説明

ZnS系透明導電性薄膜、ZnS系透明導電性蛍光体薄膜、および、この薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料

【課題】薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するZnS系透明導電性薄膜、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜、および、これらの薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料を提供する。
【解決手段】(1) Zn及びSを主成分として含有し、更にCuを含有するZnS系透明導電性薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性薄膜、(2) Zn及びSを主成分として含有し、さらにCu及びMnを含有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%、Mnの含有量:0.05〜2.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性蛍光体薄膜等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnS 系透明導電性薄膜、ZnS 系透明導電性蛍光体薄膜、および、この薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料に関する技術分野に属するものであり、特には、フラットディスプレイや蛍光体センサー等に利用できるZnS 系透明導電性蛍光体薄膜に関する技術分野に属するものである。
【0002】
なお、本明細書において、ZnS 系透明導電性薄膜とは、ZnS 系物質よりなる透明導電性薄膜のことであり、透明導電性薄膜とは、透明であり且つ導電性を有する薄膜のことである。ZnS 系透明導電性蛍光体薄膜とは、ZnS 系物質よりなる透明導電性蛍光体薄膜のことであり、透明導電性蛍光体薄膜とは、透明であり且つ導電性を有する蛍光体薄膜のことである。蛍光体薄膜は蛍光体であって物理蒸着法等により成膜された薄膜である。即ち、蛍光体薄膜とは、電子線や電圧等の印加ないしは照射によって発光する薄膜のことである。蛍光体粉末とは電子線や電圧等の印加ないしは照射によって発光する粉末(粉末自体または粉末の集合体)のことである。蛍光体粉末と蛍光体薄膜とは、前者が粉末(粉末自体または粉末の集合体)であるのに対し、後者が薄膜である点において相違する。
【背景技術】
【0003】
蛍光体材料は、紫外線、電子線、電圧印加によって発光する材料であり、硫化亜鉛(ZnS )は蛍光体の代表的な材料である。ZnS を母材とした粉末としては、ZnS にCuとClを添加した粉末材料(ZnS:CuCl)や、ZnS にCuとAlを添加した粉末材料、ZnS にAgやAlを添加した粉末材料がCRT(ブラウン管)用などの蛍光体粉末として広く利用されている。また、ZnS にMnを添加した薄膜は、無機EL(エレクトロルミネッセンス)素子用の蛍光材料として用いられている。近年、電界放出表示装置(フィールドエミッションディスプレイ)が着目されており、そこにもブラウン管と同様の蛍光体が用いられている。
【0004】
ところで、ZnS は半導体材料であるものの、電気抵抗率が高いために、電圧を印加したり、電子線を照射すると帯電する性質を有している。そのため、電界放出表示装置の発光層として利用すると、帯電が発生して蛍光体の温度が上昇し、ZnS が分解してSを放出するなどの問題が発生する。
【0005】
蛍光体の導電性を向上させる方法としては、ZnS 粉末に導電性の粉末であるIn2O3 や、SnO 、ZnO を混合する方法がある。また、特開2001−58820 号公報には、硫化物系蛍光体粉末表面に導電性粒子を付着させる方法が提案されている。これらの方法は、一部に導電性粉末の不均一があれば帯電が発生する可能性がある。
【特許文献1】特開2001−58820 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するZnS系透明導電性薄膜、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜、および、これらの薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0008】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、ZnS系透明導電性薄膜、ZnS系透明導電性蛍光体薄膜、および、この薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料に係わり、請求項1〜3記載のZnS系透明導電性薄膜(第1〜3発明に係るZnS系透明導電性薄膜)、請求項4〜7記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜(第4〜7発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜)、請求項8記載のスパッタリングターゲット材料であり、それは次のような構成としたものである。
【0009】
即ち、請求項1記載のZnS系透明導電性薄膜は、Zn及びSを主成分として含有し、更にCuを含有するZnS系透明導電性薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性薄膜である〔第1発明〕。
【0010】
請求項2記載のZnS系透明導電性薄膜は、電気抵抗率:100Ωcm以下である請求項1記載のZnS系透明導電性薄膜である〔第2発明〕。請求項3記載のZnS系透明導電性薄膜は、膜厚:10nm〜5μmであり、電気抵抗率:0.01〜100Ωcmである請求項1または2記載のZnS系透明導電性薄膜である〔第3発明〕。
