説明

PLCシステムとその共通鍵の設定方法

【課題】 任意の一対の電力線通信装置に対して安全な共通鍵を自動的に設定できるようにして、共通鍵の更新作業を簡単に行える秘匿性に優れたPLCシステムを提供する。
【解決手段】 本発明は、電力線を通信媒体としたローカルネットワークを構成可能な一対の通信装置A,Bを備え、一方の通信装置Aと他方の通信装置Bがこれらの間で固有の共通鍵で暗号化された暗号データを変調してなるPLC信号を送受信するPLCシステムである。一方の通信装置Aは、他方の通信装置Bから受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定するとともに、他方の通信装置Bも、一方の通信装置Aから受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通鍵で暗号化された暗号データを復調してなるPLC信号を送受信するPLCシステムと、このシステムにおける共通鍵の設定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電力線通信システム(Power Line Communication System:以下、PLCシステムという。)は、周波数が50Hz又は60Hzの商用電流が流れる電力線に、通信信号としての高周波信号(数kHzから高いものでは数十MHz以上に及ぶ。)を重畳して通信を行うものである。
かかるPLCシステムは専用の通信回線を使用することなく、各家屋等に引き込まれた既設の電力線(配電線あるいは電灯線とも呼ばれる。)を利用して大容量のデータ送受信が可能なシステムとして注目されている。
【0003】
上記PLCシステムでは、宅内に張られた電力線をあたかもLANのように使うことで宅内の電力線通信装置(PLCモデムやPLC通信が可能な情報家電機器等)同士が自由に通信可能である反面、隣接家屋とも電力線を通じて物理的に接続している。
このため、PLCシステムによってローカルネットワークを構築するためには、そのネットワークを構成する電力線通信装置が当該ネットワークの認証情報を持つ必要があり、この認証情報としては、当該ネットワークを特定するためのネットワークID、当該ネットワーク内で送受信される信号を暗号化するための暗号鍵などがある。
【0004】
これらの認証情報を、ローカルネットワークに含まれる電力線通信装置が共有することにより、他のネットワークのデータと自ネットワークのデータを区別して通信することができる。例えば、従来のPLCシステムでは、隣接家屋との通信を避けるために1つの家庭で1つの共通の暗号鍵(共通鍵)を設定し、この共通鍵を用いて暗号化通信を行っている。
この場合、同一のネットワークに含まれる各通信装置は同一の共通鍵を有しているが、この共通鍵は隣接家屋のそれとは異なるため、隣接家屋の他のネットワークに属する電力線通信装置は当該家屋からの通信データを解読できない。このようにして、物理的には接続している電力線においても、論理的にネットワークを分けることができる(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−166273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような共通鍵を用いた暗号化通信を行う場合において、長期間同じ共通鍵を使用していると盗聴者に見破られる可能性が高くなるので、共通鍵を所定期間ごとに設定し直して更新することが好ましい。
しかし、電力線通信装置に対する共通鍵の設定は、パーソナルコンピュータ(以下、PCという。)から当該装置にアクセスしてユーザがコマンド入力を行うか、PCから当該装置へのアクセス専用GUIを利用して入力するのが一般的であり、ネットワークやPCの操作に精通していないユーザにとって共通鍵の更新は煩雑な作業であった。
【0007】
一方、上記特許文献1に記載の共通鍵の設定方法では、ヘッドエンド装置が共通鍵を一元管理しており、そのヘッドエンド装置が、ネットワークへの接続を端緒として共通鍵の付与を要求する各端末に対して当該共通鍵を自動的に付与するようになっている。
しかし、このようにヘッドエンド装置で共通鍵を一元管理する方式においても、そのヘッドエンド装置に対するコマンド入力をPCから行う必要がある。また、このような一元管理方式では、任意の一対の端末同士で簡単に暗号鍵の更新作業を行うことができないという欠点もある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み、任意の一対の電力線通信装置に対して安全な共通鍵を自動的に設定できるようにして、共通鍵の更新作業を簡単に行える秘匿性に優れたPLCシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
電力線を通信媒体としたPLCシステムにおいては、電力線の分岐、コンセントに対する電力機器の接続の有無、及び、その電力機器の電源のオン・オフや稼働状況等により、電力線を通過するPLC信号の減衰量が時間の経過に伴って複雑に変化する。
しかし、後述の実施形態(図6)でも述べる通り、互いにPLC信号を送受信する一対の電力線通信装置(これらの通信装置をモデムA及びモデムBとする。)が接続されるコンセントが決まっている場合、モデムAからモデムBに送信されるPLC信号の減衰量は、モデムBからモデムAに送信されるPLC信号の減衰量と一致し、この減衰量はモデムA,Bが接続されるコンセントに固有のものである。
