説明

JNKシグナル伝達経路の細胞透過性ペプチド阻害剤

【課題】JNKのシグナル伝達経路に関する新しい種類の阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明は、タンパク質キナーゼ阻害剤に関し、より具体的にはタンパク質キナーゼc‐Junアミノ末端キナーゼの阻害剤に関する。さらに、本発明は、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、およびそれらをコードする核酸、ならびにJNKのシグナル伝達に関連する病態生理を治療するための薬理学的組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質キナーゼ阻害剤、より具体的にはタンパク質キナーゼc‐Junアミノ末端キナーゼの阻害剤に関する。さらに、本発明は、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、およびそれらをコードする核酸、ならびに、JNKのシグナル伝達に関係する病態生理を治療するための薬理学的組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
c‐Junアミノ末端キナーゼ(JNK)は、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼのストレス活性化グループの一員である。これらのキナーゼは、細胞増殖および分化の調節、および、より一般的には、環境刺激に対する細胞の反応にかかわる。JNKシグナル伝達経路は、環境ストレスに反応して活性化し、細胞表面受容体の様々な分類の関与により活性化する。これらの受容体はサイトカイン受容体、蛇行形受容体、チロシンキナーゼ受容体を含むことができる。哺乳類細胞において、JNKは、発癌性形質転換、および、環境ストレスに対する適応反応を調節するなど生物過程にかかわっている。また、JNKは、免疫細胞の成熟および分化を含んでいる免疫反応を調節する、その上に免疫機構による破壊に関して同定された細胞におけるプログラム細胞死をもたらすことに関係している。この特異的な特性は、JNKのシグナル伝達を、薬理学的介入を促進するための有望な標的にする。JNKのシグナル伝達は、様々な神経障害に共通して、特に虚血性脳梗塞およびパーキンソン病にかかわる。
【0003】
JNKのシグナル伝達に非常に関連する病気と立ち向かう1つのアプローチは、JNKのシグナル伝達経路の阻害剤を供給することである。そのような阻害剤は、従来技術において知られている。なお、前記技術は、例えばタンパク質キナーゼのATP‐結合部位と競合することによりキナーゼの活性に直接作用する、上流キナーゼ阻害剤(例えば、CEP‐1347)、JNKの低分子量化学阻害剤(SP600125およびAS601245)、および、JNKとその基質の間の相互作用を阻害するペプチド阻害剤(D‐JNKI、I‐JIP)を、特に含んでいる(例えば、「Kuan ら, Current Drug Targets - CNS & Neurological Disorders, February 2005, vol. 4, no. 1 , pp. 63-67(5)」を参照)。
【0004】
上流キナーゼ阻害剤CEP‐1347(KT7515)は、キナーゼファミリー系統を合わせた半合成阻害剤である。CEP‐1347(KT7515)を、一次胚培養物および栄養供給を停止した後に分化したPC12細胞において、ならびに1‐メチル‐4‐フェニルテトラヒドロピリジン処理したマウスにおいて、c‐Junアミノ末端キナーゼ(GNKs)の活性化を阻害するという用量で用いれば、神経生存を促進する。さらに、CEP‐1347(KT7515)は、培養されたニワトリ胚の後根神経節、交感神経、毛様態神経および運動神経の長期生存を促進することができる(例えば、「Borasio ら, Neuroreport. 9(7): 1435-1439, May 11th 1998」を参照)。
【0005】
JNKの低分子量化学阻害剤SP600125は、(i)c‐Junのリン酸化のレベルを減らす、(ii)ドーパミン作動性神経のアポトーシスを保護する、および、(iii)C57BL/6Nマウスにおいて、MPTPに誘導されるPDにおけるドーパミンのレベルを部分的に回復することが発見された(「Wang ら, Neurosci Res. 2004 Feb; 48(2); 195-202」)。これらの結果により、(i)JNK経路は、インビボにおいてMPTPの神経毒性作用の主要な媒介物である、(ii)JNK活性を阻害することは、PDを治療するための新しく効果的な戦略である、ことをさらに示す。
【0006】
さらに、低分子量化学阻害剤の例は、前述のJNK‐阻害剤AS601245である。AS601245は、JNKのシグナル伝達経路を阻害し、且つ、脳虚血が生じた後の細胞生存を促進する。インビボにおいて、AS601245は、一過性の全虚血のアレチネズミモデルにおいて、海馬CA1神経細胞の遅延性の損失に対する顕著な保護を提供する。この効果は、JNK阻害剤により媒介され、したがって、c‐Junの発現およびc‐Junのリン酸化により媒介される(例えば、「Carboni ら, J Pharmacol Exp Ther. 2004 JuI; 310(1):25-32. Epub 2004 Feb 26th」を参照)。
【0007】
JNKのシグナル伝達経路の阻害剤の第3分類は、上記のような、JNKとその基質との間の相互作用を阻害するペプチド阻害剤を示す。そのようなJNK阻害剤ペプチドのコンストラクションのための起点として、野生型のJNKタンパク質の配列アライメントが用いられていてもよい。一般的には、これらのタンパク質は、JNK結合領域(JBD)を含み、IB1およびIB2のような様々なインスリン結合(IB)タンパク質に存在している。そのような模範的な配列アライメントの結果は、例えば、IB1(配列番号13)、IB2(配列番号14)、c‐Jun(配列番号15)、および、ATF2(配列番号16)のJNK結合領域の間の配列アライメントである(図1A‐Cを参照)。そのようなアライメントにより、部分的に保存された8アミノ酸配列が明らかになった(図1Aを参照)。さらに、IB1およびIB2のJBD同士を比較すれば、2つの配列の間において高く保存されている7アミノ酸および3アミノ酸の2つのブロックが明らかになる。
【0008】
そのようなアライメントに基づいてコンストラクトされた配列は、例えば、国際公開公報第01/27268号パンフレットに公開されている。特に、(i)HIV‐TATタンパク質の塩基性輸送配列に由来する、いわゆるTAT細胞透過配列、および(ii)IB1の最小20アミノ酸阻害性配列を含んでいる低分子量の透過性細胞融合ペプチドが、国際公開公報第01/27268号公報に公開されている。両者は、お互いに共有結合している。国際公開公報第01/27268号公報に公開されたMAPK‐JNKのシグナル伝達経路の模範的な(およびそれだけ存在している)阻害剤は、例えば、L‐JNKI1(Lアミノ酸で構成されたJNK阻害剤ペプチド)またはプロテアーゼ耐性のD‐JNKI1ペプチド(非天然Dアミノ酸で構成されたJNK阻害剤ペプチド)である。これらのJNK阻害剤(JNKI)ペプチドは、JNK(JNK1、JNK2、およびJNK3)に対して特異的である。上記のような低分子量化合物阻害剤と比べて、国際公開公報第01/27268号明細書に公開された阻害剤配列、例えばJNKI1は、JNKとその基質との間の相互作用をむしろ阻害する。TATに由来するその塩基性輸送配列により、融合ペプチドは、効果的に細胞に輸送される。輸送組成物により得られた新規特性が原因で、融合ペプチドは細胞内に積極的に輸送される。そして、該細胞内において、融合ペプチドはタンパク分解されるまで、効果を発揮する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、国際公開公報第01/27268号パンフレットに開示のペプチドは、ホスホリラーゼ(キナーゼ)により、さらに容易に接近される。キナーゼのための標的として機能するペプチドの任意のアミノ酸は(従って、該アミノ酸はリン酸化してもよいよい)、そのようなペプチドを不活性にするための重要な要素を示す。従って、ホスホリラーゼ(キナーゼ)対する安定性を増やすことを提供するのではなく、国際公開公報第01/27268号パンフレットに公開されたようなペプチドの機能特性を保持する、JNKのシグナル伝達経路に関する新しい種類の阻害剤を提供することが本発明の第1目的である。
【0010】
さらに、国際公開公報第01/27268号パンフレットに開示の阻害剤配列は、特に、大規模な量において調製する場合(例えば、工業生産のためなど)、費用のかかる回収および精製法を必要とする。従って、最先端のそれらよりも、費用効率の高い生産および回収をより容易にする阻害剤配列を提供することが本発明の第2目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記に述べた目的は、150アミノ酸よりも短い長さを含んでいるJNK阻害剤配列により解消される。ここで、JNK阻害剤配列は、配列番号1、2、3、または、4に記載のアミノ酸配列の少なくとも1つ、あるいは、その変異体、断片、または誘導体を含んでいるか、または、上記アミノ酸配列の少なくとも1つ、あるいは、その変異体、断片、または誘導体から成る。
【0012】
本発明のJNK阻害剤配列は、JNKと結合することが好ましく、および/または、該JNK阻害剤配列は、JNKにより活性化される転写因子の少なくとも1つの活性化を阻害することが好ましい。上記転写因子としては、例えば、c‐JunまたはATF2(例えば、それぞれ配列番号15および配列番号16を参照)、またはEIk1が挙げられる。
【0013】
一般的に、本発明のJNK阻害剤配列は、150アミノ酸残基よりも短い全長を含み、好ましくは5‐150アミノ酸残基、より好ましくは10‐100アミノ酸残基、さらに好ましくは10‐75アミノ酸残基、最も好ましくは15‐50アミノ酸残基の範囲を含んでいる。
【0014】
本発明のJNK阻害剤配列は、配列番号1、2、3、または4に記載のアミノ酸配列の少なくとも1つ、あるいはその変異体、断片、または誘導体を含んでいるか、または、上記アミノ酸配列の少なくとも1つ、あるいはその変異体、断片、または誘導体から成ることが好ましい。より好ましくは、本発明のJNK阻害剤配列は、配列番号1、2、3、または4に記載のアミノ酸配列、あるいはその変異体、断片、または誘導体を、1、2、3、4もしくはそれ以上のコピー数で含んでいてもよい。1コピーよりも多く存在する場合、配列番号1、2、3、または4に記載のこれらの本発明のアミノ酸配列、あるいはその変異体、断片、または誘導体を、任意のリンカー配列を用いずに、または1‐10アミノ酸、好ましくは1‐5アミノ酸を含んでいるリンカー配列を介して、お互いに直接結合してもよい。リンカー配列を形成するアミノ酸は、アミノ酸残基としてグリシンまたはプロリンから選ばれることが好ましい。より好ましくは、配列番号1、2、3、または4に記載のこれらの本発明のアミノ酸配列、あるいはその変異体、断片、または誘導体は、2つ、3つまたはそれ以上のプロリン残基のヒンジにより、お互いに分離されていてもよい。
【0015】
上記に定義したような本発明のJNK阻害剤配列は、L‐アミノ酸、D‐アミノ酸、または両方の組み合わせで構成されていてもよい。好ましくは、本発明のJNK阻害剤配列は、少なくとも1つのD‐および/またはL‐アミノ酸、好ましくは少なくとも3つのD‐および/またはL‐アミノ酸、より好ましくは少なくとも6つのD‐および/またはL‐アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも10のD‐および/またはL‐アミノ酸を含んでいる。ここで、D‐および/またはL‐アミノ酸は、ブロック様式、非ブロック様式、または、代替案の様式で本発明のJNK阻害剤配列に配置されていてもよい。
【0016】
1つの好ましい実施の形態によれば、本発明のJNK阻害剤配列は、L‐アミノ酸のみから構成されてもよい。それから、本発明のJNK阻害剤配列は、配列番号1または配列番号3に記載の少なくとも1つの「天然のJNK阻害剤配列」を含むか、または、該「天然JNK阻害剤配列」から成る。ここで、用語「天然」または「天然のJNK阻害剤配列」は、配列番号1または配列番号3の何れかに記載の本発明の改変されていないJNK阻害剤配列のことであり、完全にL‐アミノ酸から構成されている。
【0017】
しがたって、本発明のJNK阻害剤配列は、少なくとも1つの(天然)アミノ酸配列 NH2-Xnb-Xna-RPTTLXLXXXXXXXQD-Xnb-COOH(配列番号3)を含んでいるか、または、(天然)アミノ酸配列NH2-Xnb-Xna-RPTTLXLXXXXXXXQD-Xnb-COOH(配列番号3)から成ってもよい。ここで、各Xはアミノ酸残基を示し、任意の(天然)アミノ酸残基から選択されることが好ましい。Xnaは、1つのアミノ酸残基を示し、セリンまたはスレオニンを除く任意のアミノ酸残基から選択されることが好ましく、nは0または1を表す。さらに、各Xnbは、任意のアミノ酸残基から選ばれていてもよく、nは0‐5、5‐10、10‐15、15‐20、20‐30、またはそれ以上を表す。ただし、nが、Xnaに関して0である場合、そのC‐末端にセリンまたはスレオニンを含まないように、Xnbは、そのC‐末端にセリンまたはスレオニンを含まないようにしなければならない。Xnbは、配列番号1または配列番号3に由来するペプチド残基の連続した伸展を示すことが好ましい。より好ましくは、本発明のJNK阻害剤配列は、少なくとも1つの(天然)アミノ酸配列NH2-RPKRPTTLNLFPQVPRSQD-COOH(配列番号1)をさらに含んでいるか、または、(天然)アミノ酸配列NH2-RPKRPTTLNLFPQVPRSQD-COOH(配列番号1)からさらに成ってもよい。なお、XnaおよびXnbは、D‐アミノ酸か、L‐アミノ酸のどれかを示す。
【0018】
他の好ましい実施の形態によれば、本発明のJNK阻害剤配列は、部分的にまたは完全にD‐アミノ酸から構成されてもよい。さらに好ましくは、D‐アミノ酸から構成されるこれらの本発明のJNK阻害剤配列は、上記の(天然)JNK阻害剤配列に関する非‐天然Dレトロ‐インベルソ配列である。用語「レトロ‐インベルソ配列」は、配列の方向は、前記アイソマーの逆であり、各アミノ酸残基のキラリティーが、前記アイソマーに反転している直鎖ペプチド配列のアイソマーのことである(例えば、「Jameson ら, Nature, 368,744-746 (1994); Brady ら, Nature, 368,692-693 (1994)」を参照)。D‐鏡像異性体を結合することおよび逆合成の長所は、各α炭素に側鎖基の位置が保存されている間に、各アミド結合におけるカルボニル基およびアミノ基の位置が交換されるということである。別のことを具体的に述べない限り、本発明の任意の与えられたL‐アミノ酸配列またはペプチドは、天然L‐アミノ酸配列またはペプチドに一致するための配列またはペプチドを逆に合成することによりDレトロ‐インベルソ配列またはペプチドに転換されていてもよい、ということが推定される。
【0019】
上記に定義されたような本発明のDレトロ‐インベルソ配列は、有益な性質を数多く有している。例えば、本発明のDレトロ‐インベルソ配列が本発明のL‐アミノ酸配列と同様の効率で細胞に浸入し、本発明のDレトロ‐インベルソ配列は対応するL‐アミノ酸配列よりも安定である。
【0020】
したがって、本発明のJNK阻害剤配列は、アミノ酸配列NH2-Xnb- DQXXXXXXXLXLTTPR-Xna-Xnb-COOH(配列番号4)に記載のDレトロ‐インベルソ配列を少なくとも1つ含んでいるか、またはDレトロ‐インベルソ配列の少なくとも1つから成ってもよい。ここで、X、Xna、およびXnbは、上記に定義されているものである(D‐アミノ酸を示していることが好ましい)。なお、Xnbは、配列番号2または配列番号4に由来する残基の連続した伸展を示すことが好ましい。より好ましくは、本発明のJNK阻害剤配列は、アミノ酸配列NH2- DQSRPVQPFLNLTTPRKPR-COOH(配列番号2)に記載のDレトロ‐インベルソ配列を少なくとも1つの含んでいるか、または該Dレトロ‐インベルソ配列の少なくとも1つから成ってもよい。
【0021】
上記に公開されたような本発明のJNK阻害剤配列は、表1に示されている(配列番号1‐4)。表1は、本発明のJNK阻害剤配列の名称、ならびにJNK阻害剤配列の配列識別番号、JNK阻害剤配列の長さ、および、アミノ酸配列を示す。それに加えて、国際公開公報第01/27268号パンフレット(配列番号17‐26)の先行技術の配列は、比較のためにも提供している。これらの先行技術の配列は、本発明のJNK阻害剤配列、または本発明のキメラペプチドとして本明細書に公開しておらず、従って免責条項を通して、本発明の範囲から明確に排除されている。
【0022】
【表1】

【0023】
もう1つ別の実施の形態によれば、本発明のJNK阻害剤配列は、上記に定義した配列番号1、2、3、または4に記載の本発明の天然または非天然アミノ酸配列の、少なくとも1つの変異体、断片、および/または誘導体を含んでいるか、または、該変異体、断片、および/または誘導体から成ってもよい。これらの変異体、断片、および/または誘導体は、上記に公開された本発明の天然または非天然JNK阻害剤配列、特に配列番号1、2、3、または4に記載の天然または非天然アミノ酸配列の生物活性を保持することが好ましく、すなわち、JNKと結合する、および/または、少なくとも1つのJNKにより活性化される転写因子(例えば、c‐Jun、ATF2またはEIk1)の活性化を阻害する。機能性は、様々なテスト(例えば、その標的分子に対するペプチドの結合テスト)、または、生物物理学的方法(例えば、分光法、コンピュータモデリング、構造解析など)によりテストされていてもよい。特に、本発明のJNK阻害剤配列、あるいは、その変異体、断片、および/または、誘導体は、親水性解析によって解析されていてもよい(例えば、「Hopp and Woods, 1981. Proc Natl Acad Sci USA 78: 3824-3828」を参照)。なお、親水性解析は、ペプチドの疎水性領域および親水性領域を同定するのに利用することができるので、実験操作(結合実験など)、または、抗体の合成のための基質の設計に役立つ。また、2次構造解析は、特異的な構造モチーフを想定するJNK阻害剤配列(本発明)の領域、あるいは、その変異体、断片、および/または誘導体の領域を同定するのに行われていてもよい(「Chou and Fasman, 1974, Biochem 13: 222-223」を参照)。マニピュレーション、翻訳、2次構造予測、親水性および疎水性プロフィール、オープンリーディングフレーム予測およびプロッティング、ならびに、配列相同性の決定を、技術的に利用できるコンピュータソフトウェアプログラムを用いて成し遂げていてもよい。構造解析に関する他の方法は、例えば、X線回折法(例えば、「Engstrom, 1974. Biochem Exp Biol 1 1 : 7-13」を参照)、質量分析、およびガスクロマトフラフィー(例えば、「METHODS IN PROTEIN SCIENCE, 1997, J. Wiley and Sons, New York, NY」を参照)を含んでおり、コンピュータモデリング(例えば、「Fletterick and Zoller, eds., 1986. Computer Graphics and Molecular Modeling, In: CURRENT COMMUNICATIONS IN MOLECULAR BIOLOGY, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY」)を用いていてもよい。
【0024】
したがって、本発明のJNK阻害剤配列は、配列番号1、2、3、または4に記載の(天然または非天然)アミノ酸の変異体の少なくとも1つを含んでいるか、または、該変異体の少なくとも1つから成ってもよい。ここで、「配列番号1、2、3、または4に記載の(天然または非天然)アミノ酸配列の変異体」は、配列番号1、2、3、または4に記載の配列の何れかに由来する配列であり、前記変異体は、配列番号1、2、3、または4に記載のアミノ酸配列のアミノ酸改変を含んでいることが好ましい。一般的に、前記アミノ酸改変は、配列番号1、2、3、または4に記載のアミノ酸の1‐20、好ましくは1‐10、そしてより好ましくは1‐5の置換、添加、および/または欠失を含んでいる。なお、前記変異体は、配列番号1、2、3、または4に記載の配列の何れかと、少なくとも約30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を示す。
【0025】
特定のアミノ酸配列の置換により、配列番号1、2、3、または4に記載の本発明の(天然または非天然)アミノ酸配列の変異体が得られる場合、前記特異アミノ酸配列の置換は、保存アミノ酸置換を含んでいることが好ましい。保存アミノ酸置換は、グループのメンバー間の置換が分子の生物活性を維持するように、類似の物理化学的性質を十分に備えているグループ内に同義的アミノ酸残基を含んでいてもよい(例えば、「Grantham, R. (1974), Science 185, 862-864」を参照)。また、(特に、挿入および/または欠失が少しのアミノ酸(例えば20アミノ酸、好ましくは10アミノ酸よりも少ない)に関係しているだけであり、且つ、機能活性にとって極めて重要であるアミノ酸を除去しないまたは置き換えない場合)、アミノ酸は、上記に定義した配列において、これらの機能を変えることなく挿入および/または欠失されていてもよいことが当業者に知られている。さらに、インビボまたはインビトロにおいて、本発明のJNK阻害剤配列または本発明のキメラペプチドの不活性化を避けるために、本発明の変異体において、ホスホリラーゼ(好ましくはキナーゼ)が接近しやすいアミノ酸の位置にスレオニンを添加する置換を避けるべきである。
【0026】
同じグループに分類された、および、保存アミノ酸置換により一般的に交換可能である好ましい同義的アミノ酸残基は、表2に定義されている。
