説明

Y接合反射器による調整可能遅延または共振器導波路装置

本発明は、電気光学基板(12)における調整可能な遅延または共振器装置を提供する。電気光学基板の少なくとも一つの導波路(16、34、68)内の信号は導波路の一つの分岐から導波路のもう一つの分岐に戻すように信号を向けるY接合反射器(18、20、32、78)を通過する。本発明の一実施形態において、結合された遅延または共振器の近似的ループが対向するY接合反射器によって提示される。本発明の他の実施形態では遅延ラダーは、多数の出力の中から選択可能な遅延レベルを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府関連の報告)
本発明は、サンディエゴにおけるカリフォルニア大学より、海軍研究事務所(ONR)からの政府援助ONR基金No.28015Aを得て行われたものである。政府は本発明においてある一定の権利を有する。
【0002】
(優先権主張および関連出願への言及)
本出願は、米国特許法第119条項に基づき、2004年6月7日に出願された先の仮出願第60/577,676号による優先権を主張する。
【0003】
本発明の分野はオプトエレクトロニクス(光電子工学)である。本発明は、導波路装置に関する。本発明は、例えば光信号処理アプリケーション、マイクロ波回路、パケット交換ネットワーク、波分割多重化、光フィルタなどに適用可能である。
【背景技術】
【0004】
オプトエレクトロニクス回路には、信号処理からコンピューティングまで幅広い範囲の用途がある。用途の例として、コヒーレントおよび非コヒーレント信号処理、光フィルタリング、RFフィルタリング、スイッチング、および変調がある。光回路の潜在的な帯域幅、速度および他の属性は、これらの回路の用途を拡大し続けるであろう。
【0005】
典型的な用途は、マイクロ波回路、例えば無線ネットワーク通信を送受信するために無線送受器に使用される回路に対するものである。基本的問題は単純なフィルタリングの問題であって、中心周波数の周りのある特定の範囲を、または一つ以上の動作帯域に対応する周波数をフィルタリングするために回路を調整させる必要が存在する。マイクロ波調整回路のための典型的な製造プロセスにおける許容差が、困難につながる。マイクロ波回路における導波路の正確なサイズ、結合効率、化学組成などが、ある特定の設計にしたがって製造される回路の中心周波数の差につながる可能性がある。製造された光学部品の再調整は、物理的変更を必要とする可能性があり、また所定の中心周波数に関する許容可能な設計範囲内では可能でないこともあり得る。典型的な光調整回路の製造後に、この回路の応答周波数を修正することは困難である。
【0006】
このような問題および他の用途における同様な問題を解決するために光遅延線が使用されてきた。光遅延線の一つのタイプは、異なる遅延量を得るために多くの異なる経路長を備える。典型的には異なる経路長のスイッチをOFFにして所定の遅延を得るためにマイクロメカニカル(微小機械式)スイッチが使用される。所定の導波路の周波数を変えるためのもう一つの方法は、加熱することである。導波路の加熱は、導波路の経路長を変えることができる。しかしながら加熱はゆっくりした応答時間を持っており、すべての用途における解決策として実用的であるとは限らない。
【0007】
コヒーレントおよび非コヒーレント光信号処理において、例えば光またはRFフィルタリング、スイッチング、および変調において、低損失導波路ループまたはリング構造が使用されてきた。多数の導波路材料において、例えばガラス導波路、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、GeO2ドープド・シリカ、および従来の光ファイバにおいて受動ループまたは能動ループが製造されてきた。これらのリング構造における共振周波数は、一般に都合よくは調整できない。一部のものは熱的に調整可能(チューナブル)であるが、調整の速度と精度は高速のアプリケーションには十分でない。
【0008】