【0011】
請求項4記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、Zn及びSを主成分として含有し、更にCu及びMnを含有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%、Mnの含有量:0.05〜2.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性蛍光体薄膜である〔第4発明〕。
【0012】
請求項5記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、電気抵抗率:100Ωcm以下である請求項4記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜である〔第5発明〕。請求項6記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、膜厚:3nm〜5μmである請求項4または5記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜である〔第6発明〕。請求項7記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、膜厚:10nm〜5μmであり、電気抵抗率:0.01〜100Ωcmである請求項4〜6のいずれかに記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜である〔第7発明〕。
【0013】
請求項8記載のスパッタリングターゲット材料は、請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料である〔第8発明〕。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するため、電圧印加や電子線照射をした場合でも帯電が発生する可能性がないので、帯電による温度上昇、これによるZnS系物質の分解や薄膜の劣化が生じ難くて好適に用いることができる。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するため、電圧印加や電子線照射をした場合でも帯電が発生する可能性がないので、帯電による温度上昇、これによるZnS系物質の分解や薄膜の劣化が生じ難くて、電界放出表示装置の発光層等として好適に用いることができる。本発明に係るスパッタリングターゲット材料によれば、本発明に係るZnS系透明導電性薄膜、本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜のいずれも成膜して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ZnS は典型的な蛍光体の母材であり、例えば、ZnS にCuとClを1at%以下添加して1000℃以上で加熱処理したZnS 粉末は、365nm の紫外線を照射すると緑色の蛍光を発する。また、スパッタ法や蒸着法を用いて形成した薄膜であってMnを1at%以下程度添加したZnS 薄膜は橙色の蛍光を発する。これ以外にも、Ag、EuやCeを添加したZnS 粉末は蛍光を発することが知られている。
【0016】
通常、粉末タイプのZnS 蛍光体の場合、Cu原子はZnS の中ではアクセプターとして機能し、ClやAgはドナーとして作用すると考えられており、このドナーアクセプターペア発光による黄色から緑色あるいは青色の蛍光が発生する。その場合のCuやClの添加量は1at%以下であり、通常は0.1 at%以下の少量が添加されている。これらの粉末ZnS の蛍光体は抵抗が高くて導電性を示さないため、電圧印加や電子ビーム照射等で帯電してしまう。また、大量のCuを添加すると、Cuが不純物として働いて、蛍光の発光は起こらない。
【0017】
一方、薄膜タイプのZnS 蛍光体の場合には、Mn含有量を1at%程度にすると、Mnの内殻励起に伴う橙色の強い発光を生じる。この薄膜にも導電性は現れない。また、薄膜タイプの蛍光体にCuを添加しても強い蛍光は現れない。
【0018】
本発明者らは、ZnS にCuおよびMnを添加した薄膜について蛍光と導電性の調査を行ったところ、ZnS にCuを4.0 〜11.0at%含有させることにより、ZnS の透明性を保ったまま、導電性が出現することを見出した。また、さらにMnを0.05〜2.0 at%含有させることにより、透明性と導電性を保ったまま、蛍光が現れることを見出した。
【0019】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものであり、それは主にZnS系透明導電性薄膜およびZnS系透明導電性蛍光体薄膜に係わるものである。このようにして完成された本発明に係るZnS系透明導電性薄膜は、Zn及びSを主成分として含有し、更にCuを含有するZnS系透明導電性薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性薄膜である〔第1発明〕。また、本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、Zn及びSを主成分として含有し、更にCu及びMnを含有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%、Mnの含有量:0.05〜2.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性蛍光体薄膜である〔第4発明〕。
