β−L−アラビノピラノシダーゼ
【課題】本発明は、細菌等による大量生産が可能な、β−L−アラビノピラノシダーゼの提供を目的とする。
【解決手段】本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、単量体であり、活性の至適pHが3以上かつ5以下の範囲であり、前記活性の至適温度が30℃以上かつ50℃以下の範囲であり、SDS−PAGE測定による分子量が40kDa以上かつ71kDa以下の範囲であることを特徴とする。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、形質転換体による大量生産が可能であり、アラビノガラクタン等の糖類に作用させることにより、アラビノースおよびアラビノースを含む糖類を製造することが可能である。
【解決手段】本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、単量体であり、活性の至適pHが3以上かつ5以下の範囲であり、前記活性の至適温度が30℃以上かつ50℃以下の範囲であり、SDS−PAGE測定による分子量が40kDa以上かつ71kDa以下の範囲であることを特徴とする。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、形質転換体による大量生産が可能であり、アラビノガラクタン等の糖類に作用させることにより、アラビノースおよびアラビノースを含む糖類を製造することが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−L−アラビノピラノシダーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
アラビノースは、五炭糖およびアルドースに分類される単糖であり、植物の細胞壁を構成するヘミセルロース中に、アラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン等の多糖類の構成糖として存在している。例えば、前記アラビナンは、アラビノースがα1,5結合した多糖であり、テンサイ(Beta vulgaris var.saccharifera)の根の搾りかすであるシュガービートパルプ等の構成成分である。また、前記アラビノガラクタンは、アラビノースとガラクトースが結合した多糖であり、アラビアゴムノキ(Acacia senegal)から採取されるアカシアガム、カラマツ属(Larix)の樹木から採取されるカラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等がある。前記アカシアガムやカラマツアラビノガラクタンは、菓子やアイスクリームなどの食品の乳化剤や、医薬品・化粧品・日用品の安定剤などとして幅広く使用されている。また、前記シュガービートパルプは、飼料等に利用されている。
【0003】
一方で、アラビノースは、ヒトの消化管のスクラーゼ活性を阻害することから、ショ糖と同時摂取時に、血糖上昇を緩和する作用が知られている。そのため、血糖上昇を緩和するための健康食品や甘味料等の配合原料として注目されている。そこで、アラビノースを含有する天然物に酵素を作用させてアラビノースを製造する方法(例えば、特許文献1)や、前記天然物からアラビノースを遊離させる酵素(例えば、特許文献2)が開発されている。
【0004】
前記アラビノースを遊離させる酵素は、その分解様式により、α−L−アラビノフラノシダーゼ、α−L−アラビノピラノシダーゼ、β−L−アラビノピラノシダーゼ、α−L−アラビナナーゼ、α−1,5−L−アラビナナーゼに分類される。前記アラビナン分解酵素のうち、例えば、前記α−L−アラビノフラノシダーゼは、植物や細菌における存在が数多く報告され(例えば、特許文献3)、木材パルプの脱リグニン化への利用等(例えば、特許文献3)、バイオマスの有効利用に応用されている。一方、β−L−アラビノピラノシダーゼは、前記アカシアガムやカラマツアラビノガラクタンを原料としたオリゴ糖生産における有用酵素としての利用や、食品中細菌汚染検出方法での利用(例えば、特許文献4)が報告されている。しかしながら、前記β−L−アラビノピラノシダーゼは、キマメ(Cajanus cajan)の種子やサトイモ乾腐病菌(Fusarium oxysporum)由来のもの(非特許文献1〜3)が報告されている程度であり、その種類は極めて少なく、例えば、原核生物由来のものは確認されていない。また、β−L−アラビノピラノシダーゼのアミノ酸配列や、その遺伝子の塩基配列は明らかにされておらず、そのため、遺伝子工学的手法による、β−L−アラビノピラノシダーゼの大量生産技術は確立されていない。したがって、β−L−アラビノピラノシダーゼは、産業利用が期待されているものの、実用化が困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−50996号公報
【特許文献2】特開2004−248630号公報
【特許文献3】特表平7−508162号公報
【特許文献4】特表平11−506926号公報
【非特許文献1】P.M.Dey、“β−L−Arabinosidase from Cajanus indicus:a new enzyme”、Biochimica et Biophysica Acta(1973)302、p.393−398
【非特許文献2】P.M.Dey、“Further characterization of β−L−Arabinosidase from Cajanus indicus”、Biochimica et Biophysica Acta(1983)746、p.8−13
【非特許文献3】辻谷祐也他3名、“Fusarium oxysporum12s株の生産する2種のβ−L−アラビノピラノシダーゼ”、2006年、日本応用糖質科学会平成18年度大会要旨集、p.37
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、大量生産が可能なβ−L−アラビノピラノシダーゼの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、単量体であり、活性の至適pHが3以上かつ5以下の範囲であり、前記活性の至適温度が30℃以上かつ50℃以下の範囲であり、SDS−PAGE測定による分子量が40kDa以上かつ71kDa以下の範囲であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、下記(a)から(c)のいずれかに記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼであってもよい。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アラビノピラノシダーゼの工業的使用を先駆的に達成し得る。さらに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは微生物由来であるため、より工業的観点からの大量生産も可能であり、大量使用または消費に対する供給耐久性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、ストレプトミセス属(Streptomyces)の菌体に由来するものであってもよい。前記ストレプトミセス属の菌体としては、例えば、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)の菌体等がある。前記ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)の菌体としては、例えば、MA−4680株がある。前記MA−4680株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門(NBRC)に、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis) MA−4680(NBRC番号:14893)として寄託されている。
【0011】
本発明の前記(b)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼにおいて、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸残基の数は、例えば、数個、好ましくは、1個以上かつ7個以下の範囲の数、より好ましくは、2個以上かつ4個以下の範囲の数である。
【0012】
本発明の前記(c)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼにおいて、配列番号1に対する相同性は、1つの局面では好ましくは60%以上、他の局面では好ましくは70%以上、また別の局面では好ましくは75%以上、さらに別の局面では好ましくは80%以上、さらに別の局面では好ましくは85%以上、さらに別の局面では好ましくは90%以上、あるいはさらに別の局面では好ましくは95%以上である。相同性のアルゴリズムとしては、例えば、BLASTが挙げられる(以下、同様)。
【0013】
つぎに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、下記(d)から(f)のいずれかに記載の遺伝子である。なお、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、下記(d)から(f)に記載の塩基配列と相補配列からなる遺伝子を含む。
(d)配列番号2に記載の塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(e)配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が、置換、付加、挿入もしくは欠失した塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(f)配列番号2に記載の塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
【0014】
本発明の前記(e)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子において、置換、付加、挿入もしくは欠失した塩基の数は、例えば、数個の範囲、好ましくは、1個以上かつ7個以下の範囲、より好ましくは、2個以上かつ4個以下の範囲である。
【0015】
本発明の前記(f)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子において、配列番号2に対する相同性は、1つの局面では好ましくは60%以上、他の局面では好ましくは70%以上、また別の局面では好ましくは75%以上、さらに別の局面では好ましくは80%以上、さらに別の局面では好ましくは85%以上、さらに別の局面では好ましくは90%以上、あるいはさらに別の局面では好ましくは95%以上である。
【0016】
本発明のベクターは、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を含有するベクターである。
【0017】
本発明の形質転換体は、本発明のベクターを含む形質転換体である。
【0018】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第一の製造方法は、本発明の形質転換体を培養する工程を含む製造方法である。
【0019】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第二の製造方法は、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)を培養する工程を含む製造方法である。なお、本発明において、アラビノース残基としては、特に制限されないが、例えば、アラビノピラノース残基、アラビノフラノース残基等が挙げられ、好ましくは、アラビノピラノース残基である。
【0020】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法は、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、前記細胞を培養する工程と、前記細胞が産生する物質のβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のアラビノースの製造方法は、アラビノース残基を含む糖類に対し、β−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させる製造方法であって、前記β−L−アラビノピラノシダーゼとして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを使用することを特徴とする。
【0022】
本発明の糖転移方法は、アラビノース残基を含む糖類から糖受容体に、アラビノース残基を転移させる糖転移方法であって、前記糖転移を触媒する酵素として、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを用いることを特徴とする。本発明の糖転移方法において、前記糖受容体としては、糖類またはアルコール類が好ましい。本発明の糖転移方法において、前記糖類としては、D−ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロースおよびL−アラビノースからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。本発明の糖転移方法において、前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび1−ブタノールからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。
【0023】
本発明の糖類の製造方法は、アラビノース残基を含む糖類の製造方法であって、本発明の糖転移方法を用いることを特徴とする。
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0025】
(A)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ
(A−1)作用特性
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を有する酵素であり、具体的には、糖類に含まれるβ−L−アラビノピラノース残基を加水分解して、アラビノースを遊離する酵素である。前記糖類としては、特に限定されないが、例えば、アカシアガム(Gum arabic)、カラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等が挙げられる。なお、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、他の酵素活性を有していてもよい。前記他の酵素活性としては、特に限定されず、例えば、糖供与体から糖受容体へ糖を転移させる糖転移酵素活性等が挙げられる。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記糖転移酵素活性により、例えば、前述のように、アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)から糖受容体へ、アラビノースを転移させることができる。
【0026】
(A−2)分子量
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの分子量の範囲は、例えば、SDS−PAGE法を用いた測定において、40kDa以上、好ましくは61kDa以上、より好ましくは64kDa以上の下限を有し、かつ71kDa以下、好ましくは68kDa以下、より好ましくは66kDa以下の上限を有する。前記分子量の具体的な範囲の例を、下記表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、天然型タンパク質および組換え型タンパク質のいずれであってもよい。SDS−PAGE法を用いた測定において、本発明の天然型タンパク質の分子量は、例えば、64kDaであってもよく、本発明の組換え型タンパク質の分子量は、例えば、65kDaであってもよい。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、例えば、理論値として64265Daであってもよい。本発明の天然型および組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、前述の分子量の範囲であればよく、前記分子量に限定されない。
【0029】
(A−3)酵素活性を示すpH範囲
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼがアラビノース遊離活性および糖転移活性を示すpH範囲は、温度37℃の条件下では、例えば、pH2以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ7.5以下の範囲である。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約50%以上の酵素活性値を示すpH範囲は、前記温度条件下では、例えば、pH2以上かつ7以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ6以下の範囲である。そして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記両酵素活性の至適pHは、前記温度条件下では、例えば、pH3以上かつ5以下の範囲にあり、好ましくは、pH3.5以上かつ4.5以下の範囲にある。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記アラビノース遊離活性の至適pHは、前記温度条件下で、より好ましくは、pH4である。さらに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約90%以上の残存活性値を示すpH範囲は、温度30℃の条件下において、例えば、pH3以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH4以上かつ8以下の範囲である。
【0030】
(A−4)酵素活性を示す温度範囲
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが前記両酵素活性を示す温度範囲は、pH4.0の条件下では、例えば、10℃以上かつ70℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ60℃以下の範囲である。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約40%以上の酵素活性値を示す温度範囲は、前記pH条件下では、例えば、10℃以上かつ60℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ50℃以下の範囲である。そして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記両酵素活性の至適温度は、前記pH条件下で、例えば、30℃以上かつ50℃以下の範囲にあり、好ましくは、35℃以上かつ45℃以下の範囲にある。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記アラビノース遊離活性の至適温度は、前記pH条件下で、より好ましくは、40℃である。さらに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約80%以上の残存活性値を示す温度範囲は、pH4.0の条件下において、例えば、60℃以下であり、好ましくは、45℃以下であり、より好ましくは、20℃以上かつ45℃以下の範囲である。
【0031】
(A−5)比活性
前記アラビノース遊離活性について、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの比活性は、特に限定されず、例えば、前記MA−4680株由来の組換え型タンパク質の場合は、18units/mgである。なお、前記比活性とは、PNP−β−L−アラビノピラノシドから、1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとした、酵素活性比を表す数値である。
【0032】
(A−6)アミノ酸配列
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのアミノ酸配列は、前記(a)から(c)のいずれかに記載の配列である。
【0033】
(A−7)既知のβ−L−アラビノピラノシダーゼとの物性比較
前述のように、これまでに、キマメ(Cajanus cajan)の種子やサトイモ乾腐病菌(Fusarium oxysporum)において、β−L−アラビノピラノシダーゼの産生が報告されている。表2は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの一実施例と、前記キマメ種子由来β−L−アラビノピラノシダーゼおよび前記ヤマイモ乾腐菌由来β−L−アラビノピラノシダーゼとの物性等を比較したものである。なお、同表中の安定pHとは、約90%以上の残存活性値を示すpH範囲であり、安定温度とは、約90%以上の残存活性値を示す温度範囲である。同表に例示するように、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、分子量、比活性、至適pH、安定pH、至適温度について、前記既知の2つのβ−L−アラビノピラノシダーゼとは全く異なる新規酵素である。
【0034】
【表2】
【0035】
(A−8)産生細胞
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、例えば、細胞等から産生されてもよい。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する前記細胞としては、特に限定されず、例えば、大腸菌、酵母、糸状菌、放線菌等の微生物、植物および動物等由来の細胞等が挙げられる。前記微生物としては、特に限定されないが、例えば、前記ストレプトミセス属(Streptomyces)の微生物等が挙げられる。前記細胞は、例えば、天然型β−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞であってもよく、後述する、組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼを産生する宿主細胞であってもよく、特に制限されない。
【0036】
(B)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、前記(d)から(f)のいずれかに記載の遺伝子である。なお、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、前記(d)から(f)に記載の塩基配列と相補配列からなる遺伝子を含む。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、例えば、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのアミノ酸配列のみをコードするものでもよいし、種々のタンパク質やペプチド等との融合タンパク質をコードするものでもよい。前記融合させるタンパク質やペプチド等は、特に限定されず、例えば、タンパク質精製の手順の簡略化や低廉化、安定性の向上や可溶化等を目的とした、マルトース結合タンパク質、ヒスチジンタグやGSTタンパク質等でもよい。
