説明

SAW共振子

【課題】 FSK通信を行う際に、周波数帯の切り替えに伴う出力位相の不連続が生じ無いSAW共振子を提供する。
【解決手段】 上記目的を達成するためのSAW共振子100は、圧電基板12における弾性表面波の伝播方向に沿って設けた一対の櫛型電極20aa,20abからなるIDT16aと、前記IDT16aに対して並列に配置した一対の櫛型電極20ba,20bbからなるIDT16bと、前記IDT16aの櫛型電極20aa,20abと前記IDT16bの櫛型電極20ba,bbとを相互に切り替え接続する切替手段60を有し、前記IDT16aの電極指24の交差部の幅a1と、前記IDT16bの電極指24の交差部の幅a2と、各IDT16a,16bの交差部間の距離bとの和をBとしたときに、Bを7λ≦B≦33λの範囲に設定することを特徴とする(但し、λは弾性表面波の波長)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW共振子に係り、特に、FSK(Frequency Shift Keying)方式の通信を行う機器に適用することに好適なSAW共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタル信号を通信する方式としてFSK方式による通信方法は知られている。FSK方式とは例えば、0、1のデジタル信号に応じて搬送波の瞬時周波数を離散的に変化させる変調方式であり、振幅変化を一定にしながら変調をかけることが可能であり、レベル変動や雑音の影響が少ない通信方式である。また、回路構成が簡単であり、ASK(Amplitude Shift keying)方式やPSK(Phase Shift Keying)方式よりも通信の際の帯域幅が広くなるという特徴がある。
【0003】
このため、FSK方式の通信方法は利用価値が高く、この種の通信方法を利用する発振器は種々提案されている。例えば特許文献1、特許文献2に提案されている発振器もSFK方式の通信方法を利用する発振器である。
特許文献1に開示されている発振器は、1つの圧電基板上に共振周波数の異なる複数のSAW共振子を備え、1つの半導体集積回路基板上に前記SAW共振子の数に対応した数の発振回路を備えると共に、前記発振回路を切替回路に接続するという構成のものである。
【0004】
このような構成の発振器では、使用する周波数の帯域に応じて切替回路を作動させ、所望の周波数帯域に対応したSAW共振子に接続された発振回路を選択し、発振させる。
【0005】
また、特許文献2に記載の発振回路は、通過させる周波数帯域の異なる2種類のSAWフィルタを回路中に備え、前記SAWフィルタの出力側に切替回路を備え、増幅器と固定位相器とを備えた帰還回路を構成するものである。
このような発振回路では、前記切替回路によって、接続するSAWフィルタを切り替えることにより、要求する周波数帯域の周波数のみを選定することができる。
【特許文献1】特許2925158号公報
【特許文献2】特開2004−40421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1や特許文献2に記載の発振器や発振回路によれば、所望の周波数帯域に応じた発振器および発振回路を提供することができる。
しかし、上記特許文献1、特許文献2に記載されている発振器や発振回路は、いずれも周波数帯域の異なる複数のSAW共振子若しくはSAWフィルタを備え、使用周波数帯域によってそれらを切り替えることで要求される周波数帯域に対応する構成である。このため、SAW共振子若しくはSAWフィルタの切り替え時には、電気的接続による要因や、SAW共振子やSAWフィルタの位相の違いによる要因等により、発振周波数が瞬断され、出力位相の不連続が生じ、切り替え時にエラーが生じることもある。このような問題は、高速通信では特に影響が大きくなる。また、特許文献1に記載の発振回路では、使用の異なる複数のSAW共振子を1つの回路内に備える構成としているため、それぞれのSAW共振子において周波数精度や、周波数偏移精度が得られないといった問題もある。
【0007】
本発明では、上記問題を解決し、周波数帯が変化した場合であっても、周波数帯の切り替えに伴う出力位相の不連続を無くし、周波数精度や周波数偏移精度を良好に保つことを可能とするSAW共振子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るSAW共振子は、弾性表面波の伝播方向に沿って設けた一対の櫛型電極からなる第1のすだれ状電極と、前記第1のすだれ状電極に対して並列に配置した一対の櫛型電極からなる第2のすだれ状電極と、前記第1のすだれ状電極の前記一対の櫛型電極と前記第2のすだれ状電極の前記一対の櫛型電極とを相互に切り替え接続する切替手段を有し、前記第1のすだれ状電極の電極指の交差部の幅a1と、前記第2のすだれ状電極の電極指の交差部の幅a2と、前記各すだれ状電極の前記交差部間の距離bとの和をBとしたときに、7λ≦B≦33λとすることを特徴とした(但し、λは弾性表面波の波長)。
