Nod1活性を調整するための方法、Nod1活性を調整するためのMTP関連分子の使用、およびその治療への応用
Nod1活性を調整する方法であって、機能的Nod1を発現する細胞を用意し、および、該細胞をMTP関連分子を含んでなる組成物の関連分子と接触させることを含む方法、ならびに炎症および/またはアポトーシスを調整するためのMTP関連分子の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、最初に説明する、病原体認識分子Nod1に関するものであり、このNod1は、具体的に言えば、ペプチドグリカンモチーフ、ムラミルトリペプチド(muramyl tripeptide)を介してグラム陰性菌を感知する。より詳細には、本発明は、ムラミルトリペプチド(MTP)と関連する分子によるNod1活性の調整に関する。本発明はまた、Nod1活性を調整することが可能な分子を同定するためのスクリーニング工程、ならびに炎症および/またはアポトーシスを調整するためのそのような分子の治療上の使用に関する。本発明はまた、炎症および/またはアポトーシスを調整するためにまたはアジュバントとして使用可能な新規化合物に関する。
【0002】
多細胞生物では、細胞増殖速度と細胞死速度との均衡を保つことによりホメオスタシスが維持されている。細胞増殖は、多くの増殖因子および一般に細胞周期を通じて進行を促すプロトオンコジーンの発現によって影響を受ける。これに対し、腫瘍抑制遺伝子の発現をはじめとする多くの事象によって細胞増殖の停止が引き起こされる。
【0003】
分化細胞では、内部自殺プログラムが働くとアポトーシスと呼ばれる独特のタイプの細胞死が起こる。このプログラムは、種々の外部シグナルのほか、例えば、遺伝子損傷を受けて細胞内で発生するシグナルによっても開始される。瀕死の細胞は炎症反応を起こすことなく食細胞によって迅速に取り除かれるため、長年、アポトーシス細胞死の規模は分からなかった。
【0004】
アポトーシスを媒介する機構は集中的に研究されてきた。これらの機構は内因性プロテアーゼの活性化、ミトコンドリア機能の低下、ならびに細胞骨格の破壊、細胞収縮、膜のブレビング、およびDNA分解による核凝縮のような構造変化を伴う。アポトーシスを引き起こす種々のシグナルが、C.エレガンス(C. elegans)のような蠕虫類からヒトへと高度に保存されている遺伝子の発現によって調節される一般的な細胞死経路に集中し、これらの事象を引き起こしていると考えられている。実際に、無脊椎動物モデル系はアポトーシスを制御する遺伝子を同定し、特徴付ける貴重なツールであった。無脊椎動物およびさらに進化した動物の研究を通じて、細胞死と関係している多くの遺伝子が同定されたが、それらの産物が相互に作用してアポトーシスプログラムを実行する方法についてはほとんど分かっていない。
【0005】
アポトーシスプログラムの中心となるタンパク質の一種であるカスパーゼは、基質切断部位のアスパラギン酸エステルに対して特異性を有するシスチンプロテアーゼである。これらのプロテアーゼは、主として、アポトーシスを受けている細胞で認められる形態変化の原因となる細胞タンパク質の分解に関与する。例えば、ヒトで確認されたカスパーゼの1つが、プロ−IL−1βの活性サイトカインへのプロセシングに関与するシステインプロテアーゼであるインターロイキン−1β(IL−1β)変換酵素(ICE)としてすでに知られている。
【0006】
多くのカスパーゼおよびカスパーゼと相互に作用するタンパク質は、カスパーゼリクルートメントドメイン(CARD)と呼ばれる約60個のアミノ酸からなるドメインを有している。特定のアポトーシスタンパク質がそれらのCARDを介して互いに結合すること、そして、異なるサブタイプのCARDが結合特異性を与え、それによって、例えば、種々のカスパーゼの活性が調節されることを主張した者もいた。
【0007】
病原菌に対する生得免疫は、パターン認識分子(PRM)による病原体関連分子パターン(PAMP)の特異的な感知によるものである。哺乳動物では、トール様受容体(TLR)が最も広く研究されているPRM種であり、これらはリポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン(PGN)、リポタンパク質、二本鎖RNAおよびCpG DNAのような種々のPAMPを感知することが分かっている(S. Akira et al., Nat. Immunol., 2, 675, 2001; R. Medzhitov, Nat. Rev. Immunol., 1, 135, 2001)。TLRは、主として原形質膜で発現されるものであるが、Nod1/CARD4およびNod2/CARD15をはじめとする細胞内タンパク質ファミリーであるNod分子が細胞質コンパートメント内の細菌産物を感知することから、細胞内に侵入した細菌の存在の検出を可能にする新たなPRM群である可能性が最近提起されている(N. Inohara et al., J. Biol. Chem. 274, 14560, 1999; J. Bertin et al., J. Biol. Chem., 274, 12955, 1999; N. Inohara et al., J. Biol. Chem., 276, 2551, 2001; S. E. Girardin et al., EMBO Rep., 2, 736, 2001; Y. Ogura et al., J. Biol. Chem., 276, 4812, 2001; Y. Ogura et al., Nature, 411, 603, 2001; J. P. Hugot et al., Nature, 411, 599, 2001)。
【0008】
カスパーゼリクルートメントドメインにちなんでCARD4とも呼ばれるNod1の部分配列(cDNAおよびタンパク質)は、1998年2月6日出願の特許出願番号09/019,942で開示されており、米国特許第6,033,855号として現在認可されている。さらに、Bertin et al.(1999)では、CARD4の完全アミノ酸配列と上記特許ですでに述べられているその機能の1つ:CARD4がNF−κBおよびアポトーシスシグナル伝達経路を調整することが開示されている。Girardin et al.(2001)では、CARD4/Nod1が侵入性B群赤痢菌(Shigella flexneri)によるNF−κB活性化を媒介することが開示されている。この論文では、B群赤痢菌LPSとCARD4との間の相互作用を特に研究している。
【0009】
CARD−4が異常にダウンレギュレートされるという状況下、および/またはCARD−4活性を上昇させることに有益な効果がある可能性が高いという状況下では、Nod1/CARD−4活性を促進することが望ましい。逆に、CARD−4が異常にアップレギュレートされるという状況下、例えば、心筋梗塞、および/またはCARD−4活性を低下させることに有益な効果がある可能性が高いという状況下では、CARD−4活性を阻害することが望ましい。CARD−4がサイトカインのプロセシングに関与していることから、異常な炎症を起こしている患者においてはCARD−4の活性または発現を阻害することが有益であると思われる。
【0010】
Nod1が上皮細胞の細胞質コンパートメント内のグラム陰性病原体、B群赤痢菌の存在を感知することが最近示され(S. E. Girardin et al., 2001)、さらに、市販のLPS調製物がNod1を活性化することが分かっていることから、検出されたPAMPがLPSであるという仮説が立てられた(N. Inohara et al., J. Biol. Chem., 276, 2551, 2001)。しかしながら、これらのLPSは細菌細胞壁夾雑物を含有していることが多いため、当技術分野では、特定の分子モチーフがNod1によって実際に検出され、そのモチーフがNod1活性を調整するかどうかについてのより詳細な記載が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、当技術分野におけるこの必要性を満たす助けとなるものである。一つの態様では、本発明は、Nod1活性を調整する方法であって、
(a)真核細胞において機能的Nod1を発現させ、かつ
(b)前記細胞をMTP関連分子と接触させる
ことを含んでなる方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、Nod1活性を増強させる方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子であるこの種の方法も提供する。一つの態様では、MTP関連分子がトリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDap、その生物学的に活性な誘導体またはそのペプチドミメティック(ペプチド類似体(peptidomimetic))である。
【0013】
もう一つの態様では、MTP関連分子がMTP、その生物学的誘導体またはそのペプチドミメティックである。Nod1活性を低下させることが可能な方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPに対してアンタゴニスト作用を有する分子である。
【0014】
さらに、本発明は、哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、MTP関連分子をその哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。一つの態様では、炎症および/またはアポトーシスを増強させる方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子である。また、もう一つの態様では、炎症および/またはアポトーシスを減少させる方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアンタゴニスト作用を有する分子である。
【0015】
さらに、本発明は、生物学的に許容されうる担体と生物学的有効量のMTP関連分子を含んでなる組成物を提供する。
本発明はまた、構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはそのペプチドミメティックである化合物も提供する。
【0016】
さらに、本発明は、真核生物において炎症および/またはアポトーシスをin vivo増強させるための、すなわち、アジュバントとして有用な化合物であって、構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはペプチドミメティックであり、かつ、アジュバントとして使用した場合に前記トリペプチドのアミノ酸AlaがN−アシルムラミン酸と結合しない化合物を提供する。この化合物はアジュバントとしての使用に好適である。
【0017】
本発明の組成物は、抗原と生物学的有効量の本発明の分子を含んでなる。組成物は、免疫原と生物学的有効量の分子を含んでなっていてもよい。
本発明は、宿主の免疫応答を増強させるための方法であって、宿主に、生物学的に許容されうる担体とその免疫応答を増強させるのに十分な量の本発明の化合物を含有する組成物と関連づけられる、抗原、または、宿主において免疫応答を誘導させることが可能な目的の製品を投与することを含む方法を提供する。この方法は、抗原と本発明の分子を含んでなる組成物の免疫応答を促進するのに有効な量を投与することを含んでもよい。
【0018】
さらに、本発明は、目的の抗原と免疫原性組成物の効果を増強するのに有効な量の分子を含有する、病原菌に対する免疫原性組成物を提供する。
また、本発明は、ヒトまたは動物宿主のワクチン接種方法であって、その宿主に本発明の免疫原性組成物のワクチン接種に有効な量を投与することを含む方法も提供する。この宿主は、ヒトまたは温血動物であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明は、Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を検出する方法であって、
(a)Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常が疑わしい細胞を用意し、
(b)その細胞をMTPまたはそのアゴニストと接触させ、かつ
(c)NF−κB活性化またはIL−8生成を評価する
ことを含んでなり、
ここで、NF−κB活性化の変化またはIL−8生成の変化は、Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を示す、
方法を提供する。
【0020】
Nod1とMTPとの間の直接または間接相互作用の後に起こる炎症および/またはアポトーシス反応を調整することが可能な分子をスクリーニングするための本発明の方法は、
(a)機能的Nod1を発現する細胞を用意し、
(b)その細胞を試験しようとする分子と接触させ、
(c)NF−κB活性化および/またはIL−8生成を測定し、かつ、
(d)必要に応じて、工程c)の結果を試験しようとする分子の不在下で得られた結果と比較する
ことを含んでなり、
ここで、試験しようとする分子の不在下でのNF−κB活性化および/またはIL−8生成に対するNF−κB活性化および/またはIL−8生成の変化がその試験した分子の哺乳動物グラム陰性菌感染によって起こる炎症反応を調整する能力を示す。本発明は、スクリーニング工程によって同定された分子を含む。
【0021】
また、本発明は、哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、スクリーニング工程によって同定された分子をその哺乳動物に投与することを含む方法も提供する。
【0022】
さらに、本発明は、Nod1とMTPまたはその誘導体もしくはペプチドミメティックを含有するペプチド性複合体、ならびにグラム陰性菌感染を予防または治療するための本発明の組成物を提供する。
【0023】
本発明はまた、サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを検出する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、
c)MTPとNod1との間の相互作用を検出する
ことを含んでなり、
ここで、MTPとNod1との間の相互作用がそのサンプル中にグラム陰性菌由来のペプチドグリカンが存在することを示す、
方法も提供する。
【0024】
特定の態様では、本発明は、サンプルにおいてペプチドグリカンを検出し、必要に応じて、ペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、Nod2タンパク質とも接触させること、
c)MTPおよびMDPと2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との間の相互作用を検出し、および、
d)必要に応じて、Nod1との相互作用とNod2との相互作用とを識別する
ことを含んでなり、
ここで、c)では2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との相互作用がそのサンプル中にペプチドグリカンが存在することを示し、かつ、d)ではNod2とだけ相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陽性菌起源のものであることを示し、Nod1ともNod2とも相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであることを示す、
方法を提供する。
【0025】
従って、上記の方法によって、サンプルにおける細菌の存在を検出し、必要に応じて、前記細菌がグラム陰性起源のものであるかグラム陽性起源のものであるかを判断することが可能になる。
【0026】
最後に、本発明は、グラム陰性菌のペプチドグリカンとNod1との間の相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法であって、
a)MTPを用意し、
b)試験分子の存在下および不在下において、MTPをNod1タンパク質と接触させ、
c)試験分子の存在下および不在下における、MTPとNod1との間の相互作用を評価する
ことを含んでなり、
ここで、試験分子の存在下でのMTPとNod1との間の相互作用の調整が前記分子が前記相互作用を調整することを示す、
方法を提供する。
【発明の具体的説明】
【0027】
本明細書において、MTPとは、グラム陰性菌細胞壁のペプチドグリカン由来のムラミルトリペプチド、GlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAPまたはメソ−DAPを含有するGM−トリペプチドを意味する。
本明細書において、「MTP関連分子」とは、Nod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子もしくは化合物またはアンタゴニスト作用を有する分子もしくは化合物を意味する語である。MTP関連分子としては、限定されるものではないが、MTP、トリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDAP、例えば、糖部分を含まない3個のアミノ酸であるMTPのペプチド部分のような生物学的に活性なMTP誘導体、GlcNAcを含まないMTP、非環化糖を含まないMTP、ペプチドミメティックおよびNod1の1つのMTPに対してアンタゴニスト作用を有する分子が挙げられる。
【0028】
MTP関連分子の活性は、実施例で開示する試験によって評価することができる:例えば、NF−κB活性化の評価またはIL−8生成の評価。Nod1のMTP活性に対してアゴニストとしての作用を有する分子は、NF−κB活性化またはIL−8生成を増強する。Nod1のMTP活性に対してアンタゴニストとしての作用を有する分子は、NF−κB活性化またはIL−8生成を低減する。
【0029】
本明細書において、「生物学的に活性な誘導体」とは、機能保存的変異体、相同タンパク質またはペプチドおよびペプチドミメティック、ならびに、本明細書に記載するように、好ましくは、親ペプチドの結合特異性および/または生理作用を保持しているホルモン、抗体または合成化合物(すなわち、ペプチド性または非ペプチド性分子)を指す語である。
【0030】
本明細書に記載するように、親ペプチドの結合特異性および/または生理作用を保持しており、試験を行うために開示されている作用試験で陽性結果が出る好ましいペプチドミメティックも本発明の一部である。
【0031】
本明細書において、「ペプチドミメティック」とは、ペプチドのいくつかの特性、好ましくは、それらの結合特異性および/または生理作用がよく似ている有機分子である。好ましいペプチドミメティックは、好ましくは、L−アミノ酸の代わりに非天然アミノ酸であるD−アミノ酸を使用した本発明のペプチドの構造修飾、立体配座の制限、等配電子の置換、環化または他の修飾によって得られる。他の好ましい修飾としては、限定されるものではないが、1以上のアミド結合を非アミド結合に置き換えるという修飾、ならびに/または1以上のアミノ酸側鎖を異なる化学的部分に置き換えるという修飾、またはN末端、C末端あるいは1以上の側鎖のうちの1以上のものを保護基によって保護するという修飾、ならびに/または剛性および/もしくは結合親和性を高めるために二重結合および/もしくは環化および/もしくは立体特異性をアミノ酸鎖に導入するという修飾が挙げられる。
【0032】
Nod1の1つに対してアンタゴニスト作用を有する分子を調製するために修飾を行ってもよい。
細胞外の細菌感知におけるトール様受容体の役割が集中的に研究されている一方で、Nod分子を通じた細胞内の細菌検出については、依然としてほとんどが確認されていない。本発明では、NF−κB経路の活性化をもたらすグラム陰性菌ペプチドグリカンに見られる、ジアミノピメリン酸を含有する独特のGlcNAc−MurNAcトリペプチドモチーフをNod1が特異的に検出することを示している。さらに、本発明では、侵入性病原体に対する防御の第一線である上皮細胞において、細胞内のグラム陰性菌感知にNod1が不可欠であることを示している。これまでのところ、Nod1がグラム陰性菌ペプチドグリカンを特異的に感知する病原体認識分子の最初の例である。
【0033】
さらに、本発明では、Nod1がMTP、より詳細には、GlcNAc−MurNAcトリペプチドのペプチド部分を特異的に感知することを示している。
本発明において、本発明者らは、先の研究においてLPSが夾雑物であったこと、そして、Nod1がグラム陰性菌のペプチドグリカンに見られる独特のモチーフ:その3番目の位置にジアミノピメリックアミノ酸を有するムラミルトリペプチドを特異的に検出することを示している。
【0034】
多くの公開物は、MDP(ムラミルジペプチド)とそのアジュバント特性を対象としている。また、MTP(ムラミルトリペプチド)のアジュバント特性についての公開物もあり、これらは一般に、MTP−PE、すなわち、ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミンを対象としたものである。最初の特許である、1971年11月19日出願のFR2160326は、マイコバクテリウム(mycobacteria)またはノカルジア菌(Nocardia)細胞壁から抽出されるアジュバント活性を有する可溶性薬剤を調製する方法に関するものである。FR2160326の他、1973年10月23日出願のFR2248025は、この可溶性薬剤のアジュバント活性が細胞壁ペプチドグリカンの可溶性断片から来ているという発見を開示する、特定のムラミルペプチドに関するものである。等価の米国特許は特許番号第4,186,194号である。本発明は、以下のとおりである。
【0035】
米国特許第4,186,194号のトリペプチドは決まって糖部分を有している。
大腸菌(Escherichia coli)LPSの市販の調製物(10μg)をNod1過剰発現HEK293細胞に添加することで、Nod1依存性NF−κB活性化のレベルを5倍増強することができる(図1A)。一方、高度に精製された大腸菌LPS(10μg)またはリピド(脂質)A(10μg)では、Nod1経路を刺激することができない(図1A)が、それらはマクロファージを効果的に活性化することができる。これらの発見は、市販のLPS調製物中に存在する夾雑物がNod1活性化に関与している可能性が高いことを示している。そのため、この夾雑物の性質を同定することが1つの狙いであった。リポタンパク質は、最近、市販の大腸菌LPSによる刺激を受けた後のTLR2シグナル伝達に関与する、LPS調製物の重要な夾雑物と同定された(K. Lee et al., P. S. Tobias, J. Immunol., 168, 4012, 2002)。しかしながら、合成リポペプチドまたは大腸菌において最も豊富なリポタンパク質であるLppいずれかの添加ではNod1経路を刺激することはできなかった(図1B)。さらに、市販のLPSの煮沸またはプロテイナーゼK処理は、Nod1シグナル伝達の阻止に十分なものではなかった。
