説明

SNP遺伝子型に基づく抗精神病薬治療

本発明は、イロペリドン効力と関連する1つ又は複数の一塩基多型(SNP)座位における患者の遺伝子型に基づく抗精神病薬治療の効力の予測、及びこのような予測に基づく患者の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
統合失調症は、人口の約1%が罹患している精神病性障害である。これは、陽性症状(幻覚及び妄想を含む、異常な考え又は知覚)、陰性症状(引きこもり、毎日の生活における満足感の欠如)及び認知機能(言語記憶、情報処理)の障害の存在を特徴とする。このような症状は、例えば双極性障害などの他の障害の指標となり得る。
【0002】
統合失調症を治療するいくつかの薬物が認可されている。しかし、治療に対する患者の応答は非常に変化しやすいままであり、抗精神病薬治療の中断率は高い。統合失調症を有する全ての患者に最適な効果を提供する単一の統合失調症治療剤は存在しない。最も適切な薬物療法の選択及び個々の患者に対する治療特異性の改善において、臨床医及び患者を導くのに利用可能なデータはほとんどない。薬理ゲノミクスは、応答を予測する遺伝子マーカーを発見する機会を提供する。その患者の遺伝子構成に基づいて、統合失調症を有する患者が特定の治療に如何に応答し得るかを知ることにより、臨床医は、より少ない試行錯誤で、最適な薬物及び投薬量を選択することが可能となり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、抗精神病薬応答と関連する少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位における個体の遺伝子型に基づく抗精神病薬での個体の治療、並びに1つ又は複数のこのようなSNP座位における個体の遺伝子型に基づいて個体が如何に良く抗精神病薬に応答するかの予測に関する。より具体的には、本発明は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される1つ又は複数のSNP座位における個体の遺伝子型に基づく、非定型抗精神病薬による個体の治療及び/又はこのような治療の効力の予測に関する。非定型抗精神病薬には、例えば、イロペリドン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、シプラシドン(siprasidone)、アリピプラゾール、パリペリドン、アセナピン、セルチンドール、ゾテピン、アミスルプリド、ビフェプルノックス、メルペロン、それらの医薬的に許容可能な塩、それらの代謝産物、及びそれらの代謝産物の医薬的に許容可能な塩が含まれる。
【0004】
本発明の一態様は、個体における少なくとも1つの精神病性症状の治療における、イロペリドン、イロペリドン代謝産物、又はイロペリドン若しくはイロペリドン代謝産物の医薬的に許容可能な塩の使用の効力を予測する方法を提供し、この方法は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位における個体の遺伝子型を決定するステップと、少なくとも1つのSNP座位における個体の遺伝子型がより高いイロペリドン効力と関連する場合に、イロペリドンによる個体の治療が有効であろうと予測するステップとを含む。
【0005】
本発明の別の態様は、精神病性障害又は双極性障害を有するヒトの、非定型抗精神病薬での治療に対する応答性を決定する方法を提供し、この方法は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位における個体の遺伝子型を決定するステップと、少なくとも1つのSNP座位における個体の遺伝子型がより高いイロペリドン効力と関連する場合に、イロペリドンによる個体の治療が有効であろうと予測するステップとを含む。
【0006】
本発明のなお別の態様は、精神病性障害、統合失調症又は双極性障害の1つ又は複数の症状について患者を治療する方法を提供し、この方法は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位の両方のコピーにおいて、患者の遺伝子型を決定するステップと、患者が少なくとも1つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、有効量のイロペリドン、イロペリドン代謝産物、又はイロペリドン若しくはイロペリドン代謝産物の医薬的に許容可能な塩を患者に投与するステップとを含む。
【0007】
本発明の別の態様は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つのSNP座位において、イロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する患者における、精神病性障害、統合失調症又は双極性障害の1つ又は複数の症状に罹患している患者の治療における使用のための、イロペリドン、イロペリドンの活性代謝産物、又はイロペリドン若しくはイロペリドンの活性代謝産物の塩を提供する。
【0008】
本発明のなお別の態様は、精神病性障害、統合失調症又は双極性障害を有する患者に対する治療戦略を決定する際に使用するためのキットを提供し、このキットは、(a)請求項1で同定された遺伝子座を少なくとも1つ含むDNA配列のある部分を認識しそれに結合できるポリヌクレオチドと、(b)前記ポリヌクレオチド及び前記個体由来の染色体DNAのサンプルを入れるのに適した容器であって、ポリヌクレオチドが染色体DNAと接触し得る容器と、(c)前記ポリヌクレオチドと前記染色体DNA配列との組合せを検出し、それにより6つの座位のうち1つ又は複数においてその個体の遺伝子型が何であるかを確認するための手段とを備える。
【0009】
本発明の別の態様は、非定型抗精神病薬を上市する方法を提供し、この方法は、その非定型抗精神病薬が、増加したイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する個体においてより有効であることを、処方者、患者又はその両方に通知するステップを含む。
【0010】
本発明のなお別の態様は、臨床試験について個体を選択する方法を提供し、この方法は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位における個体の遺伝子型を決定するステップと、1つ又は複数のSNP座位における個体の遺伝子型に基づいて、臨床試験に個体を含める又は臨床試験から個体を除外するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】統合失調症を有する患者の治療におけるイロペリドン応答についての結果のゲノム表示を示す図である。1染色体当たりの単相アプローチ分析の全ゲノム関連解析(WGAS)結果を示す:MMRM(上)及びLOCF(下)。各点は、そのSNPの最も簡潔な遺伝子モデルを使用したPANSS−Tにおける変化の関連についての、1つのSNPのP値(縦軸上の対数目盛り)及びゲノム位置(横軸)を示す。矢印は、本明細書中に記載される選択されたSNPを指す。
【図2a】図2a〜図2fは、NPAS3、XKR4、TNR、GRIA4、GFRA2及びNUDT9P1遺伝子領域中の、PANSS−Tにおける変化とSNPとの間の遺伝的関連を示す図である。SNPの物理的位置(横軸)の順に、NPAS3(図2a)、XKR4(図2b)、TNR(図2c)、GRIA4(図2d)、GFRA2(図2e)及びNUDT9P1(図2f)を含むゲノム領域について、MMRM分析からのP値(縦軸)が示される。セントロメア(cen)及びテロメア(tel)に対するマップの方向が、水平方向の矢印で示される。0.01以下のPを有するSNPを四角で囲んでいる。統合失調症を有する家族における、Kamnasaranらが記載した切断点のNPAS3におけるおよその位置が、アスタリスク()で示される。
【図2b】図2a〜図2fは、NPAS3、XKR4、TNR、GRIA4、GFRA2及びNUDT9P1遺伝子領域中の、PANSS−Tにおける変化とSNPとの間の遺伝的関連を示す図である。SNPの物理的位置(横軸)の順に、NPAS3(図2a)、XKR4(図2b)、TNR(図2c)、GRIA4(図2d)、GFRA2(図2e)及びNUDT9P1(図2f)を含むゲノム領域について、MMRM分析からのP値(縦軸)が示される。セントロメア(cen)及びテロメア(tel)に対するマップの方向が、水平方向の矢印で示される。0.01以下のPを有するSNPを四角で囲んでいる。統合失調症を有する家族における、Kamnasaranらが記載した切断点のNPAS3におけるおよその位置が、アスタリスク()で示される。
【図2c】図2a〜図2fは、NPAS3、XKR4、TNR、GRIA4、GFRA2及びNUDT9P1遺伝子領域中の、PANSS−Tにおける変化とSNPとの間の遺伝的関連を示す図である。SNPの物理的位置(横軸)の順に、NPAS3(図2a)、XKR4(図2b)、TNR(図2c)、GRIA4(図2d)、GFRA2(図2e)及びNUDT9P1(図2f)を含むゲノム領域について、MMRM分析からのP値(縦軸)が示される。セントロメア(cen)及びテロメア(tel)に対するマップの方向が、水平方向の矢印で示される。0.01以下のPを有するSNPを四角で囲んでいる。統合失調症を有する家族における、Kamnasaranらが記載した切断点のNPAS3におけるおよその位置が、アスタリスク()で示される。
