 上掲 ; Bach及びRechler, 上掲)。例えば、IGFBP−3はIGF−1及びIGF−2と似たような親和性で結合する一方、IGFBP−2及びIGFBP−6は、それらがIGF−1と結合するよりもさらに高い親和性でIGF−2と結合する(Bach及びRechler, 上掲 ; Oh等, Endocrinology, 132,1337-1344 (1993))。主なキャリータンパク質はIGFBP−3である。グリコシル化によって引き起こされる複合体の不均質なサイズのために、現在のところIGF−1及びそのIGFBPsとのこれらの複合体中における結合のストイキオメトリーに関する知見は無い。
【0006】
IGF−1は、天然には、血液及びヒト脳脊髄液などのヒトの体液中に生じる。IGF−1は多くの組織中で産生されるが、多くの循環するIGF−1は肝臓で合成されると考えられている。IGFBPsは、IGF−1の生物学的活性を調節すると考えられ(Jones及びClemmons, 上掲)、IGFBP−1については (Lee等, Proc. Soc. Exp. Biol. & Med., 204: 4-29 (1993))、グルコース代謝に関わる主要なタンパク質として関与している考えられている(Baxter,"Physiological roles of IGF binding proteins", in: Spencer (Ed.), Modern Concepts of Insulin-like Growth Factors (Elsevier, New York, 1991), pp. 371-380)。肝臓によるIGFBP−1産生は栄養状態により調節され、インスリンが直接その産生を抑制する(Suikkari等, J. Clin. Endocrinol. Metab., 66: 266-272 (1988))。
IGFBP−1のインビボにおける機能は、よく分かっていない。ラットに対する精製されたヒトIGFBP−1の投与は急性ではあるが、わずかな血中グルコースの増加を引き起こすことが示されている (Lewitt 等, Endocrinology, 129 : 2254-2256 (1991))。IGFBP−1の制御は、幾らか良く分かっている。血中グルコースが上昇し、インスリンが分泌されると、IGFBP−1が抑制され、グルコース輸送に対するインスリンの作用を助けると考えられる「遊離」IGF−1のレベルの緩やかな上昇を生じさせることが提唱されている(Lewitt及びBaxter, Mol. Cell Endocrinology, 79: 147-152 (1991))。このようなシナリオは、血中グルコースの直接の制御因子として、IGFBP−1の機能を位置付けるものである。
【0007】
多くの場合、外来性のIGFBPの添加はIGF−1の効果を鈍くする。例えば、MCF−7ヒト乳癌細胞に対するエストラジオールの成長刺激効果はIGFBP−3mRNAの減少及びタンパク質の蓄積に関与する一方、抗エストロゲンであるICI 182780は成長阻害とIGFBP−3mRNAとタンパク質レベルの増大を引き起こす(Huynh等, J Biol. Chem., 271 : 1016-1021 (1996); Oh等, Prog. Growth Factor Res., 6: 503-512 (1995))。レチノイン酸によるインビトロでの乳癌細胞の増殖阻害は腫瘍細胞による変更されたIGFBP分泌又は減少したインビボの循環IGF−1レベルに関与することも報告されている(LeRoith等, Ann. Int. Med., 122: 54-59 (1995); Oh等, (1995), 上掲)。この発見とは逆に、抗エストロゲンであるタモキシフェンによるMCF−7細胞の処理は、減少したIGFBP産生とは無関係の様式でIGF−1Rシグナルを減少させる(Lee等, J Endocrinol., 152 : 39 (1997))。IGFBPsの一般的な抗増殖効果に対する更なる裏づけとして、IGFBP−3が腫瘍抑制因子であるp53の標的遺伝子であるとの特筆すべき発見がある(Buckbinder等, Nature, 377: 646-649 (1995))。このことは、p53のサプレッサー活性が、一部、IGFBP−3産生及びその結果生じるIGF作用の阻害によって媒介されていることを示唆する((Buckbinder等, 上掲)。これらの結果は、IGFBPsが、IGF−1/IGF−2によって制御される傍分泌/自己分泌過程を調節することによって細胞増殖をブロックし得ることを示す。これらの観察に対する必然的な結果は、前立腺特異的抗原(PSA)がIGFBP−3プロテアーゼであり、活性化するとIGFBP−3のタンパク質分解的不活性化によりIGF−1/IGF−2作用に対する腫瘍細胞の感受性を増大させるとの知見をもたらす(Cohen等, J. Endocr., 142: 407-415 (1994))。IGFBPsはIGF−1/IGF−2と複合体を形成し、IGF−1/IGF−2のIGF−1Rへのアクセスを妨げる(Clemmons等, Anal. NY Acad. Sci. USA, 692: 10-21 (1993))。IGFBP−1,−2及び−3はインビトロで細胞に添加すると細胞の成長を阻害する (Lee等, J Endocrinol., 152: 39 (1997); Feyen等, J Biol. Chem., 266: 19469-19474 (1991))。さらに、IGFBP−1(McGuire等, J Natl. Cancer Inst., 84: 1335-1341 (1992); Figueroa等, J Cell Physiol., 157: 229-236 (1993))、IGFBP−3(Oh等, (1995), 上掲 ; Pratt及びPollak, Biophys. Res. Commun., 198 : 292-297 (1994))及びIGFBP−2は全てIGF−1又はエストロゲンで誘導される乳癌細胞の増殖をナノモル濃度で阻害することが示されている。これらの知見は、IGFBPsがIGF作用の強力なアンタゴニストであるとの見解を支持する。また、IGFとの相互作用とは無関係に、IGFBP−3の自らの細胞表面レセプターを介した細胞への直接的な効果に関する証拠も存在する(Oh等, J Biol. Chem., 268: 14964- 14971 (1993); Valentinis等, Mol. Endocrinol., 9: 361-367 (1995))。総合すると、これらの知見はIGF及びIGF−1Rの治療的使用に対する標的としての重要性を明らかにするものである。
【0008】
IGFsは正常又はトランスフォームした前立腺上皮細胞に対する分裂促進的及び抗アポトーシス的な影響を持つ(Hsing等, Cancer Research, 56: 5146 (1996); Culig等, Cancer Research, 54: 5474 (1994); Cohen等, Hormone and Metabolic Research, 26: 81 (1994); Iwamura等, Prostate, 22: 243 (1993); Cohen等, J. Clin. Endocrin. & Metabol., 73: 401 (1991); Rajah等, J. Biol. Chem., 272: 12181 (1997))。循環するIGF−1の多くは肝臓由来であるが、組織中でのIGFの生物活性は循環するIGFs及びIGFBPsのレベルのみならず、IGFs、IGFBPs、及びIGFBPプロテアーゼの局所的生産にも関与する(Jones及びClemmons, Endocrine Reviews, 16: 3 (1995))。循環するIGF−1及びIGFBP−3(主な循環IGFBP(Jones及びClemmons, 上掲))の個々の人間での変動は、大きく(Juul等, J. Clin. Endocrinol. & Metabol., 78: 744 (1994); Juul等, J. Clin. Endocrinol. & Metabol., 80: 2534 (1995))、血清IGF−1レベルにおける不均一性は組織中のIGF生物活性の不均一性を反映しているようである。IGFを軸とする構成要素と関連するマーカーは、PSAが同じように使用されているため、前立腺癌に対する危険マーカーとして使用し得る(WO 99/38011)。
大抵の他の成長因子とは異なり、IGFsは、循環中、高濃度で存在しているが、ほんの僅かな割合IGFsのみがタンパク質に結合していない。例えば、ヒト又はげっ歯類において、血液中のIGFsのうち1%未満が「遊離」又は非結合形態であることが一般に知られている(Juul等, Clin. Endocrinol., 44: 515-523 (1996); Hizuka等, Growth Regulation, 1: 51-55 (1991); Hasegawa等, J. Clin. Endocrinol. Metab., 80: 3284-3286 (1995))。血中のIGFsの圧倒的に多くは、IGF−1又はIGF−2、IGFBP−3と、酸不安定サブユニット(ALS)と呼ばれる大きなタンパク質から構成されている非共有結合的に結合した3量体複合体の一部分として循環している。IGF,IGFBP−3及びALSの3量体複合体は、およそ150,000ダルトンの分子量を有しており、この複合体の循環中における機能は、IGF−1及びIGF−2に対する蓄積及びバッファーとして役立つためであり、遊離IGF−1又はIGF−2の急速な変化を防いでいることが示唆されている。
【0009】
IGFBPsに結合するIGF−1及びIGF−2上の領域を同定する多くの研究が行われている(Bayne等, J. Biol. Chem., 265: 15648-15652 (1990); Dubaquie及びLowman, Biochemistry, 38: 6386- 6396 (1999);及び米国特許番号5,077,276; 5,164,370;及び 5,470,828)。例えば、IGF−1及びIGF−2のN末端領域がIGFBPsとの結合に重要であることが明らかとなっている(米国特許番号5,077,276; 5,164,370;及び5,470,828)。従って、des(1−3)IGF−1と命名された天然のIGF−1変異体はIGFBPと不十分にしか結合しない。
同様な研究量がIGF−1Rと結合するIGF−1及びIGF−2上の領域を同定することに傾けられてきた(Bayne等, 上掲; Oh等, Endocrinology (1993), 上掲)。IGF−1中の位置24,31及び60におけるチロシン残基はIGF−1のIGF−1Rとの結合に重要であることが見出された(Bayne等, 上掲)。一又は複数のこれらチロシン残基が置換されている変異体IGF−1分子は、漸次、低減されたIGF−1Rとの結合性を示した。上掲のBayne等においても、このようなIGF−1の変異体がIGF−1R及びIGFBPsと結合できるかどうか調べられた。彼らは、IGF−1Rと結合するために使用されるものとは全く異なるIGF−1とIGF−2上の残基がIGFBPsとの結合するために用いられることを見出した。従って、IGFBPsに対する低減した結合性を示すIGF変異体を産生することは可能であるが、それらはIGF−1Rと十分に結合するので、インビトロにおける活性アッセイでは維持された活性を示す。
また、IGFBPsには結合するがIGFレセプターには結合せず、その結果インビトロにおける活性アッセイでは低減した活性を示すIGF変異体も報告された (Bar等, Endocrinology, 127: 3243-3245 (1990))。(1-27, gly4, 38-70)-hIGF-1と命名されたこの変異体において、 ヒトIGF−1のC−領域の残基28−37が4つの残基のグリシンブリッジによって置換されている。
他の切断されたIGF−1変異体が開示されている。例えば、特許文献において、WO96/33216は、真正のIGF−1の残基1−69を有する切断された変異体について記述する。EP742,228は、2本鎖IGF−1スーパーアゴニストについて開示するが、これらは、短縮されたC領域を持つ天然に生じる一本鎖IGF−1の誘導体である。IGF−1類似体は化学式:BCn,Aを持ち、ここでBはIGF−1又はその機能的類似体のB領域であり、CはIGF−1又はその機能的類似体のC領域であり、nはC領域のアミノ酸の数で約6から約12であり、AはIGF−1又はその機能的類似体のA領域である。
【0010】
さらに、Cascieri等, Biochemistry, 27: 3229-3233(1988)は、3種がIGF−1Rへの親和性が低下していた、IGF−1の4種の変異体について開示している。これらの変異体は:(Phe23、Phe24、Tyr25)IGF−I(タイプ1及び2のIGF及びインスリンレセプターへの親和性がヒトIGF−1と同等)、(Leu24)IGF−1及び(Ser24)IGF−1(ヒト胎盤IGF−1R、胎盤インスリンレセプター、及びラット及びマウス細胞のIGF−1Rへの親和性がIGF−1よりも低い)、そしてdesoctapeptide(Leu24)IGF−1(位置24の芳香族性の消失がhIGF−1のカルボキシル末端のD領域の欠損と連結している)である。これら4種の変異体は、ヒト血清結合タンパク質へ標準的な親和性を有している。
Bayne等, J. Biol. Chem., 263:6233-6239(1988)は、ヒトIGF−1の4種の構造アナログを開示している:IGF−1の最初の16アミノ酸がインスリンのB鎖の最初の17アミノ酸で置換されたB鎖変異体、(Gln3,Ala4)IGF−1,(Tyr15,Leu16)IGF−1,及び(Gln3,Ala4,Tyr15,Leu16)IGF−1。これらの研究により、血清結合タンパク質及びタイプ2IGFレセプターと高親和性の結合性を維持する原因となるIGF−1の幾つかの領域が同定される。
他の研究において、Bayne 等, J.Biol.Chem., 264: 11004-11008(1988)は、IGF−1の3種の構造アナログを開示している:(1−62)IGF−1で、IGF−1のC−末端のD領域の8個のアミノ酸を欠くもの、IGF−1のC領域の残基28−37が4残基グリシンブリッジによって置換されている(1−27,Gly4,38−70)IGF−I;及び(1−27,Gly4,38−62)IGF−Iで、C領域のグリシン置換とD領域欠失を伴うものである。Peterkofsky等, Endocrinology, 128: 1769-1779(1991)は、Bayne等, 上掲(vol.264)のGly4変異体を使用したデーターを開示する。
Cascieri 等, J.Biol.Chem. 264: 2199-2202(1989)は、IGF−1のA領域の特定の残基が、インスリンA鎖上のこれらに相当する残基と置換されている3種のIGF−1アナログを開示している。これらアナログは:(Ile41、Glu45、Gln46、Thr49、Ser50、Ile51、Ser53、Tyr55、Gln56)IGF−1で、その残基41がスレオニンからイソロイシンへ置換され、A領域の残基42−56が置換されているA鎖変異体;(Thr49、Ser50、Ile51)IGF−1;及び(Tyr55、Gln56)IGF−1である。
Clemmons等, J. Biol. Chem., 265:12210-12216 (1990)は、IGFBP−1のリガンド特異性及びIGF−1の生物活性の調節におけるIGFBP−1の役割を研究するために、IGF−1R又は結合タンパク質のいずれかに対する結合親和性を減少させたIGF−1アナログの使用について開示している。
【0011】
WO94/04569は、IGF−1と結合することができ、IGF−1の生物学的活性を促進することができる天然のIGFBP以外の特異的結合分子を開示する。
IGFBP−1と結合し、IGF−1がこの結合タンパク質に結合するのを阻止し、よってIGF−1とIGFBP−1の混合物に由来する「遊離IGF」活性を解き放すペプチドについて、最近記述されている(Lowman 等, Biochemistry, 37: 8870-8878 (1998); 1998年10月15日に公開されたWO98/45427; Lowman 等, International Pediatric Nephrology Association, Fifth Symposium on Growth and Development in Children with Chronic Renal Failure (New York, March 13,1999))。また、幾つかのIGF結合タンパク質に対しては選択的に減少するが、IGFレセプターに対しては維持される親和性を示す天然分子のdes(1−3)IGF−1も記述されている(米国特許番号5,077,276; 5,164,370; 5,470,828)。
しかしながら、特異的なアンタゴニストがないため、スクリーニング、病気の予防又は治療におけるIGF−1とIGFBP間の相互作用の利用には限界があった。これまでに、癌の治療における潜在的な治療上の添加剤としてのIGF−1/IGF−2アンタゴニストの適用について記述する刊行物は1件のみ存在することが知られている(Pietrzkowski等, Cancer Res., 52: 6447-6451 (1992))。この報告において、IGF−IのD領域に対応するペプチドはIGF1/2アンタゴニストとしての使用のために合成されている。このペプチドは、IGF−1に対して不確かな阻害活性を示した。D領域はIGF−1Rとの結合においては重要な役割を演じておらず、むしろインスリンレセプターとのIGF−1の結合において重要であるため、観察された阻害の根拠は不明である(Cooke等, Biochem., 30: 5484-5491 (1991); Bayne等, 上掲 (Vol. 264); Yee 等, Cell Growth and Different., 5: 73-77 (1994))。
WO00/23469は、IGF−IGFBP結合の原因となるIGFBP及びIGFペプチドの一部、即ち、少なくとも全長IGFBPと同等な結合親和性でIGFと結合するIGFBP又はその修飾体の単離されたIGF結合ドメインを開示する。また、その特許文献は、IGFのIGFレセプターに対する結合を減少させ、及び/又はIGFBPの結合ドメインと結合するIGFアンタゴニストについても開示する。
さらに、EP639981は、IGF−1レセプターのアンタゴニストとして機能する短いペプチドを含む医薬組成物を開示する。医薬組成物中で使用されるペプチドは、25アミノ酸未満で構成され、少なくともIGF−1由来のC−又はD−領域の一部を含み、IGF−1によって誘導されるIGF−1レセプターの自己リン酸化を阻害する。
【0012】
IGF−1分子を含むポリペプチドは、一次アミノ酸配列及び該ポリペプチドを取巻く環境により決定される三次元構造を持つ。この3次元構造が、ポリペプチドの活性、安定性、結合親和性、結合特異性、及び他の生化学的特性を確立する。従って、タンパク質の3次元構造に関する知見は、可溶化又は膜結合形態でのその生物学的活性を模倣し、阻害し、又は向上させる薬剤の設計において、多くの指針を提供することができる。
ポリペプチドの3次元構造を多くの方法により決定される。最も正確な方法の多くは、X線結晶化を利用する(Van Holde, Physical Biochemistry (Prentice Hall: N. J., 1971), pp. 221-239)。この技術はX線又は他の放射線の形態を回折する結晶格子の能力によるものである。巨大分子の3次元構造を決定するのに適する回折実験には、典型的には高品質の結晶が必要である。不幸にも、そのような結晶は多くの興味あるタンパク質と同様にIGF−1に関して利用可能ではなかった。結晶は、例えば、M−CSF(EP668,914B1),CD40(WO97/00895),及びBC2 Fabフラグメント(WO99/01476)に対して記述されている。
インスリンの結晶化は、構造解析 (Adams等, Nature, 224: 491 (1969))及び製薬的な応用の両観点において、集中的に研究されている分野である。治療上使用されるインスリン結晶懸濁液の例には、0.8から2.5%(インスリン重量に基づく)の亜鉛の存在下、中性のpH値において安定で、遅延した作用を示す菱面体の亜鉛−インスリン結晶、及び小さなロッド状の形態で遅延作用製品において使用されるイソフェンインスリンプロタミン結晶の懸濁液が含まれる。さらに、インスリンの他のいくつかの結晶の修飾が知られているが、これらは、これまでX線構造解析に対してのみ興味が示されていた。しかして、亜鉛を含まない斜方晶及び単斜結晶は酸性のpH状態下において得られていた (Einstein及びLow, Acta Crystallogr., 15: 32-34 (1962))。立方体空間群に分類されなければならない、より小さな菱面12面体は、等電点において、また亜鉛の不存在下で得られている。最後に、インスリンの単斜結晶形態は亜鉛の存在下及びフェノール又はフェノール誘導体の存在下、等電点以上で得られている。これらの結晶は数日でかなりのサイズまで(3mmまで)成長し、鋭い端部を有する。興味深いことに、これらの結晶は、ガラス表面上でのみ見出されており、溶液の自由表面上では見出されていない。インスリン調製物及びインスリンアナログの結晶懸濁液及び他の結晶形態は、例えば、米国特許番号4,959,351; 5,840,680; 5,834,422; 6,127,334; 5,952,297; 5,650,486 ; 5,898,028; 5,898,067; 5,948,751; 5,747,642; 5,597,893; 5,547,930; 5,534,488; 5,504,188; 5,461,031;及び 5,028,587などの代表的な特許中に記述されている。
【0013】
結晶化タンパク質及びペプチドを調製するための種々の方法は当該技術分野において知られている(McPherson等, "Preparation and Analysis of Protein Crystals," McPherson (Robert E. Krieger Publishing Company, Malabar, FL, 1989); Weber, Advances in Protein Chemistry, 41: 1-36 (1991) ; 米国特許番号4,672,108及び 4,833,233)。ペプチドを結晶化することに対して複数のアプローチが存在するが、特に、その結晶がX線回折研究に適するものでなくてはならない場合、蓋然性のある成功をもたらす単一の条件は存在しない。構造に関して正確な情報を提供するために十分なサイズ及び解像度の結晶を得るためには、かなりの努力が必要である。例えば、ひとたび充分な純度のタンパク質が得られると、X線回折及びその後の構造決定に役立つサイズ及び透明度まで結晶化されなければならない。さらに、標的タンパク質のアミノ酸配列は既知であっても、この配列情報によりタンパク質の結晶構造の正確な予測は可能とはならない。また、配列情報がIGFBPなどのリガンドとそのタンパク質標的間における構造的、立体配座的、及び化学的相互作用に関する理解を提供することはない。従って、結晶構造は薬剤設計及び発見の分野において豊富な有益情報を提供し得るが、IGF−1などのある種の生物学的に関連する化合物の結晶は当業者において容易に入手できるものではない。IGF−1の高品質な回折結晶はその3次元構造の決定に役立つ。
特異的IGF−1アンタゴニストの生成は、少なくとも一部にはIGF及びIGFBPsの構造研究における困難性のため、制限されてきた。回折研究に適するIGF−1の結晶を得ることができないために、例えば、ブタインスリンの結晶構造に基づいてIGF−1の構造を推定することが、IGF−1に関し利用可能な最も重要な構造の道路地図であった(Blundell等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75: 180-184 (1978))。また、IGFsの三次構造、レセプター結合、及び抗原性について開示するBlundell等, Fed. Proc., 42: 2592-2597 (1983)も参照のこと。化学的に修飾され、変異導入されたIGF−1の研究に基づいて、IGF−1とインスリン間の多くの共通の残基、特に位置23−25の芳香族残基がIGF−1Rインスリンレセプター接触部位の一部として同定されている。
【0014】
NMR及び制限付き分子動力学計算を用いて、IGF−1の構造決定が最近報告された(Cooke等, 上掲)。その結果得られた最小化された構造は、修飾されたIGF−1に対する実験的知見、並びにインスリンの構造活性研究による推定によく適合することが示された。さらに、De Wolf等, Protein Sci., 5: 2193-2202 (1996)は、ミニIGF−1の決定構造を開示する。Sato等, Int. J. Pept. Protein Res., 41: 433-440 (1993)は、1H−NMR及びディスタンスジオメトリー法によって決定されたIGF−1の3次元構造を開示する。Laajoki 等, J. Biol. Chem., 275: 10009-10015 (2000)は、long−[Arg(3)]IGF−1の決定構造及びバックボーン動力学を開示する。Laajoki等, FEBS Lett., 420: 97-102 (1997))も参照のこと。ヘリカルセグメントのバックボーン原子間に大きなRMSDsが存在するため、IGF−1に関して有用な少数のNMRモデルはあまり明確ではない。最も良いNMRモデルは、3つのαへリックスが示されているIGF−2のものである。ヒトIGF−2の決定構造及びそのレセプターと結合タンパク質相互作用の関係を開示するTorre等, J. Mol. Biol., 248: 385-401 (1995)を参照のこと。全ての構造において、C−及びD−領域は極めて不十分にしか決定されていない。
【0015】
構造情報の提供に加えて、結晶ポリペプチドはその他の利益を提供する。例えば、結晶化の過程それ自体により、ポリペプチドがさらに精製され、均一性に関する古典的な基準の一つが満たされる。実際に、結晶化はしばしば他に例を見ない精製度を提供し、HPLC、透析、従来のカラムクロマトグラフィーなどの他の精製方法では除去されない不純物を除去する。さらに、結晶ポリペプチドはしばしば周囲温度で安定であり、プロテアーゼのコンタミネーション及び溶液貯蔵に伴う他の分解を受けない。また、結晶ポリペプチドは、医薬製剤としても有用である。最後に、一般に結晶化技術は他の安定化方法(例えば、凍結乾燥)に伴う変性などの問題を概ね免れる。従って、結晶化形態のIGF−1組成物を調製し、それらの3次元構造を決定することに関して顕著な必要性が存在する。本発明はこの点と他の必要性を満たす。ひとたび結晶化が達成されると、結晶学的データは、アゴニスト又はアンタゴニストとして役立つであろうペプチドの設計を支援しうる有用な構造情報を提供する。さらに、結晶構造は、アンタゴニスト又はアゴニストとして役立つであろう非ペプチド小分子で模倣し得るレセプター結合ドメインをマップするのに役立つ情報を提供する。また、IGF−1へのIGFBPの結合の界面活性剤の阻害に関する知見は、新規なIGF−1アゴニストの同定に用いることができる。
【0016】
(発明の概要)
以上のように、本発明は特許請求の範囲に記載の通りである。IGF−1が結晶化され、その構造が、IGF−1の1つの臭化物イオンと7つの硫黄原子のうちの6つの異常分散を利用することにより、1.8オングストロームの解像度において多波長異常分散法(MAD)を用いて決定された。結晶構造中で順序付けされたIGF−1のC−領域は、タイプIIβターンを形成し、結晶学的ダイアドを横切る結晶のパッキング相互作用をメディエートする。IGF−1の溶液状態は、分析的超遠心法により性質決定され、その結果は、IGF−1は、ミリモル濃度でほんのわずかながら二量体化する傾向はあるものの、中性のpHでは主に単量体として存在する。界面活性剤分子であるN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン(deoxy big CHAPS)は、対称性に関連する分子間の結晶充填接触をメディエートする。溶液の実験により、IGF−1:N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン複合体が溶液中で形成され、界面活性剤の結合がある程度IGFBP結合を阻止することが確認される。
従って、一側面において、本発明は、X線放射を回折して、IGF−1の3次元構造を表す回折パターンを生じるIGF−1によって形成された結晶を提供する。好ましくは、この結晶は、およそ以下のセル定数、a=31.831Å,b=71.055Å,c=65.995Å,及びC2221の空間群を有する。また、好ましくは、IGF−1はA−,B−,C−,及びD−領域を含み、結晶中で二量体を形成し、さらに、該結晶が二量体界面にレセプター結合部位を含むのが好ましい。
また、本発明は、上記結晶を含む組成物も提供する。好ましくは、本組成物中において、IGF−1は再可溶化された場合に生物学的に活性である。さらに本発明は、アゴニスト障害を患っている哺乳動物、好ましくは、ヒト患者を治療する方法であって、上記再可溶化した組成物の有効量を前記哺乳動物に投与することを含んでなる方法を提供する。
また、本発明は、
(a)IGF−1を含む水溶液を、沈殿剤を含むリザーバ液と混合して混合物(mixed volume)を形成し;及び
(b)混合物を結晶化する:
段階を含んでなるIGF-1を結晶化する方法も提供する。
また、本発明は上記方法により作製された結晶化IGF−1も提供する。
さらに、本発明は、
(a)IGF−1を結晶化し;
(b)結晶化IGF−1に照射して結晶化IGF−1の回折パターン特性を取得し;及び
(c)回折パターンをIGF−1の3次元構造へ変換する:
ことを含んでなる、IGF−1の3次元構造を決定する方法を提供する。
さらに、本発明は、適当な機械により読み取られると、IGF−1を含む分子の結晶の3次元表示を示す機械読み取り可能なデータでコード化されたデータ保存物質を含む、機械読み取り可能なデータ保存媒体を提供する。
さらなる側面では、本発明は、別表1中に示された構造座標を持つIGF−1結晶を提供する。
さらに、本発明は、IGF−1結晶から誘導されるIGF−1の3次元構造を使用する方法であって、IGF−1の3次元構造がIGF−1レセプター結合領域を含み、該方法がIGF−1の3次元構造のレセプター結合領域と相互作用し、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストとして機能する構造を持つ化合物を同定することを含む方法を提供する。好ましくは、そのような方法において、IGF−1の3次元構造が別表1に示される構造情報と実質的に同一のα−炭素座標を含む。
【0017】
他の側面では、本発明は、
(a)IGF−1を結晶化してIGF−1結晶を形成し、該IGF−1結晶がIGF−1レセプター結合領域を定めるアミノ酸残基のグループを含み;
(b)段階(a)からのIGF−1結晶に照射して、IGF−1結晶の回折パターンを取得し;
(c)回折パターンからIGF−1の3次元構造を決定し、該構造はIGF−1レセプター結合領域を含み;及び
(d)IGF−1レセプター結合領域の3次元構造を表す本質的なIGFレセプター結合、溶媒アクセス可能残基を機能的に再現する3次元構造を持つIGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定し、前記IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストがIGF−1と比較して、IGF−1応答細胞に対する変更されたシグナル伝達能力を有する:
段階を含んでなる、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法を提供する。
好ましくは、本方法において、溶媒アクセス可能残基はIGF−1接合点の形成に関与しない。
さらにある側面によれば、本発明は、
(a)IGF−1の3次元構造を決定し;及び
(b)IGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する:
段階を含むIGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する方法を包含する。
さらなる実施態様によると、本発明は、IGF−1と結合し、IGFBP又はIGF−1と結合するレセプターの結合をブロックするペプチドミメティックを同定する方法であって:
(a)別表1に与えられる構造座標又は構造パラメーターを持つ分子構造データベースを検索し;及び
(b)IGF−1の構造パラメータ又は構造座標を模倣する分子を該データベースから選択する段階を含む方法を提供する。
また、本発明は、分子複合体の3次元構造の少なくとも一部を決定する方法であって、前記複合体がIGF−1を含み、前記方法が:
(a)IGF−1の結晶の構造座標を決定し;
(b)構造座標から位相を計算し;
(c)段階(b)において得られた位相から電子密度地図を計算し;及び
(d)前記電子密度地図に基づき複合体の少なくとも一部の構造を決定する;
段階を含む方法を提供する。
好ましくは、段階(a)で用いられる構造座標は別表1中に記述されるものと実質的に同一であるか、又は別表1中の座標と実質的に同じ結晶を記述する。
【0018】
また、本発明は、IGF−1と会合する化学物質又はそれらの複合体の能力を評価する方法であって、該方法が:
(a)化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の適合操作を実施するためにコンピュータ又は実験による方法を用い、それにより会合に関連したデータを取得し;及び
(b)段階(a)で得られたデータを解析して、化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の会合の特性を決定する、段階を含む方法を提供する。
また、本発明は、IGF−1及びそのレセプター間、又はIGF−1及びその結合タンパク質の少なくとも1つとの間のインビボ又はインビトロの会合を妨害し、又はIGF−1上の結合部位と会合する上記方法により同定される化学物質も提供する。
また、IGF−1の結晶化形態の重原子誘導体も提供される。
また、本発明は、別表1に記述される構造座標を持つIGF−1結晶を用いて、コンピューター又は実験により化学物質を評価して、IGF−1の一又は複数の結合部位との結合に関する情報を得る方法も提供する。
本発明の上記方法を用いて同定される任意のペプチドアナログ及び他の化学物質は、ここで記載される治療的方法及び医薬組成物において有用である。
また、本発明は、
(a)IGFBP−1又は−3のIGF−1への結合を阻害するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの能力を、そのように結合を阻害するIGF−1に対する候補間接的アゴニストの能力と比較し;及び
(b)候補アゴニストが少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にそのような結合を阻害するかどうか決定する:
段階を含むIGF−1の間接的アゴニストを同定する方法も提供する。
好ましい実施態様では、比較は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと候補アゴニストとの間の競合アッセイにより達成される。さらに好ましい実施態様において、結合の阻害は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストを、バクテリオファージ粒子上で発現されたIGF−1とプレインキュベーションし、プレートベースのエライザアッセイにおいてIGFBP−1又はIGFBP−3へのIGF−1の残留結合性を測定することにより測定される。
【0019】
さらに、本発明は、IGF−1の候補間接アゴニストとIGF−1とを共結晶化して共結晶構造を形成し、候補アゴニストがIGF−1上の2つパッチの一又は二と結合するかどうかを決定することを含み、一のパッチがアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を有し、第二のパッチがVal11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を有し、任意のパッチのリストに挙げられた各アミノ酸残基と共結晶構造中6オングストローム未満又はそれに等しい候補アゴニストとの間の少なくとも1つの接触が存在する場合に、結合が生じる、IGF−1の間接的アゴニストの同定方法を提供する。好ましい実施態様において、候補アゴニストは、少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にIGF−1に対するIGFBP−1又は−3の結合を阻害する。結合の阻害がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン及び候補アゴニスト間の競合アッセイを用いて測定される方法がより好ましい。結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストとバクテリオファージ粒子上で発現されるIGF−1とをプレインキュベーションし、IGFBP−1又はIGFBP−3に対するIGF−1の残りの結合をプレートベースのエライザアッセイで測定することにより測定される方法が最も好ましい。
また、有効量のN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンを哺乳類に投与することを含む、哺乳動物におけるIGF−1アゴニスト疾患を治療するための方法もここで提供される。
さらに、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの共結晶複合体がここに提供される。
