X線分析装置の試料冷却装置及びX線分析装置
【課題】試料棒と低温ガス吹付方向とが鋭角になる場合があるX線分析装置において試料に霜が付着する現象を解消する試料冷却装置を提供する。
【解決手段】試料棒23によって支持された試料Sをω軸線を中心として回転させ、試料SにX線を照射し、試料Sから出るX線をX線検出器11によって検出するX線分析装置1に用いられる試料冷却装置5である。試料Sに冷却ガスを吹付けるノズル26と、試料Sを通過したガスを開口34を通して吸引するガス吸引装置28とを有する。試料棒23はω軸線を中心として回転するときに試料Sを頂点とする円錐面を形成するように移動し、ノズル26は試料棒23とノズル26のガス吹付方向とが90度以下の鋭角になることがあるように設けられている。ガス吸引装置28は、試料棒23とノズル26のガス吹付方向Dとが鋭角を成すときに、試料棒23に当ったガスをその流路を曲げるように吸引する。
【解決手段】試料棒23によって支持された試料Sをω軸線を中心として回転させ、試料SにX線を照射し、試料Sから出るX線をX線検出器11によって検出するX線分析装置1に用いられる試料冷却装置5である。試料Sに冷却ガスを吹付けるノズル26と、試料Sを通過したガスを開口34を通して吸引するガス吸引装置28とを有する。試料棒23はω軸線を中心として回転するときに試料Sを頂点とする円錐面を形成するように移動し、ノズル26は試料棒23とノズル26のガス吹付方向とが90度以下の鋭角になることがあるように設けられている。ガス吸引装置28は、試料棒23とノズル26のガス吹付方向Dとが鋭角を成すときに、試料棒23に当ったガスをその流路を曲げるように吸引する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析装置に用いられる試料冷却装置及びその試料冷却装置を用いて成るX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、試料にX線を照射してその試料から出るX線をX線検出器によって検出するという測定を行う。この測定の際、試料を冷却する必要が生じる場合がある。例えば、単結晶の構造解析の際には、単結晶試料内の分子構造を安定化させて信頼性の高いデータを得るために、低温ガス、例えば93K(−180℃)〜143K(−130℃)程度の窒素ガスを試料に吹付けながら測定を行うことがある。
【0003】
従来、例えば特許文献1に、X線分析装置のための試料冷却装置が開示されている。この文献に示された試料冷却装置においては、ガラス棒等といった試料支持部材が空間内の上下方向に延びており、その試料支持部材の先端に試料が支持されている。そして、鉛直上下方向に延びるω軸線を中心として試料を回転させることにより、その試料に入射するX線の角度を変化させながら、測定が行われる。試料よりも上方の位置にガス吹付けノズルが配置されており、測定中、そのノズルから吐出される低温ガスによって試料が冷却される。
【0004】
この従来の装置において試料支持部材はアークステージの上に載っており、このアークステージを活用することにより試料をω軸線上に置いた状態のままで試料支持部材を鉛直方向に対して傾斜させることができる。試料支持部材がこの傾斜状態にあるときに試料をω軸線を中心として回転させようとすると、試料支持部材はその回転に応じて、試料を頂点とする円錐を描きながら移動する。ガス吹付けノズルのガス吐出口は、試料支持部材が描く円錐状の移動面の上方位置に配置されている。
【0005】
図11はX線分析装置の試料冷却装置の他の従来例を示している。この従来装置では、試料Sを支持した試料棒101がω回転基板102によって傾斜状態で支持されている。試料Sへ入射するX線R1の試料Sへの入射角度を変化させるためにω回転基板102をω軸線を中心として回転させて試料Sを同様にω軸線を中心として回転させたとき、試料棒101は試料Sを頂点とする円錐面を描く。そして、試料Sに低温ガスを吹付けるためのノズル103のガス吐出口103aは、その円錐面の上方位置に配置されている。
【0006】
一般に、試料に低温ガスを吹付けたときには、試料及び試料支持部に霜が発生して付着するおそれがある。しかしながら、特許文献1及び図11に示した従来のX線分析装置においては、霜の発生は非常に低く抑えられ、X線分析装置の測定に支障は起こらなかった。
【0007】
ところで、特許文献1や図11に示されたX線分析装置においては、ω軸線が鉛直上下方向に延びるように設定されていた。試料をω軸線を中心として回転させるための機構は、例えばウオームと大径のウオームホイールとを含んだ動力伝達機構を用いる等といった必要性から、ω軸線に対して直角方向に大きなスペースを必要とすることが多い。このため、特許文献1や図11に示されたX線分析装置に関しては水平方向(すなわち横方向)の形状が大きくなり、そのため、広い設置スペースを確保しなければならないという問題があった。
【0008】
本発明者等は、X線分析装置のための設置スペースを狭くするべく研究を行い、例えば、図11においてω回転基板102の設置位置を矢印Qに示すように水平位置から鉛直位置へ変更すれば、すなわちω軸線が水平方向へ延びるように設定すれば、X線分析装置の水平方向の設置スペースを狭くできることに想到した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−229834号公報(第2〜4頁、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ω回転基板102をそのように鉛直方向、すなわち縦方向に設置し、さらにノズルから試料へ低温ガスを吹付けながらX線分析測定を行ったところ、試料及び試料棒への霜の付着が著しくなり、測定の信頼性が低下するという問題が発生することが分かった。
【0011】
本発明者等はこの霜付きの問題を解消すべく研究を行い、その結果、次の知見を得た。すなわち、ω回転基板を縦方向に設置し(すなわち、ω軸線を水平方向に設定し)、ノズル等といったガス吐出手段からのガスの吹付け方向を上方向から下方向へ向かう従来のままの方向に設定しておくと、ω軸線を中心として試料を回転させるときに、試料支持部材の延在方向と低温ガスの吹付け方向とが、鋭角状態(角度90度よりも小さい状態)になったり、鈍角状態(角度90度よりも大きい状態)になったりすることが生じ、特に、試料支持部材の延在方向と低温ガスの吹付け方向とが鋭角状態になったときに、霜付きの発生が顕著になることを知見した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づいて成されたものであって、試料支持部材の延在方向と低温ガスの吹付け方向とが鋭角状態になる場合があるX線分析装置において、試料及び試料支持部材に霜が付着する現象を有効に解消できる試料冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置は、試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置に用いられ、前記試料を冷却する試料冷却装置において、前記試料に冷却ガスを吹き付ける冷却ガス吹付け手段と、前記試料を通過したガスを開口を通して吸引するガス吸引手段と、を有しており、前記試料支持部材は前記ω軸線を中心として回転するときに前記試料を頂点とする円錐面を形成するように移動し、前記冷却ガス吹付け手段は、前記試料支持部材の延在方向と当該冷却ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になることがあるように設けられており、前記ガス吸引手段は、前記試料支持部材の延在方向と前記ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが上記鋭角状態を成すときに、前記試料支持部材に当ったガスの流路を曲げるように当該ガスを吸引することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る試料冷却装置では、試料支持部材がω軸線を中心として円錐面を描いて回転する。このため、試料支持部材についてのω軸線回りのω角が特定の角度、例えば水平である0度から鉛直である90度までの間は、冷却ガス吹付け手段から吐出されたガスが試料支持部材に当ってから試料に当るという事態が生じる。この場合には、試料支持部材の下流側に生じる乱気流の影響で試料及びその周辺に霜が付着するおそれがある。しかしながら、本発明では試料の近傍にガス吸引用の開口を配置して試料支持部材を通過したガス流を即座に吸引するようにしたので、乱気流の発生を抑制でき、仮に乱気流が発生したとしてもそれを即座に試料から分離できるので、霜の発生及び付着を防止できる。
【0015】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記ガス吸引手段のガス吸引用の開口は前記試料と一体に前記ω軸線を中心として回転するように構成できる。こうすれば、開口と試料とが相対移動しないので開口を形成する部材が試料を支持するための機構とぶつかることを防止できる。また、開口を試料に近づけることができる。
【0016】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記開口は筒部材の先端に形成することができ、当該筒部材の軸中心線は前記ω軸線に対して平行に延びるように構成できる。筒部材は長さを長く、断面形状を小さく形成できるので、試料の周辺のスペースが狭い場合でも開口を試料に近づけることができる。
【0017】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記筒部材の先端は前記試料支持部材の延在方向に沿った傾斜を有していることが望ましい。こうすれば、開口が試料支持部材に平行になるので、試料支持部材の下流側で乱気流が発生する可能性を低減できる。また、発生した乱気流を解消し易くなる。
【0018】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記開口は筒部材の先端面に形成されており、当該筒部材の先端に案内板が取り付けられており、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心しており、前記案内板は前記開口に連続していることが望ましい。
開口の中心をω軸に対して偏心させることにより、試料に対する開口の位置及び面積を乱気流を発生させないような、あるいは発生した乱気流を即座に解消できるような適切な状態に調整できる。また、案内板を設けることにより、乱気流の発生を抑制できる。
なお、開口の中心とは、開口の上下方向の中心であって且つ左右方向の中心のことである。
【0019】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記開口は筒部材の先端面に部分的に形成されており、前記筒部材の先端面の前記開口以外の部分は案内板であり、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心していることが望ましい。
