説明

TGF−β型受容体cDNAおよびその用途

【課題】ネズミ若しくはヒト由来と同等のTGF−βIII型受容体を提供する。TGF−βは細胞増殖や生長、細胞接着および細胞表現型に及ぼすなど作用を有する。
【解決手段】特定のヌクレオチド配列を有するTGF−βIII型受容体をコードするDNA若しくはその配列の一部分、それらによりコードされたTGF−βIII型受容体ポリペプチド、TGF−βIII型受容体を特異的に認識する抗体が提供される。また、これらを用いて形質転換された細胞系を利用したTGF−βの結合を妨害する化合物のスクリーニングアッセイ系も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類由来のTGF−βIII型受容体をコードするDNAおよび哺乳類由来のTGF−βII型受容体をコードするDNAの単離、配列決定、およびキャラクタライゼーションに関する。本発明はさらに、上記コードされたTGF−βIII型およびII型受容体、ならびにそれぞれの可溶性型、上記受容体をコードする遺伝子と受容体そのものの用途、TGF−βIII型受容体特異的抗体およびTGF−βII型受容体特異性抗体に関する。とりわけ、本発明は、ラットおよびヒト由来のTGF−βIII型受容体をコードするDNAおよびヒト由来のTGF−βII型受容体をコードするDNA、ならびにそれぞれの類似体に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
トランスフォーミング成長因子−ベータ(TGF−β)は、多くの異なる細胞型において増殖、分化、形態形成をはじめとする様々な応答を誘導する構造的に近縁のサイトカイン類のファミリーに属する物質である[例えば、非特許文献1および非特許文献2参照]。脊椎動物では、TGF−β1ないしTGF−β5と呼ばれる少なくとも5種類の型のTGF−βが同定されており、これらはいずれも高度(60%〜80%)のアミノ酸配列相同性を共有している。TGF−β1は当初、正常ラット腎臓細胞の足場非依存性増殖を誘導する能力を有することが特徴であるとされたが、ほとんどの細胞型に及ぼすその作用は抗分裂促進的である[例えば、非特許文献3および非特許文献4参照] 。TGF−β1は、正常なものと形質転換されたものの両者の上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、神経細胞、リンパ系細胞、および造血細胞をはじめとする多くの型の細胞に対して強力な増殖阻害性を示す。また、TGF−βは、細胞外マトリックスおよび細胞とマトリックスの接着プロセスの形成の調節において中心的な役目を果たす。
【0003】
TGF−βは細胞の表現型と生理に対して広範な作用を及ぼすにもかかわらず、TGF−βファミリーに属する物質にこれらの様々な応答を引き起こさせる生化学的機構についてはほとんど知られていない。放射標識TGF−β1とともに細胞をインキュベートし、結合TGF−β1を細胞表面分子に架橋させ、標識化複合体をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析することによって、I型、II型、およびIII型と呼ばれる3つの異なる高親和性細胞表面TGF−β結合性タンパク質が同定されている[例えば、非特許文献5および非特許文献6参照]。結合定数は、I型およびII型受容体では約5〜50pM、III型受容体では30〜300pMである[例えば、非特許文献7参照]。
【0004】
それぞれ53キロダルトンと70〜100キロダルトンの推定分子量を有するI型およびII型受容体は、多くの受容体と同じく、N−グリコシル化された貫膜タンパク質である。これらの受容体はそれぞれ、リガンドのTGF−βファミリーのそれぞれのものに対して異なる親和性を有する[例えば、非特許文献7参照]。一方、III型受容体はすべてのTGF−βイソタイプに対して同等の親和性を示す。III型受容体は、多くの細胞系において最も豊富な、TGF−βのための細胞表面受容体であり(細胞1個あたり200,000個以上)、膜内在性プロテオグリカンである。III型受容体はグリコサミノグリカン(GAG)グループによって高度に修飾されており、ゲル電気泳動を行なうと280ないし330キロダルトンのタンパク質として不均一に泳動される。ヘパリチナーゼとコンドロイチナーゼ(Chondrontinase) で脱グリコシル化すると、該タンパク質コアは100〜110キロダルトンのタンパク質として泳動される。GAG合成を欠損する細胞変異体中で産生される非グリコシル化型該受容体は、天然型受容体のそれらと同等の親和性をもってリガンド結合する能力を有するので、TGF−β結合部位はこのタンパク質コア内に存在する[例えば、非特許文献8参照]。III型受容体の一つの変異型が、膜アンカーを明らかに欠いている可溶性分子として、いくつかの型の細胞によって分泌される。この可溶性分子は血清中および細胞外マトリックス中に少量見られる。
【0005】
III型受容体はベータグリカンとも呼ばれ、I型およびII型受容体のものとは異なる生物学的機能を有する。TGF−β応答性の欠損を対象として選択した変異体ミンク肺上皮細胞(Mv1Lu)のなかには、もはやI型受容体を発現しないものがあり、同様に選択したものでも、I型とII型の両受容体の発現を欠損しているものもある。しかし、これらの変異体はいずれもIII型受容体を発現し続ける[例えば、非特許文献7および非特許文献9参照]。これは、I型およびII型受容体はシグナル導入性分子であり、一方、III型受容体は、真性の(bona fide) シグナル導入性受容体に提示される前のリガンド濃縮におけるものなど何か他の機能を担っているかもしれないとする説を導いた。一方、III型受容体の分泌型は生物活性TGF−βの貯蔵系またはクリアランス系として作用するのかもしれない。
【0006】
これらのTGF−β受容体型のそれぞれについてのこれ以上の情報があれば、それらの役目についての理解が深まり、所望すればそれらの機能を変化させることができるようになる。
【0007】
【非特許文献1】Roberts, A.B. and M.B. Sporn, Peptide Growth Factors and Their Receptors, Springer-Verlag, Heidelberg, pp. 421-472 (1990)
【非特許文献2】Massague, J., Annu. Rev. Cell. Biol. 6:597-641 (1990)
【非特許文献3】Altschul, S.F. et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)
【非特許文献4】Andres, J.L. et al., J. Cell. Biol. 109:3137-3145 (1989)
【非特許文献5】Massague, J. and B. Like, J. Biol. Chem. 260:2636-2645 (1985)
【非特許文献6】Cheifetz, S. et al., J. Biol. Chem. 261:9972-9978 (1986)
【非特許文献7】Boyd, F.T. and J. Massague, J. Biol. Chem. 264:2272-2278 (1989)
【非特許文献8】Cheifetz, S. and J. Massague, J. Biol. Chem. 264:12025-12028 (1989)
【非特許文献9】Laiho, M. et al., J. Biol. Chem. 265:18518-18524 (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の1つは、たとえば公知のハイブリダイゼーションに基づく方法やポリメラーゼ連鎖反応を用いて、その他の起源由来の同等のTGF−β受容体III型およびII型遺伝子を同定するための、TGF−β受容体をコードするDNAを提供することにある。また、細胞増殖や生長、細胞接着および細胞表現型に及ぼす作用などのTGF−βの作用を変えるための(たとえばTGF−βに対する細胞の受容性を変えたり、受容体へのTGF−βの結合を阻害することによって)III型受容体遺伝子、II型受容体遺伝子またはそれらのそれぞれのコード化物を提供することにある。たとえば、TGF−β作用を変えようとする者に投与することができる、TGF−β受容体III型遺伝子、TGF−β受容体II型遺伝子、または受容体全体をコードしてはいない切断遺伝子(たとえば可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体またはTGF−βIII型またはII型結合部位)を提供することにある。あるいは、TGF−βの作用を変えるために、人に投与することができる、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、それらの可溶性型(すなわち膜アンカーを欠損する型)またはTGF−βIII型またはII型受容体の活性結合部位を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
[1] 図1のヌクレオチド配列若しくはTGF−βIII型受容体をコードするのに充分な図1のヌクレオチド配列の一部分、又はTGF−βIII型受容体をコードするのに充分な図1のヌクレオチド配列のすべて若しくは一部分とハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する脊椎動物由来のTGF−βIII型受容体をコードする単離されたDNA;
[2] 哺乳類由来である[1]の単離されたDNA;
[3] ネズミ若しくはヒト由来である[2]の単離されたDNA;
[4] 図2のヌクレオチド配列若しくはTGF−βII型受容体をコードするのに充分な図2のヌクレオチド配列の一部分、又はTGF−βII型受容体をコードするのに充分な図2のヌクレオチド配列のすべて若しくは一部分とハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する脊椎動物由来のTGF−βII型受容体をコードする単離されたDNA;
[5] ネズミ若しくはヒト由来である[4]の単離されたDNA;
[6] 図1のアミノ酸配列若しくはTGF−βと結合するアミノ酸配列を有する単離されたTGF−βIII型受容体;
[7] 図3のアミノ酸配列若しくはTGF−βと結合するアミノ酸配列を有する単離されたTGF−βII型受容体;
[8] 図1、図3及びTGF−βと結合するアミノ酸配列からなる群より選ばれたアミノ酸配列を有する、組み換えで生産された哺乳類のTGF−βIII受容体若しくはTGF−βII型受容体;
[9] アミノ酸配列が図1のアミノ酸1から785までを含み、若しくは可溶性TGF−βIII型受容体をコードするアミノ酸配列であり、TGF−βに結合する可溶性TGF−βIII型受容体;
[10] アミノ酸配列が図3のアミノ酸1から166までを含み、若しくは可溶性TGF−βII型受容体をコードするアミノ酸配列であり、TGF−βに結合する可溶性TGF−βII型受容体;
[11] 哺乳類のTGF−βIII型受容体、哺乳類の可溶性TGF−βIII型受容体、又は哺乳類の可溶性TGF−βII型受容体を特異的に認識する抗体;
[12] それがモノクローナル抗体である[11]の抗体;
[13] 可溶性TGF−β受容体とTGF−βとの結合に適した条件下で、可溶性TGF−βII型若しくはIII型受容体を細胞と結合させることからなる、これによりTGF−βを発現する細胞表面におけるTGF−βのTGF−β受容体への結合が減少する、TGF−βを発現する細胞表面上に存在するTGF−βII型若しくはIII型受容体へのTGF−βの結合を阻害する方法;
[14] TGF−βの結合が阻害される[13]の方法;
[15] TGF−βIII型受容体の発現及び、適切な発現系においてTGF−βIII型受容体をコードするDNAから発現されたTGF−βIII型受容体とのTGF−βの結合に適した条件下で、TGF−βIII型受容体を発現するのに適した発現系において、細胞をTGF−βIII型受容体をコードするDNAと結合することからなる、TGF−βを発現する細胞表面上に存在するTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合を阻害する方法;
