説明

Zn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス

【課題】フッ化アルミン酸を必須成分として含み、チキソトロピー性を有し、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接部への塗布性にすぐれ、塗布に際して、液垂れを起こさず、しかも、鋼板への接着性にすぐれ、更に、塗膜の乾燥性が適度である、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用のペースト状フラックスであって、溶融溶接部に塗布することによって、溶接時の溶融金属脆化割れを防止することができるフラックスを提供する。
【解決手段】本発明によれば、有機溶媒、樹脂、フッ化アルミン酸カリウム及びジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を含有することを特徴とするZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
溶融めっきは、鉄鋼材料を溶融金属浴中に浸漬し、表面上にその金属被膜を付けることをいい、被覆金属としては、従来、亜鉛が最も多く用いられている。このような溶融めっきは鋼板、鋼管、鋼線、形鋼等に広く適用されており、耐食性にすぐれることから、種々の構造材等に用いられている。
【0003】
なかでも、Zn−Al−Mg合金を鋼板表面にめっきしたZn−Al−Mg合金めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板に比べて、格段にすぐれた耐食性を有しており、自動車、建築材料、家電製品等に使用されようとしている(特許文献1参照)。このようなZn−Al−Mg合金めっき鋼板は、殆どの場合、種々の手段にて所要の形状の成形品に成形され、それらが種々に組み合わされ、溶接されて、最終製品とされている。
【0004】
溶接法は種々、知られているが、建築材料や自動車部品等においては、比較的高い接合強度が求められること、板厚が比較的厚いこと、抵抗溶接での電極の寿命等を考慮して、多くの場合、溶融溶接が採用されている。この溶融溶接は、母材を含めた接合部を溶融して溶接するものであるので、めっき鋼板の溶融溶接においては、母材のみならず、その表面のめっき層も溶融し、場合によっては、蒸発する。
【0005】
ここに、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板においては、めっき層の融点が母材鋼板の融点よりもかなり低いので、溶接部の一部の領域や溶接部の周辺では、溶接中又は溶接後のある一定期間、めっき層が溶融状態で鋼板表面に存在し、このような状態で鋼板に一定以上の引張り応力が作用するときは、溶融金属脆化割れと称される割れが母材鋼板に発生する問題があり、特に、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板を溶融溶接する場合、複数の条件が重なるとき、母材の熱影響部近傍にこの溶融金属脆化割れが発生しやすいことが指摘されている(特許文献1参照)。
【0006】
このようなZn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接における問題を解決するために、既に、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接部にフッ化アルミン酸カリウムを付着させ、溶融溶接することによって、溶接部から合金めっき成分であるマグネシウムとアルミニウム成分を除去し、溶融めっき金属の融点を高めて、溶接熱影響部の粗粒結晶粒の粒界にマグネシウム成分を含む溶融金属が浸透することを抑制して、溶融金属脆化割れの発生を抑制する溶接法が提案されている(特許文献1参照)。この溶接法においては、フッ化アルミン酸カリウムはそれ自体では粉体であるので、フッ化アルミン酸カリウムの水分散液を吹き付け、乾燥させて、溶接部にフッ化アルミン酸カリウムを付着させている。
【0007】
しかし、フッ化アルミン酸カリウムの水分散液を溶接部に吹き付け、乾燥させる方法は、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶接部によっては、液垂れを起こすことから、採用し難く、また、水の蒸発後は、フッ化アルミン酸カリウムは粉体として鋼板の溶接部の表面に付着しているだけであるので、振動や衝撃によって、鋼板の表面から容易に剥落する問題がある。
【0008】
そこで、アルコール類やグリコールエーテル類を有機溶媒として用いると共に、12−ヒドロキシステアリン酸をゲル化剤として用いて、フッ化アルミン酸カリウムを含むペースト状組成物を得ることが試みられているが(特許文献2参照)、得られる組成物は殆どゲル化せず、又は非常に不十分である。しかも、得られる組成物は、チキソトロピー性をもたないために、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接部に塗布する際の塗布性に劣り、液垂れを起こす問題がある。即ち、従来、フッ化アルミン酸カリウムを含むペースト状フラックスであって、実用的なものは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−118797号公報