オプトエレクトロニクスにおけるもう一つの興味ある構造は、1:Nスプリッタ(分割器)である。このようなスプリッタは、多くの信号処理アプリケーションで使用される。アプリケーションの一例は、フォトニックパケット交換ネットワークのラベル認識に関するものである。タカハシらの「40-Gbit/s Label Recognition and 1 x 4 Self-Routing Using Self-Serial-to-Parallel Conversion」(自動直並列変換を使用する40ギガビット/秒・ラベル認識および1×4自動経路選択)、IEEE Photon. Technol. Lett., Vol. 16, pp 692-94 (Feb. 2004)。このようなスプリッタに関するもう一つのアプリケーションは、大容量記憶ネットワークのためのデータ転送速度変換を実行することである。スズキらの「Ultrafast Photonic Interfaces for Storage Networking Using Serial-to-Parallel and Parallel-to-Serial Conversion」(直並列および平直列変換を使用する記憶ネットワーキングのための超高速フォトニックインタフェース), Proc. of SPIE, Vol. 5069, pp 35-44 (2003)。更なるスプリッタ・アプリケーションは全光学式レジスタである。Lugagneらの「Operation of 4×1 Optical Register as a Fast Access Optical Buffer Memory」(高速アクセス光バッファメモリとしての4×1光レジスタの動作), Electron. Lett., Vol. 33, pp 1161-62 (June 1997)。スプリッタはまた、光RFビーム形成時にも使用され得る。Esmanらの「Fiber-Optic Prism True Time-Delay Antenna Feed」(光ファイバプリズム真の時間遅延アンテナ給電), IEEE Photon. Technol. Lett., Vol. 5, pp 1347-1349, 1993。スプリッタは、タカハシおよびスズキ(上記)のように表面放射平面光波回路を使用して、またはLugagne(上記)のように音響・光変調器を使用して、またはEsman(上記)のようにファイバベースの技法を使用して作られてきた。しかしながらこれらの分割技法のどれも、ネットワークの動的変化に対応するように直ちに再プログラミングまたは微調整する余地はない。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、電気光学基板において調整可能な遅延または共振器装置を提供する。この電気光学的基板における少なくとも一つの導波路内の信号は、導波路の一方の分岐からこの導波路のもう一方の分岐に信号を向け戻すY接合反射器を通過する。対向するY結合反射器を有する本発明の一実施形態では、結合された導波路の近似的ループが提供される。本発明の他の実施形態では、多数の出力から選択可能なレベルの遅延を有する導波路ラダーが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態は、ループに近似するY接合反射器を使用し、このループと、このループに信号を渡すために使用される結合器(カップラ)とに調整を与える、調整可能な光遅延または共振器装置を提供する。好ましい態様において大きな調整範囲が実現できる。本発明の他の実施形態は、ラダー状構造に形成された調整可能な結合器とY接合反射器との1グループを含む信号処理装置を提供する。選択可能な遅延量または共振量は、この信号処理装置の異なる出力から得ることができる。結合器は、内蔵型遅延線または共振線として機能するY接合反射器の蛇行導波路内を導波される光の一部を透過させる。結合器の電極に、また蛇行導波路に沿って、電圧を印加することによって、出力の振幅と位相は、1出力チャネルごとに調整できる。したがって信号処理装置のプログラム可能な特性は、電気的制御回路によって達成可能である。更に、光源として狭帯域連続波(CW)レーザーが使用されるときには、出力チャネルは互いにコヒーレントになる。
【0011】
好ましい態様装置は、ニオブ酸リチウムから形成され、これらの実施形態はこの特定の電気光学材料に関して説明する。しかしながら他の材料も使用可能である。一般に電気光学的効果を示す如何なる半導体材料も使用可能である。例としては、多量子井戸や異種接合材料がある。
【0012】
本発明の好ましい態様の調整可能な光遅延または共振器装置は、対向するY接合反射器により平面ループを近似している。この近似的平面ループは、電極によって調整される。この近似的平面ループは、同様に電極によって調整される結合器によって給電される。近似的平面ループとこの近似的平面ループに結合された導波路。単一の電気光学結晶が使用可能であり、また導波路は、近似的ループと、結合された導波路とにおいて結晶の有効屈折率を変化させることによって形成可能である。更なる実施形態では、更なるループが更なる遅延または共振を加える。各々の更なるループは、例えば近似的ループに結合され得る。
【0013】
