説明

固定搬送治具

【課題】 周縁部端面が断面略半円形に湾曲した薄板を液体を用いて加工しても、表面に液体が付着するのを抑制できる固定搬送治具を提供する。
【解決手段】 支持基材1と、支持基材1の周縁部2に貼着され、周縁部端面31が断面略半円形の半導体ウェーハ30を保持する保持層20とを備え、支持基材1と保持層20を半導体ウェーハ30よりも拡径に形成し、支持基材1と保持層20間に区画空間4を形成するとともに、支持基材1に、区画空間4用の給排孔を穿孔し、支持基材1の表面3には、保持層20に接触する突起群11を形成する。区画空間4を、半導体ウェーハ30の周縁部に保持層20を介し対向する気体充填空間5とそれ以外の気体給排空間6に分割するとともに、突起群11を、半導体ウェーハ30の周縁部に保持層20を介し対向する区画支持突起12とそれ以外の支持突起14に分割し、支持基材1に、気体充填空間5に空気を流入させる流入孔7を穿孔する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周縁部端面が断面略半円形に湾曲した半導体ウェーハ、石英ガラス、回路基板等からなる薄板用の固定搬送治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウェーハの口径は200mmから300mmに拡大してきているが、この300mmタイプの半導体ウェーハは、表面に回路が形成された後、積層構造のパッケージング要求等に鑑み、裏面が薄くバックグラインドされることがある(特許文献1参照)。具体的には図10に示すように、治具50上に半導体ウェーハ30を表裏逆にしてセットし、上面となった裏面を砥石51と研削液52とにより薄くバックグラインドする。
【特許文献1】特開昭59‐227195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、半導体ウェーハ30は、その周縁部端面31が断面半円形(R形状)に湾曲形成されることがあり、この場合に裏面を砥石51と研削液52とにより単にバックグラインドすると、表面に研削液52が湾曲した周縁部端面31を経由して浸入・付着(図10の矢印参照)し、研削液52中の1μm以下の研磨粉により表面の回路が汚染してしまうという大きな問題がある。
【0004】
本発明は上記に鑑みなされたもので、周縁部端面が断面略半円形に湾曲した薄板を液体を用いて加工しても、表面に液体が浸入して付着するのを抑制することのできる固定搬送治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては上記課題を解決するため、周縁部以外の表面が凹んだ支持基材と、この支持基材の周縁部に貼り着けられ、周縁部端面が断面略半円形に湾曲した薄板を着脱自在に保持する屈曲可能な保持層とを備え、支持基材と保持層とを薄板よりも幅広に形成し、支持基材の凹んだ表面と保持層との間に区画空間を形成するとともに、支持基材に、区画空間に連通(通し連なる)する給排孔を設け、支持基材の凹んだ表面には、保持層に接触する突起群を形成したものであって、
区画空間を、薄板の周縁部に保持層を介して対向する気体充填空間とそれ以外の気体給排空間とに分割するとともに、突起群を、薄板の周縁部に保持層を介して対向する複数の区画支持突起とそれ以外の支持突起とに分割し、支持基材に、区画空間の気体充填空間に気体を流入させる流入孔を設け、この流入孔を用いて気体充填空間に気体を流入させることにより、保持層の周縁部を膨張させて薄板の周縁部端面に密着可能としたことを特徴としている。
【0006】
なお、薄板をバックグラインドされる半導体ウェーハとし、複数の区画支持突起を半導体ウェーハと略同心円に配列し、半導体ウェーハの周縁部端面の湾曲起点からなる円周をR1とし、複数の区画支持突起における先端面の最外周を結ぶ接線の円周をR2とした場合に、R2をR1よりも0〜0.2mmの範囲で小さくすることが好ましい。
【0007】
ここで、特許請求の範囲における支持基材と保持層とは、平面略円形、略楕円形、矩形、多角形等に形成することができ、基板収納容器やカセット等に収納されるものでも良いし、そうでなくても良い。薄板には、少なくとも周縁部端面が断面略半円形に湾曲した半導体ウェーハ、液晶用ガラス、石英ガラス、フォトマスク、回路基板等が含まれる。ここでいう断面略半円形には、少なくとも断面半円形、断面半楕円形、又はこれらに類似する形状が含まれる。
【0008】