[16] TGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合性、TGF−βII型受容体へのTGF−βの結合性、若しくはその両方を改変するのに充分な量において、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体、TGF−βIII型受容体に結合したTGF−β若しくはそれらの組み合わせからなる群から選ばれたTGF−β受容体を哺乳類に投与することからなる、哺乳類においてTGF−βの効果を制御する方法;
[17] 治療に用いられる、 [6]〜[10]いずれか記載のTGF−β受容体;
[18] 治療に用いられる、[11]又は[12]のいずれか記載の抗体;
[19] 細胞表面上のTGF−βII型若しくはIII型受容体へのTGF−βの結合性を改変(例えば、阻害)する薬剤を製造するための、[6]〜[10]いずれか記載のTGF−β受容体の使用;
[20] 哺乳類においてTGF−βの影響を制御する際に用いられる薬剤の製造のための、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体、TGF−βIII型受容体に結合したTGF−β若しくはそれらの組み合わせからなる群から選ばれたTGF−β受容体の使用;
[21] a)
1)TGF−βIII型受容体を発現する哺乳類の細胞、
2)標識化TGF−β、及び
3)評価される化合物、
を結合し、
b)TGF−βがTGF−βIII型受容体に結合するのに充分な条件下で(a)の生産物を維持し、
c)評価される化合物の存在下でTGF−βのTGF−βIII型受容体への結合性の程度を測定し、並びに
d)(c)でなされた測定と評価される化合物の非存在下で起きたTGF−βのTGF−βIII型受容体への結合性の程度を比較する、
工程からなる、ここで、もしTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合性が、評価される化合物の非存在下においてより評価される化合物の存在下においての方が小さいなら、評価される化合物はTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合を妨害することになる、TGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合を妨害する化合物の能力の評価方法;
[22] TGF−βIII型受容体を発現する細胞が一つの細胞系である[21]の方法;
[23] TGF−βIII型受容体を発現する細胞がTGF−βIII型受容体を発現するように改変された細胞である[22]の方法;
[24] TGF−βIII型受容体を発現するように改変された細胞が、適切なベクター中のTGF−β受容体cDNAがそれらに組み込まれた若しくはTGF−β受容体RNAを顕微注入された細胞である[23]の方法;
[25] a)
1)TGF−βII型受容体を発現する哺乳類の細胞、
2)標識化TGF−β、及び
3)評価される化合物、
を結合し、
b)TGF−βがTGF−βII型受容体に結合するのに充分な条件下で(a)の生産物を維持し、
c)評価される化合物の存在下でのTGF−βのTGF−βII型受容体への結合性の程度を測定し、並びに
d)(c)でなされた測定と評価される化合物の非存在下で起きたTGF−βのTGF−βII型受容体への結合性の程度を比較する、
工程からなる、ここで、もしTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合性が評価される化合物の非存在下においてより、評価される化合物の存在下においての方が小さいなら、評価される化合物はTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合を妨害すると評価される、TGF−βII型受容体へのTGF−βの結合を妨害する化合物の能力の評価方法;
[26] TGF−βII型受容体を発現する細胞が一つの細胞系である[25]の方法;
[27] TGF−βII型受容体を発現する細胞がTGF−βII型受容体を発現するように改変された細胞である[26]の方法;
[28] TGF−βII型受容体を発現するように改変された細胞が、適切なベクター中のTGF−β受容体cDNAがそれらに組み込まれた若しくはTGF−β受容体RNAを顕微注入された細胞である[27]の方法;ならびに
[29] a)結合性が評価される個体から得られたサンプル中の細胞によるTGF−βのTGF−βIII型受容体若しくはTGF−βII型受容体への結合の程度を測定し、それによりテスト結合値を取得し、及び
b)(a)の結果と、対照結合値となる、TGF−βのTGF−βIII型受容体若しくはTGF−βII型受容体への異常な結合が既に知られた細胞である対照細胞の細胞表面において起こる結合の程度とを比較する、
ことからなる、ここで、対照結合値と同程度のテスト結合値はTGF−βのTGF−βIII型受容体若しくはTGF−βII型受容体への異常な結合を示す、細胞表面上のTGF−βIII型受容体又はTGF−βII型受容体に対するTGF−βの異常結合の検出方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のTGF−β受容体をコードするDNAは、たとえば公知のハイブリダイゼーションに基づく方法やポリメラーゼ連鎖反応を用いて、その他の起源由来の同等のTGF−β受容体III型およびII型遺伝子を同定するために使うことができる。III型受容体遺伝子、II型受容体遺伝子またはそれらのそれぞれのコード化物は、細胞増殖や生長、細胞接着および細胞表現型に及ぼす作用などのTGF−βの作用を変えるために使うことができる(たとえばTGF−βに対する細胞の受容性を変えたり、受容体へのTGF−βの結合を阻害することにより)。たとえば、TGF−β受容体III型遺伝子、TGF−β受容体II型遺伝子、または受容体全体をコードしてはいない切断遺伝子(たとえば可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体またはTGF−βIII型またはII型結合部位)は、TGF−β作用を変えようとする者に投与することができる。あるいは、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、それらの可溶性型(すなわち膜アンカーを欠損する型)またはTGF−βIII型またはII型受容体の活性結合部位は、TGF−βの作用を変えるために、人に投与することができる。
【0011】
TGF−βは体内で多くの役目があるので、本明細書で説明するTGF−β受容体が入手可能であれば、イン・ビボおよびイン・ビトロの方法を利用してさらにTGF−β機能を評価すること、およびその作用を変える(強化または抑制する)ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の要旨
本発明は、哺乳類由来のTGF−βIII型受容体をコードするDNAおよび哺乳類由来のTGF−βII型受容体をコードするDNAの単離、配列決定、およびキャラクタライゼーションに関する。本発明はさらに、上記コードされたTGF−βIII型およびII型受容体、ならびにそれぞれの可溶性型、上記受容体をコードする遺伝子と受容体そのものの用途、TGF−βIII型受容体特異的抗体およびTGF−βII型受容体特異性抗体に関する。とりわけ、本発明は、ラットおよびヒト由来のTGF−βIII型受容体をコードするDNAおよびヒト由来のTGF−βII型受容体をコードするDNA、ならびにそれぞれの類似体に関する。
【0013】
本発明のTGF−β受容体をコードするDNAは、たとえば公知のハイブリダイゼーションに基づく方法やポリメラーゼ連鎖反応を用いて、その他の起源由来の同等のTGF−β受容体III型およびII型遺伝子を同定するために使うことができる。III型受容体遺伝子、II型受容体遺伝子またはそれらのそれぞれのコード化物は、細胞増殖や生長、細胞接着および細胞表現型に及ぼす作用などのTGF−βの作用を変えるために使うことができる(たとえばTGF−βに対する細胞の受容性を変えたり、受容体へのTGF−βの結合を阻害することにより)。たとえば、TGF−β受容体III型遺伝子、TGF−β受容体II型遺伝子、または受容体全体をコードしてはいない切断遺伝子(たとえば可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体またはTGF−βIII型またはII型結合部位)は、TGF−β作用を変えようとする者に投与することができる。あるいは、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、それらの可溶性型(すなわち膜アンカーを欠損する型)またはTGF−βIII型またはII型受容体の活性結合部位は、TGF−βの作用を変えるために、人に投与することができる。
【0014】
TGF−βは体内で多くの役目があるので、本明細書で説明するTGF−β受容体が入手可能であれば、イン・ビボおよびイン・ビトロの方法を利用してさらにTGF−β機能を評価すること、およびその作用を変える(強化または抑制する)ことができる。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、TGF−βIII型受容体をコードする脊椎動物とくに哺乳類由来のDNAおよびTGF−βII型受容体をコードする哺乳類由来DNAの単離および配列決定、上記コード化物の発現、および上記発現物のキャラクタライゼーションに基づくものである。上述のように、TGF−β受容体III型をコードする全長cDNAがラット血管平滑筋細胞系から構築したcDNAライブラリーから単離されており、TGF−βII型受容体をコードする全長cDNAがヒトcDNAライブラリーから単離されている。III型遺伝子のヒトの類似体もクローン化されている。プラスミドpBSK中のヒトTGF−βIII型cDNAの寄託がブダペスト条約の規定に従い寄託番号75127でAmerican Type Culture Collection(10/21/91)でなされている。上記寄託物の入手可能性に関するすべての制限は、本願に基づく米国特許が認められると同時に最終的に消失するものとする。
【0016】
TGF−βIII型受容体の単離とキャラクタライゼーション
本明細書に説明するとおり、TGF−βIII型受容体cDNAの単離のために2つの異なる手法を用いた。一つのアプローチでは、III型受容体タンパク質に対するモノクローナル抗体を作成して受容体の精製に使い、次いで受容体をミクロシークエンシングに付した(実施例1参照)。精製受容体の部分タンパク質分解で生じた数個のペプチドのミクロシークエンシングで4つのオリゴペプチド配列が得られ、これらを用いて縮重オリゴヌクレオチドを構築した。縮重オリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用するクローン化法においてプライマーとして使用するか、cDNAライブラリーのスクリーニングにおいてプローブとして使用した。この方式は生産的でないことが判明したが、オリゴヌクレオチド配列は第2の方式によって単離した受容体クローンの同一性を確認する際に有用であった。
【0017】
TGF−β受容体をコードするクローンの単離のための第2のアプローチでは、COS細胞において発現クローン化方式を用いた。すなわち、受容体陽性細胞の直接可視化を用いて受容体cDNAを単離した(実施例2参照)。このアプローチでは、3つのTGF−β受容体(I型、II型、およびIII型)すべてを発現するラット血管平滑筋細胞系A−10細胞からcDNAライブラリーを構築した。サイトメガロウイルス(CMV)転写プロモーターとSV40複製起点を保持するベクター中の、該ライブラリーcDNA成分を移入(transfect)したCOS細胞をスクリーニングして、正常レベルよりかなり高いレベルのTGF−β受容体を発現する細胞を同定した。上記高レベルのTGF−β結合性タンパク質を発現する1つの移入体(transfectant)を同定し、その由来先である発現構築物のオリジナルプールをサブプールに分割し、2ラウンド目のスクリーニングに付した。さらに2ラウンドの姉妹選抜を行ったところ、2.9kbの挿入断片を有する1個のcDNAクローン(R3−OF)が単離されたが、このものは導入先の細胞の約10%において高レベルのTGF−β結合性タンパク質を誘導した。200倍過剰量の非標識競合体TGF−β1の添加が移入細胞(transfected cells)に対する125I−TGF−βの結合を強力に低下させるということを示すことによって、TGF−β結合の特異性を確認した。
