説明

X線射出装置

【課題】逆コンプトン散乱現象を利用して硬X線を生成するX線射出装置において、安定して硬X線を射出する。
【解決手段】第1導光部4及び第2導光部5が、平行レーザ光L1の分岐手段2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の平行レーザ光から分岐手段によって分岐された電子加速用レーザ光と衝突用レーザ光とを集光し、上記電子加速用レーザ光によって加速された電子と上記衝突用レーザ光とを衝突させてX線を発生及び射出するX線射出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、危険物の透視や治療を目的として、硬X線を特定方向に射出するX線射出装置が提案されている。
例えば、このようなX線射出装置としては、制動輻射によって線源から周囲全体に射出されるX線のうち、上記特性方向に射出された成分のみをビームコリメータによって切り出す装置が知られている。
このようなX線射出装置によれば、ビームコリメータを移動させることによって、任意の特定方向に硬X線を射出することが可能となる。
【0003】
ところが、上記X線射出装置では、線源から射出されたX線の一部成分のみを切り出し、残りの多くの成分を遮光することとなるため、X線の利用効率が極めて低い。
これに対して、電子をレーザ光によって加速させると共に、加速した電子にレーザ光を衝突させて逆コンプトン散乱現象によって硬X線を発生させるX線射出装置が提案されている。
このようなX線射出装置によれば、一方向のみに強い硬X線を射出することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Meas. Sci. Techno. 12(2001) 1824-1834
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、逆コンプトン散乱現象を利用して硬X線を安定して生成する場合には、10μm程度の集光領域にレーザ光を集光して、当該領域にて電子とレーザ光とを衝突させる必要があり、電子とレーザ光との同期を容易とするために単一のレーザ光を電子加速用レーザ光と衝突用レーザ光とに分岐している。
【0006】
ところが、上述のような逆コンプトン散乱現象を用いて硬X線を射出させる場合に用いられるレーザ光は、超短パルスでハイパワーな特殊なレーザ光であり、ビームストレッチ、多段増幅、ビーム圧縮等の多くの過程を経て発生されるものである。よって、上記レーザ光を射出するレーザ光源装置が複雑でかつ大きなものとなる。
このため、レーザ光源装置を防振台上に設置する等の対策を行っているものの、レーザ光源装置から射出されるレーザ光の揺らぎを十分に抑制することができず、現状では、上述のように集光領域が10μm程度であるのに対して、レーザ光のスポット領域が数μm〜10μmの範囲で揺らいでいる。
したがって、逆コンプトン散乱現象を利用して硬X線を発生させるX線射出装置においては、射出される硬X線の強度が変動する、若しくは硬X線が射出されない場合があるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、逆コンプトン散乱現象を利用して硬X線を生成するX線射出装置において、安定して硬X線を射出可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、単一の平行レーザ光から分岐手段によって分岐された電子加速用レーザ光と衝突用レーザ光とを集光し、上記電子加速用レーザ光によって加速された電子と上記衝突用レーザ光とを衝突させてX線を発生及び射出するX線射出装置であって、対称面に対して対称とされると共に入射光を上記対称面に向けて集光する一対の集光光学素子と、一方の上記集光光学素子を有すると共に上記電子加速用レーザ光を導光する第1導光部と、他方の上記集光光学素子を有すると共に上記衝突用レーザ光を導光する第2導光部とを備え、上記第1導光部及び上記第2導光部が、上記平行レーザ光の上記分岐手段への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が上記対称面に対して対称となるように上記電子加速用レーザ光及び上記衝突用レーザ光を導光するという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記第1導光部及び上記第2導光部が、上記集光光学素子を除き、奇数個同士の直角ミラーあるいは偶数個同士の直角ミラーから構成されているという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記平行レーザ光の上記分岐手段への基準入射条件からのズレ量が、上記基準入射条件からの上記平行レーザ光の光軸のズレ量であるという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記平行レーザ光の上記分岐手段への基準入射条件からのズレ量が、上記基準入射条件からの上記平行レーザ光の入射角度のズレ量であるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分岐手段に入射する平行レーザ光の入射条件(例えば、光軸位置や入射角度)が基準入射条件からずれた場合には、第1導光部及び第2導光部によって電子加速用レーザ光及び衝突用レーザ光に対して、ズレ量に起因する変化が対称面に対して対称となるように与えられる。
