説明

MOS型電界効果トランジスタ

【課題】 高温環境におけるMOS型電界効果トランジスタのリーク電流を抑制するようにした半導体装置を提供する。
【解決手段】 ソース領域3とチャンネル形成領域4の間に半導体基板よりも濃度の濃いソースオフセット領域7を設けて、かつ、ソースオフセット領域7の上のゲート酸化膜を薄くすることで、しきい値電圧を低く抑えたままリーク電流を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOS型電界効果トランジスタのリーク電流抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
MOS型電界効果トランジスタのリーク電流を抑制して、低消費電力化を達成しようとする場合、最も簡単な方法は、半導体基板の濃度を高濃度にして、しきい値電圧を高くする方法である。
【0003】
しかし、しきい値電圧を高くすれば、MOS型電界効果トランジスタを高速動作させる場合に障害となることから、更なる改善策として半導体基板領域にソース領域と半導体基板領域により形成されたpn接合ダイオードのビルドイン電圧よりも小さい順方向電圧を印加する方法などが考えられた。
【特許文献1】特開平9−252125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法の場合、半導体基板領域に印加できる電圧は、上記pn接合ダイオードのビルドイン電圧までであるが、MOS型電界効果トランジスタを高温環境で使用する場合には、温度の上昇に伴い、上記ビルドイン電圧が下がってしまい十分な効果が発揮できない。
【0005】
また、高耐圧が必要になる場合には、半導体基板領域の濃度を低濃度にする必要が出てくるため、半導体基板領域を高濃度にすること自体が難しくなる。
【0006】
本発明は、高耐圧のMOS型電界効果トランジスタを高温環境で使用することを考慮して、MOS型電界効果トランジスタのしきい値電圧を低く保ったまま、即ち半導体基板の濃度を低濃度にしたまま、リーク電流を抑制する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
半導体基板上に形成されたMOS型電界効果トランジスタのソース電極とチャネル形成領域の間に基板と同じ導電型を有する基板より濃度の濃いソースオフセット領域を形成し、かつ、ソースオフセット領域上のゲート酸化膜を薄くすることで、MOS型電界効果トランジスタのしきい値電圧を低く抑えたままMOS型電界効果トランジスタのリーク電流を抑制する。
【発明の効果】
【0008】
温度環境の上昇によるMOS型電界効果トランジスタのリーク電流の主な原因の一つは、ソース領域と半導体基板領域(ウェル領域)の界面で作られるpn接合の表面近傍のポテンシャル障壁が、環境温度の上昇によって下がることによる。
【0009】
本発明のようにソース領域とチャネル形成領域の間にソースオフセット領域を設け、ソースオフセット領域の濃度を基板より濃くし、ソースオフセット領域の上の酸化膜を薄くすれば、MOS型電界効果トランジスタのしきい値電圧を低く抑えたまま、ソース領域とソースオフセット領域との界面におけるpn接合のポテンシャル障壁を予め高く設定することができ、温度環境の上昇によるリーク電流を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置100の断面図である。
【0012】
半導体装置100は、第1導電型(例えばP型)の半導体基板領域(ウェル領域)1表面に互いに間隔をおいて設けられた第2導電型(例えばN型)のソース領域3とドレイン領域2と、ソース領域3とドレイン領域2との間に半導体基板領域(ウェル領域)1のチャネル形成領域4と、チャネル形成領域4に接してソース領域3の一部に設けられた第1導電型の半導体基板領域(ウェル領域)1と同じ導電型を有し第1導電型の半導体基板領域(ウェル領域)1より濃度が濃いソースオフセット領域7と、チャネル形成領域4に接してドレイン領域2の一部に設けられた低濃度ドレイン領域9と、チャネル形成領域4の上に設けられたゲート酸化膜5と、ソースオフセット領域7の上に設けられたゲート酸化膜5より薄いソースゲート酸化膜8と、低濃度ドレイン領域9上に設けられたゲート酸化膜より厚い高耐圧用絶縁膜10と、ソースオフセット領域7及びチャネル形成領域4及び低濃度ドレイン領域9の上にソースゲート酸化膜8及びゲート酸化膜5及び高耐圧用絶縁膜10を介して設けられたゲート電極6を有しているMOS型電界効果トランジスタである。
【0013】
以下、リーク電流を抑制するしくみをN型のMOS型電界効果トランジスタの場合を例に説明する。図2〜5は、ソース領域3とソースオフセット領域7の界面で作られるpn接合の表面近傍のバンド図で、図2〜3はソースオフセット領域7の濃度が半導体基板領域(ウェル領域)1の濃度と等しい従来のMOS型電界効果トランジスタのものである。
【0014】
図6はドナーまたはアクセプターの濃度に対するフェルミ準位の位置を温度に対して描いたものであり、Andrew S.Grove著 "Physics and Technology of Semiconductor Device"からの引用である。一般に不純物半導体の環境温度を上昇させるとフェルミ準位は、図6のように導電型を問わずに真性半導体のフェルミ準位に近づくから、室温環境のときの上記pn接合のバンド図を101(図2)とすれば、高温環境では102(図3)のようになり、温度の上昇に伴って上記pn接合のポテンシャル障壁11は低くなり、リーク電流が増大する。