【0018】
R3−OFのcDNAは817個のアミノ酸残基より成るオープンリーディングフレームをコードしたが、終止コドンは含んでいなかった。R3−OFをプローブとして使用して、ラット208Fライブラリーから全長cDNAを単離した。得られたクローンR3−OFFは長さが6kbあり、クローンR3−OFと共直線的な853個のアミノ酸から成るタンパク質をコードする。R3−OFFのヌクレオチド配列を翻訳アミノ酸配列とともに図1に示す。
【0019】
実施例3に述べたようにして、R3−OFFによってコードされる受容体のキャラクタライゼーションを行った。その結果、モック移入COS細胞(moc−transfected COS cells)の表面上に3つの異なるTGF−β結合性タンパク質が見られたが、これは他者が報告している結果と一致する[マッサーグら(Massague, J. et al. ), Ann. NY Acad. Sci. 593:59-72 (1990)]。これらには、比較的分子量の小さいI型とII型の2つの受容体(65kDと85kD)および280〜330kdの拡散バンドとして泳動される比較的分子量の大きいIII型プロテオグリカンが含まれていた。該プロテオグリカンの酵素的除去により、約100kdのコアタンパク質が得られた。200倍過剰量の非標識TGF−β1によって競合されたという点で、3つの受容体型いずれに対する結合も特異的である。
【0020】
単離cDNAを移入したところ、III型受容体の発現が2倍増加した。クローンR3−OFFを移入したCOS細胞から得た細胞溶解物を脱グリコシル化酵素で処理したところ、不均一な280〜330kdのバンドは親のA10細胞中に見られるIII型タンパク質コアとともに泳動されるタンパク質コアに変換された。重要なことに、該組換えタンパク質コアは内生COS細胞III型タンパク質コアと異なって泳動された。
【0021】
III型cDNAを発現する安定移入細胞を使って、これらの観察結果を確認、拡張した。L6ラット骨格筋筋芽細胞は検出可能なIII型mRNAや内生表面III型受容体を発現しない[マッサーグら(Massague et al.), 1986;セガリニら(Segarini et al.), 1989]。これらの細胞に、ベクターpcDNA−neoにおける単離cDNAを移入した。CMVプロモーターに対して前後両方向でこのクローンを安定的に発現する細胞クローンを単離し、リガンド結合測定法によって分析した。
【0022】
全長クローンR3−OFFまたは部分クローンR3−OFのいずれかを前方に導入したところ、III型受容体が発現した。逆方向にcDNAクローンを移入したL6細胞はこのタンパク質を発現しなかった。重要なことに、R3−OFクローンで形質転換した細胞におけるIII型受容体のタンパク質コアの見かけサイズは、R3−OFFで形質転換した細胞のものより小さいのであるが、これは核酸配列から予想されるタンパク質コアサイズの違いと一致する。
【0023】
驚くべきことに、II型受容体への放射標識リガンドの結合はIII型cDNAを発現する細胞中で2.5倍増大した。I型受容体への結合は変化しなかった。II型受容体へのリガンド結合のこの見かけ上特異的なアップレギュレーションは、これまで分析した15個の安定移入L6細胞系のいずれにおいても明白であった。さらに、この効果は、全長クローンによって同等に仲介されているように思われる。すなわち、TGF−βIII型受容体の細胞質ドメインを欠いている切断クローン(R3−OF)が発現された。
【0024】
III型受容体mRNAの発現は、ノーザンブロット分析法とRNAブロット分析法によって判定した。ノーザンゲル分析によって、III型受容体mRNAが数種類のラット組織において単一の6kbのmRNA分子として発現されることが示された。数種類の異なる組織培養細胞系のRNAドットブロット分析も行った。マウス由来の細胞(MELおよびYH16)は、ブタ、ラット、およびヒト由来のものより小さい(約5.5kb)III型mRNA分子を発現するようである。これらの細胞のいずれにおいても、網膜芽細胞腫細胞系(Y79、Weri−1、Weri−24、およびWeri−27)が顕著な例外として認められる以外は、III型mRNAの発現または欠損は、検出可能な細胞表面III型受容体の発現または欠損と一致している。これらの細胞は検出可能なIII型受容体表面発現を欠いており、既報を確認するものである[キムチら(Kimchi, A. et al.), Science 240:196-198 (1988)]。容易に検出できるレベルでIII型受容体タンパク質を本当に発現するその他の細胞のレベルと同等のレベルでこれらの細胞中でIII型受容体mRNAが発現されることは興味深い。正常網膜芽細胞(AD12)においてかなりあるTGF−β受容体III型発現は、おそらく転写後機構によってこれらの網膜芽細胞腫細胞中でダウンレギュレーションされているようである。
【0025】
ヌクレオチド配列全長リーディングフレームを全長cDNAクローンR3−OFFのフランキング配列とともに決定したものを図1に示す。該リーディングフレームは853個のアミノ酸残基から成るタンパク質をコードするが、これは完全脱グリコシル化TGF−β1III型受容体で見られる100kDのサイズと一致する。該受容体がTGF−βIII型であることは、単離されたIII型受容体のミクロシークエンシングによって決定したペプチド配列を含む推定転写産物の断片を探索することによって確認された(実施例1参照)。図1に示したように、誘導タンパク質の2つの断片(下線およびイタリック、残基378−388および427−434)は精製III型受容体の直接生化学的分析によって決定された2つのペプチド(IとIII)のアミノ酸配列と厳密に一致する。
【0026】
さらに分析を行ったところ、TGF−βIII型結合性タンパク質はサイトカイン受容体としては珍しい構造を有することが示された。ヒドロパシー分析で、該タンパク質はN末端シグナル配列とそれに続く長い親水性N末端領域を含むことが示される。強い疎水性を示すC末端側27残基領域(図1の下線部分、残基786−812)は単一の推定貫膜ドメインにあたる。このことは、N末端細胞外ドメインである受容体のほぼ全体がそのC末端付近の細胞膜に固定されていることを示唆している。41残基から成る比較的小さなC末端テイルは細胞質ドメインにあたる。
【0027】
関連配列の分析は、TGF−βIII型タンパク質の機能の手掛かりをほとんど提供しない。今までに記載されたその他の遺伝子のうちの1つだけ、すなわち内皮細胞によって大量に発現されるエンドグリンと呼ばれる糖タンパク質だけが関連アミノ酸配列を含んでいる。III型受容体とエンドグリンの配列の間の最も相同な領域(74%)は主に推定貫膜ドメインと細胞質ドメインに存在する。III型受容体の全体構造同様に、エンドグリンは、おそらく細胞外にある大型の親水性N末端ドメインとそれに続く推定貫膜ドメインと47個のアミノ酸残基から成る短い細胞質テイルを含む糖タンパク質である。エンドグリンは、エクトドメイン上の「RGD」配列とその他の接着分子の相互作用によって細胞どうしの認識に関与しているかもしれないことが示唆されているが、エンドグリンの生物学的役目はいまのところ不明である。TGF−βIII型受容体と異なり、エンドグリンはGAGグループを保持しない。
【0028】
TGF−βII型受容体の単離
COS細胞中での発現クローン化を用い、II型TGF−β受容体をコードするcDNAも単離した。高ストリンジェンシー(high stringency)でのハイブリダイゼーションによりヒトHepG2細胞cDNAライブラリーから全長cDNA(クローン3FFと命名)を単離した(実施例6参照)。分析により、対応するmRNA分子は異なる細胞系や組織において発現される5kbのmRNA分子であることが示された。配列分析で、該cDNAは572個のアミノ酸残基より成るコアタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを有することが示された。全長II型TGF−β受容体cDNAクローン3FFのヌクレオチド配列を図2に示し、アミノ酸配列を図3に示す。
【0029】
該572個のアミノ酸残基より成るタンパク質は、単一の推定貫膜ドメインと数個のコンセンサスグリコシル化部位と1つの推定細胞内セリン/スレオニンキナーゼドメインを有する。コードされたタンパク質コアの予想サイズは約60kdであるが、これはI型TGF−β受容体としては大きすぎる。そのかわり、ヨウ素標識TGF−βと一時的にクローン3FFを移入したCOS細胞を用いた架橋実験で、II型TGF−β受容体のサイズに対応する約70〜80kdのタンパク質の過剰発現が示される。したがって、クローン3FFはTGF−βと特異的に結合するタンパク質をコードし、70〜80kdの発現タンパク質サイズを有するが、いずれもII型TGF−β受容体の特徴である。
【0030】
クローン化TGF−β受容体と関連産物の用途
本明細書で説明する研究の結果、3つの高親和性細胞表面TGF−β受容体のうちの2つをコードするDNAがはじめて単離され、その配列と発現パターンが決定され、コードされたタンパク質のキャラクタライゼーションが行なわれた。通常は該受容体を発現しない細胞においてTGF−βIII型受容体を発現させ、次いでリガンド結合測定を行ったところ、クローン化されたIII型受容体をコードするDNA(すなわち全長クローンR3−OFFまたは部分クローンR3−OF)が該受容体をコードすることが確認された。また、本明細書で説明する研究から、III型DNAを発現する細胞においてはII型受容体へのTGF−βの結合が2.5倍増大するという驚くべき知見が得られた。
【0031】
説明する研究の結果、TGF−βIII型受容体の役目およびそれとTGF−βII型受容体の相互作用に関する新たな洞察が得られた。たとえば、TGF−βIII型受容体の役目は不明であるが、近接のシグナル導入受容体へ最終的に移動させるTGF−βを引きつけ濃縮するという最も一般的でない機能を果たすとされている。ほとんどのサイトカインは単一の細胞表面受容体に結合するが、TGF−βファミリーのメンバーはそれより大きいか小さい親和性をもって3つの異なる細胞表面タンパク質に結合する。このことは、なぜこれら3種の受容体がほとんどの細胞型によって発現されるのか、およびそれらが異なる機能を果たすかどうかという疑問を呼び起こしている。これまでに得られた証拠は、III型受容体はI型およびII型の機能と全く異なる機能を果たすかもしれないことを示唆している。したがって、III型はGAGによってかなり修飾されているが、I型とII型はほとんどの成長因子受容体の特徴であるN結合(そしておそらくO結合)側鎖を主に保持すると思われる。また、TGF−β誘導増殖阻害に抵抗する能力を対象として選抜した変異細胞は、III型受容体を発現し続けながらI型またはII型受容体の欠損を示す。これらのデータを総合的にみて、I型およびII型受容体は真性の(bona fide)シグナル導入受容体にあたり、ここで説明するIII型受容体は細胞中で別の異なる役目を果たすと提唱する者もいる。
【0032】
III型受容体が、近隣のシグナル導入受容体(signal−transducing receptors)へ最終的に移動させるTGF−βを引きつけ濃縮するという最も一般的でない機能を果たしているという可能性は依然としてある。このような機能はタンパク性受容体としてはこれまで報告されていないが、硫酸ヘパリンは、FGFとその受容体との会合に先立ち、この成長因子と結合することで塩基性FGFを活性化することが示されている[ヤヨンら(Yayon, A. et al. ), Cell 64:841-848 (1991) ]。さらに付け加えるとすれば、III型受容体は大量の硫酸ヘパリン側鎖も含有しているので、塩基性FGFをその受容体に結合させ提示するかもしれない。
【0033】
III型受容体の役目と一致する証拠が、本明細書で説明するL6ラット筋芽細胞の研究から得られる。上記のように、III型受容体を過剰発現するL6細胞においては、II型受容体への放射標識TGF−βの結合が、親細胞で見られるものと比べて数倍増大している。これらの疑問に答えるためにはTGF−βIII型の機能とII型およびI型受容体との相互作用をさらに評価する必要があるが、これは本明細書で説明する材料と方法を使って実施することができる。