開口の中心をω軸に対して偏心させることにより、試料に対する開口の位置及び面積を乱気流を発生させないような、あるいは発生した乱気流を即座に解消できるような適切な状態に調整できる。また、案内板を設けることにより、乱気流の発生を抑制できる。
【0020】
なお、開口の中心をω軸線に対して偏心させる場合には、その開口の中心は、前記ω軸線よりも前記試料支持部材が在る側へ偏心していることが望ましい。こうすれば、開口の広い部分を試料支持部材に対面させることができる。
【0021】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置は、前記試料支持部材を支持しており当該試料支持部材と一体となって前記ω軸線を中心とて回転するω回転基板を有することができる。そして、前記ガス吸引手段は、前記筒部材に一体に付設されたガス吸引部と、互いに一体になった前記筒部材と前記ガス吸引部とを前記ω回転基板に着脱可能に取り付ける取付け構造とを有することができる。
この構成により、既存のX線分析装置に本発明の試料冷却装置を簡単に装着することができる。
【0022】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記ω軸線は水平方向に延びていることが望ましく、前記ガス吹付け手段による前記ガス吹付け方向は上から下へ向かう方向であることが望ましい。ω軸線を水平方向に設定すれば、試料等をω軸線を中心として回転させるための駆動系の水平方向の長さを短くでき、X線分析装置の小型化を促進できる。
【0023】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記X線分析装置は、前記ω軸線を中心として試料を回転させるω軸駆動系と、前記試料支持部材を自身の軸中心線(φ軸線)を中心として回転させるφ軸駆動系とを有しており、前記ω軸駆動系によって試料に入射するX線の入射角度を連続的に揺動させて変化させ、前記φ軸駆動系によって試料をステップ的に回転させ、X線入射角度の個々の位置及びφ軸回りの角度の個々の位置において前記試料にX線を入射し、当該X線から出るX線を前記X線検出器によって検出することが望ましい。
【0024】
この構成は、X線分析装置が単結晶構造解析に好適な構成を有していることを規定している。単結晶試料は測定中に冷却されることが要求される試料であるので、そのようなX線分析装置に本発明を適用すれば、単結晶試料に関して信頼性の高いデータを得ることができる。
【0025】
次に、本発明に係るX線分析装置は、前記試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置であって、以上に記載した各構成の試料冷却装置を有することを特徴とする。
【0026】
本発明に係るX線分析装置によれば、ω軸線を水平に設定し、冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向を上方から下方へ向かう方向とした場合でも、常に霜の付着を防止でき、正確な回折測定データを得ることができる。そして、ω軸線を水平方向に延在するように設定できれば、X線分析装置の水平方向の長さを短くすることができ、設置スペースを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る試料冷却装置では、試料支持部材がω軸線を中心として円錐面を描いて回転する。そして、試料支持部材についてのω軸線回りのω角が特定の角度であるときに、試料支持部材の延在方向と冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になることがあるように冷却ガス吹付け手段が配設されている。
試料支持部材の延在方向と冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になると、冷却ガス吹付け手段から吐出されたガスが試料支持部材に当ってから試料に当るという事態が生じる。この場合には、試料支持部材の下流側に生じる乱気流の影響で試料及びその周辺に霜が付着するおそれがある。
しかしながら、本発明に係る試料冷却装置では、試料の近傍にガス吸引用の開口を配置して試料支持部材を通過したガス流を即座に吸引するようにしたので、乱気流の発生を抑制でき、仮に乱気流が発生したとしてもそれを即座に試料から分離でき、その結果、試料での霜の発生及び付着を防止できる。
【0028】
本発明に係るX線分析装置によれば、ω軸線を水平に設定し、冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向を上方から下方へ向かう方向とした場合でも、常に霜の付着を防止でき、正確な回折測定データを得ることができる。そして、ω軸線を水平方向に延在するように設定できれば、X線分析装置の水平方向の長さを短くすることができ、設置スペースを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るX線分析装置及び試料冷却装置のそれぞれの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のX線分析装置の主要部である試料支持系及び試料冷却装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2の主要部である筒部材及び開口を詳しく示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図4】試料支持棒がω=90度にあるときの図であって、(a)は図1の矢印Aに従ったX線分析装置の正面図であり、(b)は(a)の矢印Bに従った側面図である。
【図5】試料支持棒がω=0度にあるときの図であって、(a)は図1の矢印Aに従ったX線分析装置の正面図であり、(b)は(a)の矢印Bに従った側面図である。
【図6】試料支持棒がω=−ω1度にあるときの図であって、(a)は図1の矢印Aに従ったX線分析装置の正面図であり、(b)は(a)の矢印Bに従った側面図である。
【図7】図4(b)の状態(ω=90度)のときの冷却ガスの流れ状態を模式的に示す図である。
【図8】図6(b)の状態(ω=−ω1)のときの冷却ガスの流れ状態を模式的に示す図である。
【図9】本発明に係るX線分析装置の主要部である試料支持系及び試料冷却装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【図10】本発明に係るX線分析装置の主要部である試料支持系及び試料冷却装置のさらに他の実施形態を示す斜視図である。
【図11】従来のX線分析装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(X線分析装置及び試料冷却装置の第1の実施形態)
以下、本発明に係るX線分析装置及び試料冷却装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0031】
図1は本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示している。図2はそのX線分析装置の主要部を示している。これらの図において、本実施形態のX線分析装置1は主に単結晶試料の構造解析を行うために用いられる。X線分析装置1は、試料Sを支持する試料支持系2と、試料SへX線を照射する入射光学系3と、試料Sから出たX線を検出する受光系4と、試料Sを冷却するための低温ガスを試料Sへ吹付けたり吸引したりする試料冷却装置5とを有している。
【0032】
(入射光学系)
入射光学系3は、X線源Fを備えたX線発生装置8と、X線源Fで発生したX線を単色化するモノクロメータ9と、モノクロメータ9で単色化されたX線を平行ビームにするコリメータ10とを有する。X線源Fは、例えば、通電によって熱電子を発生するフィラメントと、その熱電子が衝突するターゲットとを有している。ターゲット上で熱電子が衝突する領域がX線焦点であり、そのX線焦点からX線が発生する。
【0033】
モノクロメータ9は、例えば、結晶モノクロメータによって形成されている。コリメータ10は、例えば、複数のピンホールによってX線を平行化するピンホールコリメータによって形成されている。以上により、X線源Fから出たX線R1は、モノクロメータ9で単色化され、コリメータ10で平行化された後、試料Sへ入射する。これ以降、入射X線R1の中心線をX線光軸X0ということがある。
【0034】
(受光系)
受光系4は、例えば、CCDX線センサを用いた2次元X線検出器11を含んで構成されている。CCDはCharge Coupled Device、すなわち電荷結合素子である。2次元X線検出器11は試料Sから発生したX線、すなわち回折X線R2を2次元的に(すなわち平面内で)検知して、X線強度を平面内の位置情報と共に検出する。
【0035】
(試料支持系)
試料支持系2は、ω回転基板13と、ω回転基板13の面上に固着されたアーム部材14と、アーム部材14の内部の先端部に設けられたφ軸駆動系15と、試料Sを支持する試料支持体16とを有している。ω回転基板13は円板形状に形成されており、ω軸駆動系17によって駆動されてω軸線を中心として回転する。ω軸線は水平方向に延びる軸線である。もちろん、ω軸線はX線測定に支障を来たさない範囲で厳密な水平方向に対して誤差があっても良い。ω軸線はω回転基板13の円形状の面の中心を通り当該円形状の面に直交する軸線である。
【0036】
ω軸駆動系17は、例えば、ウオームと大径のウオームホイールとを含んで構成される。大径のウオームホイールを横置きで配置するとX線分析装置1の横方向の幅が大きくなって大きな設置スペースを必要とする問題がある。これに対し、本実施形態では、大径のウオームホイールを縦置きにすることができ、幅方向の設置スペースを小さくすることができ、実用的である。アーム部材14は、ω回転基板13の面に固着される基部14aと、その基部14aから斜め前方へ突出する突出部14bとから成る屈曲形状に形成されている。φ軸駆動系15は突出部14bの内部の先端部に設けられている。
【0037】
φ軸駆動系15は、パルスモータ、サーボモータ等といった電動モータによって出力軸18を回転させる。出力軸18はアーム部材14の突出部14bの外部に突出している。図2に示すように出力軸18の先端には螺旋ネジ等といった結合用構造が設けられており、その結合用構造により試料支持体16がネジ結合されている。試料支持体16は、基台22と、基台22の先端に設けられた試料支持部材としての試料棒23とを有している。
【0038】
測定対象である試料、本実施形態の場合は単結晶試料Sは、試料棒23の先端に接着剤等によって固着されている。基台22の内部にはアーム部材14から突出する出力軸18に設けられた螺旋ネジ19に嵌合する雌ネジが設けられており、この雌ネジと螺旋ネジ19との嵌合により、基台22がφ軸駆動系15の出力軸18に結合されている。試料支持体16が以上のようにして出力軸18に結合されると、試料棒23の先端の試料Sはω回転基板13の回転の中心線であるω軸線上に載るようになっている。
【0039】
