説明

ΔΣ変換器を用いて複数の帯域のRF信号を同時に送信する送信機及びプログラム

【課題】回路実装面積の縮小を実現すると共に、複数の帯域のRF信号を同時に送信することができる送信機及びプログラムを提供する。
【解決手段】帯域毎に、送信すべきベースバンド信号のI信号及びQ信号それぞれについて、一方の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、他方の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する複数のΔΣ変換器と、帯域毎に、ΔΣ変換器から出力されたI信号及びQ信号のそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する複数のミキサと、帯域毎に、I信号のキャリア周波数信号とQ信号のキャリア周波数信号とを加算する加算器と、複数の加算信号を入力し、スイッチ型アンプによって出力電流を電流加算する電力増幅器と、複数の帯域における所望信号の周波数帯域のみを通過させ、マルチバンドアンテナへ出力するマルチバンドパスフィルタとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の帯域のRF(Radio Frequency)信号を送信する送信機及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速無線通信の実現に向けて、断片化した複数の帯域を集めて利用するSpectrum Aggregation技術がある。この技術によれば、複数の帯域を束ねることによって、広帯域を確保し、伝送速度を高速化することができる。
【0003】
図1は、従来技術における送信機の機能構成図である。
【0004】
図1によれば、送信機1は、複数の帯域それぞれに、専用の送信回路の系列を備え、それら回路系列を同時に動作させることによって、複数の帯域のRF信号を同時に送信する。第1の回路系列は、第1の帯域のベースバンド信号を、キャリア周波数f1に変換して送信する。また、第2の回路系列は、第2の帯域のベースバンド信号を、キャリア周波数f2に変換して送信する。送信機1は、回路系列毎に、シングルバンドアンテナを有する。第1の回路系列及び第2の回路系列は、並列関係にあるので、以下では第1の回路系列についてのみ説明する。
【0005】
送信機1における1つの回路系列には、同相成分信号I1及び直交成分信号Q1を出力するデータ送信部100と、同相成分信号I1及び直交成分信号Q1毎のΔΣ変換器101及びミキサ102と、PLL(Phase-locked loop)部103と、加算器104と、電力増幅器(Power Amplifier)105と、バンドパスフィルタ106と、アンテナ107とを有する。
【0006】
第1のデータ送信部100は、送信すべきベースバンド信号における同相成分信号I1及び直交成分信号Q1を出力する。同相成分信号I1及び直交成分信号Q1はそれぞれ、別個のΔΣ変換器101へ入力される。
【0007】
ΔΣ変換器101は、その同相成分信号I1又は直交成分信号Q1に対してΔΣ変換をする。ΔΣ(デルタシグマ)変換とは、パルス密度変換を用いることによって、高分解能の信号を低分解能の信号に変換する技術である。量子化器におけるオーバーサンプリング比を上げることによって、所望信号帯域内の量子化雑音が、高周波帯域へ移る。これにより、A/D変換器に用いた場合、入力のダイナミックレンジを広げることができる。ΔΣ変換は、A/D変換器及びD/A変換器によって多用されている技術である。尚、図1によれば、ΔΣ変換器101は、ローパスタイプのものである。ΔΣ変換器101からそれぞれ出力された同相成分信号I1のベースバンド信号と、直交成分信号Q1のベースバンド信号とのそれぞれは、別個のミキサ102へ入力される。
【0008】
ΔΣ変換器の出力信号は、ΔΣ変換器内部の量子化器のスレッショルド数+1となる。量子化器で加算される量子化雑音は、所望信号(ベースバンド信号)の存在しない高周波領域へノイズシェーピングされる。尚、ΔΣ変換器のクロック周波数は、2f1である。
【0009】
ミキサ102は、ΔΣ変換器の出力信号を、キャリア周波数f1へ周波数変換する。ミキサ102は、ΔΣ変換器の出力信号に対して、4f1のクロック周波数で「1、0、−1、0、」の系列を乗算する。周波数変換されたRF信号は、加算器104へ出力される。
【0010】
ΔΣ変換機101及びミキサ102における動作クロックは、PLL部103によって制御される。
【0011】
加算器104は、同相成分信号Iのキャリア周波数信号と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号とを加算する。加算されたRF信号は、電力増幅器105へ出力される。