ここで、好ましい態様について、下記の説明を参照して通常の当業者によって十分に理解される模式的表現を含む図面を参照しながら説明する。これらの図面の外観はまた、例示目的のために誇張されている可能性がある。実験的装置について説明するが、当業者は特定の例示的実験的装置を理解することによって本発明のより広い特徴を認識するであろう。
【0014】
図1Aに好適な調整可能な光遅延または共振器装置10が示されている。電気光学材料、例えばニオブ酸リチウムの基板12は、近似的ループ導波路16に光学的に結合されたスルー(through)導波路14を含む。この近似的ループ導波路16は、対向するY接合反射器18、20と導波路分岐22、24とを含む。光信号は、スルー導波路14とこのスルー導波路14に結合する分岐22との間の結合領域25においてスルー導波路14から近似的ループ導波路16内に供給される。結合は、電極26によって印加される電界によって影響される。近似的ループ16における遅延または共振は、電極27によって印加される電界によって影響される。電極26、27は接地・信号・接地の高速電極として構成される。電極26は、接地面26aと信号供給経路26bとを含む。同様に電極27は、接地面27aと信号供給経路27bとを含む。ギャップ26c、27cはそれぞれの接地面26a、27aからマイクロ波信号供給経路26b、27bを分離するために使用される。当業者は理解するであろうが、電極26、27の寸法は、関心のマイクロ波信号にしたがって設定される。
【0015】
Y接合反射器18、20は、基板12の反射性端部ファセット(切子面)と、個々の導波路分岐の終端部とによって実現され得る。各Y接合は好適には、端部ファセットに近い一つの比較的広いマルチモード干渉(MMI)分岐に合流する二つの導波路分岐からなる。ミラー29は、例えば基板12の端部ファセット上の金属コーティング(被膜)または誘電体ミラーによって形成され、分岐22、24の一方から他方に光信号をフィードバックする反射面を形成する。テストにおいて例えば、金コーティングされた全反射ミラーは一方の導波路分岐から他方の導波路分岐に光をガイドできることが確認された。Y接合に関連する如何なる損失も、反射面の効率に実質的に完全に関連しているように思われる。一例として、ある試作装置はY接合反射器に実質的に起因する約1.0dB損失を有する事が確認された。ファセットの粗さとコーティングの品質は、反射損失への主要な寄与要因であり、これらのパラメータの最適化は損失を削減し得る。
【0016】
図1B、1Cは、例えば図1AのY反射器18であり得る好ましい態様のY反射器を示す。この反射器18は、異なる寸法とギャップを有する3つのセクション18a、18b、18cを含む。これらの寸法とギャップは、試作装置のテストのためにも使用された好ましい態様を形成する。図1Cに見られるように、56μmのMMIインタフェースは、好ましい態様ではAu(1200オングストローム)とCr(60オングストローム)の多重層であるミラー29の近くに形成される。ギャップは、セクション18cで狭くなって行き、図1Cに見られるように7度の角度での導波路分岐22、24の合流によって形成されるMMIでは1.5μmのギャップになる。
【0017】
これらの導波路は、近似的ループ導波路16とスルー導波路14とを形成するために必要とされるパターンにおける有効屈折率を変化させる多くの技法によって形成できる。しかしながら好ましい態様の導波路は、本発明の別の態様を形成する。好ましい態様では、近似的平面ループ16とこの近似的平面ループ16にエネルギー供給するスルーライン導波路14とのための分岐導波路22、24は、チタン(Ti)拡散パターンによってニオブ酸リチウム結晶内に形成される。このチタン拡散パターンは、例えば標準のリソグラフィーおよび拡散技法によって形成できる。
【0018】
近似的平面ループ16は、スルー導波路14との安定した結合を作り出すモノリシック導波路共振器である。従来の円形ループと比較してY接合反射器18、20を使用する近似的平面ループ16は、よりコンパクトであり、従来の円形ループに関連する折り曲げ損失の大部分は回避できる。ループ16の共振周波数は、電極27によって印加される電界を介して直ちに調整できる。この調整の速度と精度は、調整が単に熱的調整によって得られる従来の遅延ループより遥かに改善できる。しかしながら本発明は、電極27による電界調整に加えて熱調整を使用することによって更なる調整を得ることを排除しない。単一の近似的ループ16が示されているが、追加の近似的ループも近似的ループ16に結合できる。図1Aの装置10は独立(スタンドアロン)装置として示されているが、これはまた、例えば大規模集積光回路の一部を形成することもでき、また他の光回路および装置に結合できることは、当業者が理解するであろう。
【0019】
