説明

SiOx膜を形成する方法及びSiOx膜形成装置

【課題】基板の透明性を制御でき、低温成膜が可能で、PET等の基板に適し、緻密性、基板との付着力に優れ、密着性が向上するSiOコーティング技術を提供すること
【解決手段】エンドホール型イオン源で発生したアルゴンプラズマと、このプラズマを発生させるに用いる電子の一部をヘキサメチルジシロキサンガス又はヘキサメチルシロキサンと酸素の混合ガスに作用させると同時に、イオン源から発生された低エネルギーアルゴンイオンを基板上に照射することを特徴とするSiO膜を形成する方法。上記において、電子をアルゴンガスに照射してアルゴンガスプラズマを生成させると共に、基板上に一部の電子を照射して帯電を防止することが好ましい。装置としては、少なくとも排気機構と、アルゴンガス導入機構と、ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構と、好ましくは酸素ガス導入機構と、エンドホール型イオン源と、基板のホルダーを具備する装置

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSiOx膜(但し、xは2以下の正の数である)を形成する方法及びSiOx膜形成装置に関する。さらに詳しくは、エンドホール型イオン源を用いたイオンビームアシスト法によるSiOx膜を形成する方法及びSiOx膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体素子は、ガラス基板からポリカーボネート(PC)やフレキシブル基板としてのポリエステル(PET)のような材料への転換が始まっている。しかし、これらの基板は酸素や水蒸気のようなガスの透過性があり、有機半導体素子の劣化特性の原因となっている。また、これ等の基板は、可視光領域における透明性の要求も満たす必要がある。このことから、一般にはAl、Si、SiON、SiO等の無機薄膜材料が検討されている。しかしながら、これらの無機材料単体によるガスバリア膜は、機械的強度、PET材料との界面特性の問題点が指摘されている。
【0003】
これらの問題点を改善する試みとして、PETや基板上へ高分子薄膜、無機材料薄膜をコーティングした多層構造が提案されており、特に、SiOコーティングが注目されている。これらの多層構造薄膜の製造には、PET、PC基板の基本特質から、低温成膜、緻密性、基板との密着性・付着力などが要求されている。
さらにフレキシブル基板は、有機半導体素子のみならず食料品、医薬品などへの用途も広く、ガスバリア特性の改善が望まれている。
【0004】
近年、プラスチック上へSiOコーティングする方法として、プラズマを利用した方法が提案されている(非特許文献1)。この方法はホローカソードプラズマ源を用い、プラズマ源と基板の間にガスシャワリングを設け、成膜用原料ガスを供給することでプラズマジェットのエネルギーで原料ガスが活性化し、基板に膜を堆積させる方法である。しかしながら、ホローカソードプラズマ源を用いる場合はエネルギーの制御が難しく得られる膜の性能がばらつくという問題点がある。
【非特許文献1】神戸製鋼技報 vol.52 NO.2(Sep.2002) P.27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低温成膜が可能でPET等の有機基板に適したSiOコーティング技術を提供することである。本発明の他の目的は、緻密性、基板との付着力に優れ、密着性が向上するSiOコーティング技術を提供することである。本発明のさらに他の目的は、基板の透明性を制御可能なSiOコーティング技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、エンドホール型イオン源によるイオンビームアシスト法を用いることに想到し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、以下のとおりである。
1.エンドホール型イオン源で発生したアルゴンプラズマと、このプラズマを発生させるに用いる電子の一部をヘキサメチルジシロキサンガス又はヘキサメチルシロキサンと酸素の混合ガスに作用させると同時に、イオン源から発生された低エネルギーアルゴンイオンを基板上に照射することを特徴とするSiO膜を形成する方法(但し、xは2以下の正の数である)。
2.アルゴンイオンエネルギーが40〜200eVである前記1の方法。
3.電子をアルゴンガスに照射してアルゴンガスプラズマを生成させると共に、基板上に一部の電子を照射して帯電を防止することを特徴とする前記1又は2の方法。
4.基板がポリエステル又はエンジニアリングプラスチックである前記1、2又は3の方法。
