説明

LNGタンクのパージ方法

【課題】既設プラントから送出されるBOGに影響を与えることなく、窒素ガスをパージすることができるLNGタンクのパージ方法を提供する。
【解決手段】LNGタンク本体10と、LNGタンク本体内にLNGを受け入れるためのLNG受入配管13と、LNGタンク内のLNGを払い出すためのLNG払出配管14と、タンク本体内においてLNGが気化して発生したBOGを取り出すためのBOG取出配管19と、を備えたLNGタンク1のパージ方法であって、LNG受入配管およびBOG取出配管の少なくともいずれか一方よりメタンガスを供給することで、LNGタンク内に充満された窒素ガスを、LNG払出配管を経由して直接外気へ排出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)タンクのパージ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LNGを貯留しておくために地上あるいは地下に設置されるLNGタンクは、従前より知られている。一般的に、LNGを貯蔵するLNGプラントでは、複数基のLNGタンクが設置され、輸送する船舶(LNG船)からLNGを受け入れるためのパイプライン(LNG受入ライン)、および、LNGタンク内においてLNGが気化して発生したガス(BOG:Boil Off Gas)を取り出して燃料ガスとして使用するためのパイプライン(BOG送出ライン)などが設けられている。また、これらのパイプラインは、複数のLNGタンクをまとめて一系統とするなどして設計されていることが多い。
【0003】
ここで、LNGプラントにLNGタンクを増設する場合、LNGタンクの完成時にはタンク内部に空気が充満している。このような内部に空気が入っている状態のLNGタンクに対してLNGを貯蔵する場合は、まず、LNGタンク内の酸素濃度を低減させるために、タンクの内部に一旦窒素ガスを充満させるようにする。次に、LNGタンク内の窒素ガスをパージしてから、LNGの注入を行うようにしている。
【0004】
この窒素ガスのパージ方法として、例えば、窒素ガスの充満されたLNGタンク内にLNGを供給し、該LNGガスの供給初期は、LNGタンク内におけるLNG濃度の低い天井側に存在するガスを排出させ、LNGの供給を継続している途中で、LNG濃度が低くなるLNGタンク内の底部側に存在するガスを排出させるように切り替えて、LNGタンク内の窒素ガスをLNGによりパージさせるようにする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、窒素ガスのパージ方法の別の方法としては、窒素ガスが充満している状態のLNGタンク内に、窒素ガスよりも軽いガスである常温のメタンガスを供給することで、LNGタンク内に充満されている重い気体である窒素ガスをLNGタンクの底部に集め、該底部に配した吸入口から外部へ排出する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−14057号公報
【特許文献2】特開平11−301786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、LNGプラントを新設する場合は、LNGタンク内の窒素ガスをパージする際に、BOG送出ラインを利用して窒素ガスをパージするのが一般的である。ところが、増設されたLNGタンクは、既設の各パイプラインに接続されるため、LNGタンク内に充満した窒素ガスをパージする際に、BOG送出ラインは既設のLNGタンクからBOGを送出するために既に利用されている。したがって、増設したLNGタンクに充満した窒素ガスをBOG送出ラインに排出すると、BOG送出ライン内のBOGのカロリーが変動してしまい、BOGを利用している発電プラントの運転に支障をきたす、あるいは熱調設備の無いガス供給先のカロリー変動を引き起こす虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、既設プラントから送出されるBOGに影響を与えることなく、窒素ガスをパージすることができるLNGタンクのパージ方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、LNGタンク本体と、該LNGタンク本体内にLNGを受け入れるためのLNG受入配管と、前記LNGタンク内のLNGを払い出すためのLNG払出配管と、前記LNGタンク本体内においてLNGが気化して発生したBOGを取り出すためのBOG取出配管と、を備えたLNGタンクのパージ方法であって、前記LNG受入配管および前記BOG取出配管の少なくともいずれか一方よりメタンガスを供給することで、前記LNGタンク内に充満された窒素ガスを、前記LNG払出配管を経由して直接外気へ排出するようにしたことを特徴としている。
【0010】
