説明

LED用リードフレーム

【課題】高い反射率を長期間維持でき、また安定してかつ容易に形成できる反射膜を備えたLED用リードフレームを提供する。
【解決手段】銅または銅合金からなる基板11と、その表面に形成されたAgめっき膜12を介して、Ge:0.06〜0.5at%およびBi:0.02〜0.2at%を含有するAg合金膜13を積層してなるLED用リードフレーム10であって、Ag合金膜13はスパッタリング法で形成されることにより、Ge,Biが表面に濃化して、耐熱性、耐ハロゲン化性、および耐硫化性を付与する。さらに、厚膜化し難いAg合金膜13の膜厚は20〜500nmに制限し、Agめっき膜12との合計の厚さを0.6μm以上とすることにより、基板11からCuが表面に拡散して変色することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイのバックライト、照明器具、自動車のヘッドランプやリアランプ等に用いられる発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を光源とする発光装置を構成するLED用リードフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED素子を光源とする発光装置が、省エネルギかつ長寿命である利点を活かして、広範囲の分野に普及し、各種機器に適用されている。LED素子を光源とする発光装置の一例として、表面実装型の発光装置の構造および動作について、図7を参照して説明する。図7はLED素子を光源とする表面実装型の発光装置の模式図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のG−G線矢視断面図である。
【0003】
図7(a)、(b)に示すように、発光装置100は、LED素子(図中では「LED」と記載する。)と、LED素子が収容される凹状の素子実装部122が形成された樹脂製のLED素子実装体102と、LED素子実装体102の外側から素子実装部122内側へ貫通する帯状の銅等からなる一対のリード部材101a,101bと、備える。LED素子実装体102は、素子実装部122の上方が広がって開口したカップ状で、この素子実装部122の開口部から、LED素子の発光した光が発光装置100の外部へ照射される。
【0004】
一対のリード部材101a,101bのそれぞれにおいて、素子実装部122の底面122aに配設された領域をインナーリード部115a,115b、LED素子実装体102の外側に延出された領域をアウターリード部116a,116bと称する。LED素子は、素子実装部122の底面122aの略中央の、一方のリード部材101aのインナーリード部115aの上面にシリコーンダイボンド材等からなる接着剤(図示省略)によって接着され、LED素子の電極(図示省略)が一対のリード部材101a,101bのそれぞれのインナーリード部115a,115bにボンディングワイヤ(ワイヤ)で接続されている。また、素子実装部122内は、エポキシ樹脂等の透明な封止樹脂(図示省略)が充填されて封止されている。そして、一対のリード部材101a,101bのそれぞれのアウターリード部116a,116bが図示しない電源に接続されてLED素子に電流が供給される。なお、本明細書における「上」とは、原則として、リード部材のLED素子が搭載される側を指し、図7(b)における上である。
【0005】
このような発光装置100においては、LED素子の発光部(発光層)が発光して、この発光部を中心に光を放射し、素子実装部122内のあらゆる方向へ照射される。これらの光のうち、上方へ照射された光は直接、素子実装部122の開口部から発光装置100の外部へ出射して照明光等として利用される。しかし、それ以外の、側方や下方へ照射された光は、素子実装部122の側面122bおよび底面122aならびにリード部材101a,101bのインナーリード部115a,115b表面に入射する。そこで、これらの面は、LED素子から入射した光をよく反射させるように、光反射率(以下、反射率という)を高くすることが求められている。特にAgは、金属の中で最も高い反射率を示すため、多くの光を反射させるためにこのような面に設ける反射膜の材料として最適である。
【0006】
しかしAgは、発光装置100の使用時間の経過と共に、大気や封止樹脂に含まれるハロゲンイオンや硫黄と反応して表面に塩化物(AgCl)等のハロゲン化物や硫化物(Ag2S)を形成するため、これらの生成物により反射膜の表面が黒褐色に変色したり凝集して表面が荒れ、またAgはLED素子から発生する熱によっても凝集するため、反射率が劣化するという問題がある。また、封止樹脂にエポキシ樹脂を用いた場合には、この透明なエポキシ樹脂に反射膜中のAgが拡散してAgのナノ粒子として析出し、褐色に変色させて光透過性を劣化させる。
【0007】
この問題を解決するために、例えば、特許文献1には、封止樹脂にシリコーン樹脂を適用し、反射面の純Agめっき層に、塩化物や硫化物を形成し難いAg−Au合金めっき層をさらに被覆したリードフレームが記載されている。また、特許文献2には、Ge,Biを含有するAg合金膜をめっき等で成膜した後、熱可塑性樹脂でリフレクタ(図7のLED素子実装体102に相当)を形成することで、あるいは熱処理を行うことで、その際の加熱により前記Ag合金膜のGe,Biを拡散させて表面に濃化させ、ハロゲン化銀を形成し難くしたリードフレームが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−91818号公報(請求項1,2、段落番号0015〜0016)
【特許文献2】特開2008−192635号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のAg−Au合金膜は、塩化物や硫化物を形成し難くするためにAg含有量を50質量%未満に制限したAuを主成分とする合金からなり、Agと比較して反射率に劣り、さらにコストも高くなる。特許文献2のAg合金膜では、めっきでGe,Bi濃度を制御したAg合金膜を成膜することが困難である上、その後の熱処理によりAg合金膜表面で安定してGe,Biを濃化させることも困難である。特に、硫化物形成を防止するGeの拡散には温度および時間が不十分であり、このようなAg合金膜では硫化物の形成が十分に抑制できない上、封止樹脂とするシリコーン樹脂には、樹脂の硬化触媒として塩化白金酸のような金属塩化物や金属硫化物等が含まれている。
【0010】
本発明の課題は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、高い反射率を長期間維持でき、また安定してかつ容易に形成できる反射膜を備えたLED用リードフレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、LED用リードフレームの反射面に被覆する反射膜を形成するAgを主成分とする材料を、主に硫化物の形成を抑制する(耐硫化性)元素としてGeを、主にハロゲン化物の形成を抑制する(耐ハロゲン化性)元素としてBiを、添加したAg合金とすることにした。そして、これらの添加元素Ge,Biの効果が十分なものとなる量を反射膜に一様に添加するとAgの高反射率が損われるために、反射膜の表面近傍のみにおいてGe,Biを高濃度とする方法を鋭意研究した。前記特許文献2に記載されたような、Ag合金膜への熱処理により表面のGe,Biを濃化する方法では、Geを濃化するためには高温および長時間を要し、このような熱処理を行うとAgが凝集してしまう。そこで、Ag合金膜をスパッタリング法で形成することで、成膜時に、表面から10nm程度の深さの領域においてGe,Biが高濃度となって、熱処理等の成分濃化を行うことなく表面のGe,Bi濃度が高いAg合金膜が得られることを見出した。
【0012】
スパッタリング法で成膜することにより、成膜後に熱処理等の成分濃化を行うことなく表面のGe,Bi濃度が高いAg合金膜が得られるが、一方、スパッタリング法でLED用リードフレームの反射膜を形成するには、以下の問題がある。LED用リードフレームの基板には導電性に優れたCuまたはCu合金が好適であるが、基板を被覆する反射膜(Ag合金膜)が薄いと、Ag合金膜の形成後のLED用リードフレームの製造工程、さらに発光装置の製造工程での加熱、例えばワイヤボンディングや封止樹脂の充填等の際に、基板からCuがAg合金膜の表面まで拡散し、表面が変色して反射率が低下する。このような基板からのCuの拡散を防止するためには、0.6μm以上の厚さの膜で基板を被覆することが望ましいが、スパッタリング法ではこのような厚膜の形成は時間がかかり生産性に劣る。また、スパッタリング法等の物理蒸着による膜は、めっき膜と異なり、厚膜にしても下地の表面形状が膜の表面形状に保持される。Cu等で形成した基板は表面にある程度の凹凸があるため、このような表面形状が保持された凹凸のある反射膜とすると、拡散反射(乱反射)に伴う多重反射により発光装置の出射光量が減衰することになる。
【0013】
そこで、本発明者らは、基板からのCuの拡散を防止し、かつ下地(基板)の表面形状に対して平滑な表面形状とするためにめっき膜を形成して、その上にGe,Biを所定濃度に添加したAg合金膜をスパッタリング法で成膜することに想到した。
【0014】
すなわち本発明に係るLED用リードフレームは、銅または銅合金からなる基板と、この基板上の少なくとも片面側に形成された膜厚10μm以下のAgめっき膜と、このAgめっき膜上にスパッタリング法で形成されて、膜厚20nm以上500nm以下のGe:0.06〜0.5at%およびBi:0.02〜0.2at%を含有するAg合金膜とを備え、前記Agめっき膜と前記Ag合金膜の膜厚の合計は0.6μm以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る別のLED用リードフレームは、上方に開口した凹状の素子実装部が形成されたLED素子実装体と、このLED素子実装体に支持され、前記素子実装部の底面に互いに離間領域を隔てて配設されて、それぞれが当該素子実装部から前記LED素子実装体の外側に延出した一対のリード部材とを備えるものである。前記リード部材は、銅または銅合金からなる基板と、前記素子実装部の内側において前記基板上に形成された膜厚10μm以下のAgめっき膜と、このAgめっき膜上に形成された膜厚20nm以上500nm以下のAg合金膜とを備え、前記Agめっき膜と前記Ag合金膜の膜厚の合計は0.6μm以上であり、前記LED素子実装体は、絶縁材料からなる基体と、前記離間領域を除く領域において前記素子実装部の表面に形成された膜厚70nm以上500nm以下のAg合金膜とを備え、前記それぞれのAg合金膜は、スパッタリング法で形成され、Ge:0.06〜0.5at%およびBi:0.02〜0.2at%を含有することを特徴とする。
【0016】