本発明のY接合調整可能近似的ループ遅延または共振器装置は、光とRF両方のアプリケーションを含む幅広い範囲の用途がある。例えば光コヒーレント共振器としてこれは、高密度波長分割多重化(DWDM)通信システムのための光学的櫛型フィルタまたは調整可能チャネル・アドドロップ(add-drop)フィルタとして使用できる。その独特の位相特性のために調整可能オールパス(all-pass)(全帯域)フィルタとしてのこの近似的ループは、高速DWDMシステムの色分散補正に使用できる。更にこれは、無限インパルス応答光RFフィルタにおける非コヒーレント光遅延線として機能し得る。更にこの受動導波路が光利得を有する導波路、例えば光ポンピングを有するErドープドTi拡散導波路で置き換えられるならば、近似的ループY接合反射器装置は、リング・レーザーとして動作できる。この近似的ループY接合反射器装置に基づいて、更に複雑な共振器構造が構築できるであろう。
【0020】
さて試作装置について説明する。この試作装置の態様は、好ましい態様の特徴を形成するが、当業者は本発明がこの試作装置にはまったく限定されないことを理解するであろう。特に、当業者は、この試作装置の態様が商業的製造には存在しない研究室的製造の制約によって決定されていることを理解するであろう。
【0021】
この試作装置は、図1Aに示す装置と一致していた。基板は、zカットのニオブ酸リチウムであった。金のY接合反射器は、スルー導波路の端部ファセット領域ではなく、Y接合の領域における基板の端部ファセットだけに取り付けられた。この試作装置では導波路ファセットのコーティングを支持するために端部ファセットに近い基板の上面にLNの小片が接着された。実験では、入力光はスルー導波路に結合され、それから近似的ループ内に入れられた。結合係数は、(a)導波路の有効モードインデックス(modal index)と、(b)結合領域の長さと、(c)ストレートスルー(straight-through)導波路とこのループの隣接する相互接続導波路との間のギャップと、によって決定される。
【0022】
試作装置では、近似的ループとスルー導波路との間のギャップは約4.2μmであり、スルー導波路の長さ(およびニオブ酸リチウム基板の全長)は約14mmであり、ループの上部アームと下部アームとの間の分離は約100μmであった。したがってこのループの一周は約28mmであった。この試作装置の全体サイズは約14mm×1.8mmであった。
【0023】
再び図1Aを参照すると本発明の近似的Y接合反射器ループ16は、ループの一般モデルに適合する。スルー導波路14のための電界の複素振幅Ein、Eoutと結合器のためのEc1、Ec2は:
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
によって関係付けられる。
【0028】
ここでEinとEoutはそれぞれスルー導波路14の入力と出力の複素振幅であり、Ec1とEc2はそれぞれ分岐22(スルー導波路14に結合された分岐)と24における複素振幅であり、κは結合器領域25の光強度結合係数であり、γ1は結合器領域の光強度損失であり、γ2はY接合反射器18、20の反射損失と近似的ループ導波路16の伝播損失とを含む結合領域25の外側の近似的ループ16の光強度損失であり、Lは近似的ループ導波路16の長さであり、nは導波路領域(例えば好ましい態様ではチタン拡散ニオブ酸リチウム)の光モードの屈折率であり、λはレーザー光の波長である。
【0029】
スルー導波路14にエネルギー供給するためにファイバが使用できる。伝送特性に関して本発明者らは:
【0030】
【数4】

【0031】
に留意し、またスルー導波路14のエンドツーエンドの光強度伝送は:
【0032】
【数5】

【0033】
であり、ここでγ3はファイバとスルー導波路との間の光強度結合損失と結合領域25におけるスルー導波路の部分を除くスルー導波路の伝播損失とを含む。
【0034】
この試作装置による実験は、Y接合反射損失と導波路伝播損失とを含む近似的ループ導波路に関する全内部損失が約3.5dBであることを示した。Q=λ/(Δλ)FWHMによって定義されるクォリティファクターQは、約6.5×104で測定された。Q値を更に大きくするためには、内部損失を補償するためのErドープドLN導波路といった能動導波路が使用され得る。
【0035】
(4)から結合係数κの最適値は:
【0036】
【数6】

【0037】
によって与えられる。
【0038】
したがって例えばγ1=−1.1dB、γ2=−2.4dBでは、最適κは56.11%である。最適化された結合係数によって、消光比は大きくなることができ、出力光はこのループの位相整合条件が満たされるとき極めて小さくなり得る。ループの位相整合条件は:
【0039】
【数7】

【0040】
のときに満たされる。ここでr33は基板の電気光学係数であり(例えばニオブ酸リチウムで30.9pm/V)、EZは電界である。図2は、電極が5mmという有効長さ(電極27の電界に曝される分岐の長さ)を持ち、光の波長が1.5545μmであると仮定して、電極27によって印加される電界の関数としてのスルー導波路14の伝送(透過)出力をプロットしている。図2は、伝送が例えば周期約20kV/cmで印加される電界によって定期的に調整され得ることを示している。56.11%という最適化された結合係数の場合に出力は、10kV/cmの電界の揺れによって−6.45dBのピークから理論的にはゼロまで変化する。したがって本発明のY接合反射器調整可能装置は、スイッチングまたは高速変調に関する用途がある。
【0041】
図1Aの全体的構造によるもう一つの試作装置では、近似的ループ導波路を形成するために二つの導波路分岐に二つのY接合反射器が接続された。この実施形態は、図1Bおよび1Cに示されている。反射性コーティングは、120nm厚さのAuであってファセットとAuとの間の6nm厚さのCrを有し、スルー導波路にではなくY接合の端部ファセットだけに塗布された。導波路幅(分岐とスルー導波路の両者の)は約6μmである。Y接合反射器の分割角は7°であり、MMIセクション長さ(近似的ループ導波路の二つの分岐の合流部分の長さ)は56μmである。これらのパラメータで低損失と高反射率とを達成した。
【0042】
Y接合反射器を有する近似的ループに具体化された原理はまた、蛇行遅延線を創作するためにも適用可能である。図3は、複数の結合された出力31を有する蛇行導波路30によって実現されたプログラム可能な結合器ラダー(はしご)を示す。Y接合反射器32は、蛇行遅延線の分岐34とミラーM0〜M3によって形成される。分岐34は、例えば拡散チタンによって基板導波路内に、例えばZカットLN内に形成される。ファセットにおける蛇行導波路の各屈折点は、好適には端部ファセット付近の一つの比較的幅広いマルチモード干渉(MMI)分岐に合流する二つの導波路分岐からなるY接合を形成する。各ミラーMN金属または誘電体高反射ミラーは、MMI分岐Y接合の出力においてコーティングされる。MMIセクションの適切な幾何学的設計によって各Y接合は、自由空間において一方向から他方向に光ビームを反射するミラーと同様に一分岐から他分岐に入射光の大部分をガイドできる。
【0043】
ミラーM1〜MNは、結合導波路38からの出力を可能にするように間隔をあけて配置され、分離した出力O1〜ONを可能にする。電極40は位相変調を制御し、電極42は結合係数変調を制御する。ミラーM0は連続していてもよく、複数の間隔をあけて配置されたミラーによって形成されてもよい。出力は、図4では右側で取るように示されているが、どちらか一方側または両側から取ってもよい。
【0044】
結合導波路38は、蛇行導波路の分岐34に結合する。複数の結合導波路38は、各々の出力が異なる遅延量を有する出力を持った下から上までの平行な出力O1〜ONを生成する一連の指向性結合器K1、K2、K3・・・KNを形成し得る。各結合導波路38の終端におけるファセットは、光を外部に結合するために光学的に透過性である。出力の数Nは、伝播損失の制約下で最適化され得る。O1からON-1の出力は互いに等しい。最後の出力、ON出力は、蛇行導波路自身の出力であるので特殊なケースである。この出力のための結合器は存在しない。KNは常時ON状態を表す単一体であると考えられる。
【0045】
φ1、φ2、・・・φNと示された電極40は、対応するONに関する位相シフトを制御する。同様に電極42は、適切な印加電圧によって0から1まで調整できるK1、K2、・・・、KN-1という結合係数を制御する。位相と結合係数の両者を調整することによってすべての結合器の出力は、任意の振幅および位相変調を持つことができる。応答速度は、適切に選択された電気光学材料によって極めて高くできる。一例としてLNの電気光学的応答速度は、最大で数10GHzである。一般的に48で示されている高性能制御回路を、電極40、42のための適当な制御信号を生成するために使用することができる。適切な制御によって、この装置はプログラム可能な結合器ラダーとして機能し得る。
【0046】
図3のプログラム可能な結合器ラダーには多くの適用可能性が存在する。結合器ラダーの最も直接的な機能は、従来の1×Nパワースプリッタと同様の直並列変換を達成して、入力信号をNチャネルに分割することである。しかしながら本発明のプログラム可能ラダーは、すべての出力が本来的に、他の出力に対して相対的遅延を有することにおいて従来のスプリッタ(分割器)に対して独自の利点を持っている。相対的遅延時間は、蛇行導波路30に沿って隣接する結合器間の導波路の長さによって決定される。