【0020】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
A.定義
ここで使用される「IGF」は、例えば、1987年8月5日公開のEP 230,869;1984年12月19日公開のEP 128,733;又は1988年10月26日公開のEP 288,451によって記述されているように他に注記しない限り、ヒトインスリン様成長因子のことを示し、N末端メチオニンを持たないヒト天然成熟IGF−1配列を持つ。
「IGFBP」又は「IGF結合性タンパク質」は、循環性であるか否かによらず(即ち、血清又は組織中)、IGF-1に通常は付随又は結合又は複合体形成するタンパク質又はポリペプチドを指す。この定義は、IGFBP-1、IGFBP-2、IGFBP-3、IGFBP-4、IGFBP-5、IGFBP-6、Mac25(IGFBP-7)、及びプロスタサイクリン刺激因子(PSF)又は内皮細胞特異的分子(ESM-1)、並びにIGFBPに高い相同性を持つ他のタンパク質を包含する。Mac25は、例えば、Swisshelm等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 4472-4476 (1995)及びOh等, J. Biol. Chem., 271: 30322-30325 (1996)に記載されている。PSFはYamauchi等, Biochemical Journal, 303:591-598 (1994)中に記載されている。ESM-1は、Lassalle等, J. Biol. Chem., 271: 20458-20464 (1996)に記載されている。他の同定されたIGFBPについては、例えば、1990年6月27日公開のEP 375,438; 1990年5月23日公開のEP 369,943; 1989年10月5日公開のWO 89/09268; Wood等, Molecular Endocrinilogy, 2: 1176-1185 (1988); Brinkman等, The EMBO J., 7: 2417-2423 (1988); Lee等, Mol. Endocrinol., 2: 404-411 (1988); Brewer等, BBRC, 152: 1289-1297 (1988); 1988年12月7日公開のEP 294,021; Baxter等, BBRC, 147: 408-415 (1987); Leung等, Nature, 330: 537-543 (1987); Martin等, J. Biol. Chem., 261: 8754-8760 (1986); Baxter等, Comp. Biochem. Physiol., 91B: 229-235 (1988); 1989年9月21日公開のWO 89/08667; 1989年10月19日公開のWO 89/09792; Binkert等, EMBO J., 8: 2491-2502 (1989)を参照のこと。IGFBP−1及びIGFBP−3はIGF−1の異なる残基に結合する。
ここで使用される「ヒトIGF−1レセプター」又は単に「IGF−1レセプター」とはヒトに見出されるIGF−1に対する任意のレセプターを意味し、ヒトにおいてヒトIGF−1が結合する、胎盤IGF−1Rなどのタイプ1及びタイプ2 IGFレセプターを含む。
「IGF−1の間接的アゴニスト」とは遊離したIGF−1が活性を有し、そのレセプターと相互作用するように、インサイツにおいてIGFBP−3又はIGFBP−1からIGF−1を遊離させる分子のことである。
【0021】
「ペプチド」は、少なくとも2つのアミノ酸を持つ分子であり、少なくとも約60アミノ酸を持つポリペプチドを含む。好ましくは、ペプチドは約10から約60アミノ酸を持ち、より好ましくは約10−25、最も好ましくは約12−25アミノ酸を持つ。本定義には、直鎖状及び環状ペプチド、ペプチド誘導体、それらの塩、又は光学異性体が含まれる。
ここで使用される治療の目的の「哺乳動物」は、ヒト、家畜、及び農場の動物、及び動物園、スポーツのため、又はペットの動物で、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含む、哺乳動物として分類される任意の動物を意味する。ここにおいて好ましい哺乳動物はヒトである。「非成熟」なる用語は、周産期年齢(出生時低体重乳児など)から思春期までの哺乳動物を意味し、後者は、全成長潜在能力に達していないものである。
ここで使用される「治療」なる用語は、治癒的処置と、予防的又は防止的療法の両方を意味する。治療が必要なものには、既に疾患に罹っているもの、並びに疾患に罹りやすい又は疾患が診断されているもの又は疾患が防止されるべきものが含まれる。
「疾患」とは、IGF−1アゴニスト(「アゴニスト疾患」)又はアンタゴニスト(「アンタゴニスト疾患」)での治療によって利益を得るであろう任意の状態のことである。これには慢性及び急性疾患又は疾病が含まれ、問題の疾患に対して哺乳動物を罹りやすくする病理学的状態を含む。治療されるべき疾患は、以下に列挙するアゴニスト又はアンタゴニスト疾患の2又は複数の組合わせでありうる。
アンタゴニスト疾患の非限定的な例には、良性及び悪性腫瘍、白血病及びリンパ系悪性腫瘍、神経、グリア、アストロサイト、視床下部、及び他の腺性の、マクロファージの、上皮性の、間質性及び胞胚腔性の疾患、及び炎症性、血管原性及び免疫性疾患、糖尿病性網膜症又は神経症などの糖尿病合併症、加齢性黄斑変性、水晶体摘出、核膜移植緑内障濾過手術及び核膜移植、屈折率を矯正する手術、すなわち、放射状核膜切除術などの眼科手術、さらに強膜黄斑孔及び変性、網膜剥離、硝子体網膜症、雑多な疾患、放射状角膜切除術の後遺症などの角膜の白内障疾患、ドライアイ、ウィルス性結膜炎、潰瘍性結膜炎、角膜上皮創傷などの創傷、シェーグレン症候群、黄斑性及び網膜性浮腫などの網膜疾患、視覚狭小化瘢痕、網膜虚血、及び増殖性硝子体網膜症が含まれる。
【0022】
さらに好ましくは、このようなアンタゴニスト疾患には、IGF−1によって悪化される糖尿病合併症、虚血性創傷、及び癌などの望ましくない細胞増殖に関連した疾病、再狭窄、喘息が含まれる。疾患がIGF−1によって悪化される糖尿病合併症である場合、そのような合併症には糖尿病性網膜症及び糖尿病性神経症が含まれ得る。治療効果は、例えば、向上した腎クリアランス、向上した視覚を含む臨床的徴候又は症状の軽減、又はIGF−1レセプターとの結合に利用されうるIGF−1の量の軽減によって証明される。疾患が虚血性傷害である場合、脳卒中、心筋の虚血及び腎臓の虚血性傷害を含み得る。
ここでの目的に対するアゴニスト疾患の例には、限定はしないが、例えば、肺疾患、下記のような高血糖疾患、腎臓疾患、例えば急性及び慢性腎不全、末期慢性腎不全、糸球体腎炎、間質性腎炎、腎盂腎炎、糸球体硬化症、例えば、糖尿病患者におけるキンメルスティール‐ウィルソン及び腎臓移植後の腎不全、肥満症、GH-不全、ターナー症候群、ラロン症候群、短身、加齢に関連した望ましくない徴候、例えば肥満及び脂肪量対除脂肪比率の上昇、免疫学的疾患、例えばCD4数の減少及び免疫寛容の低下を含む免疫不全又は化学治療誘発性組織傷害、骨髄移植、心臓構造又は機能の疾患又は不全、例えば心不全及び鬱血性心不全、ニューロン性、神経性、又は神経筋性疾患、例えば、末梢神経障害、多発性硬化症、筋ジストロフィー、又は筋緊張性ジストロフィー、及び例えば外傷又は創傷を含む任意の状態によって生ずる萎縮(消耗)に関連する異化状態、又は細菌又はHIVなどのヒトウイルス等での感染、創傷、皮膚疾患、修復を必要とする腸構造及び機能などを含むIGF−1での治療によって利益を受けるであろう任意の状態が含まれる。ここで治療の標的とする好ましい疾患は、糖尿病及び肥満、心臓機能不全、AIDS関連消耗性疾患、腎疾患、神経性疾患、全身成長疾患、及び免疫学的疾患である。
【0023】
ここで使用される場合の「高血糖疾患」は、糖尿病及びインシュリン耐性からもたらされる疾患のあらゆる形態、例えばI型及びII型糖尿病、並びに重篤なインシュリン耐性、高インシュリン血症及び高脂血症、例えば、肥満患者、及びインシュリン耐性糖尿病、例えばマンデンホール症候群、ヴェルナー症候群、妖精症、脂肪組織萎縮性糖尿病、及び他の脂肪組織萎縮症を意味する。好ましい高血糖疾患は糖尿病、特にI型及びII型糖尿病である。「糖尿病」自体は、インスリンの不十分な生産又は利用を含む炭水化物代謝の進行性疾患を意味し、高血糖及び糖尿によって特徴付けられる。
「生物学的に活性な」IGF−1とは、上に列挙した疾患の一又は複数の治療を可能ならしめる性質など、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストと慣習的に関連した生物学的活性を示すIGF−1を意味する。
「有効量」なる用語は、哺乳動物の疾病又は疾患を治療するために効果的なIGF−1又はペプチドミメティクス又は化学物質を含む他の化合物の量を意味する。癌の場合、例えば、ペプチドの有効量は癌細胞の数を減少させ;腫瘍サイズを減少させ;末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害し(すなわち、ある程度遅くし、好ましくは停止させる);腫瘍の転移を阻害し(すなわち、少なくともある程度遅くし、好ましくは停止させる);ある程度腫瘍の成長を阻害し;アポトーシスを促進し;及び/又は疾患に関連した一又は複数の症状をある程度軽減しうる。
「沈殿剤」は、IGF−1水溶液と混合されるとIGF−1を沈殿させ、平衡化してIGF−1結晶を形成するリザーバ液中の薬剤である。例には、カオトロピック剤、例えば硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール(例えば約2000から20000の範囲の広範な分子量のもの)、クエン酸ナトリウム、カコジル酸ナトリウム、又はそれらの混合物が含まれる。
「リザーバ液(reservoir solution)」は、沈殿剤及びIGF−1結晶を提供するのに必要な他の任意の成分、例えば、 C12E9(ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル、 ノナエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(9)エーテル)、C12E8(オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(8)ラウリルエーテル)、ドデシル−β−D−マルトピラノシド 、ラウリン酸スクロースエステル、シクロヘキシル−ペンチル−β−D−マルトシド、ノナエチレングリコールオクチルフェノールエーテル、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシル−β−D−マルトピラノシド、ラウリルジメチルアミンオキシド、シクロヘキシル−ペンチル−β−D−マルトシド、n−ドデシルスルフォベタイン、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパン−1−スルフォネート、ノニル−β−D−グルコピラノシド、オクチル−β−D−チオグルコピラノシド、OSG、N,N−ジメチルデシルアミン−β−オキシド、メチル−6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)−α−D−グリコピラノシド、スクロースモノカプロイレート、ヘプチル−β−D−チオグルコピラノシド、オクチル−β−D−グルコピラノシド、シクロヘキシル−プロピル−β−D−マルトシド、シクロヘキシルブタノイル−N−ヒドロキシエチルグルカミド、n−デシルスルフォベタイン、3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパン−1−スルフォネート、オクタノイル−N−メチルグルカミド、ヘキシル−β−D−グルコピラノシド、及びN,N−ビス(3−D−グルコアミドプロピル)−デオキシコールアミンなどの界面活性剤の溶液である。好ましくは、界面活性剤はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンである。
【0024】
「再結晶化」とは、初期結晶が成長し大きすぎず又は役に立つと決定された後、結晶化混合物中に何か他の物を多く希釈させないで、結晶を溶解する効果を持つメチルペンタンジオールなどの物質を結晶に添加する手順を意味する。その結果、数日の過程の後、結晶液滴はそのリザーバ液と再平衡化すると、結晶は再成長するが、この期間はより長く、より十分に順序付けされている。
「会合する」なる用語は、IGF−1と化学物質、又はその部分間の近接状態を意味する。会合(アソシエーション)は、近位化(juxtaposition)がエネルギー的に水素結合、ファンデルワールス相互作用、又は静電相互作用に有利な非共有結合性であっても、あるいは共有結合的会合であってもよい。
「結合部位」なる用語は、化学物質がIGF−1と結合又は会合する部位のいずれか又は全てを意味する。
「構造座標」なる用語は、結晶形態中の分子の原子(回折中心)によるX線の単色ビームの回折により得られたパターンに関係する数式に由来する座標を意味する。回折データは結晶の繰り返し単位の電子密度マップを計算するために使用することができる。当業者であれば、得られたデータが使用される特定のシステムに依存し、それ故、異なる座標は、そのような座標がここで記述されるものと実質的に同じ関係を定義する場合、実際には同一の結晶を記述しているかもしれないことを理解するであろう。電子密度マップは結晶の単位セル内の個々の原子の位置を確立するために使用されうる。
当業者であれば、X線結晶学によって決定された一連の構造座標が標準誤差を持つことを理解するであろう。別表1はIGF−1の原子座標を示す。本発明の目的では、骨格原子を使用して別表1の構造座標上に重ね合わせたとき、約2Å未満の等価なタンパク質骨格原子の2乗平均平方根偏差を有するIGF−1の一連の構造座標は同一であると考えるであろう。好ましくは、偏差は約1Å未満であり、より好ましくは約0.5Å未満である。
「重原子誘導体化」なる用語は、結晶化IGF−1の化学的に修飾された形態を産生する手法のことを意味する。実際には、結晶は、結晶を通って分散し、タンパク質表面に結合することができる重金属原子塩、又は有機金属化合物、例えば、塩化鉛、チオリンゴ酸ゴールド、チメロサール、又は酢酸ウラニルなどを含む溶液中に浸漬される。結合した重金属原子の位置は、浸漬された結晶のX線回折分析によって決定できる。この情報は、分子の3次元構造を構築するために使用される位相情報を作成するために使用することができる。
【0025】
「単位セル」なる用語は、基本的な成形されたブロックを意味する。結晶の塊全体は、そのようなブロックの規則的な集合によって構築される。各単位セルは、その繰り返しが結晶を構築するパターンの単位の完全な表示を含む。
「空間群」なる用語は、結晶の対称エレメントの配列を意味する。
「分子置換」なる用語は、未知の結晶の観察された回折パターンを最もよく説明するように、未知の結晶の単位セルの範囲内で、例えば、別表1のIGF−1座標などの構造座標が既知である分子を方向決め及び位置決めすることにより、構造座標が未知の結晶の予備的な構造モデルを作製することを含む方法を意味する。次にこのモデルから位相を計算し、観測された振幅と結合させて、座標が未知の構造の近似フーリエ合成を得る。次に、これに幾つかの形態のリファインメント(refinement)のいずれかを施して、未知の結晶の最終的な正確な構造を提供することができる。(例えば、Lattman, E.,"Use of the Rotation and Translation Functions,"Methods in Enzymology, 115: 55-77 (1985); Rossman, ed.,"The Molecular Replacement Method,"Int. Sci. Rev. Ser. No. 13 (Gordon and Breach: New York, 1972)を参照のこと)。本発明により提供されるIGF−1の構造座標を用いると、分子置換が共複合結晶、未知のリガンド、変異体、又はホモログの構造座標、又はIGF−1の異なる結晶形態の構造座標を決定するために使用され得る。さらに、特許請求の範囲に記載した結晶及びその座標はIGF−1と会合する化学物質の構造座標を決定するために使用されうる。
「化学物質」又は「化合物」なる用語は、ここで使用される場合、任意の分子、分子複合体、化合物、ペプチドミメティクス、又はIGF−1ではないそれらのフラグメントを意味する。好ましくは、それは有機化学分子又はペプチドなどの高度な経口生物学的利用度を持つ分子である。
【0026】
B.発明の実施形態
以下の発明の詳細な説明はIGF−1の結晶構造、IGF−1結晶を製造する方法、及びIGF−1結晶とその構造座標を使用する方法を含む。
a.IGF−1の結晶構造
特許請求の範囲に記載の本発明は、IGF−1の結晶並びにそれから決定されたIGF−1の構造を提供する。特に、特許請求の範囲に記載の本発明は、およそ以下のディメンションを持つIGF−1の結晶を提供する:a=31.831Å,b=71.055Å,c=65.995Å,α=β=γ=90.000°。それは対称であるか、又はC2221の空間群を持つ。そのリボン構造は3つのヘリックスを持ち、残基3−28に対応するN末端B領域、残基29−34に由来するC領域、残基35−40に由来する順序づけの乏しい残基のストレッチ、及び残基42−62に由来するA領域を持ち、図2に示される。D領域(残基63−70)は、本質的には無秩序である。図4及び図7は結晶化に用いられた界面活性剤が構造のBヘリックスの基礎における小さな疎水性クレフト中に結合することを示している。IGF−1は、図5中に示されるように結晶中で二量体を形成することができ、2つのテールが二量体表面上に位置づけされる。埋没した表面積は689Å2/モノマーで、全部で1378Å2である。二量体界面においてIGF−1Rの結合クラスターにとって重要な残基は、図6に示される。
特許請求の範囲に記載のIGF−1結晶の特徴は、さらに、ここでの実施例中に記載され、その構造座標は、別表1中に提供される。
【0027】
b.IGF−1結晶の作製方法
種々の実施態様において、特許請求された発明は最初にIGF−1を含む水溶液を提供することにより、IGF−1の結晶形態を調製する方法に関する。沈殿剤を含むリザーバ液は、次に、所定の体積のIGF−1溶液と混合し、生じた混合体積(混合物)は次に結晶化される。好ましい段階において、結晶は再び溶解され、再結晶化される。再結晶化に使用され得る試薬の例は、メチルペンタンジオールであり、これは好ましいものである。結晶は典型的には、他の試薬の希釈効果を最小にするために少量の本試薬で溶解させ、暫くの間再成長させたままにする。付加的な段階として、結晶化IGF−1は混合体積から単離される。好ましくは、IGF−1は原核生物細胞から、より好ましくはバクテリア細胞、最も好ましくは大腸菌から得られる。好ましくは、ペリプラズムに分泌され、米国特許番号5,723,310に記載されるようにして調製される。
水溶液中のIGF−1の濃度は、変わりうるが、好ましくは約1から50mg/ml、より好ましくは約5から15mg/mlである。同様に、本発明で使用される沈殿剤は、様々であり、当該技術分野において知られるいかなる沈殿剤を選択してもよい。好ましくは、沈殿剤は、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、カコジル酸ナトリウム、又はそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、沈殿剤は、クエン酸ナトリウム又はカコジル酸ナトリウムで緩衝化されたポリエチレングリコールである。沈殿剤のいかなる濃度もリザーバ液中で使用してもよい;しかし、ポリエチレングリコールなら約20から25%の濃度で、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、又はカコジル酸ナトリウムなら約1から10Mの濃度が好ましい。好ましくは、リザーバ液は、さらに界面活性剤を含む。好ましくは、界面活性剤は約10から50mMの量で存在する。また、好ましくは界面活性剤はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンである。また、リザーバ液のpHも変動してもよく、好ましくは約4から10の間であり、最も好ましくは約6.5である。
当業者ならこれらの各々のパラメータが過度な実験をしなくても変更することができ、それでも許容し得る結晶が得られることを理解するであろう。実際に、ひとたび適切な沈殿剤、バッファー、又は他の実験変数が任意の所定の成長方法に対して決定されれば、これらの方法のいずれか又は他の方法のいずれかが本発明の結晶を成長させるために使用可能である。当業者であればある特定の必要性に応じて変数を決定することができるであろう。
結晶化の様々な方法が本発明において使用可能であり、蒸気拡散、バッチ、液体ブリッジ、又は透析結晶化が含まれる。蒸気拡散結晶化が好ましい。例えば、McPherson等, Preparation and Analysis of Protein Crystals, Glick編(John Wiley & Co., 1982), pp. 82-159; Jancarik等, J. Appl. Crystallogr., 24: 409-411 (1991)を参照のこと。
【0028】
蒸気拡散結晶化では、タンパク質溶液の小体積(例えば、数ミリリットル)が沈殿剤を含む溶液と混合される。この混合体積は少量の、つまり約1mlの沈殿剤を含むウェル上で懸濁される。液滴からウェルへの蒸気拡散により液滴中で結晶が形成される。
結晶化の透析法は、タンパク質を保持するが、小分子(即ち、バッファー及び沈殿剤)が内外に拡散することを可能にする半透過性のサイズ排除膜を利用する。透析では、蒸発によりタンパク質及び沈殿剤を濃縮というよりも、沈殿剤がゆっくりと膜を介して拡散し、タンパク質濃度を一定にしつつタンパク質の溶解度を減少させる。
バッチ法は、通常、タンパク質の水溶液に溶液がちょうど濁るまでの沈殿剤のゆっくりとした添加を伴うものである;この時点で容器はシールされ、結晶化が起きるまでしばらくの間静置され得る。
従って、本出願人は特許請求の範囲に記載の発明は結晶化のいかなるもの及び全ての方法を含むことを意図する。当業者であればそのような方法のいかなるものも選択することができ、選んだ方法により所望の結晶が得られるようにパラメータを変動させることができる。
最も好ましい結晶化の方法は、IGF−1が、細胞から単離され、例えば米国特許番号5,681,814及びWO99/51272に記載されたような酢酸塩、クエン酸塩、又はコハク酸塩バッファーなどで製剤化された後、必要ならば約4−5、好ましくは約4.5のpHまで、場合によっては脱塩して、水溶液を形成する方法を含む。次に、水溶液の液滴を、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかで約pH6.5に緩衝化された約24%ポリエチレングリコール、及び界面活性剤として約1.4mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン約1μと混合する。ついで、この溶液を、結晶化粒(crystallization droplet)が形成されるまで、通常4−5日間、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかで約pH6.5に緩衝化された約24%ポリエチレングリコール約1mLと、蒸気拡散結晶化法によって平衡化させる。その後、約2μlの約100%メチルペンタンジオールを結晶化粒に添加し、結晶を一晩かけて溶解させ、通常1週間以内で新しい結晶を形成させる。
後述の実施例中で詳細に議論されるように、結晶構造は内在する硫黄と偶発的な臭化物イオンからの組み合わさった異常散乱によって決定した。
【0029】
c.IGF−1結晶及びその座標を使用する方法
ここでの結晶IGF−1は様々な目的に使用可能である。例えば、結晶化の過程それ自体は、さらにIGF−1を均一に精製する。従って、そのような目的の1つは、診断設定の標準又はコントロール、例えば、分子量マーカー、又はエライザ、ラジオアッセイ、又はラジオレセプターアッセイコントロールとして用いられうる高度に精製されたIGF−1を提供することである。さらに、結晶化IGF−1は室温で安定しており、直ぐに凍結乾燥することができ、純度に劣る組成物よりも変性が少ない傾向がある。
ここでの発明の他の用途では、X線回折研究の実施を可能にするサイズ及び品質の結晶IGF−1により、当業者はIGF−1の結合特性、並びにIGF−1と会合するIGFBPs、IGF−1レセプター及びALSの結合特性に関連する研究を行うことが可能となる。
さらに、ペプチド結晶構造から導かれる構造情報は、例えば、IGF−1に結合し、好ましくはIGF−1媒介又は会合過程又は事象を阻止又は妨害し、又はIGF−1アゴニストとして作用するペプチドミメティックス及び合成有機分子のような小有機及び生物有機分子などの化学物質の同定のために使用可能である。このような構造ベースの化合物設計への典型的なアプローチは、Structure Based Drug Design, Pandi Veerapandian編(Marcell Dekker: New York 1997)に記載されている。
例として、IGF−1の3次元構造を決定すると、当業者は図2及び5中に示されるようなIGF−1のモデルを構築する。ペプチド又はポリペプチドの全ての原子は適当なファンデルワールス半径の球として表すことができ、折りたたまれたIGF−1の詳細な表面マップを構築することができる。その結果得られる表面はファンデルワールス表面として知られている。「溶媒接近可能表面」は、化学プローブ、ここでの水分子、に接近可能な表面であり、ファンデルワールス表面との接触を維持するペプチドの外側上で適切な半径の水分子をローリングさせることにより得られる。水分子の表面と接触するファンデルワールス表面の部分は、「溶媒接近可能表面」として知られる連続表面を定める。(Creighton, Thomas E., Proteins: structure and molecular properties, 第2版(W. H. Freeman and Company, 1984), pp227-229)。
IGF−1の溶媒接近可能表面を模倣する溶媒接近可能表面を示すかかる化学物質は、当業者によって構築可能である。例えば、当業者であれば、化合物の3次元構造データベースを検索し、類似の3次元構造配置に適当な官能基を配置する化合物を同定した後、そのような化学物質についてコンビナトリアルケミストリーライブラリーを構築して、高親和性のものを同定することができる。
本発明によって可能となる一つのアプローチは、IGF−1と結合し又は会合し、様々な方法で化学物質の物理的特性を改変する化学物質を設計するためのIGF−1の構造座標の使用である。従って、例えば、溶解度、親和性、特異性、能力、オン/オフの速度、又は他の結合性質などの特性が全て変更され得、及び/又は最大化され得る。
【0030】
候補化学物質とIGF−1との間の相互作用に至適な部位を決定するための種々の物質のライブラリーでIGF−1結晶をプローブ化することにより所望の化学物質を設計することができる。例えば、溶媒で飽和された結晶から集められた高解像度のX線回折データにより、各タイプの溶媒分子がどこに接着するか決定することができる。次に、これらの部位に堅く結合する小分子を所望の活性に関して設計し、合成し及び試験することができる。ひとたび所望の活性が得られると、分子は望ましい特性を最大化するためにさらに変更され得る。
また、本発明は、コンピュータによる小分子データベースのスクリーニング又はIGF−1と全体で又は一部分で結合し得る化学物質の設計も考慮する。それらは、また、変異体、共複合体の結晶構造、又はIGF−1の少なくとも一部と相同な、又は会合し得る任意の分子の結晶形態を解明するためにも使用されうる。
この目的に使用されうる1つの方法は分子置換である。例えば、IGF−1、IGF−1変異体又はペプチド、又はIGF−1との共複合体の他の結晶形態などの任意の未知の構造、又はIGF−1と会合する対象となる化学物質の任意の他の未知の結晶でありうる未知の結晶構造は、別表1に示される構造座標を用いて決定されうる。IGF−1との共複合体は、限定はしないが、IGF−1−IGFBP−3、IGF−1−IGFBP−3−ALS、IGF−1−レセプター、IGF−1−ペプチド、又はIGF−1−小分子を含みうる。この方法は、ここでの本発明によらないでそのような情報を決定しようとするよりも、より迅速かつ効率的に未知の結晶の正確な構造形態を提供するであろう。
従って、得られた情報は、最大限に効果的なIGF−1の阻害因子又はアゴニストを得るために使用され得る。IGF−1を阻害し又はアゴナイズする化学物質の設計は、通常、少なくとも2つの因子の考慮を伴う。第一に、化学物質は物理的又は構造的にIGF−1と会合することができなくてはならない。その会合は、物理的、構造的、又は化学的会合であり、例えば、共有結合又は非共有結合、又はファンデルワールス、疎水性、又は静電気相互作用などでありうる。
第二に、化学物質はIGF−1と会合可能ならしめる立体配座を想定しなければならない。化学物質のすべての部分が必ずしもIGF−1との会合に関与するわけではないが、それでも、それら非関与部分は分子の全体の立体配座に影響を与えうる。このことは、次に、化学物質の好ましさに著しいインパクトを持つ。そのような立体配座的必要性は、全体の3次元構造、及び結合部位の全て又は一部と関連する化学物質の方向付けを含む。
【0031】
IGF−1に対する化学物質の潜在的な阻害又は結合効果は、その実際の合成及びコンピュータモデリング技術の使用による試験に先立って解析されうる。与えられた化学物質の理論的な構造がそれとIGF−1との不十分な相互作用及び会合を示唆する場合、化学物質の合成と試験の必要性が未然に防止される。しかし、コンピュータモデリングが強い相互作用を示す場合、その後、分子が合成され、IGF−1との結合能力について試験されうる。従って、不作動の化合物の高く、時間のかかる合成を避けることができる。
IGF−1の阻害又は他の結合化合物は、化学物質又は断片がIGF−1のそれぞれの結合部位との会合能についてスクリーニングされ、選択される一連の段階により、コンピュータ上で評価され、設計されうる。
従って、当業者はIGF−1との結合能に関し化学物質又は断片をスクリーニングするための幾つかの方法のうち1つを使用し得る。この過程は、例えば、別表1におけるIGF−1の座標に基づくコンピュータスクリーニングによる結合部位の視覚的検査により始まる。選択された断片又は化学物質は、次にIGF−1の個々の結合ポケットの範囲内に様々な方向で位置づけされ、又は「ドッキング」されうる。ドッキングはQuanta及びSybylなどのソフトウェアを用い、次に、CHARMM及びAMBERなどの標準分子力学力分野によるエネルギー最小化及び分子動力学によって達成されうる。
特別のコンピュータプログラムが対象の断片又は化学物質の選択に用いられうる。これらのプログラムには、例えば、Oxford University, Oxford, UKから入手可能なGRID;Molecular Simulations, Burlington, MAから入手可能なMCSS又はCATALYST;Scripps Research Institute, La Jolla, CAから入手可能なAUTODOCK;University of California, San Francisco, CAから入手可能なDOCK、及びUniversity College of London, UKから入手可能なXSITEなどが含まれる。
ひとたび適切な化学物質又は断片が選択されると、それらは阻害因子又はアゴニスト中にアセンブルすることができる。アセンブリは、ここで開示された構造座標との関係で、コンピュータスクリーン上に示された3次元イメージ上での断片同士の関係の視覚的検査によるものである。
あるいは、空の結合部位、又は場合によっては所望の活性を持つ分子の一部を含むものを使用し、新規の所望の化学物質を実験的に設計し得る。従って、例えば、評価されるべきIGF−1又はその断片又は候補化学物質が固相に接着し、それによりさらなる研究のための潜在的な結合因子を同定する、固相スクリーニング技術を使用してもよい。
【0032】
基本的には、任意の分子モデリング技術を本発明に従って用いることができる;これらの技術は既知であるか、当業者にとって容易に利用可能である。ここで開示の方法及び組成物がIGF−1と会合又は結合する物質を同定、設計、又は性質決定するのみならず、レセプターと結合し、それによりIGF−1レセプター相互作用を破壊するIGF−1様物質を同定し、設計し、又は性質決定するために使用され得ることが理解されるであろう。特許請求の範囲に記載の発明はこれらの方法及び組成物を広く包含することが意図される。
上記方法により、ひとたび化合物が設計され又は選択されると、化合物がIGF−1と結合する効率がコンピュータ又は実験による評価を用いて最大に望ましい性質に関し試験され修飾されうる。種々のパラメータが所望の結果に依存して最大限化されうる。これらには、限定はしないが、特異性、親和性、オン/オフの速度、疎水性、溶解度、及び当業者によって容易に同定可能な他の性質が含まれる。
さらに、本発明は小分子薬剤候補の作製にも有用である。従って、特許請求の範囲に記載の結晶構造は、IGF−1と小分子阻害因子との複合体の結晶構造についての情報を得るためにも使用し得る。例えば、小分子阻害因子がIGF−1と共結晶化されると、次に複合体の結晶構造が相計算のための既知のIGF−1座標を用いる分子置換により解明されうる。そのような情報は、例えば、IGF−1と小分子阻害因子との間の相互作用の性質を決定するために有用であり、従って、親和性、特異性及び動力学などの結合性質を改善する修飾を示唆する。
【0033】
d.その他の方法
ここでの本発明は、IGFBPsに関するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの阻害的特徴に基づいたIGF−1の間接的アゴニストの同定法を提供することにおいても有用である。この方法には、以下の段階が含まれる:IGFBP−1又はIGFBP−3のIGF−1への結合を阻害するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの能力をそのような結合を阻害する候補IGF−1間接アゴニストの能力と比較し;及び候補IGF−1間接アゴニストがそのような結合を少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンが結合を阻害するのと同様に阻害することができるかどうかを決定する。
好ましくは、その比較は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと候補IGF−1間接アゴニストとの間の競合アッセイにより、IGFBP結合を阻害する能力を測定するIC50を用いて達成される。より好ましい実施態様では、結合の阻害はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニスト分子をバクテリオファージ粒子上に発現させたIGF−1とプレインキュベートし、エライザなどのプレートによるアッセイ中でのIGFBP−1又はIGFBP−3に対するIGF−1の残りの結合を測定することにより測定される。
さらに本発明は、候補アゴニストをIGF−1と共結晶化して共結晶構造を形成し、候補アゴニスト分子がIGF−1上の2つのパッチのうち1つ又は2つと結合するかどうか決定することを含むIGF−1の間接アゴニストを同定する方法を提供する。第一のパッチがアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を有し、第二のパッチがアミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を有する。ここでの目的に関して、結合とは与えられたパッチの各上記アミノ酸残基と共結晶構造中6オングストローム以下の候補アゴニスト分子との間に少なくとも1つの接触が存在することを意味する。そのような候補アゴニスト分子はIGFBP−1又は−3とIGF−1との結合を阻害する性質を持つであろう。好ましいそのような候補アゴニスト分子は、少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にIGF−1に対するIGFBP−1又は−3の結合を阻害する。より好ましくは、結合の阻害がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン及び候補アゴニスト分子間の競合アッセイを用いて測定される方法である。最も好ましくは、結合の阻害がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニスト分子とバクテリオファージ粒子上で発現されるIGF−1とをプレインキュベーションし、IGFBP−1又はIGFBP−3に対するIGF−1の残りの結合をプレートベースのエライザアッセイで測定することにより測定される方法である。
ここでのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン界面活性剤は、IGFBPとの結合及びそれに続くインサイツでIGF−1を遊離させるためのIGFBPのIGF−1との相互作用の破壊についてIGF−1と競合し、活性でありかつレセプターと相互作用するであろう界面活性剤と同様な効果を示す小分子薬剤の設計を実施するためのテンプレートとして用いることができる。後述の実施例中で試験される他の界面活性剤とは逆に、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンにはC10の位置に酸素原子がない。界面活性剤のこの領域は、IGF−1の残基Leu5,Leu54及びLeu57の側鎖原子と密接に接触している。この同じタイプの立体配座を持つ分子は間接IGF−1アゴニストとして機能するであろう。
【0034】
