説明

Sn又はSn合金めっき被膜、及びそれを有する複合材料

【課題】Sn又はSn合金めっき皮膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSn又はSn合金めっき被膜及びそれを有する複合材料を提供する。
【解決手段】樹脂層又はフィルム4を積層した銅箔又は銅合金箔1の他の面に形成され、(200)面の配向割合が20〜40%であるSn又はSn合金めっき被膜2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド材料等に用いられ、樹脂等を積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成されるSn又はSn合金めっき被膜、及びそれを有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
Snめっき被膜は耐食性に優れ、かつ、はんだ付け性が良好で接触抵抗が低いと言う特徴を持っている。このため、例えば、車載用電磁波シールド材の複合材料として、銅等の金属箔にSnめっきされて使用されている。
上記の複合材料としては、銅箔又は銅合金箔の一方の面に樹脂層又はフィルムを積層し、他の面にSnめっき被膜を形成した構造が用いられている。
銅又は銅合金箔へのSnめっきは、通常は湿式めっきにより行われるが、めっき皮膜に外観上ムラが無く、美麗であること、つまり色調が均一で、色斑や模様がないことが求められるため、めっき液に添加剤を加えて光沢Snめっきを行うことが多い。そのため、Snめっき皮膜の表面粗さは小さい。
例えば、錫とニッケルとモリブデンとからなる合金めっきを行って反射率が1%〜15%の銅箔を製造し、この銅箔を用いて電磁波シールド体を得る技術が開示されている(特許文献1)。この技術において、合金めっき前の銅箔の表面粗さは、中心線平均粗さで0.1〜0.5μm(1.0×102〜5.0×102nm)の値を示す。
一方、Snめっきには,その内部応力や外部応力によって,ウィスカとよばれるひげ状結晶が発生する。これを防止するために,Snめっき被膜の(220)面と(321)面とを特定の割合で配向させる技術が開示されている。(特許文献2、3参照)
【0003】
【特許文献1】特開2003-201597号公報
【特許文献2】特開2006-249460号公報
【特許文献3】特開2009-24194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常の光沢Snめっきの場合、表面粗さRaが小さいため、銅箔ストリップに連続めっきした場合、めっき出側で接触するロールとの摩擦が小さくなってロールがスリップし、Snめっき表面がこすれてロールに転写、付着するという問題がある。
また、例えば、銅又は銅合金箔を基材とする複合材料を使用して車載用電磁波シールド材を製造するため、熱可塑性接着剤を連続ラインで塗布する工程においても同様な問題がある。この工程は40m〜100m/minと通箔速度が速く、めっき面に接触するロールへのSn付着が顕著に観察される。
いずれの場合も、ロールへのSn付着により、メンテナンスに時間を要するため、生産性を低下させる。更に、メンテナンスを怠った場合、ロール側に付着したSnによる表面キズ等の品質異常が発生する恐れがある。また、ロールへのSn付着により、Snめっき被膜が薄くなり、耐食性の低下を招く可能性もある。
【0005】
一方、銅箔は薄いため、強度が低い。そのため、シールド材として使用する場合、銅箔に樹脂またはフィルムを貼り付けて使用するのが一般的である。しかし、このような樹脂またはフィルムを貼り付けた銅箔でさえ、連続めっき時にストリップにかかる張力を高くすると折れやシワが発生する。そこで、この折れやシワを防止するため、低い張力で通箔することが必要になる。加えて、めっき工程や熱可塑性接着剤塗布工程等では、表面のキズを防止するため粗さの小さいロールを使用しており、ロールとSnめっき被膜との抵抗が小さい。そのため、ロールとの間でスリップを生じ易くなっている。従って、Snめっき被膜の表面粗さが小さいと、ますますスリップを助長する。
また、Snめっき被膜の表面粗さが小さいと、光沢剤の有機物がSn被膜に共析して、めっきが脆くなり、脱落し易くなることも考えられる。
【0006】
又、銅箔にSnめっきして得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に用いる場合、ケーブル外周にこの複合材料を巻き、更にその外側に樹脂を被覆する。そして、この被覆工程で、複合材料がダイス(金型)を通過する際、Snめっき被膜が脱落してダイスにSnカスとして付着する可能性があり、それを除去するためのメンテナンスに時間を要し、生産性を低下させる可能性がある。