このように、表面にスパッタリング法でGe,Biを所定量含有するAg合金膜を被覆することにより、硫黄やハロゲンイオン、熱等によるAgの凝集や変色を引き起こさず、高い反射率を維持できる耐久性に優れた反射膜となり、さらにAgが封止樹脂に拡散して変色させることがないため、搭載されたLED素子の発光した光を高効率で継続して利用することを可能とする。また、基板上にAgめっき膜を介して表面に前記Ag合金膜が積層されて十分な厚さの積層膜とすることにより、基板から表面にCuが拡散して変色することなく、また基板の表面に対して平滑な表面となって高い正反射率を示す反射膜となる。また、LED素子を囲繞するLED素子実装体を備えたLED用リードフレームにおいては、このLED素子実装体の内面にも前記のAg合金膜を被覆することで、LED素子から側方へ照射された光も高効率で外部へ出射される。
【0017】
また、前記の本発明に係るLED用リードフレームのそれぞれにおいて、Ag合金膜がさらにAu:0.5〜5at%を含有してもよい。Auもハロゲン化物の形成を抑制する作用を有するため、いっそう耐久性に優れた反射膜となる。
【0018】
また、前記の本発明に係るLED用リードフレームのそれぞれにおいて、Ag合金膜の表面の二乗平均粗さが30nm以下であることが好ましい。このように二乗平均粗さの小さい表面とすることにより、さらに高い正反射率を示す反射膜となる。
【0019】
また、前記の本発明に係るLED用リードフレームのそれぞれにおいて、Ag合金膜上に、さらに、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選択される1種の金属の金属酸化膜または2種以上からなる合金の金属酸化膜を膜厚0.1nm以上5nm以下で備えてもよい。これらの金属または合金の酸化膜を表面に備えることで、Ag合金膜に外部から硫黄が接触することを防止し、いっそう耐久性に優れた反射膜となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のLED用リードフレームは、LED素子を搭載して、その発光した光を高効率で利用して照明光の明るさを向上させ、使用時間の経過による照明光の減衰等の劣化を抑えた発光装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係るLED用リードフレームの構成を模式的に示す断面図であり、(a)は第1実施形態、(b)は第1実施形態の変形例を示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るLED用リードフレームの模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の変形例に係るLED用リードフレームおよびその基板の模式図であり、(a)は基板の平面図、(b)は(a)の部分拡大図、(c)はLED用リードフレームの断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るLED用リードフレームのAg合金膜を形成される前の模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のD−D線矢視断面図、(c)は(a)のE−E線矢視断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の別の変形例に係るLED用リードフレームの模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F線矢視断面図である。
【図6】光の反射を説明する発光装置のモデルであり、(a)は正反射、(b)は拡散反射を示す。
【図7】LED素子を光源とする表面実装型の発光装置の構造を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のG−G線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のLED用リードフレームは、LED素子を光源として実装される発光装置を構成するための部品であり、発光装置の形状および形態、ならびにLED素子の実装形態、製品としてユーザに提供する形態等に応じて、所要の形状および形態に構成される。以下、本発明のLED用リードフレームについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係るLED用リードフレームについて、図1を参照して説明する。第1実施形態およびその変形例に係るLED用リードフレーム10,10Aは、発光装置に組み込んだときに、光源であるLED素子にこのLED素子を発光動作させる電流を供給するための配線であり、かつ、LED素子の発光した光を反射させる反射板である。
【0024】
第1実施形態に係るLED用リードフレーム10は、基板11と、基板11の少なくとも一方の面に形成されたAgめっき膜12と、さらにその上に形成されたAg合金膜13と、を備える。Agめっき膜12およびAg合金膜13は、図1(a)に示すように、基板11のLED素子が搭載される側の面になる上面(以下、適宜表面という)のみに形成されていてもよいし、基板11の下面(裏面)を含めた両面に形成されていてもよい。さらには、Agめっき膜12およびAg合金膜13は、基板11の表面の一部の領域、例えば発光装置に組み込まれたときにLED素子の発光した光が入射する領域のみに形成されていてもよい。したがって、LED用リードフレーム10は、裏面や、表面の前記以外の領域においては、Agめっき膜12およびAg合金膜13が積層されていてもよいし、基板11が露出していても、あるいはAgめっき膜12およびAg合金膜13の一方のみが形成されていてもよい(例えば、図1(b)参照)。また、LED用リードフレーム10の平面視形状は特に限定されず、発光装置の形状および形態等に応じて設計され、例えば、後記の第2実施形態の変形例に係るLED用リードフレームの基板11A(図3(a)参照)のように、複数個のLED用リードフレーム10が連結された構成としてもよい。
【0025】
(基板)
基板11は、銅または銅合金からなり、LED用リードフレーム10の形状に成形される。銅合金としては、銅を主成分とし、Ni,Si,Fe,Zn,Sn,Mg,P,Cr,Mn,Zr,Ti,Sb等の元素の1種または2種以上を含有する合金、例えばCu−Fe−P系銅合金を用いることができる。基板11の板厚は特に限定されないが、形状と同様に、発光装置の形状および形態等に応じて決定され、圧延等により、この所要の厚さの素板(圧延板)とし、これをプレス加工やエッチング加工等により所要の形状に成形することによって製造することができる。
【0026】
(Agめっき膜)
本実施形態に係るLED用リードフレーム10において、Agめっき膜12は、Ag合金膜13の下地として基板11の表面に設けられ、また発光装置としたときにLED素子から照射される光を反射する役割を有する。後記の通り、Ag合金膜13はスパッタリング法により成膜されるが、スパッタリング法による膜だけで基板11からのCuの熱による拡散を防止できる膜厚にすることは、生産性の上で好ましくない。また、スパッタリング法等の物理蒸着による膜は、厚く形成されても下地の表面形状が膜の表面形状に保持される。すなわち、Agめっき膜12は、Ag合金膜13の表面すなわちLED用リードフレーム10の反射面を平滑にする役割も有する。
【0027】
Agめっき膜12は、平滑な表面を形成するめっき膜であれば、公知のめっき方法で形成される無光沢Agめっき、半光沢Agめっき、光沢Agめっきのいずれであってもよいが、発光装置としたときにLED素子から照射された光を高効率で外部へ出射するためには光沢Agめっきが最も好ましい。また、成分はAg単体(純Ag)に限定されず、例えば、Ag−Au合金、Ag−Pd合金等のAg合金で形成されるめっき膜であってもよい。
【0028】
Agめっき膜12の膜厚は10μm以下とする。Agめっき膜12の膜厚が10μmを超えても、Cuの熱拡散防止や表面の平滑化の効果が飽和する。好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下である。なお、Agめっき膜12の膜厚の下限は規定しないが、後記するようにAg合金膜13との合計の厚さが0.6μm以上になるようにする。また、Agめっき膜12の膜厚が薄いと結晶粒径が大きくなり難く、その上に成膜されるAg合金膜13の結晶粒径も大きくならない。ここで、Ag合金膜13は単独ではAgめっき膜12より結晶粒径が小さいが、Ag合金膜13はAgめっき膜12上でエピタキシャル成長するため、Agめっき膜12の結晶に引きずられる形でAg合金膜13の結晶が大きく成長して、Agめっき膜12の結晶粒径に近い結晶粒径になる。Agの熱による凝集は結晶粒径にも依存し、結晶粒径が大きいと凝集し難く、具体的には100nm以上が好ましい。したがって、耐熱性をいっそう向上させるために、Agめっき膜12の膜厚は、Agめっき膜12の結晶粒径が100nm以上に大きくなるように、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。さらに、Agめっき膜12の膜厚が薄いと、基板11の表面粗さにも影響されるが、Agめっき膜12の表面が十分に平滑にならず、その上に成膜されるAg合金膜13の表面も平滑にならないため、発光装置としたときに、反射における拡散反射が多くなって出射光の光量の損失が多くなる。Ag合金膜13の表面を平滑にする上では、Agめっき膜12の膜厚は好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。
【0029】
(Ag合金膜)
Ag合金膜13は、Agめっき膜12上の、LED用リードフレーム10の最表面に設けられ、発光装置としたときに、Agめっき膜12のAgが大気や封止樹脂に含まれるハロゲンイオンや硫黄と反応して黒褐色化や凝集することを防止するための保護膜としての役割を有する。このAg合金膜13は、Ge:0.06〜0.5at%、およびBi:0.02〜0.2at%を含有し、残部が不可避的不純物およびAgからなるAg合金で構成される。
【0030】
Ag合金膜13を構成するAg合金において、Ge,Biは、それぞれが、熱によりAgが凝集することを抑制する作用(耐熱性)、およびハロゲンイオンによりハロゲン化銀を形成することを抑制する作用(耐ハロゲン化性)を有する。特に、Biは耐ハロゲン化性の効果に優れる。一方、Geは、さらに硫黄により硫化銀を形成することを抑制する作用(耐硫化性)を有する。したがって、Ge,Biの両方の元素を添加することにより、Ag合金膜13が凝集で表面が荒れることやそれぞれの生成物で黒褐色化することを防止する。Ag合金膜13において、Geの含有率が0.06at%未満、Biの含有率が0.02at%未満では、それぞれ前記効果が十分に得られず、特にGeが不足した場合は耐硫化性が、Biが不足した場合は耐ハロゲン化性が、それぞれ不十分となり、Ag合金膜13の表面が黒褐色化したり荒れて反射率が劣化する。したがって、Geの含有率は0.06at%以上とし、好ましくは0.1at%以上、より好ましくは0.2at%以上である。同様に、Biの含有率は0.02at%以上とし、好ましくは0.04at%以上、より好ましくは0.07at%以上である。
【0031】
一方、これらの添加元素が多くなるとAg合金膜13の表面が黄色化して反射率が低下するため、Geの含有率は0.5at%以下、Biの含有率は0.2at%以下とする。好ましくは、Ge,Biの各含有率(at%)を[Ge]、[Bi]と表したとき、(7×[Ge]+13×[Bi])が4以下とする。
