説明

β位がアルキル化されたピロール類の製造方法

【課題】化学合成により簡便にピロール類のβ位を選択的にアルキル化して、β位がアルキル化されたピロール類を製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるピロール類と、下記一般式(2)で表される化合物と、ヒドリド供与体とを反応させることを特徴とする下記一般式(3)で表される化合物の製造方法(式中、Rは水素原子、脂肪族基、芳香族基又はトリアルキルシリル基であり;Rは置換基を有していても良いアルキル基、アリール基又は複素環式基である。)。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β位がアルキル化されたピロール類の製造方法に関する。より具体的には、ピロール類のβ位を選択的にアルキル化して、β位がアルキル化されたピロール類を製造する方法に関する。なお本発明では、「ピロール類のアルキル化」における「アルキル化」とは、「アルキル基、又はその水素原子の一部が置換基で置換された置換アルキル基を導入すること」を指す。
【背景技術】
【0002】
ピロールの誘導体は、複素環骨格を有することから、医薬品や各種化成品の中間体として重要であるだけでなく、これを構成単位とするポリマーとすることで、新規な電子材料等の高機能性材料を開発できる可能性を秘めており、非常に重要な化合物である。
そしてピロール類は、例えば、少なくとも一部の水素原子を各種置換基で置換することにより、新たな物性を付与することも可能であり、上記のような目的において、所望の機能を有するようにピロール誘導体の構造を設計することが検討されている。
【0003】
例えば、ピロール誘導体のうち、炭素原子に結合している水素原子がアルキル基で置換されたアルキルピロールは、ピロール類をアルキル化することで、化学合成で容易に得られることから、これまでに種々のものが検討されている。
しかし従来の方法では、ピロールのアルキル化は、主にピロールの2位(以下、α位という)で進行する。これは、求電子剤であるアルキル化剤に対して、求核性が高いピロールのα位が優先的に反応することによる。すなわち、以下に示すように、求核性が低いピロールの3位(以下、β位という)においてアルキル化を行うことは、非常に困難である。これまでに、β位にアルキル基が導入されたピロール誘導体の製造方法として、例えば、陽イオン交換樹脂を共存させて、酸性条件下でピロールのアルキル化を行う方法(非特許文献1参照)が開示されているが、α位にアルキル基が導入されたα位置換体が主生成物であることに変わりはない。
【0004】
そこで、β位にアルキル基が導入されたβ位置換体のピロール誘導体を得る方法として、ピロールのα位に近接する窒素原子に嵩高い置換基を導入し、アルキル化剤がα位よりも立体障害の少ないβ位で反応し易いようにする方法や、ピロールの5位に電子求引性基を導入し、β位の求核性を向上させて、アルキル化剤と反応し易くする方法が開示されている。これらに加えて、ピロール金属錯体を利用することで、β位にアルキル基を導入する方法も開示されている。また、ピロールはα位の求核性が高い、という特性に由来する問題点を克服するために、ピロール骨格の構築とβ位へのアルキル基の導入を並行して行うという手法も開示されている。
【0005】
【化1】

