T1Rヘテロオリゴマー味覚受容体及び前記受容体を発現する細胞系並びに味覚化合物の特定のためのその使用
【課題】味覚受容体(T1R)と称する哺乳類Gタンパク質結合受容体ファミリーを提供する。
【解決手段】T1R1及びT1R3が同時発現することにより、グルタミン酸一ナトリウム塩を含むうま味刺激物質に応答する味覚受容体となる。また、T1R2及びT1R3受容体が同時発現することにより、天然及び人工甘味料を含む甘味刺激物質に応答する味覚受容体となる。うま味刺激及び甘味刺激にそれぞれ応答する化合物を特定するためのアッセイにおけるT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3を含むヘテロオリゴマー味覚受容体を使用することからなる。
【解決手段】T1R1及びT1R3が同時発現することにより、グルタミン酸一ナトリウム塩を含むうま味刺激物質に応答する味覚受容体となる。また、T1R2及びT1R3受容体が同時発現することにより、天然及び人工甘味料を含む甘味刺激物質に応答する味覚受容体となる。うま味刺激及び甘味刺激にそれぞれ応答する化合物を特定するためのアッセイにおけるT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3を含むヘテロオリゴマー味覚受容体を使用することからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、以下のすべてが参照により全部が本明細書に組み込まれる、2001年6月26日出願の米国仮出願第60/300,434号、2001年7月3日出願の米国実用出願第09/897,427号、2001年7月13日出願の米国仮出願第60/304,749号、2001年8月8日出願の米国仮出願第60/310,493号、2001年11月21日出願の米国仮出願第60/331,771号、2001年12月14日出願の米国仮出願第60/339,472号及び2002年1月3日出願の米国出願第10/035,045号、2002年4月15日出願の米国仮出願第60/372,090号及び2002年4月22日出願の米国仮出願第60/374,143号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、T1R受容体が集合して機能的味覚受容体を形成するという発見に一部関する。特に、T1R1及びT1R3が同時発現することにより、グルタミン酸一ナトリウム塩を含むうま味刺激物質に応答する味覚受容体となることが発見された。また、T1R2及びT1R3受容体が同時発現することにより、天然及び人工甘味料を含む甘味刺激物質に応答する味覚受容体となることが発見された。また、本発明は、うま味刺激及び甘味刺激にそれぞれ応答する化合物を特定するためのアッセイにおけるT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3を含むヘテロオリゴマー味覚受容体の使用に関する。
【0003】
さらに、本発明は、構成的又は誘導的条件下でT1R1及びT1R3あるいはT1R2及びT1R3の組合せを安定又は一時的に同時発現する細胞系の構築に関する。
【0004】
うま味及び甘味調節化合物を特定するための細胞を用いるアッセイ、特に、蛍光分析画像法を用いて受容体活性を検出する高処理能力スクリーニングアッセイにおけるこれらの細胞系の使用も提供する。
【背景技術】
【0005】
味覚系は、外界の化学組成物に関する感覚情報を提供する。哺乳類は、少なくとも5種の基本的味覚、すなわち、甘味、苦味、酸味、塩味及びうま味を有すると考えられている。例えば、Kawamura et al.、Introduction to Umami:A Basic Taste(1987年)、Kinnamon et al.、Ann.Rev.Physiol.、第54巻、715〜31頁(1992年)、Lindemann、Physiol.Rev.、第76巻、718〜66頁(1996年)、Stewart et al.、Am.J.Physiol.、第272巻、1〜26頁(1997年)を参照。各味覚は、舌の表面に認められる味覚受容体細胞中で発現する別個のタンパク質受容体又は複数の受容体により媒介されると考えられる(Lindemann、Physiol.Rev.、第76巻、718〜716頁(1996年))。苦味、甘味及びうま味を認識する味覚受容体は、Gタンパク質結合受容体(GPCR)スーパーファミリーに属している(Hoon et al.、Cell、第96巻、451頁(1999年)、Adler et al.、Cell、第100巻、693頁(2000年))。(他の種類の味覚は、イオンチャンネルにより媒介されると考えられている。)
【0006】
Gタンパク質結合受容体は、内分泌機能、外分泌機能、心拍数、脂肪分解及び炭水化物代謝のような他の多くの生理機能を媒介する。そのような多くの受容体の生化学的分析及び分子クローニングにより、これらの受容体の機能に関する多くの基本原理が明らかにされた。例えば、米国特許第5,691,188号は、GPCRへのリガンド結合時にこの受容体がGαサブユニットの表面上のGTPによる結合GDPの置換とその後のGβ及びGγサブユニットからのGαサブユニットの解離を促進することによりヘテロトリマーGタンパク質の活性化をもたらすコンホメーション変化をどのように受けるかを記述している。遊離のGαサブユニットとGβγ複合体は、様々なシグナル伝達経路の下流エレメントを活性化する。
【0007】
本発明は、味覚特異的GPCRsの3メンバーT1Rクラスに関する。以前にT1R受容体は味覚受容体として機能すると仮定され(Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜51頁(1999年)、Kitagawa et al.、Biochem Biophys Res.Commun、第283巻、236〜42頁(2001年)、Max et al.、Nat.Genet.第28巻、58〜63頁(2001年)、Montmayeur et al.、Nat.Neurosci.第4巻、412〜8頁(2001年)、Sainz et al.、J.Neurochem.第77巻、896〜903頁(2001年))、Nelson et al.(2001年)は最近、ラットT1R2及びT1R3がいっしょに作用して甘味刺激を認識することを示した。本発明は2件の発明に関する。第一に、ラットT1R2/T1R3の場合と同様に、ヒトT1R2及びT1R3がいっしょに作用して甘味刺激を認識する。第二に、ヒトT1R1及びT1R3がいっしょに作用してうま味刺激を認識する。したがって、T1R2/T1R3は甘味受容体として機能すると考えられ、T1R1/T1R3は哺乳類におけるうま味受容体として機能すると考えられる。T1R1とT1R3との機能の相互依存性及びT1R2とT1R3との機能の相互依存性の考えられる説明は、構造的に関連性のあるGABAB受容体(Jones et al.、Nature、第396巻、5316〜22頁(1998年)、Kaupmann et al.、Nature、第396巻、683〜7頁(1998年)、White et al.、Nature、第396巻、679〜82頁(1998年)、Kuner et al.、Science、第283巻、74〜77頁(1999年))と同様に、T1Rsはヘテロダイマー複合体として機能するということである。しかし、この機能の相互依存性は、最終的に機能的に独立したモノマー又はホモ多重結合受容体を生じさせる、必要であるが、一時的な相互作用を反映している可能性もある。
【0008】
甘味及びうま味受容体として機能する味覚受容体の同定とキャラクタリゼーションは、甘味及びうま味を調節する(増強又は阻害する)化合物を特定するためのアッセイにおけるこれらの受容体の使用を促進するので、重要である。これらの化合物は、ヒト又は動物消費用の食物、飲料、薬物の味及び美味性を改善するのに有用であると思われる。特に、機能的甘味受容体を用いるアッセイにより、新規の甘味料の発見がなされる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのために、味覚を媒介する、本明細書ではT1Rと称する哺乳類Gタンパク質結合受容体のファミリーを提供することが本発明の目的である。
【0010】
活性を保持する、例えば、甘味又はうま味刺激物質により活性化され、かつ/又は結合するそのようなT1Rsの断片又は変異体を提供することが本発明の他の目的である。
【0011】
そのようなT1Rs、その断片又は変異体をコードする核酸配列又は分子を提供することが本発明の他の目的である。
【0012】
正又は負の遺伝子転写及び/又は翻訳及び/又はタンパク質輸出に関与するプロモーター、エンハンサー又は他の配列のような少なくとも1つの調節配列と作動的に連結されているそのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体をコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供することが本発明の他の目的である。
【0013】
そのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体の少なくとも1つ、及び好ましくはT1Rsあるいはその断片又は変異体の組合せを機能的に発現するヒトあるいはヒト以外の細胞、例えば、哺乳類、酵母、虫又は昆虫細胞を提供することが本発明の他の目的である。
【0014】
そのようなT1Rsの少なくとも1つの少なくとも断片を含むT1R融合タンパク質又はポリペプチドを提供することが本発明の他の目的である。
【0015】
以下で特定するhT1R核酸配列及びその保存的に修飾された変異体の1つを有する核酸配列と少なくとも50%、好ましくは75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同じである核酸配列を含むT1Rポリペプチドをコードする分離核酸分子を提供することが本発明の他の目的である。
【0016】
以下で特定するT1Rアミノ酸配列及びその保存的に修飾された変異体の1つの群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも35〜50%、好ましくは60%、75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同じであるアミノ酸配列を有し、その断片の長さが少なくとも20、好ましくは40、60、80、100、150、200又は250アミノ酸であるポリペプチドをコードする分離核酸分子を提供することが本発明のさらなる目的である。場合により、その断片が抗T1R抗体に結合する抗原断片であってよい。
【0017】
多くて10、好ましくは5、4、3、2又は1アミノ酸残基に変化が存在する前記断片の変異体を含む分離ポリペプチドを提供することが本発明のさらなる目的である。
【0018】
T1R1及び/又はT1R3が変異体又は断片であるT1R1/T1R3の組合せ、並びにT1R2及び/又はT1R3が変異体又は断片であるT1R2/T1R3の組合せを提供することが本発明の他の目的である。
【0019】
そのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体の作動物質又は拮抗物質を提供することが本発明の他の目的である。
【0020】
内在性形質膜タンパク質、特に、T1RsのようなGPCRsの表面発現を促進することができるPDZドメイン相互作用性ペプチド(本明細書ではPDZIPと称する)を提供することが本発明の他の目的である。PDZIPを含むベクター、そのようなベクターを発現する宿主細胞、及び表面発現を促進するためにPDZIPを用いる方法を提供することも本発明の目的である。
【0021】
味覚調節化合物、特に、甘味及びうま味調節化合物を特定するためのアッセイ、特に高処理能力アッセイを提供することが本発明の好ましい目的である。そのようなアッセイでは、本明細書に開示する、T1Rsあるいはその断片又は変異体の組合せ、あるいはそのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体をコードする遺伝子を用いることが好ましい。そのような組合せはhT1R1/hT1R3及びhT1R2/hT1R3を含むことが最も好ましい。
【0022】
T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3味覚受容体を調節する、例えば、これらの受容体が味覚刺激に応答する能力を増強する化合物を特定することは、本発明の特に好ましい実施形態である。例えば、以下で述べるように、5’−IMP又は5’−GMPがL−グルタミン酸塩に対するうま味(T1R1/T1R3)の応答性を増強することが発見された。これらの調節化合物は、種々の甘味又はうま味刺激物質の活性を増強し、味覚の増大及び/又は、活性が対象アッセイにより特定される味覚調節物質により増強される特定の甘味又はうま味誘発化合物の低い濃度での、同じ味覚の誘発をもたらす。
【0023】
1つ又は複数の化合物を少なくとも1種の開示したT1Rs、その断片又は変異体、好ましくはヒトT1Rsの組合せと接触させる段階を含む味覚に関して前記1つ又は複数の化合物を評価するための好ましいアッセイを提供することが本発明のさらなる目的である。
【0024】
1つ又は複数の化合物をhT1R2とhT1R3との組合せあるいはhT1R2及び/又はhT1R3の断片、キメラ又は変異体を含む複合体と接触させる段階を含む、1つ又は複数の化合物を哺乳類、好ましくはヒトにおける甘味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節するそれらの能力についてスクリーニングする方法を提供することが本発明のより特定的な目的である。
【0025】
1つ又は複数の化合物をhT1R1とhT1R3との組合せあるいはhT1R1及びhT1R3の断片、キメラ又は変異体を含む複合体と接触させる段階を含む、1つ又は複数の化合物を哺乳類、好ましくはヒトにおける味覚、特にうま味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節するそれらの能力についてスクリーニングする方法を提供することが本発明の他の特定的な目的である。
【0026】
味覚、特に甘味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節する化合物を特定する際に用いるためのhT1R2及びhT1R3あるいはその断片、変異体又はキメラを同時発現する細胞を産生させることが本発明の他の特定的な目的である。
【0027】
味覚、特にうま味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節する化合物を特定する際にアッセイを用いるためのhT1R1及びhT1R3あるいはその断片、変異体又はキメラを同時発現する細胞を産生させることが本発明の他の特定的な目的である。
【0028】
1つ又は複数のT1Rsを発現又は発現しないように遺伝的に改変されたヒト以外の動物を生産することが本発明の他の目的である。
【0029】
T1Rs又はその組合せを用いるアッセイを用いて、食物及び飲料組成物中の着香成分として特定された化合物を用いることが本発明の他の目的である。特に、食物及び飲料組成物中で甘味阻害物質、増強物質、調節物質又は模擬物質としてhT1R2及び/又はhT1R3と相互作用する化合物並びにうま味阻害物質、増強物質、調節物質又は模擬物質としてhT1R1及び/又はhT1R3と相互作用する化合物を用いることが本発明の目的である。
【0030】
例えば、魚養殖用の動物飼料調合物の味を調節する化合物を特定するためにT1Rs、特にヒト以外のT1Rsを使用することが本発明の他の目的である。
【0031】
hT1R1/hT1R3又はhT1R2/hT1R3を安定に同時発現する真核生物、好ましくは哺乳類又は昆虫細胞系、T1R2/T1R3又はT1R1/T1R3に関連して発現するとき、機能的味覚受容体を生ずるGタンパク質、例えば、Gα15又は他のGタンパク質も発現する好ましくはHEK−292細胞系を提供することが本発明の好ましい目的である。
【0032】
T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3、好ましくはhT1R1/hT1R3又はhT1R2/hT1R3を安定に発現する真核生物細胞系、好ましくは哺乳類又は昆虫細胞を提供することが本発明の他の好ましい目的である。好ましい実施形態において、そのような細胞は、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3と結合して機能的うま味又は甘味受容体を生じさせるGα15又は他のGタンパク質を安定に発現するHEK−292細胞を含む。
【0033】
うま味又は甘味を調節する化合物を特定するための構成的又は誘導条件下でT1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定又は一時的に発現するHEK−292又は他の細胞系を用いるアッセイ、好ましくは高処理能力アッセイを提供することも本発明の目的である。
【0034】
ラクティソール(甘味阻害物質)又は構造的に関連する物質のT1R1/T1R3(うま味)味覚受容体への結合に影響を及ぼす化合物の能力に基づいて、T1R1/T1R3うま味受容体を増強し、模擬し、阻害し、かつ/又は調節する化合物を特定することが本発明の他の特定的な目的である。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明は、同時発現したとき、T1Rsの種々の組合せが味覚刺激に応答する機能的味覚受容体を生ずるという発見に関する。特に、本発明は、T1R2及びT1R3受容体が同時発現することにより、甘味刺激に応答するヘテロオリゴマー味覚受容体となるという発見に関する。また、本発明は、T1R1及びT1R3が同時発現することにより、グルタミン酸一ナトリウム塩のようなうま味刺激物質に応答する味覚受容体となるという発見に関する。
【0036】
本発明はまた、T1R1及びT1R3を好ましくはヒトにおいて、又はT1R2及びT1R3を好ましくはヒトにおいて同時発現する細胞系に関する。好ましい実施形態において、これらの細胞系は構成的又は誘導的に多量の受容体を発現する。これらの細胞系は、T1R1及びT1R3又はT1R2及びT1R3を一時的又は安定に発現する細胞を含む。
【0037】
また、本発明は、甘味又はうま味を調節する化合物を特定するためのT1R2/T1R3味覚受容体又はT1R1/T1R3受容体を用いるアッセイ、特に高処理能力スクリーングアッセイ、好ましくは高処理能力の細胞を用いるアッセイを提供する。本発明はまた、これらの化合物が甘味又はうま味を調節することを確認するための味覚試験を含むアッセイを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ラットT1Rs、ヒトカルシウム感知受容体及びラットメタボトロピックグルタミン酸受容体の配列アライメントを包含する。
【図2】hT1R2及びhT1R3が味覚組織において発現していることを示すRT−PCR増幅実験結果を包含する。
【図3】甘味刺激物質の様々な濃度でヒトT1R2、T1R3及びT1R2/T1R3で一時的にトランスフェクトしたGα15を安定に発現するHEK細胞における種々の甘味刺激物質(a);数種の甘味刺激物質に対するヒトT1R2/T1R3の用量応答(b);グルマリンの存在下でのショ糖に対するヒトT1R2/T1R3の応答、及びグルマリンの存在下でのイソプロテレノールに対する内因性β2−アドレナリン受容体の応答;によって誘発される機能データ(細胞内カルシウム応答)を包含する。cは、種々の甘味料に対する正規化した応答を包含する。
【図4】hT1R2/hT1R3、rT1R2/rT1R3、hT1R2/rT1R3及びrT1R2/hT1R3で一時的にトランスフェクトしたGα15を安定に発現するHEK細胞における350mMショ糖、25mMトリプトファン、15mMアスペルテーム及び0.05%モネリンに対する細胞内カルシウム応答を包含する。
【図5】Gα15を安定に発現するHEK細胞をhT1R2及びhT1R3又はhT1R3単独で一時的にトランスフェクトし、カルシウム色素Fluo−4及び甘味刺激物質(12.5mMシクラメート)と接触させた、蛍光プレート反応器を用いたアッセイの結果を包含する。
【図6】hT1R2及びhT1R3が、様々な甘味刺激物質(trp、シクラメート、ショ糖、ネオテーム、アスパレーム(asparame)、サッカリン及びAcek)との用量特異的相互作用に基づき、一緒にヒト甘味受容体として機能することを示す正規化した用量応答曲線を包含する。
【図7】重要なリガンド結合残存物がこれらの分子に認められることを示すmGluR1及びT1R1に関する構造情報を包含する。
【図8】a〜cは、T1R1/T1R3で一時的にトランスフェクトしたGα15を安定に発現するHEK細胞が細胞内カルシウムに基づくアッセイにおいてグルタミン酸塩に応答することを示す機能データを包含する。 aは、細胞内カルシウムがグルタミン酸塩濃度の増加に応答して増加することを示す。 bは、細胞内カルシウムがIMP(2mM)、グルタミン酸塩(0.5mM)及び0.2mM IMPに対して応答することを示す。 cは、T1R1/T1R3が0.2mM IMPの存在下及び非存在下でグルタミン酸塩に対して応答することを示す。
【図9】a及びbはそれぞれ、Myc標識hT1R2を用いた免疫蛍光染色アッセイの結果及びPDZIPペプチド(配列番号1)の組み込みが形質膜上のT1R(hT1R2)の発現を増強したことを示すFACS実験の結果を包含する。
【図10】aからbは、hT1R2/hT1R3が種々の甘味刺激物質に応答することを示すカルシウム画像データを包含する。
【図11】hT1R1/hT1R3を安定に発現する細胞系のうま味刺激物質に対する自動蛍光画像化法による応答を示す。
【図12】hT1R2/hT1R3を安定に発現する細胞系の甘味刺激物質に対する自動蛍光画像化法による応答を示す。
【図13】0.2mM IMPの存在下及び非存在下でL−グルタミン酸塩に対するヒトT1R1/T1R3味覚受容体を誘導的に発現する細胞系における自動蛍光画像化法を用いて測定した用量応答曲線を示す。
【図14】ヒトT1R1/T1R3味覚受容体(1−17クローン)を誘導的に発現する細胞系のL−アミノ酸のパネルに対する応答を示す。10mMの種々のC−アミノ酸を1mM IMPの存在下及び非存在下で試験した。
【図15】ヒトT1R1/T1R3味覚受容体(1−17クローン)を誘導的に発現する細胞系のL−アミノ酸のパネルに対する応答を示す。活性アミノ酸に関する用量応答を0.2mM IMPの存在下で測定した。
【図16】ラクティソールがヒトT1R2/T1R3及びヒトT1R1/T1R3の受容体活性を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、したがって、異なるT1Rsの組合せ、好ましくはT1R1/T1R3又はT1R2/T1R3の同時発現により生ずる機能的味覚受容体、好ましくはヒト味覚受容体、並びに同時発現により機能的味覚受容体、すなわち、甘味受容体(T1R2/T1R3)又はうま味受容体(T1R1/T1R3)を生ずる対応する分離核酸配列あるいはその断片、キメラ又は変異体を提供する。
【0040】
文献に報告されているように、味覚細胞特異的GPCRsのT1Rファミリーのメンバーが知られており、すべてが参照により全部が本明細書に組み込まれるHoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年)、国際公開第00/06592号、国際公開第00/06593号及び米国特許出願番号第09/799,629号に特定されている。
【0041】
より詳細には、本発明は子となる味覚細胞特異的GPCRの同時発現に関する。これらの核酸及びそれらにコードされる受容体は、味覚細胞特異的GPCRの「T1R」ファミリーのメンバーと称される。本発明の特定の実施形態において、同時発現するT1Rファミリーメンバーは、rT1R1、rT1R2、rT1R3、mT1R1、mT1R2、mT1R3、hT1R1、hT1R2及びhT1R3などである。理論に束縛されることを望まないが、これらの味覚細胞特異的GPCRsは味変換経路の構成要素であり、甘味及びうま味刺激物質及び/又は他の種類の味を呈する他の味覚刺激物質の味覚検出に関与すると考えられている。
【0042】
本明細書においてT1Rファミリーメンバーが他のT1Rファミリーメンバーと共に作用して、甘味及びうま味受容体として機能するということは確証されている。以下の実験的実施例でさらに詳細に開示するように、hT1R2及びhT1R3を同時発現する異種細胞がヒト甘味を反映する仕方で甘味刺激物質により選択的に活性化されることが実証された。例えば、hT1R2及びhT1R3を同時発現するHEK−293−Gα15細胞はシクラメート、ショ糖、アスパルテーム及びサッカリンに対して特異的に応答し、これらの化合物の用量反応は精神物理的味覚検出法の閾値と相関する。したがって、hT1R2及びhT1R3を同時発現する細胞は、甘味感覚を模擬、調節、阻害かつ/又は増強する化合物を特定するためのスクリーニング、好ましくは、高処理能力スクリーニングに用いることができる。
【0043】
また、実験的実施例におけるデータにより裏づけられているように、hT1R1及びhT1R3を同時発現する細胞がヒトうま味を反映する仕方でグルタミン酸塩(グルタミン酸一ナトリウム塩)及び5’−リボヌクレオチドにより選択的に活性化されることが示された。例えば、hT1R1及びhT1R3を同時発現するHEK−293−Gα15細胞はグルタミン酸塩に対して特異的に応答し、このうま味を呈する化合物の用量反応はその精神物理的味覚検出法の閾値と相関する。さらに、IMPのような5’−リボヌクレオチドはT1R1/T1R3受容体のグルタミン酸塩応答を増強する。これは、うま味の相乗作用特性である。したがって、hT1R1及びhT1R3を同時発現する細胞は、うま味感覚を模擬、調節、阻害かつ/又は増強する化合物を特定するためのスクリーニング、好ましくは、高処理能力スクリーニングに用いることができる。
【0044】
さらに、実施例における実験データにより示されたように、T1R1及びT1R3を安定かつ誘導的に同時発現する細胞は、うま味刺激物質L−グルタミン酸塩及びL−アスパラギン酸塩に対して選択的に応答し、他のL−アミノ酸に対しては弱く応答するにすぎず、そして、はるかに高い実施例における実験データにより濃度では、T1R1/T1R3受容体をうま味刺激を調節する(増強又は阻害する)化合物を特定するアッセイに用いることができるというさらなる証拠が得られたことが示された。
【0045】
また、実施例における実験データにより裏づけられているように、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を同時発現する細胞系はそれぞれうま味又は甘味刺激物質に対して応答し、定量的な用量反応が、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3受容体を受容体作動物質及び拮抗物質、例えば、MSG代用物、うま味阻害物質、新規人工及び天然甘味料並びに甘味阻害物質を特定するのに用いることができるという結論をさらに裏づけていることが示された。
【0046】
また、実験的実施例におけるデータにより裏づけられているように、甘味阻害物質ラクティソールがT1R2/T1R3甘味受容体及びT1R1/T1R3うま味受容体の両方を阻害することが示された。このことから、T1R2/T1R3又はT1R1/T1R3へのラクティソールの結合に影響を及ぼす化合物をスクリーニングするアッセイは甘味又はうま味を増強、模擬、調節又は阻害する化合物を特定するのに用いることができることが示唆される。ラクティソールがT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3受容体の両方を阻害するという事実から、これらの受容体が、ラクティソール及び潜在的に他の味覚調節物質が結合する共通のサブユニットを共有していることが示唆される。したがって、これにより、甘味を増強、模擬、調節又は阻害する一部の化合物はうま味に対して同様な作用を有し、また、その逆も言えることが示唆される。
【0047】
さらに、実験的実施例におけるデータにより裏づけられているように、T1Rs、すなわち、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞系は、自動蛍光画像法によりアッセイしたとき、様々な甘味及びうま味刺激物質に対して非常に効果的に、すなわち、一時的にトランスフェクトした細胞よりも実質的に大きい程度に応答することが示された。したがって、これらの細胞系は、甘味及びうま味を調節、阻害、模擬又は増強する化合物を特定するための高処理能力スクリーニングアッセイ用に特に適している。しかし、本発明は、T1R又はその組合せを一時的に発現する細胞を用いるアッセイも含む。
【0048】
さらに、適用例は、一部のT1Rsが共に、具体的にはT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3が作用すること、そして、そのような受容体の組合せをアッセイ、好ましくは高処理能力アッセイに用いることができることを示すデータを含んでいるが、対象発明はT1R1、T1R2及びT1R3単独あるいは他のタンパク質、例えば、他のGPCRsと組み合わせて用いるアッセイも含むことを注意すべきである。
【0049】
それに関して、甘味受容体はT1R2のみからなり、かつ/又はうま味受容体はT1R1のみからなっていて、T1R3受容体はおそらくT1R2又はT1R1の表面発現を促進するように機能していると推測される。
【0050】
あるいは、甘味及びうま味受容体はT1R1及び/又はT1R2の制御のもとに差別的に処理されるT1R3のみにより構成されていると想定される。この種の受容体発現は、カルシトニン関連受容体のRAMP依存性プロセシングと類似していると思われる。
【0051】
T1Rアッセイにより特定される化合物は、食物及び飲料の味を調節するために用いることができる。以下でさらに詳細に記載する適切なアッセイは、異なるT1R受容体、そのキメラ又は断片、特にN末端リガンド結合ドメインを含む断片の組合せの1つを用いる直接結合アッセイを含む、実施例としての全細胞アッセイ及び生化学的アッセイなどである。本発明における使用に適切なアッセイの例は、以下でより詳細に記載するが、GPCRの分野において知られているものである。
【0052】
T1R味覚受容体又はT1R味覚受容体の組合せ又は他の異種(非T1R)タンパク質、例えば、他のGPCRsと共に発現するT1R受容体への種々の化合物又は化合物の混合物の結合を定量する、あるいは、T1R味覚受容体を発現する細胞の活性化を定量するアッセイを設計することができる。これは、HEK−293、CHO及びCOS細胞のような異種細胞中で安定又は一時的に発現する味覚受容体により実現することができる。
【0053】
アッセイは、Gα15又はGα16あるいは他の乱交雑Gタンパク質又はGタンパク質変異型あるいは内性Gタンパク質のようなGタンパク質も(好ましくは安定に)発現する細胞を用いることが好ましいであろう。さらに、アッセイにおいてGβ及びGγタンパク質も発現させてもよい。
【0054】
上で特定した受容体又は受容体の組合せを発現又は含む細胞又は組成物を用いた甘味又はうま味に対する化合物の効果は、カルシウム感受性色素、電位感受性色素の使用、cAMPアッセイ、蛍光標識リガンド又は3H−グルタミン酸塩のような放射性リガンドを用いる直接結合アッセイ又は転写アッセイ(ルシフェラーゼ又はβ−ラクタマーゼのような適切なリポーターを用いる)を含む様々な手段により検討することができる。
【0055】
本発明による1種又は複数のT1Rsと共に用いることができるアッセイは、実施例としての、生細胞の遺伝的選択を用いるアッセイ、全細胞又は膜断片又は精製T1Rタンパク質を用いるアッセイ、cAMP及びIP3のような二次メッセンジャーを用いるアッセイ、アレスチンの細胞表面への転移を検出するアッセイ、試験に供したリガンドにより細胞表面上の受容体発現の喪失を検出する(細胞内取込み)アッセイ、直接リガンド結合アッセイ、阻害物質を用いる競合的結合アッセイ、in vitroで翻訳されたタンパク質を用いるアッセイ、リガンドの結合時のコンホメーション変化(例えば、タンパク質分解、蛍光又はNMRにより証明される)を検出するアッセイ、ハエ、虫又はマウスのような、T1R又はT1R組合せを発現するヒト以外のトランスジェニック動物を用いる行動アッセイ、T1R遺伝子を含む組換えウイルスを感染させた細胞を用いるアッセイなどである。
【0056】
T1R又はT1R断片(又はT1Rsの組合せ又はT1Rと他のタンパク質との組合せ)のX線結晶構造を決定し、特定のT1R受容体又は受容体組合せに結合かつ/又は増強、模擬、阻害又は調節する化合物を分子モデリング法により予測するのに用いる、構造に基づくアッセイも本発明の範囲内にある。より具体的には、本発明は、T1R1/T1R3(好ましくはhT1R1/hT1R3)及び/又はT1R2/T1R3(好ましくはhT1R2/hT1R3)の結晶構造の決定及びT1R受容体活性を調節する分子を特定するための構造に基づく設計方法におけるそのような結晶構造の使用を含む。
【0057】
本発明は特に、1種又は複数の全長T1R受容体あるいはT1R1、T1R2又はT1R3の断片、好ましくは、N末端ドメインを発現する細胞、例えば、哺乳類、酵母、昆虫又は他の異種細胞を用いて実施する生化学的アッセイを含む。そのようなアッセイにおける化合物の効果は、競合的結合アッセイ、例えば、放射性グルタミン酸又はIMP、蛍光(例えば、蛍光偏光、FRET)又はGTPy35S結合アッセイを用いて測定することができる。言及したように、好ましい実施形態において、そのようなアッセイでは、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3及びGα15のような適切なGタンパク質を安定に同時発現する細胞系を用いる。他の適切なGタンパク質としては、参照により全部が本明細書に組み込まれる米国出願番号第09/984,292号及び第60/243,770号に開示されているキメラ及び変異Gタンパク質などがある。
【0058】
さらに、改善された特性、例えば、表面発現又はGタンパク質結合が増強された改変受容体を構築することができる。これらのT1R変異体は細胞を用いるアッセイ及び生化学的アッセイに組み込むことができる。
【0059】
ヒトT1Rsに関する本発見を他の動物種、例えば、げっ歯類、ブタ、サル、イヌ及びネコ並びにおそらく魚のような非哺乳類に拡張できると想像される。これに関して、いくつかの魚T1R断片が下記の実施例1で特定されている。したがって、本発明は動物飼料調合物用の化合物のスクリーニングに適用例を有する。
【0060】
本発明はさらに、様々なT1Rs及びその組合せの種々の対立遺伝子変異体を用い、それにより、対立遺伝子変異体を発現する個体における特定の味覚を誘発する化合物又はすべての個体における特定の味覚を誘発する化合物の特定を可能にするスクリーニングを含む。そのような化合物は、一般的に食物の味をより良くするのに用いることができる。
【0061】
T1Rコード核酸は、味覚細胞において特異的に発現するので、味覚細胞の同定のための有用なプローブともなる。例えば、T1Rポリペプチド及びタンパク質のプローブを用いて、葉状、有郭及び茸上乳頭に存在する味覚細胞並びにゲシュマックストライフェン、口腔、胃腸上皮及び喉頭蓋に存在する味覚細胞を同定することができる。特に、T1Rsを検出する方法を用いて、甘味及び/又はうま味刺激あるいは他の種類の味を呈する他の味覚刺激に敏感な味覚細胞を同定することができる。例えば、T1R2及び/又はT1R3を安定又は一時的に発現する細胞は、本明細書における試験から甘味刺激に対して応答すると予測されよう。同様に、T1R1及び/又はT1R3を発現する細胞は、うま味刺激に対して応答すると予測されよう。本発明のT1Rタンパク質及びポリペプチドをコードする核酸は、参照により全部が本明細書に組み込まれる国際公開第00/035374号に開示されている方法により遺伝子工学的に処理され、増幅され、合成され、かつ/又は組換えにより発現させた様々な源から分離することができる。本発明により発現させることができるT1Rsの一覧は、実施例に記載する。しかし、本発明は、そのようなT1R配列及び特に他の動物種のT1Rsに基づいて構築された他の特異的T1Rs又は断片、変異型又はキメラの発現及び使用を含むことを強調すべきである。
【0062】
開示されているように、本発明の重要な態様は、これらの味覚細胞特異的GPCRsの調節物質、例えば、活性化物質、阻害物質、刺激物質、増強物質、作動物質及び拮抗物質をスクリーニングする複数の方法である。味覚伝達のこのような調節物質は、味覚シグナル伝達経路の調節に有用である。これらのスクリーニングの方法を用いて、味覚細胞活性の高親和性の作動物質及び拮抗物質を特定することができる。次に、これらの調節化合物を食品産業において味を個別調整、例えば、食品の甘味及び/又はうま味を調節するのに用いることができる。
【0063】
本発明は、甘味及びうま味の味覚を媒介する特異的T1Rs及びT1R受容体の組合せを同定することができるので、甘味及びうま味に関する以前の理解の不足を矯正するものである。したがって、一般的に本出願は、T1Rクラスの味覚特異的Gタンパク質結合受容体及び味覚におけるそれらの特異的機能に関する発明者らの発見並びにこれらの発見と味覚の分子的基礎のより十分な理解との関係に関する。
【0064】
甘味及びうま味(グルタミン酸一ナトリウム塩の味)の分子的基礎は、不可解である。最近、T1Rsと称される3メンバークラスの味覚特異的Gタンパク質結合受容体が同定された。T1Rの重複する発現パターンと構造的に関連するGABAB受容体がヘテロ二量体であるという証明とから、T1Rsがヘテロ二量体受容体として機能することが示唆される。以下の実施例において、本発明は、異種細胞におけるヒトT1R1、T1R2及びT1R3の機能的同時発現、すなわち、T1R1及びT1R3を同時発現する細胞はうま味刺激により活性化され、T1R2及びT1R3を同時発現する細胞は甘味刺激により活性化されることを記載している。T1R1/T1R3及びT1R2/T1R3の活性は、精神物理的検出法の閾値と相関性を示した。さらに、5’−リボヌクレオチドIMPはグルタミン酸塩に対するT1R2/T1R3応答を増強すること(うま味の相乗作用特性)が認められた。これらの所見は、特異的T1Rs及びT1Rsの個別に異なる組合せが甘味及びうま味受容体として機能することを示している。
【0065】
ヒトの苦味、甘味及びうま味の知覚は、Gタンパク質結合受容体により媒介されると考えられる(Lindemann B.、physiol.Res.第76巻、718〜66頁(1996年))。最近、ヒトゲノムの評価によりT2Rクラスの苦味受容体が明らかにされた(Adler et al.、Cell、第100巻、613〜702頁(2000年)、Chandrasgekar et al.、Cell、第100巻、703〜11頁(2000年)、Matsunami et al.、Nature、第404巻、601〜604頁(2000年))が、甘味及びうま味の受容体は同定されなかった。最近、他のクラスの候補味覚受容体であるT1Rsが同定された。T1Rsは最初にラット味覚組織由来のサブトラクテッドcDNAライブラリーの大規模配列決定により(これによりT1R1が同定された)、その後、T1R1に基づく縮重PCR(これがT1R2の同定につながった)により同定された(Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年))。最近、本願発明者ら及び他者らは、ヒトゲノムデータバンクにおけるT1Rファミリーの第3のおそらく最終のメンバーであるT1R3を同定した(Kitagawa et al.、Biochem Biophys.Res Commun.第283巻、第1号、236〜42頁(2001年)、Max et al.、Nat.Genet.第28巻、第1号、58〜63頁(2001年)、Sainz et al.、J.Neurochem.第77巻、第3号、896〜903頁(2001年)、Montmayeur et al.、Nat.Neurosci.第4巻、492〜8頁(2001年))。効果的に、マウスT1R3はマウスにおける甘味に影響を及ぼす遺伝子座であるSacを含むゲノム区間にマップされる(Fuller et al.、J.Hered.第65巻、33〜6頁(1974年)、Li et al.、Mamm.Genome、第12巻、13〜16頁(2001年))。したがって、T1R3は甘味受容体として機能すると予測された。最近の高分解能遺伝地図研究でマウスT1R3とSacとの関連性が補強された(Fuller T.C.、J.Hered.第65巻、第1号、33〜36頁(1974年)、Li et al.、Mammal.Genome、第12巻、第1号、13〜16頁(2001年)。
【0066】
興味深いことに、これまでは機能的に発現していたすべてのCファミリー受容体(メタボトロピックグルタミン酸塩受容体、GABAB受容体、カルシウム感知受容体(Conigrave A.D.、Quinn S.J.、Brown E.M.、Proc Natl Acad Sci USA、第97巻、4814〜9頁(2000年))及び魚嗅覚受容体(Speca D.J. et al.、Neuron、第23巻、487〜98頁(1999年))がアミノ酸により活性化されることが示された。このような共通の特徴が、T1Rsがアミノ酸を認識し、またT1Rsが甘味のあるアミノ酸に加えてグルタミン酸塩の検出に関与するという可能性を生じさせている。あるいは、ラット味覚組織における選択的発現と、受容体活性化閾値がグルタミン酸の精神物理的検出法の閾値とが類似していることから、mGluR4メタボトロピックグルタミン酸受容体の転写変異型がうま味受容体であると提唱された(Chaudhari et al.、Nat.Neurosci.第3巻、113〜119頁(2000年))。この仮説は、味覚組織におけるmGluR4変異型の発現レベルが極めて低いことと、mGluR4ノックアウトマウスのグルタミン酸味覚が事実上変化しない(Chaudhari and Roper、Ann.N.Y.Acad.Sci.第855巻、398〜406頁(1998年))ことと調和させることが困難である。さらに、野生型受容体のグルタミン酸結合ポケットを形成する残基の大部分だけでなく、球状N末端グルタミン酸結合ドメインのほぼ半分も欠く味覚受容体変異型は構造的にありそうもない(Kunishima et al.、Nature、第407巻、971〜7頁(2000年))。
【0067】
げっ歯類におけるT1R発現パターンの比較分析により、T1R2及びおそらくT1R1がそれぞれT1R3と同時発現することが示された(Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜51頁(1999年)、Kitagawa et al.、Biochem Biophy.Res.Commun.第283巻、236〜242頁(2001年)、Max et al.、Nat.Genet.第28巻、58〜63頁(2001年)、Montmayeur et al.、Nat.Neurosci.第4巻、492〜8頁(2001年)、Sainz et al.、J.Neurochem、第77巻、896〜903頁(2001年))。さらに、Cファミリー受容体の共通のテーマとして二量体化が発生している。すなわち、メタボトロピックグルタミン酸及びカルシウム感知受容体はホモ二量体であり(Romomano et al.、J.Biol.Chem.第271巻、28612〜6頁(1996年)、Okamoto et al.、J.Biol.Chem.第273巻、13089〜96頁(1998年)、Han et al.、J.Biol.Chem.第274巻、100008〜13頁(1999年)、Bai et al.、J.Biol.Chem.第273巻、23605〜10頁(1998年))、構造的に関連するGABAB受容体はヘテロ二量体である(Jones et al.、Nature、第396巻、674〜9頁(1998年)、Kaupmann et al.、Nature、第396巻、683〜687頁(1998年)、White et al.、Nature、第396巻、679〜682頁(1998年)、Kuner et al.、Science、第283巻、74〜77頁(1999年))。本願発明者らは、異種細胞における T1Rsの機能的同時発現により、ヒトT1R2がヒトT1R3と共に甘味受容体として機能し、ヒトT1R1がヒトT1R3と共にうま味受容体として機能することを立証した。
【0068】
以前には改良型人工甘味料の開発は甘味のアッセイが存在しないことにより阻まれていたので、本明細書で述べた発見は特に重要である。実際、すべてがhT1R2/hT1R3を活性化する5種の一般的に使用されている市販の甘味料は思いがけなく発見された。同様に、骨の折れる方法である官能検査以外には、うま味を調節する化合物を特定するアッセイは存在しない。以下で述べる実験結果により実証されているように、ヒト甘味及びうま味受容体が同定され、これらの受容体に関するアッセイ、具体的には、機能的T1R味覚受容体、すなわち甘味又はうま味受容体を安定に発現する細胞を用いるアッセイが開発されたので、これらの問題は現在、多少とも解決されている。
【0069】
それに基づいて、本発明は、T1Rファミリーが味蕾において作用するように、味覚調節化合物の甘味及びうま味に対する効果のリポーター分子として作用する、味覚調節化合物を検出し、特徴付けるアッセイを提供する。甘味及びうま味を個別に調節し、模擬し、増強し、かつ/又は阻害する化合物を特定するアッセイを特に提供するが、これらは本発明の範囲内にある。GPCRsの活性及び特にGPCR活性に影響を及ぼす化合物をアッセイする方法は、よく知られており、本発明のT1Rファミリーメンバー及びその機能の組合せに適用可能である。適切なアッセイは上に特定した。
【0070】
特に、対象GPCRsは、例えば、リガンド結合、イオン濃度、膜電位、電流、イオン流速、転写、受容体−リガンド相互作用、二次メッセンジャー濃度の変化をin vitro及びin vivoで測定するためのアッセイに用いることができる。他の実施形態において、T1Rファミリーメンバーは細胞内で組換えにより発現させることができ、GPCR活性を介しての味覚変換の調節は、Ca2+濃度及びcAMP、cGMP又はIP3のような細胞内メッセンジャーの変化を測定することによりアッセイすることができる。
【0071】
特定のアッセイにおいて、T1Rポリペプチドのドメイン、例えば、細胞外、膜貫通又は細胞内ドメインが異種ポリペプチドに融合されていて、それにより、キメラポリペプチド、例えば、GPCR活性を有するキメラタンパク質を形成している。N末端リガンド結合ドメインを含むT1R1、T1R2又はT1R3の断片の使用が特に予想される。そのようなタンパク質は、例えば、T1R受容体のリガンド、作動物質、拮抗物質又は他の調節物質を特定するためのアッセイにおいて有用である。例えば、T1Rポリペプチドは、形質膜のトラフィッキングあるいは分泌経路による成熟及びターゲッティングを促進する異種シャペロン配列を有するキメラ受容体として真核細胞中で発現させることができる。任意選択の異種配列は、C末端PDZIP断片(配列番号1)のようなPDZドメイン相互作用ペプチドであってよい。PDZIPは、ER輸出シグナルであり、本発明によれば、本明細書に記載するT1R受容体のような異種タンパク質の表面発現を促進することが示された。より具体的には、本発明の1態様において、PDZIPは、嗅覚受容体、T2R味覚受容体及び本明細書に記載するT1R味覚受容体のような問題のある膜タンパク質の適切なターゲッティングを促進するために用いることができる。
【0072】
そのようなキメラT1R受容体は、HEK−293細胞のようないかなる真核細胞においても発現させることができる。細胞は、Gタンパク質、好ましくはGα15又はGα16のような乱交雑Gタンパク質あるいは広範囲のGPCRsを細胞内シグナル伝達経路又はホスホリパーゼCのようなシグナル伝達タンパク質に連結させることができる他のタイプの乱交雑Gタンパク質を含むことが好ましい。そのような細胞内のそのようなキメラ受容体は、細胞中のFURA−2依存性蛍光を検出することにより細胞内カルシウムの変化を検出することによるような標準的方法を用いて検出することができる。好ましい宿主細胞が適切なGタンパク質を発現しない場合、参照により全部が本明細書に組み込まれる、米国出願第60/243,770号、2001年10月29日出願の米国出願第09/984,297号及び2001年11月21日出願の米国出願第09/989,497号に記載のような乱交雑Gタンパク質をコードする遺伝子をそれらの宿主細胞にトランスフェクションすることができる。
【0073】
味覚変換の調節物質を検定する別の方法としては、T1Rポリペプチド、その一部、すなわち、細胞外ドメイン、膜貫通領域又はそれらの組合せあるいはT1Rファミリーメンバーの1つ又は複数のドメインを含むキメラタンパク質;T1Rポリペプチド、断片又は融合タンパク質を発現する卵母細胞又は組織培養細胞;T1Rファミリーメンバーのリン酸化及び脱リン酸化;GPCRsに結合するGタンパク質;リガンド結合アッセイ;電圧、膜電位及びコンダクタンス変化;イオン流束アッセイ;cGMP、cAMP及びイノシトール三リン酸(IP3)のような細胞内二次メッセンジャーの変化並びに細胞内カルシウム濃度の変化を用いるin vitroリガンド結合アッセイなどがある。
【0074】
さらに、本発明は、味覚変換の調節の検討及び味覚受容体細胞の特異的同定を可能にする、T1R核酸及びタンパク質発現を検出する方法を提供する。T1Rファミリーメンバーは、父性及び法医学調査のための有用な核酸プローブも提供する。T1R遺伝子も葉状、茸状、有郭、ゲシュマックストライフェン及び喉頭蓋味覚受容体細胞のような味覚受容体細胞を同定するための核酸プローブとして有用である。T1R受容体も味覚受容体細胞を同定するのに有用なモノクローナル及びポリクローナル抗体を発生させるために用いることができる。
【0075】
機能的には、T1Rポリペプチドは、味覚伝達に関与すると考えられており、Gタンパク質と相互作用して味覚シグナル伝達を媒介することができる関連する7種の貫膜Gタンパク質結合受容体を含む(例えば、Fong、Cell Signal、第8巻、217頁(1996年)、Baldwin、Curr.Opin.Cell Biol.、第6巻、180頁(1994年)を参照)。構造的には、T1Rファミリーメンバーのヌクレオチド配列は、細胞外ドメイン、7種の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含む関連する関連するポリペプチドをコードする。他の動物種の関連T1Rファミリー遺伝子は、本明細書において実施例で開示するT1R核酸配列又はその保存的に修飾された変異体と少なくとも約50ヌクレオチドの長さ、場合によって100、200,500又はそれ以上のヌクレオチドの長さの領域にわたり少なくとも約50%及び場合によって60%、70%、80%又は90%のヌクレオチド配列同一性を共有するか、あるいは、以下において実施例で開示するT1Rポリペプチド又はその保存的に修飾された変異体と少なくとも25アミノ酸の長さ、場合によって50〜100アミノ酸の長さのアミノ酸領域にわたり少なくとも約35〜50%及び場合によって60%、70%、80%又は90%のアミノ酸配列同一性を共有するポリペプチドをコードする。
【0076】
T1Rファミリーメンバーに特徴的ないくつかの共通アミノ酸配列又はドメインも同定された。例えば、T1Rファミリーメンバーは、一般的に、T1R共通配列1及び2(それぞれ配列番号2及び3)と少なくとも約50%、場合によって55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95〜99%又はより高い同一性を有する配列を含む。したがって、これらの保存ドメインは、同一性、特異的ハイブリダイゼーション又は増幅あるいはドメインに対して産生させた抗体による特異的結合により、T1Rファミリーのメンバーを同定するのに用いることができる。T1R共通配列は、例として次の配列を含む。
T1Rファミリー共通配列1:(配列番号2)
(TR)C(FL)(RQP)R(RT)(SPV)(VERKT)FL(AE)(WL)(RHG)E
T1Rファミリー共通配列2:(配列番号3)
(LQ)P(EGT)(NRC)YN(RE)A(RK)(CGF)(VLI)T(FL)(AS)(ML)
【0077】
これらの共通配列は本明細書に記載するT1Rポリペプチドに認められるものを含むが、他の生物のT1Rファミリーメンバーは、本明細書に具体的に記載する共通配列と約75%又はそれ以上の同一性を有する共通配列を含むと予想される。
【0078】
T1Rヌクレオチド及びアミノ酸配列の特定の領域は、T1Rファミリーメンバーの多形性変異体、種間同族体及び対立遺伝子を同定するために用いることができる。この同定は、in vitroで例えば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で又はPCR(例えば、上で同定されたT1R共通配列をコードするプライマーを用いる)により、あるいは他のヌクレオチド配列との比較のためのコンピュータシステムにおける配列情報を用いて行うことができる。単一種集団内のT1R遺伝子の異なる対立遺伝子も、対立遺伝子配列の差が集団のメンバー間の味覚の相違を制御しているかどうかを判断する際に有用であろう。古典的なPCRタイプの増幅及びクローニング技術は、例えば、同義性プライマーが種にわたる関連遺伝子を検出するのに十分なものである場合に、新規のT1Rsを分離するのに有用である。
【0079】
一般的に、T1Rファミリーメンバーの多形性変異体及び対立遺伝子の同定は、約25アミノ酸又はそれ以上、例えば、50〜100アミノ酸のアミノ酸配列を比較することにより行うことができる。おおよそ少なくとも35〜50%、及び場合により60%、70%、75%、80%、85%、90%、95〜99%又はそれ以上のアミノ酸同一性は一般的に、タンパク質がT1Rファミリーメンバーの多形性変異体、種間同族体又は対立遺伝子であることを示している。配列の比較は、下記の配列比較アルゴリズムのいずれかを用いて行うことができる。T1Rポリペプチド又はその保存領域に特異的に結合する抗体も、対立遺伝子、種間同族体及び多形性変異体を同定するのに用いることができる。
【0080】
T1R遺伝子の多形性変異体、種間同族体及び対立遺伝子は、推定上のT1R遺伝子又はタンパク質の味覚細胞特異的発現を検討することにより確認することができる。一般的に、本明細書に開示するアミノ酸配列を有するT1Rポリペプチドは、T1Rファミリーメンバーの多形性変異体又は対立遺伝子の同定を立証するための推定上のT1Rポリペプチドとの比較における陽性対照として用いることができる。多形性変異体、対立遺伝子及び種間同族体は、Gタンパク質結合受容体の7種の貫膜構造を保持していると予想される。さらなる詳細については、関連T1RファミリーメンバーであるGPCR−B3sを開示しており、この開示と一致した方法で参照により本明細書に組み込まれる国際公開第00/06592号を参照。GPCR−B3受容体は、本明細書ではrT1R1及びmT1R1と称している。さらに、また関連T1RファミリーメンバーであるGPCR−B4sを開示しており、その内容がこの開示と一致した方法で参照により本明細書に組み込まれる国際公開第00/06593号を参照。GPCR−B4受容体は、本明細書ではrT1R2及びmT1R2と称している。前述のように、本発明は、T1R受容体活性を調節し、それにより、甘味及び/又はうま味を調節する分子を特定するための、T1R又はT1Rの組合せ、例えば、hT1R2/hT1R3又はhT1R1/hT1R3のX線結晶構造を用いる構造に基づくアッセイも含む。
【0081】
本発明はまた、T1R受容体を増強、模擬、阻害及び/又は調節する分子を特定するためのアッセイ、好ましくは高処理能力アッセイも提供する。いくつかのアッセイにおいて、T1Rファミリーメンバーの特定のドメインを他のT1Rファミリーメンバーの特定のドメイン、例えば、細胞外、膜貫通又は細胞内のドメイン又は領域と組み合わせて用いる。他の実施形態において、細胞外ドメイン、膜貫通領域又はその組合せを固体基材に結合させ、例えば、リガンド、作動物質、拮抗物質又はT1Rポリペプチドに結合し、かつ/又はその活性を調節することができる他の分子を分離するのに用いることができる。