【0007】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、めっき時や使用時のSn又はSn合金めっき被膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSn又はSn合金めっき被膜及びそれを有する複合材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは種々検討した結果、Snめっき被膜の結晶方位を制御すると表面粗さが大きくなり、Snめっき被膜の摺れや脱落を低減できることが判明した。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のSn又はSn合金めっき被膜は、樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、(200)面の配向割合が20〜40%である。
【0010】
前記Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面と(211)面の合計の配向割合が50〜65%であることが好ましい。
前記銅箔又は銅合金箔の(111)面の配向割合が20〜40%であることが好ましい。
【0011】
さらに、Sn又はSn合金めっき被膜の平均厚みが0.5〜2μmであることが好ましい。
Sn又はSn合金めっき被膜が連続めっきによって形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の複合材料は、銅箔又は銅合金箔と、前記銅箔又は銅合金箔の一方の面に積層された樹脂層又はフィルムと、前記銅箔又は銅合金箔の他の面に形成された前記Sn又はSn合金めっき被膜とからなる。
【0013】
複合材料の厚みが0.1mm以下であることが好ましく、電磁波シールドに用いられることが好ましい。
【0014】
なお、本発明において、Sn又はSn合金めっき被膜、及び銅箔又は銅合金箔の結晶方位の測定は、これら表面の薄膜X線回折により行うことができる。
又、Sn又はSn合金めっき被膜の厚みは、Sn又はSn合金めっき被膜の平均的なマクロな厚みであり、めっき被膜を電解して完全に溶解したときの電気量から求めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Sn又はSn合金めっき皮膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSn又はSn合金めっき皮膜及びそれを有する複合材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0017】
本発明の実施の形態に係る複合材料は、銅箔(又は銅合金箔)1と、銅箔(又は銅合金箔)1の一方の面に積層された樹脂層(又はフィルム)4と、銅箔(又は銅合金箔)1の他の面に形成されたSn又はSn合金めっき被膜2とからなる。
材料の軽薄化の観点から、複合材料の厚みは0.1mm以下であることが好ましい。
【0018】
銅箔としては、純度99.9%以上のタフピッチ銅、無酸素銅を用いることができ、又、銅合金箔としては要求される強度や導電性に応じて公知の銅合金を用いることができる。公知の銅合金としては、例えば、0.01〜0.3%の錫入り銅合金や0.01〜0.05%の銀入り銅合金が挙げられ、中でも、導電性に優れたものとしてCu-0.12%Sn、Cu-0.02%Agがよく用いられる。
銅箔(又は銅合金箔)の厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmのものを好適に用いることができる。
なお、銅箔(又は銅合金箔)としては、電解銅箔よりも高強度の圧延箔を用いることが好ましい。
又、銅箔(又は銅合金箔)の表面粗さは、Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さに影響を与えないよう、中心線平均粗さで0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下のものを用いることが好ましい。
【0019】
又、銅箔(又は銅合金箔)の表面の(111)面の配向割合が20〜40%であることが好ましい。このようにすると、銅箔(又は銅合金箔)の曲げ性が向上する。銅箔(又は銅合金箔)の (111)面の配向割合を20〜40%に管理する方法としては、冷間圧延における加工度と熱処理を加減し、冷間圧延後の焼鈍を150℃以上の温度で行うことが挙げられる。冷間圧延後の焼鈍を150℃未満とすると(111)面の配向割合が減少する。
銅箔(又は銅合金箔)の (111)面の配向割合が20%未満であると、曲げ性の向上が不十分となることがあり、(111)面の配向割合が40%を超えると、銅箔の強度が低下して通箔する際に折れやシワが発生しやすくなり、作業性を低下させることがある。なお、銅箔の方位の測定は、樹脂層側からであってもSnめっき面側からでもほぼ同じ配向強度が得られる。又、複合材料から銅箔の方位を測定する場合、樹脂層を溶剤等で除去し、樹脂層側の銅箔表面の方位を測定すればよい。
又、銅箔(又は銅合金箔)の表面の(111)面の配向割合が20〜40%であるものは、冷間圧延途中の中間焼鈍においても、(111)面の配向強度が高いことが確認された。
【0020】