【0034】
同定しようとする受容体をコードするDNAの全体または一部をプローブとして用い、本明細書で説明する方法を用いれば、III型とII型のいずれの型のTGF−β受容体も他の種において同定することができる。たとえば、TGF−βIII型受容体をコードするDNA配列(図1に示す)の全体または一部、またはTGF−βII型受容体をコードするDNA配列(図2に示す)の全体または一部は、他の動物における同等の配列を同定するために使うことができる。他の種における同等の配列を同定するために、必要に応じて使用するストリンジェンシー(stringency)の条件を変更することができる。推定TGF−β受容体III型またはII型をコードする配列がひとたび同定されれば、全長クローンR3−OFFのcDNA挿入断片および部分クローンR3−OFのcDNA挿入断片がIII型受容体をコードすることを確認するために、該配列がそれぞれの受容体型をコードするかどうか、本明細書で説明するものなど公知の方法を用いて決定することができる。たとえば、このやり方で単離したDNAは、本明細書で説明するようにして、受容体mRNAや表面受容体を発現しない適当な宿主細胞(たとえばL6ラット骨格筋筋芽細胞)中で発現させ、リガンド結合(TGF−β結合)測定法によって分析することができる。
【0035】
本明細書に説明する研究の結果、クローン化TGF−βIII型またはクローン化TGF−βII型受容体に対して特異的な抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)も公知の方法を用いて製造することができる。該抗体および該抗体を産生する宿主細胞(たとえばハイブリドーマ細胞)も本発明の対象である。クローン化TGF−β受容体に対して特異的な抗体は、TGF−β受容体をコードすると考えられる単離DNAを発現する宿主細胞を同定するために使用することができる。また、抗体は、TGF−β活性をブロックするか阻害するために使用することができる。たとえば、クローン化TGF−βIII型受容体に対して特異的な抗体は、受容体へのTGF−βの結合をブロックするために使うことができる。それらは、一部の線維症(たとえば皮膚、腎臓、肺の)における場合のようにTGF−β結合の低下が望まれる者に投与するすることができる。
【0036】
本発明の方法は、線維症などTGF−βIII型受容体および/またはTGF−βII型受容体へのTGF−βの異常結合を伴う疾患の診断に使うことができる。細胞表面におけるTGF−βIII型受容体またはTGF−βII型受容体へのTGF−βの異常結合を測定して測定結合値を得ることができ、これを適当な対照結合値と比較する。対照結合値は、受容体へのTGF−βの異常結合を有することが知られている対照細胞、または正常細胞(たとえばTGF−β受容体へのTGF−β結合が生理的な範囲内にあることを示す証拠)である対照細胞を用いて得ることができる。対照値は、適当な受容体(すなわちTGF−βIII型受容体またはTGF−βII型受容体)へのTGF−βの結合程度を求めることによって得ることができ、このような値は測定結合値を求めるときに得てもよいし、あらかじめ求めておくこともできる(すなわちあらかじめ求めた基準値)。異常細胞から得られた対照結合値に近い測定結合値は、TGF−βIII型受容体またはTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合が異常であることを示している。正常細胞から得られた対照結合値に近い測定結合値は、TGF−βIII型受容体またはTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合が正常であることを示している。
【0037】
TGF−βIII型受容体をコードするDNAとRNAおよびTGF−βII型受容体をコードするDNAとRNAが現在入手可能である。本明細書中で使用する場合、それぞれのTGF−β受容体をコードするDNAまたはRNAという用語は、発現されるとTGF−β受容体の機能的特徴を有するTGF−β受容体の産生をもたらすあらゆるオリゴデオキシヌクレオチドまたはオリゴデオキシリボヌクレオチド配列を包含する。すなわち、本発明は、適当な宿主細胞中で発現されると、天然細胞表面上におけるTGF−βIII型受容体のそれと同様のTGF−β親和性を有する(たとえばすべてのTGF−βイソタイプに対して同等の親和性を示す)TGF−βIII型受容体を産生するDNAおよびRNAを包含する。同様に、本発明は、適当な宿主細胞中で発現されると、天然細胞表面上におけるTGF−βII型受容体のそれと同様のTGF−β親和性を有する(たとえば天然TGF−βII型受容体のそれと同様のTGF−βファミリーリガンドのそれぞれのメンバーに対して異なる親和性を示す)TGF−βII型受容体を産生するDNAおよびRNAを包含する。該DNAまたはRNAは適当な宿主細胞中で製造することができ、または合成的に(たとえばPCRなどの増幅技術により)あるいは化学的に製造することができる。
【0038】
本発明はまた、全長R3−OFFのヌクレオチド配列によってコードされる単離TGF−βIII型受容体、部分クローンR3−OFのヌクレオチド配列によってコードされる単離TGF−βIII型受容体、全長クローン3FFのヌクレオチド配列によってコードされる単離TGF−βII型受容体、および実質的に同じ親和性をもってTGF−βイソタイプと結合するTGF−βIII型およびII型受容体を包含する。該単離TGF−βIII型およびII型受容体は、本明細書で説明するようにして組替え技術によって製造することができ、それらが天然にまたは化学合成的に存在するソースから単離することもできる。本明細書中で使用する場合、クローン化TGF−βIII型およびクローン化TGF−βII型受容体という用語は、本明細書で説明したようにして同定されたそれぞれの受容体、およびそれぞれの受容体と実質的に同じTGF−βイソタイプ親和性を示すTGF−βIII型およびII型受容体(たとえばその他の種由来のもの)を包含する。
【0039】
すでに述べたように、クローン化TGF−βIII型受容体が発現される細胞は、III型受容体が天然に存在する細胞と実質的に同じようにしてTGF−βと結合する。TGF−βと受容体の両者の部位特異的突然変異誘発に基づき、リガンドとクローン化TGF−βIII型受容体の相互作用をさらに分析して結合に重要な残基を同定することができる。たとえば、図1の配列を有するDNAは、修飾クローン化TGF−βIII型受容体をコードする修飾DNA配列を製造する目的で、少なくとも1個のヌクレオチドを付加、欠失、または置換させることによって、変化させることができる。修飾受容体の機能的特徴(たとえばTGF−β結合能力や結合と結合によって通常生じる影響との関係)は、本明細書で説明する方法を用いて判定することができる。クローン化TGF−βIII型受容体の修飾は、たとえば、膜結合性でなく、天然受容体と実質的に同じ親和性をもってTGF−βイソタイプと結合する能力を保持する、本明細書中で可溶性TGF−β受容体と呼ぶ型のTGF−βIII型受容体を製造するために実施することができる。このようなTGF−βIII型受容体は、公知の遺伝子工学技術または合成技術を用いて製造することができる。それは、天然TGF−βIII型受容体中に存在する貫膜領域を全く含むことができないか、その領域の一部分(すなわち可溶性を阻害しない程度に十分に小さい)だけしか含むことができない。たとえば、それは図1のアミノ酸1ないし785から成るTGF−βIII型配列またはTGF−β結合能力を保持するのに十分な該配列の一部(たとえばアミノ酸24〜785、このものは最初の23個のアミノ酸中に存在するシグナルペプチド切断部位を含まない)を含み得る。可溶性TGF−βII型受容体(たとえば貫膜ドメインと細胞質ドメインを含まないもの)も製造することができる。たとえば、それは、図3を含むアミノ酸1ないし166、またはTGF−βII型受容体のそれと実質的に同じTGF−β結合能力を保持するのに十分なその一部を含むことができる。
【0040】
TGF−βIII型受容体および/またはII型受容体は治療目的に使うことができる。上記のように、TGF−βファミリーのタンパク質は、細胞増殖の調節、細胞分化の調節、および細胞代謝の制御をはじめとする様々な細胞活性に関与している。TGF−βは細胞機能に不可欠であるかもしれず、ほとんどの細胞はTGF−βを合成し、TGF−β細胞表面受容体を有する。細胞型と環境によってTGF−βの作用は異なり、増殖が刺激されたり阻害されたりし、分化が誘導されたり中断されたりし、細胞機能が刺激されたり抑制されたりする。TGF−βは胚段階から成熟後の段階まで存在するので、生涯を通じてこれらの重要なプロセスに影響を及ぼしうる。特定のTGF−β(たとえばTGF−β1)は種間および細胞間で顕著な類似性がある。たとえば、特定のTGF−βのアミノ酸配列およびソースにかかわらずそれをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は種間で実質的に同じである。このことは、TGF−βが必須プロセスにおいて重要な役目を果たしていることをさらに示唆している。
【0041】
具体的には、TGF−βは抗炎症および免疫抑制能力を有していて、骨形成において重要な役目を果たし(骨芽細胞活性を増大させることによる)、培養中の癌細胞増殖を阻害し、前立腺の腺細胞の増殖を抑えることが示されている。その結果、ある種の免疫系応答を変化させるうえで(およびおそらくは免疫関与疾患を緩和するうえで)、全身性骨疾患(たとえば骨粗鬆症)および骨成長を強化させたい状態(たとえば骨折部の修復)を治療するうえで、および癌細胞の増殖と転移を抑えるうえで、可能と思われる治療用途がある。また、TGF−βは、ある種の細胞型が分裂を起こすか起こさないかを決定する際、ひとつの役目を果たしているようである。この点で、TGF−βは組織修復において重要な役目を果たしているのかもしれない。一部の疾患や状態は、TGF−βの産生の低下や慢性的な産生過剰を伴っているようである。(たとえば、動物実験の成績で、TGF−βの過剰産生と肺、腎臓、肝臓またはウイルス関与免疫発現における線維症を特徴とする疾患の間に相関があることが示唆されている。)
【0042】
明らかに、TGF−βは身体プロセスおよび関連する創傷治癒、癌、免疫療法、骨療法における多くの可能と思われる臨床的すなわち治療的用途において重要な役目を有している。TGF−β受容体遺伝子、コード物、およびそれらをイン・ビトロおよびイン・ビボで用いる方法が利用可能となれば、体内のTGF−βの活性と作用をさらに制御または調節することができる。たとえば、本発明のII型またはIII型受容体遺伝子によってコードされるTGF−βII型またはIII型受容体は、TGF−βの作用を変えるために(たとえば、体内のTGF−βの作用を強化したり、その作用を(完全にまたは部分的に)阻害または低下させるために)適宜使うことができる。TGF−βが可溶性TGF−βIII型受容体などのTGF−βIII型受容体に結合している者に投与することも可能である。本発明は、TGF−β作用剤とTGF−β拮抗剤の両方を提供する。これらの目的のためには、TGF−βII型またはIII型受容体全体をコードするDNA遺伝子、コードされたII型またはIII型受容体、またはどちらか一方の受容体の可溶性型を使うことができる。あるいは、これらの配列に基づいて設計されたかそれらに対して特異的な抗体またはその他のリガンドをこの目的に使うことができる。
【0043】
TGF−βIII型およびII型受容体のアミノ酸配列がわかれば、それらの構造の理解を深めるとともに、受容体のTGF−βとの結合を阻害する化合物を設計することができる。それは、既存化合物の同定およびIII型および/またはII型受容体拮抗剤である新規化合物の設計を可能にする。
【0044】