【0037】
(C)本発明のベクター
本発明のベクターは、前述のように、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を含有する。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を挿入するためのベクターとしては、宿主細胞中で複製可能であれば特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、放線菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージ等が挙げられ、具体的には、例えば、pIJ702、pACYC177、pACYC184、pBluescript、pBR322、pHSG367、pNUT4、pTrc99A、pUC19、pUB110、YEp13、λgt10、後述する接合型放線菌プラスミドpTONA4等が挙げられる。前記ベクターに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を挿入する方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を適宜採用できる。前記遺伝子の挿入方法としては、具体的には、例えば、前記遺伝子の精製DNAを、適当な制限酵素で切断後、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入し、ベクターに連結する方法等が挙げられる。
【0038】
また、本発明のベクターは、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を発現し得るものであればよく、前記遺伝子以外の構造は限定されない。前記β−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子以外の構造としては、例えば、発現を制御する塩基配列や形質転換体を選択するための遺伝子マーカー等が挙げられる。前記発現を制御する塩基配列としては、特に制限されないが、例えば、プロモーター、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等が挙げられる。前記遺伝子マーカーとしては、特に制限されないが、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0039】
(D)本発明の形質転換体
本発明の形質転換体は、前述のように、本発明のベクターを含む。本発明の形質転換体は、例えば、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を発現可能なベクターを、宿主細胞に導入して得られる。前記宿主細胞としては、導入するベクターに応じて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、放線菌、大腸菌、酵母、糸状菌、酵母、COS細胞、CHO細胞、Sf9細胞等の細胞が挙げられ、好ましくは、放線菌である。前記放線菌としては、特に制限されないが、例えば、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)等が挙げられる。本発明の形質転換体への前記ベクターの導入方法としては、特に制限されず、例えば、エレクトロポレーション法、プロトプラスト−PEG法、アグロバクテリウム法、Li法、Biolistic法、パーティクル・ガン法等の従来公知の方法を適宜用いることができる。
【0040】
(E)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第一の製造方法は、前述のように、本発明の形質転換体を培養する工程を含む。前記第一の製造方法において、前記培養工程としては、特に制限されず、培養する形質転換体に応じて、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。前記第一の製造方法は、前記培養工程を含むこと以外には特に制限されず、例えば、他の工程を含んでもよい。前記第一の製造方法において、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記培養工程により得られた培養物から精製して採取できる。前記培養物としては、特に制限されないが、例えば、培養上清、培養細胞、細胞抽出物等が挙げられる。また、前記培養物は、前記培養上清、培養細胞、細胞抽出物等の処理物であってもよい。前記処理物としては、特に限定されないが、例えば、前記培養物の濃縮物、乾燥物、凍結乾燥物、溶媒処理物、界面活性剤処理物、酵素処理物、タンパク質分画物、超音波処理物、磨砕処理物等が挙げられる。さらに、前記培養物は、前記培養上清、前記培養細胞、前記細胞抽出物、これらの前記処理物等の混合物でもよい。前記混合物としては、任意の組み合わせおよび比率で混合することができ、特に制限されない。前記培養物の前記精製方法は、例えば、硫安沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の従来公知の方法を採用でき、特に制限されない。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記培養工程により得られた培養物を採取した粗酵素液として製造してもよい。
【0041】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第二の製造方法は、前述のように、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)を培養する工程を含む。前記第二の製造方法は、前記培養工程を含むこと以外には、特に制限されず、他の工程を含んでもよい。前記第二の製造方法において、前記培養工程において使用する培地としては、前記アラビノース残基を含む糖類を含むこと以外に特に制限されず、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)の培養に適した培地を適宜採用できる。前記糖類としては、アラビノース残基を含む糖類であれば特に制限されないが、例えば、アカシアガム(Gum arabic)、カラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等が挙げられる。前記培養工程における培養温度およびpH条件は、特に制限されないが、例えば、前述の至適温度および至適pHの範囲が好ましい。前記第二の製造方法において、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記培養工程により得られた培養物から精製して採取できる。前記培養物としては、特に制限されず、例えば、前述の培養物等が挙げられる。前記培養物の前記精製方法は、前記第一の製造方法と同様に、従来公知の方法を採用でき、特に制限されない。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記第一の製造方法と同様に、前記培養工程により得られた培養物を採取した粗酵素液として製造してもよい。
【0042】
(F)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法は、前述のように、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、前記細胞を培養する工程と、前記細胞が産生する物質のβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程とを含む。前記スクリーニング方法は、前記両工程を含むこと以外には、特に制限されず、例えば、他の工程を含んでもよい。前記培養工程において、前記培地としては、アラビノース残基を含む糖類を含むこと以外は特に制限されず、培養する細胞等に応じて適宜選択できる。前記アラビノース残基を含む糖類としては、アラビノース残基を含むこと以外は特に制限されず、例えば、前述のアカシアガム(Gum arabic)、カラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等が挙げられる。スクリーニングの対象となる前記細胞としては、特に限定されず、例えば、微生物、植物、動物等の細胞を適宜用いることができる。前記細胞培養は、培養する前記細胞等に応じて、例えば、従来公知の方法を用いて実施できる。また、前記β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程としては、特に制限されないが、例えば、アラビノピラノシド基に発色基を結合させた物質を基質とし、前記基質に、前記細胞の培養上清を作用させ、遊離した前記発色基の発色量を測定し、前記発色量から、酵素活性値を算出してもよい。前記発色基としては、特に制限されないが、例えば、4−ニトロフェニル基(PNP基)、2−クロロ−4−ニトロフェニル基(CNP基)等が挙げられる。
【0043】
(G)本発明のアラビノースの製造方法
本発明のアラビノースの製造方法は、前述のように、アラビノース残基を含む糖類に対し、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させる。前記アラビノース残基を含む糖類としては、特に限定されず、例えば、アカシアガム、カラマツアラビノガラクタン、ビートファイバー、ビートパルプ、オレンジファイバー等が挙げられる。また、本発明のアラビノースの製造方法は、例えば、他の糖分解酵素を適宜併用してもよい。前記他の糖分解酵素としては、特に制限されないが、例えば、α−L−アラビノフラノシダーゼ、α−L−アラビナナーゼ、α−1,5−L−アラビナナーゼ、α−L−アラビノピラノシダーゼ等のアラビナン分解酵素や、エキソ−β−1,3−ガラクタナーゼ、エンド−β−1,6−ガラクタナーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、α−L−ラムノシダーゼ等を用いることができる。本発明のアラビノースの製造方法において、例えば、タイプIIアラビノガラクタン鎖を含有する糖類に対し、エキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを併用した場合には、前記アラビノース以外に、例えば、β−1,6−ガラクトビオース、β−1,6−ガラクトトリオース等のガラクトオリゴ糖を製造することができる。また、本発明のアラビノースの製造方法において、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させる工程としては、特に制限されないが、例えば、前記アラビノースを含む糖類を溶解した緩衝液に、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを加えて、所定pHおよび所定温度条件下で所定時間反応させてもよい。前記緩衝液としては、特に制限されず、例えば、McIlvaine buffer、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液等を用いることができる。前記反応時のpH条件としては、特に限定されないが、温度37℃の条件下では、例えば、pH2以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ7.5以下の範囲であり、より好ましくは、pH4.0である。また、前記反応時の温度条件としては、特に制限されないが、例えば、pH4.0の条件下では、例えば、10℃以上かつ70℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ60℃以下の範囲であり、より好ましくは、40℃である。また、本発明のアラビノースの製造方法は、例えば、前記反応工程以外に、他の工程を有していてもよく、特に制限されない。前記他の工程としては、特に限定されず、例えば、従来公知の工程等を適宜採用できる。
【0044】
(H)本発明の糖転移方法
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前述のように、アラビノピラノシダーゼ活性に加えて、他の酵素活性として、糖転移酵素活性を有してもよい。そこで、本発明の糖転移方法においては、前記糖転移の触媒酵素として本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを用いて、アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)から、糖受容体に、アラビノース残基を転移させる。前記アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としては、特に限定されないが、例えば、アラビノースや、アラビノース残基を含むオリゴ糖、多糖、糖アルコール、アミノ糖、糖ペプチド、糖脂質等が挙げられる。本発明の糖転移方法において、前記糖供与体としては、一種以上であればよく、例えば、二種以上を併用してもよく、特に制限されない。また、前記糖受容体としては、特に制限されないが、例えば、糖類、アルコール類、アミノ酸、脂質、タンパク質等が挙げられる。前記糖受容体である前記糖類としては、特に限定されないが、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、アミノ糖、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質等が挙げられる。前記糖受容体である前記糖類としては、具体的には、例えば、D−ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロース、L−アラビノースが好ましい。前記糖受容体である前記アルコール類としては、特に限定されず、例えば、一級アルコール、二級アルコール、三級アルコール等が挙げられる。前記アルコール類としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールが好ましい。本発明の糖転移方法において、前記糖受容体は、一種以上であればよく、例えば、二種以上を併用してもよく、特に制限されない。本発明の糖転移方法としては、例えば、前記糖供与体および前記糖受容体を溶解させた緩衝液中に、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを加えて、前記酵素が糖転移酵素活性を示す温度およびpH条件下で反応させてもよく、特に制限されない。前記緩衝液としては、特に限定されず、例えば、前述の緩衝液等を用いることができる。前記糖転移酵素活性を示すpH条件としては、特に限定されないが、温度37℃の条件下では、例えば、pH2以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ7.5以下の範囲である。また、前記糖転移酵素活性を示す温度条件としては、特に制限されないが、例えば、pH4.0の条件下では、例えば、10℃以上かつ70℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ60℃以下の範囲である。
【0045】
(I)本発明のアラビノース残基を含む糖類の製造方法
本発明のアラビノース残基を含む糖類の製造方法は、前述のように、本発明の糖転移方法を用いる。前記アラビノース残基を含む糖類としては、アラビノース残基を含むこと以外は特に制限されず、例えば、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、糖脂質、糖タンパク質、配糖体、ヌクレオシド、ヌクレオチド等が挙げられ、好ましくは、オリゴ糖、多糖、糖アルコールである。前記製造方法は、本発明の糖転移方法を用いること以外は、特に制限されず、例えば、さらに他の方法を組み合わせてもよい。前記他の方法としては、例えば、糖類の製造方法における従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、加水分解方法、酵素分解方法、加熱方法等が挙げられ、特に制限されない。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの産生)
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis) MA−4680(NBRC番号:14893)株を以下のようにして培養し、その培養上清から回収した。まず、下記組成のアカシアガム含有寒天培地に前記MA−4680の菌体をストリークし、30℃で培養後、下記組成の液体培地に植菌し、28℃で前培養(回転培養)した。前培養により得られた菌体懸濁液を前記液体培地に植菌し、28℃で回転培養した。培養6日目に培養液を回収し、濾紙で濾過して菌体を除去し、得られた培養上清を粗酵素液とした。
【0048】
(アカシアガム含有寒天培地)
成分 濃度(w/v%)
アカシアガム(Gum arabic) 1.0
KH2PO4 0.5
MgSO4・7水和物 0.05
ペプトン 0.1
酵母エキス 0.1
agar 2.0
精製水 96.25
【0049】
(液体培地)
成分 濃度(w/v%)
アカシアガム(Gum arabic) 1.0
KH2PO4 0.5
MgSO4・7水和物 0.05
ペプトン 0.1
酵母エキス 0.1
精製水 98.25
【0050】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの活性測定)
下記表3に示す酵素基質を用いて、以下のようにして、前記酵素基質から遊離したPNP基を定量し、前記粗酵素液の酵素活性を測定した。まず、2mmol/L各酵素基質25μLおよびMcIlvaine buffer(0.1mol/L クエン酸溶液および0.2mol/L リン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)20μLに、前記粗酵素液5μLを加え、37℃で10分間反応させた。反応開始10分後、この反応液に、さらに0.2mol/L 炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から、1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとした比活性(units/mg protein)を算出した。
【0051】
図1のグラフに、前記粗酵素液を用い、各種酵素活性を測定した結果を示す。同グラフにおいて、横軸は用いた前記酵素基質であり、縦軸は前記比活性(Units/L)である。なお、下記表3の左欄に、同グラフの横軸に略称で記載した各酵素基質を示し、同表の右欄にその和文名称を示す。同図に示すように、前記粗酵素液に、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性が認められた。また、前記粗酵素液には、前記β−L−アラビノピラノシダーゼ活性に比べて比活性値は低いものの、他に、α−L−アラビノフラノシダーゼ活性およびα−D−ガラクトピラノシダーゼ活性が認められた。
【0052】
(酵素基質)
【表3】
【0053】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの精製)
つぎに、前記粗酵素液を、以下のようにして精製した。まず、前記粗酵素液を、Biomax(分子量10000以下カット、Millipore社製)を用いて限外ろ過し、10倍に濃縮した。濃縮した前記粗酵素液に、硫酸アンモニウムを70%飽和まで加え、さらに、4℃で一晩静置し、タンパク質を沈殿させた。前記沈殿を、遠心分離により回収し、得られた回収物を2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解後、前記緩衝液を用いて4℃で1日間透析し、硫安沈殿後の粗酵素液を得た。
【0054】
前記硫安沈殿後の粗酵素液を、2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)で洗浄後、商品名「SP−Sepharose Fast Flow」カラム(GE Healthcare社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、吸着したタンパク質を0−1mol/Lの濃度勾配の塩化ナトリウムにより溶出させ、活性のあるフラクションを回収した。回収したフラクションを、商品名「シームレスセルロースチューブ、小サイズ30」(和光純薬工業株式会社製)を用いて、2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)で透析した。前記透析した溶液を、2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)で洗浄後、商品名「Mono S」カラム(GE Healthcare社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、吸着したタンパク質を0−0.5mol/Lの濃度勾配の塩化ナトリウムにより溶出させ、活性のあるフラクションを回収した。なお、前記イオン交換クロマトグラフィーには、下記商品名の機器を用いた。
【0055】
(イオン交換クロマトグラフィー機器名)
【0056】
前記各精製ステップにおいて得られた前記フラクションについて、前記天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの活性測定方法と同様にして、酵素活性を測定した。下記表4に、各精製ステップにおいて得られた回収液量、総蛋白質量、溶液中に含まれる総β−L−アラビノピラノシダーゼ活性、比活性、精製度および収率を示す。精製の結果、21units/mgのβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を有する天然型β−L−アラビノピラノシダーゼを得た。
【0057】
【表4】
【0058】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量)
前記「Mono S」カラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより得られた活性フラクションを、SDS−PAGE法により電気泳動し、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量を決定した。図2に、前記天然型β−L−アラビノピラノシダーゼをSDS−PAGE法により電気泳動したゲルの写真を示す。レーン1は、分子量マーカー(BIO−RAD Low Marker、各1μg)の泳動結果であり、レーン2は、本例で得られた精製β−L−アラビノピラノシダーゼ(Mono S後活性フラクション)の泳動結果である。同図中の矢印で指し示すように、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、64kDaであった。
【0059】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列の決定)