【0010】
従って、上記コンセントとは異なる別のコンセントに、第三の電力線通信装置(モデムCとする。)を接続しても、モデムCがモデムA及びBから受信するPLC信号の減衰量は、モデムAとモデムBの間で観測されるPLC信号の減衰量とは異なる。
このように、PLCシステムでは、PLC信号の減衰量は一対のモデムA,Bを接続するコンセントの位置によって定まる固有の特性になっているので、かかるPLC信号の減衰量を利用して生成した暗号鍵をモデムAとモデムBの共通鍵として設定すれば、第三者(モデムC)が知り得ない共通鍵による暗号化を行うことができる。
本発明者は、上記知見に基づき、PLC信号の減衰量に基づく共通鍵を一対の電力線通信装置に自動設定できる構成を採用することにより、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のPLCシステムは、電力線を通信媒体とした一対の通信装置を備え、一方の通信装置と他方の通信装置がこれらの間で固有の共通鍵で暗号化された暗号データを変調してなるPLC信号を送受信するPLCシステムであって、前記一方の通信装置は、前記他方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から暗号鍵を生成し、その暗号鍵を前記共通鍵として設定する共通鍵設定処理部を有し、前記他方の通信装置は、前記一方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から暗号鍵を生成し、その暗号鍵を前記共通鍵として設定する共通鍵設定処理部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のPLCシステムによれば、一方の通信装置は、他方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定する。逆に、他方の通信装置は、一方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定する。
上記各通信装置が生成する暗号鍵はその各通信装置が接続されるコンセントの位置に固有のものである。このため、本発明のPLCシステムによれば、当該コンセントと異なる他のコンセントに接続される第三者(盗聴者)の通信装置からは知り得ない固有の共通鍵を、任意の一対の通信装置に対して自動的に設定することができる。
【0013】
ところで、この種のPLCシステムにおいては、一般に直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)によるマルチキャリア変調方式が採用されている。かかる変調方式では、受信されたPLC信号はフーリエ変換された後で例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式等で復調され、この復調の際に得られた各キャリアの振幅情報に基づいて誤り訂正を行っている。
そこで、本発明のPLCシステムにおいて、前記各通信装置の共通鍵設定処理部として、受信したPLC信号の復調時に取り出される各キャリアの振幅情報と、前記PLC信号の送信時の各キャリアの振幅情報とから当該PLC信号の減衰量を算出し、そのキャリアごとに求めた減衰量に基づいて前記暗号鍵を生成するものを採用することが好ましい。
【0014】
この場合、PLCの通信装置が本来有する既存機能である誤り訂正を行う前の、PLC信号の各キャリアの振幅情報を利用して暗号鍵を生成することができるので、PLC信号の減衰量を検出する新たな回路構成を通信装置に実装する必要がなく、本発明を安価に実現できるという利点がある。
【0015】
また、本発明の共通鍵の設定方法は、一方の通信装置と他方の通信装置がこれらの間で固有の共通鍵で暗号化された暗号データを変調してなるPLC信号を送受信するPLCシステムにおいて、前記一方の通信装置が、前記他方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を前記共通鍵として設定するとともに、前記他方の通信装置が、前記一方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を前記共通鍵として設定することを特徴とする。
【0016】
本発明の共通鍵の設定方法よれば、一方の通信装置は、他方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定する。逆に、他方の通信装置は、一方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定する。
上記各通信装置が生成する暗号鍵はその通信装置が接続されるコンセントの位置に固有のものである。このため、本発明の設定方法によれば、当該コンセントと異なる他のコンセントに接続される第三者(盗聴者)の通信装置からは知り得ない固有の共通鍵を、任意の一対の通信装置に対して自動的に設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した通り、本発明によれば、第三者の通信装置から知り得ない固有の共通鍵を任意の一対の通信装置に対して自動的に設定できるので、共通鍵の更新作業を簡単に行える秘匿性に優れたPLCシステムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。
