説明

RTM成形用成形型

【課題】完全な脱泡ができず気泡が残った状態の樹脂が注入されても、成形体にボイドやピットが残ることを抑制でき、機械特性の発現率や表面品位が向上したFRP成形体を得ることができるRTM成形用成形型を提供する。
【解決手段】繊維基材を配置するためのキャビティ4と、樹脂を移送配置するための注入ランナー5と、注入ランナー5とキャビティ4とを前記端面に渡って繋ぎ、注入ランナー5からキャビティ4へ樹脂を注入するための注入ゲートと、キャビティ4の、注入ゲートと対向する位置の端面に配され、キャビティ4から樹脂を排出するための排出ゲート12とを有する成形型であって、注入ゲートは、注入ランナー5と繋がるゲート10とキャビティ4と繋がるゲート9を有し、それが繋げる端面に垂直な断面において、注入ランナー5と繋がる位置での高さが、キャビティと繋がる位置での高さより大きくなっている樹脂注入成形法用成形型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(以下、FRP)成形体を樹脂注入成形(レジン・トランスファー・モールディング)(以下、RTM)法で製造する際に用いる成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、FRP成形体を成形する方法として、金型などの成形型により形成される密閉されたキャビティ内に強化繊維基材を配置し、キャビティ内に樹脂を加圧注入して強制的にキャビティ内に充満させることによって強化繊維基材に含浸させた後、樹脂を加熱等により硬化させてFRP成形体を成形する、いわゆるRTM法が知られている。
【0003】
ところで、RTM法に用いる成形型には、型が縦に割れる縦割れ型と、型が横に割れる横割れ型とがあるが、縦割れ型は、重力の影響で樹脂の流れが一定化し易く、型内に注入された樹脂中の気泡は上昇して抜けやすいことから、成形体の表面品位上問題となるボイドやピットが発生しにくいと言うメリットがある反面、成形型内への強化繊維基材のセット、即ち成形型のキャビティ面への基材の乱れ無き配置と型面への固定が難しく、且つ多大の時間を要することから生産性が低いという問題がある。なお、ボイドとは、成形品の内部に残る空洞のことであり、ピットとは成形品の外層表面に残る穴のことである。
【0004】
一方、横割れ型、即ち成形型が上型と下型を有する構成では、強化繊維基材の成形型内へのセットは比較的容易で且つ短時間で行える利点がある反面、一般的な樹脂の注入方法、即ち0.2〜1.0MPaの圧力で加圧し、格別流速をコントロールしないで樹脂注入した場合は、樹脂が圧力に応じた流速で型内に流入して行き、比較的短時間で型内に樹脂が充填されるが、強化繊維基材が樹脂流れで乱れたり、流速が早くて不均一な流れが生じて成形体の内部や表面にボイドやピットが発生することが起きやすい。また、RTM法においては、樹脂の流れを促進し、樹脂の流れに起因したボイドやピットの少ない成形体を得るために、樹脂を加圧注入するとともに、キャビティ内を減圧にすることが多い。
【0005】
従来、RTM法において、注入する樹脂に気泡が混入していれば、成形型内が減圧下である場合、成形型内でより顕在化し気泡となって残り、得られる成形体にボイドやピットが発生することになるので、一般的に、使用する樹脂に混入している気泡は、注入前に減圧下に置くことにより脱泡し揮発成分などとともに取り除かれる。樹脂から気泡を完全に脱泡するには長時間を要し、実験室段階であれば、必要量のみを必要以上に時間を掛けて過剰に脱泡して使用すればよいが、生産段階に適用するためには、過剰に脱泡すると生産量に影響するため非効率であり、脱泡時間は最小限に抑える必要がある。そのため適正な脱泡条件を確立する必要があるが、脱泡する樹脂の量、混入している揮発成分の量、温度、時間、等複数の要因が関与するため、生産的な条件設定が困難であり、完全な脱泡ができず気泡が残った状態の樹脂が注入されることがあり、その場合、気泡が残った状態の樹脂が注入された成形型内では、成形型内の負圧によって気泡の体積が膨張し、成形体へのボイドやピットとなって残留することがあった。
【0006】
このような状況の中、樹脂の流速を制御し、成形型のキャビティ内への含浸を均一にすることによりボイドやピットの発生を抑制する技術が特許文献1に開示されているが、特許文献1で開示される技術では、樹脂中に気泡が残存している場合には、ボイド、ピットが発生してしまうことを避けられない。そのため、樹脂の脱泡状態によりボイド、ピットの発生状況が異なるため、成形条件の設定が難しい。
