説明

MDL−1の使用

本発明は、骨吸収障害をMDL−1のアンタゴニストで治療する方法を提供する。本発明は、MDL−1活性の調節によって骨格および免疫の障害を治療するための方法に関する。例えば、本発明により、対象の骨吸収を調節する方法であって、該対象にMDL−1(配列番号2または4)に特異的に結合する抗体またはその抗体断片の有効量を投与することを含む方法が提供される。本発明により、対象の骨吸収を調節する方法であって、該対象に溶解性のMDL−1タンパク質(配列番号2または4)の有効量を投与することを含む方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、MDL−1活性の調節によって骨格および免疫の障害を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
骨組織は、3つの細胞型(骨芽細胞、骨細胞および破骨細胞)と、骨細胞(主に骨芽細胞)によって合成される、重合体(主にコラーゲン線維)および他の有機物質(コンドロイチン硫酸およびヒアルロン酸などのプロテオグリカンで主に構成される基質)を含む石灰化された細胞間骨基質とで主に構成される。骨細胞は骨基質の有機分子を生成し、さらにその石灰化を調節する。骨芽細胞は骨組織表面に位置し、骨基質の有機成分を合成する。骨細胞は成熟した骨芽細胞であり、骨基質の維持に関与する。破骨細胞は、骨侵食および再吸収に関与する。
【0003】
骨芽細胞と破骨細胞との間での分化の均衡は、骨ホメオスタシスのために重要である。この均衡の調節不全は、過剰の破骨細胞活性化ならびに骨粗鬆症および骨関節炎などの骨吸収疾患をもたらすことができる。TRAF6、c−FosおよびNFATc1転写因子を活性化するNFκB活性化受容体リガンド(RANKL)は、破骨細胞の成長および機能のための一次シグナルを提供する重要な調節サイトカインである。免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)含有分子に由来する追加のシグナルも、インビボ破骨細胞形成に必要不可欠である。
【0004】
DAP12(DNAX活性化タンパク質)は、その細胞内ドメインに位置する免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含んでいる、ジスルフィド結合したホモ二量体1型膜貫通糖タンパク質である(非特許文献1、特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。DAP12の重要性は、ITAMドメインに依存する(非特許文献4)。DAP12と非共有結合的に結合する、Igスーパーファミリー(非特許文献5、非特許文献6)およびC型レクチンスーパーファミリー(非特許文献7)の受容体の細胞内ドメインは、他の分子との相互作用を可能にするには短すぎるので、DAP12細胞質ドメインはこれらの受容体複合体のシグナル伝達サブユニットを構成する。受容体リガンド結合サブユニットが会合すると、DAP12細胞質ITAMは、Srcキナーゼによってリン酸化される。次に、DAP12のITAMはSyk細胞質チロシンキナーゼと相互作用し、それは活性化に至るカスケード事象を開始する(非特許文献3、非特許文献2、非特許文献3)。
【0005】
DAP12は、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、顆粒球、樹状細胞および肥満細胞で発現され、そこでは、それは少なくとも8つの異なる受容体のためにシグナル伝達機能を提供する(非特許文献4、非特許文献3)。DAP12と結合するC型レクチンスーパーファミリーの骨髄性の受容体は、II型膜貫通タンパク質である骨髄性のDAP12結合レクチン−1(MDL−1)である(MDL−1は、CLEC5aとも呼ばれる)。MDL−1は、同定およびクローニングされた最初のDAP12結合分子であった(非特許文献7)。それは、単球およびマクロファージ(非特許文献7)、ならびに他の骨髄細胞型、例えば、好中球および樹状細胞で排他的に発現される。DAP12の膜貫通ドメイン中の負荷電した残基の存在は、その膜貫通ドメインに正荷電した残基を有する、MDL−1などのパートナー受容体が存在しない場合、その細胞表面での発現を妨げる。しかし、DAP12単独では細胞表面でのその発現および機能に十分でない。したがって、DAP12結合分子、例えばMDL−1およびDAP12の組合せは、DAP12を通す特定の生理的シグナルの伝達を説明することができる(非特許文献8)。
【0006】
最近の研究は、DAP12−ITAMシグナル伝達経路によって媒介される共刺激シグナルが、破骨細胞の成長のために必要とされることを示している(例えば、非特許文献9を参照)。Dap12−/−マウスは、破骨細胞成長の欠陥を有する(例えば、非特許文献10を参照)。DAP−12の不活化は、手首および距骨の嚢胞および認知症をもたらすことができる(例えば、非特許文献11および非特許文献12を参照)。
【0007】
デング熱を引き起こすウイルスによるMDL−1の会合は、DAP−12リン酸化を誘導し、炎症誘発性サイトカインの放出を刺激することがわかった(Chenら(2008年)Nature、オンライン刊行物doi:10.1038/nature07013:1−7を参照)。興味深いことに、デング熱は、活性ウイルスの感染と関連する激しく苦しませる(angonizing)肢痛のために、「デング熱(Break−bone fever)」とも呼ばれている(例えば、非特許文献13を参照)。
【0008】
通常、炎症は、有害因子および損傷組織を破壊し、希釈し、または取り囲む、外傷または微生物侵入に対する限局性の防御的応答である。急性形態では、それは、疼痛、発熱、発赤、腫脹および機能喪失の古典的な徴候を特徴とする。顕微鏡検査では、それは、細動脈、毛細管および細静脈の拡張を含む複雑な一連の事象を含み、透過性および血流の増加、血漿タンパク質を含む体液の滲出、ならびに炎症領域への白血球移動を伴う。
【0009】
単に炎症を阻止するだけでは、生じた骨代謝調節不全の治療には十分でないかもしれないことが、ますます明らかになっている。したがって、治療戦略では、抗骨吸収活性および抗炎症活性の両方を組み込む必要がある。本発明は、骨吸収を反転させるのと同時に炎症を抑制するために、MDL−1活性を標的にすることによって骨密度障害を調節する剤および方法を提供することによって、この必要性を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第99/06557号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Lanierら(1998年)Nature 391巻:703〜707頁
【非特許文献2】CampbellおよびColonna(1999年)Int. J. Biochem. Cell Biol.31巻:631〜636頁
【非特許文献3】LanierおよびBakker(2000年)Immunol. Today 21巻:611〜614頁
【非特許文献4】Gingrasら(2001年)Mol. Immun.38巻:817〜824頁
【非特許文献5】Bouchonら(2000年)J. Immunol.164巻:4991〜4995頁
【非特許文献6】Dietrichら(2000年)J. Immunol.164巻:9〜12頁
【非特許文献7】Bakkerら(1999年)PNAS U.S.A.96巻:9792〜9796頁
【非特許文献8】Nochiら(2003年)Am. J. of Pathology 162巻:1191〜1201頁
【非特許文献9】Kogaら(2004年)Nature428巻:758〜763頁
【非特許文献10】Humphreyら(2004年)J Bone Miner Res 19巻:224〜234頁
【非特許文献11】Palonevaら(2002年)Nature Genetics 25巻:357〜361頁
【非特許文献12】Palonevaら(2001年)Neurology 56巻:1552〜1558頁
【非特許文献13】Clarke(2002年)Nature416巻:672〜674頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の概要)
本発明は、MDL−1活性を拮抗することが骨侵食および炎症を抑制したという発見に基づく。対象の骨吸収を調節する方法であって、対象にMDL−1に特異的に結合する抗体またはその抗体断片の有効量を投与することを含む方法が提供される。ある実施形態では、抗体はヒト化されたもの、完全にヒトのもの、またはキメラである。抗体断片は、Fab、Fab2またはFv抗体断片である。抗体またはその抗体断片は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む別の化学部分とコンジュゲートさせることができる。抗体または抗体断片は、炎症によって引き起こされる骨吸収を含む骨吸収を抑制する。さらに、抗体または抗体断片は、破骨細胞の形成または活性化を抑制する。
【0013】
対象の骨吸収を調節する方法であって、対象に溶解性のMDL−1タンパク質の有効量を投与することを含む方法も提供される。ある実施形態では、溶解性のMDL−1タンパク質は、PEGを含む化学部分にコンジュゲートされ。さらなる実施形態では、溶解性のMDL−1タンパク質は、抗体分子のFc部分を含む異種タンパク質に融合される。溶解性のMDL−1タンパク質は、炎症によって引き起こされる骨吸収を含む骨吸収を抑制する。さらに、溶解性のMDL−1タンパク質は、破骨細胞の形成または活性化を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、MDL−1の活性化がLPS誘導性の炎症性メディエータの放出を増大することを示す。
【図2】図2は、MDL−1アゴニスト抗体、DX163の投与でのCIAの悪化を示す。
【図3】図3は、MDL−1アンタゴニストMDL−1−Ig融合タンパク質によるCAIAの抑制を示す。
【図4】図4は、MDL−1 KOマウスにおけるCAIAのより低い臨床スコアを示す。
【図5】図5は、アゴニストMDL−1抗体、DX163でMDL−1活性を刺激することが、発生した自己免疫性関節炎を悪化させ得ることを裏付ける。
【図6】図6は、MDL−1−Ig融合タンパク質でのCAIAの抑制を示す。
【図7】図7は、GE explore CTスキャナでスキャンされたB10RIIIマウス由来の足を示す。
【図8】図8は、RANKL、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)、およびTRAPなどの骨破壊に関連した遺伝子のmRNA発現レベルが、抗MDL−1アゴニスト処理後、足において上方制御され、MDL−1−Ig融合体処理において下方制御されたことを示す。
【図9】図9は、抗MDL−1アゴニスト抗体と組み合わせたRANK−Lでの処理が破骨細胞「マスター転写制御因子」NFATc1の発現を増加させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(定義)
本明細書で用いる場合、用語「白血球」は、ヘモグロビンを含まない血球を指す。白血球(white blood cell)は、白血球(leukocyte)とも呼ばれる。白血球には、リンパ球、好中球、好酸球、単球、マクロファージおよび肥満細胞が含まれる。
【0016】
本明細書で用いる場合、用語「発現状態」は、遺伝子およびその産物の発現、機能および調節、例えばmRNA発現のレベル、発現された遺伝子産物(例えば核酸およびアミノ酸の配列)の完全性、ならびに、これらの分子の転写および翻訳の修飾に関与する様々な因子を広く指すために用いられる。
【0017】
本明細書で用いる場合、用語「抗体分子」は、完全抗体(例えば、IgG、好ましくはIgG1またはIgG4)、およびその断片、好ましくはその抗原結合断片を指す。抗体断片には、Fab抗体断片、F(ab)2抗体断片、Fv抗体断片、単鎖Fv抗体断片およびdsFv抗体断片が含まれる。
【0018】
本明細書で用いる場合、用語「対象」または「患者」または「宿主」は、任意の生物体、好ましくは動物、より好ましくは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、イヌ、ネコ、ウシ、チンパンジー、ゴリラ)、最も好ましくはヒトを指す。
【0019】
本明細書で用いる場合、用語「対照」には、免疫障害のない患者、免疫障害のない患者からの試料、免疫障害を有する患者からの無病試料が含まれる。
【0020】
本明細書で用いる場合、動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、器官または体液に適用される用語「投与」および「治療」は、動物、ヒト、対象、細胞、組織、器官または体液との、外来性の医薬用、治療用、診断用の作用物質、化合物または組成物の接触を指す。「投与」および「治療」は、インビトロ、インビボおよびエキソビボの治療も意味する。
【0021】
本明細書で用いる場合、治療剤の「治療有効量」という用語は、患者への有意義な利益を示すのに十分な、すなわち、治療している状態の症状の軽減、予防または改善を引き起こすのに十分な、医薬製剤の各活性成分の量と定義される。医薬製剤が診断薬を含む場合、「治療有効量」は、シグナル、像または他の診断パラメータを生成するのに十分な量と定義される。医薬製剤の有効量は、個体の感受性の程度、個体の年齢、性別および体重、ならびに個体の特異体質の応答などの因子によって変わる。例えば、米国特許第5,888,530号を参照のこと。
【0022】
本明細書で用いる場合、用語「外来性」は、文脈によって、生物体、細胞またはヒトの体の外部で生成される物質を指す。本明細書で用いる場合、用語「内因性」は、文脈によって、細胞、生物体またはヒトの体の内部で生成される物質を指す。
【0023】
本明細書で用いる場合、用語「組換え体」は、自然には近接しておらず、互いに融合された、2つ以上の核酸またはタンパク質を指す。この用語は、ヒトの介入によって変化させられた(例えば、翻訳後修飾または変異した)核酸またはタンパク質を指すこともできる。例えば、野生型コドンは、核酸配列認識部位を導入または除去すると同時に、同じアミノ酸残基または保存的置換をコードする重複コドンで置換することができる。同様に、所望の機能をコードする核酸断片を融合して、本来は一緒に見出されない機能の所望の組合せをコードする単一の遺伝的実体を生成することができる。制限酵素認識部位がしばしばそのような人工操作の標的であるが、他の部位特異的標的、例えばプロモーター、DNA複製部位、調節配列、制御配列または他の有用な特徴をデザインして組み込むことができる。下記のように、検出または精製のためにエピトープタグをコードする配列を組み込むこともできる。
【0024】
本明細書で用いる場合、用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」は、リボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジンまたはシチジン、「RNA分子」)またはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジンまたはデオキシシチジン、「DNA分子」)のリン酸エステル重合体の形態、あるいは、一本鎖形態、二本鎖形態その他の形態の、ホスホロチオエートおよびチオエステルなどのその任意のリン酸エステル類似体を指す。
【0025】
本明細書で用いる場合、用語「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」は、DNAまたはRNAなどの核酸中の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオチド」とも呼ばれる)を指し、2つ以上のヌクレオチドの任意の鎖を意味する。
【0026】
本明細書で用いる場合、用語「コード配列」または「コードする」配列は、RNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素などの発現生成物を指し、発現されると、その生成物の生成をもたらすヌクレオチド配列である。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「遺伝子」は、1つまたは複数のRNA分子、タンパク質または酵素のすべてまたは一部を含むリボヌクレオチドまたはアミノ酸の特定の配列をコードするかそれに対応するDNA配列を意味し、例えば遺伝子が発現される条件を決定するプロモーター配列などの調節DNA配列を含んでも含まなくてもよい。遺伝子は、DNAからRNAに転写することができ、RNAは、アミノ酸配列に翻訳されることも翻訳されないこともある。
【0028】
本明細書で用いる場合、DNAの「増幅」という用語は、DNA配列の混合物の中の特定のDNA配列の濃度を高めるための、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用を指す。PCRの記載については、Saikiら、Science(1988年)239巻:487頁を参照のこと。
【0029】
本明細書で用いる場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、遺伝子、mRNA、cDNAまたは対象とする他の核酸をコードするゲノムDNA分子、cDNA分子またはmRNA分子とハイブリダイズすることができる、一般に少なくとも10個、例えば10、11、12、13または14個、好ましくは少なくとも15個、例えば15、16、17、18または19個、より好ましくは少なくとも20個のヌクレオチド、例えば20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30個、好ましくは100個以下のヌクレオチド、例えば40、50、60、70、80または90個の核酸を指す。オリゴヌクレオチドは、例えば、32P−ヌクレオチド、H−ヌクレオチド、14C−ヌクレオチド、35S−ヌクレオチド、またはビオチンなどの標識が共有結合によりコンジュゲートされているヌクレオチドの組込みによって標識することができる。一実施形態では、標識オリゴヌクレオチドは、核酸の存在を検出するプローブとして用いることができる。別の実施形態では、オリゴヌクレオチド(1つまたは両方とも標識してよい)を、遺伝子の完全長もしくは断片をクローニングするために、または核酸の存在を検出するために、PCRプライマーとして用いることができる。一般に、オリゴヌクレオチドは合成的に、好ましくは核酸シンセサイザーで調製される。
【0030】
本明細書で用いる場合、用語「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞内のRNAポリメラーゼに(例えば、直接に、または他のプロモーター結合タンパク質もしくは物質を通して)結合して、コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域を指す。一般に、プロモーター配列は、その3’末端に転写開始部位が結合し、上流側(5’方向)に延長して任意のレベルで転写を開始するのに必要な最小数の塩基または要素を含む。プロモーター配列内には、転写開始部位(例えば、ヌクレアーゼS1によるマッピングで都合よく規定される)、ならびにRNAポリメラーゼとの結合の役割を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)を見出すことができる。プロモーターは、エンハンサーおよびリプレッサー配列を含む他の発現制御配列に、または本発明の核酸に作動可能的に結合することができる。
【0031】
本明細書で用いる場合、用語「発現する」および「発現」は、遺伝子、RNAまたはDNA配列内の情報が明らかになるようにするまたはそうさせること、例えば、対応する遺伝子の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによってタンパク質を生成することを意味する。DNA配列は細胞中で、またはそれによって発現され、RNA(例えば、mRNA)またはタンパク質(例えば、抗体もしくはその断片)などの「発現生成物」を形成する。発現生成物自体は、細胞によって「発現される」と言うこともできる。