【図2d】図2a〜図2fは、NPAS3、XKR4、TNR、GRIA4、GFRA2及びNUDT9P1遺伝子領域中の、PANSS−Tにおける変化とSNPとの間の遺伝的関連を示す図である。SNPの物理的位置(横軸)の順に、NPAS3(図2a)、XKR4(図2b)、TNR(図2c)、GRIA4(図2d)、GFRA2(図2e)及びNUDT9P1(図2f)を含むゲノム領域について、MMRM分析からのP値(縦軸)が示される。セントロメア(cen)及びテロメア(tel)に対するマップの方向が、水平方向の矢印で示される。0.01以下のPを有するSNPを四角で囲んでいる。統合失調症を有する家族における、Kamnasaranらが記載した切断点のNPAS3におけるおよその位置が、アスタリスク()で示される。
【図2e】図2a〜図2fは、NPAS3、XKR4、TNR、GRIA4、GFRA2及びNUDT9P1遺伝子領域中の、PANSS−Tにおける変化とSNPとの間の遺伝的関連を示す図である。SNPの物理的位置(横軸)の順に、NPAS3(図2a)、XKR4(図2b)、TNR(図2c)、GRIA4(図2d)、GFRA2(図2e)及びNUDT9P1(図2f)を含むゲノム領域について、MMRM分析からのP値(縦軸)が示される。セントロメア(cen)及びテロメア(tel)に対するマップの方向が、水平方向の矢印で示される。0.01以下のPを有するSNPを四角で囲んでいる。統合失調症を有する家族における、Kamnasaranらが記載した切断点のNPAS3におけるおよその位置が、アスタリスク()で示される。
【図2f】図2a〜図2fは、NPAS3、XKR4、TNR、GRIA4、GFRA2及びNUDT9P1遺伝子領域中の、PANSS−Tにおける変化とSNPとの間の遺伝的関連を示す図である。SNPの物理的位置(横軸)の順に、NPAS3(図2a)、XKR4(図2b)、TNR(図2c)、GRIA4(図2d)、GFRA2(図2e)及びNUDT9P1(図2f)を含むゲノム領域について、MMRM分析からのP値(縦軸)が示される。セントロメア(cen)及びテロメア(tel)に対するマップの方向が、水平方向の矢印で示される。0.01以下のPを有するSNPを四角で囲んでいる。統合失調症を有する家族における、Kamnasaranらが記載した切断点のNPAS3におけるおよその位置が、アスタリスク()で示される。
【図3】NPAS3(a)、XKR4(b)、TNR(c)、GRIA4(d)、GFRA2(e)及びNUDT9P1(f)遺伝子中の同定されたSNPにおける、イロペリドンに対する最も高い応答及び最も低い応答を有する遺伝子型を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
イロペリドン(1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]エタノン)は、参照により本明細書中に組み込まれる米国再発行特許第39198号明細書中に開示されている。イロペリドンの活性代謝産物は、本発明において有用である。例えば、参照により本明細書中に組み込まれる国際公開第03/020707号パンフレットを参照のこと。イロペリドン代謝産物には、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシフェニル]エタノン、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]−2−ヒドロキシエタノン、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシ−α−メチルベンゼンメタノール、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2−ヒドロキシ−5−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2−ヒドロキシ−5−メトキシフェニル]エタノン及び1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2,5−ジヒドロキシフェニル]エタノンが含まれる。参照により本明細書中に組み込まれる、米国再発行特許第39198号明細書、国際公開第93/09276号パンフレット及び国際公開第95/11680号パンフレットを参照のこと。
【0013】
有効量のイロペリドン又はその活性代謝産物は、被験体動物(典型的にはヒトであるが、他の動物、例えば、家畜、ペット及びレース用動物もまた治療できる)に、いくつかの経路によって投与することができる。有効量は、治療の過程の間に、精神病性障害(例えば、統合失調症又はその症状、或いは双極性障害の症状)に対する予防効果又は寛解効果を有するであろう量である。有効量は、例えば、患者、治療される障害又は症状の重篤度、及び投与経路に依存して、量的に変動し得る。
【0014】
実際に投与されるイロペリドン又はその活性代謝産物の量を含む投薬プロトコルは、関連する状況(例えば、治療すべき状態、選択された投与経路、個々の患者の年齢、体重及び応答、並びに患者の症状の重篤度が含まれる)を考慮して、医師により決定されるであろうことが、理解されよう。患者は当然、可能性のある有害事象についてモニタリングされるべきである。
【0015】
治療的使用又は予防的使用のために、イロペリドン又はその活性代謝産物は、標準的な従来の技術を使用して、その(又はある)必須活性成分として、少なくとも1つのこのような化合物を、固体又は液体の医薬的に許容可能な担体、並びに任意選択で医薬的に許容可能なアジュバント及び賦形剤と関連して含む医薬組成物として、通常は投与されるであろう。
【0016】
本発明の実施に有用な医薬組成物には、経口、非経口(皮下、筋内、皮内及び静脈内が含まれる)、経皮、気管支又は経鼻投与に適した剤形が含まれる。従って、固体担体が使用される場合、製剤を錠剤にし、散剤若しくはペレットの形態で硬ゼラチンカプセルに入れ、又はトローチ剤若しくはロゼンジ剤の形態にすることができる。固体担体は、例えば結合剤、充填剤、錠剤化滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤などの、従来の賦形剤を含み得る。錠剤は、所望の場合、従来の技術によりフィルムコーティングしてもよい。液体担体が使用される場合、製剤は、シロップ剤、エマルジョン、軟ゼラチンカプセル、注射用の無菌ビヒクル、水性又は非水性の液体懸濁物の形態であってもよく、或いは使用前の水又は他の適切なビヒクルでの再構成のための乾燥製品であってもよい。液体製剤は、懸濁剤、乳化剤、湿潤剤、非水性ビヒクル(食用油が含まれる)、防腐剤、並びに香味剤及び/又は着色剤などの、従来の添加剤を含み得る。非経口投与のために、ビヒクルは通常、少なくとも大部分は無菌水を含むであろうが、生理食塩水、グルコース溶液などを使用してもよい。注射可能な懸濁物もまた使用され得、この場合、従来の懸濁剤が使用され得る。従来の防腐剤、緩衝剤などもまた、非経口剤形に添加され得る。医薬組成物は、適切な量のイロペリドン又はその活性代謝産物を含む所望の製剤に適した従来の技術によって製剤化され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、第17版、1985を参照のこと。
【0017】
本発明で使用するための医薬組成物の製造において、活性成分(複数可)は、通常、担体と混合されるか、又は担体で希釈されるか、又はカプセル、サシェ剤、紙若しくは他の容器の形態であり得る担体内に封入されるかであろう。担体が希釈剤として機能する場合、この担体は、その活性成分のためのビヒクル、賦形剤又は媒体として機能する固体、半固体又は液体の材料であり得る。従って、この組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁物、エマルジョン、溶液、シロップ剤、エアロゾル(固体として又は液体媒体中)、例えば活性化合物を10重量%まで含む軟膏、軟及び硬ゼラチンカプセル、坐剤、無菌注射溶液並びに無菌包装散剤の形態にできる。
【0018】
適切な担体及び希釈剤のいくつかの例には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル及びヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム並びに鉱油が含まれる。製剤は、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、保存剤、甘味剤又は香味剤をさらに含むことができる。本発明の組成物は、患者への投与後に、活性成分の迅速な放出、持続性の放出(徐放)又は遅延した放出を提供するように、製剤化することができる。
【0019】
これらの組成物は、好ましくは、単位剤形で製剤化される。用語「単位剤形」とは、ヒト被験体及び他の哺乳動物のための単位投薬量として適切な物理的に別個な単位をいい、各単位は、必要とされる医薬的担体と関連して、治療期間の過程にわたって所望の予防効果又は治療効果を生じるように計算された、所定の量の活性物質を含む。
【0020】
イロペリドン及びその活性代謝産物もまた、放出制御形態(例えば、遅延性、持続性又は拍動性の放出)で製剤化できる。
【0021】
