説明

ポリエステル複合糸の製造方法および布帛の製造方法

【課題】発色性と染色堅牢度が良好であり、ふくらみがあって表面がスムースで、さらには伸縮性、反発性に富むポリエステル複合糸およびそれを用いた布帛を得ることのできるポリエステル複合糸の製造方法および布帛の製造方法を提供する。
【解決手段】主として複屈折率が20〜80×10-3のポリエステル繊維からなるA糸と少なくとも1種以上の他繊維からなるB糸を複合して複合糸となし、該複合糸を芯材に巻いた状態で50〜150℃の湿熱および/または乾熱処理を行うことを特徴とするポリエステル複合糸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発色性と染色堅牢度が良好で、かつふくらみのある風合いと良好な伸縮性を有するポリエステル複合糸の製造方法および布帛の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ポリエステル系繊維と他の繊維を混用したポリエステル複合糸およびそれからなる布帛は、その両方の特徴を活かし有用な繊維素材として市場に多く出回っている。
【0003】例えば、ポリエステル繊維とウールの混用としては、ポリエステル短繊維糸とウールの混紡糸を使用した短繊維混紡布帛や、仮撚加工捲縮加工が施されたポリエステル繊維糸とウールとの混紡または混撚糸を使用した布帛があるが、反発性や伸縮性が不足していること、高温染色を要するためウールの品位や物性を損なういう問題があった。
【0004】特開平10−226938号公報では、相対粘度の異なる2種類のポリエチレンテレスタレートを主体とするポリマーが接合された複合繊維と自発伸長を有するポリエチレンテレフタレートを主体とするポリマー繊維と交絡または混撚した繊維糸条をタテ糸またはヨコ糸の一方に使用し、他方のヨコ糸またはタテ糸にウールを含む糸条を使用して製織し、仕上げ加工し、伸縮性に富む布帛の製造方法が開示されているが、製造工程が複雑であり、生産性が低く高コストとなってしまう欠点があった。
【0005】また、ウール紡績糸にスパンテックスを交撚させたものもよく知られているが、発色性や染色堅牢度が十分でない欠点があった。
【0006】また、ウールと水溶性ポリビニルアルコールとの混用紡績糸を用いて形成した布帛を、常温水溶液中に浸せきし、昇温して水溶液ポリビニルアルコール繊維を収縮した後に溶解除去し、次いでウール繊維のみの布帛にセット処理を行い伸縮性ウール布帛を得る方法は、一成分を除去するため生産性が低いという問題があった。
【0007】また、アセテートとの混用としては、特開2000−34635号公報に熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を複合紡糸したポリエステル複合繊維とアセテート繊維との合撚糸であって、該アセテート繊維が35%以上80%以下の混率である合撚複合糸が開示されているが、高温染色を要するため物性が低下するという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した従来技術では限界とされていた、発色性と染色堅牢度が良好であり、ふくらみがあって表面がスムースで、さらには伸縮性、反発性に富むポリエステル複合糸および布帛を得ることが可能なポリエステル複合糸の製造方法および布帛の製造方法を提供するものである。また、さらには、本発明は、複雑な工程を必要とせず、従来技術に比べて低価格で省エネルギー化、省人化を図るポリエステル複合糸の製造方法および布帛の製造法を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成するため、次のとおりの構成をとるものである。
【0010】すなわち、(1)主として複屈折率が20〜80×10-3のポリエステル繊維からなるA糸と少なくとも1種以上の他繊維からなるB糸を複合して複合糸となし、該複合糸を芯材に巻いた状態で50〜150℃の湿熱および/または乾熱処理を行うことを特徴とするポリエステル複合糸の製造方法。
(2)ポリエステル複合糸の形態が、カバードヤーン、コアスパンヤーン、合撚糸、エアー交絡糸あるいは引き揃え糸であることを特徴とする前記(1)に記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(3)A糸とB糸の複合において、いずれか一方の糸を2〜20%過剰供給しながら複合することを特徴とする前記(1)〜(2)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(4)B糸が、綿、ウール、レーヨン、アセテート、麻、ナイロン、あるいは前記A糸以外のポリエステル繊維であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(5)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、芯にポリスチレンポリマを配する芯鞘複合繊維であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(6)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、中空繊維からなることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(7)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