III族窒化物半導体素子、多波長発光III族窒化物半導体層及び多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法
【課題】白色LED等の半導体素子を簡単な構造をもって簡便に提供する。
【解決手段】基体と、前記基体上に形成され、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層と、を備え、前記III族窒化物半導体層は、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【解決手段】基体と、前記基体上に形成され、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層と、を備え、前記III族窒化物半導体層は、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体素子、多波長発光III族窒化物半導体層及び多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法に関し、より詳しくは、III族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子を構成し数的に単一な層でありながら波長が相違する複数の可視光(多波長光)を出射可能なガリウム(Ga)を含む多波長発光III族窒化物半導体層及び多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1−XN:0<X≦1)等のIII族窒化物半導体層は、可視光を出射する発光層等を構成するために利用されている(例えば、特許文献1参照)。窒化ガリウム・インジウムからは、リン化ガリウム(GaP)、砒化リン化ガリウム(GaAsP)、リン化アルミニウム・インジウム(AlInP)等の化合物半導体材料では得られない赤色から青色までの発光が得られるとされる(特許文献1参照)。例えば、亜鉛(元素記号:Zn)を添加(ドーピング)したGa0.4In0.6N層は赤色発光用の材料として有用であることが示されている(特許文献1参照)。
【0003】
窒化ガリウム・インジウムにあっては、亜鉛等の不純物は、禁止帯幅(band gap)に相当する光子エネルギーとは別のエネルギーの光吸収を発生させると報告されている(特許文献1参照)。この様な光吸収を生ずる不純物としては、亜鉛の他に、カドミウム(元素記号:Cd)、マグネシウム(元素記号:Mg)、ベリリウム(元素記号:Be)、ゲルマニウム(元素記号:Ge)、銅(元素記号:Cu)が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の不純物を添加した窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム(AlGaInN)層から発光層を構成する技術も知れている。例えば、n型とp型の不純物(ドーパント)とを共に添加して形成した窒化ガリウム・インジウム層を発光層として、LEDを構成する技術が挙げられる(特許文献2〜4参照)。n型不純物としては、珪素(元素記号:Si)、ゲルマニウム(元素記号:Ge)、テルル(元素記号:Te)、セレン(元素記号:Se)が例示されている(特許文献3の段落(0008)参照)。加えて、特許文献4には、硫黄(元素記号:S)がn型不純物として記載されている(特許文献4の段落(0022)参照)。また、p型不純物としては、亜鉛、マグネシウム、カドミウム、ベリリウム、カルシウム(元素記号:Ca)が例示されている(特許文献3の段落(0008)参照)。加えて、特許文献4には、水銀(元素記号:Hg)がp型不純物として記載されている(特許文献4の段落(0022)参照)。
【0005】
n型とp型の双方の不純物を添加した、具体的には、珪素と亜鉛とを添加した窒化ガリウム・インジウム層を発光層として、青色光を出射する単色の発光ダイオード(英略称:LED)を構成する技術例が知れている(特許文献2〜4参照)。n型とp型不純物の双方を添加した窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム層を発光層とする従来のLEDから出射される発光は、発光ピーク(peak)波長を490ナノメートル(単位:nm)とする青色の単色光である(特許文献2〜4参照)。
【0006】
また、青色光を発するLEDを利用して、白色光を発するLEDを構成する技術も公知となっている。例えば、窒化ガリウム・インジウム層からなる発光層から出射される青色光により蛍光体を励起させ、白色の励起光を出射するLEDを構成する技術である(特許文献5〜8参照)。この蛍光型白色LEDを構成するための蛍光体としては、青色光又は紫外光により励起され、白色蛍光を発する例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al5O12)等が用いられている(特許文献9〜11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭55−3834号公報
【特許文献2】特許第2560964号公報
【特許文献3】特許第2576819号公報
【特許文献4】特許第3500762号公報
【特許文献5】特開平07−099345号公報
【特許文献6】特許第2900928号公報
【特許文献7】特許第3724490号公報
【特許文献8】特許第3724498号公報
【特許文献9】特許第2927279号公報
【特許文献10】特許第3503139号公報
【特許文献11】特許第3700502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した窒化ガリウム・インジウムを発光層として利用する蛍光型白色LEDに付随する第一の問題点は、そもそも、青色光等により励起され、波長が相違する蛍光を発する蛍光体を必要とし、LEDの生産工程は冗長となり、また煩雑となることである。また、第二の問題点は、蛍光体を励起して色調の一定した白色光を安定して得るには、窒化ガリウム・インジウム層等からなる発光層からの発光の波長の差異に応じて、蛍光体として用いる希土類(rare−earth)元素を添加したY3Al5O12等の組成を、微妙に且つ精緻に変化させる必要があり、演色性の一定した白色系LEDを得るのが煩瑣となることである。
【0009】
窒化ガリウム・インジウム層を発光層とする従来構造の白色LEDについての技術上の問題点は、例えば、窒化ガリウム・インジウム発光層から出射される青色光と、その青色光により励起され、青色と補色の関係にある黄色の蛍光を発する蛍光体との組み合わせからなる白色LED(「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」(2006年3月31日、森北出版(株)発行、第1版第1刷)、174頁参照)の場合に端的に現れる。
【0010】
このような、謂わば補色光型の白色LEDには、セリウム(元素記号:Ce)を添加したYAG蛍光体が用いられている(「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、184〜185頁参照)。しかしながら、同様の色調の白色LEDを得るために、この励起光として利用する青色光の波長の差異に応じて、その都度、イットリウム(元素記号:Y)、アルミニウム(元素記号:Al)、ガドリニウム(元素記号:Gd)又はガリウム(元素記号:Ga)の組成を微妙に変化させたYAG蛍光体を用いて作製されているのが現状である。
【0011】
また、補色型白色LEDにあっては、白色光を得るために混色させるのは、主に、補色の関係にある2色の発光である。このため、補色の関係にある2色の発光の強度の比率に依存して、帰結される白色光の色調が微妙に変化してしまう問題も生じている。従って、補色型白色LEDにあっては、いずれにしても混光により、一定した演色性をもたらす白色LEDを安定して得るには技術上の困難さを伴うものとなっている。
【0012】
従来の蛍光型或いは補色型の白色LEDには、青色光などの励起光よりも長波長側に主たる蛍光を発生させる蛍光体が用いられている(「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、176〜179頁参照)。即ち、励起光とそれよりも長波長の蛍光とを混光させて白色LEDをなしている。
【0013】
例えば、数的に単一な窒化ガリウム・インジウム単層でありながら、波長が相違する複数の発光を生じさせることが出来れば、上記の蛍光型或いは補色型とは別の型の白色LEDに付随する従来の問題も解決を図れる。例えば、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の各色光を出射できる窒化ガリウム・インジウム層を発光層とすれば、RGB混光型白色LEDを構成するのに利便となる。即ち、単一な窒化ガリウム・インジウム単層を用いれば、赤色(R)、緑色(G)又は青色(B)を各々出射できる発光層をそれぞれ個別に設ける必要がない。また、複数の発光層を設ける必要もなく、さらに、発光を閉じ込めるためのクラッド(clad)層を各発光層について各々設ける必要も無くなり、混光による白色LEDを簡便に得る目的を達成できる。
【0014】
しかしながら、現状では、数的に単一な層(単層)でありながら、波長が相違する複数の発光をもたらすガリウムを含むIII族窒化物半導体単層、例えば、窒化ガリウム・インジウム単層を構成するための要件は明確となっていない。
本発明は、本発明の一つの産業上の利用分野であるIII族窒化物半導体白色LEDに係る上記の従来技術の問題点を回避すべくなされたものである。即ち、本発明は、波長が相違する複数の発光をもたらすためにガリウムを含むIII族窒化物半導体単層が備えるべき構成要件を明確にすると共に、(i)数的に単一な層、即ち、単層でありながら発光波長が相違する複数の発光を出射可能な、ガリウムを必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層、(ii)そのIII族窒化物半導体単層を、一つ又は二つ以上備えた半導体素子、(iii)そのIII族窒化物半導体単層の形成方法を提示するものである。これをもって、本発明の一つの産業上の利用分野に属する白色LED等の半導体素子を簡単な構造をもって簡便に提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、数的に単一な層でありながら、波長が相違する複数の発光を生じさせる多波長発光III族窒化物半導体単層を採用することにより、白色LEDに付随する従来の問題の解決を図るものである。
以下、[1]〜[35]に係る発明が提供される。
[1]基体と、前記基体上に形成され、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層と、を備え、前記III族窒化物半導体層は、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
[2]前記III族窒化物半導体層は、複数の前記多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とする前項1に記載のIII族窒化物半導体素子。
[3]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする前項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
[4]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長500nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする前項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
[5]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上550nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする前項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
[6]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、珪素を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、マグネシウムを原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項1乃至5のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体素子。
[7]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ水素の原子濃度より高いことを特徴とする前項6に記載のIII族窒化物半導体素子。
[8]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、水素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
[9]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
[10]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、炭素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項9に記載のIII族窒化物半導体素子。
[11]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
[12]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、酸素を原子濃度が1×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項11に記載のIII族窒化物半導体素子。
[13]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【0016】
[14]基体上に形成された多波長発光III族窒化物半導体層であって、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含み、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、放射再結合による発光スペクトルが、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層。
[15]前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上750nm以下の帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする前項14に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[16]前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が500nm以上750nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする前項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[17]前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上550nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする前項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[18]前記ドナー不純物として珪素(元素記号:Si)を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、前記アクセプター不純物としてマグネシウム(元素記号:Mg)を原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項14乃至17のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[19]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ水素(元素記号:H)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[20]前記水素の原子濃度が、2×1018cm−3以下であることを特徴とする前項19に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[21]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[22]前記炭素の原子濃度が2×1018cm−3以下であることを特徴とする前項21に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[23]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[24]前記酸素の原子濃度が1×1018cm−3以下であることを特徴とする前項23に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[25]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【0017】
[26]前項14乃至25のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法であって、分子線エピタキシャル(MBE)法において、圧力5×10−3パスカル(圧力単位:Pa)以下の環境内に窒素プラズマ雰囲気を形成し、前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上750℃以下の範囲に保ち、前記窒素プラズマ雰囲気内の前記基体上に、表面が(2×2)再配列構造、または(3×1)再配列構造となるようなフラックス量でガリウムを含む第III族元素源を供給しつつ、ドナー不純物及びアクセプター不純物を同時に供給することを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[27]前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上620℃以下とし、且つ前記ドナー不純物としての珪素と前記アクセプター不純物としてのマグネシウムとを、当該珪素に対する当該マグネシウムのフラックス比率を0.1以下として当該窒素プラズマ雰囲気内に同時に供給し、当該ドナー不純物としての当該珪素を6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の原子濃度の範囲で含み、且つ当該アクセプター不純物としての当該マグネシウムを5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の原子濃度の範囲で含むことを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[28]前記窒素プラズマ雰囲気は、窒素ガス(分子式:N2)の供給量が0.1cc/分以上4.8cc/分以下の条件で発生させ、且つ前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[29]前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる炭素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[30]前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる酸素の原子濃度を1×1018cm−3以下とすることを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[31]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度が、波長745nmにおける原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下であることを特徴とする前項26乃至30のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[32]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークを生じないことを特徴とする前項31項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[33]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長745nm、821nm及び869nmにおける原子状窒素に因るそれぞれの発光ピークの中で、波長745nmにおける発光ピークの強度が最高であることを特徴とする前項31又は32項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[34]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長869nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークが、波長745nmにおける当該原子状窒素に因る前記発光ピークに次いで高い強度を呈することを特徴とする前項33項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[35]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長821nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークの強度が最も低いことを特徴とする前項33項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【発明の効果】
【0018】
前項[1]に係る発明に依れば、数的に単一ながら、波長が異なる(=発光色が相違する)3個以上の光を出射可能な多波長発光III族窒化物半導体層を、例えば、発光層として用いる構成により、簡易な構造で、且つ演色性の高い白色LEDを提供できる。例えば、蛍光体を使用しない簡易な構造の白色LEDが得られる。また、例えば、RGBの各色毎に、個別に発光層を設ける必要もなく白色LEDが得られる。
【0019】
前項[2]に係る発明に依れば、数的に単一ながらバンド端発光とは別に、波長が相違する発光を放射する多波長発光III族窒化物半導体単層を複数用い、例えば、これらを発光層として配備することにより、発光強度に優れる白色LEDを提供できる。
【0020】
前項[3]に係る発明に依れば、例えば、波長が400nm以上750nm以下の範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射可能な多波長発光III族窒化物半導体層を発光層として用いることにより、混光により演色性に優れる白色LEDを簡便に提供できる。
【0021】
前項[4]に係る発明に依れば、例えば発光層を、数的に単一、且つ波長500nm以上750nm以下の範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射可能な多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、混光により演色性に優れる白色LEDを簡便に提供できる。また、この様な単層を複数用いて、例えば、多重量子井戸構造をなす複数の井戸層として用いれば、多波長発光III族窒化物半導体単層の各層からの多波長発光を重畳させてなる発光強度の高い白色LEDを提供できる。
【0022】
前項[5]に係る発明に依れば、例えば発光層を、波長400nm以上550nm以下の範囲で波長が相違する多波長光を同時に出射可能な多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、緑色、赤色又は青色、緑色を帯びた淡い色合(pastel)のパステル色調の白色系光を発するIII族窒化物半導体LEDを提供できる。
【0023】