【0082】
様々な保存的突然変異及び置換は、本発明の範囲内にあると想定される。例えば、PCR、遺伝子クローニング、cDNAの部位特異的突然変異誘発、宿主細胞のトランスフェクション及びin vitro転写などの組換え遺伝子技術の既知のプロトコールを用いてアミノ酸置換を実施することは、当技術分野の技術のレベル内にある。次に変異体を活性についてスクリーニングすることができる。
【0083】
定義
本明細書において用いているように、以下の用語は、特に指定しない限り、それらについて記載する意味を有する。
【0084】
「味覚細胞」は、群に組織化されて、舌の味蕾を形成する、例えば、葉状、茸状及び有郭細胞などの感覚上皮細胞を含む(例えば、Roper et al.、Ann.Rev.Neurosci.第12巻、329〜353頁(1989年)を参照)。味覚細胞は、口蓋並びに食道及び胃のような他の組織にも認められる。
【0085】
「T1R」は、葉状、茸状及び有郭細胞並びに口蓋及び食道の細胞のような味覚細胞中で発現するGタンパク質結合受容体のファミリーの1つ又は複数のメンバーを指す(例えば、参照により全部が本明細書に組み込まれる、Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年)を参照)。このファミリーのメンバーは、国際公開第00/06592号においてGPCR−B3及びTR1と、また国際公開第00/06593号においてGPCR−B4及びTR2とも称されている。GPCR−B3は、本明細書ではrT1R1と、GPCR−B4はrT1R2と称している。味覚受容体細胞は、形態に基づいて(例えば、Roper、前出、参照)、あるいは、味覚細胞中で特異的に発現しているタンパク質の発現によっても同定することができる。T1Rファミリーメンバーは、甘味変換のための受容体として作用する、又は他の様々な種類の味を区別する能力を有する。hT1R1、hT1R2及びhT1R3を含む代表的なT1R配列は、以下の実施例に示されている。
【0086】
「T1R」核酸は、「Gタンパク質結合受容体活性」を有する7種の膜貫通領域を有するGPCRsのファミリーをコードする。例えば、それらは、細胞外刺激に応答してGタンパク質に結合し、ホスホリパーゼC及びアデニル酸シクラーゼのような酵素の刺激によりIP3、cAMP、cGMP及びCa2+のような二次メッセンジャーの産生を促進することができる(GPCRsの構造及び機能の説明については、例えば、Fong、前出、及びBaldwin、前出を参照)。単一味覚細胞は、多くの別個のT1Rポリペプチドを含む。
【0087】
したがって、「T1R」ファミリーという用語は、(1)T1Rポリペプチド、好ましくは実施例1に示されているものと、約25アミノ酸、場合により50〜100アミノ酸のウインドウにわたって、少なくとも約35〜50%アミノ酸配列同一性、場合により約60、75、80、85、90、95、96、97、98又は99%アミノ酸配列同一性を有し、(2)実施例1に開示するT1Rポリペプチド配列及びその保存的に修飾された変異体からなる群から好ましくは選択されるアミノ酸を含む免疫原に対して産生させた抗体に特異的に結合し、(3)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、実施例1に含まれているT1R核酸配列及びその保存的に修飾された変異体からなる群から選択される配列と特異的にハイブリダイズする核酸分子(少なくとも100、場合により少なくとも約500〜1000ヌクレオチドのサイズを有する)によりコードされ、あるいは(4)実施例1に示すT1Rアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約35〜50%同一である配列を含む、多形性変異体、対立遺伝子、突然変異体及び種間同族体を指す。
【0088】
位相幾何学的には、特定の化学的感覚GPCRsは、「N末端ドメイン」、「細胞外ドメイン」、7種の膜貫通領域並びに対応する細胞質及び細胞外ループを含む「膜貫通ドメイン」、「細胞質ドメイン」及び「C末端ドメイン」を有する(例えば、Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年)、Buck & Axel、Cell、第65巻、175〜187頁(1991年)を参照)。これらのドメインは、疎水性及び親水性ドメインを同定する配列分析プログラムのような当業者に知られている方法を用いて構造的に同定することができる(例えば、Stryer、Biochemistry(第3版、1988年)を参照、また、dot.imgen.bcm.tmc.eduで見いだされるのようなインターネットを用いる多数の配列分析プログラムのいずれかも参照)。そのうようなドメインは、キメラタンパク質の生産に、また、本発明のin vitroアッセイ、例えば、リガンド結合アッセイに有用である。
【0089】
したがって、「細胞外ドメイン」は、細胞膜から突き出ていて、細胞の細胞外面に露出しているT1Rポリペプチドのドメインを指す。そのようなドメインは一般的に、細胞の細胞外面に露出している「N末端ドメイン」を含み、場合により、細胞の細胞外面に露出している膜貫通ドメインの細胞外ループの部分、すなわち、膜貫通領域2及び3の間、膜貫通領域4及び5の間並びに膜貫通領域6及び7の間のループを含み得る。
【0090】
「N末端ドメイン」は、N末端から始まり、最初の膜貫通の始まりに近い領域まで延びている。より具体的には、本発明の一実施形態において、このドメインはN末端から始まり、アミノ酸位置563プラス又はマイナス約20アミノ酸におけるほぼ保存グルタミン酸の位置で終わる。これらの細胞外ドメインは、可溶性及び固相におけるin vitroリガンド結合アッセイに有用である。さらに、下記の膜貫通領域も細胞外ドメインと共にリガンドに結合することができ、したがって、in vitroリガンド結合アッセイにも有用である。
【0091】
7つの「膜貫通領域」を含む「膜貫通ドメイン」は、形質膜内にあるT1Rポリペプチドのドメインを指し、対応する細胞質(細胞内)及び細胞外ループも含んでいてよい。一実施形態において、この領域は、アミノ酸位置563プラス又はマイナス約20アミノ酸における保存グルタミン酸残基から始まり、812プラス又はマイナス約10アミノ酸位置におけるほぼ保存チロシンアミノ酸残基の位置で終わるT1Rファミリーメンバーのドメインに対応する。7種の膜貫通領域並びに細胞外及び細胞質ループは、Kyte & Doolittle、J.Mol.Biol.第157巻、105〜32頁(1982年)又はStryer、前出に記載のような標準的方法を用いて同定することができる。
【0092】
「細胞質ドメイン」は、細胞の内側に面するT1Rポリペプチドのドメイン、例えば、「C末端ドメイン」並びに膜貫通ドメインの細胞内ループ、例えば、膜貫通領域1及び2の間の細胞内ループ、膜貫通領域3及び4の間の細胞内ループ並びに膜貫通領域5及び6の間の細胞内ループを指す。「C末端ドメイン」は、該タンパク質の最後の膜貫通ドメインとC末端にわたり、通常細胞質内にある領域を指す。一実施形態において、この領域は、812プラス又はマイナス約10アミノ酸位置におけるほぼ保存チロシンアミノ酸残基から始まり、ポリペプチドのC末端まで続いている。
【0093】
「リガンド結合領域」又は「リガンド結合ドメイン」は、味覚受容体、特に、受容体の少なくとも細胞外ドメインを実質的に組み込んでいる味覚受容体由来の配列を指す。一実施形態において、リガンド結合領域の細胞外ドメインは、N末端ドメイン、及び場合により、膜貫通ドメインの細胞外ループのような膜貫通ドメインの一部を含んでいてよい。リガンド結合領域は、リガンド、並びに、より具体的には、味、例えば、甘味又はうま味を増強、模擬、阻害及び/又は調節する化合物に結合することができる。
【0094】
本発明のT1R受容体又はポリペプチドに関連する句である「ヘテロ多量体」又は「ヘテロ多量体複合体」は、少なくとも1種のT1R受容体と他の受容体、一般的に他のT1R受容体ポリペプチド(又は、他に代わるべきものとして、他の非T1R受容体ポリペプチド)との機能的結合を指す。明確にするために、T1Rsの機能的相互依存性は、本願書においてヘテロ二量体味覚受容体複合体としてのそれらの可能な機能を反映していると記載している。しかし、先に論じたように、機能的相互依存性は、あるいは間接的相互作用を反映している可能性がある。例えば、T1R3は、独立に味覚受容体として作用することができるT1R1及びT1R2の表面発現を単に促進するために機能している可能性がある。あるいは、機能的味覚受容体は、カルシウム関連受容体のRAMP依存性プロセシングと類似した、T1R1又はT1R2の制御下で差別的に処理されるT1R3のみから構成されている可能性がある。
【0095】
T1Rファミリーメンバー媒介味覚変換を調節する化合物を試験するためのアッセイに関連する句である「機能的影響」は、間接的又は直接的に受容体の影響、例えば、機能的、物理的及び化学的影響の下にあるパラメーターの測定を含む。それは、in vitro、in vivo及びex vivoでのリガンド結合、イオン流束の変化、膜電位、電流、転写、Gタンパク質結合、GPCRリン酸化及び脱リン酸化、コンホメーション変化に基づくアッセイ、シグナル伝達、受容体−リガンド結合、二次メッセンジャー濃度(例えば、cAMP、cGMP、IP3又は細胞内Ca2+)を含み、また、神経伝達物質又はホルモン放出の増加又は減少のような他の生理的影響も含む。
【0096】
アッセイに関連する「機能的影響の測定」は、間接的又は直接的にT1Rファミリーメンバーの影響、例えば、機能的、物理的及び化学的影響の下にあるパラメーターを増加又は減少させる化合物のアッセイを意味する。そのような機能的影響は、当業者に知られている手段、例えば、分光学的特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形状)、クロマトグラフ又は溶解特性、パッチクランプング、電圧感受性色素、全細胞電流、放射性同位体流出、誘導マーカー、卵母細胞T1R遺伝子発現の変化;組織培養細胞T1R発現;T1R遺伝子の転写活性化;リガンド結合アッセイ;電圧、膜電位及びコンダクタンス変化;イオン流束アッセイ;cAMP、cGMP及びイノシトール三リン酸(IP3)のような細胞内二次メッセンジャーの変化;細胞内カルシウム濃度の変化;神経伝達物質放出、コンフォーメションアッセイ等により測定することができる。
【0097】
T1R遺伝子又はタンパク質の「阻害物質」、「活性化物質」及び「調節物質」は、味覚変換のin vitro及びin vivoアッセイを用いて特定された阻害、活性化又は調節分子、例えば、リガンド、作動物質、拮抗物質並びにそれらの同族体及び模擬物質を指すのに用いられる。
【0098】
阻害物質は、例えば、結合し、刺激を部分的又は完全に阻害し、活性化を減少、妨害、遅延させ、味覚伝達を不活性化、脱増感又はダウンレギュレートする化合物、例えば、拮抗物質である。活性化物質は、例えば、結合し、刺激し、増加させ、開き、活性化し、促進し、活性化を増強し、味覚伝達を増感又はアップレギュレートする化合物、例えば、作動物質である。調節物質は、例えば、受容体と、活性化物質又は阻害物質に結合する細胞外タンパク質(例えば、エブネリン及び疎水性キャリヤーファミリーの他のメンバー)との相互作用を変化させる化合物;Gタンパク質;キナーゼ(例えば、受容体の不活性化及び脱増感に関与するロドプシンキナーゼ及びベータアドレナリン受容体キナーゼの同族体);並びに受容体を不活性化及び脱増感もするアレスチンなどである。調節物質としては、T1Rファミリーメンバーの遺伝学的に修飾された変異型、例えば、活性の変化を有する変異型、並びに、天然及び合成リガンド、拮抗物質、作動物質、小化学分子等があり得る。阻害物質及び活性化物質のそのようなアッセイは、例えば、細胞又は細胞膜中でT1Rファミリーメンバーを発現させ、調味料、例えば、甘味料の存在下又は非存在下で推定上の調節化合物を投与し、次いで、上記のように味覚変換に対する機能的影響を測定することなどである。可能な活性化物質、阻害物質又は調節物質で処理したT1Rファミリーメンバーを含むサンプル又はアッセイを阻害物質、活性化物質又は調節物質を含まない対照サンプルと比較して、調節の程度を検討する。陽性対照サンプル(例えば、調節物質を添加しない甘味料)は、相対T1R活性値が100%であるとする。
【0099】
陰性対照サンプル(例えば、味覚刺激物質を添加しない緩衝液)は、相対T1R活性値が0%であるとする。T1Rの阻害は、陽性対照サンプルと調節物質との混合により、T1R活性値が陽性対照値と比較して、約80%、場合により50%又は25〜0%となるときに達成される。調節物質のみによるT1Rの活性化は、T1R活性値が陽性対照値と比較して、10%、25%、50%、75%、場合により100%、場合により150%、場合により200〜500%又は1000〜3000%より高いときに達成される。
【0100】
「精製された」、「実質的に精製された」及び「分離された」という用語は、本明細書で用いているように、本発明の化合物が通常その自然の状態では結合している他の異なる化合物が含まれない状態を指し、そのため、「精製された」、「実質的に精製された」及び「分離された」対象は、所与のサンプルの質量の重量%で、少なくとも0.5%、1%、5%、10%又は20%及びさらに好ましくは、少なくとも50%又は75%を含む。好ましい一実施形態において、これらの用語は、所与のサンプルの質量の重量%で、少なくとも95%を含む本発明の化合物を指す。本明細書で用いているように、「精製された」、「実質的に精製された」及び「分離された」という用語は、核酸又はタンパク質について言うとき、哺乳類、特にヒトの体内に自然に存在する場合と異なった精製又は濃度の状態を指す。(1)他の結合した構造又は化合物からの精製、あるいは(2)通常、哺乳類、特にヒトの体内で結合していない構造又は化合物との結合を含む、哺乳類、特にヒトの体内に自然に存在するよりも大きい精製又は濃度の程度は、「分離された」の意味の範囲内にある。本明細書に記載の核酸又はタンパク質あるいは核酸又はタンパク質のクラスは、当業者に知られている様々な方法又は工程により、分離することができ、あるいは、さもなくば、それらが通常自然では結合していない構造又は化合物と結合させることができる。
【0101】
「核酸」又は「核酸配列」という用語は、1本又は2本鎖の形態のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド オリゴヌクレオチドを指す。この用語は、核酸、すなわち、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含むオリゴヌクレオチドを含む。この用語はまた、合成骨格を有する核酸様構造を含む(例えば、Oligonucleotides and Analogues、a Practical Approach、編F.Eckstein、Oxfod Univ.Press(1991年)、Antisense Strategies、Annals of the N.Y.Academy of Sciences、第600巻、編Baserga et al.(NYAS1992年)、Milligan、J.Med.Chem.第36巻、1923〜1937頁(1993年)、Antisense Research and Applications(1993年、CRC Press)、国際公開第97/03211号、国際公開第96/39154号、Mata、Toxicol.Appl.Pharmacol.第144巻、189〜197頁(1997年)、Strauss−Soukup、Biochemistry、第36巻、8692〜8698頁(1997年)、Samstag、Antisense Nucleic Acid Drug Dev、第6巻、153〜156頁(1996年)を参照)。
【0102】
特に示さない限り、特定の核酸配列は、保存的に修飾されたその変異体(例えば、同義性コドン置換)及び相補的配列並びに明確に示された配列も暗黙的に含む。具体的には、同義性コドン置換は、例えば、1つ又は複数の選択されるコドンの第3の位置が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換されている配列を発生させることにより達成することができる(Batzer et al.、Nucleic Acid Res.第19巻、5081頁(1991年)、Ohtsuka et al.、J.Biol.Chem.第260巻、2605〜2608頁(1985年)、Rossolini et al.、Mol.Cell.Probes、第8巻、91〜98頁(1994年))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドと同義で用いられる。
【0103】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では同義で用い、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的化学的擬似体であるポリマー並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。
【0104】
「形質膜転移ドメイン」又は単に「転移ドメイン」は、ポリペプチドコード配列に組み込まれたとき、ドメインがない場合よりも、ハイブリッド(「融合」)タンパク質を高い効率で「護送」又は「転移」させることができるポリペプチドドメインを意味する。例えば、「転移ドメイン」は、ウシロドプシン受容体ポリペプチド、すなわち、7回膜貫通受容体のアミノ末端から得ることができる。しかし、他の転移促進配列ができるので、すべての哺乳動物のロドプシンを用いてもよい。したがって、転移ドメインは、7回膜貫通融合タンパク質を形質膜に転移させるのに特に効率がよく、アミノ末端転移ドメインを含むタンパク質(例えば、味覚受容体ポリペプチド)は、ドメインがない場合よりも効率よく形質膜に輸送される。しかし、本発明のT1R受容体の場合のように、もしポリペプチドのN末端が結合に際して活性ならば、他の転移ドメインの使用が好ましいと言える。例えば、本明細書に記載のようなPDZドメイン相互作用性ペプチドを用いることができる。
【0105】
本明細書に記載する「転移ドメイン」、「リガンド結合ドメイン」及びキメラ受容体組成物も具体例としての配列に実質的に対応する構造及び活性を有する「類似体」又は「保存的変異体」及び「擬似体」(ペプチド擬似体)を含む。したがって、「保存的変異体」又は「類似体」又は「擬似体」は、本明細書で定義したように、変化が実質的にポリペプチドの(保存的変異体の)構造及び/又は活性を変化させないような修飾アミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。これらは、アミノ酸配列の保存的に修飾された変異体、すなわち、タンパク質活性にとって重要でない残基のアミノ酸置換、付加又は欠失、あるいは、重要なアミノ酸の置換さえも構造及び/又は活性を実質的に変化させないような類似の特性(例えば、酸性、塩基性、正又は負に荷電、極性又は非極性等)を有する残基によるアミノ酸の置換を含む。
【0106】
特に、「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸及び核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関しては、保存的に修飾された変異体は、同じ又は本質的に同じアミノ酸配列をコードする核酸を指し、あるいは、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同じ配列を指す。遺伝コードの同義性のゆえに、多数の機能的に同じ核酸が所与のタンパク質をコードする。
【0107】
例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより指定されるすべての位置において、コドンは、コードされるポリペプチドを変化させることなく記述される対応するコドンのいずれかに変化し得る。
【0108】
そのような核酸変異体は、保存的に修飾された変異体の1つの種である「サイレント変異体」である。ポリペプチドをコードする本明細書におけるすべての核酸配列は、核酸のすべての可能なサイレント変異体も記述する。当業者は、核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG及び通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)が修飾されて、機能的に同じ分子が生じることがあり得ることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異体は、記述された各配列に内在する。
【0109】
機能的に類似のアミノ酸を記載した同類置換表は、当技術分野においてよく知られている。例えば、同類置換を選択するための1つの具体例としてのガイドラインは次の通りである(オリジナル残基に続いて具体例としての置換)。ala/gly又はser;arg/lys;asn/gln又はhis;asp/glu;cys/ser;gln/asn;gly/asp;gly/ala又はpro;his/asn又はgln;ile/leu又はval;leu/ile又はval;lys/arg又はglu又はglu;met/leu又はtyr又はile;phe/met又はleu又はtyr;ser/thr;thr/ser;trp/tyr;try/trp又はphe;val/ile又はleu。別の具体例としてのガイドラインは、それぞれが互いに同類置換であるアミノ酸を含む次の6群を用いる。1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リシン(I)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)及び6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)(例えば、Creighton、Proteins、W.H.Freeman and Company(1984年)、Schultz and Schimer、Principles of Protein Structure、Springer−Vrlag(1979年)も参照)。当業者は、上記の置換が唯一の可能な置換ではないことを認識するであろう。例えば、すべての荷電アミノ酸を、正であるか負であるかにかかわりなく、互いに同類置換とみなすことができる。さらに、コードされた配列において単一アミノ酸又はわずかな割合のアミノ酸を変化させ、加え、又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加も「保存的に修飾された変異体」とみなすことができる。
【0110】
「擬似体」及び「ペプチド擬似体」という用語は、ポリペプチド、例えば、本発明の転移ドメイン、リガンド結合ドメイン又はキメラ受容体の実質的に同じ構造及び/又は機能特性を有する合成化合物を指す。擬似体は、アミノ酸の合成による非天然類似体から完全に構成されているか、あるいは、部分的に天然ペプチドアミノ酸及び部分的にアミノ酸の非天然類似体からなるキメラ分子であってよい。擬似体はまた、置換が擬似体の構造及び/又は活性をも実質的に変化させない限り、任意の量の天然アミノ酸同類置換を組み込むことができる。
【0111】
保存的変異体である本発明のポリペプチドの場合と同様に、ルーチンの実験により、擬似体が本発明の範囲内にあるかどうか、すなわち、その構造及び/又は機能が実質的に変化していないかどうかを判定できるであろう。ポリペプチド擬似組成物は、一般的に次の3構造群に属する天然に存在しない構造成分を含んでいてよい。すなわち、a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結群、b)天然に存在するアミノ酸残基の代わりの非天然残基、又はc)二次構造擬似体を誘導、すなわち二次構造、例えば、βターン、γターン、βシート、αらせんコンホメーション等を誘導又は安定化する残基。ポリペプチドは、その残基のすべて又は一部が天然ペプチド結合以外の化学的手段により連結されているとき、擬似体と特徴付けることができる。個々のペプチド擬似残基は、ペプチド結合、例えば、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、2官能性マレイド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN,N’−ジイソプロピル カルボジイミド(DIC)のような他の化学結合又はカップリング手段により連結させることができる。伝統的アミド結合(「ペプチド結合」)連結の代わりとなり得る結合基は、例えば、ケトメチレン(例えば、−C(=O)−NH−の代わりの−C(=O)−CH2−)、アミノメチレン(CH2−NH)、エチレン、オレフィン(CH=CH)、エーテル(CH2−O)、チオエーテル(CH2−S)、テトラゾール(CN4)、チアゾール、レトロアミド、チオアミド又はエステルなどである(例えば、Spatola、Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins、第7巻、267〜357頁、「Peptide Backbone Modifications」、Marcell Dekker、NY(1983年)を参照)。ペプチドは、天然に存在するアミノ酸残基の代わりにすべて又は一部の非天然残基を含むことによっても擬似体と特徴付けることができる。非天然残基については、科学及び特許文献に十分に記載されている。
【0112】
「標識」又は「検出可能部分」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的又は化学的手段により検出可能な組成物である。例えば、有用な標識としては、32P、蛍光色素、電子密度が高い試薬、(例えば、ELISAに一般的に使用されるような)酵素、ビオチン、ジゴキシゲニン、あるいは、例えば放射性標識をペプチドに組み込むことにより検出可能にすることができる、又はペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために用いられるハプテン及びタンパク質などがある。
【0113】
「標識核酸プローブ又はオリゴヌクレオチド」は、プローブの存在をプローブに結合している標識の存在を検出することにより検出することができるように、標識にリンカー又は化学結合により共有結合で、あるいは、イオン、ファンデルワールス、静電又は水素結合により非共有結合で結合したものである。
【0114】
本明細書で用いているように「核酸プローブ又はオリゴヌクレオチド」は、1つ又は複数の種類の化学結合により、通常相補的塩基対合により、通常水素結合の形成により、相補的配列の標的核酸に結合することができる核酸と定義される。本明細書で用いているように、プローブは、天然(すなわち、A、G、C又はT)あるいは修飾塩基(7−デアザグアノシン、イノシン等)を含んでいてよい。さらに、プローブ中の塩基は、ハイブリダイゼーションを妨害しない限り、ホスホジエステラーゼ結合以外の結合により連結されていてよい。したがって、例えば、プローブは、構成塩基がホスホジエステラーゼ結合でなく、ペプチド結合に連結されているペプチド核酸であってよい。プローブは、ハイブリッド条件の厳密性によって、プローブ配列との完全な相補性を欠く標的配列と結合することができることは、当業者により理解されよう。プローブは、場合により、同位体、発色団、発光団、色素原などにより直接標識するか、あるいは、ビオチンなどに間接的に標識し、ストレプトアビジン複合体を後に結合させてもよい。プローブの存在又は非存在を検定することにより、選択配列又はサブ配列の存在又は非存在を検出することができる。
【0115】
核酸の一部について用いるとき、「異種」という用語は、核酸が自然では互いに同じ関係で認められない2つ又はそれ以上のサブ配列を含むことを示している。例えば、新規の機能の核酸を作るために配列させた無関係の遺伝子からの2つ又はそれ以上の配列、例えば、1つの源からのプロモーターと他の源からのコーティング領域を有する核酸を一般的に組換えにより生成させる。同様に、異種タンパク質は、自然では互いに同じ関係で認められない2つ又はそれ以上のサブ配列を含むタンパク質(例えば、融合タンパク質)を示す。
【0116】
「プロモーター」は、核酸の転写を誘導する核酸配列のアレイと定義される。本明細書で用いているように、プロモーターは、ポリメラーゼII型プロモーターの場合のTATAエレメントのように、転写開始部位の近くの必要な核酸配列を含む。プロモーターはまた、場合により、転写開始部位から数千塩基対に位置することができる遠位エンハンサー又はリプレッサーエレメントを含む。「構成」プロモーターは、ほとんどの環境及び発生条件下で活性であるプロモーターである。
【0117】
「誘導」プロモーターは、環境又は発生制御下で活性であるプロモーターである。「作動的に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(プロモーター又は転写因子結合部位のアレイのような)と第2の核酸配列との間の機能的連結を指し、それにより核酸発現制御配列が第2の該配列に対応する核酸の転写を誘導する。
【0118】
本明細書で用いているように、「組換え」は、in vitroで合成又は他の方法で操作されたポリヌクレオチド(例えば、「組換えポリヌクレオチド」)を、細胞又は生物学的システム中で遺伝子産物を生産するために組換えポリヌクレオチドを用いる方法を、あるいは、組換えポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド(「組換えタンパク質」)を指す。「組換え手段」は、本発明の転移ドメイン及び本発明のプライマーを用いて増幅される核酸を含む融合タンパク質の発現、例えば、誘導又は構成性発現のために、発現カセット又はベクターへの種々の源からの様々なコーディング領域又はドメイン又はプロモーター配列の連結反応も含む。
【0119】
本明細書で用いているように、「安定な細胞系」は、安定に、すなわち長期にわたって、異種核酸配列、すなわち、T1R又はGタンパク質を発現する細胞系を指す。好ましい実施形態において、そのような安定な細胞系は、適切な細胞、一般的に哺乳類細胞、例えば、HEK−293細胞をT1R発現構造、すなわち、T1R1、T1R2及び/又はT1R3を含む線状化ベクターでトランスフェクトして生産されるであろう。最も好ましくは、そのような安定な細胞系は、hT1R1及びhT1R3又はhT1R2及びhT1R3を発現する2つの線状化プラスミドを同時トランスフェクトし、適切な選択方法により、安定に組み込まれたこれらの遺伝子を有する細胞系を発生させることにより、生産されるであろう。さらに好ましくは、細胞系は、Gα15のようなGタンパク質も安定に発現するであろう。
【0120】
「選択的に(又は特異的に)ハイブリダイズする」という句は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物(例えば、全細胞又はライブラリーDNAもしくはRNA)中に存在する場合に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下である分子が該配列のみに結合、二重鎖形成又はハイブリダイズすることを指す。
【0121】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という句は、プローブが一般的に核酸の複雑な混合物中でその標的サブ配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。厳密条件は、配列依存性であり、異なる環境中では異なる。配列が長いほど、高温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen、Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Probes、「Overview of principles of hybridization and the strategy of nuclear acid assays」(1993年)に見いだされる。一般的に、厳密条件は、規定のイオン強度pHにおける特定の配列の融点(Tm)より約5〜10℃低い温度として選択する。Tmは、標的に対して相補的なプローブの50%が平衡において標的配列とハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH及び濃度下)である(標的配列が過剰に存在するとき、Tmでは平衡においてプローブの50%が占有される)。厳密条件は、pH7.0〜8.3において塩濃度が約1.0Mナトリウムイオン、一般的に約0.01〜1.0Mナトリウムイオン濃度(又は他の塩)で、温度が短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)に対しては少なくとも約30℃で、長いプローブ(例えば、50ヌクレオチドより長い)に対しては少なくとも約60℃である条件である。厳密条件は、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によっても達成できる。選択的又は特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍であり、場合によりバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。具体例の厳密条件は次の通りである。50%ホルムアミド、5×SSC及び1%SDS、42℃でインキュベート、又は、5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベート、0.2×SSCで洗浄、65℃で0.1%SDS。そのようなハイブリダイゼーション及び洗浄段階は、例えば、1、2、5、10、15、30、60分間又はそれ以上の分時にわたって行うことができる。
【0122】
厳密条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするポリペプチドが実質的に関連している場合、依然として実質的に関連している。これは、例えば、核酸のコピーが遺伝コードにより許容される最大コドン同義性を用いて造られるときに起こる。そのような場合、核酸は一般的に中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。具体例としての「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」としては、40%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSの緩衝液中37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSCで45℃で洗浄などである。そのようなハイブリダイゼーション及び洗浄段階は、例えば、1、2、5、10、15、30、60分間又はそれ以上の分時にわたって行うことができる。陽性ハイブリダイゼーションは、バックグラウンドの少なくとも2倍である。当業者は、別のハイブリダイゼーション及び洗浄条件を用いて同様の厳密性の条件を得ることができることを認識するであろう。
【0123】
「抗体」は、抗原に特異的に結合し、それを認識する免疫グロブリン遺伝子又はその断片のフレームワーク領域を含むポリペプチドを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常部遺伝子並びに極めて多数の可変部遺伝子を含む。軽鎖は、κ又はλと分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ又はεと分類され、それらはさらにそれぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを定義する。
【0124】
具体例としての免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同じ対からなり、各対は1つの「軽」(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のN末端は、主として抗原認識の役割を担っている約100〜110又はそれ以上のアミノ酸の可変部を定める。「可変軽鎖」(VL)及び「可変重鎖」(VH)という用語は、それぞれこれらの軽及び重鎖を指す。
【0125】
「キメラ抗体」は、(a)定常部又はその一部が変化し、置換され、又は交換され、その結果、抗原結合部位(可変部)が、異なる又は変化したクラス、エフェクター機能及び/又は種、あるいは、キメラ抗体に新規の特性を付与する完全に異なった分子、例えば、酵素、トキシン、ホルモン、成長因子、薬物等の定常部に連結されている、あるいは、(b)可変部又はその一部が変化し、異なる又は変化した抗原特異性を有する可変部で置換又は交換された、抗体分子である。
【0126】
「抗T1R」抗体は、T1R遺伝子、cDNA又はそのサブ配列によりコードされたポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体断片である。
【0127】
「イムノアッセイ」は、抗原に特異的に結合する抗体を用いるアッセイである。イムノアッセイは、抗原を分離し、標的とし、かつ/又は定量するために、特定の抗体の特異的結合特性を使用することを特徴とする。
【0128】
抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」、あるいはタンパク質又はペプチドについて言及する場合、「特異的に(又は選択的に)免疫反応性を示す」という句は、タンパク質及び他の生物学的実体の異種集団中のタンパク質の存在を決定する結合反応を指す。したがって、指定されたイムノアッセイ条件下では、指定の抗体は、特定のタンパク質にバックグラウンドの少なくとも2倍結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質に有意な量で実質的に結合しない。そのような条件下での抗体への特異的結合は、特定のタンパク質に対するその特異性について選択される抗体を必要とする。例えば、ラット、マウス又はヒトのような特定の動物種からT1Rファミリーメンバーに対して酸性させたポリクローナル抗体は、T1Rポリペプチド又はその免疫原性部分と特異的に免疫反応性で、T1Rポリペプチドのオーソログ又は多形性変異体及び対立遺伝子を除く、他のタンパク質と免疫反応性でないポリクローナル抗体のみを得るために選択することができる。この選択は、他の動物種のT1R分子又は他のT1R分子と交差反応する抗体を除外することにより達成することができる。T1R GPCRファミリーメンバーのみを認識するが、他のファミリーのGPCRsは認識する抗体も選択することができる。
【0129】
様々な種類のイムノアッセイを用いて、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイを常法により用いてタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択する(特異的免疫反応性を検討するために用いることができるイムノアッセイの種類と条件の記述については、例えば、Harlow & Lane、Antibodies、A Laboratory Manual(1988年)を参照)。一般的に、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍であり、より一般的にはバックグラウンドの10〜100倍以上である。
【0130】
「選択的に結合する」という句は、上で定義したように、他と「選択的にハイブリダイズする」核酸の能力、あるいは、上で定義したように、タンパク質に「選択的に(又は特異的に)結合する」抗体の能力を指す。
【0131】
「発現ベクター」という用語は、原核、酵母、真菌、植物、昆虫又は哺乳類細胞を含む任意の細胞中で本発明の核酸配列をin vitro又はin vivoで、構成的に又は誘導的に発現させる目的のための組換え発現システムを指す。この用語は、線状又は環状発現システムを含む。この用語は、エピソームのまま又は宿主細胞ゲノムに組み込まれる発現システムを含む。発現システムは、自己複製する能力をもつことができるか、あるいは、できない、すなわち、細胞中で一時的発現のみを誘導することができる。この用語は、組換え核酸の転写に必要な最小限の要素のみを含む組換え発現カセットを含む。
【0132】
「宿主細胞」は、発現ベクターを含み、発現ベクターの複製又は発現を支持する細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌のような原核細胞並びにCHO、Hela、HEK−293等、例えば、培養細胞、外植片及びin vivo細胞のような酵母、昆虫、両生類、虫又は哺乳類細胞のような真核細胞であってよい。
【0133】
T1Rポリペプチドの分離及び発現
本発明のT1Rsあるいはその断片又は変異体の分離及び発現は、下記のように実施することができる。味覚受容体リガンド結合領域をコードする核酸の増幅にPCRプライマーを用いることができ、そして、これらの核酸のライブラリーを場合によって発生させることができる。次に、これらの核酸又はライブラリーの機能的発現のために、個々の発現ベクター又は発現ベクターのライブラリーを用いて宿主細胞を感染又はトランスフェクトすることができる。これらの遺伝子及びベクターは、in vitro又はin vivoで造り、発現させることができる。当業者は、核酸の発現を変化させ、制御するための所望の表現型は、本発明のベクター内で遺伝子及び核酸(例えば、プロモーター、エンハンサー等)の発現又は活性を調節することにより得ることできることを認識するであろう。発現又は活性を増加又は減少させるための記載された既知の方法のいずれかを用いることができる。本発明は、科学及び特許文献に十分に記載されている当技術分野で知られているいずれかの方法又はプロトコールと組み合わせて実施することができる。
【0134】
本発明の核酸配列及び本発明を実施するために用いられる他の核酸は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、ベクター、ウイルス又はそのハイブリッドであろうとも、遺伝子工学的に処理した、増幅した、かつ/又は組換えにより発現させた様々な源から分離することができる。哺乳類細胞のほかに、例えば、細菌、酵母、昆虫又は植物系を含む組換え発現システムを用いることができる。
【0135】
あるいは、これらの核酸は、例えば以下に記載されているように、よく知られている化学合成法によりin vitroで合成することができる。Carruthers、Cold Spring Hrbor Symp.Quant.Biol.第47巻、411〜418頁(1982年)、Adams、Am.Chem.Soc.第105巻、661頁(1983年)、 Belousov、Nucleic Acids Res.第25巻、3440〜3444頁(1997年)、Frenkel、Free Radic.Biol.Med.第19巻、373〜380頁(1995年)、Blommers、Biochemistry、33巻、7886〜7896頁(1994年)、Narang、Meth.Enzymol.第68巻、90頁(1979年)、Brown、Meth.Enzymol.第68巻、109頁(1979年)、Beaucage、Tetra.Lett.第22巻、1859頁(1981年)、米国特許第4,458,066号。2本鎖DNA断片は、相補鎖を合成し、適切な条件下で鎖を一緒にアニーリングして、あるいは、適切なプライマー配列を含むDNAポリメラーゼを用いて相補鎖を加えて、得ることができる。
【0136】
例えば、配列中の突然変異体を得るためのサブクローニング、標識プローブ、配列決定、ハイブリダイゼーション等の核酸の操作のための技術は、科学及び特許文献に十分に記載されている。例えば、Sambrook、編、 Molecular Cloning:a Laboratory manual(第2版)、第1〜3巻、Cold Spring Harbor Laboratory(1989年)、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel、編、John Wiley&Sons,Inc.、New York(1997年)、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Hybridization With Nucleic Acid Probes、Part I、Theory and Nucleic Acid Preparation、Tijssen、編、Elsevier、N.Y.(1993年)を参照。
【0137】
核酸、ベクター、キャプシド、ポリペプチド等は、当業者によく知られている多くの一般的手段のいずれかにより分析し、定量することができる。これらは、例えば、NMR、分光光度法、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)及び超拡散クロマトグラフィーのような分析生化学法、様々な免疫学的方法、例えば、液体又はゲル沈降素反応、免疫拡散、免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIAs)、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ、サザン分析、ノーザン分析、ドットブロット分析、ゲル電気泳動(例えば、SDS−PAGE)、RT−PCR、定量的PCR、他の核酸又は標的又はシグナル増幅法、放射性標識法、シンチレーション計数法及びアフィニティクロマトグラフィーなどである。
【0138】
味覚受容体リガンド結合領域をコードする核酸断片を増幅するためにオリゴヌクレオチドプライマーを用いることができる。本明細書に記載する核酸も増幅技術を用いてクローン又は定量的に測定することができる。増幅法も当技術分野でよく知られており、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、PCR(PCR Protocols、a Guide to Methods and Applications、Innis編、Academic Press、N.Y.(1990年)、PCR Strategies、Innis編、Academic Press、N.Y.(1995年))、リガーゼ連鎖反応(LCR)(例えば、Wu、Genomics、第4巻、560頁(1989年)、Landegren、Science、第241巻、1077頁、(1988年)、Barringer、Gene、第89巻、117頁(1990年)を参照)、転写増幅(例えば、Kwoh、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第86巻、1173頁(1989年)を参照)、自己持続配列複製(例えば、Guatelli、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、。第87巻、1874頁(1990年)を参照)、Qベータレプリカーゼ増幅(例えば、Smith、J.Clin.Microbiol.第35巻、1477〜1491頁(1997年)を参照)、自動Q−ベータレプリカーゼ増幅アッセイ(例えば、Burg、Mol.Cell.Probes、第10巻、257〜271(1996年)を参照)及び他のRNAポリメラーゼを用いる手法(例えば、NASBA、Cangene、Mississauga、Ontario)、また、Berger、Methods Enzymol.第152巻、307〜316頁(1987年)、Sambrook、Ausubel、米国特許第4,683,195号及び第4,683,202号、Sooknanan、Biotechnology、第13巻、563〜564頁(1995年)も参照)などがある。プライマーは、「ドナー」の7回膜貫通受容体の元の配列を保持するように設計することができる。あるいは、プライマーは、保存的置換(例えば、疎水性残基について疎水性、上記の議論を参照)又は機能的に温和な置換(例えば、形質膜挿入を妨げない、ペプチダーゼによる切断をもたらす、受容体の折り畳みをもたらす)であるアミノ酸残基をコードすることができる。増幅されたならば、核酸は、個別に又はライブラリーとして、当技術分野で知られている方法により、所望ならば、常用の分子生物学的方法を用いて様々なベクターのいずれかにクローンすることができる。in vitroで増幅された核酸のクローニングの方法は、例えば、米国特許第5,426,039号に記載されている。
【0139】
プライマー対は、T1Rファミリーメンバーのリガンド結合領域を選択的に増幅するように設計することができる。これらの領域は、異なるリガンド又は味覚物質ごとに異なっている可能性がある。したがって、1つの味覚物質に対して最小限の結合領域であるものは、別の味覚物質に対して限定されすぎていることがあり得る。したがって、種々の細胞外ドメイン構造を含む種々のサイズの結合領域を増幅させてよい。
【0140】
同義性プライマー対の設計のパラダイムは、当技術分野においてよく知られている。例えば、共通同義性ハイブリッドオリゴヌクレオチドプライマー(COnsensus−DEgenerate Hybrid Oligonucleotide Primer)(CODEHOP)戦略コンピュータプログラムは、http://blocks.fhcrc.org/codehop.htmlとしてアクセスでき、既知の味覚受容体リガンド結合領域として、一連の関連タンパク質配列から始まるハイブリッドプライマー予測のために、BlockMaker多重配列アライメントサイトから直接連結されている(例えば、Rose、Nucleic Acids Res.第26巻、1628〜1635頁(1998年)、Singh、Biotechniques、第24巻、318〜319頁(1998年)を参照)。
【0141】
オリゴヌクレオチドプライマー対を合成する手段は、当技術分野でよく知られている。「天然」塩基対又は合成塩基対を用いることができる。例えば、人工ヌクレオ塩基の使用により、プライマー配列を操作し、増幅産物のより複雑な混合物を得る汎用性のある手法が可能となる。人工ヌクレオ塩基の種々のファミリーは、内部結合回転による多重水素結合配向を推定して、同義性分子認識の手段を得ることができる。これらの類似体のPCRプライマーの単一位置への組み込みにより、増幅産物の複雑なライブラリーを得ることができる。例えば、Hoops、Nucleic Acids Res.第25巻、4866〜4871頁(1997年)を参照。非極性分子も天然DNA塩基の形状を模擬するために用いることができる。アデニンの非水素結合形状模擬は、チミンの非極性形状模擬と対照して効率的かつ選択的に再現することができる(例えば、Morales、Nat.Struct.Biol.第5巻、950〜954頁(1998年)を参照)。例えば、2つの同義性塩基は、ピリミジン塩基6H、8H−3,4−ジヒドロピリミド[4,5−c][1,2]オキサジン−7−オン又はプリン塩基N6−メトキシ−2,6−ジアミノプリンであってよい(例えば、Hill、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第95巻、4258〜4263頁(1998年)を参照)。本発明の実例としての同義性プライマーは、ヌクレオ塩基類似体5’−ジメトキシトリチル−N−ベンゾイル−2’−デオキシ−シチジン,3’−[(2−シアノエチル)−(N,N−ジイソプロピル)]−ホスホルアミダイトを組み込んでいる(配列中の「P」については、上記を参照)。このピリミジン類似体水素は、A及びG残基を含むプリンと結合する。
【0142】
本明細書に開示する味覚受容体と実質的に同じである多形性変異体、対立遺伝子及び種間同族体は、上記の核酸プローブを用いて分離することができる。あるいは、T1R同族体も認識し、選択的に結合する、T1Rポリペプチドに対して産生させた抗血清又は精製抗体を用いて発現同族体を免疫学的に検出することにより、発現ライブラリーを用いて、T1Rポリペプチド並びに多形性変異体、対立遺伝子及びその種間同族体をクローンすることができる。
【0143】
味覚受容体のリガンド結合領域をコードする核酸は、同義性プライマー対を用いて適切な核酸配列の増幅(例えば、PCR)により得ることができる。増幅する核酸は、任意の細胞又は組織のゲノムDNAあるいは味覚受容体発現細胞由来のmRNA又はcDNAであってよい。
【0144】
一実施形態において、転移配列に融合されたT1Rsをコードする核酸を含むハイブリッドタンパク質コード配列を構築することができる。また、化学感覚受容体、特に味覚受容体の他のファミリーの転移モチーフ及び味覚物質結合ドメインを含むハイブリッドT1Rsも提供する。これらの核酸配列は、転写又は翻訳制御要素、例えば、転写及び翻訳開始配列、プロモーター及びエンハンサー、転写及び翻訳ターミネーター、ポリアデニル化配列及びRNAへのDNAの転写に有用な他の配列に作動的に連結させることができる。組換え発現カセット、ベクター及び形質転換体の構成において、プロモーター断片を用いて、すべての所望の細胞又は組織中の所望の核酸の発現を誘導することができる。
【0145】
他の実施形態において、融合タンパク質は、C末端又はN末端転位配列を含んでいてよい。さらに、融合タンパク質は、例えば、タンパク質の検出、精製又は他の適用例のための追加の要素を含んでいてよい。検出及び精製促進ドメインは、例えば、固定化金属の精製を可能にするポリヒスチジン路、ヒスチジン−トリプトファンモジュール又は他のドメインのような金属キレート化ペプチド、マルトース結合タンパク質、固定化免疫グロブリンの精製を可能にするタンパク質AドメインあるいはFLAGG延長/アフィニティ精製システム(Immunex Corp.、ワシントン州シアトル)に用いられるドメインなどである。
【0146】
ファクターXa(例えば、Ottavi、Biochimie、第80巻、289〜293頁(1998年)を参照)、ズブチリシンプロテアーゼ認識モチーフ(例えば、Polyak、Protein Eng.第10巻、615〜619頁(1997年)を参照)、エンテロキナーゼ(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)等を転移ドメイン(効率のよい形質膜発現のため)と残りの新たに翻訳されたポリペプチドとの間に含めることは、精製の促進に有用である。例えば、1構築体は、6ヒスチジン残基と、続いて、エンテロキナーゼ切断部位であるチオレドキシン(例えば、Williams、Biochemitry第34巻、1787〜1797頁(1995年)を参照)及びC末端転移ドメインに結合した、ポリペプチドをコードする核酸配列を含むことができる。ヒスチジン残基は検出と精製を促進し、一方、エンテロキナーゼ切断部位は融合タンパク質の残りの部分の所望のタンパク質の精製の手段を提供する。融合タンパク質をコードするベクターに関する技術及び融合タンパク質の適用例は、科学及び特許文献に十分に記載されている。例えば、Kroll、DNA Cell Biol.第12巻、441〜53頁(1993年)を参照。
【0147】
リガンド結合ドメインをコードするベクターを含む、個別の発現ベクター又は発現ベクターのライブラリーとしての発現ベクターは、ゲノムあるいは細胞質又は細胞核に導入することができ、科学及び特許文献に十分に記載されている様々な従来の技術により発現させることができる。例えば、Roberts、Nature、第328巻、731頁(1987年)、Berger、前出、Schneider、Protein Expr.Purif.第6435巻、10頁(1995年)、Sambrook、Tijssen、Ausbelを参照。生物学的試薬及び実験装置の製造業者からの製品情報も既知の生物学的方法に関する情報を提供する。ベクターは、ATCC又はGenBankライブラリーのような源から得られる天然源から分離、あるいは、合成又は組換え法により調製することができる。
【0148】