、多葉状の繊維断面を有するものであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(8)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、粘度の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(9)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、ポリマー種の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(10)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、0.4デシテックス以下のポリエステル極細繊維からなることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(11)A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、10デシテックス以上のポリエステル繊維からなることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
(12)前記(1)〜(11)のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法により得られる複合糸を用いて布帛化し、さらに120〜200℃の熱処理を施すことを特徴とするポリエステル複合糸布帛の製造方法。
(13)カバーファクタ(CF)が1000〜3100である布帛であることを特徴とする前記(12)に記載のポリエステル複合糸布帛の製造方法。(ただし、カバーファクタ(CF)=Ts・(Td)1/2+Ys・(Yd)1/2Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス/1.11)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス/1.11))
【0011】
【発明の実施の形態】以下、さらに詳しく本発明について説明をする。
【0012】本発明は、複屈折率が20〜80×10-3のポリエステル繊維からなるA糸と少なくとも1種以上の他繊維からなるB糸を複合し、該複合糸を芯材に巻いた状態で50〜150℃の湿熱および/または乾熱処理を行うことを特徴とするポリエステル複合糸の製造方法であり、さらに該布帛を用いて布帛化し、さらに120〜200℃の熱処理を施すことを特徴とするポリエステル複合糸および布帛の製造方法である。
【0013】かかる構成により、すなわち、特定の複屈折率を有するポリエステル繊維を延伸することなく他の繊維と複合すること、それを芯材に巻き付けた状態で熱処理するという従来予想だにしなかった方法により達成したものである。これはある特殊な拘束下での熱履歴を与えること、さらには布帛化後に高温の熱処理を行うこと、によりA糸のポリエステル繊維を特異構造化を図るものであり、従来のポリエステル複合糸では得られなかった深みのある発色性と良好な染色堅牢度を有し、さらには、ふくらみがあってかつ表面がスムースであり、伸縮性と反発性に優れた特性を合わせもつものを得ることを可能にしたものである。
【0014】本発明の特異性は、複屈折率が20〜80×10-3のポリエステル繊維がその高い収縮性を残したまま他の繊維と複合されて芯材に巻き付けられ、その複合糸の形態で拘束されたまま、熱が加えられ収縮応力を受けつつ処理されることにある。この特異な処理方法により、従来ポリエステル繊維にはない特異な特性を発現させたものである。このように、従来公知のポリエステル延伸糸を含む複合糸を撚糸後、撚り止めを目的として熱セット行うこととは、思想、狙いが全く異なるものである。すなわち、未延伸糸(UY)や延伸糸(FOY)のポリエステル繊維では決して得ることはできない。
【0015】A糸を構成するポリエステル繊維の断面形状や表面形状などは、特に限定するものではない。中空繊維として用いることは、本発明において布帛の軽量化、柔軟性や保温性を高めるのに好ましい態様である。また、多葉状断面繊維(マルチローバル断面繊維)として用いることは、吸水性、保温性、嵩高性、表面品位や感触を高めるのに好ましい態様である。また、粘度の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維を用いること、あるいはポリマ種の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維を用いること、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ポリプロピレンテレフタレートあるいはポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートなどの組合せにおいて、その繊維が有する潜在捲縮性能と本発明との相乗効果により伸縮性やふくらみを高めるのに好ましい態様である。かかるように、本発明の効果に、さらに上記したそれぞれの特徴を付加することができ好ましい態様である。
