説明

UMPキナーゼの結晶構造およびその使用

本発明は、UMPキナーゼの結晶構造、ならびにUMPキナーゼの阻害薬およびアロステリックモジュレーターをスクリーニング、同定および設計するためのコンピューター支援法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、UMPキナーゼの結晶、ならびにUMPキナーゼの阻害薬およびアロステリックモジュレーターをスクリーニング、同定および設計するためのコンピューター支援法に関する。
【0002】
背景
UMPキナーゼは、ATPからUMPへ可逆的にリン酸基を転移させてUDPを産生するのを触媒する。これは、UTPを産生するピリミジンヌクレオチド合成経路の必須段階である。細菌性UMPキナーゼの一次構造は、他の細菌性および真核細胞性のヌクレオチド一リン酸キナーゼのものと十分に異なる(Serina et al., 1995, Biochemistry, 34:5066-5074; Barzu et al., 1999, Paths to Pyrimidines, 7:86-95; Labesse et al., 2002, Biochem. Biophys. Res. Commun., 294:173-179; Gagyi et al., 2003, Eur. J. Biochem., 270:3196-3204)ので、それらは抗菌薬を設計または同定するための標的として重要である。真核細胞UMP-CMPキナーゼは溶液中ではモノマーである。真核細胞由来の幾つかのUMP-CMPキナーゼの構造が決定された(Mueller-Dieckmann et al., 1994, J. Biol., 236:362-367; Scheffzek et al., 1996, Biochemistry, 35:9716-9727; Schlichting et al., 1999, Nature Struct. Biol.,6:721-723)。細菌種由来のUMPキナーゼ(pyrH遺伝子の産物)は溶液中でホモ六量体であり、その活性はGTP(アクチベーター)およびUTP(インヒビター)によりアロステリック制御される。配列アラインメントにより、細菌性UMPキナーゼは限定された配列領域においてN-アセチルグルタミン酸キナーゼ、カルバミン酸キナーゼ、アスパルトキナーゼ、グルタミン酸5-キナーゼおよびピロリン-5-カルボン酸シンターゼとの相同性を示すことが示された(Labesse et al., 2002, 前掲; Gagyi et al., 2003,前掲)。
【0003】
P.フリオサス(P. furiosus)カルバミン酸キナーゼ様カルバモイルリン酸シンセターゼの結晶構造が記載されている(CK-様CPS、タンパク質データバンク(pdb)エントリー1e19; Ramon-Maiques et al., 2000, J. Mol. Biol., 299:463-476)。大腸菌(E. coli)N-アセチルグルタミン酸キナーゼの結晶構造が記載されている(NAGK、pdbエントリー1gs5、1gsj、1oh9、1ohaおよび1ohb; Ramon-Maiques et al., 2002, Structure, 10:329-342; Gil-Ortiz et al., 2003, J. Mol. Biol., 331:231-244)。Labesseら(2002, 前掲)は、大腸菌UMPキナーゼ(pyrH)について相同モデルを提唱した。Gagyiら(2003, 前掲)は、枯草菌(B. subtilis)UMPキナーゼ(pyrH)について相同モデルを提唱した。WO 03/025004には、病原性細菌に関するポリペプチド標的が記載されている。
【0004】
概要
本明細書には、GTPおよびホスフェートと複合体形成した細菌由来UMPキナーゼ(pyrH)の三次元構造;pyrHの結合部位;pyrHを結合する化合物または物質(pyrHの活性を部分的または完全に阻害するリガンド、薬物または阻害薬、pyrHを結合するタンパク質および有機低分子を含む)を同定および/または設計する方法;pyrHを結晶化する方法;pyrHを結合する物質を同定、スクリーニングおよび/または設計するためのコンピューター支援法;ならびにpyrHを結合すると提唱された物質を確認するためのNMR分光支援法を開示する。
【0005】
詳細な記述
本発明は、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)pyrHの結晶化、ならびにインフルエンザ菌pyrHとGTPおよびホスフェートとの複合体の結晶構造(三次元構造)の決定に基づく。
【0006】
pyrHポリペプチド、結晶および空間群
本発明は、pyrHの単離ポリペプチド、または適正な三次元配向でフォールディングした際に結合部位として機能するpyrHポリペプチド部分に関する情報を提供する。本明細書中でポリペプチドに関して用いる用語”単離した”は、その起源もしくは操作に基づいて、自然状態から分離された、または他の形で自然状態にはない、ポリペプチドまたはその一部を意味する。”単離した”は、さらに、(i)化学合成された;(ii)宿主細胞において発現し、随伴および混入するタンパク質から分離精製された;または(iii)随伴および混入するタンパク質から分離精製された、タンパク質を意味する。この用語は一般に、自然界でそれと共に存在する他のタンパク質および核酸から分離精製されたポリペプチドを意味する。本発明のある態様において、ポリペプチドは、その精製に用いられる抗体またはゲルマトリックス(たとえばポリアクリルアミド)などの物質からも分離される。
【0007】
単離されたポリペプチド配列はそれぞれ、pyrHの天然配列であってもよく、またはSEQ ID NO: 14で表わされるアミノ酸配列に対して少なくとも40%、45%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%相同である配列であってもよい。
【0008】
単離したpyrHは、pyrHのバリアントであってもよい。一例において、バリアントは1以上のアミノ酸置換によりSEQ ID NO: 14に開示する配列と異なるアミノ酸配列をもつことができる。アミノ酸の欠失および/または付加を含む態様も含まれる。バリアントは、置換アミノ酸が交換したアミノ酸残基のものと類似の構造特性または化学的特性をもつ場合、保存的変化(アミノ酸類似性)をもつ可能性がある(たとえばイソロイシンによるロイシンの置換)。生物活性または薬理活性を損なうことなく、どのアミノ酸残基を何個、置換、挿入または欠失できるかを決定する際の指針は、本明細書の開示からみて妥当な程度に推察でき、さらに当技術分野で周知のコンピュータープログラム、たとえばDNAStar(登録商標)ソフトウェアを用いて見いだすことができる。
【0009】
アミノ酸置換は、天然分子の生物活性および/または薬理活性が保持される限り、たとえば残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。
【0010】
置換例を下記の表1に示す:
【0011】
【表1】

【0012】
本発明において”アミノ酸相同性”は、一次アミノ酸配列の同一性の尺度である。相同性を解明するためには、必要ならばギャップを導入して最大%の相同性を達成した後、最高%の相同性(対合)が得られるように対象配列をアラインさせる。N-またはC-末端延長配列は相同性に影響を及ぼすと解釈すべきでない。”同一性”自体は当技術分野で認識されている意味をもち、公表された手法を用いて計算できる。2つの配列間の同一性を判定するためのコンピュータープログラム法には、たとえばDNAStar(登録商標)ソフトウェア(DNAStar Inc.、ワイオミング州マディソン);GCG(登録商標)プログラムパッケージ(Devereux et al., 1984, Nucl. Acids Res., 12:387);BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol.,215:403)が含まれる。本明細書中で定める相同性(同一性または類似性)は、コンピュータープログラムBLAST 2 Sequences((Tatusova and Madden, 1999, FEMS Microbiol. Lett. 174:247-250;NCBIから入手できる)により、アラインした配列の全長にわたって同一性および/または類似性%が計算されるように、かつ基準配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の総数の最高約90%の相同性ギャップが許容されるように、すべてのパラメーターについてデフォルト設定を用いて決定される。
【0013】
本発明には、pyrHの結晶も含まれる。1態様において、結晶はホスフェートおよびグアノシン三リン酸(GTP)と複合体形成したpyrHである。pyrHは、インフルエンザ菌を含めたいずれかの細菌に由来するものであってよい。
【0014】
他の態様において本発明は、ホスフェートおよびGTPと複合体形成し、図7に示す原子座標を特徴とする、結晶化インフルエンザ菌pyrHを含む。本発明において、結晶は約2.3Åまで回折することができる。
【0015】
結晶化複合体の一例は、菱面体空間群R32に属し、a = b = c = (146.5+/-0.7)Åおよびα=β=γ= (97.38+/-0.07)oの単位格子パラメーターをもつことを特徴とする。本発明のpyrH結晶がa = b = (215+/-1.0)Åおよびc = (233.6+/-1.5)Å、ならびにα=β=90°およびγ= 120°の単位格子パラメーターをもつ菱面体空間群の六方晶均等物において作業するのが好都合であることは、当業者に認識されるであろう。
【0016】
本発明のpyrH結晶は、8分子のpyrHを含む不斉単位をもち、ホモ六量体アセンブリーおよびさらにホモ二量体アセンブリーを含む。このことから、菱面体空間群に固有の結晶学的対称操作の適用により六量体アセンブリーを作成できることが当業者に認識されるであろう。ホモ六量体アセンブリーそれぞれを二量体の三量体と記述できる。1態様において、二量体それぞれは、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Ile25、Pro27、Leu30、Asp31、Phe57、Lys61、Leu62、Ala65、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val71、His74、Met75、Gly76、Leu78、Ala79、Val81、Met82、Leu85、Ala86、Arg87、Asp88、Arg89、Phe104、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108およびIle109を含む分子間二量体界面を含む。
【0017】
結晶の調製方法は当技術分野で既知である。一例においては、適切な緩衝液、たとえば50mM Tris-HCl pH8.5中に、適切な純度、たとえば>95%のインフルエンザ菌pyrHを含有する第1溶液を調製し;適切な沈殿剤、たとえば塩類またはポリエチレングリコールを含有する第2溶液を調製し;第1溶液と第2溶液を混和することにより組合わせを調製し;そしてこの組合わせからpyrHが過飽和状態になるような結晶化法により液滴を形成し、これによりpyrHの結晶を生成させる方法で、前記の結晶化複合体を調製できる。
【0018】
pyrHの結晶構造
pyrH結晶の不斉単位は、図7に列記した原子座標を特徴とするpyrHポリペプチド鎖8コピーからなり、これはホモ六量体アセンブリーおよびホモ二量体(これから結晶学的対称転移の操作により六量体アセンブリーを作成できる)に対応する。インフルエンザ菌pyrHの活性形はホモ六量体である。pyrHの各分子は単一ドメインからなり、両側を4つのアルアァヘリックス(第1側は図1にD、E、FおよびGと標記したもの、第2側は図1にA、B、CおよびHと標記したもの)で挟まれた9つのベータ鎖(図1に1〜6および9〜11と標記)から構成される中心ベータシートを含む。リン酸イオンの結合により活性部位が同定され、これはベータ鎖のC-末端を横切り、ループ領域で囲まれた溶媒露出した幅広いキャビティ内に位置する(図2にXで指示)。6つの活性部位は、六量体アセンブリーの外面に位置する。pyrH分子の第2面に、六量体アセンブリーの中心に近接して、3つのpyrH分子の界面に、アロステリックエフェクター(たとえばGTPなどのアクチベーター)に対する結合部位がある(図2にAで標記)。
【0019】
インフルエンザ菌pyrH六量体アセンブリーは、二量体の三量体と記述できる。これらの二量体は、安定な保存された疎水性コアにより互いに保持され、このコアは2つの長い逆平行アルアァヘリックス(残基68〜95、ヘリックスC、図1を参照)の面に沿ってメチオニン残基のインターロックにより形成される。逆平行に配向した各pyrH分子の保存されたベータ3-ベータ4ループ(残基104〜109を含む)間で、さらに相互作用が起きる。1つのpyrH分子中のベータ1-アルアァAループからの残基25、27、30および31ならびにアルアァAヘリックスのN-末端(図1を参照)と、第2分子中の短いらせん領域からの残基57、61、62および65(ヘリックスB、図1を参照)との間にも、安定化接点がある。したがって、分子間二量体界面は、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Ile25、Pro27、Leu30、Asp31、Phe57、Lys61、Leu62、Ala65、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val71、His74、Met75、Gly76、Leu78、Ala79、Val81、Met82、Leu85、Ala86、Arg87、Asp88、Arg89、Phe104、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108およびIle109を含む。
【0020】