【非特許文献1】I.Iovel et.al., Synthetic Communications,18(11),1261−1266(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ピロールのアルキル化は、工程が単純であるという長所を有する反面、多くの方法においては、α位置換体が主生成物となってしまう問題点を解決できていないのが現状である。これに対し、5位に電子求引性基を有するピロールを用いる反応や、ピロール金属錯体を利用する反応では、いくつかの反応において、高いβ位選択性が実現されているが、触媒的に一段階で反応を行う、β位がアルキル化されたピロール類の製造方法は、これまでに知られていない。また、ピロール骨格の構築とβ位へのアルキル基の導入を並行して行う方法は、工程が複雑になり実用的ではないという問題点がある。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、化学合成により簡便にピロール類のβ位を選択的にアルキル化して、β位がアルキル化されたピロール類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記一般式(1)で表されるピロール類と、下記一般式(2)で表される化合物と、ヒドリド供与体とを反応させることを特徴とする下記一般式(3)で表される化合物の製造方法を提供する。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rは水素原子、脂肪族基、芳香族基又はトリアルキルシリル基であり;Rは置換基を有していても良いアルキル基、アリール基又は複素環式基である。)
【0010】
本発明において、前記Rが、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であることが好ましく、また、前記Rが、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基又はトリイソプロピルシリル基であることも好ましい。
本発明において、前記Rが、炭素数1〜8のアルキル基、該アルキル基の一つ以上の水素原子がアルキルカルボニルオキシ基、トリアルキルシリルオキシ基、フェニル基、ヒドロキシ基、フタルイミドイル基若しくはハロゲン原子で置換された基、フェニル基又はチエニル基であることが好ましい。
本発明において、前記ヒドリド供与体が、シラン化合物又はスタナン化合物であることが好ましい。
本発明において、さらにルイス酸触媒を用いて反応させることが好ましい。
本発明において、前記ルイス酸触媒が、金属スルホナート又は金属スルホンイミドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化学合成により簡便にピロール類のβ位を選択的にアルキル化して、β位がアルキル化されたピロール類を製造できる
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の前記一般式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)と略記する)の製造方法は、前記一般式(1)で表されるピロール類(以下、化合物(1)と略記する)と、前記一般式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)と略記する)と、ヒドリド供与体とを反応させることを特徴とする。すなわち、化合物(1)のβ位に高い選択性でアルキル基を導入するものである。
【0013】
<化合物(1)>
本発明で用いる化合物(1)において、Rは、水素原子、脂肪族基、芳香族基又はトリアルキルシリル基である。
前記脂肪族基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、直鎖状又は分岐鎖状が好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基としては、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が例示でき、環状の脂肪族基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はシクロアルキニル基が例示できる。
【0014】
が直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基である場合には、アルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基が例示できる。なかでも炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
がアルケニル基又はアルキニル基である場合には、ピロール環を構成する窒素原子に結合している炭素原子と該炭素原子に隣接する炭素原子との間の結合が不飽和結合ではないことが好ましく、不飽和結合の数は少ないほど好ましい。
【0015】
が環状の脂肪族基である場合には、単環構造及び多環構造のいずれでも良い。
がシクロアルキル基である場合には、炭素数が5〜7であることが好ましい。
がシクロアルケニル基又はシクロアルキニル基である場合には、炭素原子間の不飽和結合は、ピロール環を構成する窒素原子に結合している炭素原子から離れている方が好ましく、不飽和結合の数は少ないほど好ましい。
【0016】
前記芳香族基は、単環構造及び多環構造のいずれでも良いが、単環構造であることが好ましい。
前記芳香族基として、具体的には、アリール基及びアリールアルキル基が例示できる。
がアリール基である場合には、フェニル基が好ましい。
がアリールアルキル基ある場合には、前記アリール基の水素原子の一つがアルキレン基で置換されたものが好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
前記芳香族基は、その一つ以上の水素原子がアルキル基等の置換基で置換されていても良いが、置換されていない方が好ましい。
【0017】
がトリアルキルシリル基である場合には、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基又はトリイソプロピルシリル基が好ましい。
【0018】
本発明で用いる化合物(1)として特に好ましいものとしては、N−メチルピロール、N−tert−ブチルピロール、N−フェニルピロール及びN−ベンジルピロールが例示できる。
【0019】
化合物(1)の使用量は、化合物(2)の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、通常化合物(2)の2〜6倍モル量であることが好ましく、2〜5倍モル量であることがより好ましく、2.5〜4.5倍モル量であることが特に好ましい。
【0020】
<化合物(2)>
本発明で用いる化合物(2)において、Rは、置換基を有していても良いアルキル基、アリール基又は複素環式基である。
のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、具体的には、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロペンチルメチル基、1−シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルメチル基、1−シクロヘキシルエチル基が例示できる。
これらのなかでも、炭素数3〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数5〜8のアルキル基が特に好ましい。
【0021】
のアリール基は、単環構造及び多環構造のいずれでも良いが、単環構造であることが好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0022】
の複素環式基としては、環状の炭化水素基において一つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置き換えた基が挙げられ、飽和及び不飽和のいずれでも良いが、不飽和であることが好ましい。具体的には、ヘテロアリール基やチエニル基が例示できる。ヘテロアリール基としては、前記Rのアリール基のうち、芳香族環を構成する炭素原子の一つ以上をヘテロ原子で置き換えた基が例示できる。ここでヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が例示できる。置き換えられるヘテロ原子の数は一つであることが好ましく、ヘテロ原子としては、硫黄原子が特に好ましい。なかでも、Rの複素環式基としては、チエニル基が特に好ましい。
【0023】
前記Rのアルキル基、アリール基又は複素環式基における置換基としては、アリール基、アルキルカルボニルオキシ基、トリアルキルシリルオキシ基、フタルイミドイル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が例示できる。
置換基としてのアリール基としては、前記Rとしてのアリール基と同様のものが例示できる。なかでもフェニル基が特に好ましい。
置換基としてのアルキルカルボニルオキシ基における「アルキル」としては、前記Rとしての「アルキル」と同様のものが例示できる。なかでもアルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基が特に好ましい。
置換基としてのトリアルキルシリルオキシ基としては、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基又はトリイソプロピルシリルオキシ基が例示できる。なかでもトリエチルシリルオキシ基が特に好ましい。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示でき、なかでも塩素原子が特に好ましい。
が置換基を有するものである場合、置換基を有するアルキル基が好ましい。
【0024】
前記置換基のRにおける置換位置は特に限定されないが、アルキル基における置換位置は、化合物(2)の三重結合から遠いほど好ましく、三重結合を形成している炭素原子とは反対側の末端の炭素原子に結合している水素原子が前記置換基で置換されていることが特に好ましい。
また、前記Rにおける置換基の数も特に限定されるものではないが、少ないほど好ましく、1であることが特に好ましい。
【0025】
本発明で用いる化合物(2)として特に好ましいものとしては、Rが、n−オクチル基(CH(CH−)、1−フェニルエチル基(CCHCH−)、1−クロロ−n−ブチル基(Cl(CH−)、1−アセチルオキシ−n−プロピル基(CHC(O)O(CH−)、1−ヒドロキシ−n−ブチル基(HO(CH−)、1−フタルイミドイル−n−プロピル基(PI(CH−、PIはフタルイミドイル基を表す)、フェニル基、3−チエニル基、シクロペンチルメチル基又はシクロヘキシル基であるものが例示できる。
【0026】
<ヒドリド供与体>
本発明で用いるヒドリド供与体は、反応液中においてヒドリド(H)を供与し得るものであれば公知のいずれのものでも良い。好ましいものとして、具体的には、シラン化合物及びスタナン化合物が例示できる。
【0027】
前記シラン化合物としては、アルキルシラン、アルコキシシラン、アリールシランが例示できる。
アルキルシランとしては、ジエチルシラン((CHCHSiH)、ジメチルエチルシラン(CHCH(CHSiH)、ジメチルイソプロピルシラン((CHCH(CHSiH)、tert−ブチルジメチルシラン((CHC(CHSiH)、ジエチルイソプロピルシラン((CHCH(CHCHSiH)、シクロヘキシルジメチルシラン(C11(CHSiH)、トリ(n−プロピル)シラン((CHCHCHSiH)、トリエチルシラン((CHCHSiH)、トリイソプロピルシラン(((CHCH)SiH)、トリス(トリメチルシリル)シラン(((CHSi)SiH)が例示できる。
アルコキシシランとしては、トリエトキシシラン((CHCHO)SiH)、トリメトキシシラン((CHO)SiH)が例示できる。
アリールシランとしては、フェニルシラン(CSiH)、ジフェニルシラン((CSiH)、トリフェニルシラン((CSiH)、メチルフェニルシラン(C(CH)SiH)、ジメチルフェニルシラン(C(CHSiH)が例示できる。
これらの中でも、シラン化合物としてはアルキルシランが好ましく、トリエチルシラン及びトリイソプロピルシランが特に好ましい。
【0028】
前記スタナン化合物としては、アルキルスタナン、アリールスタナンが例示できる。
アルキルスタナンとしては、トリ(n−ブチル)スタナン((CHCHCHCHSnH)等のトリアルキルスタナンが例示できる。
アリールスタナンとしては、トリフェニルスタナン((CSnH)等のトリアリールスタナンが例示できる。
【0029】
ヒドリド供与体の使用量は、化合物(1)及び(2)の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、通常化合物(2)の1〜4倍モル量であることが好ましく、1〜3倍モル量であることがより好ましい。
【0030】
また、ヒドリド供与体は一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。ただし本発明においては、一種を単独で用いるのが好ましい。
【0031】
<ルイス酸触媒>
本発明においては、化合物(1)、化合物(2)及びヒドリド供与体以外に、さらに、ルイス酸触媒を用いて反応を行うことが好ましい。ルイス酸触媒を用いることで、化合物(3)をより速やかに且つ高収率で得られる。
用いるルイス酸触媒は公知のもので良いが、なかでも、金属スルホナート又は金属スルホンイミドが好ましい。
【0032】
金属スルホナートとしては、下記一般式(41)で表される化合物(以下、M(OTf)と略記する)及び下記一般式(42)で表される化合物(以下、M(ONf)と略記する)が例示できる。
金属スルホンイミドとしては、下記一般式(43)で表される化合物(以下、M(NTfと略記する)が例示できる。これらはいずれも公知の化合物である。
【0033】
【化3】