【0027】
【表2】

【0028】
本発明の配列番号1、2、3、または4の変異体の特定の形態は、配列番号1、2、3、または4に記載の本発明の(天然または非天然)アミノ酸配列の断片である。前記特定の形態は、一般的に、配列番号1、2、3、または4と比較したときに、少なくとも1つの欠失により改変されている。断片は、配列番号1、2、3、または4の何れかの少なくとも4個の連続したアミノ酸を含んでいる。一般的に、長さは、これらの配列の何れかに由来するエピトープの特異的認識を可能にするほど十分な長さである。より一層好ましくは、断片は、配列番号1、2、3、または4の何れかの4‐18個の連続したアミノ酸、4‐15個の連続したアミノ酸、最も好ましくは4‐10個の連続したアミノ酸を含んでいる。配列番号1、2、3、または4の何れかの位置に、好ましくはN‐またはC‐末端において、アミノ酸が削除されていてもよい。特に、配列番号2(DQSRPVQPFLNLTTPRKPR)のペプチドは、1、2、3、4、または5個のアミノ酸だけ、配列番号2のN‐および/またはC‐末端において、削除されていてもよい。すなわち、配列番号2の短くなった変形型は、QSRPVQPFLNLTTPRKPR、SRPVQPFLNLTTPRKPR、RPVQPFLNLTTPRKPR、PVQPFLNLTTPRKPR、または、VQPFLNLTTPRKPR、あるいは、それぞれDQSRPVQPFLNLTTPRKP、DQSRPVQPFLNLTTPRK、DQSRPVQPFLNLTTPR、DQSRPVQPFLNLTTP、DQSRPVQPFLNLTT、または、QSRPVQPFLNLTTPRKP、SRPVQPFLNLTTPRKP、SRPVQPFLNLTTPRK、RPVQPFLNLTTPRKP、RPVQPFLNLTTPRK、またはPVQPFLNLTTPの配列を備えていることが好ましい。用いた本発明のペプチド配列が短いほど、その非特異的な細胞毒性が低くなる。いくつかの実施の形態において、用いたペプチドは、生物学的機能(例えば、JNK阻害性機能)を未だ保持する、可能なだけ短い配列を備えなければならない。
【0029】
さらに、配列番号1、2、3、または4に記載の本発明の(天然または非天然)アミノ酸配列の断片は、配列番号1、2、3、または4に記載の配列の何れかと、少なくとも約30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を共有する配列として定義されていてもよい。
【0030】
さらに、本発明のJNK阻害剤配列は、配列番号1、2、3、または4に記載の(天然または非天然)アミノ酸配列の誘導体の少なくとも1つを含んでいるか、または、該誘導体の少なくとも1つから成ってもよい。ここで、「配列番号1、2、3、または4に記載の(天然または非天然)アミノ酸配列の誘導体」は、配列番号1、2、3、または4に記載の配列の何れかに由来するアミノ酸配列であることが好ましい。なお、前記誘導体は、少なくとも1つの修飾されたL‐またはD‐アミノ酸(非天然アミノ酸を形成する)、好ましくは1‐20個、より好ましくは1‐10個、および、さらに好ましくは1‐5個の修飾されたL‐またはD‐アミノ酸を含む。また、変異体または断片の誘導体も、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
本明細書に公開されたペプチドの何れかは、該ペプチドの末端が(C‐末端またはN‐末端か、その両方のどれかの末端に)修飾されていてもよい。C‐末端は、アミド修飾により修飾されていてもよいことが好ましいが、それに対して、N‐末端は、例えばアシル化など、任意の適したNH2‐保護基により修飾されていてもよい。
【0032】
この点において、「修飾されたアミノ酸」は、例えば、様々な生物における異なるグルコシル化による、リン酸化による、または特異アミノ酸を標識することにより、変化した任意のアミノ酸であってもよい。そのとき、そのような標識は、一般的に、(i)放射性標識(すなわち放射性リン酸化)、または硫黄、水素、炭素、窒素などを有する放射性標識、(ii)有色色素(例えば、ジゴキシゲニンなど)、(iii)蛍光性基(例えば、フルオレセインなど)、(iv)化学発光基、(v)固相に対する固定化のための基(例えば、His-tag、ビオチン、strep-tag、flag-tag、抗体、抗原など)、ならびに(vi)上記(i)〜(v)に言及した2以上の標識から組み合わせを含んでいる標識基から選ばれる。
【0033】
ここで、本発明の検索アミノ酸配列に対して例えば、少なくとも95%以上の「配列同一性を共有している」配列を備えているアミノ酸配列は、検索アミノ酸配列の各100アミノ酸あたり最大で5つアミノ酸を変更していてもよいことを除いて、目的アミノ酸配列の配列が検索配列に一致している、ということを意味する。言い換えれば、検索アミノ酸配列に対して、少なくとも95%以上同一性の配列を備えているアミノ酸配列を得るために、目的配列におけるアミノ酸残基の最大5%までは、他のアミノ酸に挿入または置き換えられる、あるいは、省略されていてもよい(100アミノ酸あたり5個までアミノ酸を変更していてもよい)。
【0034】
正確に対応していない配列同士に関して、第1配列の「%同一性」は、第2配列に対して決定されていてもよい。一般的に、比較されるためのこれらの2つの配列は、配列間の相互関係が最大になるように整列される。これは、整列の度合いを強化するために、1つの配列か、両方の配列のどちらかにおいて、「ギャップ」を挿入することを含んでいてもよい。それから、%同一性は、比較される各配列の全長上(いわゆる、グルーバルアライメント)において、または、各配列の短く定義された長さ(いわゆる、ローカルアライメント)において決定されていてもよい。なお、全長は特に同じまたは類似の長さに適しており、短く定義された長さは、不揃いな長さの配列に、より適している。
【0035】
2以上の配列の同一性および相同性を比較するための方法は、技術的によく知られている。従って、一例として、バージョン9.1のウィスコシン配列解析パッケージにおいて利用可能なプログラム、例えばプログラムBESTFITおよびGAPを、2つのポリヌクレオチド間の%同一性、および、2つのポリペプチド配列間の%同一性および%相同性を決定するために用いてもよい(Devereuxら, 1984, Nucleic Acids Res. 12, 387-395.)。BESRFITは、(i)(Smith and Waterman (1981 ), J. MoI. Biol. 147, 195-197.)の「ローカル相同性」アリゴリズムを用いて、(ii)2つの配列間に見られる類似点の最良の単一領域を見つける。また、配列間の同一性および/または類似点を決定するための他のプログラムは、技術的に知られ、例えば、プログラムのBLASTファミリー(Altschul ら, 1990, J. MoI. Biol. 215, 403-410)およびFASTA(Pearson (1990), Methods Enzymol. 183, 63-98; Pearson and Lipman (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 85, 2444- 2448.)などである。なお、BLASTは、NCBIのホームページを通して利用可能である(world wide web site ncbi.nlm.nih.gov)。
【0036】
本発明のJNK阻害剤配列を、技術的に知られている方法、例えば、化学合成による、または、本明細書に記載の遺伝子組み換え方法により、得てもよいし、または生産してもよい。例えば、前記JNK阻害剤配列の所望の領域を含む、または、インビトロまたはインビボにおいて、所望の活性を媒介する本発明のJNK阻害剤配列の一部に相当するペプチドを、ペプチドシンセサイザーを用いて合成していてもよい。
【0037】
第2態様によれば、本発明は、少なくとも1つの第1ドメインおよび少なくとも第2ドメインを含んでいるキメラペプチドを提供する。なお、第1ドメインは輸送配列を含み、一方、第2ドメインは上記に定義したような本発明の阻害剤配列を含む。
【0038】
一般的に、本発明のキメラペプチドは、少なくとも25アミノ酸残基の長さを備えており、例えば、25‐250アミノ酸残基、より好ましくは25‐200アミノ酸残基、さらに好ましくは25‐150アミノ酸残基、25‐100アミノ酸残基、および、最も好ましくは25‐50アミノ酸残基である。
【0039】
第1ドメインのように、本発明のキメラペプチドは、輸送配列を含むことが好ましく、該輸送配列は、一般的にペプチド(輸送配列が存在しているペプチド)を所望の細胞の目的地へ誘導するアミノ酸の任意の配列から選ばれるものである。それから、本明細書に用いたように、一般的に輸送配列は、ペプチドが原形質膜を横切るように方向づける、例えば、細胞の外から、原形質膜を通って、次に細胞質に浸入する。もう1つの方法として、または、それに加えて、輸送配列は、2つの構成要素の組み合わせ(例えば、細胞透過性のための構成要素、および、核内局在のための構成要素)、または、例えば細胞膜輸送の性質、および、標的輸送(例えば核内輸送)を備えている1つの単一構成要素によって、ペプチドを細胞内の所望の位置(例えば、核、リボソーム、小胞体(ER)、リソソーム、またはペルオキシソーム)へ誘導してもよい。さらに、輸送配列は、細胞質の構成要素、または任意の他の構成要素、あるいは、細胞の区域(例えば、小胞体、ミトコンドリア、グローム器官(gloom apparatus)、リソソーム小嚢)に結合することが可能な他の構成要素を含んでいてもよい。従って、例えば、第1ドメインの輸送配列および第2ドメインのJNK阻害剤配列は、細胞質、または、任意の細胞の他の区域に配置されていてもよい。これにより、取り込みに応じて、細胞におけるキメラペプチドの局在を決定することができる。
【0040】
好ましくは、輸送配列(本発明のキメラペプチドの第1ドメインに含まれている配列)は、5‐150アミノ酸配列の長さを備えており、より好ましくは5‐100、最も好ましくは5‐50、5‐30、または、さらに5‐15アミノ酸の長さである。
【0041】
より好ましくは、輸送配列(本発明のキメラペプチドの第1ドメインに含まれている配列)は、第1ドメインにおいて、連続したアミノ酸配列の伸展(stretch)のように生じていてもよい。代わりに、第1ドメインの輸送配列は、2以上の断片に切断されていてもよい。なお、これらの断片の全てが全体の輸送配列に似ており、1‐10アミノ酸、好ましくは1‐5アミノ酸だけ、お互いから切り離されていてもよい。ただし、そのような輸送配列は、上記に公開したようなその運搬体の性質を保持している。輸送配列の断片を切り離すこれらのアミノ酸は、例えば、輸送配列とは異なるアミノ酸配列から選ばれていてもよい。代わりに、第1ドメインは、1つよりも多い構成要素から成る輸送配列を含んでいてもよい。なお、各構成要素は、第2ドメインのカーゴJNK阻害剤配列を、例えば特定の細胞区域に輸送するのためのそれ自身の機能を有する。
【0042】
上記に定義したような輸送配列は、L‐アミノ酸、D‐アミノ酸、または、両方の組み合わせから構成されていてもよい。好ましくは、本発明の輸送配列は、少なくとも1個のL‐アミノ酸および/またはD‐アミノ酸、好ましくは少なくとも3個のL‐アミノ酸および/またはD‐アミノ酸、より好ましくは6個のL‐アミノ酸および/またはD‐アミノ酸、およびさらに好ましくは10個のL‐アミノ酸および/またはD‐アミノ酸を含んでいる。ここで、L‐アミノ酸および/またはD‐アミノ酸は、ブロック様式、非ブロック様式、または代替案の様式における、本発明のJNK輸送配列に整列されていてもよい。
【0043】
別の実施の形態によれば、本発明のキメラペプチドの輸送配列は、L‐アミノ酸のみから構成されていてもよい。より好ましくは、本発明のキメラペプチドの輸送配列は、上記に定義したような少なくとも1つの「天然」輸送配列を含んでいるか、または、該「天然」輸送配列から成る。ここで、用語「天然」は、変更されていない輸送配列のことであり、完全にL‐アミノ酸から構成されている。
【0044】
もう1つ別の代替案の実施の形態によれば、本発明のキメラペプチドの輸送配列は、完全にD‐アミノ酸のみから構成されていてもよい。本発明のキメラペプチドの輸送配列は、上記に記載したような配列のDレトロ‐インベルソペプチドを含んでいてもよいことが、より好ましい。
【0045】
本発明のキメラペプチドの第1ドメイン輸送配列を、自然に生じる源から得ていてもよいし、または、遺伝子組み換え技術または化学合成を用いることにより生産することができる(例えば、「Sambrook, J., Fritsch, E. F., Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: A laboratory manual. 2nd edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.」を参照)。
【0046】
第1ドメインの輸送配列のための源として、例えば、天然タンパク質、VP22(例えば、国際公開公報第97/05265号パンフレット; 「Elliott and O'Hare, Cell 88 : 223-233 (1997)」に記載されている)、非ウィルスタンパク質(「Jacksonら Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 : 10691 -10695 (1992)」)、アンテナペディア(例えば、アンテナペディア担体配列)または塩基性ペプチドに由来する輸送配列を用いてもよい。なお、天然タンパク質は、例えばTATタンパク質(例えば、米国特許第5,804,604号および5,674,980号。それぞれの参考文献は参照により本明細書に組み込まれている)などである。塩基性タンパク質は、5‐15アミノ酸、好ましくは10‐12アミノ酸の長さを備えており、少なくとも80%、より好ましくは85%、またはさらに90%の塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、リシン、および/またはヒスチジン)を含んでいるペプチドである。さらに、輸送配列として用いられた天然タンパク質の変異体、断片、および誘導体は、本明細書に公開されている。変異体、断片、および誘導体に関しては、JNK阻害剤配列に関して上記の提供された定義を参照されたい。変異体、断片、および誘導体は、JNK阻害剤配列に関して上記に説明したように同様に定義されている。特に、輸送配列に関して、変異体または断片または誘導体は、上記に定義されたような輸送配列として用いられた1つの天然タンパク質のうちの1つと、少なくとも30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を共有する配列として定義されていてもよい。
【0047】
本発明のキメラペプチドの好ましい実施の形態において、第1ドメインの輸送配列は、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)1TATタンパク質に対する配列(特に、TATタンパク質を構成する86アミノ酸のいくつかまたは全てに由来する配列)を含んでいるか、または、該配列から成る。
【0048】
本発明の輸送配列に関して、全長TATタンパク質の一部の配列は、TATタンパク質の機能的に有効な断片(すなわち、細胞への浸入および取り込みを媒介する領域を含むTATペプチド)を形成するために用いられていてもよい。そのような配列が機能的に有効な断片であるかどうかに関して、公知の技術を使用して決定することができる(例えば、「Frankedら, Proc. Natl. Acad. Sci, USA 86 : 7397-7401 (1989)」を参照)。それから、本発明のキメラペプチドの第1ドメインにおける輸送配列は、86アミノ酸よりも少ないアミノ酸を含み、且つ、細胞への取り込み、および必要に応じて細胞核への取り込みを示す、(i)機能的に有効な断片、または(ii)TATタンパク質配列の一部に由来してもよい。より好ましくは、細胞膜を横切って、キメラペプチドの浸透作用を媒介するための運搬体として使用されるTATの一部の配列(断片)は、TAT全長の塩基性領域(アミノ酸48‐57またはアミノ酸49‐57)を含むことを意図とされている。
【0049】
より好ましい実施の形態によれば、本発明の輸送配列は、48‐57のTAT残基または49‐57のTAT残基を含んでいるアミノ酸配列を含んでいるか、または、該アミノ酸配列から成ってもよい。そして、本発明の輸送配列は、最も好ましくは一般式で表されたTAT配列NH2-Xnb-RKKRRQRRR-Xnb-COOH(配列番号7)(ここで、Xnbは上記に定義されているようなものである)である。代わりに、本発明の輸送配列は、例えば、アミノ酸配列NH2-GRKKRRQRRR-COOH(配列番号5)を含んでいるペプチドを含んでいるか、または、アミノ酸配列NH2-GRKKRRQRRR-COOH(配列番号5)を含んでいるペプチドから成ってもよい。
【0050】
もう1つ別のより好ましい実施の形態によれば、本発明の輸送配列は、上記に示したような配列のDレトロ‐インベルソペプチドを含んでいてもよい。すなわち、配列NH2- Xnb-RRRQRRKKR-Xnb-COOH(配列番号8)を備えている一般式で表されたTAT配列のDレトロ‐インベルソ配列を含んでいてもよい。ここで、Xnbは上記に定義されているようなものである(Dアミノ酸を示すことが好ましい)。さらに、配列番号7‐8の何れかにおける「Xnb」残基の数は、示されているものに限定されず、上記に記載したように変化してもよい。最も好ましくは、本発明の輸送配列は、Dレトロ‐インベルソ配列NH2-RRRQRRKKRG-COOH(配列番号6)を含んでいてもよい。
【0051】
もう1つ別の実施の形態によれば、本発明の輸送配列は、上記に定義したような輸送配列を含んでいるか、または、上記に定義したような輸送配列から成ってもよい。「輸送配列の変異体」は、上記に定義したような輸送配列に由来する配列であることが好ましい。なお、変異体は、上記に定義したような輸送配列に存在する少なくとも1つのアミノ酸の修飾、例えば添加、(内側の)欠失(断片を引き起こす欠失)、および/または置換を含む。一般的には、そのような修飾は、アミノ酸の1‐20個、好ましくはアミノ酸の1‐10個、より好ましくはアミノ酸の1‐5個の置換、添加、および/または欠失を含む。さらに、変異体は、上記に定義したような輸送配列(より好ましくは配列番号5‐8の何れか)と、少なくとも30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を示すことが好ましい。
【0052】
そのような輸送配列の修飾により、輸送配列の安定性を増加または減少することができる。代わりに、輸送配列の変異体を、本発明のキメラペプチドの細胞内の局在を変えるために設計することができる。外から加えられるときに、上記に定義したような変異体は、一般的には、細胞を浸入するための輸送配列の能力が保持されるように設計される(すなわち、輸送配列の変異体の細胞への取り込みが、輸送配列を用いた天然タンパク質の細胞への取り込みと実質的に同じである)。例えば、核への局在に関して重要であると考えられる塩基性領域(例えば、Dang and Lee, J. Biol. Chem. 264 : 18019-18023 (1989); Hauber ら, J. Virol. 63 : 1 181 -1 187 (1989) ; et al., J. Virol. 63 : 1 -8 (1989)を参照)を変更することにより、輸送配列を細胞質へ、または部分的に細胞質へ局在させることができる。このため、本発明のキメラペプチドの構成要素としてのJNK阻害剤配列を、細胞質へ、または部分的に細胞質へ局在させることができる。上記に加えて、コレステロールまたは他の脂質部分と輸送配列とを結合することにより、さらなる修飾を変異体に導入し、膜可溶性を増加した輸送配列を生産してもよい。一般的には、本発明の輸送配列の上記に公開された変異体の何れかは、当業者が公知の技術を用いて生産することができる(例えば、Sambrook, J., Fritsch, E. F., Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: A laboratory manual. 2nd edition. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照)。
【0053】
第2ドメインとして、本発明のキメラペプチドは、上記に定義したような本発明のJNK阻害剤配列の何れかから選ばれる本発明のJNK阻害剤配列を一般的に含んでいる。また、本発明のキメラペプチドは、該JNK阻害剤配列の変異体、断片および/または誘導体を含んでいる。
【0054】
本発明のキメラペプチドの両方のドメイン(すなわち第1ドメインおよび第2ドメイン)は、機能ユニットを形成するように連結されていてもよい。第1ドメインと第2ドメインとを連結するための、一般に公知の任意の方法を適用してもよい。
【0055】
1実施の形態によれば、本発明のキメラペプチドの第1ドメインおよび第2ドメインは、共有結合により連結されていることが好ましい。本明細書において定義される共有結合は、例えばペプチド結合であってもよい。また該ペプチド結合は、本発明のキメラタンパク質を融合タンパク質として発現させることにより得られてもよい。本明細書に記載される融合タンパク質を、以下に記載されているような標準の組み換えDNA技術に類似の方法、または該技術からすぐに適用できる方法により形成することができるし、それら方法に用いることができる。しかし、両方のドメインは、側鎖を介して連結されてもよいし、化学リンカー部分により連結されてもよい。
【0056】