本発明のIII型および/またはII型受容体を発現する細胞は、受容体へのTGF結合を阻害(完全にまたは部分的にブロックする)能力を対象として化合物をスクリーニングするために使うことができる。たとえば、TGF−βIII型受容体を発現しないが(たとえばL6ラット骨格筋筋芽細胞)適当なベクターに保持させたIII型cDNAを挿入することによってそうなるように修飾させた細胞は、この目的に使うことができる。たとえば、判定しようとする化合物を標識化TGF−βとともにIII型発現細胞を含む組織培養シャーレに加える。対照として、同濃度の標識化TGF−βを同種細胞を含む組織培養シャーレに加える。受容体へのTGF−βの結合が起きるのに十分な時間が経過した後、公知の方法(たとえばガンマカウンターによる)を用いて細胞への標識化TGF−βの結合を判定し、判定しようとする化合物の存在下と非存在下でのその発生程度を測定する。2つの値を比較すると、試験化合物が受容体へのTGF−β結合をブロックしたかどうかがわかる(すなわち、化合物の非存在下での場合より存在下の場合の方が結合が少ないということは、試験化合物がTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合をブロックしたことの証拠である)。
【0045】
あるいは、TGF−β受容体を発現する細胞系または顕微注入されたTGF−β受容体RNAを発現する細胞は、受容体へのTGF−β結合をブロックする能力について、化合物を判定するために使うことができる。本態様においては、判定しようとする化合物をTGF−βとともに顕微注入されたTGF−β受容体RNA発現細胞系の細胞を含む組織培養シャーレに加える。対照として、TGF−βのみを顕微注入されたエンドセリン受容体RNAを発現する同種の細胞に加える。受容体へのTGF−βの結合が起きるのに十分な時間が経過した後、判定しようとする化合物の存在下と非存在下での結合程度を測定する。2つの値を比較すると、該化合物が受容体へのTGF−β結合をブロックしたかどうかがわかる。TGF−βIII型およびII型受容体は、TGF−β様物質を同定したり、TGF−βを精製したり、それぞれの受容体への結合の原因となっているTGF−β領域を同定したりするために使うことができる。たとえばIII型受容体は、TGF−βの場合と同様に受容体と結合する物質を同定するために親和性に基づく方法において使うことができる。
【0046】
以下の実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【実施例】
【0047】
実施例1〜5で使用した材料および方法を以下に説明する。
【0048】
材料
以下は本明細書で説明する研究で使用した材料の説明である。
組替えヒトTGF−β1は、ジェネンテック社(Genentech)のリック・デリンク(Rik Derynck)から提供された。COS−M6細胞は、マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のブライアン・シード(Brian Seed)およびブリストル−マイヤーズ−スクイブ社(Bristol-Myers-Squibb)のアレジャンドロ・アルーフォ(Alejandro Aruffo)から提供された。ヘパリチナーゼは、MITのテツヒト・コジマ(Tetsuhito Kojima)およびロバート・ローゼンバーグ(Robert Rosenberg)から提供された。LLC−PK1 細胞は、マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のデニス・アウシエロ(Dennis Ausiello)の贈与物であった。YH−16細胞は、マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のエドワード・イー(Edward Yeh)の贈与物であった。3−4細胞は、ホワイトヘッド生化学研究所(Whitehead Institute for Biomedical Research)のユージン・カジ(Eugene Kaji)の贈与物であった。注記ある場合を除き、その他の細胞系はいずれもATCCより購入し、販売者の指定どおりに培養した。
【0049】
発現クローニング
cDNAライブラリーの構築とプラスミドプールの作成
プロテイナーゼ−K/SDS法によりA10細胞から10μgのポリアデニル化mRNAを調製した[ゴンダら(Gonda et al.), Molec. Cell. Biol. 2:617-624 (1982)]。二重ら旋cDNAを合成し、既報[シードとアルーフォ(Seed, B. and A. Aruffo), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3365-3369 (1987) ]に従い非パリンドロームBstX1アダプターに結合させた。アダプターを結合させた(acaptored)cDNAを5ないし20%酢酸カリウム勾配上でサイズ分画し、1kbより大きい挿入断片をプラスミドベクターpcDNA−1につなぎ、大腸菌MC1061/P3中でエレクトロポレーションしたところ、力価>107個組替え体を有する一次ライブラリーが得られた。cDNAの一部を、7.5mg/mlテトラサイクリンと12.5mg/mlアンピシリンを含有するルリア−ブロス寒天を入れた15cmペトリ皿上で培養した約1x104個組替え細菌コロニーのプールとして平板培養した。10mlのルリア−ブロス中で細胞を平板からかきとり、プールした細菌のグリセリン液を−70℃で保存した。残りの細菌は、アルカリ溶菌ミニ−プレップ法[サムブルックら(Sambrook, J. et al.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d Ed. (Cold Spring Harbor, NY, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]を用いてプラスミドDNAを精製するために使った。
【0050】
COS細胞移入と結合測定
シードとアルーフォ(Seed, B. and A. Aruffo)によって記載されているDEAE−デキストラン/クロロキン法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3365-3369 (1987)]によりプラスミドプール(それぞれ約1x104 個のクローンを含む)をCOS−M6(COS−7細胞のサブクローン)に移入した。移入後48時間目に、細胞を50pMの 125I−TGF−β1(100ないし200Ci/mmol)とともに4℃で4時間インキュベートし、実質的に既報[ゲアリングら(Gearing, D.P. et al.), EMBO J. 8:3667-3676 (1989)]と同様にしてNT−B2写真乳剤[コダック社(Kodak)]を用いて移入細胞のオートラジオグラフィー分析を行なった。スライドガラス現像後、細胞を風乾し、マウンティング剤とともにカバーガラスでマウントした。暗視野照明用分解トランスイルミネーターを使用して、オリンパスOM−T1倒立位相差顕微鏡下でスライドガラスを分析した。
【0051】
陽性プールの小分け
スクリーニングした86個のプールのうち1個のプール(#13)が陽性と判定され、このプールに対応する細菌グリセリン液を滴定し、1000個のクローンの25個のプールを作成し、これらのプール由来のミニプレッププラスミドを上記のようにしてCOS細胞に移入した。1000個のうち数個の陽性プールが同定され、1個を100個のコロニーの25枚プレートとして再び平板培養した。この陽性プレートの複製を作成し、集菌した。陽性プールが同定されたら、個々のコロニーを対応するマスタープレートから取り上げ、3mlの液体培地中で1夜培養した。100個のコロニーに相当する2次元格子を作成し、単一のクローンR3−OFを単離した。
【0052】
R3−OFFのクローニング
ラムダZAPII[ストラタジーン社(Stratagene)]に保持させた208Fラット繊維芽細胞ライブラリーをクローンR3−OF挿入断片によって、高ストリンジェンシーでスクリーニングし、約6kbの挿入断片を有する数個のクローンを単離したが、そのうちの1つをR3−OFFと呼ぶ。
【0053】
DNA配列決定と配列分析
シークエナーゼ(Sequenase)試薬[ユナイテッドステーツバイオケミカルズ社(United States Biochemicals)]を用いるジデオキシチェーンターミネーター法により二重ら旋DNAの配列を決定した。BLAST[アルトシュールら(Altschcul, S.F. et al.), J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)]を用いて配列をデータベースと比較した。
【0054】
TGF−βのヨウ素標識
既報のクロラミン−T法[チャイフェッツとアンドレ(Cheifetz, S. and J.L. Andres),J. Biol. Chem. 263:16984-16991 (1988)]を用いてTGF−β1をヨウ素標識した。
【0055】
化学的架橋
10cmペトリ皿上で培養した移入COS細胞または3.5cmペトリ皿上で培養したサブコンフルーエントな(subconfluent)L6およびA−10細胞を 125I−TGF−β1とともに結合緩衝液(20mM Hepes、pH7.5、5mM MgSO4、0.5%BSAで緩衝したフレブス・リンゲル液)中でインキュベートし、BSA不含氷冷結合緩衝液で4回洗い、60ng/mlジスクシニミジルスベラートを含有するBSA不含結合緩衝液とともに4℃、回転速度一定下で15分インキュベートした。結合緩衝液に7%ショ糖を加えることによって架橋を停止させた。細胞をかきとり、集め、遠心分離によりペレット化し、次いで溶菌緩衝液(10mMトリス、pH7.4、1mM EDTA、pH8.0、1%トリトン−X100、10μg/mlペプスタチン、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアンチパイン、100μg/ml塩酸ベンズアミジン、100μg/mlダイズトリプシンインヒビター、50μg/mlアプロトニン、および1mMフェニルメチルスルホニルフルオライド)に再懸濁した。可溶化物を7%SDS−PAGEによって分析し、−70℃でX−ARフィルム「コダック社(Kodak)]に密着させてオートラジオグラフィー分析に付した。
【0056】
酵素消化
既報[チャイフェッツとアンドレ(Cheifetz, S. and J.L. Andres), J. Biol. Chem. 263:16984-16991(1988) ,セガリニとセイェジン(Segarini, P.R. and S.M. Seyedin), J. Biol. Chem. 263:8366-8370(1988) ]に従い、コンドロイチナーゼとヘパリチナーゼによる可溶化TGF−β受容体の消化を行なった。
【0057】
安定細胞系の作成
L6筋芽細胞を10cmペトリ皿に10分の1づつ分割し、翌日、リン酸カルシウム法[チェンとオカヤマ(Chen, C. and H. Okayama), Molec. Cell. Biol. 7:2745-2752 (1987)]により、ベクターpcDNA−neo[インビトロゲン社(InVitrogen)]に保持させたクローンR3−OFとR3−OFFを前後両方向に移入した。細胞は、肉眼で個々のコロニーが見える様になるまで数週間、G418[ゲネチシン(Geneticin),ギブコ社(GIBCO)]の存在下の選抜に付した。これらのクローンを単離、増幅した。
【0058】
RNAブロット分析
塩化リチウム/尿素法[アウフレーとラウゲオン(Auffrey, C. and F. Raugeon), Eur. J. Biochemistry 107:303-313 (1980)]によりラット組織ポリアデニル化mRNAを調製した後、オリゴ−dTセルロースクロマトグラフィー[アビブとレデル(Aviv and Leder), 1972]を行なった。複数の細胞系からポリアデニル化mRNAをプロテイナーゼK/SDS法[ゴンダら(Gonda, T.J. et al.), Molec. Cell. Biol. 2:617-624 (1982)]により調製した。mRNAの試料を1%アガロース−2.2Mホルムアルデヒドゲル上の電気泳動によって分析し、ナイロン膜[バイオトリンス(Biotrns),ICN社]上にブロットし、ランダムプライミングにより32Pで標識したクローンRe−OFの2.9kb挿入断片をプローブとしてインキュベートした[サムブロックら(Sambrook, J. et al.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d Ed. Cold Spring Harbor, NY, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]。50%ホルムアミドを含有するハイブリダイゼーション緩衝液中42℃で1夜ハイブリダイゼーションを行ない、−70℃でX−ARフィルムに密着させる前に、ブロットを55℃で0.2X SSC、0.1%SDSで洗った。