【0032】
前記Ge,Biの各含有率はAg合金膜13の膜全体での平均値であり、実際にはAg合金膜13の表面から10nm程度の深さの領域においてGe,Biが高濃度に分布しているために、これらの元素による前記効果が得られる。このような濃度分布の膜とするため、Ag合金膜13はスパッタリング法にて形成する。また、スパッタリング法では、所定の組成の合金ターゲットを形成できれば所望の組成の膜を容易にかつ再現性よく成膜できる。
【0033】
Ag合金膜13を構成するAg合金に、さらにAuを0.5at%以上添加してもよい。AuもAg合金に耐ハロゲン化性を付与し、Ag合金膜13の表面がハロゲンイオンにより黒褐色化することをいっそう防止できる。より好ましくは1at%以上、さらに好ましくは2at%以上である。一方、Auの含有率が5at%を超えるとAg合金膜13の反射率が低下するため、Auの含有率は5at%以下とする。
【0034】
Ag合金膜13の膜厚は20nm以上500nm以下とする。Ag合金膜13の膜厚が20nm未満では、Agめっき膜12の表面を完全に被覆できない虞がある。好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上である。特に、膜厚が70nm以上になると、Ag合金膜13は光をほとんど透過せずにそれ自体が反射膜となる。一方、Ag合金膜13の膜厚が500nmを超えても、効果は飽和し、生産性が低下する。
【0035】
さらに、Ag合金膜13の膜厚は、Agめっき膜12の膜厚との合計で0.6μm以上となるようにする。Agめっき膜12とAg合金膜13の膜厚の合計が0.6μm未満であると、基板11からAgめっき膜12を経由してAg合金膜13にCuが熱で拡散し、Ag合金膜13の表面が変色して反射率が劣化する。好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。
【0036】
また、Ag合金膜13は、表面の二乗平均粗さRrms(Root Mean Square Roughness:粗さの二乗平均平方根値)を30nm以下とすることが好ましい。表面のRrmsが30nm以下であれば、Ag合金膜13の正反射率が50%以上、すなわち入射した光の半分以上を正反射させることができる。正反射率とは、入射光量に対する正反射による反射光(反射面に対して入射光と同じ角度で反射した光)の光量の割合である。正反射に対して、入射角に対してあらゆる角度で反射する現象を拡散反射(乱反射)という。ここで、光が反射膜で正反射する場合と拡散反射する場合の反射光の違いについて、図6に示す、下方および側方(素子実装部の底面および側面)に反射膜を備えて光源(LED素子の発光部)からの光を上方へ取り出す発光装置のモデルを参照して説明する。
【0037】
光源から放射された光のうちの下方へ照射された光L0について説明する。図6(a)に示すように、正反射率の高い底面に入射した光L0は、そのほとんどが正反射して、反射光Lsとして上方へ照射されるので、光L0は1回の反射で外部へ出射される。これに対して、図6(b)に示すように、反射膜の正反射率が低い場合、光L0は拡散反射により、あらゆる方向へ照射される反射光Ld1となる。その一部は上方へ照射されて1回の反射で外部へ出射されるが、それ以外の光は、側面に入射して再び拡散反射したり(反射光Ld2)、あるいは光源に入射する。このように、光源から照射された光L0は外部へ出射されるまで、一部を除いて何度も反射を繰り返す(多重反射する)ことになる。
【0038】
光は、反射する度に一部が反射面に吸収されて減衰するので、光L0から反射光Ld1、反射光Ld1から反射光Ld2と反射を繰り返すにしたがい、反射光の光量は段階的に減少する。このように反射率の内訳として拡散反射が多いと、多重反射により損失量が累積されて、光源すなわちLED素子の発光した光に対して、発光装置の出射光となる光量は大きく減少することになる。本実施形態に係るLED用リードフレーム10においては、Ag合金膜13のRrmsを制御することで正反射率を高くして、発光装置としたときに、LED素子の発光する光の多くが、光量の損失の少ない1、2回程度の反射で発光装置の外部へ出射するようにして、発光装置の照明光を明るくすることができる。
【0039】
以上の理由から、Ag合金膜13の正反射率を高くするために表面を平滑とすることが好ましい。本発明において表面の平滑性を表す指標として用いる二乗平均粗さRrmsは、下式(1)で表される値であり、表面に存在する凹凸の表面高さの標準偏差である。したがって、例えば算術平均粗さRaが同等であっても、高い突起や深い谷が多い表面ほどRrmsは大きくなる。すなわち、Rrmsが大きいほど表面の凹凸が激しいことを示し、そのような表面に入射した光は拡散反射による反射が多くなって正反射率が減少し、Rrmsが30nmを超えると、Ag合金膜の正反射率が50%未満となって入射した光の半分以上が拡散反射することになる。反対にRrmsが小さいほど表面が平滑となって正反射率が向上し、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
【0040】
【数1】

ここで、Zave:表面高さの平均値、Zji:個々の表面高さの測定値、N:測定点の数を示す。
具体的には、例えば、原子間力顕微鏡を用いて、任意の領域について表面高さ(Zji)を測定して式(1)によってRrmsを算出することができる。好ましくは、複数の領域について測定し、その平均値を適用する。
【0041】
このような表面の二乗平均粗さRrmsが小さいAg合金膜13を形成するためには、下地表面の凹凸を小さくして同程度のRrmsにすればよい。しかしながら、基板11をこのような平滑な表面とすることは困難である。前記したように、基板11は銅または銅合金からなる圧延板を成形加工して製造されるが、圧延面に形成された酸化皮膜や、この酸化皮膜が脱落して圧延により埋め込まれた酸化物を除去するために、圧延後の研磨工程が必須である。この工程により研磨痕が表面に残るため、基板11表面が粗くなり、Rrmsでは60〜100nmになる。そこで、Ag合金膜13が形成される下地表面を平滑にするために、基板11の表面に、Agめっき膜12を成膜して平滑な下地表面とする。また、Agめっき膜12を成膜する前に、基板11の表面を硝酸を主成分とする強酸の混合液(キリンス酸)等を用いて酸によるエッチングを行ったり、コイニングにより基板11の表面の凹凸を潰しておけば、Agめっき膜12の膜厚を薄く形成しても平滑性が得られるので、より好ましい。
【0042】
また、Agめっき膜12とAg合金膜13との密着性をよくするために、Ag合金膜13を成膜する前に、Agめっき膜12の表面にアルゴン(Ar)のイオンビームを照射したり、Ar雰囲気中で、Agめっき膜12を形成された基板11に高周波を印加することにより、Agめっき膜12の表面の酸化皮膜や汚れを除去してもよい。
【0043】
(金属酸化膜)
第1実施形態に係るLED用リードフレーム10は、Ag合金膜13上に、さらにTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選択される1種の金属のまたは2種以上の合金の酸化膜(以下、適宜、金属酸化膜という)を設けてもよい(図示せず)。
【0044】
Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wは、大気中等で表面に安定した酸化膜(不働態皮膜)を形成するため、硫黄と反応し難い。また、これらの金属は、元の金属に対する酸化物の体積比(PB比:Pilling-bedworth ratio)が1を超えるものであり、酸化により膨張するため、極めて薄い金属膜として成膜した時点でピンホールが形成されていた場合、酸化して金属酸化膜となることでピンホールが塞がれる。このような金属酸化膜は、極めて薄い、具体的には膜厚2nm以下であっても、Ag合金膜13表面を被覆する緻密な保護膜を構成し、Ag合金膜13が外部からの硫黄と接触することを防止する。
【0045】
前記した通り、Ag合金膜13はGeを含有するAg合金で構成されることで、Ag合金膜13自体が耐硫化性を有し、その下のAgめっき膜12を保護する。しかし、LED用リードフレーム10が発光装置に組み込まれて、LED素子を搭載されて封止されるための封止樹脂にシリコーン樹脂を適用する場合、そしてこのシリコーン樹脂が金属硫化物を含有する材料である場合は、Ag合金膜13表面は常に硫黄と接触していることになる。あるいは、発光装置の使用環境に硫化水素が存在する場合、硫化水素が封止樹脂に拡散してAg合金膜13表面に到達する虞がある。これらのように、LED用リードフレーム10が発光装置として使用された際に、表面すなわちAg合金膜13表面が比較的高濃度の硫黄に曝され続けた場合、Ag合金膜13を構成するAg合金の成分による耐硫化性だけでは不十分で、長期間の使用で表面が黒褐色化して反射率が劣化する虞がある。したがって、LED用リードフレーム10が発光装置に組み込まれた際の封止樹脂の材料や使用環境によっては、Ag合金膜13上に金属酸化膜を備えることが好ましい。
【0046】
Ag合金膜13上に金属酸化膜を形成する場合、その膜厚は0.1nm以上5nm以下とする。金属酸化膜の膜厚が0.1nm未満では、硫黄に対するAg合金膜13の保護膜として不十分である。金属酸化膜の膜厚は、厚いほどAg合金膜13の耐硫化性への効果が高いため、好ましくは0.2nm以上、より好ましくは0.3nm以上である。一方、Ag合金膜13は、LED用リードフレーム10を発光装置に組み込んでLED素子を実装する際の、当該LED用リードフレーム10へのワイヤボンディングのための層でもあるため、それを被覆する金属酸化膜の膜厚が厚くなると、LED用リードフレーム10のワイヤボンディング性が低下する。したがって、金属酸化膜の膜厚は5nm以下とし、好ましくは4.5nm以下、より好ましくは4nm以下である。
【0047】
また、金属酸化膜は、その下地であるAg合金膜13の表面が平滑であるほど、薄い膜でもピンホールが形成され難くなるため、Ag合金膜13の耐硫化性への効果が高くなる。言い換えると、Ag合金膜13の表面が粗い場合は、金属酸化膜の膜厚を厚くする必要がある。前記した通り、本実施形態に係るLED用リードフレーム10は、Ag合金膜13の表面の二乗平均粗さRrmsを30nm以下とすることが、正反射率を高くするために好ましいが、さらにこの範囲の表面粗さとすることにより、金属酸化膜の膜厚を5nm以下において調整することでピンホールが形成され難くすることができる。
【0048】
金属酸化膜は物理蒸着によって成膜することが好ましく、特にAg合金膜13と同じスパッタリング法を用いることが好ましい。Ag合金膜13と同じ成膜方法であれば、同じ装置でAg合金膜13と金属酸化膜を連続的に成膜することができる。スパッタリング法を用いて金属酸化膜を形成する場合、金属酸化膜と同じ組成の金属酸化物ターゲットを用いて直接に金属酸化膜を成膜してもよいし、金属(合金)ターゲットを用いて金属膜(合金膜)を成膜後、大気中等の酸素雰囲気で金属膜を酸化して金属酸化膜としてもよい。ただし、前記したように、膜厚2nm以下の金属酸化膜を形成する場合は、成膜時はピンホールが形成されている場合があるので、金属膜として成膜した後に酸化処理を行う。膜厚2nmを超える金属酸化膜を形成する場合は、どちらのターゲットを用いてもよい。