基台22は単なる1つの部材である基台であっても良いし、試料棒23を移動させる機能を持った機構であるゴニオメータヘッドであっても良い。このゴニオメータヘッドの機能としては、例えば、試料棒の高さ位置の調整、試料棒の並進移動(xyの平面内移動)の調整、及び試料棒のアーク(円弧)方向の位置の調整等がある。これらの位置調整は、通常は、試料Sの中心を測定中心に合わせるために行われる。
【0040】
φ軸駆動系15は、出力軸18及び試料棒23のそれぞれの中心を通る軸線であるφ軸線を中心として、出力軸18を回転させる。φ軸線は試料Sを貫通する軸線でもあり、出力軸18が軸回転して結果的に試料棒23が軸回転すると、それに応じて試料Sもφ軸線を中心として回転する。
【0041】
図4(a)は、図1の矢印Aに従ってX線分析装置1を正面から見た場合の構成を示している。図4(b)は、図1の矢印B及び図4(a)の矢印Bに従ってX線分析装置1を側面から見た場合の構成を示している。図1においてω軸駆動系17が作動してω回転基板13が矢印E−Eで示すようにω軸線を中心として回転すると、試料支持体16の支持棒23は、図4(a)及び(b)に符号Cで示すように、試料Sを頂点とする円錐面を描いて移動する。具体的には、試料支持体16のω軸線を中心とする可動領域は、図4(a)に符号P0で示す上方位置から、図5(a)に符号P1で示す中間位置を経て、図6(a)に符号P2で示す下方位置に至る領域である。なお、試料支持体16の可動領域である円錐面Cは受光系4が存在する所には及ばない。
【0042】
ω軸線を中心とする試料Sの回転はω回転と呼ばれ、図1において試料Sへ入射するX線R1の試料Sに対する入射角を変化させるために行われる。また、φ軸線を中心とする試料Sの回転はφ回転と呼ばれ、入射X線R1に対する試料Sへの入射角をω軸と協働して変化させるために行われる。
【0043】
(試料冷却装置)
図1において、試料冷却装置5は、冷却ガス吹付け手段としての吐出ノズル26と、その吐出ノズル26へ低温ガスを供給する低温ガス供給装置27と、ガス吸引手段としてのガス吸引装置28とを有している。吐出ノズル26は、供給されたガスを下端の吐出口から試料Sへ向けて吐出、すなわち排出する。低温ガス供給装置27は、例えば、液体窒素をヒータで温めて低温窒素ガスを発生する構成を採用できる。この方法により、例えば143K(−130℃)程度の低温ガスを供給できる。
【0044】
低温ガス供給装置27は、また、大気中から抽出した窒素ガスを極低温冷凍機を使って熱交換することにより低温窒素ガスを発生する構成を採用できる。この構成は、例えば、特開平8−278400号公報に開示されている。この方法により、例えば93K(−180℃)程度の低温ガスを供給できる。低温ガス供給装置27は、さらには、He(ヘリウム)を用いた冷却方法を採用することもできる。
【0045】
ガス吸引装置28は、図2に示すように、筒形状を有した部材(以下、筒部材という)29と、ファン30を内蔵したガス吸引部31とを有している。筒部材29とガス吸引部31とは一体に形成されている。ガス吸引部31の背面には、磁石を備えた取付け構造32が設けられており、この取付け構造32によってガス吸引装置28がアーム部材14の基部14aの前面に磁力によって固着されている。なお、筒部材29とガス吸引部31とは別体に、すなわち別々の部材として形成しても良い。
【0046】
図2では1個の取付け構造32だけが示されているが、実際には水平方向の奥側にもう1個の同じ構成の取付け構造32が設けられており、ガス吸引装置28をアーム部材14へしっかりと固定できるようになっている。もちろん、必要に応じて取付け構造32の数及び配置の仕方を変更しても良い。本実施形態では、磁力を利用して取付け構造32を構成したが、その他の任意の構成によって取付け構造32を構成しても良い。
【0047】
筒部材29は、本実施形態では円筒である。筒部材29は必要に応じて、角筒、楕円筒、長円筒、その他任意の断面形状の筒とすることができる。筒部材29の前面、すなわち試料Sに対向する面は、試料棒23の延在方向に沿った傾斜面となっている。「沿った」とは、平行である状態、又は平行に近い状態で傾斜している状態である。また、筒部材29の傾斜する前面には案内板33が設けられており、案内板33が無い部分が開口34となっている。つまり、開口34と案内板33とが筒部材29の前面を構成しており、その前面が試料棒23に沿って傾斜している。「案内板」とは、ガス流を案内する板の意味である。
【0048】
案内板33は筒部材29の傾斜する前面の面積の半分領域に存在している。つまり、図3(a)及び(b)に示すように、案内板33の筒内部側の端辺は筒部材29の軸中心線X1に接している。なお、開口34の中心(すなわち、開口34の上下方向の中心であって且つ左右方向の中心)Gはω軸線からズレ量δ1でずれている。つまり、筒部材29の開口34の中心Gはω軸線に対して偏心している。なお、本実施形態では筒部材29の軸中心線X1はω軸線からズレ量δ2(δ1の反対側)でずれている。しかしながら、軸中心線X1はω軸線に一致していても良い。
【0049】
図2において、ガス吸引部31の前面に始動スイッチ35が設けられている。このスイッチ35をON状態にすると、ガス吸引部31のファン30が作動し、試料Sの近傍の気体を開口34を通して吸引する。
【0050】
以下、上記構成より成るX線分析装置1及び試料冷却装置5の動作について説明する。
(装置の設定)
冷却処理を伴った測定を行う場合、測定者は、図1において、ガス吸引装置28を取付け構造32を使ってアーム部材14の基部14aに固着し、測定対象である試料S(本実施形態では単結晶試料S)が試料棒23の先端に取り付けられている試料支持体16をアーム部材14の先端の出力軸18に取り付ける。さらに、吐出ノズル26をその先端のガス吐出口が試料Sの近傍に位置するように設置する。
【0051】
(単結晶構造解析測定)
本実施形態では図5(a)に示すように試料棒23がX線光軸X0に一致する位置P1がω=0度であり、図4(a)に示すように試料棒23が鉛直方向に延在する位置P0がω=90度であり、そして図6(a)に示すように試料棒23が最も下方になる位置P2がω=−ω1であるとする。上記した装置の設定の終了後、試料Sに関するω回転の範囲を測定の目的に応じて設定する。なお、通常の装置では、最も下方になる位置の角度−ω1は、マイナス70度からマイナス75度程度である。
【0052】
ω回転の範囲が決まると、試料Sがω角範囲内の所望の初期位置に置かれ、さらにφ回転の初期位置に置かれる。そして、図1の低温ガス供給装置27から低温ガス、例えば窒素ガスを発生し、吐出ノズル26から試料Sへ向けて窒素ガスを吐出する。これにより、試料Sが所望の低温に設定される。試料Sを冷却して低温にすることにより、試料内部の結晶構造を安定化でき、その結果、ボケのない鮮明な回折像を得ることができる。試料Sを所定の低温に設定した後、図1のX線源FからX線を発生し、さらに単色化及び平行化したX線を試料Sへ入射する。
【0053】
試料Sの内部の結晶構造に応じて試料Sから回折X線R2が発生すると、そのX線R2はCCD2次元X線検出器11によって受光されて、回折X線の位置データと強度データとが測定される。測定に際しては、φ角度をステップ的(段階的)に変化させ、各φ角度においてω角度を揺動的に連続して変化させ、その変化したω角度及びφ角度におけるデータが採取される。以降、当初に設定されたω角度範囲及びφ角度範囲内の個々の角度位置においてデータが採取される。
【0054】
(試料の冷却処理)
本実施形態において、試料Sが図4に示すω=90度の上方位置から図6に示すω=−ω1の下方位置までω回転するとき、ガス吸引装置28の筒部材29はアーム部材14の作用により試料支持体16と一体になってω軸線を中心として回転する。このとき、筒部材29の開口34の中心Gはω軸線に対してズレ量δ1で偏心しているので(図3参照)、開口34の中心Gがω軸線に一致している場合に比べて、次に説明するように、ガスの流れを好ましい状態にすることができる。
【0055】
今、図4に示すように試料S及び試料棒23がω=90度の位置にあるとき、吐出ノズル26から流れ出てガス吸引装置28の筒部材29の開口34に吸引されるガスは図7に模式的に示すようになる。具体的には、ω=90度のとき、試料Sを支持している支持棒23は上方から下方へ斜めに傾斜した状態でガス流の中に進入している。このとき、吐出ノズル26によるガス吹付け方向Dに直角な面を考えると、この面は試料Sに接触する前に支持棒23に接触する。つまり、ガス流は試料Sに当る前に支持棒23に当る。
【0056】
ガス流が試料Sよりも先に支持棒23に当ると支持棒23の下流位置に乱気流が発生し、この乱気流は試料S及び試料Sと支持棒23との境界部分に霜を付着させる要因となる。しかしながら、本実施形態では、ω=90度のとき、ガス吸引装置28の筒部材29の開口34は支持棒23及び試料Sの下流側の直近位置であって、ω軸線よりも上方位置に在るので、支持棒23の下流側のガスは大きな曲率を描いて即座に開口34内へ流れ込み、乱気流の発生は抑制される。また、仮に乱気流が発生したとしても、その乱気流は即座に開口34から吸引される。つまり、ガス流は試料Sから離れる方向へ即座に吸引される。このため、試料S及びその周辺に霜が発生することが防止され、試料Sに関して安定した信頼性の高いデータを得ることが可能になる。
【0057】
本実施形態では開口34の中心Gがω軸線に対して偏心しているので、吐出ノズル26から吐出されたガス流を開口34を介して大きな曲率で積極的に吸引できる。なお、筒部材29の前面は支持棒23の延在方向に沿った傾斜面となっているので、吐出ノズル26からのガス流は開口34へ滑らかに流れ込み、乱気流の発生、従って霜の発生及び付着を有効に防止できる。さらに、本実施形態では、開口34の下部に案内板33が設けられており、しかもこの案内板33は開口34と略同一平面となるように傾斜している。このため、吹付け方向Dに沿って流れるガス流を案内板33によって滑らかに開口34へ送り込むことができ、これにより、乱気流が試料Sへ悪影響を及ぼすことをさらに一層軽減できる。
【0058】
このように支持棒23の下流側に乱気流が発生して試料S及びその周辺に霜を付着させるという事態は、ガス流が試料Sに当るよりも先に支持棒23に当るという事態が生じることに対応して生じるものと考えられる。そして、この事態は、支持棒23の延在方向とガス吹付け方向Dとがガス流に沿った方向で成す角度が90度以下、すなわち鋭角である場合に生じる事態であり、さらに具体的には試料Sのω角が図4に示すω=90度のときから図5に示すω=0度までの間にある場合に生じる事態である。このような場合に図7に示すように開口34を通してガス流を吸引することは、乱気流の発生を抑制すること及び発生した乱気流が試料Sに悪影響を及ぼす前に回収してしまうことを促進し、霜の発生及び付着を解消する。
【0059】