【0036】
次の狙いは、Nod1シグナル伝達経路の刺激におけるPGNの潜在的役割について取り組むことであった。そのため、大腸菌由来、B群赤痢菌由来、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)由来、枯草菌(Bacillus subtilis)由来および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のPGNを、特に、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に対して設計された試験手順に従って精製した(B. L. de Jonge et al., J. Biol. Chem., 267, 11248, 1992; B. Glauner, Anal. Biochem., 172, 451, 1988)。これらのPGNの精製に使用する厳密な精製工程によって可能性ある夾雑物を排除する(図4)。顕著にも、グラム陰性菌由来のPGN調製物はNod1経路を刺激するが、一方、ここで試験した2種類のグラム陽性菌PGN調製物では刺激し得ないということが観察された(図1C)。さらに、C末端のロイシンに富む反復配列(LRR)を欠いた突然変異型Nod1を用いることにより、Nod1のLRRがグラム陰性菌PGNの感知において重要な役割を果たすということが観察された(図1D)。よって、これらの結果は、Nod1がLRRドメインを通じてグラム陰性菌PGNを特異的に感知する細胞内PRMであることを強く示唆した。
【0037】
Nod1によって検出される最小PGNモチーフを同定するため、髄膜炎菌由来のムロペプチドを、ムラミダーゼによってPGNを消化した後、逆相HPLCにより分析した。実際には、グラム陰性菌によって自然に放出される主要なPGN断片がムロペプチドである(J.-H. Holtje, Microbiol. Mol., Biol. Rev., 62, 181, 1988; N. T. Blackburn et al., J. Mol. Evol., 52,78, 2001)。この分析により、アミノ糖に結合したペプチド鎖のアミノ酸数、ペプチド鎖の重合度またはアミノ糖のO−アセチル化または脱水などの自然修飾に応じたムロペプチドの分離が可能になった(図2A)。
【0038】
ムロペプチドを個々に回収し、Nod1経路を活性化するそれらの能力について試験した。驚くべきことに、2つの画分(3および17)だけにNod1を活性化し得るムロペプチドが含まれていた(図2B)。質量分析による解析では、画分3が分子量893m/zのムロペプチドであり、画分17の活性分子が分子量873m/zのムロペプチドであることが分かった。893m/zの分子は還元ムロペプチド、トリペプチド基置換を受けたN−アセチルムラミン酸(MurNAcまたは「M」)にβ−1,4結合したNアセチルグルコサミン(GlcNAcまたは「G」)と一致し(図2C)、一方、873m/zの分子はMurNAc部分において自然脱水を受けた同じムロペプチド(アンヒドロ−MurNAc)に該当する。そのため、MurNAcにおいて置換するトリペプチド基、L−Ala−D−Glu−メソDAP(ここで、Alaはアラニンであり、Gluはグルタミンであり、DAPはジアミノピメリン酸である)は画分3および17において同じである。B群赤痢菌から単離されたムロペプチドについてHPLC分析および生物学的アッセイを行ったところ、試験結果は同様であった。
【0039】
Nod1が感知する分子パターンに関する多くの知識を得るため、GM−ジペプチド、GM−トリペプチドおよびGM−テトラペプチドによるNod1経路の活性化についての比較を行った。同量(10ng)のGM−ジペプチド、GM−トリペプチド(画分3から)およびGM−テトラペプチド(画分6)をNod1経路を活性化するそれらの能力について試験した。Nod1がGM−ジペプチドやGM−テトラペプチドではなくGM−トリペプチドを特異的に検出することが観察された(図2D)。Nod1はNod2と密接な関係があるため、これらのPGN産物をNod2検出についても試験した。先の発見およびInohara et al.の発見によりNod2がM−ジペプチドを認識することが示された(S. E. Girardin et al., J. Biol. Chem., 278, 8869, 2003; N. Inohara et al., J. Biol. Chem., 278, 5509, 2003)。顕著には、Nod2がM−ジペプチドに加えて、GM−トリペプチドやGM−テトラペプチドではなくGM−ジペプチドを検出することが判明し(図2D)、これら2種類のNod分子はいずれもPGNを感知するが、検出の実現には異なる分子モチーフが必要であることが示唆される。また、TLR2では試験したいずれのムロペプチドも検出し得ないということも観察された(図2D)。
【0040】
Nod2が感知するPGNモチーフ、GM−ジペプチドはあらゆる細菌で見られることから、Nod2がPGN分解産物の一般センサーであることが示唆される(S. E. Girardin et al., 2003; N. Inohara et al., 2003)。これに対し、Nod1による感知にはメソDAPがさらに必要であるということにより、Nod1が、試験したグラム陽性菌PGNに対し、グラム陰性菌から精製されたPGNだけを検出する(図1Cを参照)ことへの説明がつく。実際に、黄色ブドウ球菌PGNにはメソDAPの代わりにリジンが含まれており、一方、枯草菌にはアミド化ジアミノピメリン酸が含まれている(図5A〜5C)。さらに、黄色ブドウ球菌PGNには検出可能な量のGM−トリペプチドが存在しない(B. L. de Jonge et al., 1992)。加えて、これらの発見は、メソDAPも含有しているGM−テトラペプチドがNod1によって感知されないことから、Nod1感知系には露出されたメソDAPが必要であるということも示す。次に、PGN検出の実現にメソDAPを必要としないNod2が枯草菌PGNも髄膜炎菌PGNも感知するということが観察された(図2E)。これに対し、たとえ枯草菌PGNがメソDAPを含有するPGNといくつかの構造的類似性を共有しているとしても(図5A〜5C)、Nod1によって枯草菌PGNは検出されない(図2E、図1Cでも示される)。Nod1がGM−トリペプチドを感知することによって、NF−κB活性化に加え、グラム陰性菌感染した上皮細胞で生成される主要なサイトカインの1つである炎症性ケモカイン、インターロイキン−8の生成も引き起こされる(図2F)ことが分かった(L. Eckmann et al., J. Biol. Chem., 275, 14084, 2000; T. Pedron et al., J. Biol. Chem., 278 (36), 33878-86,2003)。総合すれば、これらの結果は、NF−κBおよびIL−8のNod1依存性活性化に関するPGNの構造条件として、トリペプチドと末端メソDAPアミノ酸に結合したGMが挙げられ、その両方のカルボキシ基が重要な役割を果たすことを示している。
【0041】
次に、関心あることは、上皮細胞による細胞内細菌感知においてのNod1によるPGN検出への貢献を確認することであった。実際に、先の研究では粘膜面における病原菌に対する防御の第一線としてのこれらの細胞の極めて重要な役割を強く主張した。まず、種々のグラム陰性菌またはグラム陽性菌から抽出物を調製し、これらの抽出物の相対PGN含量を測定した(図6A)。次いで、これらの細菌抽出物を細胞外に添加したところ、それらがHEK293上皮細胞においてNF−κBを活性化し得ないことが分かり(図3A)、これらの細胞が内因性TLR2/4感知系を発揮しないことを確認した。唯一の例外がネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)抽出物であった。このケースでは、フラジェリン欠損ネズミチフス菌株由来の抽出物でNF−κB経路を刺激し得なかったことから、NF−κB活性化にTLR5が関与していると思われる(F. Hayashi et al., Nature, 410, 1099, 2001)(図3A)。次いで、ジギトニンによる透過性上昇技術を利用して細菌産物の細胞質への侵入を促し、侵入性細菌由来の細菌産物または非侵入性細菌由来の細菌産物のNF−κB経路を活性化する能力の直接比較をした。多くのグラム陰性菌由来の抽出物ではNF−κB経路を刺激し得、一方、4種類のグラム陽性菌由来の抽出物では刺激し得ないことが観察された。(図3A)。他の2種類の上皮細胞系(HeLaおよびCaco−2)では、B群赤痢菌由来または黄色ブドウ球菌由来の細菌産物をマイクロインジェクションし、続いて、免疫蛍光によりNF−κB p65サブユニットの核移行を検出することによって、グラム陰性菌抽出物によるNF−κBの特異的活性化しか確認されなかった(図3Bおよび図6B)。
【0042】
よって、これらのデータは、細胞質コンパートメントに提示された際、上皮細胞はグラム陰性菌産物を感知するがグラム陽性菌産物を感知しないということを示している。これらの発見は、ここで試験したグラム陰性菌から放出されたPGNモチーフ全てに末端メソDAPを有するGM−トリペプチドが含まれており、放出されたグラム陽性菌PGN産物にこの構造はないという事実と一致している。リステリア菌(L. monocytogenes)のケースでは、PGNにメソDAPが含まれている;しかしながら、PGN分解産物については今だ確認されていない。興味深いことに、リステリア菌の主要なPGNヒドロラーゼがPGN糖骨格とペプチド鎖との結合を切断するN−アセチルムラモイル−L−アラニル−アミダーゼである。それゆえに、リステリア菌がかなりの量のムロペプチドを放出するという可能性は低く、むしろ、ペプチド鎖およびアミノ糖を遊離させるのではないかと思われる(A. M. McLaughlan et al., Microbiology, 144, 1359, 1998)。
【0043】
上皮細胞によるグラム陰性菌抽出物の細胞内感知に関与しているシグナル伝達経路を同定するために、まず、ドミナントネガティブ型MyD88ではネズミチフス菌ΔF、B群赤痢菌および大腸菌をはじめとするグラム陰性菌由来の抽出物によりジギトニン透過化細胞において誘導されるNF−κB経路の活性化を遮断し得ないことから、この経路がTLR/IL−1経路の重要なアダプタータンパク質であるMyD88とは無関係であること(T. Kawai et al., Immunity, 11, 115, 1999)が立証された(図3C、データは示していない)。一方、ドミナントネガティブ型Nod1(DN−Nod1)を用いた場合、B群赤痢菌由来の細菌産物、ネズミチフス菌由来の細菌産物および大腸菌由来の細菌産物によりジギトニン透過化細胞において誘導されるNF−κB活性化を効果的に遮断し得た(図3D)。Nod1がRip2のリクルートメントを通じてNF−κB経路を活性化するということを示す報告もある(S. E. Girardin et al., 2001; N. Inohara et al., J.Biol. Chem., 275, 27823, 2000; A. l. Chin et al., Nature, 416, 190, 2002; K. Kobayashi, et al., Nature, 416, 194, 2002)。それに応じて、ドミナントネガティブ型Rip2がグラム陰性菌由来の抽出物によりジギトニン透過化細胞において誘導されるNF−κB経路を遮断するいうことも観察された(図3E)。
【0044】
これらの発見は、ゆえに、Nod1が上皮細胞における重大な細胞内細菌産物センサーであり、Nod1依存性炎症経路の誘導は、侵入性または細胞外の病原菌がグラム陰性菌PGNを細胞内環境へと移行させる能力に依存していることを示している。
【0045】
さらに、GM−ジペプチドの画分に対してさらなる試験を実施したところ、驚くべきことに、Nod1が糖部分を含まないトリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDAPを感知し得ることが分かった。ゆえに、同定する、Nod1が感知する最小のモチーフがトリペプチドである。
【0046】
当然のことながら、本発明はNod1の1以上の生物活性を阻害することができるか、または増強することができるNod1のアンタゴニストおよびアゴニストを含む。好適なアンタゴニストとしては、有機または無機小分子(すなわち、分子量が約500未満の分子)、大分子(すなわち、分子量が約500より大きい分子)、抗体および核酸分子が挙げられる。Nod1のアゴニストとしては、小分子と大分子との組合せも含む。
【0047】
よって、本発明は(1)機能的Nod1を発現している細胞をNod1の活性を調整するのに十分な濃度のNod1活性化化合物と接触させることにより、Nod1の活性を調整する(例えば、低下または増強させる)ための方法;ならびに(2)Nod1を試験化合物(例えば、ポリペプチド、リボ核酸、小分子、大分子、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびデオキシリボ核酸)と接触させ、試験化合物の存在下または不在下でNod1の活性レベルを検出し、比較することにより、Nod1の活性を調整する(例えば、低下または増強させる)化合物を同定する方法を特徴とする。
【0048】
ある細胞においてNod1の活性を調整する化合物は、選択した化合物の存在下でのNod1の活性を前記化合物の不在下でのNod1の活性と比較することにより同定することができる。Nod1活性レベルの差が、選択した化合物がその細胞におけるNod1発現を調整するということことを示す。
【0049】
本発明に従ってスクリーニングすることが可能な典型化合物としては、限定されるものではないが、好適な細胞に侵入し、Nod1タンパク質の活性に影響を及ぼし得る有機小分子が挙げられる。
【0050】
コンピューターモデリングや検索技術により、Nod1活性を調整することが可能な化合物の同定、またはすでに同定されている化合物の改良が可能になる。このような化合物または組成物を同定することにより、活性部位または領域が同定される。このような活性部位は、一般に、活性の天然モジュレーターに対する結合であると思われる。活性部位は、例えば、ペプチドのアミノ酸配列から、核酸の核酸配列から、または関連化合物もしくは組成物とその天然リガンドとの複合体の研究からといったように、当技術分野で公知の方法を用いて同定することができる。後者のケースであれば、化学的またはX線結晶学的方法を利用し、因子上でモジュレーター(またはリガンド)が発見される場所を見つけることによって活性部位を発見することができる。
【0051】
次に、活性部位の三次元幾何構造を決定することが可能である。これは完全な分子構造を決定することができるX線結晶学をはじめとする公知の方法によって行える。他方、固相または液相NMRを利用して、特定の分子内距離を決定してもよい。構造決定についての他の試験方法を利用して、部分または完全幾何構造を得てもよい。幾何構造は天然または人工のモジュレーター複合体(リガンド)を用いて測定することができ、それによって決定する活性部位の構造の精度を高めることが可能である。
【0052】
決定された構造が不完全であるか、または十分な正確さを欠いているならば、コンピューターによる数値モデリング法を利用して、構造を完成させるか、またはその精度を向上させることができる。タンパク質または核酸のような特定の生物高分子に特有のパラメータ化されたモデル、分子運動のコンピューティングに基づく分子動力学モデル、サーマルアンサンブルに基づく統計力学モデルまたは複合モデルを含む、認知されているあらゆるモデリング方法を利用することができる。ほとんどの種類のモデルでは、構成原子と基との間の影響力を表す標準分子力場が必要であり、物理化学において公知の力場から選択することができる。不完全であるか、またはあまり正確ではない実験構造は、これらのモデリング方法によってコンピューティングされる完全でより正確な構造に対する制約となる。
【0053】
最後に、実験によって、モデリングによって、または組み合わせて、活性部位の構造を決定したら、それらの分子構造に関する情報とともに化合物を含むデータベースを検索することで候補調整化合物を同定することができる。このような検索では、決定された活性部位構造をマッチさせ、活性部位を定義している基と相互に作用する構造を有する化合物を探求する。このような検索は手動で行えるが、好ましくは、コンピューターを使用する。この検索で見つかったこれらの化合物は有力なNod1調整化合物である。
【0054】
また、これらの方法を利用して、これまで確認されている調整化合物またはリガンドから改良された調整化合物を同定することもできる。既知化合物の組成物を修飾し、新規組成物に適用される上記の実験的方法およびコンピューターモデリング法を用いて修飾の構造効果を決定する。次いで、改変された構造を化合物の活性部位構造と比較して、適合または相互作用が向上したかどうかを判断する。このように、側基の変更によるなどの組成物における体系的変化を迅速に評価して、特異性または活性が向上した修飾型調整化合物またはリガンドを得ることができる。
【0055】
分子モデリング系の例としては、CHARMmおよびQUANTAプログラムがある(Polygen Corporation, Waltham, Mass.)。CHARMmはエネルギー最小化および分子動力学的機能を備えている。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリングおよび解析を行う。QUANTAは対話式構築、修飾、画像化、および分子の相互挙動の解析が可能である。
【0056】
特定のタンパク質と相互に作用する薬物のコンピューターモデリングを総説する、Rotivinen et al., Acta Pharmaceutical Fennica, 97: 159 [1993]; Ripka, New Scientist 54-57 [Jun. 16, 1988]; McKinaly and Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxicol, 29: 111 [1989]; Perry and Davies, OSAR: Quantitative Structure-Activity Relationships in Drug Design, pp. 189-193 (Alan R. Liss, Inc. 1989); Lewis and Dean, Proc. R. Soc. Lond., 236: 125 [1989];および141 [1980];ならびに、核酸成分のモデル受容体に関する、Askew et al., J Am. Chem. Soc., 111: 1082 [1989])のような多くの論文がある。化学物質をスクリーニングし、図形表示する他のコンピュータープログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena, Calif.)、Allelix, Inc.(Mississauga, Ontario, Canada)およびHypercube, Inc.(Cambridge, Ontario)のような企業から入手することができる。これらは、主として、特定のタンパク質に特異的な薬物に適用するために設計されているが、領域が同定されているのならば、DNAまたはRNAの領域に特異的な薬物の設計にそれらを適合させてもよい。
【0057】
結合を改変し得る化合物の設計および作製に関して以上で記載したが、天然物または合成化学物質、およびタンパク質をはじめとする生物活性物質を含む既知化合物のライブラリーをNod1活性の阻害剤またはアクチベーターである化合物についてスクリーニングしてもよい。
【0058】
本明細書に記載のもののようなアッセイによって同定された化合物は、例えば、Nod1の生物学的機能を構成する際やNod1活性または発現の異常に関連する疾患の治療に有用である。上記方法で同定される化合物の有効性を試験するためのアッセイを以下に論述する。
【0059】
Nod1(またはNod1のドメイン)と相互作用することが可能な化合物を同定するようにin vitro系を設計し得る。同定された化合物は、例えば、野生型および/または変異型Nod1の活性を調整するのに有用であり得、生物学的機能Nod1を構成するのに有用であり得、正常なNod1の相互作用を遮断する化合物を同定するためのスクリーニングに利用し得、またはそれ自体でこのような相互作用を遮断し得る。
【0060】
Nod1を活性化する化合物を同定するのに使用されるアッセイの原理では、Nod1(またはそのドメイン)と試験化合物の反応混合物を2成分が相互作用し、活性化させるのに十分な条件下および時間で調製し、それを受けて複合体が形成され、反応混合物においてこの複合体が除去および/または検出される。使用するNod1種はスクリーニングアッセイの目的によって異なる。場合によっては、アッセイ系(例えば、標識化、生じた複合体の単離など)に有利な異種タンパク質またはポリペプチドと融合される、Nod1のドメインに相当するペプチドを使用することが好ましい。
【0061】
細胞系アッセイを使用して、Nod1と相互に作用する化合物を同定してもよい。この目的のために、Nod1を発現する細胞系統またはNod1を発現するよう遺伝子操作した細胞系統を使用することができる。
【0062】
化合物を阻害活性について試験するために、試験化合物の存在下および不在下で反応混合物を調製する。試験化合物は最初に反応混合物に含めておいてもよいし、Nod1部分を導入した直後に添加してもよい。対照反応混合物は試験化合物不在かまたは非活性対照化合物とともにインキュベートする。次いで、Nod1部分と結合パートナーとのあらゆる複合体の形成を検出する。対照反応物では複合体が形成するが、試験化合物を含む反応混合物では形成しないことから、化合物がNod1と相互に作用する結合パートナーとの相互作用を妨げることが示される。さらに、試験化合物と正常Nod1タンパク質とを含む反応混合物内での複合体形成と、試験化合物と変異型Nod1とを含む反応混合物内での複合体形成との比較も行える。変異型の相互作用を遮断するが、正常Nod1の相互作用は遮断しない化合物を同定することが望ましいというケースにおいてこの比較は重要なものとなろう。
Nod1を調整することが可能な化合物を同定するための他の方法は、実施例に開示している。
【0063】
本発明は、Nod1の活性を調整する化合物を投与することにより、アポトーシス細胞死の異常なレベルもしくは割合(望ましくないほど高いか、望ましくないほど低い)、Fas/APO−1受容体複合体の異常な活性、TNF受容体複合体の異常な活性、カスパーゼの異常な活性または感染もしくは非感染起源の炎症に関連する疾患を患っている患者を診断し、治療する方法を包含する。このような化合物の例としては、小分子および大分子が挙げられる。当然のことながら、以下のもののような種々の疾患の治療にも本発明を使用することができる。
【0064】