【0049】
Ag合金膜13上の金属酸化膜の膜厚は、X線光電子分光分析(XPS)法で測定することができる。具体的にはX線光電子分光分析装置を用いて、LED用リードフレーム10の表面(金属酸化膜の表面)から深さ(膜厚)方向へ、金属酸化膜に含まれる金属元素および酸素元素O、ならびにAgの各濃度を測定し、表面から深さ方向へのプロファイルを得る。金属酸化膜に含まれる金属元素の濃度(含有率)が、最高濃度の1/2まで減少した深さを金属酸化膜の膜厚と規定することができる。
【0050】
(製造方法)
第1実施形態のLED用リードフレーム10は、前記の構成を形成できる方法であれば特に制限されず、いずれの方法により製造してもよい。例えば、LED用リードフレーム10は、基板11を作製する基板作製工程S1、基板11表面にAgめっき膜12を形成するAgめっき工程S2、および基板11上のAgめっき膜12表面にAg合金膜13を形成するAg合金膜スパッタリング工程S5を含む方法によって製造することができる。以下に、LED用リードフレームの製造方法の一例を説明する。
【0051】
基板作製工程S1では、材料の銅または銅合金を連続鋳造して鋳造板(例えば、薄板鋳塊)を製造し、次に、焼鈍、冷間圧延、中間焼鈍および時効処理、さらに、仕上げ圧延、研磨等の工程を経て、所要の厚さの素板を製造する。この素板をプレス加工等により所要の形状に成形して基板11を得ることができる。
【0052】
Agめっき工程S2では、基板11の表面にAgめっき膜12を形成する。Agめっき膜12は、例えば、シアン浴、チオ硫酸塩浴等の公知のめっき浴を用い、Ag(純度99.99%)板を対極とし、電流密度5A/dm2、めっき浴温度15℃等の条件で電気めっきすることによって成膜することができる。また、光沢剤を添加しためっき浴を用いて光沢Agめっきとすることもできる。電気めっきにおいては、電流密度やめっき通板速度(めっき時間)等を調整することによって、所望の膜厚のAgめっき膜12を得ることができる。このAgめっき膜12の成膜に際して、予め基板11を脱脂液による脱脂、電解脱脂、および酸溶液によって前処理することが好ましい。前処理は、例えば、基板11を、脱脂液に浸漬して脱脂した後、対極をステンレス304として、リードフレーム側がマイナスとなるようにして直流電圧を印加して30秒間程度電解脱脂を行い、さらに、10%硫酸水溶液に10秒程度浸漬することによって行うことができる。なお、基板11の片面(上面)のみ、あるいはさらに一部の領域のみにAgめっき膜12を形成する場合は、下面や前記領域以外にマスキングテープ等でマスキングした後、めっき浴でAgめっきを行うことによって、基板11の所望の部位のみにAgめっき膜12を形成することができる。
【0053】
Ag合金膜スパッタリング工程S5では、Agめっき膜12上に前記の所定の組成および膜厚のAg合金膜13をスパッタリング法にて形成する。スパッタリング法で形成することで、表面近傍のGe,Bi濃度が高いAg合金膜13が得られる。以下に、スパッタリング法による成膜方法の一例を示す。成膜するAg合金膜13の組成に合わせて組成が調整されたAg合金ターゲットをスパッタリング装置の電極に設置し、Agめっき膜12を形成した基板11を、スパッタリング装置のチャンバー内に載置する。次に、チャンバー内を1.3×10-3Pa以下の圧力まで真空排気した後、チャンバー内にArガスを導入して、チャンバー内圧力を所定の圧力、例えば2×10-2Pa程度に調整する。そして、イオンガンに所定の放電電圧を印加してArイオンを発生させ、さらに所定の加速電圧とビーム電圧を印加することにより、ArイオンビームをAgめっき膜12に照射してAgめっき膜12表面に存在する酸化皮膜や汚れを除去する。その後、チャンバー内にArガスを導入しながら、チャンバー内の圧力を0.27Pa程度に調整し、Ag合金ターゲットに直流電圧(出力200W)を印加することによりスパッタリングを行って、Ag合金膜13を成膜する。
【0054】
以上のように、前記工程S1,S2,S5をこの順に行うことにより、第1実施形態に係るLED用リードフレーム10を製造することができる。なお、Agめっき工程S2において、基板11をマスキングせず両面にAgめっき膜12を形成し、Ag合金膜スパッタリング工程S5にて、片面(表面)にのみAg合金膜13を形成すると、図1(b)に示す第1実施形態の変形例に係るLED用リードフレーム10Aを製造することができる。また、基板作製工程S1における成形前に、工程S2、あるいはさらに工程S5を行ってから、所望の形状に加工して製造することもできる。
【0055】
また、Ag合金膜13上に金属酸化膜を形成する場合は、前記Ag合金成膜工程S5の次に金属酸化膜形成工程S6を行う。以下に、Ag合金成膜工程S5と同じくスパッタリング法を用いた方法の一例として、金属酸化膜を成膜する方法を示す。成膜する金属酸化膜の組成に合わせて組成が調整された金属酸化物ターゲットをスパッタリング装置の電極に設置し、Agめっき膜12およびAg合金膜13を形成した基板11をスパッタリング装置のチャンバー内に載置する。次に、チャンバー内を1.3×10-3Pa以下の圧力まで真空排気した後、チャンバー内にArガスを導入して、チャンバー内の圧力を0.27Pa程度に調整し、金属酸化物ターゲットに直流電圧(出力100W)を印加することによりスパッタリングを行って、金属酸化膜を成膜する。なお、この方法による場合は、ピンホールが形成されないように、金属酸化膜の膜厚を2nm超とする。
【0056】
また、別の例として、ターゲットを非酸化物の金属(合金)材料として、Ag合金膜13上に金属膜(または合金膜)を成膜後、この金属膜を酸化して金属酸化膜とする方法を示す。スパッタリング装置にて成膜する工程は、電極に、成膜する金属酸化膜の組成の金属成分に合わせて組成が調整された金属(合金)ターゲットを設置する以外は、前記と同様である。金属膜を成膜後、チャンバーを開放して、またはチャンバーから取り出して大気中に曝すことで、金属膜が酸化して金属酸化膜となる。なお、Ag合金膜13上に金属酸化膜、金属膜のいずれを成膜する場合も、Ag合金成膜工程S5において、スパッタリング装置に、金属酸化膜の組成に合わせた金属酸化物ターゲットまたは金属ターゲットをAg合金ターゲットとは別の電極に設置しておくことが好ましい。このようにすることで、Ag合金膜13の成膜後、チャンバー内雰囲気をそのままに金属酸化膜形成工程S6に移行して、印加する電極(ターゲット)を切り替えるだけで、連続して金属酸化膜または金属膜を成膜できる。
【0057】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係るLED用リードフレームについて、図2および図3を参照して説明する。なお、第1実施形態に係るLED用リードフレームと同じ要素については、同じ符号を付し、説明を省略する。第2実施形態に係るLED用リードフレームは、LED素子を光源として実装される表面実装型の発光装置(図7参照)を構成するための部品である。
【0058】
図2(a)、(b)に示すように、第2実施形態に係るLED用リードフレーム10Bは、上方に開口した凹状の素子実装部22が形成されたLED素子実装体2と、このLED素子実装体2に支持された一対のリード部材1a,1bと、を備える。一対のリード部材1a,1bは、素子実装部22の底面22aに、互いに離間して配設されて、それぞれが当該素子実装部22からLED素子実装体2の外側に延出、すなわちLED素子実装体2の内側(素子実装部22)から外側へ突き抜けた構成となる。LED用リードフレーム10Bが発光装置に組み込まれたとき、LED素子実装体2は素子実装部22の内側に光源であるLED素子を収容するための器および台座であり、リード部材1a,1bはこのLED素子に電流を供給するための配線になる。本明細書では、リード部材1a,1bの、素子実装部22の底面22aに配置された領域をインナーリード部15a,15b、LED素子実装体2の外側に延出された領域をアウターリード部16a,16bと称する。インナーリード部15a,15bは、実装されるLED素子を電気的に接続するための領域であり、同時に、このLED素子の発光した光を反射させる反射板を構成する。そして、アウターリード部16a,16bは、外部の電源または配線に電気的に接続するための領域である。
以下、第2実施形態に係るLED用リードフレームを構成する要素について、詳細に説明する。
【0059】
(リード部材)
図2(a)に示すように、本実施形態においては、リード部材1a,1bは帯状で、その長手方向に沿って並設され、素子実装部22にて、長手方向中心に対して右寄りの位置で、間隔を空けて対向する。したがって、図2(a)、(b)において左側のインナーリード部15aが、右側のインナーリード部15bより長く、素子実装部22の底面22aの中央まで配置されている。これは、後記するように、LED用リードフレーム10Bが、ワイヤボンディングで実装されるLED素子を搭載する発光装置に組み込まれるためである。詳しくは、インナーリード部15a上の、底面22aの略中央(図2(a)に太破線の枠で示す領域)にLED素子が搭載され、さらにインナーリード部15a,15bのLED素子の両側(図における左右)における領域が、ワイヤボンディングのための領域となる。また、例えばフリップチップ実装のLED素子を搭載する発光装置に組み込まれるLED用リードフレーム(図示せず)の場合は、このLED素子が搭載される底面22aの領域の、当該LED素子の底面に設けられた一対の電極のそれぞれに対向する位置に、インナーリード部15a,15bが配置される。
【0060】
素子実装部22におけるリード部材1a,1b(インナーリード部15a,15b)に挟まれた領域(空間)を、素子実装部22の底面22aおよび側面22b,22bを含めて、離間領域28と称する。前記挟まれた領域(空間)とは、詳しくは、底面22aにおけるインナーリード部15a,15b間の領域の、上下方向および短辺方向(図2(a)における上下方向)の延長上を指す。また、この延長上の、さらにLED素子実装体2の外側表面までの領域を、離間領域28の延長上という。そして、素子実装部22における、リード部材1a,1b(インナーリード部15a,15b)の形状および配置、ならびに離間領域28の位置は、前記したように、LED用リードフレームを組み込む発光装置(以下、適宜、発光装置という)の形状および形態、ならびにLED素子の実装形態等に応じて設計される。
【0061】
また、LED素子実装体2の外側において、リード部材1a,1b(アウターリード部16a,16b)は、その長手方向にまっすぐに延出され、したがって、図2(b)に示すように、素子実装部22の対向する側面22c,22cをそれぞれ貫通する構成となる。ただし、前記したように、アウターリード部16a,16bは、発光装置に組み込んだときに外部の電源または配線に電気的に接続するための部位であり、この形状および配置に限られず、発光装置の形状および形態等に応じて設計される。例えば、アウターリード部16a,16bは、後記の変形例(図3(b)参照)のように平面視で屈曲したL字型に形成されたり、LED素子実装体2の外側の同じ側に突出したり、または折り曲げて、あるいはLED素子実装体2に埋設した領域で折り曲げてLED素子実装体2の下方や下面に配設されてもよい。なお、このようにリード部材1a,1bがLED素子実装体2を内側から外側へ(外側から内側へ)貫通する構造とするためには、例えば後記するように、リード部材1a,1bを所要の形状に加工したものを、樹脂と一体に射出成形して、LED素子実装体2の基体である樹脂成形体21を作製すればよい。また、リード部材1a,1bは、以下、適宜まとめてリード部材1と称する。