【0059】
実施例1. 抗III型受容体タンパク質抗体の製造と精製III型受容体の部分タンパク質分解によって生じたペプチドのミクロシークエンシング
まず、細胞性プロテオグリカンをヒト胎盤から精製し、次いで、ヘパリチナーゼとコンドロイチナーゼによる酵素的脱グリコシル化に付した。100〜130キロダルトンの分子量範囲のタンパク質コアを調製用ゲル電気泳動によりさらに精製した。これらのものはIII型受容体を含んでいるはずであった。この部分精製物をマウスの抗原として用いた。免疫化マウスから得られた850個のハイブリドーマ系のスクリーニング後、3系が100〜120kDの脱グリコシル化ポリペプチドを特異的に認識し免疫沈降させる抗体を産生することがわかった。このものは、全細胞を 125I−TGF−βとともにインキュベートした後で共有架橋を行なうことによって放射標識することができた。そのサイズはIII型受容体について既報のタンパク質コアサイズと一致している[マッサーグら(Massague, J.), Annu. Rev. Cell. Biol. 6:597-641 (1990)]。
【0060】
モノクローナル抗体94を用いてアフィニティークロマトグラフィーによりラット肝臓からIII型受容体を精製した。精製受容体を部分タンパク質分解に付し、生じたペプチドを高速液体クロマトグラフィーで分析した。数個のペプチドをミクロシークエンシングに付したところ、以下のオリゴペプチド配列が得られた。
【0061】
ペプチドI:ILLDPDHPPAL(SEQ ID NO.5)

ペプチドII:QAPFPINFMIA(SEQ ID NO.6)

ペプチドIII:QPIVPSVQ(SEQ ID NO.7)

ペプチドIV:FYVEQGYGR(SEQ ID NO.8)
【0062】
これらのペプチド配列を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使うクローニング法におけるプライマーとして、またはcDNAライブラリーのスクリーニングにおけるプローブとして機能する縮重オリゴヌクレオチドを構築した。この方式は生産的ではなかったが、オリゴペプチド配列は、第2の代替法(実施例2参照)によって単離された受容体クローンの確認において有用であることがわかった。
【0063】
実施例2. III型受容体cDNAの発現クローニング
COS細胞における発現クローンニング方法として、移入を受けたCOS細胞中で個々のcDNAが顕著な増幅を示すことを利用する手順をTGF−β受容体クローンを単離する代替法として用いた。上記増幅は、cDNAベクター中でSV40複製起点と相互作用するCOS細胞によって発現されたSV40大型T抗原が介在する[ゲアリングら(Gearing, D. et al.), EMBO J. 8:3667-3676 (1989);リンら(Lin, H.Y. et al.), Proc. Natl. Acad. Sci. 88:3185-3189 (1991a);リンら(Lin, H.Y. et al.), Science, in press (1991);マシューズとバーレ(Mathews, L.S. and Vale, W.W.), Cell 65:973-982 (1991) ]。
【0064】
この方式は、3つの高親和性TGF−β受容体のいずれも発現するラット血管平滑筋細胞系であるA−10細胞からcDNAライブラリーを構築することより成るものであった。生じたcDNAは、CMV転写プロモーターとSV40複製起点を保持するベクターpcDNA−1に挿入した。次いで、生じたライブラリーをそれぞれ10,000個の独立の組替え体のプールに分割し、ガラスフラスケット上で培養した1.5x106 個のCOS−7細胞に各プール由来のDNAをDEAE−デキストラン移入法[アルーフォとシード(Aruffo, A. and Seed, B.), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8573-8577(1987); ゲアリングら(Gearing, D.P. et al. ), EMBO J. 8:3667-3676 (1989);マシューズとバーレ(Mathews, L.S. and Vale, W.W.), Cell 65:973-982 (1991) ]によって移入した。移入された細胞は48〜60時間培養し、次いで放射標識TGF−β1に4時間曝露した。この処理の後で、これらの細胞をのせたスライドガラスをよく洗い、固定した。これらのスライドガラスを液体写真乳剤に漬け、暗視野顕微鏡で調べた。この方法によってこれまでクローン化された受容体遺伝子はいずれも、COS細胞中での発現は検出不可能または低濃度レベルであるが、非移入COS細胞がすでに相当量のIII型TGF−β受容体を発現しているという事実に当惑した。1細胞あたり約2x105個の受容体分子と推定される上記発現が、容認できないほど高レベルのバックグランド結合をもたらしたのかもしれない。しかし、上記検出法は放射標識リガンドの個々の細胞上での結合を可視化するものであるので、本質的により高レベルのベクターコード化受容体を発現する偶発的細胞を同定することが可能であると期待された。この期待は初期実験において正しいことが判明した。
【0065】
このやり方による100万個近いcDNAクローンのスクリーニングの後、20個の陽性移入体を含むスライドガラスが同定された。1つの上記移入体の由来本であるオリジナルの発現構築物プールを、それぞれ1000個のクローンより成る25個のサブプールに分割し、これらを2ラウンド目のスクリーニングに付した。さらに2ラウンドの姉妹選抜を行なったところ、その移入先であるCOS細胞のうちの約10%において高レベルのTGF−β−結合性タンパク質を誘導した2.9kbの挿入断片を有するcDNAクローン(R3−OF)が生じた。
【0066】
この結合の特異性は、200倍過剰量の未標識TGF−β競合体の添加が移入細胞への 125I−TGF−βの結合を強力に低下させることを示すことによって確認した。10%という移入効率と高いバックグランドの内生受容体結合を考慮に入れ、各スライドガラスのこのcDNAクローンを移入した細胞への 125I−TGF−β結合の合計のレベル(図1C)は、モック移入体で見られるレベル(データは示さない)より2倍高いだけであると計算した。それにもかかわらず、このわずかなリガンド結合の増大はこのバックグランドレベルの受容体を発現する多数の細胞のなかから数少ない移入体を同定するのに十分であった。
【0067】
R3−OFのcDNAは、そのうちの3’側18個がベクター配列によってコードされた836個のアミノ酸残基から成るオープンリーディングフレームをコードしたが、このことは、クローンR3−OFはアラニン818特定コドンの位置で未成熟終止してしまう不完全なcDNA挿入断片であることをはっきりと示している(図4)。R3−OFをプローブとして用いてラット208Fラムダファージライブラリーから全長cDNAを単離した。このクローンをR3−OFFと名付けたが、長さは6kbで、853個のアミノ酸から成るタンパク質をコードした。その配列はクローンR3−OFのそれと共直線的であった。
【0068】
実施例3. 全長クローンR3−OFF産物のキャラクタライゼーション
3つのTGF−β受容体のうちのどれを特定するかを決めるために、全長クローンR3−OFF産物のキャラクタライゼーションを行なった。そうするために、COS移入体を放射標識TGF−βとともにインキュベートし、化学架橋剤を加え、標識化受容体をポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。
【0069】
このやり方で細胞表面TGF−β受容体を標識したところ、既報[マッサーグら(Massague, J. et al.), Ann. NY Acad. Sci. 593:59-72 (1990)]のとおりCOS細胞の表面に、3つの異なる型が検出された。これらには、分子量のより小さいI型およびII型の2つの受容体(65kDと85kD)および280〜330kdの拡散バンドとして泳動される分子量のより大きいIII型プロテオグリカンが含まれていた。該プロテオグリカンをコンドロイチナーゼとヘパリチナーゼで酵素処理したところ、約100kdのコアタンパク質が得られた。200倍過剰量の未標識TGF−β1によって競合されたという点で、3つの受容体型すべてに対する結合が特異的であった。
【0070】
R3−OFFのcDNAの移入は、III型受容体の発現の2倍増大をもたらした。クローンR3−OFFを移入したCOS細胞から得た細胞溶解物を脱グリコシル化酵素で処理したところ、不均一な280〜330kdのバンドは未移入A10細胞で見られるIII型タンパク質コアとともに泳動されるタンパク質コアに変換された。重要なことに、該組替えタンパク質コアは内生COS細胞III型タンパク質コアと異なって泳動された。
【0071】
これらの観察は、R3−OFFcDNAを発現する安定移入細胞を用いた実験で確認され拡張された。L6ラット骨格筋筋芽細胞は、検出可能なIII型mRNAや内生III型受容体を発現しないのが普通である(放射標識リガンド結合測定による)。上記細胞にベクターpcDNA−neoに保持させた単離cDNAを移入した。CMVプロモーターに対して前後両方向でこのクローンを安定的に発現する細胞クローンを単離し、リガンド結合測定法によって分析した。
【0072】
全長クローンR3−OFFまたは部分クローンR3−OFを前方に導入したところ、III型受容体の新規発現をもたらした。逆方向にcDNAを移入したL6細胞はこのタンパク質を発現しなかった。R3−OFクローンを移入した細胞中のIII型受容体のタンパク質コアの見かけサイズは、R3−OFF移入細胞によって発現されるものより小さいが、これはそれぞれの核酸配列(図1)から予想されるタンパク質コアのサイズの違いと一致する。
【0073】
予想外にも、II型受容体に架橋される放射標識リガンドの量はIII型cDNAを発現する細胞中で2.5倍増大するのに対し、I型受容体に架橋される量は変化しなかった。この見かけ上特異的なII型受容体へのリガンド結合のアップレギュレーションは、これまで分析した15個の安定移入L6細胞系のいずれの場合も検出可能であった。この効果は、全長クローンR3−OFFだけでなく細胞質領域を欠く切断クローンR3−OFも関与しているようである。
【0074】
実施例4. III型受容体の発現
ノーザンブロット分析によって、III型受容体mRNAは数種類のラット組織中で単一の6kbのmRNA分子として発現されることが示された。肝臓中のmRNA発現レベルはその他の組織中より低かったが、この結果は放射性ヨウ素標識TGF−β1を用いて行なわれた様々な組織の、より以前の研究から予想されたことである。この情報に基づけば、約6kbのcDNA挿入断片を有するクローンR3−OFFは全長ラットIII型cDNAクローンに該当すると思われる。
【0075】
マウス由来の細胞(MELおよびYH16)は、ブタ、ラット、およびヒト由来のものより小さい(約5.5kb)III型mRNA分子を発現するようである。網膜芽細胞腫細胞系(Y79、Weri−1、Weri−24、およびWeri−27)が顕著な例外として認められる以外は、これらの細胞のいずれにおいてもIII型mRNAの発現または欠損は検出可能細胞表面III型受容体の発現または欠損と一致している。これらの細胞は、検出可能なIII型受容体表面発現を欠いていることがすでに示されており、この結果はわれわれ自信の未発表研究によって確認されている。容易に検出できるレベルでIII型受容体タンパク質を本当に発現するその他の細胞のレベルと同等のレベルでこれらの細胞中でIII型受容体mRNAが発現されることは興味深い。現時点では、正常網膜芽細胞(AD12)においてかなりあるTGF−β受容体III型発現は、おそらく転写後機構によってこれらの網膜芽細胞腫細胞中でダウンレギュレーションされていると結論づけることができるだけである。
【0076】
実施例5. 全長III型cDNAの配列分析
実施例4で説明する全長cDNAクローン(R3−OFF)を配列分析に付した。全長リーディングフレームをフランキング配列とともに図1に示す。このリーディングフレームは853個のアミノ酸残基から成るタンパク質をコードするが、これは完全脱グリコシル化TGF−β1III型受容体で見られる100kDのサイズと一致する。