アポトーシスが抑制されると、生産され、生存または増殖し続ける、生存細胞の数の増加に関連する疾患がある。これらの疾患としては、癌(特に、濾胞性リンパ腫、p53の突然変異に関連する癌腫、および乳癌、前立腺癌および卵巣癌のようなホルモン依存性腫瘍)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、免疫介在性糸球体腎炎など)、ならびにウイルス感染(ヘルペスウイルス、ポックスウイルスおよびアデノウイルスに起因するものなど)が挙げられる。
【0065】
発達段階に生じる自己免疫細胞または免疫応答の間に体細胞突然変異の結果として産生する自己免疫細胞が排除されなかった場合に自己免疫疾患が起こる。リンパ球における細胞死の調節において重要な役割を果たす分子の1つがFasに対する細胞表面受容体である。
【0066】
ウイルス感染事象では、細胞が枯渇することが多く、恐らく、最も劇的な例がヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって起こる細胞枯渇である。驚くべきことに、HIV感染時に死滅するほとんどのT細胞は、HIVに感染しているように見えない。多くの解釈が提示されてきたが、CD4受容体が刺激を受けることで感染していないT細胞のアポトーシスを受ける感受性が高まるということが最近示された。
【0067】
多くの種類の神経系疾患には、神経細胞の特定集団が徐々に喪失するという特徴がある。このような疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、網膜色素変性症、脊髄性筋萎縮症、および種々の小脳変性症が挙げられる。これらの疾患での細胞の喪失は炎症反応を誘導せず、アポトーシスが細胞死の機構であると思われる。
【0068】
さらに、多くの血液疾患は血液細胞生成の減少と関連している。これらの疾患としては、慢性疾患に伴う貧血、再生不良性貧血、慢性好中球減少症および骨髄異形成症候群が挙げられる。骨髄異形成症候群およびある種の再生不良性貧血のような血液細胞生成疾患は、骨髄内でのアポトーシス細胞死の増加と関連している。これらの疾患は、アポトーシスを促す遺伝子の活性化、間質細胞もしくは造血生存因子の後天性欠乏、または毒素および免疫応答メディエーターの直接の影響によって生じ得る。
【0069】
2つのよく見られる細胞死関連疾患が心筋梗塞および卒中である。どちらの疾患においても、血流の急性欠乏事象において生じる虚血の中心部内にある細胞が壊死の結果として急速に死滅するようである。しかしながら、中心虚血領域外では、より長い時間をかけて細胞が死滅し、アポトーシスにより形態学的に死滅すると思われる。
【0070】
感染起源および非感染起源いずれもの特定炎症性疾患を、Nod1活性を調整する化合物を投与することにより治療し得る。炎症性疾患の病理は、炎症を介する組織の破壊と関連している。非感染起源の炎症性疾患としては、限定されるものではないが、アレルギー、喘息、乾癬、慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスおよび糸球体腎炎など)、および特定の癌が挙げられる。感染性炎症性疾患としては、胃腸炎(赤痢菌属(Shigella spp.)、腸炎菌(Samonella enteritidis)、カンピロバクター属(Campylobacter spp.)、下痢原性大腸菌の異種系統)、胃炎、胃潰瘍、および癌(ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori))、腟炎(クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis))ならびに呼吸器疾患(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウムなど)を引き起こすもののような感染症が挙げられる。
【0071】
Nod1活性の異常によって媒介される疾患を有する患者は、Nod1の活性を改変する化合物の投与によって治療することができる。よって、本発明は、Nod1の活性を低下または増強させる化合物(例えば、ポリペプチド、リボ核酸、小分子、大分子、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはデオキシリボ核酸)の治療上有効な量を投与することにより、Nod1活性異常に関連する疾患を有する患者を治療する方法を特徴とする。それゆえに、本発明は、Nod1をコードする遺伝子の発現または活性を調整することによりアポトーシスを調整する方法を特徴とする。
【0072】
Nod1活性異常に関連する疾患の予防的または治療的処置のために、Nod1活性に対して促進または阻害効果を有する薬剤またはモジュレーターを個体に投与してもよい。異質の化合物または薬物に対する個体の反応により効果的な薬剤の選択が可能になり、その反応は適切な用量および治療計画の決定にさらに利用することができる。よって、Nod1の活性を決定し、それを利用して、個体の治療的または予防的処置に好適な薬剤を選択することが可能である。
【0073】
本発明は、サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを(MTPを通じて)検出する方法を包含する。これらの方法では、グラム陰性菌MTPとNod1との間の特異的相互作用を利用して、サンプル中のグラム陰性菌由来のペプチドグリカン、次に、グラム陰性菌を検出する。
【0074】
好ましい態様では、本発明は、サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを検出する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、
c)MTPとNod1との間の相互作用を検出する
ことを含んでなり、
ここで、MTPとNod1との間の相互作用がそのサンプル中にグラム陰性菌由来のペプチドグリカンが存在することを示す、
方法に向けられる。
【0075】
グラム陰性菌MTPとNod1との間の相互作用の検出は、例えば、実施例に開示したように、細胞におけるNK−κB活性化を測定することによりなし得る。
他方、Nod1は感染後に自己オリゴマー化する(N. Inohara et al., 2001)。この特性に基づき、Nod1のオリゴマー化を検出することによって、Nod1/グラム陰性菌MTP相互作用を検出してもよい。例えば、Nod1のオリゴマー化の検出は、Nod1とプローブとのカップリングを利用することにより行うことができる。より詳細には、本発明の方法を無細胞系で実施し、Nod1のオリゴマー化を生理化学反応によりモニタリングすることができる。特定の態様では、当業者に周知の、検出可能な生物発光シグナルを発生させるFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用して、Nod1のオリゴマー化を検出する。
【0076】
Nod2は、グラム陰性菌ペプチドグリカンまたはグラム陽性菌ペプチドグリカンのいずれかを検出する(S. E. Girardin et al., 2003; N. Inohara et al., 2003)。ゆえに、本発明の方法では、Nod1およびNod2タンパク質を使用して、サンプル中の細菌ペプチドグリカン、次に、細菌の存在を検出し、必要に応じて、前記サンプル中の細菌がグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する。
【0077】
好ましい態様では、本発明は、サンプルにおいてペプチドグリカンを検出し、必要に応じて、ペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、Nod2タンパク質とも接触させ、
c)MTPおよびMDPと2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との間の相互作用を検出し、および、
d)必要に応じて、Nod1との相互作用とNod2との相互作用とを識別する
ことを含んでなり、
ここで、c)では2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との相互作用がそのサンプル中にペプチドグリカンが存在することを示し、かつ、d)ではNod2とだけ相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陽性菌起源のものであることを示し、一方、Nod1ともNod2とも相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであることを示す、
方法を包含する。
【0078】
より詳細には、Nod2は、ムラミルジペプチド(MDP)を介する、グラム陽性菌由来またはグラム陰性菌由来のペプチドグリカンの一般的センサーであり、一方、Nod1は、MTPを介する、陰性菌由来のペプチドグリカンに特異的なセンサーである。細菌ペプチドグリカンとNodタンパク質との間の相互作用は上記の方法により検出することができる。MDPとNod2との間の相互作用を検出する方法は(S. E. Girardin et al., 2003)に開示されている。特定の態様では、その方法は、FRET技術を利用してNod1とNod2のオリゴマー化を検出することにより、細菌ペプチドグリカンのNodタンパク質との相互作用を検出する。
【0079】
さらに、本発明は、細菌ペプチドグリカンのNodタンパク質との相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法を包含する。特定の態様では、前記方法により、グラム陰性菌ペプチドグリカンのNodタンパク質との、特に、Nod1タンパク質との相互作用を特異的に調整する分子を識別することが可能である。この相互作用の調整は、上記の方法によって検出される。
【0080】
好ましい態様では、本発明は、グラム陰性菌のペプチドグリカンとNod1との間の相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法であって、
a)MTPを用意し、
b)試験分子の存在下および不在下で前記MTPをNod1タンパク質と接触させ、
c)試験分子の存在下および不在下でのMTPとNod1との間の相互作用を評価する
ことを含んでなり、
ここで、試験分子の存在下でのMTPとNod1との間の相互作用の調整が前記分子がNod1とグラム陰性菌のペプチドグリカンと間の前記相互作用を調整することを示す、
方法に向けられる。
【実施例】
【0081】
実施例1
材料および方法
細菌株と製品
これらの研究に使用した細菌株は、次の:ネズミチフス菌株C52およびC52−デルタフラジェリン(fliC::aphA-3(Km)fljB5001::Mud(Cm));大腸菌K12;B群赤痢菌5a M90T;B.16サブチルス(B. 16 subtilis)(Agnes Fouet, Institut Pasteur製);黄色ブドウ球菌(Olivier Chesneau, Institut Pasteur製);カセイ菌(L. casei)(Raphaelle Bourdet-Sicard, Danone Vitapole製);リステリア菌(株EGD、Pascale Cossart, Institut Pasteur製);髄膜炎菌LNP8013である。細菌株を一晩培養したものから細菌抽出物を調製し、それをOD600値が0.3になるまで希釈し、3分超音波処理し、濾過した(0.2ミクロン)。
【0082】
市販のLPSおよびリピドAは、大腸菌O111:B4(Sigma)由来のものであった。市販の黄色ブドウ球菌PGNはFluka Chemicals製であった。市販のPam3Cys−Ser−Lys4−OHリポペプチドは、Roche Diagnostics(Mannheim)製であり、大腸菌リポタンパク質調製物は、Emmanuelle Bouveret and Roland Lloubes(UPR 9027, Marseille)からの提供品であった。
【0083】
純粋RE−LPSは、大腸菌F515由来のものであり、すでに記載されているように(P. M. Sanchez Carballo et al., Eur. J. Biochem., 261, 500, 1999)、精製した。合成GM−ジペプチドは、Sigma社から購入した。大腸菌、B群赤痢菌および髄膜炎菌のPGNは、Glauner et al., 1988に記載されているように精製した。枯草菌および黄色ブドウ球菌のPGNは、de Jonge et al., 1992に記載されているように精製した。実施例2も参照のこと。
【0084】
発現プラスミドと一時的トランスフェクション
Flagタグ付きNod1の発現プラスミドは、Gabriel Nunez製の発現プラスミドであり、すでに記載されている(N. Inohara et al., 1999)。HA−タグ付きDN−Nod1(117−953aa)およびmycタグ付き”LRR(1−644aa)Nod1は、PCRにより作製し、pcDNA3(Invitrogen)およびpRK5(Alan Hall, ICRF, London製)それぞれにクローニングした。DN−MyD88は、Marta Muzio製のものであり、vsvタグ付きDN−Rip2(7−425aa)の発現プラスミドは、Margot Thome and Jurg Tschopp(University of Lausanne, Switzerland)からの提供品であった。トランスフェクションは、すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、HEK293において行った。
【0085】
NF−κB活性化アッセイ
ジギトニン透過化細胞でのNF−κB活性化アッセイでは、すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、HEK293 1×105個を24穴プレートで増殖させ、その後、75ngのNF−κB−ルシフェラーゼリポーター遺伝子(Igκルシフェラーゼ)で24時間トランスフェクトした。次いで、細胞を10μg/mlジギトニン(Sigma)を含むまたは含まない透過化バッファー(50mM HEPES,pH 7、100mM KCl、3mM MgCl2、0.1mM DTT、85mMスクロース、0.2%BSA、1mM ATPおよび0.1mM GTP)500μl中、超音波処理済細菌抽出物25μlとともに37℃にて30分間インキュベートした。その後、すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、透過化バッファーを除去し、ルシフェラーゼ測定用に処理する前の4時間、10%ウシ胎児血清(Gibco)を含有する培地(DMEM, Gibco)で置き換えた。図3に示すドミナントネガティブ研究では、漸増量のドミナントネガティブ型構築物をNF−κBリポータープラスミドで同時トランスフェクトした。その後、以上で詳述したように試験を実施した。
【0086】
Inohara et al.(N. Inohara et al., 2001)によって記載されているように、Nod1を過剰発現している細胞においてLPS、リピドA、リポタンパク質または精製PGNによるNF−κBの活性化を調べる研究を行った。要するに、HEK293細胞を10ngのNod1で一晩トランスフェクトした。同時に、LPS、リポタンパク質またはペプチドグリカン調製物を添加し、その後、24時間同時インキュベートした後にNF−κB依存性ルシフェラーゼ活性化を測定した。予めトランスフェクトし、それを洗浄してリポソーム試薬を除去した細胞に細菌産物を細胞外添加してもNF−κBの活性化は起こらない(データは示していない)ことから、添加されたDNAを含むトランスフェクション試薬が細菌産物の細胞への取り込みを助けていると考えられる。
【0087】
NF−κB依存性ルシフェラーゼアッセイを繰り返し行った。データは少なくとも3回の独立した試験のものである。データは平均±SEMであり、ベクター発現細胞に対する活性化倍率またはNod1発現細胞のNF−κB活性化レベルに対する相乗効果倍率として表している(Nod1 10ngの場合、NF−κB活性化はベクター発現細胞に対して約5倍である)。
【0088】
免疫蛍光研究では、すでに記載されているように(D. J. Philpott et al., J. Immunol., 165, 903, 2000)、細菌産物(FITC−デキストランで1:1希釈した)をマイクロインジェクションした後、HeLa細胞、Caco−2細胞または単離腸上皮細胞におけるNF−κB p65の核移行により、NF−κB活性化を評価した。1カバースリップにつきマイクロインジェクションした細胞を少なくとも50個調べた。少なくとも2回、独立して試験を行ったところ、同様の結果であった。
【0089】
インターロイキン−8の生成
ムロペプチドにより上皮細胞において生成されたNod1依存性IL−8を測定するため、5×105個HeLa細胞を12穴プレートの各穴に播種し、翌日、10ng Nod1と各ムロペプチドとでトランスフェクトし(上記のとおり)、または陽性対照としてIL−1で処理した。18時間後、上清を回収し、すでに記載されているように(D. J. Philpott et al., 2000)、ELISAキット(R and D Systems)を用いてIL−8についてアッセイした。
【0090】
ウエスタンブロットおよび免疫沈降
すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、ウエスタンブロットと免疫沈降を行った。Nod1のaa1−15および567−582に相当する2種類のペプチドでウサギを免疫化することにより、Nod1ポリクローナル抗体を得た。血清を回収し、アフィニティー精製し、Nod1に対して特異的であることを確認した。Nod2ポリクローナル抗体は、Cayman Chemical(Ann Arbor, MI)製であった。
【0091】
実施例2
グラム陰性菌由来およびグラム陽性菌由来の高度に精製されたPGNの調製
PGNの調製に使用する細菌株は、次の:大腸菌K12;B群赤痢菌5a M90T(野生型);髄膜炎菌;枯草菌168;黄色ブドウ球菌COL(Olivier Chesneau, Institut Pasteur製)である。大腸菌およびB群赤痢菌のPGNは、Glauner et al(B. Glauner et al., 1988)によって記載されているように精製した。枯草菌および黄色ブドウ球菌のPGNは、de Jonge et al(B. L. de Jonge et al., 1992)によって記載されているように精製した。要するに、細菌を指数増殖期に光学密度(600nm)値0.4〜0.6にて回収し、氷−エタノール浴で急冷して、内因性自己溶解素によるPGN加水分解を最小限に抑えた。ペレットを氷冷水に再懸濁し、沸騰した8%SDSに少しずつ滴下した。サンプルを30分煮沸し、自己溶解素を直ちに不活性化させた。不溶性の重合PGNを遠心分離により回収し、SDSが検出されなくなるまで数回洗浄した。SDSアッセイをHayashi(K. A. Hayashi, Anal. Biochem., 67, 503, 1975)によって記載されているように行った。SDS処理により混入しているタンパク質、非共有結合したリポタンパク質およびLPSを除去した。グラム陽性菌サンプルを酸洗浄したガラスビーズ(<100nm)で物理的に破壊した。PGN画分を分画遠心分離により回収して、細胞残屑を除去した。全てのPGNをさらに処理し、α−アミラーゼにより全てのグリコーゲンを除去し、トリプシン(3×結晶トリプシン、Worthington)消化により共有結合したタンパク質(グラム陽性菌のLPXTGタンパク質)またはリポタンパク質(グラム陰性菌)を除去した。サンプルをさらに1%SDS中で煮沸してトリプシンを不活性化し、洗浄してSDSを除去した。グラム陽性菌サンプルを49%フッ化水素酸で4℃にて48時間処理した。この弱酸加水分解により、テイコ酸、莢膜、ポリ−(β,1−6GlcNAc)等のような、リン酸ジエステル結合によってPGNと共有結合する二次的多糖類が除去される。グラム陽性菌およびグラム陰性菌PGN両方のさらなる処理では、8M LiCl、0.1M EDTAで洗浄して全てのポリペプチド性夾雑物を除去し、アセトンで洗浄してリポタイコ酸またはLPSの痕跡を除去した。サンプルを凍結乾燥してPGN量を測定した。HCl加水分解後のHPLCアミノ酸および糖類分析によりサンプルの純度を評価した(図4も参照のこと)。
【0092】
実施例3
逆相HPLCおよび質量分析による髄膜炎菌PGNの解析
髄膜炎菌またはB群赤痢菌のペプチドグリカンをムラミダーゼムタノリジン(M1, Sigma)により消化して、両種のムロペプチドの全てのスペクトルを取得した。Glauner(B. Glauner et al., 1988)によって記載されているように、ムロペプチドを水素化ホウ素ナトリウムで還元し、逆相HPLCにより分画した。各ムロペプチドピークを回収し、生物学的アッセイにそのまま使用した。質量分析による解析では、Garcia-Bustos et al.(J. F. Garcia-Bustos et al., Antimicrob. Agents Chemother., 31, 178, 1987によって記載されているように、髄膜炎菌ペプチドグリカンの異なるムロペプチド画分をHPLCによりさらに脱塩した。Xu et al.(N. Xu et al., Anal. Biochem., 248, 7, 1997)によって記載されているように、脱塩処理したムロペプチドをMALDI−TOFにより解析した。
【0093】
次の解析した画分についてそれらの分子量を決定した:画分3[M+H]+ 871,6214m/z;[M+Na]+:893,3633m/z;[M+2Na−H]+ 915,3518m/z、これはGlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP構造(計算質量870)と一致する;画分6[M+H]+ 942,4512m/z;[M+Na]+ 964,4689m/z;[M+2Na−H]+ 986,4429m/z;[M+3Na−2H]+ 1008,4321m/z、これはGlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP−DAla構造(計算質量941)と一致する;画分17 2ムロペプチド種の混合物:1)[M+H]+ 851,3460m/z;[M+Na]+ 873,3422m/z;[M+2Na−H]+ 895,3219m/z;[M+3Na−2H]+ 917,3115m/z、これはGlcNAc−アンヒドロ−MurNAc−L−Ala−D−GluメソDAP構造(計算質量850)と一致する、2)[M+H]+ 1865,5588m/z;[M+Na]+ 1887,5331m/z;[M+2Na−H]+ 1909,5753m/z;[M+3Na−2H]+ 1931,5625m/z、これはムロペプチド二量体GlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP(GlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP−D−Ala)−D−Ala構造(計算質量1864)と一致する。