【0032】
本明細書で用いる場合、用語「ベクター」、「クローニングベクター」および「発現ベクター」は、宿主を形質転換し、任意選択で、導入された配列の発現および/または複製を促進するために、DNAまたはRNA配列を宿主細胞に導入することができる媒体(例えば、プラスミド)を意味する。
【0033】
本明細書で用いる場合、用語「トランスフェクション」または「形質転換」は、細胞内への核酸の導入を意味する。導入された遺伝子または配列は、「クローン」と呼んでもよい。導入されたDNAまたはRNAを受け取る宿主細胞は、「形質転換」され、「形質転換体」または「クローン」である。宿主細胞に導入されるDNAまたはRNAは、宿主細胞と同じ属もしくは種の細胞、または異なる属もしくは種の細胞を含む、任意の供給源に由来することができる。
【0034】
本明細書で用いる場合、用語「宿主細胞」は、細胞による物質の生成、例えば細胞による遺伝子、DNAもしくはRNA配列、タンパク質または酵素の発現または複製のために、任意の方法で選択、修飾、トランスフェクト、形質転換、増殖、または使用もしくは操作される、任意の生物体の任意の細胞を意味する。
【0035】
本明細書で用いる場合、用語「発現系」は、ベクターによって運ばれて宿主細胞に導入されるタンパク質または核酸を適する条件下で発現することができる、宿主細胞および適合するベクターを意味する。一般的な発現系には、E.coli宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクター、ならびに、哺乳動物宿主細胞およびベクターが含まれる。適する細胞には、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、HeLa細胞およびNIH 3T3細胞およびNSO細胞(非Ig産生マウス骨髄腫細胞系)が含まれる。参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,952,496号、第5,693,489号および第5,869,320号、ならびに、Davanlooら、(1984年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA81巻:2035〜2039頁、Studierら、(1986年)J. Mol. Biol.189巻:113〜130頁、Rosenbergら、(1987年)Gene56巻:125〜135頁、ならびに、Dunnら、(1988年)Gene68巻:259頁に開示されるように、本発明の抗体または抗原結合断片をコードする核酸は、E.coli/T7発現系において高レベルで発現させることができる。
【0036】
本明細書で用いる場合、用語「保存的置換」は、当業者に公知であるアミノ酸置換を指し、一般に、生じた分子の生物活性を変化させることなく作製することができる。当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域での単一のアミノ酸の置換は、生物活性を実質的に変化させることはないと認識している(例えば、Watsonら、Molecular Biology of the Gene、The Benjamin/Cummings Pub. Co.、224頁(第4版1987年)を参照)。好ましくは、そのような例示的な置換は、以下の通りに表1に示すものに従って形成される。
【0037】
【表1】

【0038】
他の置換も許され、それらは経験的に、または既知の保存的置換に従って決定することができる。
【0039】
本明細書で用いる場合、用語「単離した核酸」または「単離したポリペプチド」は、それぞれ核酸、例えばRNAもしくはDNA分子または混合した重合体、あるいはポリペプチドを指すことができ、それは、細胞または組換えDNA発現系で通常見出される他の成分から、部分的または完全に分離されている。これらの成分には、それらに限定されないが、細胞膜、細胞壁、リボソーム、ポリメラーゼ、血清成分およびフランキングゲノム配列が含まれる。したがって、この用語は、その天然の環境から取り出された核酸を含み、組換え体のまたはクローン化されたDNA単離体、および化学合成された類似体または異種の系によって生物合成された類似体を含むことができる。好ましくは、単離した核酸またはポリペプチドは、基本的に均一な分子組成物であるが、多少の不均一性を含むことがある。
【0040】
本明細書で用いる場合、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、そのような修飾のすべて、特に、宿主細胞でポリヌクレオチドを発現させることによって合成されるポリペプチドに存在するものを包含する。
【0041】
本明細書で用いる場合、用語「アンチセンス」は、特定のDNAまたはRNA配列に相補的であるヌクレオチド配列を含有する任意の組成を指す。用語「アンチセンス鎖」は、「センス」鎖に相補的である核酸鎖に関して用いられる。アンチセンス分子はペプチド核酸を含み、合成または転写を含む任意の方法によって生成することができる。細胞に導入されると、相補的ヌクレオチドは細胞によって生成された天然の配列と結合して二重鎖を形成し、転写または翻訳を阻止する。アンチセンス鎖に関しては呼称「マイナス(negative)」が用いられ、センス鎖に関しては「プラス(positive)」が用いられることもある。
【0042】
本明細書で用いる場合、用語「抗原決定基」は、特定の抗体と接触する分子の断片(すなわち、エピトープ)を指す。宿主動物を免疫化するためにタンパク質またはタンパク質断片を用いる場合、タンパク質の多くの領域がタンパク質の所与の領域または三次元構造に特異的に結合する抗体の生成を誘導することができ、これらの領域または構造物は、抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、抗体との結合に関して、無傷の抗原(すなわち、免疫応答を引き出すために用いられる免疫原)と競合することができる。
【0043】
本明細書で用いる場合、用語「抗体分子」には、それらに限定されないが、抗体およびその断片、好ましくはその抗原結合性断片が含まれる。この用語には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、Fab抗体断片、F(ab)抗体断片、Fv抗体断片(例えば、VまたはV)、単鎖Fv抗体断片(scFv)およびdsFv抗体断片が含まれる。さらに、本発明の抗体分子は、完全にヒトの抗体またはキメラ抗体であってよい。
【0044】
本明細書で用いる場合、用語「Koff」は、抗体/抗原複合体からの抗体の解離の解離速度定数を指す。
【0045】
本明細書で用いる場合、用語「Kon」は、抗体が抗原と結びつく速度を指す。
【0046】
本明細書で用いる場合、用語「K」は、特定の抗体/抗原相互作用の解離定数を指す。K=Koff/Kon
【0047】
本明細書で用いる場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在することのある可能な自然発生の突然変異物を除いて同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位に向けられる。モノクローナル抗体は、基本的に他の免疫グロブリンに汚染されずに、ハイブリドーマ培養によってそれらを合成することができるという点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団に含まれるという抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を要求するものと解釈されてはならない。上で述べたように、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は、Kohlerら、(1975年)Nature256巻:495頁によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することができる。
【0048】
本明細書で用いる場合、用語「ポリクローナル抗体」は、1つまたは複数の他の非同一抗体の間で、またはその存在下で生成された抗体を指す。一般に、ポリクローナル抗体は、非同一抗体を生成したいくつかの他のBリンパ球の存在下で、Bリンパ球から生成される。通常、ポリクローナル抗体は、免疫化された動物から直接得られる。
【0049】
本明細書で用いる場合、用語「二重特異性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体を指す。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含む様々な方法によって生成することができる。例えば、Songsivilaiら、(1990年)Clin. Exp. Immunol.79巻:315〜321頁、Kostelnyら、(1992年)J Immunol.148巻:1547〜1553頁を参照のこと。さらに、二重特異性抗体は、「ダイアボディ」(Holligerら、(1993年)PNAS USA90巻:6444〜6448頁)として、または「Janusins」(Trauneckerら、(1991年)EMBO J.10巻:3655〜3659頁およびTrauneckerら、(1992年)Int. J. Cancer Suppl.7巻:51〜52頁)として形成することができる。
【0050】
本明細書で用いる場合、「二機能性抗体」または「免疫サイトカイン」は、アミノ末端からカルボキシ末端の方向で、(i)あらかじめ選択された細胞型の上の細胞表面抗原に結合することができる免疫グロブリン可変領域、免疫グロブリンCH1ドメイン、免疫グロブリンCH2ドメイン(任意選択でCH3ドメイン)を含む抗体結合部位、および(ii)サイトカインを含む、抗体−サイトカイン融合タンパク質である。そのような二機能性の免疫サイトカインの作製方法は、Gilliesら(1992年)Proc. Nat’l. Acad. Sci.89巻:1428〜1432頁、Gilliesら(1998年)J. Immunol.160巻:6195〜6203頁、および米国特許第5,650,150号に記載されている。
【0051】
本明細書で用いる場合、用語「抗イディオタイプ抗体」または「抗イディオタイプ」は、別の抗体分子の抗原結合領域または可変領域(イディオタイプと呼ばれる)に対する抗体を指す。Jerneら(Jerne, N. K.、(1974年)Ann. Immunol.(Paris)125c:373頁およびJerne, N. K.ら、(1982年)EMBO1巻:234頁)によって開示されるように、所与の抗原(例えば、MDL−1ペプチド)のパラトープ(抗原結合部)を発現する抗体分子による免疫化は、一群の抗抗体を生成し、そのいくつかは、パラトープに相補的な構造を抗原と共有する。抗イディオタイプ抗体の亜集団による免疫化は、次に、最初の抗原に反応性である抗体または免疫細胞サブセットの亜集団を生成する。
【0052】
本明細書で用いる場合、用語「完全にヒトの抗体」は、ヒト免疫グロブリンタンパク質配列だけを含む抗体を指す。マウス、マウス細胞、または、マウス細胞に由来するハイブリドーマで生成される場合、完全にヒトの抗体は、マウスの炭水化物鎖を含んでもよい。同様に、「マウス抗体」は、マウス免疫グロブリン配列だけを含む抗体を指す。
【0053】
「ヒト化」抗MDL−1ペプチド抗体も、本発明の範囲内である。本明細書で用いる場合、用語「ヒト化された」または「完全にヒト化された」は、ヒト抗体フレームワークに接がれた、親抗体、例えばマウス抗体の6つの相補性決定領域(CDR)からのアミノ酸配列を含む抗体を指す。ヒト以外の(例えば、マウスもしくはニワトリの)抗体のヒト化された形態は、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む、キメラ免疫グロブリンである。大部分は、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域からの残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するヒト以外の種、例えば、マウス、ニワトリ、ラットまたはウサギの相補性決定領域からの残基(ドナー抗体)によって置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基も、対応するヒト以外の残基によって置換される。
【0054】
本明細書で用いる場合、用語「部分的にヒト化された」または「キメラの」抗体は、ヒト重鎖定常領域および軽鎖定常領域に接続された、例えばマウス起源の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗体を意味する。
【0055】
ヒト化の代替形態は、ファージの上に提示されるヒト抗体ライブラリー、またはトランスジェニックマウスに含まれるヒト抗体ライブラリーを用いることである。例えば、Vaughanら(1996年)Nat. Biotechnol.14巻:309〜314頁、Barbas(1995年)Nature Med.1巻:837〜839頁、de Haardら(1999年)J. Biol. Chem.274巻:18218〜18230頁、McCaffertyら(1990年)Nature348巻:552〜554頁、Clacksonら(1991年)Nature352巻:624〜628頁、Marksら(1991年)J. Mol. Biol.222巻:581〜597頁、Mendezら(1997年)Nature Genet.15巻:146〜156頁、HoogenboomおよびChames(2000年)Immunol. Today21巻:371〜377頁、Barbasら(2001年)Phage Display: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Kayら(1996年)Phage Display of Peptides and Proteins: A Laboratory Manual、Academic Press、San Diego、CA、de Bruinら(1999年)Nat. Biotechnol.17巻:397〜399頁を参照のこと。
【0056】
本明細書で用いる場合、用語「ヒトの」は、100%ヒト起源であるアミノ酸配列を含有する抗体を指し、そこでは、例えばヒト、動物、昆虫、真菌、植物、細菌またはウイルスの宿主で抗体を発現させることができる(Bacaら(1997年)J. Biol. Chem.272巻:10678〜10684頁、Clark(2000年)Immunol. Today21巻:397〜402頁)。
【0057】
本発明は「キメラ抗体」を含み、それは、別のヒト以外の種(例えば、マウス、ウマ、ウサギ、イヌ、ウシ、ニワトリ)からの抗体領域(例えば、定常領域)と融合またはキメラ化された、本発明の可変領域を含む抗体を意味する。これらの抗体を用いて、ヒト以外の種でMDL−1の発現または活性を調節することができる。
【0058】
本明細書で用いる場合、用語「ヒト/マウスキメラ抗体」は、ヒト定常領域と融合されたマウス可変領域(VおよびV)を含む抗体を指す。
【0059】
本明細書で用いる場合、用語「単鎖Fv」または「sFv」抗体断片は、抗体のVおよびVドメインを有する抗体断片を意味し、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。一般には、sFvポリペプチドは、sFvが抗原結合のために所望の構造を形成するのを可能にする、VおよびVドメイン間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体の生成について記載されている技術(米国特許第5,476,786号、第5,132,405号および第4,946,778号)を応用して、抗MDL−1特異的単鎖抗体を生成することができる。sFvのレビューについては、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer−Verlag、N.Y.、269〜315頁(1994年)中のPluckthunを参照のこと。
【0060】
単鎖抗体、単一ドメイン抗体および二重特異抗体が記載されている。例えば、Maleckiら(2002年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA99巻:213〜218頁、Conrathら(2001年)J. Biol. Chem.276巻:7346〜7350頁、Desmyterら(2001年)J. Biol. Chem.276巻:26285〜26290頁、Kostelneyら(1992年)J. Immunol.148巻:1547〜1553頁、米国特許第5,932,448号、第5,532,210号、第6,129,914号、第6,133,426号、第4,946,778号を参照のこと。
【0061】
本明細書で用いる場合、用語「ジスルフィドによって安定化されたFv断片」および「dsFv」は、ジスルフィド架橋によって連結される可変重鎖(V)および可変軽鎖(V)を含む抗体分子を指す。
【0062】
本発明の組成物の「有効量」は、MDL−1受容体またはその機能的断片によって引き起こされるか媒介される医学的状態を特徴づける周知のパラメータの1つまたは複数を改善する量であってよい。「有効量」は、炎症、自己免疫または再灌流傷害の減少または予防をもたらすために、浸潤する白血球の上に発現される標的抗原、例えばMDL−1に結合するのに必要な抗体の量または濃度も意味する。
【0063】
本明細書で用いる「炎症」または「炎症性障害」は、外来の因子だけでなく周囲の組織も破壊する、傷害または外来因子に対する免疫応答、例えば白血球遊走である。炎症は、例えば、消化系、呼吸系、生殖系、排泄系、筋骨格系、および神経系で起こることができる。炎症性障害の例には、それらに限定されないが、炎症性腸障害、クローン病、肺反応亢進、腎炎、関節炎(例えば、骨関節炎)、皮膚炎(例えば、乾癬、アトピー性皮膚炎)などが含まれる。
【0064】
「自己免疫」または「自己免疫障害」は、体自身の組織の構成要素(自己抗原または自己抗原)に対する、特異的体液性(B細胞)または細胞媒介性(T細胞)の免疫応答を特徴とする状態である。自己免疫の例には、それらに限定されないが、全身性エリテマトーデス、多発硬化症、インスリン依存型糖尿病、グラーブ病、橋本甲状腺炎、アジソン病、関節リウマチ、グッドパスチャー症候群、強皮症、重症筋無力症、悪性貧血などが含まれる。
【0065】
本明細書で用いる場合、用語「骨障害」は、骨量の減少を特徴とする疾患、すなわち、症状または病状として骨質量または密度の低下を有する疾患、状態、障害または症候群を指す。骨量の減少を特徴とする疾患の例には、それらに限定されないが、骨転移を含む骨溶解、無菌の補綴ゆるみ、歯周炎、骨粗鬆症、ページェット病、転移性骨疾患および関節リウマチが含まれる。そのような骨障害には、狼瘡および関節リウマチなどの自己免疫疾患と関連するものが含まれる。SLEを有する女性は、以前のコルチコステロイドの使用状態に関係なく、高いSLE疾患損傷のない女性よりもかなり低い骨塩密度Tスコアを有することがわかっている。そのような骨障害には、骨質量レベルが、世界保健機関の基準「Assessment of Fracture Risk and its Application to Screening for Postmenopausal Osteoporosis (1994年). Report of a World Health Organization Study Group. World Health Organization Technical Series 843」に定義されている年齢別正常値よりも低い状態を含む、低い骨質量と関連する状態も含まれる。低い骨質量と関連する状態には、原発性および二次性の骨粗鬆症が含まれる。