核酸は、細胞中で安定に又は一時的に発現させた発現カセット、ベクター又はウイルスを用いて発現させることができる(例えば、エピソーム発現システム)。形質転換細胞及び配列に選択可能な表現型を付与するために、選択マーカーを発現カセット及びベクターに組み込むことができる。例えば、選択マーカーは、宿主ゲノムへの組み込みの必要がないように、エピソームの維持及び複製のためにコードすることができる。例えば、所望のDNA配列で形質転換した細胞の選択を可能にするために、マーカーは抗生物質耐性(例えば、クロラムフェニコール、カナマイシン、G418、ブラスチシジン、ハイグロマイシン)又は除草剤耐性(例えば、クロロスルフロン又はBasta)をコードすることができる(例えば、Blondelet−Rouault、Gene、第190巻、315〜317頁(1997年)、Aubrecht、J.Pharmacol.Exp.Ther.第281巻、992〜997頁(1997年)を参照)。ネオマイシン又はハイグロマシシン様基質に耐性を付与する選択マーカー遺伝子は組織培養中でのみ使用することができるので、化学耐性遺伝子もin vitro及びin vivoで選択マーカーとして用いることができる。
【0149】
キメラ核酸配列は、7回膜貫通ポリペプチド内のT1Rリガンド結合ドメインをコードすることができる。7回膜貫通受容体ポリペプチドは類似の1次配列並びに2次及び3次構造を有するので、構造ドメイン(例えば、細胞外ドメイン、TMドメイン、細胞質ドメイン等)は配列分析により容易に同定することができる。例えば、相同モデリング、フーリエ解析及びらせん周期性検出は、7回膜貫通受容体配列の7つのドメインを同定し、特徴付けることができる。迅速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて、分析済み配列の疎水性及び変動のプロファイルを特徴付ける優勢周期を評価した。周期性検出増強及びαらせん周期性指数の評価は、例えば、Donnelly、Protein Sci.第2巻、55〜70頁(1993年)に記載のように実施することができる。他のアライメント及びモデリングのアルゴリズムは、当技術分野でよく知られている。例えば、Peitsch、Receptors Channels第4巻、161〜164頁(1996年)、Kyte&Doolittle、J.Med.Bio.第157巻、105〜132頁(1982年)、Cronet、Protein Eng.第6巻、59〜64頁(1993年)を参照。
【0150】
本発明はまた、指定の核酸及びアミノ酸配列を有するDNA及びタンパク質だけでなく、DNA断片、特に、例えば、40、60、80、100、150、200又は250ヌクレオチドあるいはそれ以上の断片並びに例えば、10、20、30、50、70、100又は150アミノ酸あるいはそれ以上の断片も含む。場合により、核酸断片は、T1Rファミリーメンバーに対して産生させた抗体に結合することができる抗原性ポリペプチドをコードすることができる。さらに、本発明のタンパク質断片は、場合により、T1Rファミリーメンバーに対して産生させた抗体に結合することができる抗原性断片であり得る。
【0151】
本明細書に記載するT1Rポリペプチドの少なくとも1つのうちの1つの少なくとも10、20、30、50、70、100又は150アミノ酸あるいはそれ以上を含み、他のGPCR、好ましくは7回膜貫通スーパーファミリーのメンバーのすべて又は一部を表す別のアミノ酸に結合したキメラタンパク質も予想される。これらのキメラは、本発明の受容体と他のCPCRとから調製することができ、あるいは、本発明のT1R受容体の2つ又はそれ以上を組み合わせて調製することができる。一実施形態において、キメラの1部は、本発明のT1Rポリペプチドの細胞外ドメインに対応するか、又は由来するものである。他の実施形態において、キメラの1部は、本明細書に記載のT1Rポリペプチドの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインの1つ又は複数に対応するか、又は由来し、残りの1部又は各部分が他のGPCR由来である。キメラ受容体は当技術分野でよく知られており、それらを造る技術並びにそれに含めるためのGタンパク質結合受容体のドメイン又は断片の選択及び境界もよく知られている。したがって、当業者のこの知識を用いてそのようなキメラ受容体を容易に造ることができる。そのようなキメラ受容体を用いることにより、例えば、本明細書に具体的に開示する受容体の1つの味覚選択性特性と、従来技術のアッセイシステムに用いられるよく知られている受容体のような他の受容体のシグナル伝達特性とを結合させることができる。
【0152】
上記のように、天然T1R受容体あるいは天然T1R受容体の組合せ又は結合と類似のそのようなキメラは、甘味又はうま味に通常影響を及ぼす分子に結合し、かつ/又はそれにより活性化されるであろう。機能的キメラT1R受容体又は受容体の組合せは、単独あるいは他のT1Rs又は他のGPCRs(それら自体キメラであってよい)と共に発現するときに結合する、味覚刺激、特に、甘味(T1R2/3)又はうま味刺激(T1R1/3)により活性化される分子である。甘味を惹起する分子は、ショ糖、アステルテーム、キシリトール、シクラメート等の天然及び人工甘味料などである。うま味を惹起する分子は、グルタミン酸塩及びグルタミン酸塩類似物並びに5’−ヌクレオチドのような天然T1R1及び/又はT1R3に結合する他の化合物などである。
【0153】
例えば、リガンド結合ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、N末端ドメイン、C末端ドメイン又はそのいずれかの組合せは、異種タンパク質に共有結合させることができる。例えば、T1R細胞外ドメインを異種GPCR膜貫通ドメインに共有結合させることができ、あるいは、異種GPCR細胞外ドメインをT1R膜貫通ドメインに共有結合させることができる。他の適切な異種タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質を用いることができる。
【0154】
本発明のT1Rs、断片、キメラ又は変異体を発現させるための宿主細胞も本発明の範囲内にある。本発明のT1Rs、断片又は変異体をコードするcDNAのようなクローンした遺伝子又は核酸の高レベルの発現を得るために、当業者は一般的に、問題の核酸配列を、転写を誘導する強いプロモーターを含む発現ベクターに、転写/翻訳ターミネーターに、並びに、タンパク質をコードする核酸の場合には、翻訳開始のためのリボソーム結合部位に、サブクローンする。適切な細菌プロモーターは、当技術分野でよく知られており、例えば、Sambrookらに記載されている。しかし、細菌又は真核生物発現システムを用いることができる。
【0155】
異種ヌクレオド配列を宿主細胞に導入するためのよく知られている方法を用いることができる。これらは、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム、マイクロインジェクション、プラスマベクター、ウイルスベクター、並びに宿主細胞にクローンゲノムDNA、cDNA、合成DNA又は他の異種遺伝物質を導入するための他のよく知られている方法(例えば、Sambrookらを参照)などである。遺伝子工学の用いる特定の手順によって、問題のT1R、断片又は変異体を発現させることができる宿主細胞へ、少なくとも1つの核酸分子の導入に成功することができれば、それでよい。
【0156】
発現ベクターを細胞に導入した後、トランスフェクトされた細胞を問題の受容体、フラグンメント又は変異体の発現に有利な条件下で培養し、次いで、標準的方法を用いて培養から回収する。そのような方法の例は当技術分野でよく知られている。この開示と一致した方法で参照により本明細書に組み込まれる、例えば、国際公開第00/06593号を参照。
【0157】
T1Rポリペプチドの検出
核酸ハイブリダイゼーション法を用いるT1R遺伝子及び遺伝子発現の検出に加えて、T1Rsを検出するために、例えば、味覚受容体細胞並びにT1Rファミリーメンバーの変異体を同定するためにイムノアッセイも用いることができる。イムノアッセイを用いて、T1Rsを定性的又は定量的に分析することができる。適用可能な技術の一般的な概要は、Harlow&Lane、Antibodies:A Laboratory Manual(1988年)に見いだすことができる。
【0158】
1.T1Rファミリーメンバーに対する抗体
T1Rファミリーメンバーと特異的に反応するポリクローナル及びモノクローナル抗体を生産する方法は、当業者に知られている(例えば、Coligan、Current Protocols in Immunology(1991年)、Harlow&Lane、前出、Goding、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(第2版、1986年)及びKohler&Milstein、Nature、第256巻、495〜497頁(1975年)を参照)。そのような技術としては、ファージ又は同様のベクターにおける組換え抗体のライブラリーからの抗体の選択による抗体の調製並びに免疫化ウサギ又はマウスによるポリクローナル及びモノクローナル抗体の調製などがある(例えば、Huse et al.、Science、第246巻、1275〜1281頁(1989年)、Ward et al.、Nature、第341巻、544〜546頁(1989年)を参照)。
【0159】
T1Rファミリーメンバーと特異的に反応する抗体を生産するために、多くのT1Rを含む免疫原を用いることができる。例えば、組換T1Rポリペプチド又はその抗原性断片を本明細書に記載のように分離することができる。適切な抗原性領域は、例えば、T1Rファミリーのメンバーを同定するために用いられる共通領域などである。組換えタンパク質は、上記のように真核又は原核細胞中で発現させることができ、一般的に上記のように精製することができる。組換えタンパク質は、モノクローナル又はポリクローナル抗体の生産のための好ましい免疫原である。あるいは、本明細書に開示した配列から得られ、担体タンパク質に結合させた合成ペプチドを免疫原として用いることができる。天然に存在するタンパク質も純粋又は不純の形で使用することができる。次に、生成物は、抗体を産生することができる動物中に注射する。タンパク質を測定するためのイムノアッセイでその後に用いるために、モノクローナル、ポリクローナル抗体のいずれを生成してもよい。
【0160】
ポリクローナル抗体を生産する方法は、当業者に知られている。例えば、同系繁殖系のマウス(例えば、BALB/Cマウス)又はウサギをフロイントのアジュバントのような標準アジュバント及び標準免疫化プロトコールを用いてタンパク質で免疫化する。免疫原調製物に対する動物の免疫応答を検査用採血を行ってモニターし、T1Rに対する反応性の力価を決定する。免疫原に対する抗体の適切に高い力価が得られた場合、動物から血液を採集し、抗血清を調製する。所望ならば、タンパク質に反応性の抗体を濃縮するために抗血清のさらなる分画を行うことができる(Harlow&Lane、前出を参照)。
【0161】
モノクローナル抗体は、当業者に知られている様々な手法により得ることができる。簡単に述べると、所望の抗原で免疫化した動物の脾臓細胞を一般的に骨髄腫細胞との融合により固定化することができる(Kohler&Milstein、Eur.J.Immunol.第6巻、511〜519頁(1976年)を参照)。固定化の別の方法は、エプスタインバールウイルス、腫瘍遺伝子又はレトロウイルスによる形質転換あるいは当技術分野でよく知られている他の方法である。単一固定化細胞から生じたコロニーを、抗原に対する所望の特異性及び親和性の抗体の生産についてスクリーニングし、そのような細胞により産生されたモノクローナル抗体の収量を、脊椎動物宿主の腹腔への注射を含む様々な手法により増加させることができる。あるいは、Huse et al.、Sciences、第246巻、1275〜1281(1989年)により略述された一般的プロトコールに従って、ヒトB細胞のDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体又はその結合断片をコードするDNA配列を分離することができる。
【0162】
モノクローナル抗体及びポリクローナル血清を収集し、イムノアッセイ、例えば、固体担体に固定化した免疫原を用いる固相イムノアッセイにおいて免疫原タンパク質に対して力価測定する。一般的に、104以上の力価を有するポリクローナル抗血清を選択し、非T1Rポリペプチド又は他のT1Rファミリーメンバー又は他の生物の他の関連タンパク質に対するそれらの交差反応性について、競合的結合イムノアッセイを用いて試験する。特異的ポリクローナル抗血清及びモノクローナル抗体は、通常、少なくとも約0.1mM、より通常には約1pM、場合により少なくとも約0.1pM又はより良好な値、また場合により少なくとも0.01pM又はより良好な値のKdで結合する。
【0163】
一旦T1Rファミリーメンバー特異抗体が得られれば、個々のT1Rタンパク質及びタンパク質断片を様々なイムノアッセイにより検出することができる。免疫学的及びイムノアッセイ方法の総説については、Basic and Clinical Immunology(Stites & Terr編、第7版、1991年)を参照。さらに、本発明のイムノアッセイは、Enzyme Immunoassay(Maggio編、1980年)及びHarlow&Lane、前出において広範に総説されている、いくつかの構成のいずれかにおいて実施することができる。
【0164】
2.免疫学的結合アッセイ
T1Rタンパク質、断片及び変異体は、多くのよく認識されている免疫学的結合アッセイのいずれかを用いて検出し、かつ/又は定量することができる(例えば、米国特許第4,366,241号、第4,376,110号、第4,517,288号及び第4,837,168号を参照)。一般的イムノアッセイの総説については、Methods in Cell Biology:Antibodies in Cell Biology、第37巻(Asai編、1993年)、Basic and Clinical Immunology(Stites&Terr編、第7版、1991年)も参照。免疫学的結合アッセイ(又はイムノアッセイ)では、一般的に最適のタンパク質又は抗原(この場合、T1Rファミリーメンバー又はその抗原性サブ配列)に対して特異的に結合する抗体を用いる。抗体(例えば、抗T1R)は、当業者によく知られている多くの手段のいずれかにより、及び上記のように生産することができる。
【0165】
イムノアッセイにおいても、抗体と抗原により形成される複合体に特異的に結合し、標識するための標識物質をしばしば用いる。標識物質はそれ自体、抗体/抗原複合体を含む部分の1つであってよい。したがって、標識物質は、標識T1Rポリペプチド又は標識抗T1R抗体であってよい。あるいは、標識物質は、抗体/T1R複合体に特異的に結合する第2抗体のような第3の部分であってよい(第2抗体は、第1抗体が得られる動物種の抗体に対して一般的に特異的である)。プロテインA又はプロテインGのような免疫グロブリン定常部に特異的に結合することができる他のタンパク質も標識物質として用いることができる。これらのタンパク質は、様々な動物種の免疫グロブリン定常部と強い非免疫原性反応性を示す(例えば、Kronal et al.、J.Immunol.第111巻、1401〜1406頁(1973年)、Akerstrom et al.、J.Immunol.第135巻、2589〜2542頁(1985年)を参照)。標識物質は、ストレプトアビジンのような他の分子が特異的に結合することができるビオチンのような検出可能な部分で修飾することができる。様々な検出可能な部分は、当業者によく知られている。
【0166】
アッセイを通して、インキュベーション及び/又は洗浄段階が試薬の各組合せの後に必要である。インキュベーション段階は、約5秒から数時間まで、場合により約5分から約24時間まで変わり得る。しかし、インキュベーション時間は、アッセイ方式、抗原、溶液の量、濃度等に依存する。通常、アッセイは、10℃〜40℃のような温度範囲で行うことができるが、周囲温度で実施される。
【0167】
A.非競合的アッセイ方式
サンプル中のT1Rポリペプチドを検出するためのイムノアッセイは、競合的又は非競合的であってよい。非競合的イムノアッセイは、抗原の量を直接測定するアッセイである。1つの好ましい「サンドイッチ」アッセイにおいて、例えば、抗T1R抗体を、それらが固定化されている固体基体に直接結合させることができる。これらの固定化抗体が試験サンプル中に存在するT1Rポリペプチドを捕捉する。T1Rポリペプチドは、そのように固定化され、次いで、標識を帯びている第2T1R抗体のような標識物質により結合される。あるいは、第2抗体は、標識を欠いてもよいが、次に、第2抗体が得られる動物種の抗体に対して特異的な標識第3抗体により結合される。第2又は第3抗体は一般的に、検出可能な部分を得るために、例えば、ストレプトアビジンのような他の分子が特異的に結合することができるビオチンのような検出可能な部分で修飾されている。
【0168】
B.競合的アッセイ方式
競合的アッセイでは、サンプル中に存在するT1Rポリペプチドの量を、サンプル中に存在する未知のT1Rポリペプチドにより抗T1R抗体から置換された(競合脱離した)既知の添加(外因性)T1Rポリペプチドの量を測定することにより間接的に測定する。1つの競合的アッセイにおいて、既知量のT1Rポリペプチドをサンプルに加え、次いで、サンプルをT1Rに特異的に結合する抗体と接触させる。抗体に結合する外因性T1Rポリペプチドの量は、サンプル中に存在するT1Rポリペプチドの濃度に逆比例する。特に好ましい実施形態において、抗体が固体基体に固定化されている。抗体に結合したT1Rポリペプチドの量は、T1R/抗体複合体に存在するT1Rポリペプチドの量を測定するか、あるいは、残りの複合体化していないタンパク質の量を測定して決定する。T1Rポリペプチドの量は、標識されたT1R分子を供給することによって検出することができる。
【0169】
ハプテン阻害アッセイが他の好ましい競合的アッセイである。このアッセイでは、既知のT1Rポリペプチドを固体基体に固定化する。既知量の抗T1R抗体をサンプルに加え、次いで、サンプルを固定化T1Rと接触させる。既知の固定化T1Rに結合した抗T1R抗体の量は、サンプル中に存在するT1Rポリペプチドの量に逆比例する。再び、固定化された抗体の量は、抗体の固定化された画分又は溶液中に残っている抗体の画分を検出することにより検出することができる。検出は、抗体が標識されている場合には直接に行うことができ、又は上記のように抗体に特異的に結合する標識部分の後の添加により間接的に行うことができる。
【0170】
C.交差反応性の測定
競合的結合方式のイムノアッセイは、交差反応性の測定にも用いることができる。例えば、本明細書に開示する核酸配列により少なくとも部分的にコードされたタンパク質を固体担体に固定化することができる。固定化抗原への抗血清の結合に対して競合するタンパク質(例えば、T1Rポリペプチド及び同族体)をアッセイに加える。固定化タンパク質への抗血清の結合に対して競合する添加タンパク質の能力を、それ自体と競合する本明細書に開示する核酸配列によりコードされたT1Rポリペプチドの能力と比較する。上記のタンパク質の公差反応性の割合を標準計算法により計算する。上記の添加タンパク質のそれぞれと10%未満の交差反応性を示す抗血清を選択し、プールする。交差反応性抗体は場合により、考慮された添加タンパク質、例えば、関連性が小さい同族体を用いる免疫吸収によりプールした抗血清から除去する。さらに、T1Rファミリーのメンバーを同定するのに用いられる保存モチーフを表すアミノ酸配列を含むペプチドは、交差反応性の判定に用いることができる。
【0171】
免疫吸収させた及びプールした抗血清を上記の競合的結合免疫アッセイに用いて、T1Rファミリーメンバーのおそらく対立遺伝子又は多形性変異体と考えられる第2のタンパク質を免疫原性タンパク質(すなわち、本明細書に開示する核酸配列によりコードされたT1Rポリペプチド)と比較する。この比較を行うために、2つのタンパク質をそれぞれ広範囲の濃度で分析し、固定化タンパク質への抗血清の結合の50%を阻害するのに必要な各タンパク質の量を測定する。結合の50%を阻害するのに必要な第2のタンパク質の量が、結合の50%を阻害するのに必要な本明細書に開示する核酸配列によりコードされたタンパク質の量の10倍未満の場合、第2のタンパク質は、T1Rに対して発生したポリクローナル抗体に特異的に結合するという。
【0172】
T1R保存モチーフに対して産生させた抗体は、T1RファミリーのGPCRsに対してのみ特異的に結合する抗体を調製するのにも用いることができるが、他のファミリーのGPCRsに対するものには用いることはできない。
【0173】
T1Rファミリーの特定のメンバーに特異的に結合するポリクローナル抗体は、他のT1Rファミリーメンバーを用いて交差反応性抗体を除去することにより、調製することができる。種特異ポリクローナル抗体は、同様にして調製することができる。例えば、ヒトT1R1に特異的な抗体は、オーソロガス配列、例えば、ラットT1R1又はマウスT1R1と交差反応性である抗体を除去することにより、調製することができる。
【0174】
D.他のアッセイ方式
ウエスタンブロット(イムノブロット)分析を用いて、サンプル中のT1Rポリペプチドの存在を検出し、定量する。この手法は一般的に、分子量に基づきゲル電気泳動によりサンプルタンパク質を分離し、分離したタンパク質を適切な固体担体(ニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルター又は誘導体化ナイロンフィルター)に移し、サンプルをT1Rポリペプチドに特異的に結合する抗体と共にインキュベートすることを含む。抗T1Rポリペプチド抗体は、固体担体上のT1Rポリペプチドに特異的に結合する。これらの抗体は、抗T1R抗体に特異的に結合する標識抗体(例えば、ヒツジ抗マウス抗体)を用いて直接標識することができるか、あるいは後に検出することができる。
【0175】
他のアッセイ方式としては、特定の分子(例えば、抗体)に結合するように設計されたリポソーム及び放出カプセル封入試薬又はマーカーを用いるリポソームイムノアッセイ(LIA)が挙げられる。放出された化学物質を標準的手法により検出する(Monroe et al.、Amer.Clin.Prod.Rev.第5巻、34〜41頁(1986年)を参照)。
【0176】
E.非特異的結合の低減
当業者は、イムノアッセイにおける特異的結合を最小限にすることがしばしば望ましいことを認識しているであろう。特に、アッセイが固体基体に固定化されている抗原又は抗体を用いるものである場合、基体への非特異的結合の量を最小限にすることが望ましい。そのような非特異的結合を低減する手段は、当業者によく知られている。一般的に、この手法は、タンパク質性組成物で基体をコーティングすることを含む。特に、ウシ血清アルブミン(BSA)、脱脂粉乳及びゼラチンのようなタンパク質組成物が広く使用されており、粉乳が最も好ましい。
【0177】
F.標識
アッセイに用いられる特定の標識又は検出可能な基は、アッセイに用いる抗体の特異的結合を有意に妨げない限り、本発明の重要な態様ではない。検出可能な基は、検出可能な物理的又は化学的特性を有する物質であってよい。そのような検出可能な標識は、イムノアッセイの分野において十分に発達しており、一般的に、そのような方法において有用なほとんどの標識は、本発明に適用することができる。したがって、標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的又は化学的手段により検出可能なあらゆる組成物である。本発明における有用な標識としては、磁気ビーズ(例えば、DYNABEADSTM)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミン等)、放射性標識(例えば、3H、125I、14C、35S)、酵素(例えば、西洋ワサビ、リン酸アルカリ及びELISAに一般的に用いられている他のもの)コロイド金又は着色ガラス又はプラスチックビーズ(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)のような測色標識などがある。
【0178】
標識は、当技術分野で知られている方法によりアッセイの所望の成分に直接又は間接的に結合させることができる。上記のように、広範囲の標識を用いることができるが、必要とする感度、化合物との複合の容易さ、安定性要件、利用可能な機器及び廃棄規定に応じて標識を選択する。
【0179】
非放射性標識は、間接的な手段により結合させることが多い。一般的に、リガンド分子(例えば、ビオチン)を分子に共有結合させる。次いで、リガンドは、検出可能な酵素、蛍光化合物又は化学発光化合物のような本質的に検出可能であるか、又はシグナル系に共有結合する、他の分子(例えば、ストレプトアビジン)に結合する。リガンド及びそれらの標識は、T1Rポリペプチドを認識する抗体又は抗T1Rを認識する第2抗体と適切に組み合わせて用いることができる。
【0180】
分子は、例えば、酵素又は蛍光団との複合など、シグナル発生化合物に直接的に結合させることもできる。標識としての問題の酵素は、主としてヒドロラーゼ、特に、ホスファターゼ、エステラーゼ及びグリコシダーゼ又はオキシドターゼ、特に、ペルオキシダーゼである。蛍光化合物としては、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン等がある。化学発光化合物としては、ルシフェリン及び2,3−ジヒドロフタラジンジオン、例えば、ルミノールなどがある。用いることができる種々の標識又はシグナル発生システムに関する総説については、米国特許第4,391,904号を参照。
【0181】
標識を検出する手段は、当業者によく知られている。したがって、例えば、標識が放射性標識である場合、検出手段は、シンチレーションカウンター又はオートラジオグラフィーにおけるような写真フィルムなどである。標識が蛍光標識である場合、標識は適切な波長の光で蛍光色素を励起し、発生した蛍光を検出することにより検出することができる。蛍光は、写真フィルムにより、電荷結合素子(CCDs)又は光電子倍増管等の電子的検出器の使用により、視覚的に検出することができる。同様に、酵素標識は、酵素の適切な基質を用い、得られた反応生成物を検出することにより検出することができる。最後に、単純な測色標識は、標識に伴う色を単に観察して検出することができる。したがって、様々なディップスティックアッセイにおいて、結合した金はしばしばピンク色に見えるが、様々な複合ビーズはビーズの色に見える。
【0182】
一部のアッセイ方式は、標識化合物の使用を必要としない。例えば、凝集アッセイを用いて、標的抗体の存在を検出することができる。この場合、抗原被覆粒子を標的抗体を含むサンプルにより凝集させる。この方式では、いずれの化合物も標識する必要がなく、標的抗体の存在は簡単な目視検査により検出される。
【0183】
調節物質の検出
試験化合物が本発明のT1R受容体にin vitro及びin vivoで特異的に結合するかどうかを検討するための組成物及び方法を以下に記載する。本発明のT1Rポリペプチドへのリガンド結合の影響を評価するために、細胞生理学の多くの側面をモニターすることができる。これらのアッセイは、化学感覚受容体を発現する完全な細胞について、透過性化細胞について、あるいは、標準的方法により生成させた膜断片又はin vitroでの新規合成タンパク質について実施することができる。
【0184】
in vivoでは味覚受容体が味覚物質に結合し、化学的刺激の電気的シグナルへの変換を開始する。活性化又は阻害されたGタンパク質が次に標的酵素、チャンネル及び他のエフェクタータンパク質の特性を変化させる。いくつかの例は、視覚系におけるトランンスデューシンによるcGMPホスホジエステラーゼ、刺激性Gタンパク質によるアデニル酸シクラーゼ、Gq及び他の同族Gタンパク質によるホスホリパーゼCの活性化並びにGi及び他のGタンパク質による種々のチャンネルの調節である。ホスホリパーゼCによるジアシルグリセロール及びIP3の生成並びにその結果としてのIP3によるカルシウム動態化のような下流の結果も検討することができる。
【0185】
アッセイのT1Rタンパク質又はポリペプチドは、実施例1に開示するものから選択されるT1Rポリペプチド配列あるいはその断片又は保存的に修飾された変異体を有するポリペプチドから選択することが好ましい。場合により、断片及び変異体は、抗T1R抗体に結合する抗原性断片及び変異体であってよい。場合により、断片及び変異体は、甘味料又はうま味味覚物質に結合又はそれにより活性化されてよい。
【0186】
あるいは、アッセイのT1Rタンパク質又はポリペプチドは、真核生物宿主細胞由来のものであってよく、実施例1に開示するT1Rポリペプチド配列あるいはその断片又は保存的に修飾された変異体とアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸サブ配列を含んでいてよい。一般的に、アミノ酸配列の同一性は、少なくとも35〜50%、あるいは場合により75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%である。場合により、アッセイのT1Rタンパク質又はポリペプチドは、細胞外ドメイン、膜貫通領域、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、リガンド結合ドメイン等のT1Rタンパク質のドメインを含んでいてよい。さらに、上記のように、T1Rタンパク質又はそのドメインを異種タンパク質に共有結合により連結させて、本明細書に記載するアッセイに用いるキメラタンパク質を創ることができる。
【0187】
T1R受容体活性の調節物質は、上記のような組換え又は天然に存在するT1Rタンパク質又はポリペプチドを用いて試験する。T1Rタンパク質又はポリペプチドは、組換え又は天然に存在するものを分離し、細胞中で同時発現させ、細胞から得られる膜内で同時発現させ、組織又は動物において同時発現させることができる。例えば、舌切片、舌から分離した細胞、形質転換細胞又は膜を用いることができる。調節は、本明細書に記載するin vitro又はin vivoアッセイの1つを用いて試験することができる。
【0188】
例えば、以下の実験的実施例で開示されているように、特定の51ヌクレオチド、例えば、51IMP又は51GMPは、L−グルタミン酸塩の活性を増強させて、うま味受容体を活性化するか、又はL−L−グルタミン酸塩又はL−アスパラギン酸塩のようなうま味刺激物質によるうま味受容体の活性化を阻害する。
【0189】
1.in vitro結合アッセイ
味覚変換も本発明のT1Rポリペプチドを用いて、可溶性又は固体状態反応によりin vitroで検討することができる。特定の実施形態において、リガンド結合を検定するために、in vitro可溶性又は固体状態反応にT1Rリガンド結合ドメインを用いることができる。
【0190】
例えば、T1RのN末端ドメインがリガンド結合に関与していると予測される。より具体的には、T1Rsは、大きい、約600アミノ酸の細胞外N末端セグメントを特徴とするGPCRサブファミリーに属している。これらのN末端セグメントは、リガンド結合ドメインを形成していると考えられ、したがって、T1R作動物質及び拮抗物質を特定するための生化学的アッセイに有用である。リガンド結合ドメインは、膜貫通ドメインの細胞外ループのような細胞外ドメインの付加的な部分により形成されている可能性がある。
【0191】
in vitroアッセイは、メタボトロッピックグルタミン酸受容体のようなT1Rsに関連する他のGPCRsについて用いられた(例えば、Han and Hampson、J.Biol.Chem.第274巻、10008〜10013頁(1999年)を参照)。これらのアッセイは、放射性又は蛍光標識リガンドの置換、固有蛍光の変化又はタンパク質溶解感受性の変化の測定等を伴う。
【0192】
本発明のT1Rポリペプチドのヘテロ多量体複合体へのリガンド結合は、溶液中、場合により固相に結合させた2層膜中で、脂質単層中で、又は小胞中で試験することができる。調節物質の結合は、例えば、 分光学的特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形状)、クロマトグラフィー又は溶解性特性の変化を用いて試験することができる。
【0193】
本発明の他の実施形態において、GTPγ35Sアッセイを用いることができる。上記のように、GPCRの活性化により、Gタンパク質複合体のGαサブユニットは、刺激されて、結合GDPをGTPと交換する。Gタンパク質交換活性のリガンド媒介性刺激は、推定上のリガンドの存在下でのGタンパク質への添加放射性標識GTPγ35Sの結合を測定する生化学的アッセイにおいて測定することができる。一般的に、問題の化学感覚受容体を含む膜をGタンパク質複合体と混合する。可能性のある阻害物質及び/又は活性化物質及びGTPγ35Sをアッセイに加え、Gタンパク質へのGTPγ35Sの結合を測定する。結合は、液体シンチレーション計数法又はシンチレーションプロキシミティアッセイ(SPA)を含む当技術分野で知られている他の手段により測定することができる。他のアッセイ方式では、蛍光標識GTPγSを利用することができる。
【0194】
2.蛍光偏光アッセイ
他の実施形態において、蛍光偏光(「FP」)に基づくアッセイを用いてリガンド結合を検出し、モニターすることができる。蛍光偏光は、平衡結合、核酸ハイブリダイゼーション及び酵素活性を測定するための汎用性のある実験室技術である。蛍光偏光アッセイは、遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー、沈殿又は電気泳動のような分離段階を必要としない点で均一である。これらのアッセイは、溶液中で実時間で、直接的に行われ、固定化相を必要としない。偏光の測定は迅速で、サンプルを破壊しないので、偏光値は繰り返して、また、試薬の添加後に測定することができる。一般的に、この手法を用いて、低いピコモルからマイクロモルまでの偏光値を測定することができる。この項では、本発明のT1Rポリペプチドへのリガンドの結合を単純かつ定量的方法で測定するのに、どのようにして蛍光偏光を用いるのかを述べる。
【0195】
蛍光標識分子を平面偏光により励起させたとき、その分子は、その分子旋光度に逆比例する偏光の程度を有する光を放射する。大きい蛍光標識分子は、励起状態時(フルオレセインの場合、4ナノ秒)に比較的に静止した状態に留まり、光の偏光は、励起と放射との間で比較的一定に留まっている。小さい蛍光標識分子は、励起状態時に速やかに回転し、偏光は励起と放射との間で有意に変化する。したがって、小分子は低い偏光値を有し、大分子は高い偏光値を有する。例えば、1本鎖フルオレセイン標識オリゴヌクレオチドは、比較的低い偏光値を有するが、相補鎖とハイブリド形成したとき、より高い偏光値を有する。本発明の化学感覚受容体を活性化又は阻害する味覚物質結合を検出し、モニターするためにFPを用いる場合、蛍光標識味覚物質又は自己蛍光味覚物質を用いることができる。
【0196】
蛍光偏光(P)は次のように定義される。
【0197】
【数1】
【0198】
ここで、Πは励起光面に平行な放射光の強度であり、Int⊥は励起光面に垂直な放射光の強度であり、Pは光の強度の比で、無次元数である。例えば、Beacon(商標登録)及びBeacon 2000(商標)をこれらのアッセイに関連して用いることができる。そのようなシステムは、一般的に偏光をミリ偏光単位(1偏光単位=1000mP単位)で表す。
【0199】
分子旋光度とサイズとの関係は、Perrin式により記述される。読者は、この式の十分な説明が記載されている、Jolley M.E.(1991年)、Journal of Analytical Toxicology、236〜240頁を参照。要約すると、Perrin式は、偏光が、分子が約68.5゜の角度を回転するに必要な時間である回転緩和時間に直接比例することを記述している。回転緩和時間は、粘度(η)、絶対温度(T)、分子容(V)及び気体定数(R)に次の式により関連づけられる。
【0200】
【数2】
【0201】
回転緩和時間は、小分子(例えば、フルオレセイン)では小さく(約1ナノ秒)、大分子(例えば、免疫グロブリン)では大きい(約100ナノ秒)。粘度及び温度を一定に保持するならば、回転緩和時間、したがって、偏光は、分子容に直接関係づけられる。分子容の変化は、蛍光標識分子の他の分子との相互作用、解離、重合、分解、ハイブリダイゼーション又はコンホメーションの変化に起因する可能性がある。例えば、蛍光偏光は、プロテアーゼ、DNアーゼ及びRNアーゼによる大きい蛍光標識ポリマーの酵素切断を測定するために用いられている。蛍光偏光はまた、タンパク質/タンパク質相互作用、抗体/抗原結合及びタンパク質/DNA結合における平衡結合を測定するために用いられている。
【0202】
A.固相状態及び可溶性高処理能力アッセイ
他の実施形態において、本発明は、ヘテロオリゴマーT1Rポリペプチド複合体あるいは細胞又は組織同時発現T1Rポリペプチドを用いる可溶性アッセイを提供する。好ましくは、細胞は、機能的T1R1/T1R3(うま味)味覚受容体又はT1R2/T1R3(甘味)味覚受容体を安定に同時発現する。他の実施形態において、本発明は、T1RポリペプチドあるいはT1Rポリペプチドを発現する細胞又は組織を固相基体又は味覚刺激物質に結合させ、T1R受容体と接触させ、適切な標識又はT1R受容体に対して産生させた抗体を用いて結合を検出する、高処理能力方式での固相に基づくin vitroアッセイを提供する。
【0203】
本発明の高処理能力アッセイでは、1日に数千種の調節物質又はリガンドをスクリーニングすることが可能である。特に、マイクロタイタープレートの各ウエルを用いて選択した可能性な調節物質に対する独立したアッセイを行うことができ、あるいは、もし濃度又はインキュベーション時間効果が認められる場合には、5〜10ウエルを用いて1つの調節物質を試験することができる。したがって、1枚の標準マイクロタイタープレートで約100種(例えば、96種)の調節物質についてアッセイを行うことができる。1536ウエルプレートを用いる場合、1枚のプレートで約1000種から約1500種の化合物についてアッセイを容易に行うことができる。各プレートウエルで複数の化合物のアッセイを行うことも可能である。1日当たり数枚の異なるプレートを用いてアッセイを行うことが可能であり、本発明の統合システムを用いて、最大約6,000〜20,000種の化合物のアッセイによるスクリーニングが可能である。最近、試薬操作に対するマイクロフルーイディック手法が開発された。
【0204】
対象とする分子は、固体状態構成要素に直接的又は間接的に、共有結合部又は非共有結合部を介して、例えばタグを介して結合させることができる。タグは多様な構成要素のいずれであってもよい。一般的に、標識に結合する分子(標識バインダー)を固体担体に結合させ、問題の標識した分子(例えば、問題の味覚変換分子)を、標識と標識バインダーとの相互作用により固体担体に結合させる。
【0205】
文献に十分に記載されている既知の分子相互作用に基づいて、多数の標識及び標識バインダーを用いることができる。例えば、標識が、例えば、ビオチン、プロテインA又はプロテインGのような天然バインダーを備えている場合、適切な標識バインダー(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、免疫グロブリンのFc部等)と共に用いることができる。ビオチンのような天然バインダーを有する分子に対する抗体も広く利用可能であり、適切な標識バインダーである(SIGMA Immunochemicals1998年カタログ、SIGMA(ミズーリ州セントルイス)を参照)。
【0206】
同様に、ハプテン性又は抗原性化合物を適切な抗体と組み合わせて、標識/標識バインダー対を生成させることができる。何千もの特異抗体が市販されており、他の多くの抗体が文献に記載されている。例えば、1つの一般的な配置において、標識が第1抗体であり、標識バインダーが第1抗体を認識する第2抗体である。抗体−抗原相互作用に加えて、受容体−リガンド相互作用も標識及び標識バインダー対として適切である。例えば、細胞膜受容体の作動物質及び拮抗物質(例えば、トランスフェリン、c−キット、ウイルス受容体リガンド、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、インターロイキン受容体、免疫グロブリン受容体及び抗体のような細胞受容体−リガンド相互作用、ならびにカドヘリンファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー等、例えば、Pigott&Power、The Adhesion Molecile Facts Book I(1993年)を参照)。同様に、トキシン及び毒液、ウイルスエピトープ、ホルモン(例えば、オピエート、ステロイド等)、細胞内受容体(例えば、ステロイド、甲状腺ホルモン、レチノイド及びビタミンDを含む様々な小リガンドの作用を媒介する;ペプチド)、薬物、レクチン、糖、核酸(線状及び環状ポリマー配置)、オリゴ糖、タンパク質、リン脂質及び抗体はすべて種々の細胞受容体と相互作用することができる。
【0207】
ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ尿素、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド及びポリアセテートのような合成ポリマーも適切な標識又は標識バインダーを形成し得る。この開示の検討に際して当業者にとって明らかなように、他の多くの標識/標識バインダー対も本明細書に記載のアッセイシステムに有用である。
【0208】
ペプチド、ポリエーテル等の一般的なリンカーも標識となり得るものであり、約5〜200アミノ酸のポリgly配列のようなポリペプチド配列などが挙げられる。そのようなフレキシブルなリンカーは、当業者に知られている。例えば、ポリ(エチレングリコール)リンカーは、Shearwater Polymers,Inc.(アラバマ州ハンツビル(Huntsville))から入手可能である。これらのリンカーは、場合により、アミド結合、スルフヒドリル結合又は異種官能基結合を有していてよい。
【0209】
標識バインダーを現在利用可能な種々の方法を用いて固体基体に固定する。固体基体は一般的に、標識バインダーの一部との反応性を有する化学基を表面に固定する化学試薬に基体の全部又は一部を曝露することにより、誘導体化又は官能基化する。例えば、より長い鎖部分への結合に適した基は、ヒドロキシル、チオール及びカルボキシル基などである。アミノアルキルシラン及びヒドロキシアルキルシランを用いて、ガラス表面のような様々な表面を官能基化することができる。そのような固相生体高分子アレイの構成は、文献に十分に記載されている。例えば、Merrifield、J.Am.Chem.Sic.第85巻、2149〜2154頁(1963年)(例えば、ペプチドの固相合成を記載)、Geysen et al.、J.Immun.Meth.第102巻、259〜274頁(1987年)(ピン上の固相成分の合成を記載)、Frank&Doring、Tetrahedron、第44巻、60316040(1988年)(セルロースディスク上の種々のペプチド配列の合成を記載)、Fodor et al.、Science、第251巻、767〜777頁(1991年)、Sheldon et al.、Clinical Chemistry、第39巻、第4号、718〜719頁(1993年)及びKozal et al.、Nature Medicine、第2巻、第7号、753759頁(1996年)(すべてが固体基体に固定された生体高分子のアレイを記載)を参照。基体に標識バインダーを固定する非化学的手法としては、熱、UV光による架橋等の他の一般的な方法がある。
【0210】
3.細胞を用いるアッセイ
処理の好ましい実施形態において、T1Rタンパク質又はポリペプチドの組合せを真核細胞中で、非修飾形で、あるいは、分泌経路によりその突然変異及びターゲッティングを促進する異種シャペロン配列を含む、又は好ましくは含まないキメラ、変異体又は切断型受容体として一時的又は安定に同時発現させる。そのようなT1Rポリペプチドは、HEK−293細胞のようなあらゆる真核細胞中で発現させることができる。細胞は、機能的Gタンパク質、例えば、Gα15又は以前に同定されたキメラGタンパク質、あるいは、キメラ受容体を細胞内シグナル伝達経路又はホスホリパーゼCのようなシグナル伝達タンパク質に結合させることができる他のGタンパク質を含むことが好ましい。また、そのような細胞は味覚刺激物質に対する強い応答(同じT1Rの組合せを一時的に発現する細胞に関連)を示すことが見いだされた(実験的実施例に示すように)ので、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞を発生させることが好ましい。そのような細胞中のT1R受容体の活性化は、細胞中のFluo−4依存性蛍光を検出して細胞内カルシウムの変化を検出することによるなどの標準的な方法を用いて検出することができる。そのようなアッセイは、この適用例において示す実験所見の基礎である。
【0211】
活性化GPCR受容体は、しばしば受容体のC末端部(及びおそらく他の部位も)リン酸化するキナーゼの基質である。したがって、活性化物質は、放射性標識ATPから受容体への32Pの転移を促進するであろう。これは、シンチレーションカウンターにより検定することができる。C末端部のリン酸化は、アレスチン様タンパク質の結合を促進し、Gタンパク質の結合を妨げる。GPCRシグナル伝達及びシグナル伝達を検定する方法の一般的総説については、例えば、Methods in Enzymology、第237巻及び第238巻(1994年)及び第96巻(1983年)、Bourne et al.、Nature、第349巻、117〜27頁(1991年)、Bourne et al.、Nature、第348巻、125〜32頁(1990年)、Pitcher et al.、Annu.Rev.Biochem.第67巻、653〜92頁(1998年)を参照。
【0212】
T1R調節は、推定上のT1R調節物質により処理したT1Rポリペプチドの応答を無処理対照サンプル又は既知「陽性」対照を含むサンプルの応答と比較することにより、検定することができる。そのような推定上のT1R調節物質は、T1Rポリペプチド活性を阻害又は活性化する分子などである可能性がある。一実施形態において、対照サンプル(活性化物質又は阻害物質で処理していない)は、相対T1R活性値として100%を有するとする。対照に対するT1R活性値が約90%、場合により50%、場合により25〜0%であるとき、T1Rポリペプチドの阻害が達成されている。対照に対するT1R活性値が110%、場合により150%、200〜500%又は1000〜2000%であるとき、T1Rポリペプチドの活性化が達成されている。
【0213】
イオン流束の変化は、T1Rポリペプチドを発現する細胞又は膜のイオン分極(すなわち、電位)の変化を測定することにより評価することができる。細胞分極の変化を測定する1つの手段は、電圧固定法及びパッチ固定法により電流の変化を測定する(それにより、分極の変化を測定する)ことである(例えば、「細胞接着」モード、「内外反転」モード及び「全細胞」モード、Ackerman et al.、New Engl.J Med.第336巻、1575〜1595頁(1997年)を参照)。全細胞電流は、標準的方法を用いて都合よく測定される。他の既知のアッセイは、電圧感受性色素を用いる放射性標識イオン流束アッセイ及び蛍光アッセイなどである(例えば、Vestergarrd−Bogind et al.、J.Membrane Biol.第88巻、67〜75頁(1988年)、Gonzales&Tsien、Chem.Biol.第4巻、269〜277頁(1997年)、Daniel et al.、J.Pharmacol.Meth.第25巻、185〜193頁(1991年)、Holevinsky et al.、J.Membrane Biology、第137巻、59〜70頁(1994年)を参照)。
【0214】
ポリペプチドの機能に対する試験化合物の影響は、上記のパラメーターのいずれかを検討することにより測定することができる。GPCR活性に影響を及ぼす適切な生理学的変化を用いて、本発明のポリペプチドに対する試験化合物の影響を評価することができる。機能に関する結果を完全な細胞又は動物を用いて検討する場合、伝達物質の放出、ホルモンの放出、既知及び未確認遺伝子マーカーに対する転写変化(ノーザンブロット)及びCa2+、IP3、cGMP又はcAMPのような細胞内二次メッセンジャーの変化のような種々の影響も測定することができる。
【0215】
GPCRsの好ましいアッセイは、受容体活性を報告するイオン又は電圧感受性色素を負荷した細胞を対象とするものである。そのような受容体の活性を測定するためのアッセイは、試験した化合物の活性を評価するための対照として他のGタンパク質結合受容体の既知の作動物質及び拮抗物質も用いることができる。調節化合物(例えば、作動物質、拮抗物質)を特定するためのアッセイにおいて、細胞質内のイオンの濃度又は膜電位の変化をそれぞれイオン感受性又は膜電位蛍光指示計をモニターする。用いることができるイオン感受性指示計及び電位プローブの主なものは、分子プローブ1997年カタログ(Molecular Probes 1997 Catalog)に開示されている。Gタンパク質結合受容体については、Gα15及びGα16のような乱交雑Gタンパク質を最も適切なアッセイに用いることができる(Wilkie et al.、Proc.Nat’1 Acad.Sci.第88巻、10049〜10053頁(1991年))。
【0216】
受容体の活性化により、その後の細胞内事象、例えば、二次メッセンジャーの増加が始まる。一部のGタンパク質結合受容体の活性化は、ホスファチジルイノシトールのホスホリパーゼC媒介性加水分解によるイノシトール三リン酸(IP3)の生成を刺激する(Berridge&Irvin、Nature、第312巻、315〜21頁(1984年))。IP3は次に、細胞内貯蔵カルシウムイオンの放出を刺激する。したがって、細胞質カルシウムイオン濃度の変化又はIP3のような二次メッセンジャー濃度の変化を、Gタンパク質結合受容体機能を評価するのに用いることができる。そのようなGタンパク質結合受容体を発現する細胞は、細胞内貯蔵体からのカルシウム放出及び形質膜イオンチャンネルを経ての細胞外カルシウムの流入の寄与による細胞質カルシウム濃度の増加を示す。
【0217】
好ましい実施形態において、T1Rポリペプチド活性を、受容体をホスホリパーゼCシグナル伝達経路に連結させる乱交雑Gタンパク質を含む異種細胞中で、安定に又は一時的に、好ましくは安定に、同時発現するT1R遺伝子により測定する(Offermanns&Simon、J.Biol.Chem.第270巻、15175〜15180頁(1995年)を参照)。好ましい実施形態において、細胞系がHEK−293(通常、T1R遺伝子を発現しない)であり、乱交雑Gタンパク質がGα15である(Offermanns&Simon、前出)。味覚変換の調節は、T1Rポリペプチドに結合する分子の投与によるT1Rシグナル伝達経路の調節に応答して変化する細胞内Ca2+濃度の変化を測定することにより検定する。Ca2+濃度の変化は、場合により蛍光Ca2+指示色素及び蛍光分析画像法により測定する。
【0218】
他の実施形態において、ホスファチジルイノシトール(PI)の加水分解は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,436,128号に従って分析することができる。簡単に述べると、アッセイには、3H−ミオイノシトールによる細胞の48時間以上にわたる標識が含まれる。標識した細胞を試験化合物で1時間処理する。処理した細胞を溶解し、クロロホルム−メタノール−水で抽出した後、イノシトールリン酸をイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、シンチレーション計数法により定量する。刺激比率は、作動物質の存在下でのcpmと緩衝液の存在下でのcpmとの比を計算することにより求める。同様に、阻害比率は、拮抗物質の存在下でのcpmと緩衝液(作動物質を含んでいても、含まなくてもよい)の存在下でのcpmとの比を計算することにより求める。
【0219】
他の受容体アッセイに、細胞内環状ヌクレオチド、例えば、cAMP又はcGMPの濃度の測定を含めることができる。受容体の活性化により環状ヌクレオチドの減少がもたらされる場合、アッセイにおいて受容体活性化化合物を細胞に加える前に、細胞内環状ヌクレオチド濃度を増加させる物質、例えば、フォルスコリンに細胞を曝露させることが好ましいと思われる。一実施形態において、細胞内cAMP又はcGMPの変化は、イムノアッセイを用いて測定することができる。Offermanns&Simon、J.Bio.Chem.第270巻、15175〜15180頁(1995年)に記載されている方法を用いてcAMPの濃度を測定することができる。また、Felley−Bosco et al.、Am.J.Resp.Cell and Mol.Biol.第11巻、159〜164頁(1994年)に記載されている方法を用いてcGMPの濃度を測定することができる。さらに、cAMP及び/又はcGMPを測定するためのアッセイキットは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,115,538号に記載されている。
【0220】
他の実施形態において、転写レベルを測定して、シグナル伝達に対する試験化合物の影響を評価することができる。問題のT1Rポリペプチドを含む宿主細胞を相互作用をもたらすのに十分な時間試験化合物と接触させた後、遺伝子発現のレベルを測定する。そのような相互作用をもたらす時間の長さは、時間を経過させ、転写のレベルを時間の関数として測定するなどにより、実験的に決定することができる。転写の量は、当業者に適切であることが知られている方法を用いて測定することができる。例えば、問題のタンパク質のmRNA発現をノーザンブロットを用いて検出してもよく、あるいは、それらのペプチド産物をイムノアッセイを用いて同定してもよい。あるいは、リポーター遺伝子を用いる転写に基づくアッセイを、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,436,128号に記載のように用いることができる。リポーター遺伝子は、例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ及びアルカリホスファターゼであってよい。さらに、問題のタンパク質を、緑色蛍光タンパク質のような第2の受容体への結合により間接的リポーターとして用いることができる(例えば、Mitili&Spector、Nature Biotechnology、第15巻、961〜964頁(1997年)を参照)。
【0221】
次いで、転写の量を試験化合物の非存在下での同じ細胞中の転写の量と比較するか、問題のT1Rポリペプチドを含まない実質的に同じ細胞中の転写の量と比較することができる。実質的に同じ細胞は、組換え細胞は調製したが、異種DNAの導入により修飾されていなかった同じ細胞から得ることができる。転写の量の差は、試験化合物が問題のT1Rポリペプチドの活性をなんらかの仕方で変化させたことを示している。
【0222】
4.化学感覚受容体を発現するヒト以外のトランスジェニック動物
本発明のT1R味覚受容体配列の組合せを発現するヒト以外の動物も受容体アッセイに用いることができる。そのような発現は、化学感覚受容体又はそのリガンド結合領域をコードする核酸を安定又は一時的にトランスフェクトしたヒト以外の動物を試験化合物と接触させることにより、試験化合物が哺乳類味覚膜貫通受容体複合体にin vivoで特異的に結合するかどうかを検討し、受容体ポリペプチド複合体に特異的に結合することにより、動物が試験化合物に対して反応するかどうかを検討するために用いることができる。
【0223】
本発明のベクターをトランスフェクト又は感染させた動物は、特定の受容体又はその組合せに結合することができる味覚刺激物質を特定し、特徴づけるためのアッセイに特に有用である。ヒト味覚受容体配列を発現するそのようなベクター感染動物は、味覚刺激物質及び例えば、細胞生理学(例えば、味覚ニューロンに対する)、CNSに対する、又は行動に対するそれらの影響のin vivoスクリーニングに用いることができる。あるいは、T1R又はその組合せを発現する安定な細胞系は、特定の受容体又はその組合せを安定に発現する、生産したクローントランスジェニック動物への核酸輸送ドナーとして用いることができる。所望の異種DNAを発現するクローン動物を生産するために核酸輸送体を用いる方法は、マサチューセッツ大学(Advanced Cell Technology,Inc.に対して実施許諾)及びRoslin Institute(Geron Gorp.に対して実施許諾)に付与されたいくつかの発行済み米国特許の主体である。
【0224】