このように同定された間接アゴニストは、アゴニスト疾患を治療する方法であって、そのような疾患を持つ哺乳動物に、IGF−1間接アゴニストの有効量が投与される方法において使用され得る。それ故、そのようなアゴニストは、例えば臨床試験における治療上の医薬調製物中に使用されるか、又はここで定義されたアゴニスト疾患に関して商品化される。従って、ここでの間接アゴニスト製剤は例えば、糖尿病、慢性腎臓不全などの慢性及び急性腎臓疾患、ネクロシスなど、肥満症、高インスリン血症、GH欠乏、ターナー症候群、低身長症、細身質量対脂肪率の増加などの加齢に関連する望ましくない徴候、CD4数増加及び免疫トレランスの増加を含む免疫欠損、消耗などに関連する同化状態、ラロン型小人症、インスリン耐性などを含むIGF−1による治療に利益を受けるであろう任意の状態を治療するために使用することができる。
治療的使用に関して、ここでの間接アゴニスト組成物は、経口、非経口、鼻腔内、又は肺内を含む任意の適切な技術により哺乳動物に間接的に投与されてもよく、局所的又は全身的に投与され得る。投与の具体的な経路は、例えば、IGF−1を用いて知覚された又は予想された副作用又は減少した効果を含む、患者の医学的履歴、及び治療される疾患に依存するであろう。非経口的投与の例には、皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、及び腹腔内投与が含まれる。最も好ましくは、投与は連続的な注入(例えば、浸透圧ポンプなどのミニポンプを使用する)、又はインジェクション(例えば、静脈内又は皮下への手段を使用する)による。また、投与は単一のボーラス又は徐放性のデポー製剤としてもよい。最も好ましくは、直接アゴニストは経口、又は注入又はインジェクションにより、好ましくは、半日ごと、1日ごと、2日ごと、3日ごと、最も好ましくは毎日の頻度で投与される。
治療に使用されるアゴニスト組成物は、個々の患者の臨床症状(特に、アゴニストでの治療の副作用)、アゴニスト組成物の送達部位、投与方法、投与計画、及び医者に既知のその他の因子を考慮にいれ、優れた医療行為に整合した様式で製剤化され、服用されるであろう。従って、ここでの目的に関するアゴニストの「有効量」は、そのような考慮により決定され、問題の疾患を治療する量でなくてはならない。
一般的な提案として、一投与あたり非経口的に投与されるアゴニストの薬学的総投与量は、約1μg/kg/日から約100mg/kg/日まで、好ましくは約10μg/kg/日から約10mg/kg/日までの範囲内であろう。連続的に与える場合、アゴニストは通常約1μg/kg/時から約100μg/kg/時の投与量で、一日に約1−4インジェクション又は連続的皮下注入のいずれかにより、例えば、ミニポンプ又はポータブル注入ポンプを用いて投与される。静脈内バッグ溶液も使用される。適切な投与量の選択における重要な因子は、医師により適切に判断されるような基準により測定され得られた結果である。アゴニストがインスリンと共に投与されると、後者は単独で使用される場合より少ない量で、それ自身により血中グルコースにほとんど影響を与えない量、即ち、約0.1IU/kg/24時間から約0.5IU/kg/24時間の間の量まで低下させて使用される。
【0035】
非経口的投与に関し、一実施態様では、アゴニストは、インジェクト可能な単位投与量の形態(溶液、懸濁液、又はエマルジョン)で、薬学的に受容可能な担体、即ち、使用される投与量及び濃度において受容者に対し非毒性で、製剤の他の成分に適合するものを用いて、一般に所望の程度の純度で混合することにより製剤化される。例えば、好ましくは、製剤はポリペプチドに対して有害であることが知られている酸化剤及び他の化合物を含まない。
一般に、製剤はアゴニストを液体担体又は細かく砕いた固体担体又はその両者に対して均一及び密に接触させることにより調製される。好ましくは、担体は非経口的担体で、より好ましくは受容者の血液と等張な溶液である。そのような担体媒体の例には、水、食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液が含まれる。不揮発性油及びオレイン酸エチルなどの非水溶液媒体もリポソームと同様、ここで有用である。
担体は等張性及び化学的安定性を促進するような物質のような少量の添加物を適切に包含する。そのような物質は使用される投与量及び濃度において受容者に対し非毒性で、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸、及び他の有機酸又はそれらの塩などのバッファー;アスコルビン酸などの酸化防止剤;例えば、ポリアルギニン又はトリペプチドなどの低分子量ポリペプチド(約10残基未満);血清アルブミン、ゼラチン、又はイムノグロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン;グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びセルロース又はその誘導体、グルコース、マンノース、又はデキストリンを含むその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトール、又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの対イオン;ポリソルベート、ポロキサマー、又はPEGなどの非イオン性界面活性剤;及び/又はNaCl,KCl,MgCl2,CaCl2,などの中性塩を含む。
アゴニストは、典型的には、約0.1mg/mlから100mg/ml、好ましくは1−10mg/mlの濃度で、約4.5から8のpHの媒体中に個別に製剤化される。溶液の場合、最終的な製剤は、好ましくは約2−8℃の温度で約4週間まで貯蔵される。あるいは、製剤は凍結乾燥され、溶液製剤についての記述に従って保存されるインジェクション用の水による再構成のためのパウダーとして提供され得る。
治療的投与として使用されるアゴニストは滅菌されていなくてはならない。滅菌性は滅菌ろ過膜(例えば、0.2ミクロン膜)を通過させるろ過により容易に達成される。通常、治療的アゴニスト組成物は滅菌的なアクセスポート、例えば、静脈用溶液バッグ又は皮下注射用ニードルにより穴あけ可能なストッパーを備えたバイアルなどを持つ容器中に収容される。
アゴニストは、通常、例えば、シールされたアンプル又はバイアル中に、単位ごと又は複数投与用容器中に、水溶液として、又は再構成用の凍結乾燥製剤として保存される。
本発明は以下の実施例を参照することにより充分に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。ここに言及された全ての文献及び特許引例は、出典明示により取り込まれる。
【実施例】
【0036】
実施例1
IGF−1結晶の結晶化及び性質決定
IGF−1の結晶化及びデータの収集
組換体ヒトIGF−1(rhIGF−1)は、米国特許番号5,723,310の実施例中に記載されているように、相形成種のためのポリマー/塩の組合せを用いて得られ、米国特許番号5,681,814の実施例中に記載されているようにして製剤化され(酢酸塩、NaCl、ポリソルベート20、及びベンジルアルコール)、10mg/ml rhIGF−1の7mlを含むバイアル中に収容された。それは、0.15MNaCl、20mMNaOAc、pH4.5中で脱塩され、最終濃度10mg/mlの濃度に希釈された。4μlのIGF−1溶液の液滴は、リザーバ液(0.1Mカコジル酸ナトリウムでpH6.5に緩衝化された24%ポリエチレングリコール3350)5μlと、結晶化状態スクリーニングに使用され、Hampton Research, Laguna Nigel, CAより入手可能なCRYSTAL SCREENTM試薬中で得られる14mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの1μlと混合された。この溶液を、1mLのリザーバ液を用いて蒸気拡散(Jancarik等, 上掲)により平衡化させた。このようにして、混合物の液滴が、リザーバ液に対してプラスティックのカバースリップの下部で懸濁された。薄い、板状の形態の小さな結晶が4−5日以内に生じた。この時点で、2μlの100%メチルペンタンジオール(MPD)(20%の最終濃度まで)を結晶化粒に添加し、結晶を一晩かけて溶解させた。1週間以内に結晶が再度生じ、確認可能な鋭い端を持つ0.2mmX0.1mmX0.05mmの最終容積まで成長した。これらの結晶を後の全ての解析において使用した。
当業者であれば前述の結晶化条件が変動し得ることを理解するであろう。結晶化条件を変えることにより、IGF−1の他の結晶形態が得られうる。そのような変動は単独又は組合わせて用いてもよく、例えば、最終タンパク質濃度を約5及び35mg/mlの間で変動させること;IGF−1と沈殿剤の割合を変動させること、沈殿剤の濃度を、ポリエチレングリコールについては約20及び30%の間で変動させること、pHを約5.5及び7.5の間の範囲で変動させること、界面活性剤のタイプ又は濃度を変動させること、温度を約−5及び30℃の間で変動させること、及び上記条件又はその変法を用いてバッチ、溶液ブリッジ、又は透析法によりIGF−1を結晶化することを含む。McPherson等, (1982), 上掲を参照のこと。
【0037】
IGF−1結晶の性質決定
1つの結晶を親の溶液から、25%(w/v)ポリエチレングリコール3350、30%MPD、0.2Mカコジル酸ナトリウムpH6.5、2.8mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン、及び1MNaBrからなる極低温保護剤溶液へ移した。回折は1.8Åに対するものであった。この溶液中で30秒後、結晶は溶液を液体窒素中へ沈めることにより急冷させた。結晶を凍結させる技術は、基本的にそれらを不朽化し、より高い質のデータセットを生み出す。後の全ての操作及びX線データの収集は100°ケルビンで行われた。
4波長MADデータセットがStanford Synchrotron Radiation Laboratoryでの9−2ビームラインで収集され、データセットの順番は以下の通りである:Br ピーク(λ1), 低エネルギーリモート(λ2), Br 屈折 (λ3), 及び高エネルギーリモート (λ4)。Brピーク及び屈折点は結晶の蛍光スキャンから評価され、低エネルギーリモートは、この波長において弱い硫黄の異常シグナルを最大化する一方、吸着効果を最小化するため、1.54オングストロームになるように選択された。逆ビームジオメトリーは使用されなかった。データの換算(reduction)は、Denzo及びScalepack(Otwinowski及びMinor, Methods in Enzymology, 276: 307-326 (1997))を用いて実施された。最も正確なスケール及び可能なBファクターを決定するため、全ての4波長に関するデータは最初一緒にスケールされ、異常シグナルはないと仮定した。次に、このスケーリングから決定されたスケール及びBファクターが、4つのデータセットの各々に対して適用された。
結晶はa=31.83Å,b=71.06Å,c=66.00Å,及びα=β=γ=90.000°の単位セル定数を持つC2221の空間群に属する。結晶の非対称ユニットは、2.4Å3/Daのマシュ−係数,又は48.1%溶媒をもたらす単一の界面活性剤分子に結合したIGF−1の単量体を含んでいた。結晶の溶媒含有量は約55%であった。
構造決定
IGF−1の利用可能なNMRモデル又はインスリンの結晶構造のいずれかを用い、分子置換によりIGF−1の構造を決定することにおける最初の計画は、不成功に終わった。このため、構造はBr多波長異常分散法(MAD)により新たに決定された (Dauter等, Acta Crystallogr., D56: 232-237 (2000))。
単独で結合した臭化物の座標は、異常及び分散的差分パターソンマップのマニュアルによる点検によって決定された。マニュアルの曖昧さ(hand ambiguity)は、Global Phasing Limited, 43 Newton Road, Cambridge CB2 2AL, ENGLANDから入手したプログラムSHARP(De La Fortelle及び Bricogne, Methods in Enzymology, 276: 472- 494 (1997))を用いた位相リファインメント、次いで、λ2Bijvoet差分を用いて計算された異常差分フーリエマップの調査により解決された。Br座標のある手(one hand)に対する6つのピークのクラスターはインスリンのジスルフィド構造に一致した(PDBコード:1ZNI)。これら6つのピークはIGF−1中の6つのCys Sγ原子に一致する;7つ目の硫黄(Met59Sδ)は異常差分フーリエマップ中では全く検出されなかったが、おそらく、その高い温度因子(36.7Å2)のせいであろう。この点において、6つのCys Sγ位置は、対照として使用されたλ1データセットと共に位相リファインメントに包含された。位相リファインメントを通じて、Br f”はλ1データセットに対してリファインされ、f’及びf”はλ3に対してリファインされ、両者はデータセットλ2及びλ4に対して固定された;硫黄に対するf”及びf’値は各波長に対して理論値に固定された。硫黄原子からの弱い異常シグナルは位相調整スタティクスに緩やかな影響を有していたが、結果として生じる電子密度マップは、特にIGF−1の不十分に順序付けされた領域において改善された接続性を示した。
【0038】
密度修飾(溶媒の平坦化(solvent flattening)及びヒストグラムマッピング)はDM(Collaborative Computational Project Number 4, Acta Crystallogr., D50: 760-763 (1994); Cowtan, Joint CCP4 and ESF-EACBM Newsletter on Protein Crystallography, 31 : 34-38 (1994))を用いて実施され、得られた電子密度マップは高品質であった。およそ構造の50%は、IGF−1の3つのらせん領域に対応し、プログラムO(Jones 等, Acta Crystallogr., A47: 110-119 (1991)) 及びQUANTA (version 97.0, MSI, San Diego, CA)を用いて実験的な電子密度マップ中に直接構築された。Sigmaa(Collaborative Computational Project Number 4, 上掲; Read, Acta Crystallogr., A42: 140-149 (1986))を用いた数ラウンドの位相組合わせにより、分子の残りの部分のモデル化が可能となった。原子の位置的及び制限されたBファクターのリファインメントはCNX(Brunger等, Acta Crystallogr., D54: 905-921 (1998)及びMSI, San Diego, CA)の最尤標的機能を利用し、「マスク」タイプバルク溶媒修正及び異方性の全体的Bファクタースケーリングとカップルした。
最終的なモデルはIGF−1の残基3−34及び41−64、1つのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン、1つのBr−、及び50の水分子を包含している。該モデルはλ3データセットに対してリファインされたが、データの統計値がこのデータセットは他よりも高質であることを示したためであった。20−から1.8−オングストローム解像度による全てのデータは、シグマカットオフを適用せずにリファインメント中に包含された。二次構造の評価はプログラムPROMOTIF(Hutchinson及びThornton, Protein Science, 5 : 212-220 (1996))により行われた。
2つのセットの位相を用いて充分に順序付けされたIGF−1の位置は、基本的には同一であるが、分子のより柔軟な領域は、位相調整において硫黄を含むことに関し、劇的に改善された連結性を示した。最初のへリックス(残基19,20及び21)直後のIGF−1の曲がった領域を示す実験的な電子密度マップの例は、組合されたBr及びS位相を使用することで、Br位相のみを使用するのよりもさらにより充分に連結されたマップになることを示している。この点において、Br+S位相を使用すると、分子の約50%が実験的マップ中に直接帰着された。
【0039】
構造の説明
モデルの構築及び位相の組合わせの数回のサイクルの後、図2に示される最終的なモデルはIGF−1の残基3−34及び41−64、単結合した界面活性剤分子、及び46の水分子を含む。良好な空間配置を保ちつつ、1.8Åに対するRファクターは23.7%であり、自由Rファクターは26.9%である。N末端のB領域は残基3−28に対応し、C領域は29−34に、不十分に順序付けられた残基のストレッチは35−40に、A領域は42−62に対応する。D領域(63−70)は、基本的には不規則である。
IGF−1の構造は、インスリン(図3を参照のこと)に類似し、2つの分子間で保存されているバックボーン原子に対して3Åの2乗平均平方根偏差(RMSD)を持つ。これらの偏差の多くは柔軟な領域で生じ、らせん領域のみを考慮する場合、α炭素間のRMSDは約0.47Åである。主な差異は、C領域の伸張で、成熟インスリンに相当部位は存在せず、分子本体から離れている。このループにはレセプターとの結合に重要であることが知られている多くの残基が含まれる。
IGF−1に対する広範囲におよぶアラニンスキャン変異導入研究により、どの残基がIGFBP−1及びIGFBP−3との結合に重要であるか示された(Dubaquie及びLowman, 上掲)。IGFBP−3に結合する残基はIGFBP−1と結合するものと類似するが、IGFBP−3はよりバックボーンの相互作用に依存すると考えられ、アラニンの変異によってそれほど強くは影響されない。IGFBP−1及びIGFBP−3の結合に対して重要な残基がクラスター化されている劇的なスポットは存在せず、結合を減じる変異が分子全体に散らばっている。N末端に僅かなクラスター化が存在するようであり、これらの部位の多くは元々疎水性である。
【0040】
図4及び7に示されるように、界面活性剤の分子は、Bへリックスの基部にある小さな疎水性クレフト中に結合する。界面活性剤に対する残基5,7、及び10からの幾つかの直接的な側鎖接触が存在する。IGFBP−1/IGFBP−3結合エピトープの一部と界面活性剤の結合部位とがオーバーラップするにも拘わらず、如何なる理論にも限定するわけではないが、予備的な結果により、界面活性剤はIGF−1に対するこれらのタンパク質の結合を阻害しないことが示唆される。界面活性剤の逆の面はIGF−1の逆の面と対称な接触を形成している。
図5に示されるように、対称に関連したIGF−1分子間の唯一の広い結晶の充填接触が存在しており、対称なホモ二量体を生じさせている。埋もれた表面積は1378Å2で、生理学的に関連したタンパク質−タンパク質界面の範囲内である。
図6は、レセプター結合クラスターに重要であることが知られている残基がこの二量体界面においてクラスター化することを示している。示されるのはTyr24,Thr29,Tyr31,及びTyr60である。これらの残基の変異により、どこの場合でも、個々の変異に対してレセプターへの親和性において6−20Xの損失、又は二重変異に対して親和性に対して240−>1200Xの損失となる。また、Phe23及びPhe25はインスリンのPhe24とTyr26と置換可能で、親和性における損失はないことも示される。
【0041】
構造のさらなる説明
IGF−1は、主にインスリンのB−へリックス(IGF−1の残基7−18)及び2つのA−へリックス(IGF−1の残基43−47及び54−58)に対応する3つのらせんセグメントから構成される。疎水性コアは、基本的には、上記の文献中に注記されるようにCys6及びCys48、Cys18及びCys61、Cys47及びCys52の間の3つのジスルフィド結合を含む、IGF−1のNMR構造についての記述と同一である。残基3から6はいかなる規則的な二次構造も形成せず、従って、ここで記述される構造はインスリンのT−フォームと最も類似したものに分類され得る(Derewenda等, Nature, 338:594-596 (1989));実際、IGF−1及びインスリンのT−フォームがそれらのそれぞれのらせんセグメント(IGF−1の残基8−19,42−49,及び54−61;インスリンの残基B9−B20,A1−A8,及びA13−A20)のCα位置上に重ねられる場合、RMSDはたった0.93Åである。インスリンのように、B−へリックスの端における残基18−21はタイプII’βターンを形成し、B−へリックスから伸張された領域へとバックボーンを向き直させる。残基24−27はタイプVIIIβターンをC−領域を収容するために形成し、この領域がIGF−1のコアから離れるように伸張し、対称に関連した分子と相互作用する。残基30−33は十分に特徴づけられたタイプIIβターンを形成し、特にi+1の位置にTyr31を表示する。残基35−40はモデル化されていないが、この領域の電子密度が弱く、バラバラなためである。D−領域(残基63及び64)の最初の2つの残基のみが構造中に順序づけされている。
IGF−1のC−領域は、単位セルのa軸を横切って2つの折り畳みの対称な結晶の充填相互作用を媒介する。この相互作用は、IGF−1の各分子に由来する溶媒接近可能表面積689Å2、又は全部で1378Å2を覆い隠し、結晶中で最も広い界面である。距離3.6Å又はそれ未満の全部で28の分子間接触がこの界面を介して形成され、次に最も広い結晶の充填の相互作用は9の接触のみを形成する。界面のコアは、各々溶媒接近可能表面積39Å2、又は全部で57Å2を覆い隠す、各単量体由来のTyr24及びPro28によって決定付けられる。Tyr31の芳香環はIGF−1のコアから最も遠い位置にあるループの先端に並んでおり、対称に関連する分子のPhe23及びPhe25のフェノール環に対して充填される。これらの疎水性相互作用に加えて、2つの主鎖の水素結合(Tyr31N−Phe23O;Ser34N−Asp20O)が、二量体の界面に存在する。また、D−領域(62−64)由来の残基も、一部、二量体の形態中に閉じこめられる。これらの相互作用のため、結晶中のC−領域のほとんどは、十分に順序づけされており、この生物学的に重要なループの立体配座の第一に高解像な外観を提供する。
【0042】
3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)―1−プロパンスルフォネート(CHAPS)類似体及び3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシプロパンスルフォン酸(CHAPSO)界面活性剤を含む72の界面活性剤化合物が、結晶化の試行においてスクリーニングされ、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのみが結晶を産生させた。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの単一分子は、IGF−1の1つの表面上の小さな疎水性のクレフトを形成する残基(Leu5,Phe16,Val17,Leu54,及びLeu57)(図7A)と相互作用する。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの選択は、如何なる理論にも限定されるわけではないが、界面活性剤分子の位置C10に酸素原子が存在しないことによって説明される。界面活性剤のこの領域は、IGF−1中の残基Leu5,Leu54及びLeu57の側鎖原子と密に接触している。界面活性剤の逆側面は対称に関連するIGF−1分子の残基Val11,Leu14及びGln15と対称な接触を媒介する。興味深いことに、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのこの面は二量体界面の端とも接触し、二量体の相手方のTyr31及びGly32と同様に、同じIGF−1分子中のPhe23及びPhe25とも密に接触をする(図7B)。より詳細な分析によれば、界面活性剤はIGF−1の結合ポケットの2つのパッチに結合する。1つのパッチはアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を持ち、第二のパッチはアミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を持つ。結合は列挙されたアミノ酸残基と候補アゴニスト分子との間における、6Å未満又は等しい、少なくとも1つの接触を保つことにより特徴づけられる。
【0043】
考察
IGF−1結晶構造のC−領域は、分子のコアから突出しており、残基30−33がカノニカルなタイプIIβターンを形成し、C−領域の残りの部分は対称に関連する分子と結晶学的二量体を形成する。Tyr31はIGF−1R結合に関して重要な決定因子として関わっており、この伸展の端の位置は、レセプター分子と相互作用するために理想的な位置に存在する。IGF−1のこの領域はNMRデータでは十分に特徴づけされていないが、結晶中のC−領域の立体配座は溶液の立体配座を反映しているようである。ループの端における逆のターン及びIGF−2のループ末端におけるヒンジの湾曲の証拠が存在する(Torres等, 上掲)。従って、結晶のパッキングは、おそらく、このループの位置を安定化するのに役立ち、その立体配座は密接に関連するIGF−2の溶液構造と一致する。
既知の生物学的複合体中において、結晶学的二量体によって形成される界面のサイズは、埋もれた表面領域の範囲内で十分である(Janin及びChothia, J. Biol. Chem., 264: 16027-16030 (1990))。さらに、この相互作用はPhe23(69%埋没),Tyr24(64%),Phe25(29%),及びTyr31(38%)を含む、IGF−1Rとの結合に重要であることが知られている幾つかの残基を溶媒から部分的に排除する。他のグループもIGF−1とIGF−2のホモ二量体相互作用について報告している。Laajoki等,(2000),上掲は、1mMの濃度で調製されたIGF−1(Long−[Arg3]IGF−1)形態が、3.6mMKdの評価とよく一致する割合である約20%二量体/80%単量体に分配されることを報告している。IGF−2のNMR研究において、Torres等, 上掲はC−領域の残基のアミドプロトンは、ゆっくりと溶媒と置換されることを報告したが、このことはIGF−2が溶液中で二量体を形成することを示唆する。しかし、結晶の二量体形成中に埋没する表面領域の多くの量にも関わらず、IGF−1の親和性それ自体は非常に弱い。さらに、レセプター二量体あたり1つのIGF−1分子の既知の結合ストイキオメトリー(De Meyts, 上掲)は、IGF−1二量体の生物学的重要性を理論的に説明することを困難にしている。結論として、この結晶形態のIGF−1二量体は、結晶化実験における高濃度のIGF−1から生じており、分子の生理学的に関連する形態を表示していない。
【0044】
中性付近のpHにおけるIGF−1に関して得られたNMR分光学による非常に低い質のデータは、自己会合と共鳴線幅における広い変動を導く内部移動の組合せによるものであった(Cooke等, 上掲)。結果的に、IGF−1について得られたNOESYスペクトルは、多様で広く、オーバーラップしたピークを含み、はっきり十分に解像された相関はほとんどない。過剰のN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン存在下でのIGF−1について収集されたNOESYスペクトルは、同様な形を持つ。従って、界面活性剤の結合は、IGF−1の凝集又は固有の柔軟性を除去するのには十分でなく、タンパク質の溶液立体配座の特徴付けを促進しない。このことは、界面活性剤の添加が高い解像度に回折する十分に充填された結晶学的二量体を誘導する結晶状態における観察とは対照的である。Jansson等, J. Biol. Chem., 273: 24701-24707 (1998)はLeu5及びGly7を包含する、Cys6を密に取り囲む領域におけるNMRによる評価が存在しないことは、シス及びトランス配座間の中間の置換を起こしているCys6−Cys48ジスルフィドを示唆していると言及した。界面活性剤がこのジスルフィドとすぐ逆のB−へリックスの一面に結合するという事実は、如何なる理論にも限定するわけではないが、疎水性クレフトのより完全な充填によるこの分子領域を安定化するのに役立ち得ることを示唆する。実際に、ここでの結晶構造中において、Cys6−Cys48は明らかにトランスの立体配座であり、多重な立体配座に関する証拠は存在しない。
結論
IGF−1の結晶構造は固有の硫黄原子及び偶然のハロゲン結合部位に結合したBr−イオンに由来する異常散乱を使用して決定された。その構造はインスリンと非常によく類似し、唯一の主要な相違は、タンパク質本体から突き出し、ホモ二量体相互作用を媒介するC−領域である。埋没した表面領域の量は中性pHにおいて、IGF−1が濃度依存的に自己会合するとの事実と整合する。さらに、レセプターとの結合に重要な幾つかの残基はこの二量体界面において見いだされ、このことは、如何なる理論にも限定するわけではないが、これらの残基の変異によるレセプター結合への影響がレセプター表面との直接的な接触よりも二量体の破壊の結果であることを示唆する。
【0045】
実施例2
界面活性剤結合の拡散に基づく測定
NMRによる拡散測定が、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとの相互作用についてのKdを評価するために用いられた。サンプルは、D2O中50mMリン酸バッファー、pH6.5(訂正されていないメータの読みで)で調製され:1.0mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+0.5mMのIGF−1;0.5mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+0.25mMのIGF−1;0.25mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+0.125mMのIGF−1;又はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのみ(1.0,0.5,又は0.25mM)を含んでいた。全てのスペクトルは5−mm三重軸グラディエント、三重共鳴プローブを備えたBruker AVANCE500TMスペクトロメーター(Bruker Analytik GmbH)により40℃で得られた。拡散測定はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのみ又はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+IGF−1、各々に関し、δ=5ms、τ=2ms、及びΔ=25又は40msによる両極性パルス対法により行われた(Wu等, J. Magn. Reson., Ser. A 115: 260-264 (1995))。スペクトルは、z−グラディエント強度が18等量増分ごとに0.009から0.45T●m−1に増大されたため、128から1024のトランジエントで収集された;測定は少なくとも一サンプル毎に2回行われた。スペクトルはプロセスされ、ピークの高さはプログラムFELIX(v98.0, MSI, San Diego)によって導き出された。拡散定数、結合した界面活性剤の割合、得られたKdは、Fejzo等, Chemistry & Biology, 6: 755-769 (1999)に記述されるように導き出された。また、スペクトルは双性イオン性界面活性剤である1.0mMの3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォネート、及び1.0mMの3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォネート+0.5mMのIGF−1を含むサンプルに関しても収集された。二次元NOESYスペクトル(Jeener 等, J. Chem. Phys., 71: 4546-4553 (1979))は、1.0mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの存在下及び非存在下における0.5mMのIGF−1サンプルについて、100msの混合時間で収集された。
【0046】
IGF−1ファージエライザ
上掲のDubaquie及びLowmanに記述されるようにして、ヒトIGF−1を提示するファージベクターpIGF−g3で新しく形質転換された大腸菌細胞(XL1−Blue, Stratagene)を、5mlの2YT培地中で一晩増殖させた(Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Handbook (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989))。IGF−1を提示するファージ粒子は、界面活性剤及び結合タンパク質スタンダードの一連の希釈液での35分間のプレインキュベーション用の500−1000倍希釈を得るために、IGFBP−1及びIGFBP−3に対して希釈された。MAXISORPTM表面(Nunc, Denmark)の透明なマイクロウェルポリスチレンイムノプレートが、IGFBP−1又はIGFBP−3タンパク質で一晩、4℃でコートされ(50mM炭酸バッファー、pH9.6中、3μg/mLで50μl)、0.5%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタン(Atlas Chemical Co.)及びPBSでブロックされ、PBS、0.05%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタンで8回洗浄された。サンプルはプレートに30分間添加された。プレートはPBS、0.05%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタンで8回洗浄され、PBS、0.5%BSA中、30分間、1:10,000の西洋ワサビペルオキシダーゼ/抗M13抗体結合物(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)の50μLとインキュベートし、その後、PBS、0.05%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタンで8回、PBSで2回洗浄した。プレートは、テトラメチルベンチジン基質(Kirkegaard and Perry, Gaithersburg, MD)を用いて現像し、1.0H3P04で停止させ、450nmで分光光度的に読まれた。
沈降平衡解析
IGF−1の自己会合は沈降平衡解析によって測定された。実験は、20℃にて、OPTIMATMXL−A/XL−I分析的超遠心機(Beckman Coulter, Inc.)で実施された。サンプルは、0.1Mクエン酸バッファー,pH6.5,負荷濃度1mMから0.01mMを持つ75mMのNaCl中で調製された。濃度勾配は、25000から30000rpmのロータースピードで、280nm又は285nmにて、走査吸収光学系を使用して測定された。平衡状態の達成は、およそ16時間後に連続的スキャンを比較することで検証した。IGF−1の部分的な比体積は、そのアミノ酸組成から計算された。データは一つの理想種又は理想的な二量体の自己会合モデルとして、非直線的最小2乗法適合プログラム、NONLIN (Johnson 等, Biophys. J., 36: 578-588 (1981))を用いて適合させた。会合定数は、非直線的最小2乗回帰により回帰された、モデルの最適化値から決定された。
【0047】
結果:
N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンは溶液中のIGF−1に結合する。
3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸及びN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンに対するIGF−1の親和性は溶液NMR法を用いて確認された。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンを0.5mMのIGF−1溶液中に希釈化する間に観察された化学シフト変化は、その親和性がミリモル以下であり、そのようなデータから容易に測定できないことを示唆した。その代わりに、拡散の測定は、2モル当量の界面活性剤を含む種々のIGF−1濃度のサンプル、及び界面活性剤のみ(界面活性剤の濃度は常に、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンに関しては1.4mM、3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸に関しては14mMの臨界ミセル濃度未満であった)の幾つかのサンプルに対しても行われた。タンパク質の存在下における界面活性剤の拡散定数の減少は、タンパク質に結合する界面活性剤の割合を評価するために用いられうる(Fejzo等, 上掲)。タンパク質と界面活性剤の総濃度は既知であるため、解離定数の値を決定することができる。研究された3つのタンパク質濃度(0.5mM,0.25mM,及び0.125mM)、220,440,及び430μMのKd値が各々得られた。この技術は、大きなタンパク質と結合する小分子(数百ダルトン分子量又はそれ未満)に対して常套的に使用されていた。この特別な場合において、リガンドは比較的大きく(862Da)、タンパク質は比較的小さい(7648Da);従って、結合に対する拡散定数の差分減少は小さい。これは、解離定数が測定されうる不確定性を増大させる。これにより、上述のデータは、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとIGF−1の相互作用に関するKdが300±150μMであることを示唆している。(3−(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸の拡散データの同様の解析は、この場合はKdが3mMより大きいことを示唆している。