【0062】
リード部材1は、基板11と、基板11のLED素子が搭載される側の面である上面(以下、適宜表面という)に形成されたAgめっき膜12と、さらにその上に形成されたAg合金膜13と、を備える。すなわち、リード部材1は、図1(a)に示す第1実施形態に係るLED用リードフレーム10と同じ積層構造を有する。第1実施形態と同様に、Agめっき膜12およびAg合金膜13は、基板11の片面すなわち表面のみに形成されていてもよいし、基板11の下面(裏面)を含めた両面に形成されていてもよい。さらには、Agめっき膜12およびAg合金膜13は、発光装置としてLED素子を実装されたときに素子実装部22内に露出する領域のみに、すなわち、インナーリード部15a表面のLED素子搭載領域(図2(a)参照)を除く領域、およびインナーリード部15bの表面に形成されていればよい。したがって、リード部材1は、裏面、端面や、表面のアウターリード部16a,16b等の領域においては、Agめっき膜12およびAg合金膜13が積層されていてもよいし、基板11が露出していても、あるいはAgめっき膜12およびAg合金膜13の一方のみが形成されていてもよい(例えば、図1(b)参照)。本実施形態に係るLED用リードフレーム10Bでは、インナーリード部15a,15bにおいて、表面にAgめっき膜12およびAg合金膜13を積層した図1(a)に示す構造となる。また、第1実施形態に係るLED用リードフレーム10と同様に、Ag合金膜13上に金属酸化膜(図示せず)を備える構造としてもよい。
【0063】
基板11は、リード部材1a,1bの形状に成形され、材料および製造方法等は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、第2実施形態の変形例として、図3に示す形状の基板(リード部材)とすることもできる。
【0064】
第2実施形態の変形例に係るLED用リードフレーム10Cの基板11Aは、図3(a)に示すように、複数個が連続して、マトリクス状の打ち抜きパターンを形成されたロール状または短冊状の板を構成している。図3(b)は1個のパターンを拡大した図で、図中の破線で示す位置に、第2実施形態と同様にLED素子実装体2を貫通させて、図3(c)に示すLED用リードフレーム10Cに形成される。すなわち、基板11Aは、1個のパターンが1個のLED用リードフレーム10Cの一対のリード部材1a,1bを構成する。また、本変形例において、リード部材1a,1bは、アウターリード部16a,16bが平面視で屈曲したL字型に形成されている。基板11Aは、図3(a)では、板幅方向(図における左右方向)に4個、板の送り方向に3個の合計12個分のリード部材1a,1bを構成し、さらに両縁(図における左右)に送り穴を形成されている。このように連続したリード部材1a,1bの基板11Aは、リール・トゥ・リールまたは短冊状の板の1枚単位の搬送で、LED用リードフレーム10Cに製造される部材である。
【0065】
第2実施形態およびその変形例において、Agめっき膜12、Ag合金膜13のそれぞれの構成、すなわちAgめっき膜12の材料および膜厚、ならびにAg合金膜13の材料、膜厚および表面の二乗平均粗さRrms、さらにAgめっき膜12とAg合金膜13の膜厚の合計は、いずれも第1実施形態におけるAgめっき膜12、Ag合金膜13と同様であり、第1実施形態のAgめっき工程S2、Ag合金膜スパッタリング工程S5と同様の方法でそれぞれ形成できる。さらに、Ag合金膜13上に金属酸化膜を備える場合は、当該金属酸化膜の材料および膜厚は第1実施形態における金属酸化膜と同様であり、第1実施形態の金属酸化膜形成工程S6と同様の方法で形成できる。
【0066】
(LED素子実装体)
LED素子実装体2は、図2(a)、(b)に示すように、凹状の素子実装部22が形成されたカップ状の樹脂成形体(基体)21と、素子実装部22の表面に形成されたAg合金膜23とを備える。素子実装部22は上方に広がって開口し、底面22aとこれを囲む4面の側面22b,22c,22b,22cとから構成される平面視で長方形の四角錐台である。素子実装部22の形状はこれに限定されず、例えば平面視で正方形であったり、上方に広がって開口した円錐台でもよい。LED素子実装体2は、LED用リードフレーム10B,10Cを組み込む発光装置の形状および形態、ならびにLED素子の実装形態、製品としてユーザに提供する形態等に応じて所要の形状に成形される。
【0067】
樹脂成形体21はLED素子実装体2の基体であり、絶縁材料である樹脂をLED素子実装体2の形状に成形してなる。したがって、樹脂成形体21は、その外側から内側(素子実装部22)へリード部材1a,1bがそれぞれ貫通するように、射出成形(インサート成形)等によって、リード部材1a,1bと一体的に成形されることが好ましい。樹脂は、耐熱性が200℃以上のものであればよく、ポリアミド(PA)樹脂等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等のスーパーエンジニアリングプラスチック等を用いることができる。
【0068】
LED素子実装体2の内面すなわち素子実装部22の表面(面22a,22b,22c)における離間領域28を除く領域には、Ag合金膜23を備える。Ag合金膜23を構成するAg合金は、リード部材1における前記のAg合金膜13を構成するAg合金の組成成分の範囲であれば、Ag合金膜13と同一の組成であっても異なる組成であってもよい。また、リード部材1がAg合金膜13上に金属酸化膜を備える構造である場合は、Ag合金膜23上にも金属酸化膜を備えることが好ましい。この金属酸化膜についても、第1実施形態における金属酸化膜として規定された金属の種類および膜厚の範囲であれば、Ag合金膜13上の金属酸化膜と組成や膜厚が同一であっても異なってもよい。なお、底面22aにおけるリード部材1a,1bの配置される領域(インナーリード部15a,15bの下)にはAg合金膜23が形成されなくてよい。
【0069】
このことから、リード部材1a,1bと一体的に射出成形された樹脂成形体21に対して、Ag合金膜23を成膜することができる。したがって、後記するように、樹脂成形体21を、Ag合金膜13を形成する前のリード部材1a,1b(Agめっき膜12を形成した基材11)と一体的に射出成形し、インナーリード部15a,15b(Agめっき膜12)および素子実装部22(樹脂成形体21)の表面に、Ag合金膜13,23を一体に成膜することができる。さらに、素子実装部22を上方に広がって開口した形状とすることで、インナーリード部15a,15bにAg合金膜13を物理蒸着で成膜すれば、同時に素子実装部22の底面22aだけでなく、傾斜した側面22b,22cにもAg合金膜23が成膜される。なお、図2(b)、図3(c)、および後記変形例の図5(b)において、素子実装部22の表面に、インナーリード部15a(15b)表面を含めて一体にAg合金膜を示しているが、樹脂成形体21上に形成されたものはAg合金膜23、Agめっき膜12上すなわちリード部材1表面に形成されたものはAg合金膜13とする。
【0070】
ここで、素子実装部22の表面(底面22aおよび側面22b,22c)の全領域にAg合金膜が形成されていると、このAg合金膜を介してリード部材1a,1b間(インナーリード部15a,15b間)が短絡する。したがって、底面22aおよび側面22b,22bの離間領域28における領域には、Ag合金膜23は形成されない。また、Ag合金膜23は、素子実装部22の表面以外、すなわち図3(c)に示すようにLED素子実装体2の上面(側壁の上端面)や外側の側面等にも形成されてもよいが、離間領域28の延長上で、インナーリード部15a,15bから連続して形成されないようにする。すなわち、Ag合金膜23は、インナーリード部15aの配置される領域に連続する領域と、インナーリード部15bの配置される領域に連続する領域とで、離間領域28を隔てて完全に分離される。このようなAg合金膜23の形成方法は、後記のLED用リードフレームの製造方法で詳細に説明する。
【0071】
Ag合金膜23は、膜厚が70nm以上500nm以下とする。リード部材1においてAgめっき膜12上に形成されるAg合金膜13と異なり、Ag合金膜23はそれ自体が反射膜となるため、膜厚が70nm未満では、光がAg合金膜を透過して下地である樹脂成形体21に吸収されるため反射率が低下する。好ましくは100nm以上、より好ましくは120nm以上である。一方、リード部材1におけるAgめっき膜12上におけるAg合金膜13と同様に、Ag合金膜23の膜厚が500nmを超えても、反射膜としての効果は飽和し、生産性が低下する。
【0072】
また、Ag合金膜23も、リード部材1におけるAg合金膜13と同様に、正反射率を高くするため、表面の二乗平均粗さRrmsを30nm以下とすることが好ましい。より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。このような平滑な表面のAg合金膜23は、その下地である樹脂成形体21の素子実装部22における表面を同程度のRrmsとすればよい。例えば、樹脂成形体21の成形に用いる金型を、同程度のRrmsの表面に作製すれば、金型の表面粗さが樹脂成形体21の表面に転写されるため、このような平滑な表面に形成することができる。
【0073】
(製造方法)
第2実施形態およびその変形例に係るLED用リードフレーム10B,10Cは、前記の構成を形成できる方法であれば特に制限されず、いずれの方法により製造してもよい。例えば、LED用リードフレーム10B,10Cは、第1実施形態における基板作製工程S1、Agめっき工程S2、Ag合金膜スパッタリング工程S5に、さらに樹脂成形工程S3およびマスク工程S4を含む方法によって製造することができる。以下に、第2実施形態に係るLED用リードフレームの製造方法の一例を説明する。
【0074】
基板作製工程S1およびAgめっき工程S2は、前記第1実施形態における工程S1,S2と同様であるので、説明を省略する。
【0075】
樹脂成形工程S3は、射出成形(インサート成形)等によって、樹脂成形体21をリード部材1a,1bと一体的に成形する。詳しくは、樹脂成形体21の外側から内側(素子実装部22)へ、Agめっき膜12を形成された基板11(または基板11A)が貫通するように、樹脂を前記基板11と一体的に成形する。なお、樹脂成形体21の底面22aとなる面は、リード部材1a,1bのAgめっき膜12表面と面一であることが好ましいが、例えば基板11の下面と面一に成形されてもよい。
【0076】
