説明

α,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】液相中でアルコールからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を簡略な工程で製造する方法を提供する。
【解決手段】液相中、分子状酸素および貴金属含有触媒の存在下、110〜250℃で、アルコールを脱水及び酸化するα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸の製造方法とする。あるいは、液相中、分子状酸素、貴金属含有触媒、および酸性物質の存在下で、アルコールを脱水及び酸化するα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相中でアルコールからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、液相中で分子状酸素およびパラジウム含有触媒の存在下にてオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法が開示されている。この製造方法でオレフィンを原料に用いた場合は、α,β−不飽和アルデヒドも製造されることから、目的に応じて、オレフィンからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として適用可能である。
【0003】
また、特許文献2には、気相中で分子状酸素およびモリブデン−ビスマス−鉄系触媒の存在下にてt−ブタノールからメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−141863号公報
【特許文献2】特開2004−130261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の方法によれば、t−ブタノールだけでなく他のアルコールからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造することも原理的に可能と考えられるが、特許文献2記載の方法は気相反応であるため、使用する反応器等の装置類が大きく、また、反応温度が高温となるという問題がある。
【0006】
一般に、液相反応を利用すると装置類は小さくなるが、特許文献1の方法ではt−ブタノール等のアルコールは反応せず、そのままではα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造することができない。したがって、t−ブタノール等のアルコールからオレフィンを製造する脱水反応工程を追加する必要がある。アルコールからオレフィンを製造する脱水反応は吸熱反応であるので、反応時に加熱のためのエネルギーが必要となる。一方、オレフィンからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する酸化反応は発熱反応であるので、除熱が必要となる。このように、脱水反応工程と酸化反応工程を別々に設けることは、反応工程が増えるだけでなく、1つの容器の中で行うことは実際には困難であり、経済的に不利であった。
【0007】
したがって本発明の目的は、液相中でアルコールの脱水反応と酸化反応を一つの容器の中でかつ1段階で行うことが可能なα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルコールからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法であって、液相中、分子状酸素、およびハメットの酸度関数が+4.8以下の固体酸を担体とする貴金属含有担持媒の存在下で、貴金属含有担持触媒が懸濁された状態の同一容器内にて反応温度50〜250℃、反応圧力2〜7MPaでアルコールを脱水及び酸化するα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液相中でアルコールからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を簡略な工程で製造することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、液相中で、分子状酸素、貴金属含有触媒(以下、単に「触媒」ともいう)の存在下にてアルコールを反応させてα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する。
【0011】
以下、アルコールを反応させてα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
【0012】
原料のアルコールとしては、分子内脱水して製造されるα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸(以下、目的物ともいう)と同一炭素骨格を有するオレフィンを与えるものを使用することができ、例えば、イソプロパノール、t−ブタノール、n−ブタノール等が挙げられる。本発明は、アルコールがイソプロパノールまたはt−ブタノールの場合に好適である。その場合の具体的な目的物は、原料がイソプロパノールのときはプロピレンと同一炭素骨格を有するアクロレインおよび/またはアクリル酸であり、原料がt−ブタノールの場合のときはイソブチレンと同一炭素骨格を有するメタクロレインおよび/またはメタクリル酸である。
【0013】