3つの二量体が一緒になって、第1二量体からの第1分子の残基Asn68、Arg69、Val70、Val71、His74、Arg88、Phe92、Lys99、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108、Ile109、Cys110、Asp111、Thr112、Tyr113、Asn114、Trp115、Glu117、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Leu147、Arg148、Ile150、Glu151、Glu153、Leu198、Ser199、Thr202、Leu203およびHis207、第2二量体からの第2分子の残基Asn68、Arg69、Val70、Val71、His74、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Leu147、Arg148、Ile150、Glu151、Glu153、Leu198、Ser199、Thr202、Leu203およびHis207、第2二量体からの第3分子の残基Arg88、Phe92、Lys99、Asn107、Gly108、Ile109、Cys110およびAsp111、ならびに第3二量体からの第4分子の残基Gln105、Leu106、Thr112、Tyr113、Asn114、Trp115およびGlu117を伴う相互作用により、六量体アセンブリーを形成する。接点は、5Åの半径およびプログラムContact(CCP4、1994, Acta Cryst., D50:760-763)を用いて決定された。したがって、分子間二量体-二量体界面はSEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Asn68、Arg69、Val70、Val71、His74、Arg88、Phe92、Lys99、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108、Ile109、Cys110、Asp111、Thr112、Tyr113、Asn114、Trp115、Glu117、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Leu147、Arg148、Ile150、Glu151、Glu153、Leu198、Ser199、Thr202、Leu203およびHis207を含む。
【0021】
結合部位
用語”結合部位”は、pyrHに結合する分子との相互作用に関係する、特異的なpyrH領域(または原子)を表わす。結合部位は、たとえば保存された構造要素もしくは保存された幾つかの構造要素の組合わせ、基質結合部位、アクチベーター結合部位、インヒビター結合部位、アロステリック結合部位、または分子間界面であってよい。
【0022】
基質結合部位には、基質、たとえばアデノシン三リン酸(ATP)またはウリジン一リン酸(UMP)と相互作用する、特異的なpyrH領域(または原子)が含まれる。基質結合部位は、フォールディングしたポリペプチド内の1個以上のアミノ酸残基の三次元配置を含むか、またはそれにより規定することができる。本発明において、基質はATPまたはUMPなどの化合物であってよく、これらをpyrHがそれぞれアデノシン二リン酸(ADP)またはウリジン二リン酸(UDP)に変換する。したがって、基質は生成物としても作用する可能性がある。基質は天然化合物または人工化合物であってよい。2つの基質、たとえばUMPおよびATPが同時または個別に、別個の、ただし隣接する結合部位に結合することができる。したがって、これらの隣接する結合部位それぞれを規定する残基のサブセットを他の結合部位の定義に含める場合もある。
【0023】
本発明の1態様において、インフルエンザ菌pyrHに関する基質結合部位は、SEQ ID NO: 14のアミノ酸Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Leu17、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Arg58、Thr80、Asn83、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Ala145、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys173、Asp174、Ala177、Lys178、Tyr180、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195、Met196、Asp197、Val213およびPhe214を含む。本発明の他の態様において、インフルエンザ菌pyrHに関する基質結合部位は、さらにSEQ ID NO: 14のアミノ酸Phe57、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr144、Leu147 and Arg148を含む。本発明のさらに他の態様において、インフルエンザ菌pyrHに関する基質結合部位は、SEQ ID NO: 14のアミノ酸Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Phe57、Arg58、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Thr80、Asn83、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Thr144、Ala145、Leu147およびArg148を含む。本発明のさらに他の態様において、インフルエンザ菌pyrHに関する基質結合部位は、SEQ ID NO: 14のアミノ酸Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Leu17、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Phe57、Arg58、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Thr80、Asn83、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Thr144、Ala145、Leu147、Arg148、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys173、Asp174、Ala177、Lys178、Tyr180、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195、Met196、Asp197、Val213およびPhe214を含む。
【0024】
インヒビター結合部位には、pyrH活性を阻止する作用をもつインヒビター(阻害薬)、たとえば5'-アデニリルイミド二リン酸(AMP-PNP)と相互作用する、特異的なpyrH領域(または原子)が含まれる。インヒビター結合部位は、フォールディングしたポリペプチド内の1個以上のアミノ酸残基の三次元配置を含むか、またはそれにより規定することができる。本発明においてインヒビター(阻害薬)は、pyrH上で触媒反応を受け、基質結合部位または他の部位、たとえばアロステリック結合部位に結合し、ATPおよび/またはUMPの基質代謝回転と競合し、あるいは他の様式でpyrH活性を阻止できる化合物であってよい。本発明のインヒビター(阻害薬)は、基質結合部位に結合するAMP-PNP、またはアロステリック結合部位に結合するUTPなどの化合物であってよい。インヒビター(阻害薬)は天然化合物または人工化合物であってよい。
【0025】
”アロステリック結合部位”には、アロステリックエフェクター、たとえばGTPまたはUTPと相互作用する、特異的なpyrH領域(または原子)が含まれる。アロステリック結合部位は、フォールディングしたポリペプチド内の1個以上のアミノ酸残基の三次元配置を含むか、またはそれにより規定することができる。アロステリックエフェクターは、アクチベーター、たとえばGTPであってもよい。アロステリックエフェクターは天然化合物または人工化合物であってよい。
【0026】
本発明の1態様において、インフルエンザ菌pyrHに関するアロステリック結合部位は、SEQ ID NO:14のアミノ酸Arg7、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val70、Val71、Gly72、His74、Gly84、Leu85、Ala86、Met87、Arg88、Asp89、Ser90、Leu91、Phe92、Arg93、Asp95、Val96、Asn97、Ala98、Lys99、Leu100、Met101、Ile109、Cys110、Asp111、Asn114、Trp115、Ser116、Glu117、Ala118、Ile119、Lys120、Met121、Arg123、Glu124、Arg126、Val127、Ile129、Glu151、Ile152およびGlu153を含む。
【0027】
機械可読データ蓄積媒体
pyrHの結晶構造を規定する原子座標のリストは、電子的に、たとえば機械可読蓄積媒体、たとえばディスクに蓄積でき、したがってコンピューターによりそれらの座標にアクセスし、操作することができる。たとえば三次元視覚化ソフトウェアを用いて、原子座標が表わす構造をコンピューターグラフィックスクリーン上に描かれ、候補阻害薬との仮説相互作用を調べることができる。こうして本発明の原子座標は、新規抗菌薬の候補である新規阻害薬を設計するための有用なツールとなる。
【0028】
pyrH結合薬を同定するコンピューター支援法
本発明は、潜在pyrH結合薬、たとえば調節薬、特にpyrH活性の潜在阻害薬を同定するための、コンピューター支援法を含む。
【0029】
一組の原子座標、たとえば図7に列記したものを、図7に示すものと全く異なる一組の原子座標が類似または同一の形状を規定し、したがって本発明を表わすように、数学的に、たとえば回転(rotation)または平行移動(translation)により操作できることは、当業者には理解されるであろう。
【0030】
本明細書に記載するpyrHの結晶構造および結合部位は、pyrHを阻害し、したがって抗菌薬として作用しうる物質、特に選択的阻害薬を設計するのに有用である。関連態様において、本発明はpyrH活性を阻害する物質の構造ベースの薬物設計方法を含む。
【0031】
より具体的には、本発明によるpyrH阻害化合物の設計には一般に2つの要因の考慮が伴う。第1に、その化合物は共有結合および/または非共有結合相互作用により物理的および構造的にpyrHと会合できなければならない。pyrHとそれの基質、アロステリックエフェクターまたはインヒビター(阻害薬)との会合に重要な非共有結合による分子相互作用には、水素結合、ファン-デル-ワールス相互作用および疎水性相互作用が含まれる。
【0032】
第2に、その化合物はそれがpyrHと会合しうるコンホメーションをとることができなければならない。その化合物のある部分はこのpyrHとの会合に直接には関与しないであろうが、それらの部分もなお分子の全体的コンホメーションに影響を及ぼす可能性がある。これは、力価に対して著しい影響をもつ可能性がある。そのようなコンホメーション要件には、結合部位(たとえばpyrHの基質結合部位、アロステリック結合部位、分子間界面、またはpyrHと直接相互作用する幾つかの化学単位を含む化合物の官能基間スペーシング)の全部または一部と関連した化学単位または化合物の全体的な三次元構造および配向が含まれる。
【0033】
ある化合物がpyrHに及ぼす潜在阻害作用は、それを合成および試験する前にコンピューターモデリング法を用いて推定できる。その化合物の理論構造により、それとpyrHの相互作用および会合が不十分であることが示唆された場合、その化合物の合成および試験を回避する。しかし、コンピューターモデリングが強い相互作用を指摘した場合、次いでその分子を合成し、それがpyrHに結合する能力を適切なアッセイ法で試験することができる。こうして無効な化合物の合成を避けることができる。
【0034】
本発明の1態様は、候補阻害薬との比較のために、既知のpyrH結合物質、たとえばATP、ADP、UTP、UMP、UDPまたはGTPを用いて、既知物質の適合度を判定するコンピューター支援法に関する。
【0035】
具体的態様においては、pyrH結合物質である物質を同定するコンピューター支援法は、下記のステップを含む:
(1)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrHの結合部位を結合する既知物質(たとえばpyrHのアロステリックエフェクターおよび/または基質)の原子座標を供給し;
(2)コンピューターモデリングアプリケーションに、図7に示すpyrHの原子座標、または列記したアミノ酸配列の保存された主鎖原子に関して図7の原子座標から1.0Åを超えない二乗平均平方根偏差(root mean square deviation)または1.5Åを超えない二乗平均平方根偏差をもつ原子座標を供給し;
(3)pyrHの結合部位を結合する物質の、pyrHに対する適合度を定量し;
(4)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrHの結合部位を結合するかを判定するために評価すべき物質の一組の原子座標を供給し;
(5)適合関数を用いて結合部位における被験物質の適合度を定量し;
(6)既知物質に関する適合度計算値を被験物質のものと比較し;そして
(7)既知物質の適合度より良好な、またはほぼ同等の適合度をもつ被験物質を選択する。
たとえば、この方法に用いる既知の結合物質の原子座標は、図7に列記した原子座標により規定される、本発明のpyrHに結合したGDP分子のものであってよい。pyrHの結合部位に対するGDP分子の適合度は、GDPが結合部位に結合した際のGDP分子およびpyrH分子両方の、溶剤から離れた表面積(埋没表面)を、Areaimol(CCP4, 1994、前掲)などのプログラムを用いて計算することにより定量できる。これら2つの数値の比により、pyrHの結合部位に対するGDPの表面または形状の相補性が推定される。次いで、pyrH上のGDPと同一または類似の結合部位に結合する可能性のある被験物質、たとえばUTPの適合度は、たとえばGDPが結合することが観察されたpyrHの結合部位内へUTPをドッキングさせ、そしてUTPが結合した際のUTPおよびpyrH分子両方の、溶剤から離れた表面積を比較する計算を再び行うことにより、GDPの適合度と比較することができる。埋没表面積比がより1に近いほど、より良好な適合度であることを指摘する可能性がある。
【0036】
本発明により可能になった他の方法は、pyrHの結合部位に全体または一部が結合しうる化学単位または化合物について、低分子データベースをコンピューターによりスクリーニングするものである。このスクリーニングにおいて、結合部位に対するそのような単位または化合物の適合の性質は、形状相補性により(DesJarlais et al., 1988, J. Med. Chem. 31:722-729)または推定相互作用エネルギーにより(Meng et al., 1992, J. Comp. Chem., 13:505-524)判断できる。