【0012】
図2は、図1におけるタイムチャートである。I1及びQ1のそれぞれのΔΣ変換器からの出力信号に対して、図2のように「1,0,−1,0,」の乗算のタイミングを1ずらす。図2におけるPLL及びPLLはそれぞれ、ΔΣ変換器からの出力信号に乗算するPLL信号である。
【0013】
電力増幅器105は、加算器104から出力された加算信号を入力する。電力増幅器105は、入力信号を、無線システムで必要とする電力まで増幅する。増幅されたRF信号は、バンドパスフィルタ106へ出力される。
【0014】
バンドパスフィルタ106は、シングルバンドパス用であって、所望信号の周波数帯域のみを通過させる。その周波数帯域のRF信号は、アンテナ107へ出力される。
【0015】
アンテナ107は、シングルバンド用であって、バンドパスフィルタ106から入力されたRF信号を、エアへ送信する。
【0016】
従来技術として、複数の送信信号を同期信号に基づいて多重用変調信号を生成し、その多重用変調信号を用いて複数の送信信号を異なる帯域に分散させて重畳し、その重畳信号をΔΣ変調して送信する技術がある(例えば特許文献1参照)。また、マルチキャリア送信装置であって、所定周波数によって変調信号からサンプリングデータを生成し、そのサンプリングデータをΔΣ変換し、そのデジタルデータを増幅し、ローパスフィルタを介してそのRF信号を送信する技術もある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−278401号公報
【特許文献2】特開2008−148212号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Martha Liliana, et la., “A Cartesian Sigma-Delta Transmitter Architecture,” 2008 IEEE Radio and Wireless Symposium.
【非特許文献2】Sheng Sun, Lei Zhu, “Compact Dual-Band Microstrip Bandpass Filter Without External Feeds,” IEEE Microwave and Wireless Components Letters, Vol. 15, No. 10, Oct. 2005.
【非特許文献3】Shouhei Kousai and Ali Hajimiri, “An Octave-Range Watt-Level Fully Integrated CMOS Switching Power Mixer Array for Linearization and Back-Off Efficiency Improvement,” 2009 IEEE ISSCC.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述したように、従来技術によれば、複数の帯域のRF信号を同時に送信するためには、帯域毎に、その回路系列を要する。即ち、送信する帯域の信号毎に、アンテナ、電力増幅器、フィルタを備えることを要する。そのために、回路の実装面積が、必然的に大きくなる。
【0020】
そこで、本発明は、回路実装面積の縮小を実現すると共に、複数の帯域のRF信号を同時に送信することができる送信機及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、複数の帯域の信号を同時に送信するためのマルチバンドアンテナを有する送信機において、
帯域毎に、送信すべきベースバンド信号における同相成分信号I及び直交成分信号Qそれぞれについて、一方の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、他方の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する複数のΔΣ変換器と、
帯域毎に、ΔΣ変換器から出力された同相成分信号Iのベースバンド信号と直交成分信号Qのベースバンド信号とのそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する複数のミキサと、
帯域毎に、同相成分信号Iのキャリア周波数信号と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号とを加算する加算器と、
帯域毎の加算器から出力された複数の加算信号を入力し、出力電流を電流加算する電力増幅器と、
複数の帯域における所望信号の周波数帯域のみを通過させ、マルチバンドアンテナへ出力するマルチバンドパスフィルタと