【0048】
N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンはIGFBP−1及びIGFBP−3結合を阻止する
IGF−1に対するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの結合エピトープを調べるために、界面活性剤はバクテリオファージ粒子上で発現されたIGF−1とプレインキュベートされ、IGFBP−1及びIGFBP−3の残りの結合レベルは、プレートベースのアッセイ(エライザ)によって測定された。コントロールとして、3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸分子もまた試験された。図8に示されるように、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンはファージ上でIGFBP−1及びIGFBP−3の結合を、各々740±260μM及び231±29μMのIC50値でIGF−1を完全に阻害した。しかし、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン(1.4mM)の臨界ミセル濃度は図8の曲線上で上限を示すため、これらの数は控えめに説明されなければならない。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの効果とは対照的に、極めて関連性のある界面活性剤3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸は1mMまで試験されたいかなる濃度においても、なんら結合の阻害を示さなかった。実験の限界に拘わらず、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンについて得られたIC50値は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン−IGF−1相互作用のKdの上記評価とよく一致している。
【0049】
IGF−1の自己会合
沈降平衡データはIGF−1が溶液中で自己会合していることを示している。タンパク質濃度が0.01mMから1mMへと増大するにつれて、平均分子量が増大した。研究された中で最も高濃度(1mM)の平均分子量は、単量体分子量(7.6KDaの単量体分子量に対して1mMでは10.4KDa)より約37%高い。0.05mM以下の濃度では、自己会合は観察されず、IGF−1は中性のpH溶液中で単量体としてのみ存在する。高分子量種がIGF−1二量体であると仮定すると、沈降データは3.6±1.0mMのKdを持つ単量体−二量体モデルとして適合し得る(図9)。
幾つかの研究により、IGFBP結合にとって重要なIGF−1中の残基が同定された(Clemmons等, Endocrinology, 131: 890-895 (1992); Dubaquie及びLowman, 上掲; Jansson等, 上掲 ; Oh等, (1993), 上掲 ; Lowman等, (1998), 上掲 ; 及びDubaquie等, Endocrinology, 142: 165-173 (2001))。上掲のDubaquie及びLowmanによりIGFBP−1及びIGFBP−3と相互作用するIGF−1上の2つの異なるパッチが同定された。パッチ1は、Glu7,Leu10,Val11,Leu14,Phe25,Ile43,及びVal44から構成される一方、パッチ2は、Glu3,Thr4,Leu5,Phe16,Val17,及びLeu54から構成される。IGF−1の結晶構造中において、これら2のパッチは、界面活性剤媒介結晶充填接触に関与する。(特にIGF−1の結晶構造のパッチ1は、アミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57から構成され、IGF−1の結晶構造のパッチ2は、アミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55から構成され、列挙された各アミノ酸残基と候補アゴニスト分子間の6Å以下の少なくとも1の接触が存在する場合、結合が生じる。)
IGFBP相互作用表面と界面活性剤結合部位とのオーバーラップは、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンがIGFBP−1とIGFBP−3結合を阻止するとのここでの観察と全体的に一致する。これに対して、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンはIGF−1Rを介するシグナルを細胞ベースのレセプター活性化アッセイでは阻害しない。これらの結果は、IGF−1上のレセプターとIGFBPの相互作用に対する異なる結合エピトープを示した以前の研究と一致する(Bayne等, 上掲, (Vol. 264); Bayne等, 上掲, (Vol. 265); Cascieri等, 上掲)。IGFBP相互作用の阻害因子としてのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの同定により、インビボにおけるIGF−1/IGFBP複合体を破壊する小分子薬剤又はペプチドミメティクスを開発することが可能となり、それにより、全身の、不活性プールからレセプター−活性IGF−1を遊離する。そのような薬剤は、糖尿病などの代謝疾患のための経口的に生物利用可能な治療を含む。
【0050】
最近、Zeslawski等 (EMBO J., 20: 3638-3644 (2001)がIGFBP−5のN末端ドメインと複合体を形成しているIGF−1の結晶構造を公表した。かかる複合体の構造はここで示されたIGFBP結合の界面活性剤阻害モデルと完全に一致し、また、Vajdos等, Biochemistry, 40: 11022-11029 (2001)によっても開示されている。他のIGF−1結晶構造との比較により、IGF−F1−1(RNCFESVAALRRCMYG(配列番号:4))と称されるファージ由来IGF−1アンタゴニストペプチドに結合した複合体IGF−1のNMR測定により、如何なる理論にも限定されるわけではないが、A−鎖(へリックスIII)の一部が溶液中で可動性であり、異なるリガンド(界面活性剤、ペプチド、結合タンパク質)と結合した場合、僅かに異なる立体配座を採用することが示される。
ペプチドIGF−F1−1とIGF−1との間の複合体は、600及び800MHzで収集されたNMR分光法のデータにより決定された。13C及び15Nで均一にラベル化されたIGF−1はReilly及びFairbrother, J. Biomol. NMR, 4: 459-462 (1994)により概略化されたスキームを用いて調製され、上掲のVajdos等の方法に従って精製された。僅かに過剰モルの非ラベル化IGF−F1−1が13C/15N IGF−1及び1H、13Cの1.5mM溶液と混合され、15NのNMR共鳴は、Cavanagh等, Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice (Academic Press: New York, 1996)によって記述される二重−及び三重−共鳴NMR実験法により評価された。IGF−1中の距離制限は13CによるNOESY HSQCスペクトルと15NによるNOESY HSQCスペクトルから同定された(Cavanagh等, 上掲)。
IGF−1とペプチド間の分子間の制限はω1フィルター化、ω2による13C HSQC−NOESYスペクトルによって得られた(Lee等, FEBS Lett., 350: 87-90 (1994))。ペプチド内距離制限は、2−D13Cフィルター化NOESYスペクトルから得られた。さらに、Φ二面角の角度制限はHNHAスペクトルから得られ(Cavanagh等, 上掲)、またχ1制限はHNHB短時間混合TOCSYスペクトルから誘導された(Clore等, J. Biomolec. NMR, 1: 13-22 (1991))。さらなるΦ,ψ制限は、プログラムTALOS(Cornilescu等, J. Biomol. NMR, 13: 289-302 (1999))を用いてHα,N,Cα,Cβ,及びCO化学シフトの解析から得られた。
コンピュータプログラムCNX(Accelrys Inc., San Diego)によるねじれ−角度動力学法を用いて、全部で、へリックスIにおける899の距離制限(779IGF−1内;33ペプチド内;87分子間)、16の水素結合制限、及び138の二面角角度制限(71Φ;44ψ;23χ1)が構造の構築を行うのに使用された。IGF−1の構造は、0.32±0.06Åのバックボーン重原子に関する平均構造由来の平均RMSDにより、B−領域(残基2−25)及びA−領域(残基41−63)に関して十分に特徴付けされた。C−領域(26−40)及びD−領域(62−70)は、入手可能なデータではあまり特徴づけされなかった。最も低い制限違反エネルギーの20の構造は、優れたバックボーン立体配置(不許可領域には存在せず、Φ/ψ空間の最も好ましい領域において80%の残基)を持ち、実験的制限の違反(平均最大距離制限違反0.09±0.02Å)をほとんど含まなかった。IGF−F1−1は、溶液中のペプチド自体によって決定されるものと非常に類似する立体配座を採用する。IGF−1の立体配座は3つのへリックス(残基7−18,43−49,及び54−60)を含み、複合体ではないIGF−1の以前のNMR研究において低い解像度で認められるものに類似する(例えば、Cooke等, 上掲; Sato等, 上掲;及びLaajoki等, 上掲)。
【0051】
図10は界面活性剤とファージペプチドとの複合体の比較を示す。特に、図10Aは、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとの複合体のリボン構造図を示し、図10Bはファージ由来のペプチドIGF−F1−1に結合したIGF−1の複合体を示す。B−領域(へリックスI)は、両方の複合体において非常に類似する立体配座を採用する。C−ループは、界面活性剤複合体中において部分的にのみ順序づけされ、ペプチド複合体中では不適切に特徴付けされている。リガンドに由来する相違は、IGF−1(へリックスIII)のA−領域に対して、バックボーン(残基52−60)及び側鎖(Leu54及び57)レベルの両方において観察される。如何なる理論にも限定されるわけではないが、このA−領域範囲の悪い能力(maleability)はIGF−1をそのように多くのタンパク質(6つのIGFBPsと3つのレセプター)に結合可能にすると考えられている。
本発明は、ある特定の方法及び材料を参照することにより、ここにおいて必要上議論してきた。これらの特定の方法及び材料の議論は本発明の範囲に対するいかなる限定をも一切構成するものではなく、本発明の目的を達成するために適した任意のかつ全ての代替可能な材料及び方法まで拡張されるものであることが理解されるべきである。
【0052】
別表1
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、IGF−1(配列番号:1)、IGF−2(配列番号:2)、及びインスリン(配列番号:3)の配列を並べる。インスリン(及びそれらに対応するIGF−1及びIGF−2の配列)のA−,B−及びC−鎖は各々太字、下線、及びイタリック体で示してある。3つの芳香環残基は、文字を縁取りすることで示される。(!)で示した残基はIGF−1レセプターとの結合に重要であることが証明された。「*」で示した残基はIGFBP−1及びIGFBP−3との結合に対して重要であることが示されている。IGF−1及びIGF−2のD−領域を含むカルボキシ末端領域は通常のタイプで示されている。
【図2】図2は、バックボーンの折り畳みを示すIGF−1のリボン構造図である。ラマチャンドランプロットにおいて、97.7%が最も好ましく、2.3%が許容される。
【図3】図3はIGF−1(左の構造)及びインスリン(右の構造)の両方のリボン構造図である。
【図4】図4は、リザーバ液中に使用される界面活性剤(N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン)がB−ヘリックスの基底部において小さな親水性のクレフトと結合することを示すIGF−1のリボン構造図である。界面活性剤は、IGF−1の構造より明るいグレー色の構造で示される。
【図5】図5は、明るいグレー色で示される界面活性剤を伴った二量体のIGF−1のリボン構造図である。
【図6】図6は、レセプターとの結合に重要な残基(図の中央部分にリング構造で示される)が二量体界面にクラスターを形成することを示す、二量体のIGF−1リボン構造図である。界面活性剤は図の外側の部位に明るいグレー色で示される。
【図7A】図7Aは、図4に示されるように、リザーバ液中で使用される界面活性剤(N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン)が、棒状形態で示され、B−ヘリックスの基底部において小さな親水性のクレフトと結合することを示すIGF−1のリボン構造図である。図7Aにおいて、界面活性剤ヘッドグループは、残基Leu5,Phe16,Val17,Leu54,及びLeu57が並ぶクレフト中に挿入される。種々のグレーの影は、上掲のDubaquie及びLowmanのアラニンスキャン変異導入の結果によるもので、FBP−1との親和性において、Phe16,Val17,及びLeu5の領域はIG5−10倍の減少を示し、Glu3領域は10−100場合の減少を示し、Pro63及びPro63’の領域は100倍を超える減少を示す。右端の黒の部分は、結晶学的二量体を形成する対称に関係付けられるIGF−1分子に相当する。Leu54近くの円は、界面活性剤のC10原子を示し、他の界面活性剤である(3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオン)−1−プロパンスルフォネート;又はCHAPS)とはこの部分のヒドロキシル基を持つ点で異なる。
【図7B】図7Bは、図4に示されるように、リザーバ液中で使用される界面活性剤(N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン)が、棒状形態で示され、B−ヘリックスの基底部において小さな親水性のクレフトと結合することを示すIGF−1のリボン構造図である。図7Bは界面活性剤の反対面からの図で、対称に関係付けられるIGF−1分子との界面活性剤の相互作用を示す。図7Aに示されるように、種々のグレーの影は、上掲のDubaquie及びLowmanのアラニンスキャン変異導入の結果によるもので、IGFBP−1との親和性において、Gln15付近の集団は5−10倍の減少を示し、左端の半グレー色の分子、Leu10領域分子、及び右端の半グレー色の領域は10−100倍の減少を示し、Phe49とGly7の黒の領域は100倍を超える減少を示す。界面活性剤分子の右の黒の部分は、結晶学的二量体を形成する対称に関係付けられるIGF−1分子に相当する。図7Aについて上述したように、Gln15近くの円は、界面活性剤のC10原子を示す。この図はINSIGHT(MSI, San Diego, CA)を用いて作成された。
【図8】図8は、界面活性剤/IGFBP競合結合研究から得られたグラフを示す。この実験において、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンが、固定化されたIGFBP−1(黒四角)又はIGFBP−3(白丸)に対するIGF−1の結合の競合的阻害因子として用いられた。ポジティブコントロールとして、可溶性IGFBP−1が、固定化されたIGFBP−1(黒三角)に対するIGF−1の結合の競合的阻害因子として用いられた。各データ点は2つの独立した実験の平均を表す。
【図9A】図9Aは、溶液中のIGF−1に対する沈降平衡法の非直線的最小2乗法解析を示す。30,000rpm(白三角)及び35,000rpm(白四角)のロータースピードで収集されたデータは理想的な単量体−二量体自己会合モデルとして至適化された。実線はデータの適合性である。
【図9B】図9Bは、適合化法によりデータを計算したのち、両方のロータースピードについてプロットされた残余を示す。それらは、0付近でランダムに分散され、単量体−二量体モデルがこの相互作用に関して正しいことを示している。
【図10A】図10Aは、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとの複合体のNMRにより測定されたリボン構造図を示す。
【図10B】図10Bは、IGF−F1−1と命名されたファージに由来するIGF−1アンタゴニストペプチドに結合したIGF−1の複合体のNMRにより測定されたリボン構造図を示す。
【発明の開示】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明はヒトインスリン様成長因子−1(IGF−1)の結晶化形態、より特別にはヒトIGF−1の結晶、その結晶化の方法、及びX線回折によって得られたその構造に対するものである。さらに、本発明は、IGF−1結合タンパク質(IGFBP)との相互作用に重要であることが知られている残基と接触する単一の界面活性分子が、IGF−1と特異的に結合し、IGFBP−1及びIGFBP−3の結合をブロックすることを示唆する生物物理学的及び生化学的データに基づく新規なIGF−1アゴニスト分子を同定する方法に関する。
【0002】
(関連した開示内容の説明)
IGFs(IGF−1、IGF−2、及びIGF変異体)の作用及び活性に関して数多くの文献が存在する。ヒトIGF−1は8.4のpIを持ち、70アミノ酸残基、7649ダルトンの血清タンパク質であり(Rinderknecht及びHumbel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 73: 2365 (1976); Rinderknecht及びHumbel, J. Biol. Chem., 253: 2769 (1978))、成長ホルモン(GH)の作用を調節するインスリン様及び分裂促進的生物学的活性を持つソマトメジンのファミリーに属する(Van Wyk等, Recent Prog. Horm. Res., 30: 259 (1974); Binoux, Ann. Endocrinol., 41: 157 (1980); Clemmons及びVan Wyk, Handbook Exp.Pharmacol., 57: 161 (1981) ; Baxter, Adv. Clin. Chem., 25: 49 (1986);米国特許4,988,675; WO91/03253; WO93/23071)。IGFsはインスリンに対して約49%の高い配列同一性を共有する。しかし、C−ペプチド(残りのA及びB鎖の共有結合的に結合した二量体を産生するために切り取られる)として知られている33アミノ酸セグメントを含む前駆体タンパク質として合成されるインスリンとは異なり、IGFsは単一のポリペプチドである(図1を参照のこと)。
発生途中の胎児において、IGF−1が欠如すると出生後に継続する重篤な成長遅延が生じる(Baker等, Cell, 75: 73-82 (1993); Powell-Braxton等, Genes & Development, 7: 2609-2617 (1993); Liu等, Cell, 75: 59-72 (1993); Liu等, Molecular Endocrinol., 12: 1452-1462 (1998))。ほとんどの血清IGF−1(75%以上)は、成長ホルモンに応答して肝臓で産生されるが、この肝臓由来のIGF−1はマウスの出生後の体の成長には不要であることが示されている(Sjogren等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96: 7088-7092 (1999))。むしろ、それは、局所的に産生される非肝臓性IGF−1であり、傍分泌/自己分泌様式で作用し、IGF−1の出生後の成長促進効果の大部分の原因となっているようである(Schlechter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83: 7932-7934 (1986); Isaksson等, Science, 216: 1237-1239 (1982))。その成長促進効果と整合して、IGF−1は強力な分裂促進剤であり、細胞周期進行、アポトーシス、及び細胞分化などの様々な細胞機能を調節する(LeRoith, Endocrinology, 141: 1287-1288 (2000))。
【0003】
IGFsは、細胞周期進行、増殖、分化を含む様々な細胞機能及び病気の進行、及びインスリン耐性糖尿病におけるインスリン様効果に関与している。従って、IGFは様々な病気及び疾病における治療手段として示唆されてきた(総説として、Lowe, Scientific American (March/April 1996), p. 62を参照のこと)。この活性範囲に基づき、IGF−1は創傷治癒、腎臓障害の治療、糖尿病の治療、AIDS関連消耗などの全身同化状態の転換、うっ血性心不全などの心臓状態の治療、及び神経性障害の治療などの広範に異なる使用に関して哺乳動物において試験されてきた(Guler等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 4889-4893 (1988); Schalch等, J. Clin. Metab., 77:1563-1568 (1993); Froesch等, Horm. Res., 42: 66-71 (1994); Vlachopapadopoulou等, J. Clin. Endo. Metab., 12: 3715-3723 (1995); Saad等, Diabetologia, 37: Abstract 40 (1994); Schoenle等, Diabetologia, 34: 675-679 (1991); Morrow 等, Diabetes, 42 (補遺): 269 (1993) (要旨); Kuzuya等, Diabetes, 42: 696-705 (1993); Schalch等,"Short-term metabolic effects of recombinant human insulin-like growth factor I (rhIGF-1) in type II diabetes mellitus", in: Spencer EM, ed., Modern Concepts of Insulin-like Growth Factors (New York: Elsevier: 1991) pp. 705-715; Zenobi等, J. Clin. Invest., 90: 2234-2241 (1993); Elahi等, "Hemodynamic and metabolic responses to human insulin-like growth factor-l (IGF-I) in men,"in: Modern Concepts of Insulin-Like Growth Factors, Spencer, EM, ed. (Elsevier: New York, 1991), pp. 219-224; Quinn等, New Engl. J. Med., 323: 1425-1426 (1990); Schalch等, "Short-term metabolic effects of recombinant human insulin-like growth factor 1 (rhIGF-1) in type II diabetes mellitus,"in: Modern Concepts of Insulin-Like Growth Factors, Spencer, EM, ed., (Elsevier: New York, 1991), pp. 705-714; Schoenle等, Diabetologia, 34: 675-679 (1991); Usala等, N. Eng. J. Med., 327: 853-857 (1992); Lieberman等, J. Clin. Endo. Metab., 75: 30-36 (1992); Zenobi等, J. Clin. Invest., 90: 2234-2241 (1992); Zenobi等, J. Clin. Invest., 89: 1908-1913 (1992); Kerr等, J. Clin. Invest., 91: 141-147 (1993); Jabri等, Diabetes, 43: 369-374 (1994); Duerr等, J. Clin. Invest., 95: 619-627 (1995); Bondy, Ann Intern. Med., 120: 593-601 (1994); Hammerman及びMiller, Am. J. Physiol., 265: F1-F14 (1993 Hammerman及びMiller, J. Am. Soc. Nephrol., 5: 1-11 (1994);及び Barinaga等, Science, 264: 772-774 (1994))。
【0004】
また、哺乳動物、特にヒトの患者を治療するための、IGF−1又はIGF−1の活性濃度を増大させる化合物の様々な使用の開示に関して、特許文献も多く存在し、例えば、米国特許番号5,714,460; 5,273,961; 5,466,670; 5,126,324; 5,187,151; 5,202,119; 5,374,620; 5,106,832; 4,988,675; 5,106,832; 5,068,224; 5,093,317; 5,569,648;及び4, 876,242; WO 92/11865; WO 96/01124; WO 91/03253; WO 93/25219; WO 93/08826; 及びWO 94/16722である。
また、IGF−1系は、IGF−1、IGF−2及びインスリンに対する膜結合レセプターからも構成されている。タイプ1のIGFレセプター(IGF−1R)は構造上インスリンレセプターと極めて関連があり、そのシグナル経路のいくつかを共有する(Jones 及びClemmons, Endocr. Rev., 16: 3-34 (1995))。IGF−2レセプターは、細胞内シグナルを伝達しないと思われるクリアランスレセプターである(Jones及びClemmons, 上掲)。IGF−1及びIGF−2は、インスリンレセプターに対してよりもIGF−1Rに対してさらに高い親和性で結合するため、IGF−1及びIGF−2の多くの効果は、おそらくIGF−1Rにより仲介されているらしい(Humbel, Eur. J Biochem. 190: 445-462 (1990); Ballard等, "Does IGF-I ever act through the insulin receptor?", in Baxter等 (編), The Insulin-Like Growth Factors and Their Regulatory Proteins, (Amsterdam: Elsevier, 1994), pp. 131-138)。
IGF−1Rはジスルフィド結合したα及びβサブユニットのα2β2ヘテロ四量体である。αβ二量体は、共有結合によるヘテロ四量体を形成するために細胞表面上でそれら自身ジスルフィド結合されている。インスリン/インスリンレセプター複合体の場合と同様に、IGF−1はIGF−1Rと1:2のストイキオメトリーで(De Meyts, Diabetologia, 37 :S135-S148 (1994))、高親和性部位(Kd約0.4nM)及び低親和性部位(Kd約6nM)に結合する(Tollefsen及びThompson, J. Biol. Chem., 263: 16267-16273 (1988))。IGF−1Rの最初の3つのドメインのX線結晶構造が決定されいる(Garrett等, Nature, 394, 395-399 (1998))。それには、3つの別個のドメインが含まれている(L1,Cys−リッチ、L2)。IGF−1との結合に影響を与える変異は、レセプターのくぼんだ表面にマップされる。
【0005】
IGF−1Rは正常な細胞増殖と発育における重要な因子である(Isaksson等, Endocrine Reviews, 8: 426-438 (1987); Daughaday及びRotwein, Endocrine Rev., 10: 68-91 (1989))。しかしながら、増えてきた証拠により、IGF−1Rシグナルは癌細胞の成長、細胞のトランスフォーメーション、及び腫瘍形成においても重要な役割果たしていることが示唆される(Baserga, Cancer Res., 55:249-252 (1995))。重要な例には、IGF−1Rに対するアンチセンスRNA処理によるマウス悪性腫瘍細胞の転移性表現系の消失(Long等, Cancer Res., 55:1006-1009 (1995))、及びIGF−1R抗体の添加によるヒトメラノーマ細胞運動 (Stracke等, J Biol. Chem., 264:21554-21559 (1989))及びヒト乳癌細胞成長(Rohlik等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 149:276-281 (1987))のインビトロにおける阻害が含まれる。
IGF−1がインビトロにおける乳癌細胞増殖を促進するとの観察に基づき、IGFsは強い乳癌細胞分裂促進因子である(Cullen等, Cancer Res., 50:48-53 (1990))。乳癌はIGF−2及びIGF−1Rを発現し、自己分泌ループに基づく増殖パラダイムに対する全ての必要なエフェクターを提供する(Quinn等, J Biol. Chem., 271: 11477-11483 (1996); Steller等, Cancer Res., 56: 1761-1765 (1996))。乳癌は8人に1人の女性を冒している一般的な悪性腫瘍で、北米の女性において癌による死因の第一位となっており(LeRoith等, Ann. Int. Med., 122: 54-59 (1995))、介入の新規な合理的治療法が必要となっている。IGF−1はアポトーシスを抑制することができるため、IGF−1Rsを欠損する又は妥協したIGF−1Rシグナル経路を持つ細胞は、アポトーシスを介して選択的に死滅する腫瘍細胞を生み出すことができるかもしれない(Long等, Cancer Res., 55: 1006-1009 (1995))。さらに、糖尿病などの他の疾病状態との関連で、IGFシグナルの変動は、腎症(Horney等, Am. J Physiol. 274: F1045-F1053 (1998))及び網膜症(Smith等, Science, 276: 1706-1709 (1997))の合併症を悪化させる原因となり得ることが最近明らかになっている。
インビボにおけるIGF−1は、ほとんどがIGFBPsとして知られている少なくとも6つの血清タンパク質のファミリーとの複合体中に見出され(Jones及びClemmons, 上掲 ; Bach及びRechler, Diabetes Reviews, 3: 38-61 (1995))、IGFsのIGF−1Rへのアクセスを調節する。また、それらは、循環血中及び組織IGF−1RレベルでのIGF−1及びIGF−2の濃度も調節する(Clemmons等, Anal. NY Acad. Sci. USA, 692: 10-21 (1993))。IGFBPsは様々な親和性及び特異性でIGF−1及びIGF−2と結合する(Jones及びClemmons, 上掲 ; Bach及びRechler, 上掲)。例えば、IGFBP−3はIGF−1及びIGF−2と似たような親和性で結合する一方、IGFBP−2及びIGFBP−6は、それらがIGF−1と結合するよりもさらに高い親和性でIGF−2と結合する(Bach及びRechler, 上掲 ; Oh等, Endocrinology, 132,1337-1344 (1993))。主なキャリータンパク質はIGFBP−3である。グリコシル化によって引き起こされる複合体の不均質なサイズのために、現在のところIGF−1及びそのIGFBPsとのこれらの複合体中における結合のストイキオメトリーに関する知見は無い。
【0006】
IGF−1は、天然には、血液及びヒト脳脊髄液などのヒトの体液中に生じる。IGF−1は多くの組織中で産生されるが、多くの循環するIGF−1は肝臓で合成されると考えられている。IGFBPsは、IGF−1の生物学的活性を調節すると考えられ(Jones及びClemmons, 上掲)、IGFBP−1については (Lee等, Proc. Soc. Exp. Biol. & Med., 204: 4-29 (1993))、グルコース代謝に関わる主要なタンパク質として関与している考えられている(Baxter,"Physiological roles of IGF binding proteins", in: Spencer (Ed.), Modern Concepts of Insulin-like Growth Factors (Elsevier, New York, 1991), pp. 371-380)。肝臓によるIGFBP−1産生は栄養状態により調節され、インスリンが直接その産生を抑制する(Suikkari等, J. Clin. Endocrinol. Metab., 66: 266-272 (1988))。
IGFBP−1のインビボにおける機能は、よく分かっていない。ラットに対する精製されたヒトIGFBP−1の投与は急性ではあるが、わずかな血中グルコースの増加を引き起こすことが示されている (Lewitt 等, Endocrinology, 129 : 2254-2256 (1991))。IGFBP−1の制御は、幾らか良く分かっている。血中グルコースが上昇し、インスリンが分泌されると、IGFBP−1が抑制され、グルコース輸送に対するインスリンの作用を助けると考えられる「遊離」IGF−1のレベルの緩やかな上昇を生じさせることが提唱されている(Lewitt及びBaxter, Mol. Cell Endocrinology, 79: 147-152 (1991))。このようなシナリオは、血中グルコースの直接の制御因子として、IGFBP−1の機能を位置付けるものである。
【0007】
多くの場合、外来性のIGFBPの添加はIGF−1の効果を鈍くする。例えば、MCF−7ヒト乳癌細胞に対するエストラジオールの成長刺激効果はIGFBP−3mRNAの減少及びタンパク質の蓄積に関与する一方、抗エストロゲンであるICI 182780は成長阻害とIGFBP−3mRNAとタンパク質レベルの増大を引き起こす(Huynh等, J Biol. Chem., 271 : 1016-1021 (1996); Oh等, Prog. Growth Factor Res., 6: 503-512 (1995))。レチノイン酸によるインビトロでの乳癌細胞の増殖阻害は腫瘍細胞による変更されたIGFBP分泌又は減少したインビボの循環IGF−1レベルに関与することも報告されている(LeRoith等, Ann. Int. Med., 122: 54-59 (1995); Oh等, (1995), 上掲)。この発見とは逆に、抗エストロゲンであるタモキシフェンによるMCF−7細胞の処理は、減少したIGFBP産生とは無関係の様式でIGF−1Rシグナルを減少させる(Lee等, J Endocrinol., 152 : 39 (1997))。IGFBPsの一般的な抗増殖効果に対する更なる裏づけとして、IGFBP−3が腫瘍抑制因子であるp53の標的遺伝子であるとの特筆すべき発見がある(Buckbinder等, Nature, 377: 646-649 (1995))。このことは、p53のサプレッサー活性が、一部、IGFBP−3産生及びその結果生じるIGF作用の阻害によって媒介されていることを示唆する((Buckbinder等, 上掲)。これらの結果は、IGFBPsが、IGF−1/IGF−2によって制御される傍分泌/自己分泌過程を調節することによって細胞増殖をブロックし得ることを示す。これらの観察に対する必然的な結果は、前立腺特異的抗原(PSA)がIGFBP−3プロテアーゼであり、活性化するとIGFBP−3のタンパク質分解的不活性化によりIGF−1/IGF−2作用に対する腫瘍細胞の感受性を増大させるとの知見をもたらす(Cohen等, J. Endocr., 142: 407-415 (1994))。IGFBPsはIGF−1/IGF−2と複合体を形成し、IGF−1/IGF−2のIGF−1Rへのアクセスを妨げる(Clemmons等, Anal. NY Acad. Sci. USA, 692: 10-21 (1993))。IGFBP−1,−2及び−3はインビトロで細胞に添加すると細胞の成長を阻害する (Lee等, J Endocrinol., 152: 39 (1997); Feyen等, J Biol. Chem., 266: 19469-19474 (1991))。さらに、IGFBP−1(McGuire等, J Natl. Cancer Inst., 84: 1335-1341 (1992); Figueroa等, J Cell Physiol., 157: 229-236 (1993))、IGFBP−3(Oh等, (1995), 上掲 ; Pratt及びPollak, Biophys. Res. Commun., 198 : 292-297 (1994))及びIGFBP−2は全てIGF−1又はエストロゲンで誘導される乳癌細胞の増殖をナノモル濃度で阻害することが示されている。これらの知見は、IGFBPsがIGF作用の強力なアンタゴニストであるとの見解を支持する。また、IGFとの相互作用とは無関係に、IGFBP−3の自らの細胞表面レセプターを介した細胞への直接的な効果に関する証拠も存在する(Oh等, J Biol. Chem., 268: 14964- 14971 (1993); Valentinis等, Mol. Endocrinol., 9: 361-367 (1995))。総合すると、これらの知見はIGF及びIGF−1Rの治療的使用に対する標的としての重要性を明らかにするものである。
