説明

SP2混成軌道からなるシリコンオリゴマー

【課題】 導電性及び紫外線吸収能を有する新規なシリコンオリゴマーの提供。
【解決手段】 SP2混成軌道からなるSiを構成単位として含み、そして式(I):
−(Si)n−N< (I)
(式中、nは2以上の整数を示す)
で表される構造を分子中に含むシリコンオリゴマー並びにそれを含む導電性ポリマー及び紫外線吸収剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なSP2混成軌道からなるシリコンオリゴマーに関し、更に詳しくは、導電性で、かつその一部は可視光を透過し、紫外線を選択的に吸収する新規なSP2混成軌道からなるシリコンオリゴマーに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを含むオリゴマーとしてはシラアレンやシリレンなどが知られているが(非特許文献1参照)、これらは導電性を示さず、また紫外線吸収剤も有していない。一方、導電性ポリマーとしても特許文献1に、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンなどが開示されている。
【0003】
一方、紫外線はさまざまな変化を皮膚にもたらすことが知られている。皮膚科学的には作用波長を400〜320nmの長波長紫外線、320〜290nmの中波長紫外線及び290nm以下の短波長紫外線に分類し、それぞれ、UV−A,UV−B及びUV−Cと呼ばれている。通常、人間が暴露される紫外線の大部分は太陽光線であるが、地上に届く紫外線はUV−A及びUV−Bで、UV−Cはオゾン層において吸収されて地上には殆ど到達しない。地上まで到達する紫外線のなかで、UV−A及びUV−Bは、ある一定量以上の光量が皮膚に照射されると紅斑や水胞を形成し、またメラニンの形成が亢進され、色素沈着を生ずる等の変化をもたらす。従って、UV−A及びUV−Bから皮膚を保護することは、皮膚の老化促進を予防し、シミ、ソバカスの発生を防ぐ意味において極めて重要であり、かかる観点から、これまでに、種々のUV−A及びUV−B吸収剤が開発されてきた。既存のUV−A吸収剤としてはジベンゾイルメタン誘導体が知られている(例えば特許文献2参照)。一方、UV−B吸収剤としては、PABA誘導体、桂皮酸誘導体、サリチル酸誘導体、カンファー誘導体、ウロカニン酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体及び複素環誘導体(特許文献3参照)が知られている。これらのUV−A及びUV−B吸収剤は、化粧料、医薬部外品等の皮膚外用剤に配合され、利用されている。
【0004】
【非特許文献1】Chemical Reviews 2000,100,3639−3696
【特許文献1】特開平5−36999号公報
【特許文献2】特開平5−247063号公報
【特許文献3】特開2003−212711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、導電性を示し、またUV−A及び/又はUV−B領域の波長を選択的に吸収すると共に、可視光領域に実質的な吸収を有しないシリコンオリゴマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従えば、SP2混成軌道からなるSiを構成単位として含み、そして式(I):
−(Si)n−N< (I)
(式中、nは2以上の整数を示す)
で表される構造を分子中に含むシリコンオリゴマーが提供される。
【0007】
本発明に従えば、また、前記式(I)で表わされる構造を含む導電性ポリマーが提供される。
【0008】
本発明に従えば、更に、式(I)の構造においてn=2〜5の少なくとも一種のシリコンオリゴマーを含んでなる紫外線吸収剤及びそれを含む皮膚外用剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシリコンオリゴマーは、新規であり、そしてSiがSP2混成軌道にて結合していること、オリゴマー分子の一方又は両方の末端SiにNが結合しており、一つの末端Siに結合しているN原子の数が1個のみ即ち、Si−(NR22ではなく、Si−NR2であること(式中、Rは例えばH又はメチル、フェニルなどの炭化水素基を示す)により、導電性を示し、そしてオリゴマー分子中のSiの数が2〜5個の場合にはUV−A及び/又はUV−B波長領域を吸収し、UV−A及び/又はUV−B領域の波長を十分に吸収防御すると同時に、可視光領域に実質的に吸収を有さないので紫外線吸収剤及びそれを配合した皮膚外用剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
即ち、本発明者らは、SP2混成軌道からなるSiを構造単位として含むシリコン化合物の開発を進めている過程で、前記式(I)の構造を分子内に有するシリコンオリゴマーを見出し、しかもそのオリゴマーが導電性を有し、かつ式(I)のnが2〜5のオリゴマーは可視光を実質的に吸収することなく、UV−A及び/又はUV−B波長領域に適切な吸収能を有することを見出した。即ち、本発明のオリゴマーは導電性ポリマーとして有用であり、また一部は紫外線吸収剤としても極めて有用な物質である。
【0011】