試料S及び支持棒23が図6に示すω=−ω1の下方位置にあるとき、吐出ノズル26から流れ出てガス吸引装置28の筒部材29の開口34に吸引されるガスは図8に模式的に示すようになる。具体的には、ω=−ω1のとき、試料Sを支持している支持棒23は下方から上方へ斜めに傾斜した状態でガス流の中に進入している。このとき、吐出ノズル26によるガス吹付け方向Dに直角な面を考えると、この面はまず試料Sに接触し、次いで支持棒23に接触する。つまり、ガス流は試料Sに当ってから支持棒23に当る。このときには、支持棒23の下流側に乱気流が発生したとしてもその乱気流が試料Sに影響を及ぼすことはなく、よって、試料S及びその周辺に霜が付着することはほとんどない。
【0060】
試料S及び支持棒23がω=−ω1にある場合、ガス吸引装置28の筒部材29の開口34はω軸線よりも下方の位置にある。このため、吐出ノズル26から出たガス流は、図7に示した場合のように大きな曲率で強制的に吸引されるのではなく、開口34を通して小さな曲率で滑らかに吸引される。今考えているω=−ω1の場合はガス流が試料Sに当ってから試料棒23に当るため試料棒23の下流側に生じる乱気流が試料Sに影響を及ぼすことが少なく、従って図8に示すような緩やかなガス吸引であっても問題はない。
【0061】
なお、吐出ノズル26からのガス流が試料Sに当ってから支持棒23に当るという事態は、支持棒23の延在方向とガス吹付け方向Dとがガス流の流れに沿った方向で成す角度が90度よりも大きい、すなわち鈍角である場合に生じる事態であり、さらに具体的には試料Sのω角が図5に示すω=0度のときから図6に示すω=−ω1までの間にある場合に生じる事態である。この場合は、ガス吸引装置28によってガス流を強く吸引しなくても、乱気流の発生による霜の付着の問題を心配しなくても良い場合である。
【0062】
以上のように、本実施形態では、図1において吐出ノズル26が上方から下方へ向けて低温ガスを吐出し、試料棒23がω軸線を中心として円錐面を描いて回転する。このため、ω軸線回りのω角が90度から0度までの間は、吐出ノズル26から吐出されたガスが試料棒23に当ってから試料Sに当るという事態が生じる。この場合には、試料棒23の下流側に生じる乱気流の影響で試料S及びその周辺に霜が付着するおそれがある。しかしながら、本実施形態では試料Sの近傍にガス吸引用の開口34を配置して試料棒23を通過したガス流を即座に吸引するようにしたので、乱気流の発生を抑制でき、仮に乱気流が発生したとしてもそれを即座に試料Sから分離できるので、霜の発生及び付着を防止できる。
【0063】
本実施形態では、ガス吸引装置28の筒部材29が試料支持体16と一体に移動するので、両者がぶつかることがない。従って、筒部材29の先端の開口34を試料Sの直近に近づけることができる。また、開口34と案内板33とによって形成される筒部材29の先端面が支持棒23の延在方向に沿った傾斜面となっているので、乱気流の発生を正確に防止できる。さらに、筒部材29の開口34の中心Gとω軸線とがずれている、すなわち偏心しているので、ガス吸引用の開口34の試料Sに対する位置及び有効となる面積を、乱気流を効率良く回収できるように調整できる。
【0064】
本実施形態では、図1において、取付け構造32によってガス吸引装置28がω回転基板13に着脱可能となっているので、必要なときにガス吸引装置28を利用でき、不要なときにはガス吸引装置28を取り外すことができる。また、ガス吸引装置28の位置を自由に調整できる。
【0065】
(試料冷却装置の第2の実施形態)
図9は本発明に係る試料冷却装置の他の実施形態を示している。本実施形態の試料冷却装置45が図2に示した試料冷却装置5と異なる点は、ガス吸引装置28の筒部材49に改変を加えたことである。図9の実施形態において図2の実施形態と同じ部材は同じ符号を付して示すことにして、それらの説明は省略する。
【0066】
図2に示した試料冷却装置5においては、ガス吸引装置28の筒部材29の先端面に設けた案内板33を筒部材29の先端面の周縁の外側に張出すように形成した。これに対し図9に示す本実施形態では、筒部材49の先端面の周縁よりも内側に案内板53を設けている。この構成により、吐出ノズル26から出て試料Sを流れて開口54に吸引されるガス流の流れ方に変化をもたせることができる。
【0067】
(試料冷却装置の第3の実施形態)
図10は本発明に係る試料冷却装置のさらに他の実施形態を示している。本実施形態の試料冷却装置55が図2に示した試料冷却装置5と異なる点は、ガス吸引装置48に改変を加えたことである。図10の実施形態において図2の実施形態と同じ部材は同じ符号を付して示すことにして、それらの説明は省略する。
【0068】
図2に示した試料冷却装置5においては、開口34が筒部材29の先端面に部分的に、具体的には略半分の面積で形成されていた。そして、先端面の開口34以外の部分が案内板33となっていた。これに対し、図10に示す本実施形態では、開口64は筒部材59の先端面の全面又は略全面として形成されており、その先端面の外周面の下部に案内板63が結合されている。結合は、接着、溶着、ネジ止め、その他任意の結合手段によって行われる。
【0069】
本実施形態においても、開口64の中心Gはω軸線に対してズレている、すなわち偏心している。また、開口64と案内板63とは隙間無く互いに連続しており、しかも1つの略平坦な面を形成している。本実施形態においても、吐出ノズル26から出たガス流を開口64によって積極的に吸引できる。しかも、案内板63によって安定して滑らかなガス流を形成できる。
【0070】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、本発明の試料冷却装置は単結晶構造解析装置以外のX線分析装置に適用することができる。また、開口34(図2)及び開口54(図9)だけでも所望のガス流を得ることが出きるのであれば、案内板33(図2)、案内板53(図9)を用いなくても良い。また、ガス吸引部31はファン30を用いた吸引構造に代えてその他の任意の構成の吸引構造とすることができる。
【符号の説明】
【0071】
1.X線分析装置、 2.試料支持系、 3.入射光学系、 4.受光系、 5.試料冷却装置、 8.X線発生装置、 9.モノクロメータ、 10.コリメータ、 11.CDDX線検出器、 13.ω回転基板、 14.アーム部材、 14a.基部、 14b.突出部、 15.φ軸駆動系、 16.試料支持体、 17.ω軸駆動系、 18.出力軸、 19.螺旋ネジ、 22.基台、 23.試料棒(試料支持部材)、 26.吐出ノズル、 27.低温ガス供給装置、 28.ガス吸引装置(ガス吸引手段)、 29.筒部材、 30.ファン、 31.ガス吸引部、 32.取付け構造(磁石)、 33.案内板、 34.開口、 35.始動スイッチ、 45.試料冷却装置、 48.ガス吸引装置(ガス吸引手段)、 49.筒部材、 53.案内板、 54.開口、 55.試料冷却装置、 59.筒部材、 63.案内板、 64.開口、 C.円錐面、 D.吹付け方向、 F.X線源、 G.開口の中心、 S.試料、 P0,P1,P2.試料支持体16の可動位置、 R1.入射X線、 R2.回折X線、 X0.X線光軸、 X1.軸中心線、 δ1.開口のズレ量、 δ2.筒部材の軸中心線のズレ量
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析装置に用いられる試料冷却装置及びその試料冷却装置を用いて成るX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、試料にX線を照射してその試料から出るX線をX線検出器によって検出するという測定を行う。この測定の際、試料を冷却する必要が生じる場合がある。例えば、単結晶の構造解析の際には、単結晶試料内の分子構造を安定化させて信頼性の高いデータを得るために、低温ガス、例えば93K(−180℃)〜143K(−130℃)程度の窒素ガスを試料に吹付けながら測定を行うことがある。
【0003】
従来、例えば特許文献1に、X線分析装置のための試料冷却装置が開示されている。この文献に示された試料冷却装置においては、ガラス棒等といった試料支持部材が空間内の上下方向に延びており、その試料支持部材の先端に試料が支持されている。そして、鉛直上下方向に延びるω軸線を中心として試料を回転させることにより、その試料に入射するX線の角度を変化させながら、測定が行われる。試料よりも上方の位置にガス吹付けノズルが配置されており、測定中、そのノズルから吐出される低温ガスによって試料が冷却される。
【0004】
この従来の装置において試料支持部材はアークステージの上に載っており、このアークステージを活用することにより試料をω軸線上に置いた状態のままで試料支持部材を鉛直方向に対して傾斜させることができる。試料支持部材がこの傾斜状態にあるときに試料をω軸線を中心として回転させようとすると、試料支持部材はその回転に応じて、試料を頂点とする円錐を描きながら移動する。ガス吹付けノズルのガス吐出口は、試料支持部材が描く円錐状の移動面の上方位置に配置されている。
【0005】
図11はX線分析装置の試料冷却装置の他の従来例を示している。この従来装置では、試料Sを支持した試料棒101がω回転基板102によって傾斜状態で支持されている。試料Sへ入射するX線R1の試料Sへの入射角度を変化させるためにω回転基板102をω軸線を中心として回転させて試料Sを同様にω軸線を中心として回転させたとき、試料棒101は試料Sを頂点とする円錐面を描く。そして、試料Sに低温ガスを吹付けるためのノズル103のガス吐出口103aは、その円錐面の上方位置に配置されている。
【0006】
一般に、試料に低温ガスを吹付けたときには、試料及び試料支持部に霜が発生して付着するおそれがある。しかしながら、特許文献1及び図11に示した従来のX線分析装置においては、霜の発生は非常に低く抑えられ、X線分析装置の測定に支障は起こらなかった。
【0007】
ところで、特許文献1や図11に示されたX線分析装置においては、ω軸線が鉛直上下方向に延びるように設定されていた。試料をω軸線を中心として回転させるための機構は、例えばウオームと大径のウオームホイールとを含んだ動力伝達機構を用いる等といった必要性から、ω軸線に対して直角方向に大きなスペースを必要とすることが多い。このため、特許文献1や図11に示されたX線分析装置に関しては水平方向(すなわち横方向)の形状が大きくなり、そのため、広い設置スペースを確保しなければならないという問題があった。
【0008】
本発明者等は、X線分析装置のための設置スペースを狭くするべく研究を行い、例えば、図11においてω回転基板102の設置位置を矢印Qに示すように水平位置から鉛直位置へ変更すれば、すなわちω軸線が水平方向へ延びるように設定すれば、X線分析装置の水平方向の設置スペースを狭くできることに想到した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−229834号公報(第2〜4頁、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ω回転基板102をそのように鉛直方向、すなわち縦方向に設置し、さらにノズルから試料へ低温ガスを吹付けながらX線分析測定を行ったところ、試料及び試料棒への霜の付着が著しくなり、測定の信頼性が低下するという問題が発生することが分かった。