反応に用いる溶媒(反応溶媒)は特に限定されないが、水、ケトン類、有機酸、有機酸エステル類、炭化水素類等が使用できる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等が挙げられる。有機酸エステル類としては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等が挙げられる。また、反応原料であるアルコールを溶媒として使用することもでき、この場合は溶媒かつ原料として機能する。中でも、炭素数3〜6のケトン類、t−ブタノール、イソプロパノールが好ましい。溶媒は1種でも、2種以上の混合溶媒でもよい。
【0014】
また、アルコール類、ケトン類、および有機酸エステル類の少なくとも1種を使用する場合は、水との混合溶媒とすることが好ましい。混合溶媒中の水の量は特に限定されないが、混合溶媒の質量に対して、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。混合溶媒は均一であることが望ましいが、不均一な状態で用いても差し支えない。
【0015】
本反応は連続式、バッチ式の何れの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0016】
アルコール以外の溶媒を使用する場合、反応液中の原料であるアルコールの量は、反応器内に存在する溶媒に対して、0.5質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。
【0017】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源には、空気が経済的であるが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。この空気等のガスは、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0018】
分子状酸素の量は、アルコール以外の溶媒を使用する場合、アルコール1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.3モル以上がより好ましく、0.5モル以上がさらに好ましい。また、30モル以下が好ましく、25モル以下がより好ましく、20モル以下がさらに好ましい。アルコールを溶媒として用いる場合にはアルコール1モルに対して、0.005モル以上が好ましく、0.01モル以上がより好ましい。また、10モル以下が好ましく、5モル以下が好ましい。
【0019】
触媒は反応液に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、液相酸化を行う反応器内に存在する溶液に対して、その反応器内に存在する触媒として0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は反応速度、目的物質の生産性(単位時間当たりの生成量)に影響を与える。一般的には50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。反応速度、目的物質の生産性を考慮すると110℃以上が特に好ましい。また、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。反応圧力は、0MPa以上(ゲージ圧;以下圧力表記はすべてゲージ圧表記とする)が好ましく、2MPa以上がより好ましい。また、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。
【0021】
本発明では、固体酸の存在下で反応を行うことができる。ここで述べる固体酸とは、H0(ハメットの酸度関数)が+4.8以下の物質である。H0はハメット指示薬(発色指示薬)を用いて測定できる。具体的には、ハメット指示薬であるメチルレッドが酸性色を示す物質である。
【0022】
固体酸の添加効果としては、アルコールを脱水してオレフィンへの転換を効率よく進行させ、これにより酸化反応工程の反応速度を向上させることができることが挙げられる。本発明で使用する固体酸としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、γ−アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物、HY型ゼオライト、モルデナイト等の各種ゼオライト類、強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。中でも、装置の材質、分離、廃酸の処理を考慮した場合、γ−アルミナ、ジルコニア、チタニア、各種ゼオライト、強酸性イオン交換樹脂がより好ましい。固体酸は1種でも、2種以上を併用することもできる。固体酸は、後述する貴金属含有触媒の担体として反応系に存在させることもできる。この場合の担体としてはHY型ゼオライト、シリカ、シリカアルミナ、ジルコニア、チタニア、強酸性イオン交換樹脂等が好ましい。また、固体酸は金属イオン等で修飾してもよい。
【0023】
本発明の好ましい実施態様としては、固体酸の存在下で、反応温度を50〜250℃に設定する。このように固体酸を存在させることで、比較的低温でも反応を行うことができる。この場合の反応温度は、50〜200℃が好ましく、70〜150℃がより好ましい。また、固体酸の非存在下では、反応温度を110〜250℃に設定する。このように固体酸を存在させない場合でも、110℃以上の温度であれば反応を進行させることができる。この場合の反応温度は、110〜230℃が好ましく、120〜200℃がより好ましい。