【0008】
IGFsは正常又はトランスフォームした前立腺上皮細胞に対する分裂促進的及び抗アポトーシス的な影響を持つ(Hsing等, Cancer Research, 56: 5146 (1996); Culig等, Cancer Research, 54: 5474 (1994); Cohen等, Hormone and Metabolic Research, 26: 81 (1994); Iwamura等, Prostate, 22: 243 (1993); Cohen等, J. Clin. Endocrin. & Metabol., 73: 401 (1991); Rajah等, J. Biol. Chem., 272: 12181 (1997))。循環するIGF−1の多くは肝臓由来であるが、組織中でのIGFの生物活性は循環するIGFs及びIGFBPsのレベルのみならず、IGFs、IGFBPs、及びIGFBPプロテアーゼの局所的生産にも関与する(Jones及びClemmons, Endocrine Reviews, 16: 3 (1995))。循環するIGF−1及びIGFBP−3(主な循環IGFBP(Jones及びClemmons, 上掲))の個々の人間での変動は、大きく(Juul等, J. Clin. Endocrinol. & Metabol., 78: 744 (1994); Juul等, J. Clin. Endocrinol. & Metabol., 80: 2534 (1995))、血清IGF−1レベルにおける不均一性は組織中のIGF生物活性の不均一性を反映しているようである。IGFを軸とする構成要素と関連するマーカーは、PSAが同じように使用されているため、前立腺癌に対する危険マーカーとして使用し得る(WO 99/38011)。
大抵の他の成長因子とは異なり、IGFsは、循環中、高濃度で存在しているが、ほんの僅かな割合IGFsのみがタンパク質に結合していない。例えば、ヒト又はげっ歯類において、血液中のIGFsのうち1%未満が「遊離」又は非結合形態であることが一般に知られている(Juul等, Clin. Endocrinol., 44: 515-523 (1996); Hizuka等, Growth Regulation, 1: 51-55 (1991); Hasegawa等, J. Clin. Endocrinol. Metab., 80: 3284-3286 (1995))。血中のIGFsの圧倒的に多くは、IGF−1又はIGF−2、IGFBP−3と、酸不安定サブユニット(ALS)と呼ばれる大きなタンパク質から構成されている非共有結合的に結合した3量体複合体の一部分として循環している。IGF,IGFBP−3及びALSの3量体複合体は、およそ150,000ダルトンの分子量を有しており、この複合体の循環中における機能は、IGF−1及びIGF−2に対する蓄積及びバッファーとして役立つためであり、遊離IGF−1又はIGF−2の急速な変化を防いでいることが示唆されている。
【0009】
IGFBPsに結合するIGF−1及びIGF−2上の領域を同定する多くの研究が行われている(Bayne等, J. Biol. Chem., 265: 15648-15652 (1990); Dubaquie及びLowman, Biochemistry, 38: 6386- 6396 (1999);及び米国特許番号5,077,276; 5,164,370;及び 5,470,828)。例えば、IGF−1及びIGF−2のN末端領域がIGFBPsとの結合に重要であることが明らかとなっている(米国特許番号5,077,276; 5,164,370;及び5,470,828)。従って、des(1−3)IGF−1と命名された天然のIGF−1変異体はIGFBPと不十分にしか結合しない。
同様な研究量がIGF−1Rと結合するIGF−1及びIGF−2上の領域を同定することに傾けられてきた(Bayne等, 上掲; Oh等, Endocrinology (1993), 上掲)。IGF−1中の位置24,31及び60におけるチロシン残基はIGF−1のIGF−1Rとの結合に重要であることが見出された(Bayne等, 上掲)。一又は複数のこれらチロシン残基が置換されている変異体IGF−1分子は、漸次、低減されたIGF−1Rとの結合性を示した。上掲のBayne等においても、このようなIGF−1の変異体がIGF−1R及びIGFBPsと結合できるかどうか調べられた。彼らは、IGF−1Rと結合するために使用されるものとは全く異なるIGF−1とIGF−2上の残基がIGFBPsとの結合するために用いられることを見出した。従って、IGFBPsに対する低減した結合性を示すIGF変異体を産生することは可能であるが、それらはIGF−1Rと十分に結合するので、インビトロにおける活性アッセイでは維持された活性を示す。
また、IGFBPsには結合するがIGFレセプターには結合せず、その結果インビトロにおける活性アッセイでは低減した活性を示すIGF変異体も報告された (Bar等, Endocrinology, 127: 3243-3245 (1990))。(1-27, gly4, 38-70)-hIGF-1と命名されたこの変異体において、 ヒトIGF−1のC−領域の残基28−37が4つの残基のグリシンブリッジによって置換されている。
他の切断されたIGF−1変異体が開示されている。例えば、特許文献において、WO96/33216は、真正のIGF−1の残基1−69を有する切断された変異体について記述する。EP742,228は、2本鎖IGF−1スーパーアゴニストについて開示するが、これらは、短縮されたC領域を持つ天然に生じる一本鎖IGF−1の誘導体である。IGF−1類似体は化学式:BCn,Aを持ち、ここでBはIGF−1又はその機能的類似体のB領域であり、CはIGF−1又はその機能的類似体のC領域であり、nはC領域のアミノ酸の数で約6から約12であり、AはIGF−1又はその機能的類似体のA領域である。
【0010】
さらに、Cascieri等, Biochemistry, 27: 3229-3233(1988)は、3種がIGF−1Rへの親和性が低下していた、IGF−1の4種の変異体について開示している。これらの変異体は:(Phe23、Phe24、Tyr25)IGF−I(タイプ1及び2のIGF及びインスリンレセプターへの親和性がヒトIGF−1と同等)、(Leu24)IGF−1及び(Ser24)IGF−1(ヒト胎盤IGF−1R、胎盤インスリンレセプター、及びラット及びマウス細胞のIGF−1Rへの親和性がIGF−1よりも低い)、そしてdesoctapeptide(Leu24)IGF−1(位置24の芳香族性の消失がhIGF−1のカルボキシル末端のD領域の欠損と連結している)である。これら4種の変異体は、ヒト血清結合タンパク質へ標準的な親和性を有している。
Bayne等, J. Biol. Chem., 263:6233-6239(1988)は、ヒトIGF−1の4種の構造アナログを開示している:IGF−1の最初の16アミノ酸がインスリンのB鎖の最初の17アミノ酸で置換されたB鎖変異体、(Gln3,Ala4)IGF−1,(Tyr15,Leu16)IGF−1,及び(Gln3,Ala4,Tyr15,Leu16)IGF−1。これらの研究により、血清結合タンパク質及びタイプ2IGFレセプターと高親和性の結合性を維持する原因となるIGF−1の幾つかの領域が同定される。
他の研究において、Bayne 等, J.Biol.Chem., 264: 11004-11008(1988)は、IGF−1の3種の構造アナログを開示している:(1−62)IGF−1で、IGF−1のC−末端のD領域の8個のアミノ酸を欠くもの、IGF−1のC領域の残基28−37が4残基グリシンブリッジによって置換されている(1−27,Gly4,38−70)IGF−I;及び(1−27,Gly4,38−62)IGF−Iで、C領域のグリシン置換とD領域欠失を伴うものである。Peterkofsky等, Endocrinology, 128: 1769-1779(1991)は、Bayne等, 上掲(vol.264)のGly4変異体を使用したデーターを開示する。
Cascieri 等, J.Biol.Chem. 264: 2199-2202(1989)は、IGF−1のA領域の特定の残基が、インスリンA鎖上のこれらに相当する残基と置換されている3種のIGF−1アナログを開示している。これらアナログは:(Ile41、Glu45、Gln46、Thr49、Ser50、Ile51、Ser53、Tyr55、Gln56)IGF−1で、その残基41がスレオニンからイソロイシンへ置換され、A領域の残基42−56が置換されているA鎖変異体;(Thr49、Ser50、Ile51)IGF−1;及び(Tyr55、Gln56)IGF−1である。
Clemmons等, J. Biol. Chem., 265:12210-12216 (1990)は、IGFBP−1のリガンド特異性及びIGF−1の生物活性の調節におけるIGFBP−1の役割を研究するために、IGF−1R又は結合タンパク質のいずれかに対する結合親和性を減少させたIGF−1アナログの使用について開示している。
【0011】
WO94/04569は、IGF−1と結合することができ、IGF−1の生物学的活性を促進することができる天然のIGFBP以外の特異的結合分子を開示する。
IGFBP−1と結合し、IGF−1がこの結合タンパク質に結合するのを阻止し、よってIGF−1とIGFBP−1の混合物に由来する「遊離IGF」活性を解き放すペプチドについて、最近記述されている(Lowman 等, Biochemistry, 37: 8870-8878 (1998); 1998年10月15日に公開されたWO98/45427; Lowman 等, International Pediatric Nephrology Association, Fifth Symposium on Growth and Development in Children with Chronic Renal Failure (New York, March 13,1999))。また、幾つかのIGF結合タンパク質に対しては選択的に減少するが、IGFレセプターに対しては維持される親和性を示す天然分子のdes(1−3)IGF−1も記述されている(米国特許番号5,077,276; 5,164,370; 5,470,828)。
しかしながら、特異的なアンタゴニストがないため、スクリーニング、病気の予防又は治療におけるIGF−1とIGFBP間の相互作用の利用には限界があった。これまでに、癌の治療における潜在的な治療上の添加剤としてのIGF−1/IGF−2アンタゴニストの適用について記述する刊行物は1件のみ存在することが知られている(Pietrzkowski等, Cancer Res., 52: 6447-6451 (1992))。この報告において、IGF−IのD領域に対応するペプチドはIGF1/2アンタゴニストとしての使用のために合成されている。このペプチドは、IGF−1に対して不確かな阻害活性を示した。D領域はIGF−1Rとの結合においては重要な役割を演じておらず、むしろインスリンレセプターとのIGF−1の結合において重要であるため、観察された阻害の根拠は不明である(Cooke等, Biochem., 30: 5484-5491 (1991); Bayne等, 上掲 (Vol. 264); Yee 等, Cell Growth and Different., 5: 73-77 (1994))。
WO00/23469は、IGF−IGFBP結合の原因となるIGFBP及びIGFペプチドの一部、即ち、少なくとも全長IGFBPと同等な結合親和性でIGFと結合するIGFBP又はその修飾体の単離されたIGF結合ドメインを開示する。また、その特許文献は、IGFのIGFレセプターに対する結合を減少させ、及び/又はIGFBPの結合ドメインと結合するIGFアンタゴニストについても開示する。
さらに、EP639981は、IGF−1レセプターのアンタゴニストとして機能する短いペプチドを含む医薬組成物を開示する。医薬組成物中で使用されるペプチドは、25アミノ酸未満で構成され、少なくともIGF−1由来のC−又はD−領域の一部を含み、IGF−1によって誘導されるIGF−1レセプターの自己リン酸化を阻害する。
【0012】
IGF−1分子を含むポリペプチドは、一次アミノ酸配列及び該ポリペプチドを取巻く環境により決定される三次元構造を持つ。この3次元構造が、ポリペプチドの活性、安定性、結合親和性、結合特異性、及び他の生化学的特性を確立する。従って、タンパク質の3次元構造に関する知見は、可溶化又は膜結合形態でのその生物学的活性を模倣し、阻害し、又は向上させる薬剤の設計において、多くの指針を提供することができる。
ポリペプチドの3次元構造を多くの方法により決定される。最も正確な方法の多くは、X線結晶化を利用する(Van Holde, Physical Biochemistry (Prentice Hall: N. J., 1971), pp. 221-239)。この技術はX線又は他の放射線の形態を回折する結晶格子の能力によるものである。巨大分子の3次元構造を決定するのに適する回折実験には、典型的には高品質の結晶が必要である。不幸にも、そのような結晶は多くの興味あるタンパク質と同様にIGF−1に関して利用可能ではなかった。結晶は、例えば、M−CSF(EP668,914B1),CD40(WO97/00895),及びBC2 Fabフラグメント(WO99/01476)に対して記述されている。
インスリンの結晶化は、構造解析 (Adams等, Nature, 224: 491 (1969))及び製薬的な応用の両観点において、集中的に研究されている分野である。治療上使用されるインスリン結晶懸濁液の例には、0.8から2.5%(インスリン重量に基づく)の亜鉛の存在下、中性のpH値において安定で、遅延した作用を示す菱面体の亜鉛−インスリン結晶、及び小さなロッド状の形態で遅延作用製品において使用されるイソフェンインスリンプロタミン結晶の懸濁液が含まれる。さらに、インスリンの他のいくつかの結晶の修飾が知られているが、これらは、これまでX線構造解析に対してのみ興味が示されていた。しかして、亜鉛を含まない斜方晶及び単斜結晶は酸性のpH状態下において得られていた (Einstein及びLow, Acta Crystallogr., 15: 32-34 (1962))。立方体空間群に分類されなければならない、より小さな菱面12面体は、等電点において、また亜鉛の不存在下で得られている。最後に、インスリンの単斜結晶形態は亜鉛の存在下及びフェノール又はフェノール誘導体の存在下、等電点以上で得られている。これらの結晶は数日でかなりのサイズまで(3mmまで)成長し、鋭い端部を有する。興味深いことに、これらの結晶は、ガラス表面上でのみ見出されており、溶液の自由表面上では見出されていない。インスリン調製物及びインスリンアナログの結晶懸濁液及び他の結晶形態は、例えば、米国特許番号4,959,351; 5,840,680; 5,834,422; 6,127,334; 5,952,297; 5,650,486 ; 5,898,028; 5,898,067; 5,948,751; 5,747,642; 5,597,893; 5,547,930; 5,534,488; 5,504,188; 5,461,031;及び 5,028,587などの代表的な特許中に記述されている。
【0013】
結晶化タンパク質及びペプチドを調製するための種々の方法は当該技術分野において知られている(McPherson等, "Preparation and Analysis of Protein Crystals," McPherson (Robert E. Krieger Publishing Company, Malabar, FL, 1989); Weber, Advances in Protein Chemistry, 41: 1-36 (1991) ; 米国特許番号4,672,108及び 4,833,233)。ペプチドを結晶化することに対して複数のアプローチが存在するが、特に、その結晶がX線回折研究に適するものでなくてはならない場合、蓋然性のある成功をもたらす単一の条件は存在しない。構造に関して正確な情報を提供するために十分なサイズ及び解像度の結晶を得るためには、かなりの努力が必要である。例えば、ひとたび充分な純度のタンパク質が得られると、X線回折及びその後の構造決定に役立つサイズ及び透明度まで結晶化されなければならない。さらに、標的タンパク質のアミノ酸配列は既知であっても、この配列情報によりタンパク質の結晶構造の正確な予測は可能とはならない。また、配列情報がIGFBPなどのリガンドとそのタンパク質標的間における構造的、立体配座的、及び化学的相互作用に関する理解を提供することはない。従って、結晶構造は薬剤設計及び発見の分野において豊富な有益情報を提供し得るが、IGF−1などのある種の生物学的に関連する化合物の結晶は当業者において容易に入手できるものではない。IGF−1の高品質な回折結晶はその3次元構造の決定に役立つ。
特異的IGF−1アンタゴニストの生成は、少なくとも一部にはIGF及びIGFBPsの構造研究における困難性のため、制限されてきた。回折研究に適するIGF−1の結晶を得ることができないために、例えば、ブタインスリンの結晶構造に基づいてIGF−1の構造を推定することが、IGF−1に関し利用可能な最も重要な構造の道路地図であった(Blundell等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75: 180-184 (1978))。また、IGFsの三次構造、レセプター結合、及び抗原性について開示するBlundell等, Fed. Proc., 42: 2592-2597 (1983)も参照のこと。化学的に修飾され、変異導入されたIGF−1の研究に基づいて、IGF−1とインスリン間の多くの共通の残基、特に位置23−25の芳香族残基がIGF−1Rインスリンレセプター接触部位の一部として同定されている。
【0014】
NMR及び制限付き分子動力学計算を用いて、IGF−1の構造決定が最近報告された(Cooke等, 上掲)。その結果得られた最小化された構造は、修飾されたIGF−1に対する実験的知見、並びにインスリンの構造活性研究による推定によく適合することが示された。さらに、De Wolf等, Protein Sci., 5: 2193-2202 (1996)は、ミニIGF−1の決定構造を開示する。Sato等, Int. J. Pept. Protein Res., 41: 433-440 (1993)は、1H−NMR及びディスタンスジオメトリー法によって決定されたIGF−1の3次元構造を開示する。Laajoki 等, J. Biol. Chem., 275: 10009-10015 (2000)は、long−[Arg(3)]IGF−1の決定構造及びバックボーン動力学を開示する。Laajoki等, FEBS Lett., 420: 97-102 (1997))も参照のこと。ヘリカルセグメントのバックボーン原子間に大きなRMSDsが存在するため、IGF−1に関して有用な少数のNMRモデルはあまり明確ではない。最も良いNMRモデルは、3つのαへリックスが示されているIGF−2のものである。ヒトIGF−2の決定構造及びそのレセプターと結合タンパク質相互作用の関係を開示するTorre等, J. Mol. Biol., 248: 385-401 (1995)を参照のこと。全ての構造において、C−及びD−領域は極めて不十分にしか決定されていない。
【0015】
構造情報の提供に加えて、結晶ポリペプチドはその他の利益を提供する。例えば、結晶化の過程それ自体により、ポリペプチドがさらに精製され、均一性に関する古典的な基準の一つが満たされる。実際に、結晶化はしばしば他に例を見ない精製度を提供し、HPLC、透析、従来のカラムクロマトグラフィーなどの他の精製方法では除去されない不純物を除去する。さらに、結晶ポリペプチドはしばしば周囲温度で安定であり、プロテアーゼのコンタミネーション及び溶液貯蔵に伴う他の分解を受けない。また、結晶ポリペプチドは、医薬製剤としても有用である。最後に、一般に結晶化技術は他の安定化方法(例えば、凍結乾燥)に伴う変性などの問題を概ね免れる。従って、結晶化形態のIGF−1組成物を調製し、それらの3次元構造を決定することに関して顕著な必要性が存在する。本発明はこの点と他の必要性を満たす。ひとたび結晶化が達成されると、結晶学的データは、アゴニスト又はアンタゴニストとして役立つであろうペプチドの設計を支援しうる有用な構造情報を提供する。さらに、結晶構造は、アンタゴニスト又はアゴニストとして役立つであろう非ペプチド小分子で模倣し得るレセプター結合ドメインをマップするのに役立つ情報を提供する。また、IGF−1へのIGFBPの結合の界面活性剤の阻害に関する知見は、新規なIGF−1アゴニストの同定に用いることができる。
【0016】
(発明の概要)
以上のように、本発明は特許請求の範囲に記載の通りである。IGF−1が結晶化され、その構造が、IGF−1の1つの臭化物イオンと7つの硫黄原子のうちの6つの異常分散を利用することにより、1.8オングストロームの解像度において多波長異常分散法(MAD)を用いて決定された。結晶構造中で順序付けされたIGF−1のC−領域は、タイプIIβターンを形成し、結晶学的ダイアドを横切る結晶のパッキング相互作用をメディエートする。IGF−1の溶液状態は、分析的超遠心法により性質決定され、その結果は、IGF−1は、ミリモル濃度でほんのわずかながら二量体化する傾向はあるものの、中性のpHでは主に単量体として存在する。界面活性剤分子であるN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン(deoxy big CHAPS)は、対称性に関連する分子間の結晶充填接触をメディエートする。溶液の実験により、IGF−1:N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン複合体が溶液中で形成され、界面活性剤の結合がある程度IGFBP結合を阻止することが確認される。
従って、一側面において、本発明は、X線放射を回折して、IGF−1の3次元構造を表す回折パターンを生じるIGF−1によって形成された結晶を提供する。好ましくは、この結晶は、およそ以下のセル定数、a=31.831Å,b=71.055Å,c=65.995Å,及びC2221の空間群を有する。また、好ましくは、IGF−1はA−,B−,C−,及びD−領域を含み、結晶中で二量体を形成し、さらに、該結晶が二量体界面にレセプター結合部位を含むのが好ましい。
また、本発明は、上記結晶を含む組成物も提供する。好ましくは、本組成物中において、IGF−1は再可溶化された場合に生物学的に活性である。さらに本発明は、アゴニスト障害を患っている哺乳動物、好ましくは、ヒト患者を治療する方法であって、上記再可溶化した組成物の有効量を前記哺乳動物に投与することを含んでなる方法を提供する。
また、本発明は、
(a)IGF−1を含む水溶液を、沈殿剤を含むリザーバ液と混合して混合物(mixed volume)を形成し;及び
(b)混合物を結晶化する:
段階を含んでなるIGF-1を結晶化する方法も提供する。
また、本発明は上記方法により作製された結晶化IGF−1も提供する。
さらに、本発明は、
(a)IGF−1を結晶化し;
(b)結晶化IGF−1に照射して結晶化IGF−1の回折パターン特性を取得し;及び
(c)回折パターンをIGF−1の3次元構造へ変換する:
ことを含んでなる、IGF−1の3次元構造を決定する方法を提供する。
さらに、本発明は、適当な機械により読み取られると、IGF−1を含む分子の結晶の3次元表示を示す機械読み取り可能なデータでコード化されたデータ保存物質を含む、機械読み取り可能なデータ保存媒体を提供する。
さらなる側面では、本発明は、別表1中に示された構造座標を持つIGF−1結晶を提供する。
さらに、本発明は、IGF−1結晶から誘導されるIGF−1の3次元構造を使用する方法であって、IGF−1の3次元構造がIGF−1レセプター結合領域を含み、該方法がIGF−1の3次元構造のレセプター結合領域と相互作用し、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストとして機能する構造を持つ化合物を同定することを含む方法を提供する。好ましくは、そのような方法において、IGF−1の3次元構造が別表1に示される構造情報と実質的に同一のα−炭素座標を含む。
【0017】
他の側面では、本発明は、
(a)IGF−1を結晶化してIGF−1結晶を形成し、該IGF−1結晶がIGF−1レセプター結合領域を定めるアミノ酸残基のグループを含み;
(b)段階(a)からのIGF−1結晶に照射して、IGF−1結晶の回折パターンを取得し;
(c)回折パターンからIGF−1の3次元構造を決定し、該構造はIGF−1レセプター結合領域を含み;及び
(d)IGF−1レセプター結合領域の3次元構造を表す本質的なIGFレセプター結合、溶媒アクセス可能残基を機能的に再現する3次元構造を持つIGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定し、前記IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストがIGF−1と比較して、IGF−1応答細胞に対する変更されたシグナル伝達能力を有する:
段階を含んでなる、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法を提供する。
好ましくは、本方法において、溶媒アクセス可能残基はIGF−1接合点の形成に関与しない。
さらにある側面によれば、本発明は、
(a)IGF−1の3次元構造を決定し;及び
(b)IGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する:
段階を含むIGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する方法を包含する。
さらなる実施態様によると、本発明は、IGF−1と結合し、IGFBP又はIGF−1と結合するレセプターの結合をブロックするペプチドミメティックを同定する方法であって:
(a)別表1に与えられる構造座標又は構造パラメーターを持つ分子構造データベースを検索し;及び
(b)IGF−1の構造パラメータ又は構造座標を模倣する分子を該データベースから選択する段階を含む方法を提供する。
また、本発明は、分子複合体の3次元構造の少なくとも一部を決定する方法であって、前記複合体がIGF−1を含み、前記方法が:
(a)IGF−1の結晶の構造座標を決定し;
(b)構造座標から位相を計算し;
(c)段階(b)において得られた位相から電子密度地図を計算し;及び
(d)前記電子密度地図に基づき複合体の少なくとも一部の構造を決定する;
段階を含む方法を提供する。
好ましくは、段階(a)で用いられる構造座標は別表1中に記述されるものと実質的に同一であるか、又は別表1中の座標と実質的に同じ結晶を記述する。
【0018】
また、本発明は、IGF−1と会合する化学物質又はそれらの複合体の能力を評価する方法であって、該方法が:
(a)化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の適合操作を実施するためにコンピュータ又は実験による方法を用い、それにより会合に関連したデータを取得し;及び
(b)段階(a)で得られたデータを解析して、化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の会合の特性を決定する、段階を含む方法を提供する。
また、本発明は、IGF−1及びそのレセプター間、又はIGF−1及びその結合タンパク質の少なくとも1つとの間のインビボ又はインビトロの会合を妨害し、又はIGF−1上の結合部位と会合する上記方法により同定される化学物質も提供する。
また、IGF−1の結晶化形態の重原子誘導体も提供される。
また、本発明は、別表1に記述される構造座標を持つIGF−1結晶を用いて、コンピューター又は実験により化学物質を評価して、IGF−1の一又は複数の結合部位との結合に関する情報を得る方法も提供する。
本発明の上記方法を用いて同定される任意のペプチドアナログ及び他の化学物質は、ここで記載される治療的方法及び医薬組成物において有用である。
また、本発明は、
(a)IGFBP−1又は−3のIGF−1への結合を阻害するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの能力を、そのように結合を阻害するIGF−1に対する候補間接的アゴニストの能力と比較し;及び
(b)候補アゴニストが少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にそのような結合を阻害するかどうか決定する:
段階を含むIGF−1の間接的アゴニストを同定する方法も提供する。
好ましい実施態様では、比較は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと候補アゴニストとの間の競合アッセイにより達成される。さらに好ましい実施態様において、結合の阻害は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストを、バクテリオファージ粒子上で発現されたIGF−1とプレインキュベーションし、プレートベースのエライザアッセイにおいてIGFBP−1又はIGFBP−3へのIGF−1の残留結合性を測定することにより測定される。
【0019】
さらに、本発明は、IGF−1の候補間接アゴニストとIGF−1とを共結晶化して共結晶構造を形成し、候補アゴニストがIGF−1上の2つパッチの一又は二と結合するかどうかを決定することを含み、一のパッチがアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を有し、第二のパッチがVal11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を有し、任意のパッチのリストに挙げられた各アミノ酸残基と共結晶構造中6オングストローム未満又はそれに等しい候補アゴニストとの間の少なくとも1つの接触が存在する場合に、結合が生じる、IGF−1の間接的アゴニストの同定方法を提供する。好ましい実施態様において、候補アゴニストは、少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にIGF−1に対するIGFBP−1又は−3の結合を阻害する。結合の阻害がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン及び候補アゴニスト間の競合アッセイを用いて測定される方法がより好ましい。結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストとバクテリオファージ粒子上で発現されるIGF−1とをプレインキュベーションし、IGFBP−1又はIGFBP−3に対するIGF−1の残りの結合をプレートベースのエライザアッセイで測定することにより測定される方法が最も好ましい。
また、有効量のN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンを哺乳類に投与することを含む、哺乳動物におけるIGF−1アゴニスト疾患を治療するための方法もここで提供される。
さらに、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの共結晶複合体がここに提供される。
【0020】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
A.定義
ここで使用される「IGF」は、例えば、1987年8月5日公開のEP 230,869;1984年12月19日公開のEP 128,733;又は1988年10月26日公開のEP 288,451によって記述されているように他に注記しない限り、ヒトインスリン様成長因子のことを示し、N末端メチオニンを持たないヒト天然成熟IGF−1配列を持つ。
「IGFBP」又は「IGF結合性タンパク質」は、循環性であるか否かによらず(即ち、血清又は組織中)、IGF-1に通常は付随又は結合又は複合体形成するタンパク質又はポリペプチドを指す。この定義は、IGFBP-1、IGFBP-2、IGFBP-3、IGFBP-4、IGFBP-5、IGFBP-6、Mac25(IGFBP-7)、及びプロスタサイクリン刺激因子(PSF)又は内皮細胞特異的分子(ESM-1)、並びにIGFBPに高い相同性を持つ他のタンパク質を包含する。Mac25は、例えば、Swisshelm等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 4472-4476 (1995)及びOh等, J. Biol. Chem., 271: 30322-30325 (1996)に記載されている。PSFはYamauchi等, Biochemical Journal, 303:591-598 (1994)中に記載されている。ESM-1は、Lassalle等, J. Biol. Chem., 271: 20458-20464 (1996)に記載されている。他の同定されたIGFBPについては、例えば、1990年6月27日公開のEP 375,438; 1990年5月23日公開のEP 369,943; 1989年10月5日公開のWO 89/09268; Wood等, Molecular Endocrinilogy, 2: 1176-1185 (1988); Brinkman等, The EMBO J., 7: 2417-2423 (1988); Lee等, Mol. Endocrinol., 2: 404-411 (1988); Brewer等, BBRC, 152: 1289-1297 (1988); 1988年12月7日公開のEP 294,021; Baxter等, BBRC, 147: 408-415 (1987); Leung等, Nature, 330: 537-543 (1987); Martin等, J. Biol. Chem., 261: 8754-8760 (1986); Baxter等, Comp. Biochem. Physiol., 91B: 229-235 (1988); 1989年9月21日公開のWO 89/08667; 1989年10月19日公開のWO 89/09792; Binkert等, EMBO J., 8: 2491-2502 (1989)を参照のこと。IGFBP−1及びIGFBP−3はIGF−1の異なる残基に結合する。
ここで使用される「ヒトIGF−1レセプター」又は単に「IGF−1レセプター」とはヒトに見出されるIGF−1に対する任意のレセプターを意味し、ヒトにおいてヒトIGF−1が結合する、胎盤IGF−1Rなどのタイプ1及びタイプ2 IGFレセプターを含む。
「IGF−1の間接的アゴニスト」とは遊離したIGF−1が活性を有し、そのレセプターと相互作用するように、インサイツにおいてIGFBP−3又はIGFBP−1からIGF−1を遊離させる分子のことである。
【0021】
「ペプチド」は、少なくとも2つのアミノ酸を持つ分子であり、少なくとも約60アミノ酸を持つポリペプチドを含む。好ましくは、ペプチドは約10から約60アミノ酸を持ち、より好ましくは約10−25、最も好ましくは約12−25アミノ酸を持つ。本定義には、直鎖状及び環状ペプチド、ペプチド誘導体、それらの塩、又は光学異性体が含まれる。
ここで使用される治療の目的の「哺乳動物」は、ヒト、家畜、及び農場の動物、及び動物園、スポーツのため、又はペットの動物で、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含む、哺乳動物として分類される任意の動物を意味する。ここにおいて好ましい哺乳動物はヒトである。「非成熟」なる用語は、周産期年齢(出生時低体重乳児など)から思春期までの哺乳動物を意味し、後者は、全成長潜在能力に達していないものである。
ここで使用される「治療」なる用語は、治癒的処置と、予防的又は防止的療法の両方を意味する。治療が必要なものには、既に疾患に罹っているもの、並びに疾患に罹りやすい又は疾患が診断されているもの又は疾患が防止されるべきものが含まれる。
「疾患」とは、IGF−1アゴニスト(「アゴニスト疾患」)又はアンタゴニスト(「アンタゴニスト疾患」)での治療によって利益を得るであろう任意の状態のことである。これには慢性及び急性疾患又は疾病が含まれ、問題の疾患に対して哺乳動物を罹りやすくする病理学的状態を含む。治療されるべき疾患は、以下に列挙するアゴニスト又はアンタゴニスト疾患の2又は複数の組合わせでありうる。
アンタゴニスト疾患の非限定的な例には、良性及び悪性腫瘍、白血病及びリンパ系悪性腫瘍、神経、グリア、アストロサイト、視床下部、及び他の腺性の、マクロファージの、上皮性の、間質性及び胞胚腔性の疾患、及び炎症性、血管原性及び免疫性疾患、糖尿病性網膜症又は神経症などの糖尿病合併症、加齢性黄斑変性、水晶体摘出、核膜移植緑内障濾過手術及び核膜移植、屈折率を矯正する手術、すなわち、放射状核膜切除術などの眼科手術、さらに強膜黄斑孔及び変性、網膜剥離、硝子体網膜症、雑多な疾患、放射状角膜切除術の後遺症などの角膜の白内障疾患、ドライアイ、ウィルス性結膜炎、潰瘍性結膜炎、角膜上皮創傷などの創傷、シェーグレン症候群、黄斑性及び網膜性浮腫などの網膜疾患、視覚狭小化瘢痕、網膜虚血、及び増殖性硝子体網膜症が含まれる。
【0022】