【0016】本発明の特徴を得るには、A糸は複屈折率において、20〜80×10-3のポリエステル繊維が好ましく適用でき、さらには30〜60×10-3のポリエステル繊維が特に好ましく適用できる。これは、ポリエステル繊維を溶融紡糸する際、引取速度が約2500〜3500m/分で引き取られたポリエステル高配向未延伸糸とか通称POYといわれる繊維の領域のポリエステル繊維を含むものである。また、A糸が芯にポリスチレンポリマを有し、鞘に上記ポリエステルポリマを有する芯鞘複合繊維であれば、5000m/minを超える高速紡糸においても本発明のA糸と同領域の複屈折率のポリエステル繊維を得ることができ、この方法は生産性が高く、低コストで製造することができ好ましい態様である。
【0017】A糸におけるポリマー素材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルが好ましく適用でき、特にポリエチレンテレフタレートが好ましく適用できる。また、ポリエチレンテレフタレートにポリアルキレングリコールが共重合された共重合体や、ポリエチレンテレフタレートに5−ナトリウムスルホイソフタル酸が共重合された共重合体も用いることも好ましい態様である。
【0018】また、A糸の繊度は特に限定がなく用途、目的に応じて適宜選択される。通常は50〜500デシテックスが用いられ、特に80〜400デシテックスが好ましく用いられる。単繊維の繊度としては、0.1〜200デシテックスの広い範囲での適用が可能である。0.4デシテックス以下、好ましくは0.1デシテックス以下の極細繊維として用いることにより、柔軟で薄く、軽い布帛とすることができ、特に立毛加工を行って表面に立毛形態とすることは感触および外観品位を高めることになり好ましい態様である。その極細繊維を得る手段は特に限定がなく、海島型複合繊維に代表される溶出型複合繊維や異成分が接合した分割型複合繊維が好ましく適用される。さらに、かかる織編物に撥水剤、抗菌剤、制電剤、吸水剤などの機能処理剤を付加することも、その機能をより高めることができ好ましい態様である。一方、10デシテックス以上の太繊度においては、太繊度にもかかわらず柔軟であって高い反発性、厚い布帛の形成、その厚さを耐久性よく保持できるという特異性能を有し好ましく適用される。この場合、単繊維の繊度が20デシテックス以上、さらには30デシテックス以上であることが好ましく、100デシテックス以上のモノフィラメントであっても好ましい効果を得ることができる。
【0019】B糸としては、綿、ウール、レーヨン、アセテート、麻、ナイロンあるいはA繊維以外のポリエステル繊維であり、少なくともその中から選ばれた一種以上が用いられ、それぞれの特徴を活かして用途、用途に応じて適宜選択される。
【0020】その繊度としては、特に限定がなく用途、目的により適宜選択される。A繊維と同様に通常50〜500デシテックスが好ましく、特に80〜400デシテックスが好ましく適用される。その単繊維の繊度としては、高い反発性を得たり、厚い布帛の厚さを保持するには、10デシテックスを超えるもの、20デシテックス以上、特に30デシテックス以上の太いものが好ましく用いられる。合成繊維であれば、100デシテックス以上のモノフィラメントを用いることも好ましい態様である。 また、A繊維と同様に0.4デシテックス以下、好ましくは0.1デシテックス以下の極細繊維を用いることにより、柔軟で薄く、軽い布帛とすることができ、特に立毛加工を行って表面に立毛形態とすることは感触および外観品位を高めることになり好ましい態様である。その他、繊維の断面形状や表面形状など特に限定がなく、従来公知の中空繊維や多葉状断面繊維(マルチローバル断面繊維)、粘度の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されもの、あるいはポリマ種の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維を用いることは、前記した効果が得られ好ましい態様である。
【0021】A糸とB糸の複合糸形態は、特に限定がなく従来公知の方法が適用できる。すなわち、カバードヤーン、コアスパンヤーン、合撚糸、エアー交絡糸あるいは引き揃え糸などの複合糸形態が好ましく適用でき、用途、目的によって適宜選択される。
【0022】当然ながら、布帛に求める風合いや伸縮性の度合いのより、撚糸や交絡の度合いを適宜選択することにより達成される。例えば、撚糸の場合、一般的には、撚係数が2000〜32000の範囲が好ましい。さらには、A糸およびB糸とも下撚をかけることも好ましい態様であり、この場合も、目的、用途により異なるが、一般的には、B糸において3500以上であり、好ましくは5000以上であり、特にに好ましくは10000以上である。撚係数は次の式で求められる。
【0023】撚係数=TW・(DT/1.11)1/2TW:撚数(T/m)
DT:糸の繊度(デシテックス)
また、エアー交絡加工の場合、一般的には、ノズル圧力が2〜4kg/cm2で、2〜4%のオーバヒードを与えつつ、CF値が100〜150となるように加工され、複合糸での一体化がしっかりしていることが好ましい。
【0024】また、本発明において、複合における一方の糸を過剰供給して複合を行うことも複合糸特性およびその布帛特性を高めるのに好ましくかつ重要な方法である。
【0025】その作用は明らかでないが、布帛の柔軟性を重視する場合、複合における加工において、A繊維をB繊維より2〜20%好ましくは5〜10%過剰供給しながら行うのが特に好ましい。また、用いるB繊維種の特徴を発揮するには、B繊維をA繊維より2〜20%、好ましくは5〜10%過剰供給しながら行うのが特に好ましい。