核酸及びベクターを個別に、又はライブラリーとして感染/発現させる手段は、当技術分野でよく知られている。様々な個別の細胞、器官又は丸ごとの動物パラメーターを様々な手段により測定することができる。本発明のT1R配列は、例えば、感染因子、例えばアデノウイルス発現ベクターを用いて送達することにより動物味覚組織中で同時発現させることができる。
【0225】
内因性味覚受容体遺伝子は、依然として機能を果たすことができ、野生型(天然)活性は依然として存在し得る。他の状況において、すべての味覚受容体活性が導入された外因性ハイブリッド受容体によるものであることが望ましい場合、ノックアウトラインの使用が好ましい。ヒト以外のトランスジェニック動物、特に、トランスジェニックマウスの構成並びに形質転換細胞を発生させるための組換え構成体の選択及び調製の方法は、当技術分野においてよく知られている。
【0226】
「ノックアウト」細胞及び動物の構成は、哺乳類細胞中の特定の遺伝子の発現のレベルを、遺伝子のDNA配列のある部分が抑制されるのを遮断する役割を果たす新しいDNA配列をゲノムに導入することにより減少又は完全になくすことができるという前提に基づいている。また、「遺伝子トラップ挿入」を用いて宿主遺伝子を崩壊させることができ、マウス胚幹細胞(ES)を用いてノックアウトトランスジェニック動物を生産することができる(例えば、Holzschu、Transgenic Res、第6巻、97〜106頁(1997年)を参照)。外因性配列の挿入は一般的に相補的核酸配列間の相同的組換えによっている。外因性配列は、エキソン、イントロン又は転写調節配列のような修飾されるべき標的遺伝子のある部分、あるいは標的遺伝子の発現のレベルに影響を及ぼすことができるゲノム配列あるいはその組合せである。多能性胚幹細胞における相同的組換えによる遺伝子ターゲッティングにより、問題のゲノム配列を精密に修飾することが可能となる。あらゆる手法を用いて、ノックアウト動物を造り、スクリーニングし、増殖させることができる。例えば、Bijvoet、Hum.Mil.Genet.第7巻、53〜62頁(1998年)、Moreadith、J.Mol.Med.第75巻、208〜216頁(1997年)、Tojo、Cytotechnology、第19巻、161〜165頁(1995年)、Mudgett、Methods Mol.Biol.第48巻、167〜184頁(1995年)、Longo、Transgenic Res.第6巻、321〜328頁(1997年)、米国特許第5,616,491号、第5,464,764号、5,631,153号、第5,487,992号、第5,627,059号、第5,272,071号、国際公開第91/09955号、国際公開第93/09222号、国際公開第96/29411号、国際公開第95/31560号、国際公開第91/12650号を参照。
【0227】
本発明の核酸は、「ノックアウト」ヒト細胞及びそれらの子孫を生産するための試薬としても用いることができる。同様に、本発明の核酸は、マウスにおける「ノックイン」細胞を産生するための試薬としても用いることができる。ヒト又はラットT1R遺伝子配列は、マウスノムにおけるオーソロガスT1Rを置換することができる。このようにして、ヒト又はラットT1Rを発現するマウスが生産される。次いで、このマウスを用いてヒト又はラットT1Rsの機能を分析し、そのようなT1Rsのリガンドを特定することができる。
【0228】
a.調節物質
T1Rファミリーメンバーの調節物質として試験される化合物は、小化合物あるいはタンパク質、核酸又は脂質のような生物学的物質であってよい。それらの例として、51IMP及び51GMPなどがある。水溶液に溶ける化合物が試験されることが非常に多いが、本質的にあらゆる化合物を本発明のアッセイにおける可能性のある調節物質又はリガンドとして用いることができる。アッセイ段階を自動化し、化合物を都合のよい源から供給することにより、大きい化学ライブラリーをスクリーニングするためのアッセイを設計することができる。これらのアッセイは一般的に並行して実施される(例えば、ロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレート上のマイクロタイターフォーマットで)。化学ライブラリーは多くの化学反応のうちの1つ(例えば、Senomyx独占の化学)により合成することができることは認識されよう。さらに、Sigma(ミズーリ州セントルイス)、Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Sigma−Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Fluka Chemika−Biochemica Analytika(スイス、ブークス)等の化合物の多くの供給業者が存在する。
【0229】
1つの好ましい実施形態において、高処理能力スクリーニング法は、多数の味覚に影響を及ぼす可能性のある化合物(可能な調節物質又はリガンド化合物)を含むコンビナトリアル化学又はペプチドライブラリーを提供することを含む。次いで、そのような「コンビナトリアル化学ライブラリー」又は「リガンドライブラリー」を本明細書に記載するように1つ又は複数のアッセイにおいてスクリーニングして、所望の特有の活性を示すライブラリーメンバー(特定の化学種又はサブクラス)を特定する。そのようにして特定された化合物は、通常の「リード化合物」とすることができ、あるいは、それら自体、可能な又は実際の味覚調節物質として用いることができる。
【0230】
好ましくは、そのようなライブラリーは、T1R又はT1Rsの組合せ、すなわち、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3並びに好ましくは適切なGタンパク質、例えば、Gα15を安定に発現する細胞又は細胞系に対してスクリーニングする。以下の実施例に示すように、そのような安定な化合物は味覚刺激物質、例えば、うま味又は甘味刺激物質に対する非常に顕著な応答を示す。しかし、1つ又は複数のT1Rsを一時的に発現する細胞及び細胞系もそのようなアッセイに用いることができる。
【0231】
コンビナトリアル化学ライブラリーは、試薬のような多数の「構築ブロック」を組み合わせることにより、化学合成又は生物学的合成により得られた種々の化合物の集合である。例えば、ポリペプチドライブラリーのような線状コンビナトリアル化学ライブラリーは、所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)について、あらゆる可能な方法で一連の化学的構築ブロックを組み合わせることにより形成される。化学的構築ブロックのそのようなコンビナトリアルミキシングにより、数千から数百万の化合物を合成することができる。
【0232】
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製及びスクリーニングは、当業者に知られている。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリーは、ペプチドライブラリーを含むが、これらに限定されない(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka、Int.J.Pept.Prot.Res.第37巻、487〜493頁(1991年)及びHoughton et al.、Nature、第354巻、84〜88巻(1991年)を参照)。化学的多様性ライブラリーを発生するための他の化学も用いることができる。そのような化学は、次のものを含むが、これらに限定されない。すなわち、ペプトイド(例えば、PCT公告番号WO91/19735)、コードされたペプチド(例えば、PCT公告番号WO93/20242)、ランダム生体オリゴマー(例えば、PCT公告番号WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン及びジペプチドのようなダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al.、Proc.Nat.Acad.Sci.第90巻、6909〜6913頁(1993年))、ビニローグポリペプチド(Hagihara et al.、J.Amer.Chem.Soc.第114巻、6568頁(1992年))、グルコース足場を有する非ペプチド擬似体(Hirschmann et al.、J.Amer.Chem.Soc.第114巻、9217〜9218頁(1992年))、小化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen et al.、J.Amer.Chem.Soc.第116巻、2661頁(1994年))、オリゴカルバメート(Cho et al.、Science、第261巻、1303頁(1993年))、ペプチジルホスホネート(Campbell et al.、J.Org.Chem.第59巻、658頁(1994年))、核酸ライブラリー(Ausubel、Berger and Sambrook、すべて前出)、ペプチド核酸ライブラリー(米国特許第5,539,083号)、抗体ライブラリー(Vaughn et al.、Nature Biotechnology、第14巻、第3号、309〜314頁(1996年)及びPCT/US96/10287)、炭水化物ライブラリー(Liang et al.、Science、第274巻、1520〜1522頁(1996年)及び米国特許第5,593,853号)、小有機分子ライブラリー(ベンゾジアゼピン、Baum、C&EN、1月18日、33頁(1993年);チアゾリジノン及びメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピンロリジン、米国特許第5,525,735号及び第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、第5,288,514号等)。
【0233】
コンビナトリアルライブラリーの調製用装置は、市販されている(例えば、357MPS、390MPS(Advanced Chem Tech、ケンタッキー州ルイスビル)、Symphony(Rainin、マサチューセッツ州ウォーバーン)、433A(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー)、9050Plus(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)。さらに、多くのコンビナトリアルライブラリー自体が市販されている(例えば、ComGenex、ニュージャージー州プリンストン;Tripos,Inc.、ミズーリ州セントルイス;3D Pharmaceuticals、ペンシルバニア州エックストン;Martek Biosciences、メリーランド州コロンビア等)。
【0234】
本発明の1態様において、T1R調節物質は、それにより所望の様態で生成物、組成物又は成分の味を調節するために食品、菓子、薬剤組成物又はその成分に用いることができる。例えば、甘味感覚を増強するT1R調節物質は、生成物又は組成物を甘くするために加えることができ、うま味感覚を増強するT1R調節物質は、セイバリー味を増加させるために食物に加えることができる。あるいは、甘味及び/又はうま味を遮断するためにT1R拮抗物質を用いることができる。
【0235】
b.キット
T1R遺伝子及びそれらの相同体は、化学感覚受容体細胞の同定に、法医学及び父性決定に、味覚変換の検討に有用なツールである。T1Rプローブ及びプライマーのようなT1R核酸と特異的にハイブリダイズするT1Rファミリーメンバー特異試薬並びにT1Rポリペプチドに特異的に結合するT1R特異試薬、例えば、T1R抗体は、味覚細胞発現及び味覚変換制御を検討するために用いられる。
【0236】
サンプル中のT1RファミリーメンバーのDNA及びRNAの存在の有無についての核酸アッセイとしては、サザン分析、ノーザン分析、ドットブロット、RNアーゼ保護、S1分析、PCRのような増幅法及びin situハイブリダイゼーションのような当業者に知られている多くの技術がある。in situハイブリダイゼーションにおいては、例えば、後続の解釈と分析のために細胞形態を保存しつつ、細胞内でのハイブリダイゼーションに利用可能なように標的核酸をその細胞環境から放出させる。以下の論文にin situハイブリダイゼーションの技術の概要が記載されている。Singer et al.、Biotechniques、第4巻、230250頁(1986年)、Haase et al.、Methods in Virology、VII巻、189〜226頁(1984年)及びNucleic Acid Hybridization:A Practical Approach(Names et al.編、1987年)。さらに、T1Rポリププチドは、上記の様々なイムノアッセイ技術により検出することができる。試験サンプルは、一般的に陽性対照(例えば、組換えT1Rポリペプチドを発現するサンプル)及び陰性対照と比較する。
【0237】
本発明はまた、T1Rファミリーメンバーの調節物質をスクリーニングするためのキットを提供する。そのようなキットは、容易に入手可能な材料及び試薬から調製することができる。例えば、そのようなキットは以下の材料のいずれか1つ又は複数を含めることができる。T1R核酸又はタンパク質、反応管及びT1R活性試験指示書。場合により、キットに、生物学的に活性なT1R受容体あるいは味覚受容体を含む生物学的に活性なT1Rを安定又は一時的に発現する細胞系を含めてよい。キットの所期のユーザ及びユーザの特定のニーズに応じて、本発明により様々なキット及び構成要素を調製することができる。
【0238】
例
本発明を上文で詳細に記述したが、好ましい実施形態を例示するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、例示を目的とするものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0239】
本明細書に示すタンパク質配列において、1文字コードX又はXaaは20種の一般的なアミノ酸残基のいずれかを意味する。本明細書に示すDNA配列において、1文字コードN又はnは4種の一般的なヌクレオチド塩基A、T、C又はGのいずれかを意味する。
【実施例1】
【0240】
イントロンを含まないhT1R発現構成体の生産
イントロンを含まないhT1R発現構成体をcDNA法及びゲノムDNA法の組合せによるクローンした。全長hT1R1発現構成体を得るために、クローンhT1R1区分(受入番号AL159177)において同定された2つの5’コード化エキソンをPCRオーバーラップにより結合させ、次いで、5’−切断型精巣cDNAクローンに結合させた。hT1R2発現構成体を部分的に配列決定したhT1R2ゲノム区分から得た。2つの欠落hT1R2 5’エキソンを、対応するラットコード配列から得られたプローブを用いてクローンゲノム区分のショットガンライブラリーをスクリーニングすることにより同定した。次いで、コード化エキソンをPCRオーバーラップにより結合させて、全長発現構成体を生成させた。hT1R3発現構成体は、配列決定済みhT1R3ゲノム区分(受入番号AL139287)からPCRオーバーラップにより得た。ラットT1R3を、hT1R3系縮重PCRにより得られたrT1R3エキソン断片を用いてラット味覚組織由来のcDNAライブラリーから分離した。部分hT1R1 cDNA、rT1R2 cDNA及び部分hT1R2ゲノム配列は、Dr.Charles Zuker(カリフォルニア大学、サンディエゴ)から入手した。
【0241】
上記のT1Rクローン配列並びに他の全長及び部分T1R配列の核酸及びアミノ酸配列を以下に示す。
配列番号4
アミノ酸配列rT1R3
配列番号5
アミノ酸配列hT1R1
配列番号6
アミノ酸配列hT1R2
配列番号7
アミノ酸配列hT1R3
配列番号8
核酸配列hT1R1
配列番号9
核酸配列hT1R3
配列番号10
核酸配列hT1R2
(配列表7)
配列番号11
核酸配列rT1R3
【0242】
また、魚T1Rsの2つのオーソロガス対のC末端に対応する次の概念的翻訳が未公表ゲノム配列断片から得られ、提供されている。フグT1RAが受入番号「scaffold 164」から得られ、フグT1RBが受入番号LPC61711から得られた。テトラドンT1RAが受入番号AL226735から得られ、テトラドンT1RBが受入番号AL222381から得られた。概念的翻訳(「X」)における不明確性は、データベース配列における不明確性に起因している。
配列番号12
T1RAフグ
配列番号13
T1RAテトラドン
配列番号14
T1RBフグ
配列番号15
T1RBテトラドン
【0243】
さらに、公表ドメインにおけるマウス及びラットT1Rs及び対立遺伝子の変異体に関する受入番号及び参考文献の引用を以下に示す。
rT1R1(受入番号AAD18069)(Hoon et al.、Cell、第96巻、第4号、541〜51頁(1999年))
rT1R2(受入番号AAD18070)(Hoon et al.、Cell、第96巻、第4号、541〜59頁(1999年))
mrT1R1(受入番号AAK39437);mT1R2(受入番号AAK39438);mT1R3(受入番号AAK55537)(Max et al.、Nat.Genet.第28巻、第1号、58〜63頁(2001年);rT1R1(受入番号AAK7092)(Li et al.、Mamm.Genome、第12巻、第1号、13〜16頁(2001年);mT1R1(受入番号NP114073);mTR1(受入番号AAK07091)(Li et al.、Mamm.Genome、第12巻、第1号、13〜16頁(2001年);rT1R2(受入番号AAD18070)(Hoo et al.、Cell、9664、541〜551頁(1999年);mT1R2(受入番号NP114079);mT1R3(受入番号AAK39436);mT1R3(受入番号BAB47181);(Kitagawa et al.、Biochem.Biophys.Res.Comm.第283号、第1号、236〜42頁(2001年));mT1R3(受入番号NP114078);mT1R3(受入番号AAK55536)(Max et al.、Nat.Genet.第28巻、第1号、58〜63頁(2001年);及びmT1R3(受入番号AAK01937)。
【実施例2】
【0244】
ヒト及びラットT1Rsの配列アライメント
上記から選択したクローンT1R配列の対応するラットT1Rsに対するアライメントを行った。図1に示すように、ヒトT1R1、ヒトT1R2及びヒトT1R3並びにラットT1R3の以前に記載したT1Rs(受入番号AAD18069を有するrT1R1及び受入番号AAD18070を有するrT1R2)、ラットmGluR1メタボトロピックグルタミン酸受容体(受入番号P23385)及びヒトカルシウム検出受容体(受入番号P41180)に対するアライメントを行った。比較を明確にするために、mGluR1及びカルシウム検出受容体のC末端を切り離す。7種の可能な膜貫通セグメントを青色の枠で囲む。mGluR1結晶構造中のグルタミン酸塩側鎖カルブチレートに接触する残基は赤色の枠で囲み、グルタミン酸塩αアミノ酸部分に接触する残基は緑色の枠で囲む。サブユニット間ジスルフィドに基づく構成体に含まれているmGluR1及びカルシウム検出受容体システイン残基は、紫色で囲む。これらのシステインは、T1R1及びT1R2には保存されていないが、潜在的に類似のT1R3システイン残基を含むアライメントの分解領域にあり、これも紫色で囲む。
【実施例3】
【0245】
hT1R2及びhT1R3が味覚組織中の発現されることのRT−PCRによる実証
図2に示すように、hT1R2及びhT1R3は味覚組織において発現し、両遺伝子の発現は、切除されたヒト有郭乳頭のRT−PCRにより検出することができる。
【実施例4】
【0246】
異種細胞中のT1Rsの異種発現の方法
Gα15を安定に発現するHEK−293誘導体(Chandradhekar et al.、Cell第100巻、第6号、703〜11頁(2000年))を、10%FBS、MEM非必須アミノ酸(Gibco BRL)及び3μg/mlブラスチシジンを補足したダルベッコ修正イーグル培地(DMEM、Gibco RRL)中で37℃で成長させ、維持した。カルシウム画像化実験のために、細胞を最初に24ウエル組織培養プレートに播種し(約0.1×106細胞/ウエル)、Mirus Translt−293(PanVera)を用いてリポフェクションによりトランスフェクトした。グルタミン酸及びグルコース誘発性脱感作を最小限にするために、トランスフェクションの約24時間後に補足DMEMを低グルコースDMEM/GlutaMAX(Gibco BRL)と交換した。24時間後に細胞にダルベッコのPBS緩衝液(DPBS、Gibco BRL)中3μMのカルシウム色素Fluo−4(Molecular Probes)を室温で1.5時間負荷した。250μlDPBSで置換した後、味覚刺激物質を補足した200μlDPBSを室温で添加して、刺激を行った。カルシウム動員をImaging Workbench 4.0ソフトウエア(Axon)を用いてAxiovert S100TV顕微鏡(Zeiss)でモニターした。T1R1/T1R3及びT1R2/T1R3の応答は、著しく一過性であり、カルシウムの増加が15秒以上持続することはまれであり、非同時性であった。したがって、応答細胞の数の時間的推移は比較的一定であり、したがって、一定の時点、一般的に刺激物質を添加してから30秒後に応答細胞の数を手動で数えて、細胞応答を定量した。
【実施例5】
【0247】
ヒトT1R2/T1R3は甘味受容体として機能する
Gα15を安定に発現するHEK細胞をヒトT1R2、T1R3及びT1R2/T1R3で一時的にトランスフェクトし、ショ糖の濃度の増加に応答しての細胞内カルシウムの増加についての測定を行った(図3a)。また、数種の甘味刺激物質についてT1R2/T1R3の用量応答を測定した(図3b)。応答細胞の最大パーセンテージは、異なる甘味料で10〜30%の範囲の差があった。明確にするために、用量応答を応答細胞の最大パーセンテージに対して正規化した。図3の値は、4回の独立した応答の平均値±s.e.である。味覚試験により決定した精神物理学的味覚検出閾値をX軸に丸印で示す。グルマリン(ろ過済み10g/l Gymnema sylvestre水性抽出物の50倍希釈溶液)は、250mMショ糖に対するT1R2/T1R3の応答を阻害したが、20μMイソプロテレノールに対する内因性β2−アドレナリン受容体の応答は阻害しなかった(図3(b))。図3(c)に種々の甘味料(ショ糖、アスパルテーム、D−トリプトファン及びサッカリン)に対するT1R2/T1R3同時発現細胞系の正規化応答を示す。
【実施例6】
【0248】
ラットT1R2/T1R3も甘味受容体として機能する
Gα15を安定に発現するHEK細胞をhT1R2/hT1R3、rT1R2/rT1R3、hT1R2/rT1R3及びrT1R2/hT1R3で一時的にトランスフェクトした。次いで、これらのトランスフェクトした細胞の、350mMショ糖、25mMトリプトファン、15mMアスパルテーム及び0.05%のモネリンに応答しての細胞内カルシウムの増加についての測定を行った。ショ糖及びアスパルテームに関する結果は、図4に示すが、rT1R2/rT1R3も甘味受容体として機能することを示している。また、これらの結果は、T1R2がT1R2/T1R3リガンド特異性を制御している可能性があることを示唆している。
【実施例7】
【0249】
蛍光に基づく自動アッセイを用いたT1R2/T1R3の応答
Gα15を安定に発現するHEK細胞をhT1R2及びhT1R3で一時的にトランスフェクトした。これらの細胞にカルシウム色素Fluo−4を負荷し、甘味料に対するそれらの応答を蛍光プレートリーダーを用いて測定した。図5にhT1R2/hT1R3を発現した細胞及びhT1R3のみを発現した細胞(J19−22)のシクラメート(12.5mM)応答を示す。得られた蛍光結果は、これらの味覚刺激物質に対する応答がhT1R2/hT1R3を発現した細胞においてのみ起こることを示している。図6に正規化用量応答曲線を示す。その結果は、甘味刺激物質との用量特異的相互作用があることから、hT1R2とhT1R3が一緒にヒト味覚受容体として機能していることを示している。特に、図6にショ糖、トルプトファン及び他の種々の市販甘味料に対する用量応答を示す。これらの結果は、アッセイにおいて得られた順位序列および閾値がヒト甘味味覚の値を密接に反映しているので、T1R2/T1R3がヒト甘味受容体であることを示している。
【実施例8】
【0250】
mGluR1のリガンド結合残基がT1R1に保存されている
図6に示すように、mGluR1の重要なリガンド結合残基がT1R1に保存されている。グルタミン酸塩とmGluR1との相互作用が示され、いくつかの重要な残基が図1と同じ色スキームに従って強調されている。
【実施例9】
【0251】
ヒトT1R1/T1R3はうま味受容体として機能する
Gα15を安定に発現するHEK細胞をヒトT1R1、T1R3及びT1R1/T1R3で一時的にトランスフェクトし、グルタミン酸塩の濃度の増加(図8(a))並びに0.5mMグルタミン酸塩、0.2mM IMP及び0.5mMグルタミン酸塩+0.2mM IMP(図8(b))に応答しての細胞内カルシウムの増加についての測定を行った。ヒトT1R1/T1R3の用量応答を0.2mM IMPの存在下及び非存在下でグルタミン酸塩について測定した(図8(c))。応答細胞の最大パーセンテージは、グルタミン酸塩に対して約5%であり、グルタミン酸塩+IMPに対して約10%であった。明確にするために、用量応答を応答細胞の最大パーセンテージに対して正規化した。値は、4回の独立した応答の平均値±s.e.である。味覚試験により決定した味覚検出閾値をX軸に丸印で示す。
【実施例10】
【0252】
移入(export)配列としてのPDZIP
6つの残基PDZIP配列(SVSTW(配列番号1))をhT1R2のC末端に融合し、次いで、キメラ受容体(すなわち、hT1R2−PDZIP)を免疫蛍光及びFACS走査データを用いてモニターした。図9A及び図9Bに示すように、PDZIP配列を含めることにより、hT1R2−PDZIPの表面発現がhT1R2と比べて増加した。より具体的には、図9Aに、myc標識hT1R2の免疫蛍光染色により、PDZIPが形質膜上のhT1R2の量を有意に増加させたことが実証されたことを示す。図9Bに同じ結果を示しているFACS分析データを示す。myc標識hT1R2を発現した細胞を点線で、myc標識hT1R2−PDZIPを発現した細胞を実線で示す。特に、図10AにHBS緩衝液中の未トランスフェクトGα15安定宿主細胞を示し、図10Bに甘味料no.5プール(HBS緩衝液中で、サッカリン、シクラミン酸ナトリウムアセスルフェームK及びアスパルテーム−各20mM)中のhT1R2−PDZIPトランスフェクトGα15安定宿主細胞を示し、図10Cに甘味料no.5プール中のhT1R3−PDZIPトランスフェクトGα15安定宿主細胞を示し、図10Dに甘味料no.5プール中のhT1R2−PDZIP/hT1R3−PDZIPコトランスフェクトGα15安定宿主細胞を示す。さらに、図10E〜10Hに、ショ糖−E:HBS緩衝液中0mM;F:30mM;G:60mM及びH:250mMに対するhT1R2/hT1R3コトランスフェクトGα15安定宿主細胞の用量依存的応答を示す。図10I〜10Lに、個々の甘味料−I:アスパルテーム(1.5mM);J:アセスルフェームK(1mM);K:ネオテーム(20mM);L:シクラミン酸ナトリウム(20mM)に対するhT1R2/hT1R3コトランスフェクトGα15安定宿主細胞の応答を示す。図10のカルシウム像により示されているように、hT1R2及びhT1R3は両者とも甘味刺激物質による活性の刺激を必要とする。
【実施例11】
【0253】
T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞系の発生
それぞれhT1R1又はhT1R2発現構成体(T1R1の場合はプラスミドSAV2485、T1R2の場合はプラスミドSAV2486)及びhT1R3(T1R3の場合はプラスミドSXV550)をそれぞれ含む線状化PEAK10由来(Edge Biosystems)ベクター及びpCDNA3.1/ZEO由来(Invitrogen)ベクターをGα15発現細胞系にトランスフェクトすることにより、ヒトT1R1/T1R3又はヒトT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞系を発生させた。特に、線状化SAV2486及びSXV550を、Gα15を安定に発現するAurora BioscienceのHEK−293細胞系に同時トランスフェクトすることにより、T1R2/T1R3安定細胞系を発生させた。線状化SAV2485及びSXV550を、Gα15を安定に発現する同じHEK−293細胞系に同時トランスフェクトすることにより、T1R1/T1R3安定細胞系を発生させた。SAV22485/SXV550及びSAV2486/SXV550トランスフェクションの後に、プロマイシン耐性及びゼオシン耐性コロニーを選択し、拡大し、カルシウム画像化法により、甘味又はうま味刺激物質に対する応答を試験した。細胞を、GlutaMAX、10%透析済みFBS及び0.003mg/mlブラスチシジンを補足した低グルコースDMEM中37℃で0.0005mg/mlプロマイシン(CALBIOCHEM)及び0.1mg/mlゼオシン(Invitrogen)で選択した。耐性コロニーを拡大し、甘味刺激物質に対するそれらの応答を蛍光顕微鏡により評価した。VIPR−II機器(Aurora Biosciences)を用いた自動蛍光分析画像化法のために、T1R2/T1R3安定細胞を最初に96ウエルプレート(約100,000細胞/ウエル)に播種した。24時間後に、細胞にPBS中0.005mMのカルシウム色素fluo−3−AM(Molecular Probes)を室温で1時間負荷した。70μlPBSで置換した後、味覚刺激物質を添加した70μlPBSを室温で添加して、刺激を行った。化合物の添加の20〜30秒後の蛍光(480nm励起、535nm発光)応答を平均し、化合物添加前に測定したバックグラウンド蛍光で補正し、0.001mMイオノマイシン(CALBIOCHEM)(カルシウムイオノフォア)に対する応答に対して正規化した。
【0254】
これらの細胞系を甘味又はうま味刺激物質に曝露させたとき、活性クローンについては、一般的に80〜100%の細胞が味覚刺激物質に対して応答したことが認められた。意外にも、個々の細胞の応答の大きさは一時的にトランスフェクトした細胞のそれよりも著しく大きかった。
【0255】
この所見に基づいて、本願発明者らは、上記のようなAurora BiosciencesのVIPR−II機器を用いた自動蛍光分析画像化法によりT1R安定細胞系の活性を試験した。2つのT1R1/T1R3及び1つのT1R2/T1R3細胞系の応答をそれぞれ図11及び12に示す。
【0256】
注目すべきことに、応答細胞数の増加と応答の大きさの増加とがあいまって、一時的にトランスフェクトした細胞と比較して10倍以上の活性の増加がもたらされた。(比較すると、T1R2/T1R3により一時的にトランスフェクトした細胞のイオノマイシン応答の割合は、最適条件化で約5%であった。)さらに、安定に発現したヒトT1R2/T1R3及びT1R1/T1R3について得られた用量応答は、ヒト味覚検出閾値と相関していた。これらの安定細胞系が頑強なT1R活性を有していることから、それらが、甘味又はうま味受容体を調節し、したがって、甘味又はうま味を調節、増強、阻害又は模擬する化合物、例えば、小分子を特定するための、化学ライブラリーの高処理能力スクリーニングにおける使用に十分に適していることが示唆される。
【実施例12】
【0257】
うま味刺激物質に選択的に応答するT1R1/T1R3を誘導により同時発現する細胞系の発生
うま味受容体を安定に発現したT1R1/T1R3 HEK293細胞系は、一時的にトランスフェクトした細胞と比較して、活性の頑強な向上を示す。しかし、短所は、細胞増殖中に急速に活性を失うことがあり得ることである。
【0258】
また、これらの所見は、(i)T1R1/TR1R3がうま味受容体であり、(ii)T1R1/TR1R3を頑強に発現する細胞系、好ましくは、安定及び/又は誘導性T1R1/TR1R3細胞系をうま味の新規の調節物質を特定するために、アッセイ、好ましくは、化学ライブラリーの高処理能力スクリーニングに用いることができるという発明者らの仮説を支持している。うま味を強化する調節物質を用いてもよい。
【0259】
T1R1/TR1R3安定細胞系の不安定性を克服するために、HEK−Gα15細胞をGeneSwitchシステム(Invitrogen)を用いて誘導によりT1R1/TR1R3を発現するように工学的に処理した。ヒトT1R1及びT1R3のpGene由来ゼオシン耐性発現ベクター(T1R1についてはプラスミドSXV603、T1R3についてはプラスミドSXV611)並びにGeneSwitchタンパク質を運ぶプロマイシン耐性pSwitch由来ベクター(プラスミドSXV628)を線状化し、HEK−Gα15細胞系にコトイランスフェクトした。ゼオシン耐性及びプロマイシン耐性コロニーを選択し、拡大し、可変の量のミフェプリストンで誘導し、うま味刺激物質に対する応答についてカルシウム画像化法を用いて試験した。
【0260】
T1R1/T1R3の誘導性発現は、頑強な活性をもたらした。例えば、誘導細胞の約80%がL−グルタミン酸に応答したが、一時的にトランスフェクトした細胞は10%応答した。より具体的には、ヒトT1R1及びヒトT1R3を発現するpGene由来ゼオシン耐性発現ベクター並びにGeneSwitchタンパク質を運ぶプロマイシン耐性pSwitch由来ベクターを線状化し、Gα15細胞系にコトイランスフェクトした。細胞を、GlutaMAX、10%透析済みFBS及び3μg/mlブラスチシジンを補足したダルベッコ修正イーグル培地中37℃で0.5μg/mlプロマイシン(CALBIOCHEM)及び100μg/mlゼオシン(Invitrogen)で選択した。耐性コロニーを拡大し、10-10Mミフェプリストンによる誘導の後にうま味刺激に対するそれらの応答をLi et al.、PNAS、第99巻、7号、4692〜4696頁(2002)に従って蛍光顕微鏡により測定した。
【0261】
FLIPR機器(Molecular Device)を用いた自動蛍光分析画像化法のために、1クローン(クローン1−17と称した)からの細胞を10-10Mミフェプリストンの存在下で96ウエルプレート(約800,000細胞/ウエル)に播種し、48時間インキュベートした。次いで、細胞にPBS中3μMのカルシウム色素fluo−4−AM(Molecular Probes)を室温で1.5時間負荷した。
【0262】
50μlPBSで置換した後、種々の味覚刺激物質を補足した50μlPBSを室温で添加して、刺激を行った。応答細胞を個別に数えることによりT1R1/T1R3受容体活性を定量することが必要であった(Li et al.、PNAS第99、7号、4692〜4696頁(2002年))(受容体の活性が低いため)以前の一時的T1R1/T1R3うま味受容体発現システムと対照的に、対象の誘導発現システムはクローン1−17に実質的に高い活性をもたらしたため、画像化細胞の視野にわたり最大蛍光増加(480nm励起、535nm発光)を合計して測定することにより受容体活性を定量することが可能であった。4回の独立した測定における最大蛍光を平均し、化合物添加前に測定したバックグラウンド蛍光で補正し、0.002mMイオノマイシン(CALBIOCHEM)に対する応答に対して正規化した。
【0263】
これらの結果を図13に示す。特に、図13に0.2mM IMPの存在下及び非存在下でL−グルタミン酸塩について測定した用量応答曲線を示す。図において、各値は、4回の独立した測定を合わせた最大蛍光の平均値(バックグラウンド蛍光で補正)である。これらの用量応答曲線は、T1R1/T1R3で一時的にトランスフェクトした細胞について測定したものに対応している。
【0264】
種々のL−アミノ酸を用いてスクリーニングすることにより、うま味T1R1/T1R3味覚受容体の選択性も評価した。得られた結果は、T1R1/T1R3がうま味L−アミノ酸(L−グルタミン酸及びL−アスパラギン酸)により選択的に活性化されることを示している。
【0265】
種々のL−アミノ酸の存在下で試験した1−17クローンの応答の実験結果を図14及び図15に示す。図14に1−17細胞系を1mM IMPの存在下で10mMの濃度の種々のL−アミノ酸と接触させた実験の結果を示す。
【0266】
図15に0.2mM IMPの存在下で測定した活性アミノ酸の用量応答曲線を示す。各値は、4回の独立した測定の平均値である。
【0267】
これらの実験で得られた結果は、うま味刺激物質に対するうま味受容体の特異性及び選択性を裏づけている。うま味刺激物質L−グルタミン酸塩及びL−アスパラギン酸塩は種々の濃度でT1R1/T1R3受容体を有意に活性化した(図14及び15)が、ヒトT1R1/T1R3受容体を活性化した他のL−アミノ酸は受容体をわずかに、しかもより高い濃度で活性化したにすぎなかった。
【0268】
したがって、これらの結果は、うま味刺激物質に対するT1R1/T1R3受容体の選択性と、うま味受容体を活性化する化合物、例えば、L−グルタミン酸塩又はL−アスパラギン酸塩、あるいは、うま味受容体を活性化するL−グルタミン酸塩の活性を増強する化合物、例えば、5’−IMP又は5’−GMP、あるいは、L−グルタミン酸塩及びL−アスパラギン酸塩のようなうま味刺激物質によるうま味受容体の活性化を阻害する化合物を特定するための自動蛍光画像化機器を用いる高処理能力アッセイ用としてのこの誘導性安定発現システムの適合性を裏づけている。
【0269】
これらのアッセイを用いて特定された化合物は、うま味刺激物質を模擬又は阻害するための食物及び飲料組成物中の調味料としての適用の可能性を有する。
【実施例13】
【0270】
ラクティソールはヒトT1R2/T1R3及びT1R1/T1R3の受容体活性並びに甘味及びうま味味覚を阻害する
アルキルカルボン酸であるラクティソールは選択的な甘味阻害物質であると考えられていた(例えば、Lindley(1986年)米国特許第4,567,053号及びSchiffman et al.、Chem Senses第24巻、439〜447頁(1999年)を参照)。T1R2/T1R3をトランスフェクトしたHEK−Gα15細胞の種々の濃度のラクティソールの存在下での150mMショ糖に対する応答を測定した。ラクティソールは、ヒトT1R2/T1R3の活性を阻害し、IC50は24μMである。
【0271】
T1R1/T1R3うま味及びT1R2/T1R3甘味受容体は、共通のサブユニットを共有している。したがって、T1R2/T1R3甘味受容体を阻害するラクティソールがT1R1/T1R3うま味受容体に対して同様な効果を有する可能性があるという仮説が立てられた。本願発明者らは、10mM L−グルタミン酸に対するヒトT1R1/T1R3の応答に対するラクティソールの影響を試験した。T1R2/T1R3甘味受容体の場合と同様に、ラクティソールは、T1R1/T1R3の活性を阻害し、IC50は165μMであった。ムスカリン様アセチルコリン受容体はラクティソールによって阻害されないため、ラクティソール阻害は、例えば、Gα15媒介性シグナル伝達の非特異的阻害ではなく、T1R受容体における拮抗作用を反映している。
【0272】
本願発明者らは次に、ヒトうま味に対するラクティソールの効果を評価した。1及び2mMラクティソールの存在下での味覚閾値を、Schiffmanら(Chem.Senses、第24巻、439〜447頁(1898年))の方法に従って、0.2mM IMPの存在下又は非存在下でのうま味刺激物質L−グルタミン酸塩、甘味刺激物質ショ糖及びD−トリプトファン並びに塩味刺激物質塩化ナトリウムについて測定した。ミリモル濃度のラクティソールは、甘味及びうま味刺激物質については検出閾値を劇的に増加させたが、塩味刺激物質については増加させなかった。これらの結果を図16に示す。
【0273】
結論すると、(i)これらの所見はT1R1/T1R3が唯一のうま味受容体であるという発明者らの仮説をさらに支持しており、(ii)T1R1/T1R3及びT1R2/T1R3受容体は構造的に関連するラクティソールドメインを共有している可能性がある。
【0274】
前記の詳細な説明には本発明のいくつかの実施形態が記載されているが、上記の記述は例示であるにすぎず、開示された発明を限定するものではないことを理解すべきである。本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【技術分野】
【0001】
本出願は、以下のすべてが参照により全部が本明細書に組み込まれる、2001年6月26日出願の米国仮出願第60/300,434号、2001年7月3日出願の米国実用出願第09/897,427号、2001年7月13日出願の米国仮出願第60/304,749号、2001年8月8日出願の米国仮出願第60/310,493号、2001年11月21日出願の米国仮出願第60/331,771号、2001年12月14日出願の米国仮出願第60/339,472号及び2002年1月3日出願の米国出願第10/035,045号、2002年4月15日出願の米国仮出願第60/372,090号及び2002年4月22日出願の米国仮出願第60/374,143号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、T1R受容体が集合して機能的味覚受容体を形成するという発見に一部関する。特に、T1R1及びT1R3が同時発現することにより、グルタミン酸一ナトリウム塩を含むうま味刺激物質に応答する味覚受容体となることが発見された。また、T1R2及びT1R3受容体が同時発現することにより、天然及び人工甘味料を含む甘味刺激物質に応答する味覚受容体となることが発見された。また、本発明は、うま味刺激及び甘味刺激にそれぞれ応答する化合物を特定するためのアッセイにおけるT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3を含むヘテロオリゴマー味覚受容体の使用に関する。
【0003】
さらに、本発明は、構成的又は誘導的条件下でT1R1及びT1R3あるいはT1R2及びT1R3の組合せを安定又は一時的に同時発現する細胞系の構築に関する。
【0004】
うま味及び甘味調節化合物を特定するための細胞を用いるアッセイ、特に、蛍光分析画像法を用いて受容体活性を検出する高処理能力スクリーニングアッセイにおけるこれらの細胞系の使用も提供する。
【背景技術】
【0005】
味覚系は、外界の化学組成物に関する感覚情報を提供する。哺乳類は、少なくとも5種の基本的味覚、すなわち、甘味、苦味、酸味、塩味及びうま味を有すると考えられている。例えば、Kawamura et al.、Introduction to Umami:A Basic Taste(1987年)、Kinnamon et al.、Ann.Rev.Physiol.、第54巻、715〜31頁(1992年)、Lindemann、Physiol.Rev.、第76巻、718〜66頁(1996年)、Stewart et al.、Am.J.Physiol.、第272巻、1〜26頁(1997年)を参照。各味覚は、舌の表面に認められる味覚受容体細胞中で発現する別個のタンパク質受容体又は複数の受容体により媒介されると考えられる(Lindemann、Physiol.Rev.、第76巻、718〜716頁(1996年))。苦味、甘味及びうま味を認識する味覚受容体は、Gタンパク質結合受容体(GPCR)スーパーファミリーに属している(Hoon et al.、Cell、第96巻、451頁(1999年)、Adler et al.、Cell、第100巻、693頁(2000年))。(他の種類の味覚は、イオンチャンネルにより媒介されると考えられている。)
【0006】
Gタンパク質結合受容体は、内分泌機能、外分泌機能、心拍数、脂肪分解及び炭水化物代謝のような他の多くの生理機能を媒介する。そのような多くの受容体の生化学的分析及び分子クローニングにより、これらの受容体の機能に関する多くの基本原理が明らかにされた。例えば、米国特許第5,691,188号は、GPCRへのリガンド結合時にこの受容体がGαサブユニットの表面上のGTPによる結合GDPの置換とその後のGβ及びGγサブユニットからのGαサブユニットの解離を促進することによりヘテロトリマーGタンパク質の活性化をもたらすコンホメーション変化をどのように受けるかを記述している。遊離のGαサブユニットとGβγ複合体は、様々なシグナル伝達経路の下流エレメントを活性化する。
【0007】
本発明は、味覚特異的GPCRsの3メンバーT1Rクラスに関する。以前にT1R受容体は味覚受容体として機能すると仮定され(Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜51頁(1999年)、Kitagawa et al.、Biochem Biophys Res.Commun、第283巻、236〜42頁(2001年)、Max et al.、Nat.Genet.第28巻、58〜63頁(2001年)、Montmayeur et al.、Nat.Neurosci.第4巻、412〜8頁(2001年)、Sainz et al.、J.Neurochem.第77巻、896〜903頁(2001年))、Nelson et al.(2001年)は最近、ラットT1R2及びT1R3がいっしょに作用して甘味刺激を認識することを示した。本発明は2件の発明に関する。第一に、ラットT1R2/T1R3の場合と同様に、ヒトT1R2及びT1R3がいっしょに作用して甘味刺激を認識する。第二に、ヒトT1R1及びT1R3がいっしょに作用してうま味刺激を認識する。したがって、T1R2/T1R3は甘味受容体として機能すると考えられ、T1R1/T1R3は哺乳類におけるうま味受容体として機能すると考えられる。T1R1とT1R3との機能の相互依存性及びT1R2とT1R3との機能の相互依存性の考えられる説明は、構造的に関連性のあるGABAB受容体(Jones et al.、Nature、第396巻、5316〜22頁(1998年)、Kaupmann et al.、Nature、第396巻、683〜7頁(1998年)、White et al.、Nature、第396巻、679〜82頁(1998年)、Kuner et al.、Science、第283巻、74〜77頁(1999年))と同様に、T1Rsはヘテロダイマー複合体として機能するということである。しかし、この機能の相互依存性は、最終的に機能的に独立したモノマー又はホモ多重結合受容体を生じさせる、必要であるが、一時的な相互作用を反映している可能性もある。
【0008】
甘味及びうま味受容体として機能する味覚受容体の同定とキャラクタリゼーションは、甘味及びうま味を調節する(増強又は阻害する)化合物を特定するためのアッセイにおけるこれらの受容体の使用を促進するので、重要である。これらの化合物は、ヒト又は動物消費用の食物、飲料、薬物の味及び美味性を改善するのに有用であると思われる。特に、機能的甘味受容体を用いるアッセイにより、新規の甘味料の発見がなされる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのために、味覚を媒介する、本明細書ではT1Rと称する哺乳類Gタンパク質結合受容体のファミリーを提供することが本発明の目的である。
【0010】
活性を保持する、例えば、甘味又はうま味刺激物質により活性化され、かつ/又は結合するそのようなT1Rsの断片又は変異体を提供することが本発明の他の目的である。
【0011】
そのようなT1Rs、その断片又は変異体をコードする核酸配列又は分子を提供することが本発明の他の目的である。
【0012】
正又は負の遺伝子転写及び/又は翻訳及び/又はタンパク質輸出に関与するプロモーター、エンハンサー又は他の配列のような少なくとも1つの調節配列と作動的に連結されているそのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体をコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供することが本発明の他の目的である。
【0013】
そのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体の少なくとも1つ、及び好ましくはT1Rsあるいはその断片又は変異体の組合せを機能的に発現するヒトあるいはヒト以外の細胞、例えば、哺乳類、酵母、虫又は昆虫細胞を提供することが本発明の他の目的である。
【0014】
そのようなT1Rsの少なくとも1つの少なくとも断片を含むT1R融合タンパク質又はポリペプチドを提供することが本発明の他の目的である。
【0015】
以下で特定するhT1R核酸配列及びその保存的に修飾された変異体の1つを有する核酸配列と少なくとも50%、好ましくは75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同じである核酸配列を含むT1Rポリペプチドをコードする分離核酸分子を提供することが本発明の他の目的である。
【0016】
以下で特定するT1Rアミノ酸配列及びその保存的に修飾された変異体の1つの群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも35〜50%、好ましくは60%、75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同じであるアミノ酸配列を有し、その断片の長さが少なくとも20、好ましくは40、60、80、100、150、200又は250アミノ酸であるポリペプチドをコードする分離核酸分子を提供することが本発明のさらなる目的である。場合により、その断片が抗T1R抗体に結合する抗原断片であってよい。
【0017】
多くて10、好ましくは5、4、3、2又は1アミノ酸残基に変化が存在する前記断片の変異体を含む分離ポリペプチドを提供することが本発明のさらなる目的である。
【0018】
T1R1及び/又はT1R3が変異体又は断片であるT1R1/T1R3の組合せ、並びにT1R2及び/又はT1R3が変異体又は断片であるT1R2/T1R3の組合せを提供することが本発明の他の目的である。
【0019】
そのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体の作動物質又は拮抗物質を提供することが本発明の他の目的である。
【0020】
内在性形質膜タンパク質、特に、T1RsのようなGPCRsの表面発現を促進することができるPDZドメイン相互作用性ペプチド(本明細書ではPDZIPと称する)を提供することが本発明の他の目的である。PDZIPを含むベクター、そのようなベクターを発現する宿主細胞、及び表面発現を促進するためにPDZIPを用いる方法を提供することも本発明の目的である。
【0021】
味覚調節化合物、特に、甘味及びうま味調節化合物を特定するためのアッセイ、特に高処理能力アッセイを提供することが本発明の好ましい目的である。そのようなアッセイでは、本明細書に開示する、T1Rsあるいはその断片又は変異体の組合せ、あるいはそのようなT1Rsあるいはその断片又は変異体をコードする遺伝子を用いることが好ましい。そのような組合せはhT1R1/hT1R3及びhT1R2/hT1R3を含むことが最も好ましい。
【0022】
T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3味覚受容体を調節する、例えば、これらの受容体が味覚刺激に応答する能力を増強する化合物を特定することは、本発明の特に好ましい実施形態である。例えば、以下で述べるように、5’−IMP又は5’−GMPがL−グルタミン酸塩に対するうま味(T1R1/T1R3)の応答性を増強することが発見された。これらの調節化合物は、種々の甘味又はうま味刺激物質の活性を増強し、味覚の増大及び/又は、活性が対象アッセイにより特定される味覚調節物質により増強される特定の甘味又はうま味誘発化合物の低い濃度での、同じ味覚の誘発をもたらす。
【0023】
1つ又は複数の化合物を少なくとも1種の開示したT1Rs、その断片又は変異体、好ましくはヒトT1Rsの組合せと接触させる段階を含む味覚に関して前記1つ又は複数の化合物を評価するための好ましいアッセイを提供することが本発明のさらなる目的である。
【0024】
1つ又は複数の化合物をhT1R2とhT1R3との組合せあるいはhT1R2及び/又はhT1R3の断片、キメラ又は変異体を含む複合体と接触させる段階を含む、1つ又は複数の化合物を哺乳類、好ましくはヒトにおける甘味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節するそれらの能力についてスクリーニングする方法を提供することが本発明のより特定的な目的である。
【0025】
1つ又は複数の化合物をhT1R1とhT1R3との組合せあるいはhT1R1及びhT1R3の断片、キメラ又は変異体を含む複合体と接触させる段階を含む、1つ又は複数の化合物を哺乳類、好ましくはヒトにおける味覚、特にうま味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節するそれらの能力についてスクリーニングする方法を提供することが本発明の他の特定的な目的である。
【0026】
味覚、特に甘味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節する化合物を特定する際に用いるためのhT1R2及びhT1R3あるいはその断片、変異体又はキメラを同時発現する細胞を産生させることが本発明の他の特定的な目的である。
【0027】
味覚、特にうま味知覚を増強、模擬、阻害かつ/又は調節する化合物を特定する際にアッセイを用いるためのhT1R1及びhT1R3あるいはその断片、変異体又はキメラを同時発現する細胞を産生させることが本発明の他の特定的な目的である。
【0028】
1つ又は複数のT1Rsを発現又は発現しないように遺伝的に改変されたヒト以外の動物を生産することが本発明の他の目的である。
【0029】
T1Rs又はその組合せを用いるアッセイを用いて、食物及び飲料組成物中の着香成分として特定された化合物を用いることが本発明の他の目的である。特に、食物及び飲料組成物中で甘味阻害物質、増強物質、調節物質又は模擬物質としてhT1R2及び/又はhT1R3と相互作用する化合物並びにうま味阻害物質、増強物質、調節物質又は模擬物質としてhT1R1及び/又はhT1R3と相互作用する化合物を用いることが本発明の目的である。
【0030】
例えば、魚養殖用の動物飼料調合物の味を調節する化合物を特定するためにT1Rs、特にヒト以外のT1Rsを使用することが本発明の他の目的である。
【0031】
hT1R1/hT1R3又はhT1R2/hT1R3を安定に同時発現する真核生物、好ましくは哺乳類又は昆虫細胞系、T1R2/T1R3又はT1R1/T1R3に関連して発現するとき、機能的味覚受容体を生ずるGタンパク質、例えば、Gα15又は他のGタンパク質も発現する好ましくはHEK−292細胞系を提供することが本発明の好ましい目的である。
【0032】
T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3、好ましくはhT1R1/hT1R3又はhT1R2/hT1R3を安定に発現する真核生物細胞系、好ましくは哺乳類又は昆虫細胞を提供することが本発明の他の好ましい目的である。好ましい実施形態において、そのような細胞は、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3と結合して機能的うま味又は甘味受容体を生じさせるGα15又は他のGタンパク質を安定に発現するHEK−292細胞を含む。
【0033】
うま味又は甘味を調節する化合物を特定するための構成的又は誘導条件下でT1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定又は一時的に発現するHEK−292又は他の細胞系を用いるアッセイ、好ましくは高処理能力アッセイを提供することも本発明の目的である。
【0034】