【0094】
実施例4
Nod1経路
Nod1経路は、市販のLPSおよびグラム陰性菌PGNによって活性化される。図1Aは、Nod1経路が市販の大腸菌LPSによっては活性化されるが、タンパク質を含まない純粋なLPSまたはリピドAによっては活性化されないことを示している。図1Bは、リポペプチドまたは大腸菌リポタンパク質(脂質化されたものおよび脱脂質化されたもの、すなわち、「Lpp」および「可溶性E.c Lpp」)ではNod1経路を活性化し得ないことを示している。図1cは、Nod1はグラム陰性菌PGN(大腸菌、B群赤痢菌、髄膜炎菌)に対するNF−κBの反応を媒介するが、グラム陽性菌PGN(枯草菌、黄色ブドウ球菌または市販の黄色ブドウ球菌PGN)に対する反応を媒介しないことを示している。図1dにて示されるように、ΔLRR−Nod1発現細胞では、大腸菌PGNによるNF−κBの相乗的活性化は観察されなかった。LPS、リピドA、リポタンパク質調製物は、10μg/mlにて使用した。PGN調製物は、1μg/mlにて使用した。
【0095】
実施例5
Nod1によって検出されたPGNモチーフの特性決定
Nod1によって検出されたPGNモチーフの特性決定を図2に示す。図2Aでは、髄膜炎菌由来のPGNムロペプチドを逆相HPLCにより分画し、続いて、質量分析により解析した(サポーティングオンラインテキスト参照)。N.D.(a)、このHPLC分画では検出されなかったが、後のHPLC分画と質量分析による解析でO−アセチル化二量体GM−テトラペプチドであることが判明した。この画分は追加試験でもNod1刺激に対して陰性であった(データは示していない)。N.D.(b)、不明の画分。図2Bでは、各HPLC画分の1%量を、個々に、Nod1経路の活性化について試験したところ、GM−トリペプチドに当たる画分3がNod1を活性化することを示した。二量体GM−テトラペプチド(Nod1を活性化しない)と無水GM−トリペプチドとの混合物に当たる画分17はNod1を活性化する。図2Cは、髄膜炎菌PGNの模式図であり、質量分析によって決定された画分3(GM−トリペプチド)のNod1活性モチーフを詳細に示している。図2Dでは、同量(10ng)のGM−ジペプチド(GM−ジ;合成によるもの)、GM−トリペプチド(GMトリ)、またはGM−テトラペプチド(GM−テトラ)をNF−κBのNod1−、Nod2−またはTLR2依存性活性化の刺激について試験した。図2Eは、髄膜炎菌および枯草菌PGNによるNod1またはNod2の相乗的活性化に関するものである。図2Fは、Nod1の存在下、GM−トリペプチドで刺激したHeLa上皮細胞において炎症性ケモカイン、IL−8が生成したが、GM−ジペプチドまたはテトラペプチドで刺激した場合には生成しなかったことを示している。IL−8生成のIL−1(10ng/ml)刺激を陽性対照として示している。ムロペプチドのバッファー希釈液は淡黄褐色である。
【0096】
実施例6
グラム陰性菌の細胞内検出
MyD88ではなくNod1/Rip2を通じ、上皮細胞においてグラム陽性菌産物ではなくグラム陰性菌産物が細胞内で検出されることを図3に示す。
グラム陰性(S.t,ネズミチフス菌;S.tΔF,ネズミチフス菌−デルタフラジェリン;E.c,大腸菌;S.f,B群赤痢菌)およびグラム陽性(B.s,枯草菌;S.a,黄色ブドウ球菌;L.c,カセイ菌;L.m,リステリア菌)菌由来の抽出物を、ジギトニン(10μg/ml)によって透過性上昇処理を行ったHEK293細胞または処理を行わなかったHEK293細胞に添加し、4時間後、NF−κB−ルシフェラーゼリポーターアッセイを用いてNF−κB活性を測定した。その結果を図3Aに示している。
【0097】
HeLa細胞にデキストラン−FITC単独(バッファー)または細菌抽出物のいずれかをマイクロインジェクションし、NF−κB p65を染色した。図3Bで、グラム陰性菌上清をマイクロインジェクションした細胞の100%にNF−κBの移行が認められるが、グラム陽性菌上清の場合には活性細胞は認められなかった。DAPI染色では核の位置が分かる。矢印は活性化細胞の核に移行したNF−κB p65を示している。
【0098】
図3cでは、ドミナントネガティブ型MyD88(DN−MyD88;0,20,50ng)がグラム陰性菌抽出物によって誘導されるNF−κB活性に及ぼす影響は示されていないが、IL−1によって誘導されるNF−κB活性化(IL−1,10ng/ml)を阻害することが示されている。
【0099】
図3Dにて示されるような、Nod1 117−953aa(DN−Nod1;0,200,400ng)でトランスフェクトしたジギトニン透過化HEK293細胞におけるグラム陰性菌抽出物によって誘導されるNF−κB活性の阻害。
図3Eにて示されるような、ドミナントネガティブ型Rip2(DN−Rip2;0,50,100ng)によるグラム陰性菌抽出物によって誘導されるNF−κB活性の阻害。
【0100】
実施例7
Nod1欠損マウス腸上皮細胞の反応
Nod1欠損マウスの腸上皮細胞は、図8にて示されるように、細菌上清に反応しない。野生型マウスの単離腸上皮細胞では、NF−κBのp65サブユニットの核移行に見られるように、グラム陽性菌上清ではなくグラム陰性菌上清をマイクロインジェクションした場合にNF−κBが活性化される(図3Bについて記載したとおり)。これに対し、Nod1欠損マウスの細胞は細菌上清によって活性化されないが、TNFα(10ng/ml)によってこれらの細胞におけるNF−κB核移行が効果的に刺激される。グラム陰性菌上清をマイクロインジェクションした野生型細胞の98%にNF−κBの核移行が認められたが、グラム陽性菌上清をマイクロインジェクションした場合には活性細胞は認められなかった。Nod1欠損細胞のケースでは、どちらの場合でも活性細胞は認められなかった。野生型またはNod1欠損細胞では、グラム陰性菌上清またはグラム陽性菌上清のどちらを細胞外に添加してもNF−κB核移行は刺激することはできない(データは示していない)。
【0101】
ショウジョウバエ(Drosophila)では、トール経路によりグラム陽性菌と真菌の両方を検出する一方で、グラム陰性菌感知に特有のImd経路が存在する(B. Lemaitre et al., Cell, 86, 973, 1996)。最近、2つのペプチドグリカン認識タンパク質(PGRP)が、ショウジョウバエにおける細菌の示差的検出において重要な役割を果たすことが分かってきた(T. Michel et al., Nature, 414, 756, 2001; K. M. Choe et al., Science, 296, 359, 2002; M. Gottar et al., Nature, 416, 640, 2002; M. Ramet et al., Nature, 416, 644, 2002)。PGRP−SAがトール経路におけるグラム陽性菌認識に関与する一方で、PGRP−LCがグラム陰性菌感知においてImdの上流で作用している。しかしながら、この示差的検出が実質的にPGNによるものであるという明確な立証がまだ得られていない。
【0102】
本発明は、哺乳動物細胞では細菌のNod1依存性検出がグラム陰性菌PGNモチーフの感知によってなされていることを示してきた。実際に、本発明は、GM−トリペプチドとGM−ジペプチドが新たな細菌PAMP種を形成し、この新たな種がNod1およびNod2それぞれによって示差的に認識されているということを立証している。これらのPGNモチーフは、増殖中に細菌から放出される天然に存在する分解産物である。そのため、細菌によって放出されたか、またはリソソームコンパートメントで宿主細胞によって加工されたPGN分解産物のペプチド性組成物は、細菌感染に対する宿主の反応の定義づけにおいて極めて重要である。この点において、Nod1およびNod2が感知するPGNモチーフを同定することにより、これら2つの分子が生得免疫の一因となる相補的でかつ重複していない機能を有することが示唆される。さらに、本発明の結果は、Nod1はPGN感知を通じた細菌の細胞内検出を可能にする、上皮バリアーにおける唯一の歩哨分子である可能性が高いことを示したものであるが、そのことによって、生得免疫防御におけるその重要な役割が明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】Nod1経路が市販のLPSおよびグラム陰性菌PGNによって活性化されることを示す。
【図2】Nod1によって検出されたPGNモチーフの特性決定である。
【図3】MyD88ではなくNod1/Rip2を通じ、上皮細胞においてグラム陽性菌産物ではなくグラム陰性菌産物が細胞内で検出されるという結果を示す。
【図4】高度に精製されたグラム陰性菌由来またはグラム陽性菌由来PGNを調製するための試験手順を示す。
【図5】種々の細菌のPGNから誘導されるムロペプチドの模式図である。 図5A:グラム陰性菌で認められた、メソDAPアミノ酸を含有するムロペプチド。図5B:枯草菌のような一部のグラム陽性菌で認められたムロペプチド。メソDAPの代わりに、アミド化DAPが認められる。図5C:大部分のグラム陽性菌で認められた、3番目のアミノ酸としてL−リジンを含有するムロペプチド。これらのムロペプチド間に存在する違いが3番目のアミノ酸の位置だけであることに留意。
【図6】調製した細菌抽出物の相対PGN含量の調査結果を示す。マイクロインジェクションした細胞におけるNF−κB p65サブユニットのサイトゾルから核への移行によりNF−κB活性化を評価した。 図6A: 本発明者らは調製した細菌抽出物の相対PGN含量を決定することを目的とした。この目的を達するために、リポタンパク質活性に作用するプロテイナーゼK処理および煮沸処理したまたは未処理の細菌抽出物を細胞外添加することによりTLR2過剰発現HEK293細胞を刺激した。このようにして、本発明者らは細菌リポタンパク質対PGNのTLR2刺激への相対的寄与率を解析した。本発明者らはグラム陰性菌の細菌抽出物が同じ光学密度に培養したグラム陽性菌の抽出物よりもずっと低いPGN活性を示すことを観察した(図3A)。グラム陰性菌が有するPGNはグラム陽性菌よりも少なく、また、グラム陰性菌は増殖中より高い程度にPGNを再循環させるということは周知であるため、この発見は驚くにはあたらない。 図6B: B群赤痢菌および黄色ブドウ球菌の細菌抽出物をFITC−デキストランと一緒にCaco−2上皮細胞にマイクロインジェクションした。30分後、細胞を固定化し、NF−κB活性化について免疫蛍光により解析した。マイクロインジェクションした細胞におけるNF−κB p65サブユニットのサイトゾルから核への移行によりNF−κB活性化を評価した。グラム陰性菌の細菌抽出物をマイクロインジェクションしたCaco−2細胞にのみNF−κBの活性化が観察された。本発明者らは細菌抽出物の細胞外添加後のCaco−2細胞におけるNF−κB活性化が不十分であることも観察した。このことは、これらの細胞が機能的内因性TLR感知系ではないことを示唆している。
【図7A】図7は、Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されることを示す。Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されている。 図7A: HeLaおよびHEK 293細胞のタンパク質抽出物(2.104細胞/レーン)をヒト型Nod1およびNod2それぞれに対して作製された特異的ポリクローナル抗体を用いて、ウエスタンブロット法によりNod1およびNod2の内因性発現について直接解析した(方法の節を参照)。この技術では依然としてNod1およびNod2の内因性発現が検出できなかったため、抗体の特異性を示すためにNod1(HEK/Nod1)およびNod2(HEK/Nod2)の発現ベクターで一時的にトランスフェクトしたHEK 293のタンパク質抽出物を同時に解析したことに留意。
【図7B】図7は、Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されることを示す。Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されている。 図7B: ウエスタンブロット法による解析に先立ち、図のように、Nod1、Nod2または対照IgG抗体を用いてHeLaおよびHEK 293細胞のタンパク質抽出物(107細胞/レーン)を免疫沈降させた。この免疫沈降法では細胞抽出物に存在するNod1およびNod2を〜500倍に濃縮可能であることから、内因性タイプのNod1およびNod2の存在を検出するためにはこの方法が必要であった。
【図8A】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Aは、Nod1によるペプチドグリカンの検出に環状糖部分を必要としないことを示す。
【図8B】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Bは、Nod1はメソ−DAPを含有するGM−トリペプチドを検出するが、アミド化DAPを含有するGM−トリペプチドは検出しないことを示す。
【図8C】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Cは、Nod1がTriDAPを検出することを示す。
【図8D】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Dは、Nod1がUDP−MurTriDAPおよびMurTriDAPを検出することを示す。
【発明の背景】
【0001】
本発明は、最初に説明する、病原体認識分子Nod1に関するものであり、このNod1は、具体的に言えば、ペプチドグリカンモチーフ、ムラミルトリペプチド(muramyl tripeptide)を介してグラム陰性菌を感知する。より詳細には、本発明は、ムラミルトリペプチド(MTP)と関連する分子によるNod1活性の調整に関する。本発明はまた、Nod1活性を調整することが可能な分子を同定するためのスクリーニング工程、ならびに炎症および/またはアポトーシスを調整するためのそのような分子の治療上の使用に関する。本発明はまた、炎症および/またはアポトーシスを調整するためにまたはアジュバントとして使用可能な新規化合物に関する。
【0002】
多細胞生物では、細胞増殖速度と細胞死速度との均衡を保つことによりホメオスタシスが維持されている。細胞増殖は、多くの増殖因子および一般に細胞周期を通じて進行を促すプロトオンコジーンの発現によって影響を受ける。これに対し、腫瘍抑制遺伝子の発現をはじめとする多くの事象によって細胞増殖の停止が引き起こされる。
【0003】
分化細胞では、内部自殺プログラムが働くとアポトーシスと呼ばれる独特のタイプの細胞死が起こる。このプログラムは、種々の外部シグナルのほか、例えば、遺伝子損傷を受けて細胞内で発生するシグナルによっても開始される。瀕死の細胞は炎症反応を起こすことなく食細胞によって迅速に取り除かれるため、長年、アポトーシス細胞死の規模は分からなかった。
【0004】
アポトーシスを媒介する機構は集中的に研究されてきた。これらの機構は内因性プロテアーゼの活性化、ミトコンドリア機能の低下、ならびに細胞骨格の破壊、細胞収縮、膜のブレビング、およびDNA分解による核凝縮のような構造変化を伴う。アポトーシスを引き起こす種々のシグナルが、C.エレガンス(C. elegans)のような蠕虫類からヒトへと高度に保存されている遺伝子の発現によって調節される一般的な細胞死経路に集中し、これらの事象を引き起こしていると考えられている。実際に、無脊椎動物モデル系はアポトーシスを制御する遺伝子を同定し、特徴付ける貴重なツールであった。無脊椎動物およびさらに進化した動物の研究を通じて、細胞死と関係している多くの遺伝子が同定されたが、それらの産物が相互に作用してアポトーシスプログラムを実行する方法についてはほとんど分かっていない。
【0005】
アポトーシスプログラムの中心となるタンパク質の一種であるカスパーゼは、基質切断部位のアスパラギン酸エステルに対して特異性を有するシスチンプロテアーゼである。これらのプロテアーゼは、主として、アポトーシスを受けている細胞で認められる形態変化の原因となる細胞タンパク質の分解に関与する。例えば、ヒトで確認されたカスパーゼの1つが、プロ−IL−1βの活性サイトカインへのプロセシングに関与するシステインプロテアーゼであるインターロイキン−1β(IL−1β)変換酵素(ICE)としてすでに知られている。
【0006】
多くのカスパーゼおよびカスパーゼと相互に作用するタンパク質は、カスパーゼリクルートメントドメイン(CARD)と呼ばれる約60個のアミノ酸からなるドメインを有している。特定のアポトーシスタンパク質がそれらのCARDを介して互いに結合すること、そして、異なるサブタイプのCARDが結合特異性を与え、それによって、例えば、種々のカスパーゼの活性が調節されることを主張した者もいた。
【0007】
病原菌に対する生得免疫は、パターン認識分子(PRM)による病原体関連分子パターン(PAMP)の特異的な感知によるものである。哺乳動物では、トール様受容体(TLR)が最も広く研究されているPRM種であり、これらはリポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン(PGN)、リポタンパク質、二本鎖RNAおよびCpG DNAのような種々のPAMPを感知することが分かっている(S. Akira et al., Nat. Immunol., 2, 675, 2001; R. Medzhitov, Nat. Rev. Immunol., 1, 135, 2001)。TLRは、主として原形質膜で発現されるものであるが、Nod1/CARD4およびNod2/CARD15をはじめとする細胞内タンパク質ファミリーであるNod分子が細胞質コンパートメント内の細菌産物を感知することから、細胞内に侵入した細菌の存在の検出を可能にする新たなPRM群である可能性が最近提起されている(N. Inohara et al., J. Biol. Chem. 274, 14560, 1999; J. Bertin et al., J. Biol. Chem., 274, 12955, 1999; N. Inohara et al., J. Biol. Chem., 276, 2551, 2001; S. E. Girardin et al., EMBO Rep., 2, 736, 2001; Y. Ogura et al., J. Biol. Chem., 276, 4812, 2001; Y. Ogura et al., Nature, 411, 603, 2001; J. P. Hugot et al., Nature, 411, 599, 2001)。
【0008】
カスパーゼリクルートメントドメインにちなんでCARD4とも呼ばれるNod1の部分配列(cDNAおよびタンパク質)は、1998年2月6日出願の特許出願番号09/019,942で開示されており、米国特許第6,033,855号として現在認可されている。さらに、Bertin et al.(1999)では、CARD4の完全アミノ酸配列と上記特許ですでに述べられているその機能の1つ:CARD4がNF−κBおよびアポトーシスシグナル伝達経路を調整することが開示されている。Girardin et al.(2001)では、CARD4/Nod1が侵入性B群赤痢菌(Shigella flexneri)によるNF−κB活性化を媒介することが開示されている。この論文では、B群赤痢菌LPSとCARD4との間の相互作用を特に研究している。
【0009】
CARD−4が異常にダウンレギュレートされるという状況下、および/またはCARD−4活性を上昇させることに有益な効果がある可能性が高いという状況下では、Nod1/CARD−4活性を促進することが望ましい。逆に、CARD−4が異常にアップレギュレートされるという状況下、例えば、心筋梗塞、および/またはCARD−4活性を低下させることに有益な効果がある可能性が高いという状況下では、CARD−4活性を阻害することが望ましい。CARD−4がサイトカインのプロセシングに関与していることから、異常な炎症を起こしている患者においてはCARD−4の活性または発現を阻害することが有益であると思われる。
【0010】
Nod1が上皮細胞の細胞質コンパートメント内のグラム陰性病原体、B群赤痢菌の存在を感知することが最近示され(S. E. Girardin et al., 2001)、さらに、市販のLPS調製物がNod1を活性化することが分かっていることから、検出されたPAMPがLPSであるという仮説が立てられた(N. Inohara et al., J. Biol. Chem., 276, 2551, 2001)。しかしながら、これらのLPSは細菌細胞壁夾雑物を含有していることが多いため、当技術分野では、特定の分子モチーフがNod1によって実際に検出され、そのモチーフがNod1活性を調整するかどうかについてのより詳細な記載が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、当技術分野におけるこの必要性を満たす助けとなるものである。一つの態様では、本発明は、Nod1活性を調整する方法であって、
(a)真核細胞において機能的Nod1を発現させ、かつ
(b)前記細胞をMTP関連分子と接触させる
ことを含んでなる方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、Nod1活性を増強させる方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子であるこの種の方法も提供する。一つの態様では、MTP関連分子がトリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDap、その生物学的に活性な誘導体またはそのペプチドミメティック(ペプチド類似体(peptidomimetic))である。
【0013】
もう一つの態様では、MTP関連分子がMTP、その生物学的誘導体またはそのペプチドミメティックである。Nod1活性を低下させることが可能な方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPに対してアンタゴニスト作用を有する分子である。
【0014】
さらに、本発明は、哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、MTP関連分子をその哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。一つの態様では、炎症および/またはアポトーシスを増強させる方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子である。また、もう一つの態様では、炎症および/またはアポトーシスを減少させる方法であり、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアンタゴニスト作用を有する分子である。
【0015】