本発明のキメラペプチドの第1ドメインおよび/または第2ドメインは、1以上のコピー数で本発明のキメラペプチドに存在してもよい。両方のドメインが1コピーで存在する場合、第1ドメインは第2ドメインのN末端またはC末端のどちらかに連結されてもよい。また、両方のドメインが複数のコピーで存在する場合、第1ドメインおよび第2ドメインは、任意の実現可能な順番で並べられてもよい。例えば、本発明のキメラペプチドにおける第1ドメインのコピー数が、複数(例えば2、3またはそれ以上)であるとき(なおこのとき、該第1ドメインは連続して並べられていることが好ましい)、第2ドメインは、1コピーで第1ドメインを含んでいる配列のN末端またはC末端に存在してもよい。代わりに、第2ドメインが複数のコピー数(例えば2、3またはそれ以上)で存在し、第1ドメインが1コピーで存在してもよい。両方の代替案によれば、第1ドメインおよび第2ドメインを、任意の場所に連続した配列で配置することができる。典型的な配列を以下に示す;例えば、第1ドメイン‐第1ドメイン‐第1ドメイン‐第2ドメイン;第1ドメイン‐第1ドメイン‐第2ドメイン‐第1ドメイン;第1ドメイン‐第2ドメイン‐第1ドメイン‐第1ドメイン;または、例えば、第2ドメイン‐第1ドメイン‐第1ドメイン‐第1ドメイン。これらの例は、説明のために挙げられているのであり、本発明の範囲を限定しないことを当業者は十分理解する。したがって、コピー数および配列を、最初に定義したように変えてもよい。
【0057】
好ましくは、第1ドメインおよび第2ドメインは、任意のリンカーを用いることなく互いに直接連結されてもよい。代替案では、それらは、1〜10アミノ酸(好ましくは1〜5アミノ酸)を含んでいるリンカー配列を介して互いに連結されてもよい。リンカー配列を形成しているアミノ酸は、アミノ酸残基としてのグリシンまたはプロリンから選ばれることが好ましい。より好ましくは、第1ドメインおよび第2ドメインは、第1ドメインと第2ドメインとの間に設けられた2、3またはそれ以上のプロリン残基を含んでいるヒンジにより、互いに分離されてもよい。
【0058】
少なくとも1つの第1ドメインと少なくとも1つの第2ドメインとを含んでいる、上記に定義したような本発明のキメラペプチドは、L‐アミノ酸、D‐アミノ酸、またはそれらの組み合わせで構成されてもよい。この点から、(用いられるリンカーと同様に)各ドメインは、L‐アミノ酸、D‐アミノ酸、またはそれらの組み合わせ(例えばD‐TATおよびL‐IB1またはL‐TATおよびD‐IB1など)で構成されてもよい。好ましくは、本発明のキメラペプチドは、少なくとも1、好ましくは少なくとも3、より好ましくは少なくとも6、さらに好まくしは少なくとも10のL‐アミノ酸および/またはD‐アミノ酸を備えており、D‐アミノ酸および/またはL‐アミノ酸は、本発明のキメラペプチドにおいて、ブロック様式(blockwise)、非ブロック様式、または代わりの様式にて並べられてもよい。
【0059】
特定の実施の形態によれば、本発明のキメラペプチドは、一般式で表されたL‐TAT‐IBペプチド[NH2‐Xnb‐RKKRRQRRR‐Xnb‐Xna‐RPTTLXLXXXXXXXQD‐Xnb‐COOH、配列番号10]を含んでいるか、または該ペプチドから成る。なお、X、XnaおよびXnbは、上記に定義したようなものが好ましい。より好ましくは、本発明のキメラペプチドは、L‐アミノ酸のキメラペプチド、L‐TAT‐IB1[NH2‐GRKKRRQRRRPPRPKRPTTLNLFPQVPRSQD‐COOH、配列番号9]を含んでいるか、または該ペプチドから成る。
【0060】
代わりの特定の実施の形態によれば、本発明のキメラペプチドは、上記に開示されたL‐アミノ酸のキメラペプチドに関してのD‐アミノ酸のキメラペプチドを含んでいるか、または該D‐アミノ酸のキメラペプチドから成る。本発明の典型的なDレトロ‐インベルソキメラペプチドは、例えば、一般式で表されたD‐TAT‐IBペプチド[NH2‐Xnb‐DQXXXXXXXLXLTTPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR‐Xnb‐COOH、配列番号12]である。なお、X、XnaおよびXnbは、上記に定義したようなものが好ましい(Dアミノ酸を表していることが好ましい)。より好ましくは、本発明のキメラペプチドは、TAT‐IB1ペプチドに則ったDアミノ酸のキメラペプチド[NH2‐DQSRPVQPFLNLTTPRKPRPPRRRQRRKKRG‐COOH、配列番号11]を含んでいるか、または該ペプチドから成る。しかし、(PPの代わりに)第1ドメインおよび第2ドメインの連結部分は、上記に定義したような‐Xna‐Xnb‐,から構成されてもよい。具体的には、最終的に(PP)の代わりに‐Xna‐Xnb‐を有している配列番号11の第2ドメインは、そのN末端および/またはC末端において、1、2、3、4または5アミノ酸だけ削除されてもよい。別の好ましい実施の形態では、配列番号11の第1ドメインは、そのN末端および/またはC末端において、1または2アミノ酸だけ削除されてもよい。このような削除は、第2ドメインの末端のアミノ酸残基について開示された、削除と組み合わされてもよい。したがって、配列番号11の好ましい変異体は、例えば、第2ドメインのN末端および/またはC末端において削除が起こっている以下の配列である:それぞれ、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、PVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、または、
VQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、あるいは、DQSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTT‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、あるいは、QSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、あるいは、PVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG。第1ドメインの末端のみにおいて削除が起こっている好ましい実施の形態は、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKR、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKである。
第1ドメインおよび第2ドメインにおいて削除が起こっている組み合わせは、例えば、それぞれ、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、SRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、RPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、PVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、または、VQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、あるいは、それぞれ、DQSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTTPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTT‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、または、QSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、SRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、SRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、RPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、RPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、または、PVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKR、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、SRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、PVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、または、VQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、あるいは、それぞれ、DQSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、DQSRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、DQSRPVQPFLNLTTPR‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、DQSRPVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、DQSRPVQPFLNLTT‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、または、QSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、SRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、SRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、RPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、RPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、または、PVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRRQRRKK、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、SRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、RPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、PVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、または、VQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、あるいは、それぞれ、DQSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTTPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、DQSRPVQPFLNLTT‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、または、QSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKR、SRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、または、PVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、PVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、または、VQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、あるいは、それぞれ、DQSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTPR‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTT‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、または、QSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、または、PVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RRQRRKKRG、QSRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、PVQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、または、VQPFLNLTTPRKPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、あるいは、DQSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTPR‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、DQSRPVQPFLNLTT‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、または、QSRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、SRPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRKP‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、RPVQPFLNLTTPRK‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG、または、PVQPFLNLTTP‐Xna‐Xnb‐RQRRKKRG。
なお、ペプチドが短くなれば、該ペプチドの(非特異的な)細胞毒性は低くなる。しかし、ペプチドは、生物機能(すなわち、該ペプチドの細胞膜透過性(第1ドメイン)、および、該ペプチドのJNK阻害機能(第2ドメイン))を保っている必要がある。
【0061】
上記に定義したような本発明のキメラペプチドの第1ドメインおよび第2ドメインは、技術的に知られている任意の適切な様式において実施される化学カップリングまたは生物化学カップリングによって(例えば、第1ドメインと第2ドメインとの間にペプチド結合を設けることによって、第1ドメインと第2ドメインとを融合タンパク質として発現させることによって、または、本発明のキメラペプチドの第1ドメインと第2ドメインとを架橋することによって)、互いに連結されてもよい。
【0062】
公知の化学架橋方法は非特異的である。すなわち、これらの方法では、カップリングの位置が、輸送ポリペプチドまたはカーゴ高分子における任意の特定の部位に設定されない。その結果、非特異的な架橋剤を使用することにより、機能部位が攻撃されるか、または活性部位が立体的に妨害されることがあり、接合されたタンパク質が生物的に不活性になる。したがって、第1ドメインおよび第2ドメインを、より特異的にカップリングできる架橋方法を用いることが好ましい。
【0063】
カップリングの特異性を向上するための1つの方法は、架橋される第1ドメインおよび第2ドメインの1つまたは両方において、1度だけもしくは数回存在する官能基に直接化学カップリングすることである。例えば、チオール基を含んでいる唯一のアミノ酸であるシステインは、多くのタンパク質において、数回だけ存在する。また、例えば、ポリペプチドがリジン残基を含んでいない場合、第1アミンに特異的な架橋試薬は、該ポリペプチドのアミノ末端に、選択的であるといえる。カップリングの特異性を向上させるためのこのアプローチの利用を成功させるためには、ポリペプチドの領域内であって、ポリペプチドの生物学的活性を失うことなく変えられてもよい領域内に、適当に希有で且つ反応性のある残基が存在していることが必要である。
【0064】
システイン残基は、該システイン残基がポリペプチド配列の一部に存在し、架橋反応に該システイン残基が参加することによって、生物活性が妨害される恐れがある場合は、置き換えられてもよい。システイン残基を置き換えるときは、それによって引き起こされるポリペプチドの折りたたみの変化を最小限にすることが、一般的に望ましい。ポリペプチドの折りたたみの変化は、システインと化学的および立体的に同様のものが置き換えられたときに、最小になる。これらの理由のために、システインと置き換えられるものとしては、セリンが好ましい。下記の実施例において実証しているように、システイン残基が、架橋を目的として、ポリペプチドのアミノ酸配列に導入されてもよい。
【0065】
システイン残基が導入されるときは、アミノ末端またはカルボキシ末端において、あるいは、アミノ末端またはカルボキシ末端の近傍に導入されることが好ましい。そのようなアミノ酸配列の改変には、興味のあるポリペプチドが、化学合成によって、または組み換えDNAの発現を経て生産されるという従来の方法を利用することができる。
【0066】
また、第1ドメインおよび第2ドメインのカップリングを、カップリング剤または接合剤を用いて達成することができる。利用可能な分子内架橋試薬がいくつか知られている(例えば、「Means and Feeney, CHEMICAL MODIFICATION OF PROTEINS, Holden-Day, 1974, pp. 39-43」を参照のこと)。これらの試薬の例として、例えば、N‐サクシンイミジル3‐(2‐ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、または、N,N'‐(1,3‐フェニレン)ビスマレイミド(両者は、スルヒドリル基に対して高い特異性を示し、不可逆的結合を形成する);N,N'‐エチレン‐ビス‐(ヨードアセトアミド)、または、炭素数6〜11のメチレン架橋を有している試薬(これらは、スルヒドリル基に対して比較的に高い特異性を示す);および、1,5‐ジフルオロ‐2,4‐ジニトロベンゼン(これは、アミノ基およびチロシン基と不可逆結合を形成する)が挙げられる。この目的のために有用な他の架橋試薬として、例えば、p,p'‐ジフルオロ‐m,m'‐ジニトロジフェニルスルホン(これは、アミノ基およびフェノール系の基と不可逆結合を形成する);ジメチル・アジプイミデート(dimethyl adipimidate)(これは、アミノ基に対して特異性を示す);フェノール‐1,4ジスルホニルクロライド(これは、アミノ基と主に反応する);ヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソチオシアネート、またはアゾフェニル‐p‐ジイソシアネート(これは、アミノ基と主に反応する);グルタルアルデヒド(これは、いくつかの異なる側鎖と反応する)およびジスジアゾベンジジン(disdiazobenzidine)(これはチロシンおよびヒスチジンと主に反応する)が挙げられる。
【0067】
架橋試薬は、ホモ2機能性であってもよい、すなわち同じ反応を受ける2つの官能基を有していてもよい。好ましいホモ2機能性の架橋試薬は、ビスマレイミドへキサン(「BMH」)である。BMHは、2つのマレイミド官能基を含んでおり、これらマレイミド官能基は、スルヒドリルを含んでいる化合物と、穏やかな条件下(pH6.5〜7.7)において特異的に反応する。上記2つのマレイミド基は、炭化水素鎖により連結されている。したがって、BMHは、システイン残基を含んでいるペプチドを不可逆的に架橋することに有用である。
【0068】
また、架橋試薬は、ヘテロ2機能性であってもよい。ヘテロ2機能性の架橋剤は、2つの異なる官能基を有している。該架橋剤としては、例えば、アミンに反応する基およびチオールに反応する基を有している架橋剤が挙げられる。この架橋剤により、遊離アミンおよび遊離チオールを有している2つのタンパク質が、それぞれ架橋される。
【0069】
ヘテロ2官能性の架橋剤としては、例えば、スクシンイミジル4‐(N‐マレイミドメチル)シクロヘキサン‐1‐カルボキシレート(「SMCC」)、m‐マレイミドベンゾイル‐N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル(「MBS」)、および、MBSの鎖が延長している類似体であるスクシンイミド4‐(p‐マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)が挙げられる。これらの架橋剤のスクシンイミジル基は、一級アミンと反応し、チオールに反応するマレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
【0070】
架橋試薬の多くは、水に対する溶解度が低い。そこで、架橋試薬の水溶性を改善するために、架橋試薬に親水性部分(例えばスルホン酸基)を加えてもよい。この観点から、水溶性が改変された架橋試薬としては、例えば、スルホ‐MBSおよびスルホ‐SMCCが挙げられ、これらを本発明にしたがって用いてもよい。
【0071】
多くの架橋試薬を用いると、細胞環境下において基本的に開裂することができない接合体が生産される。しかし、いくつかの架橋試薬は、細胞環境下において開裂することができる共有結合(ジスルフィド結合など)を含んでいる。例えば、トラウト試薬(Traut's reagent)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(「DSP」)、および、N‐スクシンイミジル3‐(2‐ピリジルジチオ)プロピーネート(「SPDP」)は、公知の開裂可能なクロスリンカーである。開裂可能な架橋試薬を用いることにより、標的細胞内に送達されたときに、カーゴ部分を輸送ポリペプチドから分離することができる。また、直接的なジスルフィド結合も有用である。
【0072】
上述した架橋試薬を含む非常に多くの架橋試薬は、市販されている。それらの詳細な使用説明書は、市販品を取り扱う業者から容易に入手することができる。タンパク質の架橋および接合体の調製に関しては、一般的に、「Wong, CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSSLINKING, CRC Press (1991)」を参照のこと。