次に、インナーリード部15a,15bにおけるAgめっき膜12表面にAg合金膜13を、樹脂成形体21の素子実装部22における表面にAg合金膜23を、それぞれ形成する(Ag合金膜スパッタリング工程S5)。しかしながら、素子実装部22の開口部から底面22aに向けて、そのまま、すなわち素子実装部22表面の全領域にAg合金膜を成膜すると、前記したように、素子実装部22表面のAg合金膜を介してインナーリード部15a,15b間(リード部材1a,1b間)が短絡することになる。そこで、インナーリード部15a,15b間の短絡を防止するため、Ag合金膜スパッタリング工程S5の前にマスク工程S4を行う。
【0077】
以下、マスク工程S4について、図4を参照して説明する。マスク工程S4では、図4(b)に示すように、素子実装部22内に、その開口部から、底面22aのインナーリード部15a,15b間に向けて、インナーリード部15a,15b間距離と同じ厚さの板状のマスク33を嵌装する。マスク33は、図4(c)に示すように、素子実装部22内側のE−E線矢視断面形状と同じ逆台形の上にLED素子実装体2(樹脂成形体21)の側方へ張り出す耳部を有する形状である。マスク33の構成は特に制限されず、例えば、銅、アルミニウム、チタン、SUS等の金属材料をエッチングやプレス加工等で作製されたものを用いることができる。このマスク33を素子実装部22内に嵌装した状態で、Ag合金膜スパッタリング工程S5を行う。なお、このとき、LED素子実装体2における素子実装部22の外部を覆うマスク(図示せず)も設けて、LED素子実装体2の外側表面のAg合金膜でインナーリード部15a,15b間が短絡しないようにする。
【0078】
Ag合金膜スパッタリング工程S5は、前記第1実施形態における工程と同様であり、所定の組成および膜厚のAg合金膜13,23を、インナーリード部15a,15bも含めて素子実装部22内に、一体に成膜する。ここで、基板11を貫通させた樹脂成形体21は、スパッタリング装置において、素子実装部22の底面22aおよびインナーリード部15a,15bをAg合金ターゲットに対向する向きに載置される。したがって、傾斜角度にもよるが、これらの面より、素子実装部22の側面22b,22cにおける成膜速度の方が遅い傾向がある。一方、インナーリード部15a,15b表面のAg合金膜13より樹脂成形体21表面のAg合金膜23の方が必要な膜厚が厚いため、樹脂成形体21の側面22b,22cとなる表面におけるAg合金膜の膜厚に合わせて成膜すればよい。
【0079】
Ag合金膜13,23を成膜した後、素子実装部22からマスク33を外すと、図2(a)、(b)に示すように、素子実装部22の表面において、底面22aおよび側面22b,22bにわたって、Ag合金膜23が形成されず樹脂成形体21が露出した領域が、離間領域28に沿って帯状に存在するLED素子実装体2となる。このように離間領域28にAg合金膜が形成されないようにすることによって、Ag合金膜23を介してインナーリード部15a,15b間で短絡することを防止して、リード部材1a,1b間の絶縁性を確保することができる。なお、インナーリード部15a,15b間(離間領域28)には、樹脂成形体21を構成する樹脂、あるいは発光装置に組み込んだときに封止樹脂が充填されるので、リード部材1a,1b間の絶縁性は保持される。なお、本実施形態は、マスク33の他に、LED素子実装体2における素子実装部22の外部全体を覆うマスク(図示せず)を用いて、LED素子実装体2における素子実装部22以外の表面、およびアウターリード部16a,16bには、Ag合金膜23,13が形成されないようにしたものである。さらに、アウターリード部16a,16bは、Agめっき工程S2においてマスキングを施して、銅または銅合金からなる基板11が剥き出しになる構成とすることもできる。
【0080】
また、図3(c)に示す変形例のLED用リードフレーム10Cのように、LED素子実装体2の上面および外側の側面、アウターリード部16a,16b(図3(b)参照)、およびLED用リードフレーム10C,10C間の基板11A上にもAg合金膜23,13が形成されてもよい。ただし、前記したように、LED素子実装体2の全表面において、離間領域28とその延長上にはAg合金膜23が連続して形成されないようにする。LED素子実装体2の側壁の上端面においては、図4(a)、(c)に示すようにマスク33の上部にLED素子実装体2の上面の離間領域28の延長上を覆う耳部を有しているので、この領域にはAg合金膜23が形成されない。さらに、LED素子実装体2の外側の長手(長辺)方向の側面(図3(c)不図示)における、少なくとも離間領域28の延長上を別のマスクで覆うことにより、インナーリード部15a,15b間の短絡を防止できる。また、本変形例のLED用リードフレーム10Cにおいては、Agめっき工程S2にて基板11Aの全面(両面および端面)にAgめっき膜12を形成し、Ag合金膜スパッタリング工程S5にて表面(上面)のみにAg合金膜13を形成したことで、インナーリード部15a,15b(リード部材1A)は、図1(b)に示す積層構造となる。
【0081】
第2実施形態においては、マスク33の板厚をインナーリード部15a,15b間距離(離間領域28の幅)と同じとし、図2(a)、(b)に示すように、Ag合金膜23の形成されない領域を離間領域28に一致させて、Ag合金膜23の境界がインナーリード部15a,15b(リード部材1a,1b)の端面に沿うように構成している。しかし、離間領域28において、インナーリード部15a,15b間の短絡を防止できれば、Ag合金膜23の形成されない領域はこれに限られず、離間領域28より広くても狭くてもよい。
【0082】
以上のように、前記の工程S1,S2,S3,S4,S5をこの順に行うことにより、第2実施形態およびその変形例に係るLED用リードフレーム10B,10Cを製造することができる。なお、Ag合金膜13,23上に金属酸化膜を形成する場合は、Ag合金成膜工程S5の次に、金属酸化膜形成工程S6を前記第1実施形態における工程と同様に行い、金属酸化膜を形成した後、素子実装部22からマスク33を外す。しかし、本実施形態に係るLED用リードフレームにおいては、リード部材1a,1bのAgめっき膜12およびAg合金膜13が形成される部位に応じて、これらの工程を行う順序を変更して製造することができる。例えば、基板11を作製し(工程S1)、Agめっき膜12の形成前に、この基板11と一体的に樹脂成形体21を成形する(工程S3)。次に、樹脂成形体21を貫通した基板11に、電気めっきによりAgめっき膜12を形成する(工程S2)。電気めっきによれば、絶縁材料からなる樹脂成形体21の表面にはAgめっき膜は形成されない。そして、前記と同様に、樹脂成形体21の素子実装部22にマスク33を嵌装して(工程S4)から、基板11および樹脂成形体21の表面にAg合金膜13,23を形成する(工程S5)。このような工程S2,S3の順序を入れ替えて製造されたLED用リードフレームにおいては、リード部材1a,1bのLED素子実装体2の側面に埋設された領域(15a−16a間、15b−16b間)は基板11のみで構成され、インナーリード部15a,15bの下面(裏面)にもAgめっき膜12は形成されない。
【0083】
ここで、第2実施形態の別の変形例に係るLED用リードフレームについて、図5を参照して説明する。本変形例において、第2実施形態に係るLED用リードフレームと同じ要素については、同じ符号を付し、説明を省略する。本変形例のLED用リードフレーム10Dは、図5(a)に示すように、LED素子実装体2Aが、素子実装部22の側面22b,22bを離間領域28に沿って切り欠いた形状で、底面22aは離間領域28において素子実装部22の外側へ延出する平面22eを構成する。このような形状のLED素子実装体2Aとするために、樹脂成形工程S3の後、樹脂成形体21に、開口部側から底面22aまで離間領域28に沿って切込みを入れ、あるいは切込みを有する樹脂成形体21を成形する。
【0084】
本変形例は、LED素子実装体2A(樹脂成形体21)に離間領域28に沿って切込みが形成されているため、マスク工程S4において、図5(b)に二点鎖線で示すように、LED素子実装体2AのF−F線矢視断面形状より大きく、切込みの幅と同じまたはそれより薄い板厚のマスク34を切込みに挟んで嵌装することができる。マスク34の材料は前記マスク33と同様である。また、LED素子実装体2Aの外側表面においては、少なくとも長辺方向の側面の素子実装部22の底面22a(平面22e)から下の、離間領域28(平面22e)の延長上を覆う別のマスクを設ける。このようなマスク34を嵌装してAg合金膜13,23を成膜する(工程S5)と、図5(a)、(b)に示すように、素子実装部22の離間領域28における底面22aすなわち平面22eにはAg合金膜23が形成されず樹脂成形体21が露出した状態となり、Ag合金膜23をインナーリード部15a側とインナーリード部15b側とに分離して形成することができる。
【0085】
〔発光装置〕
次に、本発明の第1、第2実施形態および各変形例に係るLED用リードフレームを組み込んだ発光装置について説明する。
第2実施形態およびその変形例に係るLED用リードフレーム10B,10C,10Dを組み込んで発光装置に製造する方法の一例は、次の通りである。まず、リード部材1aの素子実装部22の略中央におけるインナーリード部15aの表面(図2(a)に示すLED素子搭載領域)にシリコーンダイボンド材等からなる接着剤を塗布して、その上にLED素子を接着して搭載する。次に、ワイヤボンディングにより、金ワイヤでLED素子の電極をインナーリード部15a,15bに接続する。そして、素子実装部22内にエポキシ樹脂等の封止樹脂を充填することにより封止して、LED素子を光源として搭載した表面実装型の発光装置(図7参照)となる。なお、LED用リードフレーム10Cにおいては、基板11Aで複数個を連結された状態で発光装置に製造されてから図3(b)、(c)に示す太破線で切り離されて使用される。
【0086】
第1実施形態およびその変形例に係るLED用リードフレーム10,10Aも、前記の第2実施形態に係るLED用リードフレーム10B等と同様に、表面実装型の発光装置に組み込むことができる。例えば、図3(a)に示す第2実施形態の変形例における基板11Aを適用してLED用リードフレーム10を製造した場合、LED用リードフレーム10表面の図3(b)の破線で示すLED素子実装体2の位置に、枠状の樹脂を取り付ける。あるいは、第2実施形態に係るLED用リードフレームの製造方法における樹脂成形工程S3のように、樹脂をLED用リードフレーム10と一体的に射出成形してもよい。そして、この枠状の樹脂の内側におけるLED用リードフレーム10の一方の端部(図3(b)のインナーリード部15a)にLED素子を搭載する。LED素子を搭載したら、前記の第2実施形態と同様に、ワイヤボンディングを行い、枠状の樹脂の内側に封止樹脂を充填して、LED素子を光源とする発光装置となる。このような発光装置とすることで、LED用リードフレーム10,10Aは、LED素子の背面(下方)の反射面を構成する。なお、LED素子を囲む枠状の樹脂は、第2実施形態に係るLED用リードフレーム10B等のLED素子実装体2のように、その内側の表面にAg合金膜を形成されることが好ましい。このような発光装置とすることで、第2実施形態に係るLED用リードフレーム10B等を組み込んだ発光装置と同様の後記の効果が得られる。
【0087】