【0024】
固体酸の濃度は反応溶媒に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0025】
本発明で使用する触媒は貴金属含有触媒である。触媒に含まれる貴金属とは、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、オスミウムであり、中でもパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金が好ましく、パラジウムが特に好ましい。触媒には2種以上の貴金属を含有していてもよく、貴金属以外の元素を含有していてもよい。
【0026】
本発明で使用する触媒は、貴金属以外の金属成分を含むものとすることができる。貴金属以外の金属成分としては、例えば、銅、アンチモン、テルル、鉛、ビスマス等が挙げられる。高い触媒活性を発現させる観点から、触媒に含まれる金属のうち、50質量%以上が貴金属であることが好ましい。
【0027】
触媒は、担体に貴金属を担持した担持触媒、担体を用いない非担持触媒の何れでもよいが、担持触媒の方が触媒と反応液の分離が容易であるので好ましい。担持触媒の場合、担体に対する貴金属を含む金属成分の担持率は、担持前の担体に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
触媒としては、例えば、市販の触媒、酸化状態にある貴金属元素を含有する化合物(以下、貴金属化合物ともいう)を還元することにより製造された触媒等を用いることが出来る。市販の触媒を用いる場合には、触媒と還元剤を接触させることにより活性化させたものを反応に用いることが好ましい。
【0029】
以下、貴金属化合物を還元して触媒を製造する方法について説明する。
【0030】
使用する貴金属化合物は特に限定されないが、貴金属の、塩化物、酸化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、テトラアンミン錯体およびアセチルアセトナト錯体等が好ましく、貴金属の塩化物、酢酸塩、硝酸塩がより好ましい。貴金属以外の金属成分を含む触媒を製造する場合は、対応する金属の塩や酸化物等の金属化合物を併用する。
【0031】
還元処理はこの貴金属化合物を還元剤と接触させることにより行う。還元処理は液相中または気相中のいずれで行ってもよく、特に限定されない。以下では、主に液相中での還元処理について説明する。
【0032】
まず貴金属化合物を溶媒に溶解させた溶液を調製する。溶液の貴金属化合物濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。また、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が特に好ましい。
【0033】
担体に担持された触媒を製造する際は、この溶液に担体を浸漬、または担体にこの溶液を含浸させ(ポアフィリング)、還元剤を加えて貴金属化合物を還元する方法、ポアフィリングした担体から溶媒を蒸発させ、担体に貴金属塩を分散させた触媒前駆体を調製し、次いで還元剤で還元する方法、前記の触媒前駆体を熱処理して貴金属塩の少なくとも一部を貴金属の酸化物とし、次いで還元剤で還元する方法等によって触媒を製造することできる。
【0034】
これらの方法の中でも熱処理して酸化物にした後に還元する方法が好ましい。熱処理を行う場合、熱処理温度は貴金属塩の熱分解温度以上が好ましい。また、800℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。所定の熱処理温度までの昇温速度は特に限定されないが、最終的に得られる貴金属含有触媒における貴金属原子の良好な分散状態を得るため、昇温速度は1℃/分以上が好ましく、また10℃/分以下が好ましい。所定の熱処理温度に達した後の保持時間は貴金属塩が分解される時間であれば特に限定されないが、1時間以上が好ましく、また12時間以下が好ましい。
【0035】
なお、貴金属以外の金属成分を含む触媒を製造する場合に使用する金属化合物の担持方法は特に限定されないが、貴金属化合物を担持する方法と同様に行うことができる。また、金属化合物は、貴金属化合物を担持する前に担持することもでき、貴金属化合物を担持した担持後に担持することもでき、貴金属化合物と同時に担持することもできる。
【0036】
担体は貴金属を担持できるものであれば特に限定されない。例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、マグネシア、カルシア、チタニア、ジルコニア、各種ゼオライト等を挙げる事ができる。本発明では、前述したように、担体に貴金属塩を担持した後にその担体を熱処理する方法が好ましい実施形態として挙げられ、その熱処理条件で燃焼または変質等の生じにくい無機酸化物の担体が好ましい。例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、マグネシア、カルシア、チタニア、ジルコニア、および各種ゼオライト等が好ましい。中でもシリカ、チタニア、ジルコニア、および各種ゼオライトがより好ましい。担体は1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。また、前述したように、固体酸として機能する担体を使用することもできる。
【0037】