【0026】複合糸とした後の熱処理は、複合糸を芯材に巻いた状態で、乾熱および/または湿熱下において行われる。温度は50〜150℃が好ましく、特に60〜120℃が好ましい。処理時間は一般的には5〜60分間である。処理は1回のみならず2回以上行っても構わない。また、1回処理した後、他の芯材に巻き返して2回目以降の処理することは、斑の少ないポリエステル複合糸を得るのに好ましい方法である。処理する装置は、特に限定するものではないが、一般的には乾熱および/または湿熱ともオートクレーブのような密閉した容器内で処理される。より効率よく行うには、容器内を真空近くに減圧した後、熱源として蒸気を用いる方法が採られ、好ましい方法である。
【0027】本発明において、芯材は、通常、繊維業界で繊維類を巻くのに用いられる芯材などが好ましく適用でき、金属製や樹脂製などのボビン、ドラムとかパーンなど、また紙製の管である紙管などでの円筒状ものであることが好ましい。この芯材は、一般的には、ポリエステル複合糸を熱処理することにより、糸の収縮応力によって潰れない強靱な素材を用いることが好ましい。ただし、芯材が潰れることによって収縮張力を調整する場合もあり、本発明はこの効果も含むものであり、芯材が潰れることは問題とはならない。
【0028】本発明のポリエステル複合糸は、織物あるいは編物などの布帛形態で活用される。織物の場合、タテ糸および/またはヨコ糸に用いられ、織物組織としては特に限定するものではないが、平織、綾織、朱子織、またはからみ織として用いられる。特に、目の粗い組織としては、目ずれし難い紗や絽などのからみ織とするのが好ましい態様である。また、表地と裏地の間を中糸とかつなぎ糸といわれる糸で連結した織物あるいは編物にあっては、本発明のポリエステル複合糸を連結糸に用いることにより、圧縮に対し柔らかく、厚さがヘタリにくい布帛とすることができクッション材用途として好ましく適用できる。特に、カーシート表皮材、椅子張りシート、ベットマット、ベットパッド、肘および膝などのカバー材、靴の内張材、介護医療衣服地などクッション性や衝撃を緩和することが要求される用途であって、従来主にポリウレタン発泡体が用いられてきた用途に好ましく適用できる。
【0029】布帛化後の熱処理は、120〜200℃の範囲で乾熱および/または湿熱下で行われる。この処理は、一般的な繊維布帛の加工工程である生機セット、中間セット、染色、仕上げセットなど熱で処理する工程において行うことができる。ただし、本処理において、熱量は本発明の製品の特性を決める重要な要素であり、A糸であるポリエステルが十分に熱結晶化を完結する条件を選ぶことが重要である。大まかな目安としては、乾熱では少なくとも140℃で5分間以上、湿熱では120℃で10分以上の処理を行うことが好ましい。当然ながら、布帛の加工工程中において、トータルとしてA糸が熱結晶化を完結するばよく、各工程における処理条件は適宜選択される。
【0030】織物の繊維充填率としては、カバーファクタで定義する値において、1000〜3000であることが本発明の特徴を発揮するのに適している。特に1500〜2500の範囲が好ましい。この範囲外であると、透けや形態保持性の点で劣ったり、伸縮性の不十分なものとなり好ましくない。ここでカバーファクタCFとは、次の式で表されるものである。
【0031】
CF=Ts・(Td)1/2+Ys・(Yd)1/2Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ繊度(デシテックス/1.11)
Ys:ヨコ繊度(デシテックス/1.11)
また、本発明の特筆すべきもう一つの効果は、通常のポリエステル繊維は120〜130℃の高温加圧染色を必要とするが、A糸はその構造が特異である故に110℃以下でも十分に濃色に染色できることである。これは、B糸として用いるウール糸、綿糸、麻など高温で染色すると物性や品位が低下する繊維素材との複合において、そのような問題を起こすことが少ないないという利点を有するものである。また、低温での染色加工が可能であることは、設備面、エネルギー、生産性、安全性の点でも大きな利点である。
【0032】本発明で述べた特性値である複屈折率は次の方法にて測定された値である。
【0033】複屈折率:セナルモン法により、ナトリウムD光を用い測定本発明のポリエステル複合糸およびそれを用いた布帛はその特性を活かして、スーツ、シャツ、コート、下着、スポーツ衣料、作業着、ブラウス、ジャケットなどに好ましく適用できる。特に、夏季用のフォーマルウエア、スーツ、ジャケットに好適である。その他にも前記したクッション材用途に好ましく適用できる。
【実施例】実施例1、比較例1、比較例2A糸として複屈折率が45×10-3の138デシテックス、36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸(無撚)と167デシテックスのウール糸(下撚Z700T/m、撚係数:8590)を用い、両者を合わせてZ800T/Mの上撚(撚係数:13260)を掛けて、アルミ製のボビンに約1000g巻き、90℃で30分間蒸熱セットを行いポリエステル複合糸とした。
【0034】このポリエステル複合糸を用いて、タテ50本/2.54cm、ヨコ49本/2.54cmの密度の平織物生機を製織した。
【0035】比較例1として、A繊維は複屈折率が140×10-3の138デシテックス、36フィラメントのポリエチレンテレフタレート延伸糸(無撚)を用い、B糸として167デシテックスのウール糸(下撚Z700T/m、撚係数:8590)用い、両者を合わせてZ800T/Mの撚(撚係数:13260)を掛けて、アルミ製のボビンに約1000g巻いた。その複合糸を用いて、オートクレーブ中で90℃で30分間蒸熱セットを行いポリエステル複合糸とし、タテ52本/2.54cm、ヨコ49本/2.54cmの密度の平織物生機を製織した。