イロペリドン及び/又はその誘導体を投与する種々の製剤及び方法が記載されている。例えば、国際公開第2004/006886A2号パンフレットは、イロペリドン結晶を含む注射可能なデポー製剤を記載しており、イロペリドン及びポリグリコリドポリラクチドグルコーススターポリマーのマイクロカプセル化デポー製剤は、米国特許出願第20030091645号明細書に記載されており、とりわけ増加した濃度のイロペリドン又はイロペリドン誘導体と関連する補正心電図QT(QTc)間隔の延長の排除又は最小化のためのイロペリドンの投与方法は、国際公開第2006/039663A2号パンフレットに記載されている(これらは全て、参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0022】
いくつかの一塩基多型(SNP)が、イロペリドンの第3相臨床試験において実施された全ゲノム関連解析(WGAS)に従って、イロペリドンに対する改善された応答と関連することが見出された。この臨床試験は、統合失調症と診断された患者の治療におけるイロペリドンの効力を評価したものである。
【0023】
イロペリドン治療に対する患者の応答を予測するものとして同定されたSNPは、ニューロンPASドメインプロテイン3遺伝子(NPAS3)、XK,Kell血液型複合体サブユニット関連ファミリー、メンバー4遺伝子(XKR4)、テネイシン−R遺伝子(TNR)、グルタミン酸受容体,イオンチャネル型,AMPA4遺伝子(GRIA4)、グリア細胞株由来神経栄養因子受容体α2遺伝子(GFRA2)、及びセロトニン受容体7遺伝子(HTR7)の染色体領域中に位置するNUDT9P1偽遺伝子内に見出された。
【0024】
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版に従って統合失調症と診断された18歳〜65歳の患者が、イロペリドンの有効性及び安全性の、28日間のランダム化二重盲検プラセボ及びシプラシドン対照試験への参加に適格であった。患者を、1日2回のイロペリドン12mg、1日2回のシプラシドン80mg(活性対照)又はプラセボに、ランダムに割り当てた。主要な効力変数は、ベースラインから、短期の二重盲検相からのデータを使用する陽性陰性症状評価尺度合計スコア(PANSS−T)における最後の予定された観察までの変化とした。副次的な目的は、イロペリドンに対する応答を予測する遺伝子マーカーを同定することであった。
【0025】
血液サンプルを収集し、DNAを、任意選択のWGASに同意した457人の患者のうち432人から抽出した(イロペリドンが投与された218人の患者及びプラセボが投与された102人の患者を含む)。
【0026】
イロペリドン効力のバイオマーカーを独立して発見及び確認するために、イロペリドンが投与された患者を、等しいサイズの2つの群(群1(発見相)及び群2(確認相))にランダムに分け、WGASのために遺伝子型決定した。プロックサーベイセレクト(PROC SURVEYSELECT)(SAS Institute、Cary、North Carolina)を使用して、ほぼ等しい数の各人種及び各性別の患者を有するように、群を階層化した。
【0027】
群1において、各SNPを、28日目の、最終観測値代用法(last observation−carried−forward)(LOCF)データの分布の、低いほう30%及び高いほう30%の極端な値にある患者について、遺伝子型とPANSS−Tにおける変化との間の潜在的な関連について試験した。グループ分け変数として遺伝子型を用いた、Kruskal−Wallis検定に基づく打ち切りノンパラメトリック測定分散分析(ANOVA)を使用して、分析を実施した。有意なオムニバス検定及びアドホックコントラストに基づいて、最も簡潔な遺伝子モデル(例えば、1つの対立遺伝子についてホモ接合体対全ての他の遺伝子型(例えば、AA対AB及びBB)、ヘテロ接合体対ホモ接合体遺伝子型(AB対AA及びBB))を生じた結果は、確認相において試験した遺伝子モデルを決定付けた。全体的な説明を容易にするため、各SNPが異なる簡潔なモデルを有し得ることを考慮して、陽性のイロペリドン応答と関連する全てのSNPの遺伝子型は、遺伝子型クラスC1と呼び、そのSNPについての残りの遺伝子型は、遺伝子型クラスC2と呼んだ。簡潔な遺伝子モデルが、あるSNPについて得られなかった場合、それはそれ以上試験しなかった。C1及びC2を規定するコントラストについて最も低いP値を有する100のSNPのサブセットのみを、確認相において試験した。
【0028】
2つの別個の方法を適用した。28日目のPANSS−TについてのLOCFデータを、各SNPの一元配置ANOVAにおいて使用し、組み合わせた他の2つの遺伝子型クラスに対して、各遺伝子型クラスを試験した。ANOVAからの結果は、さらなる試験のために使用すべき簡潔な遺伝子モデルを決定付けた。引き続いて、臨床試験結果の分析のために使用されるように、混合モデル反復測定(MMRM)モデルにおいて各SNPの簡潔な遺伝子モデルを使用して、MMRM分析を実施した。MMRM分析において、ANOVA LOCFデータ分析で決定した、各SNPについての最良の遺伝子モデルのみを使用した。
【0029】
2相アプローチの確認ステップにおいて、α=0.05/100のBonferroni補正を適用した。偽発見率(FDR)補正も、Benjamini及びHochberg(BH)手順を使用して計算した。この2つの単相分析のそれぞれにおいて、BH手順を使用した。最も低いP値を有するSNPを、いずれの特定の閾値も用いずに分析した。FDR補正を、元の分析的P値へのBH調整を生成するプロックマルチテスト(PROC MULTTEST)(SAS Institute)から得た。
【0030】
DNAサンプルを、マイクロアレイセット(ジーンチップヒューマンマッピング500Kアレイセット(GeneChip Human Mapping 500K Array Set);Affymetrix、Santa Clara、California)を製造業者の指示に従って使用して、500,000より多いSNPについて遺伝子型決定した。このセットは、それぞれが平均して250,000のSNPを遺伝子型決定することが可能な2つのアレイ(Nspアレイについては約262,000及びStyアレイについては238,000)からなった。
【0031】
DNAサンプルを、統合失調症又は抗精神病薬治療との関連について以前に研究されたが、マイクロアレイセット(ジーンチップヒューマンマッピング500Kアレイセット;Affymetrix)上には提示されていない、さらなる多型についても遺伝子型決定した。これらのSNPを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とその後の制限断片長多型(RFLP)検出、又は対立遺伝子特異的プライマー(ASP)PCRのいずれかを使用して、遺伝子型決定した(表1を参照のこと)。
【0032】
各PCR反応は、25μLの総容量中に、60ngのDNA、MgSO(0.5mM)を含む1×PCR反応緩衝液、DNAポリメラーゼ(アンプリタック(AmpliTaq);Applied Biosystems、Foster City、California)、5pmolのdNTPミックス(Promega、Madison、Wisconsin)及び10pmolの各特異的プライマーを含んだ。ASPアッセイのために、ホットスタータック(HotStarTaq)(登録商標)ポリメラーゼ(Qiagen、Valencia、California)を使用し、2つのPCR反応を各サンプルについて実施した(各対立遺伝子について1つ)。PCR条件は以下のとおりであった:95℃の最初の変性10分間、次いで(95℃で30秒間の変性、30秒間のアニーリング(SNPに特異的な温度)、72℃で1分間の伸長)×35サイクル、及び最後に72℃で10分間の伸長。PCR産物を適切な制限酵素で消化し、標準DNAラダーに対して4%アガロースゲル上で分離して、フラグメントサイズを決定した。
【0033】
DNAアレイから収集したデータの完全性を確実にするために、以下の品質制御ステップを実施した:
【0034】
アルゴリズム
各マイクロアレイ(ジーンチップ(GeneChip)(登録商標)ヒューマン500Kアレイセット;Affymetrix)を、動的モデルベースの遺伝子型決定アルゴリズム及び0.5の信頼度閾値でMahalanobis距離分類指標を用いる最新のBayesianロバスト線形モデル(BRLMM)によって分析した。これらの条件下で、失われた遺伝子型はランダムに失われたと仮定し、インピュテーションはいずれの遺伝子データについても行わなかった。BRLMMアナリシスツール(BRLMM Analysis Tool)2.0及びSNPシグナルツール(SNP Signal Tool)1.0.0.12.(Affymetrix)を使用して、個々のSNPの遺伝子型コールの分布及び分離を分析及び可視化した。
【0035】
コールレート
コールレートを、BRLMMアルゴリズムによりAA、AB又はBBとコールされたSNPの割合として、単一のアレイについて規定した。93%以上のコールレートを有するアレイのみを、さらなる分析のために維持した。
【0036】
アレイ間の一致
遺伝子型決定した500,000より多いSNPのうち、50は、Styアレイ及びNspアレイの両方に共通していた。これらのSNPについて>90%の一致を有するアレイのみを、さらなる分析に使用した。
【0037】
サンプルの独自性
各アレイ(Sty又はNsp)上のサンプル当たりの得られた約250,000のSNPデータを、全ての他のサンプルの遺伝子型と比較して、潜在的な重複サンプルを同定した。遺伝子型の>90%が2つのアレイ間で同一であった場合、DNAを再試験して遺伝子型を確認し、必要に応じて重複サンプルを排除した。