【0015】
本発明のようにソースオフセット領域7の濃度を半導体基板領域(ウェル領域)1の濃度よりも濃くすれば、室温環境での上記pn接合のバンド図103(図4)のポテンシャル障壁11は、従来のMOS型電界効果トランジスタのバンド図101(図2)のポテンシャル障壁11より大きくできる。高温環境においてはバンド図104(図5)に示すポテンシャル障壁11の方が、従来のMOS型電界効果トランジスタのバンド図102(図3)のポテンシャル障壁11より大きくなることから、リーク電流は抑制される。
【0016】
更に、本発明では、ソースオフセット領域7の上の酸化膜を薄くすることにより、ソースオフセット領域7の濃度を濃くすることによるMOS型電界効果トランジスタのしきい値の増分を抑え、しきい値電圧を低く保ったまま、リーク電流を抑制することができる。
【実施例2】
【0017】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置105の断面図である。
【0018】
半導体装置105は、第1導電型(例えばP型)の半導体基板領域(ウェル領域)1表面に互いに間隔をおいて設けられた第2導電型(例えばN型)のソース領域3とドレイン領域2と、ソース領域3とドレイン領域2との間に半導体基板領域(ウェル領域)1のチャンネル形成領域4と、チャネル形成領域4に接してドレイン領域2の一部に設けられた低濃度ドレイン領域9と、チャネル形成領域4に接してソース領域3の一部に設けられた半導体基板領域 (ウェル領域)1よりも濃度の濃い第1導電型のソースオフセット領域7と、チャネル形成領域4およびソースオフセット領域7の上に設けられたゲート酸化膜5と、低濃度ドレイン領域9の上に設けられたゲート酸化膜5より厚い高耐圧用絶縁膜10と、チャネル形成領域4及び低濃度ドレイン領域9の上にゲート酸化膜5及び高耐圧用絶縁膜10を介して設けられたゲート電極6と、ソースオフセット領域7の上にゲート酸化膜5を介して第2ゲート電極16が設けられていることを特徴とするMOS型電界効果トランジスタである。
【0019】
リーク電流を抑制するしくみは、第1の実施形態と同じである。第2の実施形態では、ソースオフセット領域7を制御するための第2ゲート電極16をゲート電極6とは別に設けた。MOS型電界効果トランジスタが待機状態の時に、第2ゲート電極16をオフさせるように制御すれば、待機時のリーク電流が低減できる。或いは、第2ゲート電極16とドレイン領域2を結線すればソース領域3と半導体基板領域(ウェル領域)1が接する面積が減るので、その分のリーク電流が抑制される。
【実施例3】
【0020】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る半導体装置106の断面図である。
【0021】
第1導電型の半導体基板領域 (ウェル領域)1の表面に互いに間隔をおいて設けられた第2導電型のソース領域3とドレイン領域2と、ソース領域3とドレイン領域2との間に半導体基板領域(ウェル領域)1のチャネル形成領域4と、チャネル形成領域4に接してドレイン領域2の一部に設けられた低濃度ドレイン領域9と、チャネル形成領域4に接してソース領域3の一部に設けられたソースオフセット領域7と、チャネル形成領域4およびソースオフセット領域7の上に設けられた第1ゲート酸化膜17と、低濃度ドレイン領域9の上に設けられた第1ゲート酸化膜17より厚い高耐圧用絶縁膜10と、チャネル形成領域4と低濃度ドレイン領域9の上に第1ゲート酸化膜17と高耐圧用絶縁膜10を介して設けられた第1ゲート電極18と、第1ゲート電極18の上に設けられた第2ゲート酸化膜19と、ソースオフセット領域7と第1ゲート電極18の上に第1ゲート酸化膜17と第2ゲート酸化膜19を介して第2ゲート電極16を設け、第1ゲート電極18をフローティングにすることを特徴とするMOS型電界効果トランジスタである。
【0022】
リーク電流を抑制するしくみは、第1の実施形態と同じである。第3の実施形態では、ソースオフセット領域7を制御するための第2ゲート電極16にかかる電圧が第2ゲート酸化膜19を介してフローティングにした第1ゲート電極18に容量結合を介してかかるように構成した。
【0023】
第2ゲート電極16に電圧を印加すれば、容量結合の結果、印加した電圧よりも低い電圧が第1ゲート電極17にかかるため、半導体基板領域(ウェル領域)1の濃度を低く保ったまま、MOS型電界効果トランジスタのリーク電流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体装置100の断面図
【図2】従来のMOS型電界効果トランジスタにおけるソース領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図(室温環境)
【図3】従来のMOS型電界効果トランジスタにおけるソース領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図(高温環境)
【図4】本発明のMOS型電界効果トランジスタにおけるソースオフセット領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図(室温環境)