【0034】
(式中、Mは金属原子であり;nは1以上の整数である。)
【0035】
式中、Mは金属原子であり、好ましいものとしては、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、ビスマス(Bi)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)、水銀(Hg)、ガリウム(Ga)、鉄(Fe)、ハフニウム(Hf)が例示できる。
nは1以上の整数であり、Mの種類によって決定される。
【0036】
本発明においては、好ましい金属スルホナートとして、Mがインジウム(In)であるものが例示でき、特に好ましいものとしてIn(OTf)及びIn(ONf)が例示できる。
そして、好ましい金属スルホンイミドとして、Mがインジウム(In)であるものが例示でき、特に好ましいものとしてIn(NTfが例示できる。
【0037】
ルイス酸触媒の使用量は、化合物(1)及び(2)の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、通常化合物(2)を基準として、10〜50モル%であることが好ましく、15〜40モル%であることが好ましく、20〜35モル%であることが特に好ましい。
【0038】
また、ルイス酸触媒は一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0039】
<その他の反応条件>
本発明において、反応溶媒は、化合物(1)、化合物(2)及びヒドリド供与体の種類等を考慮して、反応を妨げないものから適宜選択できる。なかでもエーテル類、ハロゲン化アルキル類又はベンゼン類が好ましい。
エーテル類としては、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル及びジブチルエーテルが好ましいものとして例示できる。ハロゲン化アルキル類としては、1,2−ジクロロエタンが好ましいものとして例示できる。そして、ベンゼン類としては、クロロベンゼンが好ましいものとして例示できる。これらのなかでも、1,4−ジオキサン及びクロロベンゼンが特に好ましい。
【0040】
また、反応溶媒は一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用して混合溶媒としても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0041】
本発明においては、例えば、化合物(1)、化合物(2)及びヒドリド供与体を好ましくはルイス酸触媒共存下、反応溶媒中で混合し、反応させることで、化合物(3)が得られる。
反応温度は、適宜調整すれば良く特に限定されないが、通常60〜130℃が好ましく、70〜120℃がより好ましく、80〜110℃が特に好ましい。
反応時間は、反応温度等、その他の反応条件に応じて適宜調整すれば良いが、通常0.5〜40時間が好ましく、1〜30時間がより好ましい。
【0042】
また、本発明においては、化合物(1)又は化合物(2)の種類によっては、まず、化合物(1)及び化合物(2)を好ましくはルイス酸触媒共存下、反応溶媒中で混合して一段階目の反応を行い、次いでヒドリド供与体を同一反応容器に添加して二段階目の反応を行う、二段階式の反応を適用することで、β位にアルキル基が導入されたβ位置換体の比率をさらに高めることができ、化合物(3)が一層高収率で得られる。
この時の一段階目及び二段階目の反応時における温度は、いずれも上記と同様で良い。また、反応時間は、一段階目及び二段階目の合計で、上記と同様になるように調整することが好ましい。
化合物(1)、化合物(2)、ヒドリド供与体及びルイス酸触媒等の原料や、反応溶媒の使用量も、上記と同様で良い。
【0043】
本発明においては、反応終了後、公知の手法で化合物(3)の取り出しを行うことができる。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理を行った後、結晶化やカラムクロマトグラフィー等により、化合物(3)を取り出せば良い。また、取り出した化合物(3)は、さらに結晶化やカラムクロマトグラフィー等を繰り返すことで精製を行っても良い。
【0044】
従来のピロールのアルキル化反応では、α位にアルキル基が導入されたα位置換体が主生成物となり、β位にアルキル基が導入されたβ位置換体は全く生成しないか、生成したとしてもその量は微量であった。しかし本発明においては、β位置換体が主生成物として得られ、β位置換体の比率(β位置換体/(α位置換体+β位置換体)×100)が70%以上のものが好適に得られる。そして、反応条件を適宜調整することで、β位置換体の比率を99%以上とすることもでき、ほぼβ位置換体のみを得ることも可能である。このように本発明は、ピロールのβ位を高い選択性でアルキル化する方法を始めて提供するものである。
【0045】
本発明において、化合物(1)のβ位を高い選択性でアルキル化できるのは、以下のような理由によると推測される。ここでは、金属(M)を含むルイス酸触媒(以下、cat.Mと略記する)を使用した場合の例について説明する。
化合物(1)と化合物(2)を反応させることにより、まず、化合物(11a)又は化合物(11b)が生成すると考えられる(I)。これら化合物は、2分子の化合物(1)と1分子の化合物(2)が反応して生成したものである。これらのうち、化合物(11a)は、一方の化合物(1)ではβ位に、他方の化合物(1)ではα位に、それぞれ化合物(2)由来の置換基が、これを共有するように導入されて生成した、α−β’置換体である。一方、化合物(11b)は、いずれの化合物(1)でもβ位に化合物(2)由来の置換基が、これを共有するように導入された、β−β’置換体である。そして、化合物(11a)と化合物(11b)は、互いに平衡状態にあるが、より安定な化合物(11b)の方に平衡が偏っていると考えられる(II)。
【0046】
化合物(11b)は、一方の化合物(1)由来の環構造を構成する炭素原子と、化合物(2)由来のRが結合している炭素原子との間で、結合が切断される(IV)。cat.Mを使用した場合、結合が切断される方の化合物(1)由来の環構造にMが配位する(III)ことで、この反応が促進される。この時、二つある化合物(1)由来の環構造のうち、前記置換基との結合が切断されるのがいずれであっても、生成するのは、化合物(2)由来の置換基がβ位に導入された化合物(12b)と、脱離した化合物(10b)である。これは、化合物(11b)が、上記のようにβ−β’置換体であることによる。そして、化合物(12b)は不安定なため、直ちにヒドリド供与体由来のヒドリド(H)と反応することで、目的物である化合物(3)が生成する(V)。一部の化合物(12b)は、化合物(1)と反応して、再度化合物(11b)を生成する(X)可能性があるが、再び同じルートを経由することで、最終的に目的物である化合物(3)を生成すると考えられる。一方、化合物(10b)は、Mが脱離することで化合物(1)となり、再びアルキル化反応に供される。
【0047】
これに対して化合物(11a)は、二つある化合物(1)由来の環構造のうち、前記置換基との結合が切断されるのがいずれであるかによって、生成する化合物が異なる。これは、化合物(11a)が、上記のようにα−β’置換体であることによる。すなわち、前記置換基と環構造との結合の切断が、化合物(11c)を経て(VI)、α位で起こった場合には、化合物(12b)と化合物(10a)が生成する(VII)。一方、結合の切断が化合物(11e)を経て(VIII)、β位で起こった場合には、化合物(12a)と化合物(10b)が生成する(IX)。しかし本発明者らは、種々検討の結果、化合物(11a)では、結合の切断がα位で優先的に起こることを確認している。すなわち、(IX)ではなく、(VII)のルートが優先するのである。これにより、化合物(12a)ではなく、化合物(12b)が優先的に生成する。その結果、上記の化合物(11b)の場合と同様に、化合物(12b)がヒドリド(H)と反応することで、目的物である化合物(3)が生成する(V)。そして、一部の化合物(12b)が、化合物(1)と反応して(X)も、先に説明したように、化合物(11b)を経て、最終的に化合物(3)を生成すると考えられる。一方、化合物(10a)は、Mが脱離することで化合物(1)となり、再びアルキル化反応に供される。なお、cat.Mを使用することで、結合の切断が促進されるのは、上記と同様である。
【0048】
このように、化合物(11b)からは、化合物(3)しか生成せず、化合物(11a)からは化合物(3)が優先的に生成し、しかも、化合物(11a)よりも化合物(11b)の方に平衡が偏ることから、本発明により、化合物(1)のβ位を高い選択性でアルキル化できると推測される。
【0049】
【化4】