【0047】
図4は、出力のパルス伝播・整列のための単純化された図を示す。便宜上、Nは4に設定されている。図4に見られるように、本発明のプログラム可能な結合器ラダー50にビットが到達する。シリアルなビットは1〜4とラベル付けされている。結合器電極K1〜K4がビットを出力するように設定されれば、52の如くラベル付けされたパラレル出力によって示されるようにシリアル入力のパラレル出力が得られる。前のクロックサイクルで奇数番の結合電極K1、K3がオフにされ、その結果、54の如くラベル付けされた出力に第2、第4の出力ビットがパラレルに出力された。内蔵遅延時間が伝送ビットレートと相関関係にあれば、出力パルスは時間軸上に整列するであろう。したがって入力シリアルビットが単にパラレルに出力される出力52のために、結合器電極に制御信号が印加される必要はなく、結合器電極は単にオン位置に維持され得る。この直接的出力は、例えばパケット交換ネットワークにおけるラベル認識といった信号処理アプリケーションのために有用である。
【0048】
出力54のような更なる分割機能は、電気制御信号の助けによって得ることができる。例えば入力パルスは、内蔵遅延を使用して分類できる。同期化されたクロックの下で結合係数Ki(i=1、2、3、4)の制御が書き込まれ得ると仮定すると、Kiに関して異なる制御ワードを適用することによって異なるビットパターンが取得され得る。例えばK1=K2=K3=K4=1の場合、すべてのビットは吹き消されるであろう。K1=K3=0でK2=K4=1の場合、パルス1、3だけが消されるであろう。これは、装置がビットレベルで信号処理を実行することを可能にする。1チャネルだけが外部に結合されることを許されるならば、装置はプログラム可能ルータになる。
【0049】
入力ポートと出力ポートとを逆にすることによってプログラム可能結合器ラダーは、同期化クロックの助けによって平直列変換器として動作することもできる。指向性結合器の伝送特性のお蔭により、この装置の利点は、パルス間の干渉が避けられるように、一つのチャネル(例えば第2結合器)がパルスの結合のために開いているとき、上部チャネル(例えば第3、第4)から来る望ましくないパルス流れは、チャネル2の結合器のダミー端部に伝送されることである。適当な導波路設計によりダミー端部に到達する光は、伝送導波路に干渉を発生させることなく基板の外へ放射するであろう。
【0050】
今までパルス処理を説明してきたが、本発明のプログラム可能結合器ラダーは、各出力チャネルO1〜ON-1の振幅と位相とを調整することによって連続光波処理を実行することもできる。図5Aは、どのようにしてプログラム可能結合器ラダーが位相と振幅においてある一定の相互関係を有する出力を生成できるかを示す。光源としてω1の狭いライン幅の連続波レーザーが使用される。簡単のために、単に位相だけが考慮下にあるように、出力振幅は同じであってKiの適当な値を選択することによって1に正規化されることが仮定される。チャネル間の相対位相だけが重要であるので、第1のチャネルの位相出力は基準として0であると仮定される。移相器を調整することによってこの装置は、すべての二つの隣接チャネル間にΔφという位相差を生成する。
【0051】
このコヒーレント位相アレイの一つのアプリケーションは、光無線周波数(RF)ビームの形成である。このアプリケーションのために、すべてのアナログチャネルに関してω2の出力光周波数および同じ位相の第2の結合器ラダーが使用される。結合器アレイと検出器アレイは、信号を光領域からRF領域に変換できる。ω1とω2のビートトーン(beat tone)である出力RF信号は、すべての二つの隣接チャネル間に同じ位相差Δφを持つであろう。図5BにRF生成プロセスが示されている。RF位相差だけが重要であるのでω2の同じ位相は0に設定される。検出器における二つのレーザービームのビートトーンは、下記の方程式:
【0052】
【数8】

【0053】
によって支配される。
【0054】
DC項と高次周波数項は(8)の誘導過程で無視される。したがってこの方法は、光位相を微調整することによってRF位相アレイ信号を調整するために利用され得る。
【0055】
伝送時の光位相安定性を改善できる代替手段は、ω2が同じ結合器ラダーチップにおいてM0を介して供給されてω1と混合され得るように、図3のミラーと、ω1を拒絶するがω2を通過させ得るある幾つかの帯域フィルタを交替させることである。
【0056】