このため、対称面に対して対称に配置された一対の集光光学素子の一方の集光光学素子から射出される電子加速用レーザ光と他方の集光光学素子から射出される衝突用レーザ光とが、対称面上の同一位置に集光される。
したがって、上記ズレ量によって集光位置が変化した場合であっても、電子加速用レーザ光と衝突用レーザ光とが同一位置に集光され、確実に電子加速用レーザ光によって加速された電子と衝突用レーザ光とを衝突させることができる。つまり、本発明によれば、レーザ光源装置から射出される平行レーザ光が揺らいだ場合であっても、確実に電子と衝突用レーザ光とを衝突させることができる。
よって、本発明によれば、逆コンプトン散乱現象を利用して硬X線を生成するX線射出装置において、安定して硬X線を射出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態におけるX線射出装置の概略構成を模式的に示したシステム構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるX線射出装置の動作を説明するための説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態におけるX線射出装置の概略構成を模式的に示したシステム構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態におけるX線射出装置の概略構成を模式的に示したシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るX線射出装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のX線射出装置S1の概略構成を模式的に示したシステム構成図である。
この図に示すように、本実施形態のX線射出装置S1は、レーザ光源装置1と、ビームスプリッタ2(分光手段)と、光路補正ガラス3と、第1導光部4と、第2導光部5と、光路長調節装置6と、ターゲット供給装置7とを備えている。
【0017】
レーザ光源装置1は、不図示の制御装置の制御の下、超短パルスでかつハイパワーなレーザ光L1(平行レーザ光)を射出するものであり、内部において、レーザ発信機から射出されたレーザ光に対してビームストレッチ、多段増幅、ビーム圧縮等の処理を行ってから射出するものである。このレーザ光源装置1は、レーザ光L1を平行光として射出する。
【0018】
ビームスプリッタ2は、レーザ光源装置1から入射されるレーザ光L1を電子加速用レーザ光L2と衝突用レーザ光L3とに分光するものであり、レーザ光L1の成分の一部を反射して電子加速用レーザ光L2として第1導光部4に導光すると共に、レーザ光L1の一部を透過して衝突用レーザ光L3として第2導光部5に導光するものである。
【0019】
光路補正ガラス3は、レーザ光L1がビームスプリッタ2を通過する際の屈折による衝突用レーザ光L3の進行方向のズレを補正するものであり、ビームスプリッタ2と第2導光部5との間に配置されている。
【0020】
第1導光部4は、ビームスプリッタ2から入射される電子加速用レーザ光L2を導光すると共に集光するものであり、4つの直角ミラー4a〜4dと、放物面鏡4e(集光光学素子)を備えている。
直角ミラー4a〜4dは、入射する電子加速用レーザ光L2を直角に反射する平面鏡である。また、放物面鏡4eは、直角ミラー4dから入射する電子加速用レーザ光L2を図1に示す対称面A上に集光する集光ミラーである。
【0021】
第2導光部5は、ビームスプリッタ2から入射される衝突用レーザ光L3を導光すると共に集光するものであり、6つの直角ミラー5a〜fと、放物面鏡5g(集光光学素子)とを備えている。
直角ミラー5a〜5fは、入射する衝突用レーザ光L3を直角に反射する平面鏡である。また、放物面鏡5gは、直角ミラー5fから入射する衝突用レーザ光L3を図1に示す対称面A上に集光する集光ミラーである。そして、当該放物面鏡5gは、対称面Aに対して第1導光部4が備える放物面鏡4eと対称な配置及び形状を有している。
【0022】
つまり、本実施形態のX線射出装置S1においては、対称面Aに対して対称とされると共に電子加速用レーザ光L2あるいは衝突用レーザ光L3を対称面Aに向けて集光する一対の放物面鏡4e,5gと、一方の放物面鏡4eを有すると共に電子加速用レーザ光L2を導光する第1導光部4と、他方の放物面鏡5gを有すると共に衝突用レーザ光L3を導光する第2導光部5とを備えている。