第1実施形態に係るLED用リードフレーム10,10Aを組み込んだ発光装置は、枠状の樹脂を備えず、LED用リードフレーム10,10Aを下方のみならず側方の反射面に構成することもできる。例えば、基板11を、異形条材(圧延幅方向に板厚の異なる圧延板)の板厚の厚い部位をプレス鍛造でカップ形状に成型して、このカップ形状の外側に板厚の薄い部位が帯状に延出された形状に作製する。そして、この基板11のカップ形状の内側表面にAgめっき膜12およびAg合金膜13を形成してLED用リードフレームとする(図示せず)。このように構成することで、第2実施形態におけるリード部材1aに相当する部材とLED素子実装体2に相当する部材とが一体に構成されたLED用リードフレームとなる。詳しくは、カップ形状の内面がリード部材1aのインナーリード部15aと素子実装部22とを兼ね、帯状の部位がアウターリード部16aとなる。これに、別部材で作製したリード部材1b(基板11のみで構成されてもよい)を合わせて一組のLED用リードフレームとする。このようなLED用リードフレームでは、LED素子はカップ形状の内底面に搭載されて実装され、カップ形状の内部に封止樹脂を充填して封止されて、例えば砲弾型の発光装置に製造される。
【0088】
このようなLED用リードフレーム10,10A〜10Dを用いて得られる発光装置において、Ag合金膜13およびそれに被覆されたAgめっき膜12、ならびにAg合金膜23は、耐久性に優れ、熱や硫黄、ハロゲンイオン等によるAgの凝集を引き起こさず、LED素子から発光した光を安定して反射して発光装置から光として取り出すことができる。さらに、Ag合金膜13,23は、Agのナノ粒子の析出を引き起こさず、エポキシ樹脂等の封止樹脂を変色させることがないため、LED素子が発光した光を高効率で利用することを可能とする。また、LED素子が発光する光の多くを正反射させて拡散反射を抑えられるため、LED素子を搭載した発光装置の明るさを向上させることができる(図6(a)参照)。
【0089】
以下、本発明の実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0090】
〔試料作製〕
下記のようにして、図1(b)に示す積層構造の第1実施形態の変形例に係るLED用リードフレーム10Aの試料を、Agめっき膜の膜厚、ならびにAg合金膜の組成および膜厚を変化させて作製した。
【0091】
(基板の作製)
厚さ0.1mmのCu−Fe−P系銅合金板(KLF194H、(株)神戸製鋼所製)を、プレス加工して、図3(a)に示す形状の基板(基板11A)を作製した。なお、この基板11Aのインナーリード部15a,15b(図3(b)参照)間の距離は0.09mmである。この基板の表面の二乗平均粗さRrmsを後記の方法で測定したところ、62nmであった。
【0092】
(Agめっき膜の形成)
前記基板を、めっき前処理として、脱脂液に浸漬して、対極をステンレス304として、基板側がマイナスとなるようにして直流電圧を印加して30秒間電解脱脂を行った後、10%硫酸水溶液に10秒浸漬した。次に、基板の表面(全面)に、下記成分、液温50℃のシアン浴で、対極をAg(純度99.99%)板とし、電流密度:5A/dm2で、光沢Agめっきを施して、表1に示す膜厚のAgめっき膜を有する基板を製造した。
Agめっき浴成分
シアン化銀カリウム(I):50g/L
シアン化カリウム :40g/L
炭酸カリウム :35g/L
添加剤A :3ml/L
【0093】
なお、Agめっき膜の膜厚は、めっき速度に基づいてめっき時間を調整することで制御した。すなわち、ダミー基板に前記と同じ条件で一定時間めっきを施して、ダミー基板のめっき前との重量差を測定することによりAgの付着量を求め、この付着量をめっき面積、Agの理論密度、およびめっき時間で割ることにより単位時間に析出するAgめっき膜厚(めっき速度)を算出し、めっき速度から所望の膜厚を形成するめっき時間を算出した。
【0094】
(Ag合金膜の成膜)
Agめっきを施した基板に、下記の方法でAg合金膜を形成した。
Agめっき膜を形成した基板を、表1に示す組成のAg合金ターゲット(直径10.16cm(4インチφ)×厚さ5mm)を設けたスパッタリング装置のチャンバー内に配置した。次に、真空ポンプで、チャンバー内圧力が1.3×10-3Pa以下となるように真空排気した。その後、イオンガン(3cm DC Ion Source、イオンテック社製)を通してArガスをチャンバー内に導入してチャンバー内圧力を2×10-2Paに調整し、イオンガンに放電電圧60V、加速電圧500V、ビーム電圧500Vを印加して、Arイオンビームを発生させ、基板のAgめっき膜の表面に300秒間照射した。
【0095】
次に、チャンバー内にArガスを導入しながら真空排気を続けることにより、チャンバー内圧力を0.27Paに調整した。この状態で、前記Ag合金ターゲットに直流電圧(出力200W)を印加してスパッタリングを行い、基板の上面側のAgめっき膜の上に、表1に示す膜厚のAg合金膜を成膜して、LED用リードフレーム10Aの試料(試料No.2〜16)を作製した。また、比較例として、Ag合金膜を設けない試料(試料No.1)を作製した。なお、Agめっき膜とAg合金膜の膜厚の合計も表1に併記する。
【0096】
なお、Ag合金膜の膜厚は、成膜速度に基づいて成膜時間を調整することで制御した。すなわち、ダミー基板に前記と同じ条件で一定時間成膜して、ダミー基板の成膜前との重量差を測定することによりAg合金の付着量を求め、この付着量を成膜面積、Agの理論密度、および成膜時間で割ることにより単位時間に成膜するAg合金膜厚(成膜速度)を算出し、成膜速度から所望の膜厚を形成する成膜時間を算出した。
【0097】
(Ag合金膜の組成分析)
また、Ag合金膜の組成を分析するために、ソーダライムガラス基板上に前記と同様にしてAg合金膜を成膜した。このAg合金膜を硝酸で溶解後、溶解した硝酸の液を、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置(ICPS−8000、島津製作所製)を用いて分析することにより、ソーダライムガラス基板に形成したAg合金膜の組成を求めた。得られたAg合金膜の組成を表1に示す。
【0098】
〔測定、評価〕
得られたLED用リードフレームの試料について、下記の方法で、表面(Ag合金膜を形成した側の面、以下同じ)の二乗平均粗さRrmsおよび正反射率を測定し、耐熱性、耐硫化性、および耐湿性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(二乗平均粗さの測定)
原子間力顕微鏡(AFM)(SPI−4000、SII社製)を用いて、任意の3箇所の10μm角の領域について表面(Ag合金膜の表面、試料No.1は片面)の二乗平均粗さRrmsを測定し、得られた3つの値の平均を算出した。
【0100】
(正反射率の測定)
自動絶対反射率測定システム(日本分光株式会社製)を用いて、入射角5°、反射角5°の条件で、波長250〜850nmまでの分光反射率を測定することにより、正反射率を求めた。
【0101】
(耐熱性評価)
耐熱試験として、試料を、恒温槽内で150℃で6時間加熱し、引き続き260℃で5分間加熱した。試験後、前記と同様の方法で表面の正反射率を測定し、耐熱試験による正反射率の低下が5ポイント未満のものを合格とした。
【0102】
(耐硫化性評価)
硫化アンモニウムを水に溶解して、5wt%の硫化アンモニウム水溶液を調整した。この硫化アンモニウム水溶液の液面から3cmの高さ位置に表面が液面に対向するように試料を水平に載置し、耐硫化試験として、硫化アンモニウム水溶液から蒸発する硫化水素に10分間暴露した。試験後、前記と同様に正反射率を測定し、耐硫化試験による正反射率の低下が20ポイント以下のものを合格とした。
【0103】
(耐湿性評価)
試料から4cm×5cmの試験片(基板面積約18cm2)を切り出し、耐湿試験として、恒温恒湿試験機内で、50℃、95RH%の雰囲気に500時間暴露した。試験後、試験片の表面を目視観察して白点の数を計測した。白点の数が5個以下のものを合格とした。
【0104】
ここで、耐湿試験で発生する白点は、大気中に浮遊している飛来塩分や塵芥に付着している塩素が、試験片表面に付着して湿潤雰囲気中で試験片表面に生じた水膜に溶解して、試験片のAgと反応することによって形成された、Ag凝集によるものである。したがって、この耐湿試験は、ハロゲンイオンによるAg凝集の試験(耐ハロゲン化試験)に代わるものである。
【0105】
【表1】

【0106】
(Ag合金膜被覆による評価)
表1に示すように、Agめっき膜のみを備えた比較例の試料No.1は、初期の正反射率は良好であるが、耐熱性、耐硫化性、および耐湿性(耐ハロゲン化性)のいずれの耐久性も劣るものであった。これに対して、試料No.1と同じ膜厚3μmのAgめっき膜の上に本発明の範囲のAg合金膜を備えた実施例に該当する試料No.7〜10は、前記耐久性のいずれも良好であった。
【0107】
(Ag合金膜の組成による評価)
一方、試料No.5,12は、Ag合金膜のGeの含有率が不足したため、耐硫化性が十分に得られず、特にGeが無添加である試料No.5は、耐硫化試験で表面が黒褐色に変色して反射率の劣化が大きかった。試料No.13はAg合金膜のBiの含有率が不足したため、耐湿性が十分に得られなかった。反対に、試料No.11はAg合金膜のGeの含有率が、試料No.14はAg合金膜のBiの含有率が、それぞれ過剰なため、耐久性は良好であるものの、表面(Ag合金膜)外観が黄色味を帯びて反射率が低下し、二乗平均粗さRrmsが同程度の他の試料と比較して正反射率も低かった。
【0108】
(Agめっき膜、Ag合金膜の膜厚による評価)
試料No.4は、本発明の範囲の組成のAg合金膜であるが、膜厚が不足してAgめっき膜を完全には被覆できず、その効果が十分に得られなかった。一方、試料No.2は、Ag合金膜の膜厚は本発明の範囲であるが、Agめっき膜の膜厚が薄く、Ag合金膜との合計の厚さが不足しているため、耐熱試験により基板のCuが表面に拡散して酸化し、表面が変色して反射率が劣化した。また、Agめっき膜の膜厚が薄いため、基板表面のRrmsに対して試料表面のRrmsが十分に小さくならなかったことにより、初期の正反射率が高くならなかった。これに対して、試料No.3,6〜10,15,16は、Ag合金膜の膜厚、さらにAgめっき膜との合計の厚さが本発明の範囲の実施例であるため、良好な耐久性が得られ、特に試料No.6〜10,15,16は、Agめっき膜の膜厚が十分に厚く好ましい範囲であるため、表面のRrmsが十分に小さく、高い正反射率が得られた。
【実施例2】
【0109】
下記のようにして、LED素子実装体を備える図5に示す構造の第2実施形態の変形例に係るLED用リードフレーム10Dの試料を製造し、LED素子実装体におけるAg合金膜の効果を比較した。なお、リード部材1a,1bの構成(基板形状および断面構造)は、図3(b)、(c)に示す第2実施形態の変形例に係るLED用リードフレーム10Cと同様とした。
【0110】
〔試料作製〕
(基板の作製およびAgめっき膜の形成)
実施例1に適用したものと同様の基板(図3(a)参照)を作製し、その表面に、実施例1と同様の方法で膜厚3μmのAgめっき膜を形成した。
【0111】
(樹脂成形体の形成)