本発明に係るシリコンオリゴマーは導電性を示し、必要に応じ一般的な添加剤を配合して、導電性フィルム、半導体、光学材料、燃料電池などの導電性ポリマーとして使用することができる。また本発明の式(I)のシリコンオリゴマーはn=2〜5の場合に、紫外線領域を選択的に吸収することができ、しかも400〜700nmの可視光領域では殆んど吸収を示さず、400nm以下の紫外線領域で顕著な吸収ピークを示している。このことは、従来の無機紫外線防御剤のようなバルク化合物(例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セレン)ではなし得ない効果であり、本発明のようなSP2混成軌道からなるSiを構成単位として含み、しかもオリゴマーの両末端Siの少なくとも一方にN原子を1個のみ有するシリコンオリゴマーであるからこそなし得た効果である。本発明のシリコンオリゴマーは、目的とする紫外線領域のみを吸収して、透明性と紫外線吸収性とを両立させることができるので、特に商品形態上、審美性、透明性が重要な化粧料、医薬部外品、その他の皮膚外用剤用の紫外線吸収剤として使用するのに好適である。
【0012】
本発明に従ったシリコンオリゴマーは前記式(I)の構造を分子中に有するものであり、式(I)において、nは2以上を示す。
【0013】
前記SP2混成軌道からなるSiを構成単位として含み、そして式(I)の構造を分子中に有するシリコンオリゴマーは、例えばかさ高い置換基を有するSiNR12(R1及びR2は、それぞれ独立に、例えば、2,4,6−t−ブチルフェニル基、1144−テトラキスフェニルブチル基、NN’ビストリメチルシリルエチレンジアミンなど)を、必要であれば反応助剤(例えば炭化カリウムなど)の存在下にて、THF中で還流することによって製造することができる。
【0014】
本発明の皮膚外用剤は、特にその適用分野を限定するものではなく、本発明に用いるシリコンオリゴマーの特性と目的に応じ、化粧料、頭髪用化粧料、医薬部外品等の分野で利用することができる。
【0015】
本発明の皮膚外用剤の剤型は任意であり、例えばパウダー状、クリーム状、ペースト状、スチック状、液状、スプレー状、ファンデーション等のいずれの剤型でもかまわず、また、乳化剤を用いてW/O型及びO/W型に乳化して使用しても良い。
【0016】
本発明に係る式(I)の構造において、nは2〜5のシリコンオリゴマーは、特にその適用分野を限定するものではなく、紫外線吸収剤が利用される各種製品に紫外線吸収有効量で利用することができる。特に、化粧料、医薬部外品等の皮膚外用剤に配合する場合の配合量は、その剤型によっても異なるが、所望の効果を得るためには、一般には皮膚外用剤重量の0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を示して本発明を更に詳しく説明するが、本発明をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
本発明に係る式(I)のシリコンオリゴマーの合成例及びその物理化学的性質並びに配合例を以下に説明する。
【0018】
実施例1
以下に本発明のシリコンオリゴマーSi4(NH22は以下のようにして合成する。
SiNH21g、炭化カリウム3gをTHF100ml中に加え、−40℃にて12時間攪拌すると、Si4(NH22が得られる。本物質の吸収スペクトルを図1に示す。
【0019】
実施例2
本発明のシリコンオリゴマーHSi6NH2は以下のようにして合成する。
実施例1にて得られるSi4(NH221gとSiCl45gをTHF100mlに加え24時間攪拌し、さらにLiH0.2gを加えるとHSi6NH2が得られる。本物質の吸収スペクトルを図2に示す。
【0020】
紫外線吸収能という観点から本物質を評価すると、図1(Si4)では紫外線領域に優れた吸収能を示すが、図2(Si6)では吸収が可視光領域にシフトする。従って紫外線吸収剤としては、式I中のnが2〜5であるのが好適である。
【0021】
次に本発明に係るシリコンオリゴマーの紫外線吸収剤としての配合実施例を示す。なお、図1に示した通りシリコンオリゴマーのUVスペクトルから、本発明の紫外線吸収剤は、特にUV−A(400〜320nm)及び/又はUV−B(320〜290nm)吸収能に優れ、紫外線吸収効果を有することがわかる。
【0022】
実施例3:紫外線吸収剤の配合例(油状タイプ)
配合成分 配合量(重量%)
(1)デカメチルシクロペンタシロキサン 48.0
(2)ジメチルポリシロキサン(10cs/25℃) 20.0
(3)メチルフェニルポリシロキサン(20cs/25℃) 20.0
(4)シリコーン樹脂 10.0
(5)シリコンオリゴマー(実施例1) 2.0
これらを混合し、十分に溶解した後、濾過して製品とする。
【0023】
比較例1
上記実施例3の配合例の処方中、成分(5)を除く以外は実施例3と同様にして皮膚外用剤を得る。
【0024】
以上のようにして得られた実施例3及び比較例1について紫外線防止効果の測定を行う。紫外線防止効果の測定は、特開昭62−112020号公報に記載の紫外線感受性組成物を用いて行う。実施例3の配合の色差は対応する比較例1の色差より小さく、紫外線防止効果が高くなっている。このようにして、本発明の紫外線吸収剤を配合することにより優れた紫外線防止効果が得られることが確認される。