【0007】
成形型内を減圧にしないRTM法であれば、注入圧力を大きくすることにより気泡を潰し、注入する樹脂の脱泡状態による影響を最小限にすることもできるが、その場合、キャビティ内での樹脂流れに起因するボイド、ピットが発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−193587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような成形型内を減圧にするRTM法における従来技術が有する問題を解決すること、すなわち、完全な脱泡ができず気泡が残った状態の樹脂が注入されても、成形体にボイドやピットが残ることを抑制でき、機械特性の発現率や表面品位が向上したFRP成形体を得ることができるRTM成形用成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、繊維基材を配置するためのキャビティと、キャビティの一部端面に並行してキャビティから離れて配された、樹脂を移送配置するための注入ランナーと、注入ランナーとキャビティとを前記端面に渡って繋ぎ、注入ランナーからキャビティへ樹脂を注入するための注入ゲートと、キャビティの、注入ゲートと対向する位置の端面に配され、キャビティから樹脂を排出するための排出ゲートとを有する成形型であって、注入ゲートは、それが繋げる端面に垂直な断面において、注入ランナーと繋がる位置での高さが、キャビティと繋がる位置での高さより大きくなっている樹脂注入成形法用成形型である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形型は、キャビティに繋がるゲートの高さより注入ランナーに繋がるゲートの高さを高くして、一時的な樹脂の滞留を作っているので、樹脂中に残留している気泡を分離し、樹脂がキャビティ内に入る前に樹脂中の残留している気泡を分離し、取り除くことができる。これにより、完全な脱泡ができず気泡が残った状態の樹脂を注入しても、成形型内のキャビティに樹脂が入る前に、樹脂内に残留する気泡が除去され、ボイドやピットの少ない成形体を得ることができるので、注入前の樹脂の脱泡時間を短縮でき、成形体の生産効率が向上する。そして、そのようにして得られた成形体は、機械特性の発現率や表面品位が向上したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る成形型の一例であり、その組み立て前の状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る成形型の一例における、注入ゲート部の断面図である。
【図3】本発明に係る別の成形型における、注入ゲート部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、図面を用いてより詳しく説明する。図1は、本発明に係る成形型の一例を示した斜視図であり、組み立て前の状態を示している。成形型は、上型1と下型2で構成され、上型と下型の間は、Oリング(オーリング)3でシールされて、上型と下型が閉じられると、繊維基材を配置するためのキャビティ4が形成される。上型と下型の間がシールできるならば、Oリング(オーリング)3は必ずしも必要ではない。キャビティ4の一部端面に並行して、キャビティ4から離れて、樹脂を移送配置するための注入ランナー5が配されている。キャビティ4の一部端面と注入ランナーとは、キャビティへの樹脂流れの抵抗の偏りを低減するため、通常、一定の間隔で離れている。そして、注入ランナー5とキャビティ4とをキャビティ4の前記端面に渡って繋ぎ、注入ランナー5からキャビティ4へ樹脂を注入するための注入ゲートが配され、キャビティ4の、注入ゲートと対向する位置の端面には、キャビティ4から樹脂を排出するための排出ゲート12と排出ゲート12と繋がる排出ランナー5aが配されている。樹脂がキャビティ4から排出できるならば、排出ランナーはなくても良い。そして、注入ランナー5に樹脂を供給するための注入チューブ6を配設するための注入チューブ配設用溝7、排出ランナー5aから樹脂を排出するための排出チューブ6aを配設するための排出チューブ配設用溝7aが上下型に形成されており、弾性体シール8で型とチューブとの間をシールしている。