さらに好ましくは、このようなアンタゴニスト疾患には、IGF−1によって悪化される糖尿病合併症、虚血性創傷、及び癌などの望ましくない細胞増殖に関連した疾病、再狭窄、喘息が含まれる。疾患がIGF−1によって悪化される糖尿病合併症である場合、そのような合併症には糖尿病性網膜症及び糖尿病性神経症が含まれ得る。治療効果は、例えば、向上した腎クリアランス、向上した視覚を含む臨床的徴候又は症状の軽減、又はIGF−1レセプターとの結合に利用されうるIGF−1の量の軽減によって証明される。疾患が虚血性傷害である場合、脳卒中、心筋の虚血及び腎臓の虚血性傷害を含み得る。
ここでの目的に対するアゴニスト疾患の例には、限定はしないが、例えば、肺疾患、下記のような高血糖疾患、腎臓疾患、例えば急性及び慢性腎不全、末期慢性腎不全、糸球体腎炎、間質性腎炎、腎盂腎炎、糸球体硬化症、例えば、糖尿病患者におけるキンメルスティール‐ウィルソン及び腎臓移植後の腎不全、肥満症、GH-不全、ターナー症候群、ラロン症候群、短身、加齢に関連した望ましくない徴候、例えば肥満及び脂肪量対除脂肪比率の上昇、免疫学的疾患、例えばCD4数の減少及び免疫寛容の低下を含む免疫不全又は化学治療誘発性組織傷害、骨髄移植、心臓構造又は機能の疾患又は不全、例えば心不全及び鬱血性心不全、ニューロン性、神経性、又は神経筋性疾患、例えば、末梢神経障害、多発性硬化症、筋ジストロフィー、又は筋緊張性ジストロフィー、及び例えば外傷又は創傷を含む任意の状態によって生ずる萎縮(消耗)に関連する異化状態、又は細菌又はHIVなどのヒトウイルス等での感染、創傷、皮膚疾患、修復を必要とする腸構造及び機能などを含むIGF−1での治療によって利益を受けるであろう任意の状態が含まれる。ここで治療の標的とする好ましい疾患は、糖尿病及び肥満、心臓機能不全、AIDS関連消耗性疾患、腎疾患、神経性疾患、全身成長疾患、及び免疫学的疾患である。
【0023】
ここで使用される場合の「高血糖疾患」は、糖尿病及びインシュリン耐性からもたらされる疾患のあらゆる形態、例えばI型及びII型糖尿病、並びに重篤なインシュリン耐性、高インシュリン血症及び高脂血症、例えば、肥満患者、及びインシュリン耐性糖尿病、例えばマンデンホール症候群、ヴェルナー症候群、妖精症、脂肪組織萎縮性糖尿病、及び他の脂肪組織萎縮症を意味する。好ましい高血糖疾患は糖尿病、特にI型及びII型糖尿病である。「糖尿病」自体は、インスリンの不十分な生産又は利用を含む炭水化物代謝の進行性疾患を意味し、高血糖及び糖尿によって特徴付けられる。
「生物学的に活性な」IGF−1とは、上に列挙した疾患の一又は複数の治療を可能ならしめる性質など、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストと慣習的に関連した生物学的活性を示すIGF−1を意味する。
「有効量」なる用語は、哺乳動物の疾病又は疾患を治療するために効果的なIGF−1又はペプチドミメティクス又は化学物質を含む他の化合物の量を意味する。癌の場合、例えば、ペプチドの有効量は癌細胞の数を減少させ;腫瘍サイズを減少させ;末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害し(すなわち、ある程度遅くし、好ましくは停止させる);腫瘍の転移を阻害し(すなわち、少なくともある程度遅くし、好ましくは停止させる);ある程度腫瘍の成長を阻害し;アポトーシスを促進し;及び/又は疾患に関連した一又は複数の症状をある程度軽減しうる。
「沈殿剤」は、IGF−1水溶液と混合されるとIGF−1を沈殿させ、平衡化してIGF−1結晶を形成するリザーバ液中の薬剤である。例には、カオトロピック剤、例えば硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール(例えば約2000から20000の範囲の広範な分子量のもの)、クエン酸ナトリウム、カコジル酸ナトリウム、又はそれらの混合物が含まれる。
「リザーバ液(reservoir solution)」は、沈殿剤及びIGF−1結晶を提供するのに必要な他の任意の成分、例えば、 C12E9(ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル、 ノナエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(9)エーテル)、C12E8(オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(8)ラウリルエーテル)、ドデシル−β−D−マルトピラノシド 、ラウリン酸スクロースエステル、シクロヘキシル−ペンチル−β−D−マルトシド、ノナエチレングリコールオクチルフェノールエーテル、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシル−β−D−マルトピラノシド、ラウリルジメチルアミンオキシド、シクロヘキシル−ペンチル−β−D−マルトシド、n−ドデシルスルフォベタイン、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパン−1−スルフォネート、ノニル−β−D−グルコピラノシド、オクチル−β−D−チオグルコピラノシド、OSG、N,N−ジメチルデシルアミン−β−オキシド、メチル−6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)−α−D−グリコピラノシド、スクロースモノカプロイレート、ヘプチル−β−D−チオグルコピラノシド、オクチル−β−D−グルコピラノシド、シクロヘキシル−プロピル−β−D−マルトシド、シクロヘキシルブタノイル−N−ヒドロキシエチルグルカミド、n−デシルスルフォベタイン、3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパン−1−スルフォネート、オクタノイル−N−メチルグルカミド、ヘキシル−β−D−グルコピラノシド、及びN,N−ビス(3−D−グルコアミドプロピル)−デオキシコールアミンなどの界面活性剤の溶液である。好ましくは、界面活性剤はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンである。
【0024】
「再結晶化」とは、初期結晶が成長し大きすぎず又は役に立つと決定された後、結晶化混合物中に何か他の物を多く希釈させないで、結晶を溶解する効果を持つメチルペンタンジオールなどの物質を結晶に添加する手順を意味する。その結果、数日の過程の後、結晶液滴はそのリザーバ液と再平衡化すると、結晶は再成長するが、この期間はより長く、より十分に順序付けされている。
「会合する」なる用語は、IGF−1と化学物質、又はその部分間の近接状態を意味する。会合(アソシエーション)は、近位化(juxtaposition)がエネルギー的に水素結合、ファンデルワールス相互作用、又は静電相互作用に有利な非共有結合性であっても、あるいは共有結合的会合であってもよい。
「結合部位」なる用語は、化学物質がIGF−1と結合又は会合する部位のいずれか又は全てを意味する。
「構造座標」なる用語は、結晶形態中の分子の原子(回折中心)によるX線の単色ビームの回折により得られたパターンに関係する数式に由来する座標を意味する。回折データは結晶の繰り返し単位の電子密度マップを計算するために使用することができる。当業者であれば、得られたデータが使用される特定のシステムに依存し、それ故、異なる座標は、そのような座標がここで記述されるものと実質的に同じ関係を定義する場合、実際には同一の結晶を記述しているかもしれないことを理解するであろう。電子密度マップは結晶の単位セル内の個々の原子の位置を確立するために使用されうる。
当業者であれば、X線結晶学によって決定された一連の構造座標が標準誤差を持つことを理解するであろう。別表1はIGF−1の原子座標を示す。本発明の目的では、骨格原子を使用して別表1の構造座標上に重ね合わせたとき、約2Å未満の等価なタンパク質骨格原子の2乗平均平方根偏差を有するIGF−1の一連の構造座標は同一であると考えるであろう。好ましくは、偏差は約1Å未満であり、より好ましくは約0.5Å未満である。
「重原子誘導体化」なる用語は、結晶化IGF−1の化学的に修飾された形態を産生する手法のことを意味する。実際には、結晶は、結晶を通って分散し、タンパク質表面に結合することができる重金属原子塩、又は有機金属化合物、例えば、塩化鉛、チオリンゴ酸ゴールド、チメロサール、又は酢酸ウラニルなどを含む溶液中に浸漬される。結合した重金属原子の位置は、浸漬された結晶のX線回折分析によって決定できる。この情報は、分子の3次元構造を構築するために使用される位相情報を作成するために使用することができる。
【0025】
「単位セル」なる用語は、基本的な成形されたブロックを意味する。結晶の塊全体は、そのようなブロックの規則的な集合によって構築される。各単位セルは、その繰り返しが結晶を構築するパターンの単位の完全な表示を含む。
「空間群」なる用語は、結晶の対称エレメントの配列を意味する。
「分子置換」なる用語は、未知の結晶の観察された回折パターンを最もよく説明するように、未知の結晶の単位セルの範囲内で、例えば、別表1のIGF−1座標などの構造座標が既知である分子を方向決め及び位置決めすることにより、構造座標が未知の結晶の予備的な構造モデルを作製することを含む方法を意味する。次にこのモデルから位相を計算し、観測された振幅と結合させて、座標が未知の構造の近似フーリエ合成を得る。次に、これに幾つかの形態のリファインメント(refinement)のいずれかを施して、未知の結晶の最終的な正確な構造を提供することができる。(例えば、Lattman, E.,"Use of the Rotation and Translation Functions,"Methods in Enzymology, 115: 55-77 (1985); Rossman, ed.,"The Molecular Replacement Method,"Int. Sci. Rev. Ser. No. 13 (Gordon and Breach: New York, 1972)を参照のこと)。本発明により提供されるIGF−1の構造座標を用いると、分子置換が共複合結晶、未知のリガンド、変異体、又はホモログの構造座標、又はIGF−1の異なる結晶形態の構造座標を決定するために使用され得る。さらに、特許請求の範囲に記載した結晶及びその座標はIGF−1と会合する化学物質の構造座標を決定するために使用されうる。
「化学物質」又は「化合物」なる用語は、ここで使用される場合、任意の分子、分子複合体、化合物、ペプチドミメティクス、又はIGF−1ではないそれらのフラグメントを意味する。好ましくは、それは有機化学分子又はペプチドなどの高度な経口生物学的利用度を持つ分子である。
【0026】
B.発明の実施形態
以下の発明の詳細な説明はIGF−1の結晶構造、IGF−1結晶を製造する方法、及びIGF−1結晶とその構造座標を使用する方法を含む。
a.IGF−1の結晶構造
特許請求の範囲に記載の本発明は、IGF−1の結晶並びにそれから決定されたIGF−1の構造を提供する。特に、特許請求の範囲に記載の本発明は、およそ以下のディメンションを持つIGF−1の結晶を提供する:a=31.831Å,b=71.055Å,c=65.995Å,α=β=γ=90.000°。それは対称であるか、又はC2221の空間群を持つ。そのリボン構造は3つのヘリックスを持ち、残基3−28に対応するN末端B領域、残基29−34に由来するC領域、残基35−40に由来する順序づけの乏しい残基のストレッチ、及び残基42−62に由来するA領域を持ち、図2に示される。D領域(残基63−70)は、本質的には無秩序である。図4及び図7は結晶化に用いられた界面活性剤が構造のBヘリックスの基礎における小さな疎水性クレフト中に結合することを示している。IGF−1は、図5中に示されるように結晶中で二量体を形成することができ、2つのテールが二量体表面上に位置づけされる。埋没した表面積は689Å2/モノマーで、全部で1378Å2である。二量体界面においてIGF−1Rの結合クラスターにとって重要な残基は、図6に示される。
特許請求の範囲に記載のIGF−1結晶の特徴は、さらに、ここでの実施例中に記載され、その構造座標は、別表1中に提供される。
【0027】
b.IGF−1結晶の作製方法
種々の実施態様において、特許請求された発明は最初にIGF−1を含む水溶液を提供することにより、IGF−1の結晶形態を調製する方法に関する。沈殿剤を含むリザーバ液は、次に、所定の体積のIGF−1溶液と混合し、生じた混合体積(混合物)は次に結晶化される。好ましい段階において、結晶は再び溶解され、再結晶化される。再結晶化に使用され得る試薬の例は、メチルペンタンジオールであり、これは好ましいものである。結晶は典型的には、他の試薬の希釈効果を最小にするために少量の本試薬で溶解させ、暫くの間再成長させたままにする。付加的な段階として、結晶化IGF−1は混合体積から単離される。好ましくは、IGF−1は原核生物細胞から、より好ましくはバクテリア細胞、最も好ましくは大腸菌から得られる。好ましくは、ペリプラズムに分泌され、米国特許番号5,723,310に記載されるようにして調製される。
水溶液中のIGF−1の濃度は、変わりうるが、好ましくは約1から50mg/ml、より好ましくは約5から15mg/mlである。同様に、本発明で使用される沈殿剤は、様々であり、当該技術分野において知られるいかなる沈殿剤を選択してもよい。好ましくは、沈殿剤は、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、カコジル酸ナトリウム、又はそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、沈殿剤は、クエン酸ナトリウム又はカコジル酸ナトリウムで緩衝化されたポリエチレングリコールである。沈殿剤のいかなる濃度もリザーバ液中で使用してもよい;しかし、ポリエチレングリコールなら約20から25%の濃度で、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、又はカコジル酸ナトリウムなら約1から10Mの濃度が好ましい。好ましくは、リザーバ液は、さらに界面活性剤を含む。好ましくは、界面活性剤は約10から50mMの量で存在する。また、好ましくは界面活性剤はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンである。また、リザーバ液のpHも変動してもよく、好ましくは約4から10の間であり、最も好ましくは約6.5である。
当業者ならこれらの各々のパラメータが過度な実験をしなくても変更することができ、それでも許容し得る結晶が得られることを理解するであろう。実際に、ひとたび適切な沈殿剤、バッファー、又は他の実験変数が任意の所定の成長方法に対して決定されれば、これらの方法のいずれか又は他の方法のいずれかが本発明の結晶を成長させるために使用可能である。当業者であればある特定の必要性に応じて変数を決定することができるであろう。
結晶化の様々な方法が本発明において使用可能であり、蒸気拡散、バッチ、液体ブリッジ、又は透析結晶化が含まれる。蒸気拡散結晶化が好ましい。例えば、McPherson等, Preparation and Analysis of Protein Crystals, Glick編(John Wiley & Co., 1982), pp. 82-159; Jancarik等, J. Appl. Crystallogr., 24: 409-411 (1991)を参照のこと。
【0028】
蒸気拡散結晶化では、タンパク質溶液の小体積(例えば、数ミリリットル)が沈殿剤を含む溶液と混合される。この混合体積は少量の、つまり約1mlの沈殿剤を含むウェル上で懸濁される。液滴からウェルへの蒸気拡散により液滴中で結晶が形成される。
結晶化の透析法は、タンパク質を保持するが、小分子(即ち、バッファー及び沈殿剤)が内外に拡散することを可能にする半透過性のサイズ排除膜を利用する。透析では、蒸発によりタンパク質及び沈殿剤を濃縮というよりも、沈殿剤がゆっくりと膜を介して拡散し、タンパク質濃度を一定にしつつタンパク質の溶解度を減少させる。
バッチ法は、通常、タンパク質の水溶液に溶液がちょうど濁るまでの沈殿剤のゆっくりとした添加を伴うものである;この時点で容器はシールされ、結晶化が起きるまでしばらくの間静置され得る。
従って、本出願人は特許請求の範囲に記載の発明は結晶化のいかなるもの及び全ての方法を含むことを意図する。当業者であればそのような方法のいかなるものも選択することができ、選んだ方法により所望の結晶が得られるようにパラメータを変動させることができる。
最も好ましい結晶化の方法は、IGF−1が、細胞から単離され、例えば米国特許番号5,681,814及びWO99/51272に記載されたような酢酸塩、クエン酸塩、又はコハク酸塩バッファーなどで製剤化された後、必要ならば約4−5、好ましくは約4.5のpHまで、場合によっては脱塩して、水溶液を形成する方法を含む。次に、水溶液の液滴を、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかで約pH6.5に緩衝化された約24%ポリエチレングリコール、及び界面活性剤として約1.4mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン約1μと混合する。ついで、この溶液を、結晶化粒(crystallization droplet)が形成されるまで、通常4−5日間、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかで約pH6.5に緩衝化された約24%ポリエチレングリコール約1mLと、蒸気拡散結晶化法によって平衡化させる。その後、約2μlの約100%メチルペンタンジオールを結晶化粒に添加し、結晶を一晩かけて溶解させ、通常1週間以内で新しい結晶を形成させる。
後述の実施例中で詳細に議論されるように、結晶構造は内在する硫黄と偶発的な臭化物イオンからの組み合わさった異常散乱によって決定した。
【0029】
c.IGF−1結晶及びその座標を使用する方法
ここでの結晶IGF−1は様々な目的に使用可能である。例えば、結晶化の過程それ自体は、さらにIGF−1を均一に精製する。従って、そのような目的の1つは、診断設定の標準又はコントロール、例えば、分子量マーカー、又はエライザ、ラジオアッセイ、又はラジオレセプターアッセイコントロールとして用いられうる高度に精製されたIGF−1を提供することである。さらに、結晶化IGF−1は室温で安定しており、直ぐに凍結乾燥することができ、純度に劣る組成物よりも変性が少ない傾向がある。
ここでの発明の他の用途では、X線回折研究の実施を可能にするサイズ及び品質の結晶IGF−1により、当業者はIGF−1の結合特性、並びにIGF−1と会合するIGFBPs、IGF−1レセプター及びALSの結合特性に関連する研究を行うことが可能となる。
さらに、ペプチド結晶構造から導かれる構造情報は、例えば、IGF−1に結合し、好ましくはIGF−1媒介又は会合過程又は事象を阻止又は妨害し、又はIGF−1アゴニストとして作用するペプチドミメティックス及び合成有機分子のような小有機及び生物有機分子などの化学物質の同定のために使用可能である。このような構造ベースの化合物設計への典型的なアプローチは、Structure Based Drug Design, Pandi Veerapandian編(Marcell Dekker: New York 1997)に記載されている。
例として、IGF−1の3次元構造を決定すると、当業者は図2及び5中に示されるようなIGF−1のモデルを構築する。ペプチド又はポリペプチドの全ての原子は適当なファンデルワールス半径の球として表すことができ、折りたたまれたIGF−1の詳細な表面マップを構築することができる。その結果得られる表面はファンデルワールス表面として知られている。「溶媒接近可能表面」は、化学プローブ、ここでの水分子、に接近可能な表面であり、ファンデルワールス表面との接触を維持するペプチドの外側上で適切な半径の水分子をローリングさせることにより得られる。水分子の表面と接触するファンデルワールス表面の部分は、「溶媒接近可能表面」として知られる連続表面を定める。(Creighton, Thomas E., Proteins: structure and molecular properties, 第2版(W. H. Freeman and Company, 1984), pp227-229)。
IGF−1の溶媒接近可能表面を模倣する溶媒接近可能表面を示すかかる化学物質は、当業者によって構築可能である。例えば、当業者であれば、化合物の3次元構造データベースを検索し、類似の3次元構造配置に適当な官能基を配置する化合物を同定した後、そのような化学物質についてコンビナトリアルケミストリーライブラリーを構築して、高親和性のものを同定することができる。
本発明によって可能となる一つのアプローチは、IGF−1と結合し又は会合し、様々な方法で化学物質の物理的特性を改変する化学物質を設計するためのIGF−1の構造座標の使用である。従って、例えば、溶解度、親和性、特異性、能力、オン/オフの速度、又は他の結合性質などの特性が全て変更され得、及び/又は最大化され得る。
【0030】
候補化学物質とIGF−1との間の相互作用に至適な部位を決定するための種々の物質のライブラリーでIGF−1結晶をプローブ化することにより所望の化学物質を設計することができる。例えば、溶媒で飽和された結晶から集められた高解像度のX線回折データにより、各タイプの溶媒分子がどこに接着するか決定することができる。次に、これらの部位に堅く結合する小分子を所望の活性に関して設計し、合成し及び試験することができる。ひとたび所望の活性が得られると、分子は望ましい特性を最大化するためにさらに変更され得る。
また、本発明は、コンピュータによる小分子データベースのスクリーニング又はIGF−1と全体で又は一部分で結合し得る化学物質の設計も考慮する。それらは、また、変異体、共複合体の結晶構造、又はIGF−1の少なくとも一部と相同な、又は会合し得る任意の分子の結晶形態を解明するためにも使用されうる。
この目的に使用されうる1つの方法は分子置換である。例えば、IGF−1、IGF−1変異体又はペプチド、又はIGF−1との共複合体の他の結晶形態などの任意の未知の構造、又はIGF−1と会合する対象となる化学物質の任意の他の未知の結晶でありうる未知の結晶構造は、別表1に示される構造座標を用いて決定されうる。IGF−1との共複合体は、限定はしないが、IGF−1−IGFBP−3、IGF−1−IGFBP−3−ALS、IGF−1−レセプター、IGF−1−ペプチド、又はIGF−1−小分子を含みうる。この方法は、ここでの本発明によらないでそのような情報を決定しようとするよりも、より迅速かつ効率的に未知の結晶の正確な構造形態を提供するであろう。
従って、得られた情報は、最大限に効果的なIGF−1の阻害因子又はアゴニストを得るために使用され得る。IGF−1を阻害し又はアゴナイズする化学物質の設計は、通常、少なくとも2つの因子の考慮を伴う。第一に、化学物質は物理的又は構造的にIGF−1と会合することができなくてはならない。その会合は、物理的、構造的、又は化学的会合であり、例えば、共有結合又は非共有結合、又はファンデルワールス、疎水性、又は静電気相互作用などでありうる。
第二に、化学物質はIGF−1と会合可能ならしめる立体配座を想定しなければならない。化学物質のすべての部分が必ずしもIGF−1との会合に関与するわけではないが、それでも、それら非関与部分は分子の全体の立体配座に影響を与えうる。このことは、次に、化学物質の好ましさに著しいインパクトを持つ。そのような立体配座的必要性は、全体の3次元構造、及び結合部位の全て又は一部と関連する化学物質の方向付けを含む。
【0031】
IGF−1に対する化学物質の潜在的な阻害又は結合効果は、その実際の合成及びコンピュータモデリング技術の使用による試験に先立って解析されうる。与えられた化学物質の理論的な構造がそれとIGF−1との不十分な相互作用及び会合を示唆する場合、化学物質の合成と試験の必要性が未然に防止される。しかし、コンピュータモデリングが強い相互作用を示す場合、その後、分子が合成され、IGF−1との結合能力について試験されうる。従って、不作動の化合物の高く、時間のかかる合成を避けることができる。
IGF−1の阻害又は他の結合化合物は、化学物質又は断片がIGF−1のそれぞれの結合部位との会合能についてスクリーニングされ、選択される一連の段階により、コンピュータ上で評価され、設計されうる。
従って、当業者はIGF−1との結合能に関し化学物質又は断片をスクリーニングするための幾つかの方法のうち1つを使用し得る。この過程は、例えば、別表1におけるIGF−1の座標に基づくコンピュータスクリーニングによる結合部位の視覚的検査により始まる。選択された断片又は化学物質は、次にIGF−1の個々の結合ポケットの範囲内に様々な方向で位置づけされ、又は「ドッキング」されうる。ドッキングはQuanta及びSybylなどのソフトウェアを用い、次に、CHARMM及びAMBERなどの標準分子力学力分野によるエネルギー最小化及び分子動力学によって達成されうる。
特別のコンピュータプログラムが対象の断片又は化学物質の選択に用いられうる。これらのプログラムには、例えば、Oxford University, Oxford, UKから入手可能なGRID;Molecular Simulations, Burlington, MAから入手可能なMCSS又はCATALYST;Scripps Research Institute, La Jolla, CAから入手可能なAUTODOCK;University of California, San Francisco, CAから入手可能なDOCK、及びUniversity College of London, UKから入手可能なXSITEなどが含まれる。
ひとたび適切な化学物質又は断片が選択されると、それらは阻害因子又はアゴニスト中にアセンブルすることができる。アセンブリは、ここで開示された構造座標との関係で、コンピュータスクリーン上に示された3次元イメージ上での断片同士の関係の視覚的検査によるものである。
あるいは、空の結合部位、又は場合によっては所望の活性を持つ分子の一部を含むものを使用し、新規の所望の化学物質を実験的に設計し得る。従って、例えば、評価されるべきIGF−1又はその断片又は候補化学物質が固相に接着し、それによりさらなる研究のための潜在的な結合因子を同定する、固相スクリーニング技術を使用してもよい。
【0032】
基本的には、任意の分子モデリング技術を本発明に従って用いることができる;これらの技術は既知であるか、当業者にとって容易に利用可能である。ここで開示の方法及び組成物がIGF−1と会合又は結合する物質を同定、設計、又は性質決定するのみならず、レセプターと結合し、それによりIGF−1レセプター相互作用を破壊するIGF−1様物質を同定し、設計し、又は性質決定するために使用され得ることが理解されるであろう。特許請求の範囲に記載の発明はこれらの方法及び組成物を広く包含することが意図される。
上記方法により、ひとたび化合物が設計され又は選択されると、化合物がIGF−1と結合する効率がコンピュータ又は実験による評価を用いて最大に望ましい性質に関し試験され修飾されうる。種々のパラメータが所望の結果に依存して最大限化されうる。これらには、限定はしないが、特異性、親和性、オン/オフの速度、疎水性、溶解度、及び当業者によって容易に同定可能な他の性質が含まれる。
さらに、本発明は小分子薬剤候補の作製にも有用である。従って、特許請求の範囲に記載の結晶構造は、IGF−1と小分子阻害因子との複合体の結晶構造についての情報を得るためにも使用し得る。例えば、小分子阻害因子がIGF−1と共結晶化されると、次に複合体の結晶構造が相計算のための既知のIGF−1座標を用いる分子置換により解明されうる。そのような情報は、例えば、IGF−1と小分子阻害因子との間の相互作用の性質を決定するために有用であり、従って、親和性、特異性及び動力学などの結合性質を改善する修飾を示唆する。
【0033】
d.その他の方法
ここでの本発明は、IGFBPsに関するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの阻害的特徴に基づいたIGF−1の間接的アゴニストの同定法を提供することにおいても有用である。この方法には、以下の段階が含まれる:IGFBP−1又はIGFBP−3のIGF−1への結合を阻害するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの能力をそのような結合を阻害する候補IGF−1間接アゴニストの能力と比較し;及び候補IGF−1間接アゴニストがそのような結合を少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンが結合を阻害するのと同様に阻害することができるかどうかを決定する。
好ましくは、その比較は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと候補IGF−1間接アゴニストとの間の競合アッセイにより、IGFBP結合を阻害する能力を測定するIC50を用いて達成される。より好ましい実施態様では、結合の阻害はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニスト分子をバクテリオファージ粒子上に発現させたIGF−1とプレインキュベートし、エライザなどのプレートによるアッセイ中でのIGFBP−1又はIGFBP−3に対するIGF−1の残りの結合を測定することにより測定される。
さらに本発明は、候補アゴニストをIGF−1と共結晶化して共結晶構造を形成し、候補アゴニスト分子がIGF−1上の2つのパッチのうち1つ又は2つと結合するかどうか決定することを含むIGF−1の間接アゴニストを同定する方法を提供する。第一のパッチがアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を有し、第二のパッチがアミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を有する。ここでの目的に関して、結合とは与えられたパッチの各上記アミノ酸残基と共結晶構造中6オングストローム以下の候補アゴニスト分子との間に少なくとも1つの接触が存在することを意味する。そのような候補アゴニスト分子はIGFBP−1又は−3とIGF−1との結合を阻害する性質を持つであろう。好ましいそのような候補アゴニスト分子は、少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にIGF−1に対するIGFBP−1又は−3の結合を阻害する。より好ましくは、結合の阻害がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン及び候補アゴニスト分子間の競合アッセイを用いて測定される方法である。最も好ましくは、結合の阻害がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニスト分子とバクテリオファージ粒子上で発現されるIGF−1とをプレインキュベーションし、IGFBP−1又はIGFBP−3に対するIGF−1の残りの結合をプレートベースのエライザアッセイで測定することにより測定される方法である。
ここでのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン界面活性剤は、IGFBPとの結合及びそれに続くインサイツでIGF−1を遊離させるためのIGFBPのIGF−1との相互作用の破壊についてIGF−1と競合し、活性でありかつレセプターと相互作用するであろう界面活性剤と同様な効果を示す小分子薬剤の設計を実施するためのテンプレートとして用いることができる。後述の実施例中で試験される他の界面活性剤とは逆に、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンにはC10の位置に酸素原子がない。界面活性剤のこの領域は、IGF−1の残基Leu5,Leu54及びLeu57の側鎖原子と密接に接触している。この同じタイプの立体配座を持つ分子は間接IGF−1アゴニストとして機能するであろう。
【0034】
このように同定された間接アゴニストは、アゴニスト疾患を治療する方法であって、そのような疾患を持つ哺乳動物に、IGF−1間接アゴニストの有効量が投与される方法において使用され得る。それ故、そのようなアゴニストは、例えば臨床試験における治療上の医薬調製物中に使用されるか、又はここで定義されたアゴニスト疾患に関して商品化される。従って、ここでの間接アゴニスト製剤は例えば、糖尿病、慢性腎臓不全などの慢性及び急性腎臓疾患、ネクロシスなど、肥満症、高インスリン血症、GH欠乏、ターナー症候群、低身長症、細身質量対脂肪率の増加などの加齢に関連する望ましくない徴候、CD4数増加及び免疫トレランスの増加を含む免疫欠損、消耗などに関連する同化状態、ラロン型小人症、インスリン耐性などを含むIGF−1による治療に利益を受けるであろう任意の状態を治療するために使用することができる。
治療的使用に関して、ここでの間接アゴニスト組成物は、経口、非経口、鼻腔内、又は肺内を含む任意の適切な技術により哺乳動物に間接的に投与されてもよく、局所的又は全身的に投与され得る。投与の具体的な経路は、例えば、IGF−1を用いて知覚された又は予想された副作用又は減少した効果を含む、患者の医学的履歴、及び治療される疾患に依存するであろう。非経口的投与の例には、皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、及び腹腔内投与が含まれる。最も好ましくは、投与は連続的な注入(例えば、浸透圧ポンプなどのミニポンプを使用する)、又はインジェクション(例えば、静脈内又は皮下への手段を使用する)による。また、投与は単一のボーラス又は徐放性のデポー製剤としてもよい。最も好ましくは、直接アゴニストは経口、又は注入又はインジェクションにより、好ましくは、半日ごと、1日ごと、2日ごと、3日ごと、最も好ましくは毎日の頻度で投与される。
治療に使用されるアゴニスト組成物は、個々の患者の臨床症状(特に、アゴニストでの治療の副作用)、アゴニスト組成物の送達部位、投与方法、投与計画、及び医者に既知のその他の因子を考慮にいれ、優れた医療行為に整合した様式で製剤化され、服用されるであろう。従って、ここでの目的に関するアゴニストの「有効量」は、そのような考慮により決定され、問題の疾患を治療する量でなくてはならない。
一般的な提案として、一投与あたり非経口的に投与されるアゴニストの薬学的総投与量は、約1μg/kg/日から約100mg/kg/日まで、好ましくは約10μg/kg/日から約10mg/kg/日までの範囲内であろう。連続的に与える場合、アゴニストは通常約1μg/kg/時から約100μg/kg/時の投与量で、一日に約1−4インジェクション又は連続的皮下注入のいずれかにより、例えば、ミニポンプ又はポータブル注入ポンプを用いて投与される。静脈内バッグ溶液も使用される。適切な投与量の選択における重要な因子は、医師により適切に判断されるような基準により測定され得られた結果である。アゴニストがインスリンと共に投与されると、後者は単独で使用される場合より少ない量で、それ自身により血中グルコースにほとんど影響を与えない量、即ち、約0.1IU/kg/24時間から約0.5IU/kg/24時間の間の量まで低下させて使用される。
【0035】
非経口的投与に関し、一実施態様では、アゴニストは、インジェクト可能な単位投与量の形態(溶液、懸濁液、又はエマルジョン)で、薬学的に受容可能な担体、即ち、使用される投与量及び濃度において受容者に対し非毒性で、製剤の他の成分に適合するものを用いて、一般に所望の程度の純度で混合することにより製剤化される。例えば、好ましくは、製剤はポリペプチドに対して有害であることが知られている酸化剤及び他の化合物を含まない。
一般に、製剤はアゴニストを液体担体又は細かく砕いた固体担体又はその両者に対して均一及び密に接触させることにより調製される。好ましくは、担体は非経口的担体で、より好ましくは受容者の血液と等張な溶液である。そのような担体媒体の例には、水、食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液が含まれる。不揮発性油及びオレイン酸エチルなどの非水溶液媒体もリポソームと同様、ここで有用である。
担体は等張性及び化学的安定性を促進するような物質のような少量の添加物を適切に包含する。そのような物質は使用される投与量及び濃度において受容者に対し非毒性で、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸、及び他の有機酸又はそれらの塩などのバッファー;アスコルビン酸などの酸化防止剤;例えば、ポリアルギニン又はトリペプチドなどの低分子量ポリペプチド(約10残基未満);血清アルブミン、ゼラチン、又はイムノグロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン;グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びセルロース又はその誘導体、グルコース、マンノース、又はデキストリンを含むその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトール、又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの対イオン;ポリソルベート、ポロキサマー、又はPEGなどの非イオン性界面活性剤;及び/又はNaCl,KCl,MgCl2,CaCl2,などの中性塩を含む。
アゴニストは、典型的には、約0.1mg/mlから100mg/ml、好ましくは1−10mg/mlの濃度で、約4.5から8のpHの媒体中に個別に製剤化される。溶液の場合、最終的な製剤は、好ましくは約2−8℃の温度で約4週間まで貯蔵される。あるいは、製剤は凍結乾燥され、溶液製剤についての記述に従って保存されるインジェクション用の水による再構成のためのパウダーとして提供され得る。