薄板が半導体ウェーハの場合には、口径300mm、450mmタイプ等を特に問うものではない。また、支持基材の給排孔や流入孔は、単数複数いずれでも良い。突起群の区画支持突起とそれ以外の支持突起とは、円柱形、円錐台形、角柱形、角錐台形等に形成することができる。また、気体は、空気でも良いし、窒素ガス等でも良い。R2は、R1と同じ径か、あるいはR1よりも半径内方向に0.2mmの範囲で縮径に形成されることが好ましい。さらに、固定搬送治具は、工場内で薄板を加工・搬送する場合の他、工場から他の工場への輸送にも使用することができる。
【0009】
本発明によれば、固定搬送治具の保持層に薄板を保持させ、気体を流入孔から区画空間の気体充填空間に供給し、保持層の周縁部を膨らませて薄板の湾曲した周縁部端面に密着させれば、液体の浸入路が塞がれ、薄板の表面を汚すことなく、薄板を砥石や研削液等の液体により薄く加工することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例え周縁部端面が断面略半円形に湾曲した薄板を研削液等の液体を用いて加工しても、薄板の表面に液体が浸入して付着するのを有効に抑制することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における固定搬送治具は、図1ないし図8に示すように、周縁部2に包囲された領域が凹んだ支持基材1と、この支持基材1の周縁部2に水平に張架され、周縁部端面31が湾曲した300mmタイプの半導体ウェーハ30を着脱自在に粘着保持する屈曲変形可能な保持層20とから半導体ウェーハ用の基板収納容器40に収納可能に構成される。
【0012】
固定搬送治具は、その全体の厚さが0.3〜2.5mmの範囲、好ましくは0.5〜1.2mmの範囲内となるよう形成される。これは、固定搬送治具の厚さが係る範囲内であれば、半導体ウェーハ30に関する補強性を十分に確保することができるし、図7や図8に示す基板収納容器40に収納したり取り出す際、図示しない専用ロボットのフォークの挿入間隔を十分に維持することができるからである。また、固定搬送治具の軽量化を図ることもできるからである。
支持基材1と保持層20とは、図1に示すように、それぞれ半導体ウェーハ30よりも拡径の平面円形に形成される。
【0013】
支持基材1は、図1ないし図3に示すように、基板収納容器40に確実に収納することができるよう所定の材料を使用して剛性を有する薄板に形成され、半導体ウェーハ30よりも4mm程度拡径で保持層20よりも僅かに拡径の円板とされており、エンドレスの周縁部2に包囲された平面円形の領域が浅く平坦に凹み形成される。
【0014】
支持基材1の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば支持基材1に半導体ウェーハ30が搭載された場合の撓み量を5mm以下に抑制可能なポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ガラス、ステンレス等があげられる。
【0015】
支持基材1は、その凹んだ領域の表面3と保持層20との間に、空気の流通する区画空間4が形成され、この区画空間4に連通する丸い給排孔9が厚さ方向に穿孔されており、凹んだ表面3には、保持層20の裏面を接着支持する突起群11が上方に向けて突出形成される。区画空間4は、図5に示すように、半導体ウェーハ30の周縁部に保持層20の周縁部を介して下方から隣接対向する気体充填空間5と、それ以外の気体給排空間6とを備え、外周に位置する気体充填空間5に空気を流入させる流入孔7が支持基材1の厚さ方向に丸く穿孔されており、この流入孔7には、ファン等からなる送風機8がチューブ等を介し着脱自在に接続される。
【0016】
このような流入孔7や送風機8を用いて気体充填空間5に空気が圧送されると、保持層20の周縁部が上方に膨張して半導体ウェーハ30の周縁部端面31の下方に隙間なく密着する(図6参照)。また、支持基材1の給排孔9には、図3に示すバキューム装置10がチューブ等を介し着脱自在に接続され、このバキューム装置10が動作して区画空間4の気体給排空間6が減圧されることにより、保持層20が凸凹に変形する。
【0017】
突起群11は、図5に示すように、半導体ウェーハ30の周縁部に保持層20の周縁部を介して下方から隣接対向する複数の区画支持突起12と、それ以外の複数の支持突起14とを備え、支持基材1の凹んだ表面3に成形法、サンドブラスト法、エッチング法等により隙間をおいて配列形成される。
【0018】
複数の区画支持突起12と支持突起14とは、支持基材1の周縁部表面と略同じ高さの円錐台形に形成され、0.05mm以上の高さで揃えられるが、これは、0.05mm未満の高さの場合には、十分な高さの区画空間4を形成することができず、保持層20の変形に支障を来たすからである。複数の区画支持突起12は、図4や図5に示すように、複数の支持突起14の外周に位置しており、半導体ウェーハ30と同心円に等間隔で配列される。