本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列を、プロテインシークエンサー(商品名「プロテインシークエンサーG105A型」、ヒューレットパッカード社製)を用いて、以下のようにして決定した。まず、前記SDS−PAGE後のゲル中のタンパク質を、商品名「トランスブロットSDセル」(BIO−RAD社製)を用いて、トランスファーメンブレン(商品名「Immobilon−PSQ」、Millipore社製)にブロッティングした。この膜を、0.1%CBB染色液(商品名「CBB−R250」)で染色後、前記矢印で指し示したタンパク質がブロットされた部分を切り出した。前記切り出した膜を用い、前記プロテインシークエンサーのプロトコールに従い、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列を決定した。その結果、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列は、配列番号3に示されるアミノ酸配列であることが明らかになった。
【0060】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのゲノム塩基配列の決定)
まず、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号3)を用いて、既知のStreptomyces avermitilis MA−4680(NBRC番号:14893)株のゲノム情報に対してBLAST検索を行った。その結果、前記N末端アミノ酸配列は、SAV2186(配列番号4)に該当した。そこで、前記SAV2186の情報を基に、フォワードプライマー(配列番号5)およびリバースプライマー(配列番号6)を合成した。また、商品名「InstaGene(商標)Matrix」(BIO−RAD社製)を用いて、Streptomyces avermitilis MA−4680(NBRC番号:14893)株からゲノムDNAを単離した。前記2つのプライマーを用いて、前記ゲノムDNAを鋳型としたPCR反応を行った。なお、前記PCR反応は、商品名「Phusion DNA Polymerase」(FINNZYMES社製)を用い、1サイクル(98℃で10秒間、58℃で10秒間、72℃で2分間を順に行う)を35サイクル行った。前記PCR反応により得られたPCR断片を、アガロースゲルを用いて電気泳動した結果、1986bpの長さを示すバンドを得た。前記PCR断片を、商品名「pGEM−T Easy Vector System」(PROMEGA社製)を用いてクローニングし、DNAシークエンサー(商品名「ABI PRISM 310 Genetic Analyzer」、Applied Biosystems社製)で分析し、塩基配列を決定した。その結果、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼのゲノム塩基配列は、配列番号2に示す塩基配列からなることが明らかになった。また、この配列情報から、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、分泌シグナル配列(アミノ酸番号1〜44番目)、糖質加水分解酵素ファミリー27(GH27)に属する触媒モジュール、糖結合モジュールファミリー13(CBM13)に属する糖結合モジュールからなることが明らかになった。なお、前記SAV2186(配列番号4)は、従来、分泌型α−ガラクトシダーゼと推定されている配列部分であった。したがって、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を有する本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、従来の知見とは異なる、特異的な酵素特性を有することが明らかになった。
【0061】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの発現)
本例では、以下のようにして、接合型放線菌プラスミドpTONA4を調製し、前記PCR断片を前記プラスミドpTONA4に導入し、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)1326株(NBRC番号:15675)に発現させ、組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼを得た。
【0062】
(1)プラスミドpBSaphIIの作製
まず、pBluescript ll KS(一)(TOYOBO社製)を鋳型にして、プライマー1(配列番号7)、プライマー2(配列番号8)およびKOD plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用いて、大腸菌JM109のori(0.6kb)を、PCRにより増幅させた。なお、前記PCRは、1サイクル(94℃で2分、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分を順に行う)を30サイクル繰り返した後、4℃に冷却して行った。
【0063】
つぎに、大腸菌−放線菌カナマイシン耐性遺伝子aphII(1.3kb)を、PCRにより増幅させた。なお、前記PCRは、鋳型に参考文献(尾仲ら、J.Antibiotics、56巻、950−956頁、2003年)記載のpTYM18を用い、プライマーにプライマー3(配列番号9)およびプライマー4(配列番号10)を用いたこと以外は、前記oriと同様にして行った。
【0064】
得られた前記oriおよび前記aphIIの断片を、それぞれ、制限酵素SsplおよびPstlで処理し、2つの断片を互いにライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。前記大腸菌を、50μg/mLカナマイシンを含むLB培地(1%NaCl、1%ポリペブトンおよび0.5%酵母エキス)を用いて37℃で培養した。カナマイシンを選択マーカーにして、前記大腸菌から、前記ライゲーションした断片を含むプラスミドpBSaphIIを得た。
【0065】
(2)プラスミドpIJE702の作製
得られた前記pBSaphIIおよび参考文献(Molnarら、J.Ferment.Bioeng.、72巻、368−372頁、1991年)記載のpIJ702を、それぞれ制限酵素Pstlで処理し、2つの断片をライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。前記大腸菌を、前記pBSaphIIを発現させた大腸菌と同様にして培養した。カナマイシンを選択マーカーに用いて、前記大腸菌から、前記ライゲーションした断片を含むプラスミドpIJE702を得た。
【0066】
(3)プラスミドpIJEC´702の作製
oriT(0.8kB)を、PCRにより増幅させた。なお、前記PCRは、鋳型にpTYM18を用い、プライマーにプライマー5(配列番号11)およびプライマー6(配列番号12)を用いたこと以外は、前記oriと同様にして行った。得られた前記oriTの断片を、制限酵素HinclIおよびSmalで処理した。また、前記pIJE702を、制限酵素sspIで処理した。得られた2つの断片を互いにライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。前記大腸菌を、前記pBSaphIIを発現させた大腸菌と同様にして培養した。カナマイシンを選択マーカーに用い、前記大腸菌から、前記ライゲーションした断片を含むプラスミドpIJEC702を得た。そして、QuikChange II Kit(Stratagene社製)、プライマー7(配列番号13)およびプライマー8(配列番号14)を用いたサイレント変異により、前記pIJEC702のNdel部位を欠失させ、pIJEC´702を得た。
【0067】
(4)プラスミドpTONA4の作製
Streptomyces cinnamoneu IFO12852株のゲノムDNAから、サイトウ・ミウラ法(サイトウら、Biochem. Biophys. Acta.、72巻、619−629頁、1963年)を用いて、PLDプロモーター(PLDp、0.3kB)およびPLDターミネーター(PLDt、0.2kB)を調製した。
【0068】
前記PLDプロモーターを、鋳型にStreptomyces cinnamoneu IFO12852株のゲノムDNAを用い、プライマーにプライマー9(配列番号15)およびプライマー10(配列番号16)を用いたこと以外は前記oriと同様にして、PCRにより増幅させた。前記PLDターミネーターを、プライマーにプライマー11(配列番号17)およびプライマー12(配列番号18)を用いたこと以外は前記PLDプロモーターと同様にして、PCRにより増幅させた。
【0069】
得られた前記PLDプロモーター断片を、制限酵素AselおよびEcoRIで処理し、前記PLDターミネーター断片を、EcoRlおよびBglllで処理し、前記pIJEC´702を、制限酵素AseIおよびBglIIで処理した。得られた3つの断片を、ライゲーションした後、大腸菌JM109に導入し、前述と同様にして培養した。前記大腸菌JM109から、カナマイシンを選択マーカーにして、ライゲーションした断片を含むプラスミドpTONA4を得た。
【0070】
図3に、得られたプラスミドpTONA4の構成(制限酵素地図)を示す。同図に示すように、前記プラスミドpTONA4は、前記Streptomyces cinnamoneu IFO12852株のpld遺伝子のプロモーター配列(PLDp)およびターミネーター配列(PLDt)を備える発現ベクターである。
【0071】
(5)形質転換体の調製
前記pTONA4により、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)1326株(NBRC番号:15675)を形質転換させ、本例の形質転換体を得た。前記形質転換体を、500mLバッフルフラスコに入れたTSB培地100mLに植菌し、28℃、回転数150rpmの条件下で回転培養した。培養3日目に培養液を回収し、濾紙でろ過して菌体を除去することにより、粗酵素液を得た。前記粗酵素液に70%飽和硫安を加えて沈殿させ、得られた沈殿を50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、前記リン酸緩衝液で透析後、Lactosyl−Sepharoseカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー法により分離した。なお、前記アフィニティクロマトグラフィー法は、参考文献(S.Ito、A.Kuno、R.Suzuki、S.Kaneko、Y.Kawabata、I.Kusakabe & T.HASEGAWA、“Rational affinity purification of native Streptomyces family 10 xylanase”、Journal of biotechnology、2004年、110、p.137−142)記載の方法により行った。前記透析後の酵素液を、Lactosyl−Sepharoseカラムに供し、流速0.5ml/minの50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)で溶出させ、フラクションに分離した。回収した前記フラクションについて、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定した。そして、前記フラクション中、前記活性を有するフラクションを回収し、50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で透析後、組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液とした。
【0072】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量)
前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液を、SDS−PAGE法を用いて電気泳動した。図4の写真に、前記電気泳動の結果を示す。同図の写真において、レーン1は分子量マーカー(商品名「BIO−RAD Low Marker」、BIO−RAD社製)であり、レーン2は、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼである。本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、約64000Daであり、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量と近似していた。
【0073】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ活性の測定)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの酵素活性を、以下のようにして確認した。まず、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド25μLおよびMcIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)20μLに、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μLを加え、37℃で10分間反応させた。反応開始10分後、この反応液に、さらに0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から、1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとした比活性(units/mg protein)を算出した。その結果、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、アラビノースのβ−L−結合に作用してPNPを遊離させ、その比活性は18units/mgであった。したがって、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素活性を有し、本例のポリヌクレオチドは、β−L−アラビノピラノシダーゼをコードする遺伝子配列であることが確認された。
【0074】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適pH)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適pH範囲を、以下のようにして確認した。まず、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド25μL、所定pH(pH2.6、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、7.6)のMcIlvaine buffer20μLを混合し、37℃で10分間反応させた。反応開始10分後に、さらに0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。前記吸光度から、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性が最大値を示したpHにおける酵素活性値を100としたときの、各pHにおける酵素活性値を算出した。図5のグラフに、前記酵素活性値を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、pHである。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、pH4.0近傍を至適pHとし、pH2.5以上かつ6以下の範囲で、酵素活性値が50%以上となる、高いβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を示した。
【0075】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのpH安定性)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのpH安定性を、以下のようにして確認した。まず、緩衝液として、所定pH(pH1.0、2.0、2.6)のGlycine−HCl buffer、所定pH(pH7.5、8.0)のSodium Phosphate buffer、所定pH(pH8.0、9.0)のTris−HCl buffer、所定pH(pH9.5、10.0、11.0、12.0、13.0)のGlycine−NaOH bufferおよび所定pH(pH2.6、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、7.6)のMcIlvaine bufferを、それぞれ調製した。そして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、前記所定pHの緩衝液40μLおよび1w/v%BSA5μLを混合し、30℃の条件下で1時間インキュベートした。インキュベート終了後、前記処理済み酵素液に、McIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)およびPNP−β−L−アラビノピラノシドを加え、β−L−アラビノピラノシダーゼの残存活性を、前述と同様にして測定した。図6のグラフに、前記測定結果を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、pHである。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、pH4.0以上かつ8.0以下の範囲において、酵素活性値90%以上の、高いpH安定性を示した。
【0076】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適温度)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適温度を、以下のようにして確認した。まず、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド25μL、McIlvaine buffer(pH4.0)20μLを混合し、所定温度条件下(20、30、40、50、60、70、80、90℃)で10分間反応させた。反応開始10分後に、さらに0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。β−L−アラビノピラノシダーゼ活性が最大値を示した温度における酵素活性値を100とし、各温度における酵素活性値を相対値として算出した。図7のグラフに、前記酵素活性値を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、温度(℃)である。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、40℃近傍を至適温度とし、20℃以上かつ50℃の範囲で、酵素活性値が約40%以上となる、高いβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を示した。
【0077】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの温度安定性)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの温度安定性を、以下のようにして確認した。まず、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、前記各温度(20〜90℃)のMcIlvaine buffer(pH4.0)40μL、1%BSA5μLを混合し、所定温度条件下(20、30、40、45、50、60、70、80、90℃)で1時間インキュベートした。インキュベート終了後、前記処理済み酵素液に、McIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)およびPNP−β−L−アラビノピラノシドを加え、β−L−アラビノピラノシダーゼの残存活性を、前述と同様にして測定した。図8のグラフに、前記測定結果を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、温度(℃)である。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、20℃以上かつ45℃以下の範囲において、酵素活性値80%以上の、高い温度安定性を示した。
【0078】
(他のβ−L−アラビノピラノシダーゼとの酵素特性比較)
前述のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの前述した酵素特性を、既報のキマメ(C.indicus)およびサトイモ乾腐病菌(F.oxysporum)由来β−L−アラビノピラノシダーゼの酵素特性と比較した。前記表2に、前記酵素活性の比較結果を示す。なお、報文中に記載された、キマメ由来β−L−アラビノピラノシダーゼの比活性の測定方法は、以下の通りである。10mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド500μLおよびMcIlvaine buffer(pH5.5)2000μLに、キマメ由来アラビノピラノシダーゼ酵素液300μLを加え、30℃で15分間反応させた。反応開始15分後、この反応液に、さらに0.1mol/L炭酸ナトリウム5mLを加えて反応を停止させ、405nmにおける吸光度を測定した。1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとし、得られた吸光度から、キマメ由来β−L−アラビノピラノシダーゼの比活性(munits/mg protein)を算出した。同表に示すように、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、キマメおよびサトイモ乾腐病菌由来β−L−アラビノピラノシダーゼのいずれとも、異なる特性(分子量、比活性、至適pH・安定pH・至適温度)を有している。また、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前述のように、触媒モジュール(GH27)および糖結合モジュール(CBM13)を含む。このGH27触媒モジュールを有する酵素群において、触媒モジュールの分子量は約40000であることが明らかになっている。このことからも、分子量25900のキマメ由来β−L−アラビノピラノシダーゼは、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼとは異なるファミリーに属する酵素であると考えられる。したがって、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、既報のキマメおよびサトイモ乾腐病菌由来β−L−アラビノピラノシダーゼとは異なる、新規なβ−L−アラビノピラノシダーゼである。