【0036】比較例2として、複屈折率が45×10-3の138デシテックス、36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸(無撚)を2本合わせ、以下実施例1と同様の撚糸(撚係数:12610)、熱処理、製織を行い、タテ58本/2.54cm、ヨコ55本/2.54cmの密度の平織物生機を製織した。
【0037】かかる3点の生機を用いて、通常のT/W織物の染色・加工仕上げ処理である単独煮絨加工(90℃×10分間)、リラックス精練(98℃×3分間)、中間セット(160℃×30秒間)、染色(110℃×20分間)、帯電防止剤と柔軟剤付与、仕上げセット(160℃×30秒間)、スチーム処理(90℃×3分間)の各処理を行い製品とした。
【0038】その結果、織密度およびカバーファクターは次のとおりであった。
【0039】(1)織密度実施例1:タテ55本/2.54cm、ヨコ53本/2.54cm比較例1:タテ52本/2.54cm、ヨコ50本/2.54cm比較例2:タテ56本/2.54cm、ヨコ54本/2.54cm(2)カバーファクター実施例1:1960比較例1:1810比較例2:1820得られた実施例1の製品は高発色性を有し、風合いが柔軟であり、まろやかな感触とタテ、ヨコともストレッチ性を有するものであった。一方、比較例1の製品は、発色性が不良であり、風合いが硬くざらざらした感触を有するものであった。また、ストレッチ性は発現しなかった。比較例2の製品は、撚糸後の熱処理において、ポリエステル繊維が弛み巻き姿が不良となり、その後の加工において困難を極めた。また、製品はプリプリとした風合いを有するものの、硬めの風合いであり、ポリエステル繊維特有のテカリを有するものであり、さらにストレッチ性は有しなかった。
【0040】実施例2、比較例3A繊維として、複屈折率が45×10-3の138デシテックス、36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸(無撚)を用い、一方のB繊維として148デシテックスの綿糸(下撚Z940T/m、撚係数:10850)を用い、A糸がB糸より6%過剰供給して両者を合わせてZ800T/Mの撚(撚係数:12840)を掛けて、アルミ製のボビンに約1000gを巻いた。その複合糸をオートクレーブ中で90℃で30分間の蒸熱セットを行いポリエステル複合糸とし、タテ50本/2.54cm、ヨコ54本/2.54cmの密度の平織物生機を製織した。
【0041】比較例3として、A繊維として167デシテックス48フィラメントの延伸糸(複屈折率が140×10-3、無撚)を用いた。B繊維として綿糸148デシテックス(下撚Z940T/m、撚係数:10850)を用い、A繊維とB繊維を合わせて上撚Z700T/mを掛け(撚係数:11790)、オートクレーブ中で85℃で10分間蒸熱セットを行いアルミ製ボビンに巻き取りポリエステル複合糸を得た。このを用いてタテ47本/2.54cm、ヨコ46本/2.54cmの密度の生機を作製した。
【0042】次いで、T/C織物の通常の染色・仕上げ加工であるリラックス精練(98℃×3分間)、中間セット(160℃×30秒間)、染色(110℃×20分間)、通常の帯電防止剤と柔軟剤付与、剪毛加工、毛焼き加工、仕上げセット(160℃×30秒間)の各処理を行い製品とした。
【0043】得られた実施例2および比較例3の染色生地の織密度およびカバーファクターは次のとおりであった。
【0044】
織密度(本/インチ) カバーファクター 実施例2 タテ54 ヨコ58 1980 比較例3 タテ50 ヨコ52 1810実施例2は、好ましい伸縮性と柔軟な風合いと優れた感触を有し、T/C織物とは思えない特性を有するものであった。一方、比較例3は、A繊維側が十分に染着できてなく白っぽいままであり、B繊維側の濃色部分とによるメランジ調であった。また、風合いは硬めであり、表面にざらつき感があり、かつ伸縮性の乏しいものであった。
【0045】実施例3、実施例4、比較例4A繊維として、複屈折率が40×10-3の265デシテックス、48フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸(無撚)を用い、一方のB繊維として複屈折率が150×10-3の330デシテックス、10フィラメントのポリエチレンテレフタレート延伸糸(無撚)を用い、両者を一旦合わせてパーンワインダに巻き付け複合糸とした後、ダブルツイスターにかけてZ100T/Mの撚を掛け紙管に約2000gを巻いた。その複合糸をオートクレーブ中で90℃で30分間の蒸熱セットを行いポリエステル複合糸とした(実施例3)。さらに、別の芯材に巻き返し90℃で30分間の2回目の蒸熱セットを行いポリエステル複合糸とした(実施例4)。
【0046】この糸を中糸とし、220デシテックス、36フィラメントの仮撚加工糸を表地および裏地とし、両面丸編機でダンボールニット編物を編成した。かかる編物をピンテンター(熱処理機)で幅方向に5%拡幅し、長さ方向に5%オーバフィードしながら、180℃、5分間乾熱処理した。次いで、分散染料を用いて液流染色機中で130℃、45分間染色した。