を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の送信機における他の実施形態によれば、電力増幅器は、入力される加算信号毎にアンプを有し、各アンプのドレインを結合し、結合された電流をトランスを介して出力することも好ましい。
【0023】
本発明の送信機における他の実施形態によれば、
各ΔΣ変換器は、量子化器を含んでおり、該量子化器の出力値は、制御手段から、各帯域の出力値の最大値の和がパワーアンプの素子数以下となるように制御されるものであり、
一方の帯域のΔΣ変換器に含まれる量子化器は、mid-rise型であり、
他方の帯域のΔΣ変換器に含まれる量子化器は、mid-tread型である
ことも好ましい。
【0024】
本発明の送信機における他の実施形態によれば、ΔΣ変換器に対しては、当該帯域のキャリア周波数の2倍の周波数で動作させ、ミキサに対しては、当該帯域のキャリア周波数の4倍の周波数で動作させることも好ましい。
【0025】
本発明の送信機における他の実施形態によれば、一方もしくは両方の帯域のΔΣ変換器への入力信号を中間周波数帯のIQ信号とすることで、一方の帯域のキャリア周波数の高調波が、他方のキャリア周波数と重畳しないようにすることも好ましい。
【0026】
本発明によれば、複数の帯域の信号を同時に送信するためのマルチバンドアンテナを有する送信機に搭載されたシグナルプロセッサを機能させるプログラムにおいて、
帯域毎に、送信すべきベースバンド信号における同相成分信号I及び直交成分信号Qそれぞれについて、一方の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、他方の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する複数のΔΣ変換手段と、
帯域毎に、ΔΣ変換器から出力された同相成分信号Iのベースバンド信号と直交成分信号Qのベースバンド信号とのそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する複数のミキサ手段と、
帯域毎に、同相成分信号Iのキャリア周波数信号と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号とを加算する加算手段と、
帯域毎の加算器から出力された複数の加算信号を入力し、出力電流を電流加算する電力増幅手段と、
複数の帯域における所望信号の周波数帯域のみを通過させ、マルチバンドアンテナへ出力するマルチバンドパスフィルタ手段と
してシグナルプロセッサを機能させることを特徴とする。
【0027】
本発明の送信機用のプログラムにおける他の実施形態によれば、電力増幅器は、入力される加算信号毎にアンプを有し、各アンプのドレインを結合し、結合された電流をトランスを介して出力することも好ましい。
【0028】
本発明の送信機用のプログラムにおける他の実施形態によれば、
各ΔΣ変換器は、量子化器を含んでおり、該量子化器の出力値は、制御手段から、各帯域の出力値の最大値の和がパワーアンプの素子数以下となるように制御されるものであり、
一方の帯域のΔΣ変換器に含まれる量子化器は、mid-rise型であり、
他方の帯域のΔΣ変換器に含まれる量子化器は、mid-tread型である
ことも好ましい。
【0029】
本発明の送信機用のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ΔΣ変換器に対しては、当該帯域のキャリア周波数ベースバンド信号の2倍の周波数で動作させ、ミキサに対しては、当該帯域のキャリア周波数ベースバンド信号の4倍の周波数で動作させることも好ましい。
【0030】
本発明の送信機用のプログラムにおける他の実施形態によれば、一方もしくは両方の帯域のΔΣ変換手段への入力信号を中間周波数帯のIQ信号とすることで、一方の帯域のキャリア周波数の高調波が、他方のキャリア周波数と重畳しないようにすることも好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の送信機及びプログラムによれば、電力増幅器、フィルタ及びアンテナを1つの回路系列のみで、複数の帯域のRF信号を同時に送信することができるので、回路実装面積の縮小を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来技術における送信機の機能構成図である。
【図2】図1におけるタイムチャートである。
【図3】本発明における送信機の機能構成図である。
【図4】図3の送信機における機能部毎の信号の遷移を表す説明図である。
【図5】送信機の電力増幅器における具体的な第1の回路図である。