【0020】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有しており、このため、電圧印加や電子線照射をした場合でも帯電が発生する可能性がなく、従って、帯電による温度上昇、これによるZnS系物質の分解や薄膜の劣化が生じ難くて好適に用いることができる。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有しており、このため、電圧印加や電子線照射をした場合でも帯電が発生する可能性がなく、従って、帯電による温度上昇、これによるZnS系物質の分解や薄膜の劣化が生じ難くて、電界放出表示装置の発光層等として好適に用いることができる。
【0021】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜は薄膜タイプであり、この薄膜においては、ZnS にCuを含有させることにより、ZnS の透明性を保ったまま、導電性が出現する。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜は薄膜タイプであり、この薄膜においては、ZnS にCuとMnを共に含有させることにより、Mnの内殻が励起されることによって発光が生じると共に、導電性が出現する。Cuだけを添加しても蛍光は現れないし、Mnを添加しただけでは導電性は現れない。
【0022】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜は、ZnS 粉末にCuを添加して焼結したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜装置においてRF放電することよって形成(成膜)することができる。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、ZnS 粉末にCuおよびMnを添加して焼結したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜装置においてRF放電することよって形成(成膜)することができる。この成膜の際、S成分が蒸気となって一部が失われるため、ZnとSの比を1:1とすることが難しいが、ZnとSの比を1:1とする必要はない。即ち、Zn量(at%)とS量(at%)の比や、Zn量(at%)とS量(at%)の合計に対するS量(at%)の比(以下、S/(Zn+S)比ともいう)については、特には限定されず、Sとしてはある程度あればよく、例えば、S/(Zn+S)比で0.33〜0.5 であれば、Cuの含有により、透明性を保ったまま、導電性が出現し、CuおよびMnの含有により、透明性を保ったまま、導電性が出現すると共に、蛍光体としての機能が出現し、Mn内殻発光に伴う橙色の発光が生じる。
【0023】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜では、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%とすることにより、導電性が出現する。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜では、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%、Mnの含有量:0.05〜2.0at%とすることにより、導電性と蛍光性が両立する。このとき、Mnに起因する蛍光は現れるが、Cuに起因する蛍光は現れないことが一つの特徴である。
【0024】
本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜の形成をスパッタリング法によって行う場合、上記のような導電性と蛍光性を両立させるためには、上記の組成を有する薄膜をスパッタリング法によって形成した後に熱処理する必要がある。具体的には真空中で200 ℃で30分以上の熱処理が必要である。熱処理を行わない場合、導電性は出現するものの、蛍光は出現しない。この熱処理後の薄膜では、波長352nm の紫外線を照射することによって、波長590nm の橙色の蛍光が発光する。なお、この薄膜の電気抵抗率は100Ωcm以下とすることができ、成膜後熱処理前のものも100Ωcm以下とすることができる。この薄膜の透過率を測定したところ、波長550nm の波(光)に対して、膜厚が1μmの条件下で70%以上であった。一方、本発明に係るZnS系透明導電性薄膜の形成をスパッタリング法によって行う場合、上記の組成を有する薄膜をスパッタリング法によって形成した後、熱処理する必要はなく、成膜後(熱処理せず)の薄膜で電気抵抗率は100Ωcm以下とすることができる。この成膜後の薄膜の透過率は、波長550nm の光に対して、膜厚が1μmの条件下で70%以上であった。つまり、膜厚が1μmのもので、可視光透過率は70%以上であった。
【0025】
このように電気抵抗率が100Ωcm以下であると共に蛍光発光性を有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、電界放出表示装置などのように帯電が望ましくない用途向けの蛍光体として用いることができる他、導電性と紫外線反応とを兼ね備えた紫外線センサーや、EL発光材料として利用することができる。また、薄膜の可視光透過率が上記のように70%以上であるので、透明性の薄膜導電性蛍光体パネルとして利用することができる。
【0026】
スパッタリング法で薄膜の形成(成膜)を行う場合、ZnS は成膜中に分解しやすいためにZnとSの比率を1:1にすることが難しく、S成分が少なくなりやすい。このため、本発明に係るZnS系透明導電性薄膜において、Cuが4at%含まれる場合、Znは48at%以上含まれる。また、Cuが11at%含まれる場合、44at%以上がZnとなる。従って、Zn量の下限値は44at%となる。一方、S成分が少なくなりすぎると結晶構造が乱れて蛍光体母材としての機能を失うので、S成分が少なくなりすぎないようにする必要があり、このためにはZnが多くなりすぎないようにすることが必要であり、この点からZn量の上限値は69at%となる。