前項[6]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で珪素がドナー不純物として含まれ、且つ、珪素より低濃度で原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲でマグネシウムがアクセプター不純物として含まれ、電気抵抗が小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、発光波長が相違する合計3つ以上の発光を同時に出射し、順方向電圧の低い白色LEDを提供できる。
【0024】
前項[7]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ水素の原子濃度より高く含み、電気抵抗が小さく、波長が相違する多波長発光を出射可能な多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを安定して提供できる。
【0025】
前項[8]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とし、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0026】
前項[9]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ炭素の原子濃度より高く含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0027】
前項[10]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、炭素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0028】
前項[11]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ酸素の原子濃度より高く含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0029】
前項[12]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、酸素を原子濃度が1×1018cm−3以下の範囲で含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0030】
前項[13]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高く含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0031】
前項[14]に係る発明に依れば、数的に単一な単層であっても、混光により白色光を出射可能な発光層としての多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0032】
前項[15]に係る発明に依れば、400nm以上750nm以下の波長の範囲で、混光により、演色性に優れる白色光を出射可能な発光層としての多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0033】
前項[16]に係る発明に依れば、500nm以上750nm以下の波長の範囲で、緑色、赤色又は青色、緑色を帯びた白色系光を出射するのに好都合な多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0034】
前項[17]に係る発明に依れば、400nm以上550nm以下の波長の範囲で、緑色、赤色又は青色、緑色を帯びた白色系光を出射するのに好都合な多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0035】
前項[18]に係る発明に依れば、原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で珪素をドナー不純物として含み、且つ、珪素より低濃度で原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲でマグネシウムをアクセプター不純物として含むことにより、バンド端発光とは別に、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0036】
前項[19]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ水素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0037】
前項[20]に係る発明に依れば、水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることにより、電気抵抗が小さく白色光発光層として好ましく利用できる多波長発光III族窒化物半導体層を安定して提供できる。
【0038】
前項[21]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ炭素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0039】
前項[22]に係る発明に依れば、炭素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることにより、電気抵抗が小さく白色光発光層として好ましく利用できる多波長発光III族窒化物半導体層を安定して提供できる。
【0040】
前項[23]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ酸素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0041】
前項[24]に係る発明に依れば、酸素の原子濃度を1×1018cm−3以下とすることにより、電気抵抗が小さく白色光発光層として好ましく利用できる多波長発光III族窒化物半導体層を安定して提供できる。
【0042】
前項[25]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ硼素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0043】
前項[26]〜[35]に係る発明に依れば、分子線エピタキシャル(MBE)法において窒素プラズマを窒素源とし、プラズマ発光ピークの強度比率が好適な条件を採用することにより、例えば、モリブデンやクロム等の遷移金属元素の不純物量が減少し、白色LED等に好適な多波長発光III族窒化物半導体層を安定して形成するのに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】多波長発光III族窒化物半導体単層のフォトルミネッセンス(PL)スペルクトル例である。
【図2】(2×2)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。
【図3】(3×3)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。
【図4】ガリウムを窒素より化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。
【図5】窒素をガリウムより化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。
【図6】本発明の実施に適する窒素プラズマの発光スペクトルである。
【図7】実施例1に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
【図8】実施例1に記載の多波長発光層内の元素の原子濃度のSIMS分析結果を示す図である。
【図9】実施例2に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
【図10】実施例3に係るMQW構造の発光層の断面構造を示す透過電子顕微鏡(TEM)像である。
【図11】図10に示すMQW構造から得られる室温カソードルミネッセンス(CL)スペクトルである。
【図12】比較例1記載の多波長発光を生じない単層内の元素の原子濃度のSIMS分析の結果を示す図である。
【図13】比較例1記載の多波長発光を生じない単層の室温PLスペクトルを示す図である。
【図14】実施例4に記載の多波長発光III族窒化物半導体単層を備えたLEDの発光パターンを示す図である。
【図15】実施例5に記載のLEDの断面構造を示す模式図である。
【図16】図15に示すLEDの平面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するための一例であり、実際の大きさを表すものではない。
【0046】
<多波長発光III族窒化物半導体層>
図1は、多波長発光III族窒化物半導体層のフォトルミネッセンス(PL)スペルクトル例である。
本実施の形態が適用される多波長発光III族窒化物半導体層は、数的に単一でありながら、相違する波長の多波長光を同時に放射可能であり、半導体材料基板又は金属材料基板等の基体上に設けられる。基板には、ガラス基板、極性又は無極性の結晶面を表面とするサファイア(α−Al2O3単結晶)や酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物結晶基板、6H又は4H又は3C型炭化珪素(SiC)、シリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)等の半導体結晶からなる基板を例示できる。基体には、バルク(bulk)結晶基板に限定されず、例えば、GaN等のIII族窒化物半導体やリン化硼素(BP)等のIII―V族化合物半導体からなるエピタキシャル(epitaxial)成長層を用いることができる。
【0047】
上記の材料からなる基板又はエピタキシャル成長層は、数的に単一の層(単層)でありがら波長が相違する複数の波長の発光を同時に出射するIII族窒化物半導体層(多波長発光III族窒化物半導体単層)を井戸層として量子井戸構造の発光層を形成する場合に利用できる。演色性の高い白色LEDを得るときは、広い波長の範囲で多くの発光(多波長光)を放射する、複数の多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層として発光層を形成する。所謂、複数の井戸層を備えた多重量子井戸構造(英略称:MQW)とすると、各多波長発光III族窒化物半導体単層からの発光を混光できて白色LED等を得るに好都合である。
【0048】
本実施の形態では、多波長発光III族窒化物半導体単層を、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物とが共に添加されたIII族窒化物半導体材料から構成する。特に、ガリウムを必須の構成元素として含む、窒素等の第V族元素よりも、ガリウム等の第III族元素を化学量論的に富裕に含み、バンド端発光とは別に、バンド(band)端発光より長い波長の領域で、波長が相違する3以上の光を同時に放射できるIII族窒化物半導体材料から構成する。
【0049】
多波長発光III族窒化物半導体単層には、400nm以上で750nm以下の波長の範囲で、波長が相違する3つ以上の多波長光を同時に出射できる機能層を用いる。また、500nm以上で750nm以下の波長範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射でき、且つ、400nm以上で750nm以下の範囲で、波長が相違する3つ以上の多波長光を同時に出射できる機能層を用いる。波長を500nm〜750nmとする青緑色〜赤色の複数の発光を成分として混光することにより、演色性に優れる白色系LEDを得ることができるからである。
【0050】
500nm以上で750nm以下の波長範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射するに更に加えて、400nm以上で550nm以下の波長範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射でき、尚且つ400nm以上で750nm以下の範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射できる機能層を用いる。波長を500nm〜750nmとする青緑色から赤色の複数の発光に、波長を400nm〜550nmとする青紫色から緑色の複数の発光を混光すれば、より演色性に優れる白色系LEDを得ることができるからである。多波長発光を構成する各発光の波長は、伝導帯に励起された電子と価電子帯の正孔が再結合する際に発せられるスペクトル、所謂、放射再結合による発光スペクトルを観測することに依り測定できる。具体的な測定方法としては、フォトルミネッセンス(英略称:PL)法やカソードルミネッセンス(英略称:CL)法等が挙げられる。
【0051】
400nm以上で750nm以下の波長の範囲で、波長が相違する3つ以上の多波長光を同時に出射する機能を発現できる多波長発光III族窒化物半導体単層は、ドナー不純物として珪素(Si)を含み、アクセプター不純物としてマグネシウム(Mg)を含むIII族窒化物半導体材料から構成する。例えば、インジウム組成を相違する複数の相(phase)からなる多相構造の窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1―XN:0<X≦1)等のガリウム(Ga)を構成元素として含むIII族窒化物半導体材料から構成できる。また、相分離(phase separation)を然して生じないインジウム(In)組成(=1−X)のGaXIn1―XN(0.90<X≦1或いは0≦X≦0.1)からも構成できる。ガリウム(Ga)組成(=X)又はインジウム(In)組成(1−X)の大きな、端的にはGaN又は窒化インジウム(InN)の様なそもそも相分離の無い層では、相分離に起因するGaXIn1―XN層内でのインジウム濃度の不均一性に因り、珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)が層内で不均一に分布するのを避けることができる。これにより、珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)が形成する準位間の光学的遷移に基づく多波長発光をなす各発光の波長を均一とするのに優位となる。
【0052】
多波長発光III族窒化物半導体単層内の珪素(Si)の原子濃度を6×1017cm−3以上で5×1019cm−3以下とし、且つ、マグネシウム(Mg)の原子濃度を5×1016cm−3以上で3×1018cm−3以下の範囲とすることにより、多波長の発光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を効率的に形成できる。多波長発光III族窒化物半導体単層内の珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)の原子濃度は、例えば2次イオン質量分析法(英略称:SIMS)法等で定量することができる。
【0053】
珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を含む多波長発光III族窒化物半導体単層は、例えば、有機金属気相堆積(MOCVD又はMOVPE等と略称される)法、分子線エピタキシャル(MBE)法、ハイドライド(hydride)法、ハライド(halide)法等の気相成長法により形成できる。これらの成長手段にあって、多波長発光III族窒化物半導体単層内の珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)の原子濃度は、同層へのSi及びMgのドーピング(doping)量を調節することをもって調整する。MOCVD法等では、シラン(分子式;SiH4)やメチルシラン(分子式:CH3SiH3)等のシラン類を珪素(Si)のドーピング源として使用できる。また、MOCVD法では、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(略記号:Cp2Mg)等の有機マグネシウム化合物をマグネシウム(Mg)のドーピング源として利用できる。
【0054】
特に、MBE法は、井戸層をなす多波長発光III族窒化物半導体単層を上記の他の気相成長法と比較して、より低温で形成できる利点がある。このため、例えば、井戸層をなす多波長発光III族窒化物半導体単層に添加(ドーピング)したマグネシウム(Mg)の、井戸層に接合してMQW構造をなす障壁層への熱的拡散を抑制するのに優位な成長手段となる。例えば、相分離を然して生じないn型Ga0.94In0.06N井戸層とn型GaN障壁層とからなるMQW構造にあって、アクセプター不純物であるマグネシウム(Mg)の障壁層への拡散、侵入を抑制することができ、障壁層が高抵抗となるのを、または伝導形がp型に変換されるのを回避するのに効果をあげられる。これにより、井戸層と障壁層との間でのpn接合の形成を回避できる。従って、井戸層と同一の伝導形を呈する障壁層とからMQW構造を構成できるため、電気的導通性に優れるMQW構造の発光層を構成できる。
【0055】
珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)をドーピングして多波長発光III族窒化物半導体を形成するに際し、上記のマグネシウム(Mg)のドーピング量を多量とする程、即ち、層内のマグネシウム(Mg)の原子濃度を高める程、或る波長領域に生ずる波長が相違する発光の数を増加させることができる。例えば、珪素(Si)の原子濃度が4×1018cm−3である場合に於いて、マグネシウム(Mg)の原子濃度が5×1016cm−3未満の2×1016cm−3であるGaN層の場合、GaNのバンド端発光は生ずるものの、波長400nm〜700nmの領域に発光は生じない。一方、同様の珪素(Si)の原子濃度を有し、且つ、原子濃度が8×1017cm−3となる様に、マグネシウム(Mg)をドーピングすると、波長400nm〜700nmの領域に合計4つの波長が相違する多波長光を同時に出射するGaN単層を形成できる。
【0056】
また、マグネシウム(Mg)のドーピング量をより多量とする程、即ち、層内のマグネシウム(Mg)の原子濃度をより高める程、より長波長の帯域に多波長光を発生させることができる。例えば、珪素(Si)の原子濃度を1〜4×1019cm−3とし、マグネシウム(Mg)の原子濃度を4×1016cm−3とするGaXIn1−XNの場合には、波長を450nmとする単一の発光のみ観測される。これに対し、インジウム組成を同一としながらも、マグネシウム(Mg)が原子濃度にして3×1018cm−3とより多く含まれるときは、多波長発光の発光が顕現され、その中での最長の波長は580nmに到達する(図1参照)。
【0057】
異なる多波長発光III族窒化物半導体単層からMQW構造の発光部を構成する場合には、より短い波長の領域で多波長光を同時に出射できる多波長発光III族窒化物半導体単層である程、発光の取り出し方向のより上方に配置させる。より下方にある多波長発光III族窒化物半導体単層からなる井戸層から出射される発光の吸収を避け、LEDの外部へ多波長光を効率的に取り出すためである。例えば、波長600nm〜700nm近傍の領域に多波長光を発する多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする単一或いは第1の多重井戸構造上の、発光の外部への取り出し方向に向かう上方には、波長400nm〜550nmの領域で多波長光を発する多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする単一或いは第2多重量子井戸構造を設けて、これにより全体としてMQW構造の発光部を構成する。
【0058】
上記の様に多波長の発光を生ずる異なる多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする第1及び第2の量子構造にあって、第1及び第2の量子井戸構造をなす障壁層の構成材料は、必ずしも同一とする必要はない。第1及び第2の量子井戸構造の障壁層は、多波長発光III族窒化物半導体単層からなる井戸層の禁止帯幅に対応して選択されたIII族窒化物半導体単層から構成できる。例えば、上記の第1の量子井戸構造については、窒化アルミニウム・ガリウム(組成式AlXGa1−XN:0≦X≦1)から障壁層を構成し、第2の量子井戸構造をAlYGa1−YN:0≦Y≦1、但し、Y≧X)を構成できる。
【0059】
本実施の形態では、多波長発光を同時に発光できる多波長発光III族窒化物半導体単層を、第V族元素に対して、元素周期律表の第III族元素を化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層から構成する。第III族元素を第V族元素に対して化学量論的に富裕に含むとは、例えば、窒化アルミニウム(AlN)又は窒化ガリウム(GaN)又は窒化インジウム(InN)等の2元系(2元素)III族窒化物半導体層にあって、ガリウム(Ga)又はインジウム(In)又はアルミニウム(Al)が窒素よりも化学量論的に富裕に含まれていることを云う。例えば、窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム(組成式AlXGaYInZN:0<X,Y,Z<1、X+Y+Z=1)等の多元系(多元素)III族窒化物半導体層にあっては、第III族元素であるアルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)及びインジウム(In)の合計の原子の濃度が、窒素原子の濃度を上回っていることを指す。
【0060】
また、砒化窒化ガリウム(組成式GaAs1−αNα:0<α<1))やリン化窒化アルミニウム(組成式AlP1−βNβ:0<β<1))等の窒素以外の第V族元素(この例では、砒素(元素記号:As)及びリン(元素記号:P))を含むIII族窒化物半導体層では、第III族元素であるガリウム(Ga)又はアルミニウム(Al)の原子濃度が、窒素(N)及び窒素以外の第V族元素の合計の原子濃度よりも高いことを云う。第III族元素と第V族元素の原子濃度の総量の比率が1:1であれば、それは第III族元素富裕でもなく、また第V族元素富裕でもなく、化学量論的組成である。
【0061】
化学量論的な組成のズレは、例えば、高速反射電子回折(英略称:RHEED)等の電子線回折技法等でIII族窒化物半導体層の表面の再配列構造を調査すれば判定できる。例えば、固体ソースMBE法やガスソースMBE法等の真空中でIII族窒化物多波長発光層を基体上に堆積する成長手段では、RHEED法を有効に利用することができる。このため、基体上の堆積層が多波長を同時に発光するのに必要なガリウム等の元素周期律表の第III族元素を窒素等の第V族元素よりも化学量論的に富裕とするIII族窒化物半導体層であることをその成長場に於いて、リアルタイム(real−time)で確認できる。
【0062】
RHEED法に依り得られるIII族窒化物半導体層の表面からの回折パターン(RHEEDパターン)に、堆積中に常時、第III族元素を第V族元素よりも化学量論的に富裕に含む再配列構造に起因する輝線(streak line)を継続して生じつつ、堆積して出来上がるIII族窒化物半導体層は、層全体としても、第III族元素を第V族元素よりも化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層であると見做す。
【0063】
アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)若しくはインジウム(In)等の元素周期律表の第III族元素を窒素等の第V族元素に対して化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層、例えば、ガリウム(Ga)を窒素より富裕に含むGaNであれば、RHEEDパターン上には、例えば(2×2)等の再配列を示す回折パターンが現れる。
図2は、(2×2)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。図2には、ガリウム(Ga)を窒素(N)よりも化学量論的に富裕に含む窒化ガリウム(GaN)層からの(2×2)RHEEDパターンが例示されている。
図3は、(3×3)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。図3には、図2とは逆に、窒素(N)をガリウム(Ga)よりも化学量論的に富裕に含む窒化ガリウム(GaN)層からのRHEEDパターンが例示されている。ここには、窒素(N)がガリウム(Ga)よりも富裕に含まれるときに生ずる(3×3)再配列構造が示されている。
【0064】