【0066】
また、歯周疾患、歯槽骨量減少、骨切断後および小児期の特発性骨量減少、ならびに脊柱の弯曲、身長低下および補綴手術などの骨粗鬆症の長期合併症も含まれる。そのような骨障害は、骨粗鬆症を含む上記のそのような疾患を発症する平均よりかなり高い可能性を有することが知られている、低い骨質量で存在する脊椎動物、例えば哺乳動物(例えば、閉経後の女性、50才より上の男性)に影響を及ぼすことができる。その障害は、骨質量増加または増強の方法で治療することができ、それらには、骨修復、骨折治癒速度を高めること、置換骨移植手術を完全にすること、移植骨片の成功率を高めること、顔の再建もしくは上顎骨再建もしくは下顎骨再建の後の骨の治癒、補綴内殖、脊椎骨骨癒合または長骨伸長が含まれる。当業者は、骨質量という用語が、時々(厳密には正確でないが)骨塩密度と呼ばれる、単位面積骨質量を実際に指すことを認識しよう。
【0067】
本明細書の骨障害の例には、骨粗鬆症、例えば原発性もしくは二次性の骨粗鬆症、例えばグルココルチコイド誘発骨粗鬆症、関節リウマチに起因するものなどの局所の骨侵食もしくは疾患、ならびに、辺縁の関節侵食および肋軟骨下の骨侵食(骨髄)、ページェット病、骨欠損、異常に高い骨ターンオーバー、歯周疾患、歯喪失、補綴周囲骨溶解、骨形成不全、転移性骨疾患、悪性腫瘍のカルシウム過剰血、小児期特発性骨量減少、歯槽骨喪失、骨折、関節近接オステオペニアなどのオステオペニア、多発性骨髄腫および関連状態、例えばワルデンストロームマクログロブリン血症および/またはモノクローナル高ガンマグロブリン血症における骨疾患が含まれる。本明細書で好ましい骨障害は、多発性骨髄腫、マクログルリネミア(macroglulinemia)およびモノクローナル高ガンマグロブリン血症および骨粗鬆症の骨疾患、より好ましくは、二次性の骨粗鬆症、さらにより好ましくは炎症の間の骨量減少である。悪性腫瘍と関連していない骨障害も、本発明の範囲内である。
【0068】
「二次性骨粗鬆症」には、脊椎動物、例えば哺乳動物(ヒトを含む)における、炎症の間の骨量減少、グルココルチコイド誘発骨粗鬆症、甲状腺機能亢進誘発骨粗鬆症、不動化誘発骨粗鬆症、ヘパリン誘発骨粗鬆症および免疫抑制誘発骨粗鬆症が含まれる。本明細書で用いる場合、用語「骨吸収」は、少なくとも一部、破骨細胞活性に起因する望ましくない骨量減少を指す。
【0069】
「骨溶解」は、破滅的な骨量減少、または、関節リウマチ、骨転移、無菌的補綴ゆるみおよび歯周炎を含む、広範な疾患状態の衰弱性病理的帰結を指す。関節リウマチ(RA)は、しばしば長期の障害および死亡率の上昇をもたらす、慢性炎症性疾患である。
【0070】
「骨芽前駆体」は、骨間質細胞に由来する、分化した骨前駆細胞を指す。
【0071】
「歯前駆体」は、歯周部靭帯に由来する、分化した骨前駆細胞を指す。
【0072】
(発明の詳細な説明)
用語「MDL−1」、「骨髄DAP12結合レクチン−1」、「骨髄DAP12関連レクチン−1」、「DAP−12」、「DAP 12」、「DNAX活性化タンパク質、12kD」は、当技術分野で周知である。ヒトおよびマウスのDAP 12およびMDL−1ヌクレオチドおよびポリペプチド配列は、国際公開第99/06557号に開示されている。ヒトMDL−1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、国際公開第99/06557号の配列番号11および配列番号12によってそれぞれ定義される。ヒトMDL−1核酸配列(AR217548)およびマウスMDL−1の核酸配列およびアミノ酸配列(それぞれ、AR217549およびAAN21593)のGenBank(登録商標)寄託物も、利用可能である。
【0073】
MDL−1の溶解性の形態(すなわち、溶解性のMDL−1ポリペプチドまたは溶解性のMDL−1タンパク質)も、本発明の範囲内である。MDL−1タンパク質の構造上の特徴は細胞外のドメインであり、それは、ヒトMDL−1タンパク質の配列番号2のアミノ酸残基26〜188、およびマウスMDL−1タンパク質の配列番号4のアミノ酸残基26〜190によって定義される。溶解性のMDL−1タンパク質を、異種タンパク質、例えば抗体のFc部分と融合すること、または化学部分、例えばPEGとコンジュゲートさせることができる。
【0074】
溶解性のMDL−1ポリペプチドは、MDL−1抗体またはその抗原結合断片の使用と同様に、治療薬または診断薬として用いることができる。MDL−1の細胞表面での発現は、この分子が抗体に基づく治療戦略の魅力的な標的であることを示す。MDL−1抗体がMDL−1に結合するように、MDL−1抗体を患者に導入することができる。
【0075】
本発明は、MDL−1が炎症性骨破壊を悪化させ、MDL−1アンタゴニストがこの種の組織破壊を予防するという発見に基づく。
【0076】
(分子生物学)
本発明に従って、当技術分野の範囲内の従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技術を使用することができる。そのような技術は、文献に詳細に説明されている。例えば、Sambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(1989年)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York(本明細書では、「Sambrookら、1989年」)、DNA Cloning: A Practical Approach、第I巻およびII巻(D.N. Glover編1985年)、Oligonucleotide Synthesis(M.J. Gait編1984年)、Nucleic Acid Hybridization(B.D. HamesおよびS.J. Higgins編(1985年))、Transcription And Translation(B.D. HamesおよびS.J. Higgins編(1984年))、Animal Cell Culture(R.I. Freshney編(1986年))、Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press、(1986年))、B. Perbal、A Practical Guide To Molecular Cloning(1984年)、F.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.(1994年)を参照のこと。
【0077】
本発明は、本発明のMDL−1抗体または抗原結合断片の組換えバージョンを含む。
【0078】
特定の実施形態において、本発明は、MDL−1、溶解性のMDL−1、抗MDL−1抗体、抗MDL−1抗体の重鎖もしくは軽鎖、抗MDL−1抗体の重鎖もしくは軽鎖の可変領域、抗MDL−1抗体の重鎖もしくは軽鎖の定常領域、または抗MDL−1抗体CDR(例えば、CDR−L1、CDR−L2、CDR−L3、CDR−H1、CDR−H2もしくはCDR−H3)をコードする核酸を含み、それはPCRによって増幅することができる。
【0079】
任意の核酸(例えば、MDL−1遺伝子をコードする核酸、または、抗MDL−1抗体またはその断片もしくは部分をコードする核酸)の配列は、当技術分野で公知である任意の方法(例えば、化学的配列決定または酵素的配列決定)によって配列決定をすることができる。DNAの「化学的配列決定」は、MaxamおよびGilbert(1977年)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA74巻:560頁)のそれなどの方法を表すことができ、そこでは、DNAは個々の塩基特異的反応を用いてランダムに切断される。DNAの「酵素的配列決定」は、Sanger(Sangerら、(1977年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA74巻:5463頁)のそれなどの方法を表すことができる。
【0080】
本明細書の核酸には、天然の調節(発現制御)配列が隣接することができ、または、プロモーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)、および他のリボソーム結合部位配列、エンハンサー、応答エレメント、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5’および3’非コード領域などを含む、異種配列と結合してもよい。
【0081】
遺伝子発現の制御に用いることができるプロモーターには、それらに限定されないが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(米国特許第5,385,839号および第5,168,062号)、SV40初期プロモーター領域(Benoistら、(1981年)Nature290巻:304〜310頁)、ラウス肉腫ウイルスの3’の長い末端反復配列に含まれるプロモーター(Yamamotoら、(1980年)Cell22巻:787〜797頁)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら、(1981年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA78巻:1441〜1445頁)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinsterら、(1982年)Nature296巻:39〜42頁);原核生物の発現ベクター、例えばβ−ラクタマーゼプロモーター(Villa−Komaroffら、(1978年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA75巻:3727〜3731頁)またはtacプロモーター(DeBoerら、(1983年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA80巻:21〜25頁);Scientific American(1980年)242巻:74〜94頁の「Useful proteins from recombinant bacteria」も参照;および、酵母または他の真菌類からのプロモーターエレメント、例えばGal 4プロモーター、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーターまたはアルカリホスファターゼプロモーターが含まれる。
【0082】
それらの配列がRNA、好ましくはmRNAへのコード配列のRNAポリメラーゼ媒介転写を誘導する場合、コード配列は細胞中の転写および翻訳制御配列の「制御下にある」か、それと「機能的に関連している」かまたは「作動可能に関連し」、次に、それはトランスにRNAをスプライスされ(それがイントロンを含む場合)、任意選択で、コード配列によってコードされるタンパク質に翻訳され得る。
【0083】
本発明は、タンパク質、例えば本発明のMDL−1に対応するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列への修飾、特に任意の表面的なまたはわずかな修飾を企図する。詳細には、本発明は、本発明のヒトMDL−1およびマウスMDL−1をコードする核酸の配列保存的変異体を企図する。
【0084】
本発明は、表1に記載の核酸、ならびにそれとハイブリダイズする核酸によってコードされるMDL−1を含む。好ましくは、核酸は、低度のストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは高度のストリンジェンシー条件下でハイブリダイズし、好ましくは、MDL−1活性を示す。
【0085】
核酸分子は、その核酸分子の一本鎖形態が適当な温度およびイオン強度の溶液の条件下で他の核酸分子にアニールすることができる場合、cDNA、ゲノムDNAまたはRNAなどの別の核酸分子と「ハイブリダイズすることが可能である」(上記、Sambrookらを参照)。温度およびイオン強度条件は、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。一般的な低度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、55℃、5× SSC、0.1%SDS、0.25%ミルクおよび無ホルムアミド、または30%ホルムアミド、5× SSC、0.5%SDSでよい。一般的な、中程度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーションが40%ホルムアミド、5×または6×のSSCで実施されること以外は、低度のストリンジェンシー条件に類似している。高度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション条件が50%ホルムアミド、5×または6×のSSCおよび、任意選択で、より高い温度(例えば、57℃、59℃、60℃、62℃、63℃、65℃または68℃)で実施されること以外は、低度のストリンジェンシー条件に類似している。一般に、SSCは0.15MのNaClおよび0.015Mのクエン酸ナトリウムである。ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補配列を含むことを必要とするが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに従い、塩基間のミスマッチが可能である。核酸をハイブリダイズするのに適当なストリンジェンシーは、核酸の長さおよび相補性の程度によって決まり、これらは、当技術分野で周知の変数である。2つのヌクレオチド配列の間の類似性または相同性の程度がより大きいほど、それらの核酸がハイブリダイズすることができるストリンジェンシーはより高い。長さがヌクレオチド100個を超えるハイブリッドについて、融点を計算する方程式が導かれている(上記Sambrookら、9.50〜9.51を参照)。より短い核酸、すなわちオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションについては、ミスマッチの位置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(上記、Sambrookら、11.7〜11.8を参照)。
【0086】
本発明には、それぞれの参照配列の全長にわたってそれぞれの配列の間で最大の一致を与えるようにアルゴリズムのパラメータが選択されるBLASTアルゴリズムによって比較を実施する場合に、表1の参照ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列と、少なくとも70%同一、少なくとも80%同一、少なくとも90%、例えば91%、92%、93%、94%同一、および少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%、99%、100%同一であるアミノ酸配列を含むヌクレオチド配列およびポリペプチドを含む核酸も含まれる。それぞれの参照配列の全長にわたってそれぞれの配列の間で最大の一致を与えるようにアルゴリズムのパラメータが選択されるBLASTアルゴリズムによって比較を実施する場合に、表1の参照アミノ酸配列、例えば配列番号2および4と、少なくとも70%類似、少なくとも80%類似、少なくとも90%、例えば91%、92%、93%、94%類似、および少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%、99%、100%類似するアミノ酸配列を含むポリペプチドも、本発明に含まれる。
【0087】
配列同一性とは、比較されている2つの配列のヌクレオチドまたはアミノ酸の間の完全な一致を指す。配列類似性とは、比較されている2つのポリペプチドのアミノ酸の間の完全な一致と、同一でない、生化学的に関係のあるアミノ酸の間の一致の両方を指す。類似の特性を共有し、交換可能であろう生化学的に関係のあるアミノ酸が、上で記載されている。
【0088】
BLASTアルゴリズムに関する以下の参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。BLASTアルゴリズム:Altschulら、(1990年)J. Mol. Biol.215巻:403〜410頁、Gishら、(1993年)Nature Genet.3巻:266〜272頁、Maddenら、(1996年)Meth. Enzymol.266巻:131〜141頁、Altschulら、(1997年)Nucleic Acids Res.25巻:3389〜3402頁、Zhangら、(1997年)Genome Res.7巻:649〜656頁、Woottonら、(1993年)Comput. Chem.17巻:149〜163頁、Hancockら、(1994年)Comput. Appl. Biosci.10巻:67〜70頁;整列採点システム(alignment scoring system):Dayhoffら、「A model of evolutionary change in proteins.」、Atlas of Protein Sequence and Structure、(1978年)第5巻、補遺3、M.O. Dayhoff(編)345〜352頁、Natl. Biomed. Res. Found.、Washington、DC、Schwartzら、「Matrices for detecting distant relationships.」、Atlas of Protein Sequence and Structure、(1978年)第5巻、補遺3、M.O. Dayhoff(編)、353〜358頁、Natl. Biomed. Res. Found.、Washington、DC、Altschul(1991年)J. Mol. Biol.219巻:555〜565頁、Statesら、(1991年)Methods3巻:66〜70頁、Henikoffら、(1992年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA89巻:10915〜10919頁、Altschulら、(1993年)J. Mol. Evol.36巻:290〜300頁;整列統計:Karlinら、(1990年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA87巻:2264〜2268頁、Karlinら、(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA90巻:5873〜5877頁、Demboら、(1994年)Ann. Prob.22巻:2022〜2039頁、およびAltschul, S.F.「Evaluating the statistical significance of multiple distinct local alignments.」、Theoretical and Computational Methods in Genome Research(S. Suhai編)(1997年)1〜14頁、Plenum、New York。
【0089】
本発明は、MDL−1またはその断片の溶解性の形態の組換えバージョンも含む。溶解性のMDL−1タンパク質は、MDL−1の細胞外ドメインを含む。さらに、細胞外ドメインの断片は、MDL−1タンパク質の溶解性の形態も提供する。断片は、細胞外の領域の所望の部分を単離するために既知の技術を用いて調製することができる。
【0090】