【0023】
そして、本実施形態のX線射出装置S1においては、第1導光部4及び第2導光部5は、レーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光する。
なお、ここで言う基準入射条件とは、レーザ光源装置1から所望の光軸位置でかつ所望の角度で射出されたレーザ光L1がビームスプリッタ2に入射する際の条件であり、本実施形態においては、ビームスプリッタ2の中央にレーザ光L1の光軸が合いかつビームスプリッタ2に対して45°の角度でレーザ光L1が入射する条件を指す。
また、本実施形態のX線射出装置S1においてレーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量とは、基準入射条件からのレーザ光L1の光軸のズレ量及び基準入射条件からのレーザ光L1の入射角度のズレ量を指す。
つまり、本実施形態のX線射出装置S1において第1導光部4及び第2導光部5は、レーザ光L1のビームスプリッタ2への光軸のズレ量及び入射角度のズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光する。
【0024】
そして、本実施形態のX線射出装置S1においては、第1導光部4及び第2導光部5が、放物面鏡4e,5gを除き、偶数個同士の直角ミラーから構成されることによって、レーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光する。
【0025】
光路長調節装置6は、第1導光部4における電子加速用レーザ光L2の光路長及び第2導光部5における衝突用レーザ光L3の光路長を調節可能なものである。
この光路長調節装置6は、第1導光部4の直角ミラー4b,4c及び第2導光部5の直角ミラー5c,5dを移動することによって電子加速用レーザ光L2の光路長及び衝突用レーザ光L3の光路長を調節する。
なお、光路長調節装置6による第1導光部4における電子加速用レーザ光L2の光路長及び第2導光部5における衝突用レーザ光L3の光路長の調節は、本実施形態のX線射出装置S1が使用されるまでに行われる。
【0026】
ターゲット供給装置7は、電子加速用レーザ光L2の光路上であって集光領域の直近にガスを噴射することによってレーザ照射ターゲットを供給するものである。
【0027】
このように構成された本実施形態のX線射出装置S1では、レーザ光源装置1から射出されたレーザ光L1が基準入射条件にてビームスプリッタ2に入射すると、ビームスプリッタ2によってレーザ光L1が、電子加速用レーザ光L2と衝突用レーザ光L3とに分岐される。
【0028】
電子加速用レーザ光L2は、ビームスプリッタ2から+z方向に射出され、第1導光部4によって対称面Aまで導光されると共に集光される。
具体的には、ビームスプリッタ2から射出された電子加速用レーザ光L2は、直角ミラー4aによって−y方向に反射され、次に直角ミラー4bによって+z方向に反射され、次に直角ミーら4cによって+y方向に反射され、さらに直角ミラー4dによって+z方向に反射される。さらに、直角ミラー4dから射出された電子加速用レーザ光L2は、放物面鏡4eによって対称面Aに向けて集光される。
【0029】
衝突用レーザ光L3は、ビームスプリッタ2から+y方向に射出され、光路補正ガラス3によって光路を補正された後、第2導光部5によって対称面Aまで導光されると共に集光される。
具体的には、ビームスプリッタ2から射出された衝突用レーザ光L3は、直角ミラー5aによって+z方向に反射され、次に直角ミラー5bによって+y方向に反射され、次に直角ミラー5cによって+z方向に反射され、次に直角ミラー5dによって−y方向に反射され、次に直角ミラー5eによって+z方向に反射され、さらに直角ミラー5fによって+y方向に反射される。さらに、直角ミラー5fから射出された衝突用レーザ光L3は、放物面鏡5gによって対称面Aに向けて集光される。
【0030】
そして、第1導光部4の放物面鏡4eと、第2導光部5の放物面鏡5gとが対称面Aに対して対称に配置され、さらに対称な形状を有しているため、電子加速用レーザ光L2と衝突用レーザ光L3とは、対称面A上において集光(衝突)する。
ここで、ターゲット供給装置7から電子加速用レーザ光L2の光路上に供給されたガスターゲットは電子加速用レーザ光L2によってプラズマ化され、プラズマレーザ相互作用で発生・加速された電子が、当該電子加速用レーザ光L2に沿って出射され、対称面A上において衝突用レーザ光L3と衝突する。この結果、硬X線L4が射出される。
【0031】
続いて、本実施形態のX線射出装置S1において、レーザ光源装置1から射出されてビームスプリッタ2に入射するレーザ光L1が、基準入射条件に対してズレ量δだけ光軸がずれている場合について、図2を参照して説明する。