樹脂層としては例えばポリイミド等の樹脂を用いることができ、フィルムとしては例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)のフィルムを用いることができる。樹脂層やフィルムは、接着剤により銅箔(又は銅合金箔)に接着されてもよいが、接着剤を用いずに溶融樹脂を銅箔(銅合金箔)上にキャスティングしたり、フィルムを銅箔(銅合金箔)に熱圧着させてもよい。
樹脂層やフィルムの厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmのものを好適に用いることができる。又、接着剤を用いた場合、接着層の厚みは例えば10μm以下とすることができる。
【0021】
Sn合金めっき被膜としては、例えばSn−Cu、Sn−Ag、Sn−Pb等を用いることができる。
【0022】
Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面の配向割合を20〜40%とする。このようにすると、Sn又はSn合金めっき被膜の粗度が高くなって接触部分の摩擦力を高くすることができると考えられる。このため、連続めっき時にロールとの間のスリップを低減することができる。又、得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に加工する際、Sn又はSn合金めっき被膜がロールとの間でスリップしてSn又はSn合金めっき被膜が脱落することが少なくなる。このため、ロールへのSn付着を防止でき、生産性を向上でき、得られた複合材料を加工した際、Sn又はSn合金めっき被膜の粉落ちが生じず、固着力が低下することがない。
Sn又はSn合金めっき被膜の配向割合が20%未満であると、被膜の粗度が高くならず接触部分の摩擦力を高くすることができない。その結果として、被膜とロールとの間のスリップを低減することが難しくなる。
一方、Sn又はSn合金めっき被膜の配向割合が40%を超えると、被膜の粗度が高くなって接触部分の摩擦力を高くすることができるものの、このような特性の被膜を得るためにめっき効率が低下したり、不均一な外観(粗大な析出等)となって耐食性が低下する。
【0023】
Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面の配向割合を20%以上とする方法としては、Sn又はSn合金めっき浴中に光沢剤(例えば、ホルマリン及びアルデヒド系、イミダゾル系、ベンザルアセトン等の市販されている薬品)を添加しないことにより制御できる。めっき浴中に光沢剤を添加しないと、電着粒が大きくなり、(200)面の方位が成長すると考えられる。
但し、EN(エトキシレーテッドナフトール)等のナフトール系の界面活性剤をSn又はSn合金めっき浴中に添加してもよい。また、ENSA(エトキシレーテッドナフトールスルフォニックアッシド)、ポリエチレングリコール、さらにはポリエチレングリコールノニルフェノールエーテル等のノニオン界面活性剤をSn又はSn合金めっき浴中に添加してもよい。また、界面活性剤の他、光沢効果の低いナフトール等の有機物を添加しても良い。
なお、本発明者らは、Snめっき条件を種々に変化させて実験を行ったが、(200)面の配向割合が40%を超えることは無かったため、(200)面の配向割合が40%を超えないように特に制御する必要はないと考えられる。
【0024】
より具体的な方法について以下に説明する。
Sn又はSn合金めっき浴の基剤としては、フェノールスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸等を挙げることができる。
電着粒の大きさは、めっき条件において、電流密度を低く、浴中のSn濃度を高く、浴温度を高くすることで調整できる。例えば電流密度8〜12A/dm、Sn濃度30〜60g/L、浴温30〜60℃とすることで、粒状の電着Sn(又はSn合金)を銅箔面に均一に電着させることができ、(200)面の配向割合を20%以上とすることができるが、装置によって異なるので特に限定されない。
【0025】
さらに、Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面と(211)面の合計の配向割合が50〜65%であることが好ましい。
Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面の配向割合を20〜40%とすることに加え、(200)面と(211)面の合計の配向割合を50〜65%とすると、Sn又はSn合金めっき被膜を被覆した複合材料の曲げ性が向上する傾向にある。 (111)面の配向割合が20〜40%である銅箔(又は銅合金箔)にSn又はSn合金めっきをすると、(200)面と(211)面の合計の配向割合を50〜65%となることが判明した。ここで、上記したように銅箔(又は銅合金箔)の (111)面の配向割合が20〜40%であると、銅箔(又は銅合金箔)の曲げ性が向上するため、Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面と(211)面の合計の配向割合が50〜65%となる複合材料の曲げ性も向上すると考えられる。
【0026】