【0019】
保持層20は、可撓性、柔軟性、耐熱性、粘着性に優れるウレタン系、フッ素系、シリコーン系の薄いエラストマーを使用して薄膜に成形され、支持基材1の周縁部表面に接着剤や接着層を介して接着されるとともに、突起群11の平坦な先端面に接着剤や接着層を介して接着される。このような保持層20は、バキューム装置10の吸引動作で区画空間4が負圧化されることにより、複数の支持突起14の配列パターンに応じて凹凸に変形し、密着保持した半導体ウェーハ30との間に空気流入用の隙間を生じさせ、保持した半導体ウェーハ30を取り外し可能とする。
【0020】
半導体ウェーハ30は、基本的には12インチの丸いシリコンウェーハからなり、鏡面である表面に回路が形成され、周縁部端面31が厚さ方向に断面半円形に湾曲形成されており、専用ロボットにより保持層20上に密着してその裏面が薄くバックグラインドされる。この半導体ウェーハ30の周縁部には、結晶方位の判別や位置合わせ用のオリフラやノッチが適宜形成される。
【0021】
半導体ウェーハ30と複数の区画支持突起12との関係は、図4や図5に示すように、半導体ウェーハ30の周縁部端面31の湾曲起点32からなる円周がR1とされ、複数の区画支持突起12における先端面の最外周13を結ぶ接線の円周がR2とされた場合に、R1とR2とが同じ大きさの範囲(0mm)で形成される。
【0022】
基板収納容器40は、図7や図8に示すように、正面の開口した容器本体41と、この容器本体41の正面を開閉する蓋体45とを備えたフロントオープンボックスタイプに構成され、半導体ウェーハ30を搭載した25枚又は26枚の固定搬送治具を上下方向に並べて整列収納する。
【0023】
容器本体41は、ポリカーボネート等の材料を使用してフロントオープンボックスに成形され、底面の前部両側と後部中央には、図示しない加工装置搭載用の位置決め具がそれぞれ配設されており、天井の中央部には、自動搬送機に把持されるロボティックフランジ42が着脱自在に装着される。また、容器本体41の背面壁内面には、固定搬送治具や半導体ウェーハ30の後部周縁を保持する複数のリヤリテーナ43が上下方向に並べて装着され、左右両側壁の内面には、固定搬送治具の両側部を水平に保持する複数のティース44が上下方向に並設される。
【0024】
蓋体45は、容器本体41の開口した正面にエンドレスのシールガスケットを介して嵌合する略矩形の筐体46と、この筐体46の開口した正面を被覆する略矩形のカバー47とを備えて構成される。筐体46とカバー47との間には、容器本体41に嵌合した蓋体45を施錠、解錠する施錠機構が内蔵され、筐体46の背面には、半導体ウェーハ30の前部周縁を弾発的に保持する複数のフロントリテーナ48が上下方向に並べて装着される。
【0025】
施錠機構は、加工装置により蓋体45の外部から回転操作される左右一対の回転プレートと、各回転プレートの回転に伴い蓋体45の内部上下方向に進退動する複数の進退動プレートと、各進退動プレートの先端部に取り付けられ、筐体46の周壁の貫通孔から出没して容器本体41の正面内周部の係止穴に干渉する複数の係止爪とから構成される。
【0026】
上記構成において、半導体ウェーハ30を薄くバックグラインドする場合には、先ず、固定搬送治具における保持層20の平坦な表面に、表裏逆にした半導体ウェーハ30の表面を専用ロボットにより圧下して隙間なく密着保持させ、送風機8を作動させて空気を流入孔7から気体充填空間5に圧送し、半導体ウェーハ30の粘着保持に支障を来たさない範囲で保持層20の周縁部を膨張させて半導体ウェーハ30の周縁部端面31に隙間なく密着させれば、上面となった半導体ウェーハ30の裏面を砥石51と研削液52とにより薄く円滑にバックグラインドすることができる。
【0027】
上記によれば、保持層20の周縁部が膨張して半導体ウェーハ30の丸まった周縁部端面31に隙間なく密着するので、研削液52の浸入し易い隙間を的確に塞ぐことができ、半導体ウェーハ30の表面に研削液52が周縁部端面31を経由して浸入・付着することがない。したがって、研削液52中の研磨粉により、半導体ウェーハ30表面の回路が汚染してしまうのを簡易な構成で有効に抑制防止することができる。
【0028】