【0032】
レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸が−z方向にずれている場合には、−y方向にずれた電子加速用レーザ光L2がビームスプリッタ2から射出される。このため、直角ミラー4aから射出される電子加速用レーザ光L2が+z方向にずれ、直角ミラー4bから射出される電子加速用レーザ光L2が−y方向にずれ、直角ミラー4cから射出される電子加速用レーザ光L2が−z方向にずれ、直角ミラー4dから射出される電子加速用レーザ光L2が−y方向にずれる。
したがって、レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸が−z方向にずれている場合には、放物面鏡4eに対して、−y方向に光軸がずれた電子加速用レーザ光L2が入射する。
【0033】
一方、レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸が−z方向にずれている場合には、−z方向にずれた衝突用レーザ光L3がビームスプリッタ2から射出される。このため、直角ミラー5aから射出される衝突用レーザ光L3が−y方向にずれ、直角ミラー5bから射出される衝突用レーザ光L3が−z方向にずれ、直角ミラー5cから射出される衝突用レーザ光L3が−y方向にずれ、直角ミラー5dから射出される衝突用レーザ光L3が+z方向にずれ、直角ミラー5eから射出される衝突用レーザ光L2が−y方向にずれ、直角ミラー5fから射出される衝突用レーザ光L2が−z方向にずれる。
したがって、レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸が−z方向にずれている場合には、放物面鏡5gに対して、−z方向に光軸がずれた衝突用レーザ光L3が入射する。
【0034】
ここで、放物面鏡4eに対して入射する−y方向に光軸がずれた電子加速用レーザ光L2と、放物面鏡5gに対して入射する−z方向に光軸がずれた衝突用レーザ光L3とは対称関係である。また、放物面鏡4eと放物面鏡5gとが対称である。このため、放物面鏡4eによって反射された電子加速用レーザ光L2と、放物面鏡5gによって反射された衝突用レーザ光L3とは、対称面A上の同一の位置に集光される。
【0035】
このように、本実施形態のX線射出装置S1においては、第1導光部4及び第2導光部5が、レーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光することによって、放物面鏡4eによって反射された電子加速用レーザ光L2と、放物面鏡5gによって反射された衝突用レーザ光L3とが、対称面A上の同一の位置に集光される。
したがって、レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸がずれた場合であっても、電子加速用レーザ光L2と衝突用レーザ光L3とが同一位置に集光され、確実に電子加速用レーザ光L2によって加速された電子と衝突用レーザ光L3とを衝突させることができる。つまり、本実施形態のX線射出装置S1によれば、レーザ光源装置1から射出されるレーザ光L1が揺らいだ場合であっても、確実に電子と衝突用レーザ光L2とを衝突させることができる。
【0036】
続いて、本実施形態のX線射出装置S1において、レーザ光源装置1から射出されてビームスプリッタ2に入射するレーザ光L1が、基準入射条件に対して入射角度がずれている場合について説明する。
【0037】
基準入射条件でビームスプリッタ2に入射するレーザ光L1のベクトルを(0,1,0)とし、規格化定数をN、レーザ光L1の微小ズレ量をεとすると、ビームスプリッタ2から射出される電子加速用レーザ光L2のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)、直角ミラー4aから射出される電子加速用レーザ光L2のベクトルが(ε/N,−1/N,−ε/N)、直角ミラー4bから射出される電子加速用レーザ光L2のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)、直角ミラー4cから射出される電子加速用レーザ光L2のベクトルが(ε/N,1/N,ε/N)、直角ミラー4dから射出される電子加速用レーザ光L2のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)となり、放物面鏡4eに入射する電子加速用レーザ光L2のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)となる。
【0038】