【図6】送信機の電力増幅器における具体的な第2の回路図である。
【図7】送信機の電力増幅器における具体的な第3の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0034】
図3は、本発明における送信機の機能構成図である。
図4は、図3の送信機における機能部毎の信号の遷移を表す説明図である。
【0035】
図3によれば、送信機1は、第1の帯域のベースバンド信号における同相成分信号I1及び直交成分信号Q1を出力する第1のデータ送信部200と、第2の帯域のベースバンド信号における同相成分信号I2及び直交成分信号Q2を出力する第2のデータ送信部210とを有する。
【0036】
図4によれば、第1のデータ送信部200は、fc1帯のベースバンド信号を出力し、第2のデータ送信部210は、fc2帯のベースバンド信号を出力している。
第1のデータ送信部:fc1帯(800MHz)のベースバンド信号
同相成分信号I1及び直交成分信号Q1
第2のデータ送信部:fc2帯(2GHz)のベースバンド信号
同相成分信号I2及び直交成分信号Q2
800MHz及び2GHzは、移動体通信用の周波数帯域である。
【0037】
送信機1は、第1の帯域のベースバンド信号について、同相成分信号I1及び直交成分信号Q1毎にΔΣ変換器201及びミキサ202と、加算器214とを有する。また、第2の帯域のベースバンド信号について、同相成分信号I2及び直交成分信号Q2毎にΔΣ変換器211及びミキサ212と、加算器214とを有する。これら機能構成部は、送信機に搭載されたシグナルプロセッサを機能させるプログラムを実行することによっても実現される。
【0038】
ΔΣ変換器201は、第1の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、第2の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する。また、ΔΣ変換器211は、第2の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、第1の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する。
【0039】
第1の帯域のベースバンド信号に対するΔΣ変換器201の動作クロックは、第1の帯域のキャリア周波数fc1に対して、2×fc1とする。従って、800MHz帯用のΔΣ変換器201の動作クロックは、1.6GHzとなる。また、ΔΣ変換器201は、0Hz帯及び400MHz帯で、ノイズシェープされるべく、伝達関数H(z)を設定する。
H(z)=1−Z-4
ここで、400MHzは、以下のように算出される。
800MHz×(2N−1)+x=2GHz
N=1,2,3 −800MHz<x<800MHz
【0040】
第2の帯域のベースバンド信号に対するΔΣ変換器211の動作クロックは、第2の帯域のキャリア周波数fc2に対して、2×fc2とする。従って、2GHz帯用のΔΣ変換器211の動作クロックは、4GHzとなる。また、ΔΣ変換器211は、0Hz帯及び1.2GHz帯で、ノイズシェープされるべく、伝達関数H(z)を設定する。
H(z)=(Z-2−2cos(3/5)πZ-1+1)・(Z-2−2Z-1+1)
ここで、1.2GHzは、以下のように算出される。
2GHz×(2N−1)+x=800MHz
N=1 −2GHz<x<2GHz
【0041】
尚、図2のΔΣ変換器について、伝達関数H(z)を以下のように表す。
H(z)=(Z-2−2cosAZ-1+1)・(Z-2−cosBZ-1+1)
この場合、以下の2つの帯域でノイズシェープされる。
f=A×fc2/π
f=B×fc2/π
【0042】
前述したように、ΔΣ変換器から出力された2つの信号を加算する場合、一方の帯域の帯域外雑音が、他方の帯域の信号に周波数軸上で重畳することになり、送信信号のS/Nが低下する。そこで、ΔΣ変換器について、他方の帯域の信号の周波数帯に与える雑音を抑えるように、マルチバンドパスタイプのΔΣ変換を用いる。
【0043】
尚、一方もしくは両方の帯域のΔΣ変換器への入力信号を中間周波数帯のIQ信号とすることで、一方の帯域のキャリア周波数の高調波が、他方のキャリア周波数と重畳しないようにする。周波数変換後の高調波が移動するため、高調波が他方の所望信号に重畳することによる、送信信号のS/Nの低下を防止することができる。
【0044】
また、ΔΣ変換器の次数を高くすることによって通過帯域内のダイナミックレンジを向上させることが可能である。各ΔΣ変換器の量子化器の多値数は、制御部223から制御可能であり、各帯域の多値数の和が電力増幅器の素子数を超えないように制御される。
【0045】