【0079】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの基質特異性)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼを、以下のようにして、下記表5記載の20種類のPNP基質に対して作用させ、PNP基質に対する特異性を確認した。まず、2mmol/L PNP基質25μLおよびMcIlvaine buffer(pH4.0)20μLに、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μLを加えて、37℃で10分間反応させた。つぎに、0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLをさらに加えて反応を停止し、400nmにおける反応液の吸光度を測定した。3回の測定値の平均値を算出し、PNP−β−L−アラビノピラノシドに対する分解活性を100とした場合の各基質の分解活性を、分解率(%)として算出した。同表に、前記分解率を示す。同表に示すように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、PNP−β−L−アラビノピラノシドに対して特異的な分解活性を示し、他の基質としては、PNP−α−D−ガラクトピラノシドに対して1.5%の分解率を示すのみであった。この結果より、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼが、β−L−アラビノピラノシダーゼに特異的な活性を有することが示された。
【0080】
【表5】
【0081】
(アラビノースおよびガラクトオリゴ糖の産生)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ、およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを、以下のようにして、カラマツアラビノガラクタンに作用させ、得られた分解産物を分析した。まず、0.5%カラマツアラビノガラクタンおよびMcIlvaine buffer(pH5.0)の混合溶液に酵素液を加え、37℃で30分間反応させた。なお、前記酵素液としては、β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)のみを含む酵素液と、β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼ(0.03units/mL)を含む酵素液との2種類を用いた。反応開始30分後に反応液を100℃で10分間熱処理し、反応を停止させた後、パルスアンペロメトリ検出高速陰イオン交換クロマトグラフィー(high performance anion−exchange chromatography with pulsed amperometric detection:HPAEC−PAD)に供し、CarboPac(商標)PA1カラム(Dionex社製)を用いて分解産物を検出した。図9に、前記検出結果を示す。同図中、上のパネルは、カラマツアラビノガラクタンに本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)のみを反応させた結果であり、下のパネルは、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼ(0.03units/mL)を反応させた結果である。両パネルにおいて、縦軸は、検出パルス(PAD、μC)であり、横軸は、リテンションタイム(分)である。また、同図中の矢印で指し示したピークは、検出された各分解産物(糖)であり、Araはアラビノース、Galはガラクトース、Gal2はβ−1,6−ガラクトビオース、Gal3はβ−1,6−ガラクトトリオースを示している。同図に示すように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのみを作用させた場合には、アラビノースの産出が確認され、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼおよびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを作用させた場合には、アラビノースに加えて、ガラクトビオースやガラクトトリオース等のオリゴ糖の産出が確認できた。
【0082】
(糖転移反応1)
アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としてPNP−β−L−アラビノピラノシドを用い、糖受容体としてD−ガラクトースを用いて、以下のようにして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼによる糖転移反応を行った。
【0083】
まず、McIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)15μLに、PNP−β−L−アラビノピラノシド1mgおよびガラクトース4mgを懸濁し、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μLを加え、40℃で反応させた。反応開始0、27、48、71時間後に、前記反応液2μLをそれぞれサンプリングし、100℃で10分間加熱処理して反応を停止させ、水18μLをさらに加えて不溶物を完全に溶解させた。前記溶解液2μLを、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、酢酸エチル:酢酸:水=7:2:2の展開溶媒を用いて2回展開を行った。2回展開後、TLCに硫酸を噴霧し、170℃に加熱して糖スポットを検出した。なお、マーカーとして、D−ガラクトースおよびL−アラビノースを用い、上記と同様に2回展開した。図10の写真に、前記検出結果を示す。同図において、レーン1はD−ガラクトース、レーン2はL−アラビノース、レーン3は反応液(反応開始0時間後)、レーン4は反応液(同27時間後)、レーン5は反応液(同48時間後)、レーン6は反応液(同71時間後)をそれぞれ展開した結果である。また、同図中の黒いスポットは、上から順に、L−アラビノース、D−ガラクトース、反応後生成した糖のスポットである。同図に示すように、反応開始27時間以降の反応液(レーン4〜6)には、D−ガラクトースのスポットの下部に新規なスポット(反応後生成した糖のスポット)が検出された。すなわち、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの作用により、新たな糖が生成し、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、糖転移触媒作用を有することが示唆された。また、新規に検出された糖(反応後生成した糖)は、D−ガラクトースにL−アラビノースが結合した二糖であると推測された。そして、反応開始27時間以降の反応液(レーン4〜6)には、L−アラビノースのスポットも検出された。すなわち、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼによるL−アラビノースの産生が確認された。
【0084】
(糖転移反応2)
アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としてPNP−β−L−アラビノピラノシドを用い、単糖および二糖を糖受容体として用い、以下のようにして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼによる糖転移反応を行った。なお、下記表6に、糖受容体として用いた前記単糖および二糖を示す。
【0085】
まず、PNP−β−L−アラビノピラノシド(50mg/ml)および各種糖受容体(200mg/ml)を含むリン酸緩衝液(pH7.0)に、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液1unitを加え、40℃で反応させた。また、コントロールとして、糖受容体を含まない反応液を同様に反応させた。反応開始6時間後に、前記反応液をそれぞれサンプリングし、100℃で10分間加熱処理して反応を停止させた。これを水で希釈し、パルスアンペロメトリ検出高速陰イオン交換クロマトグラフィー(high performance anion−exchange chromatography with pulsed amperometric detection:HPAEC−PAD)に供し、CarboPac(商標)PA1カラム(Dionex社製)を用いて糖転移産物の有無を検出した。また、検出されたピーク面積から、下記式1を用いて、前記各種糖類の糖転移率(%)を算出した。
糖転移率(%)=B/(A+B)×100 ・・・(1)
A=アラビノースのピーク面積
B=糖転移産物のピーク面積
【0086】
図11に、糖受容体としてグルコースを用いたときの前記検出結果を示す。同図において、上のパネルは、前記コントロール(糖受容体を含まない反応液)の結果であり、下のパネルは、グルコースを糖受容体として用いた結果である。両パネルにおいて、縦軸は、検出パルス(PAD、μC)であり、横軸は、リテンションタイム(分)である。また、同図中の指し示したピークは、検出された各分解産物(糖)であり、Araはアラビノース、Glcはグルコース、アスタリスクは反応後生成した物質を示している。同図に示すように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼにより糖供与体から産生されたアラビノース、および糖受容体として加えたグルコースのピークの他に、新規なピーク(反応後生成した物質のピーク)が検出された。すなわち、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのグルコースに対する糖転移能が確認できた。
【0087】
下記表6に、各種糖受容体の前記糖転移率を示す。同表に示すように、単糖では、ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロースおよびL−アラビノースを糖受容体とした場合に、糖転移産物が確認され、特に、ガラクトース、グルコースおよびキシロースは、高い糖転移率を示した。また、二糖では、ラクトース、マルトースおよびセロビオースを糖受容体とした場合に、糖転移産物が確認され、特に、ラクトースは、高い糖転移率を示した。すなわち、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、単糖または二糖を糖受容体とした糖転移反応を触媒することが確認された。
【0088】
【表6】
【0089】
(糖転移反応3)
糖受容体としてアルコール類を用い、アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としてPNP−β−L−アラビノピラノシドを用い、以下のようにして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼによる糖転移反応を行った。なお、前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび1−ブタノールを用いた。
【0090】
まず、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシドおよび各種アルコール類(15v/v%)を含むリン酸緩衝液(pH7.0)に、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液1unitを加え、40℃で反応させた。また、コントロールとして、糖受容体を含まない前記リン酸緩衝液を同様に反応させた。反応開始3時間後に、前記反応液20μLをそれぞれサンプリングした。前記反応液およびマーカー(L−アラビノース)を、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、クロロホルム:メタノール:水=30:20:4の展開溶媒を用いて1回展開を行った。1回展開後、TLCに硫酸を噴霧し、170℃に加熱して糖スポットを検出した。図12の写真に、前記検出結果を示す。同図において、レーン1はマーカー(L−アラビノース)、レーン2はコントロール反応液、レーン3はメタノール反応液、レーン4はエタノール反応液、レーン5は1−プロパノール反応液、レーン6は1−ブタノール反応液をそれぞれ展開した結果である。また、同図中、左端の矢印で指し示すスポットは、L−アラビノースのスポットであり、右端の矢印で指し示すスポットは、反応後に生成した物質(生成物)のスポットである。同図に示すように、各種アルコールを糖受容体として用いた反応液(レーン3〜6)には、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼにより糖供与体から産生されたL−アラビノースのスポットの他に、コントロール反応液(レーン2)には見られない新規なスポット(生成物のスポット)が検出された。すなわち、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、アルコール類を糖受容体とした糖転移反応を触媒することが確認された。
【0091】
(糖転移産物からのアラビノースの産生)
前記糖転移反応2により得られた糖転移産物に、以下のようにして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させ、アラビノースの産生を確認した。なお、前記糖転移産物には、グルコースを糖受容体とした反応により生成した糖転移産物を用いた。すなわち、まず、前記反応液を、TOYOPEARL HW−40Sを用いたクロマトグラフィーに供し、PNPおよびβ−L−アラビノピラノシダーゼを分離除去した。前記分離除去後の液を、活性炭素を用いたクロマトグラフィーに供し、単糖を分離除去し、前記糖転移産物を含むフラクションを回収した。回収した各フラクションを、エバポレーターにより濃縮し、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、糖転移産物を精製した。前記糖転移産物を含む水溶液4μLに、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液1μLを加え、40℃で所定時間(1および2時間)反応させた。得られた反応液およびマーカー(L−アラビノースおよびD−グルコース)を、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、クロロホルム:メタノール:水=30:20:4の展開溶媒を用いて1回展開を行った。1回展開後、TLCに硫酸を噴霧し、170℃に加熱して糖スポットを検出した。図13の写真に、前記検出結果を示す。同図において、レーン1はマーカー(L−アラビノース)、レーン2はマーカー(D−グルコース)、レーン3は糖転移産物、レーン4は1時間反応液、レーン5は2時間反応液をそれぞれ展開した結果である。また、同図中、矢印で指し示すスポットは、上から順に、L−アラビノース、D−グルコース、糖転移産物のスポットである。同図に示すように、反応液(レーン4〜5)には、糖転移産物のスポットの他に、糖転移産物を基質として、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼにより生産されたL−アラビノースのスポットおよび分解産物であるD−グルコースのスポットが検出された。このように、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼの糖転移酵素活性により得た糖転移産物に、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させることにより、そのアラビノピラノシダーゼ活性によるL−アラビノースの産生が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、大量生産可能な、新規β−L−アラビノピラノシダーゼが提供される。本発明の新規β−L−アラビノピラノシダーゼを用いれば、例えば、乳化剤として利用される前記アカシアガムやカラマツアラビノガラクタンに作用させて、その糖鎖構造を改変することにより、菓子等の製造時における乳化工程の調節あるいは改変した乳化剤の製造が可能になる。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、アラビノピラノシダーゼ活性に加えて、アラビノース残基の糖転移酵素活性を有するため、アラビノースの製造のみならず、アラビノース残基を含む糖類の製造にも利用可能である。したがって、本発明は、例えば、食品分野や医療分野等の幅広い分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの一例の精製ステップにおいて、菌体培養後の培養液中の各種酵素活性を測定した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのその他の例をSDS−PAGE法により電気泳動した結果を示す写真である。
【図3】図3は、本発明のベクターの一例の構成(制限酵素地図)を示す図である。
【図4】図4は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例をSDS−PAGE法により電気泳動した結果を示す写真である。
【図5】図5は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例のpHによる酵素活性変化を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例のpH安定性を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例の温度による酵素活性変化を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例の温度安定性を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼによる、カラマツアラビノガラクタン分解産物の分析結果を示すチャートである。上パネルは、β−L−アラビノピラノシダーゼのみを作用させたときの分解産物、下パネルは、β−L−アラビノピラノシダーゼおよびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを作用させたときの分解産物の分析結果を示している。
【図10】図10は、本発明の糖転移方法の例による糖転移反応結果を示すTLC写真である。
【図11】図11は、本発明の糖転移方法のその他の例による糖転移反応結果を示すチャートである。上パネルは、糖受容体を含まないコントロールの結果であり、下パネルは、グルコースを糖受容体とした場合の結果を示している。
【図12】図12は、本発明の糖転移方法のさらにその他の例による糖転移反応結果を示すTLC写真である。
【図13】図13は、本発明の糖転移方法のその他の例により得られた糖転移産物に本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例を作用させたときの分解産物の分析結果を示すTLC写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−L−アラビノピラノシダーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
アラビノースは、五炭糖およびアルドースに分類される単糖であり、植物の細胞壁を構成するヘミセルロース中に、アラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン等の多糖類の構成糖として存在している。例えば、前記アラビナンは、アラビノースがα1,5結合した多糖であり、テンサイ(Beta vulgaris var.saccharifera)の根の搾りかすであるシュガービートパルプ等の構成成分である。また、前記アラビノガラクタンは、アラビノースとガラクトースが結合した多糖であり、アラビアゴムノキ(Acacia senegal)から採取されるアカシアガム、カラマツ属(Larix)の樹木から採取されるカラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等がある。前記アカシアガムやカラマツアラビノガラクタンは、菓子やアイスクリームなどの食品の乳化剤や、医薬品・化粧品・日用品の安定剤などとして幅広く使用されている。また、前記シュガービートパルプは、飼料等に利用されている。
【0003】
一方で、アラビノースは、ヒトの消化管のスクラーゼ活性を阻害することから、ショ糖と同時摂取時に、血糖上昇を緩和する作用が知られている。そのため、血糖上昇を緩和するための健康食品や甘味料等の配合原料として注目されている。そこで、アラビノースを含有する天然物に酵素を作用させてアラビノースを製造する方法(例えば、特許文献1)や、前記天然物からアラビノースを遊離させる酵素(例えば、特許文献2)が開発されている。
【0004】
前記アラビノースを遊離させる酵素は、その分解様式により、α−L−アラビノフラノシダーゼ、α−L−アラビノピラノシダーゼ、β−L−アラビノピラノシダーゼ、α−L−アラビナナーゼ、α−1,5−L−アラビナナーゼに分類される。前記アラビナン分解酵素のうち、例えば、前記α−L−アラビノフラノシダーゼは、植物や細菌における存在が数多く報告され(例えば、特許文献3)、木材パルプの脱リグニン化への利用等(例えば、特許文献3)、バイオマスの有効利用に応用されている。一方、β−L−アラビノピラノシダーゼは、前記アカシアガムやカラマツアラビノガラクタンを原料としたオリゴ糖生産における有用酵素としての利用や、食品中細菌汚染検出方法での利用(例えば、特許文献4)が報告されている。しかしながら、前記β−L−アラビノピラノシダーゼは、キマメ(Cajanus cajan)の種子やサトイモ乾腐病菌(Fusarium oxysporum)由来のもの(非特許文献1〜3)が報告されている程度であり、その種類は極めて少なく、例えば、原核生物由来のものは確認されていない。また、β−L−アラビノピラノシダーゼのアミノ酸配列や、その遺伝子の塩基配列は明らかにされておらず、そのため、遺伝子工学的手法による、β−L−アラビノピラノシダーゼの大量生産技術は確立されていない。したがって、β−L−アラビノピラノシダーゼは、産業利用が期待されているものの、実用化が困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−50996号公報
【特許文献2】特開2004−248630号公報
【特許文献3】特表平7−508162号公報
【特許文献4】特表平11−506926号公報
【非特許文献1】P.M.Dey、“β−L−Arabinosidase from Cajanus indicus:a new enzyme”、Biochimica et Biophysica Acta(1973)302、p.393−398
【非特許文献2】P.M.Dey、“Further characterization of β−L−Arabinosidase from Cajanus indicus”、Biochimica et Biophysica Acta(1983)746、p.8−13
【非特許文献3】辻谷祐也他3名、“Fusarium oxysporum12s株の生産する2種のβ−L−アラビノピラノシダーゼ”、2006年、日本応用糖質科学会平成18年度大会要旨集、p.37