【0037】
化学単位またはフラグメントがpyrHと会合する能力、より具体的にはpyrHの個々の結合部位と会合する能力をスクリーニングする方法は、当技術分野で既知である。そのような方法には、ドッキングとして知られる方法におけるコンピューターの使用を含めることができる。ドッキングは、QuantaおよびSybylなどのソフトウェアの使用、続いてCHARMMおよびAMBERなどのソフトウェアを用いる基準分子力学力場によるエネルギー最小化および分子動態により達成できる。
【0038】
特殊なコンピュータープログラムも、フラグメントまたは化学単位の選択方法を支援できる。これらには、下記のものが含まれる:
1. GRID (Goodford, 1985, J. Med. Chem.,28:849-857)。GRIDは、オックスフォード大学(英国オックスフォード)から入手できる;
2. MCSS (1991, Miranker and Karplus, Proteins: Structure, Function and Genetics, 11:29-34)。MCSSは、Molecular Simulations(マサチュセッツ州バーリントン)から入手できる;
3. AUTODOCK (Goodsell and Olsen, 1990, Proteins: Structure, Function and Genetics, 8:195-202)。AUTODOCKは、Scripps Research Institute(カリフォルニア州ラ・ホーヤ)から入手できる;および
4. DOCK (Kuntz et al., 1982, J. Mol. Biol., 161:269-288)。DOCKは、カリフォルニア大学(カリフォルニア州サンフランシスコ)から入手できる。
【0039】
低分子化合物に関する他の市販コンピューターデータベースには、Cambridge Structural DatabaseおよびFine Chemical Database (Rusinko, 1993, Chem. Des. Auto. News, 8:44-47)が含まれる。
【0040】
適切な化学単位またはフラグメントが選択されると、それらを組み立てて単一の化合物または阻害薬にすることができる。組立ては、コンピュータースクリーンに表示された三次元画像上でそれらのフラグメント相互の関係を、pyrHの構造/原子座標と関連づけて視覚検査することにより行うことができる。これに続いて、QuantaまたはSybylなどのソフトウェアを用いて手動でモデル構築を行う。
【0041】
個々の化学単位またはフラグメントを連結する際に当業者を援助するのに有用なプログラムには、下記のものが含まれる:
1. CAVEAT (Bartlett et al., 1989, 化学的および生物学的問題における分子認識、特別発表, Royal Chem. Soc., 78:182-196)。CAVEATは、カリフォルニア大学(カリフォルニア州バークレー)から入手できる;
2. 三次元データベースシステム、たとえばMACCS-3D (MDL Information Systems、カリフォルニア州サン・レアンドロ)。この領域は、Martin, 1992, Med. Chem., 35:2145-2154に概説されている;および
3. HOOK (Molecular Simulationsから入手できる;マサチュセッツ州バーリントン)。
【0042】
前記のように一度に1個のフラグメントまたは化学単位で段階的にpyrH阻害薬の構築を行う代わりに、空の活性部位または所望により既知阻害薬(1以上)のある部分(1以上)を含むものを用いて、阻害化合物または他のタイプの結合化合物を全体として、または”デノボ”設計することができる。これらの方法には、下記のものが含まれる:
1. LUDI (Bohm, J. Comp. Aid. Molec. Design 6:61-78, 1992)。LUDIは、Biosym Technologies(カリフォルニア州サンディエゴ)から入手できる;および
2. LEGEND (Nishibata and Itai, Tetrahedron,47:8985, 1991)。LEGENDは、Molecular Simulations(マサチュセッツ州バーリントン)から入手できる;
3. LeapFrog (Tripos Associatesから入手できる;ミズーリ州セントルイス)。
【0043】
候補阻害薬とpyrH活性との相互作用能を評価し、候補阻害薬を必要に応じて構造修飾し、修飾した候補阻害薬について一組の原子座標を作成する。修飾した候補阻害薬をコンピューター支援法により、また所望によりインビトロおよび/またはインビボ試験により、さらに評価し、必要ならばさらに修飾して、増強された特性(たとえば、出発時の候補化合物より高い阻害活性)をもつ修飾した候補阻害薬を作成する。多様な常法を用いて、前記の各評価、および候補化合物がpyrHを阻害する能力についてのスクリーニングに必要な評価を行うことができる。一般にこれらの方法は、特定部分の位置および結合近接度、結合した阻害薬の占有空間、阻害薬とタンパク質の相補性接触表面の量、特定化合物の結合による変形エネルギーの測定、ならびに水素結合強度および/または静電相互作用エネルギーのある程度の推定を伴う。前記の評価に有用な方法の例には下記のものが含まれる:量子力学、分子力学、分子動態、モンテ・カルロサンプリング(Monte Carlo sampling)、系統的検索および距離計測法(Marshall, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 27:193, 1987)。これらの方法を実施する際に使用するための特定のコンピューターソフトウェアが開発されている。これらの用途のために設計されたプログラムの例には、下記のものが含まれる:Gaussian 92 [M.J. Frisch, Gaussian, Inc.、ペンシルベニア州ピッツバーグ、版権1993年]; AMBER [P.A. Kollman、カリフォルニア大学、サンフランシスコ、版権1993年]; QUANTA/CHARMM [Molecular Simulations, Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ、版権1992年]。pyrHの阻害薬をスクリーニングするために、他の分子モデリング法も使用できる。たとえばCohen et al., 1990, J. Med. Chem., 33:883-894; Navia & Murcko, 1992, Curr. Opin. Struct. Biol., 2:202-210を参照。本明細書に記載するモデル構築法およびコンピューター評価システムは本発明を限定するものではないが、それらの適時実施についてすべて図7に示したpyrHの原子座標の利用能に依存する。
【0044】
他のハードウェアシステムおよびソフトウェアパッケージが当業者に知られており、利用できるのは明らかであろう。
【0045】
たとえばこれらのコンピューター評価システムを用いて、多数の化合物を迅速かつ容易に評価でき、経費および時間のかかる生化学試験を避けることができる。さらに、多数の化合物を実際に合成する必要性が効果的に除かれる。
【0046】
他の態様において本発明は、pyrHの候補調節薬を化学合成、酵素合成または他の合成法により製造する方法に関する。本明細書の記載に従って同定または設計した候補調節薬は、当業者に既知の方法で製造できる。
【0047】
本明細書に記載するモデリング方法により阻害薬が同定されると、pyrHを結合および阻害する生物活性についてその阻害薬を標準法により試験することができる。たとえば、阻害薬をスクリーニングするための一般的な方式による結合アッセイに、pyrHを使用できる。使用するのに適切なアッセイ法には、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)または蛍光消光アッセイが含まれるが、これらに限定されない。他のアッセイ方式、たとえば生成物の形成を分光測光法により検出できる連携アッセイ法を使用できる:これらのアッセイ方式は本発明を限定するものではない。
【0048】
インビトロおよびインビボ結合分析
本発明方法は、本明細書に記載する結晶構造および新規な結合部位を用いてpyrHの阻害薬を同定する方法を含む。本発明に含まれる阻害薬には、pyrHの全体または結合部位に結合しうるいずれかの阻害薬が含まれ、それらは競合阻害薬または非競合阻害薬であってよい。生物活性が同定およびスクリーニングされると、これらの阻害薬は細菌の増殖および拡散を遮断する治療または予防に使用できる。
【0049】
1設計方法は、本発明のpyrHを多様な化学単位からなる分子で探査して、候補pyrH結合物質とpyrHの相互作用に最適な部位を決定するものである。たとえば当該化合物を含有する溶液で浸漬した結晶から収集した高分解X線回折データにより、各タイプの分子が結合する位置を判定できる。本明細書中で用いる用語”浸漬した”は、当該化合物、たとえば有機溶剤、阻害薬、基質またはアロステリックモジュレーターを含有する溶液に、結晶を移すプロセスを表わす。次いでこれらの部位に緊密に結合する低分子を設計、合成し、それらのpyrH阻害活性を試験することができる(Bugg et al., 1993, Scientific American, Dec:92-98; West et al., 1995, TIPS, 16:67-74)。
【0050】
本発明のpyrHを用いて、たとえば本明細書に記載するいずれかのコンピューターモデリング法、インビトロ結合アッセイ、またはハイスループットスクリーニングにより同定した物質の結合を確認し、結合様式に関する情報を得ることができる。たとえば提示された結合物質の存在下で生長させたpyrH結晶から収集した高分解回折データを、図7に列記したpyrH原子座標と組み合わせ、後記の分子置換法を用いて、pyrHと提示された結合物質の複合体の構造を求めることができる。あるいは、図7に挙げたpyrH分子の原子座標を実験によるX線回折データと直接組み合わせて用いて差分フーリエ電子密度マップ(difference Fourier electron density map)を作成し、これからその物質の結合を同定することができる。あるいは、pyrHの既存の結晶を、提示された結合物質を含有する溶液に移し、その物質が結晶格子全体に拡散してpyrHの結合部位に結合しうるのに十分な時間をおいてもよい。次いで、これらの結晶からX線回折データを収集し、前記に従ってこれらを用いて、pyrHに対するその物質の結合の性質を判定することができる。これらの方法により、pyrHに対するその物質の結合を確認し、さらにpyrHとその結合物質の相互作用の性質を解明することができ、こうして後続段階での結合物質の最適化が可能となる。
【0051】
本発明のpyrHを、たとえばNMR分光実験からのデータと組み合わせて用いて、前記のいずれかのコンピューターモデリング法、または他のいずれかの方法、たとえばインビトロ結合アッセイもしくはハイスループットスクリーニングにより同定した物質の結合を確認することもできる。たとえば、結合物質の存在下および不存在下で分析したpyrH試料についてのNMR化学シフトの変化を測定することにより、pyrHに対するその物質の結合親和性(KD)を判定できる。さらに、化学シフトの変化を引き起こす残基を本発明のpyrHの構造上へマッピングすることにより、当該物質に対する結合部位を同定できる。たとえばOtting, 1993, Current Opinion in Structural Biology, 3:760-768; Hensmann et al., 1994, Protein Science, 3:1020-1030; Craik et al., 1990, Annual Reports on NMR Spectroscopy, 22:61-128を参照。
【0052】
本発明には、pyrHの阻害薬を同定するためのインビトロ生物学的アッセイ法が含まれる。このアッセイ法は、PCT/GB2004/002158(2004年5月19日出願)(その全体を本明細書に援用する)に詳述される単一または二重酵素活性アッセイ法、あるいはこれに匹敵するインビトロアッセイ系であって、アロステリックエフェクターおよび/または基質の添加前に低分子、タンパク質またはそのフラグメントを細菌に添加するものであってもよい。細菌の成長が対照(阻害薬を含まない)と比較して阻害された場合、pyrHの阻害薬が同定されたことになる。
【0053】
本発明は、被験結合物質のインビボ抗菌活性分析をも含む。この方法は、哺乳動物対象(好ましくはヒト以外の霊長類またはげっ歯類)に、その対象において感染を確立するのに十分な臨床関連量の細菌を感染させることを含む。細菌が感染を確立した後、被験阻害薬(たとえば抗菌性結合薬)を対象に投与することができる。別個の対照群にプラセボを投与することができる。組織、血液および血液産物を種々の時点で採集して感染の経過を判定し、感染度を低下させる(部分的または全体的に)物質を有効な感染阻害薬と判定することができる(たとえばSande et al., 1988, Reviews of Infectious Diseases, 10 Suppl. 1:S113-6、またはJacobs, 2003, International Journal of Infectious Diseases, 7 Suppl 1:S13-20を参照)。
【0054】
相同モデリング
ある態様において本発明は、図7に記載するインフルエンザ菌pyrHの原子座標を用いて、インフルエンザ菌pyrHのタンパク質相同体またはバリアントの三次元原子座標を作成するための、下記を含む方法に関する:
a.インフルエンザ菌pyrHに相同な1以上のポリペプチド配列を同定し;
b.これらの配列をSEQ ID NO:14のアミノ酸配列をもつポリペプチドを含むインフルエンザ菌pyrHの配列とアラインし;
c.相同配列(1以上)とインフルエンザ菌pyrHとの間の構造保存領域および構造可変領域を同定し;
d.インフルエンザ菌pyrHの原子座標、たとえば図7に挙げたものを用いて、インフルエンザ菌pyrHのものから構造保存されている相同配列(1以上)の残基について三次元原子座標を作成し;
e.相同配列(1以上)の構造可変領域におけるヘリックス、鎖、ループおよび/またはターンのコンホメーションを作成し;