【0073】
化学架橋は、スペーサーアームの使用を含んでいてもよい。スペーサーアームにより、分子内を柔軟にするか、または、接合部分間の分子内距離が調節され、これにより生物学的活性の維持が助長されてもよい。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸(例えばプロリン)を含んでいるポリペプチド部分の形態であってもよい。あるいは、スペーサーアームは、「長鎖SPDP」(Pierce Chem. Co., Rockford, IL.,カタログ番号21651 H)におけるような架橋試薬の一部であってもよい。
【0074】
また、先に開示したキメラペプチドのうちの1つの変異体、断片または誘導体が、本明細書に開示されている。断片および変異体に関しては、JNK阻害剤配列に関する上記の定義を、一般的に参照されたい。
【0075】
特に、本発明において「キメラペプチドの変異体」は、配列番号9〜12に記載の配列の何れかに由来する配列であることが好ましい。該キメラ変異体は、配列番号9〜12に記載の本発明のキメラペプチドのアミノ酸変異を含んでいる。そのような変異では、配列番号9〜12に記載のアミノ酸が、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、置換、付加および/または欠失(断片を誘導する)され、変異した本発明のキメラペプチドは、配列番号9、10、11、または12に記載の配列の何れかと、少なくとも約30%、50%、70%、80%、95%、98%または99%の配列同一性を示す。好ましくは、これらの変異体は、本発明のキメラペプチドに含まれているような第1ドメインおよび第2ドメインの生物活性を保っていることが好ましい。すなわち、上記変異体は、上述したような第1ドメインの輸送活性、ならびに、JNKに結合するための、および/または、少なくとも1つのJNKにより活性化された転写因子の活性化を阻害するための第2ドメインの活性を保っていることが好ましい。
【0076】
したがって、本発明のキメラペプチドは、上記本発明のキメラペプチド(特に、配列番号9、10、11または12に記載の本発明のキメラペプチドの配列)の断片を含んでいる。このように、本発明のコンテクストでは、「本発明のキメラペプチドの断片」は、配列番号9、10、11または12に記載の配列の何れかに由来する配列であり、上記断片は、配列番号9、10、11または12の何れかの少なくとも4個の連続したアミノ酸を含んでいる。この断片は、これらの配列の何れかに由来する特定のエピトープの認識を可能にするのに十分で且つ、配列を細胞内、核内、もしくはさらに好ましい位置に輸送するのに十分な長さを含んでいることが好ましい。上記断片は、配列番号9、10、11または12の何れかの4〜18個、4〜15個、もしくはより好ましくは4〜10個の連続したアミノ酸を含んでいる。また、本発明のキメラペプチドの断片は、配列番号9、10、11または12に記載の配列の何れかと、少なくとも30%、50%、70%、80%、95%、98%または99%の配列同一性を共有している配列として、定義されてもよい。
【0077】
最終的に、本発明のキメラペプチドは、上記本発明のキメラペプチド(特に配列番号9、10、11または12に記載の本発明のキメラペプチド配列)の誘導体を含んでいてもよい。
【0078】
さらに、本発明は、上記に定義したような本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチド、またはそれらの断片、変異体もしくは誘導体をコードする核酸配列に関する。本発明のJNK阻害剤配列をコードする好ましく適切な核酸は、ヒトIB1核酸(GenBank Accession No. (AF074091))、ラットIB1核酸(GenBank Accession No. AF 108959)、または、ヒトIB2(GenBank Accession No AF218778)から選択される。
【0079】
本発明のJNK阻害剤配列またはキメラペプチドをコードする核酸は、技術的に知られている任意の方法により得られてもよい。そのような方法としては、例えば、上記配列の3'末端および5'末端にハイブリダイズすることができる合成プライマーを用いたPCR増幅、および/または、所定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチド配列を用いた、cDNAライブラリーもしくはゲノムライブラリーからのクローニングが、挙げられる。
【0080】
また、上記に定義したような(野生型の)本発明のJNK阻害剤配列またはキメラペプチドをコードする適切な鎖と、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列は、本発明に開示されている。そのような核酸配列は、特異的にハイブリダイズするために十分な長さを有している少なくとも6個の連続した核酸を含んでいることが好ましい。そのような核酸配列は、6〜38個の連続した核酸を含んでいることがより好ましく、6〜30個の連続した核酸を含んでいることがさらに好ましく、6〜20個または6〜10個の連続した核酸を含んでいることが最も好ましい。
【0081】
「ストリンジェントな条件」は、配列に依存し、環境が異なると異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、確定したイオン強度およびpHにおける特異的な配列に関する融点の温度(TM)よりも約5℃低いように選択されてもよい。該TMは、確定したイオン強度およびpHにおいて、完全に一致するプローブに標的配列の50%がハイブリダイズする温度である。通常、ストリンジェントな条件では、塩濃度がpH7において少なくとも約0.02モル濃度であり、温度が少なくともが約60℃である。他の因子(特に、塩基の組成、および相補鎖の大きさなど)がハイブリダイゼーションのストリンジェンシー、有機溶媒の存在、および塩基ミスマッチの程度に影響を与えるので、パラメーターの組み合わせが、どれか1つの絶対測定よりも重要である。
【0082】
「高ストリンジェンシー条件」は、以下の工程を含んでいてもよい。すなわち、工程1:DNAを含んでいるフィルターを、8時間から一晩65℃で、6×SSC、50mMTris‐HCl(pH7.5)、1mMEDTA、0.02%PVP、0.02%Ficoll、0.02%BSAおよび500μg/ml変性サケ精子DNAを含んでいる緩衝液中において前処理する工程。工程2:フィルターを、48時間65℃で、100mg/ml変性サケ精子DNAおよび5〜20×106cpmの32Pにより標識されたブローブが添加された上記プレハイブリダイゼーション混合液中においてハイブリダイズさせる工程。工程3:フィルターを1時間37℃で、2×SSC、0.01%PVP、0.01%Ficollおよび0.01%BSAを含んでいる溶液中において洗浄し、その後、0.1×SSC中において50℃で45分間洗浄する工程。工程4:フィルターをオートラジオグラフする工程。用いられてもよい高ストリンジェンシーの他の条件は、技術的に公知である(例えば、「Ausubelら, (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley」および「Sons, NY; and Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, a Laboratory Manual, Stockton Press, NY」を参照のこと)。
【0083】
「穏やかなストリンジェンシー条件」は、以下の工程を含んでいてもよい。工程1:DNAを含んでいるフィルターを、6時間55℃で、6×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび100mg/ml変性サケ精子DNAを含んでいる溶液中において前処理する工程。工程2:フィルターを、18〜20時間55℃で、5〜20×106cpmの32Pで標識されたプローブが添加された同じ溶液中においてハイブリダイズさせる工程。工程3:フィルターを1時間37℃で、2×SSC、0.1%SDSを含んでいる溶液中において洗浄し、その後、1×SSCおよび0.1%SDSを含んでいる溶液中におおける60℃で30分間の洗浄を2回行う工程。工程4:フィルターを乾燥させて、オートラジオグラフィーに露光する工程。用いられてもよい穏やかなストリンジェンシーの他の条件は、技術的に公知である(例えば、「Ausubelら, (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley」および「Sons, NY; and Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, a Laboratory Manual, Stockton Press, NY」を参照のこと)。
【0084】
最後に、「低ストリンジェンシー条件」は、以下の工程を含んでいてもよい。工程1:DNAを含んでいるフィルターを、6時間40℃で、35%ホルムアミド、5×SSC、50mMTris‐HCl(pH7.5)、5mMEDTA、0.1%PVP、0.1%Ficoll、1%BSAおよび500μg/ml変性サケ精子DNAを含んでいる溶液中において前処理する工程。工程2:フィルターを、18〜20時間40℃で、0.02%PVP、0.02%Ficoll、0.2%BSA、100μg/mlサケ精子DNA、10%(wt/vol)硫酸デキストランおよび5〜20×106cpm32Pで標識されたプローブが添加された同じ溶液中においてハイブリダイズさせる工程。工程3:フィルターを1.5時間55℃で、2×SSC、25mMTris‐HCl(pH7.4)、5mMEDTAおよび0.1%SDSを含んでいる溶液中において洗浄し、その後、洗浄溶液を新鮮な溶液に替えて、さらに1.5時間60℃でインキュベートする工程。工程4:フィルターを乾燥させて、オートラジオグラフィーに露光する工程。必要に応じて、フィルターを20分間65〜68℃で洗浄し、フィルムに再度露光する。用いられてもよい低ストリンジェンーの他の条件は、技術的に公知である(例えば、異種間のハイブリダイゼーションに用いられているようなものがある)。例えば、「Ausubelら, (eds.), 1993, CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley」、および「Sons, NY; and Kriegler, 1990, GENE TRANSFER AND EXPRESSION, A LABORATORY MANUAL, Stockton Press, NY」を参照のこと。
【0085】
解析、特徴付け、または治療上の使用のために、本発明により提供される核酸配列を用いて、本発明のペプチド(本発明のJNK阻害剤配列または本発明キメラペプチド)を、発現させることができる。つまり、恒常的に、組織の分化もしくは発生の特定の段階に、または病気の状態の何れかにおいて、対応する(本発明の)ペプチドが選択的に発現する組織についてのマーカーとして、本発明のペプチドを発現させるために、本発明により提供される核酸配列を用いることができる。上記核酸に関する他の使用には、例えば、核酸の電気泳動に基づく解析の分子量マーカーが含まれる。
【0086】
本発明の他の実施の形態によれば、上記に定義したような1以上の本発明のJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドを、組み換え発現させるための発現ベクターが提供される。本明細書において用いられる用語「発現ベクター」は、環状または直鎖状のDNAもしくはRNAのどちらかを示す。該DNAもしくはRNAは、2本鎖または1本鎖のどちらかである。また、上記発現ベクターは、宿主細胞、単細胞の宿主生物または多細胞の宿主生物内に導入されるための少なくとも1つの本発明の核酸を含んでいる。本発明の発現ベクターは、本発明のJNK阻害剤配列、またはその断片もしくは変異体、あるいは、本発明キメラペプチド、またはその断片もしくは変異体コードしている本発明の核酸を含んでいることが好ましい。さらに、本発明の発現ベクターは、発現を支援するための適切な要素を含んでいることが好ましい。上記要素としては、例えば、様々な調節要素(ウィルス、細菌、植物、哺乳類などに由来するエンハンサー/プロモーターなど)、および挿入されたポリヌクレオチドの発現を宿主細胞において促進させる他の真核性の源(絶縁体、境界要素、LCR、またはマトリックス/スカッフォールド付着領域など)が含まれる。なお、上記LCRは、例えば「Blackwood and Kadonaga (1998), Science 281, 61-63」に記載されており、上記マトリックス/スカッフォールド付着領域は、例えば「Li, Harju and Peterson, (1999), Trends Genet. 15, 403-408」に記載されている。いくつかの実施の形態では、調節要素は、異種である(すなわちネイティブな遺伝子のプロモーターではない)。代わりに、必要な転写シグナルおよび翻訳シグナルが、ネイティブなプロモーターによって、遺伝子および/または該遺伝子の隣接領域に、提供されてもよい。
【0087】
本明細書において用いられる用語「プロモーター」は、1以上の本発明の核酸配列の転写を制御するために機能し、且つ、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位の存在、およびプロモーターの機能を調節するために相互作用する他のDNA配列の存在によって構造的に同定されるDNA領域のことをいう。機能的な発現を促進するプロモーター断片は、プロモーターとしての活性を保有している短くなった、または切り取られたプロモーター配列である。プロモーター活性は、技術的に知られている任意のアッセイ(例えば、「Wood, de Wet, Dewji, and DeLuca, (1984), Biochem Biophys. Res. Commun. 124, 592-596」;および「Seliger and McElroy, (1960), Arch. Biochem. Biophys. 88, 136-141」を参照のこと)、および、Promega(登録商標)から市販されているアッセイによって測定されてもよい。
【0088】
本発明の発現ベクターにおいて用いられる「エンハンサー領域」は、1以上の遺伝子の転写を増加させるために機能するDNAの領域のことを、通常いう。より具体的には、本明細書において用いられる用語「エンハンサー」は、発現される遺伝子についての位置および配向性に関係なく遺伝子の発現を、増強、増大、向上、または改良し、且つ、1つよりも多いプロモーターの発現を増強、増大、向上、または改良していてもよいDNA調節要素のことである。
【0089】
上記に定義したような、本発明の発現ベクターのためのプロモーター/エンハンサー配列は、植物、動物、昆虫、または菌類の調節配列を利用してもよい。例えば、酵母または他の菌類に由来するプロモーター/エンハンサー要素を、用いることができる(例えば、GAL4 プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター)。代わりに、もしくはさらに、上記プロモーター/エンハンサー配列は、動物の転写制御領域を含んでいてもよい。該転写制御領域としては、例えば、(i)脾臓β細胞内において活性な、インスリン遺伝子制御領域(例えば、「Hanahanら, 1985. Nature 315: 115-122」を参照のこと)、(ii)リンパ系細胞内において活性な、免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、「Grosschedlら, 1984, Cell 38 : 647-658」を参照のこと)、(iii)肝臓において活性な、アルブミン遺伝子制御領域(例えば、「Pinckertら, 1987. Genes and Dev 1: 268-276」を参照のこと)、(iv)脳のオリゴデンドロサイト内において活性な、ミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(例えば、「Readheadら, 1987, Cell 48: 703-712」を参照のこと)、および、(v)視床下部内において活性な、性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、「Masonら, 1986, Science 234: 1372-1378」を参照のこと)などが挙げられる。
【0090】
さらに、本発明の発現ベクターは、増幅マーカーを含んでいてもよい。該増幅マーカーは、例えば、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、多剤耐性遺伝子(MDR)、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)、および、N‐(ホスホンアセチル)‐L‐アスパラギン酸耐性(CAD)からなる群から選択されてもよい。上記に定義したようなタンパク質の遺伝子(すなわち興味のあるタンパク質(POI)および/または本発明の誘導タンパク質)を増幅することにより、細胞に導入された上記ベクターから発現するこれらのタンパク質の発現レベルを増加させることができる(「Kaufmanら(1985), Mol. Cell Biol. 5, 1750-1759」を参照のこと)。
【0091】
本発明に適切な典型的な発現ベクターまたは該発現ベクターの誘導体としては、特に、ヒトまたはヒト以外の動物に感染するウィルス(例えば、ワクシニアウィスルまたはアデノウィルス)、昆虫に感染するウィルス(例えばバキュロウィルス)、酵母ベクター、バクテリオファージベクター(例えばラムダファージ)、プラスミドベクターおよびコスミドベクターなどが挙げられる。
【0092】
さらに、本発明は、上記に定義したような本発明の核酸の配列にコードされたペプチドを発現させるために利用してもよい、宿主‐ベクターシステムを提供する。該宿主‐ベクターシステムには、例えば、(i)ワクシニアウィルスおよびアデノウィルスなどにより感染される哺乳類細胞システム、(ii)バキュロウィルスなどにより感染される昆虫細胞システム、(iii)酵母ベクターを含む酵母、(iv)バクテリファージDNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNAによりトランスフォームされる細菌が含まれるが、これらに限定されない。利用される宿主‐ベクターシステムに応じて、数ある適切な転写要素および翻訳要素のうちの何れか1つを用いてもよい。
【0093】
そのような宿主‐ベクターシステムに適切な宿主細胞株は、好ましくは、挿入された興味のある配列の発現を調整するか、または、発現したペプチド(上記配列によりコードされている)を、所望の特定の様態で修飾もしくは加工する宿主細胞株から選択されてもよい。さらに、特定のプロモーターからの発現は、選択された宿主株内の特定の誘導物質の存在下において増強されてもよい。これにより、遺伝子組み換えペプチドの発現の制御が容易になる。さらに、異なる宿主細胞は、発現されるペプチドの翻訳の際ならびに翻訳後の加工および修飾(グリコシル化およびリン酸化など)に関する、特徴的で且つ特異的な機構を備えている。したがって、適切な細胞系または宿主システムは、外来のペプチドへの所望の修飾および加工が確実に実現されるように選択されてもよい。例えば、細菌のシステム内でのペプチドの発現を用いて、グリコシル化されていないコアペプチドを製造することができる。これに対し、哺乳類細胞内での発現は、異種ペプチドの「ネイティブ」グリコシル化を確実する。
【0094】
また、本発明は、本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドに対する抗体を提供する。また、本発明のJNK阻害剤配列、または該阻害剤配列を含んでいる本発明のキメラペプチドに特異的な抗体を製造するための効率的な手段を提供する。
【0095】
本発明によれば、JNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチド、ならびにそれらの断片、変異体または誘導体を、これらペプチドの構成要素に免疫特異的に結合する抗体を発生させるための免疫原として利用してもよい。そのような抗体としては、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、およびFab発現ライブラリーを含んでいる。特定の実施の形態では、本発明は、上記に定義したような本発明のキメラペプチドまたはJNK阻害剤配列に対する抗体を提供する。これらの本発明の抗体を製造するためには、技術的に知られている様々な手法を用いてもよい。
【0096】
一例として、ポリクローナル抗体を製造するために、上記に定義したような任意の本発明のキメラペプチドまたはJNK阻害剤配列を注射することにより、様々な宿主動物を免疫してもよい。免疫反応を増加させるために、様々なアジュバントを用いてもよい。該アジュバントとしては、例えば、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、ミネラルゲル(例えば水酸化アルミニウム)、界面活性物質(例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール(pluronic polyol)、ポリアニオン、ペプチド、油乳濁液、ジニトロフェノールなど)、CpG、ポリマー、プルオニクス(Pluronics)、およびヒトのアジュバント(バシルカルメッテ‐グエリン(Bacille Calmette-Guerin)およびコリネバクテリウム・パルヴムCorynebacterium parvum)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