従来の分子生物学技術を用いて、異種酵素的に不活性なポリペプチド(例えば、IgGの溶解性または非溶解性のFc領域)と融合したMDL−1を有するキメラタンパク質を生成することができる。多数のポリペプチドが、本発明での酵素的に不活性なタンパク質として用いるのに適する。好ましくは、タンパク質は少なくとも10kDの分子量、pH6.8で正味の中性電荷、球状三次構造を有し、ヒト起源である。酵素的に不活性なポリペプチドがIgGである場合、好ましくは、IgG部分はグリコシル化される。所望により、酵素的に不活性なポリペプチドは、キメラタンパク質がIgGヒンジ領域に結合したMDL−1を有し、ヒンジ領域は寿命延長(longevity−increasing)ポリペプチドに結合するように置かれたIgGヒンジ領域を含むことができる。したがって、ヒンジ領域は、サイトカインと寿命延長ポリペプチドとの間のスペーサーの役目を果たすことができる。分子生物学の技術者は、IgG2a分泌ハイブリドーマ(例えば、HB129)または他の真核細胞もしくはバキュロウイルス系から、そのような分子を容易に生成することができる。IgGヒンジ領域を用いる代わりに、本明細書で定義される柔軟なポリペプチドスペーサーを用いることができる。従来の分子生物学技術を用いて、そのようなポリペプチドを、MDL−1と寿命延長ポリペプチドとの間に挿入することができる。
【0091】
異種タンパク質がFc領域を含む場合、補体を固定し、高い親和性でFc受容体と結合するその能力を阻害するために、所望により、Fc領域を突然変異させることができる。マウスのIgG Fcについては、Glu318、Lys320およびLys322の代わりのAla残基の置換は、前記タンパク質によるADCC誘導を不可能にする。Leu235の代わりのGluの置換は、高い親和性でFc受容体と結合する前記タンパク質の能力を阻害する。ヒトIgGのために適当な突然変異も、公知である(例えば、Morrisonら、1994年、The Immunologist2巻:119〜124頁およびBrekkeら、1994年、The Immunologist2巻:125頁を参照)。前記タンパク質のこれらの活性を阻害するために他の突然変異を用いることもでき、当技術分野で認められた方法を用いて、補体を固定するかFc受容体と結合する該タンパク質の能力について分析することができる。他の有用な異種ポリペプチドには、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)、トランスフェリン、酵素、例えば突然変異によって不活性化されたt−PA、および、ヒトにおいて長い循環半減期を有し、酵素活性がない他のタンパク質が含まれる。
【0092】
好ましくは、キメラタンパク質(例えば、IgG Fc)の生成で用いられる酵素的に不活性なポリペプチドは、それ自体、サイトカイン(例えば、IL−10)のそれを超えるインビボ循環半減期を有する。より好ましくは、キメラタンパク質の半減期は、サイトカイン単独のそれの少なくとも2倍である。最も好ましくは、キメラタンパク質の半減期は、サイトカイン単独のそれの少なくとも10倍である。キメラタンパク質の循環半減期は、キメラタンパク質で治療した患者から得られる血清試料のELISAで測定することができる。そのようなELISAでは、サイトカインに対する抗体を捕捉抗体として用いることができ、酵素的に不活性なタンパク質に対する抗体を検出抗体として用いることができ、試料中のキメラタンパク質だけの検出が可能になる。ELISAを実施するための従来の方法を用いることができ、そのようなELISAの詳細な実施例は本明細書で提供される。
【0093】
キメラタンパク質は、組換えDNA技術を用いるタンパク質発現のための従来の方法を用いて、(例えば哺乳動物細胞で)合成することができる。キメラタンパク質を作製するために用いられるポリペプチドの多くがすでに精製されているので、本発明のキメラタンパク質を精製するために、他の従来の方法とともに、すでに記載されているタンパク質精製方法の多くが有用のはずである。所望により、サイトカインに対する抗体による標準のプロトコルに従って、キメラタンパク質をアフィニティー精製することができる。酵素的に不活性なタンパク質に対する抗体も、従来の免疫親和性技術によってキメラタンパク質を精製するのに有用である。所望により、キメラタンパク質の活性は、該タンパク質単独の活性を試験するために通常用いられる方法で検査してもよい。キメラタンパク質の活性が、該タンパク質単独の活性と同一である必要性はない。
【0094】
本発明は、本発明のポリペプチドおよびポリヌクレオチドと、「タグ」と呼んでもよい第二のポリペプチドまたはポリヌクレオチド部分を含む融合体も含む。本発明の融合ポリペプチドは、例えば、上に述べたような発現ベクターへの本発明のポリヌクレオチドまたはその断片の挿入によって、都合よく構築することができる。本発明の融合体は、精製または検出を容易にするタグを含むことができる。そのようなタグには、グルタチオン−S−転移酵素(GST)、ヘキサヒスチジン(His6)タグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、セルロース結合タンパク質(CBP)タグおよびmycタグが含まれる。32P、35S、14C、H、99mTc、111In、68Ga、18F、125I、131I、113mIn、76Br、67Ga、99mTc、123I、111Inおよび68Gaなどの検出可能な標識またはタグを、本発明のポリペプチドを標識するために用いることもできる。そのような融合体を構築、使用するための方法はよく従来から用いられており、当技術分野で周知である。
【0095】
ポリペプチドでしばしば起こる修飾(例えば、翻訳後修飾)は、それが作製される方法に関連する。例えば、宿主でクローン化遺伝子を発現させることによって作製されるポリペプチドについては、修飾の性質および程度は、宿主細胞の翻訳後修飾能力、およびポリペプチドアミノ酸配列に存在する修飾シグナルによって大部分決定される。例えば、周知のように、グリコシル化はしばしばE.coliなどの細菌宿主では起こらない。したがって、グリコシル化が望まれる場合、ポリペプチドを、グリコシル化する宿主、一般に真核生物の細胞で発現させることができる。昆虫細胞は、哺乳動物細胞のそれらに類似する翻訳後グリコシル化をしばしば実行する。この理由から、生来のグリコシル化パターンを有する哺乳動物のタンパク質を効率的に発現させるために、昆虫細胞発現系が開発されている。あるいは、真核生物の発現系で生成の間に結合された炭水化物を除去するために、脱グリコシル化酵素を用いることができる。
【0096】
本発明のMDL−1ペプチドの類似体は、化学合成もしくは部位特異的突然変異誘発、Gillmanら、(1979年)Gene8巻:81頁、Robertsら、(1987年)Nature、328巻:731頁またはInnis(編)、1990年、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications、Academic Press、New York、NYを用いて、または、ペプチドをコードする核酸を修飾するためにDaughertyら、(1991年)(Nucleic Acids Res.19巻:2471頁)によって例示されているように、ポリメラーゼ連鎖反応方法PCR、Saikiら、(1988年)Science239巻:487頁によって調製することができる。組換え生成物の精製または検出のためにエピトープタグを加えることが、想定される。
【0097】
反応性側基を通してタンパク質を架橋させることにおけるそれらの有用性が当技術分野で知られている剤を用いて、さらに他の類似体が調製される。架橋剤による好ましい誘導体化部位は、遊離のアミノまたはカルボキシ基、炭水化物部分およびシステイン残基である。
【0098】
(タンパク質精製)
一般的に、本発明のペプチドは、培養液(例えば、ルリア培養液などの液体培養)で増殖させた宿主細胞中で、ポリペプチドをコードする核酸を発現させることによって生成することができる。例えば、核酸は、宿主細胞に存在するベクター(例えば、プラスミド)の一部であってよい。発現の後、培養細胞から本発明のペプチドを単離することができる。本発明のペプチドは、それらに限定されないが、塩もしくはアルコールによる沈殿、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、上記のような精製標識ペプチドと併用される)、分取ディスク−ゲル電気泳動、等電点電気泳動法、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、ゲルろ過、陽イオンおよび陰イオン交換および分配クロマトグラフィー、ならびに向流分配を含む、標準の方法によって精製することができる。そのような精製方法は当技術分野で極めてよく知られており、例えば、「Guide to Protein Purification」、Methods in Enzymology、第182巻、M. Deutscher編、1990年、Academic Press、New York、NYに開示されている。
【0099】
(抗体構造)
一般に、基本的な抗体構造単位は、四量体からなることが知られている。各四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖の対を含み、各対は、1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識の役割を担う約100〜110個またはそれより多いアミノ酸の可変領域を含むことができる。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能の役割を担う定常領域を定義することができる。一般的に、ヒト軽鎖は、κ軽鎖およびλ軽鎖と分類される。さらに、ヒト重鎖は、一般的に、μ、δ、γ、αまたはεと分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEと定義する。軽鎖および重鎖の内部で、可変領域および定常領域は約12個またはそれより多いアミノ酸の「J」領域で接続され、重鎖は、約10個より多いアミノ酸の「D」領域も含む。一般には、Fundamental Immunology Ch. 7(Paul, W.編、第2版、Raven Press、N.Y.(1989年))を参照(すべての目的のために参照によりその全体が組み込まれている)。
【0100】
各軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成することができる。したがって、無傷のIgG抗体は、一般に2つの結合部位を有する。二機能性抗体または二重特異性抗体の場合を除き、2つの結合部位は一般に同じである。
【0101】
通常、鎖はすべて、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域で連結される、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。各対の2つの鎖からのCDRは、通常フレームワーク領域によって整列させられ、特異エピトープへの結合を可能にしている。一般に、N末端からC末端にかけて、軽鎖および重鎖の両方は、FR1ドメイン、CDR1ドメイン、FR2ドメイン、CDR2ドメイン、FR3ドメイン、CDR3ドメインおよびFR4ドメインを含む。一般に、各ドメインへのアミノ酸の割当ては、Sequences of Proteins of Immunological Interest、Kabatら、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、第5版、NIH Publ.番号91−3242(1991年)、Kabat(1978年)Adv. Prot. Chem.32巻:1〜75頁、Kabatら、(1977年)J. Biol. Chem.252巻:6609〜6616頁、Chothiaら、(1987年)J Mol. Biol.196巻:901〜917頁またはChothiaら、(1989年)Nature342巻:878〜883頁の定義に従う。
【0102】
(抗体分子)
本発明の抗MDL−1抗体分子は、好ましくはヒトMDL−1を認識する。例えば、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によって発現されるポリペプチド。例えば、ヒトMDL−1タンパク質の配列番号2のアミノ酸残基26〜188によって規定される、溶解性のMDL−1ポリペプチド。しかし、本発明は、マウスMDL−1、および他の種、好ましくは哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジまたはイヌ)からのMDL−1を認識する抗体分子を含む。例えば、配列番号3のポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によって発現されるポリペプチド。例えば、マウスMDL−1タンパク質の配列番号4のアミノ酸残基26〜190によって規定される、溶解性のMDL−1ポリペプチド。本発明は、MDL−1またはその任意の断片と、あるいは、MDL−1またはその任意の部分もしくは断片を細胞表面に発現する任意の細胞と複合体を形成する、抗MDL−1抗体またはその断片も含む。そのような複合体は、抗体または抗体断片をMDL−1またはMDL−1断片と接触させることによって作製することができる。
【0103】
一実施形態では、MDL−1に対する完全にヒトのモノクローナル抗体は、マウス系ではなくヒト免疫系の部品を運ぶトランスジェニックマウスを用いて生成される。本明細書で「HuMAb」マウスと呼んでもよいこれらのトランスジェニックマウスは、再編成されていないヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座を、内因性のμおよびκ鎖遺伝子座を不活性化する標的突然変異と一緒に含む(Lonberg, N.ら、(1994年)Nature368巻(6474号):856〜859頁)。これらの抗体は、完全ヒト抗体とも呼ばれる。したがって、マウスは、マウスIgMまたはκの減少した発現を示し、免疫化に応じて、導入されたヒト重鎖および軽鎖の導入遺伝子はクラススイッチおよび体細胞性突然変異を経て、高親和性ヒトIgGκモノクローナル抗体を生成する(Lonberg, N.ら、(1994年)上記、Lonberg, N.(1994年)Handbook of Experimental Pharmacology113巻:49〜101頁に概説されている、Lonbergら、(1995年)Intern.Rev. Immunol.13巻:65〜93頁およびHardingら、(1995年)Ann. N. Y Acad. Sci764巻:536〜546頁)。HuMabマウスの調製は、当技術分野で一般に知られており、例えば、Taylorら、(1992年)Nucleic Acids Research20巻:6287〜6295頁、Chenら、(1993年)International Immunology5巻:647〜656頁、Tuaillonら、(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci USA90巻:3720〜3724頁、Choiら、(1993年)Nature Genetics4巻:117〜123頁、Chenら、(1993年)EMBO J.12巻:821〜830頁、Tuaillonら、(1994年)J Immunol.152巻:2912〜2920頁、Lonbergら、(1994年)Nature368巻(6474号):856〜859頁、Lonberg, N.(1994年)Handbook of Experimental Pharmacology113巻:49〜101頁、Taylorら、(1994年)International Immunology6巻:579〜591頁、Lonbergら、(1995年)Intern. Rev. Immunol.第13巻:65〜93頁、Hardingら、(1995年)Ann. N. Y Acad. Sci764巻:536〜546頁、Fishwildら、(1996年)Nature Biotechnology14巻:845〜851頁およびHardingら、(1995年)Annals NY Acad. Sci.764巻:536〜546頁に記載され、これらのすべての内容は、参照により完全に本明細書に組み込まれる。さらに、そのすべての開示は参照により完全に本明細書に組み込まれる、米国特許第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,789,650号、第5,877,397号、第5,661,016号、第5,814,318号、第5,874,299号、第5,770,429号および第5,545,807号、ならびに、国際特許出願国際公開第98/24884号、国際公開第94/25585号、国際公開第93/12227号、国際公開第92/22645号および国際公開第92/03918号を参照のこと。
【0104】
MDL−1に対する完全ヒトモノクローナル抗体を生成するために、Lonbergら、(1994年)Nature368巻(6474号):856〜859頁、Fishwildら、(1996年)Nature Biotechnology14巻:845〜851頁および国際公開第98/24884号に記載されているように、HuMabマウスを抗原性のMDL−1ポリペプチドで免疫化することができる。好ましくは、マウスは最初の免疫の際に、6〜16週齢である。例えば、MDL−1の精製調製物を用いて、腹腔内経路でHuMabマウスを免疫化することができる。マウスは、MDL−1遺伝子で安定して形質転換またはトランスフェクトされた完全体細胞で免疫化することもできる。
【0105】
一般に、最初に完全フロイントアジュバント中の抗原で腹腔内経路(IP)により免疫化し、続いて不完全フロイントアジュバント中の抗原で隔週にIPにより免疫化(通常、合計6回まで)する場合、HuMAbトランスジェニックマウスはよく応答する。マウスは、先ずMDL−1を発現する細胞で、次にMDL−1の溶解性断片で免疫化することができ、その2つの抗原による交互の免疫化を連続して受けることができる。免疫応答は、免疫化プロトコルの間、眼窩後採血によって得られる血漿試料でモニタリングすることができる。血漿は、例えばELISAによって、抗MDL−1抗体の存在についてスクリーニングすることができ、十分な力価の免疫グロブリンを有するマウスを融合のために用いることができる。マウスは、屠殺および脾臓の除去の3日前に、静注により抗原で増強することができる。各抗原につき、2〜3回の融合を実施する必要があり得ると予想される。各抗原のために、数匹のマウスを免疫化することができる。例えば、HC07およびHC012系統の、合計12匹のHuMAbマウスを免疫化することができる。
【0106】
モノクローナル抗MDL−1抗体を生成するハイブリドーマ細胞は、当技術分野で一般に知られている方法によって生成することができる。これらの方法には、それらに限定されないが、当初Kohlerら、(1975年)(Nature256巻:495〜497頁)によって開発されたハイブリドーマ技術、ならびに、トリオーマ技術(Heringら、(1988年)Biomed. Biochim. Acta.47巻:211〜216頁およびHagiwaraら、(1993年)Hum. Antibod. Hybridomas4巻:15頁)、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、(1983年)Immunology Today4巻:72頁およびCoteら、(1983年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A80巻:2026〜2030頁)およびEBV−ハイブリドーマ技術(Coleら、掲載書Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.、77〜96頁、1985年の中に掲載)が含まれる。好ましくは、マウス脾細胞を単離し、標準のプロトコルに基づいてマウス骨髄腫細胞系とPEGで融合させる。生じたハイブリドーマは、次に、抗原特異抗体の生成についてスクリーニングすることができる。例えば、免疫化マウスからの脾リンパ球の単一細胞懸濁物を、1/6の数のP3X63−Ag8.653非分泌マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL1580)と、50%PEGで融合させることができる。細胞は、平底マイクロタイタープレートに1mLあたりの細胞数約2×10個をまき、続いて20%胎仔クローン血清、18%「653」ならし培地、5%オリゲン(origen)(IGEN)、4mM L−グルタミン、1mM L−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50単位/mlのペニシリン、50mg/mlのストレプトマイシン、50mg/mlのゲンタマイシンおよび1×HAT(Sigma、HATは融合から24時間後に加える)を含む選択培地で2週間インキュベートすることができる。2週間後、HATがHTで置換されている培地で細胞を培養することができる。次に、個々のウェルをヒト抗MDL−1モノクローナルIgG抗体について、ELISAでスクリーニングすることができる。大量のハイブリドーマ増殖が発生すると、培地を通常10〜14日後に観察してよい。抗体分泌ハイブリドーマを再び平板培養して再度スクリーニングすることができ、ヒトIgGにまだ陽性である場合、抗MDL−1モノクローナル抗体は、限界希釈することによって少なくとも2回サブクローニングすることができる。次に、安定したサブクローンをインビトロで培養し、特性評価のために組織培養培地で少量の抗体を生成することができる。