【特許文献2】特開2007−313535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接における上述した問題を解決するために鋭意研究した結果、ゲル化剤として、ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を用いると共に、好ましくは、これに溶媒と樹脂を最適に組み合わせて、フッ化アルミン酸カリウムをペースト状とすることによって、チキソトロピー性を有し、従って、塗布性にすぐれて、塗布に際して、液垂れを起こさず、しかも、塗膜の乾燥性が適度であり、更に、このようにして形成された乾燥塗膜が鋼板表面への接着性にすぐれ、かくして、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接作業を著しく容易にし、効率を高めることができる実用的なペースト状フラックスを得ることができることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、上述したように、フッ化アルミン酸を必須成分として含み、ゲル化剤として、ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を用いて得られるZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックスであって、チキソトロピー性を有し、従って、塗布性にすぐれて、塗布に際して、液垂れを起こさず、しかも、塗膜の乾燥性が適度であり、更に、このようにして形成された乾燥塗膜が鋼板表面への接着性にすぐれ、かくして、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接作業を著しく容易にし、効率を高めることができる実用的なペースト状フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、有機溶媒、樹脂、フッ化アルミン酸カリウム及びジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を含有することを特徴とするZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックスが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックスは、フッ化アルミン酸を必須成分として含み、ゲル化剤として、ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を用いて得られるものであって、チキソトロピー性を有し、従って、塗布性にすぐれて、塗布に際して、液垂れを起こさず、しかも、塗膜の乾燥性が適度であり、更に、このようにして形成された乾燥塗膜が鋼板表面への接着性にすぐれ、かくして、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接作業を著しく容易にし、効率を高めることができ、実用性にすぐれるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックスは、有機溶媒、樹脂、フッ化アルミン酸カリウム及びジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明において、Zn−Al−Mg合金めっきは、通常、Mg0.05〜10重量%、Al4〜22重量%、残部Znからなるが、必要に応じて、Tiを0.1重量%以下、Bを0.045重量%以下及び/又はSiを2.0重量%以下含んでいてもよい。
【0016】
本発明によるペースト状フラックスにおいて、有機溶剤は、特に限定されるものではないが、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエーテルエステル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。このような好ましい有機溶剤の具体例としては、アルコール類として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール等を挙げることができ、グリコール類として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等を挙げることができ、グリコールエーテル類として、例えば、上記グリコール類のメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、フェニルエーテル等を挙げることができ、グリコールエーテルエステル類として、例えば、上記グリコールエーテル類のアセテート等を挙げることができる。
【0017】
本発明において、このような有機溶剤は、その他の成分との関係において適宜に定められるが、ペースト状フラックスの重量に基づいて、通常、20〜78重量%、好ましくは、25〜60重量%の範囲で用いられる。用いる有機溶剤の量が多すぎるときは、ペースト状フラックスの製造時に各成分をまとめてゲル化することが困難となるおそれがある。他方、有機溶剤が少なすぎるときは、ペースト状フラックスの製造時に各成分をこれに溶解させ、又は分散させることが困難となり、均一なゲルが形成できないおそれがある。
【0018】
本発明によれば、有機溶媒は、上述したなかでも、グリコールエーテル類を含むことが好ましく、特に、エチレングリコールモノブチルエーテルとプロピレングリコールモノブチルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく用いられる。
【0019】