【0027】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜およびZnS系透明導電性蛍光体薄膜において、Cuの含有量:4.0 〜11at%であることとしているのは、Cu量:4.0 at%未満の場合もCu量:11at%超の場合も、薄膜の導電率が不充分となるからである。Cu量:4.0 at%未満の場合、薄膜の電気抵抗率:100 Ωcm超であるが、Cu量:4.0 〜11at%の範囲内では電気抵抗率:100 Ωcm以下となる。Cu量:11at%超の場合、電気抵抗率:100 Ωcm超となる。また、Cu量:4.6 〜9.2 at%では、電気抵抗率:10Ωcm以下となり、Cu量:4.8 〜8.6 at%では1Ωcm以下となり、Cu量:5.1 〜8.0 at%では0.5 Ωcm以下となる。
【0028】
本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜において、Mnの含有量:0.05〜2.0 at%であることとしているのは、Mn量:0.05at%未満の場合、蛍光が弱くて観察されず、Mn量:2.0 at%超の場合、蛍光が低下するからである。Mn量:0.05〜2.0 at%の場合、蛍光が現れる。なお、導電率はCu量で決まった値となる。CuとMnの量を同時に調整することにより、蛍光と導電性が同時に出現する。
【0029】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜およびZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、電気抵抗率:100Ωcm以下という導電性を有することができる〔第2発明、第5発明〕。
【0030】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜およびZnS系透明導電性蛍光体薄膜において、膜厚は蛍光性(蛍光が現れるかどうかという特性)に対しては本質的には大きな影響を及ぼすものではなく(膜がある限り、蛍光が現れるものは膜厚に関係なく蛍光が現れる)、導電性に対しても本質的には大きな影響を及ぼすものではない(膜厚が1/2になると電気抵抗率は2倍になる程度のものである)ので、特に限定されるものではなく、薄膜に不連続部等の欠陥がない限り、種々の膜厚とすることができ、例えば、ZnS系透明導電性蛍光体薄膜の膜厚を3nm〜5μmとすることができる〔第6発明〕。しかし、スパッタリング法で成膜する場合、膜厚:10nm未満として成膜すると、薄膜は縞状となって不連続部が存在するものとなり、このため、不連続部での電気抵抗率が極めて大きくなって導電性が大幅に低下し、一方、膜厚:5μm超として成膜すると、膜に応力がかかって膜に割れが発生したり、部分的あるいは全体的に剥離し、このため、割れ部や剥離部での電気抵抗率が極めて大きくなって導電性が大幅に低下すると共に、剥離部では蛍光性がなくなることから、膜厚:10nm〜5μmとして成膜することが望ましい。このように膜厚:10nm〜5μmとして成膜された薄膜は電気抵抗率:0.01〜100Ωcmを確保することができ、本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜では蛍光性を有することもできる〔第3発明、第7発明〕。
【0031】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜ではZn及びS(主成分)とCuを含有するが、これらの元素のみを含有するものに限定されず、これら以外の元素を必要に応じて含有することができる。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜ではZn及びS(主成分)とCu及びMnを含有するが、これらの元素のみを含有するものに限定されず、これら以外の元素を必要に応じて含有することができる。尚、これらの元素のみを含有する場合、本発明に係るZnS系透明導電性薄膜(但し、請求項1記載のもの)は、「Zn及びSを主成分として含有し、更にCuを含有し、残部が不可避的不純物からなるZnS系透明導電性薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性薄膜」と表現することもでき、本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜(但し、請求項4記載のもの)は、「Zn及びSを主成分として含有し、更にCu及びMnを含有し、残部が不可避的不純物からなるZnS系透明導電性蛍光体薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%、Mnの含有量:0.05〜2.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性蛍光体薄膜」と表現することもできる。
【実施例】
【0032】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0033】
Zn、S、Cuあるいは更にMnを含有するスパッタリングターゲットを焼結法によって作製した後、このスパッタリングターゲットを用い、マグネトロンスパッタ法によってZnS系薄膜をガラス基板(コーニング社製ガラス基板#1737)上に成膜した。このとき、スパッタリングガスとしてArを使用し、ガス圧は2mTorrとして、2W/cm2 の印加電力によるRF放電によって、膜厚500nm の薄膜を成膜した。
【0034】
