説明

PZT関連圧電体微粉の製造方法

【目的】PZT関連系の複合圧電体のペロブスカイト単相であり、焼結助剤を使用することなく、十分低温で焼結できる仮焼粉末を1回の仮焼で得る。
【構成】PZT系の複合圧電体の原料粉末をあらかじめ十分に微粉砕することによって、ペロブスカイト単相であり、焼結助剤を使用することなく、十分低温で焼結できる仮焼粉末を1回の仮焼で得られる。その結果、高密度で高い圧電特性を有する圧電体が低温での焼結で得られる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1および請求項2で発明されたPZT関連圧電体の超微紛仮焼粉末を、焼結助剤を使用することなく、1000℃以下の低温で圧電体を焼結して製造する方法に関するものである。さらに、上記粉末を使用すれば、この粉末と銀または銀ーパラジウム電極とを交互に重ねて成形した積層圧電体を1000℃以下で焼結して製造することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
PZT関連の圧電材料は50%を超える高い電気機械結合係数を有する極めて優れた圧電材料である。しかし、通常の原料粉末を混合し、仮焼することによっては、ペロブスカイト単相の仮焼粉末を得ることは困難であり、通常、パイロクロア相といわれる圧電材料にとっては、好ましくない結晶相が伴っている。特に、PNN−PZT系やPMN−PZT系においては、この現象が顕著である。従って、工業的には、酸化ニッケルや酸化マグネシウムと酸化ニオブを1000℃以上の高温であらかじめ反応させて、コロンバイトといわれる酸化物を生成させて、それを、酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタンと混合し、仮焼することによって、パイロクロア相の割合を減少させることが行われている。これはコロンバイト法といわれているものである。しかし、コロンバイト法は仮焼工程が2段階となり、工業的に好ましくない。また、酸化鉛を過剰に添加することによって、パイロクロア相の出現を抑制することも、行われてきた。その結果、電極材料として使用されているパラジウムと過剰な酸化鉛との反応が生じたり、電極材料中の銀の酸化鉛中への拡散が生じたりした。また、酸化鉛の蒸発による組成変化および環境汚染を完全に防止することは困難であった。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は従来の技術では実現できなかったPZT関連の圧電セラミックス粉末のペロブスカイト単相の超微粉を、ボールミル等の粉砕機を用いて原料粉末を微粉砕し、その後、1段階仮焼法とボールミル等の粉砕機を用いて、圧電特性を劣化させるパイロクロア相を含まない仮焼粉末を微粉砕することによって作製し、酸化鉛過剰の組成にしたり、焼結助剤を使用することなく、1000℃以下の低温で圧電体を焼結して製造するものである。その微粉末と純銀または銀ーパラジウム電極材料とを一体化焼結することによって、得られた積層圧電体の小型化と低温一体化焼結を実現し、鉛酸化物の蒸発に伴う諸問題を解決し、また、電極材料の低廉化と銀やパラジウムの圧電層への内部拡散や結晶粒界での過剰酸化鉛とパラジウムの反応などの電極問題の解決を実現するものである。即ち、本法によって、工業的に安価で大量に生産できる積層圧電体を環境問題および電極問題を解決しながら、実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はPZT関連セラミックスの粉末冶金法による仮焼方法と粉砕方法を改善することによって、コロンバイト法のような2段階仮焼法や、過剰の酸化鉛の添加や、焼結助剤を加えることなく、上記の課題を解決するものである。
【0005】
すなわち、本発明は原料粉末および仮焼粉末の粉砕方法を改善することによって、パイロクロア相を含まないペロブスカイト単相の0.3マイクロメーター以下の超微粉を作製し、過剰の酸化鉛や焼結助剤を添加することなく、高い圧電特性を持ち、かつ、極めて高密度化されたPZT関連圧電材料を極めて低い温度で作製することを可能とならしめることに、特徴を有するものである。その結果、銀主体の電極、好ましくは銀単体の電極を使用することによって、低温焼結された積層圧電体を製作することが可能となる。
【作用】
【0006】
すなわち、本発明は原料粉末および仮焼粉末の粉砕方法を改善することによって、1段階仮焼法によってパイロクロア相を含まないペロブスカイト単相の0.3マイクロメーター以下のPZT関連のセラミックス超微粉を作製し、過剰の酸化鉛や焼結助剤を添加することなく、PZT関連セラミックスを1000℃以下の温度で、実用的に十分高い電気機械結合定数と理論密度(8.0g/cm)に極めて近い高密度を有するPZT関連圧電材料を焼結可能とするものである。従って、銀または銀ーパラジウム電極をこのPZT関連超微粉と交互に重ねあわせ、積層化することによって、従来、実現できなかった積層圧電体の小型化と低廉化、および、電極中に含有されている銀やパラジウムの酸化鉛との反応や拡散による積層圧電体の破損防止や鉛酸化物の蒸発による環境汚染問題の解決を同時に実現出来る。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0008】