上記したように、Sn又はSn合金めっき被膜の(200)面の配向割合を20〜40%とすると、Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaが0.7×102nm以上となる。ここで、Raは、JIS B0601 で定義されているRaを三次元に拡張して適用したものである。但し、JIS規格には、面の平均的な粗さを示す指標がないため、表面粗さ計で出力されるRaを三次元的な値として採用する。
Sn又はSn合金めっき被膜のRaが0.7×102nmとなると、Sn又はSn合金めっき被膜の粗度が高くなって接触部分の摩擦力を高くすることができると考えられる。このため、連続めっき時にロールとの間のスリップを低減することができる。又、得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に加工する際、Sn又はSn合金めっき被膜がロールとの間でスリップしてSn又はSn合金めっき被膜が脱落することが少なくなる。このため、ロールへのSn付着を防止でき、生産性を向上でき、得られた複合材料を加工した際、Sn又はSn合金めっき被膜の粉落ちが生じず、固着力が低下することがない。
Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaの上限は、Sn又はSn合金めっきの製造条件等によって変化するので特に制限されないが、Raが2.0×10nmを超えると、めっき効率が低下したり、不均一な外観(粗大な析出等)となって耐食性が低下する場合がある。
【0027】
又、本発明において、非接触式の表面粗さ計を使用してSn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaを測定することが好ましい。これは、Sn又はSn合金めっき被膜が柔らかいため、接触式の表面粗さ計を使用すると、Raを精度よく測定できず、結果として実際の表面粗さに関らず、測定された表面粗さの値が大きな値を示してしまう。従って、接触式の表面粗さ計で測定した場合には、連続めっき時にロールのスリップを低減するRaの閾値が明確とならない。
このようなことから、非接触式の表面粗さ計を使用してRaを測定する。非接触式の表面粗さ計としては、原子間力顕微鏡等のマイクロプローブ顕微鏡や、共焦点顕微鏡が例示される。原子間力顕微鏡としては、例えば、セイコーインスツル社製の型式 SPI-4000 ( E-Sweep )が挙げられる。
又、測定誤差を低減するため、表面粗さの測定の際、100×100μm程度の視野内で複数の位置のRaを測定して平均することが好ましい。
【0028】
Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが0.5〜2.0μmであることが好ましい。厚みが0.5μm未満であると耐食性、はんだ付け性が低下する場合がある。一方、厚み2μmを超えてSn又はSn合金めっきを厚くしても耐食性、はんだ付け性の更なる向上はみられず、逆に、コストアップや生産性を低下させる等の不具合もある。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
加工度85〜95%で銅99.9%以上のタフピッチ銅を冷間圧延し、冷間圧延後の焼鈍条件を表1に示すように変化させ、銅箔(厚み7.3μm)を得た。この銅箔の片面に、厚み12.5μmのPETフィルムを熱可塑性接着剤を使用して接着したものをストリップとした。このストリップを錫陽極と対向させ、連続めっきセル中で電気めっきした。めっき浴としてフェノールスルホン酸浴を用い、界面活性剤(EN)10g/Lと酸化錫を添加し、Sn濃度25〜37g/Lとした。めっき条件は、浴温35〜55℃とし、表1に示す電流密度及びめっき厚とした。これらを実施例1〜5とする。
【0030】
得られたSnめっき被膜の表面の(200)面及び(211)面の方位を、薄膜X線回折で測定した。X線装置の光学系には平板モノクロメータを用い、2θ=3〜5°の角度について、各ピークの強度を測定して面方位を求めた。又、各面方位の配向割合は、最も検出(ピーク)強度の高い面方位を100とし、(100)面のピーク強度に対する各面方位のピーク強度を割合で表し、全方位の割合の合計が100%になるようにした。
同様に、Snめっき前の銅箔表面の(111)面の方位を、薄膜X線回折で同様に測定した。(111)面方位の配向割合は、最も検出(ピーク)強度の高い面方位を(100)とし、(100)面のピーク強度に対する(111)面方位のピーク強度を割合で表し、全方位の割合の合計が100%になるようにした。
又、Snめっき被膜の表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(セイコーインスツル社製の型式 SPI-4000 E-Sweep )で測定した。なお、Raの測定範囲を100×100μm、測定モードDFMとした。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察した。4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかったものをSn付着無しと判定した。なお、Sn付着無しと判定したものは、粉落ちも無いものと判定した。