【0011】
本発明者等はこの霜付きの問題を解消すべく研究を行い、その結果、次の知見を得た。すなわち、ω回転基板を縦方向に設置し(すなわち、ω軸線を水平方向に設定し)、ノズル等といったガス吐出手段からのガスの吹付け方向を上方向から下方向へ向かう従来のままの方向に設定しておくと、ω軸線を中心として試料を回転させるときに、試料支持部材の延在方向と低温ガスの吹付け方向とが、鋭角状態(角度90度よりも小さい状態)になったり、鈍角状態(角度90度よりも大きい状態)になったりすることが生じ、特に、試料支持部材の延在方向と低温ガスの吹付け方向とが鋭角状態になったときに、霜付きの発生が顕著になることを知見した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づいて成されたものであって、試料支持部材の延在方向と低温ガスの吹付け方向とが鋭角状態になる場合があるX線分析装置において、試料及び試料支持部材に霜が付着する現象を有効に解消できる試料冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置は、試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置に用いられ、前記試料を冷却する試料冷却装置において、前記試料に冷却ガスを吹き付ける冷却ガス吹付け手段と、前記試料を通過したガスを開口を通して吸引するガス吸引手段と、を有しており、前記試料支持部材は前記ω軸線を中心として回転するときに前記試料を頂点とする円錐面を形成するように移動し、前記冷却ガス吹付け手段は、前記試料支持部材の延在方向と当該冷却ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になることがあるように設けられており、前記ガス吸引手段は、前記試料支持部材の延在方向と前記ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが上記鋭角状態を成すときに、前記試料支持部材に当ったガスの流路を曲げるように当該ガスを吸引することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る試料冷却装置では、試料支持部材がω軸線を中心として円錐面を描いて回転する。このため、試料支持部材についてのω軸線回りのω角が特定の角度、例えば水平である0度から鉛直である90度までの間は、冷却ガス吹付け手段から吐出されたガスが試料支持部材に当ってから試料に当るという事態が生じる。この場合には、試料支持部材の下流側に生じる乱気流の影響で試料及びその周辺に霜が付着するおそれがある。しかしながら、本発明では試料の近傍にガス吸引用の開口を配置して試料支持部材を通過したガス流を即座に吸引するようにしたので、乱気流の発生を抑制でき、仮に乱気流が発生したとしてもそれを即座に試料から分離できるので、霜の発生及び付着を防止できる。
【0015】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記ガス吸引手段のガス吸引用の開口は前記試料と一体に前記ω軸線を中心として回転するように構成できる。こうすれば、開口と試料とが相対移動しないので開口を形成する部材が試料を支持するための機構とぶつかることを防止できる。また、開口を試料に近づけることができる。
【0016】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記開口は筒部材の先端に形成することができ、当該筒部材の軸中心線は前記ω軸線に対して平行に延びるように構成できる。筒部材は長さを長く、断面形状を小さく形成できるので、試料の周辺のスペースが狭い場合でも開口を試料に近づけることができる。
【0017】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記筒部材の先端は前記試料支持部材の延在方向に沿った傾斜を有していることが望ましい。こうすれば、開口が試料支持部材に平行になるので、試料支持部材の下流側で乱気流が発生する可能性を低減できる。また、発生した乱気流を解消し易くなる。
【0018】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記開口は筒部材の先端面に形成されており、当該筒部材の先端に案内板が取り付けられており、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心しており、前記案内板は前記開口に連続していることが望ましい。
開口の中心をω軸に対して偏心させることにより、試料に対する開口の位置及び面積を乱気流を発生させないような、あるいは発生した乱気流を即座に解消できるような適切な状態に調整できる。また、案内板を設けることにより、乱気流の発生を抑制できる。
なお、開口の中心とは、開口の上下方向の中心であって且つ左右方向の中心のことである。
【0019】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記開口は筒部材の先端面に部分的に形成されており、前記筒部材の先端面の前記開口以外の部分は案内板であり、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心していることが望ましい。
開口の中心をω軸に対して偏心させることにより、試料に対する開口の位置及び面積を乱気流を発生させないような、あるいは発生した乱気流を即座に解消できるような適切な状態に調整できる。また、案内板を設けることにより、乱気流の発生を抑制できる。
【0020】
なお、開口の中心をω軸線に対して偏心させる場合には、その開口の中心は、前記ω軸線よりも前記試料支持部材が在る側へ偏心していることが望ましい。こうすれば、開口の広い部分を試料支持部材に対面させることができる。
【0021】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置は、前記試料支持部材を支持しており当該試料支持部材と一体となって前記ω軸線を中心とて回転するω回転基板を有することができる。そして、前記ガス吸引手段は、前記筒部材に一体に付設されたガス吸引部と、互いに一体になった前記筒部材と前記ガス吸引部とを前記ω回転基板に着脱可能に取り付ける取付け構造とを有することができる。
この構成により、既存のX線分析装置に本発明の試料冷却装置を簡単に装着することができる。
【0022】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記ω軸線は水平方向に延びていることが望ましく、前記ガス吹付け手段による前記ガス吹付け方向は上から下へ向かう方向であることが望ましい。ω軸線を水平方向に設定すれば、試料等をω軸線を中心として回転させるための駆動系の水平方向の長さを短くでき、X線分析装置の小型化を促進できる。
【0023】
本発明に係るX線分析装置の試料冷却装置において、前記X線分析装置は、前記ω軸線を中心として試料を回転させるω軸駆動系と、前記試料支持部材を自身の軸中心線(φ軸線)を中心として回転させるφ軸駆動系とを有しており、前記ω軸駆動系によって試料に入射するX線の入射角度を連続的に揺動させて変化させ、前記φ軸駆動系によって試料をステップ的に回転させ、X線入射角度の個々の位置及びφ軸回りの角度の個々の位置において前記試料にX線を入射し、当該X線から出るX線を前記X線検出器によって検出することが望ましい。
【0024】
この構成は、X線分析装置が単結晶構造解析に好適な構成を有していることを規定している。単結晶試料は測定中に冷却されることが要求される試料であるので、そのようなX線分析装置に本発明を適用すれば、単結晶試料に関して信頼性の高いデータを得ることができる。
【0025】
次に、本発明に係るX線分析装置は、前記試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置であって、以上に記載した各構成の試料冷却装置を有することを特徴とする。
【0026】
本発明に係るX線分析装置によれば、ω軸線を水平に設定し、冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向を上方から下方へ向かう方向とした場合でも、常に霜の付着を防止でき、正確な回折測定データを得ることができる。そして、ω軸線を水平方向に延在するように設定できれば、X線分析装置の水平方向の長さを短くすることができ、設置スペースを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る試料冷却装置では、試料支持部材がω軸線を中心として円錐面を描いて回転する。そして、試料支持部材についてのω軸線回りのω角が特定の角度であるときに、試料支持部材の延在方向と冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になることがあるように冷却ガス吹付け手段が配設されている。
試料支持部材の延在方向と冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になると、冷却ガス吹付け手段から吐出されたガスが試料支持部材に当ってから試料に当るという事態が生じる。この場合には、試料支持部材の下流側に生じる乱気流の影響で試料及びその周辺に霜が付着するおそれがある。
しかしながら、本発明に係る試料冷却装置では、試料の近傍にガス吸引用の開口を配置して試料支持部材を通過したガス流を即座に吸引するようにしたので、乱気流の発生を抑制でき、仮に乱気流が発生したとしてもそれを即座に試料から分離でき、その結果、試料での霜の発生及び付着を防止できる。
【0028】
本発明に係るX線分析装置によれば、ω軸線を水平に設定し、冷却ガス吹付け手段からのガス吹付け方向を上方から下方へ向かう方向とした場合でも、常に霜の付着を防止でき、正確な回折測定データを得ることができる。そして、ω軸線を水平方向に延在するように設定できれば、X線分析装置の水平方向の長さを短くすることができ、設置スペースを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るX線分析装置及び試料冷却装置のそれぞれの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のX線分析装置の主要部である試料支持系及び試料冷却装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2の主要部である筒部材及び開口を詳しく示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図4】試料支持棒がω=90度にあるときの図であって、(a)は図1の矢印Aに従ったX線分析装置の正面図であり、(b)は(a)の矢印Bに従った側面図である。
【図5】試料支持棒がω=0度にあるときの図であって、(a)は図1の矢印Aに従ったX線分析装置の正面図であり、(b)は(a)の矢印Bに従った側面図である。