【0107】
本発明の抗MDL−1抗体分子は、組換えで(例えば、上記のようなE.coli/T7発現系で)生成することもできる。この実施形態では、本発明の抗体分子(例えば、VまたはV)をコードする核酸を、pETベースのプラスミドに挿入し、E.coli/T7系で発現させることができる。組換え抗体を生成するための、当技術分野で公知であるいくつかの方法がある。組換えによる抗体生成の方法の1つの例は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,816,567号に開示されている。形質転換は、ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための、任意の公知の方法によってもよい。哺乳動物細胞への異種ポリヌクレオチドの導入方法は当技術分野で周知であり、その例には、デキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介トランスフェクション、原形質体融合、エレクトロポレーション、リポソーム中へのポリヌクレオチドの封入、微粒子銃注入および核へのDNAの直接微量注入が含まれる。さらに、ウイルスベクターによって核酸分子を哺乳動物細胞に導入することができる。細胞の形質転換方法は、当技術分野で周知である。例えば、米国特許第4,399,216号、第4,912,040号、第4,740,461号および第4,959,455号を参照のこと。
【0108】
発現のための宿主として利用可能な哺乳動物の細胞系は当技術分野で周知であり、例には、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系が含まれる。これらには、とりわけ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NSO、SP2細胞、HeLa細胞、乳児ハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、A549細胞、3T3細胞および多くの他の細胞系が含まれる。哺乳動物の宿主細胞には、ヒト、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマおよびハムスターの細胞が含まれる。特に好ましい細胞系は、どの細胞系が高い発現レベルを有するか判定することを通して選択される。用いることができる他の細胞系は、Sf9細胞などの昆虫細胞系、両生類の細胞、細菌細胞、植物細胞および真菌細胞である。重鎖またはその抗原結合断片、軽鎖および/またはその抗原結合断片をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物の宿主細胞に導入する場合、宿主細胞での抗体の発現、または、より好ましくは、宿主細胞が増殖する培地中への抗体の5分泌を可能にするのに十分な期間、宿主細胞を培養することによって抗体を生成する。
【0109】
抗体は、標準のタンパク質精製方法を用いて培地から回収することができる。さらに、産生細胞系からの本発明の抗体(またはそれに由来する他の部分)の発現は、多くの既知の技術を用いて高めることができる。例えば、グルタミンシンテターゼ遺伝子発現系(GS系)は、ある条件下で発現を高めるための一般的な手法である。GS系は、欧州特許第0 216 846号、第0 256 055号および第0 323 997号、ならびに欧州特許出願第89303964.4号に関連して、全部または一部が議論されている。
【0110】
異なる細胞系によって、またはトランスジェニック動物で発現した抗体は、お互いに異なるグリコシル化を有する可能性がある。しかし、本明細書で提供される核酸分子によってコードされるか、または本明細書で提供されるアミノ酸配列を含むすべての抗体は、抗体のグリコシル化に関係なく、本発明の一部である。
【0111】
本発明の範囲内の抗体断片、好ましくは抗原結合性抗体断片には、IgGの、例えばペプシンによる酵素切断によって生成することができるF(ab)断片も含まれる。Fab断片は、例えば、ジチオスレイトールまたはメルカプトエチルアミンによるF(ab)の還元によって生成することができる。Fab断片は、ジスルフィド架橋によってV−CH1鎖に付加された、V−C鎖である。F(ab)断片は、今度は2つのジスルフィド架橋によって付加される2つのFab断片である。F(ab)分子のFab部分はF領域の一部を含み、それらの間にはジスルフィド架橋が位置する。
【0112】
周知のように、完全な抗原認識および結合部位を含む最小限の抗体断片であるFvは、非共有結合で連結した1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメイン(V−V)の二量体からなる。天然の抗体で見られるものに対応するこの構造では、各可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)が相互作用して、V−V二量体の表面の抗原結合部位を規定する。一緒になって、6つのCDRは、抗体に抗原結合特異性を付与する。CDRに隣接するフレームワーク(FR)は、ヒトおよびマウスと同じくらい多様な種の天然の免疫グロブリンで基本的に保存されている三次構造を有する。これらのFRは、CDRをそれらの適当な配向性で保持する役目を果たす。定常ドメインは結合機能に必要ではないが、V−V相互作用を安定させる手助けをすることができる。単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRだけを含むFvの半分)でさえも、抗原を認識して結合する能力を有するが、親和性は完全な結合部位よりも通常低い。(Painter、Biochem.11(1972年)、1327〜1337頁)。したがって、本発明で定義、記載される抗体構築物の結合部位の前記ドメインは、異なる免疫グロブリンのV−V、V−VまたはV−Vドメインの対であることができる。ポリペプチド鎖の中のVおよびVドメインの順序は本発明に決定的ではなく、本明細書の上に記載のドメインの順序は、通常いかなる機能の喪失もなしに逆転させることができる。しかし、抗原結合部位が正しく折り畳まれるように、VおよびVドメインを配置することが重要である。Fv断片は、VまたはV部である。
【0113】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンを異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンの少なくとも5つの主要なクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG−1、IgG−2、IgG−3およびIgG−4;IgA−1およびIgA−2にさらに分類することができる。
【0114】
本発明の抗MDL−1抗体分子またはMDL−1溶解性タンパク質は、化学部分とコンジュゲートさせることもできる。化学部分は、とりわけ、重合体、放射性核種または細胞傷害因子であることができる。好ましくは、化学部分は、対象の体内での抗体分子の半減期を長くする重合体である。適するポリマーには、それらに限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)(例えば、分子量2kDa、5kDa、10kDa、12kDa、20kDa、30kDaまたは40kDaのPEG)、デキストランおよびモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)が含まれる。Leeら、(1999年)(Bioconj. Chem.10巻:973〜981頁)は、PEG結合単鎖抗体を開示する。Wenら、(2001年)(Bioconj. Chem.12巻:545〜553頁)は、放射性金属キレート剤(ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA))に結合しているPEGと抗体をコンジュゲートさせることを開示する。
【0115】
本発明の抗体および抗体断片、またはMDL−1溶解性タンパク質もしくはその断片は、99Tc、90Y、111In、32P、14C、125I、H、131I、11C、15O、13N、18F、35S、51Cr、57To、226Ra、60Co、59Fe、57Se、152Eu、67CU、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pd、234Th、および40K、157Gd、55Mn、52Trおよび56Feなどの標識とコンジュゲートさせることもできる。
【0116】
本発明の抗体および抗体断片、MDL−1溶解性タンパク質、MDL−1融合タンパク質またはその断片は、蛍光または化学発光標識、例えば、希土類キレートなどの蛍光団、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、イソチオシアネート、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド、フルオレサミン、152Eu、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェリン、ルミナル標識、イソルミナル標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジミウム塩標識、シュウ酸エステル標識、エクオリン標識、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、ビオチン/アビジン、スピン標識および安定フリーラジカルとコンジュゲートさせることもできる。
【0117】
抗体分子または溶解性のMDL−1タンパク質は、細胞傷害因子、例えば、ジフテリア毒素、Pseudomonas aeruginosa外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α−サルシン、Aleurites fordiiタンパク質および化合物(例えば、脂肪酸)、ダイアンシンタンパク質、Phytoiacca americanaタンパク質PAPI、PAPII、およびPAP−S、momordica charantia阻害剤、クルシン、クロチン、saponaria officinalis阻害剤、マイトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシンおよびエノマイシンとコンジュゲートさせることもできる。
【0118】
本発明の抗体分子またはタンパク質分子を様々な部分とコンジュゲートさせるための、当技術分野で公知である任意の方法を用いることができ、その例には、Hunterら、(1962年)Nature144巻:945頁、Davidら、(1974年)Biochemistry13巻:1014頁、Painら、(1981年)J. Immunol. Meth.40巻:219頁、およびNygren, J.、(1982年)Histochem. and Cytochem.30巻:407頁によって記載されている方法が含まれる。抗体およびタンパク質をコンジュゲートさせる方法は従来から用いられており、当技術分野で周知である。
【0119】
本発明のMDL−1ペプチドの抗原性(すなわち、免疫原性)断片は、本発明の範囲内である。免疫原として用いるために、融合または共有結合されたポリペプチドなど、抗原性断片を他の物質に結合することができる。抗原性ペプチドは、MDL−1またはその任意の断片を認識する抗体分子を調製するために有用であろう。抗原およびその断片は、キーホールリンペットヘモシニアン、ウシ血清アルブミンまたはオボアルブミンなど、様々な免疫原と融合または共有結合することができる(Coliganら(1994年)Current Protocols in Immunol.、第2巻、9.3〜9.4、John Wiley and Sons、New York、NY)。適する抗原性のペプチドは、アルゴリズムを用いてポリペプチド標的から選択することができる。例えば、Parkerら(1986年)Biochemistry25巻:5425〜5432頁、JamesonおよびWolf(1988年)Cabios4巻:181〜186頁、HoppおよびWoods(1983年)Mol. Immunol.20巻:483〜489頁を参照のこと。
【0120】
必ずしも必要でないが、免疫適格宿主で抗体産生を引き出すための抗原としてMDL−1ペプチドを用いる場合、好ましくは先ず、架橋もしくは連結によって、または、免疫原性担体分子(すなわち、宿主動物で免疫応答を独立して引き出す特性を有する高分子、例えばジフテリア毒素または破傷風)への結合によって、より小さな抗原性断片をより免疫原性にする。小さなポリペプチド断片は時々ハプテン(抗体に特異的に結合することができるが、抗体産生を引き出すことができない、すなわち、免疫原性でない分子)として作用するので、担体分子への架橋またはコンジュゲーションが必要かもしれない。免疫原性担体分子へのそのような断片のコンジュゲーションは、一般に「担体効果」として知られるものを通してそれらをより免疫原性にする。
【0121】
担体分子には、例えば、タンパク質および天然もしくは合成の重合体化合物、例えばポリペプチド、多糖類、リポ多糖類などが含まれる。それらに限定されないが、キーホールリンペットヘモシニアンおよび哺乳動物の血清タンパク質、例えばヒトもしくはウシのガンマグロブリン、ヒト、ウシもしくはウサギの血清アルブミン、または、そのようなタンパク質のメチル化誘導体もしくは他の誘導体を含む、タンパク質担体分子が特に好ましい。他のタンパク質担体は、当分野の技術者にとって明らかとなる。好ましくは、タンパク質担体は、断片に対する抗体が引き出される宿主動物に対して外来性である。
【0122】
担体分子への共有結合は、当技術分野で周知の方法を用いて達成することができ、その正確な選択は、用いる担体分子の性質によって決定される。免疫原性担体分子がタンパク質である場合、本発明の断片は、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの水溶性カルボジイミドまたはグルタルアルデヒドを用いて結合することができる。
【0123】
これらなどの結合剤は、別の担体分子を使わずにそれら自身に断片を架橋させるために用いることもできる。凝集体へのそのような架橋も、免疫原性を高めることができる。免疫原性は、既知のアジュバントを単独で、または、結合もしくは凝集と組み合わせて用いることによっても、高めることができる。
【0124】
動物のワクチン接種のためのアジュバントには、それらに限定されないが、アジュバント65(落花生油、モノオレイン酸マンニドおよびモノステアリン酸アルミニウムを含む)、フロイントの完全もしくは不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびミョウバンなどのミネラルゲル、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、リゾレシチン、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(2−ヒドロキシメチル)プロパンジアミン、メトキシヘキサデシルグリセロールおよびプルロニックポリオールなどの界面活性剤、ピラン、デキストラン硫酸、ポリIC、ポリアクリル酸およびカルボポールなどのポリアニオン、ムラミルジペプチド、ジメチルグリシンおよびタフトシンなどのペプチド、ならびに油乳濁液が含まれる。ポリペプチドは、リポソームまたは他のマイクロキャリアへ組み込んだ後に投与することもできる。
【0125】
アジュバントおよび様々な態様のイムノアッセイに関する情報は、例えば、P. Tijssen、Practice and Theory of Enzyme Immunoassays、第3版、1987年、Elsevier、New Yorkによるシリーズに開示されている。ポリクローナル抗血清を調製する方法を掲載する他の有用な参考文献には、Microbiology、1969年、Hoeber Medical Division、Harper and Row、Landsteiner、Specificity of Serological Reactions、1962年、Dover Publications、New YorkおよびWilliamsら、Methods in Immunology and Immunochemistry、第1巻、1967年、Academic Press、New Yorkが含まれる。
【0126】
本発明の抗MDL−1「抗体分子」には、それらに決して限定されないが、抗MDL−1抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体および抗イディオタイプ抗体)およびその断片、好ましくはその抗原結合性断片、例えば、Fab抗体断片、F(ab)抗体断片、Fv抗体断片(例えば、VもしくはV)、単鎖Fv抗体断片およびdsFv抗体断片が含まれる。さらに、本発明の抗体分子は、完全にヒトの抗体、マウス抗体、ウサギ抗体、ニワトリ抗体、ヒト/マウスキメラ抗体またはヒト化抗体であってよい。
【0127】
本発明の抗MDL−1抗体分子は、好ましくは本発明のヒトまたはマウスのMDL−1ペプチドを認識する。しかし、本発明は、異なる種、好ましくは哺乳動物(例えば、ブタ、ラット、ウサギ、ヒツジまたはイヌ)からのMDL−1ペプチドを認識する抗体分子を含む。
【0128】
本発明は、本発明のMDL−1ペプチドおよび1つまたは複数の抗体分子、例えば二機能性抗体を含む複合体も含む。そのような複合体は、単に抗体分子をその同類のペプチドと接触させることによって作製することができる。
【0129】
本発明の抗体分子を作製するために、様々な方法を用いることができる。好ましい実施形態では、本発明の抗体は、米国特許第5,625,126号、第5,877,397号、第6,255,458号、第6,023,010号および第5,874,299号に開示されているものに類似の方法で生成される。次に、モノクローナルの完全ヒト抗MDL−1ペプチド抗体を生成するハイブリドーマ細胞を、当技術分野で一般に知られている方法によって生成することができる。これらの方法には、それらに限定されないが、当初Kohlerら、(1975年)(Nature256巻:495〜497頁)によって開発されたハイブリドーマ技術、ならびに、トリオーマ技術(Heringら、(1988年)Biomed. Biochim. Acta.47巻:211〜216頁およびHagiwaraら、(1993年)Hum. Antibod. Hybridomas4巻:15頁)、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、(1983年)Immunology Today4巻:72頁およびCoteら、(1983年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.80巻:2026〜2030頁)およびEBV−ハイブリドーマ技術(Coleら、掲載書Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.、77〜96頁、1985年)が含まれる。前と同じく、ハイブリドーマ細胞が抗MDL−1ペプチド抗体を発現しているか否かを判定するために、ELISAを用いることができる。