5.基板上にSiO膜形成を行う装置であって、少なくとも排気機構と、アルゴンガス導入機構と、ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構と、エンドホール型イオン源と、基板のホルダーを具備し、該ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構はヘキサメチルジシロキサンガスがイオン源プラズマと基板ホルダーの間に導入されるように配置され、基板上にSiO膜が形成されるようにしてなる装置。
6.さらに酸素ガス導入機構を具備し、該酸素ガス導入機構は酸素ガスがイオン源プラズマと基板ホルダーの間に導入されるように配置してなる前記5の装置。
7.さらに電子を照射するためのニュートライザーを具備してなる前記5又は6の装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、緻密性、基板との付着力に優れ、密着性が向上したSiO膜が得られる。また、ヘキサメチルジシロキサン(以下、HMDSOと略す)ガスとOガスの比を制御することにより、膜の透明性を制御できる。プラズマによる成膜法に比較して真空度が高いので、ガス効率が優れている。また、制御された低エネルギーイオンビームを使用するので、膜の制御がしやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明のSiO膜形成を行う装置をモデル的に表した図である。
全体が真空チャンバーとなっており、図示されない排気機構と、アルゴンガス導入機構1と、ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構2と、好ましくは酸素導入機構3と、低エネルギーイオン源であるエンドホール型イオン源4と、好ましくはニュートライザー5と基板6のホルダー7を具備している。
【0009】
エンドホール型イオン源4は、大口径でグリッドレスであり、イオン源プラズマ発生部が開口しているイオン源で、通常、低エネルギーのイオンビーム発生に用いられる。アルゴンガスは、その導入機構1よりアルゴンガスがイオン源に導入され、プラズマの発生と同時にアルゴンイオンビームが引き出される。アルゴンイオンビームのエネルギーは40〜200eVが好ましく、さらに好ましく60〜200eVである。40eV未満では基板に対する膜の付着力が不十分であり、200eVを超えると基板がエッチングされる場合があり好ましくない。また、このような低エネルギーを採用することにより基板の温度上昇を100℃以下に抑えることができ、PETのような有機熱可塑性樹脂基板に成膜することが可能である。そして、低エネルギーにもかかわらず、基板に対する付着力が優れている。イオン源の動作条件は上記のエネルギーとなるように適宜設定すればよい。例えば、アノード電圧(V)100〜300eV、アノード電流(I)1〜5Aとする。エミッションは通常Iの10%程度である。アルゴンガスの導入速度は8〜12sccmである。
【0010】
動作真空度は好ましくは0.7〜3×10−4torrである。0.7×10−4torrより低いか3×10−4torrより高いと安定したイオン源プラズマが発生しない。CVDの場合は真空度は数Paであり、これに比較すると本発明において、はるかにガス効率が優れている。
【0011】
HMDSOガス及びOガスはそれぞれの導入機構2、3より真空チャンバー内のイオン源と基板の間に導入され、混合される。あるいは混合ガスを導入してもよい。OガスとHMDSOガスの比を変化させることにより膜中のC含有量を制御でき、その結果膜の透明性を制御することができる。O/HMDSOは体積比で3/5、好ましくは4/5以上で膜の透明性が向上する。O/HMDSOの上限は特に制限はないが、大きすぎると成膜できなくなる。エンドホール型イオン源の動作圧力は10−4torr以下が好ましい。導入されたガスはプラズマと電子により分解され基板6上にSiO膜となって堆積する。OガスとHMDSOガスの導入速度は成膜速度等を勘案し適宜定めることができる。例えば、HMDSOガス流量を3〜15sccmとすることができる。成膜速度は通常10〜50nm/minである。アノード電流、HMDSOガス流量を増加させることでさらに成膜速度の上昇を図ることができる。
【0012】
ニュートライザー5は電子源発生装置である。ここで発生した電子はイオン源プラズマの活性源として用いられると共に、HMDSOの分解解離および基板6に照射されて帯電を防止する作用を奏する。ニュートライザーとしては、例えばホローカソード式電子源を用いることができる。
基板6はホルダー7に支持される。基板としては好ましくはPET又はPCのようなエンジニアリング樹脂基板である。
【実施例】
【0013】
以下に、実施例で説明する。