この成膜したものを、真空下で、300 ℃で30分間熱処理した。この後、四短針法で薄膜の電気抵抗率を測定し、透過率測定装置によって波長550nm の光の透過率を測定した。薄膜の組成をICP(誘導結合プラズマ)質量分析法で測定した。また、市販のブラックライト(最大強度波長352nm )を膜に照射し、蛍光の有無を目視で確認した。この結果を表1および図1に示す。
【0035】
表1からわかるように、本発明の第1発明例に係るZnS 系導電性薄膜(No.15 〜18)は電気抵抗率が低く、本発明の第4発明例に係るZnS 系透明導電性蛍光体(No.2〜12、No.19 〜20)は電気抵抗率が低く、また、蛍光が現れる。
【0036】
Cuは含有するが、Mnは含有しないもの同士で比較する。No.15 〜18(第1発明例)のZnS 系薄膜は、No.14 のZnS 系薄膜に比較し、電気抵抗率が極めて低い。
【0037】
CuもMnも含有するもの同士で比較する。No.2〜12、No.19 〜20(第4発明例)のZnS 系薄膜、および、No.1、13のZnS 系薄膜は、いずれも蛍光が現れるが、No.2〜12、No.19 〜20(第4発明例)のZnS 系薄膜は、No.1、13のZnS 系薄膜に比較し、電気抵抗率が極めて低い。No.21 のZnS 系薄膜は電気抵抗率が低いが、蛍光が現れない。No.24 のZnS 系薄膜は、Zn量が本発明の第4発明でのZn量よりも多いために、電気抵抗率が極めて大きく、また、蛍光が現れない。
【0038】
No.22 のZnS 系薄膜は電気抵抗率が極めて大きく、蛍光も現れない。これは、膜厚:5nmとして成膜したために膜が縞状となって不連続部が存在し、この不連続部での電気抵抗率が極めて大きくなり、また、蛍光性がなくなるからである。即ち、膜厚が薄かったこと自体が直接の原因ではなく、膜厚薄く成膜したために不連続部のある膜となったためである。
【0039】
No.23 のZnS 系薄膜は電気抵抗率が極めて大きい。これは、膜厚:6000nm(6μm)として成膜したために膜に応力がかかって膜が割れて剥離したため、電気抵抗率が極めて大きくなったからである。即ち、膜厚が厚かったこと自体が直接の原因ではなく、膜厚厚く成膜したために膜が割れて剥離したためである。
【0040】
図1は、表1のデータを用いて作成した図であってCu含有量と電気抵抗率との関係を示す図である。図1からわかるように、Cu含有量が増えるに伴って電気抵抗率が低下し、さらにCu含有量が増えるとそれに伴って電気抵抗率が大きくなる。Cu含有量:4.0 〜11.1at%の場合、電気抵抗率:100Ωcm以下である。なお、図1において100Ωcmの線上にプロットされた点であって上向きの矢印が付されたものは、電気抵抗測定器の測定限界オーバの電気抵抗率(約500Ωcm超)であり、通常のテスターでは∞(無限大)となるものである。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るZnS系透明導電性薄膜は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するため、電圧印加や電子線照射をした場合でも帯電が発生する可能性がないので、帯電による温度上昇、これによるZnS系物質の分解や薄膜の劣化が生じ難くて有用である。本発明に係るZnS系透明導電性蛍光体薄膜は、薄膜自体が電気抵抗率が低くて導電性を有するため、電圧印加や電子線照射をした場合でも帯電が発生する可能性がないので、帯電による温度上昇、これによるZnS系物質の分解や薄膜の劣化が生じ難くて、電界放出表示装置の発光層等として好適に用いることができて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例および比較例に係るZnS 系薄膜でのCu添加量と抵抗率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn及びSを主成分として含有し、更にCuを含有するZnS系透明導電性薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性薄膜。
【請求項2】
電気抵抗率:100Ωcm以下である請求項1記載のZnS系透明導電性薄膜。
【請求項3】
膜厚:10nm〜5μmであり、電気抵抗率:0.01〜100Ωcmである請求項1または2記載のZnS系透明導電性薄膜。
【請求項4】
Zn及びSを主成分として含有し、更にCu及びMnを含有するZnS系透明導電性蛍光体薄膜であって、Znの含有量:44〜69at%、Cuの含有量:4.0〜11.0at%、Mnの含有量:0.05〜2.0at%であることを特徴とするZnS系透明導電性蛍光体薄膜。
【請求項5】
電気抵抗率:100Ωcm以下である請求項4記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜。
【請求項6】
膜厚:3nm〜5μmである請求項4または5記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜。
【請求項7】
膜厚:10nm〜5μmであり、電気抵抗率:0.01〜100Ωcmである請求項4〜6のいずれかに記載のZnS系透明導電性蛍光体薄膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜の成膜用のスパッタリングターゲット材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−235004(P2008−235004A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72876(P2007−72876)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】