実施例の一つとして、PNN−PZT系において、組成が0.375Pb(Ni1/3Nb2/3)O−0.25PbZrO−0.375PbTiOの場合について説明する。原材料粉末は、純度99.9%以上のPbO、NiO、Nb、TiO、ZrOの粉末を使用し、上記組成になるように正確に秤量した後、約3ミリメーター径のジルコニアボールを入れたボールミルにより、IPA(イソプロピルアルコール)を溶媒とし、分散剤を適量加え、約48時間粉砕して均質化する。図1に得られた混合粉の走査型電子顕微鏡写真像を示す。約0.3マイクロメーターと非常に微粉化された混合粒子が観察できる。本実施形態では、ボールの素材が原材料であるジルコニアであるので、ボールが摩耗して原材料に混入しても不純物とはならない。なお、ジルコニアボールの代わりに、プラスチックでコーティングした金属製のボールを用いてもよい。また、容器の素材についても同様に対応できる。
【0009】
次に、ボールと分散溶液を分離し、60℃オーブン中で1時間乾燥し、混合粉末を回収する。これを850℃で2時間、仮焼して反応させる。その結果、混合量に応じた組成比の0.375Pb(Ni1/3Nb2/3)O−0.25PbZrO−0.375PbTiOなる圧電仮焼粉が得られた。図2の仮焼粉末のX線回折図に示されるように、本実施形態の製造方法によれば、850℃と低温での加熱処理においても、得られた仮焼粉末には、パイロクロア相の生成が見出されず、ペロブスカイト単相であることが判明した。通常、このような組成の圧電体においては、ペロブスカイト単相の粉末を得るためには、あらがじめ、NiOとNbの粉末を1000℃以上の高温で反応させ、コロンバイトと言われるNiNb粉末を合成し、これをPbO、TiO、ZrOの粉末に加えて、仮焼する方法(コロンバイト法と言われる)が採用されている。本実施形態の製造方法は1段階の低温でペロブスカイト単相の粉末を得られることを、その特徴としている。図3に、得られた圧電仮焼粉の走査型電子顕微鏡写真像を示す。しかし、図3に示されるように、この圧電仮焼粉末は0.5マイクロメーター程度に粒子径が増大し、かつ、粉末粒子同士が凝集している。
【0010】
従って、この圧電仮焼粉を約3ミリメーター径のジルコニアボールを入れたボールミルにより、IPA(イソプロピルアルコール)を溶媒とし、分散剤を適量加え、約48時間粉砕して微粉砕し、解砕した。原材料粉を混合した場合と同様に、ボールと分散溶液を分離し、60℃オーブン中で1時間乾燥し、微粉砕粉末を回収した。図4に、粉砕された仮焼微粉の走査型電子顕微鏡写真像を示す。約0.3マイクロメーターと極めて微粉化され、よく分散している仮焼粒子が得られた。
【0011】
次に、100MPaの加圧下で直径10ミリメーターの金型で成型し、大気中950℃で4時間加熱して焼結体を作製した。この試料を、シリコン油中、4MV/mで分極処理を行った後、圧電特性を調べた結果、電気機械結合係数Kpはそれぞれ63%、圧電定数d 33(圧電体に電圧を印加したときに変位する割合)は546pm/Vであり、十分高い圧電特性を示した。この試料のキュリー温度は186℃を示し、高温でも十分使用可能である。さらに、図5のこの焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡写真像に示されるように、空孔は殆ど見いだされず、極めて緻密な焼結体が得られた。また、アルキメデス法によって測定した密度は8.12g/cmと極めて高い値を示した。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、パイロクロア相の生成を伴わずに、低温での1段階の仮焼工程でペロブスカイト単相の粉末が得られるので、コスト低減と工程の簡素化が達成される。さらに、仮焼工程中での酸化鉛の揮発による環境汚染が回避できる。また、仮焼粉末を粉砕することによって、酸化鉛等の添加物や焼結助剤が不必要となり、1000℃以下で高密度で高性能の圧電体の製造が可能であるので、本焼成工程中においての酸化鉛の揮発による環境汚染が回避できる。また、安価な電極の使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるPNN−PZT原材料混合微粉の走査型電子顕微鏡写真像
【図2】 本発明によるPNN−PZT混合微粉を850℃で仮焼した粉末のX線回折図
【図3】 本発明によるPNN−PZT混合微粉を850℃で仮焼した粉末の走査型電子顕微鏡写真像
【図4】 本発明によるPNN−PZTの850℃で仮焼した粉末をさらにボールミルで粉砕した粉末の走査型電子顕微鏡写真像
【図5】 本発明によるPNN−PZTの850℃で仮焼した粉末をさらにボールミルで粉砕した粉末を950℃で焼結した試料の断面の走査型電子顕微鏡写真像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PZTおよびその複合材料であるPNN−PZTおよびPMN−PZT等の圧電材料の原料粉末を、ボールミル等の粉砕機を用いて微粉砕することによって得られる超微粉原料の製造方法
【請求項2】
請求項1によって作製されたPZT関連の超微粉原料、特にPNN−PZTおよびPMN−PZT等の複合材料の超微粉原料を、酸化鉛などの添加物を加えることなく、1000℃以下で1段階の仮焼を行ない、ボールミル等の粉砕機を用いて微粉砕することによって得られるペロブスカイト単相の超微粉仮焼粉末の製造方法
【請求項3】
請求項2によって得られたPZT関連の超微粉仮焼粉末を、焼結助剤を加えることなく、1000℃以下で焼結させた圧電体の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−153061(P2011−153061A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31783(P2010−31783)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(591183186)
【出願人】(501108304)
【出願人】(510043700)
【Fターム(参考)】