ラクティソール(甘味阻害物質)又は構造的に関連する物質のT1R1/T1R3(うま味)味覚受容体への結合に影響を及ぼす化合物の能力に基づいて、T1R1/T1R3うま味受容体を増強し、模擬し、阻害し、かつ/又は調節する化合物を特定することが本発明の他の特定的な目的である。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明は、同時発現したとき、T1Rsの種々の組合せが味覚刺激に応答する機能的味覚受容体を生ずるという発見に関する。特に、本発明は、T1R2及びT1R3受容体が同時発現することにより、甘味刺激に応答するヘテロオリゴマー味覚受容体となるという発見に関する。また、本発明は、T1R1及びT1R3が同時発現することにより、グルタミン酸一ナトリウム塩のようなうま味刺激物質に応答する味覚受容体となるという発見に関する。
【0036】
本発明はまた、T1R1及びT1R3を好ましくはヒトにおいて、又はT1R2及びT1R3を好ましくはヒトにおいて同時発現する細胞系に関する。好ましい実施形態において、これらの細胞系は構成的又は誘導的に多量の受容体を発現する。これらの細胞系は、T1R1及びT1R3又はT1R2及びT1R3を一時的又は安定に発現する細胞を含む。
【0037】
また、本発明は、甘味又はうま味を調節する化合物を特定するためのT1R2/T1R3味覚受容体又はT1R1/T1R3受容体を用いるアッセイ、特に高処理能力スクリーングアッセイ、好ましくは高処理能力の細胞を用いるアッセイを提供する。本発明はまた、これらの化合物が甘味又はうま味を調節することを確認するための味覚試験を含むアッセイを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ラットT1Rs、ヒトカルシウム感知受容体及びラットメタボトロピックグルタミン酸受容体の配列アライメントを包含する。
【図2】hT1R2及びhT1R3が味覚組織において発現していることを示すRT−PCR増幅実験結果を包含する。
【図3】甘味刺激物質の様々な濃度でヒトT1R2、T1R3及びT1R2/T1R3で一時的にトランスフェクトしたGα15を安定に発現するHEK細胞における種々の甘味刺激物質(a);数種の甘味刺激物質に対するヒトT1R2/T1R3の用量応答(b);グルマリンの存在下でのショ糖に対するヒトT1R2/T1R3の応答、及びグルマリンの存在下でのイソプロテレノールに対する内因性β2−アドレナリン受容体の応答;によって誘発される機能データ(細胞内カルシウム応答)を包含する。cは、種々の甘味料に対する正規化した応答を包含する。
【図4】hT1R2/hT1R3、rT1R2/rT1R3、hT1R2/rT1R3及びrT1R2/hT1R3で一時的にトランスフェクトしたGα15を安定に発現するHEK細胞における350mMショ糖、25mMトリプトファン、15mMアスペルテーム及び0.05%モネリンに対する細胞内カルシウム応答を包含する。
【図5】Gα15を安定に発現するHEK細胞をhT1R2及びhT1R3又はhT1R3単独で一時的にトランスフェクトし、カルシウム色素Fluo−4及び甘味刺激物質(12.5mMシクラメート)と接触させた、蛍光プレート反応器を用いたアッセイの結果を包含する。
【図6】hT1R2及びhT1R3が、様々な甘味刺激物質(trp、シクラメート、ショ糖、ネオテーム、アスパレーム(asparame)、サッカリン及びAcek)との用量特異的相互作用に基づき、一緒にヒト甘味受容体として機能することを示す正規化した用量応答曲線を包含する。
【図7】重要なリガンド結合残存物がこれらの分子に認められることを示すmGluR1及びT1R1に関する構造情報を包含する。
【図8】a〜cは、T1R1/T1R3で一時的にトランスフェクトしたGα15を安定に発現するHEK細胞が細胞内カルシウムに基づくアッセイにおいてグルタミン酸塩に応答することを示す機能データを包含する。 aは、細胞内カルシウムがグルタミン酸塩濃度の増加に応答して増加することを示す。 bは、細胞内カルシウムがIMP(2mM)、グルタミン酸塩(0.5mM)及び0.2mM IMPに対して応答することを示す。 cは、T1R1/T1R3が0.2mM IMPの存在下及び非存在下でグルタミン酸塩に対して応答することを示す。
【図9】a及びbはそれぞれ、Myc標識hT1R2を用いた免疫蛍光染色アッセイの結果及びPDZIPペプチド(配列番号1)の組み込みが形質膜上のT1R(hT1R2)の発現を増強したことを示すFACS実験の結果を包含する。
【図10】aからbは、hT1R2/hT1R3が種々の甘味刺激物質に応答することを示すカルシウム画像データを包含する。
【図11】hT1R1/hT1R3を安定に発現する細胞系のうま味刺激物質に対する自動蛍光画像化法による応答を示す。
【図12】hT1R2/hT1R3を安定に発現する細胞系の甘味刺激物質に対する自動蛍光画像化法による応答を示す。
【図13】0.2mM IMPの存在下及び非存在下でL−グルタミン酸塩に対するヒトT1R1/T1R3味覚受容体を誘導的に発現する細胞系における自動蛍光画像化法を用いて測定した用量応答曲線を示す。
【図14】ヒトT1R1/T1R3味覚受容体(1−17クローン)を誘導的に発現する細胞系のL−アミノ酸のパネルに対する応答を示す。10mMの種々のC−アミノ酸を1mM IMPの存在下及び非存在下で試験した。
【図15】ヒトT1R1/T1R3味覚受容体(1−17クローン)を誘導的に発現する細胞系のL−アミノ酸のパネルに対する応答を示す。活性アミノ酸に関する用量応答を0.2mM IMPの存在下で測定した。
【図16】ラクティソールがヒトT1R2/T1R3及びヒトT1R1/T1R3の受容体活性を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、したがって、異なるT1Rsの組合せ、好ましくはT1R1/T1R3又はT1R2/T1R3の同時発現により生ずる機能的味覚受容体、好ましくはヒト味覚受容体、並びに同時発現により機能的味覚受容体、すなわち、甘味受容体(T1R2/T1R3)又はうま味受容体(T1R1/T1R3)を生ずる対応する分離核酸配列あるいはその断片、キメラ又は変異体を提供する。
【0040】
文献に報告されているように、味覚細胞特異的GPCRsのT1Rファミリーのメンバーが知られており、すべてが参照により全部が本明細書に組み込まれるHoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年)、国際公開第00/06592号、国際公開第00/06593号及び米国特許出願番号第09/799,629号に特定されている。
【0041】
より詳細には、本発明は子となる味覚細胞特異的GPCRの同時発現に関する。これらの核酸及びそれらにコードされる受容体は、味覚細胞特異的GPCRの「T1R」ファミリーのメンバーと称される。本発明の特定の実施形態において、同時発現するT1Rファミリーメンバーは、rT1R1、rT1R2、rT1R3、mT1R1、mT1R2、mT1R3、hT1R1、hT1R2及びhT1R3などである。理論に束縛されることを望まないが、これらの味覚細胞特異的GPCRsは味変換経路の構成要素であり、甘味及びうま味刺激物質及び/又は他の種類の味を呈する他の味覚刺激物質の味覚検出に関与すると考えられている。
【0042】
本明細書においてT1Rファミリーメンバーが他のT1Rファミリーメンバーと共に作用して、甘味及びうま味受容体として機能するということは確証されている。以下の実験的実施例でさらに詳細に開示するように、hT1R2及びhT1R3を同時発現する異種細胞がヒト甘味を反映する仕方で甘味刺激物質により選択的に活性化されることが実証された。例えば、hT1R2及びhT1R3を同時発現するHEK−293−Gα15細胞はシクラメート、ショ糖、アスパルテーム及びサッカリンに対して特異的に応答し、これらの化合物の用量反応は精神物理的味覚検出法の閾値と相関する。したがって、hT1R2及びhT1R3を同時発現する細胞は、甘味感覚を模擬、調節、阻害かつ/又は増強する化合物を特定するためのスクリーニング、好ましくは、高処理能力スクリーニングに用いることができる。
【0043】
また、実験的実施例におけるデータにより裏づけられているように、hT1R1及びhT1R3を同時発現する細胞がヒトうま味を反映する仕方でグルタミン酸塩(グルタミン酸一ナトリウム塩)及び5’−リボヌクレオチドにより選択的に活性化されることが示された。例えば、hT1R1及びhT1R3を同時発現するHEK−293−Gα15細胞はグルタミン酸塩に対して特異的に応答し、このうま味を呈する化合物の用量反応はその精神物理的味覚検出法の閾値と相関する。さらに、IMPのような5’−リボヌクレオチドはT1R1/T1R3受容体のグルタミン酸塩応答を増強する。これは、うま味の相乗作用特性である。したがって、hT1R1及びhT1R3を同時発現する細胞は、うま味感覚を模擬、調節、阻害かつ/又は増強する化合物を特定するためのスクリーニング、好ましくは、高処理能力スクリーニングに用いることができる。
【0044】
さらに、実施例における実験データにより示されたように、T1R1及びT1R3を安定かつ誘導的に同時発現する細胞は、うま味刺激物質L−グルタミン酸塩及びL−アスパラギン酸塩に対して選択的に応答し、他のL−アミノ酸に対しては弱く応答するにすぎず、そして、はるかに高い実施例における実験データにより濃度では、T1R1/T1R3受容体をうま味刺激を調節する(増強又は阻害する)化合物を特定するアッセイに用いることができるというさらなる証拠が得られたことが示された。
【0045】
また、実施例における実験データにより裏づけられているように、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を同時発現する細胞系はそれぞれうま味又は甘味刺激物質に対して応答し、定量的な用量反応が、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3受容体を受容体作動物質及び拮抗物質、例えば、MSG代用物、うま味阻害物質、新規人工及び天然甘味料並びに甘味阻害物質を特定するのに用いることができるという結論をさらに裏づけていることが示された。
【0046】
また、実験的実施例におけるデータにより裏づけられているように、甘味阻害物質ラクティソールがT1R2/T1R3甘味受容体及びT1R1/T1R3うま味受容体の両方を阻害することが示された。このことから、T1R2/T1R3又はT1R1/T1R3へのラクティソールの結合に影響を及ぼす化合物をスクリーニングするアッセイは甘味又はうま味を増強、模擬、調節又は阻害する化合物を特定するのに用いることができることが示唆される。ラクティソールがT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3受容体の両方を阻害するという事実から、これらの受容体が、ラクティソール及び潜在的に他の味覚調節物質が結合する共通のサブユニットを共有していることが示唆される。したがって、これにより、甘味を増強、模擬、調節又は阻害する一部の化合物はうま味に対して同様な作用を有し、また、その逆も言えることが示唆される。
【0047】
さらに、実験的実施例におけるデータにより裏づけられているように、T1Rs、すなわち、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞系は、自動蛍光画像法によりアッセイしたとき、様々な甘味及びうま味刺激物質に対して非常に効果的に、すなわち、一時的にトランスフェクトした細胞よりも実質的に大きい程度に応答することが示された。したがって、これらの細胞系は、甘味及びうま味を調節、阻害、模擬又は増強する化合物を特定するための高処理能力スクリーニングアッセイ用に特に適している。しかし、本発明は、T1R又はその組合せを一時的に発現する細胞を用いるアッセイも含む。
【0048】
さらに、適用例は、一部のT1Rsが共に、具体的にはT1R1/T1R3及びT1R2/T1R3が作用すること、そして、そのような受容体の組合せをアッセイ、好ましくは高処理能力アッセイに用いることができることを示すデータを含んでいるが、対象発明はT1R1、T1R2及びT1R3単独あるいは他のタンパク質、例えば、他のGPCRsと組み合わせて用いるアッセイも含むことを注意すべきである。
【0049】
それに関して、甘味受容体はT1R2のみからなり、かつ/又はうま味受容体はT1R1のみからなっていて、T1R3受容体はおそらくT1R2又はT1R1の表面発現を促進するように機能していると推測される。
【0050】
あるいは、甘味及びうま味受容体はT1R1及び/又はT1R2の制御のもとに差別的に処理されるT1R3のみにより構成されていると想定される。この種の受容体発現は、カルシトニン関連受容体のRAMP依存性プロセシングと類似していると思われる。
【0051】
T1Rアッセイにより特定される化合物は、食物及び飲料の味を調節するために用いることができる。以下でさらに詳細に記載する適切なアッセイは、異なるT1R受容体、そのキメラ又は断片、特にN末端リガンド結合ドメインを含む断片の組合せの1つを用いる直接結合アッセイを含む、実施例としての全細胞アッセイ及び生化学的アッセイなどである。本発明における使用に適切なアッセイの例は、以下でより詳細に記載するが、GPCRの分野において知られているものである。
【0052】
T1R味覚受容体又はT1R味覚受容体の組合せ又は他の異種(非T1R)タンパク質、例えば、他のGPCRsと共に発現するT1R受容体への種々の化合物又は化合物の混合物の結合を定量する、あるいは、T1R味覚受容体を発現する細胞の活性化を定量するアッセイを設計することができる。これは、HEK−293、CHO及びCOS細胞のような異種細胞中で安定又は一時的に発現する味覚受容体により実現することができる。
【0053】
アッセイは、Gα15又はGα16あるいは他の乱交雑Gタンパク質又はGタンパク質変異型あるいは内性Gタンパク質のようなGタンパク質も(好ましくは安定に)発現する細胞を用いることが好ましいであろう。さらに、アッセイにおいてGβ及びGγタンパク質も発現させてもよい。
【0054】
上で特定した受容体又は受容体の組合せを発現又は含む細胞又は組成物を用いた甘味又はうま味に対する化合物の効果は、カルシウム感受性色素、電位感受性色素の使用、cAMPアッセイ、蛍光標識リガンド又は3H−グルタミン酸塩のような放射性リガンドを用いる直接結合アッセイ又は転写アッセイ(ルシフェラーゼ又はβ−ラクタマーゼのような適切なリポーターを用いる)を含む様々な手段により検討することができる。
【0055】
本発明による1種又は複数のT1Rsと共に用いることができるアッセイは、実施例としての、生細胞の遺伝的選択を用いるアッセイ、全細胞又は膜断片又は精製T1Rタンパク質を用いるアッセイ、cAMP及びIP3のような二次メッセンジャーを用いるアッセイ、アレスチンの細胞表面への転移を検出するアッセイ、試験に供したリガンドにより細胞表面上の受容体発現の喪失を検出する(細胞内取込み)アッセイ、直接リガンド結合アッセイ、阻害物質を用いる競合的結合アッセイ、in vitroで翻訳されたタンパク質を用いるアッセイ、リガンドの結合時のコンホメーション変化(例えば、タンパク質分解、蛍光又はNMRにより証明される)を検出するアッセイ、ハエ、虫又はマウスのような、T1R又はT1R組合せを発現するヒト以外のトランスジェニック動物を用いる行動アッセイ、T1R遺伝子を含む組換えウイルスを感染させた細胞を用いるアッセイなどである。
【0056】
T1R又はT1R断片(又はT1Rsの組合せ又はT1Rと他のタンパク質との組合せ)のX線結晶構造を決定し、特定のT1R受容体又は受容体組合せに結合かつ/又は増強、模擬、阻害又は調節する化合物を分子モデリング法により予測するのに用いる、構造に基づくアッセイも本発明の範囲内にある。より具体的には、本発明は、T1R1/T1R3(好ましくはhT1R1/hT1R3)及び/又はT1R2/T1R3(好ましくはhT1R2/hT1R3)の結晶構造の決定及びT1R受容体活性を調節する分子を特定するための構造に基づく設計方法におけるそのような結晶構造の使用を含む。
【0057】
本発明は特に、1種又は複数の全長T1R受容体あるいはT1R1、T1R2又はT1R3の断片、好ましくは、N末端ドメインを発現する細胞、例えば、哺乳類、酵母、昆虫又は他の異種細胞を用いて実施する生化学的アッセイを含む。そのようなアッセイにおける化合物の効果は、競合的結合アッセイ、例えば、放射性グルタミン酸又はIMP、蛍光(例えば、蛍光偏光、FRET)又はGTPy35S結合アッセイを用いて測定することができる。言及したように、好ましい実施形態において、そのようなアッセイでは、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3及びGα15のような適切なGタンパク質を安定に同時発現する細胞系を用いる。他の適切なGタンパク質としては、参照により全部が本明細書に組み込まれる米国出願番号第09/984,292号及び第60/243,770号に開示されているキメラ及び変異Gタンパク質などがある。
【0058】
さらに、改善された特性、例えば、表面発現又はGタンパク質結合が増強された改変受容体を構築することができる。これらのT1R変異体は細胞を用いるアッセイ及び生化学的アッセイに組み込むことができる。
【0059】
ヒトT1Rsに関する本発見を他の動物種、例えば、げっ歯類、ブタ、サル、イヌ及びネコ並びにおそらく魚のような非哺乳類に拡張できると想像される。これに関して、いくつかの魚T1R断片が下記の実施例1で特定されている。したがって、本発明は動物飼料調合物用の化合物のスクリーニングに適用例を有する。
【0060】
本発明はさらに、様々なT1Rs及びその組合せの種々の対立遺伝子変異体を用い、それにより、対立遺伝子変異体を発現する個体における特定の味覚を誘発する化合物又はすべての個体における特定の味覚を誘発する化合物の特定を可能にするスクリーニングを含む。そのような化合物は、一般的に食物の味をより良くするのに用いることができる。
【0061】
T1Rコード核酸は、味覚細胞において特異的に発現するので、味覚細胞の同定のための有用なプローブともなる。例えば、T1Rポリペプチド及びタンパク質のプローブを用いて、葉状、有郭及び茸上乳頭に存在する味覚細胞並びにゲシュマックストライフェン、口腔、胃腸上皮及び喉頭蓋に存在する味覚細胞を同定することができる。特に、T1Rsを検出する方法を用いて、甘味及び/又はうま味刺激あるいは他の種類の味を呈する他の味覚刺激に敏感な味覚細胞を同定することができる。例えば、T1R2及び/又はT1R3を安定又は一時的に発現する細胞は、本明細書における試験から甘味刺激に対して応答すると予測されよう。同様に、T1R1及び/又はT1R3を発現する細胞は、うま味刺激に対して応答すると予測されよう。本発明のT1Rタンパク質及びポリペプチドをコードする核酸は、参照により全部が本明細書に組み込まれる国際公開第00/035374号に開示されている方法により遺伝子工学的に処理され、増幅され、合成され、かつ/又は組換えにより発現させた様々な源から分離することができる。本発明により発現させることができるT1Rsの一覧は、実施例に記載する。しかし、本発明は、そのようなT1R配列及び特に他の動物種のT1Rsに基づいて構築された他の特異的T1Rs又は断片、変異型又はキメラの発現及び使用を含むことを強調すべきである。
【0062】
開示されているように、本発明の重要な態様は、これらの味覚細胞特異的GPCRsの調節物質、例えば、活性化物質、阻害物質、刺激物質、増強物質、作動物質及び拮抗物質をスクリーニングする複数の方法である。味覚伝達のこのような調節物質は、味覚シグナル伝達経路の調節に有用である。これらのスクリーニングの方法を用いて、味覚細胞活性の高親和性の作動物質及び拮抗物質を特定することができる。次に、これらの調節化合物を食品産業において味を個別調整、例えば、食品の甘味及び/又はうま味を調節するのに用いることができる。
【0063】
本発明は、甘味及びうま味の味覚を媒介する特異的T1Rs及びT1R受容体の組合せを同定することができるので、甘味及びうま味に関する以前の理解の不足を矯正するものである。したがって、一般的に本出願は、T1Rクラスの味覚特異的Gタンパク質結合受容体及び味覚におけるそれらの特異的機能に関する発明者らの発見並びにこれらの発見と味覚の分子的基礎のより十分な理解との関係に関する。
【0064】
甘味及びうま味(グルタミン酸一ナトリウム塩の味)の分子的基礎は、不可解である。最近、T1Rsと称される3メンバークラスの味覚特異的Gタンパク質結合受容体が同定された。T1Rの重複する発現パターンと構造的に関連するGABAB受容体がヘテロ二量体であるという証明とから、T1Rsがヘテロ二量体受容体として機能することが示唆される。以下の実施例において、本発明は、異種細胞におけるヒトT1R1、T1R2及びT1R3の機能的同時発現、すなわち、T1R1及びT1R3を同時発現する細胞はうま味刺激により活性化され、T1R2及びT1R3を同時発現する細胞は甘味刺激により活性化されることを記載している。T1R1/T1R3及びT1R2/T1R3の活性は、精神物理的検出法の閾値と相関性を示した。さらに、5’−リボヌクレオチドIMPはグルタミン酸塩に対するT1R2/T1R3応答を増強すること(うま味の相乗作用特性)が認められた。これらの所見は、特異的T1Rs及びT1Rsの個別に異なる組合せが甘味及びうま味受容体として機能することを示している。
【0065】
ヒトの苦味、甘味及びうま味の知覚は、Gタンパク質結合受容体により媒介されると考えられる(Lindemann B.、physiol.Res.第76巻、718〜66頁(1996年))。最近、ヒトゲノムの評価によりT2Rクラスの苦味受容体が明らかにされた(Adler et al.、Cell、第100巻、613〜702頁(2000年)、Chandrasgekar et al.、Cell、第100巻、703〜11頁(2000年)、Matsunami et al.、Nature、第404巻、601〜604頁(2000年))が、甘味及びうま味の受容体は同定されなかった。最近、他のクラスの候補味覚受容体であるT1Rsが同定された。T1Rsは最初にラット味覚組織由来のサブトラクテッドcDNAライブラリーの大規模配列決定により(これによりT1R1が同定された)、その後、T1R1に基づく縮重PCR(これがT1R2の同定につながった)により同定された(Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年))。最近、本願発明者ら及び他者らは、ヒトゲノムデータバンクにおけるT1Rファミリーの第3のおそらく最終のメンバーであるT1R3を同定した(Kitagawa et al.、Biochem Biophys.Res Commun.第283巻、第1号、236〜42頁(2001年)、Max et al.、Nat.Genet.第28巻、第1号、58〜63頁(2001年)、Sainz et al.、J.Neurochem.第77巻、第3号、896〜903頁(2001年)、Montmayeur et al.、Nat.Neurosci.第4巻、492〜8頁(2001年))。効果的に、マウスT1R3はマウスにおける甘味に影響を及ぼす遺伝子座であるSacを含むゲノム区間にマップされる(Fuller et al.、J.Hered.第65巻、33〜6頁(1974年)、Li et al.、Mamm.Genome、第12巻、13〜16頁(2001年))。したがって、T1R3は甘味受容体として機能すると予測された。最近の高分解能遺伝地図研究でマウスT1R3とSacとの関連性が補強された(Fuller T.C.、J.Hered.第65巻、第1号、33〜36頁(1974年)、Li et al.、Mammal.Genome、第12巻、第1号、13〜16頁(2001年)。
【0066】
興味深いことに、これまでは機能的に発現していたすべてのCファミリー受容体(メタボトロピックグルタミン酸塩受容体、GABAB受容体、カルシウム感知受容体(Conigrave A.D.、Quinn S.J.、Brown E.M.、Proc Natl Acad Sci USA、第97巻、4814〜9頁(2000年))及び魚嗅覚受容体(Speca D.J. et al.、Neuron、第23巻、487〜98頁(1999年))がアミノ酸により活性化されることが示された。このような共通の特徴が、T1Rsがアミノ酸を認識し、またT1Rsが甘味のあるアミノ酸に加えてグルタミン酸塩の検出に関与するという可能性を生じさせている。あるいは、ラット味覚組織における選択的発現と、受容体活性化閾値がグルタミン酸の精神物理的検出法の閾値とが類似していることから、mGluR4メタボトロピックグルタミン酸受容体の転写変異型がうま味受容体であると提唱された(Chaudhari et al.、Nat.Neurosci.第3巻、113〜119頁(2000年))。この仮説は、味覚組織におけるmGluR4変異型の発現レベルが極めて低いことと、mGluR4ノックアウトマウスのグルタミン酸味覚が事実上変化しない(Chaudhari and Roper、Ann.N.Y.Acad.Sci.第855巻、398〜406頁(1998年))ことと調和させることが困難である。さらに、野生型受容体のグルタミン酸結合ポケットを形成する残基の大部分だけでなく、球状N末端グルタミン酸結合ドメインのほぼ半分も欠く味覚受容体変異型は構造的にありそうもない(Kunishima et al.、Nature、第407巻、971〜7頁(2000年))。
【0067】
げっ歯類におけるT1R発現パターンの比較分析により、T1R2及びおそらくT1R1がそれぞれT1R3と同時発現することが示された(Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜51頁(1999年)、Kitagawa et al.、Biochem Biophy.Res.Commun.第283巻、236〜242頁(2001年)、Max et al.、Nat.Genet.第28巻、58〜63頁(2001年)、Montmayeur et al.、Nat.Neurosci.第4巻、492〜8頁(2001年)、Sainz et al.、J.Neurochem、第77巻、896〜903頁(2001年))。さらに、Cファミリー受容体の共通のテーマとして二量体化が発生している。すなわち、メタボトロピックグルタミン酸及びカルシウム感知受容体はホモ二量体であり(Romomano et al.、J.Biol.Chem.第271巻、28612〜6頁(1996年)、Okamoto et al.、J.Biol.Chem.第273巻、13089〜96頁(1998年)、Han et al.、J.Biol.Chem.第274巻、100008〜13頁(1999年)、Bai et al.、J.Biol.Chem.第273巻、23605〜10頁(1998年))、構造的に関連するGABAB受容体はヘテロ二量体である(Jones et al.、Nature、第396巻、674〜9頁(1998年)、Kaupmann et al.、Nature、第396巻、683〜687頁(1998年)、White et al.、Nature、第396巻、679〜682頁(1998年)、Kuner et al.、Science、第283巻、74〜77頁(1999年))。本願発明者らは、異種細胞における T1Rsの機能的同時発現により、ヒトT1R2がヒトT1R3と共に甘味受容体として機能し、ヒトT1R1がヒトT1R3と共にうま味受容体として機能することを立証した。
【0068】
以前には改良型人工甘味料の開発は甘味のアッセイが存在しないことにより阻まれていたので、本明細書で述べた発見は特に重要である。実際、すべてがhT1R2/hT1R3を活性化する5種の一般的に使用されている市販の甘味料は思いがけなく発見された。同様に、骨の折れる方法である官能検査以外には、うま味を調節する化合物を特定するアッセイは存在しない。以下で述べる実験結果により実証されているように、ヒト甘味及びうま味受容体が同定され、これらの受容体に関するアッセイ、具体的には、機能的T1R味覚受容体、すなわち甘味又はうま味受容体を安定に発現する細胞を用いるアッセイが開発されたので、これらの問題は現在、多少とも解決されている。
【0069】
それに基づいて、本発明は、T1Rファミリーが味蕾において作用するように、味覚調節化合物の甘味及びうま味に対する効果のリポーター分子として作用する、味覚調節化合物を検出し、特徴付けるアッセイを提供する。甘味及びうま味を個別に調節し、模擬し、増強し、かつ/又は阻害する化合物を特定するアッセイを特に提供するが、これらは本発明の範囲内にある。GPCRsの活性及び特にGPCR活性に影響を及ぼす化合物をアッセイする方法は、よく知られており、本発明のT1Rファミリーメンバー及びその機能の組合せに適用可能である。適切なアッセイは上に特定した。
【0070】
特に、対象GPCRsは、例えば、リガンド結合、イオン濃度、膜電位、電流、イオン流速、転写、受容体−リガンド相互作用、二次メッセンジャー濃度の変化をin vitro及びin vivoで測定するためのアッセイに用いることができる。他の実施形態において、T1Rファミリーメンバーは細胞内で組換えにより発現させることができ、GPCR活性を介しての味覚変換の調節は、Ca2+濃度及びcAMP、cGMP又はIP3のような細胞内メッセンジャーの変化を測定することによりアッセイすることができる。
【0071】
特定のアッセイにおいて、T1Rポリペプチドのドメイン、例えば、細胞外、膜貫通又は細胞内ドメインが異種ポリペプチドに融合されていて、それにより、キメラポリペプチド、例えば、GPCR活性を有するキメラタンパク質を形成している。N末端リガンド結合ドメインを含むT1R1、T1R2又はT1R3の断片の使用が特に予想される。そのようなタンパク質は、例えば、T1R受容体のリガンド、作動物質、拮抗物質又は他の調節物質を特定するためのアッセイにおいて有用である。例えば、T1Rポリペプチドは、形質膜のトラフィッキングあるいは分泌経路による成熟及びターゲッティングを促進する異種シャペロン配列を有するキメラ受容体として真核細胞中で発現させることができる。任意選択の異種配列は、C末端PDZIP断片(配列番号1)のようなPDZドメイン相互作用ペプチドであってよい。PDZIPは、ER輸出シグナルであり、本発明によれば、本明細書に記載するT1R受容体のような異種タンパク質の表面発現を促進することが示された。より具体的には、本発明の1態様において、PDZIPは、嗅覚受容体、T2R味覚受容体及び本明細書に記載するT1R味覚受容体のような問題のある膜タンパク質の適切なターゲッティングを促進するために用いることができる。
【0072】
そのようなキメラT1R受容体は、HEK−293細胞のようないかなる真核細胞においても発現させることができる。細胞は、Gタンパク質、好ましくはGα15又はGα16のような乱交雑Gタンパク質あるいは広範囲のGPCRsを細胞内シグナル伝達経路又はホスホリパーゼCのようなシグナル伝達タンパク質に連結させることができる他のタイプの乱交雑Gタンパク質を含むことが好ましい。そのような細胞内のそのようなキメラ受容体は、細胞中のFURA−2依存性蛍光を検出することにより細胞内カルシウムの変化を検出することによるような標準的方法を用いて検出することができる。好ましい宿主細胞が適切なGタンパク質を発現しない場合、参照により全部が本明細書に組み込まれる、米国出願第60/243,770号、2001年10月29日出願の米国出願第09/984,297号及び2001年11月21日出願の米国出願第09/989,497号に記載のような乱交雑Gタンパク質をコードする遺伝子をそれらの宿主細胞にトランスフェクションすることができる。
【0073】
味覚変換の調節物質を検定する別の方法としては、T1Rポリペプチド、その一部、すなわち、細胞外ドメイン、膜貫通領域又はそれらの組合せあるいはT1Rファミリーメンバーの1つ又は複数のドメインを含むキメラタンパク質;T1Rポリペプチド、断片又は融合タンパク質を発現する卵母細胞又は組織培養細胞;T1Rファミリーメンバーのリン酸化及び脱リン酸化;GPCRsに結合するGタンパク質;リガンド結合アッセイ;電圧、膜電位及びコンダクタンス変化;イオン流束アッセイ;cGMP、cAMP及びイノシトール三リン酸(IP3)のような細胞内二次メッセンジャーの変化並びに細胞内カルシウム濃度の変化を用いるin vitroリガンド結合アッセイなどがある。
【0074】
さらに、本発明は、味覚変換の調節の検討及び味覚受容体細胞の特異的同定を可能にする、T1R核酸及びタンパク質発現を検出する方法を提供する。T1Rファミリーメンバーは、父性及び法医学調査のための有用な核酸プローブも提供する。T1R遺伝子も葉状、茸状、有郭、ゲシュマックストライフェン及び喉頭蓋味覚受容体細胞のような味覚受容体細胞を同定するための核酸プローブとして有用である。T1R受容体も味覚受容体細胞を同定するのに有用なモノクローナル及びポリクローナル抗体を発生させるために用いることができる。
【0075】
機能的には、T1Rポリペプチドは、味覚伝達に関与すると考えられており、Gタンパク質と相互作用して味覚シグナル伝達を媒介することができる関連する7種の貫膜Gタンパク質結合受容体を含む(例えば、Fong、Cell Signal、第8巻、217頁(1996年)、Baldwin、Curr.Opin.Cell Biol.、第6巻、180頁(1994年)を参照)。構造的には、T1Rファミリーメンバーのヌクレオチド配列は、細胞外ドメイン、7種の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含む関連する関連するポリペプチドをコードする。他の動物種の関連T1Rファミリー遺伝子は、本明細書において実施例で開示するT1R核酸配列又はその保存的に修飾された変異体と少なくとも約50ヌクレオチドの長さ、場合によって100、200,500又はそれ以上のヌクレオチドの長さの領域にわたり少なくとも約50%及び場合によって60%、70%、80%又は90%のヌクレオチド配列同一性を共有するか、あるいは、以下において実施例で開示するT1Rポリペプチド又はその保存的に修飾された変異体と少なくとも25アミノ酸の長さ、場合によって50〜100アミノ酸の長さのアミノ酸領域にわたり少なくとも約35〜50%及び場合によって60%、70%、80%又は90%のアミノ酸配列同一性を共有するポリペプチドをコードする。
【0076】
T1Rファミリーメンバーに特徴的ないくつかの共通アミノ酸配列又はドメインも同定された。例えば、T1Rファミリーメンバーは、一般的に、T1R共通配列1及び2(それぞれ配列番号2及び3)と少なくとも約50%、場合によって55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95〜99%又はより高い同一性を有する配列を含む。したがって、これらの保存ドメインは、同一性、特異的ハイブリダイゼーション又は増幅あるいはドメインに対して産生させた抗体による特異的結合により、T1Rファミリーのメンバーを同定するのに用いることができる。T1R共通配列は、例として次の配列を含む。
T1Rファミリー共通配列1:(配列番号2)
(TR)C(FL)(RQP)R(RT)(SPV)(VERKT)FL(AE)(WL)(RHG)E
T1Rファミリー共通配列2:(配列番号3)
(LQ)P(EGT)(NRC)YN(RE)A(RK)(CGF)(VLI)T(FL)(AS)(ML)
【0077】
これらの共通配列は本明細書に記載するT1Rポリペプチドに認められるものを含むが、他の生物のT1Rファミリーメンバーは、本明細書に具体的に記載する共通配列と約75%又はそれ以上の同一性を有する共通配列を含むと予想される。
【0078】
T1Rヌクレオチド及びアミノ酸配列の特定の領域は、T1Rファミリーメンバーの多形性変異体、種間同族体及び対立遺伝子を同定するために用いることができる。この同定は、in vitroで例えば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で又はPCR(例えば、上で同定されたT1R共通配列をコードするプライマーを用いる)により、あるいは他のヌクレオチド配列との比較のためのコンピュータシステムにおける配列情報を用いて行うことができる。単一種集団内のT1R遺伝子の異なる対立遺伝子も、対立遺伝子配列の差が集団のメンバー間の味覚の相違を制御しているかどうかを判断する際に有用であろう。古典的なPCRタイプの増幅及びクローニング技術は、例えば、同義性プライマーが種にわたる関連遺伝子を検出するのに十分なものである場合に、新規のT1Rsを分離するのに有用である。
【0079】
一般的に、T1Rファミリーメンバーの多形性変異体及び対立遺伝子の同定は、約25アミノ酸又はそれ以上、例えば、50〜100アミノ酸のアミノ酸配列を比較することにより行うことができる。おおよそ少なくとも35〜50%、及び場合により60%、70%、75%、80%、85%、90%、95〜99%又はそれ以上のアミノ酸同一性は一般的に、タンパク質がT1Rファミリーメンバーの多形性変異体、種間同族体又は対立遺伝子であることを示している。配列の比較は、下記の配列比較アルゴリズムのいずれかを用いて行うことができる。T1Rポリペプチド又はその保存領域に特異的に結合する抗体も、対立遺伝子、種間同族体及び多形性変異体を同定するのに用いることができる。
【0080】
T1R遺伝子の多形性変異体、種間同族体及び対立遺伝子は、推定上のT1R遺伝子又はタンパク質の味覚細胞特異的発現を検討することにより確認することができる。一般的に、本明細書に開示するアミノ酸配列を有するT1Rポリペプチドは、T1Rファミリーメンバーの多形性変異体又は対立遺伝子の同定を立証するための推定上のT1Rポリペプチドとの比較における陽性対照として用いることができる。多形性変異体、対立遺伝子及び種間同族体は、Gタンパク質結合受容体の7種の貫膜構造を保持していると予想される。さらなる詳細については、関連T1RファミリーメンバーであるGPCR−B3sを開示しており、この開示と一致した方法で参照により本明細書に組み込まれる国際公開第00/06592号を参照。GPCR−B3受容体は、本明細書ではrT1R1及びmT1R1と称している。さらに、また関連T1RファミリーメンバーであるGPCR−B4sを開示しており、その内容がこの開示と一致した方法で参照により本明細書に組み込まれる国際公開第00/06593号を参照。GPCR−B4受容体は、本明細書ではrT1R2及びmT1R2と称している。前述のように、本発明は、T1R受容体活性を調節し、それにより、甘味及び/又はうま味を調節する分子を特定するための、T1R又はT1Rの組合せ、例えば、hT1R2/hT1R3又はhT1R1/hT1R3のX線結晶構造を用いる構造に基づくアッセイも含む。
【0081】
本発明はまた、T1R受容体を増強、模擬、阻害及び/又は調節する分子を特定するためのアッセイ、好ましくは高処理能力アッセイも提供する。いくつかのアッセイにおいて、T1Rファミリーメンバーの特定のドメインを他のT1Rファミリーメンバーの特定のドメイン、例えば、細胞外、膜貫通又は細胞内のドメイン又は領域と組み合わせて用いる。他の実施形態において、細胞外ドメイン、膜貫通領域又はその組合せを固体基材に結合させ、例えば、リガンド、作動物質、拮抗物質又はT1Rポリペプチドに結合し、かつ/又はその活性を調節することができる他の分子を分離するのに用いることができる。
【0082】
様々な保存的突然変異及び置換は、本発明の範囲内にあると想定される。例えば、PCR、遺伝子クローニング、cDNAの部位特異的突然変異誘発、宿主細胞のトランスフェクション及びin vitro転写などの組換え遺伝子技術の既知のプロトコールを用いてアミノ酸置換を実施することは、当技術分野の技術のレベル内にある。次に変異体を活性についてスクリーニングすることができる。
【0083】
定義
本明細書において用いているように、以下の用語は、特に指定しない限り、それらについて記載する意味を有する。
【0084】
「味覚細胞」は、群に組織化されて、舌の味蕾を形成する、例えば、葉状、茸状及び有郭細胞などの感覚上皮細胞を含む(例えば、Roper et al.、Ann.Rev.Neurosci.第12巻、329〜353頁(1989年)を参照)。味覚細胞は、口蓋並びに食道及び胃のような他の組織にも認められる。
【0085】
「T1R」は、葉状、茸状及び有郭細胞並びに口蓋及び食道の細胞のような味覚細胞中で発現するGタンパク質結合受容体のファミリーの1つ又は複数のメンバーを指す(例えば、参照により全部が本明細書に組み込まれる、Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年)を参照)。このファミリーのメンバーは、国際公開第00/06592号においてGPCR−B3及びTR1と、また国際公開第00/06593号においてGPCR−B4及びTR2とも称されている。GPCR−B3は、本明細書ではrT1R1と、GPCR−B4はrT1R2と称している。味覚受容体細胞は、形態に基づいて(例えば、Roper、前出、参照)、あるいは、味覚細胞中で特異的に発現しているタンパク質の発現によっても同定することができる。T1Rファミリーメンバーは、甘味変換のための受容体として作用する、又は他の様々な種類の味を区別する能力を有する。hT1R1、hT1R2及びhT1R3を含む代表的なT1R配列は、以下の実施例に示されている。
【0086】
「T1R」核酸は、「Gタンパク質結合受容体活性」を有する7種の膜貫通領域を有するGPCRsのファミリーをコードする。例えば、それらは、細胞外刺激に応答してGタンパク質に結合し、ホスホリパーゼC及びアデニル酸シクラーゼのような酵素の刺激によりIP3、cAMP、cGMP及びCa2+のような二次メッセンジャーの産生を促進することができる(GPCRsの構造及び機能の説明については、例えば、Fong、前出、及びBaldwin、前出を参照)。単一味覚細胞は、多くの別個のT1Rポリペプチドを含む。
【0087】
したがって、「T1R」ファミリーという用語は、(1)T1Rポリペプチド、好ましくは実施例1に示されているものと、約25アミノ酸、場合により50〜100アミノ酸のウインドウにわたって、少なくとも約35〜50%アミノ酸配列同一性、場合により約60、75、80、85、90、95、96、97、98又は99%アミノ酸配列同一性を有し、(2)実施例1に開示するT1Rポリペプチド配列及びその保存的に修飾された変異体からなる群から好ましくは選択されるアミノ酸を含む免疫原に対して産生させた抗体に特異的に結合し、(3)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、実施例1に含まれているT1R核酸配列及びその保存的に修飾された変異体からなる群から選択される配列と特異的にハイブリダイズする核酸分子(少なくとも100、場合により少なくとも約500〜1000ヌクレオチドのサイズを有する)によりコードされ、あるいは(4)実施例1に示すT1Rアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約35〜50%同一である配列を含む、多形性変異体、対立遺伝子、突然変異体及び種間同族体を指す。
【0088】
位相幾何学的には、特定の化学的感覚GPCRsは、「N末端ドメイン」、「細胞外ドメイン」、7種の膜貫通領域並びに対応する細胞質及び細胞外ループを含む「膜貫通ドメイン」、「細胞質ドメイン」及び「C末端ドメイン」を有する(例えば、Hoon et al.、Cell、第96巻、541〜551頁(1999年)、Buck & Axel、Cell、第65巻、175〜187頁(1991年)を参照)。これらのドメインは、疎水性及び親水性ドメインを同定する配列分析プログラムのような当業者に知られている方法を用いて構造的に同定することができる(例えば、Stryer、Biochemistry(第3版、1988年)を参照、また、dot.imgen.bcm.tmc.eduで見いだされるのようなインターネットを用いる多数の配列分析プログラムのいずれかも参照)。そのうようなドメインは、キメラタンパク質の生産に、また、本発明のin vitroアッセイ、例えば、リガンド結合アッセイに有用である。
【0089】
したがって、「細胞外ドメイン」は、細胞膜から突き出ていて、細胞の細胞外面に露出しているT1Rポリペプチドのドメインを指す。そのようなドメインは一般的に、細胞の細胞外面に露出している「N末端ドメイン」を含み、場合により、細胞の細胞外面に露出している膜貫通ドメインの細胞外ループの部分、すなわち、膜貫通領域2及び3の間、膜貫通領域4及び5の間並びに膜貫通領域6及び7の間のループを含み得る。
【0090】
「N末端ドメイン」は、N末端から始まり、最初の膜貫通の始まりに近い領域まで延びている。より具体的には、本発明の一実施形態において、このドメインはN末端から始まり、アミノ酸位置563プラス又はマイナス約20アミノ酸におけるほぼ保存グルタミン酸の位置で終わる。これらの細胞外ドメインは、可溶性及び固相におけるin vitroリガンド結合アッセイに有用である。さらに、下記の膜貫通領域も細胞外ドメインと共にリガンドに結合することができ、したがって、in vitroリガンド結合アッセイにも有用である。
【0091】
7つの「膜貫通領域」を含む「膜貫通ドメイン」は、形質膜内にあるT1Rポリペプチドのドメインを指し、対応する細胞質(細胞内)及び細胞外ループも含んでいてよい。一実施形態において、この領域は、アミノ酸位置563プラス又はマイナス約20アミノ酸における保存グルタミン酸残基から始まり、812プラス又はマイナス約10アミノ酸位置におけるほぼ保存チロシンアミノ酸残基の位置で終わるT1Rファミリーメンバーのドメインに対応する。7種の膜貫通領域並びに細胞外及び細胞質ループは、Kyte & Doolittle、J.Mol.Biol.第157巻、105〜32頁(1982年)又はStryer、前出に記載のような標準的方法を用いて同定することができる。
【0092】
「細胞質ドメイン」は、細胞の内側に面するT1Rポリペプチドのドメイン、例えば、「C末端ドメイン」並びに膜貫通ドメインの細胞内ループ、例えば、膜貫通領域1及び2の間の細胞内ループ、膜貫通領域3及び4の間の細胞内ループ並びに膜貫通領域5及び6の間の細胞内ループを指す。「C末端ドメイン」は、該タンパク質の最後の膜貫通ドメインとC末端にわたり、通常細胞質内にある領域を指す。一実施形態において、この領域は、812プラス又はマイナス約10アミノ酸位置におけるほぼ保存チロシンアミノ酸残基から始まり、ポリペプチドのC末端まで続いている。
【0093】
「リガンド結合領域」又は「リガンド結合ドメイン」は、味覚受容体、特に、受容体の少なくとも細胞外ドメインを実質的に組み込んでいる味覚受容体由来の配列を指す。一実施形態において、リガンド結合領域の細胞外ドメインは、N末端ドメイン、及び場合により、膜貫通ドメインの細胞外ループのような膜貫通ドメインの一部を含んでいてよい。リガンド結合領域は、リガンド、並びに、より具体的には、味、例えば、甘味又はうま味を増強、模擬、阻害及び/又は調節する化合物に結合することができる。
【0094】
本発明のT1R受容体又はポリペプチドに関連する句である「ヘテロ多量体」又は「ヘテロ多量体複合体」は、少なくとも1種のT1R受容体と他の受容体、一般的に他のT1R受容体ポリペプチド(又は、他に代わるべきものとして、他の非T1R受容体ポリペプチド)との機能的結合を指す。明確にするために、T1Rsの機能的相互依存性は、本願書においてヘテロ二量体味覚受容体複合体としてのそれらの可能な機能を反映していると記載している。しかし、先に論じたように、機能的相互依存性は、あるいは間接的相互作用を反映している可能性がある。例えば、T1R3は、独立に味覚受容体として作用することができるT1R1及びT1R2の表面発現を単に促進するために機能している可能性がある。あるいは、機能的味覚受容体は、カルシウム関連受容体のRAMP依存性プロセシングと類似した、T1R1又はT1R2の制御下で差別的に処理されるT1R3のみから構成されている可能性がある。
【0095】
T1Rファミリーメンバー媒介味覚変換を調節する化合物を試験するためのアッセイに関連する句である「機能的影響」は、間接的又は直接的に受容体の影響、例えば、機能的、物理的及び化学的影響の下にあるパラメーターの測定を含む。それは、in vitro、in vivo及びex vivoでのリガンド結合、イオン流束の変化、膜電位、電流、転写、Gタンパク質結合、GPCRリン酸化及び脱リン酸化、コンホメーション変化に基づくアッセイ、シグナル伝達、受容体−リガンド結合、二次メッセンジャー濃度(例えば、cAMP、cGMP、IP3又は細胞内Ca2+)を含み、また、神経伝達物質又はホルモン放出の増加又は減少のような他の生理的影響も含む。
【0096】
アッセイに関連する「機能的影響の測定」は、間接的又は直接的にT1Rファミリーメンバーの影響、例えば、機能的、物理的及び化学的影響の下にあるパラメーターを増加又は減少させる化合物のアッセイを意味する。そのような機能的影響は、当業者に知られている手段、例えば、分光学的特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形状)、クロマトグラフ又は溶解特性、パッチクランプング、電圧感受性色素、全細胞電流、放射性同位体流出、誘導マーカー、卵母細胞T1R遺伝子発現の変化;組織培養細胞T1R発現;T1R遺伝子の転写活性化;リガンド結合アッセイ;電圧、膜電位及びコンダクタンス変化;イオン流束アッセイ;cAMP、cGMP及びイノシトール三リン酸(IP3)のような細胞内二次メッセンジャーの変化;細胞内カルシウム濃度の変化;神経伝達物質放出、コンフォーメションアッセイ等により測定することができる。
【0097】
T1R遺伝子又はタンパク質の「阻害物質」、「活性化物質」及び「調節物質」は、味覚変換のin vitro及びin vivoアッセイを用いて特定された阻害、活性化又は調節分子、例えば、リガンド、作動物質、拮抗物質並びにそれらの同族体及び模擬物質を指すのに用いられる。
【0098】
阻害物質は、例えば、結合し、刺激を部分的又は完全に阻害し、活性化を減少、妨害、遅延させ、味覚伝達を不活性化、脱増感又はダウンレギュレートする化合物、例えば、拮抗物質である。活性化物質は、例えば、結合し、刺激し、増加させ、開き、活性化し、促進し、活性化を増強し、味覚伝達を増感又はアップレギュレートする化合物、例えば、作動物質である。調節物質は、例えば、受容体と、活性化物質又は阻害物質に結合する細胞外タンパク質(例えば、エブネリン及び疎水性キャリヤーファミリーの他のメンバー)との相互作用を変化させる化合物;Gタンパク質;キナーゼ(例えば、受容体の不活性化及び脱増感に関与するロドプシンキナーゼ及びベータアドレナリン受容体キナーゼの同族体);並びに受容体を不活性化及び脱増感もするアレスチンなどである。調節物質としては、T1Rファミリーメンバーの遺伝学的に修飾された変異型、例えば、活性の変化を有する変異型、並びに、天然及び合成リガンド、拮抗物質、作動物質、小化学分子等があり得る。阻害物質及び活性化物質のそのようなアッセイは、例えば、細胞又は細胞膜中でT1Rファミリーメンバーを発現させ、調味料、例えば、甘味料の存在下又は非存在下で推定上の調節化合物を投与し、次いで、上記のように味覚変換に対する機能的影響を測定することなどである。可能な活性化物質、阻害物質又は調節物質で処理したT1Rファミリーメンバーを含むサンプル又はアッセイを阻害物質、活性化物質又は調節物質を含まない対照サンプルと比較して、調節の程度を検討する。陽性対照サンプル(例えば、調節物質を添加しない甘味料)は、相対T1R活性値が100%であるとする。
【0099】
陰性対照サンプル(例えば、味覚刺激物質を添加しない緩衝液)は、相対T1R活性値が0%であるとする。T1Rの阻害は、陽性対照サンプルと調節物質との混合により、T1R活性値が陽性対照値と比較して、約80%、場合により50%又は25〜0%となるときに達成される。調節物質のみによるT1Rの活性化は、T1R活性値が陽性対照値と比較して、10%、25%、50%、75%、場合により100%、場合により150%、場合により200〜500%又は1000〜3000%より高いときに達成される。
【0100】
「精製された」、「実質的に精製された」及び「分離された」という用語は、本明細書で用いているように、本発明の化合物が通常その自然の状態では結合している他の異なる化合物が含まれない状態を指し、そのため、「精製された」、「実質的に精製された」及び「分離された」対象は、所与のサンプルの質量の重量%で、少なくとも0.5%、1%、5%、10%又は20%及びさらに好ましくは、少なくとも50%又は75%を含む。好ましい一実施形態において、これらの用語は、所与のサンプルの質量の重量%で、少なくとも95%を含む本発明の化合物を指す。本明細書で用いているように、「精製された」、「実質的に精製された」及び「分離された」という用語は、核酸又はタンパク質について言うとき、哺乳類、特にヒトの体内に自然に存在する場合と異なった精製又は濃度の状態を指す。(1)他の結合した構造又は化合物からの精製、あるいは(2)通常、哺乳類、特にヒトの体内で結合していない構造又は化合物との結合を含む、哺乳類、特にヒトの体内に自然に存在するよりも大きい精製又は濃度の程度は、「分離された」の意味の範囲内にある。本明細書に記載の核酸又はタンパク質あるいは核酸又はタンパク質のクラスは、当業者に知られている様々な方法又は工程により、分離することができ、あるいは、さもなくば、それらが通常自然では結合していない構造又は化合物と結合させることができる。
【0101】
「核酸」又は「核酸配列」という用語は、1本又は2本鎖の形態のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド オリゴヌクレオチドを指す。この用語は、核酸、すなわち、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含むオリゴヌクレオチドを含む。この用語はまた、合成骨格を有する核酸様構造を含む(例えば、Oligonucleotides and Analogues、a Practical Approach、編F.Eckstein、Oxfod Univ.Press(1991年)、Antisense Strategies、Annals of the N.Y.Academy of Sciences、第600巻、編Baserga et al.(NYAS1992年)、Milligan、J.Med.Chem.第36巻、1923〜1937頁(1993年)、Antisense Research and Applications(1993年、CRC Press)、国際公開第97/03211号、国際公開第96/39154号、Mata、Toxicol.Appl.Pharmacol.第144巻、189〜197頁(1997年)、Strauss−Soukup、Biochemistry、第36巻、8692〜8698頁(1997年)、Samstag、Antisense Nucleic Acid Drug Dev、第6巻、153〜156頁(1996年)を参照)。
【0102】
特に示さない限り、特定の核酸配列は、保存的に修飾されたその変異体(例えば、同義性コドン置換)及び相補的配列並びに明確に示された配列も暗黙的に含む。具体的には、同義性コドン置換は、例えば、1つ又は複数の選択されるコドンの第3の位置が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換されている配列を発生させることにより達成することができる(Batzer et al.、Nucleic Acid Res.第19巻、5081頁(1991年)、Ohtsuka et al.、J.Biol.Chem.第260巻、2605〜2608頁(1985年)、Rossolini et al.、Mol.Cell.Probes、第8巻、91〜98頁(1994年))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドと同義で用いられる。
【0103】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では同義で用い、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的化学的擬似体であるポリマー並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。
【0104】