【0050】
化合物(3)は、その種類によっては、別途反応を行うことで、Rを変換することもできる。この反応は、通常、複素環を構成する窒素原子の保護基を変換する反応として知られており、公知の方法を適宜選択できる。例えば、水素原子以外の基であるRを水素原子に変換する反応は、脱保護反応であり、例えば、Rをベンジル基(−Bn)から水素原子に変換する反応(脱ベンジル化反応)が挙げられる。
【0051】
脱ベンジル化反応の方法も、適宜調整すれば良いが、好ましい方法としては、反応溶媒中で化合物(3)、三塩化チタン(TiCl)、金属リチウム(Li)及びヨウ素(I)を反応させる方法が例示できる。この時の反応条件は、化合物(3)のRの種類等も考慮して適宜選択すれば良い。通常は、反応溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)が好ましい。また、三塩化チタンの使用量は、化合物(3)に対して1〜3当量であることが好ましく、金属リチウムの使用量は、化合物(3)に対して6〜14当量であることが好ましく、ヨウ素の使用量は、化合物(3)に対して0.8〜1.2当量であることが好ましい。また、反応温度は15〜30℃であることが好ましく、反応時間は12〜24時間であることが好ましい。
【0052】
例えば、本発明において、Rが水素原子である化合物(1)を使用した場合に、何らかの理由で化合物(3)の収率が向上しない場合には、Rが水素原子以外の基である化合物を使用して対応する化合物(3)を得た後、該化合物(3)を脱保護反応に供して、Rを水素原子に変化することで、目的物を得ることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下に示すルイス酸触媒の使用量(mol%)は、すべて化合物(2)を基準とした量である。
【0054】
(実施例1)
表1及び2に示すように、Rがメチル基である化合物(1)(1.50mmol)、Rがn−オクチル基である化合物(2)(0.50mmol)、トリエチルシラン(0.75mmol)、In(NTf(25mol%)及びジブチルエーテル(80mg)を混合し、1,4−ジオキサン(1ml)中において85℃で反応させ、3時間後に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1ml)を加えて反応を停止させた。引き続き、有機層を酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムにより有機層を乾燥後、濾過と低沸点有機化合物の減圧留去を行なった。最後にシリカゲルカラムにより目的物である化合物(311)を精製し取り出した。なお表2中、「収率(%)」は、化合物(2)を基準とした目的物の単離収率(%)を示す。また、「β位置換体比率(%)」は、NMRデータから算出した値である。
得られた化合物(311)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:0.88 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.17 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.19-1.35 (m, 12H), 1.38-1.48 (m, 1H), 1.49-1.59 (m, 1H), 2.60 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.60 (s, 3H), 5.99 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.37 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.6 Hz, 1H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:14.1, 22.1, 22.7, 27.7, 29.4, 29.6, 29.9, 31.8, 31.9, 36.0, 38.8, 106.7, 118.0, 121.2, 131.1.
【0055】
【化5】