【0077】
誘導タンパク質配列の2つの断片(下線およびイタリック、残基378−388および427−434)は、精製受容体タンパク質の直接生化学的分析によってすでに決定されているものと厳密に一致する。このことから、この単離cDNAクローンがラットIII型受容体をコードすることも確認された。
【0078】
このTGF−β結合性タンパク質はサイトカイン受容体としては珍しい構造を有する。ヒドロパシー分析で、N末端シグナル配列とそれに続く長い親水性N末端領域が示される[カイトとドゥーリトル(Kyte, J. and R.F. Doolittle), J. Mol. Biol. 157:105-132 (1982)]。強い疎水性を示すC末端側27残基から成る領域(下線部分、残基786−812)は単一の推定貫膜ドメインにあたる。このことは、受容体のほぼ全体が、C末端付近の細胞膜に固定されたN末端細胞外ドメインから成ることを示唆するものである。41残基から成る比較的小さなC末端テイルは推定細胞質ドメインにあたる。
【0079】
クローンR3−OFも分析し、同一のオープンリーディングフレームを有するが最後のコード化残基がアラニン818であるR3−OFFの切断体であることがわかった(図1)。
【0080】
R3−OFFには、6個のコンセンサスN結合グリコシル化部位と15個のシステインが存在する(図1に示す)。セリン535の位置に少なくとも1個のコンセンサスグリコサミノグリカン付加部位が存在し[ベルンフィールドとホッパー(Bernfield, M. and K.C. Hooper), Ann. N.Y. Acad. Sci. in press (1991)]、GAG共役部位となりうる多くのSer−Gly残基も存在する。コンセンサスタンパク質キナーゼC部位も残基817に存在する。
【0081】
今までに記載された唯一のその他の遺伝子、すなわち内皮細胞によって大量に発現されるエンドグリンと呼ばれる糖タンパク質[ゴウゴスとレタルテ(Gougos and Letarte), 1990]だけが関連アミノ酸配列を含んでいる。総じて、645個のアミノ酸残基から成るエンドグリンの全長にわたりIII型受容体と約30%の相同性がある。III型受容体とエンドグリンの配列の間で最も相同性が高い領域(74%相同)は主に推定貫膜ドメインと細胞質ドメインに存在する。III型受容体の全体構造同様に、エンドグリンは、おそらく細胞外にある大型の親水性N末端ドメインとそれに続く推定貫膜ドメインと47個のアミノ酸残基から成る短い細胞質テイルを含有する糖タンパク質である。エンドグリンはエクトドメイン上の「RGD」配列とその他の接着分子の相互作用によって細胞どうしの認識に関与しているかもしれないことが示唆されているが、エンドグリンの生物学的役目は不明である。TGF−βIII型受容体と異なり、エンドグリンはGAGグループを保持しない。
【0082】
均等物
当業者であれば、単に常識的実験手法を用いて、ここに述べた発明の具体的態様に対する多くの均等物を認識しまた確認し得るであろう。そのような均等物は下記のクレームの範疇に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1−A】図1は、III型TGF−β1受容体cDNAクローンR3−OFF(完全挿入断片サイズ6kb)のDNA配列(SEQ ID NO.1)と翻訳アミノ酸配列(SEQ ID NO.2)であり、該クローンのフランキング配列を有するオープンリーディングフレームを示してある。貫膜領域は1重下線で示す。本文中で述べる、誘導配列に対応する精製III型受容体由来ペプチド配列はイタリック表記で下線を付けてある。潜在的N−結合グリコシル化部位は#で示し、細胞外システインは&で示す。コンセンサスタンパク質キナーゼCリン酸化部位は$で示す。クローンR3−OF(2.9kb)の最後の非ベクターコード化アミノ酸は@で示す。コンセンサスプロテオグリカン付着部位は+++で示す。その他の潜在的グリコサミノグリカン付着部位は+で示す。上流イン・フレーム終止コドン(−42ないし−44)は波線で示す。フォンヘイネのアルゴリズム[フォンヘイネ(von Heijne, G.), Nucl. Acid. Res. 14:4683-4690 (1986) ]によって予想されるシグナルペプチド切断部位は矢印で示す。
【図1−B】図1は、III型TGF−β1受容体cDNAクローンR3−OFF(完全挿入断片サイズ6kb)のDNA配列(SEQ ID NO.1)と翻訳アミノ酸配列(SEQ ID NO.2)であり、該クローンのフランキング配列を有するオープンリーディングフレームを示してある。貫膜領域は1重下線で示す。本文中で述べる、誘導配列に対応する精製III型受容体由来ペプチド配列はイタリック表記で下線を付けてある。潜在的N−結合グリコシル化部位は#で示し、細胞外システインは&で示す。コンセンサスタンパク質キナーゼCリン酸化部位は$で示す。クローンR3−OF(2.9kb)の最後の非ベクターコード化アミノ酸は@で示す。コンセンサスプロテオグリカン付着部位は+++で示す。その他の潜在的グリコサミノグリカン付着部位は+で示す。上流イン・フレーム終止コドン(−42ないし−44)は波線で示す。フォンヘイネのアルゴリズム[フォンヘイネ(von Heijne, G.), Nucl. Acid. Res. 14:4683-4690 (1986) ]によって予想されるシグナルペプチド切断部位は矢印で示す。
【図1−C】図1は、III型TGF−β1受容体cDNAクローンR3−OFF(完全挿入断片サイズ6kb)のDNA配列(SEQ ID NO.1)と翻訳アミノ酸配列(SEQ ID NO.2)であり、該クローンのフランキング配列を有するオープンリーディングフレームを示してある。貫膜領域は1重下線で示す。本文中で述べる、誘導配列に対応する精製III型受容体由来ペプチド配列はイタリック表記で下線を付けてある。潜在的N−結合グリコシル化部位は#で示し、細胞外システインは&で示す。コンセンサスタンパク質キナーゼCリン酸化部位は$で示す。クローンR3−OF(2.9kb)の最後の非ベクターコード化アミノ酸は@で示す。コンセンサスプロテオグリカン付着部位は+++で示す。その他の潜在的グリコサミノグリカン付着部位は+で示す。上流イン・フレーム終止コドン(−42ないし−44)は波線で示す。フォンヘイネのアルゴリズム[フォンヘイネ(von Heijne, G.), Nucl. Acid. Res. 14:4683-4690 (1986) ]によって予想されるシグナルペプチド切断部位は矢印で示す。
【図1−D】図1は、III型TGF−β1受容体cDNAクローンR3−OFF(完全挿入断片サイズ6kb)のDNA配列(SEQ ID NO.1)と翻訳アミノ酸配列(SEQ ID NO.2)であり、該クローンのフランキング配列を有するオープンリーディングフレームを示してある。貫膜領域は1重下線で示す。本文中で述べる、誘導配列に対応する精製III型受容体由来ペプチド配列はイタリック表記で下線を付けてある。潜在的N−結合グリコシル化部位は#で示し、細胞外システインは&で示す。コンセンサスタンパク質キナーゼCリン酸化部位は$で示す。クローンR3−OF(2.9kb)の最後の非ベクターコード化アミノ酸は@で示す。コンセンサスプロテオグリカン付着部位は+++で示す。その他の潜在的グリコサミノグリカン付着部位は+で示す。上流イン・フレーム終止コドン(−42ないし−44)は波線で示す。フォンヘイネのアルゴリズム[フォンヘイネ(von Heijne, G.), Nucl. Acid. Res. 14:4683-4690 (1986) ]によって予想されるシグナルペプチド切断部位は矢印で示す。
【図1−E】図1は、III型TGF−β1受容体cDNAクローンR3−OFF(完全挿入断片サイズ6kb)のDNA配列(SEQ ID NO.1)と翻訳アミノ酸配列(SEQ ID NO.2)であり、該クローンのフランキング配列を有するオープンリーディングフレームを示してある。貫膜領域は1重下線で示す。本文中で述べる、誘導配列に対応する精製III型受容体由来ペプチド配列はイタリック表記で下線を付けてある。潜在的N−結合グリコシル化部位は#で示し、細胞外システインは&で示す。コンセンサスタンパク質キナーゼCリン酸化部位は$で示す。クローンR3−OF(2.9kb)の最後の非ベクターコード化アミノ酸は@で示す。コンセンサスプロテオグリカン付着部位は+++で示す。その他の潜在的グリコサミノグリカン付着部位は+で示す。上流イン・フレーム終止コドン(−42ないし−44)は波線で示す。フォンヘイネのアルゴリズム[フォンヘイネ(von Heijne, G.), Nucl. Acid. Res. 14:4683-4690 (1986) ]によって予想されるシグナルペプチド切断部位は矢印で示す。
【図2】図2は、ヒトHepG2細胞cDNAライブラリーから単離した全長II型TGF−β受容体cDNAクローン3FF(完全挿入断片サイズ5kb)のヌクレオチド配列(SEQ ID NO.3)である。該cDNAは572個のアミノ酸残基から成るタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを有する。
【図3】図3は、全長II型TGF−β受容体のアミノ酸配列(SEQ ID NO.4)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1のヌクレオチド配列若しくはTGF−βIII型受容体をコードするのに充分な図1のヌクレオチド配列の一部分、又はTGF−βIII型受容体をコードするのに充分な図1のヌクレオチド配列のすべて若しくは一部分とハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する脊椎動物由来のTGF−βIII型受容体をコードする単離されたDNA。
【請求項2】
哺乳類由来である請求項1の単離されたDNA。
【請求項3】
ネズミ若しくはヒト由来である請求項2の単離されたDNA。
【請求項4】
図2のヌクレオチド配列若しくはTGF−βII型受容体をコードするのに充分な図2のヌクレオチド配列の一部分、又はTGF−βII型受容体をコードするのに充分な図2のヌクレオチド配列のすべて若しくは一部分とハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する脊椎動物由来のTGF−βII型受容体をコードする単離されたDNA。
【請求項5】
ネズミ若しくはヒト由来である請求項4の単離されたDNA。
【請求項6】
図1のアミノ酸配列若しくはTGF−βと結合するアミノ酸配列を有する単離されたTGF−βIII型受容体。
【請求項7】
図3のアミノ酸配列若しくはTGF−βと結合するアミノ酸配列を有する単離されたTGF−βII型受容体。
【請求項8】
図1、図3及びTGF−βと結合するアミノ酸配列からなる群より選ばれたアミノ酸配列を有する、組み換えで生産された哺乳類のTGF−βIII受容体若しくはTGF−βII型受容体。
【請求項9】
アミノ酸配列が図1のアミノ酸1から785までを含み、若しくは可溶性TGF−βIII型受容体をコードするアミノ酸配列であり、TGF−βに結合する可溶性TGF−βIII型受容体。
【請求項10】
アミノ酸配列が図3のアミノ酸1から166までを含み、若しくは可溶性TGF−βII型受容体をコードするアミノ酸配列であり、TGF−βに結合する可溶性TGF−βII型受容体。
【請求項11】
哺乳類のTGF−βIII型受容体、哺乳類の可溶性TGF−βIII型受容体、又は哺乳類の可溶性TGF−βII型受容体を特異的に認識する抗体。
【請求項12】
それがモノクローナル抗体である請求項11の抗体。
【請求項13】
可溶性TGF−β受容体とTGF−βとの結合に適した条件下で、可溶性TGF−βII型若しくはIII型受容体を細胞と結合させることからなる、これによりTGF−βを発現する細胞表面におけるTGF−βのTGF−β受容体への結合が減少する、TGF−βを発現する細胞表面上に存在するTGF−βII型若しくはIII型受容体へのTGF−βの結合を阻害する方法。
【請求項14】
TGF−βの結合が阻害される請求項13の方法。
【請求項15】