【0009】
このような特徴を有するSAW共振子であれば、圧電基板上に配設した2つのすだれ状電極のうちの一方(例えば第1のすだれ状電極)は連続発振を行い、他方(例えば第2のすだれ状電極)を切り替え発振することで、SAW共振子としての出力信号に周波数差を持たせることができる。また、他方のすだれ状電極の発振の切り替えは、連続発振する一方のすだれ状電極の発振を基準として行うことができるため、切替時に出力位相の不連続が生じることが無い。また、2つのすだれ状電極は、圧電基板上に1つのSAW素子片として形成されるものであるため、従来技術のような複数の共振子間での周波数精度や周波数偏移精度の合わせ込みを行う必要がなく、周波数精度や周波数偏移精度の調整が容易となる。このため、周波数精度、周波数偏移精度共に良好に保つことが可能となる。また、Bの幅を7λ≦B≦33λとすることにより、車のキーレスエントリーなどの短距離通信に用いられる周波数帯、すなわち300MHz〜500MHzの周波数帯において、切替発振による2周波間の周波数差を、FSK通信を実質的に行うことが可能な50ppm〜500ppmに設定することができる。
【0010】
また、上記構成のSAW共振子では、前記第1のすだれ状電極と前記第2のすだれ状電極とは、互いの櫛型電極が線対称に配置されるように設けることが望ましい。
このような構成とすることにより、第1のすだれ状電極によって励振される波形と第2のすだれ状電極によって励振される波形との位相差が0°又は180°となるため、SAW共振子として励振する波形(出力周波数等)の制御が容易となる。
【0011】
また、前記第1のすだれ状電極と前記第2のすだれ状電極とは、同一形状の櫛型電極が並列に配置されるように設けても良い。
このような構成とした場合であっても、上記と同様に、第1のすだれ状電極によって励振される波形と第2のすだれ状電極によって励振される波形との位相差が0°又は180°となる。このため、上記のような構成であってもSAW共振子として励振する波形(出力周波数等)の制御が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のSAW共振子に係る実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明のSAW共振子に係る一部の実施形態であり、本発明はその主要部を変えない限度において種々の形態を包含する。
【0013】
まず、本発明のSAW共振子の第1の実施形態に用いるSAW素子片について図1を参照して説明する。本実施形態で用いるSAW素子片10は、圧電基板12と、前記圧電基板12上に形成された導電性パターンとを基本構成とする。
前記圧電基板12は、圧電性を有する単結晶、例えば、水晶、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)や、酸化亜鉛薄膜を得たサファイア基板等で構成すれば良い。
【0014】
前記導電性パターンは、金や銅、アルミニウムといった導電性金属を蒸着やスパッタ等により圧電基板12上に薄膜として形成し、これをフォトリソグラフィ技術などを用いてエッチングしてパターン形成したものであれば良い。圧電基板12上に形成される導電性パターンは、一対の櫛型電極20aa,20ab(20ba,20bb)によって構成されるすだれ状電極(IDT:Interdigital Transducer)16a(16b)、及び反射器14a(14b)である。
【0015】
櫛型電極20(20aa〜20bb)は、圧電基板12における弾性表面波の伝播方向に沿った方向に配されたバスバー22と、前記バスバー22に直交する方向、すなわち弾性表面波の伝播方向と直行する方向に配された複数の電極指24とから構成される。前記IDT16(16a,16b)は、前記櫛型電極20を一対、前記電極指24が交互に交差するように組み合わせて構成される。また、本実施形態で使用するSAW素子片10は、例えば圧電基板12の中心を基点とし、櫛型電極20のバスバー22が平行となるように、近接して線対称に2つ(一対)のIDT16を、1つの圧電基板12上に配設した。このような構成とすることにより、2つのIDT16によって励起される波形の位相差が0°又は180°となり、SAW共振子としての出力周波数の調整が容易となる。前記反射器14は、本実施形態で使用するSAW素子片10では、前記2つのIDT16a,16bのそれぞれを挟み込むように反射器14a,14bを個別に配置した。前記反射器14(14a,14b)は、前記櫛型電極20の電極指24と平行に配した複数の導体ストリップ18の端部を相互に連結した格子状に形成されている。なお、前記IDT16を構成する櫛型電極20のそれぞれには、電力(信号)の入出力をするためのラインを接続する電極パッド26が形成されている。また、線対称に配設した前記2つのIDT16a,16bの間には、弾性表面波の伝播方向に沿った絶縁部が設けられている。