【0056】
(実施例2)
表1及び2に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(312)を得た。なお、表1中、「Ph」は「フェニル基」を示し、これは他の実施例においても同様である。
得られた化合物(312)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.23 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.72-1.93 (m, 2H), 2.61 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 2.67 (sext, J = 6.7 Hz, 1H), 3.62 (s, 3H), 6.01 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.40 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.53 (t, J = 2.5 Hz, 1H), 7.13-7.20 (m, 3H), 7.23-7.31 (m, 2H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:22.4, 31.6, 33.9, 36.0, 40.3, 106.6, 118.2, 121.4, 125.4, 128.2, 128.4, 130.4, 143.1.
【0057】
【化6】

【0058】
(実施例3)
表1及び2に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(313)を得た。
得られた化合物(313)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.19 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.36-1.61 (m, 4H), 1.76 (quint, J = 7.0 Hz, 2H), 2.62 (sext, J = 6.8 Hz, 1H), 3.51 (t, J = 6.9 Hz, 2H), 3.60 (s, 3H), 5.97 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.37 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.5 Hz, 1H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:22.1, 25.0, 31.7, 32.9, 36.0, 37.9, 45.1, 106.6, 118.1, 121.4, 130.5.
【0059】
【化7】

【0060】
(実施例4)
表1及び2に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(314)を得た。
得られた化合物(314)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.20 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 1.42-1.76 (m, 4H), 2.03 (s, 3H), 2.64 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.60 (s, 3H), 4.04 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 5.97 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.37 (t, J = 1.8 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.5 Hz, 1H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:21.0, 22.2, 26.7, 31.6, 34.8, 36.0, 64.9, 106.6, 118.1, 121.4, 130.1, 171.2.
【0061】
【化8】

【0062】
(実施例5)
表1及び2に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(315’)を得た。なおこの時、化合物(315)も1%の収率で得られた。化合物(315’)は、公知の手法により、トリエチルシリル基を水素原子に置換することで、容易に化合物(315)とすることができる。
得られた化合物(315’)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:0.59 (q, J = 7.9 Hz, 6H), 0.95 (t, J = 8.0 Hz, 9H), 1.18 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.21-1.62 (m, 8H), 2.61 (sext, J = 7.0 Hz, 1H), 3.60 (s, 3H), 5.98 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.36 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.50 (t, J = 2.3 Hz, 1H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:4.4, 6.8, 22.0, 23.8, 31.8, 33.1, 36.0, 38.6, 63.0, 106.7, 118.0, 121.3, 130.9.
また、化合物(315)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.19 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 1.23-1.69 (m, 8H), 2.62 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.60 (s, 3H), 5.98 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.37 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.3 Hz, 1H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:22.2, 23.7, 31.8, 33.0, 36.0, 38.5, 63.1, 106.6, 118.1, 121.3, 130.7.
【0063】
【化9】

【0064】
(実施例6)
表1及び2に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(316)を得た。なお、表2中、「PI」は「フタルイミドイル基」を示し、これは他の実施例においても同様である。
得られた化合物(316)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.18 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.45-1.75 (m, 4H), 2.65 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.58 (s, 3H), 3.66 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 5.96 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.36 (t, J = 1.8 Hz, 1H), 6.48 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.67-7.73 (m, 2H), 7.80-7.86 (m, 2H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:22.1, 26.7, 31.6, 35.7, 36.0, 38.2, 106.6, 118.1, 121.4, 123.1, 130.0, 132.2, 133.8, 168.4.
【0065】
【化10】