〔システムのネットワーク構成〕
図1は、複数の家屋H1,H2に電力線通信技術を用いて構築された宅内ネットワーク(LAN)を示している。
この電力線通信システムによる宅内ネットワークでは、各家屋H1,H2内の宅内配電線10,11を利用して、それぞれの建物H1,H2ごとに独立したネットワーク(LAN)が構築されている。
【0019】
各家屋H1,H2の宅内配電線(建物内電力線)10,11は、引き込み線12,13を介して電柱に架設される等により、家屋H1,H2の近傍にある屋外電力線100に接続されている。
なお、引き込み線12,13は、各家屋H1,H2の分電盤14,15に接続されており、分電盤14,15から分岐した複数の宅内配電線10,11が各家屋内H1,H2に敷設されている。
【0020】
各宅内配電線10,11には、それぞれ、1又は複数の終端部が設けられており、各終端部には複数の電源コンセント(壁面コンセント)16,17が接続されている。これらのコンセント16,17の差込口に、複数の電力線通信装置(以下、単に「モデム」という。)A〜Fがそれぞれ接続されている。この各モデムA〜Fは、配電線10,11を介して、PLC信号の伝送を行うとともに電力供給を受ける。
【0021】
なお、PLCシステムによりネットワークを構成する場合、当該ネットワークには、電力線通信を制御する親モデムが含まれている必要がある。
もっとも、この親モデムの機能は、親モデム専用機に担わせてもよいが、すべてのモデムが親モデムとしての機能を有していて、最も古くから電源が投入されているモデムが親モデムとなり、後から電源が投入されたモデムは子モデムとなる等により、親モデムがネットワークの状態に応じて適宜決まるようにしてもよい。
【0022】
家屋H1,H2ごとに独立したネットワーク(LAN)を構築しようとしても、PLCシステムでは、各家屋H1,H2の宅内配電線10,11が電力線100を介して繋がっている。従って、一方のネットワークの信号は、他方のネットワークに到達することができる。そこで、各ネットワークを独立化するため、各モデムA〜Fには、セキュリティ情報としてネットワーク識別子及び暗号鍵に関するデータが設定可能となっている。
なお、ネットワーク識別子は、自他ネットワークを区別すべくネットワーク毎にユニークに設定され、同一ネットワークに属するモデムA〜Cは、共通のネットワーク識別子を持つ。また、同一ネットワークに属するモデムA〜Cは、共通の暗号鍵を持ち、ネットワーク外からは信号を読み取れない。
【0023】
〔モデムの内部構成〕
図2は、上記モデムA,Bの内部構成を示すブロック図である。なお、他のモデムC,D,E,Fの内部構成も同様である。
図2に示すように、このモデムA,Bは、筐体20から延設された電源コード21を有し、このコード21の先端に設けられた電源プラグ22を介して、コンセントに接続可能となっている。電源コード21は、筐体20内の電源回路23とPLC送受信部(通信部)24に接続されている。この送受信部24は、信号の変復調等の処理を行って他のモデムと電力線通信を行うものである。
【0024】
また、モデムA,Bは、PLC送受信部24の制御、送受信データの処理、及び、後述する暗号鍵の生成や設定作業等を行う制御部25を備えている。モデムA,BのPLC送受信部24は、所定の電力線通信用の周波数帯域において、複数の搬送波(マルチキャリア)を用いる周波数多重方式、より具体的には、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Domain Multiplex)とよばれる変調方式で変調を行う。
このため、PLC送受信部24は、位相偏移変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)、QPSK:Quadrature Phase Shift Keying 等)や直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)といった変調機能を有しており、送信すべきデータを複数のキャリアに分散割当し、割り当てられたデータに基づいてキャリアの振幅(パワー)及び位相を変調する。
【0025】
なお、本実施形態では、通常の電力線通信の際の周波数帯域として2MHz〜30MHzを用い、全帯域(2MHz〜30MHz)でのキャリア数を2048本(N本)としているが、これに限定されるものではない。
モデムA,Bの制御部25は、前記セキュリティ情報の1つである暗号鍵の生成と、生成した暗号鍵を当該モデムA,B間の共通鍵として設定する設定作業を行う共通鍵設定処理部26を備えている。この処理部26による暗号鍵の生成と共通鍵の設定については、後述する。
【0026】
制御部25には不揮発性のメモリ27が接続されており、このメモリ27は暗号鍵の記憶領域を備えている。このメモリ27には、PCを用いたコマンド入力等によって予め固有の共通鍵が設定されていて、モデムA,Bは、その固有の共通鍵を利用した所定の暗号方式(例えば、3DESやAES)で暗号化された暗号データを変調してなるPLC信号をお互いに送受信することで、暗号通信を行うようになっている。