更に、一方の帯域におけるΔΣ変換器の量子化器には、mid-rise型量子化器を使用し、他方の帯域におけるΔΣ変換器の量子化器には、mid-tread型量子化器を使用することも好ましい。これよって、各帯域のΔΣ信号を加算した際に、出力0が発生しないようにする。
【0046】
ミキサ202は、ΔΣ変換器201から出力された同相成分信号Iのベースバンド信号I1[n]と、直交成分信号Qのベースバンド信号Q1[n]とのそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する。800MHz帯のベースバンド信号それぞれに対して、±1の矩形波を乗算することによって、fc1=800MHzに周波数変換(アップコンバージョン)する。周波数変換後における同相成分信号Iのベースバンド信号I'1[n]と、直交成分信号Qのベースバンド信号Q'1[n]とは、以下のように表される。
I'1[n]=I1[n]×(-1)n
Q'1[n]=Q1[n]×(-1)n
n:サンプル点の順番を表す整数
【0047】
ミキサ212は、ΔΣ変換器211から出力された同相成分信号Iのベースバンド信号I2[n]と、直交成分信号Qのベースバンド信号Q2[n]とのそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する。2GHz帯のベースバンド信号それぞれに対して、±1の矩形波を乗算することによって、fc2=2GHzに周波数変換する。周波数変換後における同相成分信号Iのベースバンド信号I'2[n]と、直交成分信号Qのベースバンド信号Q'2[n]とは、以下のように表される。
I'2[n]=I2[n]×(-1)n
Q'2[n]=Q2[n]×(-1)n
n:サンプル点の順番を表す整数
【0048】
加算器204は、第1の帯域について、同相成分信号Iのキャリア周波数信号I'1と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号Q'1とを加算する。加算器204では、第1の帯域の動作クロックを2倍にし、I'1とQ'1とを交互に並べることによって加算する。
4×fc1=4×800MHz=3.2GHz
【0049】
加算器214は、第2の帯域について、同相成分信号Iのキャリア周波数信号I'2と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号Q'2とを加算する。加算器214では、第2の帯域の動作クロックを2倍にし、I'2とQ'2とを交互に並べることによって加算する。
4×fc2=4×2GHz=8GHz
【0050】
尚、ΔΣ変換器201及び211と、ミキサ202及び212とに対する動作クロックは、制御部223から制御される。ΔΣ変換部に対しては、キャリア周波数の2倍の周波数で動作させ、ミキサに対しては、キャリア周波数の4倍の周波数で動作させる。
【0051】
電力増幅器225は、加算器204及び加算器214から出力された複数の加算信号を入力し、スイッチ型アンプの出力電流を電流加算する。電力増幅器225は、複数のスイッチ型アンプを有し、各アンプのドレインは結合される。結合された電流は、トランスを介して出力される。
【0052】
図5は、送信機の電力増幅器における具体的な第1の回路図である。
【0053】
電力増幅器は、例えばFET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)であってもよい。各アンプのドレインが結合される。結合された電流は、トランスを介して出力される。
【0054】
図6は、送信機の電力増幅器における具体的な第2の回路図である。
【0055】
図6によれば、スイッチ部228は、帯域毎に、ΔΣ変換器からの出力信号6値(多値)を入力し、6値を出力する。また、増幅器225は、その6入力に対して6段のアンプを備える。
【0056】
非特許文献3に記載された技術によれば、トランスを用いて増幅器(ミキサアンプ)の出力を電流加算する。この技術によれば、各ミキサアンプの入力信号は、エンベロープ信号を同一符号の複数の信号に分離しているため、各アンプの入力信号の符号が反転することはない。しかしながら、本願発明のように、異なる複数の帯域の信号を電流加算する場合、帯域間の符号が一致していない。そのために、各帯域の信号で独立にスイッチタイプアンプを制御する場合、トランスに逆向きの電流が流れ、増幅器の電力効率が悪化する。
【0057】