特に、本発明によれば、得られるペースト状フラックスが適度の乾燥性を有するように、有機溶媒は、プロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒であることが好ましく、なかでも、有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒であり、この混合溶媒において、プロピレングリコールモノメチルエーテルの割合が63〜75重量%の範囲であることが好ましい。
【0020】
有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルからなるときは、得られるペースト状フラックスが乾燥速度が速すぎて、鋼板の表面に塗布するとき、速やかに乾燥塗膜を形成するので、鋼板の表面にてフラックスを延ばし難く、塗布し難くなる場合がある。一方、有機溶媒がエチレングリコールモノブチルエーテルからなるときは、反対に、得られるペースト状フラックスの乾燥速度が遅すぎて、溶接作業の効率を低下させるおそれがある。また、ペースト状フラックスが乾燥塗膜を形成する前に溶接を行えば、塗膜が未だ、鋼板の表面に十分に接着していないので、塗膜が鋼板の表面から剥がれて、揮散する問題も生じる。
【0021】
ここに、本発明によれば、上述したように、有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒からなり、この混合溶媒において、プロピレングリコールモノメチルエーテルの割合が63〜75重量%の範囲であるとき、得られるペースト状フラックスが適度の乾燥速度を有し、塗布しやすく、溶接作業の効率を高めることができる。
【0022】
本発明において、ゲル化剤は、各成分を一体に固体にまとめると共に、得られるゲル化物にチキソトロピー性を有せしめるための成分であり、そのようなゲル化剤としては、ジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のベンジリデンソルビトール系のものが好ましく用いられる。
【0023】
ジベンジリデンソルビトールの誘導体としては、例えば、ジベンジリデンソルビトールのベンジリデン基中のベンゼン核が任意の位置にて炭素数1〜3のアルキル基やハロゲン原子で置換された化合物を例示することができ、具体例としては、〔ジ(p−メチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔ジ(m−エチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔ジ(p−クロルベンジリデン)〕ソルビトール等を挙げることができる。
【0024】
トリベンジリデンソルビトールの誘導体としては、例えば、トリベンジリデンソルビトールのベンジリデン基中のベンゼン核が任意の位置にて炭素数1〜3のアルキル基やハロゲン原子で置換された化合物を例示することができ、具体例としては、〔トリ(p−メチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔トリ(m−エチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔トリ(p−クロルベンジリデン)〕ソルビトール等を挙げることができる。上記例示したゲル化剤は、単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明によるペースト状フラックスにおいて、ゲル化剤の含有量は、フラックスの重量に基づいて、通常、1〜7.5重量%の範囲であり、好ましくは、2.5〜7.5重量%の範囲である。ゲル化剤が多すぎるときは、ペースト状フラックスの製造時に、用いる有機溶剤の量にもよるが、有機溶剤に溶解させることが困難となるおそれがあるほか、得られるフラックスのゲル硬度が高すぎて、鉄 板や鋼板の表面への塗布性に劣って、均一な塗膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0026】
本発明によるペースト状フラックスは、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板溶接に際して、マグネシウムとアルミニウム成分を除去するための成分として、フッ化アルミン酸カリウムを含有する。
【0027】
フッ化アルミン酸カリウムとしては、テトラフルオロアルミン酸一カリウム(K[AlF4])、ペンタフルオロアルミン酸二カリウム(K2[AlF5])、ヘキサフルオロアルミン酸三カリウム(K3[AlF6])等が知られているが、本発明においては、これらは単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
【0028】
本発明において、ペースト状フラックスにおけるフッ化アルミン酸カリウムの割合は、ペースト状フラックスの重量に基づいて、通常、20〜65重量%の範囲であり、好ましくは、35〜60重量%の範囲である。ペースト状フラックスにおけるフッ化アルミン酸カリウムの量が35重量%よりも少ないときは、ペースト状フラックスがZn−Al−Mg合金めっき鋼板の表面に形成した塗膜が鋼板の溶融溶接に際して、溶融金属脆化割れを防止する効果を十分にもたない。しかし、フッ化アルミン酸カリウムの量が65重量%を超えるときは、得られるペースト状フラックスが硬すぎて、買う反表面への塗布性が悪い。
【0029】