【0038】
DNA汚染の欠如
別のサンプルによるあるサンプルのDNA汚染の欠如を、動的モデルベースのアルゴリズムによって計算されるように、ヘテロ接合体コールを有するSNPの全体的割合を決定することによって、各アレイについて評価した。<30%のヘテロ接合体コールを有するアレイからの遺伝子型コールを、純粋なDNAサンプルに由来しているとみなした。<30%のヘテロ接合体コールを有するアレイのみを、さらなる分析に使用した。
【0039】
性別決定
各DNAサンプルについて、性別を、X染色体上のSNPのヘテロ接合性の割合に基づいて、BRLMMアルゴリズムによって盲検的に決定した。結果を、予測された性別と比較した。不一致のデータの場合、アメロゲニン遺伝子(AMELX)についてのPCRベースのアッセイを、元のサンプル及び新たなDNAアリコートに対して実施した。新たな遺伝子型決定実験を、Styアレイ及びNspアレイを用いて実施した。不適合の結果を有するサンプルを、WGASから排除した。
【0040】
対立遺伝子頻度
10%以上のマイナー対立遺伝子頻度を有するSNPを選択することによって、最も一般的な多型に焦点を当てた。
【0041】
SNP選択
マイクロアレイセット(ジーンチップヒューマン500Kアレイ;Affymetrix)上のSNPについて利用可能な遺伝子型を有する参照DNA(ヒューマンゲノミックDNA 103コントロール(Human Genomic DNA 103 Control);Affymetrix)を、患者サンプルと平行して体系的に試験した。Styアレイ及びNspアレイについて8つのDNA 103複製を得て分析した。コール(AA、AB、BB)が8つの複製にわたって同一であり、且つAffymetrixが提供する参照コールと同一であった場合、個々のSNPアッセイを、正確で再現性のあるコール(一致コール)生じたとみなした。DNA 103について100%の一致を有するSNPのみを、WGASのために維持した。Y染色体とクロスハイブリダイズした5つのSNP及びX染色体上の全てのSNPは使用しなかった。このWGASにおいて分析したSNPの総数は、334,563であった。
【0042】
DNA配列決定
目的の各SNPについて、ホモ接合体遺伝子型及びヘテロ接合体遺伝子型のそれぞれについて少なくとも5つのサンプルを含む、最少15のDNAサンプルを配列決定した。以下のプライマーをPCR増幅(55℃のアニーリングを用いた、「遺伝子型決定法」に記載したとおりのもの)に使用し、その後配列決定した:
【0043】
rs11851892について5’−CAT GCA GCT ATG TTT GGG AG−3’(フォワード;配列番号1)及び5’−GCC AAA ATA ATG TGT AGC AAT C−3’(リバース;配列番号2);
rs9643483について5’−GAT TGG CTT TGG GTT TGC CTT G−3’(フォワード;配列番号3)及び5’−GAC CCC ATC TTT AGC GGA AC−3’(リバース;配列番号4);
rs875326について5’−GAA GGG TCT ACC TCG ATT CC−3’(フォワード;配列番号5)及び5’−GAT CAG CTT ATT CAA CCC TC−3’(リバース;配列番号6);
rs2513265について5’−CTA AAG GCG AAA CAT GTG TAT G−3’(フォワード;配列番号7)及び5’−CAT AGC AGC TGA CCA ACA TTC C−3’(リバース;配列番号8);
rs7837682について5’−CAA TCT GCT TTC ACC TCA ACC C−3’(フォワード;配列番号9)及び5’−CTG CCA CCC TAC TCA ACA CC−3’(リバース;配列番号10);並びに
rs4528226について5’−GAG CAG ATA AAT TTG CCT GG−3’(フォワード;配列番号11)及び5’−GTT GAA CCC AAA GAC ACC CCT G−3’(リバース;配列番号12)。
【0044】
配列決定を、25μLの反応について、製造業者の指示に従って試薬キット(アンプリタック(AmpliTaq)(登録商標)DNAポリメラーゼを含むジーンアンプ(GeneAmp)(登録商標)PCR試薬キット;Applied Biosystems)を用いて実施した。ヌクレオチド配列を、製造業者の指示に従って、自動キャピラリーDNAシーケンサー(アバント(Avant)3100;Applied Biosystems)及びサイクル配列決定キット(ビッグダイ(BigDye)(登録商標)ターミネーターバージョン3.1サイクル配列決定キット(BigDye Terminator version 3.1 Cycle Sequencing Kit);Applied Biosystems)を使用して決定した。
【0045】
結果
統合失調症の治療のためのイロペリドンの有効性を、PANSSを使用して評価した。ベースラインと28日目との間でのPANSS−Tにおける変化との遺伝的関連を、334,563のSNPについて試験した。このような多数のSNPを用いた関連研究において、最良の候補の選択は、極端なP値に基づく。これらは、使用した統計的方法の個々の項目に対して通常よりも高感度な場合がある。従って、イロペリドンの効力の最も可能性の高いマーカーを選択するために、いくつかの分析方法を使用し、異なる方法にわたって不変に低いP値を有するSNPに対して焦点を当てた。
【0046】
3つの分析を実施した。分析1は、DNAサンプルを2つの群に分けた2相アプローチであった。第1群は、発見相のための50%のサンプルからなり(PANSS−Tにおける変化(LOCFデータ)の上位30%及び下位30%のみを使用した)、第2群は、確認相のための残りの50%からなるホールドアウト群であった。発見相において最も低いP値を有する100のSNPのみを、引き続いて試験した。
【0047】
分析2は、単相アプローチにおける全てのイロペリドン治療患者のLOCFデータのANOVAであった。
【0048】
分析3は、各SNPの最も簡潔な遺伝子モデルを使用した、全ての患者のMMRM分析であった。2つの単相アプローチ(分析2及び分析3)は、全ての利用可能なサンプルを利用することによって、有意な関連を検出するためのさらなる力を提供した。
【0049】
LOCF及びMMRMの単相アプローチからの全体的な全ゲノム関連結果を図1に示す。最も低いP値を有する100のSNPのうち45は、これら2つの分析の間で共通していた。これらのSNPのうち6つはまた、2相分析の上位100のSNPの中に存在した。これら6つのSNP(rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682、rs4528226)及びイロペリドン応答とのそれらの関連に関するさらなる詳細を、表2に示す。異なる治療群からのデータを、MMRM統計モデルにおいて使用し、イロペリドン治療とプラセボとの間の遺伝子型効果の比較を可能にした。特に指定した場合を除いて、本明細書中で考察した結果は、PANSS−Tデータ及びMMRM分析から生成されたP値をいう。
【0050】
NPAS3及びイロペリドン応答
SNP rs11851892は、ニューロンPASドメインプロテイン3をコードするNPAS3遺伝子のイントロン3内の染色体14q12〜q13上に位置する。この遺伝子内の他の3つのSNPもまた、P<0.01のレベルで有意であった(図2aを参照のこと)。
【0051】
非GGのrs11851892遺伝子型(これは31%の頻度を有する)が、全てのイロペリドン治療患者の平均応答(−12.01[±1.03])よりも68%高い、PANSS−Tにおいてベースラインから平均>20ポイント(−20.12[±3.69])改善したイロペリドン治療患者群に存在した(表3を参照のこと)。非GG遺伝子型を保有する患者は、GG遺伝子型を保有する患者よりも、20%の改善が生じる可能性が約3倍高かった(オッズ比[OR]=2.74、P=0.0011;表4を参照のこと)。
【0052】
NPAS3遺伝子は、以前から統合失調症と関連するとされていた。Kamnasaranらは、染色体転座t(9;14)(q34;q13)の保有者であった統合失調症を有する母親及び娘を記載している。WGASにおいてPANSS−Tにおける変化と関連する2つのSNP(rs11851892、rs17583667)は、この家族において観察された切断点と同じ、NPAS3のイントロン3内に位置した(図2aを参照のこと)。
【0053】
XKR4及びイロペリドン応答
SNP rs9643483は8q12.1中に位置する。そのGG遺伝子型は、イロペリドン治療患者の約22%中に存在し、これらの患者は、異なる遺伝子型(それぞれ、−3.30[±3.93]対−15.02[±4.34])を有する患者及びプラセボを受けた患者よりも小さいPANSS−Tにおける変化を、平均して生じた(表3)。非GG遺伝子型を保有する患者は、GG遺伝子型を保有する患者よりも、20%の改善が生じる可能性が約3.5倍高かった(オッズ比[OR]=3.42、P=0.0009;表4)。
【0054】
SNP rs9643483は、XK−Kell血液型複合体サブユニット関連ファミリー、メンバー4(XKR4)遺伝子(約220kb離れている)と網膜色素変性症1(RP1)遺伝子(約250kb離れている)との間に存在する。その領域中の他のSNPには、P<0.01のレベルで有意なものは存在しなかった(図2b)。