f.相同配列(1以上)について側鎖コンホメーションを構築し;そして
g.保存残基、ループおよび側鎖コンホメーションの三次元原子座標を組み合わせて、それらの相同配列(1以上)の完全または部分三次元原子座標を作成する。
【0055】
こうして、本明細書に記載するpyrH構造により、実験による構造情報を容易に得ることができない相同タンパク質の構造をモデリングすることができる。
【0056】
分子置換
pyrHは1以上の形態で結晶化する可能性がある。したがって本明細書に記載するpyrHの原子座標は、他の結晶形態のpyrH、または他の結晶形態のpyrHの結合ドメインの構造を解明するために、特に有用である。本発明のpyrHの一部は、活性部位(基質結合部位)として機能する。それらを用いて、pyrH変異体、pyrH複合体、pyrHアイソザイム、またはpyrHに対して有意のアミノ酸配列相同性もしくは構造相同性をもつ他のタンパク質の結晶形態の構造を解明することもできる。1態様において、有意のアミノ酸配列相同性には、pyrHのいずれかの機能ドメインに対する少なくとも40%、45%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一性が含まれる。
【0057】
この目的に使用できる1方法は、分子置換である。この方法では、未知の結晶構造を、それがインフルエンザ菌pyrHの他の結晶形態、pyrHアイソザイム、もしくはpyrH共複合体であっても、またはpyrHのいずれかの機能性ドメインに対して有意のアミノ酸配列相同性性をもつ他のいずれかのタンパク質の結晶であっても、本発明のpyrH原子座標を用いて判定できる。この方法により、未知結晶の精確な構造形態を、最初からそのような情報を測定する試みより迅速かつ効率的に得ることができる。
【0058】
分子置換の各段階を実施するために使用できるプログラムの例には、MOLREP (Vagin and Teplyakov, 1997, J. Appl. Cryst., 30:1022-1025)、AMoRe (Navaza, 2001, Acta Cryst., D57(10):1367-1372)、Beast (Read, 2001, Acta Cryst., D57(10):1373-1382)、GLRF (Tong & Rossmann, 1990, Acta Cryst., A46:783-792)、COMO (Jogl et al., 2001, Acta Cryst., D57(8):1127-1134)、EPMR (Kissinger et al., 1999, Acta Cryst., D55(2):484-491)が含まれる。MOLREP、AMoReおよびBeastソフトウェアは、CCP4ソフトウェアパッケージ(CCP4, Acta Cryst., D50:760-763, 1994)の一部として配布されている。一例として、MOLREPは2段階法で分子置換の解を見いだす統合分子置換プログラムである:(1)モデルの配向を同定するための回転関数(rotation function)(RF)検索、ならびに(2)配向したモデルの位置を同定するための相互平行移動関数(cross translation function)(TF)およびパッキング関数(PF)検索。平行移動関数は、回転関数の幾つかのピークを、各ピークに関する相関係数を計算して結果をソーティングすることにより検査する。パッキング関数は、オーバーラップ対称に相当する不適正解を除去するために重要である。MOLREPは、不斉単位当たり任意の分子数を検索するように設定でき、追加分子を加えても解のそれ以上の改善が得られない場合は自動的に停止するであろう。
【0059】
他の観点において本発明は、前記のソフトウェアプログラムまたはそれらに匹敵する当業者に既存のプログラム、ならびに本明細書および図7に列記した原子座標を用いて、未知構造の分子または分子複合体についての情報を得るための、分子置換を伴う方法を提供する。
【0060】
本発明の実施
本発明の実施には、別途指示しない限り、当業者が容易に実施できる細胞生物学、細胞培養、分子生物学、微生物学および組換えDNA操作、X線結晶学、NMR分光分析、ならびに分子モデリングの一般的な技術を使用する。そのような技術は文献に十分に説明されている。たとえば下記を参照されたい:
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 編者Sambrook, Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989);
DNA Cloning, Vol. IおよびII (D. N. Glover編, 1985);
Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編, 1984);
Mullis et al., U.S.P. No.: 4,683,195;
Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins編, 1984);
Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins編, 1984);
B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984);
論文, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc.、ニューヨーク);
Methods In Enzymology, Vol. 154および155 (Wu et al.編), Crystallography made crystal clear: a guide for users of macromolecular models (Gale Rhodes, 第2版、サンディエゴ: Academic Press, 2000)。
【0061】
均等物
本発明において本発明の範囲および精神から逸脱することなく多様な改変および変更をなしうることは、当業者に自明であろう。本発明の他の態様は、本明細書に開示する詳細な記載および実施を考慮すれば当業者に自明であろう。詳細な記載および例は例示にすぎず、本発明の真の範囲および精神は特許請求の範囲により示されるものとする。
【0062】
本発明をさらに下記の実施例により説明する。これらは本発明の幾つかの態様を詳細に説明するためのものである。これらの実施例は本発明を限定するものではなく、そのように解釈すべきでない。
【0063】
実施例
実施例1:インフルエンザ菌pyrHのクローニング、精製および特性解明
インフルエンザ菌pyrH UMPキナーゼ遺伝子(HI-1065)を、配列決定されたRd株KW20 (Fleischmann et al., 1995 Science, 269: 496-512)から抽出したゲノムDNAよりクローニングした。クローニングは、HI-1065のタンパク質コード配列を増幅するために特別に設計されたプライマーを用いて行った。NcoI制限酵素(RE)部位を5'側プライマー内へ工学的に導入し、SalI RE部位を3'側プライマー内へ工学的に導入して、過剰発現のためのpET28b内へのサブクローニングを容易にした。5'側プライマーはATG開始コドンの上流9bpを含み、3'側プライマーはTAG終止コドンの下流16bp (SalIを含む)を含んでいた。NcoI部位を導入すると、pyrHの第2コドンの最初のヌクレオチドがA(GC)からG(GC)に変化して、セリン(HI1065コードタンパク質配列中)からグリシン(pSM143コードタンパク質配列中)への置換が生じた。
【0064】
増幅に用いた2つのプライマーは、下記のものであった:
5' HI1065-NcoI
5’GAAAAAACCATGGGCCAACCAATTTATAAACG 3’ SEQ ID NO:11
3' HI1065R-SalI
5’TTCTTGTCGACATTCACTAACAAATAGTGGTGCC 3’ SEQ ID NO:12
上記のプライマーを用いてpyrHをPCR増幅した後、得られたDNAをゲル精製し、pGEM-T (Promega)中へクローニングした。このクローン(pSM143)中のDNA挿入配列を分析して、意図しないエラーなしに適正な配列が存在することを確認した。配列決定すると、3'側SalI RE部位が設計どおりには存在しないことが見いだされた(プライマー合成におけるエラーによる可能性が最も高い)。ただしタンパク質コード配列は適正であったので、このpyrH遺伝子をまずpSM143からpUC128 (Keen et al., 1988, Gene, 70(1): 191-197)中へPstI−SacIIフラグメントとしてサブクローニングし(pSM144)、次いでpET28b中へNcoI−EcoRIフラグメントとしてクローニングし、pSM145を作成した。pSM145を、過剰発現のために大腸菌株BL21 (DE3)内へ形質転換した。30℃で発現を行った。細胞密度が0.35〜0.5のOD600に達した時点で、1mMのIPTGにより増殖培養を誘導した。さらに2時間増殖させた後、細胞を遠心分離により採集し、4℃に冷却した。得られた細胞ペーストを凍結保存した。セレノ-メチオニン(SeMet)標識pyrHの産生は、大腸菌BL21(DE3)/pSM145細胞を2LのM9最小培地(0.05 mg/mlのSeMetおよび40μg/mlのカナマイシンを補充)中、室温で5.5時間増殖させ、続いて1 mMのIPTGにより室温で一夜、pyrH発現を誘導することにより達成された。2H13C15N標識pyrHの産生は、大腸菌BL21(DE3)/pSM145細胞を1 LのSilante大腸菌OD2 CDN培地(VLI Research)(40μg/mlのカナマイシンを補充)中、30℃で6.5時間増殖させ、続いて1 mMのIPTGにより30℃で一夜、pyrH発現を誘導することにより達成された。
【0065】
pSM145にクローニングされた挿入配列のヌクレオチド配列:
【0066】
【化1】

【0067】
pSM145にクローニングされた挿入配列のアミノ酸配列:
【0068】
【化2】

【0069】
結晶化に使用するためのインフルエンザ菌pyrHの精製
凍結細胞ペーストを、40 mlの細胞溶解用緩衝液[50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM DTT, 2 mM UTP, 1 mM PMSF, プロテアーゼ阻害薬カクテル錠1個(Roche Molecular Biochemical)]に懸濁した。細胞を18,000 psiで作動するフレンチプレスに2回通すことにより破壊し、粗抽出液を25,000 rpm(45Tiローター、Beckman)で4℃において30分間遠心分離した。上清を流速1.5 ml/分で20 mlのQ-Sepharose HP (HR16/10)カラム(Amersham Biosciences )に装填した;カラムは緩衝液A(50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM DTT, 2 mM UTP)で予め平衡化された。次いでカラムを緩衝液Aで洗浄し、タンパク質を緩衝液A中0〜1 MのNaClの直線勾配により溶離した。PyrH含有画分をプールし、固体(NH4)2SO4 (0.4 g/ml)を添加してすべてのタンパク質を沈殿させ、氷上で1時間混合した。試料を11,000 rpm、4℃で30分間遠心分離した(JA12ローター、Beckman)。次いでペレットを7 mlの緩衝液Aに溶解した。この7 mlの試料を流速1.0 ml/分で320 mlのSephacryl S-300 (HR 26/60)カラム(Amersham Biosciences)に装填した;カラムは緩衝液B (50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM DTT, 2 mM UTP, 150 mM NaCl) で予め平衡化された。PyrH含有画分をプールし、1 Lの貯蔵用緩衝液(50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 0.1 mM EDTA, 1 mM UTP, 150 mM NaCl, 2 mM DTT, 20%グリセロール)に対して透析した。
【0070】
このタンパク質をSDS-PAGE分析および分析用LC-MSにより特性解明した。測定したタンパク質の質量は、DNA配列から推定したポリペプチドのN-末端メチオニンが存在しないことを示した[予想MW = 25569.0ダルトン(-N-末端Met)、実測値 = 25565ダルトン(-N-末端Met)]。このタンパク質を193Kに保存した。
【0071】
結晶化に使用するためのSeMet標識したインフルエンザ菌PyrHの精製
凍結細胞ペーストを、40 mlの細胞溶解用緩衝液[50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM DTT, 2 mM UTP, 1 mM PMSF, プロテアーゼ阻害薬カクテル錠1個(Roche Molecular Biochemical)]に懸濁した。細胞を18,000 psiで作動するフレンチプレスに2回通すことにより破壊し、粗抽出液を25,000 rpm(45Tiローター、Beckman)で4℃において30分間遠心分離した。上清を流速1.5 ml/分で20 mlのQ-Sepharose HP (HR16/10)カラム(Amersham Biosciences )に装填した;カラムは緩衝液A(50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM DTT, 2 mM UTP)で予め平衡化された。次いでカラムを緩衝液Aで洗浄し、タンパク質を緩衝液A中0〜1 MのNaClの直線勾配により溶離した。PyrH含有画分をプールし、固体(NH4)2SO4 (0.4 g/ml)を添加してすべてのタンパク質を沈殿させ、氷上で1時間混合した。試料を11,000 rpm、4℃で30分間遠心分離した(JA12ローター、Beckman)。次いでペレットを6 mlの緩衝液Aに溶解した。この6 mlの試料を流速1.0 ml/分で320 mlのSephacryl S-300 (HR 26/60)カラム(Amersham Biosciences) に装填した;カラムは緩衝液B (50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM DTT, 2 mM UTP, 150 mM NaCl) で予め平衡化された。PyrH含有画分をプールし、1 Lの貯蔵用緩衝液(50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 0.1 mM EDTA, 1 mM UTP, 150 mM NaCl, 2 mM DTT, 20%グリセロール)に対して透析した。