【0066】
(実施例7)
表1及び2に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(317)を得た。
得られた化合物(317)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.55 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 3.58 (s, 3H), 4.00 (q, J = 7.2 Hz, 1H), 5.96 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.31 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.5 Hz, 1H), 7.12-7.21 (m, 1H), 7.23-7.39 (m, 4H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:22.8, 36.0, 38.0, 107.5, 118.9, 121.6, 125.7, 127.4, 128.2, 129.7, 147.9.
【0067】
【化11】

【0068】
(実施例8)
表1及び2に示すように、ヒドリド供与体としてトリイソプロピルシラン(1.50mmol)を用い、反応温度を100℃、反応時間を2.5時間としたこと以外は、実施例7と同様にして化合物(317)を得た。このように反応条件を変更した結果、実施例7と同等の収率で、β位置換体を実施例7よりも高選択的に得られた。
【0069】
(実施例9)
表1及び2に示すように、化合物(2)が異なること以外は実施例1と同様にして化合物(318)を得た。なお、表1中、「3−thienyl(3−チエニル基)」は、「チオフェンの3位の水素原子が除かれた基」を示し、これは他の実施例においても同様である。
得られた化合物(318)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:1.56 (d, J = 7.5 Hz, 3H), 3.58 (s, 3H), 4.08 (q, J = 7.2 Hz, 1H), 5.99 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.32 (s, 1H), 6.51 (t, J = 2.5 Hz, 1H), 6.95-6.98 (m, 1H), 6.98-7.01 (m, 1H), 7.19-7.24 (m, 1H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:22.8, 33.4, 36.0, 107.3, 118.6, 119.2, 121.6, 124.9, 127.7, 129.4, 148.7.
【0070】
【化12】

【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
(実施例10)
表3及び4に示すように、Rがベンジル基である化合物(1)(0.75mmol)、Rがn−オクチル基である化合物(2)(0.25mmol)、トリエチルシラン(0.375mmol)、In(OTf)(25mol%)、及びジブチルエーテル(40mg)を混合し、1,4−ジオキサン(1ml)中において85℃で24時間反応させ、目的物である化合物(321)を得た。なお表3中、「収率(%)」は、NMRデータから算出した、化合物(2)を基準とした目的物の収率(%)を示す。また、「β位置換体比率(%)」は、NMRデータから算出した値である。
得られた化合物(321)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)δppm:0.87 (t, J = 6.6 Hz, 3H), 1.17 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 1.20-1.36 (m, 12H), 1.37-1.62 (m, 2H), 2.61 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 5.00 (s, 2H), 6.03 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.44 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.59 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.23-7.36 (m, 3H).
13C-NMR(CDCl3)δppm:14.1, 22.0, 22.7, 27.6, 29.4, 29.7, 29.8, 31.87, 31.93, 38.7, 53.2, 107.0, 117.5, 120.7, 126.9, 127.4, 128.6, 131.2, 138.6.
【0074】
【化13】

【0075】
(実施例11)
化合物(1)を1mmol用いたこと以外は、実施例10と同様にして化合物(321)を得た。
【0076】
(実施例12)
反応温度を100℃としたこと以外は、実施例10と同様にして化合物(321)を得た。
【0077】
(実施例13)
In(OTf)を30mol%用い、反応時間を20時間としたこと以外は、実施例10と同様にして化合物(321)を得た。
【0078】
(実施例14)
触媒としてIn(ONf)を用いたこと以外は、実施例10と同様にして化合物(321)を得た。
【0079】
(実施例15)
トリエチルシランを0.75mmol用いたこと以外は、実施例14と同様にして化合物(321)を得た。
【0080】
(実施例16)
In(ONf)を30mol%用い、反応時間を20時間としたこと以外は、実施例14と同様にして化合物(321)を得た。
【0081】
(実施例17)
触媒としてIn(ONf)を20mol%及びIn(Ntfを5mol%用いたこと以外は、実施例14と同様にして化合物(321)を得た。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
(実施例18)
表5及び6に示すように、Rがメチル基である化合物(1)(1.5mmol)、Rがn−オクチル基である化合物(2)(0.5mmol)、トリエチルシラン(0.75mmol)、In(NTf(25mol%)、及びジブチルエーテル(80mg)を混合し、1,4−ジオキサン(1ml)中において85℃で反応させ、3時間後に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1ml)を加えて反応を停止させた。引き続き、有機層を酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムにより有機層を乾燥後、濾過と低沸点有機化合物の減圧留去を行なった。最後にシリカゲルカラムにより目的物である化合物(311)を精製し取り出した。化合物(2)を基準とした目的物の単離収率(%)は86%であった。なお表6中、「収率(%)」は、NMRデータから算出した、化合物(2)を基準とした目的物の収率(%)を示す。また、「β位置換体比率(%)」は、NMRデータから算出した値である。
【0085】
(実施例19)
化合物(1)を0.75mmol、化合物(2)を0.25mmol、及びトリエチルシランを0.375mmol用い、反応溶媒としてクロロベンゼンを用いたこと以外は、実施例18と同様にして化合物(311)を得た。
【0086】
(実施例20)
触媒としてIn(OTf)を用いたこと以外は、実施例18と同様にして化合物(311)を得た。
【0087】
(実施例21)
触媒としてIn(ONf)を用いたこと以外は、実施例18と同様にして化合物(311)を得た。
【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
(実施例22)
表7及び8に示すように、Rがメチル基である化合物(1)(1.50mmol)、Rが1−ヒドロキシ−n−ブチル基である化合物(2)(0.50mmol)、トリエチルシラン(0.75mmol)、及びIn(NTf(25mol%)を混合し、1,4−ジオキサン(1ml)中において70℃で反応させ、4時間後に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1ml)を加えて反応を停止させた。引き続き、有機層を酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムにより有機層を乾燥後、濾過と低沸点有機化合物の減圧留去を行なった。最後にシリカゲルカラムにより目的物である化合物(319)を精製し取り出した。この時、化合物(319’)も2%の収率で得られた。化合物(319’)は、公知の手法により、トリエチルシリル基を水素原子に置換することで、容易に化合物(319)とすることができる。なお表8中、「収率(%)」は、化合物(2)を基準とした目的物の単離収率(%)を示す。また、「β位置換体比率(%)」は、GCデータから算出した値である。
得られた化合物(319)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:1.19 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.28-1.62 (m, 6H), 2.62 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.60 (s, 3H), 3.63 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 5.98 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.37 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.6 Hz, 1H); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3).
δppm:22.2, 23.7, 31.8, 33.0, 36.0, 38.5, 63.1, 106.6, 118.1, 121.4, 130.6.
また、得られた化合物(319’)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δppm:0.59 (q, J = 7.9 Hz, 6H), 0.95 (t, J = 7.8 Hz, 9H), 1.18 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.23-1.60 (m, 6H), 2.61 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.55-3.64 (m, 2H), 3.60 (s, 3H), 5.98 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.37 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.50 (t, J = 2.3 Hz, 1H).
13C-NMR (100 MHz, CDCl3)δppm:4.5, 6.8, 22.1, 23.9, 31.9, 33.1, 36.0, 38.6, 63.0, 106.7, 118.0, 121.3, 130.9.
【0091】
【化14】