【0055】
XKR4遺伝子は、XKタンパク質と関連するタンパク質をコードする。Kell及びXKは、Kell血液型複合体を形成する2つの別個の赤血球膜タンパク質である(図2b)。XKは、その基質が未知である推定膜トランスポーターであるが、このタンパク質の非存在は、McLeod症候群と関連する。この稀な遺伝性のX連鎖疾患は、赤血球の有棘赤血球増加症並びに遅発型の中枢神経系(CNS)及び神経筋の異常を特徴とする。CNSの症状には、認知障害、精神病理、癲癇及び舞踏病様の動きが含まれる。1つの報告が、McLeod症候群の症状として統合失調症に言及している。RP1遺伝子中の変異は、優性の網膜色素変性症を引き起こすと報告されている。この遺伝子がコードするタンパク質の具体的な役割はなお未知であるが、光受容体生物学において重要であると考えられている。精神病の特徴と網膜色素変性症との関連は、Usher症候群を有する患者において報告されているが、充分には理解されていない。XKR4又はRP1と統合失調症又は抗精神病薬治療に対する応答との間の関連についての報告は、公表されていない。
【0056】
TNR及びイロペリドン応答
目的の別のSNPは、それぞれテネイシン−Rタンパク質及びテネイシン−Nタンパク質をコードするTNR遺伝子(約2.5kb離れている)とTNN遺伝子(約170kb離れている)との間に位置する、1q25.1上のrs875326である。TNRとTNNとの間のゲノム領域は、なお機能が未知のKIAA0040座位も含む(図2c)。rs875326ホモ接合体遺伝子型は、イロペリドン治療に対する最も高い応答と関連し、ヘテロ接合体遺伝子型を有する患者についての−6.21(±4.51;P=0.000021)の平均変化と比較して、−16.39(±4.35)のPANSS−Tにおける平均変化を有した(表3)。rs875326についてホモ接合体のイロペリドン治療患者の63%より多くが、AG遺伝子型を保有する患者よりも、20%の改善が生じる可能性が約3.5倍高かった(OR=3.57、P<0.0001;表4)。
【0057】
テネイシン−Rは、主にCNSで発現される細胞外マトリックスタンパク質であり、脊髄、小脳、海馬及び嗅球中の運動神経の周囲及び運動軸索上に局在する。テネイシン−Rは、ヒトにおける少なくとも3つの他の遺伝子(1q上のTNN、9q33上のTNC及び6p21.3上のTNXB)を含む、テネイシン遺伝子ファミリーのメンバーである。TNXB欠損は、重篤な結合組織障害であるEhlers−Danlos症候群の、臨床的に異なる常染色体劣性形態を導く。TNXB遺伝子中の2つのSNPは、イギリス人集団において統合失調症と関連している。今日まで、統合失調症又は抗精神病薬治療に対する応答においてTNR又はTNNが関与するという直接的な証拠はない。
【0058】
GRIA4及びイロペリドン応答
SNP rs2513265は、グルタミン酸受容体,イオンチャネル型,AMPA4(GRIA4)遺伝子の5’末端から約58kbの、染色体11q22上に位置する(図2d)。rs2513265のTT遺伝子型は、異なる遺伝子型を有する患者のものよりも低く(それぞれ、−330[±4.11]対−15.22[±4.26])、プラセボを受けた患者のものと匹敵するPANSS−T変化を平均して生じたイロペリドン治療患者の約23%中に存在した(表3)。非TT遺伝子型を保有する患者は、TT遺伝子型を保有する患者よりも、20%の改善が生じる可能性が約2.5倍高かった(オッズ比[OR]=2.43、P=0.011;表4)。約8kbの間隔内に位置する2つの他のSNP、rs7930372及びrs4142579もまた、P<0.01で有意であった(図2d)。興味深いことに、GRIA4遺伝子のいくつかのハプロタイプは、日本人集団において統合失調症との正の関連を示した。
【0059】
GFRA2及びイロペリドン応答
SNP rs7837682は、SCZD6と呼ばれる統合失調症感受性の座位がいくつかの正の遺伝的関連研究によってマッピングされている、8p21領域中に位置する。rs7837682のAA遺伝子型は、イロペリドン治療に対する最も高い応答と関連し、異なる遺伝子型を有する患者についての−6.08(±4.28;P=0.00018)の平均変化と比較して、−15.95(±4.23)のPANSS−Tにおける平均変化を有した(表3)。rs7837682についてホモ接合体AAであるイロペリドン治療患者の58%より多くが、異なる遺伝子型を保有する患者よりも、20%の改善が生じる可能性が約3倍高かった(OR=2.95;P=0.0004、表4)。
【0060】
rs7837682から最も近い既知の遺伝子は、約360kb離れて位置する、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)受容体α2(GFRA2)である。この遺伝子の下流の6つの他のSNPも、P<0.01のレベルで有意であり、約15kb内に4つのSNPが含まれた(図2e)。GFRA2は、GDNF受容体β(GDNFR−β)をコードする。GDNFは、ニューロンの生存及び分化の制御において重要な役割を果たす。イタリア人集団における研究からの結果は、3’UTR GDNF反復の多型が統合失調症と関連することを示唆している。
【0061】
NUDT9P1及びイロペリドン応答
SNP s4528226は、Bonferroni法又はFDR法のいずれかを使用した複数の試験についての補正後に、P<0.05のレベルで、2相アプローチ分析において統計的に有意な関連を示した唯一のSNPであった(表2)。このSNPはまた、LOCF法又はMMRM法のいずれかを用いて、イロペリドン治療群由来の全てのサンプルを使用した場合に、最も統計的に有意な関連を示した(表2)。rs4528226のGT遺伝子型は、イロペリドン治療に対する最も高い応答と関連し、異なる遺伝子型を有する患者についての−6.61(±4.29;P=0.00000078)の平均変化と比較して、−18.73(±3.99)のPANSS−Tにおける平均変化を有した(表3)。rs4528226についてヘテロ接合体のイロペリドン治療患者の47%より多くが、ホモ接合体患者よりも、20%の改善が生じる可能性が3倍高かった(OR=3.00、P=0.0001;表4)。
【0062】
SNP rs4528226は、アンキリン反復ドメイン(ANKRD1)遺伝子とポリコーム群リングフィンガー5(PCGF5)遺伝子との間の、NUDT9P1偽遺伝子に近い染色体10q23.31上に位置し、セロトニン受容体7(HTR7)遺伝子から約200kb離れている(図2f)。同じ染色体領域中の他のSNPはいずれも、3.5kb及び6.3kb離れて位置する最も近い隣接SNPを含めて、P<0.01のレベルで統計的に有意な関連を示さなかった。HTR7遺伝子(これは、可能性のある統合失調症感受性因子と考えられている)は、日本人集団において統合失調症と関連している。統合失調症又は抗精神病薬治療に対する応答と、NUDT9P1、ANKRD1又はPCGF5との間には、関連性は報告されていない。
【0063】
性別及び人種の分析
SNP対立遺伝子頻度は人種間で変動し得、組換え率は性別に依存する。従って、これらの潜在的な交絡要因のアドホック分析を実施した。本明細書中で報告される全てのSNPについて、より高い又はより低い応答と特定の遺伝子型との関連は、男性と女性との間で、及び人種にわたって一貫しており、このことは、観察された有意な関連が、研究した患者集団の不均一性から生じるバイアスに起因しないことを示している。
【0064】
選択されたSNPのオッズ比、感度、特異度及び予測値
イロペリドンに対する応答を予測する際のマーカーの潜在的な臨床的価値をよりよく理解するために、各選択されたマーカーのオッズ比(OR)及び感度、特異度、並びに予測値を計算した(表4)。SNP rs11851892(NPAS3)は、優れたイロペリドン応答を有する患者の31%を差別化し、最も高い特異度(79%)及び最も強い陽性予測値(65%)を有した。PANSS−Tにおける最も低い変化を有するイロペリドン治療患者の小さい群(<23%)を差別化した2つのSNP、rs9643483(XKR4)及びrs2513265(GRIA4)は、最も高い感度(それぞれ、88%及び85%)を有した。他のSNPは中間の値を有した。
【0065】
遺伝子型コールの検証
マイクロアレイセットにより生成された遺伝子型コールもまた、イロペリドン治療患者のDNAサンプルのランダムサブセットに対して配列決定することによって決定した。100%の確度が、rs11851892(NPAS3)、rs9643483(XKR4)、rs875326(TNR)、rs2513265(GRIA4)及びrs4528226(NUDT9P1)について観察され、95%の確度(37のうち35)がrs7837682(GRFA2)について観察された。rs7837682について検出された2つの誤ったコールは、このSNP(AA対非AA)の分析に影響を与えない同じ遺伝子型クラス(非AA)内の遺伝子型の変化(AG対GG)に関係した。
【0066】