【0072】
このタンパク質をSDS-PAGE分析および分析用LC-MSにより特性解明した。測定したタンパク質の質量は、DNA配列から推定したポリペプチドのN-末端メチオニンが存在せず、他のすべてのメチオニンがセレノ-メチオニン(SeMet)で適正に置換されたことを示した[予想MW = 26127.6ダルトン(-N-末端SeMet)、実測値 = 26126.0ダルトン(-N-末端SeMet)]。このタンパク質を193Kに保存した。
【0073】
NMR分光実験に使用するための同位体標識したインフルエンザ菌pyrHの精製
2H13C15N標識したインフルエンザ菌pyrHの精製を、SeMet標識pyrHについて記載したものと同様に行った。
【0074】
実施例2:インフルエンザ菌pyrHの結晶化
精製したインフルエンザ菌pyrHを、約10 mg/mlのタンパク質濃度で288Kの温度において、ヌクレオチド(1 mM UMP, 1 mM UTP, 1 mM GTPおよび1 mM ATP)の存在下に希マトリックス結晶化スクリーニング(sparse matrix crystallization screening)した。標準法によりスクリーニングリードを最適化した。
【0075】
懸滴法を用いる蒸気拡散(たとえば”Protein Crystallization”, Terese M. Bergfors (編者), International University Line, pp 7-15, 1999を参照)により、図7の原子座標をもつ結晶を得た。精製したインフルエンザ菌pyrHは、貯蔵用緩衝液(50mM Tris-HCl pH 8.0, 0.1mM EDTA, 1mM UTP, 150mM塩化ナトリウム, 2mM DTT, 20%グリセロール)中93 mg/ml の濃度で193Kに保存されていた。約2.3 mgのタンパク質を含有する1部分を貯蔵から融解し、下記の緩衝液中で十分に洗浄した:50 mM Tris-HCl pH 8.5、50 mM NaCl、10mM DTT、0.1 mM EDTA、1mM ATP、1mM GTP、1mM UMP、1mM UTP。最終タンパク質濃度を10 mg/mlに調整した。約5〜約20 mg/mlの最終タンパク質濃度を用いて同様に結晶を得た。AMP-PNP、2'-BrATPまたは2'-IATPはすべて、最終タンパク質中のATPの代わりに使用できた。溜め溶液は一般に22〜27% (w/v)のポリエチレングリコール(PEG)1000、100mMの硫酸リチウム、および100 mMのリン酸-クエン酸緩衝液pH 5.0を含有していた。リン酸-クエン酸緩衝液は、リン酸水素ナトリウムに目的pHに達するまでクエン酸を滴下することにより調製された。溜め溶液中のPEG1000の濃度は約15% (w/v)から約30% (w/v)まで変更でき、タンパク質溶液中のpyrH濃度、または懸滴法における溜め溶液に対するタンパク質溶液の比をこれに応じて調整することにより、結晶が得られた。PEG1000を多様な分子量のPEG (PEG600〜PEG8000)に交換し、硫酸リチウムを他の多数の塩類(たとえば硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム)に交換した溜め溶液を用いて、同様に結晶を得た。溜め溶液中の硫酸リチウム濃度は約50mMから約400mMまで変更でき、約100〜約250mMの硫酸リチウムで最適結果が観察された。
【0076】
2μlのタンパク質溶液を2μlの溜め溶液と混合し、この液滴を500μlの溜め溶液上に懸垂することにより、懸滴を設置した。最高400×200×100ミクロンの寸法の結晶が288Kの周囲温度で5日以内に生長するのが観察された。より広い温度範囲(約285K〜約295K)にわたって同様に結晶が得られた。懸滴のサイズ、および溜め溶液に対するタンパク質の比も変更することができる。非標識pyrHをSeMet標識タンパク質のものと類似の条件下で、ただしタンパク質溶液中の10mM DTTの代わりに2mM DTTを用いて結晶化させた。
【0077】
選択した結晶を含有する液滴に、凍結保護剤を下記の方法で導入した。選択した液滴に対応する溜め溶液に5、10、15および20 % (v/v)のエチレングリコールを補充したものを含有する原液を調製した。上記に従って(すなわち2μlのタンパク質溶液を2μlの溜め溶液と混合することにより)設置した結晶を含有する完全平衡化液滴について、公称液滴容積は2μlと推定された。5% (v/v)のエチレングリコールを補充した溜め溶液の1公称液滴容積(すなわち2μl)を、結晶を含有する選択した液滴に添加し、穏やかに撹拌し、30秒間平衡化させた。次いで10% (v/v)のエチレングリコールを補充した溜め溶液の1公称液滴容積(すなわち2μl)を液滴に添加し、穏やかに撹拌し、30秒間平衡化させた。次いで15% (v/v)のエチレングリコールを補充した溜め溶液の2公称液滴容積(すなわち4μl)を、結晶を含有する液滴に添加し、穏やかに撹拌し、30秒間平衡化させた。次いで結晶マウンティング用ループ(Hampton Research、米国カリフォルニア州)内に液滴溶液の試料を採取し、低温(100K)窒素流中でフラッシュ冷却することにより試験した。溶液が透明なガラスを形成した場合、選択した結晶を液滴から採取し、同様にフラッシュ冷却した。溶液が不透明な氷を形成した場合、20% (v/v)のエチレングリコールを補充した溜め溶液の2公称液滴容積(すなわち4μl)を、結晶を含有する選択した液滴に添加し、穏やかに撹拌し、30秒間平衡化させた後、選択した結晶を結晶マウンティング用ループで液滴から取り出し、低温(100K)窒素流中でフラッシュ冷却した。フラッシュ冷却した結晶を一般に自社Mar345検出器(MarResearch,ドイツ、ハンブルグ)で試験した後、シンクロトロン放射線源でデータ収集した。
【0078】
実施例3:X線回折データ収集
結晶を自社X線源(MarResearch 345mmイメージ-プレート検出システム;45 kVおよび90 mAで作動するBruker-Nonius FR591回転式アノードによりX線を発生)により約3.2Åの分解度まで回折した。結晶は菱面体空間群R32に属し、a = b = c = (146.5+/-0.7)Åおよびα=β=γ= (97.38+/-0.07)°の格子パラメーターをもっていた。本発明のpyrH結晶がa = b = (215+/-1.0)Åおよびc = (233.6+/-1.5)Å、ならびにα=β=90°およびγ= 120°の単位格子パラメーターをもつ菱面体空間群の六方晶均等物において作業するのが好都合であることは、当業者に認識されるであろう。この結晶形は図7の原子座標に含まれる。完全な一組のデータをPX14.2(SRS、英国ダレスベリー)で2.3Åの解像度まで収集した(表2、ピーク1を参照)。
【0079】
MAD (Multiwavelength Anomalous Dispersion)データを、SeMet標識インフルエンザ菌pyrHの単結晶からPX14.2(SRS、英国ダレスベリー)で収集した。3種類の異なる波長(0.9600Å、0.9794Åおよび0.9797Å)で4組のデータを収集した。これらのデータを、それぞれプログラムMOSFLMv6.2.3 (Leslie, Jnt CCP4/ESF EACMB Newslett. Protein Crystallogr., 26, 1992; Powell, 1999, Acta Cryst. D55(10):1690-1695)、SCALAおよびTRUNCATE (Collaborative Computational Project, Number 4 (CCP4), Acta Cryst., D50:760-763, 1994)により積分、スケール(scale)および併合(merge)、ならびにトランケート(truncate)した。MADデータ収集の統計分析を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例4:MADデータを用いた位相判定
プログラムXprep (Bruker, 米国マディソン)を用いて、表1に記載した4組のデータからデルタF値(ここでデルタF=|F+-F-|)を分析、スケールおよび計算した。
【0082】
結晶単位格子含有物の分析により、結晶不斉単位は6〜12分子のpyrHを含む可能性のあることが示唆された。インフルエンザ菌pyrHが溶液中でホモ六量体として存在することが知られているので、本発明者らはまず不斉単位は1個の六量体アセンブリー(すなわち6個のpyrH分子、したがって72個のセレン原子(Se))を含むと推定した。XprepによるデルタF値出力をプログラムShelxD (Schneider et al., 2002, Acta Cryst., D58:1772-1779)への入力として用い、これに72のSe部位を見いだすように要求した。最上ランクの解(CC=59.4%)は101の潜在Se部位を含み、第70部位の後に占有率が明瞭に低下した。プログラムShelxE (Sheldrick, 2002, Zeitschrift fur Kristallographie, 217(12):644-650)を用いて、上部72のSe部位を証明し、適正な鏡像体を決定した:コントラストに関する高い数値(0.46;この数値は実験による電子密度マップ内に、電子密度の数値の大きなゆらぎ(タンパク質エンベロープ内)と小さなゆらぎ(溶媒内)の領域が存在することを指摘する)および結合度(0.91;この数値は電子密度マップ中の隣接ピクセルのうち両方とも溶媒または非溶媒として分類される部分である)により、適正な解であることが指摘された。ソルベントフリッピング(solvent flipping)(密度修正法)によりこれら72のSe部位を詳細化し、位相を計算および改善し、プログラムSHARP (La Fortelle et al., 1997, Methods Enzymol., 276:472-494)、SOLOMON (Abrahams et al., 1996. Acta Cryst., D52:30-42, 1996; CCP4, 1994, 前掲)、ARP/wARP (Perrakis et al., 1999, Nature Struct. Biol., 6(5):458-463)およびRefmac (Murshudov et al., 1997, Acta Cryst., D53(3):240-255; CCP4, 1994, 前掲)を用いてこのポリペプチド主鎖に関する部分モデルを自動的に構築および詳細化した;AutoSHARPプログラムスイート(Bricogne et al., 2003, Acta Cryst., D59(11):2023-2030)において実行。3組のデータ、すなわちピーク1(ネイティブとして使用)、変曲(inflection)および遠隔(remote)(表2を参照)をAutoSHARPに対する入力として用いた。ARP/wARPによる部分モデル出力は、70の別個の鎖にグループ分けされる1236個の残基を含んでいた。この部分モデルおよび付随する電子密度マップを検査して、結晶不斉単位中にpyrH分子の六量体アセンブリーが存在することを確認した。しかし、さらに1つのpyrH分子二量体も同定された。この二量体は結晶3フォールド軸に近接した位置にあり、その結果、六量体は結晶格子内の二量体から結晶学的対称操作により形成できる。したがってこの結晶は不斉単位中に8分子のpyrHをもつ。
【0083】
ShelxDの繰り返し操作により、可能性のある96のSe部位のうち87の位置を決定した。プログラムShelxEを用いてこれらの部位を再び証明し、適正な鏡像体を決定した。コントラスト(0.60)および結合度(0.93)に関する高い数値により、適正な解であることが指摘された。さらに5つのSe部位の位置が決定され、合計92のSe位置をソルベントフリッピングにより詳細化し、位相を計算および改善し、前記のようにAutoSHARPプログラムスイートからのプログラムを用いてこのポリペプチド主鎖に関する部分モデルを自動的に構築および詳細化した。ARP/wARPによる部分モデル出力は、65の別個の鎖にグループ分けされる1888個の可能性のある残基のうち1244個を含んでいた。SHARP、SOLOMONおよびDMを用いた位相決定の統計分析を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
実施例5:インフルエンザ菌pyrH結晶構造のモデル構築および詳細化
AutoSHARPによる電子密度マップ出力を8フォールド非結晶対称(non-crystallographic symmetry (ncs))平均化による密度修正により周辺改善した;プログラムDM (CCP4, 1994, 前掲)において実行。AutoSHARPからのソルベントフラットニングしたマップをDMからの密度修正マップと組み合わせて用い、部分モデルおよび92のSeMet部位の案内により、ポリペプチド鎖を容易にトレースすることができた。pyrHの単分子(モノマー)に関する初期モデルを構築した:2つのループ領域(SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基18〜24およびアミノ酸残基168〜179)を除いて、主鎖全体および大部分の側鎖が良好に規定された。残基168〜179からなる後者のループ領域に関する電子密度は、結晶不斉単位内の分子サブセット中に見ることができ、ある程度の信頼性をもってこの領域を構築することができた。差分フーリエ(mFo-DmFc)電子密度マップ中に、結合リン酸イオンと一致する有意のピークが、保存された富グリシン領域(SEQ ID NO: 14のGly52-Gly53-Gly54)に近接して見られた。このリン酸は、結晶化溜め溶液中に存在するリン酸-クエン酸緩衝液に由来する可能性が最も高かった。
【0086】
次いで部分モデルから誘導した非結晶学的対称操作を用いて、初期モノマーモデルから結晶不斉単位中の8分子を作成した。
【0087】
