説明

βアミロイド生成抑制剤

【課題】 これまでにβアミロイド生成抑制作用を有することが報告されている化合物とはまったく骨格を異にする化合物を有効成分とするβアミロイド生成抑制剤を提供する。
【解決手段】 次式(I):
【化1】


(式中、Rは水素原子、C1−6−アルキル基、アシル基又は糖残基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子を表し;Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の予防・治療剤等として有用なβアミロイド生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老人人口の増加に伴い、老人性痴呆症の治療に有効な医薬品の開発が強く望まれている。老人性痴呆症の代表的疾患であるアルツハイマー病は、脳の萎縮、老人斑の沈着及び神経原線維変化を特徴とする神経変性疾患で、神経細胞の脱落が痴呆症状を引き起こす。アルツハイマー病患者では、病理組織学的研究により、老人斑が沈着しそれにより神経細胞が脱落し脳の萎縮が生じる。
【0003】
老人斑の主成分であるβアミロイドは細胞毒性作用を有しており、アルツハイマー病における神経細胞死を引き起こしている一因である(非特許文献1〜4)。
【0004】
βアミロイドは39〜43残基のアミノ酸からなる凝集しやすいペプチドであり、その前駆体であるアミロイド前駆体蛋白質がプロセシングされることにより、生成される(非特許文献5及び6)。
【0005】
アミロイド前駆体蛋白質は膜貫通部位を持つ蛋白質(非特許文献7)で、βアミロイドの17残基目付近α部位で切断を受け、N末端を含む分子量約120kDaの断片が細胞外に分泌される(非特許文献8)。一方、βアミロイドはアミロイド前駆体蛋白質のC末端領域に存在し、βアミロイドの両端で切断を受け産生したβアミロイドが細胞外に分泌される。
【0006】
βアミロイドの産生を抑制する薬剤はアルツハイマー病の治療剤又は進行を抑制する薬剤として期待されている。
【0007】
したがって、βアミロイドの生成を抑制する薬剤の研究も進められており、例えば、ロダニン誘導体(特許文献1)、ベンズイミダゾール誘導体(特許文献2)、ビンポセチン誘導体(特許文献3)、芳香族アミド誘導体(特許文献4)が知られている。
【0008】
一方、次式(I−1):
【化1】

で示されるアルクチゲニン(arctigenin)又はその誘導体等のリグナン骨格を有する化合物は、免疫抑制作用及び抗糖尿病作用を有することが知られているが(特許文献5及び6)、これらの化合物とβアミロイド生成抑制作用との関係については何ら報告されていない。
【0009】
【特許文献1】特開平6−192091号公報
【特許文献2】米国特許第5552426号明細書
【特許文献3】国際公開第96/25161号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/014843号パンフレット
【特許文献5】特開平5−32580号公報
【特許文献6】特開平5−32659号公報
【非特許文献1】Yankner, B. et al., Science, 245, 417-420 (1989)
【非特許文献2】Cai, X., Gold, T. & Younkin, S., Science, 259, 514-516 (1993)
【非特許文献3】Rose,A., Nature Med. 2, 267-269 (1996)
【非特許文献4】Scheuner, D. et al., Nature Med., 2, 864-869 (1996)
【非特許文献5】Haass, C. & Selkoe, D., Cell, 75, 1039-1042 (1993)
【非特許文献6】Roher, A.E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 10836-10840 (1993)
【非特許文献7】Kang, J. et al., Nature, 325, 733-736 (1987)
【非特許文献8】Seubert, P. et al., Nature, 361, 260-262 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これまでにβアミロイド生成抑制作用を有することが報告されている化合物とはまったく骨格を異にする化合物を有効成分とするβアミロイド生成抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)次式(I):
【化2】

(式中、Rは水素原子、C1−6−アルキル基、アシル基又は糖残基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子を表し;Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。
【0012】
(2)前記式(I)において、Rが置換もしくは非置換のC1−6−飽和脂肪族アシル基又は置換もしくは非置換のベンゾイル基である前記(1)に記載のβアミロイド生成抑制剤。
(3)アルツハイマー病の予防・治療剤である前記(1)又は(2)に記載のβアミロイド生成抑制剤。
【0013】
(4)次式(I−a):
【化3】