NPAS3遺伝子内のSNP rs11851892は、PANSS−Tにおけるより高い改善を生じたイロペリドン治療患者の31%の群を同定した。2つの独立した連鎖研究により、統合失調症についての感受性の座位が、染色体14q13中に存在することが示唆されている。14q13.1上に位置するNPAS3遺伝子は、この病気を有する母親及び娘が、イントロン3中に切断点を有する、t(9;14)(q34;q13)転座の保有者である家族において、統合失調症と既に関連するとされていた。上記研究においてPANSS−Tにおける変化と有意に関連するNPAS3 SNPのうち、2つはイントロン3中に存在し、これには、その領域について最も有意な関連(ANOVA LOCFについてP=0.000028;MMRMについてP=0.000093)を有したrs11851892が含まれる。NPAS3タンパク質は、塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス領域と、その後に続くピリオド/アリール炭化水素受容体/シングルマインディド(single−minded)(PAS)ドメインとを含む、転写因子のファミリーに属する。Kamnasaranらは、海馬、視床及び皮質を含む複数の成体脳組織においてNPAS3タンパク質が発現されることを示している。彼らは、NPAS3のハプロ不全が、イントロン3の切断点を有する家族における統合失調症において役割を果たしていることを提唱した。統合失調症におけるNPAS3の潜在的な役割を支持するさらなる証拠が、マウスの最近の研究から得られている。Pieperらは、NPAS3欠損マウスが、統合失調症を暗示する挙動異常及び神経解剖学的異常を現すことを示した。Erbel−Sielerらは、NPAS3ホモ接合体の成体マウスが、皮質、歯状回及び扁桃体におけるリーリンの顕著な減少を有することを実証した。リーリンは、脳の発生の間の細胞の位置決定及び神経細胞移動に重要な細胞−細胞相互作用を制御すると考えられる細胞外マトリックスタンパク質である。1つの遺伝学的研究において、リーリンは治療抵抗性の統合失調症と関連することが示唆されており、リーリン及びそのmRNAのレベルが、未分化型又は妄想型の統合失調症を有する患者のいくつかの脳領域において顕著に減少することが示されている。上記研究の結果は、NPAS3と抗精神病薬治療の効力との間の可能性のある関連の最初の証拠を提供している。
【0067】
イロペリドン治療患者におけるPANSS−Tにおける変化と関連する他のSNPのうち、GRIA4遺伝子の上流のSNPを含むいくつかのSNPが特に興味深かった。GRIA4は、速いシナプス興奮性神経伝達を媒介するL−グルタミン酸依存性イオンチャネルのメンバーである。この型の受容体は、シナプスにおいてグルタミン酸放出を阻害することによって、脳におけるグルタミン酸作動性の伝達を調節すると考えられている。特定のAMPA4グルタミン酸受容体は大規模に研究されていないが、GRIA4ハプロタイプと統合失調症との間の関連が、日本人集団において報告されている。この知見は、中国人集団においては見られておらず、他の集団での研究は報告されていない。精神異常発現性剤のフェンサイクリジン(PCP)及びケタミンが、NMDA型グルタミン酸受容体における神経伝達を遮断することによって、統合失調症のものと類似の精神病性症状及び認知神経科学的障害を誘導するという観察に基づいて、統合失調症におけるグルタミン酸の潜在的な役割が、初めて提唱された。それ以来、統合失調症におけるグルタミン酸調節不全の証拠はますます増加している。
【0068】
さらに、イロペリドン効力と関連するいくつかのSNPが、8p21.3上に位置するGFRA2遺伝子の上流に見出された。異なる集団における多数の研究により、統合失調症と染色体8p、特に8p21領域中との間の遺伝的関連が示されている。この統合失調症感受性の座位は、SCZD6と呼ばれる。この領域中の候補遺伝子には、ニューレグリン1(NRG1)、アドレナリン作動性α−1A受容体(ADRA1A)及びフリッツルドホモログ3(FZD3)が含まれる。上記研究の知見は、統合失調症及び抗精神病薬治療において役割を果たし得るこの領域中の遺伝子のリストに、GFRA2が加わることを示唆している。GFRA2タンパク質は、GDNF及びニュールツリンに対する細胞表面受容体である。いくつかの研究が、GDNFを統合失調症と関連付けている。PCPがラットに注射されて統合失調症様の症状を生じさせた動物実験において、Sembaらは、PCPが、ドパミン細胞体が位置する腹側中脳においてGDNFの機能を変化させることを示した。上記結果は、統合失調症の病因及び抗精神病薬治療に対する応答における、GDNF、ニュールツリン及びGRFA2の相互作用を調査する新たな研究を開始すべきであることを示唆している。
【0069】
上記研究で同定されたいくつかのSNPは、時折いずれの既知の遺伝子からも遠く離れた、遺伝子間領域中に存在する。1つのこのようなSNPはrs4528226であり、これは、全ての分析において、PANSS−Tにおける変化と、最も統計的に有意な関連を示した(表2、図1及び図2f)。このSNPは、HTR7遺伝子の約200kb上流に位置する。興味深いことに、イロペリドンは、5−HT受容体に対する高い親和性を有することが示されている。遺伝子間DNA中に位置するSNPの生物学的な関連性は、現在評価が困難である。ほとんどの遺伝学的研究が、遺伝子のコード配列及び近傍のプロモーター領域に対して歴史的に焦点を当ててきたが、比較ゲノム学研究は、イントロン中、及び時折それらが調節する遺伝子から数百キロベース又は数千キロベース離れた遺伝子が乏しい「砂漠」領域中に位置し得る他の機能的ゲノムエレメントを発見している。上記研究で試験した遺伝子間SNPは、未だ同定されていない、調節エレメント、応答エレメント、転位性エレメント、非コードRNA、コード配列又はスプライス部位内に存在する可能性がある。或いは、それらは、これらのエレメント又は配列と、連鎖不均衡であってもよい。これまでに、長距離のHTR7のシス調節エレメントは同定されていない。上記結果は、rs4528226のゲノム領域を、このようなエレメントの存在について徹底的に試験すべきであることを示唆している。
【0070】
WGASの結果は、イロペリドン又はイロペリドン代謝産物での治療に対する個体の応答を予測するだけでなく、このような治療をより効果的なものにする可能性を提供する。例えば、上記1つ又は複数のSNP座位における個体の遺伝子型に基づいてイロペリドン又はイロペリドン代謝産物での治療に充分に応答すると予測された個体に、他の場合で投与される投薬量よりも低い投薬量(例えば、約2mg/日〜約24mg/日、約5mg/日〜約20mg/日、又は約10mg/日〜約15mg/日)を投与でき、それにより、このような治療の任意の有害な副作用の可能性が最小化される。同様に、イロペリドン若しくはイロペリドン代謝産物での治療に充分に応答しないと予測された個体に、より高い投薬量(例えば、約24mg/日〜約50mg/日、約30mg/日〜約50mg/日、又は約40mg/日〜約50mg/日)を投与することもでき、又は、イロペリドン若しくはイロペリドン代謝産物の代わりに又はそれに加えて、別の化合物で個体を治療することもできる。
【0071】
或いは、投薬量は、特定のSNP座位における患者の遺伝子型に基づいてもよい。例えば、一実施形態において、本発明は、精神病性障害、統合失調症又は双極性障害の1つ又は複数の症状について患者を治療する方法を提供し、この方法は、rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される1つの一塩基多型(SNP)座位の両方のコピーにおいて、患者の遺伝子型を決定するステップと、患者が選択されたSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、患者のs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682、又はrs4528226の遺伝子型に基づいて、有効量の非定型抗精神病薬を患者に投与するステップとを含む。
【0072】
1つ又は複数の上記SNP座位における個体の遺伝子型は、任意の多数の方法によって決定することができる。例えば、遺伝子型(複数可)は、上記のように、DNA配列を直接分析することによって決定することができる。或いは、遺伝子型(複数可)は、当業者が認識するように、RNA転写物(例えば、mRNA)又は遺伝子発現産物(例えば、タンパク質)を分析することによって決定することができる。遺伝子型決定は、好ましくはex vivoで実施される。
【0073】
本発明のさらなる態様は、精神病性障害又は双極性障害を有する患者に対する治療戦略を決定するためのキットである。このようなキットは、例えば、非定型抗精神病薬(例えば、イロペリドン)での治療に対する患者の応答を予測すること、及びこのような予後に基づいて、より低い又はより高い用量の非定型抗精神病薬で患者を治療すること、他の治療(例えば、定型抗精神病薬)と併用して非定型抗精神病薬で患者を治療すること、又は全体として異なる治療を選択すること、において有用である。
【0074】
本発明のキットは、特に本明細書中に記載される遺伝子座中に存在する対立遺伝子を同定するための、物理的要素(例えば、プローブ)(限定ではなく、特異的プライマー、標識化核酸プローブ、抗体、タンパク質捕捉剤(複数可)、試薬(複数可)、指示シート(複数可)及び本発明の実施に有用な他の要素が含まれる)の組合せである。
【0075】