また、アルミニウム(Al)を窒素(N)よりも富裕に含む窒化アルミニウム(AlN)からは、(2×2)構造の他に(√3×√3)R30°または(2√3×2√3)R30°等のRHEEDパターンが得られる。また、第III族元素であるガリウム(Ga)とインジウム(In)とを窒素より化学量論的に富裕に含む窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1−XN)の場合、インジウム(In)組成比(=1−X)が小さいときは、(2×2)再配列構造が出現し、インジウム(In)組成比が大きいときは、(3×1)再配列構造が出現する。
【0065】
III族窒化物半導体層が第III族元素を化学量論的に富裕に含んで成るか否かは、RHEED法に加えて、湿式エッチング法に依っても調査できる。III族窒化物半導体層を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液に浸した場合に於ける、III族窒化物半導体層の侵食のされ方の差異から判断できる(MRS Internet J.Nitride Semicond.Res.,9(2004, The Materials Research Society, USA),p.p.1−34.)。
例えば、水酸化カリウムを20重量%の濃度で含む水溶液に60℃で2分間、継続して窒化ガリウム(GaN)層を浸漬した場合のIII族窒化物半導体層の表面の走査電子顕微鏡写真を図4及び図5に例示する。
図4は、ガリウムを窒素より化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。また、図5は、窒素をガリウムより化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。
図4に示すように、第III族元素であるガリウムを窒素よりも化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層は、上記のアルカリ性水溶液に浸漬しても侵食され難い(図4参照)。一方、図5に示すように、窒素(N)をガリウム(Ga)より富裕に含むIII族窒化物半導体層では、同層の深部まで侵食され、粒状の窒化ガリウム(GaN)が散在した粗雑なものとなる(図5参照)。
【0066】
第III族元素を第V族元素と比較して化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層からは、化学量論的組成或いは第V族元素を富裕に含むIII族窒化物半導体層よりも高い強度の発光を呈する多波長発光III族窒化物半導体単層を構成できる。例えば、珪素(Si)単体金属を珪素(Si)のドーピング源とし、マグネシウム(Mg)単体金属をマグネシウム(Mg)ドーピング源として、固体ソースMBE法により成膜した、ガリウム(Ga)を化学量論的に富裕に含み、表面を(2×2)再配列構造とするSi及びMgドープ多波長発光GaN層からの最大のPL強度を仮に、1とする。これに対し、固体ソースMBE法で成長させた、表面を(3×3)再配列構造とし、窒素(N)を化学量論的に富裕に含むSi及びMgドープGaN層のPL強度は相対的に0.08と極めて微弱なものである。
【0067】
多波長光を同時に発光する機能は、換言すれば、波長が相違する複数の光を吸収する機能である。従って、本発明に係る多波長発光III族窒化物半導体単層は単一の波長の光のみでなく、波長が相違する複数の光を効率的に吸収する光電変換のための光吸収層、例えば太陽電池の受光層を構成するのにも優位となる。特に、遷移金属元素の含有量の少ない多波長発光III族窒化物半導体単層は、ディープレベル(deep level)の電子又は正孔の捕獲に因る励起電流の経時的変化を抑制できるため利便に用いることができる。
【0068】
本実施の形態では、波長が相違する3以上の光を出射できる多波長III族窒化物半導体単層を安定して形成するために、特別な構成の窒素プラズマを利用する。特別な構成の窒素プラズマとは、窒素分子の第二正帯(second positive molecular series)に由来する発光を殆ど生じない(発生しない場合を含む。)窒素プラズマである。高純度の窒素ガスに高周波を印加して生成した窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマは、本発明に係る窒素プラズマとして最適である。
【0069】
窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマを発生させるには、体積濃度にして、酸素ガス(分子式O2)濃度を0.1ppm未満とし、一酸化炭素(分子式:CO)及び二酸化炭素(分子式:CO2)の濃度をそれぞれ、0.1ppm未満とし、炭化水素ガス類の濃度を0.05ppm未満とし、水分(分子式:H2O)の濃度を0.55ppm未満とする、露点をマイナス(−)80℃を越えて低くする、例えば(−)85℃とする純度99.99995%以上の高純度窒素ガスが適する。
【0070】
窒素プラズマ内での窒素分子の第二正帯に由来する発光の有無は、窒素プラズマからの発光スペクトルから知ることができる。窒素プラズマの発光スペクトルは、一般的な分光器を使用して測定できる。窒素分子の第二正帯に由来する発光は、250nm以上で370nm以下の波長の範囲に生ずる。
図6は、本実施の形態に適する窒素プラズマの発光スペクトルである。
図6には、回折格子型の分光器を用いて測定した、多波長発光III族窒化物半導体単層を高周波プラズマMBE法で堆積するのに適する窒素プラズマからの発光スペクトルが示されている。ここで、本実施の形態に好適な窒素プラズマとは、図6に示す如く、300nm〜370nmの範囲に窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマである。上記の高純度窒素ガスを使用すれば、窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマを簡便に発生させることができる。
【0071】
図6に例示した発光スペクトルは、流量を毎分0.4ccに設定した高純度窒素ガスに、周波数13.56メガヘルツ(単位:MHz)の高周波を400ワット(単位:W)の電力で入力して発生させた際のものである。本発明に係る多波長発光III族窒化物半導体層を形成するための高周波の周波数を13.56MHzとする場合には、入力する電力は、200W以上で600W以下とするのが適する。更に、250W以上で450W以下の範囲とするのがより適する。600Wを超える電力を入力すると、窒素分子の第二正帯に由来する発光の強度が高まるため不適である。入力する電力が250W未満と小さくては、多波長発光III族窒化物半導体層を安定して形成するのに充分な窒素プラズマを発生させられない。このため、層状ではなく、ガリウム(Ga)の液滴(droplet)を含む不連続なIII族窒化物半導体層が帰結される確率が高まるため望ましくはない。
【0072】
高いエネルギー状態に励起された(遷移状態:C3Πu→B3Πg)窒素分子の存在を示す窒素分子の第二正帯からの発光を生じないか、又は殆ど生じない窒素プラズマを窒素源とすると、表面が平坦な多波長発光III族窒化物半導体層を得るに優位となる。窒素に関連するイオン種により多波長発光III族窒化物半導体層の表面がスパッタ(spatter)される程度を減少させられると推考される。窒素分子の第二正帯からの発光を殆ど生じない窒素プラズマとは、窒素分子の第二正帯に因る発光の強度が、波長745nmの原子状窒素に因る発光の強度に比較して、1/10以下であることを云う。
【0073】
また、本実施の形態の多波長発光III族窒化物半導体単層を形成するのに適する窒素プラズマに係るもう一つの特徴は、波長745nm、821nm及び869nmに出現する3本の原子状(atomic)窒素の発光ピークの強度の相対的関係にある。本発明で窒素源として好適に使用できるのは、波長745mの発光ピークの強度が最大であり、次に波長869mの発光ピークの強度が高く、波長821nmの発光ピークの強度が3本の発光ピークの中で最も低いことにある。機構は充分に解明できていないが、この様なピーク強度に於ける相対的関係を有する窒素プラズマを窒素源とすれば、多波長発光III族窒化物半導体単層を簡便に安定してもたらすのに効果を上げられる。
【0074】
数的に単一なIII族窒化物半導体単層を基体上に堆積する場合のみならず、III族窒化物半導体単層を複数用いるに際しても、各単層は、窒素分子の第二正帯に因る発光を生じないか、又は殆ど発光を発生しない窒素プラズマを窒素源として形成する。例えば、多波長発光III族窒化物半導体単層を一つの井戸(well)層とし、その井戸層を複数、用いて多重量子井戸(英略称:MQW)構造の発光層を形成する場合を例にして説明する。例えば、ドナー不純物とアクセプター不純物の相対的な濃度比率を同一とするか否かに拘わらず、MQW構造の発光層をなす各井戸層は、窒素分子の第二正帯に因る発光を生じないか、又は殆ど発光を発生しない窒素プラズマ環境内で堆積する。また、例えば、層厚を同一とするか又は異にするかに拘わらず、各井戸層は、窒素分子の第二正帯に因る発光を生じないか、又は殆ど発光を発生しない窒素プラズマ環境内で堆積する。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
本実施例1では、本実施の形態が適用される多波長発光III族窒化物半導体単層を窒化ガリウム・インジウム(GaInN)単層から構成する場合を例に挙げ、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、本実施例1に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。図8は、本実施例1に記載の多波長発光層内の元素の原子濃度のSIMS分析結果を示す図である。図8には、多波長発光III族窒化物半導体単層の内部のSIMS分析による珪素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)の原子濃度(CONCENTRATION(atoms/cc))の深さ(depth(μm))方向の分布を示す図である。
【0077】
先ず、(111)結晶面を表面とするアンチモン(元素記号:Sb)ドープn型(111)−シリコン(Si)基板の表面上に、アルミニウム(Al)単体金属をアルミニウム源とする、高周波窒素プラズマ分子線エピタキシャル(MBE)法により、780℃でアンドープ(undope)の高抵抗の窒化アルミニウム(AlN)層(層厚=30nm)を成長した。成長時のステンレス鋼製の成長チャンバー内の圧力は5×10−3パスカル(圧力単位:Pa)とした。次に、AlN層上に、珪素(Si)単体をドーピング源として、MBE法により、750℃で珪素(Si)ドープn型窒化ガリウム(GaN)層(層厚=3μm、キャリア濃度=2×1018cm−3)を成長させた。ガリウム(Ga)のフラックス(flux)量は、1.1×10−4Paとした。成長時の成長チャンバー内の圧力は5×10−3Paとした。
【0078】
シリコン基板/AlN層/GaN層積層構造体からなる基体上には、上記のMBE法により、相分離を生じておらず、層内のインジウム組成を均一とするインジウム(In)組成を0.02とした窒化ガリウム・インジウム(組成式Ga0.98In0.02N)単層(層厚=800nm)を500℃で成長した。成長時の成長チャンバー内の圧力は5×10−3Paとした。ガリウム(Ga)のフラックス量は、1.1×10−4Paとし、インジウム(In)のフラックス量は1.3×10−6Paとした。
【0079】
Ga0.98In0.02N単層の成長時には、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)とをドーピングした。珪素(Si)は、珪素(Si)単体をドーピング源としてドーピングした。ドーピング源の珪素(Si)を収納するクヌードセン(Knudsen)セルの内部のPBN製ルツボ(坩堝)の温度は1150℃とした。マグネシウム(Mg)のドーピング源には、金属マグネシウム(Mg)単体を用いた。特に、珪素(Si)の含有量を0.5重量ppm(wt.ppm)以下とする純度99.9999重量%(=6N)のマグネシウム(Mg)をドーピング源とした。ドーピング源としたマグネシウム(Mg)を収納するPBN製クヌードセンセルの内部のルツボの温度は350℃とした。
【0080】
Ga0.98In0.02N単層の成長中には、高速電子回折(RHEED)により、表面の構造をリアルタイムで観察した。成長中の表面からは、前述した図2に例示した如く、インジウム(In)組成が小さいときに第III族元素であるガリウム(Ga)とインジウム(In)が窒素より化学量論的に富裕であることを示す(2×2)の再配列構造を示すRHEEDパターンが得られた。
【0081】
基体を構成するAlN層及びGaN層、基体上のGa0.98In0.02N単層の何れの成長層も、窒素ガスを高周波(13.56MHz)で励起した(励起電力=330ワット(単位:W))窒素プラズマを窒素源として成長した。窒素ガスの流量は毎分2.0ccとした。窒素プラズマを発生させるためのセル(cell)の基体と対向する開口部には、直径を0.5mmとした微細な孔を複数、穿孔した円形噴出板を設け、250ナノメートル(単位:nm)以上で370nm以下の波長領域の窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度を減少させた。これにより、第二正帯に因る発光ピークを、波長を745nmとする原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下とする窒素プラズマ雰囲気を形成した(図6参照)。
【0082】
この窒素プラズマ用セルを用いて発生させた窒素プラズマからは、波長を745nm、821nm、及び869nmとする3本の原子状窒素に因る発光が観測された。また、波長を745nmとする発光が3本のうちで最大とし、波長を869nmとする原子状窒素に因る発光ピークが、波長745nmの発光ピークに次いで高く、また、波長を821nmとする原子状窒素に因る発光ピークの強度が最も低い窒素プラズマとなった(図6参照)。
【0083】
図7には、Ga0.98In0.02N単層を表面とする上記の積層構造体のPLスペクトルが示されている。PLスペクトルは、ヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザー光(波長=325nm)を励起光として室温に於いて取得したものである。波長365nmに出現するGaNのバンド(band)端発光に加えて、より長波長の領域で複数の発光が生じている。表1に、図7に示す多波長発光を構成する発光のピーク波長とその強度(任意単位)をまとめた。この多波長発光を構成する発光は、バンド端発光(図7に示すPLスペクトルにおいて、最も短波長の波長364.7nmの発光である)に加えて、波長400nm以下の範囲で2つ、400nmを超え500nm以下の波長範囲で2個、500nmを超え600nm以下の波長帯域で2個の、バンド端発光を除き、600nm以下の波長帯域で合計6個の発光であった。このため、上記のレーザー励起光を構造体の表面に照射した際の発光色はほぼ白色と視認された。
【0084】
【表1】
【0085】
図8には、Ga0.98In0.02N単層の表面から深さ方向の珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)の濃度分布が示されている。これらの元素の濃度分布は一般的な2次イオン質量分析(SIMS)法により測定した。珪素(Si)の原子濃度は3×1018原子/cm3であり、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。また、マグネシウム(Mg)の原子濃度は8×1017原子/cm3であり、これまた、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域(表面から約70nm迄の領域)で両元素の原子濃度が層の深部より高く測定されるのは、単層の表面に吸着した酸素(元素記号:O)等に因る分析上の干渉(interference)のためと解釈された。珪素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子濃度比は、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍領域から深さ約650nmに至る領域で0.27とほほ一定の比率であった。
【0086】
また、図8には、Ga0.98In0.02N単層の表面から深さ方向の水素(H)及び炭素(C)及び酸素(O)の濃度分布が示されている。これらの元素の濃度分布も一般的なSIMS法により測定した。Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域(表面から約70nm迄の領域)より層の深部の領域で、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)の原子濃度は、何れもほぼ一定であった。また、水素(H)、炭素(C)及び酸素(O)の3元素の原子濃度を比較すると、水素(H)が最も高く、酸素(O)が最低であった。アンモニアを使用せず、特有の発光強度を呈する窒素プラズマを窒素(N)源としてGa0.98In0.02N単層を成長させたため、何れの原子濃度も、マグネシウム(Mg)原子濃度より低かった。例えば、Ga0.98In0.02N単層の層厚の中央(表面から深さ400nmの深さ)でのマグネシウム(Mg)の原子濃度は8×1017cm−3であるのに対し、水素(H)の原子濃度は、9×1016cm−3であり、次に濃度の高い炭素(C)は、3×1016cm−3であり、3元素の中で最低の酸素(O)の原子濃度は、2×1016cm−3であった。
【0087】
(実施例2)
多波長発光III族窒化物半導体単層としての窒化ガリウム・インジウム(GaInN)単層をサファイア基板上に製膜する場合を例に挙げ、図9を用いて本発明を説明する。
図9は、本実施例2に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
サファイア結晶の(0001)(c面)表面上に、上記の実施例1に記載したのと同一の条件でアンドープの窒化アルミニウム(AlN)層、珪素(Si)ドープn型窒化ガリウム(GaN)層およびインジウム(In)組成を0.02とした相分離を生じていない、層内でのインジウム組成を均一とする、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)とをドーピングしたGa0.98In0.02N単層を成長させた。
【0088】
一般的な2次イオン質量分析(SIMS)に依れば、珪素(Si)の原子濃度は、上記の実施例1とほぼ同じく4×1018原子/cm3であり、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。マグネシウム(Mg)の原子濃度も上記の実施例1と同じく8×1017原子/cm3であり、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。また、水素(H)の原子濃度は、1×1017cm−3であり、炭素(C)の原子濃度は、1×1016cm−3であり、酸素(O)の原子濃度は、5×1016cm−3であった。いずれもマグネシウム(Mg)の原子濃度より低かった。
【0089】
図9には、Ga0.98In0.02N単層を表面とする上記の積層構造体のPLスペクトルが示されている。PLスペクトルは、ヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザー光(波長=325nm)を励起光として室温で取得したものである。光子エネルギーにして3.4エレクトロンボルト(単位:eV)のGaNのバンド(band)端発光より低い光子エネルギー側で発光が生じている。光子エネルギーに依って強度は相違するものの、3.4eVから2.0eVの範囲で、少なくとも3以上の波長を異にする発光が重畳した連続スペクトルとなっていた。このため、上記のレーザー励起光を構造体の表面に照射した際の発光色は白色と視認された。
【0090】
(実施例3)
本発明に係る波長が相違する複数の光(多波長光)を発する窒化ガリウム・インジウム(GaInN)単層を井戸(well)とする多重量子井戸(略称:MQW)構造からなる多波長発光層を構成する場合を例に挙げ、図10及び図11を用いて説明する。
図10は、本実施例3に係るMQW構造の発光層の断面構造を示す透過電子顕微鏡(TEM)像である。図11は、図10に示すMQW構造から得られる室温カソードルミネッセンス(CL)スペクトルである。
【0091】
Ga0.94In0.06N多波長発光層を井戸層とするMQW構造は、表面の結晶面方位を(111)とするアンチモン(元素記号:Sb)ドープn型シリコン(Si)基板表面上に形成した。基板の表面は、弗化水素酸(化学式:HF)等の無機酸を使用して洗浄後、分子線エピタキシャル(MBE)成長装置の成長室に搬送し、その成長室の内部を7×10−5パスカル(圧力単位:Pa)の超高真空に排気した。その後、成長室の真空度を維持しつつ、基板の温度を780℃に昇温して、基板の表面が(7×7)構造の表面再配列構造を呈する迄、継続して加熱した。
【0092】
(7×7)構造の再配列構造を呈する様に清浄化された(111)−シリコン基板の表面上には、高周波(13.56MHz)を印加してプラズマ化させた窒素を窒素源とする高周波窒素プラズマMBE法に依り、アンドープの窒化アルミニウム(AlN)層(層厚=5nm)を760℃で形成した。窒素ガスの流量は毎分0.4ccとし、また、アルミニウム(Al)フラックス量は7.2×10−6Paとした。
【0093】
AlN層上には、上記の高周波窒素プラズマMBE法に依り、アンドープの窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGa1−XN)組成勾配層(層厚=300nm)を760℃で堆積した。AlXGa1−XN組成勾配層のアルミニウム(Al)組成比(X)は、AlN層との接合面から組成勾配層の表面に向けて、0.30から0(零)へと、組成勾配層の層厚の増加に比例してAl組成を直線的に連続的に減少させた。組成勾配層の成長時には、窒素ガスの流量は毎分0.4ccと一定とし、また、ガリウム(Ga)のフラックス量も1.3×10−4Paと一定とした。一方で、アルミニウム(Al)フラックス量は、組成勾配層の成長開始時には7.2×10−6Paとし、それより成長時間の経過と共に直線的に減少させた。組成勾配層の成長終了時にはAlN層の表面へ向けてのAlのフラックスを遮断した。
【0094】
AlXGa1−XN組成勾配層(X=0.3→0)上には、窒素プラズマMBE法に依り、珪素(Si)ドープn型GaN層を堆積した。GaN層の層厚は1800nmとなる様に、また、キャリア濃度は4×1018cm−3となる様に成長条件を設定した。このGaN層の層厚は1000nmを超える厚い膜のため、この層を成長するときに限り、一つのMBE成長チャンバーに取り付けた2機の高周波窒素プラズマ発生装置から窒素プラズマを発生させた。窒素ガスの流量は各々の発生装置につき毎分1.5ccに設定した。ガリウム(Ga)のフラックス量を1.3×10−4Paとして、120分間でGaN層の成長を終了した。GaN層の成長の途中時及び終了時での表面再配列構造は、ガリウム(Ga)を窒素(N)よりも化学量論的に富裕に含むことを示す(2×2)構造であった(図2に示すRHEEDパターン参照)。
【0095】
n型GaN層の(2×2)再配列構造を有する表面上には、上記の高周波窒素プラズマMBE法により、基板の温度を550℃として、多重量子井戸構造の障壁層とするアンドープn型GaN層(層厚=26nm)を堆積した。次に、同じく上記の窒素プラズマMBE法に依り、550℃で、このn型GaN障壁層に接合させて、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を含むn型窒化ガリウム・インジウム混晶(Ga0.94In0.06N)からなる井戸層(層厚=4nm)を設けた。このn型障壁層とn型井戸層とからなる一対の構造単位を8対(8ペア(pair))積層させた後、最上層として上記のn型GaN障壁層を堆積し、全体としてn型の伝導を呈する多重量子井戸(MQW)構造層を形成した。図10には、このMQW構造層の断面構成のTEM像が示されている。
【0096】
また、図11には、上記の発光層をなす多重量子井戸構造の一井戸層をなすGa0.94In0.06Nから得られた室温のCLスペクトルが示されている。数的に単一の層であっても、波長が相違する多数の発光が出射されることが如実に明示されている。バンド端発光(図11に示す最も短波長の発光)に加え、390nm以上で500nm以下の波長範囲で2つ、500nmを超え750nm以下の波長帯域で4つ、400nm以上で550nm以下の波長帯域で4つ、結局のところ、390nm以上で750nm以下の波長帯域で合計6つの発光が呈された。
【0097】