【0130】
抗原の精製は、抗体の生成のために必要ではない。免疫化は、DNAベクター免疫化によって実施することができる。例えば、Wang、ら(1997年)Virology228巻:278〜284頁を参照のこと。あるいは、対象とする抗原を有する細胞で、動物を免疫化することができる。次に、脾細胞を免疫化動物から単離することができ、脾細胞を骨髄腫細胞系と融合させてハイブリドーマを生成することができる(Meyaardら(1997年)Immunity7巻:283〜290頁、Wrightら(2000年)Immunity13巻:233〜242頁、Prestonら(1997年)Eur. J. Immunol.27巻:1911〜1918頁)。生じたハイブリドーマは、機能アッセイまたはバイオアッセイ、すなわち、精製された抗原の保有に依存しないアッセイによって、所望の抗体の生成についてスクリーニングすることができる。細胞による免疫化は、精製された抗原による免疫化よりも、抗体生成に関して優れていることを証明することができる(Kaithamanaら(1999年)J. Immunol.163巻:5157〜5164頁)。
【0131】
抗体と抗原およびリガンドと受容体の結合特性は、例えば、表面プラズモン共鳴(Karlssonら(1991年)J. Immunol. Methods145巻:229〜240頁、Ncriら(1997年)Nat. Biotechnol.15巻:1271〜1275頁、Jonssonら(1991年)Biotechniques11巻:620〜627頁)によって、または、競合ELISA(Friguetら(1985年)J. Immunol. Methods77巻:305〜319頁、Hubble(1997年)Immunol. Today18巻:305〜306頁)によって測定することができる。抗体は、抗体の標的抗原および関連する結合タンパク質を単離するために、アフィニティー精製で用いることができる。例えば、Wilchekら(1984年)Meth. Enzymol.104巻:3〜55頁を参照のこと。
【0132】
MDL−1の変異体と特異的に結合する抗体は、その変異体が本明細書で挙げるものと実質的に同じ核酸およびアミノ酸配列を有するが、核酸またはアミノ酸配列の機能的態様に実質的に影響を及ぼさない置換を有する場合、企図する方法の定義の範囲内である。これらの核酸およびポリペプチドの生物学的機能を実質的に変化させない領域のトランケーション、欠失、付加および置換を有する変異体は、企図する方法の定義の範囲内である。
【0133】
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、MDL−1の2つの異なるエピトープに結合することができる。あるいは、二重特異性MDL−1抗体は、別の抗原、例えば、DC−SIGN、CD20、RANK−Lなどに結合することができる。
【0134】
二重特異性抗体の作製方法は、当技術分野で公知である。完全長二重特異性抗体の従来の生成は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づき、そこでは、2つの鎖は異なる特異性を有する(MillsteinらNature、305巻:537〜539頁(1983年))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖のランダムな組合せのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10個の異なる抗体分子の可能な混合物を生成し、その1つだけが正しい二重特異性構造を有する。アフィニティークロマトグラフィー工程によって通常実施される正しい分子の精製は、かなり厄介であり、生成物の収率は低い。類似した方法が、国際公開第93/08829号、および、TrauneckerらEMBO J、10巻:3655〜3659頁(1991年)に開示されている。
【0135】
別の手法によると、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体−抗原結合部位)は、免疫グロブリンの定常ドメイン配列と融合される。融合は、好ましくは、ヒンジ、CH2およびCH3の領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリンの重鎖定常ドメインを用いてである。融合の少なくとも1つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含む、第一の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合および、所望により、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入し、適する宿主生物体にコトランスフェクトさせる。構築で用いられる3つのポリペプチド鎖の不均等な比率が最適な収量を提供する実施形態では、これは、3つのポリペプチド断片の相互比率の調節において、大きな柔軟性を提供する。しかし、同比率の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率をもたらすか、または、それらの比率が特に重要でない場合、2つまたは全3つのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0136】
この手法の好ましい実施形態では、二重特異性抗体は、一方の腕の第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)で構成される。二重特異性分子の半分だけに免疫グロブリン軽鎖が存在することが容易な分離方法を提供するので、この非対称の構造が、望ましくない免疫グロブリン鎖組合せからの所望の二重特異性化合物の分離を促進することが判明した。この手法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体の生成のさらなる詳細については、例えば、SureshらMethods in Enzymology、121巻:210頁(1986年)を参照のこと。
【0137】
米国特許第5,731,168号に記載されている別の手法によると、抗体分子の対の間の界面は、組換え細胞培養物から回収されるヘテロダイマーの割合を最大にするように設計することができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのC3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第一の抗体分子の界面からの1つまたは複数の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)で置換される。大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えばアラニンまたはスレオニン)で置換することによって、大きな側鎖と同一であるか類似したサイズの代償性の「空洞」が第二の抗体分子の界面で形成される。これは、ホモダイマーなどの他の望ましくない最終生成物よりも、ヘテロダイマーの収量を増加させるための機構を提供する。
【0138】
二重特異性抗体は、架橋したまたは「ヘテロコンジュゲート」の抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの抗体の1つをアビジンに、他をビオチンに結合することができる。そのような抗体は、例えば、免疫系細胞が望ましくない細胞を標的にするよう目論まれ(米国特許第4,676,980号)、さらに、HIV感染症の治療のために提案された(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号および欧州特許第03089号)。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の便利な架橋法を用いて作製することができる。適する架橋剤が当技術分野で周知であり、米国特許第4,676,980号には、多くの架橋技術とともに開示されている。
【0139】
抗体断片から二重特異性抗体を生成する技術も、文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製することができる。BrennanらScience、229巻:81頁(1985年)は、無傷の抗体がタンパク分解的に切断されてF(ab’)断片を生成する方法を記載する。これらの断片は、近接のジチオールを安定させ、分子間ジスルフィド形成を阻止するために、ジチオール錯化剤亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元される。生成されるFab’断片は、次にチオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換される。Fab’−TNB誘導体の1つは、次にメルカプトエチルアミンによる還元によってFab’−チオールに再変換され、等モル量の他方のFab’−TNB誘導体と混合されて二重特異性抗体を形成する。生成される二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための作用物質として用いることができる。
【0140】
最近の進歩は、E.coliからのFab’−SH断片の直接回収を容易にし、それを化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalabyら(1992年)J. Exp. Med.、175巻:217〜225頁は、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)分子の生成を記載する。各Fab’断片はE.coliから別々に分泌され、インビトロ定方向化学結合を経て二重特異性抗体を形成した。このように形成された二重特異性抗体は、ErbB2受容体を過剰発現する細胞および正常なヒトT細胞に結合することができ、加えて、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発することができた。
【0141】
二重特異性抗体断片を、組換え細胞培養物から直接作製、単離するための様々な技術も記載されている。例えば、ロイシンジッパーを用いて二重特異性抗体が生成されている。Kostelnyら(1992年)J. Immunol.、148巻(5号):1547〜1553頁。FosおよびJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合により2つの異なる抗体のFab’部分に連結された。抗体ホモダイマーは、ヒンジ領域で還元されて単量体を形成し、次に、再酸化されて抗体ヘテロダイマーを形成した。この方法は、抗体ホモダイマーの生成のために利用することもできる。Hollingerら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻:6444〜6448頁によって記載された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作製するための代替機構を提供した。これらの断片は、同じ鎖の上で2つのドメインの間で対を形成させるには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(V)に連結されている、重鎖可変ドメイン(V)を含む。したがって、1つの断片のVおよびVドメインは、別の断片の相補的VおよびVドメインとの対形成を強制され、それによって2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)二量体を用いて二重特異性抗体断片を作製する、別の方策も報告されている。Gruberら(1994年)J. Immunol.、152巻:5368頁を参照のこと。
【0142】
2つを超える結合価を有する抗体が、企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuttら(1991年)J. Immunol.147巻:60頁。
【0143】
(抗体結合アッセイ)
本発明の抗体は、当技術分野で公知である任意の方法によって、免疫特異的結合について試験することができる。用いることができるイムノアッセイには、少し例を挙げれば、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体固定アッセイ、免疫放射アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの技術を用いる、競合的および非競合的アッセイ系が含まれるが、これらに限定されるものではない。そのようなアッセイは常用され、当技術分野で周知である(例えば、参照により本明細書に全体的に組み込まれている、Ausubelら編、1994年、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkを参照)。例示的なイムノアッセイを、下に簡潔に記載する(しかし、限定するものではない)。
【0144】
一般に、免疫沈降プロトコルは、細胞の集団を、タンパク質ホスファターゼおよび/またはプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジウム酸ナトリウム)を加えたRIPA緩衝液(1%NP−40またはトリトンX−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15MのNaCl、pH7.2の0.01Mリン酸ナトリウム、1%Trasylol)などの溶解緩衝液で溶解し、細胞溶解物に対象とする抗体を加え、4℃でしばらくの間(例えば、1〜4時間)インキュベートし、プロテインAおよび/またはプロテインGセファロースビーズを細胞溶解物に加え、4℃で約1時間以上インキュベートし、溶解緩衝液でビーズを洗浄し、ビーズをSDS/試料緩衝液で再懸濁することを含む。特定の抗原を免疫沈降させる対象とする抗体の能力は、例えば、ウェスタンブロット分析によって試験することができる。当業者は、抗原に対する抗体の結合を増加させ、バックグラウンドを減少させる(例えば、セファロースビーズで細胞溶解物を事前に清浄する)ために修飾することができるパラメータに関して知っているであろう。免疫沈降プロトコルに関するさらなる議論については、例えば、Ausubelら編、1994年、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkの10.16.1を参照のこと。
【0145】
一般に、ウェスタンブロット分析は、タンパク質試料の調製、ポリアクリルアミドゲル(例えば、抗原の分子量によって8%〜20%のSDS−PAGE)でのタンパク質試料の電気泳動、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDFまたはナイロンなどの膜へタンパク質試料を転写すること、ブロック溶液(例えば、3%BSAまたは脱脂乳を含むPBS)で膜をブロックすること、洗浄緩衝液(例えば、PBS−Tween 20)で膜を洗浄すること、ブロック緩衝液で希釈した一次抗体(対象とする抗体)で膜をブロックすること、洗浄緩衝液で膜を洗浄すること、ブロック緩衝液で希釈した酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)または放射性分子(例えば、32Pもしくは125I)とコンジュゲートさせた二次抗体(一次抗体、例えば抗ヒト抗体を認識する)で膜をブロックすること、洗浄緩衝液で膜を洗浄すること、および抗原の存在を検出することを含む。検出されるシグナルを増加させ、バックグラウンドノイズを低減させるために修飾することができるパラメータに関して、当業者は知っているであろう。ウェスタンブロットプロトコルに関するさらなる議論については、例えば、Ausubelら編、1994年、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkの10.8.1を参照のこと。
【0146】
ELISAは、抗原を調製し、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルを抗原でコーティングし、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)などの検出可能な化合物とコンジュゲートさせた対象とする抗体をウェルに加え、しばらくの間インキュベートし、抗原の存在を検出することを含む。ELISAでは、対象とする抗体は、検出可能な化合物とコンジュゲートさせる必要はなく、代わりに、検出可能な化合物とコンジュゲートされた二次抗体(対象とする抗体を認識する)をウェルに加えることができる。さらに、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、抗体をウェルにコーティングしてもよい。この場合、検出可能な化合物とコンジュゲートさせた二次抗体を、対象とする抗原をコーティングされたウェルに加えた後に加えてもよい。検出されるシグナルを増加させるために修飾することができるパラメータ、ならびに、当分野で公知のELISAの他の変形形態に関して、当業者は知っているであろう。ELISAに関するさらなる議論については、例えば、Ausubelら編、1994年、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkの11.2.1を参照のこと。
【0147】
抗原に対する抗体の結合親和性および抗体抗原相互作用の解離速度は、競合結合アッセイによって決定することができる。競合結合アッセイの1つの例は、漸増する量の非標識抗原の存在下での標識抗原(例えば、3Hまたは125I)と対象とする抗体とのインキュベーション、および標識抗原に結合した抗体の検出を含むラジオイムノアッセイである。特定の抗原に対する対象とする抗体の親和性および結合解離速度は、スキャチャードプロット分析によるデータから決定することができる。二次抗体による競合も、ラジオイムノアッセイを用いて決定することができる。この場合、抗原は、漸増する量の非標識二次抗体の存在下で、標識化合物(例えば、3Hまたは125I)とコンジュゲートさせた対象とする抗体とインキュベートされる。
【0148】
別の抗原と比較して1つの抗原に優先的および特異的に結合する抗体の能力は、当技術分野で公知である任意の方法を用いて決定することができる。それには限定されない実施例として、抗体は、それが第二の抗原に対する抗体のKより小さい解離定数(K)で第一の抗原に結合する場合、第一の抗原に優先的に結合するとみなすことができる。別のそれには限定されない実施形態では、抗体は、それが第二の抗原に対する抗体のKよりも少なくとも1桁小さい親和性(すなわち、K)で第一の抗原に結合する場合、第一の抗原に優先的に結合するとみなすことができる。別のそれには限定されない実施形態では、抗体は、それが第二の抗原に対する抗体のKよりも少なくとも2桁小さい親和性(すなわち、K)で第一の抗原に結合する場合、第一の抗原に優先的に結合するとみなすことができる。
【0149】
別のそれには限定されない実施形態では、抗体は、それが第二の抗原に対する抗体のKoffより小さい解離定数(Koff)で第一の抗原に結合する場合、第一の抗原に優先的に結合するとみなすことができる。別のそれには限定されない実施形態では、抗体は、それが第二の抗原に対する抗体のKoffよりも少なくとも1桁小さいKoffで第一の抗原に結合する場合、第一の抗原に優先的に結合するとみなすことができる。別のそれには限定されない実施形態では、抗体は、それが第二の抗原に対する抗体のKoffよりも少なくとも2桁小さいKoffで第一の抗原に結合する場合、第一の抗原に優先的に結合するとみなすことができる。