8分子を含むこのモデルについて、プログラムRefmac5 (CCP4, 1994, 前掲)を用いて20サイクルの剛体詳細化(rigid body refinment)(各分子を1個の剛体と規定した)を行った。この方法で、後続ラウンドのncs-拘束詳細化に使用するための改善された一組のncs演算子が得られた。プログラムCNX(Accelrys)を用い、粗解答および全異方性B-因子補正を適用して、詳細化を続けた。2ラウンドのねじれ角力学によるncs-拘束模倣アニーリング(開始温度2500 K)、続いて20サイクルのエネルギー最小化、最後に15サイクルの個別等方性B-因子詳細化を、このモデルから計算した位相に対して行った。次いでプログラムQUANTA (Accelrys; Oldfield, Acta Cryst., D57(1):82-94, 2001)を用いて1ラウンドの相互モデル構築を行った。この時点で差分フーリエ電子密度マップに、いずれのタンパク質側鎖にも属さない第2組の有意のピークが、二量体界面を規定する長いヘリックスのC-末端付近の残基Arg88に近接して見られた(アルファC、図1〜3を参照)。この密度は結合ヌクレオチドから発するものと解釈された。詳細化の後段階で、この領域の電子密度は、7分子のアロステリックエフェクターGTPを不斉単位中に存在する8つの潜在結合部位内に配置するのに十分なほど明瞭になった。結合GTPの三リン酸部分は秩序性に乏しく、ベータ-リン酸は少なくとも3つの異なるコンホメーションをとる。ガンマ-リン酸の位置は十分には規定されず、したがってこれを最終モデルから除外した。さらに1ラウンドの相互再構築の後、モノマーモデルについてさらに1ラウンドのプログラムCNXによるncs-拘束詳細化を行った。次いで詳細化したモノマーモデルから前記に従ったncs操作の適用により不斉単位の全内容を再生した。プログラムQUANTAによるさらに数ラウンドの相互モデル構築を、プログラムCNXによるncs拘束詳細化と交互に行って(モデルの質が改善されるのに伴って、ncs拘束を漸次緩和する)、R-値0.25およびR無し値0.28をもつモデルを得た。プログラムRefmac5、詳細化用TLS (translation, libration and screw)、位置および等方性Bパラメーターを用い、ncs拘束を適用せずに、さらに2ラウンドの詳細化により、R-値0.22およびR無し値0.25の最終モデルを得た。
【0088】
R-値は実測データとモデルから計算した合成データとの相違を記述する。R無し値はこれと同じであるが、詳細化の最初に除かれた、データの過剰適合を避けるための不偏基準として用いられる試験組の鏡映(reflection)(通常は合計の5%)から計算されたものである。R-値は解像度依存性であるが、一般に0.25以下でなければならず、R無しは一般にR-値より0.05以上高くてはならない。
【0089】
最終モデルは、最高236アミノ酸の8ポリペプチド鎖(SEQ ID NO: 14および図7に規定する分子Aのアミノ酸残基1〜20、23〜168および179〜236、分子Bのアミノ酸残基1〜18および24〜236、分子C、D、F、GおよびHのアミノ酸残基1〜236、ならびに分子Eのアミノ酸残基1〜18および23〜236)、7分子のGDP、8個のリン酸イオン、1個の硫酸イオン、および358個の秩序水分子からなる。結晶化溶液中に1mMのATP、1mMのUMPおよび1mMのUTPが存在するにもかかわらず、これらのヌクレオチドはインフルエンザ菌pyrH結晶構造中に見られなかった。最終モデルの統計分析を表4に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
図7は、GTPおよびホスフェートと複合体形成したインフルエンザ菌由来のpyrH結晶構造の三次元原子座標のリストである。提示した原子座標は、結晶不斉単位の8つのポリペプチド鎖すべてのものである。鎖C、D、E、F、GおよびHが1つの六量体アセンブリーを構成する。当業者は、鎖AおよびBからなる二量体アセンブリーから、結晶学的対称操作を用いて類似の六量体アセンブリーを作成することができる。この図中、原子リストの前に表題CRYST1があり、これに続いて結晶単位格子の3つの次元がある。次の3つの数値は原子座標を直交Å座標から単位格子の部分座標に換算する行列を規定する。ATOM(原子)と標記した各列は(任意)原子番号、各アミノ酸主鎖に与えた標記、各原子タイプ、アミノ酸残基タイプ、タンパク質鎖の標記(Aは第1分子(鎖)を構成し、Bは第2分子(鎖)を構成し、Cは第3分子(鎖)を構成し、Dは第4分子(鎖)を構成し、Eは第5分子(鎖)を構成し、Fは第6分子(鎖)を構成し、Gは第6分子(鎖)を構成し、Hは第6分子(鎖)を構成する)、およびアミノ酸残基番号を示す。列の最初の3つの数値は、その原子の直交X、Y、Z座標を示す。次の数値は占有数であり、その原子が1より多い位置でみられた場合は1.0未満である(アミノ酸は1より多い配向でみられる可能性がある)。最後の数値は、その原子の熱振幅に関する温度係数である。リストの最後に、モデルに含まれる結合GTP分子(GDP)、リン酸イオン(PO4)、硫酸イオン(SO4)、および秩序水分子(HOH)を示す一連のデータがある。
【0092】
実施例6:インフルエンザ菌pyrHの結合部位の決定
pyrH結晶の不斉単位は、pyrHポリペプチド鎖8コピーからなり、これらはホモ六量体アセンブリーおよびホモ二量体(これから結晶学的対称転移の操作により六量体アセンブリーを作成できる)に対応する。インフルエンザ菌pyrH六量体アセンブリーは、二量体の三量体と記述できる。これらの二量体は、安定な保存された疎水性コアにより互いに保持され、このコアは2つの長い逆平行アルアァヘリックス(残基68〜95、ヘリックスC、図1を参照)の面に沿ってメチオニン残基のインターロックにより形成されている。各pyrH分子の保存された逆平行に配向したベータ3-ベータ4ループ(残基104〜109を含む)間で、さらに相互作用が起きる。1つのpyrH分子中のベータ1-アルアァAループからの残基25、27、30および31ならびにアルアァAヘリックスのN-末端(図1を参照)と、第2分子中の短いらせん領域からの残基57、61、62および65(ヘリックスB、図1を参照)との間にも、安定化接点がある。したがって、分子間二量体界面は、SEQ ID NO: 14のアミノ酸Ile25、Pro27、Leu30、Asp31、Phe57、Lys61、Leu62、Ala65、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val71、His74、Met75、Gly76、Leu78、Ala79、Val81、Met82、Leu85、Ala86、Arg87、Asp88、Arg89、Phe104、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108およびIle109を含む。
【0093】
3つの二量体が一緒になって、第1二量体からの第1分子の残基Asn68、Arg69、Val70、Val71、His74、Arg88、Phe92、Lys99、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108、Ile109、Cys110、Asp111、Thr112、Tyr113、Asn114、Trp115、Glu117、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Leu147、Arg148、Ile150、Glu151、Glu153、Leu198、Ser199、Thr202、Leu203およびHis207、第2二量体からの第2分子の残基Asn68、Arg69、Val70、Val71、His74、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Leu147、Arg148、Ile150、Glu151、Glu153、Leu198、Ser199、Thr202、Leu203およびHis207、第2二量体からの第3分子の残基Arg88、Phe92、Lys99、Asn107、Gly108、Ile109、Cys110およびAsp111、ならびに第3二量体からの第4分子の残基Gln105、Leu106、Thr112、Tyr113、Asn114、Trp115およびGlu117を伴う相互作用により、六量体アセンブリーを形成する。接点はすべて、5Åの半径およびプログラムContact(CCP4、1994, Acta Cryst., D50:760-763)を用いて決定された。したがって、分子間二量体-二量体界面はSEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Asn68、Arg69、Val70、Val71、His74、Arg88、Phe92、Lys99、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108、Ile109、Cys110、Asp111、Thr112、Tyr113、Asn114、Trp115、Glu117、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Leu147、Arg148、Ile150、Glu151、Glu153、Leu198、Ser199、Thr202、Leu203およびHis207を含む。
【0094】
アロステリック結合部位
アロステリックエフェクターGTPは、六量体アセンブリーの中心に近接して、2つの二量体の界面に結合する。結合した各GTP分子は、3つのpyrH分子からの残基と接触し(図2〜3を参照)、1つの二量体からの第1分子の残基88〜99および126、同二量体からの第2分子の残基68〜71、隣接する第2二量体からの第3分子の残基115〜123に対応する配列内の部位に結合する。したがって、GTPの結合は六量体形成に依存し、かつ関与している可能性がある。この六量体はUTPの存在下で安定化され、これはGTPと同一部位において隣接二量体単位の界面に結合する可能性がある。
【0095】
このタンパク質と結合GTPの間には良好な形状調和がある。プリン環が、第1分子のPhe92、第2分子のVal71、および第3分子のTrp115の側鎖間に挟まれる。結合は、好都合なファンデルワールス相互作用によって完全に推進されるわけではない。多数の極性相互作用がある:たとえば第1分子のArg88の側鎖グアニジニウム基とグアニン環のN7およびO6原子の間、ならびに第1分子のAsp89の主鎖アミノ基および側鎖カルボキシル基とグアニン環のN1原子および2-NH2基の間の相互作用。リボースのヒドロキシル基は、第3分子からのArg123のグアニジニウム基との二座相互作用により安定化される。さらに、第3分子からのSer116とリボース環の間に接点がある。結合GTPの三リン酸部分は秩序性に乏しく、ベータ-リン酸は少なくとも3つの異なるコンホメーションをとる。アルファ-リン酸は、第1分子からのArg126の側鎖および第3分子からのSer116の側鎖との相互作用により安定化される。観察されたコンホメーションの1つにおいては、ベータ-リン酸は第1分子のAsn97およびArg126の側鎖との相互作用により安定化される。第2コンホメーションにおいては、ベータ-リン酸は第3分子からのSer116の側鎖、および第1分子からのAla98の主鎖カルボニルとの相互作用により安定化される。第3コンホメーションにおいては、ベータ-リン酸は第1分子からのLys99およびArg126の側鎖、ならびに第3分子からのLys120の側鎖との相互作用により安定化される。ガンマ-リン酸の位置は十分には規定されず、これを最終モデルから除外した。結晶不斉単位中の8分子の相対コンホメーションの分析(図4を参照)により、アロステリック結合部位におけるGTPの結合がヘリックスB (残基60〜65)、およびこれに続いてヘリックスBをヘリックスC(残基66〜69)に連結するループ(アルファB-アルファC)(図1を参照)の位置を調節することにより、活性を調節している可能性が示唆される。これらの残基がUMP結合部位の一部を形成すると提唱する。
【0096】
結合GTP分子から半径5Å以内にある残基には、SEQ ID NO: 14のGly66、Asn68、Val71、Leu85、Arg88、Asp89、Phe92、Arg93、Asn97、Ala98、Lys99、Leu100、Asp111、Asn114、Trp115、Ser116、Glu117、Ile119、Lys120、Met121、Arg123およびArg126が含まれる。これらのうち、その側鎖が結合GTPと有意の極性接点または疎水性接点を形成する残基Val71、Asp89、Asn97、Lys99、Lys120およびArg126は、10種類の細菌性UMPキナーゼ(pyrH)にわたって良好に保存されている(図6を参照)。したがってpyrHのアロステリックエフェクター結合部位は、少なくともSEQ ID NO: 14の残基Asn68、Val71、Arg88、Asp89、Phe92、Asn97、Lys99、Trp115、Ser116、Ile119、Lys120、Arg123およびArg126を含み、またはより拡大した定義においてはSEQ ID NO: 14の残基Gly66、Asn68、Val71、Leu85、Arg88、Asp89、Phe92、Arg93、Asn97、Ala98、Lys99、Leu100、Asp111、Asn114、Trp115、Ser116、Glu117、Ile119、Lys120、Met121、Arg123およびArg126を含み、またはプローブ半径8Åを用いて誘導したさらに拡大した定義においてはArg7、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val70、Val71、Gly72、His74、Gly84、Leu85、Ala86、Met87、Arg88、Asp89、Ser90、Leu91、Phe92、Arg93、Asp95、Val96、Asn97、Ala98、Lys99、Leu100、Met101、Ile109、Cys110、Asp111、Asn114、Trp115、Ser116、Glu117、Ala118、Ile119、Lys120、Met121、Arg123、Glu124、Arg126、Val127、Ile129、Glu151、Ile152およびGlu153を含む。
【0097】
ホスフェート結合部位