【図6】試料支持棒がω=−ω1度にあるときの図であって、(a)は図1の矢印Aに従ったX線分析装置の正面図であり、(b)は(a)の矢印Bに従った側面図である。
【図7】図4(b)の状態(ω=90度)のときの冷却ガスの流れ状態を模式的に示す図である。
【図8】図6(b)の状態(ω=−ω1)のときの冷却ガスの流れ状態を模式的に示す図である。
【図9】本発明に係るX線分析装置の主要部である試料支持系及び試料冷却装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【図10】本発明に係るX線分析装置の主要部である試料支持系及び試料冷却装置のさらに他の実施形態を示す斜視図である。
【図11】従来のX線分析装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(X線分析装置及び試料冷却装置の第1の実施形態)
以下、本発明に係るX線分析装置及び試料冷却装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0031】
図1は本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示している。図2はそのX線分析装置の主要部を示している。これらの図において、本実施形態のX線分析装置1は主に単結晶試料の構造解析を行うために用いられる。X線分析装置1は、試料Sを支持する試料支持系2と、試料SへX線を照射する入射光学系3と、試料Sから出たX線を検出する受光系4と、試料Sを冷却するための低温ガスを試料Sへ吹付けたり吸引したりする試料冷却装置5とを有している。
【0032】
(入射光学系)
入射光学系3は、X線源Fを備えたX線発生装置8と、X線源Fで発生したX線を単色化するモノクロメータ9と、モノクロメータ9で単色化されたX線を平行ビームにするコリメータ10とを有する。X線源Fは、例えば、通電によって熱電子を発生するフィラメントと、その熱電子が衝突するターゲットとを有している。ターゲット上で熱電子が衝突する領域がX線焦点であり、そのX線焦点からX線が発生する。
【0033】
モノクロメータ9は、例えば、結晶モノクロメータによって形成されている。コリメータ10は、例えば、複数のピンホールによってX線を平行化するピンホールコリメータによって形成されている。以上により、X線源Fから出たX線R1は、モノクロメータ9で単色化され、コリメータ10で平行化された後、試料Sへ入射する。これ以降、入射X線R1の中心線をX線光軸X0ということがある。
【0034】
(受光系)
受光系4は、例えば、CCDX線センサを用いた2次元X線検出器11を含んで構成されている。CCDはCharge Coupled Device、すなわち電荷結合素子である。2次元X線検出器11は試料Sから発生したX線、すなわち回折X線R2を2次元的に(すなわち平面内で)検知して、X線強度を平面内の位置情報と共に検出する。
【0035】
(試料支持系)
試料支持系2は、ω回転基板13と、ω回転基板13の面上に固着されたアーム部材14と、アーム部材14の内部の先端部に設けられたφ軸駆動系15と、試料Sを支持する試料支持体16とを有している。ω回転基板13は円板形状に形成されており、ω軸駆動系17によって駆動されてω軸線を中心として回転する。ω軸線は水平方向に延びる軸線である。もちろん、ω軸線はX線測定に支障を来たさない範囲で厳密な水平方向に対して誤差があっても良い。ω軸線はω回転基板13の円形状の面の中心を通り当該円形状の面に直交する軸線である。
【0036】
ω軸駆動系17は、例えば、ウオームと大径のウオームホイールとを含んで構成される。大径のウオームホイールを横置きで配置するとX線分析装置1の横方向の幅が大きくなって大きな設置スペースを必要とする問題がある。これに対し、本実施形態では、大径のウオームホイールを縦置きにすることができ、幅方向の設置スペースを小さくすることができ、実用的である。アーム部材14は、ω回転基板13の面に固着される基部14aと、その基部14aから斜め前方へ突出する突出部14bとから成る屈曲形状に形成されている。φ軸駆動系15は突出部14bの内部の先端部に設けられている。
【0037】
φ軸駆動系15は、パルスモータ、サーボモータ等といった電動モータによって出力軸18を回転させる。出力軸18はアーム部材14の突出部14bの外部に突出している。図2に示すように出力軸18の先端には螺旋ネジ等といった結合用構造が設けられており、その結合用構造により試料支持体16がネジ結合されている。試料支持体16は、基台22と、基台22の先端に設けられた試料支持部材としての試料棒23とを有している。
【0038】
測定対象である試料、本実施形態の場合は単結晶試料Sは、試料棒23の先端に接着剤等によって固着されている。基台22の内部にはアーム部材14から突出する出力軸18に設けられた螺旋ネジ19に嵌合する雌ネジが設けられており、この雌ネジと螺旋ネジ19との嵌合により、基台22がφ軸駆動系15の出力軸18に結合されている。試料支持体16が以上のようにして出力軸18に結合されると、試料棒23の先端の試料Sはω回転基板13の回転の中心線であるω軸線上に載るようになっている。
【0039】
基台22は単なる1つの部材である基台であっても良いし、試料棒23を移動させる機能を持った機構であるゴニオメータヘッドであっても良い。このゴニオメータヘッドの機能としては、例えば、試料棒の高さ位置の調整、試料棒の並進移動(xyの平面内移動)の調整、及び試料棒のアーク(円弧)方向の位置の調整等がある。これらの位置調整は、通常は、試料Sの中心を測定中心に合わせるために行われる。
【0040】
φ軸駆動系15は、出力軸18及び試料棒23のそれぞれの中心を通る軸線であるφ軸線を中心として、出力軸18を回転させる。φ軸線は試料Sを貫通する軸線でもあり、出力軸18が軸回転して結果的に試料棒23が軸回転すると、それに応じて試料Sもφ軸線を中心として回転する。
【0041】
図4(a)は、図1の矢印Aに従ってX線分析装置1を正面から見た場合の構成を示している。図4(b)は、図1の矢印B及び図4(a)の矢印Bに従ってX線分析装置1を側面から見た場合の構成を示している。図1においてω軸駆動系17が作動してω回転基板13が矢印E−Eで示すようにω軸線を中心として回転すると、試料支持体16の支持棒23は、図4(a)及び(b)に符号Cで示すように、試料Sを頂点とする円錐面を描いて移動する。具体的には、試料支持体16のω軸線を中心とする可動領域は、図4(a)に符号P0で示す上方位置から、図5(a)に符号P1で示す中間位置を経て、図6(a)に符号P2で示す下方位置に至る領域である。なお、試料支持体16の可動領域である円錐面Cは受光系4が存在する所には及ばない。
【0042】
ω軸線を中心とする試料Sの回転はω回転と呼ばれ、図1において試料Sへ入射するX線R1の試料Sに対する入射角を変化させるために行われる。また、φ軸線を中心とする試料Sの回転はφ回転と呼ばれ、入射X線R1に対する試料Sへの入射角をω軸と協働して変化させるために行われる。
【0043】
(試料冷却装置)
図1において、試料冷却装置5は、冷却ガス吹付け手段としての吐出ノズル26と、その吐出ノズル26へ低温ガスを供給する低温ガス供給装置27と、ガス吸引手段としてのガス吸引装置28とを有している。吐出ノズル26は、供給されたガスを下端の吐出口から試料Sへ向けて吐出、すなわち排出する。低温ガス供給装置27は、例えば、液体窒素をヒータで温めて低温窒素ガスを発生する構成を採用できる。この方法により、例えば143K(−130℃)程度の低温ガスを供給できる。
【0044】
低温ガス供給装置27は、また、大気中から抽出した窒素ガスを極低温冷凍機を使って熱交換することにより低温窒素ガスを発生する構成を採用できる。この構成は、例えば、特開平8−278400号公報に開示されている。この方法により、例えば93K(−180℃)程度の低温ガスを供給できる。低温ガス供給装置27は、さらには、He(ヘリウム)を用いた冷却方法を採用することもできる。
【0045】
ガス吸引装置28は、図2に示すように、筒形状を有した部材(以下、筒部材という)29と、ファン30を内蔵したガス吸引部31とを有している。筒部材29とガス吸引部31とは一体に形成されている。ガス吸引部31の背面には、磁石を備えた取付け構造32が設けられており、この取付け構造32によってガス吸引装置28がアーム部材14の基部14aの前面に磁力によって固着されている。なお、筒部材29とガス吸引部31とは別体に、すなわち別々の部材として形成しても良い。
【0046】
図2では1個の取付け構造32だけが示されているが、実際には水平方向の奥側にもう1個の同じ構成の取付け構造32が設けられており、ガス吸引装置28をアーム部材14へしっかりと固定できるようになっている。もちろん、必要に応じて取付け構造32の数及び配置の仕方を変更しても良い。本実施形態では、磁力を利用して取付け構造32を構成したが、その他の任意の構成によって取付け構造32を構成しても良い。
【0047】
筒部材29は、本実施形態では円筒である。筒部材29は必要に応じて、角筒、楕円筒、長円筒、その他任意の断面形状の筒とすることができる。筒部材29の前面、すなわち試料Sに対向する面は、試料棒23の延在方向に沿った傾斜面となっている。「沿った」とは、平行である状態、又は平行に近い状態で傾斜している状態である。また、筒部材29の傾斜する前面には案内板33が設けられており、案内板33が無い部分が開口34となっている。つまり、開口34と案内板33とが筒部材29の前面を構成しており、その前面が試料棒23に沿って傾斜している。「案内板」とは、ガス流を案内する板の意味である。
【0048】
案内板33は筒部材29の傾斜する前面の面積の半分領域に存在している。つまり、図3(a)及び(b)に示すように、案内板33の筒内部側の端辺は筒部材29の軸中心線X1に接している。なお、開口34の中心(すなわち、開口34の上下方向の中心であって且つ左右方向の中心)Gはω軸線からズレ量δ1でずれている。つまり、筒部材29の開口34の中心Gはω軸線に対して偏心している。なお、本実施形態では筒部材29の軸中心線X1はω軸線からズレ量δ2(δ1の反対側)でずれている。しかしながら、軸中心線X1はω軸線に一致していても良い。
【0049】
図2において、ガス吸引部31の前面に始動スイッチ35が設けられている。このスイッチ35をON状態にすると、ガス吸引部31のファン30が作動し、試料Sの近傍の気体を開口34を通して吸引する。
【0050】
以下、上記構成より成るX線分析装置1及び試料冷却装置5の動作について説明する。
(装置の設定)
冷却処理を伴った測定を行う場合、測定者は、図1において、ガス吸引装置28を取付け構造32を使ってアーム部材14の基部14aに固着し、測定対象である試料S(本実施形態では単結晶試料S)が試料棒23の先端に取り付けられている試料支持体16をアーム部材14の先端の出力軸18に取り付ける。さらに、吐出ノズル26をその先端のガス吐出口が試料Sの近傍に位置するように設置する。
【0051】
(単結晶構造解析測定)