なお、モデムA,Bの筐体20には、共通鍵の設定状態をユーザに認知させるための、LED等よりなる表示部30が設けられている。
【0027】
〔PLC送受信部の内部構成〕
図3は、モデムA,BのPLC送受信部24の内部構成を示している。
図3に示すように、PLC送受信部24の送信部24Aは、イーサネット(登録商標:以下同様。)フレームをPLCで扱う単位(例えば512ビット単位)でフレーム化するフレーミング処理部30と、そのフレームをOFDMの各サブキャリアに割り当てるビット割当回路31とを備えている。
【0028】
ビット割当回路31で割り当てられたフレームは、IFFT回路32で逆フーリエ変換されて時間軸上のデータ信号に変換され、この信号に、プリアンブル付加回路33によって同期用のプリアンブル信号が付加される。
その後、そのプリアンブルが付加されたデータ信号は、D/A変換器34によってアナログのPLC信号に変換され、アナログフロントエンド(AFE)35及びカップリングトランス36を通じて電力線1に重畳される。
【0029】
他方、PLC送受信部24の受信部24Bは、上記送信部24Aを逆に辿る経路を備えている。すなわち、電力線からの高周波のPLC信号は、カップリングトランス38とアナログフロントエンド(AFE)39を介してA/D変換器40に入力され、デジタル信号に変換される。このデジタル信号は、プリアンブル除去回路41によってデータ部の同期が行われ、FFT回路42でフーリエ変換されて単位時間の信号からサブキャリアが抽出される。
その後、ビット取出回路43において、前記ビット割当回路31と逆の手順でサブキャリアからビット列を取り出し、取り出された信号はフレーミング処理部44によってイーサネットフレームに変換されて送信される。
【0030】
〔共通鍵の設定方法〕
図4は、一対のモデムA,B間で行われる暗号鍵生成のための制御通信の手順を示すシーケンス図である。なお、図4では、送信側がモデムAでかつ受信側がモデムBである場合を例示している。
図4に示すように、まず、送信側であるモデムAの共通鍵設定処理部26は、新しい暗号鍵の生成のためのテスト波形を受信側のモデムBに送信する(ステップS1)。このテスト波形のサブキャリアごとの振幅情報(送信強度)は予め各モデムA,Bのメモリ27に記憶され、既知であるものとする。
【0031】
上記テスト波形のPLC信号を受信すると(ステップS2)、モデムBの共通鍵設定処理部26は、受信したPLC信号の振幅情報(受信強度)に基づいてサブキャリアごとの減衰量を測定する(ステップS3)。
図5は、上記減衰量の演算原理を示す概念図である。図5(a)に示すように、モデムBのPLC送受信部24は、PLC信号を受信すると、同期処理、フーリエ変換処理及び復調処理を行うが、図5(b)に示すように、モデムBの共通鍵設定処理部26は、この復調の際に、受信したPLC信号の振幅情報をサブキャリアごとに取り出し、自身のメモリ27に記憶されているサブキャリアごとの振幅情報との差分を取ることにより、サブキャリアごとの減衰量を測定する。
【0032】
その後、モデムBの共通鍵設定処理部26は、上記サブキャリアごとの減衰量に基づいて暗号鍵を生成する(ステップS4)。
この暗号鍵の生成は、例えば、サブキャリアごとの減衰量を所定の閾値と比較して大きいか小さいかによって二値化し、この二値化データをサブキャリアの順番に並べてビット列を作成することによって生成することができる。従って、この場合には、サブキャリアの数と同じビット数の暗号鍵が得られる。
【0033】
モデムBの共通鍵設定処理部26は、上記のようにして新たに生成した暗号鍵をメモリ27に上書きすることにより、その暗号鍵をモデムAとの暗号通信で使用する共通鍵として設定する(ステップS5)。
共通鍵の設定が終了すると、モデムBの共通鍵設定処理部26は、その終了を送信側のモデムAに通知する(ステップS6及びステップS7)。
【0034】
また、本実施形態では、上記とは反対に、モデムBからモデムAに対してもテスト波形の送信が行われる。これにより、受信側のモデムAの共通鍵設定処理部26においてサブキャリアごとの減衰量に基づく暗号鍵が生成され、この新たに生成した暗号鍵がモデムBとの暗号通信で使用する共通鍵として設定されるようになっている。
モデムA及びモデムBの共通鍵設定処理部26は、上記のような減衰量の測定に基づく共通鍵の設定を一定時間ごとに繰り返し行っており、これによって両モデムA,Bで使用する共通鍵が一定時間おきに自動的に更新される。
【0035】
このように、本実施形態のPLCシステムによれば、ローカルネットワークを構成可能な一対のモデムA及びBのうち、一方のモデムAが、他方のモデムBから受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定し、逆に、他方のモデムBが、一方のモデムAから受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を共通鍵として設定する。
【0036】
図6は、上記減衰量に基づく共通鍵の安全性を示すためのPLCシステムの構成図である。
図6に示すように、モデムAはコンセントaに接続し、モデムBはコンセントbに接続するというように、互いにPLC信号を送受信するモデムAとモデムBが接続されるコンセントが決まっているとする。この場合、モデムAからモデムBに送信されるPLC信号の減衰量は、モデムBからモデムAに送信されるPLC信号の減衰量と一致し、この減衰量はモデムA,Bが接続されるコンセントa,bの位置に固有のものである。