実施例1
図1に示すような薄膜形成装置を用いた。イオン源としてエンドホール型イオン発生装置を使用し、イオンビームとしては、アルゴンを用いた。基板は200μmのPET、単結晶Si及び石英ガラスとした。各条件は下記のとおりである。
アノード V 100V、I 5A
エミッション電流 300mA
ソースガス Ar 8sccm
ホローカソード型電子源ガス Ar 5sccm
動作真空度 1×10−4torr
成膜速度 12nm/min
HMDSOガス 5sccm
ガス 4sccm
【0014】
得られた膜の赤外光吸収特性、紫外可視光分光特性およびX線光電子分光法(XPS)による特性を図2〜4に示す。図2は単結晶Si基板、図3は石英基板、図4は単結晶Si基板へ成膜後、評価したものである。図2の赤外線吸収特性において、1050cm-1のピークはSi‐Oストレッチングを示す。図3は石英基板上に堆積した膜の紫外可視分光特性を示す。図3より可視光領域において透明な薄膜が堆積していることがわかる。図4のXPS特性からは、堆積した膜の組成がシリコン(Si)と酸素(O)からなることがわかる。また、PET上に成膜したものも透明であった。
実施例2
【0015】
ガスの使用量を1〜6sccmに変化させた以外は、実施例1と同様にして、石英基板上にSiO膜を成膜し、UV特性を測定した。図5にその紫外可視分光特性を、図6に酸素流量に対する600nmの透明度を表す。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のSiOx膜は有機半導体素子用のガスバリア膜として有用であり、また食料品、医薬品などへの用途、例えばパッキング用フィルム材料としても期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のSiO膜形成を行う装置をモデル的に表した図である。
【図2】実施例1で得られた膜の赤外光吸収特性図である。
【図3】実施例1で得られた膜の紫外可視光分光特性図である。
【図4】実施例1で得られた膜のX線光電子分光法(XPS)図である。
【図5】実施例2で得られた膜の紫外可視光分光特性図である。
【図6】実施例2で得られた膜の酸素流量に対する600nmの透明度を表した図である。
【符号の説明】
【0018】
1 アルゴンガス導入機構
2 ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構
3 酸素導入機構
4 エンドホール型イオン源
5 ニュートライザー
6 基板
7 ホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドホール型イオン源で発生したアルゴンプラズマと、このプラズマを発生させるに用いる電子の一部をヘキサメチルジシロキサンガス又はヘキサメチルシロキサンと酸素の混合ガスに作用させると同時に、イオン源から発生された低エネルギーアルゴンイオンを基板上に照射することを特徴とするSiO膜を形成する方法(但し、xは2以下の正の数である)。
【請求項2】
アルゴンイオンエネルギーが40〜200eVである請求項1の方法。
【請求項3】
電子をアルゴンガスに照射してアルゴンガスプラズマを生成させると共に、基板上に一部の電子を照射して帯電を防止することを特徴とする請求項1又は2の方法。
【請求項4】
基板がポリエステル又はエンジニアリングプラスチックである請求項1、2又は3の方法。
【請求項5】
基板上にSiO膜形成を行う装置であって、少なくとも排気機構と、アルゴンガス導入機構と、ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構と、エンドホール型イオン源と、基板のホルダーを具備し、該ヘキサメチルジシロキサンガス導入機構はヘキサメチルジシロキサンガスがイオン源プラズマと基板ホルダーの間に導入されるように配置され、基板上にSiO膜が形成されるようにしてなる装置。
【請求項6】
さらに酸素ガス導入機構を具備し、該酸素ガス導入機構は酸素ガスがイオン源プラズマと基板ホルダーの間に導入されるように配置してなる請求項5の装置。
【請求項7】
さらに電子を照射するためのニュートライザーを具備してなる請求項5又は6の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120922(P2009−120922A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298831(P2007−298831)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000151553)株式会社ティーディーワイ (1)
【Fターム(参考)】