耐熱性ポリアミド樹脂(ジェネスタTA112、クラレ製)を射出成形(インサート成形)して、図5(a)、(b)に示すように、凹状の素子実装部22に切込みを有するLED素子実装体2Aの樹脂成形体21を、Agめっき膜12を形成された基板11Aの一対のリード部材1a,1bのそれぞれが貫通するように作製した。なお、樹脂成形体21は、素子実装部22の底面22a(平面22e)がインナーリード部15a,15bのAgめっき膜12の表面とほぼ面一となるように成形して、インナーリード部15a,15b間に、前記樹脂が存在する(充填された)ようにした。
【0112】
(Ag合金膜の成膜)
図5(b)に示すように、厚さ0.1mmの銅板からなるマスク34を、樹脂成形体21の素子実装部22の切込みに、下端が平面22e(インナーリード部15a,15b間に充填された樹脂の表面)に接するように嵌装した。また、樹脂成形体21の外側の長辺方向の側面にもマスクを設けた。このマスク34を嵌装した試料をスパッタリング装置のチャンバー内に設置し、表2に示す組成のターゲットを用いて、Ag合金膜またはAg膜を、インナーリード部15a,15bのAgめっき膜12の上の膜厚が300nmになるように成膜した。これによって、図5(a)、(b)に示す構造(断面は図3(c)に示す構造)を有するLED用リードフレーム10Dの試料(試料No.17,18)を得た。試料No.17のAg合金膜の組成を実施例1と同様に分析して、表2に示す。
【0113】
得られた試料No.17のLED用リードフレーム10Dの1個分を切り出して(図3(b)、(c)の太破線参照)、インナーリード部15aとインナーリード部15bとの間の電気導通性をテスターで検査した結果、導通はなく、絶縁されていることを確認できた。
【0114】
〔測定、評価〕
(素子実装部の表面のAg合金膜の膜厚と二乗平均粗さの測定)
試料の樹脂部分(LED素子実装体2)を、内側の表面(素子実装部22の側面22b)と直交する面で切断して、切断面をFE−SEM(日立製作所製SU−70)にて加速電圧2kVで5万倍の倍率で観察することにより、素子実装部の表面のAg合金膜(Ag膜)の膜厚を測定した。また、同Ag合金膜(Ag膜)について、実施例1と同様の方法で表面の二乗平均粗さRrmsを測定した。これらの結果を表2に示す。
【0115】
(耐硫化性評価)
得られた試料について、実施例1と同様に耐硫化試験を行った。なお、素子実装部22の底面22aおよびインナーリード部15a,15bを硫化アンモニウム水溶液の液面に対向させて載置した。試験後にLED素子実装体の内側(素子実装部22)の表面を目視で観察し、変色の見られないものを耐硫化性が良好であるとして「○」、変色したものを耐硫化性が不良であるとして「×」で評価し、表2に示す。
【0116】
(耐湿性評価)
得られた試料について、実施例1と同様に耐湿試験を行った。試験後にLED素子実装体を切断して、内側(素子実装部22)の表面が外部から観察できるようにし、素子実装部22のAg合金膜(Ag膜)の表面を、光学顕微鏡で50倍に拡大して観察した。白点のないものを耐湿性が良好であるとして「○」、白点が発生したものを耐湿性が不良であるとして「×」で評価し、表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
本発明の第2実施形態に係るLED用リードフレームにおいて、LED素子実装体を構成する樹脂(樹脂成形体)の表面に形成されるAg合金膜は、リード部材(インナーリード部)のAgめっき膜上のAg合金膜と一体に成膜することができた。そして、本発明の範囲の組成のAg合金膜(試料No.17)は、耐硫化試験および耐湿試験において表面外観に変化が認められず、LED用リードフレームのLED素子実装体を構成する樹脂の表面に形成されても耐久性が高いことがわかった。これに対してAg膜(試料No.18)は、耐硫化試験で表面が黒褐色に変色し、耐湿試験でAgが凝集して表面に多数の白点が認められた。
【実施例3】
【0119】
実施例1と同様に、基板上にAgめっき膜およびAg合金膜を成膜して、その上にさらに金属酸化膜を成分および膜厚を変化させて形成してLED用リードフレームの試料を作製し、金属酸化膜による効果を実施例1と比較した。
【0120】
〔試料作製〕
実施例1に適用したものと同様の基板(図3(a)参照)を作製し、実施例1と同様に、基板の表面に膜厚3μmのAgめっき膜を形成した後、スパッタリング装置で、表3に示す組成のAg合金からなるターゲットを用いて、Agめっき膜の上の膜厚が300nmとなるようにAg合金膜を成膜した。次に、表3に示す金属酸化膜用の金属ターゲット(前記Ag合金ターゲットと同形状)をスパッタリング装置の電極に設置し、再び、真空ポンプでチャンバー内圧力が1.3×10-3Pa以下となるように真空排気した後、Arガスをチャンバー内に導入してチャンバー内圧力を0.27Paに調整した。この状態で、前記金属ターゲットに直流電圧(出力100W)を印加してスパッタリングを行い、Ag合金膜の上に膜厚を変化させて金属膜を成膜し、チャンバーから取り出して大気中で金属膜を酸化させて金属酸化膜として、LED用リードフレーム10Aの試料(試料No.19〜24)を作製した。また、Ag合金膜については、それぞれの組成のターゲットを用いてソーダライムガラス基板上に成膜して、実施例1と同様の方法で組成を求めた。得られた組成を表3に示す。
【0121】
〔測定、評価〕
得られたLED用リードフレームの試料について、下記の通り、X線光電子分光分析(XPS)を行って、Ag合金膜上の金属酸化膜の膜厚を測定した。また実施例1と同様に、表面の正反射率を測定し、耐熱性、耐硫化性、および耐湿性を評価した。さらに試料No.19,20,21について、下記の通り、ワイヤボンディング試験を行った。結果を表3に示す(評価を行わなかった試料は、その欄に「−」で示す)。
【0122】
(金属酸化膜の膜厚の測定)
試料の表面(Ag合金膜および金属酸化膜を形成した側)について、全自動走行型X線光電子分光分析装置(Physical Electronics社製Quantera SXM)を用いて、表3に示す金属酸化膜に含まれる金属元素および酸素元素O、ならびにAgの各濃度を、表面から深さ方向へ測定した。測定条件は、X線源:単色化Al−Kα、X線出力:43.7W、X線ビーム径:200μm、光電子取出し角:45°、Ar+スパッタ速度:SiO2換算で約0.6nm/分とした。金属酸化膜に含まれる金属元素の濃度が、最高濃度の1/2まで減少した深さを金属酸化膜の膜厚とした。
【0123】
(ワイヤボンディング試験)
試料の表面(上面)を、インナーリード部15a,15b(図3(b)参照)間にて、金線(線径:φ25μm)でワイヤボンディングした後、光学顕微鏡で観察しながら金線の中央をピンセットで掴んで引っ張ることにより試験を行った。その結果、試料のボンディング箇所に剥離がなく、金線を切ることができた場合をワイヤボンディング性が良好であるとして「○」、少なくとも一方のボンディング箇所(金線とLED用リードフレームとの界面)から金線が剥がれた場合を不良であるとして「×」で評価した。
【0124】
【表3】

【0125】
表3に示すように、試料No.19〜24は、本発明の範囲の金属酸化膜をAg合金膜上に備えることで、同程度のGeを含有するAg合金膜上に金属酸化膜を設けない実施例1の試料No.6,9,10,15,16(表1参照)と比較して耐硫化性が向上し、また耐熱性および耐湿性も良好で、特に優れた耐久性を示した。また、Ag合金膜上に金属酸化膜を設けても、高い正反射率および良好なボンディング性が保持された。
【符号の説明】
【0126】
10,10A,10B,10C,10D LED用リードフレーム
1,1A リード部材
11,11A 基板
12 Agめっき膜
13 Ag合金膜
1a,1b リード部材
15a,15b インナーリード部
16a,16b アウターリード部
2 LED素子実装体
21 樹脂成形体(基体)
22 素子実装部
22a 底面
22b,22c 側面
22e 平面
23 Ag合金膜
28 離間領域
33,34 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる基板と、この基板上の少なくとも片面側に形成された膜厚10μm以下のAgめっき膜と、このAgめっき膜上に形成された膜厚20nm以上500nm以下のAg合金膜と、を備えるLED用リードフレームであって、
前記Agめっき膜と前記Ag合金膜の膜厚の合計は0.6μm以上であり、
前記Ag合金膜は、スパッタリング法で形成され、Ge:0.06〜0.5at%、およびBi:0.02〜0.2at%を含有することを特徴とするLED用リードフレーム。
【請求項2】
上方に開口した凹状の素子実装部が形成されたLED素子実装体と、このLED素子実装体に支持された一対のリード部材と、を備えるLED用リードフレームであって、
前記一対のリード部材は、前記素子実装部の底面に互いに離間領域を隔てて配設されて、それぞれが当該素子実装部から前記LED素子実装体の外側に延出し、
前記リード部材は、銅または銅合金からなる基板と、前記素子実装部の内側において前記基板上に形成された膜厚10μm以下のAgめっき膜と、このAgめっき膜上に形成された膜厚20nm以上500nm以下のAg合金膜と、を備え、前記Agめっき膜と前記Ag合金膜の膜厚の合計は0.6μm以上であり、
前記LED素子実装体は、絶縁材料からなる基体と、前記離間領域を除く領域において前記素子実装部の表面に形成された膜厚70nm以上500nm以下のAg合金膜と、を備え、
前記リード部材および前記LED素子実装体のそれぞれが備えるAg合金膜は、スパッタリング法で形成され、Ge:0.06〜0.5at%、およびBi:0.02〜0.2at%を含有することを特徴とするLED用リードフレーム。
【請求項3】
前記Ag合金膜が、さらにAu:0.5〜5at%を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のLED用リードフレーム。
【請求項4】
前記Ag合金膜は、その表面の二乗平均粗さが30nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のLED用リードフレーム。
【請求項5】
前記Ag合金膜上に、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選択される1種の金属の金属酸化膜または2種以上からなる合金の金属酸化膜を膜厚0.1nm以上5nm以下で備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のLED用リードフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−23704(P2011−23704A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94492(P2010−94492)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(393017111)神鋼リードミック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】