各帯域の信号を加算する加算器を、増幅器の前段に設けることにより、スイッチタイプアンプへの入力信号の符号を統一することができる。しかしながら、値0が出力され、出力状態が安定しない状態が生じる。例えば、各帯域の入力信号を「±1、±3」とすると、その加算器の出力は、「−4、−2、0、+2、+4」となり、「0」が生じる。そこで、本発明によれば、1つ又は奇数の周波数帯域についてΔΣ変換器の量子化器の種類をmid-rise quantizerタイプとし、ΔΣ変換器の出力の多値数を偶数とする。このようにΔΣ変換器の多値数を制御することにより、加算結果に0が生じることを防ぐ。
【0058】
図7は、送信機の電力増幅器における具体的な第3の回路図である。
【0059】
図7によれば、D級アンプの素子数を3として、第1の帯域fc1の多値数を3とし、第2の帯域fc2の多値数を2とした場合を表す。
第1の帯域fc1の入力信号:0、±2
第2の帯域fc2の入力信号:±1
【0060】
図7における変換回路は、各帯域の入力信号からD級アンプへの制御信号を生成する。
加算結果が+1の場合:アンプS0 =High、 S0〜S5 =Low
加算結果が−1の場合:アンプS3 =High、 S0〜S2,S4,S5=Low
加算結果が+3の場合:アンプS0〜S2=High、 S3〜S5 =Low
加算結果が−3の場合:アンプS3〜S5=High、 S0〜S2 =Low
この変換回路によって、各帯域のΔΣ信号を加算した際に、出力0が発生しないようにすることができる。
【0061】
尚、図7によれば、電力増幅器が、複数のトランスを備えるものであってもよい。トランスの出力側で、各帯域の信号が分離される。分離された各帯域の信号は、シングルバンド用のバンドパスフィルタを通過して帯域外の不要な雑音を取り除いた後にアンテナへと入力される。
【0062】
マルチバンドパスフィルタ226は、複数の帯域における所望信号の周波数帯域のみを通過させ、マルチバンドアンテナ227へ出力する。具体的には、800MHz帯及び2GHz帯に通過帯域を持ち、その帯域外の不要な雑音信号を取り除く。フィルタの種類としては、SAW(Surface Acoustic Wave:弾性表面波)フィルタ、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator:圧電薄膜共振器)等が想定される。また、マイクロストリップラインを用いたバンドパスフィルタであってもよい(例えば非特許文献2参照)。
【0063】
マルチバンドアンテナ227は、複数の帯域の信号を同時に送信する。具体的には、800MHz帯及び2GHz帯で動作するデュアルバンドアンテナであってもよいし、両帯域で動作する広帯域アンテナであってもよい。
【0064】
以上、詳細に説明したように、本発明の送信機及びプログラムによれば、電力増幅器、フィルタ及びアンテナを1つの回路系列のみで、複数の帯域のRF信号を同時に送信することができるので、回路実装面積の縮小を実現する。具体的には、異なる帯域間の周波数帯域を束ねて利用するSpectrum Aggregationを行う無線端末について、電力増幅器、フィルタ及びアンテナを1つの回路系列のみで構成することができる。
【0065】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0066】
1 送信機
100、110 データ送信部
101、111 ΔΣ変換器
102、112 ミキサ
103、113 PLL
104、114 加算器
105、115 電力増幅器
106、116 シングルバンドパスフィルタ
107、117 シングルバンドアンテナ
2 送信機
200、210 データ送信部
201、211 ΔΣ変換器
202、212 ミキサ
223 制御部
204、214 加算器
225 電力増幅器
226 マルチバンドパスフィルタ
227 マルチバンドアンテナ
228 スイッチ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の帯域の信号を同時に送信するためのマルチバンドアンテナを有する送信機において、
前記帯域毎に、送信すべきベースバンド信号における同相成分信号I及び直交成分信号Qそれぞれについて、一方の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、他方の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する複数のΔΣ変換器と、
帯域毎に、前記ΔΣ変換器から出力された同相成分信号Iのベースバンド信号と直交成分信号Qのベースバンド信号とのそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する複数のミキサと、
帯域毎に、同相成分信号Iのキャリア周波数信号と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号とを加算する加算器と、