本実施形態では図5(a)に示すように試料棒23がX線光軸X0に一致する位置P1がω=0度であり、図4(a)に示すように試料棒23が鉛直方向に延在する位置P0がω=90度であり、そして図6(a)に示すように試料棒23が最も下方になる位置P2がω=−ω1であるとする。上記した装置の設定の終了後、試料Sに関するω回転の範囲を測定の目的に応じて設定する。なお、通常の装置では、最も下方になる位置の角度−ω1は、マイナス70度からマイナス75度程度である。
【0052】
ω回転の範囲が決まると、試料Sがω角範囲内の所望の初期位置に置かれ、さらにφ回転の初期位置に置かれる。そして、図1の低温ガス供給装置27から低温ガス、例えば窒素ガスを発生し、吐出ノズル26から試料Sへ向けて窒素ガスを吐出する。これにより、試料Sが所望の低温に設定される。試料Sを冷却して低温にすることにより、試料内部の結晶構造を安定化でき、その結果、ボケのない鮮明な回折像を得ることができる。試料Sを所定の低温に設定した後、図1のX線源FからX線を発生し、さらに単色化及び平行化したX線を試料Sへ入射する。
【0053】
試料Sの内部の結晶構造に応じて試料Sから回折X線R2が発生すると、そのX線R2はCCD2次元X線検出器11によって受光されて、回折X線の位置データと強度データとが測定される。測定に際しては、φ角度をステップ的(段階的)に変化させ、各φ角度においてω角度を揺動的に連続して変化させ、その変化したω角度及びφ角度におけるデータが採取される。以降、当初に設定されたω角度範囲及びφ角度範囲内の個々の角度位置においてデータが採取される。
【0054】
(試料の冷却処理)
本実施形態において、試料Sが図4に示すω=90度の上方位置から図6に示すω=−ω1の下方位置までω回転するとき、ガス吸引装置28の筒部材29はアーム部材14の作用により試料支持体16と一体になってω軸線を中心として回転する。このとき、筒部材29の開口34の中心Gはω軸線に対してズレ量δ1で偏心しているので(図3参照)、開口34の中心Gがω軸線に一致している場合に比べて、次に説明するように、ガスの流れを好ましい状態にすることができる。
【0055】
今、図4に示すように試料S及び試料棒23がω=90度の位置にあるとき、吐出ノズル26から流れ出てガス吸引装置28の筒部材29の開口34に吸引されるガスは図7に模式的に示すようになる。具体的には、ω=90度のとき、試料Sを支持している支持棒23は上方から下方へ斜めに傾斜した状態でガス流の中に進入している。このとき、吐出ノズル26によるガス吹付け方向Dに直角な面を考えると、この面は試料Sに接触する前に支持棒23に接触する。つまり、ガス流は試料Sに当る前に支持棒23に当る。
【0056】
ガス流が試料Sよりも先に支持棒23に当ると支持棒23の下流位置に乱気流が発生し、この乱気流は試料S及び試料Sと支持棒23との境界部分に霜を付着させる要因となる。しかしながら、本実施形態では、ω=90度のとき、ガス吸引装置28の筒部材29の開口34は支持棒23及び試料Sの下流側の直近位置であって、ω軸線よりも上方位置に在るので、支持棒23の下流側のガスは大きな曲率を描いて即座に開口34内へ流れ込み、乱気流の発生は抑制される。また、仮に乱気流が発生したとしても、その乱気流は即座に開口34から吸引される。つまり、ガス流は試料Sから離れる方向へ即座に吸引される。このため、試料S及びその周辺に霜が発生することが防止され、試料Sに関して安定した信頼性の高いデータを得ることが可能になる。
【0057】
本実施形態では開口34の中心Gがω軸線に対して偏心しているので、吐出ノズル26から吐出されたガス流を開口34を介して大きな曲率で積極的に吸引できる。なお、筒部材29の前面は支持棒23の延在方向に沿った傾斜面となっているので、吐出ノズル26からのガス流は開口34へ滑らかに流れ込み、乱気流の発生、従って霜の発生及び付着を有効に防止できる。さらに、本実施形態では、開口34の下部に案内板33が設けられており、しかもこの案内板33は開口34と略同一平面となるように傾斜している。このため、吹付け方向Dに沿って流れるガス流を案内板33によって滑らかに開口34へ送り込むことができ、これにより、乱気流が試料Sへ悪影響を及ぼすことをさらに一層軽減できる。
【0058】
このように支持棒23の下流側に乱気流が発生して試料S及びその周辺に霜を付着させるという事態は、ガス流が試料Sに当るよりも先に支持棒23に当るという事態が生じることに対応して生じるものと考えられる。そして、この事態は、支持棒23の延在方向とガス吹付け方向Dとがガス流に沿った方向で成す角度が90度以下、すなわち鋭角である場合に生じる事態であり、さらに具体的には試料Sのω角が図4に示すω=90度のときから図5に示すω=0度までの間にある場合に生じる事態である。このような場合に図7に示すように開口34を通してガス流を吸引することは、乱気流の発生を抑制すること及び発生した乱気流が試料Sに悪影響を及ぼす前に回収してしまうことを促進し、霜の発生及び付着を解消する。
【0059】
試料S及び支持棒23が図6に示すω=−ω1の下方位置にあるとき、吐出ノズル26から流れ出てガス吸引装置28の筒部材29の開口34に吸引されるガスは図8に模式的に示すようになる。具体的には、ω=−ω1のとき、試料Sを支持している支持棒23は下方から上方へ斜めに傾斜した状態でガス流の中に進入している。このとき、吐出ノズル26によるガス吹付け方向Dに直角な面を考えると、この面はまず試料Sに接触し、次いで支持棒23に接触する。つまり、ガス流は試料Sに当ってから支持棒23に当る。このときには、支持棒23の下流側に乱気流が発生したとしてもその乱気流が試料Sに影響を及ぼすことはなく、よって、試料S及びその周辺に霜が付着することはほとんどない。
【0060】
試料S及び支持棒23がω=−ω1にある場合、ガス吸引装置28の筒部材29の開口34はω軸線よりも下方の位置にある。このため、吐出ノズル26から出たガス流は、図7に示した場合のように大きな曲率で強制的に吸引されるのではなく、開口34を通して小さな曲率で滑らかに吸引される。今考えているω=−ω1の場合はガス流が試料Sに当ってから試料棒23に当るため試料棒23の下流側に生じる乱気流が試料Sに影響を及ぼすことが少なく、従って図8に示すような緩やかなガス吸引であっても問題はない。
【0061】
なお、吐出ノズル26からのガス流が試料Sに当ってから支持棒23に当るという事態は、支持棒23の延在方向とガス吹付け方向Dとがガス流の流れに沿った方向で成す角度が90度よりも大きい、すなわち鈍角である場合に生じる事態であり、さらに具体的には試料Sのω角が図5に示すω=0度のときから図6に示すω=−ω1までの間にある場合に生じる事態である。この場合は、ガス吸引装置28によってガス流を強く吸引しなくても、乱気流の発生による霜の付着の問題を心配しなくても良い場合である。
【0062】
以上のように、本実施形態では、図1において吐出ノズル26が上方から下方へ向けて低温ガスを吐出し、試料棒23がω軸線を中心として円錐面を描いて回転する。このため、ω軸線回りのω角が90度から0度までの間は、吐出ノズル26から吐出されたガスが試料棒23に当ってから試料Sに当るという事態が生じる。この場合には、試料棒23の下流側に生じる乱気流の影響で試料S及びその周辺に霜が付着するおそれがある。しかしながら、本実施形態では試料Sの近傍にガス吸引用の開口34を配置して試料棒23を通過したガス流を即座に吸引するようにしたので、乱気流の発生を抑制でき、仮に乱気流が発生したとしてもそれを即座に試料Sから分離できるので、霜の発生及び付着を防止できる。
【0063】
本実施形態では、ガス吸引装置28の筒部材29が試料支持体16と一体に移動するので、両者がぶつかることがない。従って、筒部材29の先端の開口34を試料Sの直近に近づけることができる。また、開口34と案内板33とによって形成される筒部材29の先端面が支持棒23の延在方向に沿った傾斜面となっているので、乱気流の発生を正確に防止できる。さらに、筒部材29の開口34の中心Gとω軸線とがずれている、すなわち偏心しているので、ガス吸引用の開口34の試料Sに対する位置及び有効となる面積を、乱気流を効率良く回収できるように調整できる。
【0064】
本実施形態では、図1において、取付け構造32によってガス吸引装置28がω回転基板13に着脱可能となっているので、必要なときにガス吸引装置28を利用でき、不要なときにはガス吸引装置28を取り外すことができる。また、ガス吸引装置28の位置を自由に調整できる。
【0065】
(試料冷却装置の第2の実施形態)
図9は本発明に係る試料冷却装置の他の実施形態を示している。本実施形態の試料冷却装置45が図2に示した試料冷却装置5と異なる点は、ガス吸引装置28の筒部材49に改変を加えたことである。図9の実施形態において図2の実施形態と同じ部材は同じ符号を付して示すことにして、それらの説明は省略する。
【0066】
図2に示した試料冷却装置5においては、ガス吸引装置28の筒部材29の先端面に設けた案内板33を筒部材29の先端面の周縁の外側に張出すように形成した。これに対し図9に示す本実施形態では、筒部材49の先端面の周縁よりも内側に案内板53を設けている。この構成により、吐出ノズル26から出て試料Sを流れて開口54に吸引されるガス流の流れ方に変化をもたせることができる。
【0067】
(試料冷却装置の第3の実施形態)
図10は本発明に係る試料冷却装置のさらに他の実施形態を示している。本実施形態の試料冷却装置55が図2に示した試料冷却装置5と異なる点は、ガス吸引装置48に改変を加えたことである。図10の実施形態において図2の実施形態と同じ部材は同じ符号を付して示すことにして、それらの説明は省略する。
【0068】
図2に示した試料冷却装置5においては、開口34が筒部材29の先端面に部分的に、具体的には略半分の面積で形成されていた。そして、先端面の開口34以外の部分が案内板33となっていた。これに対し、図10に示す本実施形態では、開口64は筒部材59の先端面の全面又は略全面として形成されており、その先端面の外周面の下部に案内板63が結合されている。結合は、接着、溶着、ネジ止め、その他任意の結合手段によって行われる。
【0069】
本実施形態においても、開口64の中心Gはω軸線に対してズレている、すなわち偏心している。また、開口64と案内板63とは隙間無く互いに連続しており、しかも1つの略平坦な面を形成している。本実施形態においても、吐出ノズル26から出たガス流を開口64によって積極的に吸引できる。しかも、案内板63によって安定して滑らかなガス流を形成できる。
【0070】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、本発明の試料冷却装置は単結晶構造解析装置以外のX線分析装置に適用することができる。また、開口34(図2)及び開口54(図9)だけでも所望のガス流を得ることが出きるのであれば、案内板33(図2)、案内板53(図9)を用いなくても良い。また、ガス吸引部31はファン30を用いた吸引構造に代えてその他の任意の構成の吸引構造とすることができる。
【符号の説明】