上記に定義したような本発明のキメラペプチドまたはJNK阻害剤配列に対するモノクローナル抗体を調製するために、細胞系を連続的に培養することにより、抗体分子が産生される任意の技術を利用してもよい。そのような技術としては、ハイブリドーマの技術(「Kohler and Milstein, 1975. Nature 256: 495-497」を参照のこと)、トリオーマの技術、ヒトB細胞ハイブリドーマの技術(「Kozborら, 1983, Immunol Today 4: 72」を参照のこと)、およびヒトモノクローナル抗体を製造するためのEBVハイブリドーマの技術(「Coleら, 1985. In: Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96」を参照のこと。)が挙げられるが、これらに限定されない。ヒトモノクローナル抗体を、本発明の実施に際して利用してもよい。また、ヒトモノクローナル抗体を、ヒトハイブリドーマを用いて製造してもよいし(「Coteら, 1983. Proc Natl Acad Sci USA 80: 2026-2030」を参照のこと)、インビトロにおいて、エプスタインバーウイルスによりヒトB細胞をトランスフォームすることによって、製造してもよい(「Coleら,1985. In: Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy (Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)」を参照のこと)。
【0098】
本発明によれば、本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドに特異的な一本鎖抗体を製造するための技術を、適用することができる(例えば米国特許第4,946,778号明細書を参照のこと)。さらに、Fab発現ライブラリーを構築するための方法を適用することができる(例えば「Huseら, 1989. Science 246: 1275-1281」を参照こと)。このFab発現ライブラリーにより、上記に定義したようなこれらの本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドに対する、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片を迅速且つ効率よく同定することができる。非ヒト抗体を、技術的によく知られている技術により「ヒト化」することができる(例えば米国特許第5,225,539号明細書を参照のこと)。JNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドに対するイディオタイプを含んでいる抗体の断片を、公知の技術により製造してもよい。上記抗体の断片には、例えば(i)抗体分子をペプシンを用いて消化することによって製造されるF(ab')2断片、(ii)F(ab')2断片のジスルフィド結合を還元することによって生成するFab断片、(iii)パパインおよび還元剤を用いて、抗体分子を処置することによって生成するFab断片、ならびに(iv)Fv断片が含まれる。
【0099】
本発明の1実施の形態では、所望の特異性を有している本発明の抗体をスクリーニングする方法には、酵素免疫測定法(ELISA)および技術的に知られている他の免疫を介した技術が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施の形態では、本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明キメラペプチドの特定のエピトープ(例えば、5〜20アミノ酸、好ましくは8〜18アミノ酸、最も好ましくは8〜11アミノ酸を一般的に含んでいるそれらの断片)に特異的な抗体の選抜は、そのようなエピトープを有している本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドの断片に結合するハイブリドーマの産出により容易になる。また、上記に定義したようなエピトープに特異的なこれらの抗体も本発明は提供する。
【0100】
例えば、適切な生理学的試料中の上記ペプチドのレベルの測定、診断方法、または、ペプチドのイメージングなどに用いるために、本発明のJNK阻害剤配列(および/または対応する本発明のキメラペプチド)の局在および/または量に関する技術的に知られている方法に、本発明の抗体を用いてもよい。
【0101】
本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチド、および/または本発明の核酸を薬学的組成物に調合することができ、該組成物も本発明に含まれる。該組成物は、以下の物質のうちの1つをさらに含んでいてもよい;薬理学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝物、安定剤、または当業者に公知の他の材料。そのような材料は、無毒であるべきであり、活性成分の効能を妨げるべきではない。担体または他の材料の正確な性質は、投与経路に依存してもよい。上記投与経路としては、例えば、経口経路、静脈内経路、皮膚経路、皮下経路、経鼻経路、筋内経路、腹腔内経路、またはパッチ(patch)経路が挙げられる。
【0102】
経口投与のための薬学的組成物は、錠剤、カプセル、粉末または液体の形態であってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体の担体を含んでいてもよい。液体の薬学的組成物は、水、石油、動物油、植物油、鉱油、または合成油などの液体の担体を、一般的に含んでいる。生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖類の溶液、またはグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど)が、含まれていてもよい。
【0103】
静脈内注射、皮膚注射、もしくは皮下注射、または患部における注射に関しては、活性成分は、発熱物質を有しておらず、且つ適切なpH、等張性および安定性を有している非経口的に投与される水溶液の形態である。当業者は、例えば等張性のある媒体(塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、乳酸リンゲル注射)を用いて適切な溶液を適切に調製することができる。防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加剤が、必要に応じて含まれていてもよい。個々に与えられる本発明の薬理学的に有益な他の化合物が、ポリペプチドであろうと、ペプチドであろうと、または核酸分子であろうと、予防のために有効な量、または治療のために有効な量で投与されることが好ましい。(場合によっては)上記量を用いれば、上記個々に利益が十分もたらされる。投与される実際の量、投与速度、投与の時間経過は、治療されるものの性質および重症度に依存する。
【0104】
治療の処方(例えば用量の決定)は、一般開業医および他の医師の責任の範囲内であり、通常は、治療される疾患、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および開業医に知られている他の要因が考慮される。上述した技術およびプロトコールの例は、「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, 16th edition, Osol, A. (ed), 1980」に記載されている。
【0105】
代わりに、(ターゲッティング)抗体または細胞特異的リガンドなどのターゲッティングシステムを用いることによって、本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチド、および本発明の核酸を、特定の種類の細胞により特異的に送達するために、ターゲッティング療法を用いてもよい。ターゲッティングのための抗体は、通常、以下に定義されたような疾患の何れかに関連している細胞の細胞表面タンパク質に特異的である。例えば、これらの抗体は、細胞表面の抗体を対象としていてもよい。上記細胞表面の抗体としては、例えば、MHCクラスIIDRタンパク質などのB細胞に関連した表面タンパク質、CD18(LFA‐1ベータ鎖)、CD45RO、CD40またはBgp95、あるいは、例えばCD2、CD2、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD10、CD13、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD30、CD33、CD34、CD38、CD39、CD4、CD43、CD45、CD52、CD56、CD68、CD71およびCD138などから選ばれる細胞表面タンパク質が挙げられる。ターゲッティングコンストラクトは、通常、本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチドおよび核酸を、細胞表面タンパク質に共有結合させることにより、または、本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチドおよび核酸を、細胞特異的なリガンドに結合させることにより、調製されてもよい。タンパク質を、ペプチド結合によって、または化学カップリング、もしくは架橋などによって、そのような抗体に結合もしくは付着させてもよい。それから、薬学的に有効な量のターゲッティングコンストラクトを、患者に、以下に定義したような投与経路の何れかににより投与することによって、ターゲッティング療法を実行してもよい。投与経路としては、すなわち、腹腔内送達経路、経鼻送達経路、静脈内送達経路、経口送達経路、およびパッチ送達経路などが挙げられる。上記に定義したようなターゲッティング抗体または細胞特異的なリガンドに付着している、本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチド、または本発明の核酸を、インビトロまたはインビボにおいて、例えば共有結合の加水分解によって、ペプチダーゼによって、または、任意の他の適切な方法によって、放出してもよい。代わりに、本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチド、本発明の核酸が、小さい細胞特異的なリガンドに付着している場合は、リガンドが放出されなくてもよい。細胞表面に存在する場合、本発明のキメラペプチドは、その輸送配列の活性により、細胞内に侵入してもよい。ターゲッティングは、様々な理由(例えば、本発明のJNK阻害剤配列、キメラペプチド、および本発明の核酸が、許容できない毒性を有している場合、または、その他に、あまりにも多くの用量を必要とする場合)から望ましいことがある。
【0106】
本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドを直接投与する代わりに、細胞内に導入されたコードしている遺伝子から(例えば投与されるウィルスベクターから)、それらを発現させることによって、それらを標的細胞内に製造することができる。上記ウィルスベクターは、通常本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドをコードしている。該ベクターは、治療される特異的な細胞を標的にすることができる。さらに、該ベクターは、定義された調節に基づいて標的細胞によって選択性をより高くまたはより低く変えられる、調節要素を含んでいてもよい。この技術は、成熟したタンパク質を、該タンパク質の前躯体型の代わりに利用するVDEPT(ウィルス特異的酵素のプロドラッグ療法)技術の改良型の1つである。
【0107】
代わりに、本発明のJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドを、抗体またはウィルスを用いて、前躯体型で投与することができる。その後、本発明のJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドは、治療される細胞において製造される活性化剤、または該細胞を標的とする活性化剤によって活性な形態に変換されてもよい。この種類のアプローチは、ADEPT(抗体特異的酵素プロドラック療法)、VDEPT(ウィルス特異的酵素プロドラッグ療法)として呼ばれることがある。前者は、細胞特異的な抗体に接合することによって活性化剤の対象を細胞に設定する工程を含んでおり、後者は、ウィルスベクター内のコードしているDNAから発現させることによって、ベクター内に活性化剤を製造する工程を含んでいる(例えば、欧州特許出願公開第415731号明細書および国際公開公報第90/07936号パンフレットを参照のこと)。
【0108】
また、本発明は、被検体におけるJNKの活性化に関連した細胞増殖性の疾患(「JNK関連疾患」)を予防および/または治療するための、例えば上記に定義したような薬理学的組成物を調製するための、本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチドおよび/または本発明核酸配列の使用を含んでいる。通常、本発明にしたがって用いられるそのような薬理学的組成物は、活性成分として、例えば、
(i)本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明キメラペプチド、ならびに/あるいは、それらの変異体、断片または誘導体の何れかを1以上、ならびに/あるいは、
(ii)本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチド、ならびに/あるいは、それらの変異体、断片または誘導体をコードする核酸、ならびに/あるいは、
(iii)本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチド、ならびに/あるいは、それらの変異体、断片または誘導体の何れかを1以上含んでいる細胞、ならびに/あるいは、
(iv)本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチド、ならびに/あるいは、それらの変異体、断片または誘導体をコードするベクターおよび/または核酸によりトランスフェクトされた細胞、
を含んでいる。
【0109】
本発明の予防および/または治療は、通常、上記に定義したような本発明の薬理学的組成物の投与を含んでいる。用語「調整」は、JNKが過剰発現しているときに、JNKの発現を抑制することを含んでいる。また、用語「調整」は、例えば、細胞において、野生型のc‐jun、ATF2およびNFAT4結合部位の競合阻害剤として配列番号1〜4および/または9〜12の何れかの1以上のペプチドを用いたc‐jun、ATF2またはNFAT4のリン酸化の抑制を含んでいる。また、用語「調整」は、例えばc‐jun、AFT2およびc‐fosで構成されているAp1‐複合体などの、c‐jun、ATF2またはNFAT4、およびそれらの関連するパートナーで構成されている転写因子のヘテロマー複合体およびホモマー複合体の抑制を含んでいる。細胞増殖性疾患がJNKの過剰発現と関連しているとき、上述した抑制効果を有するJNK阻害剤配列を、細胞に導入してもよい。例えば、「調整」は、例えばIBペプチドに特異的な抗体を用いた、JNKの発現の増加を含んでいてもよい。上記抗体は、IBペプチドとJNKとの結合を妨害し、これにより、IBに関連したペプチドによるJNKの阻害が防がれる。
【0110】
上記に開示されたような本発明の薬理学的組成物を用いた、被検体の予防および/または治療を、通常、被検体に、(治療のために有効な)量の上記薬理学的組成物を(インビボにおいて)投与することによって、達成されてもよい。ここで、上記被検体は、例えば任意の哺乳類、例えばヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマまたはブタであってもよい。用語「治療のために有効な」は、上記薬理学的組成物の活性成分の量が、JNK関連疾患を改善するのに十分な量であるということを意味する。
【0111】
上記において用いられているような用語「細胞増殖性疾患」または「JNK関連疾患」は、JNKのレベルが異常であることを一般的に特徴とし、周囲の組織から形態的におよび機能的に異なるように見えることが頻繁にある、インビトロおよびインビボにおける悪性ではない細胞集団、ならびに悪性の細胞集団のことを通常意味する。「JNKのレベルが異常である」は、治療される被検体の一部におけるJNKのレベルが、疾患を有していない被検体の影響を受けていない類似部分におけるJNKのレベルと比べて、増加していること、または減少していることを意味する。
【0112】
例えば、
(i)JNKが活性化していることが頻繁に実証されている、様々な臓器系(肺、乳房、リンパ組織、胃腸および尿生殖路など)の悪性腫瘍、ならびに、
(ii)悪性腫瘍(大部分の大腸癌、腎細胞癌、前立腺癌、肺の非小細胞癌、小腸の癌および食道癌など)を含んでいる腺癌、
を予防および/または治療することに、本発明薬理学的組成物を用いてもよい。また、白血病、発癌性形質転換に関係する疾患または病態生理、ならびにJNKの活性化を明らかに必要とするBcr‐Ablにより発癌性形質転換された癌、も含まれる。
【0113】
また、本発明の薬理学的組成物を、悪性ではない、もしくは免疫に関係している細胞増殖性の病気の予防および/または治療に適用することができる。悪性ではない、もしくは免疫に関係している細胞増殖性の病気としては、例えば、乾癬、増殖性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、ポストジアリシスシンドローム(post-dialysis syndrome)、関節リウマチ、後天性免疫不全症候群、血管炎、敗血症性ショック、ならびに他の種類の急性炎症、および脂質性組織球増殖症が挙げられる。特に好ましい病気は、免疫病理学的な疾患である。特に、JNKキナーゼ活性と病因学的に関連している任意の疾患が、予防または治療に有効であると考えられる。上記疾患としては、例えば、上記に定義されたような、1以上の細胞におけるJNKの活性化に関連している疾患もしくは病態生理(再狭窄(restenosis)、聴力損失、耳の傷害、虚血、脳梗塞)、ならびに/あるいは、免疫細胞の成熟および分化に関連している疾患もしくは病態生理、再かん流傷害、低酸素症、アポトーシスが関連している病気(例えば、ウィルス感染において発生する病気(AIDSなど)、自己免疫疾患、神経変性傷害(脳梗塞、脳損傷、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病およびパーキンソン病など)、循環器疾患、骨粗しょう症および老化)、ストレス刺激に対する反応、ならびに、炎症性サイトカインなどを用いた治療に起因する副次的効果に関連している疾患もしくは病態生理が挙げられる。また、本発明の薬理学的組成物を用いて、動脈性高血圧(心肥大および心臓肥大、動脈硬化性病変など)により誘導される病理状態、および、血管の分岐部における動脈性高血圧により誘導される病理状態など、放射線療に用いられる電離放射線、および紫外線(紫外線光)により誘導される病理状態、DNAに損害を与える作用物質(化学療法薬など)に由来するフリーラジカルにより誘導される病理状態、虚血/再かん流傷害により誘導される病理状態、低酸素により誘導される病理状態、および/または高体温および低体温により誘導される病理状態における、糖尿病もしくは細胞のせん断応力に関連する影響を治療もしくは予防してもよい。最後に、上述した病気、疾患または病態生理のコンテクストにおいて、本発明の薬理学的組成物を用いて、活性なJNKポリペプチドの存在下において発現が増加している遺伝子の発現を阻害してもよい。該遺伝子および遺伝子産物は、通常、例えば、炎症性サイトカインを含んでいる。そのようなサイトカインは、炎症性疾患、自己炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、変性疾患、ミオパチー、心筋ミオパチー、および拒絶反応の全ての種類において発見される。
【0114】
さらに、JNKおよびその全てのアイソフォームが、病理状態の進行および確立、またはそれらの経路に参加しているために、JNKの活性の阻害が望まれる任意の状況に、本発明JNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチドまたは本発明核酸配列を用いてもよい。そのような使用は、インビトロ、エクスビボ、およびインビボでの適用を含んでいてもよい。
【0115】
したがって、活性化したJNKのシグナル経路を、遺伝子療法により調整するための(好ましくは、上記に定義したような状態、病気および/または疾患のうちの1つを治療するための)本発明の特定の実施の形態に、上記に定義したような本発明の核酸を利用してもよい。このコンテクストでは、遺伝子療法は、特定の本発明の核酸を被検体に、上記に定義したような薬理学的組成物などを介して投与することにより実施される療法のことをいう。ここで上記本発明の核酸は、L‐アミノ酸のみを含んでいる。本発明のこの実施の形態では、上記核酸から、それにコードされたペプチドが生産され、その後、該ペプチドが、病気または疾患の機能を調整することにより治療効果をもたらす。技術的に利用可能な遺伝子療法に関係する方法の何れかを、本発明の実施に際して使用してもよい(例えば、「Goldspielら, 1993. Clin Pharm 12: 488-505」を参照のこと)。
【0116】
好ましい実施の形態では、遺伝子療法に用いられる本発明の核酸は、本発明のIBに関係したペプチド(すなわち本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチド、あるいはそれらの断片または誘導体)の何れかを1以上、適切な宿主内に発現する発現ベクターの一部である。特定の実施の形態では、そのような発現ベクターは、JNK阻害剤配列のコード領域に作動可能に連結されたプロモーターを有している。上記プロモーターは、上記のように定義されてもよい。例えば、該プロモーターは、誘導性であるか、または恒常性であり、必要に応じて組織特異的である。
【0117】
もう1つ別の特定の実施の形態では、本発明の核酸分子であって、本発明の核酸分子のコード配列(およびそれの任意の他の所望の配列)が、ゲノムの所望の部位における相同組み換えを促進する領域に隣接されている核酸分子を、遺伝子療法に用いる。これによれば、核酸を染色体内から発現することができる(例えば、「Koller and Smithies, 1989. Proc Natl Acad Sci USA 86: 8932-8935」を参照のこと)。