本発明のキットは、本明細書中の別の箇所に記載したような、関連性のある遺伝子座の少なくとも1つにおける患者の遺伝子型を検出するために限定された少なくとも1つの試薬を備えてもよい。検出は、例えばヒトの染色体DNAの関連する部分を直接配列決定することによって直接的であり得、又は、例えばメッセンジャーRNA転写物を配列決定すること若しくは遺伝子発現産物(即ち、ポリペプチド)を配列決定することによって間接的であり得る。従って、試薬は例えば、ポリヌクレオチド、又はポリヌクレオチドのアレイ、又は抗体若しくは抗体のパネルであってもよい。
【0076】
このキットはまた、1つ又は複数の遺伝子特異的遺伝子型決定プライマー組成物を備えてもよい。このプライマー組成物は、少なくとも1つの遺伝子特異的遺伝子型決定ポリヌクレオチドを含むことができる。この組成物は、対立遺伝子特異的プライマー対の2つ以上のセットを含むことができる。2つの対立遺伝子特異的遺伝子型決定オリゴヌクレオチドは、別個の容器中に包装してもよい。いくつかの実施形態において、変性プライマーセットが、増幅のために提供される。
【0077】
別の実施形態において、このキットは任意選択で、遺伝子発現産物を検出及び識別するための等電点電気泳動法のための指示書を備えてもよい。
【0078】
抗体ベースのキットは、例えば、所与の対立遺伝子の遺伝子発現産物に特異的な、固体支持体に結合された抗体と、遺伝子発現産物に結合し、検出可能な基にコンジュゲートした第二の抗体とを備えることができる。
【0079】
このキットはまた、緩衝剤、ハイブリダイゼーション緩衝液及びタンパク質安定化剤又は核酸安定化剤(例えば、多糖類など)などの試薬も備え得る。例えばPCRによるDNA又はRNAの増幅を必要とするアッセイを実施する場合、このキットは、ポリメラーゼ又は反応緩衝液も備え得る。このキットは、任意の適切な様式で包装してもよく、典型的には、試験を実施するため又は結果を解釈するための印刷された指示シートと共に、単一の容器中に全ての要素を備える。
【0080】
本発明の種々の態様の上記説明は、例示及び説明の目的で提示されている。上記説明は、網羅的であることも、本発明を開示された正確な形態に限定することも意図せず、明らかに、多数の改変及び変形が可能である。当業者に明らかであり得るこのような改変及び変形が、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
(関連出願の相互参照)
本出願は、同時係属中の2007年9月10日に出願された米国特許仮出願第60/971,227号明細書及び2008年1月2日に出願された米国特許仮出願第61/018,548号明細書の利益を主張し、これらはそれぞれ、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0086】
(配列表)
4KBを占める、2008年9月10日に作成した表題「VAND−0056−PCT_Seq_IDs.txt」の電子ファイル中に含まれる配列表は、本明細書中に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における少なくとも1つの精神病性症状の治療における非定型抗精神病薬の使用の効力を予測する方法であって、
rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位における個体の遺伝子型を決定するステップと、
少なくとも1つのSNP座位における個体の遺伝子型がより高いイロペリドン効力と関連する場合に、非定型抗精神病薬による個体の治療が有効であろうと予測するステップと
を含む方法。
【請求項2】
より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型が、rs11851892における非GG、rs9643483における非GG、rs875326における非AG、rs2513265における非TT、rs7837682におけるAA及びrs4528226におけるGTからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非定型抗精神病薬が、イロペリドン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、シプラシドン、アリピプラゾール、パリペリドン、アセナピン、セルチンドール、ゾテピン、アミスルプリド、ビフェプルノックス、メルペロン、それらの医薬的に許容可能な塩、それらの代謝産物及びそれらの代謝産物の医薬的に許容可能な塩からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
非定型抗精神病薬が、イロペリドン、イロペリドン代謝産物、イロペリドンの医薬的に許容可能な塩及びイロペリドン代謝産物の医薬的に許容可能な塩からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
イロペリドン代謝産物が、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシフェニル]エタノン、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]−2−ヒドロキシエタノン、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシ−α−メチルベンゼンメタノール、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシル−2−ヒドロキシ−5−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2−ヒドロキシ−5−メトキシフェニル]エタノン及び1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2,5−ジヒドロキシフェニル]エタノンからなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
非定型抗精神病薬が、イロペリドン及び4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノールからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
減少用量の抗精神病薬での個体の治療が有効であろうと予測するステップをさらに含み、減少用量は、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有さない個体を治療するのに使用される用量よりも低い用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
減少用量が約2mg/日〜約24mg/日である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
減少用量が約5mg/日〜約20mg/日である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
減少用量が約10mg/日〜約15mg/日である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのSNP座位における個体の遺伝子型がより高いイロペリドン効力と関連しない場合に、増加用量の抗精神病薬での個体の治療が有効であろうと予測するステップをさらに含み、増加用量は、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する個体を治療するのに使用される用量よりも高い用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
増加用量が約24mg/日〜約50mg/日である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
増加用量が約30mg/日〜約50mg/日である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
増加用量が約40mg/日〜約50mg/日である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
精神病性障害、統合失調症又は双極性障害の1つ又は複数の症状について患者を治療する方法であって、
rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つの一塩基多型(SNP)座位の両方のコピーにおいて、患者の遺伝子型を決定するステップと、
患者が少なくとも1つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、有効量の非定型抗精神病薬を患者に投与するステップと
を含む方法。
【請求項16】
より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型が、rs11851892における非GG、rs9643483における非GG、rs875326における非AG、rs2513265における非TT、rs7837682におけるAA及びrs4528226におけるGTからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
非定型抗精神病薬が、イロペリドン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、シプラシドン、アリピプラゾール、パリペリドン、アセナピン、セルチンドール、ゾテピン、アミスルプリド、ビフェプルノックス、メルペロン、それらの医薬的に許容可能な塩、それらの代謝産物及びそれらの代謝産物の医薬的に許容可能な塩からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