本発明において、樹脂は、一般的には、ペースト状フラックスの製造に際して、各成分をまとめる役割を果たすと共に、得られるペースト状フラックスを鋼板表面に塗布したとき、形成された塗膜の接着剤としての役割を果たす。本発明によるペースト状フラックスにおいては、このような樹脂として、特に、ポリビニルブチラール樹脂が1〜7.5重量%の範囲、好ましくは、2.5〜7.5重量%の範囲で好ましく用いられる。
【0030】
ペースト状フラックスにおけるポリビニルブチラール樹脂の量が7.5重量%を超えるときは、得られるペースト状フラックスの粘度が高すぎて、塗布性が悪くなり、他方、樹脂の量が1重量%よりも少ないときは、ペースト状フラックスの製造において、各成分を一体にまとめてゲル化することが困難となるのみならず、得られるペースト状フラックスが鋼板表面に対して十分な接着性を有しない。
【0031】
本発明によるペースト状フラックスは、その製造方法において、何ら限定されるものではない。基本的には、上述した各成分を均一に混合し、一体にゲル化、即ち、ペースト化すればよい。好ましい製造方法の一例を挙げる。即ち、有機溶剤を例えば、70℃程度の温度に加熱し、撹拌しながら、これに樹脂を加え、溶解させ、次いで、得られた樹脂溶液を上記と同じ温度で加熱し、撹拌しながら、これにフッ化アルミン酸カリウムを加え、分散させる。次いで、得られた混合物を上記と同じ温度に加熱し、撹拌しながら、これに前述したベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を加え、溶解させ、このようにして原料溶液を得る。必要に応じて、引き続き、この原料溶液を加熱して、ゲル化剤の原料溶液への溶解を維持しつつ、この原料溶液を所望の形状を有する成形容器に注入し、冷却し、ゲル化させれば、そのような形状を有するペースト状フラックスを得ることができる。
【0032】
本発明によれば、ペースト状フラックスの粘度は、用いる有機溶剤、ゲル化剤、樹脂の種類や配合量、フッ化アルミン酸カリウム等の配合量等によって任意に調節することができるが、通常、20℃でスプリットメータ(2Kg荷重)にて測定した値が10〜100mmの範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例と共に比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。フッ化アルミン酸カリウムとしては、テトラフルオロアルミン酸一カリウム(K[AlF4])とヘキサフルオロアルミン酸三カリウム(K3[AlF6])の等モル混合物を用いた。
【0034】
フッ化アルミン酸カリウムの水溶液をZn−Al−Mg合金めっき鋼板(板厚4.0mmの低炭素鋼熱延鋼板に溶融Zn−Al−Mg合金めっきを施して得られたZn−Al−Mg合金めっき鋼板で、上記めっき層は、アルミニウム6重量%、マグネシウム3重量%、残部亜鉛からなる。以下、同じ。)の溶接部に吹き付け、乾燥させて、フッ化アルミン酸カリウムの粉末を付着させて、このような溶接部に溶融溶接を行うとき、熱影響部近傍に溶融金属脆化割れが発生しないことは既に確認されている(前記特許文献1)。そこで、ここでは、ペースト状フラックスの塗膜の乾燥性と共に、ペースト状フラックスの塗布性、乾燥塗膜の鋼板表面への接着性及びチキソトロピー性(液垂れ性)について調べた。結果を表1に示す。
【0035】
実施例1〜4
表1に示す成分を表1に示す量にて用いて、それぞれペースト状フラックスを得た。
【0036】
比較例1〜4
表1に示す成分を表1に示す量にて用いて、それぞれペースト状フラックスを得た。
【0037】
ペースト状フラックスの塗膜の乾燥性
温度20℃、相対湿度65%の環境条件の下で合成毛を有する絵筆にて少量のフラックスを取り、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の表面に80mg/20cm2の割合で薄く塗布して塗膜を形成し、塗膜の表面を指で触れて調べて、塗膜が乾燥したこと(濡れていないこと)が確認できるまでの時間を調べた。このようにして、塗膜の乾燥速度が適度であるとき(実際の溶接作業に好適である5分から15分まで)をA、乾燥速度がやや速いとき(1分から5分未満)又は乾燥速度がやや遅いとき(15分を越えて20分まで)をB、乾燥速度が速すぎるとき(1分未満)又は乾燥速度が遅すぎるとき(20分を超えるとき)をCとした。
【0038】
ペースト状フラックスの塗布性
塗膜の乾燥性におけると同様にして、絵筆にて少量のフラックスを取り、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の表面に塗布したときのフラックスの延びと塗膜の均一性に基づいて評価した。フラックスの延びと塗膜の均一性のいずれもよいときをA、少なくともいずれかがやや悪いときをB、少なくともいずれかが悪いときをCとした。
【0039】
ペースト状フラックスの接着性
塗膜の乾燥性におけると同様にして、絵筆にて少量のフラックスを取り、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の表面に80mg/20cm2の割合で薄く塗布して塗膜を形成し、30分間放置して、前述したようにして、塗膜が乾燥したことを確認した後、台秤の上で荷重が1kgとなるようにその塗膜の表面を指で3回こすって、塗膜の剥がれ具合を調べた。塗膜が全く剥がれないときをA、一部、塗膜が剥がれるときをB、塗膜がすべて剥がれるときをCとした。
【0040】
チキソトロピー性