この最終モデルをE.フェーカリス(E. faecalis)カルバミン酸キナーゼの結晶構造(pdbエントリー1b7b, Marina et al., Protein Sci., 8:934-940, 1999)に、プログラムTOP (CCP4, Acta Cryst., D50:760-763, 1994; Lu, Protein Data Bank Quarterly Newsletter, 78:10-11, 1996)を用いて重ね合わせた。TOPは、タンパク質構造体の対を原子座標により規定されるそれらの三次元構造に基づいて比較するための自動プログラムである。共通の二次元構造要素をもつ相同タンパク質が得られると、TOPプログラムはそれらの三次元モデルを自動的に重ね合わせ、すべての構造体のうちどの残基が構造的に均等であるかを検出し、残基-対-残基アラインメントを提供することができる。このプログラムはトポロジーおよび構造の多様度の評点を計算し、目的構造体を基準構造体に載せたものを提示することができる。このモデルを用いて、限定された一次配列相同性を示すにもかかわらず構造類似性を示す構造体を同定、アラインおよび比較することができる。これにより、インフルエンザ菌pyrH結晶構造中に結合したリン酸は、E.フェーカリスカルバミン酸キナーゼ構造体中にある硫酸分子上にほぼ正確に載ることが示された。E.フェーカリスカルバミン酸キナーゼ構造体中の結合硫酸イオンは、ATPから基質カルバミン酸へ転移するガンマ-リン酸基の部位を占有すると提唱されている。この仮説は、MgADPと複合体形成したP.フリオサスCK様CPS (Ramon-Maiques et al., 2000, 前掲)、ならびに基質および遷移状態の類似体と複合体形成した大腸菌NAGK (Ramon-Maiques et al., 2002, 前掲; Gil-Ortiz et al., 2003, 前掲)の結晶構造により支持される。したがって本発明者らは、インフルエンザ菌pyrH結晶構造中に結合したリン酸イオンはATPからUMPへ転移するリン酸基の部位を占有すると提唱する。インフルエンザ菌pyrH中のリン酸イオンに接触するものと均等な2つの残基を、大腸菌pyrHで変異させた(Bucurenci et al., J. Bacteriol., 180(3): 473-477, 1998)。変異Arg62HisおよびAsp146Asn(それぞれインフルエンザ菌の残基Arg58およびAsp142と均等)により触媒反応速度が低下した。したがって、リン酸イオンを囲む領域はpyrH酵素の活性中心に相当すると思われる。結合ホスフェートから半径5Å以内にある残基には、SEQ ID NO: 14のLys11、Ser13、Gly14、Glu15、Gly52、Gly53、Gly54、Thr141およびAsp142が含まれる。これらの残基はすべて10種類の細菌性UMPキナーゼ間で完全に保存されている;ただしマイコプラズマ-ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)由来のpyrHでは、Glu15はアラニンである(図6を参照)。より具体的には、リン酸イオンは、Gly14、Gly53およびGly54の主鎖アミノ基ならびにThr141の側鎖ヒドロキシルとの水素結合により安定化される。この結晶中のホスフェート結合部位のサブセットにおいて、Glu15の側鎖カルボキシルはホスフェートの酸素とも接触する。したがってpyrHのホスフェート結合部位は、少なくともSEQ ID NO: 14の残基Ser13、Gly14、Gly52、Gly53、Gly54およびThr141を含み、またはより拡大した定義においてはSEQ ID NO: 14の残基Lys11、Ser13、Gly14、Glu15、Gly52、Gly53、Gly54、Thr141およびAsp142を含み、またはプローブ半径8Åを用いて誘導したさらに拡大した定義においてはLys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Gln18、Val50、Leu51、Gly52、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Leu56、Phe57、Asn58、Gly76、Met77、Ala79、Thr80、Asn83、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ile159およびAla160を含む。
【0098】
推定ATP結合部位
プログラムTOP (CCP4, 1994, 前掲)を用いたP.フリオサスCK様CPS-ADP複合体(Ramon-Maiques et al., 2000, 前掲)および大腸菌NAGK-基質複合体(Ramon-Maiques et al., 2002, 前掲; Gil-Ortiz et al., 2003, 前掲)との重ね合わせに基づいて、ATP結合部位を提唱する。これには、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Leu17、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Arg58、Thr80、Asn83、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Ala145、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys173、Asp174、Ala177、Lys178、Tyr180、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195、Met196、Asp197、Val213およびPhe214が含まれる。これらの残基のうち、Lys11、Ser13、Gly14、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Thr80、Asn83、Thr141、Asp142、Val163、Gly165、Val166、Asp170、Pro171, Ala177, Leu193, Met196, Asp197およびPhe214は、10種類の細菌性UMPキナーゼ(pyrH)にわたって完全に保存されている。Leu12, Glu15, Ala16, Leu17, Val50, Leu51 Arg58, Ser143, Ala145, Tyr167, Val195およびVal213も高い保存度を示す(図6を参照)。E.フェーカリスCK (Marina et al., 1999, 前掲)、P.フリオサスCK様CPS-ADP複合体(Ramon-Maiques et al., 2000, 前掲)および大腸菌NAGK-基質複合体(Ramon-Maiques et al., 2002, 前掲; Gil-Ortiz et al., 2003, 前掲)の構造と同様に、残基168〜176を含むフレキシブルループのコンホメーションの変化によりATP結合を受け入れることができる。Tyr167主鎖カルボニル基およびアミノ基とアデニンの6-NH2およびN1との間にそれぞれ2つの水素結合が形成され、これと共にPro171側鎖およびCys169-Asp170ペプチド結合にアデニン環が挿入されることが、この部位におけるATPに対する特異性に寄与している可能性がある。Asp170の側鎖は結合ATPリボースの2'-ヒドロキシルと接触し、一方、Gly14、Gly53、Gly54およびThr161の主鎖アミノ基、ならびにLys11、Ser13およびLys159の側鎖原子との極性相互作用は三リン酸部分の結合に寄与している可能性がある。残基Lys11、Asp142およびLys159の三つ組(それぞれ、P.フリオサスCK様CPSにおける残基Lys215、Asp216およびLys277、ならびに大腸菌NAGKにおけるLys8、Asp162およびLys217に、構造的に均等である)がリン酸転移反応の触媒作用に重要な役割をもつと思われる。Lys11は遷移状態の五価リンを安定化する位置にあり、Lys159は反応生成物ADPのベータ-リン酸上に発生する負の電荷を安定化する位置にある。Asp142は2つのリシン側鎖を適所に保持し、結合基質ATPの三リン酸部分に錯化するであろうマグネシウムイオンの配位に関与する可能性がある。
【0099】
提唱したATP結合部位をさらに支持するものとして、P.フリオサスCK様CPSおよび大腸菌NAGKにおいて結合アデニンヌクレオチドと接触するものに対応するpyrH残基の変異は、触媒反応速度を低下させることが示された。これらの変異は、大腸菌pyrHのArg62His、Asp146AsnおよびAsp174Asnであった(Bucurenci et al., 1998, 前掲)。インフルエンザ菌において対応する残基はArg58、Asp142およびAsp170である。したがって提唱するpyrH ATP結合部位の最小定義はSEQ ID NO: 14の残基Lys11、Ser13、Gly14、Glu15、Gly53、Gly54、Asp142、Lys159、Thr161、Val166、Tyr167、Cys169、Asp170およびPro171を含み、より拡大した定義は残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Gly52、Gly53、Gly54、Arg58、Thr141、Asp142、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195およびVal213を含み、プローブ半径8Åを用いて誘導したさらに拡大した定義はSEQ ID NO: 14の残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Leu17、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Arg58、Thr80、Asn83、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Ala145、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys173、Asp174、Ala177、Lys178、Tyr180、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195、Met196、Asp197、Val213およびPhe214を含む。
【0100】
推定UMP結合部位
表面残基の保存、およびプログラムTOP (CCP4, (1994, 前掲)を用いた大腸菌NAGK-基質複合体pdb 1ohb (Ramon-Maiques et al., 2002, 前掲; Gil-Ortiz et al., 2003, 前掲)との重ね合わせに基づき、UMP結合部位を提唱する。これには、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Phe57、Arg58、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Thr80、Asn83、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Thr144、Ala145、Leu147およびArg148が含まれる。これらの残基はすべて、10種類の細菌性UMPキナーゼ(pyrH)にわたって高度に保存されている(図6を参照)。結晶不斉単位中の8分子のコンホメーションの比較により、提唱したUMP結合部位を囲む特定の二次元構造要素の位置にフレキシビリティーが証明される:すなわちヘリックスB (残基60〜65)、およびこれに続いてヘリックスBをヘリックスC(残基66〜69)に連結するループ(アルファB-アルファC)。UMP結合はこれらのフレキシブル領域のコンホメーションの変化により受け入れられ、したがってUMPの結合はアロステリック結合部位にアロステリックモジュレーターが結合することにより影響を受けるという可能性がある。提唱したUMP結合部位をさらに支持するものとして、提唱した結合部位内の残基の変異は、触媒反応速度を低下させることが示された。これらの変異は、大腸菌pyrHのArg62His、Asp73Asnおよび Asp142Asnであった(Bucurenci et al., 1998, 前掲)。インフルエンザ菌pyrHにおいて対応する残基はArg58、Asp73およびAsp142である。したがって提唱するpyrH UMP結合部位の最小定義はSEQ ID NO: 14の残基Gly52、Gly53、Asp73、Gly76、Met77、Thr134、Asn136、Pro137、Phe139、Thr141およびThr144を含み、より拡大した定義は残基Ser13、Gly14、Gly52、Gly53、Gly54、Gly72、Asp73、His74、Gly76、Met77、Thr80、Gly133、Thr134、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139およびThr140を含み、プローブ半径8Åを用いて誘導したさらに拡大した定義はSEQ ID NO: 14の残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Phe57、Arg58、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Thr80、Asn83、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Thr144、Ala145、Leu147およびArg148を含む。
【0101】
実施例7:インフルエンザ菌pyrHの核磁気共鳴分光試験
核磁気共鳴(NMR)分光法は、溶液中のタンパク質の構造およびコンホメーションをアミノ酸レベルでモニターする方法を提供する。そのスペクトル中の信号の位置はアミノ酸の環境に対してきわめて感受性であり、これらの信号の位置の変化をタンパク質と他の分子の相互作用に関連づけことができる。
【0102】
インフルエンザ菌pyrHに関するNMR分光実験は、298Kで三重共鳴((1H/13C/15N)単一勾配5 mmクリオプローブを備えたBruker Avance 600 MHzシステムにより行われた。このタンパク質を2H、15Nおよび13C中で三重標識し、緩衝液B (50 mM Tris/HCl, pH 8.0, 2 mM EDTA, 2 mM UTP, 150 mM NaClおよび2 mM DTT)中において供給した。NMR分光実験の前に、Millipore(米国マサチュセッツ州ビレリカ)からのAmicon Ultra-15遠心フィルターデバイスを用いて、タンパク質試料をNMR用緩衝液(50 mM HEPES, pH 7.8, 1 mM DTTおよび1 mM UTPまたは1 mM GTP)中へ十分に透析した。タンパク質モノマー濃度は0.4 mMであった。TROSY-HSQC (Pervushin et al., J. Biomol. NMR, 12:345-348, 1998)実験を、プロトン次元85ミリ秒、窒素次元32ミリ秒の発生時間で記録した。全獲得時間は15時間であった。データセットをプログラムnmrPipe (Delaglio et al., J. Biomol. NMR, 6:277-293, 1995)で処理し、プログラムSPARKY (Goddard and Kneller, カリフォルニア大学、米国カリフォルニア州サンフランシスコ)で分析した。