本発明のLNGタンクのパージ方法によれば、LNGタンク内に充満された窒素ガスを直接外気に排出するため、窒素ガスを既設プラントに設置されたBOG送出ラインに送り込むことがなくなる。
また、LNG払出配管は、通常LNGタンク内の下方にLNGの吸入口が位置するように配され、窒素ガスより軽いメタンガスをLNGタンク内に供給することで窒素ガスをLNGタンク内の下方へと確実に導くことができるため、LNGタンク内から窒素ガスを確実にパージすることができる。
したがって、既設プラントから送出されるBOGに影響を与えることなく、LNGタンク内から窒素ガスをパージすることができる。
【0011】
また、前記LNGタンクに設けられた複数の前記LNG払出配管のうち、予備として設けられた予備用LNG払出配管を前記窒素ガスのパージ用配管として利用したことを特徴としてもよい。
【0012】
このように構成することにより、予備用LNG払出配管は既設プラントに設置されたBOG送出ラインに接続されていないため、予備用LNG払出配管を有効利用することができ、簡易な構成でLNGタンク内の窒素ガスをパージすることができる。
【0013】
また、前記LNG払出配管に、前記窒素ガスのパージ用配管が分岐して設けられていることを特徴としてもよい。
【0014】
このように構成することにより、予備用LNG払出配管が設けられていない小型の金属二重殻構造のLNGタンクの場合であっても、簡易な構成でLNGタンク内の窒素ガスをパージすることができる。
【0015】
また、前記パージ用配管に、前記窒素ガスの排出位置を調整するための仮設放散塔が連結されていることを特徴としてもよい。
【0016】
このようにパージ用配管に仮設放散塔を連結することにより、LNGタンク内の窒素ガスが排出される位置を容易に設定することができる。したがって、作業者の作業エリア近傍に窒素ガスが排出されるのを防止することができ、パージ中であっても作業者が安全に作業することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、LNGタンク内に充満された窒素ガスを直接外気に排出するため、窒素ガスを既設プラントに設置されたBOG送出ラインに送り込むことがなくなる。また、LNG払出配管は、通常LNGタンク内の下方にLNGの吸入口が位置するように配され、窒素ガスより軽いメタンガスをLNGタンク内に供給することで窒素ガスをLNGタンク内の下方へと確実に導くことができるため、LNGタンク内から窒素ガスを確実にパージすることができる。したがって、既設プラントから送出されるBOGに影響を与えることなく、LNGタンク内から窒素ガスをパージすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態におけるLNGタンクの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるLNGタンクの別の態様を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、大型のPCタンク仕様のLNGタンクの場合について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態におけるLNGタンクの構成図である。図1に示すように、LNGタンク1は、屋根11と円筒部12とを備えたタンク本体10と、該タンク本体10内にLNGを受け入れるためのLNG受入配管13と、タンク本体10内においてLNGが気化して発生したBOGを取り出すためのBOG取出配管19と、タンク本体10内のLNGを払い出すためのLNG払出配管14と、を備えている。なお、LNG払出配管14は、タンク本体10に複数本設置されており、そのうちの1本(または2本)は予備用として設けられている。この予備用のLNG払出配管がパージ用配管15として構成されている。
【0021】
タンク本体10は、LNGタンカーなどからLNG受入配管13を介して移送されたLNGを貯蔵する略中空円筒状のタンクである。具体的に、タンク本体10は、コンクリート製躯体として構築された外槽(外殻)と、ステンレス製のメンブレンとして構築された内槽(内殻)とからなる二重殻構造物である。外槽と内槽との間には、貯蔵物としてのLNGを保冷するためにポリウレタンフォーム(PUF)などの保冷材が充填されている。屋根11は、円筒部12を上方から覆うように設置される円形ドーム状のものである。
【0022】
LNG受入配管13は、タンク本体10の屋根11を貫通してタンク内部の上方まで導かれている。LNG受入配管13は、その上流側を、LNGを貯蔵している陸上やLNGタンカー上の別のLNGガス供給源(不図示)に接続される。
【0023】
BOG取出配管19は、タンク本体10の屋根11を貫通してタンク内部の上方まで導かれている。BOG取出配管19は、その上流側を、LNGを貯蔵している陸上やLNGタンカー上の別のLNGガス供給源(不図示)に接続されるとともに、その途中で分岐されて火力発電所などの需要側に延設されたBOG送出ラインに接続され、BOGを燃料ガスとして利用できるように構成されている。