(式中、Rはベンゾイル基、3,4−ジメチルベンゾイル基、2−カルボキシベンゾイル基又はグリシル基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【0014】
(5)次式(I−b):
【化4】

で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リグナン骨格を有する化合物を有効成分とする新しいタイプのβアミロイド生成抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、C1−6−アルキル基、及び各置換基中の「C1−6−アルキル」は、直鎖状、分岐状及び環状(C3−6−シクロアルキル)のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0017】
前記式(I)においてRで表されるアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、ピバロイル基、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等のC1−6−飽和脂肪族アシル基;アクリロイル基等のC3−6−不飽和脂肪族アシル基;グリシル基等のアミノ酸由来のアシル基;ベンゾイル基、ナフトイル基等の芳香族アシル基(アロイル基)が挙げられる。これらのアシル基は、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C2−6−アルキニル基、芳香族基、アシル基、アシルオキシ基(例えばアセトキシ基)、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、C1−6−アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)、4−メチルピペラジノメチル基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。置換された芳香族アシル基としては、例えば3,4−ジメチルベンゾイル基、2−カルボキシベンゾイル基、4−(4−メチルピペラジノメチル)ベンゾイル基が挙げられる。
【0018】
前記式(I)においてRで表される糖残基としては、糖単位1〜10、特に1〜5の単糖又はオリゴ糖が好ましく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、グルコサミン、マンノサミン、ガラクトサミン等の六炭糖類、アラビノース、キシロース、リボース等の五炭糖類、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラミナリビオース、キトビオース、キシロビオース、マンノビオース、ソホロースなどの二糖類、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マンノトリオース、マンニノトリオースなどや、でんぷん、セルロース、キチン、キトサンなどの加水分解物(例えば、局方デキストリン、アクロデキストリン、ブリテッシュガム、セロデキストリンなど)などを挙げることができる。
【0019】
前記式(I)で示される化合物がアミノ基、含窒素複素環基(例えば、ピペラジノ基)等の塩基性官能基を有する場合、その薬学的に許容される塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、カルボキシル基等の酸性官能基を有する場合、その薬学的に許容される塩としては、例えばナトリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。化合物によっては、水和物を形成する場合もあるが、それらの使用が本発明の範囲に属することはいうまでもない。
【0020】
前記式(I)で示される化合物のうち、前記式(I−a)又は(I−b)で示される化合物は新規化合物であり、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0021】
即ち、特開平5−32580号公報(特許文献5)の実施例4に記載の(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オンを、トリエチルアミン等の塩基の存在下、ベンゾイルクロリド又は3,4−ジメチルベンゾイルクロリドと反応させることにより、前記式(I−a)において、Rがベンゾイル基又は3,4−ジメチルベンゾイル基である化合物を製造することができる。また、前記(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オンを、ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下、フタル酸モノt−ブチルエステルと反応させて前駆体を得た後、ジクロロメタン中でトリフルオロ酢酸で処理することにより、前記式(I−a)において、Rが2−カルボキシベンゾイル基である化合物を製造することができる。また、前記(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オンを、ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下、N−(t−ブトキシカルボニル)グリシンと反応させた後、塩化水素ガスで処理して脱保護することにより、前記式(I−a)において、Rがグリシル基である化合物の塩酸塩を製造することができる。
【0022】
また、アルクチゲニンを、トリエチルアミン等の塩基の存在下、4−(4−メチルピペラジノメチル)ベンゾイルクロリド・2塩酸塩と反応させることにより、前記式(I−b)で示される化合物を製造することができる。
【0023】
前記式(I)で示される化合物のうち、前記式(I−a)又は(I−b)で示される化合物以外の化合物は、例えば特開平5−32580号公報(特許文献5)、特開平5−32659号公報(特許文献6)に記載の方法に従って製造することができる。
【0024】
例えば、前記式(I)において、RがC1−6−アルキル基である化合物は、Rが水素原子である化合物を、炭酸カリウム等の塩基の存在下、対応するハロゲン化アルキルと反応させることにより製造することができる。
【0025】
前記式(I)において、Rが糖残基である化合物は、Rが水素原子である化合物を、ハロゲン化グリコシル等の対応するハロゲン化糖と反応させることにより製造することができる。ここで、ハロゲン化糖としては、その水酸基が保護基で保護されているものを用いるのが好ましく、この場合、必要に応じて前記反応後に通常の方法により脱保護反応を行えばよい。
【0026】
生成物を精製するには、通常用いられる手法、例えばシリカゲル等を担体として用いたカラムクロマトグラフィーや酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、水等を用いた再結晶法によればよい。カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては、クロロホルム、メタノール、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0027】
本発明のβアミロイド生成抑制剤は、前記式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩(以下「アルクチゲニン類」という。)を有効成分として含有するものであり、アルツハイマー病の治療剤、予防剤、進行の抑制剤、老人斑の生成抑止剤、老人斑の沈着による神経細胞の脱落抑制剤として有用である。
【0028】
以下、アルクチゲニン類を含有する本発明のβアミロイド生成抑制剤の投与量及び製剤化について説明する。
【0029】
アルクチゲニン類はそのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及び人に投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0030】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人でアルクチゲニン類の重量として0.1mg〜2gを、1日数回に分けての服用が適当である。
【0031】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
【0032】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。それぞれの具体例は以下に示すごとくである。
【0033】
[結合剤]
デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール。
【0034】
[崩壊剤]
デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース。
【0035】
[界面活性剤]
ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80。
【0036】
[滑沢剤]
タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール。
【0037】
[流動性促進剤]
軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム。
【0038】
また、アルクチゲニン類は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0039】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人でアルクチゲニン類の重量として1日0.01〜600mgまでの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【0040】
この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0041】
その他の非経口剤としては、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[実施例1](2R,3R)−3−(3,4−ジメトキシベンジル)−2−{4−[4−(4−メチルピペラジノメチル)ベンゾイルオキシ]−3−メトキシベンジル}ブチロラクトン(化合物番号1)の合成
【化5】