鉛直に立てたZn−Al−Mg合金めっき鋼板の表面にフラックスを1g/10cm2の割合で塗布し、1分後にフラックスの下方向に垂れた距離を定規で測定した。フラックスの垂れの距離が1cm未満であって、チキソトロピー性にすぐれるときをA、フラックスの垂れの距離が1cm以上、5cm未満であって、チキソトロピー性が十分でないときをB、フラックスの垂れの距離が5cm以上であって、チキソトロピー性がないときをCとした。
【0041】
粘度
スプレッドメータを用いて、温度20℃、荷重2Kgのときのダンプの広がり(円の直径)を定規にて測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1において、各成分は以下のものを意味する。
有機溶媒1:プロピレングリコールモノメチルエーテル
有機溶媒2:エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)
樹脂:(株)クラレ製ポリビニルブチラール樹脂「MOWITAL B−30H」
ゲル化剤1:新日本理化(株)製ジベンジリデンソルビトール
ゲル化剤2:12−ヒドロキシステアリン酸
【0044】
表1に示す結果から明らかなように、本発明によるペースト状フラックスは、塗布性にすぐれ、形成された塗膜が適度の乾燥速度を有し、乾燥した塗膜が鋼板表面にすぐれた接着性を有する。更に、本発明によるペースト状フラックスは、チキソトロピー性を有するので、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板に塗布する際には、比較的低粘度となるので、塗布しやすく、塗布した後は、増粘するので、溶接部が斜面や垂直面であるときも、所謂垂れを起こさない。
【0045】
これに対して、比較例のペースト状フラックスはいずれも、ゲル化剤として、12−ヒドロキシステアリン酸を用いたものであるので、チキソトロピー性をもたず、従って、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶接部が傾斜面であったり、鉛直方向に延びる表面であったりするときには、そのような表面に塗布したフラックスは液垂れが著しく、溶接作業を非常に非効率にする。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によるペースト状フラックスは、チキソトロピー性を有し、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板の溶融溶接部への塗布性にすぐれて、塗布に際して、液垂れを起こさないのみならず、鋼板への接着性にすぐれるので、溶接作業を著しく容易にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒、樹脂、フッ化アルミン酸カリウム及びジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を含有することを特徴とするZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。
【請求項2】
有機溶媒がアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエーテルエステル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。
【請求項3】
有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項1に記載のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。
【請求項4】
有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒である請求項1に記載のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。
【請求項5】
有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒であり、この混合溶媒において、プロピレングリコールモノメチルエーテルの割合が63〜75重量%の範囲である請求項1に記載のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。
【請求項6】
樹脂がポリビニルブチラール樹脂である請求項1に記載のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。
【請求項7】
有機溶媒20〜78重量%、樹脂1〜7.5重量%、フッ化アルミン酸カリウム20〜65重量%及びジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトール及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のベンジリデンソルビトール系ゲル化剤1〜7.5重量%からなり、有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒であり、この混合溶媒において、プロピレングリコールモノメチルエーテルの割合が63〜75重量%の範囲である請求項1に記載のZn−Al−Mg合金めっき鋼板溶融溶接用ペースト状フラックス。


【公開番号】特開2011−11254(P2011−11254A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160074(P2009−160074)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】