さらに、本発明は、生物学的に許容されうる担体と生物学的有効量のMTP関連分子を含んでなる組成物を提供する。
本発明はまた、構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはそのペプチドミメティックである化合物も提供する。
【0016】
さらに、本発明は、真核生物において炎症および/またはアポトーシスをin vivo増強させるための、すなわち、アジュバントとして有用な化合物であって、構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはペプチドミメティックであり、かつ、アジュバントとして使用した場合に前記トリペプチドのアミノ酸AlaがN−アシルムラミン酸と結合しない化合物を提供する。この化合物はアジュバントとしての使用に好適である。
【0017】
本発明の組成物は、抗原と生物学的有効量の本発明の分子を含んでなる。組成物は、免疫原と生物学的有効量の分子を含んでなっていてもよい。
本発明は、宿主の免疫応答を増強させるための方法であって、宿主に、生物学的に許容されうる担体とその免疫応答を増強させるのに十分な量の本発明の化合物を含有する組成物と関連づけられる、抗原、または、宿主において免疫応答を誘導させることが可能な目的の製品を投与することを含む方法を提供する。この方法は、抗原と本発明の分子を含んでなる組成物の免疫応答を促進するのに有効な量を投与することを含んでもよい。
【0018】
さらに、本発明は、目的の抗原と免疫原性組成物の効果を増強するのに有効な量の分子を含有する、病原菌に対する免疫原性組成物を提供する。
また、本発明は、ヒトまたは動物宿主のワクチン接種方法であって、その宿主に本発明の免疫原性組成物のワクチン接種に有効な量を投与することを含む方法も提供する。この宿主は、ヒトまたは温血動物であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明は、Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を検出する方法であって、
(a)Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常が疑わしい細胞を用意し、
(b)その細胞をMTPまたはそのアゴニストと接触させ、かつ
(c)NF−κB活性化またはIL−8生成を評価する
ことを含んでなり、
ここで、NF−κB活性化の変化またはIL−8生成の変化は、Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を示す、
方法を提供する。
【0020】
Nod1とMTPとの間の直接または間接相互作用の後に起こる炎症および/またはアポトーシス反応を調整することが可能な分子をスクリーニングするための本発明の方法は、
(a)機能的Nod1を発現する細胞を用意し、
(b)その細胞を試験しようとする分子と接触させ、
(c)NF−κB活性化および/またはIL−8生成を測定し、かつ、
(d)必要に応じて、工程c)の結果を試験しようとする分子の不在下で得られた結果と比較する
ことを含んでなり、
ここで、試験しようとする分子の不在下でのNF−κB活性化および/またはIL−8生成に対するNF−κB活性化および/またはIL−8生成の変化がその試験した分子の哺乳動物グラム陰性菌感染によって起こる炎症反応を調整する能力を示す。本発明は、スクリーニング工程によって同定された分子を含む。
【0021】
また、本発明は、哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、スクリーニング工程によって同定された分子をその哺乳動物に投与することを含む方法も提供する。
【0022】
さらに、本発明は、Nod1とMTPまたはその誘導体もしくはペプチドミメティックを含有するペプチド性複合体、ならびにグラム陰性菌感染を予防または治療するための本発明の組成物を提供する。
【0023】
本発明はまた、サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを検出する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、
c)MTPとNod1との間の相互作用を検出する
ことを含んでなり、
ここで、MTPとNod1との間の相互作用がそのサンプル中にグラム陰性菌由来のペプチドグリカンが存在することを示す、
方法も提供する。
【0024】
特定の態様では、本発明は、サンプルにおいてペプチドグリカンを検出し、必要に応じて、ペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、Nod2タンパク質とも接触させること、
c)MTPおよびMDPと2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との間の相互作用を検出し、および、
d)必要に応じて、Nod1との相互作用とNod2との相互作用とを識別する
ことを含んでなり、
ここで、c)では2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との相互作用がそのサンプル中にペプチドグリカンが存在することを示し、かつ、d)ではNod2とだけ相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陽性菌起源のものであることを示し、Nod1ともNod2とも相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであることを示す、
方法を提供する。
【0025】
従って、上記の方法によって、サンプルにおける細菌の存在を検出し、必要に応じて、前記細菌がグラム陰性起源のものであるかグラム陽性起源のものであるかを判断することが可能になる。
【0026】
最後に、本発明は、グラム陰性菌のペプチドグリカンとNod1との間の相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法であって、
a)MTPを用意し、
b)試験分子の存在下および不在下において、MTPをNod1タンパク質と接触させ、
c)試験分子の存在下および不在下における、MTPとNod1との間の相互作用を評価する
ことを含んでなり、
ここで、試験分子の存在下でのMTPとNod1との間の相互作用の調整が前記分子が前記相互作用を調整することを示す、
方法を提供する。
【発明の具体的説明】
【0027】
本明細書において、MTPとは、グラム陰性菌細胞壁のペプチドグリカン由来のムラミルトリペプチド、GlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAPまたはメソ−DAPを含有するGM−トリペプチドを意味する。
本明細書において、「MTP関連分子」とは、Nod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子もしくは化合物またはアンタゴニスト作用を有する分子もしくは化合物を意味する語である。MTP関連分子としては、限定されるものではないが、MTP、トリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDAP、例えば、糖部分を含まない3個のアミノ酸であるMTPのペプチド部分のような生物学的に活性なMTP誘導体、GlcNAcを含まないMTP、非環化糖を含まないMTP、ペプチドミメティックおよびNod1の1つのMTPに対してアンタゴニスト作用を有する分子が挙げられる。
【0028】
MTP関連分子の活性は、実施例で開示する試験によって評価することができる:例えば、NF−κB活性化の評価またはIL−8生成の評価。Nod1のMTP活性に対してアゴニストとしての作用を有する分子は、NF−κB活性化またはIL−8生成を増強する。Nod1のMTP活性に対してアンタゴニストとしての作用を有する分子は、NF−κB活性化またはIL−8生成を低減する。
【0029】
本明細書において、「生物学的に活性な誘導体」とは、機能保存的変異体、相同タンパク質またはペプチドおよびペプチドミメティック、ならびに、本明細書に記載するように、好ましくは、親ペプチドの結合特異性および/または生理作用を保持しているホルモン、抗体または合成化合物(すなわち、ペプチド性または非ペプチド性分子)を指す語である。
【0030】
本明細書に記載するように、親ペプチドの結合特異性および/または生理作用を保持しており、試験を行うために開示されている作用試験で陽性結果が出る好ましいペプチドミメティックも本発明の一部である。
【0031】
本明細書において、「ペプチドミメティック」とは、ペプチドのいくつかの特性、好ましくは、それらの結合特異性および/または生理作用がよく似ている有機分子である。好ましいペプチドミメティックは、好ましくは、L−アミノ酸の代わりに非天然アミノ酸であるD−アミノ酸を使用した本発明のペプチドの構造修飾、立体配座の制限、等配電子の置換、環化または他の修飾によって得られる。他の好ましい修飾としては、限定されるものではないが、1以上のアミド結合を非アミド結合に置き換えるという修飾、ならびに/または1以上のアミノ酸側鎖を異なる化学的部分に置き換えるという修飾、またはN末端、C末端あるいは1以上の側鎖のうちの1以上のものを保護基によって保護するという修飾、ならびに/または剛性および/もしくは結合親和性を高めるために二重結合および/もしくは環化および/もしくは立体特異性をアミノ酸鎖に導入するという修飾が挙げられる。
【0032】
Nod1の1つに対してアンタゴニスト作用を有する分子を調製するために修飾を行ってもよい。
細胞外の細菌感知におけるトール様受容体の役割が集中的に研究されている一方で、Nod分子を通じた細胞内の細菌検出については、依然としてほとんどが確認されていない。本発明では、NF−κB経路の活性化をもたらすグラム陰性菌ペプチドグリカンに見られる、ジアミノピメリン酸を含有する独特のGlcNAc−MurNAcトリペプチドモチーフをNod1が特異的に検出することを示している。さらに、本発明では、侵入性病原体に対する防御の第一線である上皮細胞において、細胞内のグラム陰性菌感知にNod1が不可欠であることを示している。これまでのところ、Nod1がグラム陰性菌ペプチドグリカンを特異的に感知する病原体認識分子の最初の例である。
【0033】
さらに、本発明では、Nod1がMTP、より詳細には、GlcNAc−MurNAcトリペプチドのペプチド部分を特異的に感知することを示している。
本発明において、本発明者らは、先の研究においてLPSが夾雑物であったこと、そして、Nod1がグラム陰性菌のペプチドグリカンに見られる独特のモチーフ:その3番目の位置にジアミノピメリックアミノ酸を有するムラミルトリペプチドを特異的に検出することを示している。
【0034】
多くの公開物は、MDP(ムラミルジペプチド)とそのアジュバント特性を対象としている。また、MTP(ムラミルトリペプチド)のアジュバント特性についての公開物もあり、これらは一般に、MTP−PE、すなわち、ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミンを対象としたものである。最初の特許である、1971年11月19日出願のFR2160326は、マイコバクテリウム(mycobacteria)またはノカルジア菌(Nocardia)細胞壁から抽出されるアジュバント活性を有する可溶性薬剤を調製する方法に関するものである。FR2160326の他、1973年10月23日出願のFR2248025は、この可溶性薬剤のアジュバント活性が細胞壁ペプチドグリカンの可溶性断片から来ているという発見を開示する、特定のムラミルペプチドに関するものである。等価の米国特許は特許番号第4,186,194号である。本発明は、以下のとおりである。
【0035】
米国特許第4,186,194号のトリペプチドは決まって糖部分を有している。
大腸菌(Escherichia coli)LPSの市販の調製物(10μg)をNod1過剰発現HEK293細胞に添加することで、Nod1依存性NF−κB活性化のレベルを5倍増強することができる(図1A)。一方、高度に精製された大腸菌LPS(10μg)またはリピド(脂質)A(10μg)では、Nod1経路を刺激することができない(図1A)が、それらはマクロファージを効果的に活性化することができる。これらの発見は、市販のLPS調製物中に存在する夾雑物がNod1活性化に関与している可能性が高いことを示している。そのため、この夾雑物の性質を同定することが1つの狙いであった。リポタンパク質は、最近、市販の大腸菌LPSによる刺激を受けた後のTLR2シグナル伝達に関与する、LPS調製物の重要な夾雑物と同定された(K. Lee et al., P. S. Tobias, J. Immunol., 168, 4012, 2002)。しかしながら、合成リポペプチドまたは大腸菌において最も豊富なリポタンパク質であるLppいずれかの添加ではNod1経路を刺激することはできなかった(図1B)。さらに、市販のLPSの煮沸またはプロテイナーゼK処理は、Nod1シグナル伝達の阻止に十分なものではなかった。
【0036】
次の狙いは、Nod1シグナル伝達経路の刺激におけるPGNの潜在的役割について取り組むことであった。そのため、大腸菌由来、B群赤痢菌由来、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)由来、枯草菌(Bacillus subtilis)由来および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のPGNを、特に、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に対して設計された試験手順に従って精製した(B. L. de Jonge et al., J. Biol. Chem., 267, 11248, 1992; B. Glauner, Anal. Biochem., 172, 451, 1988)。これらのPGNの精製に使用する厳密な精製工程によって可能性ある夾雑物を排除する(図4)。顕著にも、グラム陰性菌由来のPGN調製物はNod1経路を刺激するが、一方、ここで試験した2種類のグラム陽性菌PGN調製物では刺激し得ないということが観察された(図1C)。さらに、C末端のロイシンに富む反復配列(LRR)を欠いた突然変異型Nod1を用いることにより、Nod1のLRRがグラム陰性菌PGNの感知において重要な役割を果たすということが観察された(図1D)。よって、これらの結果は、Nod1がLRRドメインを通じてグラム陰性菌PGNを特異的に感知する細胞内PRMであることを強く示唆した。
【0037】
Nod1によって検出される最小PGNモチーフを同定するため、髄膜炎菌由来のムロペプチドを、ムラミダーゼによってPGNを消化した後、逆相HPLCにより分析した。実際には、グラム陰性菌によって自然に放出される主要なPGN断片がムロペプチドである(J.-H. Holtje, Microbiol. Mol., Biol. Rev., 62, 181, 1988; N. T. Blackburn et al., J. Mol. Evol., 52,78, 2001)。この分析により、アミノ糖に結合したペプチド鎖のアミノ酸数、ペプチド鎖の重合度またはアミノ糖のO−アセチル化または脱水などの自然修飾に応じたムロペプチドの分離が可能になった(図2A)。
【0038】
ムロペプチドを個々に回収し、Nod1経路を活性化するそれらの能力について試験した。驚くべきことに、2つの画分(3および17)だけにNod1を活性化し得るムロペプチドが含まれていた(図2B)。質量分析による解析では、画分3が分子量893m/zのムロペプチドであり、画分17の活性分子が分子量873m/zのムロペプチドであることが分かった。893m/zの分子は還元ムロペプチド、トリペプチド基置換を受けたN−アセチルムラミン酸(MurNAcまたは「M」)にβ−1,4結合したNアセチルグルコサミン(GlcNAcまたは「G」)と一致し(図2C)、一方、873m/zの分子はMurNAc部分において自然脱水を受けた同じムロペプチド(アンヒドロ−MurNAc)に該当する。そのため、MurNAcにおいて置換するトリペプチド基、L−Ala−D−Glu−メソDAP(ここで、Alaはアラニンであり、Gluはグルタミンであり、DAPはジアミノピメリン酸である)は画分3および17において同じである。B群赤痢菌から単離されたムロペプチドについてHPLC分析および生物学的アッセイを行ったところ、試験結果は同様であった。
【0039】
Nod1が感知する分子パターンに関する多くの知識を得るため、GM−ジペプチド、GM−トリペプチドおよびGM−テトラペプチドによるNod1経路の活性化についての比較を行った。同量(10ng)のGM−ジペプチド、GM−トリペプチド(画分3から)およびGM−テトラペプチド(画分6)をNod1経路を活性化するそれらの能力について試験した。Nod1がGM−ジペプチドやGM−テトラペプチドではなくGM−トリペプチドを特異的に検出することが観察された(図2D)。Nod1はNod2と密接な関係があるため、これらのPGN産物をNod2検出についても試験した。先の発見およびInohara et al.の発見によりNod2がM−ジペプチドを認識することが示された(S. E. Girardin et al., J. Biol. Chem., 278, 8869, 2003; N. Inohara et al., J. Biol. Chem., 278, 5509, 2003)。顕著には、Nod2がM−ジペプチドに加えて、GM−トリペプチドやGM−テトラペプチドではなくGM−ジペプチドを検出することが判明し(図2D)、これら2種類のNod分子はいずれもPGNを感知するが、検出の実現には異なる分子モチーフが必要であることが示唆される。また、TLR2では試験したいずれのムロペプチドも検出し得ないということも観察された(図2D)。
【0040】
Nod2が感知するPGNモチーフ、GM−ジペプチドはあらゆる細菌で見られることから、Nod2がPGN分解産物の一般センサーであることが示唆される(S. E. Girardin et al., 2003; N. Inohara et al., 2003)。これに対し、Nod1による感知にはメソDAPがさらに必要であるということにより、Nod1が、試験したグラム陽性菌PGNに対し、グラム陰性菌から精製されたPGNだけを検出する(図1Cを参照)ことへの説明がつく。実際に、黄色ブドウ球菌PGNにはメソDAPの代わりにリジンが含まれており、一方、枯草菌にはアミド化ジアミノピメリン酸が含まれている(図5A〜5C)。さらに、黄色ブドウ球菌PGNには検出可能な量のGM−トリペプチドが存在しない(B. L. de Jonge et al., 1992)。加えて、これらの発見は、メソDAPも含有しているGM−テトラペプチドがNod1によって感知されないことから、Nod1感知系には露出されたメソDAPが必要であるということも示す。次に、PGN検出の実現にメソDAPを必要としないNod2が枯草菌PGNも髄膜炎菌PGNも感知するということが観察された(図2E)。これに対し、たとえ枯草菌PGNがメソDAPを含有するPGNといくつかの構造的類似性を共有しているとしても(図5A〜5C)、Nod1によって枯草菌PGNは検出されない(図2E、図1Cでも示される)。Nod1がGM−トリペプチドを感知することによって、NF−κB活性化に加え、グラム陰性菌感染した上皮細胞で生成される主要なサイトカインの1つである炎症性ケモカイン、インターロイキン−8の生成も引き起こされる(図2F)ことが分かった(L. Eckmann et al., J. Biol. Chem., 275, 14084, 2000; T. Pedron et al., J. Biol. Chem., 278 (36), 33878-86,2003)。総合すれば、これらの結果は、NF−κBおよびIL−8のNod1依存性活性化に関するPGNの構造条件として、トリペプチドと末端メソDAPアミノ酸に結合したGMが挙げられ、その両方のカルボキシ基が重要な役割を果たすことを示している。
【0041】
次に、関心あることは、上皮細胞による細胞内細菌感知においてのNod1によるPGN検出への貢献を確認することであった。実際に、先の研究では粘膜面における病原菌に対する防御の第一線としてのこれらの細胞の極めて重要な役割を強く主張した。まず、種々のグラム陰性菌またはグラム陽性菌から抽出物を調製し、これらの抽出物の相対PGN含量を測定した(図6A)。次いで、これらの細菌抽出物を細胞外に添加したところ、それらがHEK293上皮細胞においてNF−κBを活性化し得ないことが分かり(図3A)、これらの細胞が内因性TLR2/4感知系を発揮しないことを確認した。唯一の例外がネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)抽出物であった。このケースでは、フラジェリン欠損ネズミチフス菌株由来の抽出物でNF−κB経路を刺激し得なかったことから、NF−κB活性化にTLR5が関与していると思われる(F. Hayashi et al., Nature, 410, 1099, 2001)(図3A)。次いで、ジギトニンによる透過性上昇技術を利用して細菌産物の細胞質への侵入を促し、侵入性細菌由来の細菌産物または非侵入性細菌由来の細菌産物のNF−κB経路を活性化する能力の直接比較をした。多くのグラム陰性菌由来の抽出物ではNF−κB経路を刺激し得、一方、4種類のグラム陽性菌由来の抽出物では刺激し得ないことが観察された。(図3A)。他の2種類の上皮細胞系(HeLaおよびCaco−2)では、B群赤痢菌由来または黄色ブドウ球菌由来の細菌産物をマイクロインジェクションし、続いて、免疫蛍光によりNF−κB p65サブユニットの核移行を検出することによって、グラム陰性菌抽出物によるNF−κBの特異的活性化しか確認されなかった(図3Bおよび図6B)。
【0042】
よって、これらのデータは、細胞質コンパートメントに提示された際、上皮細胞はグラム陰性菌産物を感知するがグラム陽性菌産物を感知しないということを示している。これらの発見は、ここで試験したグラム陰性菌から放出されたPGNモチーフ全てに末端メソDAPを有するGM−トリペプチドが含まれており、放出されたグラム陽性菌PGN産物にこの構造はないという事実と一致している。リステリア菌(L. monocytogenes)のケースでは、PGNにメソDAPが含まれている;しかしながら、PGN分解産物については今だ確認されていない。興味深いことに、リステリア菌の主要なPGNヒドロラーゼがPGN糖骨格とペプチド鎖との結合を切断するN−アセチルムラモイル−L−アラニル−アミダーゼである。それゆえに、リステリア菌がかなりの量のムロペプチドを放出するという可能性は低く、むしろ、ペプチド鎖およびアミノ糖を遊離させるのではないかと思われる(A. M. McLaughlan et al., Microbiology, 144, 1359, 1998)。
【0043】