上記の多重量子井戸構造の障壁層をなすGaN層の成長途中及び終了時のRHEEDパターンは何れも(2×2)再配列構造を示した(図2参照)。また、上記の多重量子井戸構造の井戸層をなすGa0.94In0.06N層の成長途中及び終了時のRHEEDパターンは何れも(3×1)再配列構造を示した。このことから、上記の多重量子井戸構造に於ける一対の構造単位は、ガリウム(Ga)を窒素(N)より化学量論的に富裕に含むGaN層と、第III族元素(ガリウム(Ga)とインジウム(In))を窒素(N)より化学量論的に富裕に含むGa0.94In0.06N層とから構成されるものとなった。
【0098】
一般的なSIMS分析法に依れば、Ga0.94In0.06N井戸層に含まれる珪素(Si)の原子濃度は7×1018cm−3であった。また、マグネシウム(Mg)の原子濃度は、珪素(Si)の原子濃度よりも低く、且つ、窒化ガリウム・インジウム(GaInN)層の表面を急激に乱雑なものとするマグネシウム(Mg)の臨界的な原子濃度(=3×1018cm−3)未満であり、高くとも6×1017cm−3であった。このため、上記の8対の構造単位を積層させた多重量子井戸構造の表面は、250nm以上で370nm以下の波長領域での窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度を、波長を745nmとする原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下とする窒素プラズマを利用したことと相俟って凹凸が無い良好な平坦面となった。
【0099】
Ga0.98In0.02N井戸層を含め多重量子井戸構造の内部での水素(H)の原子濃度は3×1016cm−3であり、炭素(C)の原子濃度は1×1017cm−3であり、酸素(O)の原子濃度は、3元素の中で最も低く2×1016cm−3であった。
【0100】
(比較例1)
上記の実施例1と同様に、高周波窒素プラズマMBE法により、n型(111)−シリコン基板の(111)表面上に、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を同時にドープしたGa0.98In0.02N単層を成長させた。但し、本比較例1では、Ga0.98In0.02N単層の層厚を、上記の実施例1の場合の半分の400nmとした。
【0101】
また、本比較例1では、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を同時にドープして成長させつつも、層厚の増加方向にマグネシウム(Mg)原子の濃度分布を上記の実施例1とは相違するGa0.98In0.02N単層を成長させた。マグネシウム(Mg)の原子濃度に分布を付すため、マグネシウム(Mg)セルの温度を、Ga0.98In0.02N単層の成長開始時の340℃より、毎分3℃の割合で一律に低下させ、30分間に亘る同層の成長の終了時には250℃に低下させた。
【0102】
図12は、比較例1記載の多波長発光を生じない単層内の元素の原子濃度のSIMS分析の結果を示す図である。図12には、一般的なSIMS分析で測定した比較例1に記載のGa0.98In0.02N単層のマグネシウム(Mg)、珪素(Si)及び水素(H)の深さ方向の原子濃度の分布が示されている。図12に示すように、珪素(Si)は層内でほぼ一様に分布しており、その原子濃度は、層内でほぼ一定の5×1018cm−3となっている。一方、マグネシウム(Mg)の原子濃度は、上記のマグネシウム(Mg)ドーピングセルの温度をGa0.98In0.02N単層の層厚の増加と共に低温としたのに対応して、下地のGaN層との接合界面で6×1017cm−3であるが、Ga0.98In0.02N単層の表面に向けて漸次、減少していた。特に、層厚の半分に相当する深さ(=200nm)よりGa0.98In0.02N単層の表面に向かう領域で5×1016cm−3またはそれ未満の低濃度となっていた。Ga0.98In0.02N単層の表面から80nmの深さに於けるマグネシウム(Mg)の原子濃度は、4×1016cm−3であった。
【0103】
本比較例1のGa0.98In0.02N単層の内部に於けるマグネシウム(Mg)原子の濃度は、上記の実施例1の場合とは異なり、層厚方向に一定となっていなかった。このため、珪素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子濃度の比率は、下地のGaN層との接合界面では、0.1となり、Ga0.98In0.02N単層の表面から80nmの深さでは0.8×10−2となった。
【0104】
また、水素原子も上記の実施例1の場合の様に深さ方向にほぼ一様に分布しておらず、Ga0.98In0.02N単層の層厚の半分に相当する深さより表面に向けて漸次、濃度を高くして分布していた。また、Ga0.98In0.02N単層の層厚の半分に相当する深さ(=200nm)より表面に向かう、マグネシウム(Mg)の原子濃度が5×1016cm−3またはそれ未満の低濃度となっている領域での水素原子濃度は、そのマグネシウム(Mg)の原子濃度を上回るものとなった。Ga0.98In0.02N単層の層厚の半分に相当する深さ(=200nm)での水素原子の濃度は、7×1016cm−3であった。水素原子濃度は、Ga0.98In0.02N単層の表面に向かって、マグネシウム(Mg)の原子濃度が漸次、減少しているのに対応するかの如く、同層の表面に向けて漸次、増加していた(図12参照)。Ga0.98In0.02N単層の表面から30nmの深さに於ける水素(H)の原子濃度は2×1018cm−3であった(図12参照)。
【0105】
図13は、本比較例1に記載の多波長発光を生じない単層の室温PLスペクトルを示す図である。図13には、Ga0.98In0.02N単層からの室温でのPLスペクトルが示されている。図13に示すように、窒化ガリウム(GaN)のバンド端の近傍の波長で、また波長を約550nmから約620nmとする領域に幅広い(ブロード(broad)な)発光を生じている。このブロードな発光は、イエロールミネッセンス(yellow luminescence)と称され、結晶欠陥が関与した発光と推察される(JACQUES I. PANKOVE and THEODORE D. MOUSTAKAS (Editors),“Gallium Nitride (GaN) I,SEEMICONDUCTORS AND SEMIMETALS Vol.50(ACADEMIC PRESS,1988)”,291−295)。
【0106】
本比較例1では、図13に図示した様に、Ga0.98In0.02N単層の内部のマグネシウム(Mg)の原子濃度は6×1017cm−3以下であった。このため、同単層の表面は、然して凹凸も無く平坦であった。しかし、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)とを層内に共存させたとは云えども本比較例1のGa0.98In0.02N単層では、波長が相違する複数の光を同時に出射される多波長発光を顕現するに至らなかった。これは、上記の実施例1に記載した如く、Ga0.98In0.02N単層の全体に亘り、マグネシウム(Mg)が多波長発光を発現するために必要な臨界的な原子濃度である5×1016cm−3以上に含まれていないからであると推考された。
【0107】
本比較例1のGa0.98In0.02N単層にあっては、水素の原子濃度が臨界値としての2×1018cm−3を超えると急激に認められる発光強度の短期的な経時変化が認められた。特に、発光スペクトルを測光するカソードミネッセンス(CL)法に於いて、励起源として電子を照射し始めた直後と、その照射から5分を経過後の短期間でも、GaNのバンド端の発光強度が徐々に増加するのが認められた。このCL発光強度のドリフト(drift)は、励起源である電子とGa0.98In0.02N単層内部の水素との何らかの相互作用、或いは同層内のマグネシウム(Mg)と水素(H)との電気的な複合体(complex)の解離等にも因るものと推考されるが、いずれにしても表面近傍の領域にマグネシウム(Mg)の原子濃度を超えて水素が含まれていることに起因していると推定される。
【0108】
(実施例4)
本実施例4では、波長を異にする複数の発光をもたらす多波長発光III族窒化物半導体単層を含む積層体を用いてIII族窒化物半導体素子を構成する場合を例にして、図14を用いて本発明の内容を説明する。
図14は、実施例4に記載の多波長発光III族窒化物半導体単層を備えたLEDの発光パターンを示す図である。図14には、実施例4に記載のLEDに通電した際の発光状況が示されている。
マグネシウム(Mg)の原子濃度が3×1018原子cm−3を超えると、表面の平坦性は急激に悪化し、凹凸の激しい粗雑な表面となるが、本実施例1のGa0.98In0.02N単層では、マグネシウム(Mg)の原子濃度は、珪素(Si)に比べて少ない上に、表面の平坦性の良否に係るこの臨界的な濃度より低いため、同単層の表面は平坦であった。このため、本実施例4では、Ga0.98In0.02N単層を発光層として利用し、その層上に、520℃でMgドープp型GaN層(層厚=90nm)を設けて、発光ダイオード(LED)用途のpn接合型ダブルヘテロ構造の積層体を形成した。窒素プラズマMBE法により、このp型GaN層を成長させる際にも、窒素分子の第2正帯に因る発光を生じない窒素プラズマを窒素源として用いた。p型GaN層の内部のマグネシウム(Mg)の原子濃度は1×1019cm−3となる様に成長条件を設定した。
【0109】
その後、一般的なドライエッチング法により、n型オーミック電極を形成する領域に在るMgドープp型GaN層及びGa0.98In0.02N単層を除去した。これらの層を除去して露出させたn型窒化ガリウム層の表面には、n型オーミック電極を形成した。一方、エッチング後に残置したp型GaN層の表面にはp型オーミック電極とそれに電気的に導通する台座(pad)電極を形成し、発光ダイオード(LED)を作製した。一辺の長さを約350ミクロンメートル(単位:μm)とする正方形の平面形状のLEDチップ(chip)の表面上には、白色光をもたらすための蛍光体を設けることはしなかった。
【0110】
作製したLEDからは、図1に示したと同様に、波長が異なる複数の発光を反映して、白色光が出射されるのが目視された。また、発光層をなす上記のGa0.98In0.02N層内のマグネシウム(Mg)の原子濃度が8×1017cm−3であるのに対して、水素の原子濃度は9×1016cm−3であり、酸素原子濃度は2×1016cm−3であった。このため、発光の波長及び強度の経時的変化(ドリフト)は殆ど認められなかった。これは、マグネシウム(Mg)原子濃度に対して、本発明の如く規定された水素及び酸素の原子濃度を有することに起因すると判断された。
【0111】
電気的特性の一端を記せば、ダイオードの順方向に通流させる電流(順方向電流)を20ミリアンペア(単位:mA)とした際の順方向電圧は3.5ボルト(単位:V)となった。また、順方向電圧を3.5Vに固定して順方向電流の経時変化(所謂、電流ドリフト)を測定した。順方向電流は20mAから経時的に殆ど変化しなかった。
【0112】
(実施例5)
本実施例5では、波長を異にする複数の発光をもたらす多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする多重量子井戸(MQW)構造を含む積層体を用いて構成した発光素子(LED)を図15及び図16を用いて説明する。
図15は、本実施例5に記載するLEDの断面構造を示す模式図である。図16は、図15に示すLEDの平面模式図である。図15に示すように、発光素子(LED)10は、Si基板101上に形成されたAlN層102の上に、AlGaN組成勾配層103を有している。AlGaN組成勾配層103の上には、n型GaN層104、多重量子井戸構造発光層105、p型GaN層106が順次積層されている。
さらに、p型GaN層106上にp型オーミック電極108が形成されるとともに、n型GaN層104に形成された露出領域にn型オーミック電極107が積層されている。多重量子井戸構造発光層105は、GaN障壁層105a及びGaInN井戸層105b(多波長発光Ga0.94In0.06N井戸層)が交互に積層され、最上層にGaN障壁層105aが積層された構造を有する。
【0113】
本実施例5では、上記の実施例2に記載のMQW構造を多重量子井戸構造発光層105として用いてLED10を構成した。多重量子井戸構造発光層105の最終端(最表層)をなすGaN障壁層上には、高周波窒素プラズマMBE法により、マグネシウム(Mg)ドープp型GaN層106(層厚=85nm)を設けて、LED10用途の構造体の形成を終了した。p型GaN層106の内部のマグネシウム(Mg)の原子濃度は1×1019cm−3となる様に成長条件を設定した。
【0114】
n型オーミック電極107を形成する領域にあるp型GaN層106及び多重量子井戸構造発光層105を一般的なドライエッチング法により選択的に除去した。その後、エッチングにより露出させたn型GaN層104の表面にn型オーミック電極107を形成した。また、エッチング後に残置させたp型GaN層106の表面には、一般的なフォトリソグラフ技術を利用してパターニングした格子状のp型オーミック電極108を形成した。格子状に配置した幅4×10−4cmのp型オーミック電極108は、p型GaN層106にオーミック接触をなす白金(Pt)系金属から構成した。また、p型GaN層106の表面上の一端には、この格子状p型オーミック電極108に電気的に導通させて結線(ボンデング)用の台座(パッド)電極109を設けてLED10(チップ(chip))を作製した。チップ(chip)の表面上には、白色光をもたらすためのY3Al5O12等の蛍光体を一切、設けなかった。
【0115】
一辺の長さを約400μmとする正方形のLED10に20mAの順方向電流を通流した際の順方向電圧(Vf)は3.4Vであった。20mAの順方向電流を通流した際に波長350nmから700nmの範囲で測光された発光のピーク波長は、365nm、385nm、440nm、500nm、550nm、600nm及び670nmであった。この様な広い波長範囲で波長が相違する複数の発光が顕現されたため、目視される発光色は白色であった。また、多波長発光を構成する各々の発光の波長及び発光強度は、経時的に殆ど変化しなかった。
【符号の説明】
【0116】
10…発光素子(LED)、101…Si基板、102…AlN層、103…AlGaN組成勾配層、104…n型GaN層、105…多重量子井戸構造発光層、105a…GaN障壁層、105b…GaInN井戸層、106…p型GaN層、107…n型オーミック電極、108…p型オーミック電極、109…台座(パッド)電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体素子、多波長発光III族窒化物半導体層及び多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法に関し、より詳しくは、III族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子を構成し数的に単一な層でありながら波長が相違する複数の可視光(多波長光)を出射可能なガリウム(Ga)を含む多波長発光III族窒化物半導体層及び多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1−XN:0<X≦1)等のIII族窒化物半導体層は、可視光を出射する発光層等を構成するために利用されている(例えば、特許文献1参照)。窒化ガリウム・インジウムからは、リン化ガリウム(GaP)、砒化リン化ガリウム(GaAsP)、リン化アルミニウム・インジウム(AlInP)等の化合物半導体材料では得られない赤色から青色までの発光が得られるとされる(特許文献1参照)。例えば、亜鉛(元素記号:Zn)を添加(ドーピング)したGa0.4In0.6N層は赤色発光用の材料として有用であることが示されている(特許文献1参照)。
【0003】
窒化ガリウム・インジウムにあっては、亜鉛等の不純物は、禁止帯幅(band gap)に相当する光子エネルギーとは別のエネルギーの光吸収を発生させると報告されている(特許文献1参照)。この様な光吸収を生ずる不純物としては、亜鉛の他に、カドミウム(元素記号:Cd)、マグネシウム(元素記号:Mg)、ベリリウム(元素記号:Be)、ゲルマニウム(元素記号:Ge)、銅(元素記号:Cu)が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の不純物を添加した窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム(AlGaInN)層から発光層を構成する技術も知れている。例えば、n型とp型の不純物(ドーパント)とを共に添加して形成した窒化ガリウム・インジウム層を発光層として、LEDを構成する技術が挙げられる(特許文献2〜4参照)。n型不純物としては、珪素(元素記号:Si)、ゲルマニウム(元素記号:Ge)、テルル(元素記号:Te)、セレン(元素記号:Se)が例示されている(特許文献3の段落(0008)参照)。加えて、特許文献4には、硫黄(元素記号:S)がn型不純物として記載されている(特許文献4の段落(0022)参照)。また、p型不純物としては、亜鉛、マグネシウム、カドミウム、ベリリウム、カルシウム(元素記号:Ca)が例示されている(特許文献3の段落(0008)参照)。加えて、特許文献4には、水銀(元素記号:Hg)がp型不純物として記載されている(特許文献4の段落(0022)参照)。
【0005】
n型とp型の双方の不純物を添加した、具体的には、珪素と亜鉛とを添加した窒化ガリウム・インジウム層を発光層として、青色光を出射する単色の発光ダイオード(英略称:LED)を構成する技術例が知れている(特許文献2〜4参照)。n型とp型不純物の双方を添加した窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム層を発光層とする従来のLEDから出射される発光は、発光ピーク(peak)波長を490ナノメートル(単位:nm)とする青色の単色光である(特許文献2〜4参照)。
【0006】
また、青色光を発するLEDを利用して、白色光を発するLEDを構成する技術も公知となっている。例えば、窒化ガリウム・インジウム層からなる発光層から出射される青色光により蛍光体を励起させ、白色の励起光を出射するLEDを構成する技術である(特許文献5〜8参照)。この蛍光型白色LEDを構成するための蛍光体としては、青色光又は紫外光により励起され、白色蛍光を発する例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al5O12)等が用いられている(特許文献9〜11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭55−3834号公報
【特許文献2】特許第2560964号公報
【特許文献3】特許第2576819号公報
【特許文献4】特許第3500762号公報
【特許文献5】特開平07−099345号公報
【特許文献6】特許第2900928号公報
【特許文献7】特許第3724490号公報
【特許文献8】特許第3724498号公報
【特許文献9】特許第2927279号公報
【特許文献10】特許第3503139号公報
【特許文献11】特許第3700502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した窒化ガリウム・インジウムを発光層として利用する蛍光型白色LEDに付随する第一の問題点は、そもそも、青色光等により励起され、波長が相違する蛍光を発する蛍光体を必要とし、LEDの生産工程は冗長となり、また煩雑となることである。また、第二の問題点は、蛍光体を励起して色調の一定した白色光を安定して得るには、窒化ガリウム・インジウム層等からなる発光層からの発光の波長の差異に応じて、蛍光体として用いる希土類(rare−earth)元素を添加したY3Al5O12等の組成を、微妙に且つ精緻に変化させる必要があり、演色性の一定した白色系LEDを得るのが煩瑣となることである。
【0009】
窒化ガリウム・インジウム層を発光層とする従来構造の白色LEDについての技術上の問題点は、例えば、窒化ガリウム・インジウム発光層から出射される青色光と、その青色光により励起され、青色と補色の関係にある黄色の蛍光を発する蛍光体との組み合わせからなる白色LED(「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」(2006年3月31日、森北出版(株)発行、第1版第1刷)、174頁参照)の場合に端的に現れる。
【0010】
このような、謂わば補色光型の白色LEDには、セリウム(元素記号:Ce)を添加したYAG蛍光体が用いられている(「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、184〜185頁参照)。しかしながら、同様の色調の白色LEDを得るために、この励起光として利用する青色光の波長の差異に応じて、その都度、イットリウム(元素記号:Y)、アルミニウム(元素記号:Al)、ガドリニウム(元素記号:Gd)又はガリウム(元素記号:Ga)の組成を微妙に変化させたYAG蛍光体を用いて作製されているのが現状である。
【0011】
また、補色型白色LEDにあっては、白色光を得るために混色させるのは、主に、補色の関係にある2色の発光である。このため、補色の関係にある2色の発光の強度の比率に依存して、帰結される白色光の色調が微妙に変化してしまう問題も生じている。従って、補色型白色LEDにあっては、いずれにしても混光により、一定した演色性をもたらす白色LEDを安定して得るには技術上の困難さを伴うものとなっている。
【0012】
従来の蛍光型或いは補色型の白色LEDには、青色光などの励起光よりも長波長側に主たる蛍光を発生させる蛍光体が用いられている(「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、176〜179頁参照)。即ち、励起光とそれよりも長波長の蛍光とを混光させて白色LEDをなしている。
【0013】
例えば、数的に単一な窒化ガリウム・インジウム単層でありながら、波長が相違する複数の発光を生じさせることが出来れば、上記の蛍光型或いは補色型とは別の型の白色LEDに付随する従来の問題も解決を図れる。例えば、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の各色光を出射できる窒化ガリウム・インジウム層を発光層とすれば、RGB混光型白色LEDを構成するのに利便となる。即ち、単一な窒化ガリウム・インジウム単層を用いれば、赤色(R)、緑色(G)又は青色(B)を各々出射できる発光層をそれぞれ個別に設ける必要がない。また、複数の発光層を設ける必要もなく、さらに、発光を閉じ込めるためのクラッド(clad)層を各発光層について各々設ける必要も無くなり、混光による白色LEDを簡便に得る目的を達成できる。
【0014】
しかしながら、現状では、数的に単一な層(単層)でありながら、波長が相違する複数の発光をもたらすガリウムを含むIII族窒化物半導体単層、例えば、窒化ガリウム・インジウム単層を構成するための要件は明確となっていない。
本発明は、本発明の一つの産業上の利用分野であるIII族窒化物半導体白色LEDに係る上記の従来技術の問題点を回避すべくなされたものである。即ち、本発明は、波長が相違する複数の発光をもたらすためにガリウムを含むIII族窒化物半導体単層が備えるべき構成要件を明確にすると共に、(i)数的に単一な層、即ち、単層でありながら発光波長が相違する複数の発光を出射可能な、ガリウムを必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層、(ii)そのIII族窒化物半導体単層を、一つ又は二つ以上備えた半導体素子、(iii)そのIII族窒化物半導体単層の形成方法を提示するものである。これをもって、本発明の一つの産業上の利用分野に属する白色LED等の半導体素子を簡単な構造をもって簡便に提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、数的に単一な層でありながら、波長が相違する複数の発光を生じさせる多波長発光III族窒化物半導体単層を採用することにより、白色LEDに付随する従来の問題の解決を図るものである。
以下、[1]〜[35]に係る発明が提供される。
[1]基体と、前記基体上に形成され、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層と、を備え、前記III族窒化物半導体層は、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
[2]前記III族窒化物半導体層は、複数の前記多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とする前項1に記載のIII族窒化物半導体素子。