担体の比表面積は担体の種類等により好ましい範囲が異なるので一概に言えないが、活性炭の場合、100m2/g以上が好ましく、300m2/g以上がより好ましい。また、5000m2/g以下が好ましく、4000m2/g以下がより好ましい。また、ゼオライトの場合、100m2/g以上が好ましく、200m2/g以上がより好ましい。また、4000m2/g以下が好ましく、3000m2/g以下がより好ましい。担体の比表面積は、小さいほど有用成分がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0038】
貴金属化合物の溶解に用いる溶媒としては、水が好ましいが、貴金属化合物及の溶解性並びに担体を用いた時の担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0039】
用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は1種でも、2種以上を併用することもできる。気相での還元では還元剤として水素が好ましい。また、液相での還元では還元剤としてヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。
【0040】
液相中での還元の際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、還元剤の溶解性並びに担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0041】
液相中での還元の際に還元剤として気体を用いる場合、溶液中への溶解度を挙げる為にオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧することが好ましい。その圧力は0.1MPa以上とすることが好ましく。また1.0MPa以下とすることが好ましい。
【0042】
また、還元剤が液体の場合、貴金属化合物または酸化貴金属の還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、貴金属原子1モルに対して1モル以上とすることが好ましく、また100モル以下とすることが好ましい。
【0043】
還元温度および還元時間は還元剤等により異なるが、還元温度は−5℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。また、150℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。還元時間は0.1時間以上が好ましく、0.25時間以上がより好ましく、0.5時間以上がさらに好ましい。また、4時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、2時間以下がさらに好ましい。
【0044】
還元後、触媒を分離する。この触媒を分離する方法は特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離等の方法を用いることができる。分離された溶媒中の貴金属の有無はヒドラジン等の還元剤を添加することにより簡便に確認できる。また、溶媒中の貴金属の量はICP等の元素分析で定量することができる。分離された触媒は、水あるいは反応に用いる溶媒により洗浄処理することが好ましい。洗浄方法は特に限定されず、種々の方法により行うことができる。また、分離、洗浄された触媒は適宜乾燥される。乾燥方法については特に限定されず、種々の方法により行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の原料および生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。
【0046】
[比較例1]
(触媒調製)
酢酸パラジウム1.1gを酢酸60gに加え80℃で加熱溶解させた酢酸溶液を調製した。担体としてジルコニア粉末(比表面積24m2/g、平均粒径1μm、+4.8<H0)10gを上記酢酸溶液に添加し、エバポレーションを行った。その後、熱処理として、空気中で室温から450℃まで2.5℃/分で昇温し、450℃で3時間保持した後、室温まで降温した。熱処理された粉末に37質量%ホルムアルデヒド水溶液50gに加えた。70℃に加熱し、2時間攪拌保持し、吸引ろ過後純水1000gでろ過洗浄した。さらに窒素流通下100℃で2時間乾燥して、ジルコニア担持パラジウム含有触媒(パラジウム金属の担持率:5質量%)10.5gを得た。
【0047】
(反応評価)
ガス導入口付きオートクレーブ(以下、反応器という)に75質量%t−ブタノール水溶液100g、上記の調製された触媒10.5gおよびラジカルトラップ剤としてp−メトキシフェノールを反応溶媒に対して200ppm入れ、反応器を密閉した。
【0048】
次いで、毎分1000回転にて攪拌を開始し、130℃まで昇温した。昇温完了後、反応器に窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、さらに圧縮空気により内圧4.8MPaまで加圧し反応開始とした。この時点で約35mmolの酸素(約65mmol)が導入された。反応の進行にともない内圧の低下が見られたが、内圧が0.1MPa低下した時点で、純酸素を内圧4.8MPaまで追加した。追加した純酸素は合計0.9MPaであった。この状態で60分間攪拌し反応を終了した。
【0049】
反応終了後、氷浴にて反応器内液を10℃程度まで冷却した。反応器のガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓してガス成分を全て回収した。反応器から反応液の一gを採取し、メンブレンフィルター(孔径:0.5μm)を用いて触媒と反応液を分離した。回収した反応液およびガスに含まれる各成分をガスクロマトグラフィーにより定量した。評価結果は表1に示した。