【図5】本発明のMOS型電界効果トランジスタにおけるソースオフセット領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図(高温環境)
【図6】濃度の異なる不純物半導体に対する温度とフェルミ準位の関係を表す図
【図7】本発明の第2の実施形態に係る半導体装置105の断面図
【図8】本発明の第3の実施形態に係る半導体装置106の断面図
【符号の説明】
【0025】
1 半導体基板領域(ウェル領域)
2 ドレイン領域
3 ソース領域
4 チャネル形成領域
5 ゲート酸化膜
6 ゲート電極
7 ソースオフセット領域
8 ソースゲート酸化膜
9 低濃度ドレイン領域
10 高耐圧用絶縁膜
11 ポテンシャル障壁
12 伝導帯
13 真性半導体のフェルミ準位
14 フェルミ準位
15 価電子帯
16 第2ゲート電極
17 第1ゲート酸化膜
18 第1ゲート電極
19 第2ゲート酸化膜
101 従来MOSトランジスタの室温環境におけるソースオフセット領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図
102 従来MOSトランジスタの高温環境におけるソースオフセット領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図
103 本発明実施形態の室温環境におけるソースオフセット領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図
104 本発明実施形態の高温環境におけるソースオフセット領域とチャネル形成領域界面のエネルギーバンド図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板領域表面に互いに間隔をおいて設けられた第2導電型のソース領域及びドレイン領域と、
前記ソース領域及び前記ドレイン領域との間の前記半導体基板領域に設けられたチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域に接して前記ドレイン領域の一部に設けられた低濃度ドレイン領域と、
前記チャネル形成領域と前記ソース領域との間に設けられた前記半導体基板領域よりも濃度の濃い第1導電型のソースオフセット領域と、
前記チャネル形成領域の上に設けられたゲート酸化膜と、
前記ソースオフセット領域の上に設けられた前記ゲート酸化膜より薄いソースゲート酸化膜と、
前記低濃度ドレイン領域の上に設けられた前記ゲート絶縁膜より厚い高耐圧用絶縁膜と、
前記ゲート酸化膜及び前記ソースゲート酸化膜及び前記高耐圧用絶縁膜の上に設けられたゲート電極とを有するMOS型電界効果トランジスタ。
【請求項2】
第1導電型の半導体基板領域表面に互いに間隔をおいて設けられた第2導電型のソース領域及びドレイン領域と、
前記ソース領域及び前記ドレイン領域との間[に]の前記半導体基板領域に設けられたチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域に接して前記ドレイン領域の一部に設けられた低濃度ドレイン領域と、
前記チャネル形成領域と前記ソース領域との間に設けられた前記半導体基板領域よりも濃度の濃い第1導電型のソースオフセット領域と、
前記チャネル形成領域及び前記ソースオフセット領域の上に設けられたゲート酸化膜と、
前記低濃度ドレイン領域の上に設けられた前記ゲート絶縁膜より厚い高耐圧用絶縁膜と、
前記チャネル形成領域及び前記低濃度ドレイン領域の上に前記ゲート酸化膜及び前記高耐圧用絶縁膜を介して設けられた第1ゲート電極と、
前記ソースオフセット領域の上に前記ゲート酸化膜を介して設けられた第2ゲート電極とを有するMOS型電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記第2ゲートの電極と前記ドレイン領域とを同電位にすることを特徴とする請求項2に記載のMOS型電界効果トランジスタ。
【請求項4】
第1導電型の半導体基板領域表面に互いに間隔をおいて設けられた第2導電型のソース領域及びドレイン領域と、
前記ソース領域及び前記ドレイン領域との間[に]の前記半導体基板領域に設けられたチャネル形成領域と、
前記チャネル形成領域に接して前記ドレイン領域の一部に設けられた低濃度ドレイン領域と、
前記チャネル形成領域と前記ソース領域との間に設けられた前記半導体基板領域よりも濃度の濃い第1導電型のソースオフセット領域と、
前記チャネル形成領域及び前記ソースオフセット領域の上に設けられた第1ゲート酸化膜と、
前記低濃度ドレイン領域の上に設けられた前記第1ゲート酸化膜より厚い高耐圧用絶縁膜と、
前記チャンネル形成領域及び前記低濃度ドレイン領域の上に前記第1ゲート酸化膜及び前記高耐圧用絶縁膜を介して設けられた第1ゲート電極と、
前記第1ゲート電極の上に設けられた第2ゲート酸化膜と、
前記ソースオフセット領域及び前記第1ゲート電極の上に前記第1ゲート酸化膜及び前記第2ゲート酸化膜を介して設けられた第2ゲート電極とを有し、前記第1ゲート電極をフローティングとするMOS型電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−335548(P2007−335548A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164278(P2006−164278)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】