次に、図9は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、半導体ウェーハ30と複数の区画支持突起12との関係において、R2をR1よりも0.2mmの範囲で内方向に縮径に形成するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、構成の多様化を図ることができるのは明らかである。
【0029】
なお、上記実施形態では半導体ウェーハ30の周縁部に保持層20の周縁部を介して対向する複数の区画支持突起12を示したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、複数の区画支持突起12をリング形に形成して半導体ウェーハ30の周縁部に保持層20の周縁部を介して下方から対向させても良い。また、汚染の問題が生じなければ、保持層20に、補強性フィラーや疎水性シリカ等を必要に応じて添加しても良い。さらに、保持層20を、半導体ウェーハ30を着脱自在に粘着する自己粘着性の密着保持層と、この密着保持層の裏面に積層接着して一体化される帯電防止層とから多層構造に形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る固定搬送治具の実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明に係る固定搬送治具の実施形態における半導体ウェーハの保持状態を示す説明図である。
【図3】本発明に係る固定搬送治具の実施形態における支持基材、区画空間、及び給排孔を示す断面説明図である。
【図4】本発明に係る固定搬送治具の実施形態における半導体ウェーハと複数の区画支持突起との関係を示す平面説明図である。
【図5】本発明に係る固定搬送治具の実施形態における支持基材、区画空間の気体充填空間、流入孔、及び保持層を示す断面説明図である。
【図6】図5の保持層の周縁部の膨張状態を示す要部断面説明図である。
【図7】本発明に係る固定搬送治具の実施形態における基板収納容器を示す斜視全体図である。
【図8】本発明に係る固定搬送治具の実施形態における基板収納容器を示す断面平面図である。
【図9】本発明に係る固定搬送治具の第2の実施形態における半導体ウェーハと複数の区画支持突起との関係を示す平面説明図である。
【図10】治具上に半導体ウェーハをセットし、裏面を砥石と研削液とによりバックグラインドする状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 支持基材
2 周縁部
3 表面
4 区画空間
5 気体充填空間
6 気体給排空間
7 流入孔
9 給排孔
11 突起群
12 区画支持突起
13 最外周
14 支持突起
20 保持層
30 半導体ウェーハ(薄板)
31 周縁部端面
32 湾曲起点
40 基板収納容器
41 容器本体
45 蓋体
51 砥石
52 研削液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部以外の表面が凹んだ支持基材と、この支持基材の周縁部に貼り着けられ、周縁部端面が断面略半円形に湾曲した薄板を着脱自在に保持する屈曲可能な保持層とを備え、支持基材と保持層とを薄板よりも幅広に形成し、支持基材の凹んだ表面と保持層との間に区画空間を形成するとともに、支持基材に、区画空間に連通する給排孔を設け、支持基材の凹んだ表面には、保持層に接触する突起群を形成した固定搬送治具であって、
区画空間を、薄板の周縁部に保持層を介して対向する気体充填空間とそれ以外の気体給排空間とに分割するとともに、突起群を、薄板の周縁部に保持層を介して対向する複数の区画支持突起とそれ以外の支持突起とに分割し、支持基材に、区画空間の気体充填空間に気体を流入させる流入孔を設け、この流入孔を用いて気体充填空間に気体を流入させることにより、保持層の周縁部を膨張させて薄板の周縁部端面に密着可能としたことを特徴とする固定搬送治具。
【請求項2】
薄板をバックグラインドされる半導体ウェーハとし、複数の区画支持突起を半導体ウェーハと略同心円に配列し、半導体ウェーハの周縁部端面の湾曲起点からなる円周をR1とし、複数の区画支持突起における先端面の最外周を結ぶ接線の円周をR2とした場合に、R2をR1よりも0〜0.2mmの範囲で小さくした請求項1記載の固定搬送治具。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−73677(P2007−73677A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257913(P2005−257913)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】