[3]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする前項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
[4]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長500nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする前項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
[5]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上550nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする前項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
[6]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、珪素を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、マグネシウムを原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項1乃至5のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体素子。
[7]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ水素の原子濃度より高いことを特徴とする前項6に記載のIII族窒化物半導体素子。
[8]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、水素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
[9]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
[10]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、炭素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項9に記載のIII族窒化物半導体素子。
[11]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
[12]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、酸素を原子濃度が1×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項11に記載のIII族窒化物半導体素子。
[13]前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする前項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【0016】
[14]基体上に形成された多波長発光III族窒化物半導体層であって、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含み、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、放射再結合による発光スペクトルが、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層。
[15]前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上750nm以下の帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする前項14に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[16]前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が500nm以上750nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする前項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[17]前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上550nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする前項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[18]前記ドナー不純物として珪素(元素記号:Si)を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、前記アクセプター不純物としてマグネシウム(元素記号:Mg)を原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする前項14乃至17のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[19]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ水素(元素記号:H)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[20]前記水素の原子濃度が、2×1018cm−3以下であることを特徴とする前項19に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[21]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[22]前記炭素の原子濃度が2×1018cm−3以下であることを特徴とする前項21に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[23]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[24]前記酸素の原子濃度が1×1018cm−3以下であることを特徴とする前項23に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
[25]前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする前項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【0017】
[26]前項14乃至25のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法であって、分子線エピタキシャル(MBE)法において、圧力5×10−3パスカル(圧力単位:Pa)以下の環境内に窒素プラズマ雰囲気を形成し、前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上750℃以下の範囲に保ち、前記窒素プラズマ雰囲気内の前記基体上に、表面が(2×2)再配列構造、または(3×1)再配列構造となるようなフラックス量でガリウムを含む第III族元素源を供給しつつ、ドナー不純物及びアクセプター不純物を同時に供給することを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[27]前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上620℃以下とし、且つ前記ドナー不純物としての珪素と前記アクセプター不純物としてのマグネシウムとを、当該珪素に対する当該マグネシウムのフラックス比率を0.1以下として当該窒素プラズマ雰囲気内に同時に供給し、当該ドナー不純物としての当該珪素を6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の原子濃度の範囲で含み、且つ当該アクセプター不純物としての当該マグネシウムを5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の原子濃度の範囲で含むことを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[28]前記窒素プラズマ雰囲気は、窒素ガス(分子式:N2)の供給量が0.1cc/分以上4.8cc/分以下の条件で発生させ、且つ前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[29]前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる炭素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[30]前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる酸素の原子濃度を1×1018cm−3以下とすることを特徴とする前項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[31]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度が、波長745nmにおける原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下であることを特徴とする前項26乃至30のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[32]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークを生じないことを特徴とする前項31項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[33]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長745nm、821nm及び869nmにおける原子状窒素に因るそれぞれの発光ピークの中で、波長745nmにおける発光ピークの強度が最高であることを特徴とする前項31又は32項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[34]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長869nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークが、波長745nmにおける当該原子状窒素に因る前記発光ピークに次いで高い強度を呈することを特徴とする前項33項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
[35]前記窒素プラズマ雰囲気は、波長821nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークの強度が最も低いことを特徴とする前項33項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【発明の効果】
【0018】
前項[1]に係る発明に依れば、数的に単一ながら、波長が異なる(=発光色が相違する)3個以上の光を出射可能な多波長発光III族窒化物半導体層を、例えば、発光層として用いる構成により、簡易な構造で、且つ演色性の高い白色LEDを提供できる。例えば、蛍光体を使用しない簡易な構造の白色LEDが得られる。また、例えば、RGBの各色毎に、個別に発光層を設ける必要もなく白色LEDが得られる。
【0019】
前項[2]に係る発明に依れば、数的に単一ながらバンド端発光とは別に、波長が相違する発光を放射する多波長発光III族窒化物半導体単層を複数用い、例えば、これらを発光層として配備することにより、発光強度に優れる白色LEDを提供できる。
【0020】
前項[3]に係る発明に依れば、例えば、波長が400nm以上750nm以下の範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射可能な多波長発光III族窒化物半導体層を発光層として用いることにより、混光により演色性に優れる白色LEDを簡便に提供できる。
【0021】
前項[4]に係る発明に依れば、例えば発光層を、数的に単一、且つ波長500nm以上750nm以下の範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射可能な多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、混光により演色性に優れる白色LEDを簡便に提供できる。また、この様な単層を複数用いて、例えば、多重量子井戸構造をなす複数の井戸層として用いれば、多波長発光III族窒化物半導体単層の各層からの多波長発光を重畳させてなる発光強度の高い白色LEDを提供できる。
【0022】
前項[5]に係る発明に依れば、例えば発光層を、波長400nm以上550nm以下の範囲で波長が相違する多波長光を同時に出射可能な多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、緑色、赤色又は青色、緑色を帯びた淡い色合(pastel)のパステル色調の白色系光を発するIII族窒化物半導体LEDを提供できる。
【0023】
前項[6]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で珪素がドナー不純物として含まれ、且つ、珪素より低濃度で原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲でマグネシウムがアクセプター不純物として含まれ、電気抵抗が小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、発光波長が相違する合計3つ以上の発光を同時に出射し、順方向電圧の低い白色LEDを提供できる。
【0024】
前項[7]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ水素の原子濃度より高く含み、電気抵抗が小さく、波長が相違する多波長発光を出射可能な多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを安定して提供できる。
【0025】
前項[8]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とし、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0026】
前項[9]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ炭素の原子濃度より高く含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0027】
前項[10]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、炭素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0028】
前項[11]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ酸素の原子濃度より高く含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0029】
前項[12]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、酸素を原子濃度が1×1018cm−3以下の範囲で含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0030】
前項[13]に係る発明に依れば、例えば、発光層を、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高く含み、白色光を出射可能な電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体単層を用いて構成することにより、順方向電圧の低い白色LEDを特に安定して提供できる。
【0031】
前項[14]に係る発明に依れば、数的に単一な単層であっても、混光により白色光を出射可能な発光層としての多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0032】
前項[15]に係る発明に依れば、400nm以上750nm以下の波長の範囲で、混光により、演色性に優れる白色光を出射可能な発光層としての多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0033】
前項[16]に係る発明に依れば、500nm以上750nm以下の波長の範囲で、緑色、赤色又は青色、緑色を帯びた白色系光を出射するのに好都合な多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0034】
前項[17]に係る発明に依れば、400nm以上550nm以下の波長の範囲で、緑色、赤色又は青色、緑色を帯びた白色系光を出射するのに好都合な多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0035】
前項[18]に係る発明に依れば、原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で珪素をドナー不純物として含み、且つ、珪素より低濃度で原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲でマグネシウムをアクセプター不純物として含むことにより、バンド端発光とは別に、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0036】
前項[19]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ水素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0037】
前項[20]に係る発明に依れば、水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることにより、電気抵抗が小さく白色光発光層として好ましく利用できる多波長発光III族窒化物半導体層を安定して提供できる。
【0038】
前項[21]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ炭素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0039】
前項[22]に係る発明に依れば、炭素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることにより、電気抵抗が小さく白色光発光層として好ましく利用できる多波長発光III族窒化物半導体層を安定して提供できる。
【0040】
前項[23]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ酸素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0041】
前項[24]に係る発明に依れば、酸素の原子濃度を1×1018cm−3以下とすることにより、電気抵抗が小さく白色光発光層として好ましく利用できる多波長発光III族窒化物半導体層を安定して提供できる。
【0042】
前項[25]に係る発明に依れば、マグネシウムを珪素より低い原子濃度で含み、且つ硼素の原子濃度より高く含むことにより、発光波長が相違する合計3つ以上の多波長発光をもたらす電気抵抗の小さい多波長発光III族窒化物半導体層を提供できる。
【0043】
前項[26]〜[35]に係る発明に依れば、分子線エピタキシャル(MBE)法において窒素プラズマを窒素源とし、プラズマ発光ピークの強度比率が好適な条件を採用することにより、例えば、モリブデンやクロム等の遷移金属元素の不純物量が減少し、白色LED等に好適な多波長発光III族窒化物半導体層を安定して形成するのに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】多波長発光III族窒化物半導体単層のフォトルミネッセンス(PL)スペルクトル例である。
【図2】(2×2)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。
【図3】(3×3)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。
【図4】ガリウムを窒素より化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。
【図5】窒素をガリウムより化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。
【図6】本発明の実施に適する窒素プラズマの発光スペクトルである。
【図7】実施例1に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
【図8】実施例1に記載の多波長発光層内の元素の原子濃度のSIMS分析結果を示す図である。
【図9】実施例2に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
【図10】実施例3に係るMQW構造の発光層の断面構造を示す透過電子顕微鏡(TEM)像である。
【図11】図10に示すMQW構造から得られる室温カソードルミネッセンス(CL)スペクトルである。
【図12】比較例1記載の多波長発光を生じない単層内の元素の原子濃度のSIMS分析の結果を示す図である。
【図13】比較例1記載の多波長発光を生じない単層の室温PLスペクトルを示す図である。
【図14】実施例4に記載の多波長発光III族窒化物半導体単層を備えたLEDの発光パターンを示す図である。
【図15】実施例5に記載のLEDの断面構造を示す模式図である。
【図16】図15に示すLEDの平面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するための一例であり、実際の大きさを表すものではない。
【0046】
<多波長発光III族窒化物半導体層>
図1は、多波長発光III族窒化物半導体層のフォトルミネッセンス(PL)スペルクトル例である。
本実施の形態が適用される多波長発光III族窒化物半導体層は、数的に単一でありながら、相違する波長の多波長光を同時に放射可能であり、半導体材料基板又は金属材料基板等の基体上に設けられる。基板には、ガラス基板、極性又は無極性の結晶面を表面とするサファイア(α−Al2O3単結晶)や酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物結晶基板、6H又は4H又は3C型炭化珪素(SiC)、シリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)等の半導体結晶からなる基板を例示できる。基体には、バルク(bulk)結晶基板に限定されず、例えば、GaN等のIII族窒化物半導体やリン化硼素(BP)等のIII―V族化合物半導体からなるエピタキシャル(epitaxial)成長層を用いることができる。
【0047】
上記の材料からなる基板又はエピタキシャル成長層は、数的に単一の層(単層)でありがら波長が相違する複数の波長の発光を同時に出射するIII族窒化物半導体層(多波長発光III族窒化物半導体単層)を井戸層として量子井戸構造の発光層を形成する場合に利用できる。演色性の高い白色LEDを得るときは、広い波長の範囲で多くの発光(多波長光)を放射する、複数の多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層として発光層を形成する。所謂、複数の井戸層を備えた多重量子井戸構造(英略称:MQW)とすると、各多波長発光III族窒化物半導体単層からの発光を混光できて白色LED等を得るに好都合である。
【0048】
本実施の形態では、多波長発光III族窒化物半導体単層を、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物とが共に添加されたIII族窒化物半導体材料から構成する。特に、ガリウムを必須の構成元素として含む、窒素等の第V族元素よりも、ガリウム等の第III族元素を化学量論的に富裕に含み、バンド端発光とは別に、バンド(band)端発光より長い波長の領域で、波長が相違する3以上の光を同時に放射できるIII族窒化物半導体材料から構成する。