【0118】
遺伝子療法を行うために、本発明の核酸分子を患者に直接的に送達してもよいし、間接的に送達してもよい。直接的に送達するとは、患者を核酸または核酸を含んでいるベクターに直接晒すことであり、間接的に送達するとは、初めに、核酸を用いてインビトロにおいて細胞を形質転換させ、その後患者に移植することである。これら2つのアプローチは、それぞれインビボ遺伝子療法またはエクスビボ遺伝子療法として知られている。本発明の特定の実施の形態では、核酸は、コードされている産物を製造するために該核酸が発現する場所へ、インビボにおいて直接的に投与される。このことは、技術的に知られている多くの方法の何れかにより達成してもよい。そのような方法としては、例えば、適切な核酸発現ベクターの一部として核酸をコンストラクトし、以下のようにして該核酸発現ベクターを投与するという方法が挙げられる。すなわち、例えば、該核酸発現ベクターが細胞内に存在するような方法により(例えば、欠陥ウィルスまたは弱毒化ウィルスあるいは他のウィルスベクターを用いて(米国特許第4,980,286号明細書を参照のこと));直接的に裸のDNAを注入して;微粒子銃(例えば「ジーンガン」Biolistic, DuPont)を用いて;核酸を脂質により被覆して;関連した細胞表面受容体/トランスフェクション試薬を用いて;リポソーム、微粒子またはマイクロカプセル内に封入して;核に侵入することが知られているペプチドが連結している上記核酸発現ベクターを投与して、または、受容体を介してエンドサイトーシスされる傾向にあるリガンドが連結している上記核酸発現ベクターを投与することによって(これにより、興味のある受容体を特異的に発現している細胞種を「標的」とすることができる(例えば「Wu and Wu, 1987.J Biol Chem 262: 4429-4432」を参照のこと)、該核酸発現ベクターを投与する。
【0119】
本発明の実施の際における遺伝子療法に関する別のアプローチは、インビトロの組織培養物における細胞内に遺伝子を、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウムを用いたトランスフェクション、ウィスル感染などの方法によって、導入する工程を含んでいる。一般的に、導入方法は、選択マーカーを細胞に同時に移動させることを含んでいる。その後、細胞を淘汰圧(例えば抗生物質に対する耐性)下におく。これにより、導入される遺伝子を取り込み、且つ該遺伝子を発現している細胞の単離が容易になる。その後、該細胞を患者に送達する。特定の実施の形態では、生じた組み換え細胞をインビボにおいて投与する前に、核酸を、技術的に知られている任意の方法によって細胞内に導入する。該方法としては、例えば、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、興味のある核酸配列を含んでいるウィルスもしくはバクテリオファージベクターを用いた感染、細胞融合、染色体を介した遺伝子導入、マイクロセルを介した遺伝子導入、スフェロプラスト融合、および、同様の方法であって、受容細胞の成長上および生理的に必要な機能が、導入によって妨害されないことが確実である方法(例えば、「Loeffler and Behr, 1993. Meth Enzymol 217 : 599-618」を参照のこと)が挙げられる。選ばれた技術により、核酸が細胞へ安定して導入されるはずであり、このため、核酸が細胞によって発現され得る。好ましくは、導入された核酸は、子孫細胞に受け継がれ且つ発現され得る。
【0120】
本発明の好ましい実施の形態では、生じた組み換え細胞を、技術的に知られている様々な方法によって、患者に送達してもよい。該方法としては、上皮細胞を(例えば皮下に)注射する方法、植皮として組み換え皮膚細胞を患者に適用する方法、および組み換え血液細胞(例えば造血幹細胞、または造血前駆細胞)を静脈注射する方法が挙げられる。使用を想定される細胞の総量は、所望の効果、患者の状態などに依存する。さらに該総量を、当業者が決定してもよい。遺伝子療法のために核酸が導入される細胞には、任意の所望の利用可能な細胞種が含まれ、さらに該細胞は異種、同系、またはオートジェネイック(autogeneic)であってもよい。細胞種には、分化した細胞(上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、肝細胞、および血液細胞)、または様々な幹細胞もしくは前駆細胞(特に、胚心筋細胞、肝臓の幹細胞(国際公開公報第94/08598号パンフレット)、神経幹細胞(「Stemple and Anderson, 1992,Cell 71 : 973-985」)、造血幹細胞もしくは造血前駆細胞)が含まれるが、これらに限定されない。造血幹細胞もしくは造血前駆細胞は、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、および胎児肝臓などから得られる。好ましい実施の形態では、遺伝子療法のために利用される細胞は、患者自身の細胞である。
【0121】
別の実施の形態によれば、本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチド、本発明の核酸配列、あるいは、本発明のJNK阻害剤配列または本発明のキメラペプチドに対する抗体を、上記に定義したような様々な状態、病気および/または疾患を検出、予測、診断もしくは監視するか、あるいは、それらの治療を監視するための(インビトロにおける)アッセイ(例えば免疫測定法)に利用してもよい。患者に由来する試料を、本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチド、または本発明の核酸に対する抗体に、免疫特異的な結合が起こってもよい条件下において接触させる工程、その後、上記抗体による任意の免疫特異的な結合の量を検出または測定する工程を含んでいる方法によって、免疫測定法を実施してもよい。特定の実施の形態では、本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチドまたは本発明の核酸配列に特異的な抗体を用いて、患者の組織または血清の試料を、JNKまたはJNK阻害剤配列の存在について解析してもよい。ここで、JNKの異常なレベルが病気の状態の指標となる。利用されてもよい免疫測定法には、ウェスタンブロット、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル内沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光免疫測定法、補体結合アッセイ、免疫放射定量測定法、およびプロテインAを用いた免疫測定法などの技術を用いた、競合アッセイシステムおよび非競合アッセイシステムが含まれるが、これらに限定されない。代わりに、本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチド、本発明の核酸配列、あるいは、本発明のJNK阻害剤配列または本発明のキメラペプチドに対する抗体を、標的細胞に送達して、当業者に一般的に知られている生物物理学的方法により細胞の反応を監視することによって、(インビトロにおける)アッセイを実施してもよい。なお、上記標的細胞は、通常、例えば、動物の培養細胞、ヒトの細胞、または微生物から選択される。本明細書において用いられる標的細胞は、(インビトロにおける)培養細胞、またはインビボにおける細胞(すなわち、生きているヒト以外の動物またはヒトの臓器もしくは組織を構成している細胞、あるいは、生きているヒト以外の動物もしくはヒトの中に発見される微生物を構成している細胞)であってもよい。
【0122】
さらに、本発明は、本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチド、本発明の核酸配列、および/または、本発明のJNK阻害剤配列もしくは本発明のキメラペプチドに対する抗体(例えば抗JNK阻害剤配列抗体)を含んでいる1以上の容器、ならびに、必要に応じて上記抗体に対する標識された結合パートナーを具備している診断または治療に用いるためのキットを提供する。上記結合パートナーにより上記抗体に組み込まれる標識には、化学発光部分、酵素分析用部分、蛍光部分、比色分析用部分または放射性部分が含まれてもよいが、これらに限定されない。もう1つ別の特定の実施の形態では、本発明のJNK阻害剤配列および/または本発明のキメラペプチドをコードする核酸か、またはこれらに相補的な核酸を含んでいる1以上の容器を具備している診断のために使用されるキットが提供される。また必要に応じて、これらの核酸に対する標識された結合パートナーも提供される。別の特定の実施の形態では、キットは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR、例えば「Innisら, 1990. PCR PROTOCOLS, Academic Press, Inc., San Diego, CA」を参照のこと)、リガーゼ連鎖反応、およびサイクリックプローブ反応など、または本発明の核酸のコンテクストに用いられる技術において知られている他の方法のための増幅プライマーとして機能することができる、オリゴヌクレオチドプライマーの対(例えば各プライマーの長さは6‐30ヌクレオチドである)を含んでいてもよい。さらに、上記キットは必要に応じて、診断用の標準または対照としてアッセイに用いるために精製された本発明のJNK阻害剤配列、本発明のキメラペプチドまたはこれらをコードする核酸を、含んでいてもよい。
【0123】
本発明は、本明細書に記載された特定の実施の形態によって範囲が限定されるものではない。本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な改変が、前述の記載および添付の図面から当業者にとって確かに明らかになる。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内にある。
【0124】
様々な刊行物を本明細書において引用したが、それらの開示の全ては参照によって本明細書に援用される。
【0125】
他に定義しない限り、本明細書において用いられた全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術における通常の技量を有する者によって共通に理解されるものと同じ意味を有している。本明細書に記載された方法および材料と同様または同等のものを、本発明の実施または試験の際に用いることができるが、適切な方法および材料が以下に記載されている。全ての刊行物、特許出願、特許、および本明細書において言及された参考文献の内容は、参照によって援用される。矛盾がある場合は、(定義を含む)現明細書は調整される。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】示された転写因子における保存されたJBDドメイン領域のアライメントを示す図である。
【図2】ヒト、マウスおよびラットに由来する一般式で表されたTAT‐IB融合ペプチドの配列を示す図である。
【図3】永久的なMCAOモデルにおける、局所性脳虚血に対する神経防護作用を評価した結果を示す図である。
【図4】一過性のMCAOモデルにおける、配列番号11に記載の本発明のキメラペプチドを静脈内投与した後の、該キメラペプチドによる局所性脳虚血に対する神経防護作用の評価を説明する図である。
【図5】NMDA刺激の後のLDH放出を測定することにより実施された、神経培養物におけるアッセイの結果を示す図である。
【図6】ワンウェルアプローチにおいて、配列番号9および11に記載された本発明の融合ペプチドを用いて、HepG2細胞における内在性のJNK活性を阻害した結果を示す図である。
【図7】永久的な聴力損失に対するD‐TAT‐IB1防護の防護効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0127】
〔図面の説明〕
図1A‐Cは、示された転写因子における保存されたJBDドメイン領域のアライメントを示す図である。JNK阻害剤配列を、これらの配列のアライメントを精査することによって同定した。このアライメントの結果を、図1A〜1Cに例として示す。図1Aは、IB1、IB2、c‐JunおよびATF2のJDB同士の間において、最も高い相同性がある領域を示している。パネルBは、L‐IB1およびL‐IB1のJBSのアミノ酸配列を、比較するために示している。完全に保存されている残基を、アスタリスクで示す。また、GFP‐JBD23Mutベクターにおいてアラニンに変化した残基を、白丸で示す。図1Cは、JNK阻害剤配列および輸送配列を含んでいるキメラタンパク質のアミノ酸配列を示している。示された例では、輸送配列は、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)のTATポリペプチドに由来し、JNK阻害剤配列は、IB1ポリペプチドに由来する。ヒト、マウスおよびラットの配列が、パネルBおよびCにおいて示されている。
【0128】
図2は、ヒト、マウスおよびラットに由来する一般式で表されたTAT‐IB融合ペプチドの配列を示す図である。
【0129】
図3は、永久的なMCAOモデルにおける、局所性脳虚血に対する神経防護作用を評価した結果を示す図である。異なる用量(図3を参照のこと)における防護の有効性を、決定した。図3によれば、少なくとも11mg/kg、3mg/kg、0.3mg/kgおよび0.03mg/kgの用量において、脳が防護された。用量が0.03mg/kgのときに、最高の防護が観察された。
【0130】
図4は、一過性のMCAOモデルにおける、配列番号11に記載の本発明のキメラペプチドを静脈内投与した後の、該キメラペプチドによる局所性脳虚血に対する神経防護作用の評価を説明する図である。成体マウスに虚血を誘発した後、マウスを再かん流から48時間後に殺害した。連続クリオスタット切片を調製し、梗塞堆積を計算した。図4によれば、本発明のキメラペプチドは、神経防護効果を奏する。
【0131】
図5は、NMDA刺激の後のLDH放出を測定することにより実施された、神経培養物におけるアッセイの結果を示す図である。この結果によれば、対照と比べてLDHの放出が顕著に抑制されていることから分かるように、NMDAの暴露に起因する変性変化が完全に阻害されているので、本発明のキメラD‐JNK11ペプチド(配列番号11)の神経防護効果が明らかに示されている。
【0132】
図6は、ワンウェルアプローチ(one-well approach)において、配列番号9および11に記載された本発明の融合ペプチドを用いて、HepG2細胞における内在性のJNK活性を阻害した結果を示す図である。図6(特に図6のパネルd)によれば、配列番号11に記載のD‐TAT‐IB1(図6ではD‐JNKIと省略する)は、配列番号9に記載のL‐TAT‐IBI(図6では、L‐JNKIと省略する)よりも、JNK活性を非常に効果的に阻害した。
【0133】
図7は、永久的な聴力損失に対するD‐TAT‐IB1防護の防護効果を示す図である。騒音(6kHzにおける120dB、30分間)による外傷を受けてから20分後(一時的な閾値の変化(TTS)、灰色)、および15日後(永久的な閾値の変化)のモルモットにおいて、8kHz(衝撃を最も与える周波数)における聴力の閾値(dB音圧レベル)の変化を、測定した。騒音により外傷を受ける30分前、30分後、または4時間後の何れかにおいて、モルモットの蝸牛窓の膜上に、D‐TAT‐IB1を含むヒアルロン酸ゲルを沈着した。これにより、モルモットにD‐TAT‐IB1を与えた。対照として未処置の耳を設けた。TTSを騒音により外傷受けた20分後に測定した。また、PTS(黒色)(永久的な聴力損失に対応する)を15日後に測定した。図7によれば、D‐TAT‐IB1は、予防のために騒音暴露の前に適用されていれば、騒音による外傷により永久的な聴力損失が起こることを実質的に防ぐだけでなく、騒音による外傷の後に投与されれば、聴力損失が起こることを時間に依存した様式で実質的に防ぐことが分かった。未処置の対照の耳よりも、処置された耳におけるPTSは、騒音により外傷を受けた30分後および4時間後のD‐TAT‐IB1の投与に関して、顕著に低かった。
【0134】
〔実施例〕
<実施例1:JNK阻害剤の配列の同定>
JNKと効率的に相互作用するために重要なアミノ酸配列を、公知のJBD同士の配列アライメントにより、同定した。IB1(配列番号13)、IB2(配列番号14)、c‐Jun(配列番号15)、および、ATF2(配列番号16)というJBD同士の配列を比較することにより、弱く保存された8アミノ酸配列(図1A)が明らかになった。IB1およびIB2というJBDのJNKに対する結合力は、c‐JunまたはATF2のJNKに対する結合力よりも、100倍強いので(「Dickens ら Science 277 :693(1977)」)、IB1とIB2との間に保存された残基は、最大結合を付与することにとって重要であるに違いない、という結論が導かれた。IB1およびIB2というJBD同士を比較することで、2つの配列の間において高く保存されている7アミノ酸および3アミノ酸の2つのブロックが明らかになった。
【0135】
これらの2つのブロックは、L‐IB1(配列番号1)における19アミノ酸のペプチド配列内に含まれており、また、IB1(配列番号17)に由来する23aaのペプチド配列における根拠を比較するために示されている。これらの配列は図1Bに示されている。L‐IB1配列におけるダッシュは、L‐IB1の保存残基を整列させるための配列におけるギャップを示す。
【0136】
<実施例2:JNK阻害剤融合タンパク質の調整>
配列番号9に記載の本発明のJNK阻害剤融合タンパク質を、2つのプロリン残基から成るリンカーを介して、配列番号1に記載のC‐末端と、配列番号5に記載のHIV‐TAT4g 57(「Vives ら, J Biol. Chem. 272: 16010 (1997)」)に由来するN‐末端10アミノ酸長担体ペプチドとを共有結合させることにより合成した。前記リンカーを、柔軟性を最大にするためおよび二次的構造の好ましくない変化を防ぐために使用した。また、基本コンストラクトは、L‐IB1(配列番号1)およびL‐TAT(配列番号5)をそれぞれ調製および設計された。
【0137】
従って、配列番号11に記載のAll‐D レトロ‐インベルソペプチドが合成された。また、基本コンストラクトは、D‐IB1(配列番号2)およびD‐TAT(配列番号6)をそれぞれ調製および設計された。
【0138】
配列番号9、10、11、および12に記載の本発明の全てのDおよびL融合ペプチドを、古典的フモック合成(Fmock synthesis)によって生産し、その後マススペクトル法により解析した。これらを、最終的に液体クロマドグラフ(HPLC)により精製した。プロリンリンカーの効果を決定するために、2種類のTATペプチド(すなわち2つのプロリンを設けられているTATペプチドおよび2つのプロリンが設けられていないTATペプチド)を生産した。2つのプロリンを添加した場合、TATペプチド細胞内の浸入または局在性が改変するようには見られなかった。保存されたアミノ酸残基を示す一般式で表されたペプチドは、図2に記載されている。
【0139】
<実施例3:JBD19による細胞死の阻害>
JNKの生物活性に対するIB1の19aa長JBD配列の効果を、研究した。19aa配列は、N‐末端において緑蛍光性タンパク質と結合させた(GFP JBD19コンストラクト)。そして、IL1によって誘導された膵臓β細胞アポトーシスに対する前記コンストラクトの効果を、評価した。このアポトーシスの形態は、JBD1280のトランスフェクションすることにより妨害されることを予め示したが、ERK1/2またはp38に特異的な阻害剤により、防がれなかった(上記のAmmendrup らを参照)。
【0140】
JBD19に対応するオリゴヌクレオチド、19アミノ酸の保存配列を含んでいるオリゴヌクレオチド、および、完全な保存領域において変異が生じている配列を合成し、そして、緑蛍光性タンパク質(GFP)(Clontech)をコードするpEGFP‐N1ベクターのEcoRIおよびSalI部位に直接挿入した。インスリンを生産するβTC‐3細胞を、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLストレプトマイシン、100ユニット/mLペニシリン、および、2mMグルタミンが添加されたRPMI1640培地において培養した。インスリンを生産するβTC‐3細胞に示されたベクターをトランスフェクションし、IL‐1β(10ng/ml)を細胞培養液に添加した。アポトーシスした細胞の数は、IL‐Iβを添加した後の48時間に、インバータ蛍光顕微鏡を使用して計測した。アポトーシスを起こした細胞を、細胞質の「ブレブビングアウト(blebbing out)」という特徴により正常細胞から区別して、2日後に計測した。
【0141】
GFPは、対照として使用された緑蛍光性タンパク質発現ベクターである。JBD19は、IB1のJBDに由来する19aa配列に結合したキメラGFPを発現するベクターである。JBD19Mutは、GFP‐JBD19と同じベクターであるが、図1Bに示された4つの保存残基に変異が生じているJBDを有しているベクターである。JBD1280は、完全なJBD(aa1‐280)に結合したGFPベクターである。GFP‐JBD19を発現するコンストラクトは、完全なJBD1280よりも効率良くIL‐Iβに誘導される膵臓β細胞のアポトーシスを抑制した。
【0142】
対照を追加したときに、完全に保存されたIB1残基に変異が生じた配列は、アポトーシスを抑制する能力を非常に減らした。
【0143】
<実施例4:TAT‐IBKの細胞性導入>