【0092】
(実施例23)
表7及び8に示すように、Rがベンジル基(Bn)である化合物(1)(1.5mmol)、Rがn−オクチル基である化合物(2)(0.5mmol)、トリエチルシラン(0.75mmol)、In(ONf)(30mol%)、及び水(0.05mmol)を混合し、1,4−ジオキサン(1ml)中において85℃で2時間反応させ、目的物である化合物(321)を得た。
得られた化合物(321)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR(500 MHz, CDCl3)δppm:0.87 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.17 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.20-1.34 (m, 12H), 1.38-1.48 (m, 1H), 1.48-1.58 (m, 1H), 2.61 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 5.00 (s, 2H), 6.03 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.44 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.59 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.24-7.35 (m, 3H).
13C-NMR(100 MHz, CDCl3)δppm:14.1, 22.0, 22.7, 27.6, 29.4, 29.7, 29.9, 31.88, 31.94, 38.7, 53.2, 107.0, 117.5, 120.8, 126.9, 127.5, 128.6, 131.3, 138.6.
【0093】
【化15】

【0094】
(実施例24)
表7及び8に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は、実施例23と同様にして化合物(322)を得た。なお、表7中、「c−PenCH−」は「シクロペンチルメチル基」を示す。
得られた化合物(322)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δppm:0.97-1.14 (m, 2H), 1.18 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.37-1.64 (m, 6H), 1.64-1.87 (m, 3H), 2.66 (sext, J = 7.1 Hz, 1H), 5.00 (s, 2H), 6.04 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.45 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.59 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.10 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.23-7.36 (m, 3H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3)δppm:22.6, 25.2, 30.9, 32.7, 32.9, 38.0, 45.4, 53.2, 107.0, 117.5, 120.7, 126.9, 127.5, 128.6, 131.4, 138.6.
【0095】
【化16】

【0096】
(実施例25)
表7及び8に示すように、化合物(2)及び反応時間が異なること以外は、実施例23と同様にして化合物(323)を得た。
得られた化合物(323)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:1.19 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.46-1.74 (m, 4H), 2.66 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 3.66 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 4.99 (s, 2H), 6.01 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.44 (s, 1H), 6.56 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.22-7.35 (m, 3H), 7.67-7.73 (m, 2H), 7.80-7.86 (m, 2H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3)δppm:22.0, 26.7, 31.6, 35.7, 38.2, 53.2, 106.9, 117.7, 120.9, 123.1, 126.9, 127.5, 128.6, 130.2, 132.2, 133.8, 138.4, 168.4.
【0097】
【化17】

【0098】
【表7】

【0099】
【表8】

【0100】
(実施例26)
表9及び10に示すように、Rがメチル基である化合物(1)(2.00mmol)、Rがシクロヘキシル基である化合物(2)(0.50mmol)、及びIn(ONf)(30mol%)を混合し、1,4−ジオキサン(1ml)中において85℃で1時間反応させ、次いで、トリエチルシラン(0.75mmol)及び水(0.05mmol)を添加した後、さらに85℃で2時間反応させた。そして、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1ml)を加えて反応を停止させ、引き続き、有機層を酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムにより有機層を乾燥後、濾過と低沸点有機化合物の減圧留去を行なった。最後にシリカゲルカラムにより目的物である化合物(3110)を精製し取り出した。なお表10中、「収率(%)」は、化合物(2)を基準とした目的物の単離収率(%)を示す。また、「β位置換体比率(%)」は、GCデータから算出した値である。また、表9中、「c−Hex−」は「シクロキシル基」を示す。
得られた化合物(3110)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:0.83-0.99 (m, 2H), 0.99-1.26 (m, 3H), 1.15 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.26-1.35 (m, 1H), 1.57-1.76 (m, 5H), 2.45 (quint, J = 6.9 Hz, 1H), 3.60 (s, 3H), 5.95 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.33 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.50 (t, J = 2.6 Hz, 1H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3)δppm:18.5, 26.72, 26.76, 26.77, 30.2, 31.0, 36.0, 37.7, 44.3, 107.4, 118.8, 120.9, 129.3.
【0101】
【化18】