治療的投与として使用されるアゴニストは滅菌されていなくてはならない。滅菌性は滅菌ろ過膜(例えば、0.2ミクロン膜)を通過させるろ過により容易に達成される。通常、治療的アゴニスト組成物は滅菌的なアクセスポート、例えば、静脈用溶液バッグ又は皮下注射用ニードルにより穴あけ可能なストッパーを備えたバイアルなどを持つ容器中に収容される。
アゴニストは、通常、例えば、シールされたアンプル又はバイアル中に、単位ごと又は複数投与用容器中に、水溶液として、又は再構成用の凍結乾燥製剤として保存される。
本発明は以下の実施例を参照することにより充分に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。ここに言及された全ての文献及び特許引例は、出典明示により取り込まれる。
【実施例】
【0036】
実施例1
IGF−1結晶の結晶化及び性質決定
IGF−1の結晶化及びデータの収集
組換体ヒトIGF−1(rhIGF−1)は、米国特許番号5,723,310の実施例中に記載されているように、相形成種のためのポリマー/塩の組合せを用いて得られ、米国特許番号5,681,814の実施例中に記載されているようにして製剤化され(酢酸塩、NaCl、ポリソルベート20、及びベンジルアルコール)、10mg/ml rhIGF−1の7mlを含むバイアル中に収容された。それは、0.15MNaCl、20mMNaOAc、pH4.5中で脱塩され、最終濃度10mg/mlの濃度に希釈された。4μlのIGF−1溶液の液滴は、リザーバ液(0.1Mカコジル酸ナトリウムでpH6.5に緩衝化された24%ポリエチレングリコール3350)5μlと、結晶化状態スクリーニングに使用され、Hampton Research, Laguna Nigel, CAより入手可能なCRYSTAL SCREENTM試薬中で得られる14mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの1μlと混合された。この溶液を、1mLのリザーバ液を用いて蒸気拡散(Jancarik等, 上掲)により平衡化させた。このようにして、混合物の液滴が、リザーバ液に対してプラスティックのカバースリップの下部で懸濁された。薄い、板状の形態の小さな結晶が4−5日以内に生じた。この時点で、2μlの100%メチルペンタンジオール(MPD)(20%の最終濃度まで)を結晶化粒に添加し、結晶を一晩かけて溶解させた。1週間以内に結晶が再度生じ、確認可能な鋭い端を持つ0.2mmX0.1mmX0.05mmの最終容積まで成長した。これらの結晶を後の全ての解析において使用した。
当業者であれば前述の結晶化条件が変動し得ることを理解するであろう。結晶化条件を変えることにより、IGF−1の他の結晶形態が得られうる。そのような変動は単独又は組合わせて用いてもよく、例えば、最終タンパク質濃度を約5及び35mg/mlの間で変動させること;IGF−1と沈殿剤の割合を変動させること、沈殿剤の濃度を、ポリエチレングリコールについては約20及び30%の間で変動させること、pHを約5.5及び7.5の間の範囲で変動させること、界面活性剤のタイプ又は濃度を変動させること、温度を約−5及び30℃の間で変動させること、及び上記条件又はその変法を用いてバッチ、溶液ブリッジ、又は透析法によりIGF−1を結晶化することを含む。McPherson等, (1982), 上掲を参照のこと。
【0037】
IGF−1結晶の性質決定
1つの結晶を親の溶液から、25%(w/v)ポリエチレングリコール3350、30%MPD、0.2Mカコジル酸ナトリウムpH6.5、2.8mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン、及び1MNaBrからなる極低温保護剤溶液へ移した。回折は1.8Åに対するものであった。この溶液中で30秒後、結晶は溶液を液体窒素中へ沈めることにより急冷させた。結晶を凍結させる技術は、基本的にそれらを不朽化し、より高い質のデータセットを生み出す。後の全ての操作及びX線データの収集は100°ケルビンで行われた。
4波長MADデータセットがStanford Synchrotron Radiation Laboratoryでの9−2ビームラインで収集され、データセットの順番は以下の通りである:Br ピーク(λ1), 低エネルギーリモート(λ2), Br 屈折 (λ3), 及び高エネルギーリモート (λ4)。Brピーク及び屈折点は結晶の蛍光スキャンから評価され、低エネルギーリモートは、この波長において弱い硫黄の異常シグナルを最大化する一方、吸着効果を最小化するため、1.54オングストロームになるように選択された。逆ビームジオメトリーは使用されなかった。データの換算(reduction)は、Denzo及びScalepack(Otwinowski及びMinor, Methods in Enzymology, 276: 307-326 (1997))を用いて実施された。最も正確なスケール及び可能なBファクターを決定するため、全ての4波長に関するデータは最初一緒にスケールされ、異常シグナルはないと仮定した。次に、このスケーリングから決定されたスケール及びBファクターが、4つのデータセットの各々に対して適用された。
結晶はa=31.83Å,b=71.06Å,c=66.00Å,及びα=β=γ=90.000°の単位セル定数を持つC2221の空間群に属する。結晶の非対称ユニットは、2.4Å3/Daのマシュ−係数,又は48.1%溶媒をもたらす単一の界面活性剤分子に結合したIGF−1の単量体を含んでいた。結晶の溶媒含有量は約55%であった。
構造決定
IGF−1の利用可能なNMRモデル又はインスリンの結晶構造のいずれかを用い、分子置換によりIGF−1の構造を決定することにおける最初の計画は、不成功に終わった。このため、構造はBr多波長異常分散法(MAD)により新たに決定された (Dauter等, Acta Crystallogr., D56: 232-237 (2000))。
単独で結合した臭化物の座標は、異常及び分散的差分パターソンマップのマニュアルによる点検によって決定された。マニュアルの曖昧さ(hand ambiguity)は、Global Phasing Limited, 43 Newton Road, Cambridge CB2 2AL, ENGLANDから入手したプログラムSHARP(De La Fortelle及び Bricogne, Methods in Enzymology, 276: 472- 494 (1997))を用いた位相リファインメント、次いで、λ2Bijvoet差分を用いて計算された異常差分フーリエマップの調査により解決された。Br座標のある手(one hand)に対する6つのピークのクラスターはインスリンのジスルフィド構造に一致した(PDBコード:1ZNI)。これら6つのピークはIGF−1中の6つのCys Sγ原子に一致する;7つ目の硫黄(Met59Sδ)は異常差分フーリエマップ中では全く検出されなかったが、おそらく、その高い温度因子(36.7Å2)のせいであろう。この点において、6つのCys Sγ位置は、対照として使用されたλ1データセットと共に位相リファインメントに包含された。位相リファインメントを通じて、Br f”はλ1データセットに対してリファインされ、f’及びf”はλ3に対してリファインされ、両者はデータセットλ2及びλ4に対して固定された;硫黄に対するf”及びf’値は各波長に対して理論値に固定された。硫黄原子からの弱い異常シグナルは位相調整スタティクスに緩やかな影響を有していたが、結果として生じる電子密度マップは、特にIGF−1の不十分に順序付けされた領域において改善された接続性を示した。
【0038】
密度修飾(溶媒の平坦化(solvent flattening)及びヒストグラムマッピング)はDM(Collaborative Computational Project Number 4, Acta Crystallogr., D50: 760-763 (1994); Cowtan, Joint CCP4 and ESF-EACBM Newsletter on Protein Crystallography, 31 : 34-38 (1994))を用いて実施され、得られた電子密度マップは高品質であった。およそ構造の50%は、IGF−1の3つのらせん領域に対応し、プログラムO(Jones 等, Acta Crystallogr., A47: 110-119 (1991)) 及びQUANTA (version 97.0, MSI, San Diego, CA)を用いて実験的な電子密度マップ中に直接構築された。Sigmaa(Collaborative Computational Project Number 4, 上掲; Read, Acta Crystallogr., A42: 140-149 (1986))を用いた数ラウンドの位相組合わせにより、分子の残りの部分のモデル化が可能となった。原子の位置的及び制限されたBファクターのリファインメントはCNX(Brunger等, Acta Crystallogr., D54: 905-921 (1998)及びMSI, San Diego, CA)の最尤標的機能を利用し、「マスク」タイプバルク溶媒修正及び異方性の全体的Bファクタースケーリングとカップルした。
最終的なモデルはIGF−1の残基3−34及び41−64、1つのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン、1つのBr−、及び50の水分子を包含している。該モデルはλ3データセットに対してリファインされたが、データの統計値がこのデータセットは他よりも高質であることを示したためであった。20−から1.8−オングストローム解像度による全てのデータは、シグマカットオフを適用せずにリファインメント中に包含された。二次構造の評価はプログラムPROMOTIF(Hutchinson及びThornton, Protein Science, 5 : 212-220 (1996))により行われた。
2つのセットの位相を用いて充分に順序付けされたIGF−1の位置は、基本的には同一であるが、分子のより柔軟な領域は、位相調整において硫黄を含むことに関し、劇的に改善された連結性を示した。最初のへリックス(残基19,20及び21)直後のIGF−1の曲がった領域を示す実験的な電子密度マップの例は、組合されたBr及びS位相を使用することで、Br位相のみを使用するのよりもさらにより充分に連結されたマップになることを示している。この点において、Br+S位相を使用すると、分子の約50%が実験的マップ中に直接帰着された。
【0039】
構造の説明
モデルの構築及び位相の組合わせの数回のサイクルの後、図2に示される最終的なモデルはIGF−1の残基3−34及び41−64、単結合した界面活性剤分子、及び46の水分子を含む。良好な空間配置を保ちつつ、1.8Åに対するRファクターは23.7%であり、自由Rファクターは26.9%である。N末端のB領域は残基3−28に対応し、C領域は29−34に、不十分に順序付けられた残基のストレッチは35−40に、A領域は42−62に対応する。D領域(63−70)は、基本的には不規則である。
IGF−1の構造は、インスリン(図3を参照のこと)に類似し、2つの分子間で保存されているバックボーン原子に対して3Åの2乗平均平方根偏差(RMSD)を持つ。これらの偏差の多くは柔軟な領域で生じ、らせん領域のみを考慮する場合、α炭素間のRMSDは約0.47Åである。主な差異は、C領域の伸張で、成熟インスリンに相当部位は存在せず、分子本体から離れている。このループにはレセプターとの結合に重要であることが知られている多くの残基が含まれる。
IGF−1に対する広範囲におよぶアラニンスキャン変異導入研究により、どの残基がIGFBP−1及びIGFBP−3との結合に重要であるか示された(Dubaquie及びLowman, 上掲)。IGFBP−3に結合する残基はIGFBP−1と結合するものと類似するが、IGFBP−3はよりバックボーンの相互作用に依存すると考えられ、アラニンの変異によってそれほど強くは影響されない。IGFBP−1及びIGFBP−3の結合に対して重要な残基がクラスター化されている劇的なスポットは存在せず、結合を減じる変異が分子全体に散らばっている。N末端に僅かなクラスター化が存在するようであり、これらの部位の多くは元々疎水性である。
【0040】
図4及び7に示されるように、界面活性剤の分子は、Bへリックスの基部にある小さな疎水性クレフト中に結合する。界面活性剤に対する残基5,7、及び10からの幾つかの直接的な側鎖接触が存在する。IGFBP−1/IGFBP−3結合エピトープの一部と界面活性剤の結合部位とがオーバーラップするにも拘わらず、如何なる理論にも限定するわけではないが、予備的な結果により、界面活性剤はIGF−1に対するこれらのタンパク質の結合を阻害しないことが示唆される。界面活性剤の逆の面はIGF−1の逆の面と対称な接触を形成している。
図5に示されるように、対称に関連したIGF−1分子間の唯一の広い結晶の充填接触が存在しており、対称なホモ二量体を生じさせている。埋もれた表面積は1378Å2で、生理学的に関連したタンパク質−タンパク質界面の範囲内である。
図6は、レセプター結合クラスターに重要であることが知られている残基がこの二量体界面においてクラスター化することを示している。示されるのはTyr24,Thr29,Tyr31,及びTyr60である。これらの残基の変異により、どこの場合でも、個々の変異に対してレセプターへの親和性において6−20Xの損失、又は二重変異に対して親和性に対して240−>1200Xの損失となる。また、Phe23及びPhe25はインスリンのPhe24とTyr26と置換可能で、親和性における損失はないことも示される。
【0041】
構造のさらなる説明
IGF−1は、主にインスリンのB−へリックス(IGF−1の残基7−18)及び2つのA−へリックス(IGF−1の残基43−47及び54−58)に対応する3つのらせんセグメントから構成される。疎水性コアは、基本的には、上記の文献中に注記されるようにCys6及びCys48、Cys18及びCys61、Cys47及びCys52の間の3つのジスルフィド結合を含む、IGF−1のNMR構造についての記述と同一である。残基3から6はいかなる規則的な二次構造も形成せず、従って、ここで記述される構造はインスリンのT−フォームと最も類似したものに分類され得る(Derewenda等, Nature, 338:594-596 (1989));実際、IGF−1及びインスリンのT−フォームがそれらのそれぞれのらせんセグメント(IGF−1の残基8−19,42−49,及び54−61;インスリンの残基B9−B20,A1−A8,及びA13−A20)のCα位置上に重ねられる場合、RMSDはたった0.93Åである。インスリンのように、B−へリックスの端における残基18−21はタイプII’βターンを形成し、B−へリックスから伸張された領域へとバックボーンを向き直させる。残基24−27はタイプVIIIβターンをC−領域を収容するために形成し、この領域がIGF−1のコアから離れるように伸張し、対称に関連した分子と相互作用する。残基30−33は十分に特徴づけられたタイプIIβターンを形成し、特にi+1の位置にTyr31を表示する。残基35−40はモデル化されていないが、この領域の電子密度が弱く、バラバラなためである。D−領域(残基63及び64)の最初の2つの残基のみが構造中に順序づけされている。
IGF−1のC−領域は、単位セルのa軸を横切って2つの折り畳みの対称な結晶の充填相互作用を媒介する。この相互作用は、IGF−1の各分子に由来する溶媒接近可能表面積689Å2、又は全部で1378Å2を覆い隠し、結晶中で最も広い界面である。距離3.6Å又はそれ未満の全部で28の分子間接触がこの界面を介して形成され、次に最も広い結晶の充填の相互作用は9の接触のみを形成する。界面のコアは、各々溶媒接近可能表面積39Å2、又は全部で57Å2を覆い隠す、各単量体由来のTyr24及びPro28によって決定付けられる。Tyr31の芳香環はIGF−1のコアから最も遠い位置にあるループの先端に並んでおり、対称に関連する分子のPhe23及びPhe25のフェノール環に対して充填される。これらの疎水性相互作用に加えて、2つの主鎖の水素結合(Tyr31N−Phe23O;Ser34N−Asp20O)が、二量体の界面に存在する。また、D−領域(62−64)由来の残基も、一部、二量体の形態中に閉じこめられる。これらの相互作用のため、結晶中のC−領域のほとんどは、十分に順序づけされており、この生物学的に重要なループの立体配座の第一に高解像な外観を提供する。
【0042】
3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)―1−プロパンスルフォネート(CHAPS)類似体及び3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシプロパンスルフォン酸(CHAPSO)界面活性剤を含む72の界面活性剤化合物が、結晶化の試行においてスクリーニングされ、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのみが結晶を産生させた。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの単一分子は、IGF−1の1つの表面上の小さな疎水性のクレフトを形成する残基(Leu5,Phe16,Val17,Leu54,及びLeu57)(図7A)と相互作用する。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの選択は、如何なる理論にも限定されるわけではないが、界面活性剤分子の位置C10に酸素原子が存在しないことによって説明される。界面活性剤のこの領域は、IGF−1中の残基Leu5,Leu54及びLeu57の側鎖原子と密に接触している。界面活性剤の逆側面は対称に関連するIGF−1分子の残基Val11,Leu14及びGln15と対称な接触を媒介する。興味深いことに、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのこの面は二量体界面の端とも接触し、二量体の相手方のTyr31及びGly32と同様に、同じIGF−1分子中のPhe23及びPhe25とも密に接触をする(図7B)。より詳細な分析によれば、界面活性剤はIGF−1の結合ポケットの2つのパッチに結合する。1つのパッチはアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を持ち、第二のパッチはアミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を持つ。結合は列挙されたアミノ酸残基と候補アゴニスト分子との間における、6Å未満又は等しい、少なくとも1つの接触を保つことにより特徴づけられる。
【0043】
考察
IGF−1結晶構造のC−領域は、分子のコアから突出しており、残基30−33がカノニカルなタイプIIβターンを形成し、C−領域の残りの部分は対称に関連する分子と結晶学的二量体を形成する。Tyr31はIGF−1R結合に関して重要な決定因子として関わっており、この伸展の端の位置は、レセプター分子と相互作用するために理想的な位置に存在する。IGF−1のこの領域はNMRデータでは十分に特徴づけされていないが、結晶中のC−領域の立体配座は溶液の立体配座を反映しているようである。ループの端における逆のターン及びIGF−2のループ末端におけるヒンジの湾曲の証拠が存在する(Torres等, 上掲)。従って、結晶のパッキングは、おそらく、このループの位置を安定化するのに役立ち、その立体配座は密接に関連するIGF−2の溶液構造と一致する。
既知の生物学的複合体中において、結晶学的二量体によって形成される界面のサイズは、埋もれた表面領域の範囲内で十分である(Janin及びChothia, J. Biol. Chem., 264: 16027-16030 (1990))。さらに、この相互作用はPhe23(69%埋没),Tyr24(64%),Phe25(29%),及びTyr31(38%)を含む、IGF−1Rとの結合に重要であることが知られている幾つかの残基を溶媒から部分的に排除する。他のグループもIGF−1とIGF−2のホモ二量体相互作用について報告している。Laajoki等,(2000),上掲は、1mMの濃度で調製されたIGF−1(Long−[Arg3]IGF−1)形態が、3.6mMKdの評価とよく一致する割合である約20%二量体/80%単量体に分配されることを報告している。IGF−2のNMR研究において、Torres等, 上掲はC−領域の残基のアミドプロトンは、ゆっくりと溶媒と置換されることを報告したが、このことはIGF−2が溶液中で二量体を形成することを示唆する。しかし、結晶の二量体形成中に埋没する表面領域の多くの量にも関わらず、IGF−1の親和性それ自体は非常に弱い。さらに、レセプター二量体あたり1つのIGF−1分子の既知の結合ストイキオメトリー(De Meyts, 上掲)は、IGF−1二量体の生物学的重要性を理論的に説明することを困難にしている。結論として、この結晶形態のIGF−1二量体は、結晶化実験における高濃度のIGF−1から生じており、分子の生理学的に関連する形態を表示していない。
【0044】
中性付近のpHにおけるIGF−1に関して得られたNMR分光学による非常に低い質のデータは、自己会合と共鳴線幅における広い変動を導く内部移動の組合せによるものであった(Cooke等, 上掲)。結果的に、IGF−1について得られたNOESYスペクトルは、多様で広く、オーバーラップしたピークを含み、はっきり十分に解像された相関はほとんどない。過剰のN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン存在下でのIGF−1について収集されたNOESYスペクトルは、同様な形を持つ。従って、界面活性剤の結合は、IGF−1の凝集又は固有の柔軟性を除去するのには十分でなく、タンパク質の溶液立体配座の特徴付けを促進しない。このことは、界面活性剤の添加が高い解像度に回折する十分に充填された結晶学的二量体を誘導する結晶状態における観察とは対照的である。Jansson等, J. Biol. Chem., 273: 24701-24707 (1998)はLeu5及びGly7を包含する、Cys6を密に取り囲む領域におけるNMRによる評価が存在しないことは、シス及びトランス配座間の中間の置換を起こしているCys6−Cys48ジスルフィドを示唆していると言及した。界面活性剤がこのジスルフィドとすぐ逆のB−へリックスの一面に結合するという事実は、如何なる理論にも限定するわけではないが、疎水性クレフトのより完全な充填によるこの分子領域を安定化するのに役立ち得ることを示唆する。実際に、ここでの結晶構造中において、Cys6−Cys48は明らかにトランスの立体配座であり、多重な立体配座に関する証拠は存在しない。
結論
IGF−1の結晶構造は固有の硫黄原子及び偶然のハロゲン結合部位に結合したBr−イオンに由来する異常散乱を使用して決定された。その構造はインスリンと非常によく類似し、唯一の主要な相違は、タンパク質本体から突き出し、ホモ二量体相互作用を媒介するC−領域である。埋没した表面領域の量は中性pHにおいて、IGF−1が濃度依存的に自己会合するとの事実と整合する。さらに、レセプターとの結合に重要な幾つかの残基はこの二量体界面において見いだされ、このことは、如何なる理論にも限定するわけではないが、これらの残基の変異によるレセプター結合への影響がレセプター表面との直接的な接触よりも二量体の破壊の結果であることを示唆する。
【0045】
実施例2
界面活性剤結合の拡散に基づく測定
NMRによる拡散測定が、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとの相互作用についてのKdを評価するために用いられた。サンプルは、D2O中50mMリン酸バッファー、pH6.5(訂正されていないメータの読みで)で調製され:1.0mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+0.5mMのIGF−1;0.5mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+0.25mMのIGF−1;0.25mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+0.125mMのIGF−1;又はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのみ(1.0,0.5,又は0.25mM)を含んでいた。全てのスペクトルは5−mm三重軸グラディエント、三重共鳴プローブを備えたBruker AVANCE500TMスペクトロメーター(Bruker Analytik GmbH)により40℃で得られた。拡散測定はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンのみ又はN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン+IGF−1、各々に関し、δ=5ms、τ=2ms、及びΔ=25又は40msによる両極性パルス対法により行われた(Wu等, J. Magn. Reson., Ser. A 115: 260-264 (1995))。スペクトルは、z−グラディエント強度が18等量増分ごとに0.009から0.45T●m−1に増大されたため、128から1024のトランジエントで収集された;測定は少なくとも一サンプル毎に2回行われた。スペクトルはプロセスされ、ピークの高さはプログラムFELIX(v98.0, MSI, San Diego)によって導き出された。拡散定数、結合した界面活性剤の割合、得られたKdは、Fejzo等, Chemistry & Biology, 6: 755-769 (1999)に記述されるように導き出された。また、スペクトルは双性イオン性界面活性剤である1.0mMの3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォネート、及び1.0mMの3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォネート+0.5mMのIGF−1を含むサンプルに関しても収集された。二次元NOESYスペクトル(Jeener 等, J. Chem. Phys., 71: 4546-4553 (1979))は、1.0mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの存在下及び非存在下における0.5mMのIGF−1サンプルについて、100msの混合時間で収集された。
【0046】
IGF−1ファージエライザ
上掲のDubaquie及びLowmanに記述されるようにして、ヒトIGF−1を提示するファージベクターpIGF−g3で新しく形質転換された大腸菌細胞(XL1−Blue, Stratagene)を、5mlの2YT培地中で一晩増殖させた(Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Handbook (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989))。IGF−1を提示するファージ粒子は、界面活性剤及び結合タンパク質スタンダードの一連の希釈液での35分間のプレインキュベーション用の500−1000倍希釈を得るために、IGFBP−1及びIGFBP−3に対して希釈された。MAXISORPTM表面(Nunc, Denmark)の透明なマイクロウェルポリスチレンイムノプレートが、IGFBP−1又はIGFBP−3タンパク質で一晩、4℃でコートされ(50mM炭酸バッファー、pH9.6中、3μg/mLで50μl)、0.5%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタン(Atlas Chemical Co.)及びPBSでブロックされ、PBS、0.05%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタンで8回洗浄された。サンプルはプレートに30分間添加された。プレートはPBS、0.05%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタンで8回洗浄され、PBS、0.5%BSA中、30分間、1:10,000の西洋ワサビペルオキシダーゼ/抗M13抗体結合物(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)の50μLとインキュベートし、その後、PBS、0.05%TWEEN(登録商標)20ポリオキシエチレンモノラウリル酸ソルビタンで8回、PBSで2回洗浄した。プレートは、テトラメチルベンチジン基質(Kirkegaard and Perry, Gaithersburg, MD)を用いて現像し、1.0H3P04で停止させ、450nmで分光光度的に読まれた。
沈降平衡解析
IGF−1の自己会合は沈降平衡解析によって測定された。実験は、20℃にて、OPTIMATMXL−A/XL−I分析的超遠心機(Beckman Coulter, Inc.)で実施された。サンプルは、0.1Mクエン酸バッファー,pH6.5,負荷濃度1mMから0.01mMを持つ75mMのNaCl中で調製された。濃度勾配は、25000から30000rpmのロータースピードで、280nm又は285nmにて、走査吸収光学系を使用して測定された。平衡状態の達成は、およそ16時間後に連続的スキャンを比較することで検証した。IGF−1の部分的な比体積は、そのアミノ酸組成から計算された。データは一つの理想種又は理想的な二量体の自己会合モデルとして、非直線的最小2乗法適合プログラム、NONLIN (Johnson 等, Biophys. J., 36: 578-588 (1981))を用いて適合させた。会合定数は、非直線的最小2乗回帰により回帰された、モデルの最適化値から決定された。
【0047】
結果:
N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンは溶液中のIGF−1に結合する。
3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸及びN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンに対するIGF−1の親和性は溶液NMR法を用いて確認された。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンを0.5mMのIGF−1溶液中に希釈化する間に観察された化学シフト変化は、その親和性がミリモル以下であり、そのようなデータから容易に測定できないことを示唆した。その代わりに、拡散の測定は、2モル当量の界面活性剤を含む種々のIGF−1濃度のサンプル、及び界面活性剤のみ(界面活性剤の濃度は常に、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンに関しては1.4mM、3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸に関しては14mMの臨界ミセル濃度未満であった)の幾つかのサンプルに対しても行われた。タンパク質の存在下における界面活性剤の拡散定数の減少は、タンパク質に結合する界面活性剤の割合を評価するために用いられうる(Fejzo等, 上掲)。タンパク質と界面活性剤の総濃度は既知であるため、解離定数の値を決定することができる。研究された3つのタンパク質濃度(0.5mM,0.25mM,及び0.125mM)、220,440,及び430μMのKd値が各々得られた。この技術は、大きなタンパク質と結合する小分子(数百ダルトン分子量又はそれ未満)に対して常套的に使用されていた。この特別な場合において、リガンドは比較的大きく(862Da)、タンパク質は比較的小さい(7648Da);従って、結合に対する拡散定数の差分減少は小さい。これは、解離定数が測定されうる不確定性を増大させる。これにより、上述のデータは、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとIGF−1の相互作用に関するKdが300±150μMであることを示唆している。(3−(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸の拡散データの同様の解析は、この場合はKdが3mMより大きいことを示唆している。
【0048】
N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンはIGFBP−1及びIGFBP−3結合を阻止する
IGF−1に対するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの結合エピトープを調べるために、界面活性剤はバクテリオファージ粒子上で発現されたIGF−1とプレインキュベートされ、IGFBP−1及びIGFBP−3の残りの結合レベルは、プレートベースのアッセイ(エライザ)によって測定された。コントロールとして、3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸分子もまた試験された。図8に示されるように、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンはファージ上でIGFBP−1及びIGFBP−3の結合を、各々740±260μM及び231±29μMのIC50値でIGF−1を完全に阻害した。しかし、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン(1.4mM)の臨界ミセル濃度は図8の曲線上で上限を示すため、これらの数は控えめに説明されなければならない。N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの効果とは対照的に、極めて関連性のある界面活性剤3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルフォン酸は1mMまで試験されたいかなる濃度においても、なんら結合の阻害を示さなかった。実験の限界に拘わらず、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンについて得られたIC50値は、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン−IGF−1相互作用のKdの上記評価とよく一致している。
【0049】
IGF−1の自己会合
沈降平衡データはIGF−1が溶液中で自己会合していることを示している。タンパク質濃度が0.01mMから1mMへと増大するにつれて、平均分子量が増大した。研究された中で最も高濃度(1mM)の平均分子量は、単量体分子量(7.6KDaの単量体分子量に対して1mMでは10.4KDa)より約37%高い。0.05mM以下の濃度では、自己会合は観察されず、IGF−1は中性のpH溶液中で単量体としてのみ存在する。高分子量種がIGF−1二量体であると仮定すると、沈降データは3.6±1.0mMのKdを持つ単量体−二量体モデルとして適合し得る(図9)。
幾つかの研究により、IGFBP結合にとって重要なIGF−1中の残基が同定された(Clemmons等, Endocrinology, 131: 890-895 (1992); Dubaquie及びLowman, 上掲; Jansson等, 上掲 ; Oh等, (1993), 上掲 ; Lowman等, (1998), 上掲 ; 及びDubaquie等, Endocrinology, 142: 165-173 (2001))。上掲のDubaquie及びLowmanによりIGFBP−1及びIGFBP−3と相互作用するIGF−1上の2つの異なるパッチが同定された。パッチ1は、Glu7,Leu10,Val11,Leu14,Phe25,Ile43,及びVal44から構成される一方、パッチ2は、Glu3,Thr4,Leu5,Phe16,Val17,及びLeu54から構成される。IGF−1の結晶構造中において、これら2のパッチは、界面活性剤媒介結晶充填接触に関与する。(特にIGF−1の結晶構造のパッチ1は、アミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57から構成され、IGF−1の結晶構造のパッチ2は、アミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55から構成され、列挙された各アミノ酸残基と候補アゴニスト分子間の6Å以下の少なくとも1の接触が存在する場合、結合が生じる。)
IGFBP相互作用表面と界面活性剤結合部位とのオーバーラップは、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンがIGFBP−1とIGFBP−3結合を阻止するとのここでの観察と全体的に一致する。これに対して、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンはIGF−1Rを介するシグナルを細胞ベースのレセプター活性化アッセイでは阻害しない。これらの結果は、IGF−1上のレセプターとIGFBPの相互作用に対する異なる結合エピトープを示した以前の研究と一致する(Bayne等, 上掲, (Vol. 264); Bayne等, 上掲, (Vol. 265); Cascieri等, 上掲)。IGFBP相互作用の阻害因子としてのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの同定により、インビボにおけるIGF−1/IGFBP複合体を破壊する小分子薬剤又はペプチドミメティクスを開発することが可能となり、それにより、全身の、不活性プールからレセプター−活性IGF−1を遊離する。そのような薬剤は、糖尿病などの代謝疾患のための経口的に生物利用可能な治療を含む。
【0050】