【0103】
このプロトコルを用いてインフルエンザ菌pyrHについて得たスペクトルの質はきわめて高く、このサイズのタンパク質について予想される数のピークが顕著に見られた。このアッセイ法は、UTPがNMR用緩衝液中のGTPで置換された際のタンパク質の環境の変化を検出するのに十分なほど感受性であった。したがってNMRを用いて、pyrHの特異的阻害薬を見いだすことを目標としたハイスループットスクリーニングおよび仮想スクリーニング活動からのヒットを評価することができる。さらに、NMRを高分解X線データと組み合わせて、構造ベースの薬物設計に利用できる。NMRを用いてPyrHへの阻害薬の結合を確認することができる。
【0104】
以上の実施例は本発明を説明するためのものであり、決して本発明を限定するものと解釈すべきでない。当業者は本発明の精神および範囲に含まれる改変を容易になしうるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】pyrHホモ六量体アセンブリーの1個の分子の三次元構造を表わし、pyrHフォールドの構造要素およびトポロジーを表わす。アルアァヘリックスをA〜Hと標記し、ベータ鎖を1〜11と標記する。
【図2】pyrH六量体の2種類の直交図の画像表示を表わし、活性部位(六量体の外面、Xと標記)およびアロステリック結合部位(六量体の中心キャビティ、Aと標記)を示す。推定活性中心に結合したリン酸イオン、およびアロステリック結合部位にあるGTP分子(GTPとしてモデリング)を、全体としてボール-ステック法で示す。
【図3】pyrH六量体の2種類の直交図の画像表示を表わし、活性部位(六量体の外面、Xと標記)およびアロステリック結合部位(六量体の中心キャビティ、Aと標記)を示す。推定活性中心に結合したリン酸イオン、およびアロステリック結合部位にあるGTP分子(GTPとしてモデリング)を、全体としてボール-ステック法で示す。
【図4】pyrH結晶不斉単位内に存在する8分子間にみられるコンホメーションフレキシビリティーを表わす。
【図5】0.4 mMの2H/15N/13Cで標識したインフルエンザ菌の1mM UTPの存在下における核磁気共鳴(NMR)TROSY-HSQCスペクトルを示す。y軸およびx軸は、それぞれ窒素およびプロトン次元における化学シフト(ppm単位)を表わす。
【図6】肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)(SPN; SEQ ID NO:1); 化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)(SPY; SEQ ID NO:2); 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SAU; SEQ ID NO:3); 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)(SEP; SEQ ID NO:4); 枯草菌(Bacillus subtilis)(BSU; SEQ ID NO:5); 髄膜炎菌(Neisseria meningitides)(NME; SEQ ID NO:6); 大腸菌(Escherichia coli)(ECO; SEQ ID NO:7); インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)(HIN; SEQ ID NO:8); クラミジア-ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)(CPN; SEQ ID NO:9); およびマイコプラズマ-ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)(MPN; SEQ ID NO:10)由来のpyrHのアミノ酸配列のアラインメントを表わす。
【図7】GTPおよびホスフェートと複合体形成したインフルエンザ菌由来pyrHの結晶構造の三次元原子座標のリストである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pyrHの結晶。
【請求項2】
アロステリックモジュレーターと複合体形成したpyrHの結晶。
【請求項3】
結晶がさらにホスフェートと複合体形成した、請求項2の結晶。
【請求項4】
基質と複合体形成したpyrHの結晶。
【請求項5】
基質がATPである、請求項4の結晶。
【請求項6】
pyrHが細菌に由来する、請求項1〜5のいずれか1項の結晶。
【請求項7】
pyrHがインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)に由来する、請求項6の結晶。
【請求項8】
アロステリックモジュレーターが、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Arg7、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val70、Val71、Gly72、His74、Gly84、Leu85、Ala86、Met87、Arg88、Asp89、Ser90、Leu91、Phe92、Arg93、Asp95、Val96、Asn97、Ala98、Lys99、Leu100、Met101、Ile109、Cys110、Asp111、Asn114、Trp115、Ser116、Glu117、Ala118、Ile119、Lys120、Met121、Arg123、Glu124、Arg126、Val127、Ile129、Glu151、Ile152およびGlu153のすべてまたはいずれかの組合わせを含む結合部位に結合している、請求項2の結晶。
【請求項9】
基質が、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Leu17、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Arg58、Thr80、Asn83、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Ala145、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys173、Asp174、Ala177、Lys178、Tyr180、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195、Met196、Asp197、Val213およびPhe214のすべてまたはいずれかの組合わせを含む結合部位に結合している、請求項4の結晶。
【請求項10】
基質が、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Phe57、Arg58、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Thr80、Asn83、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Thr144、Ala145、Leu147およびArg148のすべてまたはいずれかの組合わせを含む結合部位に結合している、請求項4の結晶。
【請求項11】
基質が、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Lys11、Leu12、Ser13、Gly14、Glu15、Ala16、Leu17、Val50、Leu51、Gly52、Gly53、Gly54、Asn55、Phe57、Arg58、Gly59、Arg69、Val70、Val71、Gly72、Asp73、His74、Met75、Gly76、Met77、Leu78、Ala79、Thr80、Asn83、Ala103、Phe104、Ser131、Ala132、Gly133、Thr134、Gly135、Asn136、Pro137、Phe138、Phe139、Thr140、Thr141、Asp142、Ser143、Thr144、Ala145、Leu147、Arg148、Lys159、Ala160、Thr161、Lys162、Val163、Gly165、Val166、Tyr167、Asp168、Cys169、Asp170、Pro171、Lys173、Asp174、Ala177、Lys178、Tyr180、Lys191、Glu192、Leu193、Lys194、Val195、Met196、Asp197、Val213およびPhe214のすべてまたはいずれかの組合わせを含む結合部位に結合している、請求項4の結晶。
【請求項12】
基質が、SEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Lys11、Ser13、Gly14、Glu15、Gly52、Gly53、Gly54、Thr141およびAsp142のすべてまたはいずれかの組合わせを含む結合部位に結合している、請求項4の結晶。
【請求項13】
結晶が3つの二量体を含み、各二量体がSEQ ID NO: 14のアミノ酸残基Ile25、Pro27、Leu30、Asp31、Phe57、Lys61、Leu62、Ala65、Gly66、Met67、Asn68、Arg69、Val71、His74、Met75、Gly76、Leu78、Ala79、Val81、Met82、Leu85、Ala86、Arg87、Asp88、Arg89、Phe104、Gln105、Leu106、Asn107、Gly108およびIle109のすべてまたはいずれかの組合わせを含む分子間二量体界面を含む、請求項1の結晶。
【請求項14】
pyrHに結合する分子を同定する方法であって、
a)三次元分子モデリングアルゴリズムをpyrHの原子座標に適用し;そして
b)蓄積した一組の候補化合物の原子座標を、pyrHの原子座標に対比して電子スクリーニングし、pyrHに結合する化合物を同定する
ことを含む方法。
【請求項15】
原子座標がpyrHの分子界面のものである、請求項14の方法。
【請求項16】
原子座標が図7に示されるものである、請求項14の方法。
【請求項17】
pyrHの阻害薬である物質を同定するための、下記を含むコンピューター支援法:
(a)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrH結晶の一組の原子座標を提供し;
(b)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrHの分子界面を結合するかを判定するために評価すべき物質の一組の原子座標を供給し;
(c)それら二組の原子座標を比較し;そして
(d)その物質がpyrHに結合すると予想されるかを判定し、その際、その物質がpyrHに結合すると予想される場合はその物質はpyrHの阻害薬である。
【請求項18】
一組の原子座標が図7に示されるものである、請求項17の方法。
【請求項16】
pyrH活性の阻害薬を設計するための、下記を含むコンピューター支援法:
(a)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrHの一組の原子座標を供給し;
(b)一組の原子座標により表わされる物質をコンピューターにより構築し;そして
(c)その物質がpyrHに結合すると予想されるかを判定し、その際、その物質がpyrHを結合すると予想される場合はその物質はpyrHの阻害薬である。
【請求項19】
一組の原子座標が図7に示されるものである、請求項18の方法。
【請求項20】
pyrHのアロステリックモジュレーターである物質を同定するための、下記を含むコンピューター支援法:
(a)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrH結晶またはそのアロステリックモジュレーター結合部位の一組の原子座標を提供し;
(b)コンピューターモデリングアプリケーションに、pyrHの分子界面を結合するかを判定するために評価すべき物質の一組の原子座標を供給し;
(c)それら二組の原子座標を比較し;そして
(d)その物質がpyrHに結合すると予想されるかを判定し、その際、その物質がpyrHのアロステリックモジュレーター結合部位を結合すると予想される場合はその物質はpyrHのアロステリックモジュレーターである。
【請求項21】
一組の原子座標が図7に示されるものである、請求項20の方法。
【請求項22】
図7に示す一組の原子座標を用いて未知構造の分子または分子複合体に関する構造情報を得るための、下記の工程を含む方法:
a)結晶化した分子または分子複合体からX線回折データを作成し;
b)図7に示す原子座標の少なくとも一部をこのX線回折データと組み合わせて用いて、該分子または分子複合体の少なくとも一部の三次元電子密度マップを作成し;そして
c)図7に示す一組の原子座標のすべてまたは一部を、場合によりこの三次元電子密度マップと組み合わせて用いて、該分子または分子複合体に対するモデルを作成する。
【請求項23】
pyrH活性の被験阻害薬またはアロステリックモジュレーターの結合部位に関する構造情報を得るための、下記の工程を含む方法:
a)阻害薬と同位体標識したpyrHタンパク質の試料との組合わせにより誘導されるNMR化学シフトの変化を分析し;そして
b)これらの変化を引き起こす残基を図7に示す原子座標上にマッピングし、その際、これらの残基が阻害薬またはモジュレーターの結合部位を規定すると予想される。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−509696(P2008−509696A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526562(P2007−526562)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003187
【国際公開番号】WO2006/018618
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】