【0102】
(実施例27)
表9及び10に示すように、化合物(2)及び触媒が異なり、触媒を25mol%用い、水を添加しなかったこと以外は、実施例26と同様にして化合物(317)を得た。
得られた化合物(317)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δppm:1.56 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 3.58 (s, 3H), 4.00 (q, J = 7.2 Hz, 1H), 5.96 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.31 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.13-7.21 (m, 1H), 7.23-7.33 (m, 4H).
13C-NMR (100 MHz, CDCl3)δppm:22.8, 36.1, 38.0, 107.5, 118.9, 121.6, 125.7, 127.4, 128.2, 129.7, 147.9.
【0103】
【化19】

【0104】
(実施例28)
表9及び10に示すように、化合物(2)及び触媒が異なり、触媒を25mol%用い、水を添加しなかったこと以外は、実施例26と同様にして化合物(318)を得た。
得られた化合物(318)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:1.56 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 3.59 (s, 3H), 4.09 (q, J = 7.1 Hz, 1H), 5.99 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.32 (t, J = 1.7 Hz, 1H), 6.52 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.96-6.99 (m, 1H), 7.00 (dd, J = 5.2, 1.2 Hz, 1H), 7.22 (dd, J = 4.6, 2.9 Hz, 1H).
13C-NMR (100 MHz, CDCl3)δppm:22.8, 33.4, 36.1, 107.3, 118.7, 119.2, 121.6, 125.0, 127.7, 129.5, 148.7.
【0105】
【化20】

【0106】
(実施例29)
表9及び10に示すように、化合物(1)及び(2)が異なること以外は、実施例26と同様にして化合物(324)を得た。
得られた化合物(324)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:1.55 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 4.01 (q, J = 7.3 Hz, 1H), 4.98 (s, 2H), 5.99 (dd, J = 3.5, 2.3 Hz, 1H), 6.42 (s, 1H), 6.59 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 7.10 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.14-7.20 (m, 1H), 7.23-7.36 (m, 7H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3)δppm:22.8, 38.1, 53.3, 108.0, 118.4, 121.1, 125.7, 127.0, 127.4, 127.5, 128.2, 128.7, 129.7, 138.3, 148.0.
【0107】
【化21】

【0108】
(実施例30)
表9及び10に示すように、化合物(1)及び(2)並びに触媒が異なり、触媒を25mol%用い、水を添加しなかったこと以外は、実施例26と同様にして化合物(331)を得た。なお、式中、「Bu」は「tert−ブチル基」を示す。
得られた化合物(331)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:0.87 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.18 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.21-1.36 (m, 12H), 1.36-1.64 (m, 2H), 1.50 (s, 9H), 2.61 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 6.00 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.58 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.73 (t, J = 2.6 Hz, 1H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3)δppm:14.1, 21.8, 22.7, 27.7, 29.4, 29.7, 29.9, 30.7, 31.9, 38.7, 54.3, 105.7, 113.9, 116.9, 130.2.
【0109】
【化22】

【0110】
(実施例31)
表9及び10に示すように、化合物(1)及び(2)が異なり、化合物(1)を1.50mmol用いたこと以外は、実施例26と同様にして化合物(341)を得た。
得られた化合物(341)のNMRデータを以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δppm:0.87 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.18-1.39 (m, 12H), 1.23 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.44-1.63 (m, 2H), 2.68 (sext, J = 6.9 Hz, 1H), 6.21 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.87 (s, 1H), 7.02 (t, J = 2.6 Hz, 1H), 7.19 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 7.34-7.43 (m, 4H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3)δppm:14.1, 21.9, 22.7, 27.6, 29.4, 29.6, 29.9, 31.9, 38.5, 109.4, 115.3, 118.7, 119.9, 125.0, 129.4, 133.0, 140.9.
【0111】
【化23】

【0112】
【表9】

【0113】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、電子材料等の高機能性材料や、医薬品、各種化成品等の開発に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるピロール類と、下記一般式(2)で表される化合物と、ヒドリド供与体とを反応させることを特徴とする下記一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子、脂肪族基、芳香族基又はトリアルキルシリル基であり;Rは置換基を有していても良いアルキル基、アリール基又は複素環式基である。)
【請求項2】
前記Rが、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であることを特徴とする請求項1に記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【請求項3】
前記Rが、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基又はトリイソプロピルシリル基であることを特徴とする請求項1に記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【請求項4】
前記Rが、炭素数1〜8のアルキル基、該アルキル基の一つ以上の水素原子がアルキルカルボニルオキシ基、トリアルキルシリルオキシ基、フェニル基、ヒドロキシ基、フタルイミドイル基若しくはハロゲン原子で置換された基、フェニル基又はチエニル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドリド供与体が、シラン化合物又はスタナン化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【請求項6】
さらにルイス酸触媒を用いて反応させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【請求項7】
前記ルイス酸触媒が、金属スルホナート又は金属スルホンイミドであることを特徴とする請求項6に記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−108045(P2009−108045A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260943(P2008−260943)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】