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、大量生産が可能なβ−L−アラビノピラノシダーゼの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、単量体であり、活性の至適pHが3以上かつ5以下の範囲であり、前記活性の至適温度が30℃以上かつ50℃以下の範囲であり、SDS−PAGE測定による分子量が40kDa以上かつ71kDa以下の範囲であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、下記(a)から(c)のいずれかに記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼであってもよい。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アラビノピラノシダーゼの工業的使用を先駆的に達成し得る。さらに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは微生物由来であるため、より工業的観点からの大量生産も可能であり、大量使用または消費に対する供給耐久性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、ストレプトミセス属(Streptomyces)の菌体に由来するものであってもよい。前記ストレプトミセス属の菌体としては、例えば、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)の菌体等がある。前記ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)の菌体としては、例えば、MA−4680株がある。前記MA−4680株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門(NBRC)に、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis) MA−4680(NBRC番号:14893)として寄託されている。
【0011】
本発明の前記(b)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼにおいて、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸残基の数は、例えば、数個、好ましくは、1個以上かつ7個以下の範囲の数、より好ましくは、2個以上かつ4個以下の範囲の数である。
【0012】
本発明の前記(c)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼにおいて、配列番号1に対する相同性は、1つの局面では好ましくは60%以上、他の局面では好ましくは70%以上、また別の局面では好ましくは75%以上、さらに別の局面では好ましくは80%以上、さらに別の局面では好ましくは85%以上、さらに別の局面では好ましくは90%以上、あるいはさらに別の局面では好ましくは95%以上である。相同性のアルゴリズムとしては、例えば、BLASTが挙げられる(以下、同様)。
【0013】
つぎに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、下記(d)から(f)のいずれかに記載の遺伝子である。なお、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、下記(d)から(f)に記載の塩基配列と相補配列からなる遺伝子を含む。
(d)配列番号2に記載の塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(e)配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が、置換、付加、挿入もしくは欠失した塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(f)配列番号2に記載の塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
【0014】
本発明の前記(e)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子において、置換、付加、挿入もしくは欠失した塩基の数は、例えば、数個の範囲、好ましくは、1個以上かつ7個以下の範囲、より好ましくは、2個以上かつ4個以下の範囲である。
【0015】
本発明の前記(f)に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子において、配列番号2に対する相同性は、1つの局面では好ましくは60%以上、他の局面では好ましくは70%以上、また別の局面では好ましくは75%以上、さらに別の局面では好ましくは80%以上、さらに別の局面では好ましくは85%以上、さらに別の局面では好ましくは90%以上、あるいはさらに別の局面では好ましくは95%以上である。
【0016】
本発明のベクターは、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を含有するベクターである。
【0017】
本発明の形質転換体は、本発明のベクターを含む形質転換体である。
【0018】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第一の製造方法は、本発明の形質転換体を培養する工程を含む製造方法である。
【0019】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第二の製造方法は、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)を培養する工程を含む製造方法である。なお、本発明において、アラビノース残基としては、特に制限されないが、例えば、アラビノピラノース残基、アラビノフラノース残基等が挙げられ、好ましくは、アラビノピラノース残基である。
【0020】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法は、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、前記細胞を培養する工程と、前記細胞が産生する物質のβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のアラビノースの製造方法は、アラビノース残基を含む糖類に対し、β−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させる製造方法であって、前記β−L−アラビノピラノシダーゼとして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを使用することを特徴とする。
【0022】
本発明の糖転移方法は、アラビノース残基を含む糖類から糖受容体に、アラビノース残基を転移させる糖転移方法であって、前記糖転移を触媒する酵素として、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを用いることを特徴とする。本発明の糖転移方法において、前記糖受容体としては、糖類またはアルコール類が好ましい。本発明の糖転移方法において、前記糖類としては、D−ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロースおよびL−アラビノースからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。本発明の糖転移方法において、前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび1−ブタノールからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。
【0023】
本発明の糖類の製造方法は、アラビノース残基を含む糖類の製造方法であって、本発明の糖転移方法を用いることを特徴とする。
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0025】
(A)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ
(A−1)作用特性
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を有する酵素であり、具体的には、糖類に含まれるβ−L−アラビノピラノース残基を加水分解して、アラビノースを遊離する酵素である。前記糖類としては、特に限定されないが、例えば、アカシアガム(Gum arabic)、カラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等が挙げられる。なお、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、他の酵素活性を有していてもよい。前記他の酵素活性としては、特に限定されず、例えば、糖供与体から糖受容体へ糖を転移させる糖転移酵素活性等が挙げられる。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記糖転移酵素活性により、例えば、前述のように、アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)から糖受容体へ、アラビノースを転移させることができる。
【0026】
(A−2)分子量
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの分子量の範囲は、例えば、SDS−PAGE法を用いた測定において、40kDa以上、好ましくは61kDa以上、より好ましくは64kDa以上の下限を有し、かつ71kDa以下、好ましくは68kDa以下、より好ましくは66kDa以下の上限を有する。前記分子量の具体的な範囲の例を、下記表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、天然型タンパク質および組換え型タンパク質のいずれであってもよい。SDS−PAGE法を用いた測定において、本発明の天然型タンパク質の分子量は、例えば、64kDaであってもよく、本発明の組換え型タンパク質の分子量は、例えば、65kDaであってもよい。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、例えば、理論値として64265Daであってもよい。本発明の天然型および組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、前述の分子量の範囲であればよく、前記分子量に限定されない。
【0029】
(A−3)酵素活性を示すpH範囲
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼがアラビノース遊離活性および糖転移活性を示すpH範囲は、温度37℃の条件下では、例えば、pH2以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ7.5以下の範囲である。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約50%以上の酵素活性値を示すpH範囲は、前記温度条件下では、例えば、pH2以上かつ7以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ6以下の範囲である。そして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記両酵素活性の至適pHは、前記温度条件下では、例えば、pH3以上かつ5以下の範囲にあり、好ましくは、pH3.5以上かつ4.5以下の範囲にある。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記アラビノース遊離活性の至適pHは、前記温度条件下で、より好ましくは、pH4である。さらに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約90%以上の残存活性値を示すpH範囲は、温度30℃の条件下において、例えば、pH3以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH4以上かつ8以下の範囲である。
【0030】
(A−4)酵素活性を示す温度範囲
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが前記両酵素活性を示す温度範囲は、pH4.0の条件下では、例えば、10℃以上かつ70℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ60℃以下の範囲である。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約40%以上の酵素活性値を示す温度範囲は、前記pH条件下では、例えば、10℃以上かつ60℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ50℃以下の範囲である。そして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記両酵素活性の至適温度は、前記pH条件下で、例えば、30℃以上かつ50℃以下の範囲にあり、好ましくは、35℃以上かつ45℃以下の範囲にある。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの前記アラビノース遊離活性の至適温度は、前記pH条件下で、より好ましくは、40℃である。さらに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、前記アラビノース遊離活性について、約80%以上の残存活性値を示す温度範囲は、pH4.0の条件下において、例えば、60℃以下であり、好ましくは、45℃以下であり、より好ましくは、20℃以上かつ45℃以下の範囲である。
【0031】
(A−5)比活性
前記アラビノース遊離活性について、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの比活性は、特に限定されず、例えば、前記MA−4680株由来の組換え型タンパク質の場合は、18units/mgである。なお、前記比活性とは、PNP−β−L−アラビノピラノシドから、1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとした、酵素活性比を表す数値である。
【0032】
(A−6)アミノ酸配列
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのアミノ酸配列は、前記(a)から(c)のいずれかに記載の配列である。
【0033】
(A−7)既知のβ−L−アラビノピラノシダーゼとの物性比較
前述のように、これまでに、キマメ(Cajanus cajan)の種子やサトイモ乾腐病菌(Fusarium oxysporum)において、β−L−アラビノピラノシダーゼの産生が報告されている。表2は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの一実施例と、前記キマメ種子由来β−L−アラビノピラノシダーゼおよび前記ヤマイモ乾腐菌由来β−L−アラビノピラノシダーゼとの物性等を比較したものである。なお、同表中の安定pHとは、約90%以上の残存活性値を示すpH範囲であり、安定温度とは、約90%以上の残存活性値を示す温度範囲である。同表に例示するように、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、分子量、比活性、至適pH、安定pH、至適温度について、前記既知の2つのβ−L−アラビノピラノシダーゼとは全く異なる新規酵素である。
【0034】
【表2】
【0035】
(A−8)産生細胞
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、例えば、細胞等から産生されてもよい。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する前記細胞としては、特に限定されず、例えば、大腸菌、酵母、糸状菌、放線菌等の微生物、植物および動物等由来の細胞等が挙げられる。前記微生物としては、特に限定されないが、例えば、前記ストレプトミセス属(Streptomyces)の微生物等が挙げられる。前記細胞は、例えば、天然型β−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞であってもよく、後述する、組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼを産生する宿主細胞であってもよく、特に制限されない。
【0036】
(B)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、前記(d)から(f)のいずれかに記載の遺伝子である。なお、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、前記(d)から(f)に記載の塩基配列と相補配列からなる遺伝子を含む。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子は、例えば、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのアミノ酸配列のみをコードするものでもよいし、種々のタンパク質やペプチド等との融合タンパク質をコードするものでもよい。前記融合させるタンパク質やペプチド等は、特に限定されず、例えば、タンパク質精製の手順の簡略化や低廉化、安定性の向上や可溶化等を目的とした、マルトース結合タンパク質、ヒスチジンタグやGSTタンパク質等でもよい。
【0037】
(C)本発明のベクター
本発明のベクターは、前述のように、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を含有する。本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を挿入するためのベクターとしては、宿主細胞中で複製可能であれば特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、放線菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージ等が挙げられ、具体的には、例えば、pIJ702、pACYC177、pACYC184、pBluescript、pBR322、pHSG367、pNUT4、pTrc99A、pUC19、pUB110、YEp13、λgt10、後述する接合型放線菌プラスミドpTONA4等が挙げられる。前記ベクターに、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を挿入する方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を適宜採用できる。前記遺伝子の挿入方法としては、具体的には、例えば、前記遺伝子の精製DNAを、適当な制限酵素で切断後、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入し、ベクターに連結する方法等が挙げられる。
【0038】
また、本発明のベクターは、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を発現し得るものであればよく、前記遺伝子以外の構造は限定されない。前記β−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子以外の構造としては、例えば、発現を制御する塩基配列や形質転換体を選択するための遺伝子マーカー等が挙げられる。前記発現を制御する塩基配列としては、特に制限されないが、例えば、プロモーター、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等が挙げられる。前記遺伝子マーカーとしては、特に制限されないが、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0039】
(D)本発明の形質転換体
本発明の形質転換体は、前述のように、本発明のベクターを含む。本発明の形質転換体は、例えば、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を発現可能なベクターを、宿主細胞に導入して得られる。前記宿主細胞としては、導入するベクターに応じて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、放線菌、大腸菌、酵母、糸状菌、酵母、COS細胞、CHO細胞、Sf9細胞等の細胞が挙げられ、好ましくは、放線菌である。前記放線菌としては、特に制限されないが、例えば、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)等が挙げられる。本発明の形質転換体への前記ベクターの導入方法としては、特に制限されず、例えば、エレクトロポレーション法、プロトプラスト−PEG法、アグロバクテリウム法、Li法、Biolistic法、パーティクル・ガン法等の従来公知の方法を適宜用いることができる。
【0040】
(E)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第一の製造方法は、前述のように、本発明の形質転換体を培養する工程を含む。前記第一の製造方法において、前記培養工程としては、特に制限されず、培養する形質転換体に応じて、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。前記第一の製造方法は、前記培養工程を含むこと以外には特に制限されず、例えば、他の工程を含んでもよい。前記第一の製造方法において、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記培養工程により得られた培養物から精製して採取できる。前記培養物としては、特に制限されないが、例えば、培養上清、培養細胞、細胞抽出物等が挙げられる。また、前記培養物は、前記培養上清、培養細胞、細胞抽出物等の処理物であってもよい。前記処理物としては、特に限定されないが、例えば、前記培養物の濃縮物、乾燥物、凍結乾燥物、溶媒処理物、界面活性剤処理物、酵素処理物、タンパク質分画物、超音波処理物、磨砕処理物等が挙げられる。さらに、前記培養物は、前記培養上清、前記培養細胞、前記細胞抽出物、これらの前記処理物等の混合物でもよい。前記混合物としては、任意の組み合わせおよび比率で混合することができ、特に制限されない。前記培養物の前記精製方法は、例えば、硫安沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の従来公知の方法を採用でき、特に制限されない。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記培養工程により得られた培養物を採取した粗酵素液として製造してもよい。
【0041】