「形質膜転移ドメイン」又は単に「転移ドメイン」は、ポリペプチドコード配列に組み込まれたとき、ドメインがない場合よりも、ハイブリッド(「融合」)タンパク質を高い効率で「護送」又は「転移」させることができるポリペプチドドメインを意味する。例えば、「転移ドメイン」は、ウシロドプシン受容体ポリペプチド、すなわち、7回膜貫通受容体のアミノ末端から得ることができる。しかし、他の転移促進配列ができるので、すべての哺乳動物のロドプシンを用いてもよい。したがって、転移ドメインは、7回膜貫通融合タンパク質を形質膜に転移させるのに特に効率がよく、アミノ末端転移ドメインを含むタンパク質(例えば、味覚受容体ポリペプチド)は、ドメインがない場合よりも効率よく形質膜に輸送される。しかし、本発明のT1R受容体の場合のように、もしポリペプチドのN末端が結合に際して活性ならば、他の転移ドメインの使用が好ましいと言える。例えば、本明細書に記載のようなPDZドメイン相互作用性ペプチドを用いることができる。
【0105】
本明細書に記載する「転移ドメイン」、「リガンド結合ドメイン」及びキメラ受容体組成物も具体例としての配列に実質的に対応する構造及び活性を有する「類似体」又は「保存的変異体」及び「擬似体」(ペプチド擬似体)を含む。したがって、「保存的変異体」又は「類似体」又は「擬似体」は、本明細書で定義したように、変化が実質的にポリペプチドの(保存的変異体の)構造及び/又は活性を変化させないような修飾アミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。これらは、アミノ酸配列の保存的に修飾された変異体、すなわち、タンパク質活性にとって重要でない残基のアミノ酸置換、付加又は欠失、あるいは、重要なアミノ酸の置換さえも構造及び/又は活性を実質的に変化させないような類似の特性(例えば、酸性、塩基性、正又は負に荷電、極性又は非極性等)を有する残基によるアミノ酸の置換を含む。
【0106】
特に、「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸及び核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関しては、保存的に修飾された変異体は、同じ又は本質的に同じアミノ酸配列をコードする核酸を指し、あるいは、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同じ配列を指す。遺伝コードの同義性のゆえに、多数の機能的に同じ核酸が所与のタンパク質をコードする。
【0107】
例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより指定されるすべての位置において、コドンは、コードされるポリペプチドを変化させることなく記述される対応するコドンのいずれかに変化し得る。
【0108】
そのような核酸変異体は、保存的に修飾された変異体の1つの種である「サイレント変異体」である。ポリペプチドをコードする本明細書におけるすべての核酸配列は、核酸のすべての可能なサイレント変異体も記述する。当業者は、核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG及び通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)が修飾されて、機能的に同じ分子が生じることがあり得ることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異体は、記述された各配列に内在する。
【0109】
機能的に類似のアミノ酸を記載した同類置換表は、当技術分野においてよく知られている。例えば、同類置換を選択するための1つの具体例としてのガイドラインは次の通りである(オリジナル残基に続いて具体例としての置換)。ala/gly又はser;arg/lys;asn/gln又はhis;asp/glu;cys/ser;gln/asn;gly/asp;gly/ala又はpro;his/asn又はgln;ile/leu又はval;leu/ile又はval;lys/arg又はglu又はglu;met/leu又はtyr又はile;phe/met又はleu又はtyr;ser/thr;thr/ser;trp/tyr;try/trp又はphe;val/ile又はleu。別の具体例としてのガイドラインは、それぞれが互いに同類置換であるアミノ酸を含む次の6群を用いる。1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リシン(I)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)及び6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)(例えば、Creighton、Proteins、W.H.Freeman and Company(1984年)、Schultz and Schimer、Principles of Protein Structure、Springer−Vrlag(1979年)も参照)。当業者は、上記の置換が唯一の可能な置換ではないことを認識するであろう。例えば、すべての荷電アミノ酸を、正であるか負であるかにかかわりなく、互いに同類置換とみなすことができる。さらに、コードされた配列において単一アミノ酸又はわずかな割合のアミノ酸を変化させ、加え、又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加も「保存的に修飾された変異体」とみなすことができる。
【0110】
「擬似体」及び「ペプチド擬似体」という用語は、ポリペプチド、例えば、本発明の転移ドメイン、リガンド結合ドメイン又はキメラ受容体の実質的に同じ構造及び/又は機能特性を有する合成化合物を指す。擬似体は、アミノ酸の合成による非天然類似体から完全に構成されているか、あるいは、部分的に天然ペプチドアミノ酸及び部分的にアミノ酸の非天然類似体からなるキメラ分子であってよい。擬似体はまた、置換が擬似体の構造及び/又は活性をも実質的に変化させない限り、任意の量の天然アミノ酸同類置換を組み込むことができる。
【0111】
保存的変異体である本発明のポリペプチドの場合と同様に、ルーチンの実験により、擬似体が本発明の範囲内にあるかどうか、すなわち、その構造及び/又は機能が実質的に変化していないかどうかを判定できるであろう。ポリペプチド擬似組成物は、一般的に次の3構造群に属する天然に存在しない構造成分を含んでいてよい。すなわち、a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結群、b)天然に存在するアミノ酸残基の代わりの非天然残基、又はc)二次構造擬似体を誘導、すなわち二次構造、例えば、βターン、γターン、βシート、αらせんコンホメーション等を誘導又は安定化する残基。ポリペプチドは、その残基のすべて又は一部が天然ペプチド結合以外の化学的手段により連結されているとき、擬似体と特徴付けることができる。個々のペプチド擬似残基は、ペプチド結合、例えば、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、2官能性マレイド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN,N’−ジイソプロピル カルボジイミド(DIC)のような他の化学結合又はカップリング手段により連結させることができる。伝統的アミド結合(「ペプチド結合」)連結の代わりとなり得る結合基は、例えば、ケトメチレン(例えば、−C(=O)−NH−の代わりの−C(=O)−CH2−)、アミノメチレン(CH2−NH)、エチレン、オレフィン(CH=CH)、エーテル(CH2−O)、チオエーテル(CH2−S)、テトラゾール(CN4)、チアゾール、レトロアミド、チオアミド又はエステルなどである(例えば、Spatola、Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins、第7巻、267〜357頁、「Peptide Backbone Modifications」、Marcell Dekker、NY(1983年)を参照)。ペプチドは、天然に存在するアミノ酸残基の代わりにすべて又は一部の非天然残基を含むことによっても擬似体と特徴付けることができる。非天然残基については、科学及び特許文献に十分に記載されている。
【0112】
「標識」又は「検出可能部分」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的又は化学的手段により検出可能な組成物である。例えば、有用な標識としては、32P、蛍光色素、電子密度が高い試薬、(例えば、ELISAに一般的に使用されるような)酵素、ビオチン、ジゴキシゲニン、あるいは、例えば放射性標識をペプチドに組み込むことにより検出可能にすることができる、又はペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために用いられるハプテン及びタンパク質などがある。
【0113】
「標識核酸プローブ又はオリゴヌクレオチド」は、プローブの存在をプローブに結合している標識の存在を検出することにより検出することができるように、標識にリンカー又は化学結合により共有結合で、あるいは、イオン、ファンデルワールス、静電又は水素結合により非共有結合で結合したものである。
【0114】
本明細書で用いているように「核酸プローブ又はオリゴヌクレオチド」は、1つ又は複数の種類の化学結合により、通常相補的塩基対合により、通常水素結合の形成により、相補的配列の標的核酸に結合することができる核酸と定義される。本明細書で用いているように、プローブは、天然(すなわち、A、G、C又はT)あるいは修飾塩基(7−デアザグアノシン、イノシン等)を含んでいてよい。さらに、プローブ中の塩基は、ハイブリダイゼーションを妨害しない限り、ホスホジエステラーゼ結合以外の結合により連結されていてよい。したがって、例えば、プローブは、構成塩基がホスホジエステラーゼ結合でなく、ペプチド結合に連結されているペプチド核酸であってよい。プローブは、ハイブリッド条件の厳密性によって、プローブ配列との完全な相補性を欠く標的配列と結合することができることは、当業者により理解されよう。プローブは、場合により、同位体、発色団、発光団、色素原などにより直接標識するか、あるいは、ビオチンなどに間接的に標識し、ストレプトアビジン複合体を後に結合させてもよい。プローブの存在又は非存在を検定することにより、選択配列又はサブ配列の存在又は非存在を検出することができる。
【0115】
核酸の一部について用いるとき、「異種」という用語は、核酸が自然では互いに同じ関係で認められない2つ又はそれ以上のサブ配列を含むことを示している。例えば、新規の機能の核酸を作るために配列させた無関係の遺伝子からの2つ又はそれ以上の配列、例えば、1つの源からのプロモーターと他の源からのコーティング領域を有する核酸を一般的に組換えにより生成させる。同様に、異種タンパク質は、自然では互いに同じ関係で認められない2つ又はそれ以上のサブ配列を含むタンパク質(例えば、融合タンパク質)を示す。
【0116】
「プロモーター」は、核酸の転写を誘導する核酸配列のアレイと定義される。本明細書で用いているように、プロモーターは、ポリメラーゼII型プロモーターの場合のTATAエレメントのように、転写開始部位の近くの必要な核酸配列を含む。プロモーターはまた、場合により、転写開始部位から数千塩基対に位置することができる遠位エンハンサー又はリプレッサーエレメントを含む。「構成」プロモーターは、ほとんどの環境及び発生条件下で活性であるプロモーターである。
【0117】
「誘導」プロモーターは、環境又は発生制御下で活性であるプロモーターである。「作動的に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(プロモーター又は転写因子結合部位のアレイのような)と第2の核酸配列との間の機能的連結を指し、それにより核酸発現制御配列が第2の該配列に対応する核酸の転写を誘導する。
【0118】
本明細書で用いているように、「組換え」は、in vitroで合成又は他の方法で操作されたポリヌクレオチド(例えば、「組換えポリヌクレオチド」)を、細胞又は生物学的システム中で遺伝子産物を生産するために組換えポリヌクレオチドを用いる方法を、あるいは、組換えポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド(「組換えタンパク質」)を指す。「組換え手段」は、本発明の転移ドメイン及び本発明のプライマーを用いて増幅される核酸を含む融合タンパク質の発現、例えば、誘導又は構成性発現のために、発現カセット又はベクターへの種々の源からの様々なコーディング領域又はドメイン又はプロモーター配列の連結反応も含む。
【0119】
本明細書で用いているように、「安定な細胞系」は、安定に、すなわち長期にわたって、異種核酸配列、すなわち、T1R又はGタンパク質を発現する細胞系を指す。好ましい実施形態において、そのような安定な細胞系は、適切な細胞、一般的に哺乳類細胞、例えば、HEK−293細胞をT1R発現構造、すなわち、T1R1、T1R2及び/又はT1R3を含む線状化ベクターでトランスフェクトして生産されるであろう。最も好ましくは、そのような安定な細胞系は、hT1R1及びhT1R3又はhT1R2及びhT1R3を発現する2つの線状化プラスミドを同時トランスフェクトし、適切な選択方法により、安定に組み込まれたこれらの遺伝子を有する細胞系を発生させることにより、生産されるであろう。さらに好ましくは、細胞系は、Gα15のようなGタンパク質も安定に発現するであろう。
【0120】
「選択的に(又は特異的に)ハイブリダイズする」という句は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物(例えば、全細胞又はライブラリーDNAもしくはRNA)中に存在する場合に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下である分子が該配列のみに結合、二重鎖形成又はハイブリダイズすることを指す。
【0121】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という句は、プローブが一般的に核酸の複雑な混合物中でその標的サブ配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。厳密条件は、配列依存性であり、異なる環境中では異なる。配列が長いほど、高温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen、Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Probes、「Overview of principles of hybridization and the strategy of nuclear acid assays」(1993年)に見いだされる。一般的に、厳密条件は、規定のイオン強度pHにおける特定の配列の融点(Tm)より約5〜10℃低い温度として選択する。Tmは、標的に対して相補的なプローブの50%が平衡において標的配列とハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH及び濃度下)である(標的配列が過剰に存在するとき、Tmでは平衡においてプローブの50%が占有される)。厳密条件は、pH7.0〜8.3において塩濃度が約1.0Mナトリウムイオン、一般的に約0.01〜1.0Mナトリウムイオン濃度(又は他の塩)で、温度が短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)に対しては少なくとも約30℃で、長いプローブ(例えば、50ヌクレオチドより長い)に対しては少なくとも約60℃である条件である。厳密条件は、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によっても達成できる。選択的又は特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍であり、場合によりバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。具体例の厳密条件は次の通りである。50%ホルムアミド、5×SSC及び1%SDS、42℃でインキュベート、又は、5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベート、0.2×SSCで洗浄、65℃で0.1%SDS。そのようなハイブリダイゼーション及び洗浄段階は、例えば、1、2、5、10、15、30、60分間又はそれ以上の分時にわたって行うことができる。
【0122】
厳密条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするポリペプチドが実質的に関連している場合、依然として実質的に関連している。これは、例えば、核酸のコピーが遺伝コードにより許容される最大コドン同義性を用いて造られるときに起こる。そのような場合、核酸は一般的に中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。具体例としての「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」としては、40%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSの緩衝液中37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSCで45℃で洗浄などである。そのようなハイブリダイゼーション及び洗浄段階は、例えば、1、2、5、10、15、30、60分間又はそれ以上の分時にわたって行うことができる。陽性ハイブリダイゼーションは、バックグラウンドの少なくとも2倍である。当業者は、別のハイブリダイゼーション及び洗浄条件を用いて同様の厳密性の条件を得ることができることを認識するであろう。
【0123】
「抗体」は、抗原に特異的に結合し、それを認識する免疫グロブリン遺伝子又はその断片のフレームワーク領域を含むポリペプチドを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常部遺伝子並びに極めて多数の可変部遺伝子を含む。軽鎖は、κ又はλと分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ又はεと分類され、それらはさらにそれぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを定義する。
【0124】
具体例としての免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同じ対からなり、各対は1つの「軽」(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のN末端は、主として抗原認識の役割を担っている約100〜110又はそれ以上のアミノ酸の可変部を定める。「可変軽鎖」(VL)及び「可変重鎖」(VH)という用語は、それぞれこれらの軽及び重鎖を指す。
【0125】
「キメラ抗体」は、(a)定常部又はその一部が変化し、置換され、又は交換され、その結果、抗原結合部位(可変部)が、異なる又は変化したクラス、エフェクター機能及び/又は種、あるいは、キメラ抗体に新規の特性を付与する完全に異なった分子、例えば、酵素、トキシン、ホルモン、成長因子、薬物等の定常部に連結されている、あるいは、(b)可変部又はその一部が変化し、異なる又は変化した抗原特異性を有する可変部で置換又は交換された、抗体分子である。
【0126】
「抗T1R」抗体は、T1R遺伝子、cDNA又はそのサブ配列によりコードされたポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体断片である。
【0127】
「イムノアッセイ」は、抗原に特異的に結合する抗体を用いるアッセイである。イムノアッセイは、抗原を分離し、標的とし、かつ/又は定量するために、特定の抗体の特異的結合特性を使用することを特徴とする。
【0128】
抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」、あるいはタンパク質又はペプチドについて言及する場合、「特異的に(又は選択的に)免疫反応性を示す」という句は、タンパク質及び他の生物学的実体の異種集団中のタンパク質の存在を決定する結合反応を指す。したがって、指定されたイムノアッセイ条件下では、指定の抗体は、特定のタンパク質にバックグラウンドの少なくとも2倍結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質に有意な量で実質的に結合しない。そのような条件下での抗体への特異的結合は、特定のタンパク質に対するその特異性について選択される抗体を必要とする。例えば、ラット、マウス又はヒトのような特定の動物種からT1Rファミリーメンバーに対して酸性させたポリクローナル抗体は、T1Rポリペプチド又はその免疫原性部分と特異的に免疫反応性で、T1Rポリペプチドのオーソログ又は多形性変異体及び対立遺伝子を除く、他のタンパク質と免疫反応性でないポリクローナル抗体のみを得るために選択することができる。この選択は、他の動物種のT1R分子又は他のT1R分子と交差反応する抗体を除外することにより達成することができる。T1R GPCRファミリーメンバーのみを認識するが、他のファミリーのGPCRsは認識する抗体も選択することができる。
【0129】
様々な種類のイムノアッセイを用いて、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイを常法により用いてタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択する(特異的免疫反応性を検討するために用いることができるイムノアッセイの種類と条件の記述については、例えば、Harlow & Lane、Antibodies、A Laboratory Manual(1988年)を参照)。一般的に、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍であり、より一般的にはバックグラウンドの10〜100倍以上である。
【0130】
「選択的に結合する」という句は、上で定義したように、他と「選択的にハイブリダイズする」核酸の能力、あるいは、上で定義したように、タンパク質に「選択的に(又は特異的に)結合する」抗体の能力を指す。
【0131】
「発現ベクター」という用語は、原核、酵母、真菌、植物、昆虫又は哺乳類細胞を含む任意の細胞中で本発明の核酸配列をin vitro又はin vivoで、構成的に又は誘導的に発現させる目的のための組換え発現システムを指す。この用語は、線状又は環状発現システムを含む。この用語は、エピソームのまま又は宿主細胞ゲノムに組み込まれる発現システムを含む。発現システムは、自己複製する能力をもつことができるか、あるいは、できない、すなわち、細胞中で一時的発現のみを誘導することができる。この用語は、組換え核酸の転写に必要な最小限の要素のみを含む組換え発現カセットを含む。
【0132】
「宿主細胞」は、発現ベクターを含み、発現ベクターの複製又は発現を支持する細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌のような原核細胞並びにCHO、Hela、HEK−293等、例えば、培養細胞、外植片及びin vivo細胞のような酵母、昆虫、両生類、虫又は哺乳類細胞のような真核細胞であってよい。
【0133】
T1Rポリペプチドの分離及び発現
本発明のT1Rsあるいはその断片又は変異体の分離及び発現は、下記のように実施することができる。味覚受容体リガンド結合領域をコードする核酸の増幅にPCRプライマーを用いることができ、そして、これらの核酸のライブラリーを場合によって発生させることができる。次に、これらの核酸又はライブラリーの機能的発現のために、個々の発現ベクター又は発現ベクターのライブラリーを用いて宿主細胞を感染又はトランスフェクトすることができる。これらの遺伝子及びベクターは、in vitro又はin vivoで造り、発現させることができる。当業者は、核酸の発現を変化させ、制御するための所望の表現型は、本発明のベクター内で遺伝子及び核酸(例えば、プロモーター、エンハンサー等)の発現又は活性を調節することにより得ることできることを認識するであろう。発現又は活性を増加又は減少させるための記載された既知の方法のいずれかを用いることができる。本発明は、科学及び特許文献に十分に記載されている当技術分野で知られているいずれかの方法又はプロトコールと組み合わせて実施することができる。
【0134】
本発明の核酸配列及び本発明を実施するために用いられる他の核酸は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、ベクター、ウイルス又はそのハイブリッドであろうとも、遺伝子工学的に処理した、増幅した、かつ/又は組換えにより発現させた様々な源から分離することができる。哺乳類細胞のほかに、例えば、細菌、酵母、昆虫又は植物系を含む組換え発現システムを用いることができる。
【0135】
あるいは、これらの核酸は、例えば以下に記載されているように、よく知られている化学合成法によりin vitroで合成することができる。Carruthers、Cold Spring Hrbor Symp.Quant.Biol.第47巻、411〜418頁(1982年)、Adams、Am.Chem.Soc.第105巻、661頁(1983年)、 Belousov、Nucleic Acids Res.第25巻、3440〜3444頁(1997年)、Frenkel、Free Radic.Biol.Med.第19巻、373〜380頁(1995年)、Blommers、Biochemistry、33巻、7886〜7896頁(1994年)、Narang、Meth.Enzymol.第68巻、90頁(1979年)、Brown、Meth.Enzymol.第68巻、109頁(1979年)、Beaucage、Tetra.Lett.第22巻、1859頁(1981年)、米国特許第4,458,066号。2本鎖DNA断片は、相補鎖を合成し、適切な条件下で鎖を一緒にアニーリングして、あるいは、適切なプライマー配列を含むDNAポリメラーゼを用いて相補鎖を加えて、得ることができる。
【0136】
例えば、配列中の突然変異体を得るためのサブクローニング、標識プローブ、配列決定、ハイブリダイゼーション等の核酸の操作のための技術は、科学及び特許文献に十分に記載されている。例えば、Sambrook、編、 Molecular Cloning:a Laboratory manual(第2版)、第1〜3巻、Cold Spring Harbor Laboratory(1989年)、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel、編、John Wiley&Sons,Inc.、New York(1997年)、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Hybridization With Nucleic Acid Probes、Part I、Theory and Nucleic Acid Preparation、Tijssen、編、Elsevier、N.Y.(1993年)を参照。
【0137】
核酸、ベクター、キャプシド、ポリペプチド等は、当業者によく知られている多くの一般的手段のいずれかにより分析し、定量することができる。これらは、例えば、NMR、分光光度法、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)及び超拡散クロマトグラフィーのような分析生化学法、様々な免疫学的方法、例えば、液体又はゲル沈降素反応、免疫拡散、免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIAs)、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ、サザン分析、ノーザン分析、ドットブロット分析、ゲル電気泳動(例えば、SDS−PAGE)、RT−PCR、定量的PCR、他の核酸又は標的又はシグナル増幅法、放射性標識法、シンチレーション計数法及びアフィニティクロマトグラフィーなどである。
【0138】
味覚受容体リガンド結合領域をコードする核酸断片を増幅するためにオリゴヌクレオチドプライマーを用いることができる。本明細書に記載する核酸も増幅技術を用いてクローン又は定量的に測定することができる。増幅法も当技術分野でよく知られており、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、PCR(PCR Protocols、a Guide to Methods and Applications、Innis編、Academic Press、N.Y.(1990年)、PCR Strategies、Innis編、Academic Press、N.Y.(1995年))、リガーゼ連鎖反応(LCR)(例えば、Wu、Genomics、第4巻、560頁(1989年)、Landegren、Science、第241巻、1077頁、(1988年)、Barringer、Gene、第89巻、117頁(1990年)を参照)、転写増幅(例えば、Kwoh、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第86巻、1173頁(1989年)を参照)、自己持続配列複製(例えば、Guatelli、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、。第87巻、1874頁(1990年)を参照)、Qベータレプリカーゼ増幅(例えば、Smith、J.Clin.Microbiol.第35巻、1477〜1491頁(1997年)を参照)、自動Q−ベータレプリカーゼ増幅アッセイ(例えば、Burg、Mol.Cell.Probes、第10巻、257〜271(1996年)を参照)及び他のRNAポリメラーゼを用いる手法(例えば、NASBA、Cangene、Mississauga、Ontario)、また、Berger、Methods Enzymol.第152巻、307〜316頁(1987年)、Sambrook、Ausubel、米国特許第4,683,195号及び第4,683,202号、Sooknanan、Biotechnology、第13巻、563〜564頁(1995年)も参照)などがある。プライマーは、「ドナー」の7回膜貫通受容体の元の配列を保持するように設計することができる。あるいは、プライマーは、保存的置換(例えば、疎水性残基について疎水性、上記の議論を参照)又は機能的に温和な置換(例えば、形質膜挿入を妨げない、ペプチダーゼによる切断をもたらす、受容体の折り畳みをもたらす)であるアミノ酸残基をコードすることができる。増幅されたならば、核酸は、個別に又はライブラリーとして、当技術分野で知られている方法により、所望ならば、常用の分子生物学的方法を用いて様々なベクターのいずれかにクローンすることができる。in vitroで増幅された核酸のクローニングの方法は、例えば、米国特許第5,426,039号に記載されている。
【0139】
プライマー対は、T1Rファミリーメンバーのリガンド結合領域を選択的に増幅するように設計することができる。これらの領域は、異なるリガンド又は味覚物質ごとに異なっている可能性がある。したがって、1つの味覚物質に対して最小限の結合領域であるものは、別の味覚物質に対して限定されすぎていることがあり得る。したがって、種々の細胞外ドメイン構造を含む種々のサイズの結合領域を増幅させてよい。
【0140】
同義性プライマー対の設計のパラダイムは、当技術分野においてよく知られている。例えば、共通同義性ハイブリッドオリゴヌクレオチドプライマー(COnsensus−DEgenerate Hybrid Oligonucleotide Primer)(CODEHOP)戦略コンピュータプログラムは、http://blocks.fhcrc.org/codehop.htmlとしてアクセスでき、既知の味覚受容体リガンド結合領域として、一連の関連タンパク質配列から始まるハイブリッドプライマー予測のために、BlockMaker多重配列アライメントサイトから直接連結されている(例えば、Rose、Nucleic Acids Res.第26巻、1628〜1635頁(1998年)、Singh、Biotechniques、第24巻、318〜319頁(1998年)を参照)。
【0141】
オリゴヌクレオチドプライマー対を合成する手段は、当技術分野でよく知られている。「天然」塩基対又は合成塩基対を用いることができる。例えば、人工ヌクレオ塩基の使用により、プライマー配列を操作し、増幅産物のより複雑な混合物を得る汎用性のある手法が可能となる。人工ヌクレオ塩基の種々のファミリーは、内部結合回転による多重水素結合配向を推定して、同義性分子認識の手段を得ることができる。これらの類似体のPCRプライマーの単一位置への組み込みにより、増幅産物の複雑なライブラリーを得ることができる。例えば、Hoops、Nucleic Acids Res.第25巻、4866〜4871頁(1997年)を参照。非極性分子も天然DNA塩基の形状を模擬するために用いることができる。アデニンの非水素結合形状模擬は、チミンの非極性形状模擬と対照して効率的かつ選択的に再現することができる(例えば、Morales、Nat.Struct.Biol.第5巻、950〜954頁(1998年)を参照)。例えば、2つの同義性塩基は、ピリミジン塩基6H、8H−3,4−ジヒドロピリミド[4,5−c][1,2]オキサジン−7−オン又はプリン塩基N6−メトキシ−2,6−ジアミノプリンであってよい(例えば、Hill、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第95巻、4258〜4263頁(1998年)を参照)。本発明の実例としての同義性プライマーは、ヌクレオ塩基類似体5’−ジメトキシトリチル−N−ベンゾイル−2’−デオキシ−シチジン,3’−[(2−シアノエチル)−(N,N−ジイソプロピル)]−ホスホルアミダイトを組み込んでいる(配列中の「P」については、上記を参照)。このピリミジン類似体水素は、A及びG残基を含むプリンと結合する。
【0142】
本明細書に開示する味覚受容体と実質的に同じである多形性変異体、対立遺伝子及び種間同族体は、上記の核酸プローブを用いて分離することができる。あるいは、T1R同族体も認識し、選択的に結合する、T1Rポリペプチドに対して産生させた抗血清又は精製抗体を用いて発現同族体を免疫学的に検出することにより、発現ライブラリーを用いて、T1Rポリペプチド並びに多形性変異体、対立遺伝子及びその種間同族体をクローンすることができる。
【0143】
味覚受容体のリガンド結合領域をコードする核酸は、同義性プライマー対を用いて適切な核酸配列の増幅(例えば、PCR)により得ることができる。増幅する核酸は、任意の細胞又は組織のゲノムDNAあるいは味覚受容体発現細胞由来のmRNA又はcDNAであってよい。
【0144】
一実施形態において、転移配列に融合されたT1Rsをコードする核酸を含むハイブリッドタンパク質コード配列を構築することができる。また、化学感覚受容体、特に味覚受容体の他のファミリーの転移モチーフ及び味覚物質結合ドメインを含むハイブリッドT1Rsも提供する。これらの核酸配列は、転写又は翻訳制御要素、例えば、転写及び翻訳開始配列、プロモーター及びエンハンサー、転写及び翻訳ターミネーター、ポリアデニル化配列及びRNAへのDNAの転写に有用な他の配列に作動的に連結させることができる。組換え発現カセット、ベクター及び形質転換体の構成において、プロモーター断片を用いて、すべての所望の細胞又は組織中の所望の核酸の発現を誘導することができる。
【0145】
他の実施形態において、融合タンパク質は、C末端又はN末端転位配列を含んでいてよい。さらに、融合タンパク質は、例えば、タンパク質の検出、精製又は他の適用例のための追加の要素を含んでいてよい。検出及び精製促進ドメインは、例えば、固定化金属の精製を可能にするポリヒスチジン路、ヒスチジン−トリプトファンモジュール又は他のドメインのような金属キレート化ペプチド、マルトース結合タンパク質、固定化免疫グロブリンの精製を可能にするタンパク質AドメインあるいはFLAGG延長/アフィニティ精製システム(Immunex Corp.、ワシントン州シアトル)に用いられるドメインなどである。
【0146】
ファクターXa(例えば、Ottavi、Biochimie、第80巻、289〜293頁(1998年)を参照)、ズブチリシンプロテアーゼ認識モチーフ(例えば、Polyak、Protein Eng.第10巻、615〜619頁(1997年)を参照)、エンテロキナーゼ(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)等を転移ドメイン(効率のよい形質膜発現のため)と残りの新たに翻訳されたポリペプチドとの間に含めることは、精製の促進に有用である。例えば、1構築体は、6ヒスチジン残基と、続いて、エンテロキナーゼ切断部位であるチオレドキシン(例えば、Williams、Biochemitry第34巻、1787〜1797頁(1995年)を参照)及びC末端転移ドメインに結合した、ポリペプチドをコードする核酸配列を含むことができる。ヒスチジン残基は検出と精製を促進し、一方、エンテロキナーゼ切断部位は融合タンパク質の残りの部分の所望のタンパク質の精製の手段を提供する。融合タンパク質をコードするベクターに関する技術及び融合タンパク質の適用例は、科学及び特許文献に十分に記載されている。例えば、Kroll、DNA Cell Biol.第12巻、441〜53頁(1993年)を参照。
【0147】
リガンド結合ドメインをコードするベクターを含む、個別の発現ベクター又は発現ベクターのライブラリーとしての発現ベクターは、ゲノムあるいは細胞質又は細胞核に導入することができ、科学及び特許文献に十分に記載されている様々な従来の技術により発現させることができる。例えば、Roberts、Nature、第328巻、731頁(1987年)、Berger、前出、Schneider、Protein Expr.Purif.第6435巻、10頁(1995年)、Sambrook、Tijssen、Ausbelを参照。生物学的試薬及び実験装置の製造業者からの製品情報も既知の生物学的方法に関する情報を提供する。ベクターは、ATCC又はGenBankライブラリーのような源から得られる天然源から分離、あるいは、合成又は組換え法により調製することができる。
【0148】
核酸は、細胞中で安定に又は一時的に発現させた発現カセット、ベクター又はウイルスを用いて発現させることができる(例えば、エピソーム発現システム)。形質転換細胞及び配列に選択可能な表現型を付与するために、選択マーカーを発現カセット及びベクターに組み込むことができる。例えば、選択マーカーは、宿主ゲノムへの組み込みの必要がないように、エピソームの維持及び複製のためにコードすることができる。例えば、所望のDNA配列で形質転換した細胞の選択を可能にするために、マーカーは抗生物質耐性(例えば、クロラムフェニコール、カナマイシン、G418、ブラスチシジン、ハイグロマイシン)又は除草剤耐性(例えば、クロロスルフロン又はBasta)をコードすることができる(例えば、Blondelet−Rouault、Gene、第190巻、315〜317頁(1997年)、Aubrecht、J.Pharmacol.Exp.Ther.第281巻、992〜997頁(1997年)を参照)。ネオマイシン又はハイグロマシシン様基質に耐性を付与する選択マーカー遺伝子は組織培養中でのみ使用することができるので、化学耐性遺伝子もin vitro及びin vivoで選択マーカーとして用いることができる。
【0149】
キメラ核酸配列は、7回膜貫通ポリペプチド内のT1Rリガンド結合ドメインをコードすることができる。7回膜貫通受容体ポリペプチドは類似の1次配列並びに2次及び3次構造を有するので、構造ドメイン(例えば、細胞外ドメイン、TMドメイン、細胞質ドメイン等)は配列分析により容易に同定することができる。例えば、相同モデリング、フーリエ解析及びらせん周期性検出は、7回膜貫通受容体配列の7つのドメインを同定し、特徴付けることができる。迅速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて、分析済み配列の疎水性及び変動のプロファイルを特徴付ける優勢周期を評価した。周期性検出増強及びαらせん周期性指数の評価は、例えば、Donnelly、Protein Sci.第2巻、55〜70頁(1993年)に記載のように実施することができる。他のアライメント及びモデリングのアルゴリズムは、当技術分野でよく知られている。例えば、Peitsch、Receptors Channels第4巻、161〜164頁(1996年)、Kyte&Doolittle、J.Med.Bio.第157巻、105〜132頁(1982年)、Cronet、Protein Eng.第6巻、59〜64頁(1993年)を参照。
【0150】
本発明はまた、指定の核酸及びアミノ酸配列を有するDNA及びタンパク質だけでなく、DNA断片、特に、例えば、40、60、80、100、150、200又は250ヌクレオチドあるいはそれ以上の断片並びに例えば、10、20、30、50、70、100又は150アミノ酸あるいはそれ以上の断片も含む。場合により、核酸断片は、T1Rファミリーメンバーに対して産生させた抗体に結合することができる抗原性ポリペプチドをコードすることができる。さらに、本発明のタンパク質断片は、場合により、T1Rファミリーメンバーに対して産生させた抗体に結合することができる抗原性断片であり得る。
【0151】
本明細書に記載するT1Rポリペプチドの少なくとも1つのうちの1つの少なくとも10、20、30、50、70、100又は150アミノ酸あるいはそれ以上を含み、他のGPCR、好ましくは7回膜貫通スーパーファミリーのメンバーのすべて又は一部を表す別のアミノ酸に結合したキメラタンパク質も予想される。これらのキメラは、本発明の受容体と他のCPCRとから調製することができ、あるいは、本発明のT1R受容体の2つ又はそれ以上を組み合わせて調製することができる。一実施形態において、キメラの1部は、本発明のT1Rポリペプチドの細胞外ドメインに対応するか、又は由来するものである。他の実施形態において、キメラの1部は、本明細書に記載のT1Rポリペプチドの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインの1つ又は複数に対応するか、又は由来し、残りの1部又は各部分が他のGPCR由来である。キメラ受容体は当技術分野でよく知られており、それらを造る技術並びにそれに含めるためのGタンパク質結合受容体のドメイン又は断片の選択及び境界もよく知られている。したがって、当業者のこの知識を用いてそのようなキメラ受容体を容易に造ることができる。そのようなキメラ受容体を用いることにより、例えば、本明細書に具体的に開示する受容体の1つの味覚選択性特性と、従来技術のアッセイシステムに用いられるよく知られている受容体のような他の受容体のシグナル伝達特性とを結合させることができる。
【0152】
上記のように、天然T1R受容体あるいは天然T1R受容体の組合せ又は結合と類似のそのようなキメラは、甘味又はうま味に通常影響を及ぼす分子に結合し、かつ/又はそれにより活性化されるであろう。機能的キメラT1R受容体又は受容体の組合せは、単独あるいは他のT1Rs又は他のGPCRs(それら自体キメラであってよい)と共に発現するときに結合する、味覚刺激、特に、甘味(T1R2/3)又はうま味刺激(T1R1/3)により活性化される分子である。甘味を惹起する分子は、ショ糖、アステルテーム、キシリトール、シクラメート等の天然及び人工甘味料などである。うま味を惹起する分子は、グルタミン酸塩及びグルタミン酸塩類似物並びに5’−ヌクレオチドのような天然T1R1及び/又はT1R3に結合する他の化合物などである。
【0153】
例えば、リガンド結合ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、N末端ドメイン、C末端ドメイン又はそのいずれかの組合せは、異種タンパク質に共有結合させることができる。例えば、T1R細胞外ドメインを異種GPCR膜貫通ドメインに共有結合させることができ、あるいは、異種GPCR細胞外ドメインをT1R膜貫通ドメインに共有結合させることができる。他の適切な異種タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質を用いることができる。
【0154】
本発明のT1Rs、断片、キメラ又は変異体を発現させるための宿主細胞も本発明の範囲内にある。本発明のT1Rs、断片又は変異体をコードするcDNAのようなクローンした遺伝子又は核酸の高レベルの発現を得るために、当業者は一般的に、問題の核酸配列を、転写を誘導する強いプロモーターを含む発現ベクターに、転写/翻訳ターミネーターに、並びに、タンパク質をコードする核酸の場合には、翻訳開始のためのリボソーム結合部位に、サブクローンする。適切な細菌プロモーターは、当技術分野でよく知られており、例えば、Sambrookらに記載されている。しかし、細菌又は真核生物発現システムを用いることができる。
【0155】
異種ヌクレオド配列を宿主細胞に導入するためのよく知られている方法を用いることができる。これらは、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム、マイクロインジェクション、プラスマベクター、ウイルスベクター、並びに宿主細胞にクローンゲノムDNA、cDNA、合成DNA又は他の異種遺伝物質を導入するための他のよく知られている方法(例えば、Sambrookらを参照)などである。遺伝子工学の用いる特定の手順によって、問題のT1R、断片又は変異体を発現させることができる宿主細胞へ、少なくとも1つの核酸分子の導入に成功することができれば、それでよい。
【0156】
発現ベクターを細胞に導入した後、トランスフェクトされた細胞を問題の受容体、フラグンメント又は変異体の発現に有利な条件下で培養し、次いで、標準的方法を用いて培養から回収する。そのような方法の例は当技術分野でよく知られている。この開示と一致した方法で参照により本明細書に組み込まれる、例えば、国際公開第00/06593号を参照。
【0157】
T1Rポリペプチドの検出
核酸ハイブリダイゼーション法を用いるT1R遺伝子及び遺伝子発現の検出に加えて、T1Rsを検出するために、例えば、味覚受容体細胞並びにT1Rファミリーメンバーの変異体を同定するためにイムノアッセイも用いることができる。イムノアッセイを用いて、T1Rsを定性的又は定量的に分析することができる。適用可能な技術の一般的な概要は、Harlow&Lane、Antibodies:A Laboratory Manual(1988年)に見いだすことができる。
【0158】
1.T1Rファミリーメンバーに対する抗体
T1Rファミリーメンバーと特異的に反応するポリクローナル及びモノクローナル抗体を生産する方法は、当業者に知られている(例えば、Coligan、Current Protocols in Immunology(1991年)、Harlow&Lane、前出、Goding、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(第2版、1986年)及びKohler&Milstein、Nature、第256巻、495〜497頁(1975年)を参照)。そのような技術としては、ファージ又は同様のベクターにおける組換え抗体のライブラリーからの抗体の選択による抗体の調製並びに免疫化ウサギ又はマウスによるポリクローナル及びモノクローナル抗体の調製などがある(例えば、Huse et al.、Science、第246巻、1275〜1281頁(1989年)、Ward et al.、Nature、第341巻、544〜546頁(1989年)を参照)。
【0159】
T1Rファミリーメンバーと特異的に反応する抗体を生産するために、多くのT1Rを含む免疫原を用いることができる。例えば、組換T1Rポリペプチド又はその抗原性断片を本明細書に記載のように分離することができる。適切な抗原性領域は、例えば、T1Rファミリーのメンバーを同定するために用いられる共通領域などである。組換えタンパク質は、上記のように真核又は原核細胞中で発現させることができ、一般的に上記のように精製することができる。組換えタンパク質は、モノクローナル又はポリクローナル抗体の生産のための好ましい免疫原である。あるいは、本明細書に開示した配列から得られ、担体タンパク質に結合させた合成ペプチドを免疫原として用いることができる。天然に存在するタンパク質も純粋又は不純の形で使用することができる。次に、生成物は、抗体を産生することができる動物中に注射する。タンパク質を測定するためのイムノアッセイでその後に用いるために、モノクローナル、ポリクローナル抗体のいずれを生成してもよい。
【0160】
ポリクローナル抗体を生産する方法は、当業者に知られている。例えば、同系繁殖系のマウス(例えば、BALB/Cマウス)又はウサギをフロイントのアジュバントのような標準アジュバント及び標準免疫化プロトコールを用いてタンパク質で免疫化する。免疫原調製物に対する動物の免疫応答を検査用採血を行ってモニターし、T1Rに対する反応性の力価を決定する。免疫原に対する抗体の適切に高い力価が得られた場合、動物から血液を採集し、抗血清を調製する。所望ならば、タンパク質に反応性の抗体を濃縮するために抗血清のさらなる分画を行うことができる(Harlow&Lane、前出を参照)。
【0161】
モノクローナル抗体は、当業者に知られている様々な手法により得ることができる。簡単に述べると、所望の抗原で免疫化した動物の脾臓細胞を一般的に骨髄腫細胞との融合により固定化することができる(Kohler&Milstein、Eur.J.Immunol.第6巻、511〜519頁(1976年)を参照)。固定化の別の方法は、エプスタインバールウイルス、腫瘍遺伝子又はレトロウイルスによる形質転換あるいは当技術分野でよく知られている他の方法である。単一固定化細胞から生じたコロニーを、抗原に対する所望の特異性及び親和性の抗体の生産についてスクリーニングし、そのような細胞により産生されたモノクローナル抗体の収量を、脊椎動物宿主の腹腔への注射を含む様々な手法により増加させることができる。あるいは、Huse et al.、Sciences、第246巻、1275〜1281(1989年)により略述された一般的プロトコールに従って、ヒトB細胞のDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体又はその結合断片をコードするDNA配列を分離することができる。
【0162】
モノクローナル抗体及びポリクローナル血清を収集し、イムノアッセイ、例えば、固体担体に固定化した免疫原を用いる固相イムノアッセイにおいて免疫原タンパク質に対して力価測定する。一般的に、104以上の力価を有するポリクローナル抗血清を選択し、非T1Rポリペプチド又は他のT1Rファミリーメンバー又は他の生物の他の関連タンパク質に対するそれらの交差反応性について、競合的結合イムノアッセイを用いて試験する。特異的ポリクローナル抗血清及びモノクローナル抗体は、通常、少なくとも約0.1mM、より通常には約1pM、場合により少なくとも約0.1pM又はより良好な値、また場合により少なくとも0.01pM又はより良好な値のKdで結合する。
【0163】
一旦T1Rファミリーメンバー特異抗体が得られれば、個々のT1Rタンパク質及びタンパク質断片を様々なイムノアッセイにより検出することができる。免疫学的及びイムノアッセイ方法の総説については、Basic and Clinical Immunology(Stites & Terr編、第7版、1991年)を参照。さらに、本発明のイムノアッセイは、Enzyme Immunoassay(Maggio編、1980年)及びHarlow&Lane、前出において広範に総説されている、いくつかの構成のいずれかにおいて実施することができる。
【0164】
2.免疫学的結合アッセイ
T1Rタンパク質、断片及び変異体は、多くのよく認識されている免疫学的結合アッセイのいずれかを用いて検出し、かつ/又は定量することができる(例えば、米国特許第4,366,241号、第4,376,110号、第4,517,288号及び第4,837,168号を参照)。一般的イムノアッセイの総説については、Methods in Cell Biology:Antibodies in Cell Biology、第37巻(Asai編、1993年)、Basic and Clinical Immunology(Stites&Terr編、第7版、1991年)も参照。免疫学的結合アッセイ(又はイムノアッセイ)では、一般的に最適のタンパク質又は抗原(この場合、T1Rファミリーメンバー又はその抗原性サブ配列)に対して特異的に結合する抗体を用いる。抗体(例えば、抗T1R)は、当業者によく知られている多くの手段のいずれかにより、及び上記のように生産することができる。
【0165】
イムノアッセイにおいても、抗体と抗原により形成される複合体に特異的に結合し、標識するための標識物質をしばしば用いる。標識物質はそれ自体、抗体/抗原複合体を含む部分の1つであってよい。したがって、標識物質は、標識T1Rポリペプチド又は標識抗T1R抗体であってよい。あるいは、標識物質は、抗体/T1R複合体に特異的に結合する第2抗体のような第3の部分であってよい(第2抗体は、第1抗体が得られる動物種の抗体に対して一般的に特異的である)。プロテインA又はプロテインGのような免疫グロブリン定常部に特異的に結合することができる他のタンパク質も標識物質として用いることができる。これらのタンパク質は、様々な動物種の免疫グロブリン定常部と強い非免疫原性反応性を示す(例えば、Kronal et al.、J.Immunol.第111巻、1401〜1406頁(1973年)、Akerstrom et al.、J.Immunol.第135巻、2589〜2542頁(1985年)を参照)。標識物質は、ストレプトアビジンのような他の分子が特異的に結合することができるビオチンのような検出可能な部分で修飾することができる。様々な検出可能な部分は、当業者によく知られている。
【0166】
アッセイを通して、インキュベーション及び/又は洗浄段階が試薬の各組合せの後に必要である。インキュベーション段階は、約5秒から数時間まで、場合により約5分から約24時間まで変わり得る。しかし、インキュベーション時間は、アッセイ方式、抗原、溶液の量、濃度等に依存する。通常、アッセイは、10℃〜40℃のような温度範囲で行うことができるが、周囲温度で実施される。
【0167】
A.非競合的アッセイ方式
サンプル中のT1Rポリペプチドを検出するためのイムノアッセイは、競合的又は非競合的であってよい。非競合的イムノアッセイは、抗原の量を直接測定するアッセイである。1つの好ましい「サンドイッチ」アッセイにおいて、例えば、抗T1R抗体を、それらが固定化されている固体基体に直接結合させることができる。これらの固定化抗体が試験サンプル中に存在するT1Rポリペプチドを捕捉する。T1Rポリペプチドは、そのように固定化され、次いで、標識を帯びている第2T1R抗体のような標識物質により結合される。あるいは、第2抗体は、標識を欠いてもよいが、次に、第2抗体が得られる動物種の抗体に対して特異的な標識第3抗体により結合される。第2又は第3抗体は一般的に、検出可能な部分を得るために、例えば、ストレプトアビジンのような他の分子が特異的に結合することができるビオチンのような検出可能な部分で修飾されている。
【0168】
B.競合的アッセイ方式
競合的アッセイでは、サンプル中に存在するT1Rポリペプチドの量を、サンプル中に存在する未知のT1Rポリペプチドにより抗T1R抗体から置換された(競合脱離した)既知の添加(外因性)T1Rポリペプチドの量を測定することにより間接的に測定する。1つの競合的アッセイにおいて、既知量のT1Rポリペプチドをサンプルに加え、次いで、サンプルをT1Rに特異的に結合する抗体と接触させる。抗体に結合する外因性T1Rポリペプチドの量は、サンプル中に存在するT1Rポリペプチドの濃度に逆比例する。特に好ましい実施形態において、抗体が固体基体に固定化されている。抗体に結合したT1Rポリペプチドの量は、T1R/抗体複合体に存在するT1Rポリペプチドの量を測定するか、あるいは、残りの複合体化していないタンパク質の量を測定して決定する。T1Rポリペプチドの量は、標識されたT1R分子を供給することによって検出することができる。
【0169】