一方、ビームスプリッタ2から射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,1/N,ε/N)、直角ミラー5aから射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)、直角ミラー5bから射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,1/N,ε/N)、直角ミラー5cから射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)、直角ミラー5dから射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,−1/N,−ε/N)、直角ミラー5eから射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,ε/N,1/N)、直角ミラー5fから射出される衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,1/N,ε/N)となり、放物面鏡5gに入射する衝突用レーザ光L3のベクトルが(ε/N,1/N,ε/N)となる。
【0039】
ここで、対称面Aの法線ベクトルをn=(0,−(√2)/2,(√2)/2)、放物面鏡4eに入射する電子加速用レーザ光L2のベクトルをa=(ε/N,ε/N,1/N)、放物面鏡5gに入射する衝突用レーザ光L3のベクトルをb=(ε/N,1/N,ε/N)とすると、下式(1)となり、ベクトルa,bは、対称面Aに対して面対称なベクトルであることが分かる。
b=a−2n(n・a)……(1)
このため、放物面鏡4eによって反射された電子加速用レーザ光L2と、放物面鏡5gによって反射された衝突用レーザ光L3とは、対称面A上の同一の位置に集光される。
【0040】
このように、本実施形態のX線射出装置S1においては、第1導光部4及び第2導光部5が、レーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光することによって、放物面鏡4eによって反射された電子加速用レーザ光L2と、放物面鏡5gによって反射された衝突用レーザ光L3とが、対称面A上の同一の位置に集光される。
したがって、レーザ光L1が基準入射条件に対して入射角度がずれた場合であっても、電子加速用レーザ光L2と衝突用レーザ光L3とが同一位置に集光され、確実に電子加速用レーザ光L2によって加速された電子と衝突用レーザ光L3とを衝突させることができる。つまり、本実施形態のX線射出装置S1によれば、レーザ光源装置1から射出されるレーザ光L1が揺らいだ場合であっても、確実に電子と衝突用レーザ光L2とを衝突させることができる。
【0041】
以上のように本実施形態のX線射出装置S1によれば、レーザ光L1が基準入射条件からずれた場合であっても、確実に電子加速用レーザ光L2によって加速された電子と衝突用レーザ光L3とを衝突させることができ、安定して硬X線L4を射出することが可能となる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0043】
図3は、本実施形態のX線射出装置S2の概略構成を模式的に示したシステム構成図である。
この図に示すように、本実施形態のX線射出装置S2は、第1導光部4が2つ(偶数個)の直角ミラー4f,4gと放物面鏡4hとによって構成され、第2導光部5が5つ(奇数個)の直角ミラー5h〜5lと放物面鏡5mとによって構成されている。
そして、本実施形態のX線射出装置S2においても、上記第1実施形態のX線射出装置S1と同様に、放物面鏡4hと放物面鏡5mとが対称面Aに対して対称とされている。
【0044】
このような構成を有する本実施形態のX線射出装置S2では、第1導光部4が偶数個の直角ミラーを備え、第2導光部5が奇数個の直角ミラーを備えているが、レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸がずれている場合には、第1導光部4及び第2導光部5によって、レーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光することができる。
したがって、本実施形態のX線射出装置S2によれば、レーザ光L1が基準入射条件に対して光軸がずれた場合であっても、確実に電子加速用レーザ光L2によって加速された電子と衝突用レーザ光L3とを衝突させることができ、安定して硬X線L4を射出することが可能となる。
ただし本構成の場合、入射条件のずれが入射角度ズレの場合、集光点にズレが生じる。
【0045】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1及び第2実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0046】
図4は、本実施形態のX線射出装置S3の概略構成を模式的に示したシステム構成図である。