非定型抗精神病薬が、イロペリドン、イロペリドン代謝産物、イロペリドンの医薬的に許容可能な塩及びイロペリドン代謝産物の医薬的に許容可能な塩からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
イロペリドン代謝産物が、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシフェニル]エタノン、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]−2−ヒドロキシエタノン、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシ−α−メチルベンゼンメタノール、4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシル−2−ヒドロキシ−5−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2−ヒドロキシ−5−メトキシフェニル]エタノン及び1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2,5−ジヒドロキシフェニル]エタノンからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
非定型抗精神病薬が、イロペリドン及び4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノールからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
有効量が、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有さない個体に投与される用量よりも低い用量である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
有効量が約2mg/日〜約24mg/日である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
有効量が約5mg/日〜約20mg/日である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
有効量が約5mg/日〜約15mg/日である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
患者が少なくとも1つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有さない場合に、有効量の非定型抗精神病薬を患者に投与するステップをさらに含み、有効量が、イロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する患者に投与される用量よりも高い量である、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
有効量が約24mg/日〜約50mg/日である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
有効量が約30mg/日〜約50mg/日である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
有効量が約40mg/日〜約50mg/日である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
患者が、少なくとも2つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、患者を非定型抗精神病薬で治療する、請求項15に記載の方法。
【請求項30】
患者が、少なくとも3つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、患者を非定型抗精神病薬で治療する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
患者が、少なくとも4つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、患者を非定型抗精神病薬で治療する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
患者が、少なくとも5つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、患者を非定型抗精神病薬で治療する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
患者が、6つのSNP座位においてイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、患者を非定型抗精神病薬で治療する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
患者が、5以下のSNP座位において増加したイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、有効量が、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を6つ有する個体に投与される用量よりも高い量である、請求項15に記載の方法。
【請求項35】
患者が、4以下のSNP座位において増加したイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、有効量が、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を5以上有する個体に投与される用量よりも高い量である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
患者が、3以下のSNP座位において増加したイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、有効量が、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を4以上有する個体に投与される用量よりも高い量である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
患者が、2以下のSNP座位において増加したイロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する場合に、有効量が、より高いイロペリドン効力と関連する遺伝子型を3以上有する個体に投与される用量よりも高い量である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
精神病性障害、統合失調症又は双極性障害を有する患者に対する治療戦略を決定する際に使用するためのキットであって、(a)請求項1で同定された遺伝子座を少なくとも1つ含むDNA配列のある部分を認識しそれに結合できるポリヌクレオチドと、(b)前記ポリヌクレオチド及び前記個体由来の染色体DNAのサンプルを入れるのに適した容器であって、ポリヌクレオチドが染色体DNAと接触し得る容器と、(c)前記ポリヌクレオチドと前記染色体DNA配列との組合せを検出し、それにより6つの座位のうち1つ又は複数において個体の遺伝子型が何であるかを確認するための手段とを備えるキット。
【請求項39】
請求項1で同定された1つ又は複数の座位における患者の遺伝子型の同定のためのキットであって、前記遺伝子座における患者の遺伝子の一方又は両方のコピーにおいて塩基対の正体を決定するための手段を備えるキット。
【請求項40】
rs11851892、rs9643483、rs875326、rs2513265、rs7837682及びrs4528226からなる群より選択される少なくとも1つのSNP座位において、イロペリドン効力と関連する遺伝子型を有する患者における、精神病性障害、統合失調症又は双極性障害の1つ又は複数の症状に罹患している患者の治療における使用のための、イロペリドン、イロペリドンの活性代謝産物、又はイロペリドン若しくはイロペリドンの活性代謝産物の塩。

【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図1】
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【図2a】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−538615(P2010−538615A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524242(P2010−524242)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/075845
【国際公開番号】WO2009/036056
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(507021702)ヴァンダ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】