【0150】
本発明の抗体は、それらの交差反応性に関して記載または規定することもできる。本発明のポリペプチドの他のいかなる類似体、オルソログまたは相同体にも結合しない抗体が、含まれる。本発明のポリペプチドとの少なくとも100%、少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも97%、少なくとも96%、少なくとも95%、少なくとも94%、少なくとも93%、少なくとも92%、少なくとも91%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、および少なくとも50%の同一性(当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている方法を用いて計算される)でポリペプチドに結合する抗体も、本発明に含まれる。
【0151】
本発明のポリペプチドとの100%未満、99%未満、98%未満、97%未満、96%未満、95%未満、94%未満、93%未満、92%未満、91%未満、90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、および50%未満の同一性(当技術分野で公知であり、本明細書に記載される方法を用いて計算される)でポリペプチドに結合しない抗体も、本発明に含まれる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(本明細書に記載されるような)の下で本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに結合する抗体も、本発明にさらに含まれる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドとの結合親和性に関して記載または規定することもできる。
【0152】
(治療的使用)
本発明は、骨障害の診断および治療のための方法を提供する。本方法は、MDL−1のポリペプチドまたは核酸、例えば、抗体もしくはその抗原結合断片、または溶解性のMDL−1タンパク質または核酸プローブまたはプライマーに特異的な結合性組成物の使用を含むことができる。対照結合性組成物、例えば対照抗体も提供される。例えば、Laceyら(2003年)Arthritis Rheum.48巻:103〜109頁、ChoyおよびPanayi(2001年)New Engl. J. Med.344巻:907〜916頁、GreavesおよびWeinstein(1995年)New Engl. J. Med.332巻:581〜588頁、RobertおよびKupper(1999年)New Engl. J. Med.341巻:1817〜1828頁、Lebwohl(2003年)Lancet361巻:1197〜1204頁を参照のこと。
【0153】
ある実施形態では、MDL−1タンパク質または溶解性のMDL−1タンパク質またはポリペプチドに特異的な抗体を含むMDL−1アンタゴニストは、破骨細胞の形成および活性化を含む骨吸収を妨げるために用いられる。MDL−1アンタゴニストは、骨芽細胞活性化を含む骨形成を誘導するために対象に投与することもできる。骨形成を誘導するために、MDL−1アンタゴニストを単独で、または、下記のように追加の治癒治療標準と併用して投与することができる。
【0154】
第二の治療剤、例えば、サイトカイン、化学療法剤、抗生物質または放射線による同時投与または治療のための方法が、当技術分野で周知である(Hardmanら(編)(2001年)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、第10版、McGraw−Hill、New York、NY、PooleおよびPeterson(編)(2001年)Pharmacotherapeutics for Advanced Practice:A Practical Approach、Lippincott、Williams & Wilkins、Phila.、PA、ChabnerおよびLongo(編)(2001年)Cancer Chemotherapy and Biotherapy、Lippincott、Williams & Wilkins、Phila.、PA)。
【0155】
そのような追加の治療法の例には、破骨細胞関連障害治療剤、化学療法剤、インターフェロンα(例えば、Amarillo Biosciences,Inc.から)、IFN−β−1a(REBIF(登録商標)およびAVONEX(登録商標))もしくはIFN−β−1b(BETASERON(登録商標))などのインターフェロンクラスの薬剤、酢酸グラチラマー(COPAXONE(登録商標))などのオリゴペプチド、CD40−CD40リガンドブロック剤、細胞傷害剤もしくは免疫抑制剤(例えば、ミトキサントロン(NOVANTRONE(登録商標))、メトトレキセート、シクロホスファミド、クロラムブシル、レフルノミドおよびアザチオプリン)、静脈内免疫グロブリン(ガンマグロブリン)、リンパ球減少療法(例えば、ミトキサントロン、シクロホスファミド、CAMPATH(登録商標)抗体、抗CD4、クラドリビン、放射線全身照射、骨髄移植、インテグリンアンタゴニストまたは抗体(例えば、ジェネンテクから市販のエファリズマブ/RAPTIVA(登録商標)などのLEA−1抗体、またはBiogen Idecから入手可能なナタリズマブ/TYSABRI(登録商標)などのα4インテグリン抗体、または上記の他のもの)、コルチコステロイドなどのステロイド(例えば、注射用SOLU−MEDROL(登録商標)コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムなどのメチルプレドニゾロン、低用量プレドニゾン、デキサメタゾンまたはグルココルチコイドなどのプレドニゾン、例えば、全身性のコルチコステロイド治療を含む関節注射)を介して、非リンパ球減少免疫抑制療法(例えば、MMFまたはシクロスポリン)、「スタチン」クラスのコレステロール低下薬(セリバスタチン(BAYCOL(登録商標))、フルバスタチン(LESCOL(登録商標))、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標))、プラバスタチン(PRAVACHOL(登録商標))およびシンバスタチン(ZOCOR(登録商標))を含む)、エストラジオール、テストステロン(任意選択で高い投薬量で、StuveらNeurology8巻:290〜301頁(2002年))、アンドロゲン、ホルモン補充療法、TNF−αに対する抗体などのTNF阻害剤、疾患修飾抗リウマチ剤(DMARD)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、プラズマフェレシスまたは血漿交換、トリメトプリム−スルファメトキサゾール(BACTRIM(登録商標)、SEPTRA(登録商標))、ミコフェノール酸モフェチル、H2遮断薬またはプロトンポンプ阻害剤(潜在的に潰瘍発生性の免疫抑制療法の使用の間)、レボチロキシン、サイクロスポリンA(例えばSANDIMMUNE(登録商標))、ソマタスタチン(somatastatin)類似体、サイトカイン、代謝拮抗物質、免疫抑制剤、リハビリ手術、放射性ヨウ素、甲状腺切除術、BAFFまたはBR3抗体またはイムノアドヘシンなどのBAFFアンタゴニスト、抗CD40受容体または抗CD40リガンド(CD154)、抗IL−6受容体アンタゴニスト/抗体、ヒト化されたまたはヒトのCD20抗体、IL−17および/またはIL−23抗体などのB細胞表面のアンタゴニストまたは抗体が含まれる。ビスホスホネート(例えば、アレンドロネート、イバンドロネート、リセドロネート、炭酸カルシウムを含むリセドロネート、ゾレドロン酸)およびカテプシンK阻害剤を用いる併用療法も含まれる。
【0156】
治療剤の有効量は、一般的に少なくとも10%、通常少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%症状を軽減させる。
【0157】
治療剤の製剤化は、例えば凍結乾燥粉末、スラリー、水溶液または懸濁液の形の生理的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することによって、保存のために調製することができる。例えば、Hardmanら(2001年)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、McGraw−Hill、New York、NY、Gennaro(2000年)Remington: The Science and Practice of Pharmacy、Lippincott、Williams, and Wilkins、New York、NY、Avisら(編)(1993年)Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications、Marcel Dekker、NY、Liebermanら(編)(1990年)Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets、Marcel Dekker、NY、Liebermanら(編)(1990年)Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems、Marcel Dekker、NY、WeinerおよびKotkoskie(2000年)Excipient Toxicity and Safety、Marcel Dekker, Inc.、New York、NYを参照のこと。
【0158】
適当な用量の決定は、例えば、治療に影響を及ぼすことが当技術分野で知られているか疑われているパラメータもしくは因子、または、治療に影響を及ぼすことが予測されるパラメータもしくは因子を用いて、臨床医によってなされる。一般に、用量は最適用量よりいくぶん少ない量から始まり、その後、任意のマイナスの副作用と比較して、所望のもしくは最適な効果が達成されるまで、用量は少量ずつ増加される。重要な診断尺度には、例えば炎症の症状、または生成される炎症性サイトカインのレベルの尺度が含まれる。好ましくは、用いる生物標本は、治療対象の動物と同じ種に由来し、それによって、試薬に対する体液性反応を最小にする。
【0159】
特定の患者のための有効量は、治療する状態、患者の全体的健康状態、投与の方法、経路および用量、ならびに副作用(side affect)の程度などの因子によって変えることができる。組み合わせる場合、有効量は成分の組合せに比例し、効果は個々の成分単独に制限されない。治療および診断の方法のガイダンスが、利用可能である(Maynardら(1996年)A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice、Interpharm Press、Boca Raton、FL、Dent(2001年)Good Laboratory and Good Clinical Practice、Urch Publ.、London、UK)。
【0160】
本発明は、細胞およびコンパートメントを含むキット、細胞および試薬を含むキット、細胞および使用もしくは廃棄のための説明書を含むキット、ならびに、細胞、コンパートメントおよび試薬を含むキットも提供する。
【0161】
(医薬組成物)
本発明の抗体分子、溶解性のMDL−1タンパク質またはMDL−1融合タンパク質は、好ましくは治療目的のために、好ましくは医薬組成物で対象に投与することができる。好ましくは、医薬組成物は薬学的に許容される担体を含む。抗体分子は、MDL−1受容体を標的にし、それによってその受容体によって引き起こされるか媒介される任意の医学的状態を治療するために、(例えば、医薬組成物で)治療的に用いることができる。溶解性のMDL−1タンパク質は、MDL−1受容体リガンドを標的にし、それによってその受容体によって引き起こされるか媒介される任意の医学的状態を治療するために、(例えば、医薬組成物で)治療的に用いることができる。
【0162】
薬学的に許容される担体は従来から用いられており、当技術分野で大変よく知られている。例には、生理的に適合する水性および非水性の担体、安定剤、抗酸化剤、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗微生物剤、緩衝液、血清タンパク質、等張性および吸収遅延性の作用物質などが含まれる。好ましくは、担体は、対象の体内への注射に適する。一般に、そのような薬剤の非経口投与のために有用な組成物は周知である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Science、第17版(Mack Publishing Company、Easton、PA、1990年)。
【0163】
本発明の医薬組成物で使用することができる好適な水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適する混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが含まれる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0164】
本発明の医薬組成物は、第二の医薬組成物または物質と併用して投与することができる。併用療法を用いる場合、両組成物を同時送達のために単一の組成物に製剤化すること、または、2つ以上の組成物に別々に製剤化すること(例えば、キット)ができる。
【0165】
鎮痛薬には、アスピリン、アセトミノフェン(acetominophen)、コデイン、モルヒネ、アポノルフィン(aponorphine)、ノルモルヒネ、エトルフィン、ブプレノルフィン、ヒドロコドン、ラセモルファン、レボルファノール、ブトルファンド(butorphand)、メタドン、デメロール、イブプロフェンまたはオキシコドンを含めることができる。
【0166】
本発明の医薬組成物は、本明細書で記載されるアッセイを用いて同定することができる、小有機分子および阻害性リガンド類似体を含む、他の種類の物質を含むこともできる。
【0167】
製剤は単位剤形で都合よく提供することができ、薬学の分野で周知である任意の方法で調製することができる。例えば、Gilmanら(編)(1990年)、The Pharmacological Bases of Therapeutics、第8版、Pergamon Press、およびRemington’s Pharmaceutical Sciences、前掲、Easton、Penn.、Avisら(編)(1993年)Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications Dekker、New York、Liebermanら(編)(1990年)Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets Dekker、New York、およびLiebermanら(編)(1990年)、Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems Dekker、New Yorkを参照のこと。
【0168】
本明細書のさらなる製剤および送達方法は、例えば、ENHANZE(商標)薬剤送達技術(Halozyme Inc.)を含む、国際公開第2004/078140号に記載されているものを含む。この技術は、組換え体ヒトヒアルロニダーゼ(rHuPH20)に基づく。rHuPH20は、皮膚などの組織のマトリックスの空間を一時的に清浄にする、FDAに承認された天然のヒト酵素の組換え形態である。すなわち、酵素は、体全体の組織の主要な成分である空間充填「ゲル」様物質である、ヒアルロン酸(HA)を分解する能力を有する。この清浄活性は、皮下空間を通して治療分子が入るのを強化することによって、rHuPH20が治療剤の薬剤送達および生物学的利用率を改善することを可能にすると予想される。したがって、ある注射可能な薬剤と組み合わされるか同時製剤化される場合、この技術は、皮膚下の流路を一時的に開放してこれらの薬剤の浸透および分散を促進する、「分子なた」の働きをすることができる。200ナノメートルくらいの大きさの分子は、有孔細胞外マトリックスを自由に通過することができ、それは、約24時間以内にその正常な密度に回復し、皮膚のアーキテクチャを恒久的に変化させることはない薬剤送達プラットホームをもたらす。
【0169】
したがって、本発明は、本明細書のMDL−1抗体または溶解性のMDL−1タンパク質を、過剰な量のグリコサミノグリカンを含む組織に送達する方法を含み、その方法は、ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)(このタンパク質は、中性活性溶解性のヒアルロニダーゼポリペプチドおよび少なくとも1つのN連結糖部分を含み、N連結糖部分はポリペプチドのアスパラギン残基に共有結合されている)を、直径約500ナノメートル未満のチャネルを開放するためグリコサミノグリカンを十分に分解させるのに十分な量で組織に投与すること、および、分解されたグリコサミノグリカンを含む組織に抗体または溶解性のタンパク質を投与することを含む。
【0170】
別の実施形態では、本発明は、対象に投与される本明細書の抗体または溶解性タンパク質の拡散を増加させる方法を含み、その方法は、sHASEGPポリペプチドを、抗体の直径より小さなチャネルを開放または形成するのに十分な量で対象に投与し、さらに抗体を投与し、それによって治療物質の拡散を増加させることを含む。sHASEGPおよび抗体は、別々に、または1つの製剤で同時に、および、いずれかの順序で連続して、または同時に投与することができる。
【0171】
治療適用にかかわる投薬計画は、治療物質の作用を修飾することができる様々な因子、例えば、患者の状態、体重、性別および食事、あらゆる感染症の重症度、投与の時間および他の臨床上の因子を考慮して、医師が決定することができる。
【0172】
しばしば、治療投薬量は、安全性および有効性を最適化するために、低レベルから上へ用量設定される。投薬量は、より小さな分子の大きさ、および、おそらく減少した投与後の半減期(クリアランス時間)を償うために調節してもよい。
【0173】
そのような物質の治療的投与のための一般的なプロトコルは、当技術分野で周知である。本発明の医薬組成物は、例えば、非経口経路(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、腫瘍内注射または注入)によって、または、非非経口経路(例えば、経口投与、肺投与または局所投与)によって投与することができる。
【0174】
組成物は、当技術分野で公知である医療器具で投与することができる。例えば、好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、皮下針での注射によって投与することができる。
【0175】
本発明の医薬組成物は、無針皮下注射器具、例えば、米国特許第5,399,163号、第5,383,851号、第5,312,335号、第5,064,413号、第4,941,880号、第4,790,824号または第4,596,556号に開示されている器具で投与することもできる。
【0176】
本発明で有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御された速度で医薬品を注入するための移植可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号、正確な注入速度で医薬品を送達するための医薬品注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号、連続的薬剤送達のための可変流量の移植可能な注入装置を開示する米国特許第4,447,224号、多室コンパートメントを有する浸透圧薬剤送達系を開示する米国特許第4,439,196号が含まれる。