ハプテン阻害アッセイが他の好ましい競合的アッセイである。このアッセイでは、既知のT1Rポリペプチドを固体基体に固定化する。既知量の抗T1R抗体をサンプルに加え、次いで、サンプルを固定化T1Rと接触させる。既知の固定化T1Rに結合した抗T1R抗体の量は、サンプル中に存在するT1Rポリペプチドの量に逆比例する。再び、固定化された抗体の量は、抗体の固定化された画分又は溶液中に残っている抗体の画分を検出することにより検出することができる。検出は、抗体が標識されている場合には直接に行うことができ、又は上記のように抗体に特異的に結合する標識部分の後の添加により間接的に行うことができる。
【0170】
C.交差反応性の測定
競合的結合方式のイムノアッセイは、交差反応性の測定にも用いることができる。例えば、本明細書に開示する核酸配列により少なくとも部分的にコードされたタンパク質を固体担体に固定化することができる。固定化抗原への抗血清の結合に対して競合するタンパク質(例えば、T1Rポリペプチド及び同族体)をアッセイに加える。固定化タンパク質への抗血清の結合に対して競合する添加タンパク質の能力を、それ自体と競合する本明細書に開示する核酸配列によりコードされたT1Rポリペプチドの能力と比較する。上記のタンパク質の公差反応性の割合を標準計算法により計算する。上記の添加タンパク質のそれぞれと10%未満の交差反応性を示す抗血清を選択し、プールする。交差反応性抗体は場合により、考慮された添加タンパク質、例えば、関連性が小さい同族体を用いる免疫吸収によりプールした抗血清から除去する。さらに、T1Rファミリーのメンバーを同定するのに用いられる保存モチーフを表すアミノ酸配列を含むペプチドは、交差反応性の判定に用いることができる。
【0171】
免疫吸収させた及びプールした抗血清を上記の競合的結合免疫アッセイに用いて、T1Rファミリーメンバーのおそらく対立遺伝子又は多形性変異体と考えられる第2のタンパク質を免疫原性タンパク質(すなわち、本明細書に開示する核酸配列によりコードされたT1Rポリペプチド)と比較する。この比較を行うために、2つのタンパク質をそれぞれ広範囲の濃度で分析し、固定化タンパク質への抗血清の結合の50%を阻害するのに必要な各タンパク質の量を測定する。結合の50%を阻害するのに必要な第2のタンパク質の量が、結合の50%を阻害するのに必要な本明細書に開示する核酸配列によりコードされたタンパク質の量の10倍未満の場合、第2のタンパク質は、T1Rに対して発生したポリクローナル抗体に特異的に結合するという。
【0172】
T1R保存モチーフに対して産生させた抗体は、T1RファミリーのGPCRsに対してのみ特異的に結合する抗体を調製するのにも用いることができるが、他のファミリーのGPCRsに対するものには用いることはできない。
【0173】
T1Rファミリーの特定のメンバーに特異的に結合するポリクローナル抗体は、他のT1Rファミリーメンバーを用いて交差反応性抗体を除去することにより、調製することができる。種特異ポリクローナル抗体は、同様にして調製することができる。例えば、ヒトT1R1に特異的な抗体は、オーソロガス配列、例えば、ラットT1R1又はマウスT1R1と交差反応性である抗体を除去することにより、調製することができる。
【0174】
D.他のアッセイ方式
ウエスタンブロット(イムノブロット)分析を用いて、サンプル中のT1Rポリペプチドの存在を検出し、定量する。この手法は一般的に、分子量に基づきゲル電気泳動によりサンプルタンパク質を分離し、分離したタンパク質を適切な固体担体(ニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルター又は誘導体化ナイロンフィルター)に移し、サンプルをT1Rポリペプチドに特異的に結合する抗体と共にインキュベートすることを含む。抗T1Rポリペプチド抗体は、固体担体上のT1Rポリペプチドに特異的に結合する。これらの抗体は、抗T1R抗体に特異的に結合する標識抗体(例えば、ヒツジ抗マウス抗体)を用いて直接標識することができるか、あるいは後に検出することができる。
【0175】
他のアッセイ方式としては、特定の分子(例えば、抗体)に結合するように設計されたリポソーム及び放出カプセル封入試薬又はマーカーを用いるリポソームイムノアッセイ(LIA)が挙げられる。放出された化学物質を標準的手法により検出する(Monroe et al.、Amer.Clin.Prod.Rev.第5巻、34〜41頁(1986年)を参照)。
【0176】
E.非特異的結合の低減
当業者は、イムノアッセイにおける特異的結合を最小限にすることがしばしば望ましいことを認識しているであろう。特に、アッセイが固体基体に固定化されている抗原又は抗体を用いるものである場合、基体への非特異的結合の量を最小限にすることが望ましい。そのような非特異的結合を低減する手段は、当業者によく知られている。一般的に、この手法は、タンパク質性組成物で基体をコーティングすることを含む。特に、ウシ血清アルブミン(BSA)、脱脂粉乳及びゼラチンのようなタンパク質組成物が広く使用されており、粉乳が最も好ましい。
【0177】
F.標識
アッセイに用いられる特定の標識又は検出可能な基は、アッセイに用いる抗体の特異的結合を有意に妨げない限り、本発明の重要な態様ではない。検出可能な基は、検出可能な物理的又は化学的特性を有する物質であってよい。そのような検出可能な標識は、イムノアッセイの分野において十分に発達しており、一般的に、そのような方法において有用なほとんどの標識は、本発明に適用することができる。したがって、標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的又は化学的手段により検出可能なあらゆる組成物である。本発明における有用な標識としては、磁気ビーズ(例えば、DYNABEADSTM)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミン等)、放射性標識(例えば、3H、125I、14C、35S)、酵素(例えば、西洋ワサビ、リン酸アルカリ及びELISAに一般的に用いられている他のもの)コロイド金又は着色ガラス又はプラスチックビーズ(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)のような測色標識などがある。
【0178】
標識は、当技術分野で知られている方法によりアッセイの所望の成分に直接又は間接的に結合させることができる。上記のように、広範囲の標識を用いることができるが、必要とする感度、化合物との複合の容易さ、安定性要件、利用可能な機器及び廃棄規定に応じて標識を選択する。
【0179】
非放射性標識は、間接的な手段により結合させることが多い。一般的に、リガンド分子(例えば、ビオチン)を分子に共有結合させる。次いで、リガンドは、検出可能な酵素、蛍光化合物又は化学発光化合物のような本質的に検出可能であるか、又はシグナル系に共有結合する、他の分子(例えば、ストレプトアビジン)に結合する。リガンド及びそれらの標識は、T1Rポリペプチドを認識する抗体又は抗T1Rを認識する第2抗体と適切に組み合わせて用いることができる。
【0180】
分子は、例えば、酵素又は蛍光団との複合など、シグナル発生化合物に直接的に結合させることもできる。標識としての問題の酵素は、主としてヒドロラーゼ、特に、ホスファターゼ、エステラーゼ及びグリコシダーゼ又はオキシドターゼ、特に、ペルオキシダーゼである。蛍光化合物としては、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン等がある。化学発光化合物としては、ルシフェリン及び2,3−ジヒドロフタラジンジオン、例えば、ルミノールなどがある。用いることができる種々の標識又はシグナル発生システムに関する総説については、米国特許第4,391,904号を参照。
【0181】
標識を検出する手段は、当業者によく知られている。したがって、例えば、標識が放射性標識である場合、検出手段は、シンチレーションカウンター又はオートラジオグラフィーにおけるような写真フィルムなどである。標識が蛍光標識である場合、標識は適切な波長の光で蛍光色素を励起し、発生した蛍光を検出することにより検出することができる。蛍光は、写真フィルムにより、電荷結合素子(CCDs)又は光電子倍増管等の電子的検出器の使用により、視覚的に検出することができる。同様に、酵素標識は、酵素の適切な基質を用い、得られた反応生成物を検出することにより検出することができる。最後に、単純な測色標識は、標識に伴う色を単に観察して検出することができる。したがって、様々なディップスティックアッセイにおいて、結合した金はしばしばピンク色に見えるが、様々な複合ビーズはビーズの色に見える。
【0182】
一部のアッセイ方式は、標識化合物の使用を必要としない。例えば、凝集アッセイを用いて、標的抗体の存在を検出することができる。この場合、抗原被覆粒子を標的抗体を含むサンプルにより凝集させる。この方式では、いずれの化合物も標識する必要がなく、標的抗体の存在は簡単な目視検査により検出される。
【0183】
調節物質の検出
試験化合物が本発明のT1R受容体にin vitro及びin vivoで特異的に結合するかどうかを検討するための組成物及び方法を以下に記載する。本発明のT1Rポリペプチドへのリガンド結合の影響を評価するために、細胞生理学の多くの側面をモニターすることができる。これらのアッセイは、化学感覚受容体を発現する完全な細胞について、透過性化細胞について、あるいは、標準的方法により生成させた膜断片又はin vitroでの新規合成タンパク質について実施することができる。
【0184】
in vivoでは味覚受容体が味覚物質に結合し、化学的刺激の電気的シグナルへの変換を開始する。活性化又は阻害されたGタンパク質が次に標的酵素、チャンネル及び他のエフェクタータンパク質の特性を変化させる。いくつかの例は、視覚系におけるトランンスデューシンによるcGMPホスホジエステラーゼ、刺激性Gタンパク質によるアデニル酸シクラーゼ、Gq及び他の同族Gタンパク質によるホスホリパーゼCの活性化並びにGi及び他のGタンパク質による種々のチャンネルの調節である。ホスホリパーゼCによるジアシルグリセロール及びIP3の生成並びにその結果としてのIP3によるカルシウム動態化のような下流の結果も検討することができる。
【0185】
アッセイのT1Rタンパク質又はポリペプチドは、実施例1に開示するものから選択されるT1Rポリペプチド配列あるいはその断片又は保存的に修飾された変異体を有するポリペプチドから選択することが好ましい。場合により、断片及び変異体は、抗T1R抗体に結合する抗原性断片及び変異体であってよい。場合により、断片及び変異体は、甘味料又はうま味味覚物質に結合又はそれにより活性化されてよい。
【0186】
あるいは、アッセイのT1Rタンパク質又はポリペプチドは、真核生物宿主細胞由来のものであってよく、実施例1に開示するT1Rポリペプチド配列あるいはその断片又は保存的に修飾された変異体とアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸サブ配列を含んでいてよい。一般的に、アミノ酸配列の同一性は、少なくとも35〜50%、あるいは場合により75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%である。場合により、アッセイのT1Rタンパク質又はポリペプチドは、細胞外ドメイン、膜貫通領域、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、リガンド結合ドメイン等のT1Rタンパク質のドメインを含んでいてよい。さらに、上記のように、T1Rタンパク質又はそのドメインを異種タンパク質に共有結合により連結させて、本明細書に記載するアッセイに用いるキメラタンパク質を創ることができる。
【0187】
T1R受容体活性の調節物質は、上記のような組換え又は天然に存在するT1Rタンパク質又はポリペプチドを用いて試験する。T1Rタンパク質又はポリペプチドは、組換え又は天然に存在するものを分離し、細胞中で同時発現させ、細胞から得られる膜内で同時発現させ、組織又は動物において同時発現させることができる。例えば、舌切片、舌から分離した細胞、形質転換細胞又は膜を用いることができる。調節は、本明細書に記載するin vitro又はin vivoアッセイの1つを用いて試験することができる。
【0188】
例えば、以下の実験的実施例で開示されているように、特定の51ヌクレオチド、例えば、51IMP又は51GMPは、L−グルタミン酸塩の活性を増強させて、うま味受容体を活性化するか、又はL−L−グルタミン酸塩又はL−アスパラギン酸塩のようなうま味刺激物質によるうま味受容体の活性化を阻害する。
【0189】
1.in vitro結合アッセイ
味覚変換も本発明のT1Rポリペプチドを用いて、可溶性又は固体状態反応によりin vitroで検討することができる。特定の実施形態において、リガンド結合を検定するために、in vitro可溶性又は固体状態反応にT1Rリガンド結合ドメインを用いることができる。
【0190】
例えば、T1RのN末端ドメインがリガンド結合に関与していると予測される。より具体的には、T1Rsは、大きい、約600アミノ酸の細胞外N末端セグメントを特徴とするGPCRサブファミリーに属している。これらのN末端セグメントは、リガンド結合ドメインを形成していると考えられ、したがって、T1R作動物質及び拮抗物質を特定するための生化学的アッセイに有用である。リガンド結合ドメインは、膜貫通ドメインの細胞外ループのような細胞外ドメインの付加的な部分により形成されている可能性がある。
【0191】
in vitroアッセイは、メタボトロッピックグルタミン酸受容体のようなT1Rsに関連する他のGPCRsについて用いられた(例えば、Han and Hampson、J.Biol.Chem.第274巻、10008〜10013頁(1999年)を参照)。これらのアッセイは、放射性又は蛍光標識リガンドの置換、固有蛍光の変化又はタンパク質溶解感受性の変化の測定等を伴う。
【0192】
本発明のT1Rポリペプチドのヘテロ多量体複合体へのリガンド結合は、溶液中、場合により固相に結合させた2層膜中で、脂質単層中で、又は小胞中で試験することができる。調節物質の結合は、例えば、 分光学的特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形状)、クロマトグラフィー又は溶解性特性の変化を用いて試験することができる。
【0193】
本発明の他の実施形態において、GTPγ35Sアッセイを用いることができる。上記のように、GPCRの活性化により、Gタンパク質複合体のGαサブユニットは、刺激されて、結合GDPをGTPと交換する。Gタンパク質交換活性のリガンド媒介性刺激は、推定上のリガンドの存在下でのGタンパク質への添加放射性標識GTPγ35Sの結合を測定する生化学的アッセイにおいて測定することができる。一般的に、問題の化学感覚受容体を含む膜をGタンパク質複合体と混合する。可能性のある阻害物質及び/又は活性化物質及びGTPγ35Sをアッセイに加え、Gタンパク質へのGTPγ35Sの結合を測定する。結合は、液体シンチレーション計数法又はシンチレーションプロキシミティアッセイ(SPA)を含む当技術分野で知られている他の手段により測定することができる。他のアッセイ方式では、蛍光標識GTPγSを利用することができる。
【0194】
2.蛍光偏光アッセイ
他の実施形態において、蛍光偏光(「FP」)に基づくアッセイを用いてリガンド結合を検出し、モニターすることができる。蛍光偏光は、平衡結合、核酸ハイブリダイゼーション及び酵素活性を測定するための汎用性のある実験室技術である。蛍光偏光アッセイは、遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー、沈殿又は電気泳動のような分離段階を必要としない点で均一である。これらのアッセイは、溶液中で実時間で、直接的に行われ、固定化相を必要としない。偏光の測定は迅速で、サンプルを破壊しないので、偏光値は繰り返して、また、試薬の添加後に測定することができる。一般的に、この手法を用いて、低いピコモルからマイクロモルまでの偏光値を測定することができる。この項では、本発明のT1Rポリペプチドへのリガンドの結合を単純かつ定量的方法で測定するのに、どのようにして蛍光偏光を用いるのかを述べる。
【0195】
蛍光標識分子を平面偏光により励起させたとき、その分子は、その分子旋光度に逆比例する偏光の程度を有する光を放射する。大きい蛍光標識分子は、励起状態時(フルオレセインの場合、4ナノ秒)に比較的に静止した状態に留まり、光の偏光は、励起と放射との間で比較的一定に留まっている。小さい蛍光標識分子は、励起状態時に速やかに回転し、偏光は励起と放射との間で有意に変化する。したがって、小分子は低い偏光値を有し、大分子は高い偏光値を有する。例えば、1本鎖フルオレセイン標識オリゴヌクレオチドは、比較的低い偏光値を有するが、相補鎖とハイブリド形成したとき、より高い偏光値を有する。本発明の化学感覚受容体を活性化又は阻害する味覚物質結合を検出し、モニターするためにFPを用いる場合、蛍光標識味覚物質又は自己蛍光味覚物質を用いることができる。
【0196】
蛍光偏光(P)は次のように定義される。
【0197】
【数1】
【0198】
ここで、Πは励起光面に平行な放射光の強度であり、Int⊥は励起光面に垂直な放射光の強度であり、Pは光の強度の比で、無次元数である。例えば、Beacon(商標登録)及びBeacon 2000(商標)をこれらのアッセイに関連して用いることができる。そのようなシステムは、一般的に偏光をミリ偏光単位(1偏光単位=1000mP単位)で表す。
【0199】
分子旋光度とサイズとの関係は、Perrin式により記述される。読者は、この式の十分な説明が記載されている、Jolley M.E.(1991年)、Journal of Analytical Toxicology、236〜240頁を参照。要約すると、Perrin式は、偏光が、分子が約68.5゜の角度を回転するに必要な時間である回転緩和時間に直接比例することを記述している。回転緩和時間は、粘度(η)、絶対温度(T)、分子容(V)及び気体定数(R)に次の式により関連づけられる。
【0200】
【数2】
【0201】
回転緩和時間は、小分子(例えば、フルオレセイン)では小さく(約1ナノ秒)、大分子(例えば、免疫グロブリン)では大きい(約100ナノ秒)。粘度及び温度を一定に保持するならば、回転緩和時間、したがって、偏光は、分子容に直接関係づけられる。分子容の変化は、蛍光標識分子の他の分子との相互作用、解離、重合、分解、ハイブリダイゼーション又はコンホメーションの変化に起因する可能性がある。例えば、蛍光偏光は、プロテアーゼ、DNアーゼ及びRNアーゼによる大きい蛍光標識ポリマーの酵素切断を測定するために用いられている。蛍光偏光はまた、タンパク質/タンパク質相互作用、抗体/抗原結合及びタンパク質/DNA結合における平衡結合を測定するために用いられている。
【0202】
A.固相状態及び可溶性高処理能力アッセイ
他の実施形態において、本発明は、ヘテロオリゴマーT1Rポリペプチド複合体あるいは細胞又は組織同時発現T1Rポリペプチドを用いる可溶性アッセイを提供する。好ましくは、細胞は、機能的T1R1/T1R3(うま味)味覚受容体又はT1R2/T1R3(甘味)味覚受容体を安定に同時発現する。他の実施形態において、本発明は、T1RポリペプチドあるいはT1Rポリペプチドを発現する細胞又は組織を固相基体又は味覚刺激物質に結合させ、T1R受容体と接触させ、適切な標識又はT1R受容体に対して産生させた抗体を用いて結合を検出する、高処理能力方式での固相に基づくin vitroアッセイを提供する。
【0203】
本発明の高処理能力アッセイでは、1日に数千種の調節物質又はリガンドをスクリーニングすることが可能である。特に、マイクロタイタープレートの各ウエルを用いて選択した可能性な調節物質に対する独立したアッセイを行うことができ、あるいは、もし濃度又はインキュベーション時間効果が認められる場合には、5〜10ウエルを用いて1つの調節物質を試験することができる。したがって、1枚の標準マイクロタイタープレートで約100種(例えば、96種)の調節物質についてアッセイを行うことができる。1536ウエルプレートを用いる場合、1枚のプレートで約1000種から約1500種の化合物についてアッセイを容易に行うことができる。各プレートウエルで複数の化合物のアッセイを行うことも可能である。1日当たり数枚の異なるプレートを用いてアッセイを行うことが可能であり、本発明の統合システムを用いて、最大約6,000〜20,000種の化合物のアッセイによるスクリーニングが可能である。最近、試薬操作に対するマイクロフルーイディック手法が開発された。
【0204】
対象とする分子は、固体状態構成要素に直接的又は間接的に、共有結合部又は非共有結合部を介して、例えばタグを介して結合させることができる。タグは多様な構成要素のいずれであってもよい。一般的に、標識に結合する分子(標識バインダー)を固体担体に結合させ、問題の標識した分子(例えば、問題の味覚変換分子)を、標識と標識バインダーとの相互作用により固体担体に結合させる。
【0205】
文献に十分に記載されている既知の分子相互作用に基づいて、多数の標識及び標識バインダーを用いることができる。例えば、標識が、例えば、ビオチン、プロテインA又はプロテインGのような天然バインダーを備えている場合、適切な標識バインダー(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、免疫グロブリンのFc部等)と共に用いることができる。ビオチンのような天然バインダーを有する分子に対する抗体も広く利用可能であり、適切な標識バインダーである(SIGMA Immunochemicals1998年カタログ、SIGMA(ミズーリ州セントルイス)を参照)。
【0206】
同様に、ハプテン性又は抗原性化合物を適切な抗体と組み合わせて、標識/標識バインダー対を生成させることができる。何千もの特異抗体が市販されており、他の多くの抗体が文献に記載されている。例えば、1つの一般的な配置において、標識が第1抗体であり、標識バインダーが第1抗体を認識する第2抗体である。抗体−抗原相互作用に加えて、受容体−リガンド相互作用も標識及び標識バインダー対として適切である。例えば、細胞膜受容体の作動物質及び拮抗物質(例えば、トランスフェリン、c−キット、ウイルス受容体リガンド、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、インターロイキン受容体、免疫グロブリン受容体及び抗体のような細胞受容体−リガンド相互作用、ならびにカドヘリンファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー等、例えば、Pigott&Power、The Adhesion Molecile Facts Book I(1993年)を参照)。同様に、トキシン及び毒液、ウイルスエピトープ、ホルモン(例えば、オピエート、ステロイド等)、細胞内受容体(例えば、ステロイド、甲状腺ホルモン、レチノイド及びビタミンDを含む様々な小リガンドの作用を媒介する;ペプチド)、薬物、レクチン、糖、核酸(線状及び環状ポリマー配置)、オリゴ糖、タンパク質、リン脂質及び抗体はすべて種々の細胞受容体と相互作用することができる。
【0207】
ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ尿素、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド及びポリアセテートのような合成ポリマーも適切な標識又は標識バインダーを形成し得る。この開示の検討に際して当業者にとって明らかなように、他の多くの標識/標識バインダー対も本明細書に記載のアッセイシステムに有用である。
【0208】
ペプチド、ポリエーテル等の一般的なリンカーも標識となり得るものであり、約5〜200アミノ酸のポリgly配列のようなポリペプチド配列などが挙げられる。そのようなフレキシブルなリンカーは、当業者に知られている。例えば、ポリ(エチレングリコール)リンカーは、Shearwater Polymers,Inc.(アラバマ州ハンツビル(Huntsville))から入手可能である。これらのリンカーは、場合により、アミド結合、スルフヒドリル結合又は異種官能基結合を有していてよい。
【0209】
標識バインダーを現在利用可能な種々の方法を用いて固体基体に固定する。固体基体は一般的に、標識バインダーの一部との反応性を有する化学基を表面に固定する化学試薬に基体の全部又は一部を曝露することにより、誘導体化又は官能基化する。例えば、より長い鎖部分への結合に適した基は、ヒドロキシル、チオール及びカルボキシル基などである。アミノアルキルシラン及びヒドロキシアルキルシランを用いて、ガラス表面のような様々な表面を官能基化することができる。そのような固相生体高分子アレイの構成は、文献に十分に記載されている。例えば、Merrifield、J.Am.Chem.Sic.第85巻、2149〜2154頁(1963年)(例えば、ペプチドの固相合成を記載)、Geysen et al.、J.Immun.Meth.第102巻、259〜274頁(1987年)(ピン上の固相成分の合成を記載)、Frank&Doring、Tetrahedron、第44巻、60316040(1988年)(セルロースディスク上の種々のペプチド配列の合成を記載)、Fodor et al.、Science、第251巻、767〜777頁(1991年)、Sheldon et al.、Clinical Chemistry、第39巻、第4号、718〜719頁(1993年)及びKozal et al.、Nature Medicine、第2巻、第7号、753759頁(1996年)(すべてが固体基体に固定された生体高分子のアレイを記載)を参照。基体に標識バインダーを固定する非化学的手法としては、熱、UV光による架橋等の他の一般的な方法がある。
【0210】
3.細胞を用いるアッセイ
処理の好ましい実施形態において、T1Rタンパク質又はポリペプチドの組合せを真核細胞中で、非修飾形で、あるいは、分泌経路によりその突然変異及びターゲッティングを促進する異種シャペロン配列を含む、又は好ましくは含まないキメラ、変異体又は切断型受容体として一時的又は安定に同時発現させる。そのようなT1Rポリペプチドは、HEK−293細胞のようなあらゆる真核細胞中で発現させることができる。細胞は、機能的Gタンパク質、例えば、Gα15又は以前に同定されたキメラGタンパク質、あるいは、キメラ受容体を細胞内シグナル伝達経路又はホスホリパーゼCのようなシグナル伝達タンパク質に結合させることができる他のGタンパク質を含むことが好ましい。また、そのような細胞は味覚刺激物質に対する強い応答(同じT1Rの組合せを一時的に発現する細胞に関連)を示すことが見いだされた(実験的実施例に示すように)ので、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞を発生させることが好ましい。そのような細胞中のT1R受容体の活性化は、細胞中のFluo−4依存性蛍光を検出して細胞内カルシウムの変化を検出することによるなどの標準的な方法を用いて検出することができる。そのようなアッセイは、この適用例において示す実験所見の基礎である。
【0211】
活性化GPCR受容体は、しばしば受容体のC末端部(及びおそらく他の部位も)リン酸化するキナーゼの基質である。したがって、活性化物質は、放射性標識ATPから受容体への32Pの転移を促進するであろう。これは、シンチレーションカウンターにより検定することができる。C末端部のリン酸化は、アレスチン様タンパク質の結合を促進し、Gタンパク質の結合を妨げる。GPCRシグナル伝達及びシグナル伝達を検定する方法の一般的総説については、例えば、Methods in Enzymology、第237巻及び第238巻(1994年)及び第96巻(1983年)、Bourne et al.、Nature、第349巻、117〜27頁(1991年)、Bourne et al.、Nature、第348巻、125〜32頁(1990年)、Pitcher et al.、Annu.Rev.Biochem.第67巻、653〜92頁(1998年)を参照。
【0212】
T1R調節は、推定上のT1R調節物質により処理したT1Rポリペプチドの応答を無処理対照サンプル又は既知「陽性」対照を含むサンプルの応答と比較することにより、検定することができる。そのような推定上のT1R調節物質は、T1Rポリペプチド活性を阻害又は活性化する分子などである可能性がある。一実施形態において、対照サンプル(活性化物質又は阻害物質で処理していない)は、相対T1R活性値として100%を有するとする。対照に対するT1R活性値が約90%、場合により50%、場合により25〜0%であるとき、T1Rポリペプチドの阻害が達成されている。対照に対するT1R活性値が110%、場合により150%、200〜500%又は1000〜2000%であるとき、T1Rポリペプチドの活性化が達成されている。
【0213】
イオン流束の変化は、T1Rポリペプチドを発現する細胞又は膜のイオン分極(すなわち、電位)の変化を測定することにより評価することができる。細胞分極の変化を測定する1つの手段は、電圧固定法及びパッチ固定法により電流の変化を測定する(それにより、分極の変化を測定する)ことである(例えば、「細胞接着」モード、「内外反転」モード及び「全細胞」モード、Ackerman et al.、New Engl.J Med.第336巻、1575〜1595頁(1997年)を参照)。全細胞電流は、標準的方法を用いて都合よく測定される。他の既知のアッセイは、電圧感受性色素を用いる放射性標識イオン流束アッセイ及び蛍光アッセイなどである(例えば、Vestergarrd−Bogind et al.、J.Membrane Biol.第88巻、67〜75頁(1988年)、Gonzales&Tsien、Chem.Biol.第4巻、269〜277頁(1997年)、Daniel et al.、J.Pharmacol.Meth.第25巻、185〜193頁(1991年)、Holevinsky et al.、J.Membrane Biology、第137巻、59〜70頁(1994年)を参照)。
【0214】
ポリペプチドの機能に対する試験化合物の影響は、上記のパラメーターのいずれかを検討することにより測定することができる。GPCR活性に影響を及ぼす適切な生理学的変化を用いて、本発明のポリペプチドに対する試験化合物の影響を評価することができる。機能に関する結果を完全な細胞又は動物を用いて検討する場合、伝達物質の放出、ホルモンの放出、既知及び未確認遺伝子マーカーに対する転写変化(ノーザンブロット)及びCa2+、IP3、cGMP又はcAMPのような細胞内二次メッセンジャーの変化のような種々の影響も測定することができる。
【0215】
GPCRsの好ましいアッセイは、受容体活性を報告するイオン又は電圧感受性色素を負荷した細胞を対象とするものである。そのような受容体の活性を測定するためのアッセイは、試験した化合物の活性を評価するための対照として他のGタンパク質結合受容体の既知の作動物質及び拮抗物質も用いることができる。調節化合物(例えば、作動物質、拮抗物質)を特定するためのアッセイにおいて、細胞質内のイオンの濃度又は膜電位の変化をそれぞれイオン感受性又は膜電位蛍光指示計をモニターする。用いることができるイオン感受性指示計及び電位プローブの主なものは、分子プローブ1997年カタログ(Molecular Probes 1997 Catalog)に開示されている。Gタンパク質結合受容体については、Gα15及びGα16のような乱交雑Gタンパク質を最も適切なアッセイに用いることができる(Wilkie et al.、Proc.Nat’1 Acad.Sci.第88巻、10049〜10053頁(1991年))。
【0216】
受容体の活性化により、その後の細胞内事象、例えば、二次メッセンジャーの増加が始まる。一部のGタンパク質結合受容体の活性化は、ホスファチジルイノシトールのホスホリパーゼC媒介性加水分解によるイノシトール三リン酸(IP3)の生成を刺激する(Berridge&Irvin、Nature、第312巻、315〜21頁(1984年))。IP3は次に、細胞内貯蔵カルシウムイオンの放出を刺激する。したがって、細胞質カルシウムイオン濃度の変化又はIP3のような二次メッセンジャー濃度の変化を、Gタンパク質結合受容体機能を評価するのに用いることができる。そのようなGタンパク質結合受容体を発現する細胞は、細胞内貯蔵体からのカルシウム放出及び形質膜イオンチャンネルを経ての細胞外カルシウムの流入の寄与による細胞質カルシウム濃度の増加を示す。
【0217】
好ましい実施形態において、T1Rポリペプチド活性を、受容体をホスホリパーゼCシグナル伝達経路に連結させる乱交雑Gタンパク質を含む異種細胞中で、安定に又は一時的に、好ましくは安定に、同時発現するT1R遺伝子により測定する(Offermanns&Simon、J.Biol.Chem.第270巻、15175〜15180頁(1995年)を参照)。好ましい実施形態において、細胞系がHEK−293(通常、T1R遺伝子を発現しない)であり、乱交雑Gタンパク質がGα15である(Offermanns&Simon、前出)。味覚変換の調節は、T1Rポリペプチドに結合する分子の投与によるT1Rシグナル伝達経路の調節に応答して変化する細胞内Ca2+濃度の変化を測定することにより検定する。Ca2+濃度の変化は、場合により蛍光Ca2+指示色素及び蛍光分析画像法により測定する。
【0218】
他の実施形態において、ホスファチジルイノシトール(PI)の加水分解は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,436,128号に従って分析することができる。簡単に述べると、アッセイには、3H−ミオイノシトールによる細胞の48時間以上にわたる標識が含まれる。標識した細胞を試験化合物で1時間処理する。処理した細胞を溶解し、クロロホルム−メタノール−水で抽出した後、イノシトールリン酸をイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、シンチレーション計数法により定量する。刺激比率は、作動物質の存在下でのcpmと緩衝液の存在下でのcpmとの比を計算することにより求める。同様に、阻害比率は、拮抗物質の存在下でのcpmと緩衝液(作動物質を含んでいても、含まなくてもよい)の存在下でのcpmとの比を計算することにより求める。
【0219】
他の受容体アッセイに、細胞内環状ヌクレオチド、例えば、cAMP又はcGMPの濃度の測定を含めることができる。受容体の活性化により環状ヌクレオチドの減少がもたらされる場合、アッセイにおいて受容体活性化化合物を細胞に加える前に、細胞内環状ヌクレオチド濃度を増加させる物質、例えば、フォルスコリンに細胞を曝露させることが好ましいと思われる。一実施形態において、細胞内cAMP又はcGMPの変化は、イムノアッセイを用いて測定することができる。Offermanns&Simon、J.Bio.Chem.第270巻、15175〜15180頁(1995年)に記載されている方法を用いてcAMPの濃度を測定することができる。また、Felley−Bosco et al.、Am.J.Resp.Cell and Mol.Biol.第11巻、159〜164頁(1994年)に記載されている方法を用いてcGMPの濃度を測定することができる。さらに、cAMP及び/又はcGMPを測定するためのアッセイキットは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,115,538号に記載されている。
【0220】
他の実施形態において、転写レベルを測定して、シグナル伝達に対する試験化合物の影響を評価することができる。問題のT1Rポリペプチドを含む宿主細胞を相互作用をもたらすのに十分な時間試験化合物と接触させた後、遺伝子発現のレベルを測定する。そのような相互作用をもたらす時間の長さは、時間を経過させ、転写のレベルを時間の関数として測定するなどにより、実験的に決定することができる。転写の量は、当業者に適切であることが知られている方法を用いて測定することができる。例えば、問題のタンパク質のmRNA発現をノーザンブロットを用いて検出してもよく、あるいは、それらのペプチド産物をイムノアッセイを用いて同定してもよい。あるいは、リポーター遺伝子を用いる転写に基づくアッセイを、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,436,128号に記載のように用いることができる。リポーター遺伝子は、例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ及びアルカリホスファターゼであってよい。さらに、問題のタンパク質を、緑色蛍光タンパク質のような第2の受容体への結合により間接的リポーターとして用いることができる(例えば、Mitili&Spector、Nature Biotechnology、第15巻、961〜964頁(1997年)を参照)。
【0221】
次いで、転写の量を試験化合物の非存在下での同じ細胞中の転写の量と比較するか、問題のT1Rポリペプチドを含まない実質的に同じ細胞中の転写の量と比較することができる。実質的に同じ細胞は、組換え細胞は調製したが、異種DNAの導入により修飾されていなかった同じ細胞から得ることができる。転写の量の差は、試験化合物が問題のT1Rポリペプチドの活性をなんらかの仕方で変化させたことを示している。
【0222】
4.化学感覚受容体を発現するヒト以外のトランスジェニック動物
本発明のT1R味覚受容体配列の組合せを発現するヒト以外の動物も受容体アッセイに用いることができる。そのような発現は、化学感覚受容体又はそのリガンド結合領域をコードする核酸を安定又は一時的にトランスフェクトしたヒト以外の動物を試験化合物と接触させることにより、試験化合物が哺乳類味覚膜貫通受容体複合体にin vivoで特異的に結合するかどうかを検討し、受容体ポリペプチド複合体に特異的に結合することにより、動物が試験化合物に対して反応するかどうかを検討するために用いることができる。
【0223】
本発明のベクターをトランスフェクト又は感染させた動物は、特定の受容体又はその組合せに結合することができる味覚刺激物質を特定し、特徴づけるためのアッセイに特に有用である。ヒト味覚受容体配列を発現するそのようなベクター感染動物は、味覚刺激物質及び例えば、細胞生理学(例えば、味覚ニューロンに対する)、CNSに対する、又は行動に対するそれらの影響のin vivoスクリーニングに用いることができる。あるいは、T1R又はその組合せを発現する安定な細胞系は、特定の受容体又はその組合せを安定に発現する、生産したクローントランスジェニック動物への核酸輸送ドナーとして用いることができる。所望の異種DNAを発現するクローン動物を生産するために核酸輸送体を用いる方法は、マサチューセッツ大学(Advanced Cell Technology,Inc.に対して実施許諾)及びRoslin Institute(Geron Gorp.に対して実施許諾)に付与されたいくつかの発行済み米国特許の主体である。
【0224】
核酸及びベクターを個別に、又はライブラリーとして感染/発現させる手段は、当技術分野でよく知られている。様々な個別の細胞、器官又は丸ごとの動物パラメーターを様々な手段により測定することができる。本発明のT1R配列は、例えば、感染因子、例えばアデノウイルス発現ベクターを用いて送達することにより動物味覚組織中で同時発現させることができる。
【0225】
内因性味覚受容体遺伝子は、依然として機能を果たすことができ、野生型(天然)活性は依然として存在し得る。他の状況において、すべての味覚受容体活性が導入された外因性ハイブリッド受容体によるものであることが望ましい場合、ノックアウトラインの使用が好ましい。ヒト以外のトランスジェニック動物、特に、トランスジェニックマウスの構成並びに形質転換細胞を発生させるための組換え構成体の選択及び調製の方法は、当技術分野においてよく知られている。
【0226】
「ノックアウト」細胞及び動物の構成は、哺乳類細胞中の特定の遺伝子の発現のレベルを、遺伝子のDNA配列のある部分が抑制されるのを遮断する役割を果たす新しいDNA配列をゲノムに導入することにより減少又は完全になくすことができるという前提に基づいている。また、「遺伝子トラップ挿入」を用いて宿主遺伝子を崩壊させることができ、マウス胚幹細胞(ES)を用いてノックアウトトランスジェニック動物を生産することができる(例えば、Holzschu、Transgenic Res、第6巻、97〜106頁(1997年)を参照)。外因性配列の挿入は一般的に相補的核酸配列間の相同的組換えによっている。外因性配列は、エキソン、イントロン又は転写調節配列のような修飾されるべき標的遺伝子のある部分、あるいは標的遺伝子の発現のレベルに影響を及ぼすことができるゲノム配列あるいはその組合せである。多能性胚幹細胞における相同的組換えによる遺伝子ターゲッティングにより、問題のゲノム配列を精密に修飾することが可能となる。あらゆる手法を用いて、ノックアウト動物を造り、スクリーニングし、増殖させることができる。例えば、Bijvoet、Hum.Mil.Genet.第7巻、53〜62頁(1998年)、Moreadith、J.Mol.Med.第75巻、208〜216頁(1997年)、Tojo、Cytotechnology、第19巻、161〜165頁(1995年)、Mudgett、Methods Mol.Biol.第48巻、167〜184頁(1995年)、Longo、Transgenic Res.第6巻、321〜328頁(1997年)、米国特許第5,616,491号、第5,464,764号、5,631,153号、第5,487,992号、第5,627,059号、第5,272,071号、国際公開第91/09955号、国際公開第93/09222号、国際公開第96/29411号、国際公開第95/31560号、国際公開第91/12650号を参照。
【0227】
本発明の核酸は、「ノックアウト」ヒト細胞及びそれらの子孫を生産するための試薬としても用いることができる。同様に、本発明の核酸は、マウスにおける「ノックイン」細胞を産生するための試薬としても用いることができる。ヒト又はラットT1R遺伝子配列は、マウスノムにおけるオーソロガスT1Rを置換することができる。このようにして、ヒト又はラットT1Rを発現するマウスが生産される。次いで、このマウスを用いてヒト又はラットT1Rsの機能を分析し、そのようなT1Rsのリガンドを特定することができる。
【0228】
a.調節物質
T1Rファミリーメンバーの調節物質として試験される化合物は、小化合物あるいはタンパク質、核酸又は脂質のような生物学的物質であってよい。それらの例として、51IMP及び51GMPなどがある。水溶液に溶ける化合物が試験されることが非常に多いが、本質的にあらゆる化合物を本発明のアッセイにおける可能性のある調節物質又はリガンドとして用いることができる。アッセイ段階を自動化し、化合物を都合のよい源から供給することにより、大きい化学ライブラリーをスクリーニングするためのアッセイを設計することができる。これらのアッセイは一般的に並行して実施される(例えば、ロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレート上のマイクロタイターフォーマットで)。化学ライブラリーは多くの化学反応のうちの1つ(例えば、Senomyx独占の化学)により合成することができることは認識されよう。さらに、Sigma(ミズーリ州セントルイス)、Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Sigma−Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Fluka Chemika−Biochemica Analytika(スイス、ブークス)等の化合物の多くの供給業者が存在する。
【0229】
1つの好ましい実施形態において、高処理能力スクリーニング法は、多数の味覚に影響を及ぼす可能性のある化合物(可能な調節物質又はリガンド化合物)を含むコンビナトリアル化学又はペプチドライブラリーを提供することを含む。次いで、そのような「コンビナトリアル化学ライブラリー」又は「リガンドライブラリー」を本明細書に記載するように1つ又は複数のアッセイにおいてスクリーニングして、所望の特有の活性を示すライブラリーメンバー(特定の化学種又はサブクラス)を特定する。そのようにして特定された化合物は、通常の「リード化合物」とすることができ、あるいは、それら自体、可能な又は実際の味覚調節物質として用いることができる。
【0230】
好ましくは、そのようなライブラリーは、T1R又はT1Rsの組合せ、すなわち、T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3並びに好ましくは適切なGタンパク質、例えば、Gα15を安定に発現する細胞又は細胞系に対してスクリーニングする。以下の実施例に示すように、そのような安定な化合物は味覚刺激物質、例えば、うま味又は甘味刺激物質に対する非常に顕著な応答を示す。しかし、1つ又は複数のT1Rsを一時的に発現する細胞及び細胞系もそのようなアッセイに用いることができる。
【0231】
コンビナトリアル化学ライブラリーは、試薬のような多数の「構築ブロック」を組み合わせることにより、化学合成又は生物学的合成により得られた種々の化合物の集合である。例えば、ポリペプチドライブラリーのような線状コンビナトリアル化学ライブラリーは、所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)について、あらゆる可能な方法で一連の化学的構築ブロックを組み合わせることにより形成される。化学的構築ブロックのそのようなコンビナトリアルミキシングにより、数千から数百万の化合物を合成することができる。
【0232】
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製及びスクリーニングは、当業者に知られている。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリーは、ペプチドライブラリーを含むが、これらに限定されない(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka、Int.J.Pept.Prot.Res.第37巻、487〜493頁(1991年)及びHoughton et al.、Nature、第354巻、84〜88巻(1991年)を参照)。化学的多様性ライブラリーを発生するための他の化学も用いることができる。そのような化学は、次のものを含むが、これらに限定されない。すなわち、ペプトイド(例えば、PCT公告番号WO91/19735)、コードされたペプチド(例えば、PCT公告番号WO93/20242)、ランダム生体オリゴマー(例えば、PCT公告番号WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン及びジペプチドのようなダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al.、Proc.Nat.Acad.Sci.第90巻、6909〜6913頁(1993年))、ビニローグポリペプチド(Hagihara et al.、J.Amer.Chem.Soc.第114巻、6568頁(1992年))、グルコース足場を有する非ペプチド擬似体(Hirschmann et al.、J.Amer.Chem.Soc.第114巻、9217〜9218頁(1992年))、小化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen et al.、J.Amer.Chem.Soc.第116巻、2661頁(1994年))、オリゴカルバメート(Cho et al.、Science、第261巻、1303頁(1993年))、ペプチジルホスホネート(Campbell et al.、J.Org.Chem.第59巻、658頁(1994年))、核酸ライブラリー(Ausubel、Berger and Sambrook、すべて前出)、ペプチド核酸ライブラリー(米国特許第5,539,083号)、抗体ライブラリー(Vaughn et al.、Nature Biotechnology、第14巻、第3号、309〜314頁(1996年)及びPCT/US96/10287)、炭水化物ライブラリー(Liang et al.、Science、第274巻、1520〜1522頁(1996年)及び米国特許第5,593,853号)、小有機分子ライブラリー(ベンゾジアゼピン、Baum、C&EN、1月18日、33頁(1993年);チアゾリジノン及びメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピンロリジン、米国特許第5,525,735号及び第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、第5,288,514号等)。
【0233】
コンビナトリアルライブラリーの調製用装置は、市販されている(例えば、357MPS、390MPS(Advanced Chem Tech、ケンタッキー州ルイスビル)、Symphony(Rainin、マサチューセッツ州ウォーバーン)、433A(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー)、9050Plus(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)。さらに、多くのコンビナトリアルライブラリー自体が市販されている(例えば、ComGenex、ニュージャージー州プリンストン;Tripos,Inc.、ミズーリ州セントルイス;3D Pharmaceuticals、ペンシルバニア州エックストン;Martek Biosciences、メリーランド州コロンビア等)。
【0234】
本発明の1態様において、T1R調節物質は、それにより所望の様態で生成物、組成物又は成分の味を調節するために食品、菓子、薬剤組成物又はその成分に用いることができる。例えば、甘味感覚を増強するT1R調節物質は、生成物又は組成物を甘くするために加えることができ、うま味感覚を増強するT1R調節物質は、セイバリー味を増加させるために食物に加えることができる。あるいは、甘味及び/又はうま味を遮断するためにT1R拮抗物質を用いることができる。
【0235】
b.キット
T1R遺伝子及びそれらの相同体は、化学感覚受容体細胞の同定に、法医学及び父性決定に、味覚変換の検討に有用なツールである。T1Rプローブ及びプライマーのようなT1R核酸と特異的にハイブリダイズするT1Rファミリーメンバー特異試薬並びにT1Rポリペプチドに特異的に結合するT1R特異試薬、例えば、T1R抗体は、味覚細胞発現及び味覚変換制御を検討するために用いられる。
【0236】
サンプル中のT1RファミリーメンバーのDNA及びRNAの存在の有無についての核酸アッセイとしては、サザン分析、ノーザン分析、ドットブロット、RNアーゼ保護、S1分析、PCRのような増幅法及びin situハイブリダイゼーションのような当業者に知られている多くの技術がある。in situハイブリダイゼーションにおいては、例えば、後続の解釈と分析のために細胞形態を保存しつつ、細胞内でのハイブリダイゼーションに利用可能なように標的核酸をその細胞環境から放出させる。以下の論文にin situハイブリダイゼーションの技術の概要が記載されている。Singer et al.、Biotechniques、第4巻、230250頁(1986年)、Haase et al.、Methods in Virology、VII巻、189〜226頁(1984年)及びNucleic Acid Hybridization:A Practical Approach(Names et al.編、1987年)。さらに、T1Rポリププチドは、上記の様々なイムノアッセイ技術により検出することができる。試験サンプルは、一般的に陽性対照(例えば、組換えT1Rポリペプチドを発現するサンプル)及び陰性対照と比較する。
【0237】
本発明はまた、T1Rファミリーメンバーの調節物質をスクリーニングするためのキットを提供する。そのようなキットは、容易に入手可能な材料及び試薬から調製することができる。例えば、そのようなキットは以下の材料のいずれか1つ又は複数を含めることができる。T1R核酸又はタンパク質、反応管及びT1R活性試験指示書。場合により、キットに、生物学的に活性なT1R受容体あるいは味覚受容体を含む生物学的に活性なT1Rを安定又は一時的に発現する細胞系を含めてよい。キットの所期のユーザ及びユーザの特定のニーズに応じて、本発明により様々なキット及び構成要素を調製することができる。
【0238】
例
本発明を上文で詳細に記述したが、好ましい実施形態を例示するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、例示を目的とするものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0239】
本明細書に示すタンパク質配列において、1文字コードX又はXaaは20種の一般的なアミノ酸残基のいずれかを意味する。本明細書に示すDNA配列において、1文字コードN又はnは4種の一般的なヌクレオチド塩基A、T、C又はGのいずれかを意味する。
【実施例1】
【0240】
イントロンを含まないhT1R発現構成体の生産
イントロンを含まないhT1R発現構成体をcDNA法及びゲノムDNA法の組合せによるクローンした。全長hT1R1発現構成体を得るために、クローンhT1R1区分(受入番号AL159177)において同定された2つの5’コード化エキソンをPCRオーバーラップにより結合させ、次いで、5’−切断型精巣cDNAクローンに結合させた。hT1R2発現構成体を部分的に配列決定したhT1R2ゲノム区分から得た。2つの欠落hT1R2 5’エキソンを、対応するラットコード配列から得られたプローブを用いてクローンゲノム区分のショットガンライブラリーをスクリーニングすることにより同定した。次いで、コード化エキソンをPCRオーバーラップにより結合させて、全長発現構成体を生成させた。hT1R3発現構成体は、配列決定済みhT1R3ゲノム区分(受入番号AL139287)からPCRオーバーラップにより得た。ラットT1R3を、hT1R3系縮重PCRにより得られたrT1R3エキソン断片を用いてラット味覚組織由来のcDNAライブラリーから分離した。部分hT1R1 cDNA、rT1R2 cDNA及び部分hT1R2ゲノム配列は、Dr.Charles Zuker(カリフォルニア大学、サンディエゴ)から入手した。
【0241】
上記のT1Rクローン配列並びに他の全長及び部分T1R配列の核酸及びアミノ酸配列を以下に示す。
配列番号4
アミノ酸配列rT1R3
配列番号5
アミノ酸配列hT1R1
配列番号6
アミノ酸配列hT1R2
配列番号7
アミノ酸配列hT1R3
配列番号8
核酸配列hT1R1
配列番号9
核酸配列hT1R3
配列番号10
核酸配列hT1R2
(配列表7)
配列番号11
核酸配列rT1R3
【0242】
また、魚T1Rsの2つのオーソロガス対のC末端に対応する次の概念的翻訳が未公表ゲノム配列断片から得られ、提供されている。フグT1RAが受入番号「scaffold 164」から得られ、フグT1RBが受入番号LPC61711から得られた。テトラドンT1RAが受入番号AL226735から得られ、テトラドンT1RBが受入番号AL222381から得られた。概念的翻訳(「X」)における不明確性は、データベース配列における不明確性に起因している。
配列番号12
T1RAフグ
配列番号13
T1RAテトラドン
配列番号14
T1RBフグ
配列番号15
T1RBテトラドン
【0243】
さらに、公表ドメインにおけるマウス及びラットT1Rs及び対立遺伝子の変異体に関する受入番号及び参考文献の引用を以下に示す。
rT1R1(受入番号AAD18069)(Hoon et al.、Cell、第96巻、第4号、541〜51頁(1999年))
rT1R2(受入番号AAD18070)(Hoon et al.、Cell、第96巻、第4号、541〜59頁(1999年))