【0044】
300mlのナスフラスコにアルクチゲニン1.99g(5.3mmol)、ジクロロメタン86mlを入れ、次にトリエチルアミン3.8ml(27.3mmol)存在下、4−(4−メチルピペラジノメチル)ベンゾイルクロリド・2塩酸塩2.93g(8.5mmol)を少量ずつ加え、室温で24時間反応させた。反応液の溶媒を減圧留去し、酢酸エチル80mlに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100ml×3)及び飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去しフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒,クロロホルム:酢酸エチル=5:1,クロロホルム:メタノール=10:1)で精製することにより、標記化合物2.49g(80.0%)を得た。
融点:58〜60℃
H−NMR(CDCl)δ:2.30(3H,s),2.59(12H,m),3.00(2H,m),3.59(2H,s),3.75(3H,s),3.84(3H,s),3.86(3H,s),3.87(1H,m),4.20(1H,m),6.52(1H,d,J=2.0Hz),6.56(1H,dd,J=8.1,2.0Hz),6.72(1H,dd,J=7.8,2.2Hz),6.79(1H,d,J=7.8Hz),6.80(1H,d,J=2.2Hz),7.05(1H,d,J=8.1Hz),7.47(2H,d,J=8.3Hz),8.14(2H,d,J=8.3Hz)
【0045】
[実施例2](3R,4R)−3−(4−ベンゾイルオキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン(化合物番号2)の合成
【化6】

【0046】
25mlのナスフラスコに(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン(特開平5−32580号公報(特許文献5)の実施例4に記載の化合物)519mg(1.3mmol)、ジクロロメタン5mlを入れ、次にトリエチルアミン0.25ml(1.8mmol)存在下、ベンゾイルクロリド0.18ml(1.4mmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒留去後、粗結晶709.7mgを得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒,ヘキサン:クロロホルム:アセトン=10:10:1)で精製することにより、標記化合物569mg(89.0%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.30−2.60(3H,m),2.94−3.24(5H,m),3.75(3H,s),3.82(3H,s),3.85(3H,s),6.53(1H,d,J=2.2Hz),6.58(1H,dd,J=8.5,2.2Hz),6.80(3H,m),7.07(1H,d,J=8.5Hz),7.47−7.64(3H,m),8.19(2H,m)
【0047】
[実施例3](3R,4R)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)−3−[4−(3,4−ジメチルベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンジル]テトラヒドロチオフェン−2−オン(化合物番号3)の合成
【化7】