【0177】
(アンチセンス分子)
本発明は、本発明のMDL−1ペプチドをコードし、核酸の発現を阻止するために好ましくは配列番号2もしくは4のいずれかによって定義されるアミノ酸配列またはその部分配列を有する核酸(例えば、ゲノムDNAまたはmRNA)と特異的にハイブリダイズすることができる、アンチセンスオリゴヌクレオチドも包含する。
【0178】
本発明は、(a)細胞膜を通し、その翻訳を阻止するために細胞内で本発明のMDL−1ペプチドをコードするmRNAに特異的に結合させることによってMDL−1受容体の活性を調節するのに有効なオリゴヌクレオチドの量、および(b)細胞膜を通ることができる薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をさらに提供する。一実施形態では、mRNAを不活性化する物質(例えば、リボザイム)にオリゴヌクレオチドを結合する。
【実施例】
【0179】
以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の広い範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0180】
I.一般的方法
標準方法の一部は、例えば、Maniatisら、(1982年)、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Press、Sambrookら、(1989年)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、1〜3巻、CSH Press、NY、Ausubelら、Biology、Greene Publishing Associates、Brooklyn、NY、またはAusubelら、(1987年および追補)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene/Wiley、New Yorkに記載または引用されている。タンパク質精製のための方法としては、硫酸アンモニウム沈殿、カラムクロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、結晶化などの方法が挙げられる。例えば、Ausubelら、(1987年および定期的な追補)、Deutscher(1990年)「Guide to Protein Purification」、Meth. Enzymol.、182巻およびこのシリーズの他の巻、ならびにタンパク質精製製品の使用に関する製造会社の文献、例えば、Pharmacia、Piscataway、N.J.、またはBio−Rad、Richmond、CAを参照のこと。組換え技術との組合せにより、適当なセグメントとの融合、例えば、FLAG配列、またはプロテアーゼ除去可能配列を介して融合することができる等価物との融合が可能になる。例えば、Hochuli(1990年)「Purification of Recombinant Proteins with Metal Chelate Absorbent」Setlow編、Genetic Engineering, Principle and Methods、12巻、87〜98頁、Plenum Press、N.Y.、およびCroweら、(1992年)、QIAexpress: The High Level Expression & Protein Purification System、Qiagen, Inc.、Chatsworth、CA参照のこと。
【0181】
コンピュータ配列分析については、例えば、GCG(U.Wisconsin)およびGenBank情報源からのものを含む利用可能なソフトウェアプログラムを用いて、実行する。例えば、GenBankなどからの公共配列データベースもまた用いた。
【0182】
II.アンタゴニストおよび抗体
抗マウスMDL−1アゴニスト抗体(例えば、DX163、マウスIgG1)を、以前に報告されているように(例えば、Wrightら、(2003年)J Immunol.、171巻、3034〜3046頁参照)、hIgのFcドメインと融合したヒトMDL−1遺伝子の細胞外ドメインからなる融合タンパク質で免疫されたBALB/cマウスから作製した。融合タンパク質の細胞外ドメインは、C型レクチンドメインを含み、ヒトMDL−1(GenBankアクセッション番号BC112099;配列番号2)のアミノ酸位置26〜187に対応した。
【0183】
MDL−1受容体のリガンドは同定されていないため、内因性リガンドを結合し、かつMDL−1のインビボ活性を阻害することができる可溶型MDL−1を作製した。長鎖型マウスMDL−1(GenBankアクセッション番号AA186015;配列番号4)の細胞外(163個のアミノ酸)部分で構成されるこの可溶型MDL−1アンタゴニストを、低FcγRI結合性質を得るために突然変異されている(LからEへ;例えば、Duncanら、(1988年)、Nature、332巻、563〜564頁参照)mIgG2aのFc部分を含むpCMV1発現プラスミド中にライゲーションした。タンパク質を293freestyle細胞に発現させた。
【0184】
III.細胞刺激
MDL−1活性化について、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI1640に再懸濁した(10個細胞/ml)、新鮮分離した好中球を、96ウェルプレート(Nunc、Denmark)中、37℃、5%COで1時間、抗MDL−1抗体(10μg/ml)または対照マウスIgG1とインキュベートした。RPMIで2回洗浄した後、細胞に結合した抗hMDL−1抗体を、9μg/mlのF(ab’)断片ヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体と37℃、5%COで30分間、架橋した。その後、細胞を2回洗浄し、結合していない架橋抗体をブロックするために、4℃で20分間、20μg/mlのchrompureマウスIgG抗体とインキュベートした。いくつかの実験において、異なる用量の抗MDL−1抗体およびmIgG1アイソタイプ対照を試験した(0.1ng/ml〜20μg/ml)。MDL−1またはmIgG1インキュベーション後、細胞を0.2ng/mL LPSまたは培地で22時間、処理することになる。
【0185】
図1は、MDL−1の活性化が、LPS誘導性の炎症性メディエータの放出を増大させることを示す。
【0186】
IV.コラーゲン誘導関節炎
これらの実験において、B10RIIIマウスを、完全フロイントアジュバント中100μgのウシコラーゲンで尾の付け根に免疫した。26日目および32日目において、マウスに、アイソタイプ対照抗体またはDX163(ラット抗マウスMDL−1アゴニスト抗体)の50μgまたは500μgの腹腔内注射を与えた。その後、マウスをモニターし、4点疾患スコア尺度に基づいて各足における関節炎の発生についてスコア化した。臨床スコアは、1本の足あたりの足腫脹に基づいている。スコア1=1つの足指、2=2つ以上の足指、3=足全体の腫脹。マウスあたり最大臨床スコアは12である。
【0187】
MDL−1−Ig融合体で処理されたマウスは、対照と比較して、両方のCIAに高抵抗性であり、これは、抗MDL−1アゴニスト処理マウスで観察された疾患の増強と対照をなす。図2は、MDL−1アゴニスト抗体、DX163の投与でのCIAの悪化を示す。図3は、MDL−1アンタゴニストMDL−1−Ig融合タンパク質によるCAIAの抑制を示す。
【0188】
V.コラーゲン抗体誘導性関節炎
B10 RIIIマウス(群あたりn=5)またはMDL−1 −/−KOマウスに、0日目に、コラーゲン抗体誘導性関節炎を引き起こすために800μgのChemiconのarthrogen CIAカクテルを静脈内に投与した。続いて、マウスに、IgG1アイソタイプ対照抗体かまたはDX163(ラット抗マウスMDL−1)のいずれかの0.5mgの単一用量の皮下注射を施した。臨床スコアは、1本の足あたりの足腫脹に基づいている。スコア1=1つの足指、2=2つ以上の足指、3=足全体の腫脹。マウスあたり最大臨床スコアは12である。
【0189】
DX163で処置されたマウスは、調べた全パラメータについてスコアが増加していた。ナイーブ動物、IgG1アイソタイプ処置動物、およびDX163処置動物を比較するH&E切片は、DX163処置動物において、好中球(neturophil)浸潤/侵入、骨侵食の顕著な増加、およびパンヌス形成を示した。図4は、MDL−1 KOマウスにおける、より低いCAIAスコアを示す。図5は、DX163でMDL−1活性を刺激することが、自己免疫性関節炎の発生を悪化させ得ることを裏付けている。
【0190】
MDL−1 Ig融合タンパク質もまた、同じモデルに投与した。B10 RIIIマウス(群あたりn=5)に、0日目に、コラーゲン抗体誘導性関節炎を引き起こすために1000μgのChemiconのarthrogen CIAカクテルを静脈内に投与した。0日目および2日目において、マウスに、IgG1アイソタイプ対照抗体、DX163(ラット抗マウスMDL−1)、Ig対照、またはMDL−1 Ig融合タンパク質のいずれかの0.5mg用量を皮下に与えた。足踵部の腫脹を上記のように測定した。図6は、MDL−1−Ig融合タンパク質でのCAIAの抑制を示す。
【0191】
VI.組織病理学的評価
足を切除し、固定し、7日間、Cal−EX II(Fisher Scientific)中で脱灰し、パラフィンに包埋した。続いて、足切片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡で調べた。滑膜組織、骨組織、および軟骨組織の組織学的分析を、盲検試験として行った。白血球浸潤のスコアリング、より具体的に、浸潤したPMNのパーセンテージを、滑膜および関節腔において調べた。細胞動員に加えて、パンヌス形成もまた評価した。骨組織および軟骨組織において、軟骨の破壊および皮質骨浸食をスコア化した。重症度については、0〜4のスコアで評点をつけた。群間の比較を、両側の対応のないt検定で評価し、0.05未満のp値を統計的に有意であるとみなした。計算については、統計パッケージ、GraphPad Prism 4(GraphPad Software、San Diego、CA)を用いて実行した。
【0192】
図7は、GE explore CTスキャナでスキャンされたB10RIIIマウス由来の足を示す。関節については、ナイーブマウスと、MDL−1 Ig融合タンパク質かまたはDX163のいずれかで処置されたCAIA誘導マウスとを比較した。骨試料を、実験の12日目に採取した。抗MDL−1アゴニスト処置は、Ig対照群における中等度の損傷と比較して、かなりの皮質骨破壊を引き起こした。対照的に、MDL−1−Ig融合体処置マウスは、ナイーブマウスに匹敵する骨完全性および骨密度を示し、MDL−1シグナル伝達を遮断することが骨吸収を阻止することを確認した。
【0193】
VII.RT−PCRおよびAffymetrixマイクロアレイ分析
RNAを、足から抽出し、相補DNAを記載(Murphy、2002年)されているように調製し、RT−PCRおよびAffymetrix遺伝子発現分析に用いた。RT−PCRについて、一連の遺伝子の遺伝子発現をGeneAmp 5700配列検出システム(Applied Biosystems)を用いて分析した。分析を正規化するために、ハウスキーピング遺伝子、ユビキチンを用いた。Affymetrix分析について、DNアーゼ処理された全RNAを、製造会社の使用説明書に従い、1サイクル標的標識法およびIVT標識法(Affymetrix,Inc.、Santa Clara、CA)を用いて、ビオチン化cRNAプローブへと合成した。各試料由来の15μgのビオチン化cRNAプローブを、マウスMOE430 2.0 Affymetrixマイクロアレイチップ上へハイブリダイズさせた。その後、ハイブリダイズしたチップを、製造会社の使用説明書に従って、Affymetrix GeneChip Fluidics 400ステーションを用いて洗浄し、Affymetrix GeneChip スキャナ3000(Affymetrix,Inc.、Santa Clara、CA)でスキャンした。スキャニングが完了した時点で、cRNAプローブ合成の品質およびハイブリダイゼーションの効率を、各Affymetrixチップについて、GeneChipオペレーティングシステムにおいて分析した。その後、チップデータをMAS 5を用いて正規化した。
【0194】
MDL−1活性化によって制御される免疫経路を調べるために、炎症促進性サイトカイン、ケモカイン、細胞接着分子、骨髄系細胞マーカーの発現を、定量的RT−PCRアッセイによって評価した。破骨細胞遺伝子(ATP6VOD2およびカテプシンK)を、Affymetrix分析によって評価した。CAIAの誘導後4日目に、IL−1β、IL−6、およびTNFαなどの炎症促進性遺伝子は、Ig対照と比較して、抗MDL−1アゴニスト処置マウス由来のすべての関節炎の足において多量に発現した。重要なことには、RANKL、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)、およびTRAPなどの骨破壊に関連した遺伝子は、抗MDL−1アゴニスト処置後、足において上方制御され、MDL−1−Ig融合体処置において下方制御された(図8参照)。遺伝子発現結果を組織病理学的所見と合わせて見ると、MDL−1が、炎症性マクロファージおよび好中球を動員および活性化することに役割を果たし、それが滑膜組織傷害を媒介することが示唆される。さらに、破骨細胞特異的遺伝子の誘発およびX線マイクロCT所見により、MDL−1−DAP12経路もまた骨代謝に関与している可能性があることが示唆される。
【0195】
発現結果を、データフィルタリングおよびグラフ分析のために、Spotfire DecisionSite(Spotfire、Somerville、MA)へ転送した。プローブセットをフィルターにかけて、それらが全試料にわたって20未満のシグナル強度および「A」(非存在(Absent))の検出コールを生じる場合には、除去した。試料についての比較リストについては、符号付き比として倍率変化を用いて作成した。これらのリストを、Ingenuity Systems(Ingenuity Systems,Inc.、Redwood City、CA)におけるさらなる経路分析に用いた。
【0196】
VIII.インビトロ破骨細胞培養
12週齡C57BL/6またはB10RIIIマウス由来の骨髄細胞を、50ng/mLの組換えMSCF(R&D)を含むα−mem培地(Gibco)中、2日間、培養した。その後、緩く付着した細胞を、ウシ骨チップ(Nordic Biosciences、NY)の添加有りまたは無しの組織培養プレートに、4〜8×10E5/mLで蒔いた。細胞を、用量範囲のRANK−L(0〜100ng/mL)およびMDL−1アゴニスト抗体または対照抗体(0〜50μg/mL)で処理した。状態は、破骨細胞形成動力学、Luminex(Linco Inc.)による細胞培養サイトカインプロファイル、細胞培養物のRT−PCR分析、TRAP染色(アルカリホスファターゼ染色キット、Sigma)、および核抽出物ELISAアッセイ(TransAM NFATc1転写因子アッセイキット、Active Motif)について評価した。
【0197】
MCSF培養骨髄細胞のTRAP染色により、RANK−LおよびMDL−1アゴニスト抗体処理は破骨細胞形成を増加させ、骨吸収を増強することが示された。図9は、抗MDL−1アゴニスト抗体と組み合わせたRANK−Lでの処理が破骨細胞「マスター転写制御因子」NFATc1の発現を増加させることを示したが、そのNFATc1は、DC STAMP、ATP6VOD2(細胞融合に必要とされる)、カテプシンK、MMP9、ATP61、CIC7(骨吸収に必要とされる)の下流転写を調節する。
【0198】
IX.統計的解析
群間の比較を、両側の対応のないt検定で評価した。0.05未満のp値は、統計的に有意であるとみなした。計算については、統計パッケージ、GraphPad Prism 4(GraphPad Software、San Diego、CA)を用いて実行した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の骨吸収を調節する方法であって、該対象にMDL−1(配列番号2または4)に特異的に結合する抗体またはその抗体断片の有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記抗体がヒト化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体が完全にヒトのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体がキメラである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体断片がFab、Fab2またはFv抗体断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体または抗体断片が別の化学部分とコンジュゲートされている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化学部分がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が骨吸収を抑制する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
骨吸収が炎症によって引き起こされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体または抗体断片が破骨細胞の形成または活性化を抑制する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象の骨吸収を調節する方法であって、該対象に溶解性のMDL−1タンパク質(配列番号2または4)の有効量を投与することを含む方法。
【請求項12】
前記溶解性のMDL−1タンパク質が化学部分とコンジュゲートされている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学部分がPEGである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶解性のMDL−1タンパク質が異種タンパク質と融合されている、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記異種タンパク質が抗体分子のFc部分を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶解性のMDL−1タンパク質が骨吸収を抑制する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
骨吸収が炎症によって引き起こされる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記溶解性のMDL−1タンパク質が破骨細胞の形成または活性化を抑制する、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−532369(P2010−532369A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515038(P2010−515038)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/068042
【国際公開番号】WO2009/006112
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(596129215)シェーリング コーポレイション (785)
【氏名又は名称原語表記】Schering Corporation
【Fターム(参考)】