帯域毎の加算器から出力された複数の加算信号を入力し、出力電流を電流加算する電力増幅器と、
前記複数の帯域における所望信号の周波数帯域のみを通過させ、前記マルチバンドアンテナへ出力するマルチバンドパスフィルタと
を有することを特徴とする送信機。
【請求項2】
前記電力増幅器は、入力される加算信号毎にアンプを有し、各アンプのドレインを結合し、結合された電流をトランスを介して出力することを特徴とする請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
各ΔΣ変換器は、量子化器を含んでおり、該量子化器の出力値は、制御手段から、各帯域の出力値の最大値の和がパワーアンプの素子数以下となるように制御されるものであり、
一方の帯域のΔΣ変換器に含まれる前記量子化器は、mid-rise型であり、
他方の帯域のΔΣ変換器に含まれる前記量子化器は、mid-tread型である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の送信機。
【請求項4】
前記ΔΣ変換器に対しては、当該帯域のキャリア周波数の2倍の周波数で動作させ、前記ミキサに対しては、当該帯域のキャリア周波数の4倍の周波数で動作させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の送信機。
【請求項5】
一方もしくは両方の帯域のΔΣ変換器への入力信号を中間周波数帯のIQ信号とすることで、一方の帯域のキャリア周波数の高調波が、他方のキャリア周波数と重畳しないようにすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の送信機。
【請求項6】
複数の帯域の信号を同時に送信するためのマルチバンドアンテナと、
電流加算する電力増幅器と、
前記複数の帯域における所望信号の周波数帯域のみを通過させ、前記マルチバンドアンテナへ出力するマルチバンドパスフィルタと
を有する送信機に搭載されたシグナルプロセッサを機能させるプログラムにおいて、
前記帯域毎に、送信すべきベースバンド信号における同相成分信号I及び直交成分信号Qそれぞれについて、一方の帯域のベースバンド信号における雑音成分が、他方の帯域のベースバンド信号における所望信号の周波数帯域で減衰するようにΔΣ変換する複数のΔΣ変換手段と、
帯域毎に、前記ΔΣ変換器から出力された同相成分信号Iのベースバンド信号と直交成分信号Qのベースバンド信号とのそれぞれを、キャリア周波数へ周波数変換する複数のミキサ手段と、
帯域毎に、同相成分信号Iのキャリア周波数信号と、直交成分信号Qのキャリア周波数信号とを加算する加算手段と
してシグナルプロセッサを機能させ、
前記電力増幅器は、帯域毎の前記加算手段から出力された複数の加算信号を入力し、出力電流を電流加算することを特徴とする送信機用のプログラム。
【請求項7】
前記電力増幅器は、入力される加算信号毎にアンプを有し、各アンプのドレインを結合し、結合された電流をトランスを介して出力することを特徴とする請求項6に記載の送信機用のプログラム。
【請求項8】
各ΔΣ変換手段は、量子化手段を含んでおり、該量子化器の出力値は、制御手段から、各帯域の出力値の最大値の和がパワーアンプの素子数以下となるように制御されるものであり、
一方の帯域のΔΣ変換手段に含まれる前記量子化手段は、mid-rise型であり、
他方の帯域のΔΣ変換手段に含まれる前記量子化手段は、mid-tread型である
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の送信機用のプログラム。
【請求項9】
前記ΔΣ変換手段に対しては、当該帯域のキャリア周波数の2倍の周波数で動作させ、前記ミキサに対しては、当該帯域のキャリア周波数の4倍の周波数で動作させることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の送信機用のプログラム。
【請求項10】
一方もしくは両方の帯域のΔΣ変換手段への入力信号を中間周波数帯のIQ信号とすることで、一方の帯域のキャリア周波数の高調波が、他方のキャリア周波数と重畳しないようにすることを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の送信機用のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−18994(P2011−18994A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160908(P2009−160908)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】