【0048】
50mlのナスフラスコにアルゴン気流下、(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン(特開平5−32580号公報(特許文献5)の実施例4に記載の化合物)1.02g(2.7mmol)をジクロロメタンに溶解させ、トリエチルアミン0.91ml(6.5mmol)、続いて3,4−ジメチルベンゾイルクロリド556mg(3.3mmol)のジクロロメタン溶液を加えた。直ちにガスを発生し、反応液が淡黄色から赤褐色に変化した。更に1時間撹拌し、反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で順次洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去し、粗結晶1.38gを得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒,ヘキサン:クロロホルム:アセトン=10:10:1)で精製することにより、標記化合物1.14g(82.7%)を白色アモルファス状物質として得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.34(3H,s),2.35(3H,s),2.50−2.60(3H,m),2.90−3.21(5H,m),3.74(3H,s),3.82(3H,s),3.85(3H,s),6.52(1H,d,J=2.0Hz),6.58(1H,dd,J=7.8,2.0Hz),6.76(2H,m),6.77(1H,d,J=7.8Hz),7.06(1H,d,J=8.3Hz),7.26(1H,d,J=8.1Hz),7.91(1H,d,J=8.1Hz),7.96(1H,s)
【0049】
[実施例4](3R,4R)−3−[4−(2−カルボキシベンゾイルオキシ)−3−メトキシベンジル]−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン(化合物番号4)の合成
【化8】

【0050】
(1)50mlのナスフラスコにアルゴン気流下、フタル酸モノt−ブチルエステル1.75g(7.9mmol)のクロロホルム溶液を入れ、氷浴中で撹拌し、ジシクロヘキシルカルボジイミド1.76g(8.5mmol)を加えた。次に、(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン(特開平5−32580号公報(特許文献5)の実施例4に記載の化合物)2.00g(5.2mmol)を加え、室温で4時間撹拌し、4−ジメチルアミノピリジン363mg(3mmol)を加え、更に1時間室温で撹拌した。その後、フタル酸モノt−ブチルエステル500mgのジクロロメタン溶液及びジシクロヘキシルカルボジイミド500.5mgを加え、室温で16時間反応させた。反応液に過剰量の酢酸エチルを加え、不溶物を除去し、溶媒を減圧留去し、粗生成物4.00gを得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒,ヘキサン:クロロホルム:アセトン=10:10:1)で精製することにより、標記化合物のt−ブチルエステル(前駆体)1.87g(61.9%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.56(9H,s),2.90−3.22(6H,m),3.78(3H,s),3.81(3H,s),3.85(3H,s),6.53(1H,m),6.58(1H,m),6.77−6.81(3H,m),7.18(1H,d,J=8.3Hz),7.54−7.59(2H,m),7.72−7.75(1H,m),7.90−7.92(1H,m)
【0051】
(2)100mlのナスフラスコにアルゴン気流下、前記(1)で得た標記化合物のt−ブチルエステル(前駆体)1.87g(3.2mmol)のジクロロメタン溶液を入れ、氷浴中でトリフルオロ酢酸5ml(64mmol)を少量ずつ加え、2時間撹拌した。反応液の溶媒を減圧留去し、標記化合物1.77g(100%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.96(3H,m),3.00(4H,m),3.25(1H,dd,J=5.4,5.8Hz),3.76(3H,s),3.77(3H,s),3.84(3H,s),6.47(1H,d,J=2.0Hz),6.57(1H,dd,J=8.3,2.0Hz),6.63(1H,dd,J=7.8,1.7Hz),6.73(1H,s),6.77(1H,d,J=8.3Hz),7.10(1H,d,J=7.8Hz),7.63−7.69(2H,m),7.91−7.98(2H,m)
【0052】
[実施例5](3R,4R)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)−3−(4−グリシルオキシ−3−メトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン・塩酸塩(化合物番号5)の合成
【化9】