最近、Zeslawski等 (EMBO J., 20: 3638-3644 (2001)がIGFBP−5のN末端ドメインと複合体を形成しているIGF−1の結晶構造を公表した。かかる複合体の構造はここで示されたIGFBP結合の界面活性剤阻害モデルと完全に一致し、また、Vajdos等, Biochemistry, 40: 11022-11029 (2001)によっても開示されている。他のIGF−1結晶構造との比較により、IGF−F1−1(RNCFESVAALRRCMYG(配列番号:4))と称されるファージ由来IGF−1アンタゴニストペプチドに結合した複合体IGF−1のNMR測定により、如何なる理論にも限定されるわけではないが、A−鎖(へリックスIII)の一部が溶液中で可動性であり、異なるリガンド(界面活性剤、ペプチド、結合タンパク質)と結合した場合、僅かに異なる立体配座を採用することが示される。
ペプチドIGF−F1−1とIGF−1との間の複合体は、600及び800MHzで収集されたNMR分光法のデータにより決定された。13C及び15Nで均一にラベル化されたIGF−1はReilly及びFairbrother, J. Biomol. NMR, 4: 459-462 (1994)により概略化されたスキームを用いて調製され、上掲のVajdos等の方法に従って精製された。僅かに過剰モルの非ラベル化IGF−F1−1が13C/15N IGF−1及び1H、13Cの1.5mM溶液と混合され、15NのNMR共鳴は、Cavanagh等, Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice (Academic Press: New York, 1996)によって記述される二重−及び三重−共鳴NMR実験法により評価された。IGF−1中の距離制限は13CによるNOESY HSQCスペクトルと15NによるNOESY HSQCスペクトルから同定された(Cavanagh等, 上掲)。
IGF−1とペプチド間の分子間の制限はω1フィルター化、ω2による13C HSQC−NOESYスペクトルによって得られた(Lee等, FEBS Lett., 350: 87-90 (1994))。ペプチド内距離制限は、2−D13Cフィルター化NOESYスペクトルから得られた。さらに、Φ二面角の角度制限はHNHAスペクトルから得られ(Cavanagh等, 上掲)、またχ1制限はHNHB短時間混合TOCSYスペクトルから誘導された(Clore等, J. Biomolec. NMR, 1: 13-22 (1991))。さらなるΦ,ψ制限は、プログラムTALOS(Cornilescu等, J. Biomol. NMR, 13: 289-302 (1999))を用いてHα,N,Cα,Cβ,及びCO化学シフトの解析から得られた。
コンピュータプログラムCNX(Accelrys Inc., San Diego)によるねじれ−角度動力学法を用いて、全部で、へリックスIにおける899の距離制限(779IGF−1内;33ペプチド内;87分子間)、16の水素結合制限、及び138の二面角角度制限(71Φ;44ψ;23χ1)が構造の構築を行うのに使用された。IGF−1の構造は、0.32±0.06Åのバックボーン重原子に関する平均構造由来の平均RMSDにより、B−領域(残基2−25)及びA−領域(残基41−63)に関して十分に特徴付けされた。C−領域(26−40)及びD−領域(62−70)は、入手可能なデータではあまり特徴づけされなかった。最も低い制限違反エネルギーの20の構造は、優れたバックボーン立体配置(不許可領域には存在せず、Φ/ψ空間の最も好ましい領域において80%の残基)を持ち、実験的制限の違反(平均最大距離制限違反0.09±0.02Å)をほとんど含まなかった。IGF−F1−1は、溶液中のペプチド自体によって決定されるものと非常に類似する立体配座を採用する。IGF−1の立体配座は3つのへリックス(残基7−18,43−49,及び54−60)を含み、複合体ではないIGF−1の以前のNMR研究において低い解像度で認められるものに類似する(例えば、Cooke等, 上掲; Sato等, 上掲;及びLaajoki等, 上掲)。
【0051】
図10は界面活性剤とファージペプチドとの複合体の比較を示す。特に、図10Aは、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとの複合体のリボン構造図を示し、図10Bはファージ由来のペプチドIGF−F1−1に結合したIGF−1の複合体を示す。B−領域(へリックスI)は、両方の複合体において非常に類似する立体配座を採用する。C−ループは、界面活性剤複合体中において部分的にのみ順序づけされ、ペプチド複合体中では不適切に特徴付けされている。リガンドに由来する相違は、IGF−1(へリックスIII)のA−領域に対して、バックボーン(残基52−60)及び側鎖(Leu54及び57)レベルの両方において観察される。如何なる理論にも限定されるわけではないが、このA−領域範囲の悪い能力(maleability)はIGF−1をそのように多くのタンパク質(6つのIGFBPsと3つのレセプター)に結合可能にすると考えられている。
本発明は、ある特定の方法及び材料を参照することにより、ここにおいて必要上議論してきた。これらの特定の方法及び材料の議論は本発明の範囲に対するいかなる限定をも一切構成するものではなく、本発明の目的を達成するために適した任意のかつ全ての代替可能な材料及び方法まで拡張されるものであることが理解されるべきである。
【0052】
別表1
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、IGF−1(配列番号:1)、IGF−2(配列番号:2)、及びインスリン(配列番号:3)の配列を並べる。インスリン(及びそれらに対応するIGF−1及びIGF−2の配列)のA−,B−及びC−鎖は各々太字、下線、及びイタリック体で示してある。3つの芳香環残基は、文字を縁取りすることで示される。(!)で示した残基はIGF−1レセプターとの結合に重要であることが証明された。「*」で示した残基はIGFBP−1及びIGFBP−3との結合に対して重要であることが示されている。IGF−1及びIGF−2のD−領域を含むカルボキシ末端領域は通常のタイプで示されている。
【図2】図2は、バックボーンの折り畳みを示すIGF−1のリボン構造図である。ラマチャンドランプロットにおいて、97.7%が最も好ましく、2.3%が許容される。
【図3】図3はIGF−1(左の構造)及びインスリン(右の構造)の両方のリボン構造図である。
【図4】図4は、リザーバ液中に使用される界面活性剤(N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン)がB−ヘリックスの基底部において小さな親水性のクレフトと結合することを示すIGF−1のリボン構造図である。界面活性剤は、IGF−1の構造より明るいグレー色の構造で示される。
【図5】図5は、明るいグレー色で示される界面活性剤を伴った二量体のIGF−1のリボン構造図である。
【図6】図6は、レセプターとの結合に重要な残基(図の中央部分にリング構造で示される)が二量体界面にクラスターを形成することを示す、二量体のIGF−1リボン構造図である。界面活性剤は図の外側の部位に明るいグレー色で示される。
【図7A】図7Aは、図4に示されるように、リザーバ液中で使用される界面活性剤(N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン)が、棒状形態で示され、B−ヘリックスの基底部において小さな親水性のクレフトと結合することを示すIGF−1のリボン構造図である。図7Aにおいて、界面活性剤ヘッドグループは、残基Leu5,Phe16,Val17,Leu54,及びLeu57が並ぶクレフト中に挿入される。種々のグレーの影は、上掲のDubaquie及びLowmanのアラニンスキャン変異導入の結果によるもので、FBP−1との親和性において、Phe16,Val17,及びLeu5の領域はIG5−10倍の減少を示し、Glu3領域は10−100場合の減少を示し、Pro63及びPro63’の領域は100倍を超える減少を示す。右端の黒の部分は、結晶学的二量体を形成する対称に関係付けられるIGF−1分子に相当する。Leu54近くの円は、界面活性剤のC10原子を示し、他の界面活性剤である(3−((3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオン)−1−プロパンスルフォネート;又はCHAPS)とはこの部分のヒドロキシル基を持つ点で異なる。
【図7B】図7Bは、図4に示されるように、リザーバ液中で使用される界面活性剤(N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン)が、棒状形態で示され、B−ヘリックスの基底部において小さな親水性のクレフトと結合することを示すIGF−1のリボン構造図である。図7Bは界面活性剤の反対面からの図で、対称に関係付けられるIGF−1分子との界面活性剤の相互作用を示す。図7Aに示されるように、種々のグレーの影は、上掲のDubaquie及びLowmanのアラニンスキャン変異導入の結果によるもので、IGFBP−1との親和性において、Gln15付近の集団は5−10倍の減少を示し、左端の半グレー色の分子、Leu10領域分子、及び右端の半グレー色の領域は10−100倍の減少を示し、Phe49とGly7の黒の領域は100倍を超える減少を示す。界面活性剤分子の右の黒の部分は、結晶学的二量体を形成する対称に関係付けられるIGF−1分子に相当する。図7Aについて上述したように、Gln15近くの円は、界面活性剤のC10原子を示す。この図はINSIGHT(MSI, San Diego, CA)を用いて作成された。
【図8】図8は、界面活性剤/IGFBP競合結合研究から得られたグラフを示す。この実験において、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンが、固定化されたIGFBP−1(黒四角)又はIGFBP−3(白丸)に対するIGF−1の結合の競合的阻害因子として用いられた。ポジティブコントロールとして、可溶性IGFBP−1が、固定化されたIGFBP−1(黒三角)に対するIGF−1の結合の競合的阻害因子として用いられた。各データ点は2つの独立した実験の平均を表す。
【図9A】図9Aは、溶液中のIGF−1に対する沈降平衡法の非直線的最小2乗法解析を示す。30,000rpm(白三角)及び35,000rpm(白四角)のロータースピードで収集されたデータは理想的な単量体−二量体自己会合モデルとして至適化された。実線はデータの適合性である。
【図9B】図9Bは、適合化法によりデータを計算したのち、両方のロータースピードについてプロットされた残余を示す。それらは、0付近でランダムに分散され、単量体−二量体モデルがこの相互作用に関して正しいことを示している。
【図10A】図10Aは、IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンとの複合体のNMRにより測定されたリボン構造図を示す。
【図10B】図10Bは、IGF−F1−1と命名されたファージに由来するIGF−1アンタゴニストペプチドに結合したIGF−1の複合体のNMRにより測定されたリボン構造図を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線放射を回折してIGF−1の3次元構造を表す回折パターンを生じさせる、IGF−1によって形成された結晶。
【請求項2】
およそ次のセル定数、a=31.831Å,b=71.055Å,c=65.995Å,とC2221の空間群を有する請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
IGF−1がA−,B−,C−,及びD−領域を含み、結晶中で二量体を形成し、該結晶が二量体界面にレセプター結合部位を含む請求項1に記載の結晶。
【請求項4】
請求項1に記載の結晶と担体を含有する組成物。
【請求項5】
IGF−1が、再可溶化した場合に生物学的に活性である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
アゴニスト障害を患っている哺乳動物を治療する方法において、請求項5に記載の組成物の有効量を該哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項7】
哺乳動物がヒトである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
障害が、糖尿病、肥満症、心臓機能障害、AIDS関連消耗、腎臓障害、神経障害、全身成長障害、又は免疫学的障害である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
(a)IGF−1を含む水溶液を、沈殿剤を含むリザーバ液と混合して混合物を形成し;
(b)混合物を結晶化する:
段階を含んでなる、IGF−1を結晶化する方法。
【請求項10】
IGF−1が原核生物細胞から得られる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
段階(a)の水溶液が約1−50mg/mlのIGF−1を含む請求項9の方法。
【請求項12】
段階(a)の水溶液が約5−15mg/mlのIGF−1を含む請求項9の方法。
【請求項13】
沈殿剤が、ポリエチレングリコール、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、カコジル酸ナトリウム、又はそれらの混合物である請求項9に記載の方法。
【請求項14】
沈殿剤が、クエン酸ナトリウム又はカコジル酸ナトリウムで緩衝化されたポリエチレングリコールである請求項12に記載の方法。
【請求項15】
沈殿剤が、ポリエチレングリコールの場合は約20−25%、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、又はカコジル酸ナトリウムの場合は約1−10Mの量でリザーバ液中に存在する請求項13に記載の方法。
【請求項16】
リザーバ液が界面活性剤をさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項17】
界面活性剤が約10−50mMの量で存在する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
界面活性剤がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンである請求項16に記載の方法。
【請求項19】
リザーバ液のpHが約4−10である請求項9に記載の方法。
【請求項20】
pHが約6.5である請求項9に記載の方法。
【請求項21】
段階(b)が、蒸気拡散結晶化、バッチ式結晶化、液橋結晶化、又は透析結晶化により実施される請求項9に記載の方法。
【請求項22】
段階(b)が蒸気拡散結晶化により実施される請求項9に記載の方法。
【請求項23】
段階(b)の後にIGF−1を再結晶化することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項24】
再結晶化がメチルペンタンジオールを用いて生じる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
結晶化IGF−1を単離することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項26】
水溶液を、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかにより約pH6.5に緩衝化された約24%ポリエチレングリコール及び約1.4mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン界面活性剤約1μlと混合し、この溶液を、結晶化粒が形成されるまで、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかにより約pH6.5に緩衝化された約1mLの約24%ポリエチレングリコールを用いた蒸気拡散結晶化により平衡化させ、約2μlの約100%メチルペンタンジオールを、一晩かけて結晶を溶解するために結晶化粒に添加して、新しい結晶を形成させる、請求項9に記載の方法。
【請求項27】
請求項9に記載の方法により製造される結晶化IGF−1。
【請求項28】
(a)IGFBP−1又は−3のIGF−1への結合を阻害するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの能力とそのように結合を阻害するIGF−1に対する候補の間接的アゴニストの能力を比較し;
(b)候補アゴニストが少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にそのような結合を阻害するかどうか決定する:
段階を含んでなるIGF−1の間接的アゴニストを同定する方法。
【請求項29】
比較が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと候補アゴニストとの間の競合アッセイにより達成される請求項28に記載の方法。
【請求項30】
結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストを、バクテリオファージ粒子上で発現させたIGF−1とプレインキュベートし、プレートベースのエライザアッセイにおいてIGFBP−1又はIGFBP−3へのIGF−1の残留結合性を測定することにより測定される請求項28に記載の方法。
【請求項31】
IGF−1の間接的アゴニストの同定の方法において、IGF−1の候補間接アゴニストとIGF−1とを共結晶化させて共結晶構造を形成し、候補アゴニストがIGF−1上の2つパッチの一又は二と結合するかどうかを決定することを含み、一のパッチがアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を有し、第二のパッチがアミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を有し、任意のパッチの列挙された各アミノ酸残基と共結晶構造中で6オングストローム以下の候補アゴニストとの間に少なくとも1つの接触が存在する場合に結合が生じる方法。
【請求項32】
候補アゴニストが、少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にIGF−1に対するIGFBP−1又は−3の結合を阻害する請求項31に記載の方法。
【請求項33】
結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン及び候補アゴニスト間の競合アッセイを用いて測定される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストを、バクテリオファージ粒子上で発現されたIGF−1とプレインキュベーションし、プレートベースのエライザアッセイにおいてIGFBP−1又はIGFBP−3へのIGF−1の残留結合性を測定することにより測定される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの共結晶複合体。
【請求項36】
IGF−1の3次元構造を決定する方法において、
(a)IGF−1を結晶化させ;
(b)結晶化IGF−1に照射して、結晶化IGF−1の回折パターン特性を取得し;
(c)回折パターンをIGF−1の3次元構造へ変換する:
ことを含んでなる方法。
【請求項37】
適当な機械により読み取られると、IGF−1を含む分子の結晶の3次元表示を示す機械読み取り可能データでコード化されるデータ保存材料を含んでなる、機械読み取り可能なデータ保存媒体。
【請求項38】
別表1に示された構造座標を持つIGF−1結晶。
【請求項39】
IGF−1結晶から誘導されるIGF−1の3次元構造を使用する方法であって、該IGF−1の3次元構造がIGF−1レセプター結合領域を含み、該方法がIGF−1の3次元構造のレセプター結合領域と相互作用し、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストとして機能する構造を持つ化合物を同定することを含む方法。
【請求項40】
IGF−1の3次元構造が別表1に示された構造情報のものと実質的に同一のα−炭素座標を含む請求項39に記載の方法。
【請求項41】
IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法において、
(a)IGF−1を結晶化してIGF−1結晶を形成し、該IGF−1結晶がIGF−1レセプター結合領域を定める一群のアミノ酸残基を含み;
(b)段階(a)からのIGF−1結晶に照射して、IGF−1結晶の回折パターンを取得し;
(c)回折パターンからIGF−1の3次元構造を決定し、該構造がIGF−1レセプター結合領域を含み;
(d)IGF−1レセプター結合領域の3次元構造を表す本質的なIGF−1レセプター結合、溶媒アクセス可能残基を機能的に再現する3次元構造を持つIGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定し、前記IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストがIGF−1と比較して、IGF−1応答細胞に対する変更されたシグナル伝達能力を有する;
段階を含んでなる方法。
【請求項42】
溶媒アクセス可能残基がIGF−1接合点の形成に関与しない請求項41に記載の方法。
【請求項43】
IGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する方法において、
(a)IGF−1の3次元構造を決定し;
(b)IGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する;
段階を含んでなる方法。
【請求項44】
IGF−1と結合し、IGFBP又はIGF−1と結合するレセプターの結合をブロックするペプチドミメティックを同定する方法であって:
(a)別表1に与えられた構造パラメーター又は構造座標を持つ分子構造データベースを検索し;
(b)該データベースからIGF−1の構造パラメータ又は構造座標を模倣する分子を選択する;
段階を含んでなる方法。
【請求項45】
分子複合体の3次元構造の少なくとも一部を決定する方法であって、前記複合体がIGF−1を含み、前記方法が:
(a)IGF−1の結晶の構造座標を決定し;
(b)構造座標から位相を計算し;
(c)段階(b)において得られた位相から電子密度地図を計算し;
(d)前記電子密度地図に基づいて複合体の少なくとも一部の構造を決定する;
段階を含んでなる方法。
【請求項46】
段階(a)で用いられる構造座標が、別表1に記述されたものと実質的に同一であるか、別表1の座標と実質的に同じ結晶を記述する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
IGF−1又はそれらの複合体と会合する化学物質の能力を評価する方法であって、該方法が:
(a)化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の適合操作を実施するためにコンピュータ又は実験による手段を用い、それにより該会合に関連したデータを取得し;
(b)段階(a)で得られたデータを解析して、化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の会合の特性を決定する;
段階を含んでなる方法。
【請求項48】
化学物質がIGF−1及びそのレセプター間、又はIGF−1及びその結合タンパク質の少なくとも1つとの間のインビボ又はインビトロでの会合を妨害し、又はIGF−1上の結合部位と会合する、請求項47に記載の方法により同定される化学物質。
【請求項49】
IGF−1の結晶化形態の重原子誘導体。
【請求項50】
IGF−1の結合部位との会合に関する情報を得るために別表1に記載された構造座標を持つIGF−1結晶を用いてコンピュータ又は実験により化学物質を評価する方法。
【請求項1】
X線放射を回折してIGF−1の3次元構造を表す回折パターンを生じさせる、IGF−1によって形成された結晶。
【請求項2】
およそ次のセル定数、a=31.831Å,b=71.055Å,c=65.995Å,とC2221の空間群を有する請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
IGF−1がA−,B−,C−,及びD−領域を含み、結晶中で二量体を形成し、該結晶が二量体界面にレセプター結合部位を含む請求項1に記載の結晶。
【請求項4】
請求項1に記載の結晶と担体を含有する組成物。
【請求項5】
IGF−1が、再可溶化した場合に生物学的に活性である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
アゴニスト障害を患っている哺乳動物を治療する方法において、請求項5に記載の組成物の有効量を該哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項7】
哺乳動物がヒトである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
障害が、糖尿病、肥満症、心臓機能障害、AIDS関連消耗、腎臓障害、神経障害、全身成長障害、又は免疫学的障害である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
(a)IGF−1を含む水溶液を、沈殿剤を含むリザーバ液と混合して混合物を形成し;
(b)混合物を結晶化する:
段階を含んでなる、IGF−1を結晶化する方法。
【請求項10】
IGF−1が原核生物細胞から得られる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
段階(a)の水溶液が約1−50mg/mlのIGF−1を含む請求項9の方法。
【請求項12】
段階(a)の水溶液が約5−15mg/mlのIGF−1を含む請求項9の方法。
【請求項13】
沈殿剤が、ポリエチレングリコール、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、カコジル酸ナトリウム、又はそれらの混合物である請求項9に記載の方法。
【請求項14】
沈殿剤が、クエン酸ナトリウム又はカコジル酸ナトリウムで緩衝化されたポリエチレングリコールである請求項12に記載の方法。
【請求項15】
沈殿剤が、ポリエチレングリコールの場合は約20−25%、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、又はカコジル酸ナトリウムの場合は約1−10Mの量でリザーバ液中に存在する請求項13に記載の方法。
【請求項16】
リザーバ液が界面活性剤をさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項17】
界面活性剤が約10−50mMの量で存在する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
界面活性剤がN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンである請求項16に記載の方法。
【請求項19】
リザーバ液のpHが約4−10である請求項9に記載の方法。
【請求項20】
pHが約6.5である請求項9に記載の方法。
【請求項21】
段階(b)が、蒸気拡散結晶化、バッチ式結晶化、液橋結晶化、又は透析結晶化により実施される請求項9に記載の方法。
【請求項22】
段階(b)が蒸気拡散結晶化により実施される請求項9に記載の方法。
【請求項23】
段階(b)の後にIGF−1を再結晶化することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項24】
再結晶化がメチルペンタンジオールを用いて生じる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
結晶化IGF−1を単離することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項26】
水溶液を、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかにより約pH6.5に緩衝化された約24%ポリエチレングリコール及び約1.4mMのN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン界面活性剤約1μlと混合し、この溶液を、結晶化粒が形成されるまで、約0.1Mクエン酸ナトリウム又は約0.1Mカコジル酸ナトリウムのいずれかにより約pH6.5に緩衝化された約1mLの約24%ポリエチレングリコールを用いた蒸気拡散結晶化により平衡化させ、約2μlの約100%メチルペンタンジオールを、一晩かけて結晶を溶解するために結晶化粒に添加して、新しい結晶を形成させる、請求項9に記載の方法。
【請求項27】
請求項9に記載の方法により製造される結晶化IGF−1。
【請求項28】
(a)IGFBP−1又は−3のIGF−1への結合を阻害するN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの能力とそのように結合を阻害するIGF−1に対する候補の間接的アゴニストの能力を比較し;
(b)候補アゴニストが少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にそのような結合を阻害するかどうか決定する:
段階を含んでなるIGF−1の間接的アゴニストを同定する方法。
【請求項29】
比較が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと候補アゴニストとの間の競合アッセイにより達成される請求項28に記載の方法。
【請求項30】
結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストを、バクテリオファージ粒子上で発現させたIGF−1とプレインキュベートし、プレートベースのエライザアッセイにおいてIGFBP−1又はIGFBP−3へのIGF−1の残留結合性を測定することにより測定される請求項28に記載の方法。
【請求項31】
IGF−1の間接的アゴニストの同定の方法において、IGF−1の候補間接アゴニストとIGF−1とを共結晶化させて共結晶構造を形成し、候補アゴニストがIGF−1上の2つパッチの一又は二と結合するかどうかを決定することを含み、一のパッチがアミノ酸残基Glu3,Thr4,Leu5,Asp12,Ala13,Phe16,Val17,Cys47,Ser51,Cys52,Asp53,Leu54,及びLeu57を有し、第二のパッチがアミノ酸残基Val11,Gln15,Phe23,Phe25,Asn26,Val44,Phe49,及びArg55を有し、任意のパッチの列挙された各アミノ酸残基と共結晶構造中で6オングストローム以下の候補アゴニストとの間に少なくとも1つの接触が存在する場合に結合が生じる方法。
【請求項32】
候補アゴニストが、少なくともN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンと同様にIGF−1に対するIGFBP−1又は−3の結合を阻害する請求項31に記載の方法。
【請求項33】
結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン及び候補アゴニスト間の競合アッセイを用いて測定される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
結合の阻害が、N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミン又は候補アゴニストを、バクテリオファージ粒子上で発現されたIGF−1とプレインキュベーションし、プレートベースのエライザアッセイにおいてIGFBP−1又はIGFBP−3へのIGF−1の残留結合性を測定することにより測定される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
IGF−1とN,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)−デオキシコールアミンの共結晶複合体。
【請求項36】
IGF−1の3次元構造を決定する方法において、
(a)IGF−1を結晶化させ;
(b)結晶化IGF−1に照射して、結晶化IGF−1の回折パターン特性を取得し;
(c)回折パターンをIGF−1の3次元構造へ変換する:
ことを含んでなる方法。
【請求項37】
適当な機械により読み取られると、IGF−1を含む分子の結晶の3次元表示を示す機械読み取り可能データでコード化されるデータ保存材料を含んでなる、機械読み取り可能なデータ保存媒体。
【請求項38】
別表1に示された構造座標を持つIGF−1結晶。
【請求項39】
IGF−1結晶から誘導されるIGF−1の3次元構造を使用する方法であって、該IGF−1の3次元構造がIGF−1レセプター結合領域を含み、該方法がIGF−1の3次元構造のレセプター結合領域と相互作用し、IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストとして機能する構造を持つ化合物を同定することを含む方法。
【請求項40】
IGF−1の3次元構造が別表1に示された構造情報のものと実質的に同一のα−炭素座標を含む請求項39に記載の方法。
【請求項41】
IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法において、
(a)IGF−1を結晶化してIGF−1結晶を形成し、該IGF−1結晶がIGF−1レセプター結合領域を定める一群のアミノ酸残基を含み;
(b)段階(a)からのIGF−1結晶に照射して、IGF−1結晶の回折パターンを取得し;
(c)回折パターンからIGF−1の3次元構造を決定し、該構造がIGF−1レセプター結合領域を含み;
(d)IGF−1レセプター結合領域の3次元構造を表す本質的なIGF−1レセプター結合、溶媒アクセス可能残基を機能的に再現する3次元構造を持つIGF−1アゴニスト又はアンタゴニストを同定し、前記IGF−1アゴニスト又はアンタゴニストがIGF−1と比較して、IGF−1応答細胞に対する変更されたシグナル伝達能力を有する;
段階を含んでなる方法。
【請求項42】
溶媒アクセス可能残基がIGF−1接合点の形成に関与しない請求項41に記載の方法。
【請求項43】
IGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する方法において、
(a)IGF−1の3次元構造を決定し;
(b)IGF−1の3次元表面構造を模倣する化合物を設計する;
段階を含んでなる方法。
【請求項44】
IGF−1と結合し、IGFBP又はIGF−1と結合するレセプターの結合をブロックするペプチドミメティックを同定する方法であって:
(a)別表1に与えられた構造パラメーター又は構造座標を持つ分子構造データベースを検索し;
(b)該データベースからIGF−1の構造パラメータ又は構造座標を模倣する分子を選択する;
段階を含んでなる方法。
【請求項45】
分子複合体の3次元構造の少なくとも一部を決定する方法であって、前記複合体がIGF−1を含み、前記方法が:
(a)IGF−1の結晶の構造座標を決定し;
(b)構造座標から位相を計算し;
(c)段階(b)において得られた位相から電子密度地図を計算し;
(d)前記電子密度地図に基づいて複合体の少なくとも一部の構造を決定する;
段階を含んでなる方法。
【請求項46】
段階(a)で用いられる構造座標が、別表1に記述されたものと実質的に同一であるか、別表1の座標と実質的に同じ結晶を記述する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
IGF−1又はそれらの複合体と会合する化学物質の能力を評価する方法であって、該方法が:
(a)化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の適合操作を実施するためにコンピュータ又は実験による手段を用い、それにより該会合に関連したデータを取得し;
(b)段階(a)で得られたデータを解析して、化学物質とIGF−1又はそれらの複合体間の会合の特性を決定する;
段階を含んでなる方法。
【請求項48】
化学物質がIGF−1及びそのレセプター間、又はIGF−1及びその結合タンパク質の少なくとも1つとの間のインビボ又はインビトロでの会合を妨害し、又はIGF−1上の結合部位と会合する、請求項47に記載の方法により同定される化学物質。
【請求項49】
IGF−1の結晶化形態の重原子誘導体。
【請求項50】
IGF−1の結合部位との会合に関する情報を得るために別表1に記載された構造座標を持つIGF−1結晶を用いてコンピュータ又は実験により化学物質を評価する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【公開番号】特開2009−215299(P2009−215299A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−92074(P2009−92074)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2002−564956(P2002−564956)の分割
【原出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92074(P2009−92074)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2002−564956(P2002−564956)の分割
【原出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
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