【0024】
LNG払出配管14は、タンク本体10の屋根11から円筒部12内の底部近傍まで略垂直状態に配設されており、貯蔵物であるLNGを外部に払い出すために設けられている。LNG払出配管14の下端部には吸入口17が形成されており、吸入口17の内側にはポンプ(不図示)が収納されている。このポンプを駆動することにより、LNGをタンク本体10の外部へと払い出されるように構成されている。
【0025】
パージ用配管15は、タンク本体10に複数本設けられたLNG払出配管14のうちの予備用に設けられた配管を利用している。パージ用配管15は、タンク本体10の屋根11から円筒部12内の底部近傍まで略垂直状態に配設されており、その下端部に吸入口17が形成されている。なお、この吸入口17はポンプなどの重量物が所定の位置に配されることにより開口し、重量物が所定の位置に配されていない場合は閉鎖するように構成されている。また、パージ用配管15の上端は、タンク本体10の上方に設置された作業用のデッキ18の床面上に位置するように配設されている。通常、予備用のLNG払出配管15は、配管内にポンプを設置せず、さらに、配管の上端をマンホールなどにより閉塞した状態で保持される。本実施形態では、配管の上端を開放することにより、パージ用配管15として利用する。
【0026】
また、本実施形態のパージ用配管15には、筒状の仮設放散塔20が連結されている。仮設放散塔20は、パージ用配管15の上端からさらに上方に延設するように構成され、先端部分が略水平方向または若干下方を向くように湾曲形成されている。つまり、パージ用配管15の吸入口17から吸い込まれた窒素ガスを、パージ用配管15および仮設放散塔20を経由して外部へ放出することができるように構成されている。この仮設放散塔20は、例えばデッキ18から数m程度上方へ立ち上げるように設けるとよい。つまり、仮設放散塔20を設けることにより、タンク内から排出された窒素ガスがデッキ18上で作業している作業員に直接吹付けられることを防止することができ、作業員が安全に作業することができるように構成されている。
【0027】
さらに、パージ用配管15および仮設放散塔20の経路上には、排出する窒素ガスの流量を計測するための流量計21および排出する窒素ガスの流量を調整するためのバルブ22が設けられている。この流量計21およびバルブ22は、作業員がデッキ18上で作業する際に容易に届く位置に設けられていることが望ましい。
【0028】
このように構成されたLNGタンク1のパージ方法について説明する。なお、LNGタンク1のタンク本体10内には窒素ガスが充満されており、タンク本体10内にメタンガスを供給して窒素ガスをパージし、タンク本体10内をメタンガスに置換する場合の説明を行う。
【0029】
まず、常時は閉塞されている吸入口17を開口する。具体的には、作業員がデッキ18上からパージ用配管15または仮設放散塔20に形成された点検口(不図示)を開けて、例えばチェーンの先端につながれた錘(不図示)をパージ用配管15の下端部まで移動して、吸入口17を開口状態に保持する。
【0030】
続いて、LNG受入配管13またはBOG取出配管19からメタンガスをタンク本体10内に供給する。メタンガスと窒素ガスを比べると、メタンガスの方が軽いため、メタンガスはタンク本体10内の上部に貯蔵され、窒素ガスはタンク本体10内の下部へ導かれる。
【0031】
タンク本体10内の下部に導かれた窒素ガスは、吸入口17に吸い込まれ、パージ用配管15および仮設放散塔20を経由して外気へ直接排出される。このとき、作業員は流量計21の数値を確認しながら、バルブ22の開度を調整することで、適正な流量で窒素ガスをLNGタンク1外へ排出することができる。
【0032】
そして、タンク本体10内の窒素ガスがメタンガスに置換されるまで継続することでLNGタンク1のパージを行うことができる。
【0033】
本実施形態によれば、LNGタンク1のタンク本体10内に充満された窒素ガスを直接外気に排出するため、窒素ガスを既設プラント(不図示)に設置されたBOG送出ラインに送り込むことがなくなる。
【0034】
また、LNG払出配管14は、通常タンク本体10内の底部近傍にLNGの吸入口17が位置するように配され、窒素ガスより軽いメタンガスをタンク本体10内に供給することで窒素ガスをタンク本体10内の底部近傍へと確実に導くことができるため、LNGタンク1のタンク本体10内から窒素ガスを確実にパージすることができる。したがって、既設プラントから送出されるBOGに影響を与えることなく、LNGタンク1のタンク本体10内から窒素ガスをパージすることができる。
【0035】