【0049】
多波長発光III族窒化物半導体単層には、400nm以上で750nm以下の波長の範囲で、波長が相違する3つ以上の多波長光を同時に出射できる機能層を用いる。また、500nm以上で750nm以下の波長範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射でき、且つ、400nm以上で750nm以下の範囲で、波長が相違する3つ以上の多波長光を同時に出射できる機能層を用いる。波長を500nm〜750nmとする青緑色〜赤色の複数の発光を成分として混光することにより、演色性に優れる白色系LEDを得ることができるからである。
【0050】
500nm以上で750nm以下の波長範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射するに更に加えて、400nm以上で550nm以下の波長範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射でき、尚且つ400nm以上で750nm以下の範囲で、波長が相違する多波長光を同時に出射できる機能層を用いる。波長を500nm〜750nmとする青緑色から赤色の複数の発光に、波長を400nm〜550nmとする青紫色から緑色の複数の発光を混光すれば、より演色性に優れる白色系LEDを得ることができるからである。多波長発光を構成する各発光の波長は、伝導帯に励起された電子と価電子帯の正孔が再結合する際に発せられるスペクトル、所謂、放射再結合による発光スペクトルを観測することに依り測定できる。具体的な測定方法としては、フォトルミネッセンス(英略称:PL)法やカソードルミネッセンス(英略称:CL)法等が挙げられる。
【0051】
400nm以上で750nm以下の波長の範囲で、波長が相違する3つ以上の多波長光を同時に出射する機能を発現できる多波長発光III族窒化物半導体単層は、ドナー不純物として珪素(Si)を含み、アクセプター不純物としてマグネシウム(Mg)を含むIII族窒化物半導体材料から構成する。例えば、インジウム組成を相違する複数の相(phase)からなる多相構造の窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1―XN:0<X≦1)等のガリウム(Ga)を構成元素として含むIII族窒化物半導体材料から構成できる。また、相分離(phase separation)を然して生じないインジウム(In)組成(=1−X)のGaXIn1―XN(0.90<X≦1或いは0≦X≦0.1)からも構成できる。ガリウム(Ga)組成(=X)又はインジウム(In)組成(1−X)の大きな、端的にはGaN又は窒化インジウム(InN)の様なそもそも相分離の無い層では、相分離に起因するGaXIn1―XN層内でのインジウム濃度の不均一性に因り、珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)が層内で不均一に分布するのを避けることができる。これにより、珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)が形成する準位間の光学的遷移に基づく多波長発光をなす各発光の波長を均一とするのに優位となる。
【0052】
多波長発光III族窒化物半導体単層内の珪素(Si)の原子濃度を6×1017cm−3以上で5×1019cm−3以下とし、且つ、マグネシウム(Mg)の原子濃度を5×1016cm−3以上で3×1018cm−3以下の範囲とすることにより、多波長の発光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を効率的に形成できる。多波長発光III族窒化物半導体単層内の珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)の原子濃度は、例えば2次イオン質量分析法(英略称:SIMS)法等で定量することができる。
【0053】
珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を含む多波長発光III族窒化物半導体単層は、例えば、有機金属気相堆積(MOCVD又はMOVPE等と略称される)法、分子線エピタキシャル(MBE)法、ハイドライド(hydride)法、ハライド(halide)法等の気相成長法により形成できる。これらの成長手段にあって、多波長発光III族窒化物半導体単層内の珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)の原子濃度は、同層へのSi及びMgのドーピング(doping)量を調節することをもって調整する。MOCVD法等では、シラン(分子式;SiH4)やメチルシラン(分子式:CH3SiH3)等のシラン類を珪素(Si)のドーピング源として使用できる。また、MOCVD法では、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(略記号:Cp2Mg)等の有機マグネシウム化合物をマグネシウム(Mg)のドーピング源として利用できる。
【0054】
特に、MBE法は、井戸層をなす多波長発光III族窒化物半導体単層を上記の他の気相成長法と比較して、より低温で形成できる利点がある。このため、例えば、井戸層をなす多波長発光III族窒化物半導体単層に添加(ドーピング)したマグネシウム(Mg)の、井戸層に接合してMQW構造をなす障壁層への熱的拡散を抑制するのに優位な成長手段となる。例えば、相分離を然して生じないn型Ga0.94In0.06N井戸層とn型GaN障壁層とからなるMQW構造にあって、アクセプター不純物であるマグネシウム(Mg)の障壁層への拡散、侵入を抑制することができ、障壁層が高抵抗となるのを、または伝導形がp型に変換されるのを回避するのに効果をあげられる。これにより、井戸層と障壁層との間でのpn接合の形成を回避できる。従って、井戸層と同一の伝導形を呈する障壁層とからMQW構造を構成できるため、電気的導通性に優れるMQW構造の発光層を構成できる。
【0055】
珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)をドーピングして多波長発光III族窒化物半導体を形成するに際し、上記のマグネシウム(Mg)のドーピング量を多量とする程、即ち、層内のマグネシウム(Mg)の原子濃度を高める程、或る波長領域に生ずる波長が相違する発光の数を増加させることができる。例えば、珪素(Si)の原子濃度が4×1018cm−3である場合に於いて、マグネシウム(Mg)の原子濃度が5×1016cm−3未満の2×1016cm−3であるGaN層の場合、GaNのバンド端発光は生ずるものの、波長400nm〜700nmの領域に発光は生じない。一方、同様の珪素(Si)の原子濃度を有し、且つ、原子濃度が8×1017cm−3となる様に、マグネシウム(Mg)をドーピングすると、波長400nm〜700nmの領域に合計4つの波長が相違する多波長光を同時に出射するGaN単層を形成できる。
【0056】
また、マグネシウム(Mg)のドーピング量をより多量とする程、即ち、層内のマグネシウム(Mg)の原子濃度をより高める程、より長波長の帯域に多波長光を発生させることができる。例えば、珪素(Si)の原子濃度を1〜4×1019cm−3とし、マグネシウム(Mg)の原子濃度を4×1016cm−3とするGaXIn1−XNの場合には、波長を450nmとする単一の発光のみ観測される。これに対し、インジウム組成を同一としながらも、マグネシウム(Mg)が原子濃度にして3×1018cm−3とより多く含まれるときは、多波長発光の発光が顕現され、その中での最長の波長は580nmに到達する(図1参照)。
【0057】
異なる多波長発光III族窒化物半導体単層からMQW構造の発光部を構成する場合には、より短い波長の領域で多波長光を同時に出射できる多波長発光III族窒化物半導体単層である程、発光の取り出し方向のより上方に配置させる。より下方にある多波長発光III族窒化物半導体単層からなる井戸層から出射される発光の吸収を避け、LEDの外部へ多波長光を効率的に取り出すためである。例えば、波長600nm〜700nm近傍の領域に多波長光を発する多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする単一或いは第1の多重井戸構造上の、発光の外部への取り出し方向に向かう上方には、波長400nm〜550nmの領域で多波長光を発する多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする単一或いは第2多重量子井戸構造を設けて、これにより全体としてMQW構造の発光部を構成する。
【0058】
上記の様に多波長の発光を生ずる異なる多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする第1及び第2の量子構造にあって、第1及び第2の量子井戸構造をなす障壁層の構成材料は、必ずしも同一とする必要はない。第1及び第2の量子井戸構造の障壁層は、多波長発光III族窒化物半導体単層からなる井戸層の禁止帯幅に対応して選択されたIII族窒化物半導体単層から構成できる。例えば、上記の第1の量子井戸構造については、窒化アルミニウム・ガリウム(組成式AlXGa1−XN:0≦X≦1)から障壁層を構成し、第2の量子井戸構造をAlYGa1−YN:0≦Y≦1、但し、Y≧X)を構成できる。
【0059】
本実施の形態では、多波長発光を同時に発光できる多波長発光III族窒化物半導体単層を、第V族元素に対して、元素周期律表の第III族元素を化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層から構成する。第III族元素を第V族元素に対して化学量論的に富裕に含むとは、例えば、窒化アルミニウム(AlN)又は窒化ガリウム(GaN)又は窒化インジウム(InN)等の2元系(2元素)III族窒化物半導体層にあって、ガリウム(Ga)又はインジウム(In)又はアルミニウム(Al)が窒素よりも化学量論的に富裕に含まれていることを云う。例えば、窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム(組成式AlXGaYInZN:0<X,Y,Z<1、X+Y+Z=1)等の多元系(多元素)III族窒化物半導体層にあっては、第III族元素であるアルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)及びインジウム(In)の合計の原子の濃度が、窒素原子の濃度を上回っていることを指す。
【0060】
また、砒化窒化ガリウム(組成式GaAs1−αNα:0<α<1))やリン化窒化アルミニウム(組成式AlP1−βNβ:0<β<1))等の窒素以外の第V族元素(この例では、砒素(元素記号:As)及びリン(元素記号:P))を含むIII族窒化物半導体層では、第III族元素であるガリウム(Ga)又はアルミニウム(Al)の原子濃度が、窒素(N)及び窒素以外の第V族元素の合計の原子濃度よりも高いことを云う。第III族元素と第V族元素の原子濃度の総量の比率が1:1であれば、それは第III族元素富裕でもなく、また第V族元素富裕でもなく、化学量論的組成である。
【0061】
化学量論的な組成のズレは、例えば、高速反射電子回折(英略称:RHEED)等の電子線回折技法等でIII族窒化物半導体層の表面の再配列構造を調査すれば判定できる。例えば、固体ソースMBE法やガスソースMBE法等の真空中でIII族窒化物多波長発光層を基体上に堆積する成長手段では、RHEED法を有効に利用することができる。このため、基体上の堆積層が多波長を同時に発光するのに必要なガリウム等の元素周期律表の第III族元素を窒素等の第V族元素よりも化学量論的に富裕とするIII族窒化物半導体層であることをその成長場に於いて、リアルタイム(real−time)で確認できる。
【0062】
RHEED法に依り得られるIII族窒化物半導体層の表面からの回折パターン(RHEEDパターン)に、堆積中に常時、第III族元素を第V族元素よりも化学量論的に富裕に含む再配列構造に起因する輝線(streak line)を継続して生じつつ、堆積して出来上がるIII族窒化物半導体層は、層全体としても、第III族元素を第V族元素よりも化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層であると見做す。
【0063】
アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)若しくはインジウム(In)等の元素周期律表の第III族元素を窒素等の第V族元素に対して化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層、例えば、ガリウム(Ga)を窒素より富裕に含むGaNであれば、RHEEDパターン上には、例えば(2×2)等の再配列を示す回折パターンが現れる。
図2は、(2×2)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。図2には、ガリウム(Ga)を窒素(N)よりも化学量論的に富裕に含む窒化ガリウム(GaN)層からの(2×2)RHEEDパターンが例示されている。
図3は、(3×3)表面再配列構造を示すGaNの高速反射電子回折像である。図3には、図2とは逆に、窒素(N)をガリウム(Ga)よりも化学量論的に富裕に含む窒化ガリウム(GaN)層からのRHEEDパターンが例示されている。ここには、窒素(N)がガリウム(Ga)よりも富裕に含まれるときに生ずる(3×3)再配列構造が示されている。
【0064】
また、アルミニウム(Al)を窒素(N)よりも富裕に含む窒化アルミニウム(AlN)からは、(2×2)構造の他に(√3×√3)R30°または(2√3×2√3)R30°等のRHEEDパターンが得られる。また、第III族元素であるガリウム(Ga)とインジウム(In)とを窒素より化学量論的に富裕に含む窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1−XN)の場合、インジウム(In)組成比(=1−X)が小さいときは、(2×2)再配列構造が出現し、インジウム(In)組成比が大きいときは、(3×1)再配列構造が出現する。
【0065】
III族窒化物半導体層が第III族元素を化学量論的に富裕に含んで成るか否かは、RHEED法に加えて、湿式エッチング法に依っても調査できる。III族窒化物半導体層を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液に浸した場合に於ける、III族窒化物半導体層の侵食のされ方の差異から判断できる(MRS Internet J.Nitride Semicond.Res.,9(2004, The Materials Research Society, USA),p.p.1−34.)。
例えば、水酸化カリウムを20重量%の濃度で含む水溶液に60℃で2分間、継続して窒化ガリウム(GaN)層を浸漬した場合のIII族窒化物半導体層の表面の走査電子顕微鏡写真を図4及び図5に例示する。
図4は、ガリウムを窒素より化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。また、図5は、窒素をガリウムより化学量論的に富裕に含むGaN層の湿式処理後の表面写真である。
図4に示すように、第III族元素であるガリウムを窒素よりも化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層は、上記のアルカリ性水溶液に浸漬しても侵食され難い(図4参照)。一方、図5に示すように、窒素(N)をガリウム(Ga)より富裕に含むIII族窒化物半導体層では、同層の深部まで侵食され、粒状の窒化ガリウム(GaN)が散在した粗雑なものとなる(図5参照)。
【0066】
第III族元素を第V族元素と比較して化学量論的に富裕に含むIII族窒化物半導体層からは、化学量論的組成或いは第V族元素を富裕に含むIII族窒化物半導体層よりも高い強度の発光を呈する多波長発光III族窒化物半導体単層を構成できる。例えば、珪素(Si)単体金属を珪素(Si)のドーピング源とし、マグネシウム(Mg)単体金属をマグネシウム(Mg)ドーピング源として、固体ソースMBE法により成膜した、ガリウム(Ga)を化学量論的に富裕に含み、表面を(2×2)再配列構造とするSi及びMgドープ多波長発光GaN層からの最大のPL強度を仮に、1とする。これに対し、固体ソースMBE法で成長させた、表面を(3×3)再配列構造とし、窒素(N)を化学量論的に富裕に含むSi及びMgドープGaN層のPL強度は相対的に0.08と極めて微弱なものである。
【0067】
多波長光を同時に発光する機能は、換言すれば、波長が相違する複数の光を吸収する機能である。従って、本発明に係る多波長発光III族窒化物半導体単層は単一の波長の光のみでなく、波長が相違する複数の光を効率的に吸収する光電変換のための光吸収層、例えば太陽電池の受光層を構成するのにも優位となる。特に、遷移金属元素の含有量の少ない多波長発光III族窒化物半導体単層は、ディープレベル(deep level)の電子又は正孔の捕獲に因る励起電流の経時的変化を抑制できるため利便に用いることができる。
【0068】
本実施の形態では、波長が相違する3以上の光を出射できる多波長III族窒化物半導体単層を安定して形成するために、特別な構成の窒素プラズマを利用する。特別な構成の窒素プラズマとは、窒素分子の第二正帯(second positive molecular series)に由来する発光を殆ど生じない(発生しない場合を含む。)窒素プラズマである。高純度の窒素ガスに高周波を印加して生成した窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマは、本発明に係る窒素プラズマとして最適である。
【0069】
窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマを発生させるには、体積濃度にして、酸素ガス(分子式O2)濃度を0.1ppm未満とし、一酸化炭素(分子式:CO)及び二酸化炭素(分子式:CO2)の濃度をそれぞれ、0.1ppm未満とし、炭化水素ガス類の濃度を0.05ppm未満とし、水分(分子式:H2O)の濃度を0.55ppm未満とする、露点をマイナス(−)80℃を越えて低くする、例えば(−)85℃とする純度99.99995%以上の高純度窒素ガスが適する。
【0070】
窒素プラズマ内での窒素分子の第二正帯に由来する発光の有無は、窒素プラズマからの発光スペクトルから知ることができる。窒素プラズマの発光スペクトルは、一般的な分光器を使用して測定できる。窒素分子の第二正帯に由来する発光は、250nm以上で370nm以下の波長の範囲に生ずる。
図6は、本実施の形態に適する窒素プラズマの発光スペクトルである。
図6には、回折格子型の分光器を用いて測定した、多波長発光III族窒化物半導体単層を高周波プラズマMBE法で堆積するのに適する窒素プラズマからの発光スペクトルが示されている。ここで、本実施の形態に好適な窒素プラズマとは、図6に示す如く、300nm〜370nmの範囲に窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマである。上記の高純度窒素ガスを使用すれば、窒素分子の第二正帯に由来する発光を生じない窒素プラズマを簡便に発生させることができる。
【0071】
図6に例示した発光スペクトルは、流量を毎分0.4ccに設定した高純度窒素ガスに、周波数13.56メガヘルツ(単位:MHz)の高周波を400ワット(単位:W)の電力で入力して発生させた際のものである。本発明に係る多波長発光III族窒化物半導体層を形成するための高周波の周波数を13.56MHzとする場合には、入力する電力は、200W以上で600W以下とするのが適する。更に、250W以上で450W以下の範囲とするのがより適する。600Wを超える電力を入力すると、窒素分子の第二正帯に由来する発光の強度が高まるため不適である。入力する電力が250W未満と小さくては、多波長発光III族窒化物半導体層を安定して形成するのに充分な窒素プラズマを発生させられない。このため、層状ではなく、ガリウム(Ga)の液滴(droplet)を含む不連続なIII族窒化物半導体層が帰結される確率が高まるため望ましくはない。
【0072】
高いエネルギー状態に励起された(遷移状態:C3Πu→B3Πg)窒素分子の存在を示す窒素分子の第二正帯からの発光を生じないか、又は殆ど生じない窒素プラズマを窒素源とすると、表面が平坦な多波長発光III族窒化物半導体層を得るに優位となる。窒素に関連するイオン種により多波長発光III族窒化物半導体層の表面がスパッタ(spatter)される程度を減少させられると推考される。窒素分子の第二正帯からの発光を殆ど生じない窒素プラズマとは、窒素分子の第二正帯に因る発光の強度が、波長745nmの原子状窒素に因る発光の強度に比較して、1/10以下であることを云う。
【0073】
また、本実施の形態の多波長発光III族窒化物半導体単層を形成するのに適する窒素プラズマに係るもう一つの特徴は、波長745nm、821nm及び869nmに出現する3本の原子状(atomic)窒素の発光ピークの強度の相対的関係にある。本発明で窒素源として好適に使用できるのは、波長745mの発光ピークの強度が最大であり、次に波長869mの発光ピークの強度が高く、波長821nmの発光ピークの強度が3本の発光ピークの中で最も低いことにある。機構は充分に解明できていないが、この様なピーク強度に於ける相対的関係を有する窒素プラズマを窒素源とすれば、多波長発光III族窒化物半導体単層を簡便に安定してもたらすのに効果を上げられる。
【0074】
数的に単一なIII族窒化物半導体単層を基体上に堆積する場合のみならず、III族窒化物半導体単層を複数用いるに際しても、各単層は、窒素分子の第二正帯に因る発光を生じないか、又は殆ど発光を発生しない窒素プラズマを窒素源として形成する。例えば、多波長発光III族窒化物半導体単層を一つの井戸(well)層とし、その井戸層を複数、用いて多重量子井戸(英略称:MQW)構造の発光層を形成する場合を例にして説明する。例えば、ドナー不純物とアクセプター不純物の相対的な濃度比率を同一とするか否かに拘わらず、MQW構造の発光層をなす各井戸層は、窒素分子の第二正帯に因る発光を生じないか、又は殆ど発光を発生しない窒素プラズマ環境内で堆積する。また、例えば、層厚を同一とするか又は異にするかに拘わらず、各井戸層は、窒素分子の第二正帯に因る発光を生じないか、又は殆ど発光を発生しない窒素プラズマ環境内で堆積する。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
本実施例1では、本実施の形態が適用される多波長発光III族窒化物半導体単層を窒化ガリウム・インジウム(GaInN)単層から構成する場合を例に挙げ、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、本実施例1に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。図8は、本実施例1に記載の多波長発光層内の元素の原子濃度のSIMS分析結果を示す図である。図8には、多波長発光III族窒化物半導体単層の内部のSIMS分析による珪素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)の原子濃度(CONCENTRATION(atoms/cc))の深さ(depth(μm))方向の分布を示す図である。
【0077】
先ず、(111)結晶面を表面とするアンチモン(元素記号:Sb)ドープn型(111)−シリコン(Si)基板の表面上に、アルミニウム(Al)単体金属をアルミニウム源とする、高周波窒素プラズマ分子線エピタキシャル(MBE)法により、780℃でアンドープ(undope)の高抵抗の窒化アルミニウム(AlN)層(層厚=30nm)を成長した。成長時のステンレス鋼製の成長チャンバー内の圧力は5×10−3パスカル(圧力単位:Pa)とした。次に、AlN層上に、珪素(Si)単体をドーピング源として、MBE法により、750℃で珪素(Si)ドープn型窒化ガリウム(GaN)層(層厚=3μm、キャリア濃度=2×1018cm−3)を成長させた。ガリウム(Ga)のフラックス(flux)量は、1.1×10−4Paとした。成長時の成長チャンバー内の圧力は5×10−3Paとした。
【0078】
シリコン基板/AlN層/GaN層積層構造体からなる基体上には、上記のMBE法により、相分離を生じておらず、層内のインジウム組成を均一とするインジウム(In)組成を0.02とした窒化ガリウム・インジウム(組成式Ga0.98In0.02N)単層(層厚=800nm)を500℃で成長した。成長時の成長チャンバー内の圧力は5×10−3Paとした。ガリウム(Ga)のフラックス量は、1.1×10−4Paとし、インジウム(In)のフラックス量は1.3×10−6Paとした。