【0014】
図2は、図1に示す成形型において、上型と下型とを閉じた状態で、注入ゲートが繋がるキャビティ4の端面に垂直なA−A位置での断面図であり、成形型の注入ゲート部を示している。かかる断面図において、注入ゲートは、注入ランナーと繋がるゲート10とキャビティ4と繋がるゲート9を有し、注入ランナーと繋がる位置での高さが、キャビティ4と繋がる位置での高さより大きくなっている。すなわち、注入ランナーと繋がるゲート10での高さが、キャビティ4と繋がるゲート9での高さより大きくなっている。注入ランナーと繋がるゲート10と、キャビティ4と繋がるゲート9とは、不連続な高さで繋がっていることが重要である。
【0015】
本発明では、このような成形型を用い、キャビティを形成するための下型の窪みに強化繊維基材を配置し、上型1と下型2とを閉じてキャビティを形成して後、樹脂を、注入チューブ6に加圧供給し、注入ランナー5でキャビティ4の端面に渡って広げて移送配置しつつ、注入ゲートを通ってキャビティ4に注入するとともに、キャビティ4内の余剰樹脂を排出ゲート12から排出する。ここで、樹脂が注入ランナーから注入ゲートを通過する際、注入ランナーに繋がるゲート10は、キャビティに繋がるゲート9の高さより高いので、注入ランナーに繋がるゲート10の領域では、キャビティ方向に流れている樹脂の一部に樹脂の流れに対し上下方向の流れが生じ、渦ができることにより一時的に樹脂が滞留され、その間に樹脂が成形型で加熱されて粘度が低下し、樹脂に含まれる気泡が注入ランナーに繋がるゲートの上方へ浮き上がり溜まるので、気泡を含む樹脂はキャビティに繋がるゲート9をほとんど通過しなくなる。このようにして、キャビティに入るより手前で、樹脂中に残留している気泡を分離することができるのである。型は、樹脂の粘度を30〜400mPa・s程度に低下できるように、40〜120℃に加熱できるような加熱手段を有している。
【0016】
図3は、本発明に係る別の成形型の注入ゲート部の断面図である。本発明では、注入ゲートの途中に、キャビティ4と繋がる位置でのゲート高さより大きな高さを持つ脱気ランナー11を備えるようにすることも有効である。注入ランナーに繋がるゲート10の上面に脱気ランナー11を設けることにより、より多くの気泡を溜めることができる。図3に示す脱気ランナーは、キャビティ側から注入ランナー側に向かって、高さが高くなっている。また、図3に示すように、脱気ランナーはキャビティに繋がるゲートと連通していても良いが、キャビティに繋がるゲートから離れて設置しても良い。
【0017】
RTM法で得られるFRP成形体は、強化繊維により強化されている樹脂であり、本発明において、強化繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、金属繊維、窒化珪素繊維などの無機繊維や、ポリアミド系合成繊維、ポリオレフィン系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリフェニルスルフォン系合成繊維、ポリベンゾオキサジン系合成繊維、アセテート、アクリロニトリル系合成繊維、モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル系合成繊維、ポリ塩化ビニリデン系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、ポリウレタン繊維、ポリクラール繊維、タンパク−アクリロニトリル共重合系繊維、フッ素系繊維、ポリグリコール酸繊維、フェノール繊維、パラ系アラミド繊維などの有機繊維等の中から単種、あるいは複数種選ぶことができる。中でも、高強度・高剛性なFRP成形体を得るためには炭素繊維やガラス繊維が用いられる。
【0018】
また、強化繊維基材とは、通常、樹脂の含浸されていない強化繊維を指し、その形態としては、織布状、ニット状、不織布状、マット状、チョップドファイバーなどの短繊維状など各種形態を採りうる。
【0019】