さらに、曲げ評価として、得られた複合材料の180度曲げ試験を行って曲げ部を目視し、曲げ部に割れが見られたものを評価×とし、曲げ部に割れが見られなかったものを評価○とした。なお、180度曲げ試験は、試験片(10mm×50mm)を長手方向に垂直な方向に手で二重折りした後、さらにハンドプレスで折り目を密着させ、試験片を開いて曲げ部を目視した。なお、めっき前の銅箔についても同様に曲げ評価を行い、曲げ部に割れを視認できたものを、表1の曲げ割れ「有り」とした。
【0031】
比較例1として、Snめっき時の電流密度を7A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
比較例2として、冷間圧延後の銅箔の焼鈍を行わなかったこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
比較例3として、Snめっき時の電流密度を13A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
比較例4として、冷間圧延後の銅箔の焼鈍を130℃の低温で行ったこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、Snめっき被膜表面の(200)面の配向割合が20〜40%である実施例1〜5の場合、ロールへのSnの付着がなく、粉落ちが生じなかった。又、実施例1〜5の試料は、(111)面の配向割合が20〜40%である銅箔を用いたため、銅箔及び複合材料の曲げ評価にも優れた。
一方、Snめっき時の電流密度を7A/dm2とした比較例1の場合、Snめっき被膜表面の(200)面の配向割合が20%未満となり、ロールへSnが付着し、粉落ちが生じた。これは、比較例1の試料のSnめっき被膜の表面粗さが実施例1〜5の試料に比べて小さいためと考えられる。
冷間圧延後の銅箔の焼鈍を行わなかった比較例2の場合、銅箔の(111)面の配向割合が20%未満となり、銅箔及び複合材料の曲げ評価が劣った。
Snめっき時の電流密度を13A/dm2とし、Snめっき浴に光沢剤(ホルマリン10mL/L、アミンアルデヒド0.5mL/L)を添加した比較例3の場合、Snめっき被膜表面の(200)面の配向割合が20%未満となり、ロールへSnが付着し、粉落ちが生じた。これは、比較例1の試料のSnめっき被膜の表面粗さが実施例1〜5の試料に比べて小さいためと考えられる。
冷間圧延後の銅箔の焼鈍を130℃の低温で行った比較例4の場合、銅箔の(111)面の配向割合が20%未満となり、銅箔及び複合材料の曲げ評価が劣った。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の複合材料の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 銅箔(又は銅合金箔)
2 Sn又はSn合金めっき被膜
4 樹脂層(又はフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、(200)面の配向割合が20〜40%であるSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項2】
樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、(200)面と(211)面の合計の配向割合が50〜65%である請求項1に記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項3】
前記銅箔又は銅合金箔の(111)面の配向割合が20〜40%である請求項1又は2に記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項4】
前記Sn又はSn合金めっき被膜の平均厚みが0.5〜2μmである請求項1〜3のいずれかに記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項5】
前記Sn又はSn合金めっき被膜が連続めっきによって形成されている請求項1〜4のいずれかに記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項6】
銅箔又は銅合金箔と、前記銅箔又は銅合金箔の一方の面に積層された樹脂層又はフィルムと、前記銅箔又は銅合金箔の他の面に形成された請求項1〜5のいずれかに記載のSn又はSn合金めっき被膜とからなる複合材料。
【請求項7】
厚みが0.1mm以下である請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
電磁波シールドに用いられる請求項6又は7に記載の複合材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−74458(P2011−74458A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227501(P2009−227501)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】