上皮細胞によるグラム陰性菌抽出物の細胞内感知に関与しているシグナル伝達経路を同定するために、まず、ドミナントネガティブ型MyD88ではネズミチフス菌ΔF、B群赤痢菌および大腸菌をはじめとするグラム陰性菌由来の抽出物によりジギトニン透過化細胞において誘導されるNF−κB経路の活性化を遮断し得ないことから、この経路がTLR/IL−1経路の重要なアダプタータンパク質であるMyD88とは無関係であること(T. Kawai et al., Immunity, 11, 115, 1999)が立証された(図3C、データは示していない)。一方、ドミナントネガティブ型Nod1(DN−Nod1)を用いた場合、B群赤痢菌由来の細菌産物、ネズミチフス菌由来の細菌産物および大腸菌由来の細菌産物によりジギトニン透過化細胞において誘導されるNF−κB活性化を効果的に遮断し得た(図3D)。Nod1がRip2のリクルートメントを通じてNF−κB経路を活性化するということを示す報告もある(S. E. Girardin et al., 2001; N. Inohara et al., J.Biol. Chem., 275, 27823, 2000; A. l. Chin et al., Nature, 416, 190, 2002; K. Kobayashi, et al., Nature, 416, 194, 2002)。それに応じて、ドミナントネガティブ型Rip2がグラム陰性菌由来の抽出物によりジギトニン透過化細胞において誘導されるNF−κB経路を遮断するいうことも観察された(図3E)。
【0044】
これらの発見は、ゆえに、Nod1が上皮細胞における重大な細胞内細菌産物センサーであり、Nod1依存性炎症経路の誘導は、侵入性または細胞外の病原菌がグラム陰性菌PGNを細胞内環境へと移行させる能力に依存していることを示している。
【0045】
さらに、GM−ジペプチドの画分に対してさらなる試験を実施したところ、驚くべきことに、Nod1が糖部分を含まないトリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDAPを感知し得ることが分かった。ゆえに、同定する、Nod1が感知する最小のモチーフがトリペプチドである。
【0046】
当然のことながら、本発明はNod1の1以上の生物活性を阻害することができるか、または増強することができるNod1のアンタゴニストおよびアゴニストを含む。好適なアンタゴニストとしては、有機または無機小分子(すなわち、分子量が約500未満の分子)、大分子(すなわち、分子量が約500より大きい分子)、抗体および核酸分子が挙げられる。Nod1のアゴニストとしては、小分子と大分子との組合せも含む。
【0047】
よって、本発明は(1)機能的Nod1を発現している細胞をNod1の活性を調整するのに十分な濃度のNod1活性化化合物と接触させることにより、Nod1の活性を調整する(例えば、低下または増強させる)ための方法;ならびに(2)Nod1を試験化合物(例えば、ポリペプチド、リボ核酸、小分子、大分子、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびデオキシリボ核酸)と接触させ、試験化合物の存在下または不在下でNod1の活性レベルを検出し、比較することにより、Nod1の活性を調整する(例えば、低下または増強させる)化合物を同定する方法を特徴とする。
【0048】
ある細胞においてNod1の活性を調整する化合物は、選択した化合物の存在下でのNod1の活性を前記化合物の不在下でのNod1の活性と比較することにより同定することができる。Nod1活性レベルの差が、選択した化合物がその細胞におけるNod1発現を調整するということことを示す。
【0049】
本発明に従ってスクリーニングすることが可能な典型化合物としては、限定されるものではないが、好適な細胞に侵入し、Nod1タンパク質の活性に影響を及ぼし得る有機小分子が挙げられる。
【0050】
コンピューターモデリングや検索技術により、Nod1活性を調整することが可能な化合物の同定、またはすでに同定されている化合物の改良が可能になる。このような化合物または組成物を同定することにより、活性部位または領域が同定される。このような活性部位は、一般に、活性の天然モジュレーターに対する結合であると思われる。活性部位は、例えば、ペプチドのアミノ酸配列から、核酸の核酸配列から、または関連化合物もしくは組成物とその天然リガンドとの複合体の研究からといったように、当技術分野で公知の方法を用いて同定することができる。後者のケースであれば、化学的またはX線結晶学的方法を利用し、因子上でモジュレーター(またはリガンド)が発見される場所を見つけることによって活性部位を発見することができる。
【0051】
次に、活性部位の三次元幾何構造を決定することが可能である。これは完全な分子構造を決定することができるX線結晶学をはじめとする公知の方法によって行える。他方、固相または液相NMRを利用して、特定の分子内距離を決定してもよい。構造決定についての他の試験方法を利用して、部分または完全幾何構造を得てもよい。幾何構造は天然または人工のモジュレーター複合体(リガンド)を用いて測定することができ、それによって決定する活性部位の構造の精度を高めることが可能である。
【0052】
決定された構造が不完全であるか、または十分な正確さを欠いているならば、コンピューターによる数値モデリング法を利用して、構造を完成させるか、またはその精度を向上させることができる。タンパク質または核酸のような特定の生物高分子に特有のパラメータ化されたモデル、分子運動のコンピューティングに基づく分子動力学モデル、サーマルアンサンブルに基づく統計力学モデルまたは複合モデルを含む、認知されているあらゆるモデリング方法を利用することができる。ほとんどの種類のモデルでは、構成原子と基との間の影響力を表す標準分子力場が必要であり、物理化学において公知の力場から選択することができる。不完全であるか、またはあまり正確ではない実験構造は、これらのモデリング方法によってコンピューティングされる完全でより正確な構造に対する制約となる。
【0053】
最後に、実験によって、モデリングによって、または組み合わせて、活性部位の構造を決定したら、それらの分子構造に関する情報とともに化合物を含むデータベースを検索することで候補調整化合物を同定することができる。このような検索では、決定された活性部位構造をマッチさせ、活性部位を定義している基と相互に作用する構造を有する化合物を探求する。このような検索は手動で行えるが、好ましくは、コンピューターを使用する。この検索で見つかったこれらの化合物は有力なNod1調整化合物である。
【0054】
また、これらの方法を利用して、これまで確認されている調整化合物またはリガンドから改良された調整化合物を同定することもできる。既知化合物の組成物を修飾し、新規組成物に適用される上記の実験的方法およびコンピューターモデリング法を用いて修飾の構造効果を決定する。次いで、改変された構造を化合物の活性部位構造と比較して、適合または相互作用が向上したかどうかを判断する。このように、側基の変更によるなどの組成物における体系的変化を迅速に評価して、特異性または活性が向上した修飾型調整化合物またはリガンドを得ることができる。
【0055】
分子モデリング系の例としては、CHARMmおよびQUANTAプログラムがある(Polygen Corporation, Waltham, Mass.)。CHARMmはエネルギー最小化および分子動力学的機能を備えている。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリングおよび解析を行う。QUANTAは対話式構築、修飾、画像化、および分子の相互挙動の解析が可能である。
【0056】
特定のタンパク質と相互に作用する薬物のコンピューターモデリングを総説する、Rotivinen et al., Acta Pharmaceutical Fennica, 97: 159 [1993]; Ripka, New Scientist 54-57 [Jun. 16, 1988]; McKinaly and Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxicol, 29: 111 [1989]; Perry and Davies, OSAR: Quantitative Structure-Activity Relationships in Drug Design, pp. 189-193 (Alan R. Liss, Inc. 1989); Lewis and Dean, Proc. R. Soc. Lond., 236: 125 [1989];および141 [1980];ならびに、核酸成分のモデル受容体に関する、Askew et al., J Am. Chem. Soc., 111: 1082 [1989])のような多くの論文がある。化学物質をスクリーニングし、図形表示する他のコンピュータープログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena, Calif.)、Allelix, Inc.(Mississauga, Ontario, Canada)およびHypercube, Inc.(Cambridge, Ontario)のような企業から入手することができる。これらは、主として、特定のタンパク質に特異的な薬物に適用するために設計されているが、領域が同定されているのならば、DNAまたはRNAの領域に特異的な薬物の設計にそれらを適合させてもよい。
【0057】
結合を改変し得る化合物の設計および作製に関して以上で記載したが、天然物または合成化学物質、およびタンパク質をはじめとする生物活性物質を含む既知化合物のライブラリーをNod1活性の阻害剤またはアクチベーターである化合物についてスクリーニングしてもよい。
【0058】
本明細書に記載のもののようなアッセイによって同定された化合物は、例えば、Nod1の生物学的機能を構成する際やNod1活性または発現の異常に関連する疾患の治療に有用である。上記方法で同定される化合物の有効性を試験するためのアッセイを以下に論述する。
【0059】
Nod1(またはNod1のドメイン)と相互作用することが可能な化合物を同定するようにin vitro系を設計し得る。同定された化合物は、例えば、野生型および/または変異型Nod1の活性を調整するのに有用であり得、生物学的機能Nod1を構成するのに有用であり得、正常なNod1の相互作用を遮断する化合物を同定するためのスクリーニングに利用し得、またはそれ自体でこのような相互作用を遮断し得る。
【0060】
Nod1を活性化する化合物を同定するのに使用されるアッセイの原理では、Nod1(またはそのドメイン)と試験化合物の反応混合物を2成分が相互作用し、活性化させるのに十分な条件下および時間で調製し、それを受けて複合体が形成され、反応混合物においてこの複合体が除去および/または検出される。使用するNod1種はスクリーニングアッセイの目的によって異なる。場合によっては、アッセイ系(例えば、標識化、生じた複合体の単離など)に有利な異種タンパク質またはポリペプチドと融合される、Nod1のドメインに相当するペプチドを使用することが好ましい。
【0061】
細胞系アッセイを使用して、Nod1と相互に作用する化合物を同定してもよい。この目的のために、Nod1を発現する細胞系統またはNod1を発現するよう遺伝子操作した細胞系統を使用することができる。
【0062】
化合物を阻害活性について試験するために、試験化合物の存在下および不在下で反応混合物を調製する。試験化合物は最初に反応混合物に含めておいてもよいし、Nod1部分を導入した直後に添加してもよい。対照反応混合物は試験化合物不在かまたは非活性対照化合物とともにインキュベートする。次いで、Nod1部分と結合パートナーとのあらゆる複合体の形成を検出する。対照反応物では複合体が形成するが、試験化合物を含む反応混合物では形成しないことから、化合物がNod1と相互に作用する結合パートナーとの相互作用を妨げることが示される。さらに、試験化合物と正常Nod1タンパク質とを含む反応混合物内での複合体形成と、試験化合物と変異型Nod1とを含む反応混合物内での複合体形成との比較も行える。変異型の相互作用を遮断するが、正常Nod1の相互作用は遮断しない化合物を同定することが望ましいというケースにおいてこの比較は重要なものとなろう。
Nod1を調整することが可能な化合物を同定するための他の方法は、実施例に開示している。
【0063】
本発明は、Nod1の活性を調整する化合物を投与することにより、アポトーシス細胞死の異常なレベルもしくは割合(望ましくないほど高いか、望ましくないほど低い)、Fas/APO−1受容体複合体の異常な活性、TNF受容体複合体の異常な活性、カスパーゼの異常な活性または感染もしくは非感染起源の炎症に関連する疾患を患っている患者を診断し、治療する方法を包含する。このような化合物の例としては、小分子および大分子が挙げられる。当然のことながら、以下のもののような種々の疾患の治療にも本発明を使用することができる。
【0064】
アポトーシスが抑制されると、生産され、生存または増殖し続ける、生存細胞の数の増加に関連する疾患がある。これらの疾患としては、癌(特に、濾胞性リンパ腫、p53の突然変異に関連する癌腫、および乳癌、前立腺癌および卵巣癌のようなホルモン依存性腫瘍)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、免疫介在性糸球体腎炎など)、ならびにウイルス感染(ヘルペスウイルス、ポックスウイルスおよびアデノウイルスに起因するものなど)が挙げられる。
【0065】
発達段階に生じる自己免疫細胞または免疫応答の間に体細胞突然変異の結果として産生する自己免疫細胞が排除されなかった場合に自己免疫疾患が起こる。リンパ球における細胞死の調節において重要な役割を果たす分子の1つがFasに対する細胞表面受容体である。
【0066】
ウイルス感染事象では、細胞が枯渇することが多く、恐らく、最も劇的な例がヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって起こる細胞枯渇である。驚くべきことに、HIV感染時に死滅するほとんどのT細胞は、HIVに感染しているように見えない。多くの解釈が提示されてきたが、CD4受容体が刺激を受けることで感染していないT細胞のアポトーシスを受ける感受性が高まるということが最近示された。
【0067】
多くの種類の神経系疾患には、神経細胞の特定集団が徐々に喪失するという特徴がある。このような疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、網膜色素変性症、脊髄性筋萎縮症、および種々の小脳変性症が挙げられる。これらの疾患での細胞の喪失は炎症反応を誘導せず、アポトーシスが細胞死の機構であると思われる。
【0068】
さらに、多くの血液疾患は血液細胞生成の減少と関連している。これらの疾患としては、慢性疾患に伴う貧血、再生不良性貧血、慢性好中球減少症および骨髄異形成症候群が挙げられる。骨髄異形成症候群およびある種の再生不良性貧血のような血液細胞生成疾患は、骨髄内でのアポトーシス細胞死の増加と関連している。これらの疾患は、アポトーシスを促す遺伝子の活性化、間質細胞もしくは造血生存因子の後天性欠乏、または毒素および免疫応答メディエーターの直接の影響によって生じ得る。
【0069】
2つのよく見られる細胞死関連疾患が心筋梗塞および卒中である。どちらの疾患においても、血流の急性欠乏事象において生じる虚血の中心部内にある細胞が壊死の結果として急速に死滅するようである。しかしながら、中心虚血領域外では、より長い時間をかけて細胞が死滅し、アポトーシスにより形態学的に死滅すると思われる。
【0070】
感染起源および非感染起源いずれもの特定炎症性疾患を、Nod1活性を調整する化合物を投与することにより治療し得る。炎症性疾患の病理は、炎症を介する組織の破壊と関連している。非感染起源の炎症性疾患としては、限定されるものではないが、アレルギー、喘息、乾癬、慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスおよび糸球体腎炎など)、および特定の癌が挙げられる。感染性炎症性疾患としては、胃腸炎(赤痢菌属(Shigella spp.)、腸炎菌(Samonella enteritidis)、カンピロバクター属(Campylobacter spp.)、下痢原性大腸菌の異種系統)、胃炎、胃潰瘍、および癌(ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori))、腟炎(クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis))ならびに呼吸器疾患(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウムなど)を引き起こすもののような感染症が挙げられる。
【0071】
Nod1活性の異常によって媒介される疾患を有する患者は、Nod1の活性を改変する化合物の投与によって治療することができる。よって、本発明は、Nod1の活性を低下または増強させる化合物(例えば、ポリペプチド、リボ核酸、小分子、大分子、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはデオキシリボ核酸)の治療上有効な量を投与することにより、Nod1活性異常に関連する疾患を有する患者を治療する方法を特徴とする。それゆえに、本発明は、Nod1をコードする遺伝子の発現または活性を調整することによりアポトーシスを調整する方法を特徴とする。
【0072】
Nod1活性異常に関連する疾患の予防的または治療的処置のために、Nod1活性に対して促進または阻害効果を有する薬剤またはモジュレーターを個体に投与してもよい。異質の化合物または薬物に対する個体の反応により効果的な薬剤の選択が可能になり、その反応は適切な用量および治療計画の決定にさらに利用することができる。よって、Nod1の活性を決定し、それを利用して、個体の治療的または予防的処置に好適な薬剤を選択することが可能である。
【0073】
本発明は、サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを(MTPを通じて)検出する方法を包含する。これらの方法では、グラム陰性菌MTPとNod1との間の特異的相互作用を利用して、サンプル中のグラム陰性菌由来のペプチドグリカン、次に、グラム陰性菌を検出する。
【0074】
好ましい態様では、本発明は、サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを検出する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、
c)MTPとNod1との間の相互作用を検出する
ことを含んでなり、
ここで、MTPとNod1との間の相互作用がそのサンプル中にグラム陰性菌由来のペプチドグリカンが存在することを示す、
方法に向けられる。
【0075】
グラム陰性菌MTPとNod1との間の相互作用の検出は、例えば、実施例に開示したように、細胞におけるNK−κB活性化を測定することによりなし得る。
他方、Nod1は感染後に自己オリゴマー化する(N. Inohara et al., 2001)。この特性に基づき、Nod1のオリゴマー化を検出することによって、Nod1/グラム陰性菌MTP相互作用を検出してもよい。例えば、Nod1のオリゴマー化の検出は、Nod1とプローブとのカップリングを利用することにより行うことができる。より詳細には、本発明の方法を無細胞系で実施し、Nod1のオリゴマー化を生理化学反応によりモニタリングすることができる。特定の態様では、当業者に周知の、検出可能な生物発光シグナルを発生させるFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用して、Nod1のオリゴマー化を検出する。
【0076】
Nod2は、グラム陰性菌ペプチドグリカンまたはグラム陽性菌ペプチドグリカンのいずれかを検出する(S. E. Girardin et al., 2003; N. Inohara et al., 2003)。ゆえに、本発明の方法では、Nod1およびNod2タンパク質を使用して、サンプル中の細菌ペプチドグリカン、次に、細菌の存在を検出し、必要に応じて、前記サンプル中の細菌がグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する。
【0077】
好ましい態様では、本発明は、サンプルにおいてペプチドグリカンを検出し、必要に応じて、ペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、Nod2タンパク質とも接触させ、
c)MTPおよびMDPと2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との間の相互作用を検出し、および、
d)必要に応じて、Nod1との相互作用とNod2との相互作用とを識別する
ことを含んでなり、
ここで、c)では2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との相互作用がそのサンプル中にペプチドグリカンが存在することを示し、かつ、d)ではNod2とだけ相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陽性菌起源のものであることを示し、一方、Nod1ともNod2とも相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであることを示す、
方法を包含する。
【0078】
より詳細には、Nod2は、ムラミルジペプチド(MDP)を介する、グラム陽性菌由来またはグラム陰性菌由来のペプチドグリカンの一般的センサーであり、一方、Nod1は、MTPを介する、陰性菌由来のペプチドグリカンに特異的なセンサーである。細菌ペプチドグリカンとNodタンパク質との間の相互作用は上記の方法により検出することができる。MDPとNod2との間の相互作用を検出する方法は(S. E. Girardin et al., 2003)に開示されている。特定の態様では、その方法は、FRET技術を利用してNod1とNod2のオリゴマー化を検出することにより、細菌ペプチドグリカンのNodタンパク質との相互作用を検出する。
【0079】
さらに、本発明は、細菌ペプチドグリカンのNodタンパク質との相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法を包含する。特定の態様では、前記方法により、グラム陰性菌ペプチドグリカンのNodタンパク質との、特に、Nod1タンパク質との相互作用を特異的に調整する分子を識別することが可能である。この相互作用の調整は、上記の方法によって検出される。
【0080】
好ましい態様では、本発明は、グラム陰性菌のペプチドグリカンとNod1との間の相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法であって、
a)MTPを用意し、
b)試験分子の存在下および不在下で前記MTPをNod1タンパク質と接触させ、