本発明において、樹脂としては、粘度が低く強化繊維への含浸が容易な、熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂を形成するRIM用(Resin Injection Molding)モノマーなどが好適である。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、グアナミン樹脂、また、ビスマレイド・トリアジン樹脂等のポリイミド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリジアリルフタレート樹脂、さらにメラニン樹脂やユリア樹脂やアミノ樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を図面を参照しつつ実施例を用いて、より具体的に説明する。
【0021】
(実施例1)
予め東レ(株)製トレカ(登録商標)T300織物(目付;200g/m)を5ply積層し、成形品形状に賦形された強化繊維基材を、図1に示すような成形型のキャビティを形成するための下型の窪みに配置し、上型1と下型2とを閉じて100トンの力で加圧してキャビティを形成した。なお、O-リング3にはシリコーン製のものを、弾性体シール8にはNBR製のものを、注入チューブ6と排出チューブ6aには外径12mm、内径9mmのナイロンのものを用いた。注入ゲートが繋がるキャビティ4の端面に垂直なA−A位置での断面は図2のようなものであり、キャビティに繋がるゲートの高さは0.5mm、注入ランナーに繋がるゲートの高さは5mmであった。その状態で成形型を100℃に成形型内に設けた配管(記載略)内に温水を流すことによって昇温した。その後、減圧ポンプに連通する減圧トラップに接続された排出チューブ6aを介してキャビティ4内を減圧にした後、キャビティに注入チューブ6を介して、予め40℃で3時間脱泡された、粘度100mPa・sのエポキシ樹脂を0.5MPaで加圧注入した。そして、樹脂注入完了後、注入チューブ及び排出チューブを閉じ、所定の時間(30分)の間、成形型によって加熱されたエポキシ樹脂が硬化した後、成形型を開け、脱型して成形品を得た。得られた成形品には、ボイドやピットは見当たらなかった。
【0022】
(実施例2)
図1におけるA−A位置での断面が図3に示すような成形型に変更した以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。図3において、キャビティに繋がるゲートの高さは0.5mm、注入ランナーに繋がるゲートの高さは5mmであり、脱気ランナー11は、高さ10mm、半径5mmの半円状であった。得られた成形品は実施例1と同様、ボイドやピットは見当たらなかった。
【符号の説明】
【0023】
1 上型
2 下型
3 Oリング
4 キャビティ
5 注入ランナー
5a 排出ランナー
6 注入チューブ
6a 排出チューブ
7 注入チューブ配設用溝
7a 排出チューブ配設用溝
8 弾性体シール
9 キャビティに繋がるゲート
10 注入ランナーに繋がるゲート
11 脱気ランナー
12 排出ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材を配置するためのキャビティと、キャビティの一部端面に並行してキャビティから離れて配された、樹脂を移送配置するための注入ランナーと、注入ランナーとキャビティとを前記端面に渡って繋ぎ、注入ランナーからキャビティへ樹脂を注入するための注入ゲートと、キャビティの、注入ゲートと対向する位置の端面に配され、キャビティから樹脂を排出するための排出ゲートとを有する成形型であって、注入ゲートは、それが繋げる端面に垂直な断面において、注入ランナーと繋がる位置での高さが、キャビティと繋がる位置での高さより大きくなっている樹脂注入成形法用成形型。
【請求項2】
注入ゲートの途中には、前記断面においてキャビティと繋がる位置での注入ゲート高さより大きな高さを持つ、脱気ランナーを備えている請求項1に記載の樹脂注入成形法用成形型。
【請求項3】
脱気ランナーは、キャビティ側から注入ランナー側に向かって、前記断面での高さが高くなっている請求項1または2に記載の樹脂注入成形法用成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−189541(P2011−189541A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55545(P2010−55545)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】