【0016】
上記のような構成のSAW素子片10では、IDT16aを構成する櫛型電極20aa,20abへ入出力する信号と、櫛型電極20ba,20bbへ入出力する信号とを合致させる場合と、逆転させる場合とで、2つの異なるモードの波形を励起することが可能となる。例えば本実施形態で使用するSAW素子片10では、図2に示すS0モードとA0モードの波形を励起することを可能とする。これは、上記構成のSAW素子片10を共振子として用いた場合の出力信号が、2つのIDT16a,16bによって励起された弾性表面波の合成波となることに起因する。すなわち、近接させて線対称に配設した個々のIDT16に対する入出力信号を合致させた場合には、隣り合うIDT16a,16bによって励起される振動波形は等しくなり、図2に示すS0モードのようになるのである。逆に、個々のIDT16に対する入出力信号を逆転させた場合には、励起される振動波形が逆転して180°ズレた状態、すなわち図2に示すA0モードのような波形が励起されるのである。このように、SAW素子片10を共振子として用いた場合、2つのIDT16a,16bに対する信号の入出力を切り替えることにより、1つのSAW素子片10によって2つの異なる周波数帯の信号を出力することを可能とするSAW共振子を構成することができる。
【0017】
また、信号の入出力の切り替えに際しては、2つのIDT16のうちのいずれか一方に対する入出力を切り替えれば良いため、他方のIDT16については切り替え時においても発振が継続されることとなる。つまり、周波数帯の切り替えを行うSAW素子片10の中に基準の発振部を持つこととなる。このため、連続発振を行う一方のIDT16に対して、他方のIDT16に対する信号の入出力の切り替えを行ったとしても、一方のIDT16の振動波形を基準として即座に出力信号の位相を定めることができるのである。よって、周波数帯域の切り替えに伴う発振の瞬断が無く、出力信号の位相が不連続となることが無い。
【0018】
また、上記形態のSAW素子片10を用いる本実施形態のSAW共振子は、1つの素子片として構成された発振部にて発振を行うものであるため、従来のように、2つのSAW共振子の間で周波数精度や、周波数偏移精度の同調をとって発振するという必要が無い。このため、周波数精度や周波数偏移精度の調整が容易となり、周波数精度、周波数偏移精度共に良好に保つことが可能となる。
【0019】
図2に示すS0モードとA0モードは、上述したように、本実施形態のSAW共振子による発振モードを示す波形である。図2に示すS0モードは基本モードとされる線対称モードであり、IDT16aとIDT16bとに対する入出力信号を合致させた場合の発振モードである。また、図2に示すA0モードは高次モードとされる点対称モードであり、IDT16aとIDT16bとに対する入出力信号を逆転させた場合の発振モードである。
【0020】
本実施形態のSAW共振子は、自動車のキーレスエントリー等に使用する微弱電波を用いた短距離通信に適用することを目的とするため、使用する周波数帯域を300MHz〜500MHzと考える。300MHz〜500MHzの周波数帯域でFSK通信を行うことができる実質的な周波数差は、50ppm〜500ppm程度である。よって、本実施形態のSAW共振子は、S0モードとA0モードとの周波数差を50ppm〜500ppmとすることができる条件のものとする。
【0021】
上述したような構成のSAW素子片10において、共振子として用いる場合の周波数差を定める条件は、大別して2つある。IDT16を構成する導電性パターンの膜厚と電極指24の線幅との関係、及び2つのIDT16a,16bにおける電極指24の交差部の幅(交差指幅)aとaの和と交差部間の幅bとの和であるBの幅である。前者の関係は例えば、導電性パターンの膜厚が厚く電極指24の線幅が太い場合と、導電性パターンの膜厚が薄く電極指24の線幅が細い場合とでは、Bの幅を同じ条件とした場合であってもSAW共振子の周波数差が異なることを意味する。また、後者として記載したBの幅は、例えば、導電性パターンの膜厚、電極指24の線幅等が異なる場合であっても、Bの幅を調整することによりSAW共振子の周波数差を調整することが可能であることを意味する。