図5Bは、本発明のプログラム可能遅延装置のためのRF発生技法を示す。パラレル光入力は、入力から出て出力に供給される信号を有する図3のようなプログラム可能遅延装置である結合器60によって結合されてシリアルに出力される。これらのシリアル信号は、出力を生成する検出器チャネル62によって検出される。
【0057】
もう一つの好ましい態様の調整可能遅延装置が図6に示されている。図6の実施形態は一般に、図1A〜1Cの原理と一致する多数ループ実施形態である。説明の明確さのためにループ導波路だけが図6に示されている(電極は省略されているが図1Aの実施形態のように形成されているであろう)。多数ループ68は、一緒に結合されている。信号は、第1のスルー導波路70からループ68に入って第2のスルー導波路72から出て行く。これらのループとスルー導波路との間の結合は、結合係数k1〜k3(図1Aおよび図3と同じ係数によって制御される)による。図6には、Y接合78付近の代替反射器76も示されている。ミラー29の代わりに、この反射器は、例えばループ導波路68内の分散ブラッグ反射器または格子であり得る。
【0058】
本発明の特定の実施形態が図示され説明されてきたが、他の変形例、代用手段および代替手段が当業者にとって明らかであることは理解されるべきである。このような変形例、代用手段および代替手段は付属の請求項から決定されるべきである本発明の精神と範囲から逸脱せずに実施され得る。
【0059】
本発明の種々の特徴は、付属の請求項に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】本発明の一実施形態によるY接合反射器調整可能光遅延または共振器装置の模式上面図である。
【図1B】好適なY接合反射器の模式図である。
【図1C】図1BのY接合反射器の一部分の詳細図である。
【図2】約56.1%の結合係数に関する本発明のY接合反射器光遅延または共振器装置の調整可能性を示すプロットである。
【図3】本発明の一実施形態によるY接合信号処理装置の模式上面図である。
【図4】本発明のY接合信号処理装置のための好ましい態様のパルス伝播制御方式を示す図である。
【図5A】本発明のY接合信号処理装置のための好ましい態様の連続波処理方式を示す図である。
【図5B】本発明のY接合信号処理装置のための好ましい態様の連続波処理方式を示す図である。
【図6】もう一つの実施形態のY接合反射器調整可能光遅延または共振器装置の模式上面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学基板(12)と、
前記電気光学基板内に設けられた第1の導波路(16、34、68)と、
前記電気光学基板内に設けられ、前記第1の導波路に光学的に結合された第2の導波路(14、38、70、72)と、
前記第1、第2の導波路のうちの少なくとも一つに設けられたY接合反射器(18、20、32、78)と、
前記第1、及び第2の導波路の間の結合に影響を与える第1の電極(26、42)と、
前記第1、及び第2の導波路のうちの前記少なくとも一つにおける遅延または共振に影響を与える第2の電極(27、40)と、
を備える調整可能な導波路遅延または共振器装置。
【請求項2】
前記Y接合反射器は、Y接合合流部であって、前記第1、及び第2の導波路のうちの前記少なくとも一つの導波路の導波路分岐と、前記Y接合合流部に隣接した前記電気光学基板のファセットに配置されたミラーとのY接合合流部である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の導波路と第2の導波路のうちの前記少なくとも一つは、対向するY接合反射器とともに近似的ループを構成する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の導波路と前記第2の導波路のうちの残りの一つは、スルー(through)導波路である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
Y接合反射器により複数の近似的な結合されたループを構成する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の導波路と前記第2の導波路のうちの前記少なくとも一つは、対向するY接合反射器との蛇行導波路である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の導波路と前記第2の導波路のうちの前記少なくとも一つの他方は、出力とダミー端部とを有する結合導波路である、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記蛇行導波路は、各々の屈折点がそれぞれのY接合反射器によって形成される複数の屈折点を含んでおり、