この図に示すように、本実施形態のX線射出装置S3は、第1導光部4が2つ(偶数個)の放物面鏡4i,4jと上記第2実施形態の放物面鏡4hとによって構成され、第2導光部5が上記第2実施形態と同様に5つ(奇数個)の直角ミラー5h〜5lと放物面鏡5mとによって構成されている。
そして、本実施形態のX線射出装置S3においても、上記第1実施形態のX線射出装置S1と同様に、放物面鏡4hと放物面鏡5mとが対称面Aに対して対称とされている。
【0047】
このような構成を有する本実施形態のX線射出装置S3では、第1導光部4が偶数個の直角ミラーを備え、第2導光部5が奇数個の直角ミラーを備えているが、レーザ光L1が基準入射条件に対して入射角度がずれている場合には、第1導光部4及び第2導光部5によって、レーザ光L1のビームスプリッタ2への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が対称面Aに対して対称となるように電子加速用レーザ光L2及び衝突用レーザ光L3を導光することができる。
したがって、本実施形態のX線射出装置S3によれば、レーザ光L1が基準入射条件に対して入射角度がずれた場合であっても、確実に電子加速用レーザ光L2によって加速された電子と衝突用レーザ光L3とを衝突させることができ、安定して硬X線L4を射出することが可能となる。
本構成の場合、基準入射条件からのずれが軸ズレの場合、最終集光ミラー上への入射レーザがレーザ軸に対して垂直方向のズレを生じる。しかし、最終集光ミラーとして方物面鏡を採用する事で、この垂直方向のズレは除去可能となる。
【0048】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0049】
例えば、上記実施形態における、電子加速用レーザと衝突用レーザは相互にその役割を交換した構成を採用する事も可能である。この場合、X線の発生方向は反転する。
例えば、上記実施形態における第1導光部4及び第2導光部5の構成は一例であり、その他の構成を採用することも可能である。
例えば、上記実施形態においては本発明の集光光学素子として放物面鏡を用いる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、集光光学素子として集光レンズを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0050】
S1〜S3……X線射出装置、1……レーザ光源装置、2……ビームスプリッタ(分岐手段)、4……第1導光部、4a〜4d,4f,4g……直角ミラー、4e,4h……放物面鏡(集光光学素子)、4i,4j……放物面鏡、5……第2導光部、5a〜5f,5h〜5l……直角ミラー、5g,5m……放物面鏡、A……対称面、L1……レーザ光(平行レーザ光)、L2……電子加速用レーザ光、L3……衝突用レーザ光、L4……硬X線(X線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の平行レーザ光から分岐手段によって分岐された電子加速用レーザ光と衝突用レーザ光とを集光し、前記電子加速用レーザ光によって加速された電子と前記衝突用レーザ光とを衝突させてX線を発生及び射出するX線射出装置であって、
対称面に対して対称とされると共に入射光を前記対称面に向けて集光する一対の集光光学素子と、一方の前記集光光学素子を有すると共に前記電子加速用レーザ光を導光する第1導光部と、他方の前記集光光学素子を有すると共に前記衝突用レーザ光を導光する第2導光部とを備え、
前記第1導光部及び前記第2導光部は、前記平行レーザ光の前記分岐手段への基準入射条件からのズレ量に起因する変化が前記対称面に対して対称となるように前記電子加速用レーザ光及び前記衝突用レーザ光を導光する
ことを特徴とするX線射出装置。
【請求項2】
前記第1導光部及び前記第2導光部は、前記集光光学素子を除き、奇数個同士の直角ミラーあるいは偶数個同士の直角ミラーから構成されていることを特徴とする請求項1記載のX線射出装置。
【請求項3】
前記平行レーザ光の前記分岐手段への基準入射条件からのズレ量は、前記基準入射条件からの前記平行レーザ光の光軸のズレ量であることを特徴とする請求項1または2記載のX線射出装置。
【請求項4】
前記平行レーザ光の前記分岐手段への基準入射条件からのズレ量は、前記基準入射条件からの前記平行レーザ光の入射角度のズレ量であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のX線射出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−218763(P2010−218763A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61564(P2009−61564)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】