また、LNGタンク1のタンク本体10に設けられた複数のLNG払出配管14のうち、予備として設けられた予備用LNG払出配管を窒素ガスのパージ用配管15として利用した。つまり、予備用LNG払出配管(パージ用配管15)は既設プラントに設置されたBOG送出ラインに接続されていないため、予備用LNG払出配管を有効利用することができ、簡易な構成でLNGタンク1のタンク本体10内の窒素ガスをパージすることができる。
【0036】
また、パージ用配管15に、窒素ガスの排出位置を調整するための仮設放散塔20を連結することにより、タンク本体10内の窒素ガスが排出される位置を容易に設定することができる。したがって、作業者の作業エリア近傍に窒素ガスが排出されるのを防止することができ、パージ中であっても作業者が安全に作業することができる。
【0037】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0038】
例えば、本実施形態では、大型のPCタンク仕様のLNGタンクの場合について説明したが、図2に示すように、小型の金属二重殻構造のLNGタンクであってもよい。具体的には、小型のLNGタンク31には、予備用のLNG払出配管は一般的に設けられていない。そこで、LNGタンク31の場合には、本設として利用するLNG払出配管44の途中でパージ用配管45を分岐して設ける。LNG払出配管44とパージ用配管45との分岐箇所には、三方弁46を設け、タンク本体40内から払い出すガスの種類に応じて、三方弁46を切り替え、タンク本体40内の窒素ガスをパージする場合には、パージ用配管45に窒素ガスが流れるようにする。パージ用配管45の先端は、上述した実施形態と同様に作業員の作業に影響のない位置に窒素ガスを排出するように仮設放散塔50が設けられている。また、パージ用配管45および仮設放散塔50の経路上には流量計51およびバルブ52が設けられている。このように構成しても、LNG受入配管43またはBOG取出配管49からメタンガスを供給することで窒素ガスをパージすることができ、上記実施形態と略同じ作用効果を得ることができる。
【0039】
また、本実施形態では、仮設放散塔を鉛直上方へ延設されたものを採用したが、作業員の作業に影響のない位置であれば鉛直上方へ延設する必要はなく、適宜仮設放散塔の開放箇所は選定すればよい。
さらに、本実施形態では、仮設放散塔を設置した場合の説明をしたが、仮設放散塔は設けなくてもよい。
そして、本実施形態では、LNG受入配管またはBOG取出配管からメタンガスをタンク本体内に供給してパージする場合の説明をしたが、LNG受入配管およびBOG取出配管の両方から同時にメタンガスをタンク本体内に供給してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1,31…LNGタンク 10,40…タンク本体(LNGタンク本体) 13,43…LNG受入配管 14,44…LNG払出配管 15…予備用LNG払出配管(パージ用配管) 19,49…BOG取出配管 20,50…仮設放散塔 45…パージ用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNGタンク本体と、該LNGタンク本体内にLNGを受け入れるためのLNG受入配管と、前記LNGタンク内のLNGを払い出すためのLNG払出配管と、前記LNGタンク本体内においてLNGが気化して発生したBOGを取り出すためのBOG取出配管と、を備えたLNGタンクのパージ方法であって、
前記LNG受入配管および前記BOG取出配管の少なくともいずれか一方よりメタンガスを供給することで、前記LNGタンク内に充満された窒素ガスを、前記LNG払出配管を経由して直接外気へ排出するようにしたことを特徴とするLNGタンクのパージ方法。
【請求項2】
前記LNGタンクに設けられた複数の前記LNG払出配管のうち、予備として設けられた予備用LNG払出配管を前記窒素ガスのパージ用配管として利用したことを特徴とする請求項1に記載のLNGタンクのパージ方法。
【請求項3】
前記LNG払出配管に、前記窒素ガスのパージ用配管が分岐して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のLNGタンクのパージ方法。
【請求項4】
前記パージ用配管に、前記窒素ガスの排出位置を調整するための仮設放散塔が連結されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のLNGタンクのパージ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−207710(P2012−207710A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73034(P2011−73034)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】