【0037】
また、電力線を通信媒体としたPLCシステムにおいては、概ね次の(1)〜(3)の原因により、電力線を通過するPLC信号の減衰量が時間の経過に伴って複雑に変化するが、これらの場合でもコンセントa,b間での減衰量は一定である。
(1) 電力線の分岐
(2) コンセントに対する電力機器の接続の有無
(3) コンセントに接続された電力機器の電源のオン・オフや稼働状況
【0038】
一方、上記コンセントa,bとは異なる別のコンセントcに、第三者(盗聴者)のモデムCを接続しても、モデムCがモデムAやモデムBから受信するPLC信号の減衰量は、モデムAとモデムBの間で観測されるPLC信号の減衰量とは異なる。
このように、PLC信号の減衰量は一対のモデムA,Bを接続するコンセントa,bの位置によって定まる固有の特性になっていて、他のコンセントcから観測することができない。従って、本実施形態のように、PLC信号の減衰量を利用して生成した暗号鍵をモデムA及びBの共通鍵として設定すれば、モデムC(盗聴者)が知り得ない共通鍵を用いた暗号通信を行うことができる。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、簡単のために2つのモデムA,B間での共通鍵の設定作業を例示したが、ネットワーク内にある3つ以上のモデムに本発明を適用することも可能である。この場合には、3つ以上の複数のモデム間で、まず、本発明の共通鍵の設定方法を行う一対のモデム同士を確定する制御通信を行わせ、その上で当該共通鍵の設定方法を実施すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】複数の家屋に構築された宅内ネットワークの構成図である。
【図2】PLCモデムの内部構成を示すブロック図である。
【図3】PLC送受信部の内部構成を示すブロック図である。
【図4】モデム間で行われる暗号鍵生成のための制御通信の手順を示すシーケンス図である。
【図5】減衰量の演算原理を示す概念図である。
【図6】減衰量に基づく共通鍵の安全性を示すためのPLCシステムの構成図である。
【符号の説明】
【0041】
H1:家屋、H2:家屋、10:宅内配電線、11:宅内配電線、12:引き込み線、
13:引き込み線、14:分電盤、15:分電盤、16:電源コンセント、
17:電源コンセント、20:筐体、21:電源コード、22:電源プラグ、
23:電源回路、24:PLC送受信部(通信部)、25:制御部、
26:共通鍵設定処理部、27:メモリ、28:表示部、
30:フレーミング処理部、31:ビット割当回路、32:IFFT回路、
33:プリアンブル付加回路、34:D/A変換器、35:アナログフロントエンド、
36:カップリングトランス、38:カップリングトランス、
39:アナログフロントエンド、40:A/D変換器、41:プリアンブル除去回路、
42:FFT回路、43:ビット取出回路、44:フレーミング処理部、
100:屋外電力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力線を通信媒体とした一対の通信装置を備え、一方の通信装置と他方の通信装置がこれらの間で固有の共通鍵で暗号化された暗号データを変調してなるPLC信号を送受信するPLCシステムであって、
前記一方の通信装置は、前記他方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から暗号鍵を生成し、その暗号鍵を前記共通鍵として設定する共通鍵設定処理部を有し、
前記他方の通信装置は、前記一方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から暗号鍵を生成し、その暗号鍵を前記共通鍵として設定する共通鍵設定処理部を有することを特徴とするPLCシステム。
【請求項2】
前記各通信装置の共通鍵設定処理部は、受信したPLC信号の復調時に取り出される各キャリアの振幅情報と、前記PLC信号の送信時の各キャリアの振幅情報とから当該PLC信号の減衰量を算出し、そのキャリアごとに求めた減衰量に基づいて前記暗号鍵を生成する請求項1に記載のPLCシステム。
【請求項3】
一方の通信装置と他方の通信装置がこれらの間で固有の共通鍵で暗号化された暗号データを変調してなるPLC信号を送受信するPLCシステムにおいて、
前記一方の通信装置が、前記他方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を前記共通鍵として設定するとともに、
前記他方の通信装置が、前記一方の通信装置から受信したPLC信号の周波数ごとの減衰量から生成した暗号鍵を前記共通鍵として設定することを特徴とするPLCシステムにおける共通鍵の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−44407(P2009−44407A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206701(P2007−206701)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】