c)試験分子の存在下および不在下でのMTPとNod1との間の相互作用を評価する
ことを含んでなり、
ここで、試験分子の存在下でのMTPとNod1との間の相互作用の調整が前記分子がNod1とグラム陰性菌のペプチドグリカンと間の前記相互作用を調整することを示す、
方法に向けられる。
【実施例】
【0081】
実施例1
材料および方法
細菌株と製品
これらの研究に使用した細菌株は、次の:ネズミチフス菌株C52およびC52−デルタフラジェリン(fliC::aphA-3(Km)fljB5001::Mud(Cm));大腸菌K12;B群赤痢菌5a M90T;B.16サブチルス(B. 16 subtilis)(Agnes Fouet, Institut Pasteur製);黄色ブドウ球菌(Olivier Chesneau, Institut Pasteur製);カセイ菌(L. casei)(Raphaelle Bourdet-Sicard, Danone Vitapole製);リステリア菌(株EGD、Pascale Cossart, Institut Pasteur製);髄膜炎菌LNP8013である。細菌株を一晩培養したものから細菌抽出物を調製し、それをOD600値が0.3になるまで希釈し、3分超音波処理し、濾過した(0.2ミクロン)。
【0082】
市販のLPSおよびリピドAは、大腸菌O111:B4(Sigma)由来のものであった。市販の黄色ブドウ球菌PGNはFluka Chemicals製であった。市販のPam3Cys−Ser−Lys4−OHリポペプチドは、Roche Diagnostics(Mannheim)製であり、大腸菌リポタンパク質調製物は、Emmanuelle Bouveret and Roland Lloubes(UPR 9027, Marseille)からの提供品であった。
【0083】
純粋RE−LPSは、大腸菌F515由来のものであり、すでに記載されているように(P. M. Sanchez Carballo et al., Eur. J. Biochem., 261, 500, 1999)、精製した。合成GM−ジペプチドは、Sigma社から購入した。大腸菌、B群赤痢菌および髄膜炎菌のPGNは、Glauner et al., 1988に記載されているように精製した。枯草菌および黄色ブドウ球菌のPGNは、de Jonge et al., 1992に記載されているように精製した。実施例2も参照のこと。
【0084】
発現プラスミドと一時的トランスフェクション
Flagタグ付きNod1の発現プラスミドは、Gabriel Nunez製の発現プラスミドであり、すでに記載されている(N. Inohara et al., 1999)。HA−タグ付きDN−Nod1(117−953aa)およびmycタグ付き”LRR(1−644aa)Nod1は、PCRにより作製し、pcDNA3(Invitrogen)およびpRK5(Alan Hall, ICRF, London製)それぞれにクローニングした。DN−MyD88は、Marta Muzio製のものであり、vsvタグ付きDN−Rip2(7−425aa)の発現プラスミドは、Margot Thome and Jurg Tschopp(University of Lausanne, Switzerland)からの提供品であった。トランスフェクションは、すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、HEK293において行った。
【0085】
NF−κB活性化アッセイ
ジギトニン透過化細胞でのNF−κB活性化アッセイでは、すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、HEK293 1×105個を24穴プレートで増殖させ、その後、75ngのNF−κB−ルシフェラーゼリポーター遺伝子(Igκルシフェラーゼ)で24時間トランスフェクトした。次いで、細胞を10μg/mlジギトニン(Sigma)を含むまたは含まない透過化バッファー(50mM HEPES,pH 7、100mM KCl、3mM MgCl2、0.1mM DTT、85mMスクロース、0.2%BSA、1mM ATPおよび0.1mM GTP)500μl中、超音波処理済細菌抽出物25μlとともに37℃にて30分間インキュベートした。その後、すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、透過化バッファーを除去し、ルシフェラーゼ測定用に処理する前の4時間、10%ウシ胎児血清(Gibco)を含有する培地(DMEM, Gibco)で置き換えた。図3に示すドミナントネガティブ研究では、漸増量のドミナントネガティブ型構築物をNF−κBリポータープラスミドで同時トランスフェクトした。その後、以上で詳述したように試験を実施した。
【0086】
Inohara et al.(N. Inohara et al., 2001)によって記載されているように、Nod1を過剰発現している細胞においてLPS、リピドA、リポタンパク質または精製PGNによるNF−κBの活性化を調べる研究を行った。要するに、HEK293細胞を10ngのNod1で一晩トランスフェクトした。同時に、LPS、リポタンパク質またはペプチドグリカン調製物を添加し、その後、24時間同時インキュベートした後にNF−κB依存性ルシフェラーゼ活性化を測定した。予めトランスフェクトし、それを洗浄してリポソーム試薬を除去した細胞に細菌産物を細胞外添加してもNF−κBの活性化は起こらない(データは示していない)ことから、添加されたDNAを含むトランスフェクション試薬が細菌産物の細胞への取り込みを助けていると考えられる。
【0087】
NF−κB依存性ルシフェラーゼアッセイを繰り返し行った。データは少なくとも3回の独立した試験のものである。データは平均±SEMであり、ベクター発現細胞に対する活性化倍率またはNod1発現細胞のNF−κB活性化レベルに対する相乗効果倍率として表している(Nod1 10ngの場合、NF−κB活性化はベクター発現細胞に対して約5倍である)。
【0088】
免疫蛍光研究では、すでに記載されているように(D. J. Philpott et al., J. Immunol., 165, 903, 2000)、細菌産物(FITC−デキストランで1:1希釈した)をマイクロインジェクションした後、HeLa細胞、Caco−2細胞または単離腸上皮細胞におけるNF−κB p65の核移行により、NF−κB活性化を評価した。1カバースリップにつきマイクロインジェクションした細胞を少なくとも50個調べた。少なくとも2回、独立して試験を行ったところ、同様の結果であった。
【0089】
インターロイキン−8の生成
ムロペプチドにより上皮細胞において生成されたNod1依存性IL−8を測定するため、5×105個HeLa細胞を12穴プレートの各穴に播種し、翌日、10ng Nod1と各ムロペプチドとでトランスフェクトし(上記のとおり)、または陽性対照としてIL−1で処理した。18時間後、上清を回収し、すでに記載されているように(D. J. Philpott et al., 2000)、ELISAキット(R and D Systems)を用いてIL−8についてアッセイした。
【0090】
ウエスタンブロットおよび免疫沈降
すでに記載されているように(S. E. Girardin et al., 2001)、ウエスタンブロットと免疫沈降を行った。Nod1のaa1−15および567−582に相当する2種類のペプチドでウサギを免疫化することにより、Nod1ポリクローナル抗体を得た。血清を回収し、アフィニティー精製し、Nod1に対して特異的であることを確認した。Nod2ポリクローナル抗体は、Cayman Chemical(Ann Arbor, MI)製であった。
【0091】
実施例2
グラム陰性菌由来およびグラム陽性菌由来の高度に精製されたPGNの調製
PGNの調製に使用する細菌株は、次の:大腸菌K12;B群赤痢菌5a M90T(野生型);髄膜炎菌;枯草菌168;黄色ブドウ球菌COL(Olivier Chesneau, Institut Pasteur製)である。大腸菌およびB群赤痢菌のPGNは、Glauner et al(B. Glauner et al., 1988)によって記載されているように精製した。枯草菌および黄色ブドウ球菌のPGNは、de Jonge et al(B. L. de Jonge et al., 1992)によって記載されているように精製した。要するに、細菌を指数増殖期に光学密度(600nm)値0.4〜0.6にて回収し、氷−エタノール浴で急冷して、内因性自己溶解素によるPGN加水分解を最小限に抑えた。ペレットを氷冷水に再懸濁し、沸騰した8%SDSに少しずつ滴下した。サンプルを30分煮沸し、自己溶解素を直ちに不活性化させた。不溶性の重合PGNを遠心分離により回収し、SDSが検出されなくなるまで数回洗浄した。SDSアッセイをHayashi(K. A. Hayashi, Anal. Biochem., 67, 503, 1975)によって記載されているように行った。SDS処理により混入しているタンパク質、非共有結合したリポタンパク質およびLPSを除去した。グラム陽性菌サンプルを酸洗浄したガラスビーズ(<100nm)で物理的に破壊した。PGN画分を分画遠心分離により回収して、細胞残屑を除去した。全てのPGNをさらに処理し、α−アミラーゼにより全てのグリコーゲンを除去し、トリプシン(3×結晶トリプシン、Worthington)消化により共有結合したタンパク質(グラム陽性菌のLPXTGタンパク質)またはリポタンパク質(グラム陰性菌)を除去した。サンプルをさらに1%SDS中で煮沸してトリプシンを不活性化し、洗浄してSDSを除去した。グラム陽性菌サンプルを49%フッ化水素酸で4℃にて48時間処理した。この弱酸加水分解により、テイコ酸、莢膜、ポリ−(β,1−6GlcNAc)等のような、リン酸ジエステル結合によってPGNと共有結合する二次的多糖類が除去される。グラム陽性菌およびグラム陰性菌PGN両方のさらなる処理では、8M LiCl、0.1M EDTAで洗浄して全てのポリペプチド性夾雑物を除去し、アセトンで洗浄してリポタイコ酸またはLPSの痕跡を除去した。サンプルを凍結乾燥してPGN量を測定した。HCl加水分解後のHPLCアミノ酸および糖類分析によりサンプルの純度を評価した(図4も参照のこと)。
【0092】
実施例3
逆相HPLCおよび質量分析による髄膜炎菌PGNの解析
髄膜炎菌またはB群赤痢菌のペプチドグリカンをムラミダーゼムタノリジン(M1, Sigma)により消化して、両種のムロペプチドの全てのスペクトルを取得した。Glauner(B. Glauner et al., 1988)によって記載されているように、ムロペプチドを水素化ホウ素ナトリウムで還元し、逆相HPLCにより分画した。各ムロペプチドピークを回収し、生物学的アッセイにそのまま使用した。質量分析による解析では、Garcia-Bustos et al.(J. F. Garcia-Bustos et al., Antimicrob. Agents Chemother., 31, 178, 1987によって記載されているように、髄膜炎菌ペプチドグリカンの異なるムロペプチド画分をHPLCによりさらに脱塩した。Xu et al.(N. Xu et al., Anal. Biochem., 248, 7, 1997)によって記載されているように、脱塩処理したムロペプチドをMALDI−TOFにより解析した。
【0093】
次の解析した画分についてそれらの分子量を決定した:画分3[M+H]+ 871,6214m/z;[M+Na]+:893,3633m/z;[M+2Na−H]+ 915,3518m/z、これはGlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP構造(計算質量870)と一致する;画分6[M+H]+ 942,4512m/z;[M+Na]+ 964,4689m/z;[M+2Na−H]+ 986,4429m/z;[M+3Na−2H]+ 1008,4321m/z、これはGlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP−DAla構造(計算質量941)と一致する;画分17 2ムロペプチド種の混合物:1)[M+H]+ 851,3460m/z;[M+Na]+ 873,3422m/z;[M+2Na−H]+ 895,3219m/z;[M+3Na−2H]+ 917,3115m/z、これはGlcNAc−アンヒドロ−MurNAc−L−Ala−D−GluメソDAP構造(計算質量850)と一致する、2)[M+H]+ 1865,5588m/z;[M+Na]+ 1887,5331m/z;[M+2Na−H]+ 1909,5753m/z;[M+3Na−2H]+ 1931,5625m/z、これはムロペプチド二量体GlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP(GlcNAc−MurNAc−L−Ala−D−Glu−メソDAP−D−Ala)−D−Ala構造(計算質量1864)と一致する。
【0094】
実施例4
Nod1経路
Nod1経路は、市販のLPSおよびグラム陰性菌PGNによって活性化される。図1Aは、Nod1経路が市販の大腸菌LPSによっては活性化されるが、タンパク質を含まない純粋なLPSまたはリピドAによっては活性化されないことを示している。図1Bは、リポペプチドまたは大腸菌リポタンパク質(脂質化されたものおよび脱脂質化されたもの、すなわち、「Lpp」および「可溶性E.c Lpp」)ではNod1経路を活性化し得ないことを示している。図1cは、Nod1はグラム陰性菌PGN(大腸菌、B群赤痢菌、髄膜炎菌)に対するNF−κBの反応を媒介するが、グラム陽性菌PGN(枯草菌、黄色ブドウ球菌または市販の黄色ブドウ球菌PGN)に対する反応を媒介しないことを示している。図1dにて示されるように、ΔLRR−Nod1発現細胞では、大腸菌PGNによるNF−κBの相乗的活性化は観察されなかった。LPS、リピドA、リポタンパク質調製物は、10μg/mlにて使用した。PGN調製物は、1μg/mlにて使用した。
【0095】
実施例5
Nod1によって検出されたPGNモチーフの特性決定
Nod1によって検出されたPGNモチーフの特性決定を図2に示す。図2Aでは、髄膜炎菌由来のPGNムロペプチドを逆相HPLCにより分画し、続いて、質量分析により解析した(サポーティングオンラインテキスト参照)。N.D.(a)、このHPLC分画では検出されなかったが、後のHPLC分画と質量分析による解析でO−アセチル化二量体GM−テトラペプチドであることが判明した。この画分は追加試験でもNod1刺激に対して陰性であった(データは示していない)。N.D.(b)、不明の画分。図2Bでは、各HPLC画分の1%量を、個々に、Nod1経路の活性化について試験したところ、GM−トリペプチドに当たる画分3がNod1を活性化することを示した。二量体GM−テトラペプチド(Nod1を活性化しない)と無水GM−トリペプチドとの混合物に当たる画分17はNod1を活性化する。図2Cは、髄膜炎菌PGNの模式図であり、質量分析によって決定された画分3(GM−トリペプチド)のNod1活性モチーフを詳細に示している。図2Dでは、同量(10ng)のGM−ジペプチド(GM−ジ;合成によるもの)、GM−トリペプチド(GMトリ)、またはGM−テトラペプチド(GM−テトラ)をNF−κBのNod1−、Nod2−またはTLR2依存性活性化の刺激について試験した。図2Eは、髄膜炎菌および枯草菌PGNによるNod1またはNod2の相乗的活性化に関するものである。図2Fは、Nod1の存在下、GM−トリペプチドで刺激したHeLa上皮細胞において炎症性ケモカイン、IL−8が生成したが、GM−ジペプチドまたはテトラペプチドで刺激した場合には生成しなかったことを示している。IL−8生成のIL−1(10ng/ml)刺激を陽性対照として示している。ムロペプチドのバッファー希釈液は淡黄褐色である。
【0096】
実施例6
グラム陰性菌の細胞内検出
MyD88ではなくNod1/Rip2を通じ、上皮細胞においてグラム陽性菌産物ではなくグラム陰性菌産物が細胞内で検出されることを図3に示す。
グラム陰性(S.t,ネズミチフス菌;S.tΔF,ネズミチフス菌−デルタフラジェリン;E.c,大腸菌;S.f,B群赤痢菌)およびグラム陽性(B.s,枯草菌;S.a,黄色ブドウ球菌;L.c,カセイ菌;L.m,リステリア菌)菌由来の抽出物を、ジギトニン(10μg/ml)によって透過性上昇処理を行ったHEK293細胞または処理を行わなかったHEK293細胞に添加し、4時間後、NF−κB−ルシフェラーゼリポーターアッセイを用いてNF−κB活性を測定した。その結果を図3Aに示している。
【0097】
HeLa細胞にデキストラン−FITC単独(バッファー)または細菌抽出物のいずれかをマイクロインジェクションし、NF−κB p65を染色した。図3Bで、グラム陰性菌上清をマイクロインジェクションした細胞の100%にNF−κBの移行が認められるが、グラム陽性菌上清の場合には活性細胞は認められなかった。DAPI染色では核の位置が分かる。矢印は活性化細胞の核に移行したNF−κB p65を示している。
【0098】
図3cでは、ドミナントネガティブ型MyD88(DN−MyD88;0,20,50ng)がグラム陰性菌抽出物によって誘導されるNF−κB活性に及ぼす影響は示されていないが、IL−1によって誘導されるNF−κB活性化(IL−1,10ng/ml)を阻害することが示されている。
【0099】
図3Dにて示されるような、Nod1 117−953aa(DN−Nod1;0,200,400ng)でトランスフェクトしたジギトニン透過化HEK293細胞におけるグラム陰性菌抽出物によって誘導されるNF−κB活性の阻害。
図3Eにて示されるような、ドミナントネガティブ型Rip2(DN−Rip2;0,50,100ng)によるグラム陰性菌抽出物によって誘導されるNF−κB活性の阻害。
【0100】
実施例7
Nod1欠損マウス腸上皮細胞の反応
Nod1欠損マウスの腸上皮細胞は、図8にて示されるように、細菌上清に反応しない。野生型マウスの単離腸上皮細胞では、NF−κBのp65サブユニットの核移行に見られるように、グラム陽性菌上清ではなくグラム陰性菌上清をマイクロインジェクションした場合にNF−κBが活性化される(図3Bについて記載したとおり)。これに対し、Nod1欠損マウスの細胞は細菌上清によって活性化されないが、TNFα(10ng/ml)によってこれらの細胞におけるNF−κB核移行が効果的に刺激される。グラム陰性菌上清をマイクロインジェクションした野生型細胞の98%にNF−κBの核移行が認められたが、グラム陽性菌上清をマイクロインジェクションした場合には活性細胞は認められなかった。Nod1欠損細胞のケースでは、どちらの場合でも活性細胞は認められなかった。野生型またはNod1欠損細胞では、グラム陰性菌上清またはグラム陽性菌上清のどちらを細胞外に添加してもNF−κB核移行は刺激することはできない(データは示していない)。
【0101】
ショウジョウバエ(Drosophila)では、トール経路によりグラム陽性菌と真菌の両方を検出する一方で、グラム陰性菌感知に特有のImd経路が存在する(B. Lemaitre et al., Cell, 86, 973, 1996)。最近、2つのペプチドグリカン認識タンパク質(PGRP)が、ショウジョウバエにおける細菌の示差的検出において重要な役割を果たすことが分かってきた(T. Michel et al., Nature, 414, 756, 2001; K. M. Choe et al., Science, 296, 359, 2002; M. Gottar et al., Nature, 416, 640, 2002; M. Ramet et al., Nature, 416, 644, 2002)。PGRP−SAがトール経路におけるグラム陽性菌認識に関与する一方で、PGRP−LCがグラム陰性菌感知においてImdの上流で作用している。しかしながら、この示差的検出が実質的にPGNによるものであるという明確な立証がまだ得られていない。
【0102】
本発明は、哺乳動物細胞では細菌のNod1依存性検出がグラム陰性菌PGNモチーフの感知によってなされていることを示してきた。実際に、本発明は、GM−トリペプチドとGM−ジペプチドが新たな細菌PAMP種を形成し、この新たな種がNod1およびNod2それぞれによって示差的に認識されているということを立証している。これらのPGNモチーフは、増殖中に細菌から放出される天然に存在する分解産物である。そのため、細菌によって放出されたか、またはリソソームコンパートメントで宿主細胞によって加工されたPGN分解産物のペプチド性組成物は、細菌感染に対する宿主の反応の定義づけにおいて極めて重要である。この点において、Nod1およびNod2が感知するPGNモチーフを同定することにより、これら2つの分子が生得免疫の一因となる相補的でかつ重複していない機能を有することが示唆される。さらに、本発明の結果は、Nod1はPGN感知を通じた細菌の細胞内検出を可能にする、上皮バリアーにおける唯一の歩哨分子である可能性が高いことを示したものであるが、そのことによって、生得免疫防御におけるその重要な役割が明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】Nod1経路が市販のLPSおよびグラム陰性菌PGNによって活性化されることを示す。
【図2】Nod1によって検出されたPGNモチーフの特性決定である。
【図3】MyD88ではなくNod1/Rip2を通じ、上皮細胞においてグラム陽性菌産物ではなくグラム陰性菌産物が細胞内で検出されるという結果を示す。
【図4】高度に精製されたグラム陰性菌由来またはグラム陽性菌由来PGNを調製するための試験手順を示す。
【図5】種々の細菌のPGNから誘導されるムロペプチドの模式図である。 図5A:グラム陰性菌で認められた、メソDAPアミノ酸を含有するムロペプチド。図5B:枯草菌のような一部のグラム陽性菌で認められたムロペプチド。メソDAPの代わりに、アミド化DAPが認められる。図5C:大部分のグラム陽性菌で認められた、3番目のアミノ酸としてL−リジンを含有するムロペプチド。これらのムロペプチド間に存在する違いが3番目のアミノ酸の位置だけであることに留意。