【0053】
(1)200mlのナスフラスコにアルゴン気流下、N−t−ブトキシカルボニルグリシン1.09g(6.2mmol)のジクロロメタン溶液を入れ、氷浴中でジシクロヘキシルカルボジイミド1.29g(6.2mmol)を加えた。10分間撹拌した後、(3R,4R)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−4−(3,4−ジメトキシベンジル)テトラヒドロチオフェン−2−オン(特開平5−32580号公報(特許文献5)の実施例4に記載の化合物)2.00g(5.2mmol)を加えた。室温で約16時間反応させ、反応液に過剰量の酢酸エチルを加え、不溶物を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた白色アモルファス状物質3.36gをフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒,ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製することにより、標記化合物のN−t−ブトキシカルボニル体(前駆体)2.66g(93.9%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.47(9H,s),2.20−2.60(3H,m),2.90−3.20(5H,m),3.75(3H,s),3.80(3H,s),3.85(3H,s),4.20(2H,br d,J=5.6Hz),6.50(1H,d,J=2.2Hz),6.55(1H,dd,J=8.1,2.2Hz),6.71(1H,d,J=8.3Hz),6.75(1H,br s),6.77(1H,d,J=8.1Hz),6.97(1H,d,J=8.3Hz)
【0054】
(2)200mlのナスフラスコに前記(1)で得た標記化合物のN−t−ブトキシカルボニル体(前駆体)及び無水エーテルを加え、氷冷下、塩化水素ガスを注入し、脱保護を行った。エーテルに不溶となった塩酸塩を濾取し、減圧乾燥して標記化合物1.88g(75.1%)を得た。
融点:105.5〜106.3℃
H−NMR(CDOD)δ:2.20−2.70(2H,m),2.80−3.29(5H,m),3.30(2H,m),3.74(3H,s),3.76(3H,s),3.80(3H,s),4.13(2H,s),6.60(1H,s),6.64(1H,m),6.79−6.89(3H,m),7.04(1H,d,J=8.1Hz)
【0055】
[実施例6]βアミロイド生成抑制作用の検討
アルツハイマー病アミロイド前駆体蛋白質を過剰発現するヒト神経系培養細胞として、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子の一つであるスウェーデン型変異前駆体蛋白質(APP695NL)を遺伝子導入したグリア系の細胞株変異H4を用いた。
被検化合物はジメチルスルホキシドに溶解し、添加時に培養液で希釈した。
【0056】
H4−1NLを10%牛胎児血清+150μg/mlヒグロマイシンB含有Dulbecco's Modified Eagle Meduimにて6wellプレートに均等に蒔き、COインキュベーター内で一晩培養し、培地交換後に被検化合物を添加し48時間培養した。
【0057】
培養後に各wellの上清を採取し、上清中のβアミロイド(Aβ1−40)をHuman Amyloid β(1−40)測定キット(L)−IBLを用いて定量した。
結果(阻害率)を表1に示す。
【0058】
【表1】











【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子、C1−6−アルキル基、アシル基又は糖残基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子を表し;Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。
【請求項2】
前記式(I)において、Rが置換もしくは非置換のC1−6−飽和脂肪族アシル基又は置換もしくは非置換のベンゾイル基である請求項1記載のβアミロイド生成抑制剤。
【請求項3】
アルツハイマー病の予防・治療剤である請求項1又は2記載のβアミロイド生成抑制剤。
【請求項4】
次式(I−a):
【化2】

(式中、Rはベンゾイル基、3,4−ジメチルベンゾイル基、2−カルボキシベンゾイル基又はグリシル基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
次式(I−b):
【化3】

で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。

【公開番号】特開2006−347942(P2006−347942A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175333(P2005−175333)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000003665)株式会社ツムラ (43)
【出願人】(504013775)学校法人 埼玉医科大学 (39)
【Fターム(参考)】