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの第二の製造方法は、前述のように、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)を培養する工程を含む。前記第二の製造方法は、前記培養工程を含むこと以外には、特に制限されず、他の工程を含んでもよい。前記第二の製造方法において、前記培養工程において使用する培地としては、前記アラビノース残基を含む糖類を含むこと以外に特に制限されず、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)の培養に適した培地を適宜採用できる。前記糖類としては、アラビノース残基を含む糖類であれば特に制限されないが、例えば、アカシアガム(Gum arabic)、カラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等が挙げられる。前記培養工程における培養温度およびpH条件は、特に制限されないが、例えば、前述の至適温度および至適pHの範囲が好ましい。前記第二の製造方法において、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記培養工程により得られた培養物から精製して採取できる。前記培養物としては、特に制限されず、例えば、前述の培養物等が挙げられる。前記培養物の前記精製方法は、前記第一の製造方法と同様に、従来公知の方法を採用でき、特に制限されない。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記第一の製造方法と同様に、前記培養工程により得られた培養物を採取した粗酵素液として製造してもよい。
【0042】
(F)本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法は、前述のように、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、前記細胞を培養する工程と、前記細胞が産生する物質のβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程とを含む。前記スクリーニング方法は、前記両工程を含むこと以外には、特に制限されず、例えば、他の工程を含んでもよい。前記培養工程において、前記培地としては、アラビノース残基を含む糖類を含むこと以外は特に制限されず、培養する細胞等に応じて適宜選択できる。前記アラビノース残基を含む糖類としては、アラビノース残基を含むこと以外は特に制限されず、例えば、前述のアカシアガム(Gum arabic)、カラマツアラビノガラクタン(Larch Arabinogalactan)等が挙げられる。スクリーニングの対象となる前記細胞としては、特に限定されず、例えば、微生物、植物、動物等の細胞を適宜用いることができる。前記細胞培養は、培養する前記細胞等に応じて、例えば、従来公知の方法を用いて実施できる。また、前記β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程としては、特に制限されないが、例えば、アラビノピラノシド基に発色基を結合させた物質を基質とし、前記基質に、前記細胞の培養上清を作用させ、遊離した前記発色基の発色量を測定し、前記発色量から、酵素活性値を算出してもよい。前記発色基としては、特に制限されないが、例えば、4−ニトロフェニル基(PNP基)、2−クロロ−4−ニトロフェニル基(CNP基)等が挙げられる。
【0043】
(G)本発明のアラビノースの製造方法
本発明のアラビノースの製造方法は、前述のように、アラビノース残基を含む糖類に対し、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させる。前記アラビノース残基を含む糖類としては、特に限定されず、例えば、アカシアガム、カラマツアラビノガラクタン、ビートファイバー、ビートパルプ、オレンジファイバー等が挙げられる。また、本発明のアラビノースの製造方法は、例えば、他の糖分解酵素を適宜併用してもよい。前記他の糖分解酵素としては、特に制限されないが、例えば、α−L−アラビノフラノシダーゼ、α−L−アラビナナーゼ、α−1,5−L−アラビナナーゼ、α−L−アラビノピラノシダーゼ等のアラビナン分解酵素や、エキソ−β−1,3−ガラクタナーゼ、エンド−β−1,6−ガラクタナーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、α−L−ラムノシダーゼ等を用いることができる。本発明のアラビノースの製造方法において、例えば、タイプIIアラビノガラクタン鎖を含有する糖類に対し、エキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを併用した場合には、前記アラビノース以外に、例えば、β−1,6−ガラクトビオース、β−1,6−ガラクトトリオース等のガラクトオリゴ糖を製造することができる。また、本発明のアラビノースの製造方法において、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させる工程としては、特に制限されないが、例えば、前記アラビノースを含む糖類を溶解した緩衝液に、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを加えて、所定pHおよび所定温度条件下で所定時間反応させてもよい。前記緩衝液としては、特に制限されず、例えば、McIlvaine buffer、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液等を用いることができる。前記反応時のpH条件としては、特に限定されないが、温度37℃の条件下では、例えば、pH2以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ7.5以下の範囲であり、より好ましくは、pH4.0である。また、前記反応時の温度条件としては、特に制限されないが、例えば、pH4.0の条件下では、例えば、10℃以上かつ70℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ60℃以下の範囲であり、より好ましくは、40℃である。また、本発明のアラビノースの製造方法は、例えば、前記反応工程以外に、他の工程を有していてもよく、特に制限されない。前記他の工程としては、特に限定されず、例えば、従来公知の工程等を適宜採用できる。
【0044】
(H)本発明の糖転移方法
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前述のように、アラビノピラノシダーゼ活性に加えて、他の酵素活性として、糖転移酵素活性を有してもよい。そこで、本発明の糖転移方法においては、前記糖転移の触媒酵素として本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを用いて、アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)から、糖受容体に、アラビノース残基を転移させる。前記アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としては、特に限定されないが、例えば、アラビノースや、アラビノース残基を含むオリゴ糖、多糖、糖アルコール、アミノ糖、糖ペプチド、糖脂質等が挙げられる。本発明の糖転移方法において、前記糖供与体としては、一種以上であればよく、例えば、二種以上を併用してもよく、特に制限されない。また、前記糖受容体としては、特に制限されないが、例えば、糖類、アルコール類、アミノ酸、脂質、タンパク質等が挙げられる。前記糖受容体である前記糖類としては、特に限定されないが、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、アミノ糖、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質等が挙げられる。前記糖受容体である前記糖類としては、具体的には、例えば、D−ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロース、L−アラビノースが好ましい。前記糖受容体である前記アルコール類としては、特に限定されず、例えば、一級アルコール、二級アルコール、三級アルコール等が挙げられる。前記アルコール類としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールが好ましい。本発明の糖転移方法において、前記糖受容体は、一種以上であればよく、例えば、二種以上を併用してもよく、特に制限されない。本発明の糖転移方法としては、例えば、前記糖供与体および前記糖受容体を溶解させた緩衝液中に、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを加えて、前記酵素が糖転移酵素活性を示す温度およびpH条件下で反応させてもよく、特に制限されない。前記緩衝液としては、特に限定されず、例えば、前述の緩衝液等を用いることができる。前記糖転移酵素活性を示すpH条件としては、特に限定されないが、温度37℃の条件下では、例えば、pH2以上かつ9以下の範囲であり、好ましくは、pH2.5以上かつ7.5以下の範囲である。また、前記糖転移酵素活性を示す温度条件としては、特に制限されないが、例えば、pH4.0の条件下では、例えば、10℃以上かつ70℃以下の範囲であり、好ましくは、20℃以上かつ60℃以下の範囲である。
【0045】
(I)本発明のアラビノース残基を含む糖類の製造方法
本発明のアラビノース残基を含む糖類の製造方法は、前述のように、本発明の糖転移方法を用いる。前記アラビノース残基を含む糖類としては、アラビノース残基を含むこと以外は特に制限されず、例えば、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、糖脂質、糖タンパク質、配糖体、ヌクレオシド、ヌクレオチド等が挙げられ、好ましくは、オリゴ糖、多糖、糖アルコールである。前記製造方法は、本発明の糖転移方法を用いること以外は、特に制限されず、例えば、さらに他の方法を組み合わせてもよい。前記他の方法としては、例えば、糖類の製造方法における従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、加水分解方法、酵素分解方法、加熱方法等が挙げられ、特に制限されない。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの産生)
本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前記ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis) MA−4680(NBRC番号:14893)株を以下のようにして培養し、その培養上清から回収した。まず、下記組成のアカシアガム含有寒天培地に前記MA−4680の菌体をストリークし、30℃で培養後、下記組成の液体培地に植菌し、28℃で前培養(回転培養)した。前培養により得られた菌体懸濁液を前記液体培地に植菌し、28℃で回転培養した。培養6日目に培養液を回収し、濾紙で濾過して菌体を除去し、得られた培養上清を粗酵素液とした。
【0048】
(アカシアガム含有寒天培地)
成分 濃度(w/v%)
アカシアガム(Gum arabic) 1.0
KH2PO4 0.5
MgSO4・7水和物 0.05
ペプトン 0.1
酵母エキス 0.1
agar 2.0
精製水 96.25
【0049】
(液体培地)
成分 濃度(w/v%)
アカシアガム(Gum arabic) 1.0
KH2PO4 0.5
MgSO4・7水和物 0.05
ペプトン 0.1
酵母エキス 0.1
精製水 98.25
【0050】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの活性測定)
下記表3に示す酵素基質を用いて、以下のようにして、前記酵素基質から遊離したPNP基を定量し、前記粗酵素液の酵素活性を測定した。まず、2mmol/L各酵素基質25μLおよびMcIlvaine buffer(0.1mol/L クエン酸溶液および0.2mol/L リン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)20μLに、前記粗酵素液5μLを加え、37℃で10分間反応させた。反応開始10分後、この反応液に、さらに0.2mol/L 炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から、1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとした比活性(units/mg protein)を算出した。
【0051】
図1のグラフに、前記粗酵素液を用い、各種酵素活性を測定した結果を示す。同グラフにおいて、横軸は用いた前記酵素基質であり、縦軸は前記比活性(Units/L)である。なお、下記表3の左欄に、同グラフの横軸に略称で記載した各酵素基質を示し、同表の右欄にその和文名称を示す。同図に示すように、前記粗酵素液に、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性が認められた。また、前記粗酵素液には、前記β−L−アラビノピラノシダーゼ活性に比べて比活性値は低いものの、他に、α−L−アラビノフラノシダーゼ活性およびα−D−ガラクトピラノシダーゼ活性が認められた。
【0052】
(酵素基質)
【表3】
【0053】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの精製)
つぎに、前記粗酵素液を、以下のようにして精製した。まず、前記粗酵素液を、Biomax(分子量10000以下カット、Millipore社製)を用いて限外ろ過し、10倍に濃縮した。濃縮した前記粗酵素液に、硫酸アンモニウムを70%飽和まで加え、さらに、4℃で一晩静置し、タンパク質を沈殿させた。前記沈殿を、遠心分離により回収し、得られた回収物を2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解後、前記緩衝液を用いて4℃で1日間透析し、硫安沈殿後の粗酵素液を得た。
【0054】
前記硫安沈殿後の粗酵素液を、2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)で洗浄後、商品名「SP−Sepharose Fast Flow」カラム(GE Healthcare社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、吸着したタンパク質を0−1mol/Lの濃度勾配の塩化ナトリウムにより溶出させ、活性のあるフラクションを回収した。回収したフラクションを、商品名「シームレスセルロースチューブ、小サイズ30」(和光純薬工業株式会社製)を用いて、2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)で透析した。前記透析した溶液を、2mmol/L CaCl2含有50mmol/L 酢酸緩衝液(pH4.0)で洗浄後、商品名「Mono S」カラム(GE Healthcare社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、吸着したタンパク質を0−0.5mol/Lの濃度勾配の塩化ナトリウムにより溶出させ、活性のあるフラクションを回収した。なお、前記イオン交換クロマトグラフィーには、下記商品名の機器を用いた。
【0055】
(イオン交換クロマトグラフィー機器名)
【0056】
前記各精製ステップにおいて得られた前記フラクションについて、前記天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの活性測定方法と同様にして、酵素活性を測定した。下記表4に、各精製ステップにおいて得られた回収液量、総蛋白質量、溶液中に含まれる総β−L−アラビノピラノシダーゼ活性、比活性、精製度および収率を示す。精製の結果、21units/mgのβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を有する天然型β−L−アラビノピラノシダーゼを得た。
【0057】
【表4】
【0058】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量)
前記「Mono S」カラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより得られた活性フラクションを、SDS−PAGE法により電気泳動し、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量を決定した。図2に、前記天然型β−L−アラビノピラノシダーゼをSDS−PAGE法により電気泳動したゲルの写真を示す。レーン1は、分子量マーカー(BIO−RAD Low Marker、各1μg)の泳動結果であり、レーン2は、本例で得られた精製β−L−アラビノピラノシダーゼ(Mono S後活性フラクション)の泳動結果である。同図中の矢印で指し示すように、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、64kDaであった。
【0059】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列の決定)
本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列を、プロテインシークエンサー(商品名「プロテインシークエンサーG105A型」、ヒューレットパッカード社製)を用いて、以下のようにして決定した。まず、前記SDS−PAGE後のゲル中のタンパク質を、商品名「トランスブロットSDセル」(BIO−RAD社製)を用いて、トランスファーメンブレン(商品名「Immobilon−PSQ」、Millipore社製)にブロッティングした。この膜を、0.1%CBB染色液(商品名「CBB−R250」)で染色後、前記矢印で指し示したタンパク質がブロットされた部分を切り出した。前記切り出した膜を用い、前記プロテインシークエンサーのプロトコールに従い、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列を決定した。その結果、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列は、配列番号3に示されるアミノ酸配列であることが明らかになった。
【0060】
(本発明の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのゲノム塩基配列の決定)
まず、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号3)を用いて、既知のStreptomyces avermitilis MA−4680(NBRC番号:14893)株のゲノム情報に対してBLAST検索を行った。その結果、前記N末端アミノ酸配列は、SAV2186(配列番号4)に該当した。そこで、前記SAV2186の情報を基に、フォワードプライマー(配列番号5)およびリバースプライマー(配列番号6)を合成した。また、商品名「InstaGene(商標)Matrix」(BIO−RAD社製)を用いて、Streptomyces avermitilis MA−4680(NBRC番号:14893)株からゲノムDNAを単離した。前記2つのプライマーを用いて、前記ゲノムDNAを鋳型としたPCR反応を行った。なお、前記PCR反応は、商品名「Phusion DNA Polymerase」(FINNZYMES社製)を用い、1サイクル(98℃で10秒間、58℃で10秒間、72℃で2分間を順に行う)を35サイクル行った。前記PCR反応により得られたPCR断片を、アガロースゲルを用いて電気泳動した結果、1986bpの長さを示すバンドを得た。前記PCR断片を、商品名「pGEM−T Easy Vector System」(PROMEGA社製)を用いてクローニングし、DNAシークエンサー(商品名「ABI PRISM 310 Genetic Analyzer」、Applied Biosystems社製)で分析し、塩基配列を決定した。その結果、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼのゲノム塩基配列は、配列番号2に示す塩基配列からなることが明らかになった。また、この配列情報から、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、分泌シグナル配列(アミノ酸番号1〜44番目)、糖質加水分解酵素ファミリー27(GH27)に属する触媒モジュール、糖結合モジュールファミリー13(CBM13)に属する糖結合モジュールからなることが明らかになった。なお、前記SAV2186(配列番号4)は、従来、分泌型α−ガラクトシダーゼと推定されている配列部分であった。したがって、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を有する本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、従来の知見とは異なる、特異的な酵素特性を有することが明らかになった。
【0061】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの発現)
本例では、以下のようにして、接合型放線菌プラスミドpTONA4を調製し、前記PCR断片を前記プラスミドpTONA4に導入し、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)1326株(NBRC番号:15675)に発現させ、組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼを得た。
【0062】
(1)プラスミドpBSaphIIの作製
まず、pBluescript ll KS(一)(TOYOBO社製)を鋳型にして、プライマー1(配列番号7)、プライマー2(配列番号8)およびKOD plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用いて、大腸菌JM109のori(0.6kb)を、PCRにより増幅させた。なお、前記PCRは、1サイクル(94℃で2分、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分を順に行う)を30サイクル繰り返した後、4℃に冷却して行った。
【0063】
つぎに、大腸菌−放線菌カナマイシン耐性遺伝子aphII(1.3kb)を、PCRにより増幅させた。なお、前記PCRは、鋳型に参考文献(尾仲ら、J.Antibiotics、56巻、950−956頁、2003年)記載のpTYM18を用い、プライマーにプライマー3(配列番号9)およびプライマー4(配列番号10)を用いたこと以外は、前記oriと同様にして行った。
【0064】
得られた前記oriおよび前記aphIIの断片を、それぞれ、制限酵素SsplおよびPstlで処理し、2つの断片を互いにライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。前記大腸菌を、50μg/mLカナマイシンを含むLB培地(1%NaCl、1%ポリペブトンおよび0.5%酵母エキス)を用いて37℃で培養した。カナマイシンを選択マーカーにして、前記大腸菌から、前記ライゲーションした断片を含むプラスミドpBSaphIIを得た。