【0079】
Ga0.98In0.02N単層の成長時には、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)とをドーピングした。珪素(Si)は、珪素(Si)単体をドーピング源としてドーピングした。ドーピング源の珪素(Si)を収納するクヌードセン(Knudsen)セルの内部のPBN製ルツボ(坩堝)の温度は1150℃とした。マグネシウム(Mg)のドーピング源には、金属マグネシウム(Mg)単体を用いた。特に、珪素(Si)の含有量を0.5重量ppm(wt.ppm)以下とする純度99.9999重量%(=6N)のマグネシウム(Mg)をドーピング源とした。ドーピング源としたマグネシウム(Mg)を収納するPBN製クヌードセンセルの内部のルツボの温度は350℃とした。
【0080】
Ga0.98In0.02N単層の成長中には、高速電子回折(RHEED)により、表面の構造をリアルタイムで観察した。成長中の表面からは、前述した図2に例示した如く、インジウム(In)組成が小さいときに第III族元素であるガリウム(Ga)とインジウム(In)が窒素より化学量論的に富裕であることを示す(2×2)の再配列構造を示すRHEEDパターンが得られた。
【0081】
基体を構成するAlN層及びGaN層、基体上のGa0.98In0.02N単層の何れの成長層も、窒素ガスを高周波(13.56MHz)で励起した(励起電力=330ワット(単位:W))窒素プラズマを窒素源として成長した。窒素ガスの流量は毎分2.0ccとした。窒素プラズマを発生させるためのセル(cell)の基体と対向する開口部には、直径を0.5mmとした微細な孔を複数、穿孔した円形噴出板を設け、250ナノメートル(単位:nm)以上で370nm以下の波長領域の窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度を減少させた。これにより、第二正帯に因る発光ピークを、波長を745nmとする原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下とする窒素プラズマ雰囲気を形成した(図6参照)。
【0082】
この窒素プラズマ用セルを用いて発生させた窒素プラズマからは、波長を745nm、821nm、及び869nmとする3本の原子状窒素に因る発光が観測された。また、波長を745nmとする発光が3本のうちで最大とし、波長を869nmとする原子状窒素に因る発光ピークが、波長745nmの発光ピークに次いで高く、また、波長を821nmとする原子状窒素に因る発光ピークの強度が最も低い窒素プラズマとなった(図6参照)。
【0083】
図7には、Ga0.98In0.02N単層を表面とする上記の積層構造体のPLスペクトルが示されている。PLスペクトルは、ヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザー光(波長=325nm)を励起光として室温に於いて取得したものである。波長365nmに出現するGaNのバンド(band)端発光に加えて、より長波長の領域で複数の発光が生じている。表1に、図7に示す多波長発光を構成する発光のピーク波長とその強度(任意単位)をまとめた。この多波長発光を構成する発光は、バンド端発光(図7に示すPLスペクトルにおいて、最も短波長の波長364.7nmの発光である)に加えて、波長400nm以下の範囲で2つ、400nmを超え500nm以下の波長範囲で2個、500nmを超え600nm以下の波長帯域で2個の、バンド端発光を除き、600nm以下の波長帯域で合計6個の発光であった。このため、上記のレーザー励起光を構造体の表面に照射した際の発光色はほぼ白色と視認された。
【0084】
【表1】
【0085】
図8には、Ga0.98In0.02N単層の表面から深さ方向の珪素(Si)及びマグネシウム(Mg)の濃度分布が示されている。これらの元素の濃度分布は一般的な2次イオン質量分析(SIMS)法により測定した。珪素(Si)の原子濃度は3×1018原子/cm3であり、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。また、マグネシウム(Mg)の原子濃度は8×1017原子/cm3であり、これまた、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域(表面から約70nm迄の領域)で両元素の原子濃度が層の深部より高く測定されるのは、単層の表面に吸着した酸素(元素記号:O)等に因る分析上の干渉(interference)のためと解釈された。珪素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子濃度比は、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍領域から深さ約650nmに至る領域で0.27とほほ一定の比率であった。
【0086】
また、図8には、Ga0.98In0.02N単層の表面から深さ方向の水素(H)及び炭素(C)及び酸素(O)の濃度分布が示されている。これらの元素の濃度分布も一般的なSIMS法により測定した。Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域(表面から約70nm迄の領域)より層の深部の領域で、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)の原子濃度は、何れもほぼ一定であった。また、水素(H)、炭素(C)及び酸素(O)の3元素の原子濃度を比較すると、水素(H)が最も高く、酸素(O)が最低であった。アンモニアを使用せず、特有の発光強度を呈する窒素プラズマを窒素(N)源としてGa0.98In0.02N単層を成長させたため、何れの原子濃度も、マグネシウム(Mg)原子濃度より低かった。例えば、Ga0.98In0.02N単層の層厚の中央(表面から深さ400nmの深さ)でのマグネシウム(Mg)の原子濃度は8×1017cm−3であるのに対し、水素(H)の原子濃度は、9×1016cm−3であり、次に濃度の高い炭素(C)は、3×1016cm−3であり、3元素の中で最低の酸素(O)の原子濃度は、2×1016cm−3であった。
【0087】
(実施例2)
多波長発光III族窒化物半導体単層としての窒化ガリウム・インジウム(GaInN)単層をサファイア基板上に製膜する場合を例に挙げ、図9を用いて本発明を説明する。
図9は、本実施例2に記載する多波長発光III族窒化物半導体単層の室温フォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
サファイア結晶の(0001)(c面)表面上に、上記の実施例1に記載したのと同一の条件でアンドープの窒化アルミニウム(AlN)層、珪素(Si)ドープn型窒化ガリウム(GaN)層およびインジウム(In)組成を0.02とした相分離を生じていない、層内でのインジウム組成を均一とする、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)とをドーピングしたGa0.98In0.02N単層を成長させた。
【0088】
一般的な2次イオン質量分析(SIMS)に依れば、珪素(Si)の原子濃度は、上記の実施例1とほぼ同じく4×1018原子/cm3であり、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。マグネシウム(Mg)の原子濃度も上記の実施例1と同じく8×1017原子/cm3であり、Ga0.98In0.02N単層表面の近傍の領域を除き、深さ方向にほぼ一定の原子濃度で分布をしていた。また、水素(H)の原子濃度は、1×1017cm−3であり、炭素(C)の原子濃度は、1×1016cm−3であり、酸素(O)の原子濃度は、5×1016cm−3であった。いずれもマグネシウム(Mg)の原子濃度より低かった。
【0089】
図9には、Ga0.98In0.02N単層を表面とする上記の積層構造体のPLスペクトルが示されている。PLスペクトルは、ヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザー光(波長=325nm)を励起光として室温で取得したものである。光子エネルギーにして3.4エレクトロンボルト(単位:eV)のGaNのバンド(band)端発光より低い光子エネルギー側で発光が生じている。光子エネルギーに依って強度は相違するものの、3.4eVから2.0eVの範囲で、少なくとも3以上の波長を異にする発光が重畳した連続スペクトルとなっていた。このため、上記のレーザー励起光を構造体の表面に照射した際の発光色は白色と視認された。
【0090】
(実施例3)
本発明に係る波長が相違する複数の光(多波長光)を発する窒化ガリウム・インジウム(GaInN)単層を井戸(well)とする多重量子井戸(略称:MQW)構造からなる多波長発光層を構成する場合を例に挙げ、図10及び図11を用いて説明する。
図10は、本実施例3に係るMQW構造の発光層の断面構造を示す透過電子顕微鏡(TEM)像である。図11は、図10に示すMQW構造から得られる室温カソードルミネッセンス(CL)スペクトルである。
【0091】
Ga0.94In0.06N多波長発光層を井戸層とするMQW構造は、表面の結晶面方位を(111)とするアンチモン(元素記号:Sb)ドープn型シリコン(Si)基板表面上に形成した。基板の表面は、弗化水素酸(化学式:HF)等の無機酸を使用して洗浄後、分子線エピタキシャル(MBE)成長装置の成長室に搬送し、その成長室の内部を7×10−5パスカル(圧力単位:Pa)の超高真空に排気した。その後、成長室の真空度を維持しつつ、基板の温度を780℃に昇温して、基板の表面が(7×7)構造の表面再配列構造を呈する迄、継続して加熱した。
【0092】
(7×7)構造の再配列構造を呈する様に清浄化された(111)−シリコン基板の表面上には、高周波(13.56MHz)を印加してプラズマ化させた窒素を窒素源とする高周波窒素プラズマMBE法に依り、アンドープの窒化アルミニウム(AlN)層(層厚=5nm)を760℃で形成した。窒素ガスの流量は毎分0.4ccとし、また、アルミニウム(Al)フラックス量は7.2×10−6Paとした。
【0093】
AlN層上には、上記の高周波窒素プラズマMBE法に依り、アンドープの窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGa1−XN)組成勾配層(層厚=300nm)を760℃で堆積した。AlXGa1−XN組成勾配層のアルミニウム(Al)組成比(X)は、AlN層との接合面から組成勾配層の表面に向けて、0.30から0(零)へと、組成勾配層の層厚の増加に比例してAl組成を直線的に連続的に減少させた。組成勾配層の成長時には、窒素ガスの流量は毎分0.4ccと一定とし、また、ガリウム(Ga)のフラックス量も1.3×10−4Paと一定とした。一方で、アルミニウム(Al)フラックス量は、組成勾配層の成長開始時には7.2×10−6Paとし、それより成長時間の経過と共に直線的に減少させた。組成勾配層の成長終了時にはAlN層の表面へ向けてのAlのフラックスを遮断した。
【0094】
AlXGa1−XN組成勾配層(X=0.3→0)上には、窒素プラズマMBE法に依り、珪素(Si)ドープn型GaN層を堆積した。GaN層の層厚は1800nmとなる様に、また、キャリア濃度は4×1018cm−3となる様に成長条件を設定した。このGaN層の層厚は1000nmを超える厚い膜のため、この層を成長するときに限り、一つのMBE成長チャンバーに取り付けた2機の高周波窒素プラズマ発生装置から窒素プラズマを発生させた。窒素ガスの流量は各々の発生装置につき毎分1.5ccに設定した。ガリウム(Ga)のフラックス量を1.3×10−4Paとして、120分間でGaN層の成長を終了した。GaN層の成長の途中時及び終了時での表面再配列構造は、ガリウム(Ga)を窒素(N)よりも化学量論的に富裕に含むことを示す(2×2)構造であった(図2に示すRHEEDパターン参照)。
【0095】
n型GaN層の(2×2)再配列構造を有する表面上には、上記の高周波窒素プラズマMBE法により、基板の温度を550℃として、多重量子井戸構造の障壁層とするアンドープn型GaN層(層厚=26nm)を堆積した。次に、同じく上記の窒素プラズマMBE法に依り、550℃で、このn型GaN障壁層に接合させて、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を含むn型窒化ガリウム・インジウム混晶(Ga0.94In0.06N)からなる井戸層(層厚=4nm)を設けた。このn型障壁層とn型井戸層とからなる一対の構造単位を8対(8ペア(pair))積層させた後、最上層として上記のn型GaN障壁層を堆積し、全体としてn型の伝導を呈する多重量子井戸(MQW)構造層を形成した。図10には、このMQW構造層の断面構成のTEM像が示されている。
【0096】
また、図11には、上記の発光層をなす多重量子井戸構造の一井戸層をなすGa0.94In0.06Nから得られた室温のCLスペクトルが示されている。数的に単一の層であっても、波長が相違する多数の発光が出射されることが如実に明示されている。バンド端発光(図11に示す最も短波長の発光)に加え、390nm以上で500nm以下の波長範囲で2つ、500nmを超え750nm以下の波長帯域で4つ、400nm以上で550nm以下の波長帯域で4つ、結局のところ、390nm以上で750nm以下の波長帯域で合計6つの発光が呈された。
【0097】
上記の多重量子井戸構造の障壁層をなすGaN層の成長途中及び終了時のRHEEDパターンは何れも(2×2)再配列構造を示した(図2参照)。また、上記の多重量子井戸構造の井戸層をなすGa0.94In0.06N層の成長途中及び終了時のRHEEDパターンは何れも(3×1)再配列構造を示した。このことから、上記の多重量子井戸構造に於ける一対の構造単位は、ガリウム(Ga)を窒素(N)より化学量論的に富裕に含むGaN層と、第III族元素(ガリウム(Ga)とインジウム(In))を窒素(N)より化学量論的に富裕に含むGa0.94In0.06N層とから構成されるものとなった。
【0098】
一般的なSIMS分析法に依れば、Ga0.94In0.06N井戸層に含まれる珪素(Si)の原子濃度は7×1018cm−3であった。また、マグネシウム(Mg)の原子濃度は、珪素(Si)の原子濃度よりも低く、且つ、窒化ガリウム・インジウム(GaInN)層の表面を急激に乱雑なものとするマグネシウム(Mg)の臨界的な原子濃度(=3×1018cm−3)未満であり、高くとも6×1017cm−3であった。このため、上記の8対の構造単位を積層させた多重量子井戸構造の表面は、250nm以上で370nm以下の波長領域での窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度を、波長を745nmとする原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下とする窒素プラズマを利用したことと相俟って凹凸が無い良好な平坦面となった。
【0099】
Ga0.98In0.02N井戸層を含め多重量子井戸構造の内部での水素(H)の原子濃度は3×1016cm−3であり、炭素(C)の原子濃度は1×1017cm−3であり、酸素(O)の原子濃度は、3元素の中で最も低く2×1016cm−3であった。
【0100】
(比較例1)
上記の実施例1と同様に、高周波窒素プラズマMBE法により、n型(111)−シリコン基板の(111)表面上に、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を同時にドープしたGa0.98In0.02N単層を成長させた。但し、本比較例1では、Ga0.98In0.02N単層の層厚を、上記の実施例1の場合の半分の400nmとした。
【0101】
また、本比較例1では、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)を同時にドープして成長させつつも、層厚の増加方向にマグネシウム(Mg)原子の濃度分布を上記の実施例1とは相違するGa0.98In0.02N単層を成長させた。マグネシウム(Mg)の原子濃度に分布を付すため、マグネシウム(Mg)セルの温度を、Ga0.98In0.02N単層の成長開始時の340℃より、毎分3℃の割合で一律に低下させ、30分間に亘る同層の成長の終了時には250℃に低下させた。
【0102】
図12は、比較例1記載の多波長発光を生じない単層内の元素の原子濃度のSIMS分析の結果を示す図である。図12には、一般的なSIMS分析で測定した比較例1に記載のGa0.98In0.02N単層のマグネシウム(Mg)、珪素(Si)及び水素(H)の深さ方向の原子濃度の分布が示されている。図12に示すように、珪素(Si)は層内でほぼ一様に分布しており、その原子濃度は、層内でほぼ一定の5×1018cm−3となっている。一方、マグネシウム(Mg)の原子濃度は、上記のマグネシウム(Mg)ドーピングセルの温度をGa0.98In0.02N単層の層厚の増加と共に低温としたのに対応して、下地のGaN層との接合界面で6×1017cm−3であるが、Ga0.98In0.02N単層の表面に向けて漸次、減少していた。特に、層厚の半分に相当する深さ(=200nm)よりGa0.98In0.02N単層の表面に向かう領域で5×1016cm−3またはそれ未満の低濃度となっていた。Ga0.98In0.02N単層の表面から80nmの深さに於けるマグネシウム(Mg)の原子濃度は、4×1016cm−3であった。
【0103】
本比較例1のGa0.98In0.02N単層の内部に於けるマグネシウム(Mg)原子の濃度は、上記の実施例1の場合とは異なり、層厚方向に一定となっていなかった。このため、珪素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子濃度の比率は、下地のGaN層との接合界面では、0.1となり、Ga0.98In0.02N単層の表面から80nmの深さでは0.8×10−2となった。
【0104】
また、水素原子も上記の実施例1の場合の様に深さ方向にほぼ一様に分布しておらず、Ga0.98In0.02N単層の層厚の半分に相当する深さより表面に向けて漸次、濃度を高くして分布していた。また、Ga0.98In0.02N単層の層厚の半分に相当する深さ(=200nm)より表面に向かう、マグネシウム(Mg)の原子濃度が5×1016cm−3またはそれ未満の低濃度となっている領域での水素原子濃度は、そのマグネシウム(Mg)の原子濃度を上回るものとなった。Ga0.98In0.02N単層の層厚の半分に相当する深さ(=200nm)での水素原子の濃度は、7×1016cm−3であった。水素原子濃度は、Ga0.98In0.02N単層の表面に向かって、マグネシウム(Mg)の原子濃度が漸次、減少しているのに対応するかの如く、同層の表面に向けて漸次、増加していた(図12参照)。Ga0.98In0.02N単層の表面から30nmの深さに於ける水素(H)の原子濃度は2×1018cm−3であった(図12参照)。
【0105】
図13は、本比較例1に記載の多波長発光を生じない単層の室温PLスペクトルを示す図である。図13には、Ga0.98In0.02N単層からの室温でのPLスペクトルが示されている。図13に示すように、窒化ガリウム(GaN)のバンド端の近傍の波長で、また波長を約550nmから約620nmとする領域に幅広い(ブロード(broad)な)発光を生じている。このブロードな発光は、イエロールミネッセンス(yellow luminescence)と称され、結晶欠陥が関与した発光と推察される(JACQUES I. PANKOVE and THEODORE D. MOUSTAKAS (Editors),“Gallium Nitride (GaN) I,SEEMICONDUCTORS AND SEMIMETALS Vol.50(ACADEMIC PRESS,1988)”,291−295)。
【0106】
本比較例1では、図13に図示した様に、Ga0.98In0.02N単層の内部のマグネシウム(Mg)の原子濃度は6×1017cm−3以下であった。このため、同単層の表面は、然して凹凸も無く平坦であった。しかし、珪素(Si)とマグネシウム(Mg)とを層内に共存させたとは云えども本比較例1のGa0.98In0.02N単層では、波長が相違する複数の光を同時に出射される多波長発光を顕現するに至らなかった。これは、上記の実施例1に記載した如く、Ga0.98In0.02N単層の全体に亘り、マグネシウム(Mg)が多波長発光を発現するために必要な臨界的な原子濃度である5×1016cm−3以上に含まれていないからであると推考された。
【0107】
本比較例1のGa0.98In0.02N単層にあっては、水素の原子濃度が臨界値としての2×1018cm−3を超えると急激に認められる発光強度の短期的な経時変化が認められた。特に、発光スペクトルを測光するカソードミネッセンス(CL)法に於いて、励起源として電子を照射し始めた直後と、その照射から5分を経過後の短期間でも、GaNのバンド端の発光強度が徐々に増加するのが認められた。このCL発光強度のドリフト(drift)は、励起源である電子とGa0.98In0.02N単層内部の水素との何らかの相互作用、或いは同層内のマグネシウム(Mg)と水素(H)との電気的な複合体(complex)の解離等にも因るものと推考されるが、いずれにしても表面近傍の領域にマグネシウム(Mg)の原子濃度を超えて水素が含まれていることに起因していると推定される。
【0108】
(実施例4)
本実施例4では、波長を異にする複数の発光をもたらす多波長発光III族窒化物半導体単層を含む積層体を用いてIII族窒化物半導体素子を構成する場合を例にして、図14を用いて本発明の内容を説明する。
図14は、実施例4に記載の多波長発光III族窒化物半導体単層を備えたLEDの発光パターンを示す図である。図14には、実施例4に記載のLEDに通電した際の発光状況が示されている。
マグネシウム(Mg)の原子濃度が3×1018原子cm−3を超えると、表面の平坦性は急激に悪化し、凹凸の激しい粗雑な表面となるが、本実施例1のGa0.98In0.02N単層では、マグネシウム(Mg)の原子濃度は、珪素(Si)に比べて少ない上に、表面の平坦性の良否に係るこの臨界的な濃度より低いため、同単層の表面は平坦であった。このため、本実施例4では、Ga0.98In0.02N単層を発光層として利用し、その層上に、520℃でMgドープp型GaN層(層厚=90nm)を設けて、発光ダイオード(LED)用途のpn接合型ダブルヘテロ構造の積層体を形成した。窒素プラズマMBE法により、このp型GaN層を成長させる際にも、窒素分子の第2正帯に因る発光を生じない窒素プラズマを窒素源として用いた。p型GaN層の内部のマグネシウム(Mg)の原子濃度は1×1019cm−3となる様に成長条件を設定した。
【0109】
その後、一般的なドライエッチング法により、n型オーミック電極を形成する領域に在るMgドープp型GaN層及びGa0.98In0.02N単層を除去した。これらの層を除去して露出させたn型窒化ガリウム層の表面には、n型オーミック電極を形成した。一方、エッチング後に残置したp型GaN層の表面にはp型オーミック電極とそれに電気的に導通する台座(pad)電極を形成し、発光ダイオード(LED)を作製した。一辺の長さを約350ミクロンメートル(単位:μm)とする正方形の平面形状のLEDチップ(chip)の表面上には、白色光をもたらすための蛍光体を設けることはしなかった。
【0110】
作製したLEDからは、図1に示したと同様に、波長が異なる複数の発光を反映して、白色光が出射されるのが目視された。また、発光層をなす上記のGa0.98In0.02N層内のマグネシウム(Mg)の原子濃度が8×1017cm−3であるのに対して、水素の原子濃度は9×1016cm−3であり、酸素原子濃度は2×1016cm−3であった。このため、発光の波長及び強度の経時的変化(ドリフト)は殆ど認められなかった。これは、マグネシウム(Mg)原子濃度に対して、本発明の如く規定された水素及び酸素の原子濃度を有することに起因すると判断された。
【0111】
電気的特性の一端を記せば、ダイオードの順方向に通流させる電流(順方向電流)を20ミリアンペア(単位:mA)とした際の順方向電圧は3.5ボルト(単位:V)となった。また、順方向電圧を3.5Vに固定して順方向電流の経時変化(所謂、電流ドリフト)を測定した。順方向電流は20mAから経時的に殆ど変化しなかった。
【0112】
(実施例5)
本実施例5では、波長を異にする複数の発光をもたらす多波長発光III族窒化物半導体単層を井戸層とする多重量子井戸(MQW)構造を含む積層体を用いて構成した発光素子(LED)を図15及び図16を用いて説明する。