TGF−βIII型受容体の発現及び、適切な発現系においてTGF−βIII型受容体をコードするDNAから発現されたTGF−βIII型受容体とのTGF−βの結合に適した条件下で、TGF−βIII型受容体を発現するのに適した発現系において、細胞をTGF−βIII型受容体をコードするDNAと結合することからなる、TGF−βを発現する細胞表面上に存在するTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合を阻害する方法。
【請求項16】
TGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合性、TGF−βII型受容体へのTGF−βの結合性、若しくはその両方を改変するのに充分な量において、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体、TGF−βIII型受容体に結合したTGF−β若しくはそれらの組み合わせからなる群から選ばれたTGF−β受容体を哺乳類に投与することからなる、哺乳類においてTGF−βの効果を制御する方法。
【請求項17】
治療に用いられる、請求項6〜10いずれか記載のTGF−β受容体。
【請求項18】
治療に用いられる、請求項11又は12のいずれか記載の抗体。
【請求項19】
細胞表面上のTGF−βII型若しくはIII型受容体へのTGF−βの結合性を改変(例えば、阻害)する薬剤を製造するための、請求項6〜10いずれか記載のTGF−β受容体の使用。
【請求項20】
哺乳類においてTGF−βの影響を制御する際に用いられる薬剤の製造のための、TGF−βIII型受容体、TGF−βII型受容体、可溶性TGF−βIII型受容体、可溶性TGF−βII型受容体、TGF−βIII型受容体に結合したTGF−β若しくはそれらの組み合わせからなる群から選ばれたTGF−β受容体の使用。
【請求項21】
a)
1)TGF−βIII型受容体を発現する哺乳類の細胞、
2)標識化TGF−β、及び
3)評価される化合物、
を結合し、
b)TGF−βがTGF−βIII型受容体に結合するのに充分な条件下で(a)の生産物を維持し、
c)評価される化合物の存在下でTGF−βのTGF−βIII型受容体への結合性の程度を測定し、並びに
d)(c)でなされた測定と評価される化合物の非存在下で起きたTGF−βのTGF−βIII型受容体への結合性の程度を比較する、
工程からなる、ここで、もしTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合性が、評価される化合物の非存在下においてより評価される化合物の存在下においての方が小さいなら、評価される化合物はTGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合を妨害することになる、TGF−βIII型受容体へのTGF−βの結合を妨害する化合物の能力の評価方法。
【請求項22】
TGF−βIII型受容体を発現する細胞が一つの細胞系である請求項21の方法。
【請求項23】
TGF−βIII型受容体を発現する細胞がTGF−βIII型受容体を発現するように改変された細胞である請求項22の方法。
【請求項24】
TGF−βIII型受容体を発現するように改変された細胞が、適切なベクター中のTGF−β受容体cDNAがそれらに組み込まれた若しくはTGF−β受容体RNAを顕微注入された細胞である請求項23の方法。
【請求項25】
a)
1)TGF−βII型受容体を発現する哺乳類の細胞、
2)標識化TGF−β、及び
3)評価される化合物、
を結合し、
b)TGF−βがTGF−βII型受容体に結合するのに充分な条件下で(a)の生産物を維持し、
c)評価される化合物の存在下でのTGF−βのTGF−βII型受容体への結合性の程度を測定し、並びに
d)(c)でなされた測定と評価される化合物の非存在下で起きたTGF−βのTGF−βII型受容体への結合性の程度を比較する、
工程からなる、ここで、もしTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合性が評価される化合物の非存在下においてより、評価される化合物の存在下においての方が小さいなら、評価される化合物はTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合を妨害すると評価される、TGF−βII型受容体へのTGF−βの結合を妨害する化合物の能力の評価方法。
【請求項26】
TGF−βII型受容体を発現する細胞が一つの細胞系である請求項25の方法。
【請求項27】
TGF−βII型受容体を発現する細胞がTGF−βII型受容体を発現するように改変された細胞である請求項26の方法。
【請求項28】
TGF−βII型受容体を発現するように改変された細胞が、適切なベクター中のTGF−β受容体cDNAがそれらに組み込まれた若しくはTGF−β受容体RNAを顕微注入された細胞である請求項27の方法。
【請求項29】
a)結合性が評価される個体から得られたサンプル中の細胞によるTGF−βのTGF−βIII型受容体若しくはTGF−βII型受容体への結合の程度を測定し、それによりテスト結合値を取得し、及び
b)(a)の結果と、対照結合値となる、TGF−βのTGF−βIII型受容体若しくはTGF−βII型受容体への異常な結合が既に知られた細胞である対照細胞の細胞表面において起こる結合の程度とを比較する、
ことからなる、ここで、対照結合値と同程度のテスト結合値はTGF−βのTGF−βIII型受容体若しくはTGF−βII型受容体への異常な結合を示す、細胞表面上のTGF−βIII型受容体又はTGF−βII型受容体に対するTGF−βの異常結合の検出方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図2のヌクレオチド配列若しくはTGF−βII型受容体をコードするのに充分な図2のヌクレオチド配列の一部分、又はTGF−βII型受容体をコードするのに充分な図2のヌクレオチド配列のすべて若しくは一部分とハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する脊椎動物由来のTGF−βII型受容体をコードするDNA。
【請求項2】
ト由来である請求項1記載のDNA。
【請求項3】
図3のアミノ酸配列を有するTGF−βII型受容体、又はTGF−βと結合するアミノ酸配列を有する修飾されたTGF−βII型受容体。
【請求項4】
アミノ酸配列が図3のアミノ酸1から166までを含可溶性TGF−βII型受容体、又はアミノ酸配列がTGF−βに結合する修飾された可溶性TGF−βII型受容体をコードするアミノ酸配列である、可溶性TGF−βII型受容体。
【請求項5】
請求項3記載のTGF−βII型受容体若しくは修飾されたTGF−βII型受容体、又は請求項4記載の可溶性TGF−βII型受容体若しくは修飾された可溶性TGF−βII型受容体を特異的に認識する抗体。
【請求項6】
それがモノクローナル抗体である請求項5記載の抗体。
【請求項7】
可溶性TGF−β受容体とTGF−βとの結合に適した条件下で、請求項4記載の可溶性TGF−βII型受容体又は修飾された可溶性TGF−βII型受容体を細胞と結合させることからなる、これにより細胞表面におけるTGF−β受容体へのTGF−βの結合レベルが減少する、細胞表面上に存在するTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合レベルを阻害する方法。
【請求項8】
適切な発現系において、哺乳動物における可溶性TGF−βII型受容体の発現及び可溶性TGF−βII型受容体とのTGF−βの結合に適した条件下で、請求項4記載の可溶性TGF−βII型受容体をコードするDNAを該哺乳動物の細胞に導入する工程を含む、哺乳動物におけるTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合レベルを阻害する方法。
【請求項9】
請求項3又は4記載のTGF−β受容体を含有してなるTGF−βが関与する疾患の治療用医薬組成物。
【請求項10】
請求項5又は6記載の抗体を含有してなるTGF−βが関与する疾患の治療用医薬組成物。
【請求項11】
a)
1)TGF−βII型受容体を発現する哺乳類の細胞、
2)標識化TGF−β、及び
3)評価される化合物、
を結合し、
b)TGF−βがTGF−βII型受容体に結合するのに充分な条件下で(a)の生産物を維持し、
c)評価される化合物の存在下でのTGF−βのTGF−βII型受容体への結合性の程度を測定し、並びに
d)(c)でなされた測定と評価される化合物の非存在下で起きたTGF−βのTGF−βII型受容体への結合性の程度を比較する、
工程からなる、ここで、もしTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合性が評価される化合物の非存在下においてより、評価される化合物の存在下においての方が小さいなら、評価される化合物はTGF−βII型受容体へのTGF−βの結合を妨害すると評価される、TGF−βII型受容体へのTGF−βの結合を妨害する化合物の能力の評価方法。
【請求項12】
TGF−βII型受容体を発現する細胞が細胞系である請求項11記載の方法。
【請求項13】
TGF−βII型受容体を発現する細胞がTGF−βII型受容体を発現するように改変された細胞である請求項12記載の方法。
【請求項14】
TGF−β受容体を含有してなるTGF−βが関与する疾患の治療用医薬組成物であって、ここで、TGF−β受容体は:
配列番号:2のアミノ酸配列若しくはATCC寄託番号75127のもとで寄託されたプラスミド中のcDNAによってコードされるアミノ酸配列を含む単離されたTGF−βIII型受容体、配列番号:2のアミノ酸配列若しくはATCC寄託番号75127のもとで寄託されたプラスミド中のcDNAによってコードされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の欠失、挿入、付加若しくは置換の少なくとも1つから生ずるアミノ酸配列を含み、かつ、TGF−βと結合する単離されたTGF−βIII型受容体、ならびに
アミノ酸配列が配列番号:2のアミノ酸1から785までを含むか、若しくはATCC寄託番号75127のもとで寄託されたプラスミド中のcDNAによってコードされるアミノ酸配列である単離された可溶性TGF−βIII型受容体、アミノ酸配列が配列番号:2のアミノ酸1から785までのアミノ酸配列若しくはATCC寄託番号75127のもとで寄託されたプラスミド中のcDNAによってコードされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の欠失、挿入、付加若しくは置換の少なくとも1つから生ずるアミノ酸配列であって、TGF−βに結合する可溶性TGF−βIII型受容体をコードするアミノ酸配列である、単離された可溶性TGF−βIII型受容体
からなる群より選択される、医薬組成物。
【請求項15】
請求項14に記載のTGF−βIII型受容体又は可溶性TGF−βIII型受容体を特異的に認識する抗体を含有してなる、TGF−βが関与する疾患の治療用医薬組成物。
【請求項16】
TGF−βと結合するTGF−βIII型受容体の一部分をコードするのに充分な配列番号:1のヌクレオチド配列の一部分又はATCC寄託番号75127のもとで寄託されたプラスミド中のcDNAのヌクレオチド配列の一部分を含む哺乳動物由来のTGF−βIII型受容体をコードする単離されたDNA。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図1−C】
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【図1−D】
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【図1−E】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−55164(P2006−55164A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223592(P2005−223592)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【分割の表示】特願平5−508621の分割
【原出願日】平成4年10月30日(1992.10.30)
【出願人】(505291480)ホワイトヘッド インスティチュート フォー バイオメディカル リサーチ (5)
【Fターム(参考)】