【0022】
本願出願人はこのような観点から研究を進め、Bの幅と周波数差、及び導電性パターンの膜厚と電極指24の線幅との関係について、図3に示すような研究結果を得た。具体的には、上記構成のSAW素子片10において、導電性パターンの膜厚を厚くし、電極指の線幅を太くした場合において、S0モードとA0モードとの間の周波数差(ΔF)を50ppm〜500ppmとするためには、Bの幅を約7λ〜約27λの範囲に設定すれば良いという結果を得た。また、導電性パターンの膜厚を薄くし、電極指の線幅を細くした場合において、S0モードとA0モードとの間の周波数差を50ppm〜500ppmとするためには、Bの幅を約13λ〜約33λの範囲に設定すれば良いという結果を得た。つまり、全体としては、本実施形態のSAW素子片10では、Bの幅を約7λ〜約33λの範囲とすることにより、使用周波数帯において50ppm〜500ppmの周波数差を実現することができるといえる。また、Bの幅は、上記範囲内においては、小さくするほど2つのモード間の周波数差を大きく設定することが可能となるといえる。なお、λは、励起される弾性表面波の1波長分の長さとする。また、2つのIDT16a,16bにおける電極指間の幅bは、2つのIDT16a,16bによって励起される弾性表面波の結合状態を維持するために、広くてもBの幅の1割程度、すなわち2λ〜3λ程度とすることが望ましい。
【0023】
上記構成のSAW素子片10を用いて上記S0モードの発振やA0モードの発振を行うための回路を持つSAW共振子の構成についての概略は、図4に示すようなものである。すなわち、本実施形態のSAW共振子100は、電源に接続されたインバータ30と、当該インバータ30と前記SAW素子片10とを電気的に接続する各種経路とから成ることを基本とする。
【0024】
本実施形態のSAW共振子100を構成するための経路は、インバータ30からの出力信号をIDT16に入力するための信号入力経路40と、IDT16からの出力信号をインバータ30に入力するための信号出力経路50とから成る。信号入力経路40、信号出力経路50は共に、分岐経路に接続されており、分岐経路はそれぞれ第1信号入力経路40a、第2信号入力経路40b、第1信号出力経路50a、第2信号出力経路50bとされる。
【0025】
本実施形態では、第1信号入力経路40aと第1信号出力経路50aをIDT16aに接続し、第2信号入力経路40bと第2信号出力経路50bをIDT16bに接続する。具体的には、第1信号入力経路40aを櫛型電極20abに設けられた電極パッド26abに接続し、第1信号出力経路50aを櫛型電極20aaに設けられた電極パッド26aaに接続する。前記第2信号入力経路40b、及び第2信号出力経路50bは、入出力信号の逆転を実現するために、切替手段60を介してそれぞれ、2つの経路に分岐している。分岐経路は、切替手段60における接続点α側に接続された経路を、基本モード信号入力経路40bα、及び基本モード信号出力経路50bαとし、切替手段60における接続点β側に接続された経路を高次モード信号入力経路40bβ、及び高次モード信号出力経路50bβとする。このような分岐経路では、基本モード信号入力経路40bαが櫛型電極20bbに設けられた電極パッド26bbへ接続され、基本モード信号出力経路50bαが櫛型電極20baに設けられた電極パッド26baに接続される。また、高次モード信号入力経路40bβは櫛型電極20baに設けられた電極パッド26baに接続され、高次モード信号出力経路50bβは櫛型電極20bbに設けられた電極パッド26bbに接続される。
【0026】
前記切替手段60は、接続位置を接続点α又は接続点βに切り替えることにより、第2信号入力経路40b、及び第2信号出力経路50bの接続先を、基本モード信号入力経路40bαと基本モード信号出力経路50bα、又は高次モード信号入力経路40bβと高次モード信号出力経路50bβに切り替えることができる。なお、信号入力側に設けられた切替手段60と信号出力側に設けられた切替手段60とは、接続点の切り替えを同期して行うようにすることが望ましい。
【0027】
このような回路を接続されたSAW素子片10は、切替手段60が接続点αを選択している場合には、IDT16aとIDT16bとにおける入出力側の櫛型電極20が線対称な位置付けとなるため、IDT16aによって励起される弾性表面波とIDT16bによって励起される弾性表面波とが同位相となる。このため、SAW共振子100として励起する弾性表面波の波形は図2にS0モードとして示す基本モードとなる。
【0028】