図15は、本実施例5に記載するLEDの断面構造を示す模式図である。図16は、図15に示すLEDの平面模式図である。図15に示すように、発光素子(LED)10は、Si基板101上に形成されたAlN層102の上に、AlGaN組成勾配層103を有している。AlGaN組成勾配層103の上には、n型GaN層104、多重量子井戸構造発光層105、p型GaN層106が順次積層されている。
さらに、p型GaN層106上にp型オーミック電極108が形成されるとともに、n型GaN層104に形成された露出領域にn型オーミック電極107が積層されている。多重量子井戸構造発光層105は、GaN障壁層105a及びGaInN井戸層105b(多波長発光Ga0.94In0.06N井戸層)が交互に積層され、最上層にGaN障壁層105aが積層された構造を有する。
【0113】
本実施例5では、上記の実施例2に記載のMQW構造を多重量子井戸構造発光層105として用いてLED10を構成した。多重量子井戸構造発光層105の最終端(最表層)をなすGaN障壁層上には、高周波窒素プラズマMBE法により、マグネシウム(Mg)ドープp型GaN層106(層厚=85nm)を設けて、LED10用途の構造体の形成を終了した。p型GaN層106の内部のマグネシウム(Mg)の原子濃度は1×1019cm−3となる様に成長条件を設定した。
【0114】
n型オーミック電極107を形成する領域にあるp型GaN層106及び多重量子井戸構造発光層105を一般的なドライエッチング法により選択的に除去した。その後、エッチングにより露出させたn型GaN層104の表面にn型オーミック電極107を形成した。また、エッチング後に残置させたp型GaN層106の表面には、一般的なフォトリソグラフ技術を利用してパターニングした格子状のp型オーミック電極108を形成した。格子状に配置した幅4×10−4cmのp型オーミック電極108は、p型GaN層106にオーミック接触をなす白金(Pt)系金属から構成した。また、p型GaN層106の表面上の一端には、この格子状p型オーミック電極108に電気的に導通させて結線(ボンデング)用の台座(パッド)電極109を設けてLED10(チップ(chip))を作製した。チップ(chip)の表面上には、白色光をもたらすためのY3Al5O12等の蛍光体を一切、設けなかった。
【0115】
一辺の長さを約400μmとする正方形のLED10に20mAの順方向電流を通流した際の順方向電圧(Vf)は3.4Vであった。20mAの順方向電流を通流した際に波長350nmから700nmの範囲で測光された発光のピーク波長は、365nm、385nm、440nm、500nm、550nm、600nm及び670nmであった。この様な広い波長範囲で波長が相違する複数の発光が顕現されたため、目視される発光色は白色であった。また、多波長発光を構成する各々の発光の波長及び発光強度は、経時的に殆ど変化しなかった。
【符号の説明】
【0116】
10…発光素子(LED)、101…Si基板、102…AlN層、103…AlGaN組成勾配層、104…n型GaN層、105…多重量子井戸構造発光層、105a…GaN障壁層、105b…GaInN井戸層、106…p型GaN層、107…n型オーミック電極、108…p型オーミック電極、109…台座(パッド)電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成され、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層と、を備え、
前記III族窒化物半導体層は、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を備えている
ことを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記III族窒化物半導体層は、複数の前記多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長500nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上550nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、珪素を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、マグネシウムを原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ水素の原子濃度より高いことを特徴とする請求項6に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、水素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、炭素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、酸素を原子濃度が1×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項11に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項13】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項14】
基体上に形成された多波長発光III族窒化物半導体層であって、
ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含み、
窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、
放射再結合による発光スペクトルが、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有する
ことを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項15】
前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上750nm以下の帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする請求項14に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項16】
前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が500nm以上750nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする請求項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項17】
前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上550nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする請求項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項18】
前記ドナー不純物として珪素(元素記号:Si)を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、前記アクセプター不純物としてマグネシウム(元素記号:Mg)を原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含む
ことを特徴とする請求項14乃至17のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項19】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ水素(元素記号:H)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項20】
前記水素の原子濃度が、2×1018cm−3以下であることを特徴とする請求項19に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項21】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項22】
前記炭素の原子濃度が2×1018cm−3以下であることを特徴とする請求項21に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項23】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項24】
前記酸素の原子濃度が1×1018cm−3以下であることを特徴とする請求項23に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項25】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項26】
請求項14乃至25のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法であって、
分子線エピタキシャル(MBE)法において、圧力5×10−3パスカル(圧力単位:Pa)以下の環境内に窒素プラズマ雰囲気を形成し、
前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上750℃以下の範囲に保ち、
前記窒素プラズマ雰囲気内の前記基体上に、表面が(2×2)再配列構造、または(3×1)再配列構造となるようなフラックス量でガリウムを含む第III族元素源を供給しつつ、ドナー不純物及びアクセプター不純物を同時に供給する
ことを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項27】
前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上620℃以下とし、且つ前記ドナー不純物としての珪素と前記アクセプター不純物としてのマグネシウムとを、当該珪素に対する当該マグネシウムのフラックス比率を0.1以下として当該窒素プラズマ雰囲気内に同時に供給し、当該ドナー不純物としての当該珪素を6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の原子濃度の範囲で含み、且つ当該アクセプター不純物としての当該マグネシウムを5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の原子濃度の範囲で含むことを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項28】
前記窒素プラズマ雰囲気は、窒素ガス(分子式:N2)の供給量が0.1cc/分以上4.8cc/分以下の条件で発生させ、且つ前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項29】
前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる炭素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項30】
前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる酸素の原子濃度を1×1018cm−3以下とすることを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項31】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度が、波長745nmにおける原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下であることを特徴とする請求項26乃至30のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項32】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークを生じないことを特徴とする請求項31に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項33】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長745nm、821nm及び869nmにおける原子状窒素に因るそれぞれの発光ピークの中で、波長745nmにおける発光ピークの強度が最高であることを特徴とする請求項31又は32に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項34】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長869nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークが、波長745nmにおける当該原子状窒素に因る前記発光ピークに次いで高い強度を呈することを特徴とする請求項33に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項35】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長821nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークの強度が最も低いことを特徴とする請求項33に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成され、ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含むIII族窒化物半導体層と、を備え、
前記III族窒化物半導体層は、窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射する多波長発光III族窒化物半導体単層を備えている
ことを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記III族窒化物半導体層は、複数の前記多波長発光III族窒化物半導体単層を備えていることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長500nm以上750nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、波長400nm以上550nm以下の帯域において、波長が異なる少なくとも3個の光を同時に出射することを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、珪素を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、マグネシウムを原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ水素の原子濃度より高いことを特徴とする請求項6に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、水素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、炭素を原子濃度が2×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、酸素を原子濃度が1×1018cm−3以下の範囲で含むことを特徴とする請求項11に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項13】
前記III族窒化物半導体層の前記多波長発光III族窒化物半導体単層は、マグネシウムの原子濃度が珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項14】
基体上に形成された多波長発光III族窒化物半導体層であって、
ドナー(donor)不純物とアクセプター(acceptor)不純物が添加され且つガリウム(元素記号:Ga)を必須の構成元素として含み、
窒素を含む第V族元素よりもガリウムを含む第III族元素を化学量論的に富裕に含んでなり、
放射再結合による発光スペクトルが、バンド(band)端発光とは別に、バンド端発光より長い波長の領域において、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有する
ことを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項15】
前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上750nm以下の帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする請求項14に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項16】
前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が500nm以上750nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする請求項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項17】
前記放射再結合による発光スペクトルは、波長が400nm以上550nm以下とする帯域で、波長が異なる少なくとも3個の極大値を有することを特徴とする請求項15に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項18】
前記ドナー不純物として珪素(元素記号:Si)を原子濃度が6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で含み、前記アクセプター不純物としてマグネシウム(元素記号:Mg)を原子濃度が5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の範囲で含む
ことを特徴とする請求項14乃至17のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項19】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ水素(元素記号:H)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項20】
前記水素の原子濃度が、2×1018cm−3以下であることを特徴とする請求項19に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項21】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ炭素(元素記号:C)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項22】
前記炭素の原子濃度が2×1018cm−3以下であることを特徴とする請求項21に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項23】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ酸素(元素記号:O)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項24】
前記酸素の原子濃度が1×1018cm−3以下であることを特徴とする請求項23に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項25】
前記マグネシウムの原子濃度が前記珪素の原子濃度より低く、且つ硼素(元素記号:B)の原子濃度より高いことを特徴とする請求項18に記載の多波長発光III族窒化物半導体層。
【請求項26】
請求項14乃至25のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法であって、
分子線エピタキシャル(MBE)法において、圧力5×10−3パスカル(圧力単位:Pa)以下の環境内に窒素プラズマ雰囲気を形成し、
前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上750℃以下の範囲に保ち、
前記窒素プラズマ雰囲気内の前記基体上に、表面が(2×2)再配列構造、または(3×1)再配列構造となるようなフラックス量でガリウムを含む第III族元素源を供給しつつ、ドナー不純物及びアクセプター不純物を同時に供給する
ことを特徴とする多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項27】
前記窒素プラズマ雰囲気内に置いた基体の温度を400℃以上620℃以下とし、且つ前記ドナー不純物としての珪素と前記アクセプター不純物としてのマグネシウムとを、当該珪素に対する当該マグネシウムのフラックス比率を0.1以下として当該窒素プラズマ雰囲気内に同時に供給し、当該ドナー不純物としての当該珪素を6×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の原子濃度の範囲で含み、且つ当該アクセプター不純物としての当該マグネシウムを5×1016cm−3以上3×1018cm−3以下の原子濃度の範囲で含むことを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項28】
前記窒素プラズマ雰囲気は、窒素ガス(分子式:N2)の供給量が0.1cc/分以上4.8cc/分以下の条件で発生させ、且つ前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる水素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項29】
前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる炭素の原子濃度を2×1018cm−3以下とすることを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項30】
前記多波長発光III族窒化物半導体層に含まれる酸素の原子濃度を1×1018cm−3以下とすることを特徴とする請求項26に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項31】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークの強度が、波長745nmにおける原子状窒素の発光ピークの強度の1/10以下であることを特徴とする請求項26乃至30のいずれか1項に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項32】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長領域250nm以上370nm以下における窒素分子の第二正帯に因る発光ピークを生じないことを特徴とする請求項31に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項33】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長745nm、821nm及び869nmにおける原子状窒素に因るそれぞれの発光ピークの中で、波長745nmにおける発光ピークの強度が最高であることを特徴とする請求項31又は32に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項34】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長869nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークが、波長745nmにおける当該原子状窒素に因る前記発光ピークに次いで高い強度を呈することを特徴とする請求項33に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【請求項35】
前記窒素プラズマ雰囲気は、波長821nmにおける前記原子状窒素に因る前記発光ピークの強度が最も低いことを特徴とする請求項33に記載の多波長発光III族窒化物半導体層の形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−89651(P2012−89651A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234530(P2010−234530)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]