【0065】
(2)プラスミドpIJE702の作製
得られた前記pBSaphIIおよび参考文献(Molnarら、J.Ferment.Bioeng.、72巻、368−372頁、1991年)記載のpIJ702を、それぞれ制限酵素Pstlで処理し、2つの断片をライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。前記大腸菌を、前記pBSaphIIを発現させた大腸菌と同様にして培養した。カナマイシンを選択マーカーに用いて、前記大腸菌から、前記ライゲーションした断片を含むプラスミドpIJE702を得た。
【0066】
(3)プラスミドpIJEC´702の作製
oriT(0.8kB)を、PCRにより増幅させた。なお、前記PCRは、鋳型にpTYM18を用い、プライマーにプライマー5(配列番号11)およびプライマー6(配列番号12)を用いたこと以外は、前記oriと同様にして行った。得られた前記oriTの断片を、制限酵素HinclIおよびSmalで処理した。また、前記pIJE702を、制限酵素sspIで処理した。得られた2つの断片を互いにライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。前記大腸菌を、前記pBSaphIIを発現させた大腸菌と同様にして培養した。カナマイシンを選択マーカーに用い、前記大腸菌から、前記ライゲーションした断片を含むプラスミドpIJEC702を得た。そして、QuikChange II Kit(Stratagene社製)、プライマー7(配列番号13)およびプライマー8(配列番号14)を用いたサイレント変異により、前記pIJEC702のNdel部位を欠失させ、pIJEC´702を得た。
【0067】
(4)プラスミドpTONA4の作製
Streptomyces cinnamoneu IFO12852株のゲノムDNAから、サイトウ・ミウラ法(サイトウら、Biochem. Biophys. Acta.、72巻、619−629頁、1963年)を用いて、PLDプロモーター(PLDp、0.3kB)およびPLDターミネーター(PLDt、0.2kB)を調製した。
【0068】
前記PLDプロモーターを、鋳型にStreptomyces cinnamoneu IFO12852株のゲノムDNAを用い、プライマーにプライマー9(配列番号15)およびプライマー10(配列番号16)を用いたこと以外は前記oriと同様にして、PCRにより増幅させた。前記PLDターミネーターを、プライマーにプライマー11(配列番号17)およびプライマー12(配列番号18)を用いたこと以外は前記PLDプロモーターと同様にして、PCRにより増幅させた。
【0069】
得られた前記PLDプロモーター断片を、制限酵素AselおよびEcoRIで処理し、前記PLDターミネーター断片を、EcoRlおよびBglllで処理し、前記pIJEC´702を、制限酵素AseIおよびBglIIで処理した。得られた3つの断片を、ライゲーションした後、大腸菌JM109に導入し、前述と同様にして培養した。前記大腸菌JM109から、カナマイシンを選択マーカーにして、ライゲーションした断片を含むプラスミドpTONA4を得た。
【0070】
図3に、得られたプラスミドpTONA4の構成(制限酵素地図)を示す。同図に示すように、前記プラスミドpTONA4は、前記Streptomyces cinnamoneu IFO12852株のpld遺伝子のプロモーター配列(PLDp)およびターミネーター配列(PLDt)を備える発現ベクターである。
【0071】
(5)形質転換体の調製
前記pTONA4により、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)1326株(NBRC番号:15675)を形質転換させ、本例の形質転換体を得た。前記形質転換体を、500mLバッフルフラスコに入れたTSB培地100mLに植菌し、28℃、回転数150rpmの条件下で回転培養した。培養3日目に培養液を回収し、濾紙でろ過して菌体を除去することにより、粗酵素液を得た。前記粗酵素液に70%飽和硫安を加えて沈殿させ、得られた沈殿を50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、前記リン酸緩衝液で透析後、Lactosyl−Sepharoseカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー法により分離した。なお、前記アフィニティクロマトグラフィー法は、参考文献(S.Ito、A.Kuno、R.Suzuki、S.Kaneko、Y.Kawabata、I.Kusakabe & T.HASEGAWA、“Rational affinity purification of native Streptomyces family 10 xylanase”、Journal of biotechnology、2004年、110、p.137−142)記載の方法により行った。前記透析後の酵素液を、Lactosyl−Sepharoseカラムに供し、流速0.5ml/minの50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)で溶出させ、フラクションに分離した。回収した前記フラクションについて、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定した。そして、前記フラクション中、前記活性を有するフラクションを回収し、50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で透析後、組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液とした。
【0072】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量)
前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液を、SDS−PAGE法を用いて電気泳動した。図4の写真に、前記電気泳動の結果を示す。同図の写真において、レーン1は分子量マーカー(商品名「BIO−RAD Low Marker」、BIO−RAD社製)であり、レーン2は、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼである。本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量は、約64000Daであり、本例の天然型β−L−アラビノピラノシダーゼの分子量と近似していた。
【0073】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ活性の測定)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの酵素活性を、以下のようにして確認した。まず、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド25μLおよびMcIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)20μLに、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μLを加え、37℃で10分間反応させた。反応開始10分後、この反応液に、さらに0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から、1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとした比活性(units/mg protein)を算出した。その結果、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、アラビノースのβ−L−結合に作用してPNPを遊離させ、その比活性は18units/mgであった。したがって、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素活性を有し、本例のポリヌクレオチドは、β−L−アラビノピラノシダーゼをコードする遺伝子配列であることが確認された。
【0074】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適pH)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適pH範囲を、以下のようにして確認した。まず、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド25μL、所定pH(pH2.6、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、7.6)のMcIlvaine buffer20μLを混合し、37℃で10分間反応させた。反応開始10分後に、さらに0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。前記吸光度から、β−L−アラビノピラノシダーゼ活性が最大値を示したpHにおける酵素活性値を100としたときの、各pHにおける酵素活性値を算出した。図5のグラフに、前記酵素活性値を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、pHである。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、pH4.0近傍を至適pHとし、pH2.5以上かつ6以下の範囲で、酵素活性値が50%以上となる、高いβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を示した。
【0075】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのpH安定性)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのpH安定性を、以下のようにして確認した。まず、緩衝液として、所定pH(pH1.0、2.0、2.6)のGlycine−HCl buffer、所定pH(pH7.5、8.0)のSodium Phosphate buffer、所定pH(pH8.0、9.0)のTris−HCl buffer、所定pH(pH9.5、10.0、11.0、12.0、13.0)のGlycine−NaOH bufferおよび所定pH(pH2.6、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、7.6)のMcIlvaine bufferを、それぞれ調製した。そして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、前記所定pHの緩衝液40μLおよび1w/v%BSA5μLを混合し、30℃の条件下で1時間インキュベートした。インキュベート終了後、前記処理済み酵素液に、McIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)およびPNP−β−L−アラビノピラノシドを加え、β−L−アラビノピラノシダーゼの残存活性を、前述と同様にして測定した。図6のグラフに、前記測定結果を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、pHである。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、pH4.0以上かつ8.0以下の範囲において、酵素活性値90%以上の、高いpH安定性を示した。
【0076】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適温度)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの至適温度を、以下のようにして確認した。まず、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド25μL、McIlvaine buffer(pH4.0)20μLを混合し、所定温度条件下(20、30、40、50、60、70、80、90℃)で10分間反応させた。反応開始10分後に、さらに0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLを加えて反応を停止させ、400nmにおける吸光度を測定した。β−L−アラビノピラノシダーゼ活性が最大値を示した温度における酵素活性値を100とし、各温度における酵素活性値を相対値として算出した。図7のグラフに、前記酵素活性値を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、温度(℃)である。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、40℃近傍を至適温度とし、20℃以上かつ50℃の範囲で、酵素活性値が約40%以上となる、高いβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を示した。
【0077】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの温度安定性)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの温度安定性を、以下のようにして確認した。まず、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μL、前記各温度(20〜90℃)のMcIlvaine buffer(pH4.0)40μL、1%BSA5μLを混合し、所定温度条件下(20、30、40、45、50、60、70、80、90℃)で1時間インキュベートした。インキュベート終了後、前記処理済み酵素液に、McIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)およびPNP−β−L−アラビノピラノシドを加え、β−L−アラビノピラノシダーゼの残存活性を、前述と同様にして測定した。図8のグラフに、前記測定結果を示す。同図のグラフにおいて、縦軸は、酵素活性値(%)であり、横軸は、温度(℃)である。図示のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、20℃以上かつ45℃以下の範囲において、酵素活性値80%以上の、高い温度安定性を示した。
【0078】
(他のβ−L−アラビノピラノシダーゼとの酵素特性比較)
前述のように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの前述した酵素特性を、既報のキマメ(C.indicus)およびサトイモ乾腐病菌(F.oxysporum)由来β−L−アラビノピラノシダーゼの酵素特性と比較した。前記表2に、前記酵素活性の比較結果を示す。なお、報文中に記載された、キマメ由来β−L−アラビノピラノシダーゼの比活性の測定方法は、以下の通りである。10mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシド500μLおよびMcIlvaine buffer(pH5.5)2000μLに、キマメ由来アラビノピラノシダーゼ酵素液300μLを加え、30℃で15分間反応させた。反応開始15分後、この反応液に、さらに0.1mol/L炭酸ナトリウム5mLを加えて反応を停止させ、405nmにおける吸光度を測定した。1分間に1μmolのPNPを遊離させる酵素量を1unitとし、得られた吸光度から、キマメ由来β−L−アラビノピラノシダーゼの比活性(munits/mg protein)を算出した。同表に示すように、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、キマメおよびサトイモ乾腐病菌由来β−L−アラビノピラノシダーゼのいずれとも、異なる特性(分子量、比活性、至適pH・安定pH・至適温度)を有している。また、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、前述のように、触媒モジュール(GH27)および糖結合モジュール(CBM13)を含む。このGH27触媒モジュールを有する酵素群において、触媒モジュールの分子量は約40000であることが明らかになっている。このことからも、分子量25900のキマメ由来β−L−アラビノピラノシダーゼは、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼとは異なるファミリーに属する酵素であると考えられる。したがって、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、既報のキマメおよびサトイモ乾腐病菌由来β−L−アラビノピラノシダーゼとは異なる、新規なβ−L−アラビノピラノシダーゼである。
【0079】
(本発明の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼの基質特異性)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼを、以下のようにして、下記表5記載の20種類のPNP基質に対して作用させ、PNP基質に対する特異性を確認した。まず、2mmol/L PNP基質25μLおよびMcIlvaine buffer(pH4.0)20μLに、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μLを加えて、37℃で10分間反応させた。つぎに、0.2mol/L炭酸ナトリウム50μLをさらに加えて反応を停止し、400nmにおける反応液の吸光度を測定した。3回の測定値の平均値を算出し、PNP−β−L−アラビノピラノシドに対する分解活性を100とした場合の各基質の分解活性を、分解率(%)として算出した。同表に、前記分解率を示す。同表に示すように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼは、PNP−β−L−アラビノピラノシドに対して特異的な分解活性を示し、他の基質としては、PNP−α−D−ガラクトピラノシドに対して1.5%の分解率を示すのみであった。この結果より、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼが、β−L−アラビノピラノシダーゼに特異的な活性を有することが示された。
【0080】
【表5】
【0081】
(アラビノースおよびガラクトオリゴ糖の産生)
本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ、およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを、以下のようにして、カラマツアラビノガラクタンに作用させ、得られた分解産物を分析した。まず、0.5%カラマツアラビノガラクタンおよびMcIlvaine buffer(pH5.0)の混合溶液に酵素液を加え、37℃で30分間反応させた。なお、前記酵素液としては、β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)のみを含む酵素液と、β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼ(0.03units/mL)を含む酵素液との2種類を用いた。反応開始30分後に反応液を100℃で10分間熱処理し、反応を停止させた後、パルスアンペロメトリ検出高速陰イオン交換クロマトグラフィー(high performance anion−exchange chromatography with pulsed amperometric detection:HPAEC−PAD)に供し、CarboPac(商標)PA1カラム(Dionex社製)を用いて分解産物を検出した。図9に、前記検出結果を示す。同図中、上のパネルは、カラマツアラビノガラクタンに本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)のみを反応させた結果であり、下のパネルは、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ(0.03units/mL)およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼ(0.03units/mL)を反応させた結果である。両パネルにおいて、縦軸は、検出パルス(PAD、μC)であり、横軸は、リテンションタイム(分)である。また、同図中の矢印で指し示したピークは、検出された各分解産物(糖)であり、Araはアラビノース、Galはガラクトース、Gal2はβ−1,6−ガラクトビオース、Gal3はβ−1,6−ガラクトトリオースを示している。同図に示すように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのみを作用させた場合には、アラビノースの産出が確認され、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼおよびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを作用させた場合には、アラビノースに加えて、ガラクトビオースやガラクトトリオース等のオリゴ糖の産出が確認できた。
【0082】
(糖転移反応1)
アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としてPNP−β−L−アラビノピラノシドを用い、糖受容体としてD−ガラクトースを用いて、以下のようにして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼによる糖転移反応を行った。
【0083】
まず、McIlvaine buffer(0.1mol/Lクエン酸溶液および0.2mol/Lリン酸二水素ナトリウム混合水溶液、pH4.0)15μLに、PNP−β−L−アラビノピラノシド1mgおよびガラクトース4mgを懸濁し、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液5μLを加え、40℃で反応させた。反応開始0、27、48、71時間後に、前記反応液2μLをそれぞれサンプリングし、100℃で10分間加熱処理して反応を停止させ、水18μLをさらに加えて不溶物を完全に溶解させた。前記溶解液2μLを、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、酢酸エチル:酢酸:水=7:2:2の展開溶媒を用いて2回展開を行った。2回展開後、TLCに硫酸を噴霧し、170℃に加熱して糖スポットを検出した。なお、マーカーとして、D−ガラクトースおよびL−アラビノースを用い、上記と同様に2回展開した。図10の写真に、前記検出結果を示す。同図において、レーン1はD−ガラクトース、レーン2はL−アラビノース、レーン3は反応液(反応開始0時間後)、レーン4は反応液(同27時間後)、レーン5は反応液(同48時間後)、レーン6は反応液(同71時間後)をそれぞれ展開した結果である。また、同図中の黒いスポットは、上から順に、L−アラビノース、D−ガラクトース、反応後生成した糖のスポットである。同図に示すように、反応開始27時間以降の反応液(レーン4〜6)には、D−ガラクトースのスポットの下部に新規なスポット(反応後生成した糖のスポット)が検出された。すなわち、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの作用により、新たな糖が生成し、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼが、糖転移触媒作用を有することが示唆された。また、新規に検出された糖(反応後生成した糖)は、D−ガラクトースにL−アラビノースが結合した二糖であると推測された。そして、反応開始27時間以降の反応液(レーン4〜6)には、L−アラビノースのスポットも検出された。すなわち、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼによるL−アラビノースの産生が確認された。