一方、切替手段60が接続点βを選択している場合には、IDT16bに対する入出力側の櫛型電極20(20ba,20bb)がIDT16aにおける入出力側の櫛型電極20(20aa,20ab)に対して逆転することとなる。この場合、IDT16aによって励起される弾性表面波とIDT16bによって励起される弾性表面波とが逆位相となり、弾性表面波の位相が180°ズレることとなる。このため、SAW共振子100として励起する弾性表面波の波形は、図2にA0モードとして示す高次モードとなる。
【0029】
上記のように発振モードを切り替えて信号を出力することを可能とした本実施形態のSAW共振子100におけるインピーダンス特性は、図5に示すようなものとなる。図5より、発振モードの切り替えに伴い、インピーダンスが最小となる共振周波数、及びインピーダンスが最大となる反共振周波数が共にシフトすることを読み取ることができる。
【0030】
次に、本発明のSAW共振子に係る第2の実施形態について、図6、図7を参照して説明する。本実施形態のSAW共振子100aに用いるSAW素子片10aの基本構成も、第1の実施形態に示したSAW素子片10と同様に、圧電基板12と、当該圧電基板12上に配された導電性パターンである。また、前記導電性パターンは、2つのIDT16a,16bと、この2つのIDT16(16a,16b)をそれぞれ挟み込む反射器14a,14bとであることも第1の実施形態に示すSAW素子片10と同様である。よってこれらの構成に関する詳細な説明は省略し、以下に第1の実施形態に示すSAW素子片10との相違点について説明する。
【0031】
本実施形態のSAW素子片10aは、圧電基板12上に配設する2つのIDT16a,16bの配置形態が第1の実施形態に示すSAW素子片10と異なる。すなわち、本実施形態のSAW素子片10aでは、図6に示すように2つの同一形状のIDT16を、互いのバスバー22が平行になるように、並列に近接させて配置したのである。なお、図6においては、電極パッド26(26aa〜26bb)の形成位置をIDTに対して点対称としているが、IDT16の特性に影響を与えるものでは無い。
【0032】
このような構成のSAW素子片10aであっても、IDT16aを構成する櫛型電極20aa,20bbへ入出力する信号と、IDT16bを構成する櫛型電極20bb,20baへ入出力する信号とを合致させる場合と、逆転させる場合とで、共振子として2つの異なるモードの波形を励起することが可能となる。すなわち、図2に示すS0モードとA0モードの波形を励起することを可能とするのである。これは、第1の実施形態に示したSAW素子片10と同様に、本実施形態のSAW素子片10aからの出力信号が2つのIDT16a,16bによって励起された弾性表面波の合成波となるからである。すなわち、近接させて並列に配設した同一形状のIDT16a,16bに対する入出力信号を合致させた場合には、隣り合うIDT16によって励起される振動波形は等しくなり、図2に示すS0モードようになるのである。逆に、個々のIDT16a,16bに対する入出力信号を逆転させた場合には、励起される振動波形が逆転して180°ズレた状態、すなわち図2に示すA0モードのような波形が励起されるのである。このように、本実施形態のSAW素子片10aによれば、2つのIDT16に対する信号の入出力を切り替えることにより、1つのSAW共振子でありながら2つの異なる周波数帯の信号を出力することを可能とする。
【0033】
上記構成のSAW素子片を利用したSAW共振子として上記S0モードの発振やA0モードの発振を行うための回路構成の概略は、図7に示すようなものである。基本構成は、上記第1の実施形態に示した回路と同様で、電源に接続されたインバータ30と、当該インバータ30と前記SAW共振子10aとを電気的に接続する各種経路とから成るものである。
【0034】
本実施形態のSAW共振子100aを構成するための経路は、インバータ30からの出力信号をIDT16に入力するための信号入力経路40と、IDT16からの出力信号をインバータ30に入力するための信号出力経路50とから成る。信号入力経路40、信号出力経路50は共に分岐経路に接続されており、分岐経路はそれぞれ第1信号入力経路40a、第2信号入力経路40b、第1信号出力経路50a、第2信号出力経路50bとされる。
【0035】