前記第1、及び第2の導波路のうちの前記少なくとも一つの他方は、各々が出力とダミー端部とを有し、各々が前記蛇行導波路の複数の分岐の一つに結合された複数の結合導波路であり、
前記第1の電極は各々が前記複数の結合導波路のうちの一つの導波路の結合にそれぞれ影響を与える複数の第1の電極を備えており、
前記第2の電極は各々が前記蛇行導波路の前記複数の分岐うちの一つの分岐の遅延または共振にそれぞれ影響を与える複数の第2の電極である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記電気光学基板はニオブ酸リチウムで構成され、
前記蛇行導波路と前記複数の結合導波路は、前記電気光学基板内に拡散されたチタンを備える、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
各それぞれのY接合反射器は、前記蛇行導波路の導波路分岐と前記電気光学基板のミラー化されたファセットとのY接合合流点である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記複数の結合導波路の出力に対応する、前記電気光学基板の少なくとも一つのファセットに非反射性空間を備える、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記複数の第1の電極と前記複数の第2の電極とを制御するための制御回路を更に備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記電気光学基板はニオブ酸リチウムで構成され、
前記第1、及び第2の導波路は、前記電気光学基板内に拡散されたチタンで構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記Y接合反射器は、Y接合合流部であって、前記第1、及び第2の導波路のうちの前記少なくとも一つの導波路の導波路分岐と、前記Y接合合流部に隣接した前記電気光学基板のファセット上に配置されたミラー、分散ブラッグ反射器、及び格子のうちの一つとのY接合合流部である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
電気光学基板と、
入力信号を受け入れ、遅延または共振を導入するための結合導波路手段と、を備え、
前記結合導波路手段は、前記結合導波路手段の分岐からの光信号を受け入れ、前記結合導波路手段のもう一つの分岐内に光信号を反射するためのY接合反射手段を含む、調整可能な遅延または共振器導波路装置。
【請求項16】
前記結合導波路手段における遅延または共振に影響を与えるための遅延または共振制御手段を更に備える、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記結合導波路手段における結合に影響を与えるための結合制御手段を更に備える、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
電気光学基板と、
遅延または共振導波路であって、前記導波路の一つの分岐から前記導波路のもう一つの分岐に戻すように信号を向けるY接合反射器を含む前記電気光学基板内にあるものと、
前記遅延または共振導波路に電界を印加するための電極と、を備える調整可能な遅延または共振器導波路装置。
【請求項19】
前記遅延または共振導波路は近似的ループを構成し、前記装置は前記導波路に結合されたスルー導波路を更に備える、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記遅延または共振導波路は蛇行導波路であり、前記装置は前記蛇行導波路の分岐に結合された結合導波路を更に備える、請求項18に記載の装置。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−502026(P2008−502026A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527584(P2007−527584)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/019095
【国際公開番号】WO2005/120194
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(592034548)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・カリフォルニア (8)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】