【0084】
(糖転移反応2)
アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としてPNP−β−L−アラビノピラノシドを用い、単糖および二糖を糖受容体として用い、以下のようにして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼによる糖転移反応を行った。なお、下記表6に、糖受容体として用いた前記単糖および二糖を示す。
【0085】
まず、PNP−β−L−アラビノピラノシド(50mg/ml)および各種糖受容体(200mg/ml)を含むリン酸緩衝液(pH7.0)に、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液1unitを加え、40℃で反応させた。また、コントロールとして、糖受容体を含まない反応液を同様に反応させた。反応開始6時間後に、前記反応液をそれぞれサンプリングし、100℃で10分間加熱処理して反応を停止させた。これを水で希釈し、パルスアンペロメトリ検出高速陰イオン交換クロマトグラフィー(high performance anion−exchange chromatography with pulsed amperometric detection:HPAEC−PAD)に供し、CarboPac(商標)PA1カラム(Dionex社製)を用いて糖転移産物の有無を検出した。また、検出されたピーク面積から、下記式1を用いて、前記各種糖類の糖転移率(%)を算出した。
糖転移率(%)=B/(A+B)×100 ・・・(1)
A=アラビノースのピーク面積
B=糖転移産物のピーク面積
【0086】
図11に、糖受容体としてグルコースを用いたときの前記検出結果を示す。同図において、上のパネルは、前記コントロール(糖受容体を含まない反応液)の結果であり、下のパネルは、グルコースを糖受容体として用いた結果である。両パネルにおいて、縦軸は、検出パルス(PAD、μC)であり、横軸は、リテンションタイム(分)である。また、同図中の指し示したピークは、検出された各分解産物(糖)であり、Araはアラビノース、Glcはグルコース、アスタリスクは反応後生成した物質を示している。同図に示すように、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼにより糖供与体から産生されたアラビノース、および糖受容体として加えたグルコースのピークの他に、新規なピーク(反応後生成した物質のピーク)が検出された。すなわち、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼのグルコースに対する糖転移能が確認できた。
【0087】
下記表6に、各種糖受容体の前記糖転移率を示す。同表に示すように、単糖では、ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロースおよびL−アラビノースを糖受容体とした場合に、糖転移産物が確認され、特に、ガラクトース、グルコースおよびキシロースは、高い糖転移率を示した。また、二糖では、ラクトース、マルトースおよびセロビオースを糖受容体とした場合に、糖転移産物が確認され、特に、ラクトースは、高い糖転移率を示した。すなわち、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、単糖または二糖を糖受容体とした糖転移反応を触媒することが確認された。
【0088】
【表6】
【0089】
(糖転移反応3)
糖受容体としてアルコール類を用い、アラビノース残基を含む糖類(糖供与体)としてPNP−β−L−アラビノピラノシドを用い、以下のようにして、本例の組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼによる糖転移反応を行った。なお、前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび1−ブタノールを用いた。
【0090】
まず、2mmol/L PNP−β−L−アラビノピラノシドおよび各種アルコール類(15v/v%)を含むリン酸緩衝液(pH7.0)に、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液1unitを加え、40℃で反応させた。また、コントロールとして、糖受容体を含まない前記リン酸緩衝液を同様に反応させた。反応開始3時間後に、前記反応液20μLをそれぞれサンプリングした。前記反応液およびマーカー(L−アラビノース)を、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、クロロホルム:メタノール:水=30:20:4の展開溶媒を用いて1回展開を行った。1回展開後、TLCに硫酸を噴霧し、170℃に加熱して糖スポットを検出した。図12の写真に、前記検出結果を示す。同図において、レーン1はマーカー(L−アラビノース)、レーン2はコントロール反応液、レーン3はメタノール反応液、レーン4はエタノール反応液、レーン5は1−プロパノール反応液、レーン6は1−ブタノール反応液をそれぞれ展開した結果である。また、同図中、左端の矢印で指し示すスポットは、L−アラビノースのスポットであり、右端の矢印で指し示すスポットは、反応後に生成した物質(生成物)のスポットである。同図に示すように、各種アルコールを糖受容体として用いた反応液(レーン3〜6)には、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼにより糖供与体から産生されたL−アラビノースのスポットの他に、コントロール反応液(レーン2)には見られない新規なスポット(生成物のスポット)が検出された。すなわち、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、アルコール類を糖受容体とした糖転移反応を触媒することが確認された。
【0091】
(糖転移産物からのアラビノースの産生)
前記糖転移反応2により得られた糖転移産物に、以下のようにして、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させ、アラビノースの産生を確認した。なお、前記糖転移産物には、グルコースを糖受容体とした反応により生成した糖転移産物を用いた。すなわち、まず、前記反応液を、TOYOPEARL HW−40Sを用いたクロマトグラフィーに供し、PNPおよびβ−L−アラビノピラノシダーゼを分離除去した。前記分離除去後の液を、活性炭素を用いたクロマトグラフィーに供し、単糖を分離除去し、前記糖転移産物を含むフラクションを回収した。回収した各フラクションを、エバポレーターにより濃縮し、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、糖転移産物を精製した。前記糖転移産物を含む水溶液4μLに、前記組換え型β−L−アラビノピラノシダーゼ酵素液1μLを加え、40℃で所定時間(1および2時間)反応させた。得られた反応液およびマーカー(L−アラビノースおよびD−グルコース)を、TLC(Silica gel 60 F254 aluminium sheets、Merck社製)に供し、クロロホルム:メタノール:水=30:20:4の展開溶媒を用いて1回展開を行った。1回展開後、TLCに硫酸を噴霧し、170℃に加熱して糖スポットを検出した。図13の写真に、前記検出結果を示す。同図において、レーン1はマーカー(L−アラビノース)、レーン2はマーカー(D−グルコース)、レーン3は糖転移産物、レーン4は1時間反応液、レーン5は2時間反応液をそれぞれ展開した結果である。また、同図中、矢印で指し示すスポットは、上から順に、L−アラビノース、D−グルコース、糖転移産物のスポットである。同図に示すように、反応液(レーン4〜5)には、糖転移産物のスポットの他に、糖転移産物を基質として、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼにより生産されたL−アラビノースのスポットおよび分解産物であるD−グルコースのスポットが検出された。このように、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼの糖転移酵素活性により得た糖転移産物に、本例のβ−L−アラビノピラノシダーゼを作用させることにより、そのアラビノピラノシダーゼ活性によるL−アラビノースの産生が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、大量生産可能な、新規β−L−アラビノピラノシダーゼが提供される。本発明の新規β−L−アラビノピラノシダーゼを用いれば、例えば、乳化剤として利用される前記アカシアガムやカラマツアラビノガラクタンに作用させて、その糖鎖構造を改変することにより、菓子等の製造時における乳化工程の調節あるいは改変した乳化剤の製造が可能になる。また、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼは、アラビノピラノシダーゼ活性に加えて、アラビノース残基の糖転移酵素活性を有するため、アラビノースの製造のみならず、アラビノース残基を含む糖類の製造にも利用可能である。したがって、本発明は、例えば、食品分野や医療分野等の幅広い分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼの一例の精製ステップにおいて、菌体培養後の培養液中の各種酵素活性を測定した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのその他の例をSDS−PAGE法により電気泳動した結果を示す写真である。
【図3】図3は、本発明のベクターの一例の構成(制限酵素地図)を示す図である。
【図4】図4は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例をSDS−PAGE法により電気泳動した結果を示す写真である。
【図5】図5は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例のpHによる酵素活性変化を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例のpH安定性を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例の温度による酵素活性変化を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例の温度安定性を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例およびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼによる、カラマツアラビノガラクタン分解産物の分析結果を示すチャートである。上パネルは、β−L−アラビノピラノシダーゼのみを作用させたときの分解産物、下パネルは、β−L−アラビノピラノシダーゼおよびエキソ−β−1,3−ガラクタナーゼを作用させたときの分解産物の分析結果を示している。
【図10】図10は、本発明の糖転移方法の例による糖転移反応結果を示すTLC写真である。
【図11】図11は、本発明の糖転移方法のその他の例による糖転移反応結果を示すチャートである。上パネルは、糖受容体を含まないコントロールの結果であり、下パネルは、グルコースを糖受容体とした場合の結果を示している。
【図12】図12は、本発明の糖転移方法のさらにその他の例による糖転移反応結果を示すTLC写真である。
【図13】図13は、本発明の糖転移方法のその他の例により得られた糖転移産物に本発明のβ−L−アラビノピラノシダーゼのさらにその他の例を作用させたときの分解産物の分析結果を示すTLC写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−L−アラビノピラノシダーゼであって、単量体であり、活性の至適pHが3以上かつ5以下の範囲であり、前記活性の至適温度が30℃以上かつ50℃以下の範囲であり、SDS−PAGE測定による分子量が40kDa以上かつ71kDa以下の範囲であることを特徴とするβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項2】
ストレプトミセス属(Streptomyces)の菌体に由来する請求項1記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項3】
前記ストレプトミセス属の菌体が、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)である請求項2記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項4】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項5】
下記(d)から(f)のいずれかに記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(d)配列番号2に記載の塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(e)配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が、置換、付加、挿入もしくは欠失した塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(f)配列番号2に記載の塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
【請求項6】
請求項5記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を含有するベクター。
【請求項7】
請求項6記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項8】
β−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法であって、請求項7記載の形質転換体を培養する工程を含むβ−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法。
【請求項9】
β−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法であって、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)を培養する工程を含むβ−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法。
【請求項10】
β−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法であって、
アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、前記細胞を培養する工程と、
前記細胞が産生する物質のβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程とを
含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項11】
アラビノース残基を含む糖類に対し、β−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させるアラビノースの製造方法であって、前記β−L−アラビノピラノシダーゼとして、請求項1から4のいずれか一項に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼを使用することを特徴とするアラビノースの製造方法。
【請求項12】
アラビノース残基を含む糖類から糖受容体に、アラビノース残基を転移させる糖転移方法であって、
前記糖転移を触媒する酵素として、請求項1から4のいずれか一項に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼを用いることを特徴とする糖転移方法。
【請求項13】
前記糖受容体が、糖類またはアルコール類である請求項12記載の糖転移方法。
【請求項14】
前記糖類が、D−ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロースおよびL−アラビノースからなる群から選択される少なくとも一つである請求項13記載の糖転移方法。
【請求項15】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび1−ブタノールからなる群から選択される少なくとも一つである請求項13記載の糖転移方法。
【請求項16】
アラビノース残基を含む糖類の製造方法であって、
請求項12から15のいずれか一項に記載の糖転移方法を用いることを特徴とする、糖類の製造方法。
【請求項1】
β−L−アラビノピラノシダーゼであって、単量体であり、活性の至適pHが3以上かつ5以下の範囲であり、前記活性の至適温度が30℃以上かつ50℃以下の範囲であり、SDS−PAGE測定による分子量が40kDa以上かつ71kDa以下の範囲であることを特徴とするβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項2】
ストレプトミセス属(Streptomyces)の菌体に由来する請求項1記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項3】
前記ストレプトミセス属の菌体が、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)である請求項2記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項4】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ。
【請求項5】
下記(d)から(f)のいずれかに記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(d)配列番号2に記載の塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(e)配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が、置換、付加、挿入もしくは欠失した塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
(f)配列番号2に記載の塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列からなるβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子。
【請求項6】
請求項5記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼ遺伝子を含有するベクター。
【請求項7】
請求項6記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項8】
β−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法であって、請求項7記載の形質転換体を培養する工程を含むβ−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法。
【請求項9】
β−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法であって、アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、ストレプトミセス・エバーミチルス(Streptomyces avermitilis)を培養する工程を含むβ−L−アラビノピラノシダーゼの製造方法。
【請求項10】
β−L−アラビノピラノシダーゼを産生する細胞のスクリーニング方法であって、
アラビノース残基を含む糖類を含む培地において、前記細胞を培養する工程と、
前記細胞が産生する物質のβ−L−アラビノピラノシダーゼ活性を測定する工程とを
含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項11】
アラビノース残基を含む糖類に対し、β−L−アラビノピラノシダーゼを作用させてアラビノースを遊離させるアラビノースの製造方法であって、前記β−L−アラビノピラノシダーゼとして、請求項1から4のいずれか一項に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼを使用することを特徴とするアラビノースの製造方法。
【請求項12】
アラビノース残基を含む糖類から糖受容体に、アラビノース残基を転移させる糖転移方法であって、
前記糖転移を触媒する酵素として、請求項1から4のいずれか一項に記載のβ−L−アラビノピラノシダーゼを用いることを特徴とする糖転移方法。
【請求項13】
前記糖受容体が、糖類またはアルコール類である請求項12記載の糖転移方法。
【請求項14】
前記糖類が、D−ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロースおよびL−アラビノースからなる群から選択される少なくとも一つである請求項13記載の糖転移方法。
【請求項15】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび1−ブタノールからなる群から選択される少なくとも一つである請求項13記載の糖転移方法。
【請求項16】
アラビノース残基を含む糖類の製造方法であって、
請求項12から15のいずれか一項に記載の糖転移方法を用いることを特徴とする、糖類の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−153516(P2009−153516A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310993(P2008−310993)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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