本実施形態では、第1信号入力経路40aと第1信号出力経路50aをIDT16aに接続し、第2信号入力経路40bと第2信号出力経路50bをIDT16bに接続する。具体的には、第1信号入力経路40aを櫛型電極20aaに設けられた電極パッド26aaに接続し、第1信号出力経路50aを櫛型電極20abに設けられた電極パッド26abに接続する。前記第2信号入力経路40b、及び第2信号出力経路50bは、入出力信号の逆転を実現するために、切替手段60を介してそれぞれ、2つの経路に分岐している。分岐経路は、切替手段60における接続点α側に接続された経路を、基本モード信号入力経路40bα、及び基本モード信号出力経路50bαとし、切替手段60における接続点β側に接続された経路を高次モード信号入力経路40bβ、及び高次モード信号出力経路50bβとする。このような分岐経路では、基本モード信号入力経路40bαが櫛型電極20bbに設けられた電極パッド26bbへ接続され、基本モード信号出力経路50bαが櫛型電極20baに設けられた電極パッド26baに接続される。また、高次モード信号入力経路40bβは櫛型電極20baに設けられた電極パッド26baに接続され、高次モード信号出力経路50bβは櫛型電極20bbに設けられた電極パッド26bbに接続される。
【0036】
前記切替手段60は、接続位置を接続点α又は接続点βに切り替えることにより、第2信号入力経路40b、及び第2信号出力経路50bの接続先を、基本モード信号入力経路40bαと基本モード信号出力経路50bα、又は高次モード信号入力経路40bβと高次モード信号出力経路50bβに切り替えることができる。なお、信号入力側に設けられた切替手段60と信号出力側に設けられた切替手段60とは、接続点の切り替えを同期して行うようにすることが望ましい。
【0037】
その他の諸条件、及び効果については、第1の実施形態に示すSAW共振子100と同様である。
なお、実施形態の概略構成を示す各図においては、櫛型電極20を構成するバスバー22は、入力側と出力側とで同じ幅として示しているが、異なる幅としても良い。また、上記実施形態では、反射器14は、2つのIDT16a,16bに対してそれぞれ個別に反射器14a,14bを備える旨記載したが、反射器は、図8に示すように、2つのIDT16a,16bを一括して挟み込むような大型なもの(反射器14c)にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るSAW共振子に用いるSAW素子片の実施形態を示す図である。
【図2】SAW共振子としての発振モードを示す図である。
【図3】2周波間の周波数差とBの幅との関係を示すグラフである。
【図4】切替発振を行うことを可能としたSAW共振子の第1の実施形態を示す図である。
【図5】発振モードの切替に伴う周波数のシフトを示すグラフである。
【図6】本発明に係るSAW共振子に用いるSAW素子片の実施形態を示す図である。
【図7】切替発振を行うことを可能としたSAW共振子の第2の実施形態を示す図である。
【図8】大型の反射器を採用した場合におけるSAW素子片の例である。
【符号の説明】
【0039】
10………SAW素子片、12………圧電基板、14(14a〜14c)………反射器、16(16a,16b)………すだれ状電極(IDT)、18………導体ストリップ、20(20aa〜20bb)………櫛型電極、22………バスバー、24………電極指、26(26aa〜26bb)………電極パッド、100………SAW共振子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波の伝播方向に沿って設けた一対の櫛型電極からなる第1のすだれ状電極と、
前記第1のすだれ状電極に対して並列に配置した一対の櫛型電極からなる第2のすだれ状電極と、
前記第1のすだれ状電極の前記一対の櫛型電極と前記第2のすだれ状電極の前記一対の櫛型電極とを相互に切り替え接続する切替手段を有し、
前記第1のすだれ状電極の電極指の交差部の幅a1と、前記第2のすだれ状電極の電極指の交差部の幅a2と、前記各すだれ状電極の前記交差部間の距離bとの和をBとしたときに、
7λ≦B≦33λ (λは弾性表面波の波長)
であることを特徴とするSAW共振子。
【請求項2】
前記第1のすだれ状電極と前記第2のすだれ状電極とは、互いの櫛型電極が線対称に配置されるように設けられることを特徴とする請求項1に記載のSAW共振子。
【請求項3】
前記第1のすだれ状電極と前記第2のすだれ状電極とは、同一形状の櫛型電極が並列に配置されるように設けられることを特徴とする請求項1に記載のSAW共振子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−60331(P2007−60331A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243631(P2005−243631)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】