mrT1R1(受入番号AAK39437);mT1R2(受入番号AAK39438);mT1R3(受入番号AAK55537)(Max et al.、Nat.Genet.第28巻、第1号、58〜63頁(2001年);rT1R1(受入番号AAK7092)(Li et al.、Mamm.Genome、第12巻、第1号、13〜16頁(2001年);mT1R1(受入番号NP114073);mTR1(受入番号AAK07091)(Li et al.、Mamm.Genome、第12巻、第1号、13〜16頁(2001年);rT1R2(受入番号AAD18070)(Hoo et al.、Cell、9664、541〜551頁(1999年);mT1R2(受入番号NP114079);mT1R3(受入番号AAK39436);mT1R3(受入番号BAB47181);(Kitagawa et al.、Biochem.Biophys.Res.Comm.第283号、第1号、236〜42頁(2001年));mT1R3(受入番号NP114078);mT1R3(受入番号AAK55536)(Max et al.、Nat.Genet.第28巻、第1号、58〜63頁(2001年);及びmT1R3(受入番号AAK01937)。
【実施例2】
【0244】
ヒト及びラットT1Rsの配列アライメント
上記から選択したクローンT1R配列の対応するラットT1Rsに対するアライメントを行った。図1に示すように、ヒトT1R1、ヒトT1R2及びヒトT1R3並びにラットT1R3の以前に記載したT1Rs(受入番号AAD18069を有するrT1R1及び受入番号AAD18070を有するrT1R2)、ラットmGluR1メタボトロピックグルタミン酸受容体(受入番号P23385)及びヒトカルシウム検出受容体(受入番号P41180)に対するアライメントを行った。比較を明確にするために、mGluR1及びカルシウム検出受容体のC末端を切り離す。7種の可能な膜貫通セグメントを青色の枠で囲む。mGluR1結晶構造中のグルタミン酸塩側鎖カルブチレートに接触する残基は赤色の枠で囲み、グルタミン酸塩αアミノ酸部分に接触する残基は緑色の枠で囲む。サブユニット間ジスルフィドに基づく構成体に含まれているmGluR1及びカルシウム検出受容体システイン残基は、紫色で囲む。これらのシステインは、T1R1及びT1R2には保存されていないが、潜在的に類似のT1R3システイン残基を含むアライメントの分解領域にあり、これも紫色で囲む。
【実施例3】
【0245】
hT1R2及びhT1R3が味覚組織中の発現されることのRT−PCRによる実証
図2に示すように、hT1R2及びhT1R3は味覚組織において発現し、両遺伝子の発現は、切除されたヒト有郭乳頭のRT−PCRにより検出することができる。
【実施例4】
【0246】
異種細胞中のT1Rsの異種発現の方法
Gα15を安定に発現するHEK−293誘導体(Chandradhekar et al.、Cell第100巻、第6号、703〜11頁(2000年))を、10%FBS、MEM非必須アミノ酸(Gibco BRL)及び3μg/mlブラスチシジンを補足したダルベッコ修正イーグル培地(DMEM、Gibco RRL)中で37℃で成長させ、維持した。カルシウム画像化実験のために、細胞を最初に24ウエル組織培養プレートに播種し(約0.1×106細胞/ウエル)、Mirus Translt−293(PanVera)を用いてリポフェクションによりトランスフェクトした。グルタミン酸及びグルコース誘発性脱感作を最小限にするために、トランスフェクションの約24時間後に補足DMEMを低グルコースDMEM/GlutaMAX(Gibco BRL)と交換した。24時間後に細胞にダルベッコのPBS緩衝液(DPBS、Gibco BRL)中3μMのカルシウム色素Fluo−4(Molecular Probes)を室温で1.5時間負荷した。250μlDPBSで置換した後、味覚刺激物質を補足した200μlDPBSを室温で添加して、刺激を行った。カルシウム動員をImaging Workbench 4.0ソフトウエア(Axon)を用いてAxiovert S100TV顕微鏡(Zeiss)でモニターした。T1R1/T1R3及びT1R2/T1R3の応答は、著しく一過性であり、カルシウムの増加が15秒以上持続することはまれであり、非同時性であった。したがって、応答細胞の数の時間的推移は比較的一定であり、したがって、一定の時点、一般的に刺激物質を添加してから30秒後に応答細胞の数を手動で数えて、細胞応答を定量した。
【実施例5】
【0247】
ヒトT1R2/T1R3は甘味受容体として機能する
Gα15を安定に発現するHEK細胞をヒトT1R2、T1R3及びT1R2/T1R3で一時的にトランスフェクトし、ショ糖の濃度の増加に応答しての細胞内カルシウムの増加についての測定を行った(図3a)。また、数種の甘味刺激物質についてT1R2/T1R3の用量応答を測定した(図3b)。応答細胞の最大パーセンテージは、異なる甘味料で10〜30%の範囲の差があった。明確にするために、用量応答を応答細胞の最大パーセンテージに対して正規化した。図3の値は、4回の独立した応答の平均値±s.e.である。味覚試験により決定した精神物理学的味覚検出閾値をX軸に丸印で示す。グルマリン(ろ過済み10g/l Gymnema sylvestre水性抽出物の50倍希釈溶液)は、250mMショ糖に対するT1R2/T1R3の応答を阻害したが、20μMイソプロテレノールに対する内因性β2−アドレナリン受容体の応答は阻害しなかった(図3(b))。図3(c)に種々の甘味料(ショ糖、アスパルテーム、D−トリプトファン及びサッカリン)に対するT1R2/T1R3同時発現細胞系の正規化応答を示す。
【実施例6】
【0248】
ラットT1R2/T1R3も甘味受容体として機能する
Gα15を安定に発現するHEK細胞をhT1R2/hT1R3、rT1R2/rT1R3、hT1R2/rT1R3及びrT1R2/hT1R3で一時的にトランスフェクトした。次いで、これらのトランスフェクトした細胞の、350mMショ糖、25mMトリプトファン、15mMアスパルテーム及び0.05%のモネリンに応答しての細胞内カルシウムの増加についての測定を行った。ショ糖及びアスパルテームに関する結果は、図4に示すが、rT1R2/rT1R3も甘味受容体として機能することを示している。また、これらの結果は、T1R2がT1R2/T1R3リガンド特異性を制御している可能性があることを示唆している。
【実施例7】
【0249】
蛍光に基づく自動アッセイを用いたT1R2/T1R3の応答
Gα15を安定に発現するHEK細胞をhT1R2及びhT1R3で一時的にトランスフェクトした。これらの細胞にカルシウム色素Fluo−4を負荷し、甘味料に対するそれらの応答を蛍光プレートリーダーを用いて測定した。図5にhT1R2/hT1R3を発現した細胞及びhT1R3のみを発現した細胞(J19−22)のシクラメート(12.5mM)応答を示す。得られた蛍光結果は、これらの味覚刺激物質に対する応答がhT1R2/hT1R3を発現した細胞においてのみ起こることを示している。図6に正規化用量応答曲線を示す。その結果は、甘味刺激物質との用量特異的相互作用があることから、hT1R2とhT1R3が一緒にヒト味覚受容体として機能していることを示している。特に、図6にショ糖、トルプトファン及び他の種々の市販甘味料に対する用量応答を示す。これらの結果は、アッセイにおいて得られた順位序列および閾値がヒト甘味味覚の値を密接に反映しているので、T1R2/T1R3がヒト甘味受容体であることを示している。
【実施例8】
【0250】
mGluR1のリガンド結合残基がT1R1に保存されている
図6に示すように、mGluR1の重要なリガンド結合残基がT1R1に保存されている。グルタミン酸塩とmGluR1との相互作用が示され、いくつかの重要な残基が図1と同じ色スキームに従って強調されている。
【実施例9】
【0251】
ヒトT1R1/T1R3はうま味受容体として機能する
Gα15を安定に発現するHEK細胞をヒトT1R1、T1R3及びT1R1/T1R3で一時的にトランスフェクトし、グルタミン酸塩の濃度の増加(図8(a))並びに0.5mMグルタミン酸塩、0.2mM IMP及び0.5mMグルタミン酸塩+0.2mM IMP(図8(b))に応答しての細胞内カルシウムの増加についての測定を行った。ヒトT1R1/T1R3の用量応答を0.2mM IMPの存在下及び非存在下でグルタミン酸塩について測定した(図8(c))。応答細胞の最大パーセンテージは、グルタミン酸塩に対して約5%であり、グルタミン酸塩+IMPに対して約10%であった。明確にするために、用量応答を応答細胞の最大パーセンテージに対して正規化した。値は、4回の独立した応答の平均値±s.e.である。味覚試験により決定した味覚検出閾値をX軸に丸印で示す。
【実施例10】
【0252】
移入(export)配列としてのPDZIP
6つの残基PDZIP配列(SVSTW(配列番号1))をhT1R2のC末端に融合し、次いで、キメラ受容体(すなわち、hT1R2−PDZIP)を免疫蛍光及びFACS走査データを用いてモニターした。図9A及び図9Bに示すように、PDZIP配列を含めることにより、hT1R2−PDZIPの表面発現がhT1R2と比べて増加した。より具体的には、図9Aに、myc標識hT1R2の免疫蛍光染色により、PDZIPが形質膜上のhT1R2の量を有意に増加させたことが実証されたことを示す。図9Bに同じ結果を示しているFACS分析データを示す。myc標識hT1R2を発現した細胞を点線で、myc標識hT1R2−PDZIPを発現した細胞を実線で示す。特に、図10AにHBS緩衝液中の未トランスフェクトGα15安定宿主細胞を示し、図10Bに甘味料no.5プール(HBS緩衝液中で、サッカリン、シクラミン酸ナトリウムアセスルフェームK及びアスパルテーム−各20mM)中のhT1R2−PDZIPトランスフェクトGα15安定宿主細胞を示し、図10Cに甘味料no.5プール中のhT1R3−PDZIPトランスフェクトGα15安定宿主細胞を示し、図10Dに甘味料no.5プール中のhT1R2−PDZIP/hT1R3−PDZIPコトランスフェクトGα15安定宿主細胞を示す。さらに、図10E〜10Hに、ショ糖−E:HBS緩衝液中0mM;F:30mM;G:60mM及びH:250mMに対するhT1R2/hT1R3コトランスフェクトGα15安定宿主細胞の用量依存的応答を示す。図10I〜10Lに、個々の甘味料−I:アスパルテーム(1.5mM);J:アセスルフェームK(1mM);K:ネオテーム(20mM);L:シクラミン酸ナトリウム(20mM)に対するhT1R2/hT1R3コトランスフェクトGα15安定宿主細胞の応答を示す。図10のカルシウム像により示されているように、hT1R2及びhT1R3は両者とも甘味刺激物質による活性の刺激を必要とする。
【実施例11】
【0253】
T1R1/T1R3又はT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞系の発生
それぞれhT1R1又はhT1R2発現構成体(T1R1の場合はプラスミドSAV2485、T1R2の場合はプラスミドSAV2486)及びhT1R3(T1R3の場合はプラスミドSXV550)をそれぞれ含む線状化PEAK10由来(Edge Biosystems)ベクター及びpCDNA3.1/ZEO由来(Invitrogen)ベクターをGα15発現細胞系にトランスフェクトすることにより、ヒトT1R1/T1R3又はヒトT1R2/T1R3を安定に同時発現する細胞系を発生させた。特に、線状化SAV2486及びSXV550を、Gα15を安定に発現するAurora BioscienceのHEK−293細胞系に同時トランスフェクトすることにより、T1R2/T1R3安定細胞系を発生させた。線状化SAV2485及びSXV550を、Gα15を安定に発現する同じHEK−293細胞系に同時トランスフェクトすることにより、T1R1/T1R3安定細胞系を発生させた。SAV22485/SXV550及びSAV2486/SXV550トランスフェクションの後に、プロマイシン耐性及びゼオシン耐性コロニーを選択し、拡大し、カルシウム画像化法により、甘味又はうま味刺激物質に対する応答を試験した。細胞を、GlutaMAX、10%透析済みFBS及び0.003mg/mlブラスチシジンを補足した低グルコースDMEM中37℃で0.0005mg/mlプロマイシン(CALBIOCHEM)及び0.1mg/mlゼオシン(Invitrogen)で選択した。耐性コロニーを拡大し、甘味刺激物質に対するそれらの応答を蛍光顕微鏡により評価した。VIPR−II機器(Aurora Biosciences)を用いた自動蛍光分析画像化法のために、T1R2/T1R3安定細胞を最初に96ウエルプレート(約100,000細胞/ウエル)に播種した。24時間後に、細胞にPBS中0.005mMのカルシウム色素fluo−3−AM(Molecular Probes)を室温で1時間負荷した。70μlPBSで置換した後、味覚刺激物質を添加した70μlPBSを室温で添加して、刺激を行った。化合物の添加の20〜30秒後の蛍光(480nm励起、535nm発光)応答を平均し、化合物添加前に測定したバックグラウンド蛍光で補正し、0.001mMイオノマイシン(CALBIOCHEM)(カルシウムイオノフォア)に対する応答に対して正規化した。
【0254】
これらの細胞系を甘味又はうま味刺激物質に曝露させたとき、活性クローンについては、一般的に80〜100%の細胞が味覚刺激物質に対して応答したことが認められた。意外にも、個々の細胞の応答の大きさは一時的にトランスフェクトした細胞のそれよりも著しく大きかった。
【0255】
この所見に基づいて、本願発明者らは、上記のようなAurora BiosciencesのVIPR−II機器を用いた自動蛍光分析画像化法によりT1R安定細胞系の活性を試験した。2つのT1R1/T1R3及び1つのT1R2/T1R3細胞系の応答をそれぞれ図11及び12に示す。
【0256】
注目すべきことに、応答細胞数の増加と応答の大きさの増加とがあいまって、一時的にトランスフェクトした細胞と比較して10倍以上の活性の増加がもたらされた。(比較すると、T1R2/T1R3により一時的にトランスフェクトした細胞のイオノマイシン応答の割合は、最適条件化で約5%であった。)さらに、安定に発現したヒトT1R2/T1R3及びT1R1/T1R3について得られた用量応答は、ヒト味覚検出閾値と相関していた。これらの安定細胞系が頑強なT1R活性を有していることから、それらが、甘味又はうま味受容体を調節し、したがって、甘味又はうま味を調節、増強、阻害又は模擬する化合物、例えば、小分子を特定するための、化学ライブラリーの高処理能力スクリーニングにおける使用に十分に適していることが示唆される。
【実施例12】
【0257】
うま味刺激物質に選択的に応答するT1R1/T1R3を誘導により同時発現する細胞系の発生
うま味受容体を安定に発現したT1R1/T1R3 HEK293細胞系は、一時的にトランスフェクトした細胞と比較して、活性の頑強な向上を示す。しかし、短所は、細胞増殖中に急速に活性を失うことがあり得ることである。
【0258】
また、これらの所見は、(i)T1R1/TR1R3がうま味受容体であり、(ii)T1R1/TR1R3を頑強に発現する細胞系、好ましくは、安定及び/又は誘導性T1R1/TR1R3細胞系をうま味の新規の調節物質を特定するために、アッセイ、好ましくは、化学ライブラリーの高処理能力スクリーニングに用いることができるという発明者らの仮説を支持している。うま味を強化する調節物質を用いてもよい。
【0259】
T1R1/TR1R3安定細胞系の不安定性を克服するために、HEK−Gα15細胞をGeneSwitchシステム(Invitrogen)を用いて誘導によりT1R1/TR1R3を発現するように工学的に処理した。ヒトT1R1及びT1R3のpGene由来ゼオシン耐性発現ベクター(T1R1についてはプラスミドSXV603、T1R3についてはプラスミドSXV611)並びにGeneSwitchタンパク質を運ぶプロマイシン耐性pSwitch由来ベクター(プラスミドSXV628)を線状化し、HEK−Gα15細胞系にコトイランスフェクトした。ゼオシン耐性及びプロマイシン耐性コロニーを選択し、拡大し、可変の量のミフェプリストンで誘導し、うま味刺激物質に対する応答についてカルシウム画像化法を用いて試験した。
【0260】
T1R1/T1R3の誘導性発現は、頑強な活性をもたらした。例えば、誘導細胞の約80%がL−グルタミン酸に応答したが、一時的にトランスフェクトした細胞は10%応答した。より具体的には、ヒトT1R1及びヒトT1R3を発現するpGene由来ゼオシン耐性発現ベクター並びにGeneSwitchタンパク質を運ぶプロマイシン耐性pSwitch由来ベクターを線状化し、Gα15細胞系にコトイランスフェクトした。細胞を、GlutaMAX、10%透析済みFBS及び3μg/mlブラスチシジンを補足したダルベッコ修正イーグル培地中37℃で0.5μg/mlプロマイシン(CALBIOCHEM)及び100μg/mlゼオシン(Invitrogen)で選択した。耐性コロニーを拡大し、10-10Mミフェプリストンによる誘導の後にうま味刺激に対するそれらの応答をLi et al.、PNAS、第99巻、7号、4692〜4696頁(2002)に従って蛍光顕微鏡により測定した。
【0261】
FLIPR機器(Molecular Device)を用いた自動蛍光分析画像化法のために、1クローン(クローン1−17と称した)からの細胞を10-10Mミフェプリストンの存在下で96ウエルプレート(約800,000細胞/ウエル)に播種し、48時間インキュベートした。次いで、細胞にPBS中3μMのカルシウム色素fluo−4−AM(Molecular Probes)を室温で1.5時間負荷した。
【0262】
50μlPBSで置換した後、種々の味覚刺激物質を補足した50μlPBSを室温で添加して、刺激を行った。応答細胞を個別に数えることによりT1R1/T1R3受容体活性を定量することが必要であった(Li et al.、PNAS第99、7号、4692〜4696頁(2002年))(受容体の活性が低いため)以前の一時的T1R1/T1R3うま味受容体発現システムと対照的に、対象の誘導発現システムはクローン1−17に実質的に高い活性をもたらしたため、画像化細胞の視野にわたり最大蛍光増加(480nm励起、535nm発光)を合計して測定することにより受容体活性を定量することが可能であった。4回の独立した測定における最大蛍光を平均し、化合物添加前に測定したバックグラウンド蛍光で補正し、0.002mMイオノマイシン(CALBIOCHEM)に対する応答に対して正規化した。
【0263】
これらの結果を図13に示す。特に、図13に0.2mM IMPの存在下及び非存在下でL−グルタミン酸塩について測定した用量応答曲線を示す。図において、各値は、4回の独立した測定を合わせた最大蛍光の平均値(バックグラウンド蛍光で補正)である。これらの用量応答曲線は、T1R1/T1R3で一時的にトランスフェクトした細胞について測定したものに対応している。
【0264】
種々のL−アミノ酸を用いてスクリーニングすることにより、うま味T1R1/T1R3味覚受容体の選択性も評価した。得られた結果は、T1R1/T1R3がうま味L−アミノ酸(L−グルタミン酸及びL−アスパラギン酸)により選択的に活性化されることを示している。
【0265】
種々のL−アミノ酸の存在下で試験した1−17クローンの応答の実験結果を図14及び図15に示す。図14に1−17細胞系を1mM IMPの存在下で10mMの濃度の種々のL−アミノ酸と接触させた実験の結果を示す。
【0266】
図15に0.2mM IMPの存在下で測定した活性アミノ酸の用量応答曲線を示す。各値は、4回の独立した測定の平均値である。
【0267】
これらの実験で得られた結果は、うま味刺激物質に対するうま味受容体の特異性及び選択性を裏づけている。うま味刺激物質L−グルタミン酸塩及びL−アスパラギン酸塩は種々の濃度でT1R1/T1R3受容体を有意に活性化した(図14及び15)が、ヒトT1R1/T1R3受容体を活性化した他のL−アミノ酸は受容体をわずかに、しかもより高い濃度で活性化したにすぎなかった。
【0268】
したがって、これらの結果は、うま味刺激物質に対するT1R1/T1R3受容体の選択性と、うま味受容体を活性化する化合物、例えば、L−グルタミン酸塩又はL−アスパラギン酸塩、あるいは、うま味受容体を活性化するL−グルタミン酸塩の活性を増強する化合物、例えば、5’−IMP又は5’−GMP、あるいは、L−グルタミン酸塩及びL−アスパラギン酸塩のようなうま味刺激物質によるうま味受容体の活性化を阻害する化合物を特定するための自動蛍光画像化機器を用いる高処理能力アッセイ用としてのこの誘導性安定発現システムの適合性を裏づけている。
【0269】
これらのアッセイを用いて特定された化合物は、うま味刺激物質を模擬又は阻害するための食物及び飲料組成物中の調味料としての適用の可能性を有する。
【実施例13】
【0270】
ラクティソールはヒトT1R2/T1R3及びT1R1/T1R3の受容体活性並びに甘味及びうま味味覚を阻害する
アルキルカルボン酸であるラクティソールは選択的な甘味阻害物質であると考えられていた(例えば、Lindley(1986年)米国特許第4,567,053号及びSchiffman et al.、Chem Senses第24巻、439〜447頁(1999年)を参照)。T1R2/T1R3をトランスフェクトしたHEK−Gα15細胞の種々の濃度のラクティソールの存在下での150mMショ糖に対する応答を測定した。ラクティソールは、ヒトT1R2/T1R3の活性を阻害し、IC50は24μMである。
【0271】
T1R1/T1R3うま味及びT1R2/T1R3甘味受容体は、共通のサブユニットを共有している。したがって、T1R2/T1R3甘味受容体を阻害するラクティソールがT1R1/T1R3うま味受容体に対して同様な効果を有する可能性があるという仮説が立てられた。本願発明者らは、10mM L−グルタミン酸に対するヒトT1R1/T1R3の応答に対するラクティソールの影響を試験した。T1R2/T1R3甘味受容体の場合と同様に、ラクティソールは、T1R1/T1R3の活性を阻害し、IC50は165μMであった。ムスカリン様アセチルコリン受容体はラクティソールによって阻害されないため、ラクティソール阻害は、例えば、Gα15媒介性シグナル伝達の非特異的阻害ではなく、T1R受容体における拮抗作用を反映している。
【0272】
本願発明者らは次に、ヒトうま味に対するラクティソールの効果を評価した。1及び2mMラクティソールの存在下での味覚閾値を、Schiffmanら(Chem.Senses、第24巻、439〜447頁(1898年))の方法に従って、0.2mM IMPの存在下又は非存在下でのうま味刺激物質L−グルタミン酸塩、甘味刺激物質ショ糖及びD−トリプトファン並びに塩味刺激物質塩化ナトリウムについて測定した。ミリモル濃度のラクティソールは、甘味及びうま味刺激物質については検出閾値を劇的に増加させたが、塩味刺激物質については増加させなかった。これらの結果を図16に示す。
【0273】
結論すると、(i)これらの所見はT1R1/T1R3が唯一のうま味受容体であるという発明者らの仮説をさらに支持しており、(ii)T1R1/T1R3及びT1R2/T1R3受容体は構造的に関連するラクティソールドメインを共有している可能性がある。
【0274】
前記の詳細な説明には本発明のいくつかの実施形態が記載されているが、上記の記述は例示であるにすぎず、開示された発明を限定するものではないことを理解すべきである。本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、少なくとも1種のT1R3ポリペプチドを含む組換え又は単離されたT1R2/T1R3受容体であって、
(1)それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して、少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R3アミノ酸配列の何れかに対して、少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含み、うま味刺激物質に特異的に結合及び/又は活性化される受容体;或いは、
(2)該T1R2ポリペプチド及び該T1R3ポリペプチドの何れか一方又は両方がキメラであり、該T1R2ポリペプチド及び該T1R3ポリペプチドは、キメラでない場合には、上記(1)で定義されるT1R2ポリペプチド又はT1R3ポリペプチドであり、
キメラT1R2ポリペプチドは、上記(1)で定義されるT1R2ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義されるか、上記(1)で定義されるT1R2ポリペプチドの膜貫通ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義され、
キメラT1R3ポリペプチドは、上記(1)で定義されるT1R3ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義されるか、上記(1)で定義されるT1R3ポリペプチドの膜貫通ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義され、うま味刺激物質に特異的に結合及び/又は活性化される受容体。
【請求項2】
それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して、少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされる、ヒト、マウス、及びラットT1R3アミノ酸配列の何れかに対して少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含む請求項1に記載の受容体。
【請求項3】
それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされる、ヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R3配列の何れかに対して、少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含む請求項1に記載の受容体。
【請求項4】
それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされる、ヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して少なくとも95%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R3配列の何れかに対して、少なくとも95%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含む請求項1に記載の受容体。
【請求項5】
配列番号6によって表されるか又は配列番号10によってコードされるヒトT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチド、及び配列番号7によって表されるか又は配列番号9によってコードされるヒトT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドの両方又は一方を含む請求項1に記載の受容体。
【請求項6】
前記T1R2ポリペプチド及び前記T1R3ポリペプチドが同じ動物種に由来する請求項1記載の受容体。
【請求項7】
前記T1R2ポリペプチド及び前記T1R3ポリペプチドが異なる動物種に由来する請求項1記載の受容体。
【請求項8】
前記キメラT1R2ポリペプチド又は前記キメラT1R3ポリペプチドを含む、請求項1に記載の受容体。
【請求項9】
前記キメラT1R2ポリペプチド及び前記キメラT1R3ポリペプチドを含む、請求項1に記載の受容体。
【請求項10】
前記T1R2ポリペプチドが、配列番号6によって表されるか又は配列番号10によってコードされるヒトT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項11】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAD18070によって表されるラットT1R2アミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項12】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAK39438又は受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるマウスT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項13】
前記T1R3ポリペプチドが、受入番号AAK55537、受入番号BAB47181、受入番号NP114078又は受入番号AAK01937によって表されるか又はコードされるマウスT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項14】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号7によって表されるか又は配列番号9によってコードされるヒトT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項15】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号4によって表されるか又は配列番号11によってコードされるラットT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項16】
前記T1R2ポリペプチドが、配列番号6によって表されるか又は配列番号10によってコードされるヒトT1R1アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項17】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAD18070によって表されるラットT1R2アミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項18】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAK39438又は受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるマウスT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項19】
前記T1R3ポリペプチドが、受入番号AAK55537、受入番号BAB47181、受入番号NP114078又は受入番号AAK01937によって表されるか又はコードされるマウスT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項20】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号7によって表されるか又は配列番号9によってコードされるヒトT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項21】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号4によって表されるか又は配列番号11によってコードされるラットT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項22】
請求項1から21の何れか一項に記載の受容体を含む組成物。
【請求項23】
請求項1から20の何れか一項に記載の受容体を発現する細胞。
【請求項24】
HEK−293、COS細胞、CHO細胞及びにアフリカツメガエル卵母細胞からなる群から選択される請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
固相に結合している請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体。
【請求項26】
溶液中の請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体。
【請求項27】
脂質二重層又は小胞中の請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体。
【請求項28】
請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体に結合、及び/又は該受容体を活性化、阻害、増強及び/又は調節する化合物を特定することにより、味覚を調節する化合物を特定する方法。
【請求項29】
前記受容体が固相に結合している請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記受容体が溶液中にある請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記受容体が脂質二重層又は小胞中にある請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記化合物を特定するために受容体結合アッセイを用いる請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物を特定するために受容体活性に基づくアッセイを用いる請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記受容体を細胞で発現させる請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞がHEK−293、COS又はCHO細胞である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記化合物を受容体の細胞内取込みに対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記化合物を受容体のリン酸化に対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記化合物をアレスチン転移に対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項39】
二次メッセンジャーのアッセイを用いる請求項34に記載の方法。
【請求項40】
前記二次メッセンジャーがcAMP又はIP3である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
電位感受性又はカルシウム感受性色素を用いる請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞が少なくとも1種のGタンパク質を発現する請求項34に記載の方法。
【請求項43】
前記Gタンパク質が乱交雑Gタンパク質である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記乱交雑Gタンパク質がGα15又はGα16である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記受容体をウイルスベクターを用いて発現させる請求項34に記載の方法。
【請求項46】
前記ウイルスベクターを哺乳類細胞で発現させる請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記受容体を膜結合形として分離する請求項28に記載の方法。
【請求項48】
前記化合物を前記受容体によるGタンパク質活性化に対するその効果により特定する請求項42に記載の方法。
【請求項49】
前記化合物を受容体のコンホメーションに対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項50】
前記コンホメーション変化をタンパク質分解に対する感受性の変化により検出する請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記コンホメーション変化をNMR分光法により検出する請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記コンホメーション変化を蛍光分光法により検出する請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記化合物を前記受容体に対する放射標識又は蛍光標識リガンドの結合に対するその効果により特定する請求項28に記載の方法。
【請求項54】
前記標識化合物の置換を蛍光偏向又はFRETアッセイにより測定する請求項53に記載の方法。
【請求項55】
高処理能力スクリーニングアッセイである請求項28に記載の方法。
【請求項56】
受容体活性をリポーター遺伝子に関連づける請求項28に記載の方法。
【請求項57】
前記リポーター遺伝子がルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ又はβ−ラクタマーゼである請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記受容体を、表面発現を促進するペプチドに融合させる請求項34に記載の方法。
【請求項59】
前記ペプチドがPDZドメイン相互作用性ペプチドである請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記受容体に対する前記化合物の効果を前記受容体のX線結晶構造に基づいて予測する請求項28に記載の方法。
【請求項61】
前記化合物を、前記受容体を発現するヒト以外の動物に対するその効果により特定する請求項28に記載の方法。
【請求項62】
前記化合物を行動に対するその効果により特定する請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記化合物を味覚受容体細胞に対するその効果により特定する請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記ヒト以外の動物がマウス、又はラットである請求項61〜63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記化合物を、前記受容体を発現する酵母細胞に対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項66】
前記化合物を化合物のコンビナトリアルライブラリーから特定する請求項28に記載の方法。
【請求項67】
前記化合物をペプチドライブラリーから特定する請求項28に記載の方法。
【請求項68】
前記化合物を小分子のランダム化ライブラリーから特定する請求項28に記載の方法。
【請求項69】
請求項28に記載の方法により特定された化合物を用いて動物における味覚を変化させる方法。
【請求項70】
前記味覚がうま味である請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記動物がヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ又はブタである請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記化合物を食物、飲料又は経口薬剤組成物中に配合する請求項69に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、少なくとも1種のT1R3ポリペプチドを含む組換え又は単離されたT1R2/T1R3受容体であって、
(1)それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して、少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R3アミノ酸配列の何れかに対して、少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含み、うま味刺激物質に特異的に結合及び/又は活性化される受容体;或いは、
(2)該T1R2ポリペプチド及び該T1R3ポリペプチドの何れか一方又は両方がキメラであり、該T1R2ポリペプチド及び該T1R3ポリペプチドは、キメラでない場合には、上記(1)で定義されるT1R2ポリペプチド又はT1R3ポリペプチドであり、
キメラT1R2ポリペプチドは、上記(1)で定義されるT1R2ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義されるか、上記(1)で定義されるT1R2ポリペプチドの膜貫通ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義され、
キメラT1R3ポリペプチドは、上記(1)で定義されるT1R3ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義されるか、上記(1)で定義されるT1R3ポリペプチドの膜貫通ドメインを含み、残りが他のGPCRペプチドのドメインである、機能性GPCRペプチドとして定義され、うま味刺激物質に特異的に結合及び/又は活性化される受容体。
【請求項2】
それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して、少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされる、ヒト、マウス、及びラットT1R3アミノ酸配列の何れかに対して少なくとも80%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含む請求項1に記載の受容体。
【請求項3】
それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされる、ヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R3配列の何れかに対して、少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含む請求項1に記載の受容体。
【請求項4】
それぞれ配列番号6、配列番号10、受入番号AAD18070、受入番号AAK39438、受入番号AAD18070、及び受入番号NP114079によって表されるか又はコードされる、ヒト、マウス、及びラットT1R2アミノ酸配列の何れかに対して少なくとも95%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチドと、
それぞれ配列番号4、配列番号7、受入番号AAK55537、受入番号AAK39436、受入番号BAB47181、受入番号NP114078、受入番号AAK55536、受入番号AAK01937、配列番号9及び配列番号11によって表されるか又はコードされるヒト、マウス、及びラットT1R3配列の何れかに対して、少なくとも95%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドとを含む請求項1に記載の受容体。
【請求項5】
配列番号6によって表されるか又は配列番号10によってコードされるヒトT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R2ポリペプチド、及び配列番号7によって表されるか又は配列番号9によってコードされるヒトT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する少なくとも1種のT1R3ポリペプチドの両方又は一方を含む請求項1に記載の受容体。
【請求項6】
前記T1R2ポリペプチド及び前記T1R3ポリペプチドが同じ動物種に由来する請求項1記載の受容体。
【請求項7】
前記T1R2ポリペプチド及び前記T1R3ポリペプチドが異なる動物種に由来する請求項1記載の受容体。
【請求項8】
前記キメラT1R2ポリペプチド又は前記キメラT1R3ポリペプチドを含む、請求項1に記載の受容体。
【請求項9】
前記キメラT1R2ポリペプチド及び前記キメラT1R3ポリペプチドを含む、請求項1に記載の受容体。
【請求項10】
前記T1R2ポリペプチドが、配列番号6によって表されるか又は配列番号10によってコードされるヒトT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項11】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAD18070によって表されるラットT1R2アミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項12】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAK39438又は受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるマウスT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項13】
前記T1R3ポリペプチドが、受入番号AAK55537、受入番号BAB47181、受入番号NP114078又は受入番号AAK01937によって表されるか又はコードされるマウスT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項14】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号7によって表されるか又は配列番号9によってコードされるヒトT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項15】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号4によって表されるか又は配列番号11によってコードされるラットT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも90%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項16】
前記T1R2ポリペプチドが、配列番号6によって表されるか又は配列番号10によってコードされるヒトT1R1アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項17】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAD18070によって表されるラットT1R2アミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項18】
前記T1R2ポリペプチドが、受入番号AAK39438又は受入番号NP114079によって表されるか又はコードされるマウスT1R2アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項19】
前記T1R3ポリペプチドが、受入番号AAK55537、受入番号BAB47181、受入番号NP114078又は受入番号AAK01937によって表されるか又はコードされるマウスT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項20】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号7によって表されるか又は配列番号9によってコードされるヒトT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項21】
前記T1R3ポリペプチドが、配列番号4によって表されるか又は配列番号11によってコードされるラットT1R3アミノ酸配列に対して、少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の受容体。
【請求項22】
請求項1から21の何れか一項に記載の受容体を含む組成物。
【請求項23】
請求項1から20の何れか一項に記載の受容体を発現する細胞。
【請求項24】
HEK−293、COS細胞、CHO細胞及びにアフリカツメガエル卵母細胞からなる群から選択される請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
固相に結合している請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体。
【請求項26】
溶液中の請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体。
【請求項27】
脂質二重層又は小胞中の請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体。
【請求項28】
請求項1〜21の何れか一項に記載の受容体に結合、及び/又は該受容体を活性化、阻害、増強及び/又は調節する化合物を特定することにより、味覚を調節する化合物を特定する方法。
【請求項29】
前記受容体が固相に結合している請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記受容体が溶液中にある請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記受容体が脂質二重層又は小胞中にある請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記化合物を特定するために受容体結合アッセイを用いる請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物を特定するために受容体活性に基づくアッセイを用いる請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記受容体を細胞で発現させる請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞がHEK−293、COS又はCHO細胞である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記化合物を受容体の細胞内取込みに対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記化合物を受容体のリン酸化に対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記化合物をアレスチン転移に対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項39】
二次メッセンジャーのアッセイを用いる請求項34に記載の方法。
【請求項40】
前記二次メッセンジャーがcAMP又はIP3である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
電位感受性又はカルシウム感受性色素を用いる請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞が少なくとも1種のGタンパク質を発現する請求項34に記載の方法。
【請求項43】
前記Gタンパク質が乱交雑Gタンパク質である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記乱交雑Gタンパク質がGα15又はGα16である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記受容体をウイルスベクターを用いて発現させる請求項34に記載の方法。
【請求項46】
前記ウイルスベクターを哺乳類細胞で発現させる請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記受容体を膜結合形として分離する請求項28に記載の方法。
【請求項48】
前記化合物を前記受容体によるGタンパク質活性化に対するその効果により特定する請求項42に記載の方法。
【請求項49】
前記化合物を受容体のコンホメーションに対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項50】
前記コンホメーション変化をタンパク質分解に対する感受性の変化により検出する請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記コンホメーション変化をNMR分光法により検出する請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記コンホメーション変化を蛍光分光法により検出する請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記化合物を前記受容体に対する放射標識又は蛍光標識リガンドの結合に対するその効果により特定する請求項28に記載の方法。
【請求項54】
前記標識化合物の置換を蛍光偏向又はFRETアッセイにより測定する請求項53に記載の方法。
【請求項55】
高処理能力スクリーニングアッセイである請求項28に記載の方法。
【請求項56】
受容体活性をリポーター遺伝子に関連づける請求項28に記載の方法。
【請求項57】
前記リポーター遺伝子がルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ又はβ−ラクタマーゼである請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記受容体を、表面発現を促進するペプチドに融合させる請求項34に記載の方法。
【請求項59】
前記ペプチドがPDZドメイン相互作用性ペプチドである請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記受容体に対する前記化合物の効果を前記受容体のX線結晶構造に基づいて予測する請求項28に記載の方法。
【請求項61】
前記化合物を、前記受容体を発現するヒト以外の動物に対するその効果により特定する請求項28に記載の方法。
【請求項62】
前記化合物を行動に対するその効果により特定する請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記化合物を味覚受容体細胞に対するその効果により特定する請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記ヒト以外の動物がマウス、又はラットである請求項61〜63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記化合物を、前記受容体を発現する酵母細胞に対するその効果により特定する請求項34に記載の方法。
【請求項66】
前記化合物を化合物のコンビナトリアルライブラリーから特定する請求項28に記載の方法。
【請求項67】
前記化合物をペプチドライブラリーから特定する請求項28に記載の方法。
【請求項68】
前記化合物を小分子のランダム化ライブラリーから特定する請求項28に記載の方法。
【請求項69】
請求項28に記載の方法により特定された化合物を用いて動物における味覚を変化させる方法。
【請求項70】
前記味覚がうま味である請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記動物がヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ又はブタである請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記化合物を食物、飲料又は経口薬剤組成物中に配合する請求項69に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−189391(P2010−189391A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44433(P2010−44433)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【分割の表示】特願2003−508132(P2003−508132)の分割
【原出願日】平成14年6月26日(2002.6.26)
【出願人】(500524187)セノミックス インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【分割の表示】特願2003−508132(P2003−508132)の分割
【原出願日】平成14年6月26日(2002.6.26)
【出願人】(500524187)セノミックス インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
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