細胞に浸入するための、(i)TATペプチドおよび(ii)TAT-IB1ペプチド(TAT‐IBペプチド)のL‐およびD‐鏡像異性体の能力を評価した。L‐TAT、D‐TAT、本発明のL‐TAT‐IB1、および本発明のD‐TAT‐IB1ペプチド(それぞれ配列番号5、6、9、および12)を、蛍光色素に接合されたグリシン残基をN‐末端に付加することにより、標識した。標識ペプチド(1μM)を、実施例3に記載したように培養されているβTC‐3細胞の培養物に添加した。所定時間において細胞をPBSで洗浄し、次に、蛍光顕微鏡の下に検査する前に、氷冷のメタノール‐アセトン(1:1)に5分間固定した。フルオレセインで標識したBSA(1μM、12モル/モルBSA)を、対照として使用した。上記の全てのフルオレセインで標識されたペプチドは、培地に添加されると、効率的に、且つ、迅速に細胞に浸入した(5分間よりも短い)という結果が得られた。反対に言えば、フルオレセインで標識されたウシ血清アルブミン(1μM BSA、12モルフルオレセイン/モルBSA)は、細胞に浸入しなかった。
【0144】
時間経過研究により、L‐鏡像異性体ペプチドに関する蛍光信号の強度が、24時間後に70%だけ減少したことが示された。48時間後の時点で微かな蛍光信号が存在していた。それに対して、D‐TATおよび本発明のD‐TAT‐IB1は、細胞の内側において極めて安定していた。
【0145】
これらのall‐D レトロ‐インベルソペプチドからの蛍光信号は、1週間後でも非常に強く、前記蛍光信号は、処理から2週間後に、少しだけ減少していた。
【0146】
<実施例5:インビトロにおけるc‐JUN、ATF2およびElk1のリン酸化の阻害>
標的転写因子のJNKsに媒介されるリン酸化に対するペプチドの効果を、インビトロにおいて研究した。活性化していない組み換えJNK1、JNK2、およびJNK3を、転写・翻訳ウサギ赤血球溶解液キット(Promega)を用いて、生産した。c‐Jun、ATF2およびElk1(単独か、またはグルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ(GST)と融合したもののどちらか)を基質として用いて固相キナーゼアッセイに使用した。本発明のL‐TATまたはL‐TAT‐IB1ペプチド(0‐25μM)を、反応緩衝液(20 mM Tris‐acetate、1mM EGTA、10mM p‐ニトロフェニル‐ホスフェート(pNPP)、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p‐グリセロホスフェト、1mMジチオスレイトール)において、組み換えJNK1キナーゼ、JNK2キナーゼ、または、JNK3キナーゼと20分間混合して、用量反応研究を行った。それから、10mM MgCl2、ならびに、5pCi 33P‐γ‐dATP、およびGST‐Jun(aa 1‐89)、GST‐AFT2(aa 1‐96)、またはGST‐ELK1(aa 307‐428)のどれかを1μg添加することにより、キナーゼ反応を開始させた。GST‐融合タンパク質を、ストラタジーン社(La JoIIa, CA)から購入した。
【0147】
また、前記混合液に10μLグルタチオン‐アガロースビーズを添加した。それから、反応生成物を、変性10%ポリアクリルアミドゲルにおいてのSDS‐PAGEすることにより、分離した。ゲルを乾燥し、X線フィルム(Kodak)に暴露した。JNKsによる、c‐Jun、ATF2およびElkの1リン酸化をほぼ完全な阻害は、本発明のTAT‐IBペプチドの用量が2.5μMであっても観察された。しかしながら、JNK3によるElk1のリン酸化が、TAT‐IB1により阻害されなかったという際立った例外があった。
【0148】
全体的に見て、本発明のTAT‐IB1ペプチドは、JNKファミリーにより標的とされる上記転写因子のリン酸化を阻害することについて、優れた効果を示した。組み換えJNK1、JNK2、およびJNK3によるGST‐Jun(aa 1‐73)のリン酸化を阻害するための、D‐TAT、本発明のD‐TAT‐IB1および本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドの能力を、上記に記載したように解析した(0‐250μM間で用量を変えて研究した)。全体的に見て、D‐TAT‐IB1ペプチドにより、JNKにより媒介されるc‐Junのリン酸化が減少したが、L‐TAT‐IB1よりも、おおよそ10‐20倍のレベルで効果が少なかった。
【0149】
<実施例6:活性化INKsによるc‐JUNリン酸化の抑制>
ストレス刺激により活性化したJNKsに対する、L‐TATまたは本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドの効果を、JNKsをプルダウンするためのGST‐Junを使用して、紫外光線を照射したHeLa細胞、または、IL‐1βを用いて処理されたPTC細胞から評価した。PTC細胞を、上記のように培養した。HeLa細胞を、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLスレプトマイシン、100ユニット/mlペニシリン、および、2mMグルタミンを追加したDMEM培地に、培養した。細胞抽出物調製のために使用される1時間前に、HeLa細胞を紫外線(20J/m2)により活性化し、PTC細胞は上記のようにIL‐1βと一緒に活性化した。細胞抽出物を、溶解緩衝液(20mM Tris‐acetate、1mM EGTA、1% TritonX‐100、10mM p‐ニトロフェニル‐ホスフェート、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM P‐グリセロホスフェート、1mMジチオスレイトール)中で細胞培養をスクレーピングすることにより、対照、紫外光線を照射したHeLa細胞、および、IL‐1βを用いて処理されたβTC‐3細胞から調製した。残骸物(debris)を、SS‐34ベックマンローターにおいて、15,000rpmで5分間遠心分離することにより除去した。1‐100μg抽出物を、1μgのGST‐jun(アミノ酸1‐89)および10μLのグルタチオン‐アガロースビーズ(Sigma)と一緒に、室温で1時間インキュベーションした。スクレーピング緩衝液と一緒に4回洗浄した後、前記ビーズを、L‐TATまたは本発明のL‐TAT‐IB1ペプチド(25μM)が添加されている同じ緩衝液に20分間再懸濁した。それから、10mMMgCl2および5 pCi33P‐γ‐dATPを添加してキナーゼ反応を開始させて、30℃で30分間インキュベーションした。
【0150】
それから、反応生成物を、10%変性ポリアクリルアミドゲルにおいてのSDS‐PAGEすることにより、分離した。ゲルを乾燥し、X線フィルム(Kodak)に暴露した。これらの実験では、本発明のTAT‐IBペプチドは、活性化したJNKsによるc‐Junのリン酸化を効果的に抑制した。
【0151】
<実施例7:インビボにおける、本発明のTAT‐IBペプチドによるc‐JUNのリン酸化の阻害>
本発明の細胞透過性ペプチドがインビボにおいてJNKのシグナル伝達を防ぐことができるかどうかを決定するために、非相同のGAL4システムを使用した。上記のように培養されたHeLa細胞を、GAL4 DNA結合ドメインに連結したc‐Junの活性化ドメイン(アミノ酸1‐89)を含んでいるGAL‐Jun発現コンストラクト(Stratagene)と、5xGAL‐LUCのレポーターベクターと一緒に同時トランスフェクションした。直接の上流キナーゼであるMKK4およびMKK7(「Whitmarshら., Science 285: 1573 (1999)」を参照)を発現するベクターの同時トランスフェクションにより、JNKを活性化させた。つまり、製造者の説明書によりDOTAP(Boehringer Mannheim)を使用して、3×105細胞に、3.5cmのディッシュにプラスミドをトランスフェクションした。GAL‐Junに関する実験のために、上記プラスミド(20ng)、レポータープラスミドであるpFR‐Luc(Stratagene)(1μg)、および、MKK4かMKK7を発現するプラスミド(0.5μg)を一緒にトランスフェクションした。トランスフェクションから3時間後、培養液を変えて、TATおよびTAT‐IB1ペプチド(1μM)を添加した。16時間後に、タンパク質の含有量に対して正規化を行った後、ルシフェラーゼ活性を、「2重報告システム(Dual Reporter System)」(Promega)を使用して測定した。TAT‐IB1ペプチドを添加することにより、MKK4およびMKK7に媒介されるJNKの活性化によるc‐Junの活性化が防止された。HeLa細胞は、JNK1およびJNK2のアイソフォームを発現しているが、JNK3のアイソフォームは発現していないので、JNK3を細胞にトランスフェクションした。また、TAT‐IBペプチドは、JNK2に媒介されるc‐Junの活性化を抑制した。
【0152】
<実施例8:TAT‐IBペプチドによるIL‐1βに誘導される膵臓β細胞死の阻害>
IL‐1により誘発されたβ細胞のアポトーシスの促進に対する本発明のL‐TAT‐IBペプチドの効果を研究した。βTC‐3細胞培養物を、本発明の1μMのL‐TAT‐IB1ペプチドと一緒に30分間インキュベーションし、その後10ng/mL IL‐1を添加した。2回目のペプチド(1μM)の添加は、24時間後に行った。IL‐1βと一緒に2日間インキュベーションした後に、染色法のプロピジウムヨウ化物(赤く染色された細胞は死細胞である)およびHoechst 33342(青く染色された細胞は無傷の原形質膜である)を用いて、アポトーシスを起こした細胞を計測した。本発明のTAT‐IBペプチドを添加することにより、2日間IL‐1βの存在下において培養されたβTC‐3細胞のIL‐1に誘導されるアポトーシスが抑制された。
【0153】
ペプチドおよびIL‐1βを有する細胞のインキュベーションを、12日間行ったこと以外は上記のようにしてβTC‐3を処理することにより、IL‐1誘発細胞死の長期阻害を研究した。ペプチド(1μM)を毎日さらに添加し、IL‐1β(10ng/mL)をさらに2日毎に添加した。本発明のTAT‐IB1ペプチドは、これらの条件におけるアポトーシスに対する保護を与える。これらをもとに、これらの実験により、本発明のTAT‐IBペプチドが、細胞運命に対するJNK伝達の効果を防ぐことができる生物活性を有する分子であることが証明された。
【0154】
<実施例9:本発明のall‐D‐レトロ‐インベルソIBペプチドの合成>
本発明のペプチドは、タンパク質の自然分解を防ぐために、反対に合成されたall‐D‐アミノ酸ペプチドであってもよい(すなわち、all‐D‐レトロ‐インベルソペプチド)。本発明のall‐D‐レトロインベルソペプチドは、天然ペプチドに類似の機能特性を有するペプチドを提供する。なお、アミノ酸の構成要素の側基は、天然ペプチドアライメントに相当するであろうが、プロテアーゼ耐性のバックボーンを保有しているであろう。
【0155】
本発明のレトロ‐インベルソペプチドは、レトロ‐インベルソペプチド類似体のアミノ酸の配列が、モデルとしての選択されたペプチドのアミノ酸の配列と厳密に反対になるように、D‐アミノ酸を用いて、ペプチド鎖に該アミノ酸を結合させることにより合成された類似体である。例証するために、自然に生じるTATタンパク質(L‐アミノ酸で形成されたタンパク質)が、配列GRKKRRQRRR(配列番号5)を備える場合、このペプチドのレトロ‐インベルソペプチド類似体(D‐アミノ酸で形成された類似体)は、配列RRRQRRKKRG(配列番号6)を備える。レトロ‐インベルソペプチドを形成するためのD‐アミノ酸の鎖を合成する工程に関する手法は、技術的に知られている(例えば、Jameson ら., Nature, 368,744-746 (1994); Brady ら, Nature, 368,692- 693 (1994); Guichard ら, J. Med. Chem. 39,2030-2039 (1996)を参照)。具体的には、レトロ‐ペプチドを、古典的フモック(F-moc)合成により生産し、さらに質量分析法により解析した。レトロ‐ペプチドを、最終的にクロマトグラフィーにより精製した。
【0156】
天然ペプチドの生来の問題は、天然プロテアーゼによる分解および生来の免疫原性であるため、本発明のヘテロ2価化合物または多価化合物を、所望のペプチドの「レトロ‐インベルソアイソマー」を含有するように、調製する。従って、タンパク質の自然分解からペプチドを保護することは、半減期を長引かせること、および積極的にペプチドを粉砕することを目的としている免疫反応の程度を減少させることによって、特異的なヘテロ2価化合物または多価化合物の有効性を増加させるはずである。
【0157】
<実施例10:本発明のall‐D‐レトロ‐インベルソIBペプチドの長期生物活性>
実施例5に記載したように、天然プロテアーゼによる分解から本発明のD‐TAT‐IBペプチドが保護されるために、天然L‐アミノ酸類似体と比較したときに、ペプチドヘテロ接合を含んでいる本発明のD‐TAT‐IBレトロ‐インベルソの生物活性が長続きすることを、予想できた。
【0158】
本発明のD‐TAT‐IB1ペプチドによるIL‐1βに誘導された膵臓β細胞死の阻害を、解析した。上記のように、示されたペプチド(1μM)を1回添加して、βTC‐3細胞を30分間インキュベーションし、それからIL‐1(10ng/ml)を添加した。
【0159】
それから、IL‐1βと一緒に2日間インキュベーションした後に、プロピジウムヨウ化物、および、Hoechst33342の染色を用いて、アポトーシスを起こした細胞を、計測した。各実験につき最低でも1,000細胞を計測した。標準誤差(SEM)を示す。(n=5)と表示した。D‐TAT‐IB1ペプチドは、L‐TAT‐IBペプチドと同程度、IL‐1誘導アポトーシスを減少させた。
【0160】
また、D‐TAT‐IB1によるIL‐1Pに誘導される細胞死の長期阻害を、解析した。上記のように、示されたペプチド(1μM)を1回添加して、βTC‐3細胞を30分間インキュベーションした。それから、IL‐1β(10ng/ml)を添加し、その後、2日毎にサイトカインを添加した。それから、IL‐1と一緒に15日間インキュベーションした後に、アポトーシスを起こした細胞を、プロピジウムヨウ化物、および、Hoechst33342の染色を用いて計測した。TAT‐IB1ペプチドを1回添加しただけででは、長期保護が付与されないということに注意されたい。各実験につき最低でも1,000細胞を計測した。その結果、本発明のL‐TAT‐IB1ではなく、本発明のD‐TAT‐IB1が、長期保護(15日)を付与できた。
【0161】
<実施例11:TAT‐IBペプチドによる放射線に誘導される膵臓β細胞死の阻害>
JNKは電離放射線によっても活性化する。本発明のTAT‐IBペプチドが、放射線に誘導されるJNK損傷に対する保護を提供するかどうかを決定するために、D‐TAT、本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドまたは本発明のD‐TAT‐IB1ペプチドが存在する場合と、存在しない場合とについて、「WiDr」細胞に放射線を浴びせた(30Gy)。なお、上記ペプチドが存在する場合は、放射線を浴びせる30分前に、上記ペプチドを1μM添加した。対照細胞(CTRL)は、放射線を浴びていかった。細胞を、上記のように、P1およびHoechst3342の染色を用いて48時間後に解析した。標準誤差(SEM)を示す(n=3)。本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドおよびD‐TATIBペプチドは、両方とも、このヒトの結腸癌細胞株における放射線に誘導されるアポトーシスを防ぐことができる。
【0162】
<実施例12:本発明のTAT‐IBペプチドによる電離放射線に対する放射線防護>
本発明のTAT‐IBペプチドの放射線防護の効果を決定するために、フィリップRT 250 R‐rayを用いて、0.74Gy/min(17mA、0.5mm 銅フィルタ)の線量率で放射線を、C57B1/6マウス(2〜3月齢)放射線に照射した。照射する30分前に、TAT、本発明のL‐TAT‐IB1ペプチド、または本発明のD‐TAT‐IB1ペプチドのどれかを、前記マウスの腹腔内に注射した(1mM溶液の301)。つまり、次のようにマウスに照射した。(i)マウスの頭を小さなプラスチック箱の外に横たわらす状態で、マウスを該箱に配置した。(ii)前記マウスを、照射器の下にマウスを仰向けにして配置し、つぎに、(iii)マウスの頭を正しい位置に維持できるように、マウスの首を小さなプラスチック性のトンネルに固定した。(iv)マウスの体を鉛で保護した。
【0163】
照射前では、マウスをマウスの標準ペレット飼料で飼育し、一方、照射後では、マウスを毎日補充される半流動食で飼育した。
【0164】
それから、唇粘膜の反応を、Parkins ら(Parkins ら, Radiotherapy & Oncology, 1 : 165-173, 1983)により改良された採点法に従って、別々の2人の観察者により記録した(なお、紅斑状態、ならびに、水腫、脱皮、および分泌物の存在を前記採点法に引用した)。さらに、紅斑/水腫状態をそれぞれ記録する前に、マウスの重さを量った。
【0165】
これらの実験の結果により、本発明のTAT‐IBペプチドが、電離放射線に関連する体重減少および紅斑/水腫を防ぐことができる、ということが示された。
【0166】
<実施例13:本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドによるJNK転写因子の抑制>
ゲルリターデイションアッセイを、AP‐1 二重標識プローブ(5'- CGC TTG ATG AGT CAG CCG GAA-3'(配列番号27))を用いて行った。上記のように5ng/mlのTNF‐αにより1時間処理されたまたは処理されていないHeLa細胞核を抽出する。TATおよび本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドを、TNF‐αにより処理する30分前に添加した。特異的なAP‐1 DNA複合体(非標識の特異的な競合物および標識された非特異的な競合物を用いた競合実験により実証されるようなAP‐1 DNA複合体)を有するゲルの部分だけを示す。
【0167】
本発明のL‐TAT‐IB1ペプチドは、TNF‐αの存在下において、AP‐1 DNA結合複合体の形成を減少する。
【0168】
<実施例14:恒久的なMCAOモデルにおける局所性脳虚血に対する神経防護の評価‐異なる用量における、保護の有効性の決定。(図3を参照)>
局所性脳虚血は、12日齢のラットに引き起こされた。幼若ラットを、2%イソフルレンを用いて誘導チェンバーにおいて麻酔した。そして、手術の間、麻酔を、2%イソフルレン未満のマスクを用いて維持した。MCAOを、中大脳動脈(MCA)の主枝を電気凝固することにより引き起こした。ラットを右側を下にして配置し、耳と目との間において、皮膚を斜めに切開した。側頭筋を切除した後、頭蓋骨を、前頭縫合線から頬骨弓より下の部位まで除去した。左のMCAが嗅脳溝上に現れたあとに、該MCAを露出させた。そして、前頭枝と前頂枝とに二分岐する前のMCAにおいて、下大脳静脈の段階で、MCAを恒久的に電気凝固した。それから、頭蓋の皮膚切開部分を閉じた。それから、幼若ラットが目覚めるまで、37℃を維持した保温器に配置し、ラットの母親に委ねた。
【0169】
ラットの母親に委ねてから6時間後、配列番号11に記載の本発明のキメラD‐TAT‐IB1ペプチドを、腹腔内に注射した。凝血してから24時間後、ラットを抱水クロラールを用いて麻酔した。そして、上行大動脈を通して、4%パラホルムアルデヒド‐PBSをかん流させた。それから、脳を除去し、同じ固定液中に2時間保ち、30%サッカロース勾配のPBSに、4℃で約15時間配置した。−40℃のイソペンタンにおいて脳を冷凍し、次に、−20℃で保管した。50μmの冠状クリオスタット切片を、ガラススライドに回収した。前記切片をクレシルバイオレットを用いて染色した。各10番目の切片を解析し、病変の総体積を、ニューロレウシダプログラム(Neuroleucida programme)を用いて、計算した。対照グループAにおける平均病変体積は、21.47mm3であった。処理されたグループの全ては、対照グループAよりも平均値が低かった。統計的有意差は、グループAと、グループC、グループE、およびグループFとの間に見られた(片側t検定、それぞれp=0.030、p= 0.002、p=0.001を示す)。その結果は、図4に示されている。
【0170】
結果として、これらの値は、配列番号11に記載の本発明のキメラD‐TAT‐IB1ペプチド(11mg/kg、3mg/kg、0.3mg/kg、および0.033mg/kgの用量で投与された)が脳の保護を助長する、という結論を裏付ける。食塩水グループと比較して1mg/kg、0.003mg/kg、および0,0003の用量の結果により、全ての試料は有意差に達するほどの大きさではないことを示している。脳における最良の保護は、0.3mg/kgの用量から観察された。
【0171】
<実施例15:一過性のMCAOモデルにivを投与した後の本発明のキメラペプチドによる、局所性脳虚血に対する神経防護の評価(図4を参照)>
『成体マウスにおける一過性虚血』。雄マウスICR‐CD1(6週齢;18‐37g;ハーラン(Harlan))を用いて、(i)内頚動脈へ、総頚動脈から微細繊維を導入し、(ii)動脈輪へ、該微細繊維を進行させ、それによって、(iii)中大脳動脈を塞ぐことにより、虚血を誘発した。再かん流から10分後まで、頭蓋骨を固定するプローブを用いてレーザードップラー流量測定法により、虚血の全域にわたって局所脳血流を測定した。
【0172】
直腸温を測定し、かつ37℃に維持した。マウスを再かん流から48時間後に殺害した。ニューロルシーダプログラム(neurolucida program)(MicroBrightField)に備え付けられたコンピュータ‐マイクロスコープシステム(computer-microscope system)を用いて、連続クリオスタット切片20μmの厚さをトレースし、ニューロエクスプローラプログラムを用いて、虚血エリアおよび脳全体の体積を目隠し試験にて計算した。
【0173】
「XG‐102 0.3」は0.3 mg/kgを表し、「XG‐102 1」は1 mg/kgを表し、「XC‐102 5」は5 mg/kgを表す。
【0174】