【0025】
以下に皮膚外用剤の他の実施例(配合例)を示す。
実施例4:日焼け止め化粧料(油状タイプ)
配合成分 配合量(重量%)
(1)デカメチルシクロペンタシロキサン 48.0
(2)ジメチルポリシロキサン(10CS/25℃) 20.0
(3)メチルフェニルポリシロキサン(20CS/25℃) 20.0
(4)シリコーン樹脂 10.0
(5)シリコンオリゴマー(実施例1) 2.0
【0026】
(製法)成分(1)〜(5)を混合し、十分に溶解した後、濾過して製品とした。
【0027】
実施例5:日焼け止め化粧料(W/Oクリーム)
配合成分 配合量(重量%)
(1)オクタメチルシクロテトラシロキサン 28.0
(2)ジメチルポリシロキサン(100CS/25℃) 5.0
(3)ジメチルポリシロキサン(2,500,000CS/25℃) 3.0
(4)流動パラフィン 5.0
(5)シリコンオリゴマー(実施例1) 1.5
(6)ポリエーテル変性シリコーン(400CS/25℃)
(ポリオキシエチレン基含量 20重量%) 6.0
(7)精製水 43.1
(8)L−グルタミン酸ナトリウム 3.0
(9)1,3−ブチレングリコール 5.0
(10)防腐剤 0.2
(11)香料 0.2
【0028】
(製法)成分(1)〜(6)及び(11)を混合し、加熱溶解して70℃に保ち油相部とし、別に成分(7)〜(10)を加熱溶解して70℃に保ち水相部とした。この油相部に水相部を添加して乳化機により十分に乳化した。乳化後、撹拌しながら冷却し、35℃以下になったら容器に流し込み放冷して固めた。
【0029】
実施例6:日焼け止め化粧料(O/Wクリーム)
配合成分 配合量(重量%)
(1)デカメチルシクロペンタシロキサン 9.0
(2)流動パラフィン 3.0
(3)イソプロピルミリステート 2.0
(4)ワセリン 5.0
(5)セタノール 5.0
(6)ステアリン酸 3.0
(7)グリセリルモノイソステアレート 3.0
(8)シリコンオリゴマー(実施例1) 1.0
(9)防腐剤 0.2
(10)香料 0.2
(11)グリセリン 10.0
(12)プロピレングリコール 5.0
(13)ヒアルロン酸 0.01
(14)水酸化カリウム 0.2
(15)精製水 53.39
【0030】
(製法)成分(1)〜(10)を70℃で加熱攪拌して油相部とし、成分(11)〜(15)を70℃に加熱し完全溶解した後水相部とする。油相部を水相部に添加し乳化機にて乳化し、得られた乳化物を熱交換器にて30℃まで冷却し、容器に充填して製品を得る。
【0031】
実施例7:日焼け止めローション
配合成分 配合量(重量%)
(1)ジメチルポリシロキサン(5CS/25℃) 10.0
(2)メチルフェニルポリシロキサン(20CS/25℃) 7.0
(3)ステアリン酸 1.0
(4)シリコンオリゴマー(実施例1) 10.0
(5)防腐剤 0.2
(6)香料 0.2
(7)グリセリン 5.0
(8)モンモリロナイト 0.5
(9)水酸化カリウム 0.2
(10)精製水 65.9
【0032】
(製法)成分(1)〜(6)を70℃で加熱攪拌して油相部とし、成分(7)〜(10)を70℃に加熱溶解し水相部とした。次に油相部を水相部中に添加し、乳化機にて乳化し、得られた乳化物を熱交換器にて30℃まで冷却した後、充填し日焼け止めローションを得た。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る、SP2混成軌道からなるSiを構成単位として含み、そして式(I)の構成を含むシリコンオリゴマーは、導電性に優れているので導電性フィルム、半導体、光学材料、燃料電池などの導電性ポリマーとして有用であり、そして式(I)においてn=2〜5のシリコンオリゴマーは、UV−A及び/又はUV−B領域の波長を十分に吸収防御すると同時に、可視光領域に実質的な吸収を有さず、皮膚外用剤中に、紫外線吸収剤として、目的に応じた任意の量で配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の本発明に係るシリコンオリゴマーの吸収スペクトルを示す。
【図2】実施例2の本発明のシリコンオリゴマーの吸収スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SP2混成軌道からなるSiを構成単位として含み、そして式(I):
−(Si)n−N< (I)
(式中、nは2以上の整数を示す)
で表される構造を分子中に含むシリコンオリゴマー。
【請求項2】
請求項1に記載の式(I)の構造を含んでなる導電性ポリマー。
【請求項3】
請求項1に記載の式(I)においてnが2〜5の少なくとも一種のシリコンオリゴマーを含んでなる紫外線吸収剤。
【請求項4】
請求項3に記載の紫外線吸収剤を配合してなる皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−27917(P2006−27917A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204764(P2004−204764)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】