【図6】調製した細菌抽出物の相対PGN含量の調査結果を示す。マイクロインジェクションした細胞におけるNF−κB p65サブユニットのサイトゾルから核への移行によりNF−κB活性化を評価した。 図6A: 本発明者らは調製した細菌抽出物の相対PGN含量を決定することを目的とした。この目的を達するために、リポタンパク質活性に作用するプロテイナーゼK処理および煮沸処理したまたは未処理の細菌抽出物を細胞外添加することによりTLR2過剰発現HEK293細胞を刺激した。このようにして、本発明者らは細菌リポタンパク質対PGNのTLR2刺激への相対的寄与率を解析した。本発明者らはグラム陰性菌の細菌抽出物が同じ光学密度に培養したグラム陽性菌の抽出物よりもずっと低いPGN活性を示すことを観察した(図3A)。グラム陰性菌が有するPGNはグラム陽性菌よりも少なく、また、グラム陰性菌は増殖中より高い程度にPGNを再循環させるということは周知であるため、この発見は驚くにはあたらない。 図6B: B群赤痢菌および黄色ブドウ球菌の細菌抽出物をFITC−デキストランと一緒にCaco−2上皮細胞にマイクロインジェクションした。30分後、細胞を固定化し、NF−κB活性化について免疫蛍光により解析した。マイクロインジェクションした細胞におけるNF−κB p65サブユニットのサイトゾルから核への移行によりNF−κB活性化を評価した。グラム陰性菌の細菌抽出物をマイクロインジェクションしたCaco−2細胞にのみNF−κBの活性化が観察された。本発明者らは細菌抽出物の細胞外添加後のCaco−2細胞におけるNF−κB活性化が不十分であることも観察した。このことは、これらの細胞が機能的内因性TLR感知系ではないことを示唆している。
【図7A】図7は、Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されることを示す。Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されている。 図7A: HeLaおよびHEK 293細胞のタンパク質抽出物(2.104細胞/レーン)をヒト型Nod1およびNod2それぞれに対して作製された特異的ポリクローナル抗体を用いて、ウエスタンブロット法によりNod1およびNod2の内因性発現について直接解析した(方法の節を参照)。この技術では依然としてNod1およびNod2の内因性発現が検出できなかったため、抗体の特異性を示すためにNod1(HEK/Nod1)およびNod2(HEK/Nod2)の発現ベクターで一時的にトランスフェクトしたHEK 293のタンパク質抽出物を同時に解析したことに留意。
【図7B】図7は、Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されることを示す。Nod1とNod2がHeLaおよびHEK 293上皮細胞で発現されている。 図7B: ウエスタンブロット法による解析に先立ち、図のように、Nod1、Nod2または対照IgG抗体を用いてHeLaおよびHEK 293細胞のタンパク質抽出物(107細胞/レーン)を免疫沈降させた。この免疫沈降法では細胞抽出物に存在するNod1およびNod2を〜500倍に濃縮可能であることから、内因性タイプのNod1およびNod2の存在を検出するためにはこの方法が必要であった。
【図8A】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Aは、Nod1によるペプチドグリカンの検出に環状糖部分を必要としないことを示す。
【図8B】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Bは、Nod1はメソ−DAPを含有するGM−トリペプチドを検出するが、アミド化DAPを含有するGM−トリペプチドは検出しないことを示す。
【図8C】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Cは、Nod1がTriDAPを検出することを示す。
【図8D】図8は、Nod1による検出に必要なペプチドグリカン構造を示す。図8Dは、Nod1がUDP−MurTriDAPおよびMurTriDAPを検出することを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nod1活性を調整する方法であって、
(a)真核細胞において機能的Nod1を発現させ、かつ
(b)前記細胞を、MTP関連分子と接触させる
ことを含んでなる、方法。
【請求項2】
Nod1活性を増強させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MTP関連分子が、トリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDap、その生物学的に活性な誘導体、またはそのペプチドミメティック(peptidomimetic)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MTP関連分子が、MTP、その生物学的誘導体またはそのペプチドミメティックである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
Nod1活性を低下させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPに対してアンタゴニスト作用を有する分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、MTP関連分子を哺乳動物に投与することを含む、方法。
【請求項7】
炎症および/またはアポトーシスを増強させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
炎症および/またはアポトーシスを減少させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアンタゴニスト作用を有する分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
生物学的に許容されうる担体と、生物学的有効量のMTP関連分子とを含んでなる、組成物。
【請求項10】
構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはペプチドミメティックである、化合物。
【請求項11】
真核生物において炎症および/またはアポトーシスをin vivo増強させるための、アジュバントとして有用な化合物であって、
構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはペプチドミメティックであり、かつ、アジュバントとして使用した場合に前記トリペプチドのアミノ酸AlaがN−アシルムラミン酸と結合しない、化合物。
【請求項12】
アジュバントとして使用する、請求項11に記載の分子。
【請求項13】
抗原と、生物学的有効量の請求項12に記載の分子とを含んでなる、組成物。
【請求項14】
免疫原と、生物学的有効量の請求項12に記載の分子とを含んでなる、組成物。
【請求項15】
宿主の免疫応答を増強させる方法であって、宿主に、生物学的に許容されうる担体と免疫応答を増強させるのに十分な量の請求項10に記載の化合物とを含有する組成物と関連づけられる、抗原、または、宿主において免疫応答を誘導させることが可能な目的の製品を投与することを含む、方法。
【請求項16】
宿主において免疫応答をもたらす方法であって、免疫応答を促進するのに有効な量の請求項13に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項17】
目的の抗原と、免疫原性組成物の効果を増強するのに有効な量の請求項12に記載の分子とを含有する、病原菌に対する免疫原性組成物。
【請求項18】
ヒトまたは動物宿主のワクチン接種方法であって、宿主に、請求項17に記載の免疫原性組成物のワクチン接種に有効な量を投与することを含む、方法。
【請求項19】
宿主がヒトまたは温血動物である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を検出する方法であって、
(a)Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常が疑わしい細胞を用意し、
(b)前記細胞をMTPまたはそのアゴニストと接触させ、
(c)NF−κB活性化またはIL−8生成を評価する
ことを含んでなり、
ここで、NF−κB活性化の変化またはIL−8生成の変化は、Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を示す、
方法。
【請求項21】
Nod1とMTPとの間の直接または間接相互作用の後に起こる炎症および/またはアポトーシス反応を調整することが可能な分子をスクリーニングする方法であって、
(a)機能的Nod1を発現する細胞を用意し、
(b)前記細胞を試験しようとする分子と接触させ、
(c)NF−κB活性化および/またはIL−8生成を測定し、かつ、
(d)必要に応じて、工程c)の結果を試験しようとする分子の不在下で得られた結果と比較する
ことを含んでなり、
ここで、試験しようとする分子の不在下でのNF−κB活性化および/またはIL−8生成に対するNF−κB活性化および/またはIL−8生成の変化が、その試験した分子の哺乳動物グラム陰性菌感染によって起こる炎症反応を調整する能力を示す、
方法。
【請求項22】
請求項21に記載のスクリーニング法によって同定された、分子。
【請求項23】
哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、スクリーニング法によって同定された分子を哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項24】
Nod1とMTPまたはその誘導体もしくはペプチドミメティックを含有する、ペプチド性複合体。
【請求項25】
グラム陰性菌感染を予防または治療するための、請求項9に記載の組成物。
【請求項26】
サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを検出する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、
c)MTPとNod1との間の相互作用を検出する
ことを含んでなり
ここで、MTPとNod1との間の相互作用は、そのサンプル中にグラム陰性菌由来のペプチドグリカンが存在することを示す、
方法。
【請求項27】
MTPとNod1との間の相互作用が、NF−κB活性化を測定することによって検出される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
MTPとNod1との間の相互作用が、生物発光シグナルによって検出される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記生物発光シグナルがFRET技術を用いて得られる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
サンプルにおいてペプチドグリカンを検出し、必要に応じて、ペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、Nod2タンパク質とも接触させ、
c)MTPおよびMDPと2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との間の相互作用を検出し、かつ、
d)必要に応じて、Nod1との相互作用とNod2との相互作用とを識別する
ことを含んでなり、
ここで、c)では2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との相互作用がそのサンプル中にペプチドグリカンが存在することを示し、かつ、d)ではNod2とだけ相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陽性菌起源のものであることを示し、一方、Nod1ともNod2とも相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであることを示す、
方法。
【請求項31】
MTPまたはMDPとNodタンパク質との間の相互作用が、NF−κB活性化を測定することによって検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
MTPまたはMDPとNodタンパク質との間の相互作用が、生物発光シグナルによって検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
生物発光シグナルが、FRET技術を用いて得られる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
グラム陰性菌のペプチドグリカンとNod1との間の相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法であって、
a)MTPを用意し、
b)試験分子の存在下および不在下において、MTPをNod1タンパク質と接触させ、
c)試験分子の存在下および不在下における、MTPとNod1との間の相互作用を評価する
ことを含んでなり、
ここで、試験分子の存在下でのMTPとNod1との間の相互作用の調整が前記分子がNod1とグラム陰性菌のペプチドグリカンと間の前記相互作用を調整することを示す、
方法。
【請求項1】
Nod1活性を調整する方法であって、
(a)真核細胞において機能的Nod1を発現させ、かつ
(b)前記細胞を、MTP関連分子と接触させる
ことを含んでなる、方法。
【請求項2】
Nod1活性を増強させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MTP関連分子が、トリペプチドL−Ala−D−Glu−メソDap、その生物学的に活性な誘導体、またはそのペプチドミメティック(peptidomimetic)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MTP関連分子が、MTP、その生物学的誘導体またはそのペプチドミメティックである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
Nod1活性を低下させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPに対してアンタゴニスト作用を有する分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、MTP関連分子を哺乳動物に投与することを含む、方法。
【請求項7】
炎症および/またはアポトーシスを増強させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアゴニスト作用を有する分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
炎症および/またはアポトーシスを減少させる方法であって、かつ、MTP関連分子がNod1のMTPの活性に対してアンタゴニスト作用を有する分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
生物学的に許容されうる担体と、生物学的有効量のMTP関連分子とを含んでなる、組成物。
【請求項10】
構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはペプチドミメティックである、化合物。
【請求項11】
真核生物において炎症および/またはアポトーシスをin vivo増強させるための、アジュバントとして有用な化合物であって、
構造L−Ala−D−Glu−メソDAPを有するトリペプチド、またはその生物学的誘導体もしくはペプチドミメティックであり、かつ、アジュバントとして使用した場合に前記トリペプチドのアミノ酸AlaがN−アシルムラミン酸と結合しない、化合物。
【請求項12】
アジュバントとして使用する、請求項11に記載の分子。
【請求項13】
抗原と、生物学的有効量の請求項12に記載の分子とを含んでなる、組成物。
【請求項14】
免疫原と、生物学的有効量の請求項12に記載の分子とを含んでなる、組成物。
【請求項15】
宿主の免疫応答を増強させる方法であって、宿主に、生物学的に許容されうる担体と免疫応答を増強させるのに十分な量の請求項10に記載の化合物とを含有する組成物と関連づけられる、抗原、または、宿主において免疫応答を誘導させることが可能な目的の製品を投与することを含む、方法。
【請求項16】
宿主において免疫応答をもたらす方法であって、免疫応答を促進するのに有効な量の請求項13に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項17】
目的の抗原と、免疫原性組成物の効果を増強するのに有効な量の請求項12に記載の分子とを含有する、病原菌に対する免疫原性組成物。
【請求項18】
ヒトまたは動物宿主のワクチン接種方法であって、宿主に、請求項17に記載の免疫原性組成物のワクチン接種に有効な量を投与することを含む、方法。
【請求項19】
宿主がヒトまたは温血動物である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を検出する方法であって、
(a)Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常が疑わしい細胞を用意し、
(b)前記細胞をMTPまたはそのアゴニストと接触させ、
(c)NF−κB活性化またはIL−8生成を評価する
ことを含んでなり、
ここで、NF−κB活性化の変化またはIL−8生成の変化は、Nod1が関与している炎症および/またはアポトーシス経路の分子の機能異常を示す、
方法。
【請求項21】
Nod1とMTPとの間の直接または間接相互作用の後に起こる炎症および/またはアポトーシス反応を調整することが可能な分子をスクリーニングする方法であって、
(a)機能的Nod1を発現する細胞を用意し、
(b)前記細胞を試験しようとする分子と接触させ、
(c)NF−κB活性化および/またはIL−8生成を測定し、かつ、
(d)必要に応じて、工程c)の結果を試験しようとする分子の不在下で得られた結果と比較する
ことを含んでなり、
ここで、試験しようとする分子の不在下でのNF−κB活性化および/またはIL−8生成に対するNF−κB活性化および/またはIL−8生成の変化が、その試験した分子の哺乳動物グラム陰性菌感染によって起こる炎症反応を調整する能力を示す、
方法。
【請求項22】
請求項21に記載のスクリーニング法によって同定された、分子。
【請求項23】
哺乳動物における炎症および/またはアポトーシスを調整する方法であって、スクリーニング法によって同定された分子を哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項24】
Nod1とMTPまたはその誘導体もしくはペプチドミメティックを含有する、ペプチド性複合体。
【請求項25】
グラム陰性菌感染を予防または治療するための、請求項9に記載の組成物。
【請求項26】
サンプルにおいてグラム陰性菌由来のペプチドグリカンを検出する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、
c)MTPとNod1との間の相互作用を検出する
ことを含んでなり
ここで、MTPとNod1との間の相互作用は、そのサンプル中にグラム陰性菌由来のペプチドグリカンが存在することを示す、
方法。
【請求項27】
MTPとNod1との間の相互作用が、NF−κB活性化を測定することによって検出される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
MTPとNod1との間の相互作用が、生物発光シグナルによって検出される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記生物発光シグナルがFRET技術を用いて得られる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
サンプルにおいてペプチドグリカンを検出し、必要に応じて、ペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであるか、グラム陽性菌起源のものであるかを判定する方法であって、
a)ペプチドグリカンを検出しようとするサンプルを用意し、
b)前記サンプルをNod1タンパク質と接触させ、Nod2タンパク質とも接触させ、
c)MTPおよびMDPと2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との間の相互作用を検出し、かつ、
d)必要に応じて、Nod1との相互作用とNod2との相互作用とを識別する
ことを含んでなり、
ここで、c)では2種のNodタンパク質のうちの少なくとも一方との相互作用がそのサンプル中にペプチドグリカンが存在することを示し、かつ、d)ではNod2とだけ相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陽性菌起源のものであることを示し、一方、Nod1ともNod2とも相互作用することがそのサンプル中のペプチドグリカンがグラム陰性菌起源のものであることを示す、
方法。
【請求項31】
MTPまたはMDPとNodタンパク質との間の相互作用が、NF−κB活性化を測定することによって検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
MTPまたはMDPとNodタンパク質との間の相互作用が、生物発光シグナルによって検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
生物発光シグナルが、FRET技術を用いて得られる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
グラム陰性菌のペプチドグリカンとNod1との間の相互作用を調整する分子をスクリーニングする方法であって、
a)MTPを用意し、
b)試験分子の存在下および不在下において、MTPをNod1タンパク質と接触させ、
c)試験分子の存在下および不在下における、MTPとNod1との間の相互作用を評価する
ことを含んでなり、
ここで、試験分子の存在下でのMTPとNod1との間の相互作用の調整が前記分子がNod1とグラム陰性菌のペプチドグリカンと間の前記相互作用を調整することを示す、
方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【公表番号】特表2006−524676(P2006−524676A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506548(P2006−506548)
【出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001318
【国際公開番号】WO2004/086039
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(501173391)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001318
【国際公開番号】WO2004/086039
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(501173391)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】
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