プラシーボの静脈内ボーラス投与後の梗塞体積の大きさ(mm3)、および、成体マウスにおける再かん流(30分間クランプで締めた)から6時間後のXG102(0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg)を、下記に示した。
【0175】
梗塞 平均値 標準偏差
対照 n=5 72 17
XG102 0.3 n=5 16 4
XG102 1 n=1 16
XG102 3 n=5 15 5
【0176】
<実施例16:NMDAによる刺激後のLDHの放出の測定による神経培養のアッセイ(図5を参照)>
100μM NMDAに継続的に照射される前に、示された濃度のペプチドまたはMK‐801を用いて30分間予め処置された姉妹培養物における、一般式で表されたD‐TAT‐IB/D‐JNKl1ペプチド(配列番号12)の神経防護の効果を評価した。対照と比べてLDHの放出が顕著に抑制されていることから分かるように、NMDA処理から12時間後、一般式で表された5μMのD‐TAT‐IB/D‐JNKl1を用いて予め処理された培養物において、NMDAの暴露に起因する変性変化が完全に阻害された(図5)。形態学的な外見、数および分布は対照と変わらなかった。
【0177】
『皮質ニューロンの培養』。2日齢の幼若ラットの脳から、小さな皮質の断片を切り取り、該断片を34℃、30分間、200単位のパパインと一緒にインキュベーションし、それから、100μg/mlポリ‐D‐リジンにより予め被覆されたディッシュ上におよそ1×106細胞/プレートの密度でニューロンを播種した。プレーティング培養液は、0.5mMグルタチオン、100U/mlペニシリン、および100ug/mlスレプトマイシンが添加されたB27/Neurobasal(Life Technologies, Gaithersburg, MD)から成っていた。
【0178】
『乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)細胞毒性のアッセイ』。NMDA投与から12時間、24時間、および48時間後、バッシング培養液(bathing medium)に放出したLDHを、シトトックス 96 非放射線細胞毒性アッセイキット(Cytotox 96 non-radioactive cytotoxicity assay kit)(Promega, Wl)を用いて測定した(図5を参照)。
【0179】
<実施例17:ワンウェルアプローチを用いたHepG2細胞における内在性のJNK活性の抑制(図6を参照)>
HepG2細胞を、実験前日に、3,000細胞/ウェルで接種した。それから、JNKを活性させるために、インターロイキン‐1β[IL‐1β(ν)]、または腫瘍壊死因子α[TNFα(●)]のどれかの濃度を増やしながら30分間添加した(a)。細胞を、20mM Hepes、0.5%Tween pH7.4の溶液に溶かし、そして、アルファスクリーン(AlphaScreen)JNK用に処理した。(b)JNK活性に関するZ'を、10ng/ml IL‐1βにより誘導した、および384ウェル/プレート(n=96)において測定した。(c)キメラJNK阻害剤[スタウロスポリン(○)およびSP600125(●)]を用いた内在性のIL‐1βに誘導されるJNK活性の抑制を示す。(d)IL‐1α依存性のJNK活性に対する、(i)配列番号9に記載のペプチド阻害剤L‐TAT‐IB1(図6ではL‐JNKi(ν)と省略する)、(ii)配列番号11に記載のペプチド阻害剤D‐TAT‐IB1(図6ではD‐JNKi(◆)と省略する)、および(iii)JBD(●)(TAT配列を有していないL‐JNK1に相当する)の効果を示す。すべてのパネルは、3つの独立な実験を表す(n=3)。
【0180】
‐方法:アルファスクリーンのキナーゼアッセイ−
理論:アルファスクリーン(AlphaScreen)(登録商標)は、マイクロプレートフォーマットにおいて、生体分子相互作用を研究するために用いられる、非放射活性ビーズに基づく技術である。ALPHAの頭文字は、増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ法(Amplified Luminescence Proximity Homogenous Assay)を意味している。それは、ごく近くに、「ドナー」および「アクセプタ」ビーズをもたらす生物学的な相互作用に関する。それから、化学反応のカスケードが作用して、増幅したシグナルが生産される。680nmにおけるレーザー励起により、「ドナー」ビーズにおける光線感作物質(フタロシアニン)は、周囲の酸素を励起一重項状態に転換させる。4μsec半減期内に、一重項酸素分子は、溶液において、およそ200nmまで拡散することができる。アクセプタビーズがその近接の範囲内であれば、一重項酸素は、「アクセプタ」ビーズにおけるチオキソ誘導体と反応する。これにより、該「アクセプタ」ビーズに含まれたフルオロフォアをさらに活性させる370nmの化学発光が生じる。励起状態のフルオロフォアは、その後に520‐620nmの光を放出する。アクセプタビーズがない場合、一重項酸素は基底状態に下降し、シグナルは発生されない。
【0181】
キナーゼ試薬(B‐GST‐cJun、抗P‐cJun抗体および活性なJNK3)を、最初にキナーゼ緩衝液(20mM Tris‐HCl pH7.6、10mM MgCl2、1mM DTT、100μM Na3VO4、0.01%Tween‐20)に希釈し、次にウェル(15μl)に添加した。それから、23℃、1時間、10μM ATPの存在下において、反応溶液をインキュベートした。検出緩衝液(20mMTris‐HCl pH7.4、20mM塩化ナトリウム、80mM EDTA、0.3% BSA)に希釈された、10μlのビーズミックス(プロテインAアクセプタ20μg/ml、ストレプトアビジンドナー20μg/ml)を反応溶液に加え、その後暗所において、23℃で1時間さらにインキュベートして、検出を行った。内在性のJNK活性の測定に関して、キナーゼアッセイを、上記のように実行した。ただし、活性なJNK3を、細胞溶解物により置き換え、次に反応キナーゼ構成要素を、細胞溶解物の後に添加したことを除く。B‐GST‐cjunおよびP‐cJun抗体を、同じ濃度で使用し、ATPを10μMの代わりに50μMの濃度で使用した。アルファスクリーンのシグナルを、フージョンまたはエン・ビジョン(En Vision)において直接解析した。
【0182】
<実施例18:騒音によって外傷を受けた耳の治療>
モルモットの3グループ(各グループには6匹の動物が含まれる)は、100μMの濃度で、蝸牛窓の膜上に沈着された、2μlの2.6%の緩衝化したヒアルロン酸(Hylumed, Genzyme Corp.)ゲル中に含まれるD‐TAT‐IB1を、騒音(6kHzにおける120dB、30分間)による外傷を受ける30分前、30分後、または4時間の何れかに受け取った。対照として未処置の耳を設けた。騒音によって外傷を受けてから20分間後(一時的な閾値の変化、TTS)および15日後(永久的な閾値の変化、PTS)の聴覚脳幹反応測定により、聴力の閾値の変化を評価した。前記未処置の耳と比較して、D‐TAT‐IB1の投与をすることで、たとえ、過剰な騒音を晒した後に適用したとしても、永久的な聴力損失が防がれた。騒音によって外傷を受けた後に、D‐TAT‐IB1を早く投与すればするほど、防護効果が高かった。従って、騒音によって外傷を受けることについて、D‐TAT‐IB1は、非常に有効な耳を保護する化合物である。
【0183】
前述の本発明の特定の実施の形態の詳細な説明から、独特の細胞透過性を有する生物活性キメラペプチドおよびJNK阻害剤配列が記載されていることが明らかになったはずである。特定の実施の形態が本明細書に詳細に開示されているが、これは、実施例を用いて、説明のみを目的としてなされたものであり、次の添付の特許請求の範囲を制限することを意図していない。特に、特許請求の範囲により定義されたような本発明の精神と範囲とから逸脱することなく、様々な置換、変更、修飾を本発明にしてもよいということを、本発明の発明者は考慮している。
【0184】
以上のように、本発明は、長さが150アミノ酸よりも短いJNK阻害剤配列であって、前記阻害剤配列は配列番号1、2、3、もしくは4に記載のアミノ酸配列の少なくとも1つ、またはその断片、誘導体、もしくは変異体を含んでいるか、あるいは、上記アミノ酸の少なくとも1つ、またはそれらの断片、誘導体、もしくは変異体から成る、JNK阻害剤配列に関する.
本発明のJNK阻害剤配列では、前記JNK阻害剤配列のアミノ酸残基の範囲が、5‐150、より好ましくは10‐100、さらに好ましくは10‐75、および最も好ましくは15‐50である、ことが好ましい.
本発明のJNK阻害剤配列では、本発明は、前記JNK阻害剤配列がc‐Junアミノ端末キナーゼ(JNK)と結合する、ことが好ましい.
本発明のJNK阻害剤配列では、前記JNK阻害剤配列は、JNK阻害剤配列がJNKを発現する細胞に存在するときに、JNKが標的とする転写因子の少なくとも1つの活性化を阻害する、ことが好ましい.
本発明のJNK阻害剤配列では、前記JNKが標的とする転写因子が、c‐Jun、ATF2、およびElklから成る群より選ばれる、ことが好ましい.
本発明のJNK阻害剤配列では、前記JNK阻害剤配列は、ペプチドがJNKを発現する細胞に存在するときに、JNKの効果を変える、ことが好ましい.
また、本発明は、共有結合により連結した少なくとも1つの第1ドメインおよび少なくとも1つの第2ドメインを含んでいるキメラペプチドであって、前記第1ドメインは輸送配列を含んでおり、前記第2ドメインはJNK阻害剤配列を含んでいる、キメラペプチドに関する.
本発明のキメラペプチドでは、前記輸送配列が、ヒト免疫不全ウィルスのTATポリペプチドのアミノ酸配列を含んでいる、ことが好ましい.
本発明のキメラペプチドでは、前記輸送配列が、配列番号5、6、7、または8に記載のアミノ酸配列を含んでいる、ことが好ましい.
本発明のキメラペプチドでは、前記輸送配列が、ペプチドの細胞取り込みを増大させる、ことが好ましい.
本発明のキメラペプチドでは、ペプチドの核局在化を方向づける、ことが好ましい.
本発明のキメラペプチドでは、上記JNK阻害剤配列を含んでいる、ことが好ましい.
本発明のキメラペプチドでは、前記ペプチドが、配列番号9、10、11、または12の何れか1項に記載のアミノ酸配列、あるいはその断片または変異体を含んでいる、ことが好ましい.
また、本発明は、上記JNK阻害剤配列、または上記キメラペプチドをコードする単離された核酸に関する.
また、本発明は、上記核酸を含んでいるベクターに関する.
また、本発明は、上記ベクターを含んでいる細胞に関する.
また、本発明は、上記JNK阻害剤配列、または上記キメラペプチドと、免疫特異的に結合する抗体に関する.
また、本発明は、上記JNK阻害剤配列、または上記キメラペプチド、または上記核酸、および薬理学的に許容可能な担体を含んでいる薬理学的組成物に関する.
また、本発明は、被検体におけるJNKの活性化と関連する病態生理を治療するための薬理学的組成物を調製するための、上記JNK阻害剤配列または上記キメラペプチドの使用に関する.
本発明の使用では、前記病態生理は、肺、乳房、リンパ組織、胃腸および尿生殖路の悪性腫瘍、ならびに、大腸癌、腎細胞癌、前立腺癌、肺の非小細胞癌、小腸の癌および食道癌のような悪性腫瘍を含んでいる腺癌、ならびに、白血病、発癌性形質転換に関係する疾患または病態生理、およびBcr‐Ablにより発癌性形質転換された癌、乾癬、増殖性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫候群(ARDS)、虚血性心疾患、透析後症候群、関節リウマチ、後天性免疫不全症候群、血管炎、敗血症ショックから選ばれる、悪性ではない、または免疫に関係している細胞増殖性の病気、再狭窄、聴力損失、耳の傷害、虚血、脳梗塞から選ばれる、細胞におけるJNKの活性化に関連する病態生理、および/または、免疫細胞の成熟および分化に関連している疾患もしくは病態生理、再かん流傷害、低酸素症、アポトーシスが関連している病気、ストレス刺激に対する反応、ならびに、炎症性サイトカインを用いた治療に起因する副次的効果に関連している疾患もしくは病態生理、糖尿病もしくは細胞のせん断応力に関連する影響であって、(i)心肥大および心臓肥大、動脈硬化性病変を含む動脈性高血圧により誘導される病理状態、ならびに、血管の分岐部における動脈性高血圧により誘導される病理状態、(ii)放射線療に用いられる電離放射線、および紫外線(紫外線光)により誘導される病理状態、(iii)化学療法薬を含むDNAに損害を与える作用物質に由来するフリーラジカルにより誘導される病理状態、(iv)虚血/再かん流傷害により誘導される病理状態、(v)低酸素により誘導される病理状態、(vi)高体温および低体温により誘導される病理状態から選ばれる、影響、あるいは、炎症性疾患、自己炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、変性疾患、ミオパチー、心筋ミオパチー、および拒絶反応を阻害するための病理状態、であることが好ましい.
本発明の使用では、薬理学的組成物が、腹腔内送達、経鼻送達、静脈内送達、経口送達、およびパッチ送達から成る群より選択される投与経路により、投与される、ことが好ましい.
また、本発明は、上記キメラペプチドを調製するための方法であって、(a)キメラペプチドの発現を提供する条件下において上記核酸を含んでいる細胞を培養する工程、および(b)発現したペプチドを回収する工程を含んでいる方法に関する.
また、本発明は、上記JNK阻害剤配列、および/または、(ii)上記キメラペプチド、および/または、(iii)上記核酸、および/または、(iv)上記ベクター、および/または、(v)上記細胞、および/または、(vi)上記抗体を含んでいるキットに関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが150アミノ酸よりも短いJNK阻害剤配列であって、前記阻害剤配列は配列番号1、2、3、もしくは4に記載のアミノ酸配列の少なくとも1つ、またはその断片、誘導体、もしくは変異体を含んでいるか、あるいは、上記アミノ酸の少なくとも1つ、またはそれらの断片、誘導体、もしくは変異体から成るJNK阻害剤配列。
【請求項2】
前記JNK阻害剤配列のアミノ酸残基の範囲が、5‐150、より好ましくは10‐100、さらに好ましくは10‐75、および最も好ましくは15‐50である、請求項1に記載のJNK阻害剤配列。
【請求項3】
前記JNK阻害剤配列がc‐Junアミノ端末キナーゼ(JNK)と結合する、請求項1または2の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列。
【請求項4】
前記JNK阻害剤配列は、JNK阻害剤配列がJNKを発現する細胞に存在するときに、JNKが標的とする転写因子の少なくとも1つの活性化を阻害する、請求項1〜3の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列。
【請求項5】
前記JNKが標的とする転写因子が、c‐Jun、ATF2、およびElklから成る群より選ばれる、請求項1〜4の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列。
【請求項6】
前記JNK阻害剤配列は、ペプチドがJNKを発現する細胞に存在するときに、JNKの効果を変える、請求項1〜5の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列。
【請求項7】
共有結合により連結した少なくとも1つの第1ドメインおよび少なくとも1つの第2ドメインを含んでいるキメラペプチドであって、前記第1ドメインは輸送配列を含んでおり、前記第2ドメインはJNK阻害剤配列を含んでいる、キメラペプチド。
【請求項8】
前記輸送配列が、ヒト免疫不全ウィルスのTATポリペプチドのアミノ酸配列を含んでいる、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記輸送配列が、配列番号5、6、7、または8に記載のアミノ酸配列を含んでいる、請求項7または8の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項10】
前記輸送配列が、ペプチドの細胞取り込みを増大させる、請求項7〜9の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項11】
前記輸送配列が、ペプチドの核局在化を方向づける、請求項7〜9の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項12】
前記JNK阻害剤配列が、請求項1〜6の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列を含んでいる、請求項7〜11の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項13】
前記ペプチドが、配列番号9、10、11、または12の何れか1項に記載のアミノ酸配列、あるいはその断片または変異体を含んでいる、請求項7〜12の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項14】
請求項1〜6の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列、または請求項7〜13の何れか1項に記載のキメラペプチドをコードする単離された核酸。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸を含んでいるベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターを含んでいる細胞。
【請求項17】
請求項1〜6の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列、または請求項7〜13の何れか1項に記載のキメラペプチドと、免疫特異的に結合する抗体。
【請求項18】
請求項1〜6の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列、または請求項7〜13の何れか1項に記載のキメラペプチド、または請求項14に記載の核酸、および薬理学的に許容可能な担体を含んでいる薬理学的組成物。
【請求項19】
被検体におけるJNKの活性化と関連する病態生理を治療するための薬理学的組成物を調製するための、請求項1〜6の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列または請求項9〜13の何れか1項に記載のキメラペプチドの使用。
【請求項20】
前記病態生理は、
肺、乳房、リンパ組織、胃腸および尿生殖路の悪性腫瘍、ならびに、
大腸癌、腎細胞癌、前立腺癌、肺の非小細胞癌、小腸の癌および食道癌のような悪性腫瘍を含んでいる腺癌、ならびに、
白血病、発癌性形質転換に関係する疾患または病態生理、およびBcr‐Ablにより発癌性形質転換された癌、
乾癬、増殖性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫候群(ARDS)、虚血性心疾患、透析後症候群、関節リウマチ、後天性免疫不全症候群、血管炎、敗血症ショックから選ばれる、悪性ではない、または免疫に関係している細胞増殖性の病気、
再狭窄、聴力損失、耳の傷害、虚血、脳梗塞から選ばれる、細胞におけるJNKの活性化に関連する病態生理、および/または、
免疫細胞の成熟および分化に関連している疾患もしくは病態生理、再かん流傷害、低酸素症、アポトーシスが関連している病気、ストレス刺激に対する反応、ならびに、炎症性サイトカインを用いた治療に起因する副次的効果に関連している疾患もしくは病態生理、
糖尿病もしくは細胞のせん断応力に関連する影響であって、(i)心肥大および心臓肥大、動脈硬化性病変を含む動脈性高血圧により誘導される病理状態、ならびに、血管の分岐部における動脈性高血圧により誘導される病理状態、(ii)放射線療に用いられる電離放射線、および紫外線(紫外線光)により誘導される病理状態、(iii)化学療法薬を含むDNAに損害を与える作用物質に由来するフリーラジカルにより誘導される病理状態、(iv)虚血/再かん流傷害により誘導される病理状態、(v)低酸素により誘導される病理状態、(vi)高体温および低体温により誘導される病理状態から選ばれる、影響、あるいは、
炎症性疾患、自己炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、変性疾患、ミオパチー、心筋ミオパチー、および拒絶反応を阻害するための病理状態、
である請求項19に記載の使用。
【請求項21】
薬理学的組成物が、腹腔内送達、経鼻送達、静脈内送達、経口送達、およびパッチ送達から成る群より選択される投与経路により、投与される、請求項19または20の何れか1項に記載の使用。
【請求項22】
請求項7〜13の何れか1項に記載のキメラペプチドを調製するための方法であって、(a)キメラペプチドの発現を提供する条件下において請求項14に記載の核酸を含んでいる細胞を培養する工程、および(b)発現したペプチドを回収する工程を含んでいる方法。
【請求項23】
(i)請求項1〜6の何れか1項に記載のJNK阻害剤配列、および/または、(ii)請求項7〜13の何れか1項に記載のキメラペプチド、および/または、(iii)請求項14に記載の核酸、および/または、(iv)請求項15に記載のベクター、および/または、(v)請求項16に記載の細胞、および/または、(vi)請求項17に記載の抗体を含んでいるキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−95657(P2012−95657A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−381(P2012−381)
【出願日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【分割の表示】特願2008−530405(P2008−530405)の分割
【原出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】