【0050】
[実施例1]
(触媒調製)
担体として固体酸であるシリカ粉末(比表面積528m2/g、平均粒径58μm、+3.3<H0≦+4.0)を用いたことを除いては、比較例1と同様な操作を行った。これによりシリカ担持パラジウム含有触媒(パラジウム金属の担持率:5.0質量%)10.5gを得た。
【0051】
(反応評価)
上記の触媒10.5gを用いたことを除いては、比較例1と同様にして反応評価を行った。追加した純酸素は合計1.6MPa(約115mmol)であった。結果は表1に示した。
【0052】
[比較例2]
(反応評価)
パラジウムが担持されてないシリカ粉末(比表面積528m2/g、平均粒径58μm、+3.3<H0≦+4.0)10.0gを用いたことを除いては、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応が進行しなかったため、純酸素は追加しなかった。結果は表1に示した。
【0053】
[実施例2]
(触媒調製)
担体として固体酸であるHY型ゼオライト担体(SiO2/Al23(mol比)=110、比表面積736m2/g、平均粒径3.3μm、−8.2<H0≦−5.6)を用いたことを除いては、比較例1と同様な操作を行った。これによりHY型ゼオライト担持パラジウム含有触媒(パラジウム金属の担持率:5質量%)10.5gを得た。
【0054】
(反応評価)
上記の触媒10.5gを用い、反応温度を90℃としたことを除いては、比較例1と同様にして反応評価を行った。追加した純酸素は合計0.8MPa(約58mmol)であった。結果は表1に示した。
【0055】
[実施例3]
(触媒調製)
担体として固体酸であるHY型ゼオライト担体(SiO2/Al23(mol比)=70、比表面積757m2/g、平均粒径2.8μm、−8.2<H0≦−5.6)を用いたことを除いては、比較例1と同様な操作を行った。これによりHY型ゼオライト担持パラジウム含有触媒(パラジウム金属の担持率:5.0質量%)10.5gを得た。
【0056】
(反応評価)
上記の触媒10.5gを用い、反応を50分で終了したことを除いては、比較例1と同様にして反応評価を行った。追加した純酸素は合計0.8MPa(約58mmol)であった。結果は表1に示した。
【0057】
参考例1
(触媒調製)
酢酸パラジウム1.1gと88質量%酢酸水溶液60gを80℃で加熱溶解させた。この溶液を活性炭粉末(比表面積780m2/g、平均粒径30μm)5.0gとともにオートクレーブに仕込み密閉した。毎分500回転にて攪拌を開始し、窒素ガスにより系内を窒素置換した。その後、内液の温度を10℃以下に冷却後、内圧0.5MPaまでプロピレンを導入し、70℃で1時間保持した。1時間後、内液の温度を20℃以下まで冷却し内圧を開放した。得られたスラリーを窒素気流下にて吸引ろ過後、純水1000gでろ過洗浄した。さらに窒素流通下100℃で2時間乾燥して、活性炭担持パラジウム含有触媒(パラジウム金属の担持率:10質量%)5.5gを得た。
【0058】
(反応評価)
75質量%アセトン水溶液100g、t−ブタノール6g、Amberlyst−15乾燥品3g(オルガノ社製商品名、強酸性イオン交換樹脂、官能基;−SO3H、H0≦−8.2)、上記の調製された触媒5.5gおよびラジカルトラップ剤としてp−メトキシフェノールを反応溶媒に対して200ppm入れ、反応器を密閉した。その後の操作は、反応温度を90℃とし、反応を50分で終了したことを除いては、比較例1と同様とした。追加した純酸素は合計0.6MPa(約43mmol)であった。結果は表1に示した。
【0059】
参考例2
(反応評価)
参考例1で使用した75質量%アセトン水溶液100gおよびt−ブタノール6gを、75質量%t−ブタノール水溶液100gに変えたことを除いては、参考例1と同様にして反応評価を行った。追加した純酸素は合計1.4MPa(約100mmol)であった。結果は表1に示した。
【0060】
[比較例3]
(反応評価)
Amberlyst−15乾燥品(オルガノ社製商品名)を用いなかったことを除いては、参考例2と同様にして反応評価を行った。反応が進行しなかったため純酸素は追加しなかった。結果は表1に示した。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールからα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法であって、液相中、分子状酸素、およびハメットの酸度関数が+4.8以下の固体酸を担体とする貴金属含有担持媒の存在下で、貴金属含有担持触媒が懸濁された状態の同一容器内にて反応温度50〜250℃、反応圧力2〜7MPaでアルコールを脱水及び酸化するα,β−不飽和アルデヒドおよび/またはα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−116846(P2012−116846A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10906(P2012−10906)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【分割の表示】特願2005−354978(P2005−354978)の分割
【原出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】