【0071】
1.X線分析装置、 2.試料支持系、 3.入射光学系、 4.受光系、 5.試料冷却装置、 8.X線発生装置、 9.モノクロメータ、 10.コリメータ、 11.CDDX線検出器、 13.ω回転基板、 14.アーム部材、 14a.基部、 14b.突出部、 15.φ軸駆動系、 16.試料支持体、 17.ω軸駆動系、 18.出力軸、 19.螺旋ネジ、 22.基台、 23.試料棒(試料支持部材)、 26.吐出ノズル、 27.低温ガス供給装置、 28.ガス吸引装置(ガス吸引手段)、 29.筒部材、 30.ファン、 31.ガス吸引部、 32.取付け構造(磁石)、 33.案内板、 34.開口、 35.始動スイッチ、 45.試料冷却装置、 48.ガス吸引装置(ガス吸引手段)、 49.筒部材、 53.案内板、 54.開口、 55.試料冷却装置、 59.筒部材、 63.案内板、 64.開口、 C.円錐面、 D.吹付け方向、 F.X線源、 G.開口の中心、 S.試料、 P0,P1,P2.試料支持体16の可動位置、 R1.入射X線、 R2.回折X線、 X0.X線光軸、 X1.軸中心線、 δ1.開口のズレ量、 δ2.筒部材の軸中心線のズレ量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置に用いられ、前記試料を冷却する試料冷却装置において、
前記試料に冷却ガスを吹き付ける冷却ガス吹付け手段と、
前記試料を通過したガスを開口を通して吸引するガス吸引手段と、を有しており、
前記試料支持部材は前記ω軸線を中心として回転するときに前記試料を頂点とする円錐面を形成するように移動し、
前記冷却ガス吹付け手段は、前記試料支持部材の延在方向と当該冷却ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になることがあるように設けられており、
前記ガス吸引手段は、前記試料支持部材の延在方向と前記ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが上記鋭角状態を成すときに、前記試料支持部材に当ったガスの流路を曲げるように当該ガスを吸引する
ことを特徴とするX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項2】
前記ガス吸引手段のガス吸引用の開口は前記試料と一体に前記ω軸線を中心として回転する
ことを特徴とする請求項1記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項3】
前記開口は筒部材の先端に形成されており、当該筒部材の軸中心線は前記ω軸線に対して平行に延びていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項4】
前記筒部材の先端は前記試料支持部材の延在方向に沿った傾斜を有していることを特徴とする請求項3記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項5】
前記開口は筒部材の先端面に形成されており、当該筒部材の先端に案内板が取り付けられており、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心しており、前記案内板は前記開口)に連続していることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項6】
前記開口は筒部材の先端面に部分的に形成されており、前記筒部材の先端面の前記開口以外の部分は案内板であり、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心していることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項7】
前記開口の中心は、前記ω軸線よりも前記試料支持部材が在る側へ偏心していることを特徴とする請求項5又は請求項6記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項8】
前記試料支持部材を支持しており当該試料支持部材と一体となって前記ω軸線を中心として回転するω回転基板を有しており、
前記ガス吸引手段は、
前記筒部材に一体に付設されたガス吸引部と、
互いに一体になった前記筒部材と前記ガス吸引部とを前記ω回転基板に着脱可能に取り付ける取付け構造とを有する
ことを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1つに記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項9】
前記ω軸線は水平方向に延びており、前記ガス吹付け手段による前記ガス吹付け方向は上から下へ向かう方向であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項10】
前記X線分析装置は、前記ω軸線を中心として試料を回転させるω軸駆動系と、前記試料支持部材を自身の軸中心線を中心として回転させるφ軸駆動系とを有しており、
前記ω軸駆動系によって試料に入射するX線の入射角度を連続的に揺動させて変化させ、
前記φ軸駆動系によって試料をステップ的に回転させ、
X線入射角度の個々の位置及びφ軸回りの角度の個々の位置において前記試料にX線を入射し、当該X線から出るX線を前記X線検出器によって検出する
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1つに記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項11】
前記試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置であって、請求項1から請求項10のいずれか1つに記載の試料冷却装置を有することを特徴とするX線分析装置。
【請求項1】
試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置に用いられ、前記試料を冷却する試料冷却装置において、
前記試料に冷却ガスを吹き付ける冷却ガス吹付け手段と、
前記試料を通過したガスを開口を通して吸引するガス吸引手段と、を有しており、
前記試料支持部材は前記ω軸線を中心として回転するときに前記試料を頂点とする円錐面を形成するように移動し、
前記冷却ガス吹付け手段は、前記試料支持部材の延在方向と当該冷却ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが角度90度以下の鋭角状態になることがあるように設けられており、
前記ガス吸引手段は、前記試料支持部材の延在方向と前記ガス吹付け手段によるガス吹付け方向とが上記鋭角状態を成すときに、前記試料支持部材に当ったガスの流路を曲げるように当該ガスを吸引する
ことを特徴とするX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項2】
前記ガス吸引手段のガス吸引用の開口は前記試料と一体に前記ω軸線を中心として回転する
ことを特徴とする請求項1記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項3】
前記開口は筒部材の先端に形成されており、当該筒部材の軸中心線は前記ω軸線に対して平行に延びていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項4】
前記筒部材の先端は前記試料支持部材の延在方向に沿った傾斜を有していることを特徴とする請求項3記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項5】
前記開口は筒部材の先端面に形成されており、当該筒部材の先端に案内板が取り付けられており、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心しており、前記案内板は前記開口)に連続していることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項6】
前記開口は筒部材の先端面に部分的に形成されており、前記筒部材の先端面の前記開口以外の部分は案内板であり、前記開口の中心は前記ω軸線から偏心していることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項7】
前記開口の中心は、前記ω軸線よりも前記試料支持部材が在る側へ偏心していることを特徴とする請求項5又は請求項6記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項8】
前記試料支持部材を支持しており当該試料支持部材と一体となって前記ω軸線を中心として回転するω回転基板を有しており、
前記ガス吸引手段は、
前記筒部材に一体に付設されたガス吸引部と、
互いに一体になった前記筒部材と前記ガス吸引部とを前記ω回転基板に着脱可能に取り付ける取付け構造とを有する
ことを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1つに記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項9】
前記ω軸線は水平方向に延びており、前記ガス吹付け手段による前記ガス吹付け方向は上から下へ向かう方向であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項10】
前記X線分析装置は、前記ω軸線を中心として試料を回転させるω軸駆動系と、前記試料支持部材を自身の軸中心線を中心として回転させるφ軸駆動系とを有しており、
前記ω軸駆動系によって試料に入射するX線の入射角度を連続的に揺動させて変化させ、
前記φ軸駆動系によって試料をステップ的に回転させ、
X線入射角度の個々の位置及びφ軸回りの角度の個々の位置において前記試料にX線を入射し、当該X線から出るX線を前記X線検出器によって検出する
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1つに記載のX線分析装置の試料冷却装置。
【請求項11】
前記試料支持部材によって支持された試料をω軸線を中心として回転させて前記試料へのX線入射角を変化させ、前記試料にX線を照射し、前記試料から出るX線をX線検出器によって検出するX線分析装置であって、請求項1から請求項10のいずれか1つに記載の試料冷却装置を有することを特徴とするX線分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−230017(P2012−230017A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98825(P2011−98825)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
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