【0047】得られた実施例3および実施例4とも厚さ方向に24時間50%圧縮する試験により、厚さ保持率が96%と高く、ヘタリ難く、また、シート全体が反発性良好であり、クッション性が良好であった。
【0048】比較例4として、330デシテックス、10フィラメントの延伸糸を2本合わせて、上記実施例3と同じ撚糸、オートクレーブ中で90℃で30分間の蒸熱セットを行い、これを中糸に用い、その他は同条件にてダンボールニットを編成し、その後の染色加工なども同条件で行った。得られたものは、硬く、厚さ方向に24時間50%圧縮する試験で厚さ保持率が88%と低く、ヘタリ易く、また、シート全体が反発性不良であった。
【0049】
【発明の効果】本発明の方法によって得られたポリエステル複合糸およびそれからなる布帛は、深みのある発色性と良好な染色堅牢度を有し、ふくらみがあって表面タッチが良好で、さらには伸縮性、反発性に富む特徴を有するものである。また、さらには、本発明は、従来より低温での染色が可能であり、加工による品位および物性の低下を大幅に改善することができる。また、複雑な製造工程を必要とせず、従来技術に比べて低価格で省エネルギー化、省人化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】主として複屈折率が20〜80×10-3のポリエステル繊維からなるA糸と少なくとも1種以上の他繊維からなるB糸を複合して複合糸となし、該複合糸を芯材に巻いた状態で50〜150℃の湿熱および/または乾熱処理を行うことを特徴とするポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項2】ポリエステル複合糸の形態が、カバードヤーン、コアスパンヤーン、合撚糸、エアー交絡糸あるいは引き揃え糸であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項3】A糸とB糸の複合において、いずれか一方の糸を2〜20%過剰供給しながら複合することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項4】B糸が、綿、ウール、レーヨン、アセテート、麻、ナイロン、あるいは前記A糸以外のポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項5】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、芯にポリスチレンポリマを配する芯鞘複合繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項6】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、中空繊維からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項7】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、多葉状の繊維断面を有するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項8】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、粘度の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項9】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、ポリマー種の異なる2種以上のポリエステルポリマが接合されたポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項10】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、0.4デシテックス以下のポリエステル極細繊維からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項11】A糸のポリエステル繊維および/またはポリエステル繊維で構成されたB糸が、10デシテックス以上のポリエステル繊維からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法。
【請求項12】請求項1〜11のいずれかに記載のポリエステル複合糸の製造方法により得られる複合糸を用いて布帛化し、さらに120〜200℃の熱処理を施すことを特徴とするポリエステル複合糸布帛の製造方法。
【請求項13】カバーファクタ(CF)が1000〜3100である布帛であることを特徴とする請求項12に記載のポリエステル複合糸布帛の製造方法。(ただし、カバーファクタ(CF)=Ts・(Td)1/2+Ys・(Yd)1/2Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス/1.11)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス/1.11))

【公開番号】特開2002−194634(P2002−194634A)
【公開日】平成14年7月10日(2002.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−295893(P2001−295893)
【出願日】平成13年9月27日(2001.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】